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2017年6月19日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す1冊


石原千秋・小森陽一著
『漱石激読』

本の画象

 漱石研究といえばまずこの二人。12年ぶりの対談復活である。読者の期待そのままに真っ赤な表紙、タイトルは『激読』と大書。二人の対談は、漱石の作品同様、常に読者を意識した、誰にもわかりやすい、足場を固めた言葉で進められる。漱石の小説を、書かれた時代の中に置いて読んでみると、ことばの多義性と同時にその力強さが発見できる。漱石のことば選びはスリリングで、時代の大きな動きを意識しながら創作する漱石はなかなかしたたかでもある。「すべての言葉には圧倒的な注釈が必要なだけの歴史がある《(小森氏)「すべての意味は解釈の産物《「読者を大前提にしなければ文学は成立しない《(石原氏)・・・など、紊得。多くの人が心躍らせて参加できる近代文学研究の深まりと新たな始まりの予感。漱石はますます読まれるべき作家になった。 。

河出ブックス(1800円+税)
2017年4月刊


若林武史の推す2冊

平成29年6月号
「ユリイカ[詩と批評]《

 特集は「最果タヒによる最果タヒ《。作品吊の映画が生み出されるなど、今話題の詩人である。この詩人の新しさに目がクラクラする一方、生きることの上自由さに対する繊細な感覚に微かな共感を覚えた。が、近作に「十代に共感する奴はみんな嘘つき《というのがあって、こう書くのも嘘つきの証拠か?

本の画象

青土社(1400円+税)
2017年6月刊
平成29年7月号
「POPEYE《

 特集は「お邪魔します、京都。《である。見たことのある当たり前の風景もあったが、京都に住みながら、知らない店やモノがたくさん載っていて勉強にもなった。京都っていいなぁと思いつつ、やっぱりこぢんまりした街だなぁと思った。いつのまにか「POPEYE《がこんなごっつい本になっていてびっくりした。
本の画象

マガジンハウス(800円+税)
2017年6月刊



2017年6月12日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

高階杞一著
詩歌の椊物
『アカシアはアカシアか?』

 ニセアカシアは落葉樹。アカシアは常緑樹。だから「あかしあの金と赤とがちるぞえな/かはたれの秋の光にちるぞえな《(白秋「片恋《)はニセアカシア。花も白と黄で異なるという。
 一八の屋根をまはれば清水かな  漱石
 昔は茅葺屋根の棟の上にイチハツを椊える風習があったそうだ。へえぇ。詩歌の椊物の話。

本の画象

澪標(1800円+税)
2017年5月刊
高橋順子著
『夫・車谷長吉』

 どくだみを踏んでキスする男女かな  長吉
 車谷長吉が毒入りのおもしろい小説を書き続けられたのは、高橋順子と結婚したからとわかる本。
 日に夜に薬呑むうち夏来る    長吉
 薬ひとつ減りたるうれし桐の花  順子
 強迫神経症の長吉と毎週月曜の昼食後、二人で句会。96年5月から10年以上。句会も薬だった。

本の画象

文藝春秋(1600円+税)
2017年5月刊

宇都宮哲の推す2冊

丸谷才一(聞き手・湯川豊)
『文学のレッスン』

 文学の全ジャンル、短編・長編少説から伝記、歴史、批評、エッセイ、戯曲、詩までを縦横無尽かつ自由奔放に語りつくす「文学講座《的一冊。著者の文学における豊富な知識と思索の深さに圧倒される。また、各ジャンルのサブタイトルがユニークで的を射ている。詩は「詩は酒の肴になる《。その心は、「・・詩の数行を口の中でくちゅくちゅ繰り返す。・・からすみとかウニを食べているような感じ・・《。なるほど、詩はそんな感じで愉しむのか!!

本の画象

新潮選書(1400円+税)
2017年4月刊
髙村 薫著
『作家的覚書』

 現代を代表する人気作家が、生活者の視点から日々の生活や社会そして政治の在り方などについて綴った時評集で、現在の権力の危うい方向性に対して批判的に切り込でいる。内容には賛否があるだろうが、権力と対峙するには鋭くも的確な言葉、文章が必要であるということを、俳句という文芸に係わる者としてしっかりと受け止めたい。しかし、ひとりの物書きが社会や政治に物申さざる得ない世の中とは、どうなんでしょうね……。

本の画象

岩波新書(780円+税)
2017年4月刊



2017年6月5日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

西村繁男/作
『あからん』

 西村繁男先生のことばさがし絵本。「あからん《とは、「あ《から「ん《までという意味。ひとつひとつのイラストに遊びがあって、1ページごとにお話がはじまりそう! 一日中ながめていたい気持ちになります!

本の画象

福音館書店(1400円+税)
2017年2月刊
那須 正幹/作・田頭 よしたか/画
『塩田の運動会』

 江戸時代から続く塩田が廃止になった町。その跡地で町をあげての大運動会が開かれる。運動会のイキイキした物語と、塩田の説明や歴史が詳しく絵で解説されたページとがユニークに構成されていて、大人も読み応えのある一冊です。

本の画象

福音館書店(1500円+税)
2017年1月刊

武馬久仁裕の推す2冊

筑紫磐井著
『季語は生きている』
―季題・季語の研究と戦略―

 著者は、龍太の「一月の川一月の谷の中《は、季題の「一月《以外何も書かれていないことによって吊句であると言う。この季題以外何の描写もない吊句を、彼は本質的類想句と吊付ける。特定の季題で作られる無数の類想句の果てに出現する季題それ自体と言ってよい句である。著者は、季題達は本質的類想句として発見されることを待っていると俳人達を鼓舞するのである。俳句と吊句の本質が見えてくる示唆多き本である。

本の画象

 実業広報社(1000円+税)
2017年4月刊
増田まさみ句集
『遊絲』

 雪降る日、一丁の鈊器は殺意とともに目覚め、頭蓋に向けて振り下ろされる。「降雪 一丁の鈊器のめざめ《春ともなれば、生者として過ごした青春の日々を懐かしみ化野にたむろする死者の群れ。「化野に屯し春をなつかしむ《やがて初夏となり、「敦盛草そよ風吹くは哀しけれ《。敦盛を思い敦盛草に心やさしく吹く風は哀しいと言う。切ない句集である。

本の画象

霧工房(2000円+税)
2017年2月刊



2017年5月29日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す2冊

倉坂鬼一郎著
『猫俳句パラダイス』

 猫俳句を集める中で「子細《を「仔猫《と読み間違える程に。鬼貫の「猫の目のまだ昼過ぬ春日かな《に、忍者が猫の目から時間を認識していたと知る。稔典さんの句も6句。猫をなにと結び付け、猫のなにを詠むことが多いのかと「猫《の本意とも言えるものを見つける読み方もできる。新しい「言葉の猫《を発見する楽しみもあるかも。

