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2018年4月9日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す2冊

目黒実編・寺山修司×宇野亜喜良著
『五月よ 僕の少年よ
 さようなら』


 小品の本書は、寺山の不思議な詩と宇野の不思議な絵のコラボレーション。両者は目黒の「命」。感じるというよりも深く何かを考えさせられる詩。「美しすぎる童話を愛読したものは、おとなになってから、その童話に復讐される。」時間がたっぷりあるときに、ゆっくり浸って欲しい本。目黒から寺山へのメッセージがタイトル。

本の画象

アリエスブック(1700円+税)
2017年12月刊
大嶋 仁著
『メタファー思考は
 科学の母』


 本書の目的は、文学が人間の思考にとって不可欠であると伝えること。文学の起源は歌。脳科学者エデルマンのメタファー(暗喩)思考も「人間が言語を覚える前からの思考」「物事と物事のイメージの関連性を追求し、世界をパターン化して把握すること」と紹介。歌を忘れつつある人間に古傷を癒し人類を守る文学を勧める。

本の画象

弦書房(1900円+税)
2017年10月刊

静 誠司の推す2冊

小栗清吾著
『吉原の江戸川柳は
 おもしろい』


 江戸時代の吉原遊郭を題材にした川柳を集め、テーマごとに分類し紹介したもの。江戸の男たちがいかに吉原に夢中であったか、「ありんす国」吉原で働く人々のリアルな実態など、川柳を通して彼ら彼女らの実像が浮かび上がる。膨大な量の吉原川柳をよく選別し分類し解説してくれた筆者の労苦がしのばれる。女性受けはしないだろうが。

本の画象

平凡社新書(840円+税)
2018年1月刊
WRITES PUBLISHING編
毎日読みたい
『365日の広告コピー』

 1年365日の一日一日に、その日に見合い、実際に使用された広告コピーを紹介した作品集。1月1日から通して読んでもよいし、気になる日付を行ったり来たりしながら読んでも楽しい。ちなみに私の誕生日のページには「子どもに伝わるのは、命令形ではなく肯定形です。」というコピーが。確かに最近ちょっと命令口調かも。反省します。

本の画象

ライツ社(1850円+税)
2017年12月刊



2018年4月2日号(e船団書評委員会)

松永みよこの推す2冊

大岡 信著
『紀貫之』

 情趣を重んじた紀貫之の歌は、実態をまっすぐ伝えるのをよしとした、正岡子規によって否定された。私は、実態は「豆腐」、情趣は「おから」だと思った。そしてその味わいに甲乙をつけるのは困難をきわめることだと。著者である詩人大岡信の史実の隙間を埋める大胆な想像力には、貫之的な情趣が宿っていることも見逃せない。

本の画象

ちくま学芸文庫(1100円+税)
2018年2月刊
齋藤 孝著
『ほめる力』
「楽しく生きる人」はここがちがう

 お世辞ととられることなく、相手の心に温もりを届けられたらと思うがなかなかうまくいかない。―円滑なコミュニケーションの基本は句づくりと同様「観察」から。少しの下準備と(人に会う前に体を温めるためジャンプをするといいらしい)積極性で、今までよりも一歩踏み込んだ対人関係を築いていけそうな期待がふくらんだ。

本の画象

ちくま文庫(680円+税)
2018年1月刊

田中俊弥の推す2冊

NHKテキスト(2018年4月号)
『NHK俳句』

 2018(平成30)年度が始まる。今年は、例年になく早い桜となった。このところ、花見のニュースがにぎわっている。わたしたち日本の生活とことばの文化が季節の変化とともにあることは、すでに万葉集以来の伝統である。新年度、俳句という豊かなことばの文化を月ごとに双方向で学び続けていきたい。特別定価で別冊付録あり。

本の画象

NHK出版(700円・税込)
2018年3月刊
NHKテキスト(2018年4月号)
『まいにち中国語』

 昨年度は、ハングルを半期半期で1講座15分、1年間都合240講座、おもにネットラジオ(NHKらじる★らじる)で学びつづけ、本年度は、ハングルとともに新規に中国語にチャレンジしようとそのテキストを購入。ハングルの学びを深めるためにも漢字文化の元祖のことばを学ぶべきときが来た。いまや時代は中国を向いている。

