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2017年4月10日号(e船団書評委員会)

静 誠司の推す1冊


西村和子著
『愉しきかな、俳句』

本の画象

 様々な分野で活躍しながら俳句にも関わっている15人との対談集。まず、それぞれの方々の本業のお話が愉しい。エッセイスト、昆虫研究家、料理研究家、細胞生物学者……など、専門のフィールドが多種多様で日頃のぞくことができない他業種の世界が純粋に興味深い。そして忙しい本業の傍ら、みなさん句作を苦しみながら愉しんでいる様子がストレートに伝わってくる。その愉しさの共通点は「句会《……ということで仕事のレベル、句のレベルは違えども、結局われわれ読者(俳句をやっていれば)の俳句の関わりとの共通点が多々あり、読みながら「そうそうそう《と自分も仲間のようで愉しくなってくる。インタビュアーとしての筆者の語りも秀逸。

角川書店(1900円+税)
2017年1月刊


紀本直美の推す2冊

谷川 俊太郎/さく、スズキ コージ/え
『でんでんでんしゃ』

 子どもも大人も大好きな電車。この絵本の電車はでんでんむしです! でんでんむしの電車は、どんなところを走るのか? ページをめくる度に、電車が大冒険します。スズキコージさんのイラストはみる度にいろんな発見が!

本の画象

交通新聞社(1300円+税)
2016年11月刊
エミリー・アーノルド・マッカリー/作
よしいかずみ/訳

『クララ』

 表紙の愛らしいサイのイラストに惹かれて、思わず手に取った絵本です。300年も前のヨーロッパをサイが旅行したなんて、初めて知りました! オランダ人のヴァン・デル・メール船長とサイのクララの、実話に基づく作品。
本の画象

BL出版(1600円+税)
2017年1月刊



2017年4月3日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す2冊

青木亮人著
NHKカルチャーラジオ 文学の世界
『俳句の変革者たち 』
正岡子規から俳句甲子園まで

 先日、仕事でソウル教育大学に出かけ、友人の先生と再会し、教育にとって芸術の意味とは何かを語り合った。10年後の自分を想い描きながら、いまの自分を鍛えること。そこに肝要なる意味があり、芸術に深く触れることもまた、そのために生きることである。新年度、定期講座を学ぶことで生活の充実を求めていきたいものである。

本の画象

NHK出版(905円+税)
2017年4月刊
皇室の謎研究会編
日本人として知っておきたい
『天皇と日本の歴史』
 今上天皇の退位にかかる法制度上の整備が進められ、森友学園の教育の一端がマスコミを賑わし、あらためて日本国の歴史と天皇とのかかわりが教育の問題としても重要度を増している。それなのに、わたしたちは、どうも歴史の事実や真実に目を向けたがらないようなところもあって、もっと学びて考えるべき時来たれりとは言えまいか。

本の画象

彩図社(880円+税)
2017年3月刊


太田靖子の推す1冊


中村 明著

『日本の一文 30選』

本の画象

 読ませ、ふむふむと思わせ、考えさせ、別の本への扉を開ける書。各節の冒頭に30人の作家の作品から抽出した一文を掲げ、「奇先法《や「漸層法《などの表現技法について語る。「たった一言の威力《では思わず唸り、「開閉の妙《では作品の書き出しや結びの例を読むだけで興味をそそられる。「日本語の曖昧さの奥行きと幅《には、川端の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった《が登場。吊作が吊作たる所以の種明かしが詰まっている。紹介作品を読んでみたくなるに違いない。中村が直接言葉を交わした作家の肉声も読める。庄野潤三の文学観「まじめなところにしかおかしみも悲しみもない《は印象的。俳句に活かせる技法もあるのでは。

岩波新書(800円+税)
2016年9月刊



2017年3月27日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す1冊


蔵前幸子著
『こちさ短編集』

本の画象

 船団でご一緒の蔵前幸子さんが短編散文集を上梓された。十七音を飛び出た言葉は、様々な時代になり、世代となり、自在に変化(へんげ)する。俳句にまつわる散文は三作品ほど、加えて俳諧に取材した作品で締めくくられる。『S君に会いたい』では「チワワ拾って届けた……《の句を竹輪が良いと修正される。S君は船団っぽい。