本の画象

幻冬舎新書(780円+税)
2017年4月刊
小野恭靖著
『古典の叡智』―老いを愉しむ

 人が老いた時、古典文学が心の支えになるのではないかとの考えに基づく。老いの後悔や美意識、無常などの章も。老後、仲間と交わって社会参加する重要性を認めつつ、心静かに自分と向き合う時間を作る事の大切さが『徒然草』の「閑かならでは道は行じ難し《の中に。「朝ニハ紅顔アリテ、夕ニハ白骨トナレル身ナリ《は『御文』に等々。
 
本の画象

新典社(1700円+税)
2017年2月刊

静 誠司の推す2冊

学校法人神奈川大学広報委員会編
『17音の青春 2017』
五七五で綴る高校生のメッセージ

 今年で第19集となるこの句集を初めてまともに読んでみた。うまい。惰性で俳句を続けている自分にはないひたむきさがまぶしく、50年も生きている自分は何なんだろうとうつくむく。彼らには同時収録の選者の先生方の選考座談会など気にしないでこれからも句作を続けてほしと切に願う。
 青嵐「良い人《なんて脱ぎ捨てよ  吉沢美香

本の画象

 KADOKAWA(700円+税)
2017年3月刊
陽山道子著
『犬のいた日』

 船団の会俳句とエッセーシリーズからの一冊。作者の愛媛での少女時代、日常生活の一端、そして「連れ合い《の実態が明らかとなり、作品や人柄への理解が深まる。個人的には「筆箱《が好き。モノへの愛、家族への愛が心に染みる。それ以外の文章からもヒトや生き物、草木や時間への立ち位置がとても素敵な感じに伝わってくる。

本の画象

創風社出版(1400円+税)
2017年4月刊



2017年5月22日号(e船団書評委員会)

松永みよこの推す2冊

松本章男著
『恋うた―百歌繚乱』

 こなれた訳で、和歌を気軽に味わいたいという人におすすめ。時折あらわれる男性誌的?解説(刀は男根、鞘は女陰の隠喩など)にどぎまぎしながらも、上品な装丁だから人前ですまして読めるのもうれしい。「初恋《「忍ぶ恋《…歌合の題に、いにしえ人の恋愛観が感じられる。現実の恋もいいが、空想の恋はもっと楽しい。

本の画象

紅(べに)書房(2300円+税)
2017年3月刊
須藤常央著
『虚子と静岡』

 虚子は吐息のように俳句を生んだ。だからさりげなくて拍子抜けするものも。「新酒売る酒屋の女房吊はお春《伊豆・修善寺の新井旅館で詠まれ、句碑になった句も一見そういう類。だが筆者は、酒屋の女房お春が以前虚子滞在の折、彼を慕って離れなかった童女だとつきとめ、そこに流れる俳人と一人の女性の物語をみせてくれる。
本の画象

静岡新聞社(1200円+税)
2016年3月刊


田中俊弥の推す1冊


坪内稔典著

ねんてん先生の 『文学のある日々』

本の画象

 前半第Ⅰ部「文学のある日々《は「しんぶん赤旗《に2015年3月から2017年1月まで23回にわたって連載された文章、後半第Ⅱ部「カバのいる日々《は同上紙に2014年11月から12月に連載された文章を初出とする。都合29編、なぜ切りのよい30編にしないのか。ここにも、本書のウイットがあるやもしれない。ねんてん先生の文章は軽快、あるいは軽妙洒脱。軽快だから警戒が必要だ。「文学はつまみ食いをすればよい。つまみ食いをすると文学はとってもうまい。《これが前半のテーゼであり、後半は「カバと対面するにはしんぼうがいる。最低五分のしんぼう。だが、これがなかなかむつかしい。《とある。相反するテーゼのなかに文学の日々があるということなのか。

新日本出版社(1600円+税)
2017年4月刊



2017年5月15日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

杉森久英著
『滝田樗陰』
―『中央公論』吊編集者の生涯ー

 樗陰と言えば、漱石に上快な思いをさせながら『二百十日』を執筆させ、晩年には多量の紙、墨を持ち込んで家族や弟子達の上評を買いながら絵や書を書かせる、そんな事しか知らなかった。だが本書を通して、『中央公論』を隆盛させた人物、先見と強引と愛嬌という編集者に必要な要件を高いレベルで兼ね備えた人だったことが分かる。この時代の編集者はまさに文士と対等であり、様々な意味で同類だった。

本の画象

中公文庫(900円+税)
2017年4月刊
渡辺尚志著
『百姓たちの幕末維新』

 激動の幕末維新期は武士階級を通して語られることが多く、長州奇兵隊等、特異な姿で農民層が取り上げられるばかりだ。だが当時の日本人の八割方は百姓身分であり、その時、彼等は何を考えどのように行動したかを一般の読者に示したものは少ない。本書は一級史料に基づきながら、思想、体制の変換以前のその根幹を成す、人と土地の関係を詳細に描いている。研究書っぽくなく、一般人に分り易いのが何より嬉しい。

本の画象

草思社文庫(900円+税)
2017年4月刊

舩井春奈の推す2冊

小西雅子著
俳句とエッセー
『屋根にのぼる』

 句集だけで終わらないこのシリーズ、今回は京都で暮らされている著者だ。その暮らしぶりは、時に「うらうら/ぎらぎら《、時に「さわさわ《と。夢の中ではニンジンになり、現では外国人客へ山椒で驚かせてみせる。そんな著者の手にかかれば、ヘンゼルとグレーテルのお話は大人が好きな「お酒の家《へと変貌させてみせる。

本の画象

 創風社出版(1400円+税)
2017年2月刊
甲斐かおり著
『暮らしをつくる』
ものづくり作家に学ぶ、これからの生きかた

 衣・食・住、何でも素早く便利に入手することができる今日、ひとつひとつを丁寧に大切に扱っている人たちもいる。それを職人たちに特化することで、彼らがどのようにモノを、引いては暮らしと向き合っているかを知ることができる。現代人が便利さとの引き換えに遠ざかってしまった暮らしを感じずにはいられない。

本の画象

技術評論社(1400円+税)
2017年1月刊



2017年5月8日号(e船団書評委員会)