本の画象

NHK出版(486円+税)
2018年3月刊



2018年3月26日号(e船団書評委員会)

赤石 忍


坪内稔典監修/佛教大学選
『小学生のための俳句入門』
―君もあなたもハイキング(俳句の王さま)

本の画象

 「新雪に倒れて私がもう一人」「つゆがつくおうちのまどは自由帳」「友休む後ろの席に冬の風」「弟の首がすわって夏が来た」「夕焼けの少しさみしい『また明日』」。高学年生の作。うまいものだ、と思う。「なつ休みしょんぼりしてるランドセル」「はるがきたトリケラトプスになれるかな」「あまがえるどきどきするよおうだん中」「しゃぼん玉木のそばに行き木としゃべる」。低学年生でも、やるなあと感じる。素直とか感じたままとか、そういうことではない。彼等は作意をもって表現をし、非日常の中で言葉を手繰り寄せているのだ。早い時期から楽しさの中で言葉と格闘する機会を持つことは素晴らしいことではないかとも思う。本書は佛教大が長年続けている俳句コンクールの優秀作を纏めたもの。船団会員の山本純子さんが作品寸評をし、坪内氏が解説と作句の方法を書いている。4月初めから書店に並び始めるが、ぜひ教育現場でも活用してほしい。ちなみにハイキングは、俳句王と吟行の両意から。

くもん出版(1500円+税)
2018年4月刊


舩井春奈の推す2冊

清川あさみ・最果タヒ著
『千年後の百人一首』

 たくさんの百人一首の解釈本がある中で、千年後の今日の研ぎ澄まされた感覚でまとめられているのがこの書。一見挿絵のようなのは絵札。斬新。写真に刺繍を刺す手法で知られる清川あさみによるものだ。翻案は、詩人であり小説家の最果タヒによる。読み進めるにつれ、まるで百の短編集に吸い込まれていくかのような感覚に。

本の画象

リトルモア(1600円+税)
2017年11月刊
藤井宗悦著
『点前の準備』
 茶の湯の基礎から茶箱まで

 個人的に、忘れた頃に必要になるのが茶道。学部時代のサークルでお稽古して以来、卒業と同時に必要に迫られてのみ接するくらいだ。このところは、徳島句会で誕生月の参加者がおられれば、お茶を点てる。それを機に、きちんともう一度、とこの本を手にした。のどかな光が手元へ差し込む。この春は庭で野点をしてみよう。

本の画象

淡交社(1400円+税)
2017年12月刊



2018年3月19日号(e船団書評委員会)

香川昭子の推す2冊

穂村 弘著
穂村弘の読書日記
『きっとあの人は
 眠っているんだよ』


 人生においてもっとも重要なアイテムは本という著者。漫画、ミステリー、詩歌などが多い。「優良なコンテンツというわけではない。むしろコンテンツになることに抗うというか、面白さという概念そのものを変えようとする意志を感じる」。いがらしみきおの漫画をそう捉える。その例としての文章を読んだ。うーん、そうなのかなあ。

本の画象

河出書房新社(1600円+税)
2017年11月刊
イタロ・カルヴィーノ著
『木のぼり男爵』

 かたつむり料理を拒み12歳から木の上に暮らすコジモ。一生地上に降りず、木から木に飛び移り、剪定など様々な仕事をし、食べ物を得、多くの本を読み、革命、冒険、恋愛も木の上で。老いて病になるも、痛快無比な最期が描かれる。ファンタジーともいえるこの長編、法螺話を読む愉しさよりも、人間や社会の不可解さ、悲しさが残った。

本の画象

白水Uブックス(1800円+税)
2018年1月刊

原 ゆきの推す2冊

宇多喜代子著
『この世佳し』
―桂信子の百句

 口に馴染み、そのまま覚えてしまいそうな桂信子の句。「母の魂梅に遊んで夜は還る」「夜の町は紺しぼりつつ牡丹雪」「草の根の蛇の眠りにとどきけり」「どことなく傷みはじめし春の家」連想したのは丁寧に面取りし出汁で薄味に煮含めた野菜。奇をてらわず品のよい日常のおかず。104句を頬ばり、風味に、いちいち驚いた。