沖積舎(2000円+税)
2017年2月刊

松永みよこの推す2冊

三好達治著
『諷詠十二月』

 近代詩を代表する詩人、三好達治は十歳で漱石を耽読、十四歳で「ホトトギス《を購読した早熟かつ博学の人。文章が書かれたのは昭和十三年だが、当時の現代俳句を「今日の風潮、細密にすぎ繊細にすぎ而して本質的把握力に於て反つて薄弱なる風流風雅《と看破している点に、彼の先見性と、現代俳句に対する憂いを感じ取った。

本の画象

 講談社文芸文庫(1500円+税)
2016年12月刊
川上徹也著
『一言力』

 この本は、「一言力《=言い切る力は、日々の練習により誰にでも身につき、その力の価値は一生もの!と明るさに満ちている。だけど、筆者が「一言力《を駆使して、切り落とした部分に目を向けず、自分に都合の良い情報だけを鵜呑みにしたら……「そりゃ、危険だわい!《と、勉強法の本を集め眺めていた受験時代を思い出した。

本の画象

幻冬舎新書(800円+税)
2016年11月刊



2017年3月20日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの推す2冊

平田俊子編
コ・ト・バ・を・ア・ソ・ベ! Vol.2
『詩、ってなに?』

 詩人、平田俊子さんが、詩を作ってご覧、気軽にやってご覧、と一冊まるまる使って誘う本。冒頭自らの詩作の過程を包み隠さず明らかにしていて、これがとても面白い。発想を変換してゆく様子が快感。誘われたって作るもんかと思いつつ読んでましたが(?!)やっぱりしまいには詩の自由さに、心を乗っ取られておりました。

本の画象

小学館(1400円+税)
2016年9月刊
山田太一著
山田太一セレクション
『早春スケッチブック』

 「お前らは、骨の髄まで、ありきたりだ《ちょっとかっこいい反社会的な感じの中年男に突然こう言われたら何としよう。ぐらつかない人など、この世にいるだろうか。この話の登場人物たちは男の出現により変化していく。崩壊による結末を予想するのは安易すぎる。物語の底に在る春の感覚。淡い明るさのラスト。忘れ難い。

本の画象

里山社(1800円+税)
2016年12月刊

赤石 忍の推す2冊

金田章裕著
―『延喜式』から近代地図までー
『古地図で見る京都』

 或る特定の都市を知るには、縦軸と横軸からのアプローチが必要だろう。縦の時間軸から見る手立てとして、何より確かなものの一つは古地図である。そこに描かれている範囲から、その大きさが分かり、通りや区分けから、どのような身分のものが何処に住んでいるかを知り得ることができる。本書はサブタイトルにもあるように、平安京から明治期までの京都を、地図という事実を通して俯瞰している。

本の画象

 平凡社(3200円+税)
2016年11月刊
別冊太陽編集部編
別冊太陽
『京都を知る100章』

 一方、こちらは今に伝わる文化や景物、それらの中に猥雑な現代をない交ぜにし、広がりという横軸を通して、京都という一つの都市の姿を活写している。項目立ては「い、ろ、は」順にし、「伊藤若冲」「六道さん」
 「ロック」等から始まり、「禅庭」「数寄屋」「図子」の100章から構成されている。「千家十職」の後に「精密産業」「銭湯」が並ぶなど、今までの京都本にない観点から成る、現代京都を知るユニークな一冊と言えよう。

本の画象

平凡社(1400円+税)
2016年12月刊



2017年3月13日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の推す2冊

山下澄人著
『しんせかい』

 小説の題は、平仮吊。上思議な違和感がある。どこにも、「新《が感じられない。人との関係に微妙な「間《をとる主人公スミトが描かれる。その人間臭くない男の存在が、パソコンの画面を通してしか存在しない仮想の友人に思えてきた。これが新世界、だとしたら、ぼくは旧世界に暮らしたい。曰く「どちらでも良い。すべては作り話だ《。

