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2018年12月10日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

井伏鱒二著
『七つの街道』

 井伏氏のまったりとした文に嵌ると病み付きになる。本書は七つの街道を歩む、まったりとした旅紀行を纏めたもの。特に「天城山麓を巡る道」や「奥の細道の杖の跡」は私も辿った経験があり、なおさらに親近感を覚えた。尤も井伏氏が巡ったのは60年も前であり、風景も人々も今とはさぞかし違った様相だったことは類推できる。青森・岩手の久慈街道案内人を若き三浦哲郎が買って出ているのも面白い。

本の画象

中公文庫(900円+税)
2018年10月刊
松浦武四郎原著/更科源蔵・吉川豊訳
『アイヌ人物誌』(新版)

 生誕200年を迎え、来春にはアイドルが演じてNHKでドラマ化もされ、武四郎のブームが来そうだ。彼は篆刻を旅の生業とし、私の故郷の寺には一晩のうちに頼三樹三郎が百詩を詠み、それを武四郎が彫り上げたという百印百詩が残っている。本書は『近世蝦夷人物誌』の現代語訳版。初めて彼に触れたのは花崎皋平の『静かな大地』でだが、読み返すたびに、和人たちのアイヌ民族に加えた愚かな行為には憤りを覚える。

本の画象

青土社(1800円+税)
2018年9月刊

舩井春奈の推す2冊

横山明日希著
『愛×数学×短歌』

 私は数学から距離を取りたい高校生だった。スタイリッシュすぎてどうにも好きになれない。皆は苦手でも文学的に解ける問題なら得意だった。この書は、そんなかつての私のような生徒に見せたい書。確率やら何やら、短歌や漫画でおもしろおかしく見せてくれる。少し数学に近づけるかも。

本の画象

河出書房新社(1300円+税)
2018年8月刊
川島蓉子著
『すいません、
 ほぼ日の経営。』


 徳島の女性社長から教えてもらった本。私自身は経営に興味があるわけではなく、むしろひいてしまう側。それでも買ってみたのは、愛用するほぼ日手帳の経営についてだから。経営というより一つの仕事場の方法という中身で、敬遠していた分野に少し足を踏み入れてみることができた。

本の画象

日経BP社(1400円+税)
2018年10月刊



2018年12月3日号(e船団書評委員会)

香川昭子の推す1冊


高橋源一郎著

『今夜はひとりぼっちかい?』
 日本文学盛衰史 戦後文学篇

本の画象

 「真面目な人間(読者)を困らせるもの、そんなものと付き合っていることが知られると恥ずかしいもの、消費も消化も理解もできないもの、見て見ぬふりをしておきたいもの。いままでも、いまも、これからも。」 内田裕也の東京都知事選の政見放送から考えた文学というものの一番わかりやすいあり方をこんな風に書く。ラップ、政治家の文章、ツイッター、石坂洋次郎などからの、文学の見方もおもしろい。最終章、「小説にはメッセージなんかない。モデルもいない。現実とは何の関係もない。〈略〉なにをやっているのかやっている当人もわかりません。楽しいからなんとなくやっているという点では、強いていうなら子どもの泥遊び? あれがいちばん近いかも」。この一冊、評論集じゃなく小説なのです。

講談社(2000円+税)
2018年8月刊


原 ゆきの推す1冊


橋本多佳子著

『橋本多佳子全句集』

本の画象

 「第3句集「紅絲」に「冬の旅 九州路」とタイトルの付いた12句がある。「真青な河渡り終へ又枯野」は色彩感覚鮮やか。12句の最後に「星空へ店より林檎あふれをり」の1句。大好きな句だが旅の吟行句とは意外であった。日常を離れた身体へ光景が詩を含んで立ち上がってきたものか。吟行句へのこの集中ぶりは多佳子ならではのものという気も。作句において多佳子は口癖のように「煮つめる」という表現を用いたらしいが、他がいたずらに真似ても、それこそ煮つめの足らぬ退屈な吟行句の量産を繰り返してしまうだろう。自らの吟行句を振り返り、詩を生むことへの意識、着想を煮つめているか…と考えてみる。そのうち、ヒヤリとしてしまった。

角川ソフィア文庫(1440円+税)
2018年8月刊



2018年11月26日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

最果タヒ詩集
『天国と、とてつもない暇』

 最果タヒの新しい詩集。どうしたら、こういう言葉でこういう世界が描けるのか、本当に感心してしまう。少なくとも、おじさんにはできないな、いや、ひょっとすると、田村隆一っぽくならできるかな、等と思う。詩は大事だなっていつも思う。

本の画象

小学館(1200円+税)
2018年10月刊
椹木野衣著
『感性は感動しない』
 美術の見方、批評の作法

 タイトルがカッコイイから買いました。美術批評のエッセイなどをまとめた一冊。冒頭のエッセイの一節に「感性など、みがこうとしないことだ。…感性とは『あなたがあなたであること』以外に根拠を置きようのないなにものかだ。」とあった。そうだよなぁと思いつつ、僕が僕であることに畏れるより他になかったのも事実だった。

本の画象

世界思想社(1700円+税)
2018年7月刊

今泉凡蔵の推す2冊

鴨長明著/蜂飼耳訳
『方丈記』

 新訳は、古典に新しい命の火を灯す。なんと読み易いことか。また、エッセイが秀逸。鴨長明のことを、「はまりきらない人、はみだす人」と断じている。師から伝授を受けていない秘曲「啄木」を弾く、という禁じられた行為に及ぶ鴨長明は、瞬間をその場へ留めようとするエネルギーの発露に従った、つまり「創造の瞬間と向き合う人」であった、と。蜂飼耳の訳に出会えてよかった。

本の画象

光文社古典新訳文庫(640円+税)
2018年9月刊
かこさとし作/鈴木まもる絵
『みずとはなんじゃ?』

 残念なことに、この科学絵本がかこさとしさんの最後の絵本となってしまった。絵は鈴木まもるさんが描いている。闘病しつつ、子どもたちへのメッセージを二人の共同作業で成し遂げたのだ。永年、子どもと向き合った多くの楽しい物語絵本や、科学者の目線で捉えた自然科学絵本を書き続けた作家が、若き日、中村草田男と出会っていたことには、不思議な感慨を禁じ得ない。合掌。

本の画象

小峰書店(1500円+税)
2018年11月刊



2018年11月19日号(e船団書評委員会)

