2018年11月12日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

伊藤政美句集
『四郷村抄』

 伊藤政美は、自己の原光景を重ね描くことによって、四郷村(よごうむら)という一つの世界を作り上げた。四郷村は暮色に染まる鐘の音によって美しく飾られる。「まつさきに寺の鐘暮れ冬の村」村はまた、いつまでも昨日のままの世界であった。「燕去りし空いつまでも青かりし」そして、昨日のままの世界は、なんとも不思議な幸福感が漂う世界であった。
 冬日和不思議な距離に妻がをり

本の画象

菜の花会(頒価2000円)
2018年8月刊
新藤綾子歌集
『葛布の襖』

 表具師・新藤綾子の遺歌集である。鎌倉の海と竜宮の使いそのものを額装しているかのような楽しい歌「鎌倉の海に打ち上げられし竜宮の使ひの古き書を額に仕立てる」。そして、贅沢極まりない部屋を歌った「留守の間の部屋には金箔散らしつつ和紙の裁ち落としの溜まりて居りぬ」。留守の間、その部屋は、金箔と和紙の裁ち落としによって荘厳されていたのだ。美の中に生きた表具師・新藤綾子、以って瞑すべし。

本の画象

コールサック社(1500円+税)
2018年8月刊

塩谷則子の推す2冊

吉行和子・冨士眞奈美著
 おんなふたり
『奥の細道迷い道』

 二人とも自由奔放だ。「語られぬ湯殿にぬらす袂かな 芭蕉」について、「語られぬ」って謎だ、現代的だという。Oh!数年前、出羽三山に旅行、湯殿山神社の御神体(湯に濡れた岩)について語るな、聞くなと言われてきたと知った。解釈本など無視するんだ!愉快。女がいて、語れないんですよと読む。句を介し、淡々と深く付き合う二人。

本の画象

集英社インターナショナル(1400円+税)
2018年8月刊
北村純一著
『芭蕉と其角』
 四人の革命児たち

 小説。17歳年上の芭蕉を其角は「兄ィ」と呼び芭蕉は三重弁で話す。生類憐みの令の時代背景や、西鶴、英一蝶などとの交流も描かれていて読み易い。さて、今秋、伊丹柿衞文庫「芭蕉の手紙」展の図録に圧倒された。すべて翻刻、活字で読める 上に解説が文学的。手紙は250通近く残っているという。芭蕉は丁寧に人と付き合ったひとだった。

本の画象

風媒社(1700円+税)
2018年10月刊

[e船団・週刊ブックレビュー]バックナンバー


トップへ戻る