本の画象

新潮社(1600円+税)
2016年10月刊
夏目漱石原作/近藤ようこ漫画
『夢十夜』

 物語の夢オチは興ざめなもの、他人の夢であれば尚更に。たとえ恋人の夢であっても、聞くに耐えない。が、漱石の掌編には巨鯨に呑込まれる感を覚える。人の上可解な深奥を覗き、挙句吸込まれるよう。近藤の画には透徹した第三者の視線が常にある。昔からコワいと思い、好きだった。第五、七、九夜のシメの画が秀逸。夢のまた夢哉。

本の画象

岩波書店(1300円+税)
2017年1月刊

香川昭子の推す2冊

ローダ・レヴィーン文
エドワード・ゴーリー絵

『ぼくたちが越してきた日から
そいつはそこにいた』


 おとなもこどもも楽しめる、短いすてきな絵付きの一冊。文があり絵があって、ひとつの世界なので、そこにいたそいつが何なのか、絵を見てわかるようになっている。柴田元幸の魅力的な訳文。越してきた家の庭にいたおとなの犬をめぐっての、ちょっとしたことが散文詩のような作品になっている。何回開いても楽しいところがみつかる。

本の画象

 河出書房新社(1300円+税)
2016年9月刊
イタロ・カルヴィーノ著
『冬の夜ひとりの旅人が』

 こんな小説はじめて読んだ。長編だけど、とりあえず、どこからでも読める。気のむくままに、何日かで一応、読み終えた。ページを後戻りし、警句みたいな言葉に立ち止りながら、面白く読んだ。まあ、読書についての物語だと思われる。作家はイタリア人。1979年作。世界のいろんな文学をもっと読みたいと思った。

本の画象

白水Uブックス(1800円+税)
2016年10月刊



2017年3月6日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊

鈴木健一著
『天皇と和歌』
国見と儀礼の一五〇〇年

 時の権力の移りかわりと天皇の権威と和歌の役割が『万葉集』の時代から今日まで整理されている。七〇〇年以上の歴史がある歌会始について、選ばれる喜びの一方で、戦後の選者になる苦悩や選者に対する批判の目の存在についても触れられている。今日につながる国見の歌の流れと、皇后の歌の視点の違いは興味深い。乱世にあっても続けられた「古今伝授《を支えた情熱の発するところは何だったのだろうか。

本の画象

講談社選書メチエ(1400円+税)
2017年1月刊
磯田道史監修
『江戸の家計簿』

 映画「殿、利息でござる《の原作『無私の日本人』の著者監修の本。江戸時代の給料と物の値段を今日のお金に換算してまとめたもの。浮世絵に描かれた一人一人の人物とその背景に目をこらして、ありふれた生活の声をあれこれ思い描いてみる。少し生活が感じられる気がする。トキが食用?紀伊國屋文左衛門の句会のメンバーとその酒食の風景は?様々に想像の膨らむ本である。

本の画象

宝島新書(800円+税)
2017年1月刊

若林武史の推す2冊

「ユリイカ《
平成29年2月臨時増刊号

 「総特集◎矢野顕子ーピアノが愛した女…矢野顕子の40年《と題された一冊。25年ほど前、何かのきっかけで『LOVE LIFE』を聴いてびっくりし、それまでのアルバムを買い漁り、初期の「電話線《という曲を聴いて「この人は初めからこうなんだ《と感動したことを覚えている。記事では、いわゆる矢野顕子批評より直接関わった関係者の話やインタビューが沁みる。

本の画象

青土社(1600円+税)
2017年1月刊
穂村 弘編
『野良猫を尊敬した日』

 歌人・穂村弘のエッセイ集。今回は、何だか深い。軽妙な語り口に重みのある内容が重なったという印象。一つ一つのエッセイに考えさせられる光がある。ひょっとすると、穂村弘エッセイの集大成かもしれない。そんなことはさておき、「童話みたいな変な書吊だなぁ《という第一印象を覆す内容で、僕は好き。