宇都宮さとるの推す1冊


中村 昇著

『落語―哲学』

本の画象

 古典落語の名作「芝浜」や「粗忽長屋」など、熊さん、八っさんが繰り広げるバカ話を哲学的に分析・解読とするというまさにバカげた?落語的一冊。哲学と落語がいっぺんに楽しめて、笑いや滑稽の根源には、何故かしら哲学的背景があるのがよくわかる。“哲学の動機は「悲哀」だといったのは、西田幾多郎だ”が、落語も「悲哀」そのものといっていい。落語はそれをおかしみに変換してしまう。ところで、本書でとりわけ登場するのが20世紀の天才哲学者・ウィトゲンシュタイン。彼の哲学理論〈言語ゲーム〉なんぞで、落語ならぬ俳句を分析してみるのも面白そう。意外と俳句の構造が浮かび上がってくるかも。

亜紀書房(1800円+税)
2018年4月刊


鈴木ひさしの推す1冊


福岡伸一著

『新版 動的平衡2』
生命は自由になれるのか

本の画象

 生物学をバックボーンにした芸術論、哲学の本として読める。動的平衡、つまり、絶え間なく動きバランスを保つ、これは人間が生きていくことそのものである。この本の中の様々な絵、オブジェについての文章を読んでいると、著者の言うように「私たちは見たいものを見ている」、それぞれ違う世界を見ているのだ、と思う。
 フェルメールの作品「二人の紳士と女」についての見方は面白い。生物学者アントニ・ファン・レーウェンフックとフェルメールとの時間の共有から来る可能性は、きっとそうに違いないと思わせる。「一貫して時代の批判者であった」と著者の言うアンリ・ファーブルは魅力的な存在である。『ファーブル昆虫記』を日本で初めて翻訳したのは、1923年、憲兵隊に惨殺された無政府主義者大杉栄だった、ということを本書で知った。
「遺伝子は音楽における楽譜と同じで、ある情報で私たちを規定するのと同時に、「自由であれ」とも言っている。そう考えた方が豊かに生きられる」。そんな著者の言葉に、読者は少しやわらかく、軽やかになれる。

小学館新書(820円+税)
2018年10月刊



2018年11月12日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

伊藤政美句集
『四郷村抄』

 伊藤政美は、自己の原光景を重ね描くことによって、四郷村(よごうむら)という一つの世界を作り上げた。四郷村は暮色に染まる鐘の音によって美しく飾られる。「まつさきに寺の鐘暮れ冬の村」村はまた、いつまでも昨日のままの世界であった。「燕去りし空いつまでも青かりし」そして、昨日のままの世界は、なんとも不思議な幸福感が漂う世界であった。
 冬日和不思議な距離に妻がをり

本の画象

菜の花会(頒価2000円)
2018年8月刊
新藤綾子歌集
『葛布の襖』

 表具師・新藤綾子の遺歌集である。鎌倉の海と竜宮の使いそのものを額装しているかのような楽しい歌「鎌倉の海に打ち上げられし竜宮の使ひの古き書を額に仕立てる」。そして、贅沢極まりない部屋を歌った「留守の間の部屋には金箔散らしつつ和紙の裁ち落としの溜まりて居りぬ」。留守の間、その部屋は、金箔と和紙の裁ち落としによって荘厳されていたのだ。美の中に生きた表具師・新藤綾子、以って瞑すべし。

本の画象

コールサック社(1500円+税)
2018年8月刊

塩谷則子の推す2冊

吉行和子・冨士眞奈美著
 おんなふたり
『奥の細道迷い道』

 二人とも自由奔放だ。「語られぬ湯殿にぬらす袂かな 芭蕉」について、「語られぬ」って謎だ、現代的だという。Oh!数年前、出羽三山に旅行、湯殿山神社の御神体(湯に濡れた岩)について語るな、聞くなと言われてきたと知った。解釈本など無視するんだ!愉快。女がいて、語れないんですよと読む。句を介し、淡々と深く付き合う二人。

本の画象

集英社インターナショナル(1400円+税)
2018年8月刊
北村純一著
『芭蕉と其角』
 四人の革命児たち

 小説。17歳年上の芭蕉を其角は「兄ィ」と呼び芭蕉は三重弁で話す。生類憐みの令の時代背景や、西鶴、英一蝶などとの交流も描かれていて読み易い。さて、今秋、伊丹柿衞文庫「芭蕉の手紙」展の図録に圧倒された。すべて翻刻、活字で読める 上に解説が文学的。手紙は250通近く残っているという。芭蕉は丁寧に人と付き合ったひとだった。

本の画象

風媒社(1700円+税)
2018年10月刊



2018年11月5日号(e船団書評委員会)

静 誠司の推す1冊


俵 万智著
『牧水の恋』

本の画象

 若山牧水が園田小枝子なる女性に、惹かれ振り回され結ばれ裏切られ別れ、死ぬまで引きずることとなる事情を、それぞれの時期に詠われた短歌と、周辺の証言をたどりながら語る。帯に「スリリングな評伝文学」と謳われているとおり、小枝子の真実が次第に暴かれていく展開にドキドキ。ファムファタール小枝子に牧水ならずとも読者も翻弄され、エピローグを読み終わった後の余韻に脱力してしまう。時折、筆者自身が牧水に自分と自分の作品を重ね合わせる内容もあり、俵万智ファンとしても見逃せない。そう、この作品で私が一番感じ入ったのはもしかしたら筆者の文体の妙かもしれない。恐らく牧水への思い入れが理想的な形で昇華した作品なのであろう。

文藝春秋(1700円+税)
2018年8月刊


紀本直美の推す2冊

五味太郎作
『行ったり来たり大通り』

 タイトルのとおり、ページをあっちこっちめくって楽しむ絵本です。とくにストーリーがない、どころか、読み方によっては無限にストーリーがわいてくるしかけが、あちこちに。親子でストーリーを作って楽しみたい一冊。

本の画象

絵本館(1400円+税)
2018年7月刊
マーラ・フレイジー作/もとしたいずみ訳
『あかちゃん新社長がやってきた』

 「あかちゃん新しゃちょう」というネーミングにひかれて思わず手に取りました! 新しゃちょうと元しゃちょうの争いがユーモラスに描かれています。争いの解決法もとてもかわいい! けど、解決したかは謎?!

