俳句 e船団 ブックレビュー
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2010年 8月30日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


別冊俳句・俳句生活
一冊まるごと 『俳句甲子園』

 俳句甲子園の歴史とそこで生まれた秀句が窺える記念碑的な一冊。若い人の詩情豊かな俳句の風味に憧れを持つ一方、個人的にはこれも「俳句」という大きな箱に回収されていくのだろうかという不安もよぎった。高校球児がプロ野球で活躍するように、プロの俳人が若くから活躍されていく姿を遠くから見送りたい。

本の画象

角川学芸出版(1800円+税)
2010年7月刊
和田秀樹・繁田和貴著
『難関校に合格する人の共通点』

 身も蓋もない書名である。難関校にいく人は、やっぱり精神的に余裕があるんだなと思う。逆に言えば、余裕があるからこそ難関校に受かるのだろう。すごいハウツー本であるが、心に迷いが生じた時にパラパラめくるといい本です。

本の画象

東京書籍(1300円+税)
2010年6月刊


鈴木ひさしの推す2冊


笹公人・和田誠著
『連句遊戯』

 和田誠は、星新一・丸谷才一の本の表紙やハイライトのパッケージ、「ゴールデン洋画劇場」のオープニング等、・・・活躍は幅広く、俳人でもある。笹公人はミュージシャンで『念力家族』の歌人。FAXでやりとりされた二年分の連句が解説対談篇とともに収められている。『連句遊戯』というタイトル通り、一生懸命遊んでいるのがよい。

本の画象

白水社(1800円+税)
2010年7月刊
福岡伸一対談集
『エッジエフェクト』

 福岡伸一『動物と無生物の間』(講談社新書)は高校生の必読書。「二つの生態系が出会う場所で生成される現象」を表す『エッジエフェクト(界面作用)』というタイトルはときめきを感じさせる。桐野夏生、柄谷行人、森村泰昌、小泉今日子、鈴木光司、梅原猛、魅力的な人たちと、エッジエフェクトを求めて話は弾む。丁寧な「あとがき」に好感が持てる。

本の画象

朝日新聞出版(1200円+税)
2010年7月刊

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2010年 8月23日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


松本章男著
『業平ものがたり』

 細川幽斉が「源氏は虚を実に書きたり。この物語は実を虚に作りたり」と述べた『伊勢物語』125段の順序をバラして、在原業平の一代記として並べ変える。恣意的といわれてもよい、楽しく読もうという試み。少女崇拝だったとか、斎宮との一夜で子をなしたとか、ワイドショー的。京都大原野の塩釜跡や小塩山という地名を根拠に製塩していたとも。実を追求しても嘘、虚構にみえてしまうのが業平。

本の画象

平凡社(2200円+税)
2010年7月刊
美留町義雄著
『鷗外のベルリン』
交通・衛生・メディア

 1884年 〜88年森鷗外はコッホのもとで下水中の病原菌について研究。ベルリンでは56年に上水道が開通、各戸の汚水や汚物(大小便)を貯水槽に集め上澄みをポンプで農場に送る下水道システムも完成していた。しかし日本に導入できなかった。当時は公衆衛生の概念そのものがなかったからだ。衛生という観点から鴎外の挫折を描いた章が新鮮。 菌を恐れ家庭内で潔癖症が高じるしかなかった。

本の画象

水声社(3500円+税)
2010年8月刊


武馬久仁裕の推す2冊


復本一郎校注
『鬼貫句選・独ごと』

 鬼貫と言えば、「まことの外に俳諧なし」という言葉で名高いが、彼の著書『独ごと』の冒頭から、その「まこと」の一端に触れることができる。ここで鬼貫が「まこと」の例として挙げていたのは、「孝心」であった。「孝」こそが第一に人間の真情=まことであった。封建道徳の根本である忠孝の一端を担う、子にとって絶対的な「神慮」に基づく親への「孝」が、連句の調和的な付け合いを導き出すものとして語られていたのである。驚きであった。