本の画象

ふらんす堂(1400円+税)
2017年12月刊
石井桃子著
『家と庭と犬とねこ』

 石井さん訳の児童文学に「かわいね!なんて名まい?」という子供の台詞がある。疲れた肩を「ごよごよ動かす」とか、満足した女の子が「ふとい息」をつく、などの表現も。この随筆集にも「ツバまでがあまくなるような気もち」を発見し「すかすか」息をすって確認する帰郷シーンが。この独特な身体感覚溢れる桃子節、大好きだ。

本の画象

河出書房新社 河出文庫(680円+税)
2018年2月刊



2018年3月12日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

岸本葉子著
季節の言葉と暮らす幸せ
『俳句、やめられません』

 著者は現在「NHK俳句」の司会も務めるエッセイスト。季語をいかに生かすかが本書の基調。第四章「『あるある俳句』と『褒められ俳句』」がよかった。報告句、原因と結果の説明句、決まり文句の句、季語の説明になっている句などなど、そういうことって誰かに言われないとわからなくなるよなぁと思った。

本の画象

小学館(1400円+税)
2018年2月刊
川上浩司著
『京大式DEEP THINKING』

 著者は京都大学デザイン学ユニット特定教授で「不便益(不便がもたらす益)」の研究者。「本当に深く考える」とはどういうことか、考えさせられた。例えば新しいアイデアは、既存の者に何かを足すのではなく、引き算で発想するといいそうだ。人工頭脳研究者の著者の経験と実感に基づく文章に学ぶところが多かった。

本の画象

サンマーク出版(1400円+税)
2017年11月刊

今泉凡蔵の推す2冊

唐仁原教久画・文
「『濹東綺譚』を歩く」

 この画文集の表1は、ぬけられます、との看板路地だ。どっこい読み始めたら抜けられない。見返し、扉と紅殻でまるで廓格子だ。そこから先は、言えない! 画家、デザイナー、文筆家と様々な顔を持つ著者は、玉の井界隈をゆっくりと丹念に歩く。その目は今現在の町の姿ではなく、荷風の眼差しを獲得している。僕も一緒に歩きたかった。
 蚊帳の穴むすびむすびて九月哉 荷風

本の画象

白水社(2400円+税)
2017年10月刊
若竹千佐子著
『おらおらでひとりいぐも』

 標準語という言葉は、何と味気のない言葉だと、今しみじみ感じている。そもそも標準って何さ? 賢治の詩の地元言葉での朗読を聞くと、言葉が魂、生命力を持って響いてくる。詩の世界が、今までと違った画面に沸き立ってくるようだ、永訣の朝のように。おらという私は、生と死の、過去と現在未来の境を軽々と飛び越えて思弁の世界に生きる。やはり一人で行くしかない。おらもいぐだ!

本の画象

河出書房新社(1200円+税)
2017年11月刊



2018年3月5日号(e船団書評委員会)

宇都宮さとるの推す1冊


宇多田ヒカル著

『宇多田ヒカルの言葉』

本の画象

 ヒッキー14歳のデビュー曲 “真実は最高の嘘で隠して/現実は極上の夢でごまかそう……” で始まる『Never let Go』をはじめ、20年間の全楽曲の日本語詞集。普通歌詞は横書きが多いのだが本書は全て縦書き。そのためか、メロディーと一体化されていた言葉が独り立ちしてくるから不思議だ。作品は何気ない日常のひと言ひと言がそれほどの脈絡もなく紡がれているように見えるが、相当言葉が削ぎ落とされているだろう、読み継いでいくと独特の世界観が胸に迫ってくる。また、著者の作詞の姿勢に注目したい。曰く、「一貫して……作品の世界に作者の自我の痕跡を残さないように……」「……日本語とより真摯に向き合ってきた……」と。
でも、どうして彼女の歌はこうも儚げなのだろうか……。

