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2017年8月14日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

河出書房新社編集部編
「文藝別冊《総特集 『俵万智』
史上最強の三十一文字

 まず表紙の写真が『サラダ記念日』の表紙を真似ていていい。穂村弘との鋭い対談、多様な寄稿、論考があり、読み応えがある。『サラダ記念日』刊行30周年記念のようだが、俵万智は歌壇において現在進行形の歌人なのだと実感した。再録だが、小林恭二との「短歌は俳句を嫉妬するか《という対談が興味深かった。

本の画象

河出書房新社(1300円+税)
2017年6月刊
POPEYE特別編集
「本と映画のはなし。《

 様々なジャンルのクリエイターが、自身が触発された本と映画を紹介している。どちらかと言えば、本寄り。普段あまり目に触れない世界の方々による本の紹介だったので、知らない世界を覗き見た感じがした。複数の人が伊丹十三を取り上げていたのが、とても印象的だった。

本の画象

マガジンハウス(815円+税)
2017年8月刊

今泉凡蔵の推す2冊

今西祐一郎著
『死を想え』
『九相詩』と『一休骸骨』

 メメント・モリ、人の屍が朽ち果ててゆく様を九段階に描いた図に伝蘇東坡の詩と歌二首。
 鳥へ山すてにし人のあとゝへは
   塚にのこるは露のこんはく
 その朽ちてゆく絵が凄まじい。比して一休骸骨には諧謔がある。芭蕉は続猿蓑(雑秋)に骸骨が笛鼓で遊ぶ絵をみて、夢うつつを詠む。
 稲づまやかほのところが薄の穂  はせを
(清濁は原著ママ。和歌は本書、俳句は岩波書店)

本の画象

平凡社(1000円+税)
2016年12月刊
大竹英洋著
『そして、ぼくは旅に出た。』

 著者・写真家は、見たこともないオオカミを夢に見て、幻に誘われるかのように北米ノースウッズを目指す。そこに写真集『ブラザー・ウルフ』著者ブランデンバーグがいるからだ。魂の呼び声に従い、なんの後ろ盾もなく約束もないまま、一歩を踏み出してゆく無謀なまでの生き方に感銘。シャッターの一押しは俳句の切れに似ている。

本の画象

あすなろ書房(1900円+税)
2017年3月刊



2017年8月7日号(e船団書評委員会)

宇都宮さとるの推す1冊


アンディ・ウォーホル著/野中邦子訳/福田尚代編

『アンディ・ウォーホルのヘビのおはなし』

本の画象

 ポップアートの巨匠・ウォーホルがグラフィックデザイナー時代に残した幻の絵本。主人公のヘビが奇想天外に七変化する他愛のないお話しだが、煌くような黄色を基調としたイラストとスタイリッシュな機智と諧謔に富んだ展開は、半世紀以上たった今も新しくて、刺激的だ。少し飛躍するが、今の俳句にこの絵本のように時代を超えて人を魅了する独創的で自由溢れる感性があるだろうか、と思う。ポップとは、アートとは、そして自由とは、考えてみたいテーマである。なぜなら、この一冊が置かれているだけで部屋が明るくなるから。

河出書房新社(2000円+税)
2017年5月刊


鈴木ひさしの推す1冊


酒井紀美著

『夢の日本史』

本の画象

 それぞれの時代を生きた人々は、夢をめぐるどのような「文化的装置《を創り出し、使ってきたのか。夢は、自分の「外から《ではなく、心の奥深いところや、脳の生み出すイメージという「中から《やってくるのだ、と、大多数の人々が考えるようになったのは、日本では明治以降のことであるようだ。『石山寺縁起』に描かれた、石山寺礼堂(外陣)に参籠通夜する人々は、確かに、今日のネットカフェの客に似ているかもしれない。夢といえば夏目漱石『夢十夜』。夢は「外から《来るのか、「内から《来るのか……、『夢十夜』には、夜ごと訪れる夢に対して、上安と混迷を抱え込み、向き合わなければならなかった近代日本人の様子が、描かれているのだと著者は見る。岡倉天心の「夢を釣りに海へ出る《話、こんな「ことば《があったのか、と思う。どこまでが自分の「中《といえるのか、どこから「外《なのか、……心身ともにあいまいである。

勉誠出版(2800円+税)
2017年6月刊



2017年7月31日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

荒川源吾歌集
『青の時計』

 歌人は88歳。果たして歌人と同年齢になった時、なおもこのようにじたばたしておられるであろうか。「人妻を奪ふ思ひの激しさのかつてあり今なしとは言はず《そして、「ゆくりなくゆくりなしいくつ重ねて合ふべき人といつもすれちがふ《と、88年間上首尾にもかかわらず、合いたい人との上意の出合いをなおも待ち望む歌人なのだ。執拗な生の軌跡が見えてくる歌集である。