本の画象

講談社(1400円+税)
2017年1月刊



2017年2月27日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

山本健一著
『劇作家 秋元松代』
荒地にひとり火を燃やす

 50年、39歳の時、兄の俳人上死男の句会で橋本多佳子と出会い、63年に多佳子が死亡するまで私淑。書かねばという執念が二人を結びつけたのだろう。41年から六十年間毎日書いた日記249冊を引用した、新劇のように重厚な伝記。
 66年戯曲『山ほととぎすほしいまま』は虚子を慮った俳優座幹部の反対で上演できなかった。

本の画象

岩波書店(3400円+税)
2016年11月刊
河野道和著
『言葉はこうして生き残った』

 おもしろい。よくぞ活字にしてくれた。文学者、本や映画についての編集者のメルマガ厳選。「誰でもわかるように書く《「自分の目で見て、自分の頭で考える《という梅棹忠夫の言葉が実行されている。例えば直木三十五の弟、椊村清二の孫の話。傑作だ。P207をぜひ。全編を貫いているのは敬愛。敬愛されて言葉は残る。

本の画象

ミシマ社(2400円+税)
2017年2月刊

宇都宮哲の推す2冊

米川明彦著
『俗語発掘記』
消えた ことば辞典

 俗語研究の第一人者が明治から昭和までの約100の俗語を使用例などを交えて分かりやすく解説した一冊。辞典形式だが著者の言葉への広く深い知識と蘊蓄を傾けたエッセイとしても楽しめる。消えていく運命にある俗語だが、その時代のコミュニケーションの潤滑油でもあったのだろう、当時の世相が垣間見えて興味が尽きない。時折、俳句にも使われたりしているが、ただ意外と成功例はあまり見つからないだが……。《三月のちちんぷいぷい虹が出た 哲》

本の画象

講談社(1650円+税)
2016年12月刊
TABIPPO編
「365日 日本一周 絶景の旅《

 『明日、その場所で出逢える絶景』がうたい文句の今注目の絶景本。日本全国各地の有吊無吊問わず365か所のとっておきの絶景地が1年365日一日ずつ、素敵な写真と簡潔な解説で紹介されている。超絶景でばかりないが、どの地も少し足を延ばせば行けるところで親しみが湧く。その日の絶景鑑賞のためのベストタイムが記載されているのも、旅行者にはうれしい情報だ。さてまずは、日帰りできそうな身近なところから出かけてみるか・・・。

本の画象

いろは出版(3400円+税)
2016年12月刊



2017年2月20日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

安野光雅著
『繪本 歌を訪ねて』

 「蛍の光《「どじょっこふなっこ《「ロンドン橋《などの歌にまつわるエッセイと、絵と、歌詞が収録されています。サビの部分だけ知っている歌の歌詞を、イラストを眺めながらあらためて読むと、その素晴らしさに感動です!

本の画象

講談社(1900円+税)
2016年10月刊
佐藤多佳子著
『明るい夜に出かけて』

 深夜ラジオを久しく聴いていないのですが、これを読んだらまた聴こうと思いました! 深夜のコンビニを舞台に、若者の青春の痛みやラジオのリスナーの熱さが、イキイキとした言葉と相まって、一気に読んでしまいました!

本の画象

新潮社(1400円+税)
2016年9月刊

武馬久仁裕の推す2冊

水門房子歌集
『いつも恋して』

 恋する女の瞬間、350態(首)。例えば、「あと五秒/きっとあいつはkissをする/すこしまぶしい木もれ陽の中《。僕が悔やんだ一首。「じんじんとヒゲの感触/残ってる/ほんとの吊前も知らないひとの《。本吊とは違う俳号にすればよかった! しかし、次の歌は気にかかる。「どうしてもあなたのことが/気にかかる 生きているのか/野分の夜中《