エムオン・エンタテインメント(1400円+税)
2017年12月刊


鈴木ひさしの推す1冊


植村和秀著

『折口信夫』

本の画象

 歌人釈超空、国文学者・民俗学者折口信夫、どこから近づいていけばいいのだろうか。 著者は、「歴史学に近い政治思想史」の立場から折口信夫が何を考えてきたのかを整理し、できるだけ再現しようとしている。1923年の関東大震災時の虐殺者のすさんだ表情に直面した後の歌、1935年2・26事件の「反乱者」に憤激し、戦争責任者たちのふるまいに衝撃を受ける折口……。同時代に引き戻し、思考の細部を見ようと試みる。
 信仰が社会を根本で支え文学が社会を未来に導く、折口の考え方の基本を、著者はこうまとめる。膨大な『折口信夫全集』全40巻をその思想的構成から分類し、「短歌→詩→歌論→……→民俗学→国学・神道論」と読み進める順序を図式化している。一つの読書法として面白い。「われわれの生活から、文学や芸術を取り上げられてはたまらぬ。それでは我々は生きていくことにくたびれてしまうだろう」(『わが源氏物語への道』)

中公文庫(800円+税)
2017年12月刊



2018年2月26日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

田中青志句集
『青』

 「花野出て繋ぎゐし手を離しけり」美しいひと時が終わり、愛する人の手を離さなければならないさびしい時が来たのだ。「十三夜花瓶の水で机濡れ」ささいな事を通して、十五夜に二夜少ない後の月、十三夜のさびしさが表現されている。「地を叩き水を叩きて野に遊ぶ」。楽しいはずの野遊びが、なぜかさびしく思われる佳句である。句集の世界は、どこまでも青く美しい。

本の画象

文學の森(2315円+税)
2017年12月刊
小川剛生著
『兼好法師』

 被支配者は、勅撰和歌集に入集しても読み人知らずになる。名前を顕したければ出家するに限る。だから兼好も法師になった。そして、それを果たした。歌の道に邁進するため、京=都市にあって、貴顕の秘書となり、金を稼ぎ教養を高め、貴顕(文化人)と交わった。と、これが兼好の実像だと本書は言う。隠者文学『徒然草』は、当然ながら文学的虚構であったのだ。

本の画象

中公新書(820円+税)
2017年11月刊

静 誠司の推す2冊

岸本葉子著
『俳句で
 夜遊び、はじめました』


 NHK俳句の司会者としても人気の筆者が、夜の句会に積極的に挑戦する様子が語られる。これまでは家庭の事情で、夜遅くや宿泊を伴う外出ができなかったそうだが、制約から解放されて、様々な句会に本当に意欲的に参加している姿に頭が下がる。夜の句会と言えば、宴会(?)とセットがつきものであり、その様子も楽しそう。

本の画象

朔出版(1600円+税)
2017年11月刊
石井遊佳著
『百年泥』

 今期の芥川賞・直木賞を受賞した3作品の中で、ニュースなどの情報から内容が全く予想できなかった本作品。ストーリーを語る自信がないのでやめておくが、チェンナイの百年に1度の洪水であふれかえった泥の中から次々かき出される記憶、イメージ。これは俳句の発想にも使えそうだと思う要素が多々感じられた。おもしろい。

本の画象

新潮社(1200円+税)
2018年1月刊



2018年2月19日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

今井 聖著
『言葉となればもう古し』
加藤楸邨論

 魅力的な題名だ。「思いと表現の差」をどう埋めるか。直接的な答えは書かれていない。「対象を見る→自分の角度で捉える→対象が自分になる。」が楸邨の句だと、繰り返し語られる。表現のあとに思いが来る。「たくあんの波利と音して梅ひらく」。波利と表現したので、波利と梅が開く。
 黴の中言葉となればもう古し 楸邨

本の画象

朔出版(2400円+税)
2017年10月刊
聞き手・栗木京子
高野公彦インタビュー
『ぼくの細道うたの道』

 「僕は大体、運のいい人生を歩んでいる男なんです。」と75歳の高野。高校通学時の将棋友達以来、常に仲間と共にいる。一方で好きな言葉を集めてメモする。「『さすらい人幻想曲』を聴きながらタカーノビッチ・キミヒコフとなる」とロシア名をつけるなどお洒落。歌壇のこぼれ話を交え短歌について語る。2月の光のように明るい談話。

