2020年2月17日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの推す2冊

武田百合子著
『武田百合子対談集』

 吉行淳之介氏との対談がとりわけ印象的。昔馴染みの二人の、きわどい?思い出話、ざっくばらんな「好色五人女」の話、どれも対談ゆえのサービスではなく、酔って目の縁がふと赤くなるような色っぽさ。だから面白い。お二人の雰囲気に「ネオンテトラ」といううつくしく光る熱帯魚を何故か思い出していた。

本の画象

中央公論新社(1700円+税)
2019年11月刊
大岡信・谷川俊太郎編
 声でたのしむ
『美しい日本の詩』

 声(黙読する“内心の声”も含む)で読むよろこびに満ちた詩のアンソロジー。「峯の雪が裂け/雪がなだれる/そのなだれに/熊が乗つてゐる/あぐらをかき/安閑と/莨をすふやうな恰好で/そこに一ぴき熊がゐる」井伏鱒二「なだれ」という漫画のような詩と出会った。今読んだのは、何だったんだ?と目を疑い、それから随分笑ってしまった。

本の画象

岩波書店 岩波文庫別冊(1100円+税)
2020年1月刊

赤石 忍の推す2冊

安岡章太郎著
『利根川・隅田川』

 1966年4月に親本の刊行だから、安岡は半世紀以上前の利根川を水源から河口まで歩いたことになる。今の利根川は江戸初期の改修で流れを大きく変えられた。本流は千葉県銚子に河口を構え、分流の江戸川は東京湾に注ぐ。だが荒川、隅田川等も含め放水路も多く、正直、切り取った風景の中でしか、私には各々の川のイメージが湧かない。その姿を時代によって大きく変えながらも、川はたえず古い道筋を流れようとしていると著者。同時期に発売された安岡氏の『私の墨東綺譚』もぜひ。

本の画象

中公文庫(900円・税込)
2020年1月刊
ブライアン・サイクス著/大野晶子訳
 遺伝子が語る人類の絆
『イヴの七人の娘たち』

 親本刊行は20年前だから、遺伝子研究も本書の先を行っている事は間違いない。ネアンデルタール人が現生人類と交わることなく絶滅したとあるが、最近では交配の痕跡が認められ、祖先の出アフリカ説にも疑問符が付き始めている。だとしても本書は面白い。母系のみに受け継がれるミトコンドリアDNAを解読すると、現代ヨーロッパ人の95%が七人の母親に行き着くなんて。訳文も読みやすくスリリングで推理小説のよう。Y染色体を扱った『アダムの運命の息子たち』も併せてどうぞ。

本の画象

河出文庫(1200円+税)
2020年2月刊

[e船団・週刊ブックレビュー]バックナンバー


トップへ戻る