本の画象

岩波文庫(720円+税)
2010年7月刊
黒井千次著
『高く手を振る日』

 70歳台の男女の恋愛物語である。別れの場面が興味深い。老人ホームへ行くために別れを告げに男の家に女がやって来る。そこで「茶飲み友達では絶対にない」と男女は確認し合う。では「茶飲み友達」ではない男女の関係とは何か。言うまでもなく「性愛」の関係である。茶を飲んだ後、二人は激しくキスをする。抱擁の最中携帯が鳴る。女の子供からの電話だ。「彼女は、スーツの裾を下に延ばしながら……携帯電話を取り出」すのであった。

本の画象

新潮社(1470円)
2010年3月刊



2010年 8月16日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


井川博年著
『平凡』

 20編の作品からなる詩集。最初の詩「芙美子さん、翠さん」は「今年の正月は/あまり暖かだったから/林芙美子さん、尾崎翠さんのお二人が/昔住んで居られた上落合の辺りを/ぶらぶら歩いて参りました。」と始まる。暖かいから林芙美子、尾崎翠の住んでいた辺りを訪ねる、というところが少し変だ。暖かい正月にだれもがこの2人を訪ねるとは限らないから。このちょっとした「変」がこの人の詩を発生させる。一見して平凡な日常に「変」を見つけ、その「変」を種にして「詩」を発生させた詩人は、「死ぬこともこわくない」気分になったという。詩の力というか、錯覚というか。ともあれ、読者の私もそんな気になった。

本の画象

思潮社(2000円+税)
2010年7月刊
安水稔和著
『杉山平一
―青をめざして

 この本、「杉山さんの詩をことあるごとに繰り返し読んできた。」が最初の文だ。1914年生まれの杉山の本を、私も繰り返し読んできた。詩は日常とはちがう言葉の世界を作るもの、という杉山の明晰で平易な認識にずっと示唆されてきたのだ。安水のこの本は、杉山にかかわるエッセーや講演、杉山との対談を集めたものだが、明晰で平易な杉山平一の像がかなりクリーンに出ている。「生きることに対し、またも自分は質問の手をあげる」は安水がエッセーで引用している杉山の詩の一節だが、安水もまた杉山に向かって質問の手をあげている。

本の画象

編集工房ノア(2300円+税)
2010年6月刊


桑原汽泊の推す2冊


谷川俊太郎著
『みんなの谷川俊太郎詩集』

 INCEPTION、夢で×××ってあるし・・・。ケン・ワタナベと俳優たち、スタイリッシュ。映像詩っぽい。みてみそ。
 アマノジャクで、アダムス・ファミリーで、エドっ子のぼくだし。で、「はがき」。うひょひょ。

本の画象

ハルキ文庫(680円+税)
2010年7月刊
梶原一騎原作/川崎のぼる作画
『新巨人の星』
飛雄馬VS左門豊作の執念!!

 それぞれのうちのなにかを失った。少なくはない、きっと・・・。テレビの背中の90番に、焼酎のコップをあおる飛雄馬・・・
 丸は、大洋ホエールズの左門の活躍。そして、スター、鷹ノ羽圭子の・・・

本の画象

講談社(619円+税)
2010年3月刊

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2010年 8月9日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊



「短歌」7月号

 3月に亡くなった追悼特集として「魂の歌人、その足跡をたどる:竹山広の残したもの」が組まれている。佐佐木幸綱氏が竹山広と「心の花」との関わりは昭和10年代からで、昭和51年8月の「心の花」に晋樹隆彦の評論掲載「原爆短歌の発見」が被爆歌人としての最初だと述べている。三枝昂之氏の「終りなき昭和」に引用されている歌は「思ひつつ切らざりし足の爪も切りぬ原爆の日のふしぎなこころ」(『眠ってよいか』)

本の画象

角川学芸出版(980円+税)
2010年6月刊
大場秀章・田賀井篤平共著
『シーボルト博物学』

 「石と植物の物語」と副題があり二人の著者が石物語と植物物語を分筆、植物のシーボルトコレクションの本格的研究は日蘭修好400年を記念して植物標本が東京大学に寄贈された2000年に始まったとのこと。いわゆる押し花のような状態で170年ぶりに里帰りした標本の図版、特にオタクサアジサイを見るだけでも驚き。シーボルト研究において植民地科学者的な膨大なコレクションが、今や江戸時代の動植物、自然理解に偉大な貢献をしているのだという。