本の画象

本阿弥書店社(3000円+税)
2017年10月刊

紀本直美の推す2冊

ジョイス・シドマン/文
ベス・クロムス/絵
さくまゆみこ/訳
『あさがくるまえに』

 表紙をみて、雪の絵本かなと思って手に取ったら、ちょっと違いました。物語の最後にある「ねがいと言葉の力」は子どもにも大人にも響いてきます。読み終わったあとに、深いため息をついてしまう、重厚な絵本です。

本の画象

岩波書店(1500円+税)
2017年12月刊
ホリー・ホビー/作
三原 泉/訳
『子ネコのスワン』

 最近、私のまわりでは、男女問わず、猫を飼い始めた人が多いです。みんなの感想は「猫はいいよ~」。私は子どものころから猫を飼ったことがないのですが、やはり特別な何かがあるのでしょうね。この絵本の子猫をみていると、私も飼いたくなってきました!

本の画象

BL出版(1500円+税)
2017年12月刊



2018年2月12日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す2冊

岡 清秀著
俳句とエッセー『僕である』

 岡清秀さんは、わたしのゼミで句会指導の修士論文を書いた岡清範くんのお父さ ん。タイトルは岡さんの秀句「初夏である富士山である僕である」にもとづく。 マンホール好きの岡さんの実家は、兵庫県北部・鉢伏高原の麓にあるそうだ。ユ ーモラスで実直な岡さんのエッセーは、どれもあたたかい。この父にしてあの息 子ありと拝読。

本の画象

創風社出版(1400円+税)
2018年1月刊
浅田次郎著
『神坐(かみいま)す山の物語』

 電車待ちのホームのコンビニで、タイトルに惹かれ偶然手にとった一冊。古事記 を深く読みたい気持ちが機縁である。末尾の「天井裏の春子」から読み出し、武 蔵御嶽山(みたけさん)の大広間を雷が通過する「神渡り」の描写に圧倒された。 寸分隙のない研ぎ澄まされた小説のことばにはじめて出会ったからである。圧巻 の一書なり。

本の画象

双葉文庫(640円・税込)
2017年12月刊


太田靖子の推す1冊


谷川俊太郎/尾崎真理子著

『詩人なんて呼ばれて』

本の画象

 谷川の人生と67年にわたる作品を、彼の仕事に対する解説、評価と谷川へのインタビューで構成。尾崎の文章力により引き込まれるように読める。3人の元妻や交流のあった大岡信など谷川をめぐる文学界を見渡せるのもいい。文芸誌の月評を書き、詩壇にも造詣の深い尾崎ならでは。谷川に「よく読んでくれているね」「僕は女性が近くにいないと完結しない」などと言わせる。詩人の詩を知り尽くしたファンであればこそ引き出せた谷川の姿がここに。「理想的な詩の初歩的な説明」の最終フレーズから取られた本書の題名は見事。本書のために書き下ろした「詩人なんて呼ばれて」の最終フレーズは「私はコトバの安産を願うだけ」。谷川をさらに読みたくなる。

新潮社(2100円+税)
2017年10月刊



2018年2月5日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

大阪俳句史研究会編
『月斗句集』

 月斗の名は、正岡子規の絡みで確かに目にしていたことは覚えている。だが、一個人として注目して取り上げた本は、どうやら殆どないらしい。作品を読んでいると、今では珍しい生活の様子もちらほら詠みこまれ、逆におもしろい。もちろん今でも通用するものもある。
 寒明や野山の色の自から
この本から新たな研究が進むかも?!