本の画象

講談社(1300円+税)
2018年3月刊




2018年10月29日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す1冊


山本純子詩集

『きつねうどんをたべるとき』

本の画象

 山本純子さんの詩のことばは、産毛のようにやわらかく、ひざ掛けのようにあたたかい。そして洗いたてのの洗濯もののようである。それでいてユーモラスで、読者をドキリと立ち止まらせる。詩「電池」は、「電池には/プラス極とマイナス極があって/たのしい気分とこわい気分が/発生している//それで 夜/かいちゅう電灯をにぎると/たのしいような/こわいような気分が/手のひらから/からだ中にひろがっていく」とあって、この詩の読者には、もはやどんな懐中電灯もこの詩の「かいちゅう電灯」となってしまう。そんな克明なイメージを付与したまま山本純子さんの詩のことばは、いつもどこかへ軽やかに逃げ去っていく、風のように。

ふらんす堂(1500円+税)
2018年10月刊


太田靖子の推す1冊


宮坂静生著

『沈黙から立ち上がったことば』
―句集歴程

本の画象

 「戦後俳句は何であったか」をはじめとする「戦後の俳句宇宙」、昭和20年代からの年代別の「句集歴程」の2部に分かれる。中学から句集や俳句書の旅を続けてきた著者、念願の楸邨の『雪後の天』をアルバイトの収入で手に入れた結果、学費を滞納。卒論は「蕉風俳諧発想法序説―荘子との関わり」。『奥のほそみち』は全文暗記など、自叙伝としての要素もたっぷり。高名な俳人や学者との交流の臨場感なども味わいながらの俳句史である。平井照敏の『猫町』に関して照敏と論争、その後生まれた友情、著者の本業である死生学のプロジェクトでは子規を研究対象としたことなど興味は尽きない。きっと本書に紹介された句集を読みたくなる。

毎日新聞出版(2000円+税)
2018年5月刊



2018年10月22日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

紀本直美著
『八月の終電』

 私と年齢が近いこともあり、軽快な句調に親しみを覚える直美さんの俳句とエッセー集。だが作者とは殆ど会話を交わしたことがない。私が勝手に想像する俳句からの彼女と、お話してみたいのだけれど……。この本はそんな作者の素顔までそっと覗かせてもらった感じ。そして思う。作者と読者との関係性、作品と読者との関係性とは。

本の画象

創風社出版(1400円+税)
2018年8月刊
北野勇作著
その先には何が!?
『じわじわ気になる
(ほぼ)100字の小説』


 本屋さんで待ち合わせをしていたところ、これなら少ない時間でも満足に読めると手にしたのが、私とこの本との出合い。何せ1頁にほぼ百文字だけで構成されているのだから。頁ごとに異なる世界。短編小説集を読み進めて行くうちに思ったのは、俳句も一種の短編小説であり、句集は短編小説集ということだった。文学だものね。

本の画象

キノブックス(1000円+税)
2018年9月刊

松永みよこの推す2冊

安西水丸著
『水丸さんのゴーシチゴ』

 最近「俳句をつくるのって大変」と詩人、歌人から言われた。似ているからこそ難しいのかしら。安西水丸さんは絵を描いた人だから、俳句は「お隣のお隣」くらいの感覚か。実に自然に言葉(と彼の世界)が湧き出てくる人で、室内楽の演奏を聴いた気分になった。
 待つよりも待たせる辛さ春の月
 流れ星人のうわさも闇のなか

本の画象

ぴあ(1389円+税)
2018年5月刊
杉原志啓著
『波瀾万丈の明治小説』

 硯友社の尾崎紅葉(「金色夜叉」)と泉鏡花(「高野聖」)が師弟関係を結んだのは24歳と19歳の頃。(紅葉は37歳で没)そんなに若かったのか!ならば、そこに常人の想像を越えた感情のやりとりがあっても不思議ではないと思ったら松本清張が二人を素材に小説(「文豪」)を書いていて彼の臭覚にまたも驚嘆させられた。

本の画象

論創社(2000円+税)
2018年6月刊



2018年10月15日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの推す2冊

短歌ムック
「ねむらない樹」vol.1

 短歌を読む…誰かがこっそり書いた日記を盗み読みする感覚がある。湿り気があって恥ずかしい感覚。この本も、こっそり買ってきた。注目作が多数。読んでいるところを、人に見られたくなかった。読み終えると自分も作りたくなり、何首か作って、その後ギャッと言って放り出した。やはり、恥ずかしい。どうしてだろう。

本の画象

株式会社書肆侃侃房(1300円+税)
2018年8月刊
立花 隆著
『死はこわくない』

 自殺を禁忌と捉えない立花さんに唖然。人間の健全な精神的成長の一階梯であり、子どもに自殺機械を工作させても(!)と。「(自殺が)ダメだと言う必要はない。だけど、やり直せないよといえば十分」と。禁忌とすることで却って生じていたらしい磁力が突然無くなって、ぽかん。頭の中の何かが、確かに変質して、ぽかん。

本の画象

文春文庫(600円+税)
2018年7月刊

赤石 忍の推す2冊

高浜虚子著
『俳句の五十年』

 1942年12月に刊行の口述集の文庫化。虚子68歳の時。子規との邂逅が1891年夏だから、まさに「俳句の50年」である。世俗的には大成功を収めた人だが、本書を読む限り、他人を押し退けても成り上がろうとした感じは余り受けない。流れの中で不本意ながら前面に押し出されたようにも。根源的な部分では目立たず、大学教授のままの漱石等と面白可笑しく、市井の中で人生を全うしたかったのかも知れない。

本の画象

中公文庫(860円+税)
2018年8月刊
芳賀博子川柳句集
『髷を切る』

 素敵な川柳句集である。使用する言葉には意外性があり、取り合わせも斬新である。となると、俳句と川柳との相違は何か。今さら切れ字の有無、自然と事象、詠む対称の違いという説明では満足しない。では季語。坪内氏が言うように、作者の存在を薄める、読み手に解釈を託するために俳句は季語を使い、川柳は例え季語であっても、自分を主張するために、言葉として使用するという考えが一番しっくりと、私にはする。

本の画象

青磁社(1600円+税)
2018年9月刊



2018年10月8日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の推す2冊

出光美術館編
『仙厓礼賛』

 画面に一筆の円の図、「これくふて茶のめ」と賛。蛙の画には、「坐禅して人が佛になるならハ」と賛。禅僧仙厓の人間味溢れる諧謔精神には畏れいる。昔から好きだったが、今回の出光の展示をみて、もっと好きになった。63歳で隠居し、88歳で亡くなるまで、描いた書画が二千とも三千とも。自ら削り「捨小舟」と名付けた茶杓は、繊細極まる。老年を楽しみ、生きることをとことん喜んでいるからこその表現三昧であったのだろう。