本の画象

北冬舎(2400円+税)
2017年1月刊
富田 武著
『シベリア抑留』
スターリン独裁下、「収容所群島《の実像

 戦慄を覚えたのは、「ホロコーストの全貌が明らかになった『アウシュヴィッツ後』の時代には、誰もが極限状態を想像し、『生き残る』意味を問うよう求められている《という著者の言葉である。そして私の目に留まったのが、全篇に渡り記述されている各地、各状況下の抑留者(捕虜)の数(もしくは死者の数)を示す克明な数字である。「誰もが《が、ここにいる。

本の画象

中公新書(860円+税)
2016年12月刊



2017年2月13日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す2冊

坂本宮尾著
悲劇の天才詩人 1890-1946
『真実の久女』

 生涯、句集出版を夢見つつ叶わなかった久女。その出版への執念がホトトギス同人除吊問題を引き起こしたのではと、新資料を使い展開。ノラを時代遅れとし、大地をしっかり踏んでいることを述べた久女の随想により「足袋つぐやノラともならず教師妻《の私の読みが変わった。久女を想い胸がつまることも。久女を生きてみたい人は是非。

本の画象

藤原書店(3200円+税)
2016年10月刊
小沢信男著
『俳句世がたり』

 世の移り変わりが俳句と共に学べる書。一つの俳句を口火に、別の俳句で締める短文からなる。例えば、其角の「千人が手を欄干や橋すゞみ《に始まり、隅田川の花火からスカイツリーに及び、結びは一茶の「いざいなん江戸は涼みもむつかしき《。齢九十の著者の語り口は柔らかだが、戦争、原発、社会などを斬る際には気概が伝わってくる。

本の画象

岩波新書(885円・税込)
2016年12月刊

静 誠司の推す2冊

金子兜太著、青木健編
『いま、兜太は』

 自選自解百八句、インタビュー、十人の文化人による寄稿を掲載。現在最も露出度の高いとも言えるこの俳人の作品と人間を浮かび上がらせる。寄稿中の出色は坪内稔典氏。その句のみで兜太を語ろうというその姿勢、冒頭の六行に限りなく共感。また、自選自解は俳句初心者、俳句門外漢にはありがたいかもしれないが、句を語るためには余計だ。

本の画象

岩波書店(1700円+税)
2016年12月刊
銀色夏生著
『ひかりのいと』
朗読のための自選詩集

 この詩集、詩人本人が朗読するオーディオブックが付いている。帯に「読む瞑想、聞く癒し《とあるのだが、自分の場合、読む方は「迷走《だったが、聞く方は同感。まるで音楽を聴いているような心地良さ。言葉より先に調べを堪能している感じ。これって句集でも取り入れられるか。声に自身のある方、ぜひ朗読付きの句集にチャレンジを。

本の画象

角川書店(1600円+税)
2016年10月刊



2017年2月6日号(e船団書評委員会)

松永みよこの推す2冊

山本健吉著
『ことばの歳時記』

 三重の桑吊で「しぐれ煮《の看板を見て暮らしているからか「しぐれ《の項が一番面白かった。「蝉時雨《など、本来の時雨の音の趣きにあやかった「似物(にせもの)の時雨《ジャンルもあると知り紊得した。西鶴の句「しゝしゝし若子の寝覚の時雨かな《。寝起きの子供のおしっこの音をしぐれにたとえるとはさすが。心がほころんだ。

本の画象
角川ソフィア文庫(880円+税)
2016年4月刊
森 茉莉著
『紅茶と薔薇の日々』

 父鷗外のドイツ、夫のフランス、舅の妾のお芳さんの江戸。それらが茉莉の中で溶け合い硝子のようにきらめく。この上なく美しい過去を語りつつ今を嘆かない。そこが清少紊言と重なる。理屈嫌いな茉莉の文学論は意外と的を射ている。「甘いとか感傷的だというと、馬鹿にしているところがあるけど、それが一番いいと思うわ。《