本の画象

智書房(3600円+税)
2010年6月刊


田中俊弥の推す2冊


池内 紀著
『文学フシギ帖』
―日本の文学百年を読む

 文学作品にその作家の運命の刻印を読み取ることが批評だと、小林秀雄は言っていた。また、批評とは、畢竟、他人をだしにして「わたくし」を語ることだとも言っていた。本書は、ドイツ文学者でもある作者の読書人生の記録であり、正統な作家論・文学批評ともなっている。玄人の読み手のための、近代日本文学をナビする一冊。

本の画象

岩波新書(定価720円+税)
2010年7月刊
興膳 宏著
『漢語日暦』

 文学の素養・教養のありかたが問われている今日、和洋漢のことばに精通した夏目漱石や芥川龍之介や石川淳のことがおもいおこされる。「漢語」の力は、近代日本文学の屋台骨であり、グローバルな世界へ出て行くための通路でもある。一日一善、一日一言と同じく、一日一漢語をもって日々にわたしたちの教養力を鍛錬していきたい。

本の画象

岩波新書(定価760円+税)
2010年7月刊



2010年 8月2日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊

群ようこ著
『小福歳時記』

 小福、なんて可愛く幸せなことば。でも日常ってそうですよね、ちょっとした小幸せの積み重ねじゃないかしら。
 群さんの生活は、親の病気でケチの弟を殴りそうになったり、しつこいセールス電話でけんかをしたりと、いろいろあっても小福。小福っていいわあ。

本の画象

集英社(1300円+税)
2010年6月刊
茂木 健一郎・黛 まどか著/訳
『言葉で世界を変えよう』
万葉集から現代俳句へ

 う〜む、言葉で世界を変えるのか…大仰なタイトルを捨て置けず、拝読。
 俳人まどかさんと脳科学者茂木さんとの異色コラボ。万葉の地を歩いて対談したり、言葉の力を説く。
 ただ、俳句を(例えば芭蕉や漱石の句)そんなに哲学にしなくても、と感じてしまった。

本の画象

東京書籍(1470円)
2010年7月刊


赤石 忍の推す2冊


ねじめ正一著
『荒地の恋』

 詩誌「荒地」の同人で高校時代からの友人である田村隆一と北村太郎。北村は会社員生活も定年間近、田村の妻と恋に陥り家庭を捨てる。もっとも田村も酒に溺れ女に頼る生活を本気とも言えずに送っている。この奇妙な三角関係の中で、寡作の詩人北村が詩魂を取り戻すという事実に基づいた小説。ステロタイプな解釈だが、酒、女と敗戦後の荒地に未だ身を置く田村を身近に、北村も小市民的生活を捨て、詩を取り戻すために荒地に身を投じたかったのか。そんなことを考えながら出た先回の東京句会で、私も採った特選句本村弘一さんの「炎昼により添っているもういいだろう」。炎昼は家庭、しがらみ? この感想は参加者たちの共感を得なかったけれど。

本の画象

文春文庫(定価581円+税)
2010年7月刊
佐野真一著
『宮本常一が見た世界』

 「日本地図の白地図の上に宮本君の足跡を赤インクで印していったら、日本列島は真っ赤になる」とは渋沢敬三の言葉。地球4周の16万キロ、4千日の旅。気の遠くなるような行程で宮本は一貫して社会の「影」を記録する。どんなものであろうとも、社会的行為は「光」とともに「影」を作り出す。その「光」が強ければ強いほど、その「影」は地上を広く深く覆うことになる。代表作『忘れられた日本人』には、その影を丹念に描き出す宮本の姿がある。著者の佐野自身、事件、物事の影を膨大な資料と足を使った取材のもとにした現代ノンフィクション作家の第一人者だが、安っぽい正義や現象の表層しか語らない経済、文化学者が多いなか、在るべき原点を宮本に見ているのだろう。

本の画象

ちくま文庫(本体950円+税)
2010年5月刊



2010年 7月26日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


川上未映子著
『六つの星星』
川上未映子対談集

 哲学、文学、精神分析とその分野の第一人者との対談集。哲学好きで、物事をさまざまな角度から深く考えようとする川上未映子の姿勢は、彼女独特の長い文章や書き言葉などに表れていると思った。特に作家松浦理英子との対話は、両者の知性と感覚が互いを刺激しあっており、読んでいてとても楽しかった。