本の画象

出光美術館(2000円+税)
2018年9月刊
高橋弘希著
『送り火』

 なんという小説に出会ってしまったのか。主人公は中学3年の転校生。ご多聞にもれず、既にクラスにはいじめがあった。クラスの人と適度な距離をとって、自分なりに上手く過ごす。が、その転校生の姿勢そのものが結末の自らへの暴力を生み出すことへとつながる。隔絶された地域の持つ原初的な暴力のうねりは、流れ者の主人公の運命を黒い淵へ引き摺り込む。この小説の目指すところは判然としない。真暗な恐怖が僕を押し包む。

本の画象

文藝春秋社(1400円+税)
2018年7月刊

香川昭子の推す2冊

岸本佐知子編
『変愛小説集 日本作家編

 12編の変愛小説集。初めて読む作家の作品も多い。多和田葉子のこんな書き出し。〈生け花をしていて、花が妙なモノに化けることもあるが、たとえばそれは草の冠が見えなくなってしまった時である。「化け花」はこわい〉。どの作品も変わっていて、こんなの初めてと思う。でも、戸惑うもの、どこが面白いのかわからないのもある。刺激になる。

本の画象

講談社文庫(720円+税)
2018年5月刊
フォークナー著
『八月の光』

 1920年代から30年代の米国南部が舞台の長編。登場人物が多く、筋を追うのが精一杯。それでもボチボチ読んでいくと、夢中になる。肌は白いが黒人の血を引いているという男、父なし子を産む女、その女に恋する男等々、濃い生、すごい熱気。事件もいろいろ起こる。読み終えてみれば、大変な経験をしたような気持ちになる。

本の画象

光文社古典新訳文庫(1560円+税)
2018年5月刊



2018年10月1日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す1冊


長谷川宏著
『幸福とは何か』
ソクラテスからアラン、ラッセルまで

本の画象

 タイトルと副題から、西洋哲学史の本のように見えるが、表紙を開くと、与謝蕪村晩年の「夜色楼台図」。この絵に、著者は「しあわせな暮らしの土台」を見る。次は三好達治の詩「雪」(太郎を眠らせ、・・・次郎を眠らせ、・・・)。蕪村も三好達治も「人々の暮らしがしあわせであることを願わないではいられなかった」、と。その次は長田弘の詩「友人」、さりげないひろがりのさりげないしあわせ。「序章」の最後は佐野洋子・絵の絵本『100万回生きたねこ』、「静かで、平穏で、さりげないしあわせな日々」、終止符。これらの幸福の「ゆるやかさ」の対極にあるアリストテレスの「謹厳な幸福」。ソクラテス、アリストテレス、エピクロス、セネカ、ヒューム、アダム・スミス、カント、ベンサム、メーテルリンク、アラン、ラッセル、それぞれの幸福論。そういえば「青い鳥」はそんな話だった、と思いだした。「終章」は日本の室生犀星。時代と生活と個のしあわせ。常にわかりやすいことばで哲学を語る長谷川宏の、哲学書の読み方。

中公新書(880円+税)
2018年6月刊


若林武史の推す2冊

山田耕司句集
『不純』

 全体的に身体感覚から発想された句が多い。それを書名が示す通り「不純」と思うか否かは読者に委ねられている。「挿す肉をゆびと思はば夏蜜柑」「どの鳩にありやくちびる初詣」など具体的な肉体からの連想のアプローチに、面白みと想像の限界の両義があることを思う。

本の画象

左右社(1500円+税)
2018年7月刊
紅野謙介著
『国語教育の危機』
大学入学共通テストと新学習指導要領

 今回の新学習指導要領で国語は比較的大きな変更が行われる。本書はそれに加えて新しい大学入学共通テストの特徴と課題について論じている。内容の是非はさておき、いかに課題意識を共有できるか、また、指導者のみならず学習者自身もPDCAサイクルを意識せて新しいシステムに取り組むことが肝要なのだろう。

本の画象

ちくま新書(880円+税)
2018年9月刊



2018年9月24日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

正津 勉著
『ザ・ワンダラー』
 濡草鞋者 牧水

 28年9月17日、若山牧水永眠。43歳。没後90年。山師など流れ者が生家に寄宿、土地の言葉で「濡草鞋を脱」いだ。世話をした父は財産を失い、子の牧水は同様の濡草鞋者、彷徨者に。「君がいのちの飢かつゑ飽き足らうまでいませ旅路に」妻・貴志子。牧水のはてしない飢え(さびしさとかなしさ)が秀歌を生んだとわかる。

本の画象

アーツアンドクラフツ(1800円+税)
2018年9月刊
山崎佳代子著
『パンと野いちご』
 戦火のセルビア、食物の記憶

 筆者(56年生まれ)は詩人・翻訳家。38年間、多民族国家・旧ユーゴスラビアに住む。第二次大戦中や92年から約10年間続いた内戦時、何を食べどう生き延びたかを主にセルビア人に聞き書きした本。「食べ物とはね、思い出のこと。」「食べ物とはね、心配、恐怖、愛、秘密のお話などをみんなで分け合う場所なのよ。」平穏の有難さを思う。

本の画象

勁草書房(3200円+税)
2018年5月刊

宇都宮さとるの推す2冊

吉田友和著
『京阪神発 半日旅』

 著者自身が歩いて取材したキメの細かい旅の最旬情報が満載で、吟行参考書にも最適の一冊。しかも、京阪神の住人なら1日足らずで巡れるスポットばかり。そのカテゴリも自然・景観、文化・祭り、グルメ、寺社仏閣・ミュージアム・史跡などとバラエティに富んでいる。意外と行っていないところが多いのだが、評者ススメは、奈良の『大神神社』、京都の『和束の茶畑』、滋賀の『左義長祭り』など。ぜひ一度お出かけを!!

本の画象

ワニブックス(1000円+税)
2018年9月刊
佐々木閑著
『ネットカルマ』
 邪悪なバーチャル世界からの脱出

 「ネットは私たちの社会に大きな苦しみをもたらす怖い存在」であって、現代のカルマ(業)であると。実際、その利便性に隠れたバーチャルな世界や監視システムなど得体のしれない恐ろしさを感じる時がある。仏教学者がそんな怖いネット社会との向き合い方をブッダの思想や教えを繙きながら教えてくれる。この話いささか飛躍が過ぎるとお思いの方はご一読を。気づかない内に「現代の苦しみ」が忍び寄っていますよ・・・。

本の画象

角川書店(800円+税)
2018年8月刊



2018年9月17日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

ザ・キャビンカンパニー作
『あかんぼっかん』

 「あかんぼっかん」というタイトルとインパクトのある表紙の絵で思わず手に取りました! 迫力のあるイラストが、これでもかこれでもかとでてきます。大人も楽しめますが、子どもがどんな意味を感じとるのか、とても興味がある一冊です。

本の画象

偕成社(1500円+税)
2018年5月刊
長嶋祐成作
『きりみ』

 石垣島で活動をされている漁夫画家・長嶋祐成さんの絵本。さけのきりみ、うなぎのかばやき、ひらめのさしみ、まぐろのにぎり、さばのみそに…。のイラストの次に、さばかれた状態の魚のイラストが! 図鑑の入り口になるのかな?