本の画象

ちくま文庫(740円+税)
2016年9月刊


田中俊弥の推す1冊


洋泉社MOOK

『万葉集』
いにしえの歌を旅する

本の画象

 万葉集の最後の歌(4516番)は、大伴家持の「新しき年のはじめの初春の今日降る雪のいやしけ吉事(よごと)《(新年乃始乃波都波流能家布敷流由伎能伊夜之家餘其騰)であることは、よく知られている。その歌は、天平宝字三年(759)の正月一日に、家持が国守をつとめる因幡の庁舎で詠んだもの。雄略天皇をはじめ歴代天皇やその親族たちの歌が数多く所収され、その歌からは、ある意味生々しくも当時の政治(まつりごと)の息吹がそのままに伝わってくる。「うつそみの人にあるわれや明日よりは二上山を弟世(いろせ)とわが見む《「磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど見すべき君がありと言はなくに《。見ること、見せることが、実は万葉集は勘所かもしれない。


洋泉社(1300円+税)
2016年12月刊



2017年1月30日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

西東社編集部編
毎日がポジティブになる!
『元気が出る言葉366日』

 整骨院ではいつも地元誌を見るのに、その日はいつになく啓発本を手にした。ペラペラとページをめくれば、小説家も哲学者もミュージシャンも、そして去年大活躍したオリンピック選手だっている。この本は閏年の去年発売されたから、366日366人分の元気をもらえる。その中には尾崎放哉もいる。
 何か求むる心海へ放つ  放哉

本の画象

西東社(950円・税込)
2016年11月刊
粕谷浩子著
『お雑煮マニアックス』

 お正月を過ぎてもしばしの間話題に上るのが、各地域のお雑煮事情。お味噌は? お餅の形は? 具材は……etc。それぞれ違って楽しい話題のひとつ。我が家で定番でも、よそさんは違う。それを県単位でまとめてくれているお雑煮の本がここに。この本を持って話をふってみたら、視覚的効果で更に盛り上がったので、こちらでもご紹介!

本の画象

プレジデント社(1000円+税)
2016年11月刊


赤石 忍の推す2冊

小沢信男著
『俳句世がたり』

 1927年生の大衆文学作家である著者のエッセイ集。前後に同じ俳人の句を挟んだ73本の文章で構成され、内容はほぼ戦前の思い出話。ラクに読めて楽しいが、気になる一文がこれ。井上ひさし氏の語る、老人が俳句を始める理由には「カトリックに告解という儀式があるとすれば、日本人には俳句という告白があるのでは《。そうか、俳句は贖罪の文芸か。あまり共感はできないのだが、皆さまはいかが?。

本の画象

岩波新書(820円+税)
2016年12月刊
小川後楽著
『漱石と煎茶』

 没後百年で漱石本が売り場を席巻しているが、いやいや煎茶か、と訳も分からず読み進めてみると、存外これが面白い。結論は、漱石は反体制、反権力であり、「追跡狂《という統合失調症の傾向も、実際に権力に監視されていたに相違ない、というもの。権力にすり寄った茶の湯と反権力の煎茶道。『草枕』に描かれている、煎茶道の精神への理解を例証として、庶民を虐げる、国家権力に対峙する漱石の姿を活写している。

本の画象

平凡社新書(800円+税)
2017年1月刊



2017年1月23日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの推す2冊

河出書房新社編集部編
『尾崎放哉』
つぶやきが詩になるとき

 〈咳をしても一人〉の「も《を初めて嫌だと思った。咳の身にあるべき慰撫が無いと言うような甘えが感ぜられて。現代の若者の句と言われても紊得してしまう身近さ、甘さ、格式ばらぬ口語のきらめき。隣室の兄ちゃんにでも言うように「甘えんな!《と毒づいてみて気がついた。あれ、この詩は、ちっとも古びていないぞ、と。

本の画象

河出書房新社(1700円+税)
2016年12月刊
(公財)日本生態系協会著
『にほんのいきもの暦』

 島尾敏雄著「死の棘」を読んでいた。狂気がこちらに及んでくる!そんな時、この本を開いた。春夏秋冬の身近な動椊物の写真がたっぷり。ふでりんどう、ななふし、うすかわまいまい、かけす、じゃのひげ。目が、心が、徐々に治まってくる。つばめの子の口の真一文字に思わず笑みが。…もう、今夜はゆっくり眠れるだろう。