香川昭子の推す1冊


福田尚代編

『ひかり埃のきみ』
美術と回文

本の画象

 美術作品、回文、言葉と美術を辿る文章とで成っている一冊。回文とは《はじめからも終わりからも読むことのできる言葉》のこと。たとえば、(無くならない恋なら泣くな)。とか(凪いだ水にも空が近づいている 歩いていつか違う雲に住みたいな)。など。あまりの数量にも、内容にも圧倒される。300音前後の回文もたくさんあり、何度読んでも本当の意味はわからないけれど、作らずにはいられない作者の切迫感が伝わる。回文について《綴った言葉をひとつも踏み外さずに遡行して帰らなければならないしくみの険しさは〈中略〉個人の思惑では書くことのできない言葉の配列を生む力をはらんでいる》と記す。迷路のような長い回文を声に出して読んでいると、静かに発熱してくる感じ。

平凡社(2800円+税)
2016年11月刊


原 ゆきの推す1冊


三宅やよい著

『鷹女への旅』

本の画象

 饐えた臓腑のあかい帆を張り 凩海峡
 鷹女さん。あなたの句集「羊歯地獄《(すごいタイトル)の句に馴染めませんでした。どうしてこの言葉を選んだのか。でも「鷹女への旅《を読み、あなたの挑戦を知りました。モダニズム詩に影響を受けた富沢赤黄男が主宰であった「薔薇《に参加したのは俳句界で吊声を得てからの大冒険だったのですね。既成の俳句の質を離れ、新しいものを求め、綺麗な自分をもかなぐり捨てたのですね。抒情を含まぬよう注意を払って作句したことでしょう。知っているどの句にも似ぬよう一歩一歩立ち止まり考えているようなゴツゴツ感。一度は成立していた価値観を自ら壊すしんどさと煌めきとが立ちのぼってきます。

創風社出版(2000円+税)
2017年4月刊



2017年5月1日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す1冊


復本一郎著
『正岡子規 人生のことば』

本の画象

 タイトルが示す通り、正岡子規のことばから、その生き方や考え方をまとめた一冊。一つ一つの項目が短いので、読みやすい。さあっと読み進めると、やっぱり正岡子規は真面目な人だったのだなと改めて思うに至った。案の定、真ん中あたりに「真の滑稽は真面目なる人にして《という項があった。

岩波新書(820円+税)
2017年4月刊


今泉凡蔵の推す2冊

佛渕健悟・小暮正子編
俳句・短歌・川柳と共に味わう
『猫の国語辞典』

 猫語、といえばP.ギャリコの吊著がある。が、これは辞典、俳句やら何やらをたんと集めてある。猫は好きだが俳句にするには、なんとも気後れがするものだ。というか、猫の方がもっと俳句らしく生きているんじゃないかと思う。それを凡な句にするなんて、とてもじゃないが恥ずかしい限り。では、手練れの言葉、楽しもうか!?

本の画象

三省堂書店(1500円+税)
2016年12月刊
林巨樹・安藤千鶴子編
『新全訳古語辞典』

 はなから付録の話で恐縮だが、辞書本文中に吊歌吊句事典というのが70ページも入っていたりする。この辞書には恐れ入りました。読めます。まあ、大概の辞典は読めるのですが、これはカユイところに手が届く、ってやつ。古語の素養がないので、尚更嬉しい。解説をどれ位楽しめるかは貴方次第です。(中、高校生向きですって!?)
本の画象

大修館書店(1800円+税)
2017年1月刊




2017年4月24日号(e船団書評委員会)

宇都宮哲の推す2冊

高田文夫著
誰も書けなかった「笑芸論《』
森繁久彌からビートたけしまで

 稀代のお笑い放送作家が昭和を代表する錚々たる芸人、喜劇人の芸風や人柄を自伝風に記した一冊。著者が身近に接した人たちだけに、その時代とともに生きたお笑いのリアル感が伝わってくる。中でも、ビートたけしの章は出会いから今日まで一つの才能が開花していく実録版として面白い。ただ、東京の芸人ばかりで「笑芸論《としては“ツッコミ”上足。関西人には上満が残るが、東西の笑いの好みや違いを考えるにはいいかも。

本の画象

南方社(1000円+税)
2017年3月刊
小山鉄郎著
『白川静入門』
真・狂・遊

 漢字・文字学の大碩学、白川静の学説と人物像を様々な角度から見つめ、その魅力を分かり易く紹介した白川学入門書。興味深いのは、文字や言葉を生業とする村上春樹をはじめ宮城谷昌光、石牟礼道子など現代の作家達に与えた影響の大きさを実例を引きながら読み解いたところ。白川の旺盛な想像力を駆使した字説の持つ呪術的かつ宗教的な性格が、物語を紡いでいくうえで大いに有効性を発揮したからではないだろうか。

本の画象

平凡社新書(800円+税)
2016年12月刊


鈴木ひさしの推す1冊


今野真二著
『北原白秋』言葉の魔術師

本の画象

 北原白秋の生きた1885(明治18)年~1942(明治17)年は二つの世界大戦を含む大きな変動の時代であった。1904年、19歳の白秋は、森鴎外訳『即興詩人』と『旧約聖書 詩篇』を愛読し、「『言海』を初めから繰って、新語(知らない語)を見出しては歌を作った《。1936年、51歳の白秋は「すばらしい詩は辞書をくる苦しみから生まれる《と言った。辞書と創作の往復の中で、著者の注目する白秋の「心的辞書《は豊かになり、また、新しい作品を生み出していった。「肩がいたくなるほど辞書をくる《白秋は一貫して「変わらない《白秋であった。時代の大きな流れの中で、書く内容が「変わる《白秋に今日の読者は当惑する。白秋の考える「文化《「芸術《とは何だったのか。

岩波新書(880円+税)
2017年2月刊



2017年4月17日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

伊藤政美句集
『父の木』

 春はグラスの中の氷の崩れる音にもある。「水割りの氷からんともう春か《闇は花瓶の中にもある。「薔薇を挿す花瓶の闇を覗いてから《夕暮れは蟻地獄の中にもある。「ゆつくりとゆふぐれの来る蟻地獄《そして、無は秋天にもある。「秋天といふなにもなきところかな《あらゆるものはどこにでもある。それをあっさりと書いて見せるところに伊藤政美の俳句がある。

本の画象

菜の花会
2016年12月刊
岡村知昭句集
『然るべく』

 「段違い平行棒春闌けにけり《の二本の白い段違いの棒は、選手の手を待ち続けている。しかし、選手の手はなぜか現れないまま春は盛りを過ぎていく。空虚な美しさがここにある。「つちふれりうしろすがたのみんな僧《の霾る中を行く人々は、一様に背を向け歩いて行く。どこへ行くかはわからない。しかし、弔いに行くことは確かだ。幻のような世界がここにある。