本の画象

河出書房新社(1350円+税)
2018年7月刊

武馬久仁裕の推す2冊

足立悦郎著
『みなんごあんの春』

 小説の主人公、尾崎放哉は自由律俳句を極めようとして、ひたすら自分を死へと導く。だから、彼の見る月は、俳人の読者にとっては、配所の月(歌人が憧れた、流刑地で見る月)である。須磨寺の堂守りの時には「こんなよい月を一人で見て寝る」。終の住処、小豆島の南郷庵(みなんごあん)の庵主の時には「なんと丸い月が出たよ窓」。くれぐれも放哉に魅入られないように。

本の画象

新日本海新聞社(1000円+税)
2018年7月刊
赤野四羽句集著
『夜蟻』

 赤野四羽の句には批評性がある。銀色に光る美しい秋刀魚は、炙られてその記憶は破壊される。「炙られて記憶の爆ぜる秋刀魚かな」可憐な菜の花は、理不尽にも街頭で辱められる。「菜の花ややめてください街頭で」そして、人間は、寒々と逆さにつるされた葱を同志として、静かに、しかし深く怒るのである。「葱つるししろき怒りを分かちあう」。

本の画象

邑書林(2000円+税)
2018年7月刊



2018年9月10日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す1冊


小野幸恵著
現代を生きる芸能・工芸・建築・祈り
『和と出会う本』

本の画象

 古典芸能を中心に舞台芸術に関する書籍の編集経歴を持つ作者が芸能から食べ物に至るまで様々な分野を通して「和」とは何かということを考える。机上の知識だけではなく、体験した知識がそこにはある。野村萬斎による独舞「MANSAIボレロ」の描写では、舞台を見ているかのような錯覚に陥る。東日本大震災の犠牲者に捧げられた声明のコンサート、洋服に椅子で演じる落語、日本のアンチョビ、新たに開発された和菓子なども紹介され、和の進化が見える。桐竹勘十郎の言う「伝えられた古典を現代に生きる文楽として演じ、そして、現代に生きる私たちが新たな古典をつくっていく」を様々な和に当てはめ具体的に示してくれる。日本人でよかったと思える書。

アルテスパブリッシング(2000円+税)
2018年2月刊


静 誠司の推す2冊

坂口昌弘著
『毎日が辞世の句』

 古今の著名な俳人(一部歌人も)の辞世の句や死、生、霊などに触れた作品を通し、彼らの死生観を読み取る。30人近い俳人達の多くに道教思想、老荘思想につながる要素を見出す筆者。そこにこそ死と向き合う際の理想、また俳人としての理想があるという思いが繰り返し述べられている。しかし、自分の句には死生観など無いよな。

本の画象

東京四季出版(2000円+税)
2018年6月刊
荻野慎諧著
『古生物学者、
 妖怪を掘る』

 鵺の正体、鬼の真実

 古い文献に登場する鬼、ヤマタノオロチ、鵺(ぬえ)などの妖怪が生み出された背景や根拠を、科学的に明らかにしようとする。妖怪好きの自分としては、象の頭蓋骨の形状が一つ目妖怪に結びつくのだという下りには、特に胸がときめくものがあった。あの形を見たら誰も鼻の長い動物など連想できないでしょう。写真見てみて。

本の画象

NHK出版新書(1440円・税込み)
2018年7月刊



2018年9月3日号(e船団書評委員会)

松永みよこの推す1冊


小佐野彈歌集
『メタリック』

本の画象

 タイトルから受ける硬質で尖った印象ではなく、より、スケールの大きな慈愛のようなものを感じ取った。「オープンリーゲイとして生きる自分」を受け入れて欲しいという思いよりも、相手を細やかにまるごと深く愛する姿勢こそが作者の歌の生命力となっているようだ。全身が恋の感熱体めいた作者が、刺激的、刹那的な恋にとどまらず(それもあるけれど)、明日を見据えた恋をしているのが伝わる。それは、歌の中にも登場する(完全には理解できなくても)作者の思いを「わかりたい」と願う母や友人の存在があるからだろう。

 むらさきの性もてあます僕だから次は蝸牛(くわぎう)として生まれたい
 体温が色を帯びゆく丑三つのあひみてなればわれらむらさき

短歌研究社(2000円+税)
2018年5月刊


田中俊弥の推す2冊

本間 明選・解説/外山康雄水彩画
『良寛』
 ―野の花の歌

 八月下旬、信州下伊那の平谷(ひらや)村に研修で出かけた。標高930メートルほどに位置する平谷村の夏の夜は20℃を下回った。山の神、水の神々の声が聞こえる縄文の息吹をひしと感じる村だった。良寛の野の花の歌もまた、古代の相聞が優しく奔放に息づいている。
 秋の野のすすき刈萱藤ばかま
     君には見せつ散らば散るとも

本の画象

考古堂書店(1200円+税)
2018年6月刊
安田 登著
 身体感覚で
「『論語』を読みなおす」
 ―古代中国の文字から

 わが座右の書『論語』には、「知者楽水、仁者楽山」「有朋自遠方来、不亦楽乎」「学而不思則罔、思而不学則殆」などの文言がある。それは、汲めど尽きぬ泉水のごとく、豊穣である。孔子の時代の文字から読むこと、能楽者としての身体感覚から読むことから解読された『論語』は、まさにリアルな福音の世界として開示されている。

本の画象

新潮文庫(550円+税)
2018年7月刊



2018年8月27日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

梯久美子著
『原民喜』
―死と愛と孤独の肖像―

 二枚重ねの表カバーに刷られた、研ぎ澄まされた若き原の肖像が迫ってくる。これだけでも本書は勝利だが、さらに内容はそれを凌駕する。衆知の被爆体験の『夏の花』。だが原の本質はそこだけに在るのではなく、ぎりぎりまでに凝縮された表現者として再度その存在を捉えるべきと、著者は主張しているかのよう。透明な文体を駆使する筆力に魅了されると共に、このような作家もいたのだと改めて感じ入る。