本の画象

ふらんす堂(1200円+税)
2017年11月刊
ぬまがさワタリ著
『なんかへんな生きもの』

 友人が勢い勇み貸してくれた本。身近な蚊から名前すら知らなかったメガマウスという魚まで色々と紹介されている。その不思議な生態について、現代の世相や話し言葉を取り入れた説明で、どんどんはまっていく。背景色もその生態を取り入れて配色されている。この本をとおして知った私のお気に入りは愛おしくも切ないカカポ。

本の画象

光文社(1000円+税)
2017年12月刊

松永みよこの推す2冊

監修・知里幸恵銀のしずく記念館
まんが・ひきの真二/ストーリー・三条和都
小学館版 学習まんが人物館
『知里幸恵とアイヌ』

 冬になると開く『アイヌ神謡集』。アイヌの民に伝えられた歌を、初めて文字にまとめたのは、知里幸恵という19歳の女性だった。早逝のはかなさが印象深いが、コミックでは活発だった女学生時代、婚約者の存在など、彼女が死の直前まで生き生きとしていた様子が描かれる。日本文学の幅を広げようとする編者の気迫を感じた。

本の画象

小学館(950円+税)
2017年11月刊
平井憲太郎・本多正一・落合教幸・浜田雄介・近藤ようこ著
『怪人 江戸川乱歩のコレクション』

 怪人二十面相も驚く乱歩の多面性。私の「乱歩体験」は、北大路欣也の明智小五郎、少年探偵団、そして『芋虫』の衝撃。さらに池袋の母校で、乱歩邸土蔵の整理を手伝った。この土蔵からはなおも新資料が発見されている。(当時のメンバー落合氏も執筆)心の中に、少女の夏、乱歩が開いてくれた、異端世界への扉を思いだした。

本の画象

新潮社 とんぼの本(1800円+税)
2017年12月刊



2018年1月29日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの推す1冊


上田信治句集

『リボン』

本の画象

 「うつくしさ上から下へ秋の雨」。この句から句集「リボン」は始まる。上から下へと降る水を人は雨と呼び、当然のこととして、特に目をやることもせず、傘を差したりする。しかし、もしそれを当たり前と思わずに見ることができたなら。縦方向にきらめく液体が線を描きつつ辺りに隈無く流れ落ちてゆく様を「発見」できるかもしれない。一瞬の「発見」に胸打たれたことを「うつくしさ」と書き留めるのは異色。深沢七郎さんのエッセイに(あれ、ボクは、作家にでもなるつもりじゃないか)と思うとおっかなくなってきた、という大好きな記述があるが、この句集も(ボクは俳人にでもなるつもりじゃないか)とおっかながっている感じが、いい。

邑書林(1800円+税)
2017年11月刊


赤石 忍の推す1冊


ねじめ正一著

『認知の母にキッスされ』

本の画象

 三年前に上梓された単行本を文庫化にするにあたって、「母の死」という最終章が書き下ろされた。
 前書の時は、「六月の認知の母にキッスされ」の句を基に、多分、著者が虚実を織り交ぜて創り上げた悲喜劇と紹介したが、最終章は2017年の糸瓜忌に介護を終えた、ねじめさんの奥底からの心情の吐露のようにも思える。作者は、関係や気遣いを遮断して言葉を暴力的に噴出するマグマの活動が、死が近づくにつれて収まっていく様子をこう記す。「言葉から解放された母は、穏やかに安らかに生きているのだ」。
 そして「私は、たとえゾンビになった母でもいいから会いたいと、郵便受けから真っ暗な店の中を覗き込む。暗闇を見入る目からは涙がこぼれた」と締めくくる。凄まじい認知症介護から解放された安堵感と、母という肉親を失うそれ以上の喪失感。最終章にはその二つの思いが渦巻いているが、作品としての必要性も含めて、この章をどのように受け止めるべきかは、読み比べた読者各々に委ねられている。

中公文庫(800円+税)
2017年12月刊



2018年1月22日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の推す2冊

石川桂郎著
『俳人風狂伝』

 無頼という言葉は、今の文学にはなじまない。それは自由であり無法であり反俗だ。この書の俳人達は無頼の徒であったに違いない。思う様自分に即して生きてゆく。畸人の称号は詩人の勲章だ。揺れに揺れる人生のなかで、皆不思議に客観で冷静、透徹した視線を保持している。
独房の雪は音楽となり降りいそぐ・岩田昌寿
読むは日ねもす北風が画く砂模様・相良万吉
「日ねもす」は原文のママ)。