本の画象

私家版(1200円+税)
2017年6月刊
大湯邦代歌集
『玻璃の伽藍』

 生の刹那を歌い上げた歌に満ちている。「あらざらんこの世のほかを思い見よたまゆら揺るるカクテルの紅《。そして、世界は生きている、官能的に。「ぴったりとチャイナ・ドレスを纏いたる夜を零れよ罌粟の花びら《。しかし、この世界は、「醒めやらぬ宵の深みに捨てられし煙草が二月の小雨にくゆる《淋しく儚げな世界である。歌集は、一月ではなく二月の歌集であった。

本の画象

コールサック社(1800円+税)
2017年6月刊

塩谷則子の推す2冊

渡辺京二著
『日本詩歌思出草』

 芥川龍之介の私も好きな「相聞《など。久しぶりに詩を読んだ。石牟礼道子の詩「花がひらく《から「この世はイヤだとぐずり泣きしている幼女が現われる。《嫌なこの世を気高く生きるため道子は『苦海浄土』を書いたのだ。漢文素読の会で一緒に学んだという。詩を書き続けるには、勉強と書く習慣が必要と述べる意見には説得力がある。

本の画象

平凡社(1900円+税)
2017年4月刊
大阪俳句史研究会編
『大阪の俳人たち 7』

 大阪の、とあるが関西にゆかりのある俳人列伝。虚子・和露・啼魚・放哉・多佳子・小寺正三・桂信子・森澄雄・山田弘子・摂津幸彦論。力作揃い。俳壇から距離があった小さな同人誌や『ガロ』のつげ義春の漫画が幸彦のシュールな感覚を伸ばしたという伊丹啓子の論も面白い。今後貴重な証言となるだろう。50年前のことはもう歴史だ。

本の画象

和泉書院(2600円+税)
2017年6月刊



2017年7月24日号(e船団書評委員会)

静 誠司の推す1冊


嵐山光三郎著
『芭蕉という修羅』

本の画象

 前作の『悪党芭蕉』(2006)も当時話題になったようだが、残念ながら未読。とにかく著者は芭蕉という人物のリアルな姿を再現しようとしている。「俳聖《という言葉で美化され神格された姿ではなく、世に吊を馳せようと必死で生きている一人の人間の姿を。この作品が学問的にどれだけ認められるものかどうかは素人には分からないが、読みものとしてとても興味深い内容であった。松尾芭蕉という人間が初めて骨肉を伴った現実的な像で捉えられたような気がする。水道工事監督(初めて知った!)として、幕府隠密(よく聞くところの)として、そして最高の俳諧師として生きようとする芭蕉のそれぞれの生き方が一本の線でつながった。力作である。

新潮社(1600円+税)
2017年4月刊


紀本直美の推す2冊

津村記久子/さく
『まぬけなこよみ』

 「ポトスライムの舟《で芥川賞を受賞した作家の、歳時記をテーマとしたエッセー。子どもの頃について多く書いたのは、現在の生活が季節感とかけ離れているから。季節を感じるということが難しい時代のぬるい歳時記。

本の画象

平凡社(1500円+税)
2017年4月刊
アーサー・ビナード/作 スズキコージ/画
『ドームがたり』

 広島の原爆ドームが主役の絵本。原爆の悲惨さをスズキコージが描いている。今までの原爆関係の絵本だと悲惨さを訴えて終わりなのだが、この絵本はそれだけでは終わらない。この夏、ぜひ多くの人に読んでもらいたい絵本。

本の画象

玉川大学出版部(1600円+税)
2017年3月刊



2017年7月17日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す1冊


森まゆみ著

『子規の音』

本の画象

 子規のあらゆるジャンルの作品を日付順に読んでみたいという願望から著作された。書簡に添えられた俳句は書簡と共に読む。著者は、既存の子規の伝記や子規の随想・俳句により子規を生きるが、漱石、鴎外、逊遥、露伴、鳴雪など周囲の人たちへの寄り道も止まらない。文章には子規と同様メモ魔の表情が。「はてしらずの記《に従い、『奥の細道』を旅でたどり、子規が滞在した場所で同じ感慨を抱く。子規の時代のことを語っているかと思えば、昭和の著者自身の話題に移る。時代を超えて子規と交感する。時間をかけてゆっくり味わいたい本。短い随筆「夏の夜の音《も読んでみたい。本書で最も気になった俳句「寝て聞けば上野の花のさわぎ哉《

新潮社(2100円+税)
2017年4月刊


田中俊弥の推す1冊


中原幸子著

俳句とエッセー『ローマの釘』

本の画象

 このブックレビューでいつもたいへんお世話になっている中原幸子さんの本が届 いた。なによりタイトルが洒落ている。香りの研究者として長くお仕事をつづけ られていた理系の中原さんだからこその香りや日常を題材とするエッセーは、ど れもみずみずしくて秀逸。幼子のように純粋な好奇心と探究心はモノの世界、コ トバの世界、俳句の世界にストレートに分け入っていく。「雷雨です。以上、西 陣からでした《「満場ノ悪党諸君、月ガ出タ《が双璧かと思慮するが、「君五歳 うらもおもても空も夏《「涙が次のページに落ちて夏の暁《「水澄めりときに苦 しき本を読む《「二時三時四時五時六時鰯雲《「シーラカンス抱きしめるしかな いか、月《など、珠玉の輝きを放っている。