本の画象

岩波新書(860円+税)
2018年7月刊
アーサー・ビナード文/田島征三絵
『わたしの森に』

 アーサーは今、日本人が見失っている日本文化を異邦人の視点から読み解いてくれる貴重な絵本作家。その彼が新潟県十日町にある廃校を空間絵本、「絵本と木の実の美術館」として甦らせた田島征三とコラボして制作したのが本書。深い森に暮らす一匹の蝮を主人公とし、私達が失いつつある自然との関りを豊かに表現している。田島の独特の画法とアーサーの言葉が相まって、読者を静謐だがたくましい自然へと導いていく。

本の画象

くもん出版(1400円+税)
2018年8月刊

舩井春奈の推す2冊

村上栄子著
俳句とエッセー
『マーマレード』

 「幸せをかたちにすると、あの「マーマレード」のような色つや」と名づけられたこの本は、色の四原色始め様々な色に溢れている。そして著者の原点と思しき家族新聞「ひよこ」の存在。今年は格別暑い日が続く。青空が目に飛び込んでくるたびに思い出すのは著者の詩「真夏日」。「やるなら 今、/今、この一瞬/飛び込もう!!」

本の画象

創風社出版(1400円+税)
2018年7月刊
ぬまがさワタリ著
ぬまがさワタリの
『ゆかいないきもの図鑑』

 いつか紹介した次なる本。あまりに私が楽しんでいたからと、また友人が貸してくれた。スタイルは前書と同じ。加えて、今回は紹介する生態の表と裏の顔が紹介されている。例えば船団でおなじみカバさんは、アフリカで最も危険な動物の一種で、走る早さはウサインボルトより早い足とか。相変わらずおかしくも分かりやすい。

本の画象

西東社(920円+税)
2018年5月刊



2018年8月20日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の推す2冊

木下龍也・岡野大嗣著
『玄関の覗き穴から差してくる
 光のように生まれたはずだ』


 タイトルが長い、が短歌。二人の歌人が高校男子の7日間を短歌で綴る。読み終えると不可思議な現実感が漂う。二人が友達とは思えない。二人の短歌はもつれ合うことなく、刺激もされず自我を主張する。これって物語なのかな、と思う頃7日間は終わってしまう。最後に、「倒れないようにケーキを持ち運ぶとき人間はわずかに天使」、で、あまーくFIN。短歌の世界は十分に魅力的だ!

本の画象

ナナクロ社(1400円+税)
2018年1月刊
中野 明著
『流出した日本美術の至宝』

 岡倉天心、富田幸次郎らの役割。原三渓、益田孝らの成した事。フェノロサ、ビゲロー、モースらの関り。日本の美術作品は明治維新後、膨大な数が海外に流出した。異国には日本の美術作品の価値を見極めた人達が、日本人以上にいたという事だ。文化を支えるには生々しい経済の問題が必然。だがボストン美術館、フリーア美術館等に多くの名品がある事の口惜しさは如何ともしがたい。

本の画象

筑摩選書(1700円+税)
2018年4月刊

原 ゆきの推す2冊

大森静佳著
現代歌人シリーズ22
『カミーユ』

 時空を超えたり、時に悲劇的だったり。言葉の連なりはしっとりと重さを含んでいる。「顔を洗えば水はわたしを彫りおこすそのことだけがするどかった秋の」ふしぎな言葉。リズムの乱れもピアノ曲の即興演奏のよう。「自分語り」になりがちな短歌とは一線を画する。こんな短歌なら作ってみたいな。おいそれとは作れないだろうな。

本の画象

書肆侃侃房(2000円+税)
2018年5月刊
安岡章太郎著
『とちりの虫』

 随筆集。「秋」が短篇小説の味わい。締め切りに苦しみ金も無く、友人のつてで季節外れの避暑地の別荘へ妻と夜逃げ。最後のシーン、歩き疲れた二人の前を生き物がよぎる。当初、遠足にでも行くようにはしゃいでいた妻も身をすくめる。この終わり方が秀逸。秋の気配が次第に濃くなり、読者も季節外れの避暑地に立っている気分。

本の画象

中央公論新社(920円+税)
2018年7月刊



2018年8月13日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す1冊


大岡信・谷川俊太郎著
『詩の誕生』

本の画象

 対談自体は1975年。同年生まれの二人は、おたがいを、谷川、大岡と呼び合う20年以上の旧知の仲。気力も体力もある二人の対談は、緊張感を保ちつつ、しばしば共に思考の底へ深く降りていく。大岡「詩はいつまでも存在しているものではなく、どこかに向かって消滅していくものなのだ」。詩は不定形の生きものなのかもしれない。生き物には死があるが、一度死んでしまった詩を生き返らせることができるのは読者だ。大岡「伝統は毎日毎日変わっているのだ」。谷川「言葉が機能するためにはやっぱりうたげの場が必要じゃないか。」詩が生き返るのはうたげの場、新しいことばのうたげはどこかではじまっているのだろうか。

岩波文庫(600円+税)
2018年6月刊


若林武史の推す2冊

佐藤 優著
『国語ゼミ』
 AI時代を生き抜く集中講義

 この本を読まなければ宇野弘蔵『経済原論』やアーネスト・ゲルナー『民族とナショナリズム』すら知らなかっただろう。佐藤氏が目指すところは総合知をつくることにある。目的的な読書がその念頭にある。確かな文章を確かな読解力をもって読む「知識人」を増やすこと。佐藤氏の強い思いはそこにあるようだ。

本の画象

NHK出版新書(780円+税)
2018年6月刊
全国不登校新聞社編
『学校に行きたくない君へ』
 大先輩たちが語る生き方のヒント

 「全国不登校新聞」に掲載された、各界の著名人20人が不登校生徒に向けて語ったメッセージがまとめられた一冊。不登校でなくても人生のいろいろに思い悩む人にとって有益な言葉が多く、ためになる。こんな有名な人がこんなことを考えていたのだと知るだけでもいいと思う。気持ちが楽になります。

本の画象

ポプラ社(1400円+税)
2018年8月刊



2018年8月6日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

南方熊楠・杉山和也・志村真幸・岸本昌也・
伊藤慎吾著

『熊楠と猫』

 才勝ちて猫にやられた夕べかな  熊楠

 才勝ち=サイカチは、甲虫の東京弁。才ある甲虫(私)が猫(私の短冊を欲しがる者)に負けた夏の夕べよ、という自嘲の句。当の短冊は行方不明。残された日記による。熊楠の膨大な蔵書・日記・書簡・標本などを長女(1911~2000)が保存。これは猫に関連するものを集めた本。絵が楽しい。