本の画象

文芸春秋(1300円+税)
2010年3月刊
水谷 修、大下大圓著
『手放してみる
ゆだねてみる』


 夜回り先生こと水谷修と、円空仏で有名な飛騨高山千光寺大下住職との往復書簡と対談集。悩み苦しむ多くの人々救おうと、長年にわたり尽力してきた二人。
 「否定するのではなく、あるがままを受け入れ認めることから始まる」等の大下住職の言葉が胸に響く。お寺がもっと社会的に目を向けた活動ができるようにネットワーク  づくりをしているという。未来が明るくなる前向きなこの取り組みを応援したい。

本の画象

日本評論社(1700円+税)
2010年3月刊


大角真代の推す2冊


都築響一著
『夜露死苦現代詩』

 現代詩は詩人だけのものじゃない。老人の独語、死刑囚の俳句、ヒップホップやPCの誤変換までが生活に息づいた詩となるのだ。とにかくジャンルが幅広く読み応えあり。
 綱
 よごすまじく首拭く
 寒の水      和之

本の画象

ちくま文庫(950円+税)
2010年4月刊
山内祐平編著
『学びの空間が大学を変える』

 大学の学習空間をどのように形作るかによって大学教育が変わっていく可能性がある。同じ学習空間でも講義の形態によって変化できる机の開発や空間を活かした学習支援の在り方など6つの面白い取組事例が掲載。刺激的。

本の画象

ボイックス株式会社(1886円+税)
2010年5月刊



2010年 7月19日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


「現代詩手帖」編集部編
「現代詩手帖」 6月号

 短詩型新時代―詩はどこに向かうのか、という特集号。ゼロ年代世代の俳句100選、詩人、俳人、歌人による鼎談、座談会、幅広い論考が盛り込まれていて読みごたえがある。新しさがそこにあるのか、それは疑問だが、こうして包括的に詩を捉えることに意味があるなあと思った。

本の画象

思潮社(1400円)
2010年6月刊
穂村 弘著
『絶叫委員会』

 穂村弘による、日常の言葉の隙間の発見を集めた一冊。糸井重里の『言いまつがい』に通じるところもある。日常の言葉に対する感性が溢れていて、おもしろかった。俳句は別物かなとも思うが、こうした日常感覚も磨いておきたい。

本の画象

筑摩書房(1400円+税)
2010年5月刊


木村和也の推す2冊


司 修著
『蕪村へのタイムトンネル』

 大江健三郎の装丁画家として有名な著者の力作。昭和中期を時代背景にした小説だが、主題は蕪村研究というか、蕪村への恋歌である。蕪村の生い立ちや実生活が考証学的に語られてゆく。一頁ごとに蕪村の俳句がストーリーとは一見何の脈略もなく配されていて、その配合の妙も味わい深い。
 すずしさや鐘を離るゝ鐘の声  蕪村

本の画象

朝日新聞出版(定価3800円+税)
2010年6月刊
塩野七生著
『日本人へ』 
―リーダー編―

 ローマ史の著述に精魂を傾けてきた著者の新聞連載をまとめたエッセイ集。歴史への思考を重ねてきた作家の透徹した眼が、現在の日本の政治状況を的確に捉える。「日韓でも日中でも、学者たちが集まって歴史認識の共有を目指すのは、時間とカネの無駄である」。その語り口は颯爽としている。

本の画象

文春新書(定価850円+税)
2010年5月刊



2010年 7月12日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊


深海俳句会著
『霆』

 1860句からなる合同句集である。主宰・中村正幸の跋に「素直な精神が自然の真、芸術の真への扉を開いてくれる」とある。その跋を読み、山田和歌子の「理科室の骸骨笑ふ大試験」を思った。笑うはずのない骨格模型が人間の欲の象徴である大試験をせせら笑う。せせら笑うことによって、骨格模型は人間を超脱した「骸骨」となる。痛快な句である。神谷あさ江の「秋刀魚焼く片側はまだ海の色」は、生ある物への哀惜を詠んで美しい。