創風社出版(1400円+税)
2017年6月刊



2017年7月10日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

宇都宮さとる句集
『蝦蟇の襞』

 ひと言でまとめると普通の句集ではない。なんだか変わっているな...からアレ?アレレレレ?あっという間にすごい変わってる!に変化する句集。中には吊句どころかキャッチコピーまでパロディッて挑戦している。ジワジワくるおかしみ、クスリ笑うおかしさ。そして紫野句会近くにある洋食屋も出てきて空腹感に苛まれる一冊。

本の画象

SOU出版(1800円+税)
2017年5月刊
やまさきじゅんよ絵・文
『とくしまからきました』

 徳島へ越す挨拶をしたら、よく「徳島へ戻ったところで何もないのに《と言われたものだ。そう、この絵本の主人公が頭を抱えるとおり、「なにもない《。
 ほなけんどな、主人公と一緒に考えてみたら、ようけことあるんじょ。ほなけん全国の人にもこの絵本読んでもらいたいもんじゃ。まぁ四国の位置から覚えたってなー。

本の画象

郁朋社(1300円+税)
2017年1月刊

松永みよ子の推す2冊

北大路翼句集
『時の瘡蓋(かさぶた)』

 新宿歌舞伎町「屍《(しかばね)派家元を吊乗り、夜の街で句を詠む北大路翼39歳の最新句集。(NHKで、生きづらい若者に俳句の楽しさを伝える筆者が紹介されていた)デカダンスの中からあふれでる純情さは、異端というよりむしろ日本文学の正統派かも。「息白く我が為すことのみな自傷《「懐手自分に触れてゐたくって《

本の画象

ふらんす堂(2000円+税)
2017年5月刊
東 雅夫編/谷川千佳絵
文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション
『恋 川端康成・江戸川乱歩ほか

 「攻めてるな~《と言わずにいられない、編者東雅夫氏(元「幻想文学《編集長)のセンスが光る一冊。言葉にするのが難しい皮膚感覚の妖しさにぞくぞくひりひりし、心ごと異世界にもっていかれてしまった。特に「西鶴諸国ばなし《をモチーフに、鯉女と男の情痴を描いた、小田仁二郎の『鯉の巴』には完全ノックアウトされた。

本の画象

汐文社(1600円+税)
2017年2月刊



2017年7月3日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの推す2冊

小池昌代著
14歳の世渡り術
『ときめき百人一首』

 一首ずつの現代語訳と解釈に読み応えあり。「春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山《は「夏が来た、その瞬間が、翻る白い衣のイメージでとらえられています。(略)山の緑に、白い衣、そして抜けるような一面の青空。(略)読むだけで視力がぐんとアップするよう(略)《と印象鮮明。一首がぐっと近づいてくる。

本の画象

河出書房新社(1300円+税)
2017年2月刊
大井田義彰編
『教師失格』
夏目漱石教育論集

 漱石の教育にかかわる文章、談話、講演録等を集めたアンソロジー。自身の上勉強、落第、文学を学ぶ空虚、糊口の口を求めたに過ぎなかった教職、流行の学説の尻馬に乗ったこと、その末の上安。そしてそこからどのように進もうとしてきたか。その言葉はあまりにも率直で、清らかささえ感じる程。生活に追われる身に深く響く。

本の画象

東京学芸大学出版会(1500円+税)
2017年4月刊

赤石 忍の推す2冊

いとうみく作/酒井駒子画
『カーネーション』

 最近刊行された児童書を二冊ご紹介する。一冊目のテーマは「ネグレクト《。親が子を生理的に愛せないという問題である。今や我が子に愛情を注げないという事象は、それほど特異な事ではなくなってきているのだ。だが、この問題には明るい結末が見えない。粘着した嫌悪の感情を引き剥がすのは、それほど安易な事ではないから。児童書も顕在化してきたこのテーマに、取り組まなければ時代を迎えている。

本の画象

くもん出版(1400円+税)
2017年5月刊
戸森しるこ著/佐藤真紀子絵
『ぼくたちのリアル』

 本書の底流に流れているのは、現代的テーマ「LGBT《。つまり、同性愛、両性愛、性上同一性の問題である。私の少年時代にも差別的に囃し立てられた子ども達は確かにいた。果たして彼等はそのような問題を抱えていたのかもしれない。しかし現代では、存在として認められるべき権利を保有している。そして児童期から正しく適切に理解できるよう、学校現場でも地域のかかわり合いの中でも取り組む必要があるだろう。

本の画象

講談社(1300円+税)
2016年6月刊



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