本の画象

株式会社 共和国(2300円+税)
2018年4月刊
フェデリーコ・マリア・サルデッリ著作
関口英子・栗原俊英訳
『失われた手稿譜』
ヴィヴァルディをめぐる物語

 本や楽譜はある人には貴重だが、ある人にはゴミ。作曲家ヴィヴァルディ(1678~1741)の膨大な手稿譜もまた然り。愛書家の元では分類され図書室に。修道院では木箱に詰められ屋根裏部屋に。お金儲けに使われ、遺産相続では適当に分割される。価値があるとわかると発見・研究を横取り。事実に基づく小説。ムッソリーニまで登場。

本の画象

東京創元社(2100円+税)
2018年3月刊

宇都宮さとるの推す2冊

牧野成一著
『日本語を翻訳する
     ということ』

失われるもの、残るもの

 「翻訳とは、そもそもなんだろう?」を、小説、現代詩、俳句など文芸作品の実例を挙げ、言葉のリズムや文法はじめ様々な視点から解き明かす。中でも、言葉の持つ音の象徴性について、冷たい響きの「カ行、ガ行」の口蓋音と柔らかい響きの「ナ行、マ行」の鼻音音の使い分けの指摘が興味深い。“母からもらう”と“母にもらう”の微妙な距離感は英語では訳せない。
 俳句についての言及も多く、新たな発見がある一冊。

本の画象

中央公論新社(780円+税)
2018年6月刊
ビートたけし著
『やっぱ志ん生だな!』

 いま、ちょっとした落語ブーム。私の好みでは関東は談春、関西は福笑がおすすめだが、この本を読んで志ん生を聴き直してみた。これはもう天衣無縫、融通無碍というか、話芸を超えた存在感が並ではない。たけしでなくても「志ん生の凄さ」がわかる。全編、たけしの「志ん生・愛」が満載だが、志ん生を通して自身の芸論を語っているのだろう。“やっぱ芸は人間性だな!”。お後がよろしいようで。

本の画象

フィルムアート社(1400円+税)
2018年6月刊



2018年7月30日号(e船団書評委員会)

紀本本直美の推す2冊

マージョリー・ワインマン・シャーマット文
バーバラ・クーニー絵/福本友美子訳
『ホイホイとフムフム』
 たいへんなさんぽ

 ホイホイとフムフムののんびりとした会話にひたってしまいました。友だちとあてのない散歩をするって、最高の贅沢だなあと。新刊ですが、読み終わってから1975年に刊行されたものと知りました。「あわてず さわがず」の看板がかわいい!

本の画象

ほるぷ出版(1400円+税)
2018年5月刊
ふくざわゆみこ作
ぎょうれつのできる
 チョコレートやさん


 チョコレートが大好きなため、この絵本の表紙を見てハートをわしづかみにされました!
 この本を手に取って!というメッセージを感じてページを開くと……すてきなチョコレートの数々。自分でもチョコレートを作って食べたくなりました。

本の画象

教育画劇(1300円+税)
2018年3月刊

武馬久仁裕の推す2冊

安井高志歌集
『サトゥルヌス菓子店』

 開巻劈頭「終電はいってしまったかみそりはお風呂場の水のなかでねむる」に出会う。全篇死のイメージに彩られた歌集であるが、これは今日世界を見通す方法としての死であろう。アリゾナ(アメリカ)の砂漠そのものであるこの世界を見た「薄暗い部屋に寝転ぶ俺の目が刹那に映すアリゾナ砂漠」には、末期の目という方法が見て取れるからである。昨年31歳で事故死した歌人の遺歌集である。

本の画象

コールサック社(1500円+税)
2018年6月刊
小峯和明著
『遣唐使と外交神話』
―『吉備大臣入唐絵巻』を読む―

 遣唐使が伝えた「耶馬台詩」なる物がある。そこには「百王、流れ畢(ことごと)く竭(つ)き猿と犬、英雄と称す」とある。天皇百代で日本が終わる。その時、猿や犬が英雄と称してのさばるということらしい。そこで後白河法皇は、吉備真備が中国で「耶馬台詩」を読み解く『吉備大臣入唐絵巻』を作らせたと著者はいう。だが、今、日本の未来を解読する場面は欠落。著者の無念さに同感である。

本の画象

集英社新書(740円+税)
2018年5月刊



2018年7月23日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す2冊

神奈川大学広報委員会編
『17音の青春 2018
 五七五で綴る高校生のメッセージ

 神奈川大学主催の全国高校生俳句大賞の応募総数は11984通。復本一郎をはじめとする選考委員による喧々諤々とした審査の様子を読むのも楽しい。過去の受賞者からプロの俳人も生まれ、教え子と共々授賞式に参列した人も。本書を読み高校時代の自分に還るのも。
 あくびするように風船空高く
 夏の果てよりココア一匙分のテロ

本の画象

KADOKAWA(700円+税)
2018年3月刊
唐沢孝一著
『目からウロコの自然観察』

 目を見張る植物・昆虫・鳥などのカラー画像。高倍率のものや見事な瞬間をとらえたもの。写真を見るだけでわくわくする。アカメガシワの新芽が赤いのは、紫外線から新芽を守るため。露草に半透明の花弁があったなんて。モズはミシシッピアカミミガメまで早贄にする。シモバシラという名の植物など、驚きが満載。

本の画象

中央公論新社(1000円+税)
2018年4月刊

静 誠司の推す2冊

大高郁子絵・編
『久保田万太郎の履歴書』

 小説家・劇作家・俳人である万太郎の自伝的文章にイラストレータである編者が全ページ挿絵を配しまとめた作品。前回の担当で万太郎俳句についての本を紹介したが、彼の生涯を知りたい欲求にタイムリーに応えてくれた一冊。下町に生き、いろいろとダメ人間だった彼の一生が、挿絵のおかげでちょっとファンタジックに描かれる。
 水で白くそだてたあひるの子 卍(北斎の俳号)

本の画象

河出書房新社(1400円+税)
2018年2月刊
花田菜々子著
『出会い系サイトで70人と実際に会って
その人に合いそうな本をすすめまくった
1年間のこと』


 著者が持ち前の本についての知識を活かして題名のようなことしたその実践録。著者自身が私生活や仕事上の悩みを抱えていて、自分を変えようとそういうことをするわけだが、自分から行動するその勇気に脱帽。何と言っても、著者の本についての情報量がすごい。どこかでエセブックレビューをしている自分が恥ずかしくなる。