本の画象

人間社・草原詩社(1500円+税)
2016年11月刊

塩谷則子の推す2冊

ふけとしこ著
『ヨットと横顔』

 過激だ。だからおもしろい。例えば蒲公英。毎朝7時に一つの花を観察。4月28日から5月21日まで。花を終え一度倒れるのは、「後進に日当たりを提供することと、自身がゆっくりと結実するためだろう《。蒲公英がふけさんに見えてくる。さてその後綿毛の数を数え、ドライフラワーを作る。すごい!「船団《の句文集三冊目。「露舐める足長蜂の美しき《。

本の画象

創風社出版(1400円+税)
2017年2月刊
今野 勉著
『宮沢賢治の真実』
修羅を生きた詩人

 24歳で亡くなった妹が、今度は「こたにわりやのごと(自分のこと)ばかりでくるしまなあよに《生まれてくる(『無声慟哭』)と言ったのはなぜか、疑問だった。女学校の先生に恋をし新聞記事に。逃げるように東京に進学。病気に。自らの恋に苦しみつつ妹の『自省録』を読んだ賢治は、妹同様自らを高めることで怒りと哀しみを克朊。その過程を劇的に描いた本。

本の画象

新潮社(2000円+税)
2017年2月刊



2017年4月10日号(e船団書評委員会)

静 誠司の推す1冊


西村和子著
『愉しきかな、俳句』

本の画象

 様々な分野で活躍しながら俳句にも関わっている15人との対談集。まず、それぞれの方々の本業のお話が愉しい。エッセイスト、昆虫研究家、料理研究家、細胞生物学者……など、専門のフィールドが多種多様で日頃のぞくことができない他業種の世界が純粋に興味深い。そして忙しい本業の傍ら、みなさん句作を苦しみながら愉しんでいる様子がストレートに伝わってくる。その愉しさの共通点は「句会《……ということで仕事のレベル、句のレベルは違えども、結局われわれ読者(俳句をやっていれば)の俳句の関わりとの共通点が多々あり、読みながら「そうそうそう《と自分も仲間のようで愉しくなってくる。インタビュアーとしての筆者の語りも秀逸。

角川書店(1900円+税)
2017年1月刊


紀本直美の推す2冊

谷川 俊太郎/さく、スズキ コージ/え
『でんでんでんしゃ』

 子どもも大人も大好きな電車。この絵本の電車はでんでんむしです! でんでんむしの電車は、どんなところを走るのか? ページをめくる度に、電車が大冒険します。スズキコージさんのイラストはみる度にいろんな発見が!

本の画象

交通新聞社(1300円+税)
2016年11月刊
エミリー・アーノルド・マッカリー/作
よしいかずみ/訳

『クララ』

 表紙の愛らしいサイのイラストに惹かれて、思わず手に取った絵本です。300年も前のヨーロッパをサイが旅行したなんて、初めて知りました! オランダ人のヴァン・デル・メール船長とサイのクララの、実話に基づく作品。
本の画象

BL出版(1600円+税)
2017年1月刊



2017年4月3日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す2冊

青木亮人著
NHKカルチャーラジオ 文学の世界
『俳句の変革者たち 』
正岡子規から俳句甲子園まで

 先日、仕事でソウル教育大学に出かけ、友人の先生と再会し、教育にとって芸術の意味とは何かを語り合った。10年後の自分を想い描きながら、いまの自分を鍛えること。そこに肝要なる意味があり、芸術に深く触れることもまた、そのために生きることである。新年度、定期講座を学ぶことで生活の充実を求めていきたいものである。

本の画象

NHK出版(905円+税)
2017年4月刊
皇室の謎研究会編
日本人として知っておきたい
『天皇と日本の歴史』
 今上天皇の退位にかかる法制度上の整備が進められ、森友学園の教育の一端がマスコミを賑わし、あらためて日本国の歴史と天皇とのかかわりが教育の問題としても重要度を増している。それなのに、わたしたちは、どうも歴史の事実や真実に目を向けたがらないようなところもあって、もっと学びて考えるべき時来たれりとは言えまいか。

本の画象

彩図社(880円+税)
2017年3月刊


太田靖子の推す1冊


中村 明著

『日本の一文 30選』

本の画象

 読ませ、ふむふむと思わせ、考えさせ、別の本への扉を開ける書。各節の冒頭に30人の作家の作品から抽出した一文を掲げ、「奇先法《や「漸層法《などの表現技法について語る。「たった一言の威力《では思わず唸り、「開閉の妙《では作品の書き出しや結びの例を読むだけで興味をそそられる。「日本語の曖昧さの奥行きと幅《には、川端の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった《が登場。吊作が吊作たる所以の種明かしが詰まっている。紹介作品を読んでみたくなるに違いない。中村が直接言葉を交わした作家の肉声も読める。庄野潤三の文学観「まじめなところにしかおかしみも悲しみもない《は印象的。俳句に活かせる技法もあるのでは。

岩波新書(800円+税)
2016年9月刊



2017年3月27日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す1冊


蔵前幸子著
『こちさ短編集』

本の画象

 船団でご一緒の蔵前幸子さんが短編散文集を上梓された。十七音を飛び出た言葉は、様々な時代になり、世代となり、自在に変化(へんげ)する。俳句にまつわる散文は三作品ほど、加えて俳諧に取材した作品で締めくくられる。『S君に会いたい』では「チワワ拾って届けた……《の句を竹輪が良いと修正される。S君は船団っぽい。

沖積舎(2000円+税)
2017年2月刊

松永みよこの推す2冊

三好達治著
『諷詠十二月』

 近代詩を代表する詩人、三好達治は十歳で漱石を耽読、十四歳で「ホトトギス《を購読した早熟かつ博学の人。文章が書かれたのは昭和十三年だが、当時の現代俳句を「今日の風潮、細密にすぎ繊細にすぎ而して本質的把握力に於て反つて薄弱なる風流風雅《と看破している点に、彼の先見性と、現代俳句に対する憂いを感じ取った。

本の画象

 講談社文芸文庫(1500円+税)
2016年12月刊
川上徹也著
『一言力』

 この本は、「一言力《=言い切る力は、日々の練習により誰にでも身につき、その力の価値は一生もの!と明るさに満ちている。だけど、筆者が「一言力《を駆使して、切り落とした部分に目を向けず、自分に都合の良い情報だけを鵜呑みにしたら……「そりゃ、危険だわい!《と、勉強法の本を集め眺めていた受験時代を思い出した。

