2017年7月17日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す1冊


森まゆみ著

『子規の音』

本の画象

 子規のあらゆるジャンルの作品を日付順に読んでみたいという願望から著作された。書簡に添えられた俳句は書簡と共に読む。著者は、既存の子規の伝記や子規の随想・俳句により子規を生きるが、漱石、鴎外、逍遥、露伴、鳴雪など周囲の人たちへの寄り道も止まらない。文章には子規と同様メモ魔の表情が。「はてしらずの記」に従い、『奥の細道』を旅でたどり、子規が滞在した場所で同じ感慨を抱く。子規の時代のことを語っているかと思えば、昭和の著者自身の話題に移る。時代を超えて子規と交感する。時間をかけてゆっくり味わいたい本。短い随筆「夏の夜の音」も読んでみたい。本書で最も気になった俳句「寝て聞けば上野の花のさわぎ哉」

新潮社(2100円+税)
2017年4月刊


田中俊弥の推す1冊


中原幸子著

俳句とエッセー『ローマの釘』

本の画象

 このブックレビューでいつもたいへんお世話になっている中原幸子さんの本が届 いた。なによりタイトルが洒落ている。香りの研究者として長くお仕事をつづけ られていた理系の中原さんだからこその香りや日常を題材とするエッセーは、ど れもみずみずしくて秀逸。幼子のように純粋な好奇心と探究心はモノの世界、コ トバの世界、俳句の世界にストレートに分け入っていく。「雷雨です。以上、西 陣からでした」「満場ノ悪党諸君、月ガ出タ」が双璧かと思慮するが、「君五歳 うらもおもても空も夏」「涙が次のページに落ちて夏の暁」「水澄めりときに苦 しき本を読む」「二時三時四時五時六時鰯雲」「シーラカンス抱きしめるしかな いか、月」など、珠玉の輝きを放っている。

創風社出版(1400円+税)
2017年6月刊

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