本の画象

中公文庫(1000円+税)
2017年11月刊
チャールズ・チャップリン著/中里京子訳
『チャップリン自伝』
 ―栄光と波乱の日々―

 『若き日々』に続く名声を博した後の半生75歳までを語る。その記憶力は驚くばかり、登場する人名だけでゲップが出る程。喜劇王という冠は破天荒な人生を思わせるが、実に淡々としている。精神を病んだ母の死も情に溺れることなく叙述される。自伝の最後に「略〜みなもがきながら生きるしかないのだ。わたしは矛盾のなかで揺れ動く」。ひさしぶりに「キッド」でも見るか。

本の画象

新潮文庫(990円+税)
2018年1月刊

香川昭子の推す2冊

川上弘美著
『水声』

 姉と弟が惹かれ合い、パパとママは兄妹という家族を描いた長編。過去と現在が行き来する文章が、姉弟が身体を重ねる場面も自然に描く。終章には「わたしたちを知るすべての人に裁かれている、けれど、真に裁いてくれる者など、本当はどこにも存在しない。」作中の「頭の中で白い夏野になってゐる」の句とカバーの装画の駒井哲郎「樹」が、透明で不思議な世界に誘う。

本の画象

文春文庫(600円+税)
2017年7月刊
柴田元幸責任編集
「モンキーvol.13」
特集「食の一ダース 考える糧」

 食べる話特集だけれど、読んでも美味しそうなのは少ない。幻想的、猟奇的、例えば人肉食いなども。想像、妄想によって言葉で創られた世界、名前も知らなかった若い作家たちを知った。ほかに柴田元幸「日本翻訳史 明治篇」、ボブ・ディランノーベル賞受賞講演等々。知らない世界がいろいろ。この雑誌、用紙も厚くて、読みやすい。

本の画象

スイッチ・パブリッシング(1200円+税)
2017年10月刊



2018年1月15日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す1冊


内田樹・安田登著
『変調「日本の古典」講義』

本の画象

 はたして、「古典」は書かれた時のままに理解されているのだろうか。『論語』は、漢の時代に孔子を聖人として祀りあげ国家宗教とするため、意図的なミスリーディングが行われた、とするのが安田氏の主張である。安田氏によれば、『論語』の「不惑」は、自分に制限をつけない、という意味になる。孔子の放浪の本当の目的は何だったのだろうか?呼吸をコントロールできる人類と鳥類には歌があり、歌はやがて言葉に昇華していく。なるほど!「オヤジギャグとは常に抱いている音の世界への郷愁が時々抑えようもなく漏れてくるものである」(?)
 この本に出てくる様々な話は壮大なファンタジーの一場面のようである。二人の話はどんどん深みに入り、時々トリビアの世界に入っていくのだが、かならず、今日の日本、日本人の課題を考える手がかりとなっている。お互いをおもしろがる二人の対談が絶妙におもしろい。

祥伝社(1600円+税)
2017年12月刊


若林武史の推す2冊

高橋源一郎著
『ぼくたちはこの国を
 こんなふうに
 愛することに決めた』


 小学生「ランちゃん」とその仲間達が「くに」をつくる。その過程の中で「くに」とは何か、生きるとはどういうことかが語られる。「こんなふうに愛すること」は本文で具体的に語られない。本文全体からの香りのようなものとして感じ取られるものである。その点において、これは小説として読むべき一冊である。

本の画象

集英社新書(860円+税)
2017年12月刊
BRUTUS 2018年1/1・15号
「危険な読書」

 「危険な」とは、いわゆる道徳的な読書啓発ではないという意味。紹介される本の内容の偏りもさることながら、これらの本を紹介する側にもある種の偏向が感じられる。そんな頁の中に佐藤文香と山田航の句集と歌集の特集「ぞっとする俳句、短歌」の頁がある。俳句も紹介されていてよかったねという思いで読んだ。

本の画象

マガジンハウス(680円+税)
2017年12月刊



2018年1月8日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

山折哲雄著
『勿体なや祖師は
 紙衣の九十年』

 ―大谷句仏―

 書名は大谷句仏(1875~1943)の代表句。句仏は東本願寺管長だった。祖師は親鸞。碧梧桐の全国俳句旅行を支援、虚子を東本願寺に招いたりした。教団革新の中心にいた暁烏敏と虚子が知り合い、句仏につながったのだろうと筆者はいう。句仏は教団の財政再建に失敗、50歳で引退する。63歳での自選句集名は『我は我』。