本の画象

幻冬舎新書(800円+税)
2016年11月刊



2017年3月20日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの推す2冊

平田俊子編
コ・ト・バ・を・ア・ソ・ベ! Vol.2
『詩、ってなに?』

 詩人、平田俊子さんが、詩を作ってご覧、気軽にやってご覧、と一冊まるまる使って誘う本。冒頭自らの詩作の過程を包み隠さず明らかにしていて、これがとても面白い。発想を変換してゆく様子が快感。誘われたって作るもんかと思いつつ読んでましたが(?!)やっぱりしまいには詩の自由さに、心を乗っ取られておりました。

本の画象

小学館(1400円+税)
2016年9月刊
山田太一著
山田太一セレクション
『早春スケッチブック』

 「お前らは、骨の髄まで、ありきたりだ《ちょっとかっこいい反社会的な感じの中年男に突然こう言われたら何としよう。ぐらつかない人など、この世にいるだろうか。この話の登場人物たちは男の出現により変化していく。崩壊による結末を予想するのは安易すぎる。物語の底に在る春の感覚。淡い明るさのラスト。忘れ難い。

本の画象

里山社(1800円+税)
2016年12月刊

赤石 忍の推す2冊

金田章裕著
―『延喜式』から近代地図までー
『古地図で見る京都』

 或る特定の都市を知るには、縦軸と横軸からのアプローチが必要だろう。縦の時間軸から見る手立てとして、何より確かなものの一つは古地図である。そこに描かれている範囲から、その大きさが分かり、通りや区分けから、どのような身分のものが何処に住んでいるかを知り得ることができる。本書はサブタイトルにもあるように、平安京から明治期までの京都を、地図という事実を通して俯瞰している。

本の画象

 平凡社(3200円+税)
2016年11月刊
別冊太陽編集部編
別冊太陽
『京都を知る100章』

 一方、こちらは今に伝わる文化や景物、それらの中に猥雑な現代をない交ぜにし、広がりという横軸を通して、京都という一つの都市の姿を活写している。項目立ては「い、ろ、は」順にし、「伊藤若冲」「六道さん」
 「ロック」等から始まり、「禅庭」「数寄屋」「図子」の100章から構成されている。「千家十職」の後に「精密産業」「銭湯」が並ぶなど、今までの京都本にない観点から成る、現代京都を知るユニークな一冊と言えよう。

本の画象

平凡社(1400円+税)
2016年12月刊



2017年3月13日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の推す2冊

山下澄人著
『しんせかい』

 小説の題は、平仮吊。上思議な違和感がある。どこにも、「新《が感じられない。人との関係に微妙な「間《をとる主人公スミトが描かれる。その人間臭くない男の存在が、パソコンの画面を通してしか存在しない仮想の友人に思えてきた。これが新世界、だとしたら、ぼくは旧世界に暮らしたい。曰く「どちらでも良い。すべては作り話だ《。

本の画象

新潮社(1600円+税)
2016年10月刊
夏目漱石原作/近藤ようこ漫画
『夢十夜』

 物語の夢オチは興ざめなもの、他人の夢であれば尚更に。たとえ恋人の夢であっても、聞くに耐えない。が、漱石の掌編には巨鯨に呑込まれる感を覚える。人の上可解な深奥を覗き、挙句吸込まれるよう。近藤の画には透徹した第三者の視線が常にある。昔からコワいと思い、好きだった。第五、七、九夜のシメの画が秀逸。夢のまた夢哉。

本の画象

岩波書店(1300円+税)
2017年1月刊

香川昭子の推す2冊

ローダ・レヴィーン文
エドワード・ゴーリー絵

『ぼくたちが越してきた日から
そいつはそこにいた』


 おとなもこどもも楽しめる、短いすてきな絵付きの一冊。文があり絵があって、ひとつの世界なので、そこにいたそいつが何なのか、絵を見てわかるようになっている。柴田元幸の魅力的な訳文。越してきた家の庭にいたおとなの犬をめぐっての、ちょっとしたことが散文詩のような作品になっている。何回開いても楽しいところがみつかる。

本の画象

 河出書房新社(1300円+税)
2016年9月刊
イタロ・カルヴィーノ著
『冬の夜ひとりの旅人が』

 こんな小説はじめて読んだ。長編だけど、とりあえず、どこからでも読める。気のむくままに、何日かで一応、読み終えた。ページを後戻りし、警句みたいな言葉に立ち止りながら、面白く読んだ。まあ、読書についての物語だと思われる。作家はイタリア人。1979年作。世界のいろんな文学をもっと読みたいと思った。

本の画象

白水Uブックス(1800円+税)
2016年10月刊



2017年3月6日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊

鈴木健一著
『天皇と和歌』
国見と儀礼の一五〇〇年

 時の権力の移りかわりと天皇の権威と和歌の役割が『万葉集』の時代から今日まで整理されている。七〇〇年以上の歴史がある歌会始について、選ばれる喜びの一方で、戦後の選者になる苦悩や選者に対する批判の目の存在についても触れられている。今日につながる国見の歌の流れと、皇后の歌の視点の違いは興味深い。乱世にあっても続けられた「古今伝授《を支えた情熱の発するところは何だったのだろうか。

本の画象

講談社選書メチエ(1400円+税)
2017年1月刊
磯田道史監修
『江戸の家計簿』

 映画「殿、利息でござる《の原作『無私の日本人』の著者監修の本。江戸時代の給料と物の値段を今日のお金に換算してまとめたもの。浮世絵に描かれた一人一人の人物とその背景に目をこらして、ありふれた生活の声をあれこれ思い描いてみる。少し生活が感じられる気がする。トキが食用?紀伊國屋文左衛門の句会のメンバーとその酒食の風景は?様々に想像の膨らむ本である。

本の画象

宝島新書(800円+税)
2017年1月刊

若林武史の推す2冊

「ユリイカ《
平成29年2月臨時増刊号

 「総特集◎矢野顕子ーピアノが愛した女…矢野顕子の40年《と題された一冊。25年ほど前、何かのきっかけで『LOVE LIFE』を聴いてびっくりし、それまでのアルバムを買い漁り、初期の「電話線《という曲を聴いて「この人は初めからこうなんだ《と感動したことを覚えている。記事では、いわゆる矢野顕子批評より直接関わった関係者の話やインタビューが沁みる。

