2017年4月17日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

伊藤政美句集
『父の木』

 春はグラスの中の氷の崩れる音にもある。「水割りの氷からんともう春か」闇は花瓶の中にもある。「薔薇を挿す花瓶の闇を覗いてから」夕暮れは蟻地獄の中にもある。「ゆつくりとゆふぐれの来る蟻地獄」そして、無は秋天にもある。「秋天といふなにもなきところかな」あらゆるものはどこにでもある。それをあっさりと書いて見せるところに伊藤政美の俳句がある。

本の画象

菜の花会
2016年12月刊
岡村知昭句集
『然るべく』

 「段違い平行棒春闌けにけり」の二本の白い段違いの棒は、選手の手を待ち続けている。しかし、選手の手はなぜか現れないまま春は盛りを過ぎていく。空虚な美しさがここにある。「つちふれりうしろすがたのみんな僧」の霾る中を行く人々は、一様に背を向け歩いて行く。どこへ行くかはわからない。しかし、弔いに行くことは確かだ。幻のような世界がここにある。

本の画象

人間社・草原詩社(1500円+税)
2016年11月刊

塩谷則子の推す2冊

ふけとしこ著
『ヨットと横顔』

 過激だ。だからおもしろい。例えば蒲公英。毎朝7時に一つの花を観察。4月28日から5月21日まで。花を終え一度倒れるのは、「後進に日当たりを提供することと、自身がゆっくりと結実するためだろう」。蒲公英がふけさんに見えてくる。さてその後綿毛の数を数え、ドライフラワーを作る。すごい!「船団」の句文集三冊目。「露舐める足長蜂の美しき」。

本の画象

創風社出版(1400円+税)
2017年2月刊
今野 勉著
『宮沢賢治の真実』
修羅を生きた詩人

 24歳で亡くなった妹が、今度は「こたにわりやのこと(悪いこと)ばかりでくるしまなあよに」生まれてくる(『無声慟哭』)と言ったのはなぜか、疑問だった。女学校の先生に恋をし新聞記事に。逃げるように東京に進学。病気に。自らの恋に苦しみつつ妹の『自省録』を読んだ賢治は、妹同様自らを高めることで怒りと哀しみを克服。その過程を劇的に描いた本。

本の画象

新潮社(2000円+税)
2017年2月刊

[e船団・週刊ブックレビュー]バックナンバー


トップへ戻る