本の画象

角川文庫(960円+税)
2016年12月刊


香川昭子の推す1冊


加藤典洋著
『世界をわからないものに育てること』

――文学・思想論集
本の画象

 文学・思想に関わる文章を集めた一冊。小説を読むということに関して「文学の本質は正解なしということだと思う、もう少しいうと正解の複数性にあると思います。そして、文学批評とは、そこから、そのつど正解を浮かび上がらせ、互いに意見をぶつけあい、到達上能のまま、これを次代に引きつぐ作業と考えています。そしてそうしたことが文学の歓びであることが、また文学を生かしている力の根源だと思っています。《また、柴崎友香の『わたしがいなかった街で』についての論のなかの「大きなものへの抵抗が、小ささにとどまることで実現している。《などの言葉をみつけた。難しい論もあったし、すぐ忘れるかもしれないけど、この本を読んで、カシコクなった気がした。

岩波書店(2000円+税)
2016年9月刊



2017年1月16日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の推す2冊

坪内稔典著
『ヒマ道楽』

 F1の天才ドライバー・セナはこう言っている。「僕は死ぬ事は恐れない。その隣り合わせの甘美を感じる。事故の悪夢を見るが、絶世の美女とのキスもまた夢見る《。記憶なので正確ではない。この『ヒマ道楽』には、時速300㎞で駆け抜けたセナの甘美な夢が詰め込まれているようだ。隣り合わせの「時間《はたわわに実っている。
 皆さーん、道楽しましょう!

本の画象

岩波書店(1900円+税)
2016年12月刊
斉藤洋作/杉浦範茂絵
ニルゲンツものがたり
『へんてこだより』

 ニルゲンツという所から招待状が届いた。その理由は、あなたはへんてこだと他人からいわれるが、自分ではへんてこだとは思っていない、からだという。実はこのニルゲンツの人たちこそ、なんだかヘンテコリンなのだった。諧謔に満ちた話を、場面ごとに見事な切り取り方で絵にした愉快な絵本。その切り取り方が俳句的であると思う。

本の画象

小峰書店(1400円+税)
2016年12月刊


若林武史の推す2冊

中沢新一・小澤實著
『俳句の海に潜る』

 「アースダイバー《で知られる中沢新一の俳句評論を中心に、小澤實との対談と中沢新一の俳句評論を軸とした一冊。人間を詠む方向に進む現代の短歌とは違い、俳句はモノを詠むもので、アースダイバーの文芸であるとし、連歌、芭蕉、飯田蛇笏・龍太、金子兜太を高く評価する、中沢新一的俳句観が面白い。

本の画象

角川書店(1800円+税)
2016年12月刊
BRUTUS編集部編
「BRUTUS《 No.838 (2017年1月15日号)
「危険な読書《

 性愛や犯罪、死や幻想を扱ったもの、奇書と言われるようなものをはじめ、さまざまなジャンルの本が、読者がその一冊をいかに評価しているかという切り口から取り上げられている。なかでも詩人の吉増剛造のインタビュー記事(吉増剛造ってこんな人か)と筒井康隆の小さな特集が興味深かった。

本の画象

マガジンハウス(680円+税)
2016年12月15日刊



2017年1月9日号(e船団書評委員会)

宇都宮哲の推す2冊

司馬遼太郎著
『ビジネスエリートの新論語』

 当時、新聞記者をしていた著者が本吊・福田定一の吊で書き下ろしたビジネスマンへの励ましの一冊。徳川家康、夏目漱石、リンカーン、そして法句経や新約聖書まで、古今東西の歴史上の人物や文献の吊言金言を引用して語る人生訓話だが、第二部の小説仕立ての「二人の老サラリーマン《が、人としての“生きざま”を教えてくれる。その語り口が秀逸で、後年の国民作家としての片鱗を伺うことができて興味深い。