本の画象

文學の森(定価3800円)
2010年5月刊
中村哲・澤地久枝著
『人は愛するに足り
真心は真ずるに足る』
―アフガンとの約束―


 中村は、アフガニスタンで用水路を作り続ける医師である。その中村に澤地がインタビューをした。そこに見えてくるのは、本当に必要な所には政治の手は差し伸べられないということである。アフガニスタン復興支援しかり。中村の現地での活動は、彼の著書『医者、用水路を拓く』(石風社)に詳しい。そこで私が感動したのは、彼が集まった現地職員に向かって語った言葉の中に「死を恐れてはなりません」という言葉を発見した時である。

本の画象

岩波書店(定価1995円)
2010年2月刊


鈴木ひさしの推す2冊


近藤信義著
『音感万葉集』

 「音と声」に注目して『万葉集』を解説した新書。文字による表現として和歌が変わりつつあった時代の『万葉集』から、「音と声」を取り出す。さや、びしびし、さわさわ、さやさや、おきよおきよ、ころく、・・・等々。和歌は実際の音から離れつつあったとしても、トーンとリズムとは一体であったに違いない。

本の画象

はなわ新書(1200円+税)
2010年4月刊
石原千秋著
『漱石はどう読まれてきたか』

 「面白い読み方」も、商品にならなければ意味がない?夏目漱石作品の「面白い読み方の商品カタログ」を目指した本である。論文は商品、タイトルは商品名、もっと読まれることを意識すべきだ、ということだ。作品ごとの「梗概」、「ふつうの読み方」、個性的な論文の輪郭が紹介される。「商品カタログ」として読み、使いたい本である。

本の画象

新潮選書(1500円+税)
2010年5月刊



2010年 7月 5日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


佐々木幹郎著
『旅に溺れる』

 この詩人の旅に関わるエッセーはいつも楽しい。この本も書名どおりに旅のエッセーが中心。たとえば「女性がしきる赤岡、絵金の町」。高知県赤岡の絵金歌舞伎を話題にしているのだが、上の前歯2本に絵と金の金文字を彫った「横矢のおばば」が紹介されている。赤岡のアイドルのこの人、だれもが思いつかない突拍子もないことをする。そういうおばばに著者は溺れる。おばばは著者に言う。「まっこと、オナゴに負けよったらいかんぜよ。ええめに会いない(会いなさい)」。

本の画象

岩波書店(2000円+税)
2010年5月刊
大井浩一著
『六〇年安保』
メディアにあらわれたイメージ闘争

 イメージ闘争が前景化した最初のケースとして60年安保を検証している。その闘争はやがて小泉首相の政治の劇場化現象につながると説くが、この論理には説得力がある。俳句のような短い文芸では、時代のイメージと言葉が密接にからまる。そのからまりを避けると俳句の言葉が空虚化する。つまり芭蕉のいう不易流行の流行にあたるのが時代のイメージ。著者は1962年生まれの毎日新聞社学芸部編集委員。

本の画象

勁草書房(3200円+税)
2010年5月刊


塩谷則子の推す2冊


金子兜太・佐々木幸綱著/黒田杏子編
『語る 俳句 短歌

 対談時、90歳の兜太と70歳の幸綱に共通するのはさわやかさ。蒸し暑さを緩和してくれる。結社誌「心の花」掲載を年功序列からあいうえお順にした幸綱。大切な人の名前を200名ぐらい!心に唱える立禅を毎日欠かさない兜太。自由闊達に生きると風通しがよくなるようだ。

呼吸とはこんなに蜩を吸うことです 兜太

本の画象

藤原書店(2400円+税)
2010年6月刊
船曳由美著
『100年前の女の子』

 小学生高学年から中学生むきに書かれた児童書。  百歳になる筆者の母の少女時代を描くことによって足利市近くの村の行事を丁寧に描く。養女に出されたことのある母が実母を恋う物語でもある。行事のあれこれが懐かしい。また、失われたものに気づかされる。例えば、まず食べ物を、と物乞いの親子におにぎりを作ってあげるおばあさんの気持ち。

本の画象

講談社(1600円+税)
2010年6月刊

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