本の画象

中央公論新社・中公叢書(1600円+税)
2017年9月刊
池内 紀著
『記憶の海辺』
 一つの同時代史

 27歳で留学したウィーンでは、奨学金の延長に支障がないことを確かめ、大学の授業に出ず、街歩きや女優の追っかけ。「目や耳や感覚を鍛えておこう」。一方で市立図書館に日参、昔の新聞・雑誌を閲覧、ノートをとる。自由。知的好奇心旺盛。生涯に捨てた恋二つ。人間観察が鋭い独文学者の回想録。筆者は40年生まれ。

本の画象

青土社(2400円+税)
2017年12月刊

宇都宮さとるの推す2冊

谷川俊太郎、横尾忠則、石牟礼道子、
筒井康隆著

武田将明、飯田橋文学会編
『現代作家アーカイブ2』
自身の創作活動を語る

 現代の個性あふれる4人の詩人・作家たちが自分の創作活動の機微を語ったインタビュー集。聞き手の第一線の文学者たちが作家の本音を引き出していていずれも興味深いが、20代から詩作を職業としてきた谷川俊太郎の一言一言が刺激的だ。「現代詩が意味に偏っていて……日本語の豊かな面白い音を無視している」「言語以前の存在に…近づきたい」「道端に生えている雑草みたいな詩が書きたい」などなど。考えてみたいフレーズである。

本の画象

東京大学出版会(2200円+税)
2017年12月刊
本橋信宏著
『新橋アンダーグラウンド』

 行間から新橋(特に烏森口界隈)の街が持つ独特の臭いがぷんぷんと漂ってくるこれぞルポルタージュという一冊。『ガード下の焼き鳥(豚モツ)屋』『SL広場』『花街、闇市跡』『風俗』などある種の魔境がしたたかに生き続けている様をこれでもかとリアルに抉り出している。評者も20代の10年程、人間社会の光と影が交錯するこの街の素敵な不穏にハマっていた一人だが、新橋の妖しげな魅力は今も色褪せていないようだ。

本の画象

駒草出版(1500円+税
2017年11月刊



2018年1月1日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

カーソン・エリス作/アーサー・ビナード訳
『なずず このっぺ?』

 「なずず このっぺ?」「ずんずううう」「じゃじゃこん!」昆虫たちの会話に引き込まれていきます! よく見ると「、」や「。」の文字のデザインが複数あり、それも意味があるのかも! 虫好きの人の方がよくこの会話がわかるのかしら?

本の画象

フレーベル館(1600円+税)
2017年11月刊
谷山彩子作
『文様えほん』

 「文様」と「紋様」と「模様」の違いを初めて知りました! 日本の文様や世界の文様がたくさん紹介されていて、ながめているだけで楽しくなります。これからは、今まで気がつかなかった文様が目に留まるようになりそう!

本の画象

あすなろ書房(1400円+税)
2018年1月刊

武馬久仁裕の推す2冊

安西 篤句集
『素秋』

 「春愁へこみやすきはビール缶」「原子炉の全き球形かぎろえり」「手のひらに円錐を置く秋思かな」という句を読みながら、「自然は円筒形、球形、円錐形からなっている」というセザンヌの言葉を思い出した。しかし、それら世界を形成する形態は、句集においては、みな危うい。全き球形などは、破滅の兆しを見せ、かげろうのようにゆらめているのだ。

本の画象

東京四季出版(2800円+税)
2017年11月刊
藤尾 州句集
『美濃白鳥』

 死の淵を何度も潜り抜けたという。しかし、死を免れても作者の俳句には光明はない。「地も天も昏し榠樝の点りゐて」。「かりん」という心地よい響きとは裏腹に、魁偉な相貌を持つ榠樝の実が暗く点るのみ。まさに「あぢさゐ昏しあの家もこの家も」として、世界はある他ないようだ。「秋刀魚焼く尾張しづかに苦山河」。故郷の山河も苦い。藤尾州に光あれ。

本の画象

木偶坊俳句耕作所(私家版)
2017年10月刊



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