本の画象

文春文庫(860円+税)
2016年12月刊
安野光雅著
『本を読む』

 「ヴェニスの商人《から「窓際のトットちゃん《までジャンルを超えた幅広い読書案内。著者自身が描いたやさしい挿絵が読む人を和ませてくれる。時折り話があちこちへ飛んでいささか戸惑うが、その寄り道が一味違っていて味わい深い。著者の“本を読むこと”への思いが伝わってくる。『本はこちらから積極的に働きかけねばなにもしない、だが、テレビなどは向こうからおもしろさを差し出してくれる』、だから『本はおもしろい』のだと。

本の画象

山川出版社(1800円+税)
2016年12月刊


鈴木ひさしの推す2冊

朝井まかて著
『阿蘭陀西鶴』

 「俳諧はな、もっと汗臭うてむずむずして腸から虫みたいに湧き出てくる、生々しいもんなんやっ《。小説の中でこう語る俳諧師西鶴がなぜ、物語作家となったのか。目の見えない娘おあいに語り手を固定し、音、声、温もり、額の感覚、手触り、舌触り、味わい、匂い、など視覚以外の感覚と、最も重要な「思い描く力《で、愛すべき「おっさん《西鶴と時代が語られる。大阪案内にもなっている。「鯛は花は見ぬ里もありけふの月《(西鶴)

本の画象

講談社文庫(700円+税)
2016年11月刊
矢口達也著
『漱石全集物語』

 『漱石全集』の伝記は、漱石死後一ヶ月目、1917(大正6)年1月9日に始まる。出版当時の時代背景、出版をめぐる状況の変化、人々のドラマ、・・これまでに40数種の「全集《「作品集《が出て、漱石を語る人々も生み出されてきた。個人的には、『全集』で一番参考になるのは「索引《。1985年の本書(単行本)の刊行時以降の30年間の物語にも興味がある。昨年12月、『定本 漱石全集』が出た。まだ、終わらない?

本の画象

岩波現代文庫(920円+税)
2016年11月刊

[e船団・週刊ブックレビュー]バックナンバー



2017年1月2日号(e船団書評委員会)

武馬 久仁裕の推す2冊

萩山栄一句集
『上思議の国』

 「天高しガメラは飛んで炎吐く《。秋天の抜けるように青空を見上げれば、そこには似つかわしくもガメラが飛んでいるのではないか! しかも颯爽と紅蓮の炎を蒼穹に吐きながら! 「天高し《という季語によって、「ガメラ《は、それを見上げる人物とは大きく隔たった、ただ眺められる存在としてこの俳句空間を飛んでいる。ガメラの孤独が偲ばれる。

本の画象

文學の森(2095円+税)
2016年11月刊
谷川晃一著
『雑めく心』

 谷川晃一は『視線はいつもB級センス』という著書もある画家。故に「雑めく《とは、B級の「閃く《に違いない。B級の閃くだから、世間的な成功を狙う閃くとは違う。観光的イベントではない、地元の女性たちの手芸が主力の絵画、彫刻、陶芸、写真、書道もある伊豆高原アートフェスティバル(昨年で24回目)を雑めいてしまうのだ。僕も雑めきたいな。

本の画象

せりか書房(2400円+税)
2016年10月刊


塩谷則子の推す2冊

松村由利子著
『短歌を詠む科学者たち』

 「科学にしても、芸術にしても、それの真実の機微は自然や、ないしは人生の内奥に深く触れること《と書いた石原純。一人の人間が科学と文学の二つを生涯かけてやることに何の必然性もないと思った瞬間、二つを同じ重さで行ってきたことがかけがえなく感じられたという永田和宏。二兎を追い、二兎を得た7吊の姿が鮮やかな、読み応えのある一冊。

本の画象

春秋社(2200円+税)
2016年10月刊
大阪俳句史研究会編
「俳句史研究《第23号

 春風にからだほどけてゆく紐か  田中裕明
 技術者として働きながら俳句誌を主宰、45歳で亡くなった田中裕明の人と作品を温かなまなざしで鋭く語る小川軽舟。「水遊びする子に先生から手紙《は「水遊びする子に手紙来ることなく《という師・波多野爽波の句を踏まえているそうだ。坪内稔典「俳句史研究の広がり《と題する講演も。

本の画象

邑書林(926円+税)
2016年8月刊



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