本の画象

河出書房新社(1300円+税)
2018年4月刊



2018年7月16日号(e船団書評委員会)

松永みよこの推す2冊

俵 万智訳
『みだれ髪』(新装版)

 発見。俵万智は歌人であると同時にカウンセラーそしてイタコなのです。本作には、「晶子短歌をそのまま受けとめたい」という包容力と細やかな心遣いが溢れていて、アンチ「サラダ記念日」だった私はこっちの万智さんが大好きになりました。……にしても晶子の歌はまだわからないことだらけ、熱を帯びた感触が残るばかりです。

本の画象

河出書房新社(1600円+税)
2018年5月刊
田中 聡著
『北斎川柳』
五七五で描いた北斎漫画の世界』

 もう!どうしてそんなに下ネタのオンパレードなの~と叫びたくなる画狂北斎の川柳。 でも、下品なものの中に本質が宿るのはなぜなのだろう。(きれいはきたない きたないはきれい)「マクベス」の魔女のセリフを思い起こし、不思議な温かさに包まれた。私が好きな句、「泥水で白くそだてたあひるの子 卍(北斎の俳号)

本の画象

河出書房新社(1800円+税)
2018年3月刊


田中俊弥の推す1冊


坪内稔典監修・佛教大学編
小学生のための 俳句入門』
君もあなたもハイキング(俳句の王さま)

本の画象

 本書は、佛教大学小学生俳句大賞10周年を記念して編纂された俳句入門書。第 一章には、喜びや発見に満ちた子どもの俳句がずらり並んでいるし、選者・山本 純子さんの詩人ならではの、みずみずしい選評も楽しい。また、第二章・坪内稔 典先生の俳句教室「俳句づくりって楽しいよ」には、俳句は、「ことばを絵の具 のように使って風景を描いたものです。そしてそのできあがったかたち(風景) が作者の感動です。感動はつくった結果として現れるのです。」「五七五の表現 は、心をゆさぶるとてもかんたんなことばの装置、あるいはしかけです」、「季 語を手がかりにしてつくると、俳句づくりがとてもやさしくなります。」との指 摘は、特筆に値すべき指南である。

くもん出版(1500円+税)
2018年4月刊



2017年7月9日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

太宰 治著/小山 清編
『太宰治の手紙』
―返事は必ず必ず要りません―

 6月23日は桜桃忌。太宰が亡くなって70年が経つ。この日に合わせて手紙と追悼文を纏めたものが河出書房から。思わず2冊買ってしまう、私のような読者を狙ったものだろうな。手紙の文面は、お世辞と懺悔、借金の言い訳等が主で。受け取った方が赤面、ウンザリしてしまう内容。しかも末尾に「返事は必ず必ず入りません」等とあると、返事を出さざる得ないだろうし、それも太宰の計算付くなんだろうね。

本の画象

河出文庫(760円+税)
2018年6月刊
河出書房新社編集部編
『太宰よ! 45人の追悼文集
―さよならの言葉にかえて―

 知人に青森・北津軽の人がいる。人好きで特に女性には目がなく、うるさいほど賑やかで座持ちもうまく、酒量が上がり振る舞いが度を越しても不思議に許されてしまう。そのくせ何か寂しげで、本書が語るまるで太宰のよう。風土が人格を形成するとまでは言わないが、多少の影響は受けているようにも思う。周囲にうんざりされながらも愛される太宰。その死も「思わず死んでしまった」という表現こそが適切かもしれない。
本の画象

河出文庫(830円+税)
2018年6月刊


舩井春奈の推す1冊


高橋久美子著

『いっぴき』

本の画象

 四国の中にさらに小さな島がある。そこで大学時代を送っていたくみこん。彼女のバンドは、小さな島をどんどん飛び出し、やがて日本中を賑わした。くみこんが作詞した曲、私もよく口ずさんでいたな。そのチャットモンチーも、この夏解散。先に脱退したくみこんが言うには、その解散を前に一緒に活動をしていた二人へ向けたものが、この一冊。前作に加え、脱退後の話が収録されている。バンド脱退後、一人いや「いっぴき」作詞家の作詞を主軸とする生き方が見える。この本のもう一つの見ものは、えっちゃんからの跋文とあっこちゃんの帯文。
 私個人の見ものとしてはサパの町での話。私の車の助手席から降り、阿波踊りの雑踏に消えて行った翌日からの話だ。

ちくま文庫(740円+税)
2018年6月刊



2018年7月2日号(e船団書評委員会)

香川昭子の推す2冊

川上弘美著
『猫を拾いに』

 読み終えるのが惜しい短編集。文章がいい。ちょっと苦い思いなんかも、例えば、「いっしんになる」「一生せおってゆかなければならない」などひらがなのせいか、おかしく、どこかふんわり。そこに、親と子、男と女、老い地球外生物、怨霊など身近なものも、そうでないものも普通に存在している、どこかなつかしい世界がある。

本の画象

新潮文庫(550円+税)
2018年5月刊
網野善彦・鶴見俊輔著
『歴史の話』
 日本史を問いなおす

 2004年刊行の対談集。書き留めたい言葉が多い。たとえば、「烏合の衆を思想上の強さのバネにしたい。」「すべてがわかっているところからは何も生まれない。」「間違いの記憶から真理への方向性が出てくる。」「これまでの歴史学がこれまでの学術用語で定義してきた世界は実態の五〇パーセントまでいっているかどうか。」等々。

本の画象

朝日文庫(620円+税)
2018年1月刊

原 ゆきの推す2冊

谷さやん著
『空にねる』

 谷さんと言えば何故か「紺絣」のイメージ。清らか。あたたかな明朗。気持ち良いエッセーが並ぶ。文章の終わり方の余韻がいい。(「離俗ノ法」では句友ひとみさんの魅力がここで倍増する)。句は鮮やか。「毛布のなか滝の名前を言い合って」 言い合っているのが男女でも子供でもいい。高まりの特別感、秘めごとの感じが素敵。

本の画象

創風社出版(1400円+税)
2018年3月刊
阪田寛夫著
『庄野潤三ノート』

 庄野氏が書くのは大した話ではない。子供の運動会で観客のおばさんたちがさもうまそうにお弁当を食べると言うような話だ。大したことなさが炸裂している。これがたまらない。本書により、庄野氏がそもそも小説よりも短文を好み試行錯誤してこの文体を得たことを知った。長年の友人阪田氏の深い読みと思いが伝わってくる。

本の画象

講談社文芸文庫(1700円+税)
2018年5月刊



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