2017年11月13日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

大湯邦代歌集
『櫻さくらサクラ』

 「墨堤の櫻脳裏に花筏追いつつ目黒新橋わたる」の一首に心惹かれる。墨=闇の墨堤から流れ行く花筏=美を追って目黒新橋へと至るこの花狂いは、黒=闇の新橋を渡り、一体どこへ行こうというのだろうか。新橋を渡って逝ってしまった美しい人達に会いに行くのだろうか。「生き生きておもうは逝きし人ばかり思いの外に百草芽吹く」地へと。

本の画象

コールサック社(1800円+税)
2017年9月刊
とくぐいち俳句集
『おじゃまむし』

 擬人法を使った句が面白い。「あらぬこと思ってとけるかき氷」恋の炎でとけるのか、恥ずかしくて消えてしまうのか、あらぬことって何でしょう。「貼紙をされて電柱うれしがる」孤独な電柱の嬉しさが何となくわかる句だ。そんな句が沢山ある不思議な不思議な句集である。作者はどんな人かと思えば、「吠えられて私怪しいものである」とのこと。

本の画象

私家版
2017年9月刊

塩谷則子の推す2冊

谷川俊太郎・覚和歌子著
対詩 2馬力』

 覚は映画『千と千尋の神隠し』の「いつでも何度でも」の作詞者。谷川と覚に共通するのは「私」を書かないこと。例えば「心理療法家は家へ帰ると/一晩中落語を聴いている/妻は環境保護に熱心だ」(谷川)。患者の話を全身で聞いている人物を描く。対詩は、交互に、影響されながら書く。ライブが基本。面白い試みだ。

本の画象

ナナロク社(1600円+税)
2017年10月刊
井上智重著
『山頭火意外伝』

 意外なことが書かれているわけではない。全集にも出ていない「九州新聞」発表句の発見や、酔っぱらって市電を停めた山頭火を法恩寺に連れていった人物の特定など、筆者は「重箱の隅をつついて楽し」んでいる。困ればお金を用立ててくれる友。小遣を送る息子。友と家族に支えられ俳句に没頭した山頭火。温かい伝記。

本の画象

熊本日日新聞社(2000円+税)
2017年7月刊

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