2020年1月20日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す1冊


川本晧嗣著
『俳諧の詩学』

本の画象

 季語や切字などを当然のこととせず、その根底から短詩型を問い直す。とにかく比較文学者としての視点が面白い。そこを知りたかったのだという領域に読者は導かれる。「俳句の『意味』とは」の「表現と解釈のあいだを行ったり来たりする行為そのものが〈詩〉だ」には膝を打つ。日本の詩歌のなかで「秋」は最初から悲しく淋しかったわけではなかったのだと解き明かす「日本の『秋』」。「新切字論」では膨大な数の俳句から切字の種類をあぶり出す。第二芸術論の疵瑕と意義の指摘もする。ボードレールを引用して芭蕉を照らし出そうとする「『不易流行』とは何か」は、特に興味深い。和歌や俳句とは何かということを突き詰めたい人にお薦めの一冊。

岩波書店(3300円+税)
2019年9月刊


武馬久仁裕の推す2冊

諏佐英莉句集
『やさしきひと』

 そんなに寂しいのか、秋の暮には、菓子箱は狂ったようにギラギラ媚を売る。「秋の暮狂つた色の菓子の箱」。流星も捨てられて、畳まれ傘もどきになってゴミになる。「流星や捨てられて傘ならぬ物」。そして、愚かな消費行動の記録はまとめてポイ。「レシートをまとめて捨てる万愚節」。批評性のある俳句が好ましい。俳人は今年33歳。

本の画象

文學の森(1700円+税)
2019年12月刊
京極夏彦著
『書楼弔堂 炎昼』

 頁を繰り書楼弔堂(とむらいどう)に入った時、ボルヘスの空想したあらゆる本を所蔵する「バベルの図書館」を思った。しかし、弔堂は本屋だ。人々は自分の生涯の1冊を購うため弔堂を訪れる。だが、あらゆる本があるかに見える弔堂でも、全ての本はない。若き日の柳田國男の求める1冊はなかった。その1冊は彼が書くべき本だったのだ。『遠野物語』を暗示して本書は終わる。白昼夢のような1冊。

本の画象

集英社文庫(980円+税)
2019年11月刊


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