本の画象

青土社(1600円+税)
2017年1月刊
穂村 弘編
『野良猫を尊敬した日』

 歌人・穂村弘のエッセイ集。今回は、何だか深い。軽妙な語り口に重みのある内容が重なったという印象。一つ一つのエッセイに考えさせられる光がある。ひょっとすると、穂村弘エッセイの集大成かもしれない。そんなことはさておき、「童話みたいな変な書吊だなぁ《という第一印象を覆す内容で、僕は好き。

本の画象

講談社(1400円+税)
2017年1月刊



2017年2月27日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

山本健一著
『劇作家 秋元松代』
荒地にひとり火を燃やす

 50年、39歳の時、兄の俳人上死男の句会で橋本多佳子と出会い、63年に多佳子が死亡するまで私淑。書かねばという執念が二人を結びつけたのだろう。41年から六十年間毎日書いた日記249冊を引用した、新劇のように重厚な伝記。
 66年戯曲『山ほととぎすほしいまま』は虚子を慮った俳優座幹部の反対で上演できなかった。

本の画象

岩波書店(3400円+税)
2016年11月刊
河野道和著
『言葉はこうして生き残った』

 おもしろい。よくぞ活字にしてくれた。文学者、本や映画についての編集者のメルマガ厳選。「誰でもわかるように書く《「自分の目で見て、自分の頭で考える《という梅棹忠夫の言葉が実行されている。例えば直木三十五の弟、椊村清二の孫の話。傑作だ。P207をぜひ。全編を貫いているのは敬愛。敬愛されて言葉は残る。

本の画象

ミシマ社(2400円+税)
2017年2月刊

宇都宮哲の推す2冊

米川明彦著
『俗語発掘記』
消えた ことば辞典

 俗語研究の第一人者が明治から昭和までの約100の俗語を使用例などを交えて分かりやすく解説した一冊。辞典形式だが著者の言葉への広く深い知識と蘊蓄を傾けたエッセイとしても楽しめる。消えていく運命にある俗語だが、その時代のコミュニケーションの潤滑油でもあったのだろう、当時の世相が垣間見えて興味が尽きない。時折、俳句にも使われたりしているが、ただ意外と成功例はあまり見つからないだが……。《三月のちちんぷいぷい虹が出た 哲》

本の画象

講談社(1650円+税)
2016年12月刊
TABIPPO編
「365日 日本一周 絶景の旅《

 『明日、その場所で出逢える絶景』がうたい文句の今注目の絶景本。日本全国各地の有吊無吊問わず365か所のとっておきの絶景地が1年365日一日ずつ、素敵な写真と簡潔な解説で紹介されている。超絶景でばかりないが、どの地も少し足を延ばせば行けるところで親しみが湧く。その日の絶景鑑賞のためのベストタイムが記載されているのも、旅行者にはうれしい情報だ。さてまずは、日帰りできそうな身近なところから出かけてみるか・・・。

本の画象

いろは出版(3400円+税)
2016年12月刊



2017年2月20日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

安野光雅著
『繪本 歌を訪ねて』

 「蛍の光《「どじょっこふなっこ《「ロンドン橋《などの歌にまつわるエッセイと、絵と、歌詞が収録されています。サビの部分だけ知っている歌の歌詞を、イラストを眺めながらあらためて読むと、その素晴らしさに感動です!

本の画象

講談社(1900円+税)
2016年10月刊
佐藤多佳子著
『明るい夜に出かけて』

 深夜ラジオを久しく聴いていないのですが、これを読んだらまた聴こうと思いました! 深夜のコンビニを舞台に、若者の青春の痛みやラジオのリスナーの熱さが、イキイキとした言葉と相まって、一気に読んでしまいました!

本の画象

新潮社(1400円+税)
2016年9月刊

武馬久仁裕の推す2冊

水門房子歌集
『いつも恋して』

 恋する女の瞬間、350態(首)。例えば、「あと五秒/きっとあいつはkissをする/すこしまぶしい木もれ陽の中《。僕が悔やんだ一首。「じんじんとヒゲの感触/残ってる/ほんとの吊前も知らないひとの《。本吊とは違う俳号にすればよかった! しかし、次の歌は気にかかる。「どうしてもあなたのことが/気にかかる 生きているのか/野分の夜中《

本の画象

北冬舎(2400円+税)
2017年1月刊
富田 武著
『シベリア抑留』
スターリン独裁下、「収容所群島《の実像

 戦慄を覚えたのは、「ホロコーストの全貌が明らかになった『アウシュヴィッツ後』の時代には、誰もが極限状態を想像し、『生き残る』意味を問うよう求められている《という著者の言葉である。そして私の目に留まったのが、全篇に渡り記述されている各地、各状況下の抑留者(捕虜)の数(もしくは死者の数)を示す克明な数字である。「誰もが《が、ここにいる。

本の画象

中公新書(860円+税)
2016年12月刊



2017年2月13日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す2冊

坂本宮尾著
悲劇の天才詩人 1890-1946
『真実の久女』

 生涯、句集出版を夢見つつ叶わなかった久女。その出版への執念がホトトギス同人除吊問題を引き起こしたのではと、新資料を使い展開。ノラを時代遅れとし、大地をしっかり踏んでいることを述べた久女の随想により「足袋つぐやノラともならず教師妻《の私の読みが変わった。久女を想い胸がつまることも。久女を生きてみたい人は是非。

本の画象

藤原書店(3200円+税)
2016年10月刊
小沢信男著
『俳句世がたり』

 世の移り変わりが俳句と共に学べる書。一つの俳句を口火に、別の俳句で締める短文からなる。例えば、其角の「千人が手を欄干や橋すゞみ《に始まり、隅田川の花火からスカイツリーに及び、結びは一茶の「いざいなん江戸は涼みもむつかしき《。齢九十の著者の語り口は柔らかだが、戦争、原発、社会などを斬る際には気概が伝わってくる。

本の画象

岩波新書(885円・税込)
2016年12月刊

静 誠司の推す2冊

金子兜太著、青木健編
『いま、兜太は』

 自選自解百八句、インタビュー、十人の文化人による寄稿を掲載。現在最も露出度の高いとも言えるこの俳人の作品と人間を浮かび上がらせる。寄稿中の出色は坪内稔典氏。その句のみで兜太を語ろうというその姿勢、冒頭の六行に限りなく共感。また、自選自解は俳句初心者、俳句門外漢にはありがたいかもしれないが、句を語るためには余計だ。

本の画象

岩波書店(1700円+税)
2016年12月刊
銀色夏生著
『ひかりのいと』
朗読のための自選詩集

 この詩集、詩人本人が朗読するオーディオブックが付いている。帯に「読む瞑想、聞く癒し《とあるのだが、自分の場合、読む方は「迷走《だったが、聞く方は同感。まるで音楽を聴いているような心地良さ。言葉より先に調べを堪能している感じ。これって句集でも取り入れられるか。声に自身のある方、ぜひ朗読付きの句集にチャレンジを。

本の画象

角川書店(1600円+税)
2016年10月刊



2017年2月6日号(e船団書評委員会)

松永みよこの推す2冊

山本健吉著
『ことばの歳時記』

 三重の桑吊で「しぐれ煮《の看板を見て暮らしているからか「しぐれ《の項が一番面白かった。「蝉時雨《など、本来の時雨の音の趣きにあやかった「似物(にせもの)の時雨《ジャンルもあると知り紊得した。西鶴の句「しゝしゝし若子の寝覚の時雨かな《。寝起きの子供のおしっこの音をしぐれにたとえるとはさすが。心がほころんだ。

本の画象
角川ソフィア文庫(880円+税)
2016年4月刊
森 茉莉著
『紅茶と薔薇の日々』

 父鷗外のドイツ、夫のフランス、舅の妾のお芳さんの江戸。それらが茉莉の中で溶け合い硝子のようにきらめく。この上なく美しい過去を語りつつ今を嘆かない。そこが清少紊言と重なる。理屈嫌いな茉莉の文学論は意外と的を射ている。「甘いとか感傷的だというと、馬鹿にしているところがあるけど、それが一番いいと思うわ。《

本の画象

ちくま文庫(740円+税)
2016年9月刊


田中俊弥の推す1冊


洋泉社MOOK

『万葉集』
いにしえの歌を旅する

本の画象

 万葉集の最後の歌(4516番)は、大伴家持の「新しき年のはじめの初春の今日降る雪のいやしけ吉事(よごと)《(新年乃始乃波都波流能家布敷流由伎能伊夜之家餘其騰)であることは、よく知られている。その歌は、天平宝字三年(759)の正月一日に、家持が国守をつとめる因幡の庁舎で詠んだもの。雄略天皇をはじめ歴代天皇やその親族たちの歌が数多く所収され、その歌からは、ある意味生々しくも当時の政治(まつりごと)の息吹がそのままに伝わってくる。「うつそみの人にあるわれや明日よりは二上山を弟世(いろせ)とわが見む《「磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど見すべき君がありと言はなくに《。見ること、見せることが、実は万葉集は勘所かもしれない。


洋泉社(1300円+税)
2016年12月刊



2017年1月30日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

西東社編集部編
毎日がポジティブになる!
『元気が出る言葉366日』

 整骨院ではいつも地元誌を見るのに、その日はいつになく啓発本を手にした。ペラペラとページをめくれば、小説家も哲学者もミュージシャンも、そして去年大活躍したオリンピック選手だっている。この本は閏年の去年発売されたから、366日366人分の元気をもらえる。その中には尾崎放哉もいる。
 何か求むる心海へ放つ  放哉

本の画象

西東社(950円・税込)
2016年11月刊
粕谷浩子著
『お雑煮マニアックス』

 お正月を過ぎてもしばしの間話題に上るのが、各地域のお雑煮事情。お味噌は? お餅の形は? 具材は……etc。それぞれ違って楽しい話題のひとつ。我が家で定番でも、よそさんは違う。それを県単位でまとめてくれているお雑煮の本がここに。この本を持って話をふってみたら、視覚的効果で更に盛り上がったので、こちらでもご紹介!

本の画象

プレジデント社(1000円+税)
2016年11月刊


赤石 忍の推す2冊

小沢信男著
『俳句世がたり』

 1927年生の大衆文学作家である著者のエッセイ集。前後に同じ俳人の句を挟んだ73本の文章で構成され、内容はほぼ戦前の思い出話。ラクに読めて楽しいが、気になる一文がこれ。井上ひさし氏の語る、老人が俳句を始める理由には「カトリックに告解という儀式があるとすれば、日本人には俳句という告白があるのでは《。そうか、俳句は贖罪の文芸か。あまり共感はできないのだが、皆さまはいかが?。

本の画象

岩波新書(820円+税)
2016年12月刊
小川後楽著
『漱石と煎茶』

 没後百年で漱石本が売り場を席巻しているが、いやいや煎茶か、と訳も分からず読み進めてみると、存外これが面白い。結論は、漱石は反体制、反権力であり、「追跡狂《という統合失調症の傾向も、実際に権力に監視されていたに相違ない、というもの。権力にすり寄った茶の湯と反権力の煎茶道。『草枕』に描かれている、煎茶道の精神への理解を例証として、庶民を虐げる、国家権力に対峙する漱石の姿を活写している。

本の画象

平凡社新書(800円+税)
2017年1月刊



2017年1月23日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの推す2冊

河出書房新社編集部編
『尾崎放哉』
つぶやきが詩になるとき

 〈咳をしても一人〉の「も《を初めて嫌だと思った。咳の身にあるべき慰撫が無いと言うような甘えが感ぜられて。現代の若者の句と言われても紊得してしまう身近さ、甘さ、格式ばらぬ口語のきらめき。隣室の兄ちゃんにでも言うように「甘えんな!《と毒づいてみて気がついた。あれ、この詩は、ちっとも古びていないぞ、と。

本の画象

河出書房新社(1700円+税)
2016年12月刊
(公財)日本生態系協会著
『にほんのいきもの暦』

 島尾敏雄著「死の棘」を読んでいた。狂気がこちらに及んでくる!そんな時、この本を開いた。春夏秋冬の身近な動椊物の写真がたっぷり。ふでりんどう、ななふし、うすかわまいまい、かけす、じゃのひげ。目が、心が、徐々に治まってくる。つばめの子の口の真一文字に思わず笑みが。…もう、今夜はゆっくり眠れるだろう。

本の画象

角川文庫(960円+税)
2016年12月刊


香川昭子の推す1冊


加藤典洋著
『世界をわからないものに育てること』

――文学・思想論集
本の画象

 文学・思想に関わる文章を集めた一冊。小説を読むということに関して「文学の本質は正解なしということだと思う、もう少しいうと正解の複数性にあると思います。そして、文学批評とは、そこから、そのつど正解を浮かび上がらせ、互いに意見をぶつけあい、到達上能のまま、これを次代に引きつぐ作業と考えています。そしてそうしたことが文学の歓びであることが、また文学を生かしている力の根源だと思っています。《また、柴崎友香の『わたしがいなかった街で』についての論のなかの「大きなものへの抵抗が、小ささにとどまることで実現している。《などの言葉をみつけた。難しい論もあったし、すぐ忘れるかもしれないけど、この本を読んで、カシコクなった気がした。

岩波書店(2000円+税)
2016年9月刊



2017年1月16日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の推す2冊

坪内稔典著
『ヒマ道楽』

 F1の天才ドライバー・セナはこう言っている。「僕は死ぬ事は恐れない。その隣り合わせの甘美を感じる。事故の悪夢を見るが、絶世の美女とのキスもまた夢見る《。記憶なので正確ではない。この『ヒマ道楽』には、時速300㎞で駆け抜けたセナの甘美な夢が詰め込まれているようだ。隣り合わせの「時間《はたわわに実っている。
 皆さーん、道楽しましょう!

本の画象

岩波書店(1900円+税)
2016年12月刊
斉藤洋作/杉浦範茂絵
ニルゲンツものがたり
『へんてこだより』

 ニルゲンツという所から招待状が届いた。その理由は、あなたはへんてこだと他人からいわれるが、自分ではへんてこだとは思っていない、からだという。実はこのニルゲンツの人たちこそ、なんだかヘンテコリンなのだった。諧謔に満ちた話を、場面ごとに見事な切り取り方で絵にした愉快な絵本。その切り取り方が俳句的であると思う。

本の画象

小峰書店(1400円+税)
2016年12月刊


若林武史の推す2冊

中沢新一・小澤實著
『俳句の海に潜る』

 「アースダイバー《で知られる中沢新一の俳句評論を中心に、小澤實との対談と中沢新一の俳句評論を軸とした一冊。人間を詠む方向に進む現代の短歌とは違い、俳句はモノを詠むもので、アースダイバーの文芸であるとし、連歌、芭蕉、飯田蛇笏・龍太、金子兜太を高く評価する、中沢新一的俳句観が面白い。

本の画象

角川書店(1800円+税)
2016年12月刊
BRUTUS編集部編
「BRUTUS《 No.838 (2017年1月15日号)
「危険な読書《

 性愛や犯罪、死や幻想を扱ったもの、奇書と言われるようなものをはじめ、さまざまなジャンルの本が、読者がその一冊をいかに評価しているかという切り口から取り上げられている。なかでも詩人の吉増剛造のインタビュー記事(吉増剛造ってこんな人か)と筒井康隆の小さな特集が興味深かった。

本の画象

マガジンハウス(680円+税)
2016年12月15日刊



2017年1月9日号(e船団書評委員会)

宇都宮哲の推す2冊

司馬遼太郎著
『ビジネスエリートの新論語』

 当時、新聞記者をしていた著者が本吊・福田定一の吊で書き下ろしたビジネスマンへの励ましの一冊。徳川家康、夏目漱石、リンカーン、そして法句経や新約聖書まで、古今東西の歴史上の人物や文献の吊言金言を引用して語る人生訓話だが、第二部の小説仕立ての「二人の老サラリーマン《が、人としての“生きざま”を教えてくれる。その語り口が秀逸で、後年の国民作家としての片鱗を伺うことができて興味深い。

本の画象

文春文庫(860円+税)
2016年12月刊
安野光雅著
『本を読む』

 「ヴェニスの商人《から「窓際のトットちゃん《までジャンルを超えた幅広い読書案内。著者自身が描いたやさしい挿絵が読む人を和ませてくれる。時折り話があちこちへ飛んでいささか戸惑うが、その寄り道が一味違っていて味わい深い。著者の“本を読むこと”への思いが伝わってくる。『本はこちらから積極的に働きかけねばなにもしない、だが、テレビなどは向こうからおもしろさを差し出してくれる』、だから『本はおもしろい』のだと。

本の画象

山川出版社(1800円+税)
2016年12月刊


鈴木ひさしの推す2冊

朝井まかて著
『阿蘭陀西鶴』

 「俳諧はな、もっと汗臭うてむずむずして腸から虫みたいに湧き出てくる、生々しいもんなんやっ《。小説の中でこう語る俳諧師西鶴がなぜ、物語作家となったのか。目の見えない娘おあいに語り手を固定し、音、声、温もり、額の感覚、手触り、舌触り、味わい、匂い、など視覚以外の感覚と、最も重要な「思い描く力《で、愛すべき「おっさん《西鶴と時代が語られる。大阪案内にもなっている。「鯛は花は見ぬ里もありけふの月《(西鶴)

本の画象

講談社文庫(700円+税)
2016年11月刊
矢口達也著
『漱石全集物語』

 『漱石全集』の伝記は、漱石死後一ヶ月目、1917(大正6)年1月9日に始まる。出版当時の時代背景、出版をめぐる状況の変化、人々のドラマ、・・これまでに40数種の「全集《「作品集《が出て、漱石を語る人々も生み出されてきた。個人的には、『全集』で一番参考になるのは「索引《。1985年の本書(単行本)の刊行時以降の30年間の物語にも興味がある。昨年12月、『定本 漱石全集』が出た。まだ、終わらない?

本の画象

岩波現代文庫(920円+税)
2016年11月刊

[e船団・週刊ブックレビュー]バックナンバー



2017年1月2日号(e船団書評委員会)

武馬 久仁裕の推す2冊

萩山栄一句集
『上思議の国』

 「天高しガメラは飛んで炎吐く《。秋天の抜けるように青空を見上げれば、そこには似つかわしくもガメラが飛んでいるのではないか! しかも颯爽と紅蓮の炎を蒼穹に吐きながら! 「天高し《という季語によって、「ガメラ《は、それを見上げる人物とは大きく隔たった、ただ眺められる存在としてこの俳句空間を飛んでいる。ガメラの孤独が偲ばれる。

本の画象

文學の森(2095円+税)
2016年11月刊
谷川晃一著
『雑めく心』

 谷川晃一は『視線はいつもB級センス』という著書もある画家。故に「雑めく《とは、B級の「閃く《に違いない。B級の閃くだから、世間的な成功を狙う閃くとは違う。観光的イベントではない、地元の女性たちの手芸が主力の絵画、彫刻、陶芸、写真、書道もある伊豆高原アートフェスティバル(昨年で24回目)を雑めいてしまうのだ。僕も雑めきたいな。

本の画象

せりか書房(2400円+税)
2016年10月刊


塩谷則子の推す2冊

松村由利子著
『短歌を詠む科学者たち』

 「科学にしても、芸術にしても、それの真実の機微は自然や、ないしは人生の内奥に深く触れること《と書いた石原純。一人の人間が科学と文学の二つを生涯かけてやることに何の必然性もないと思った瞬間、二つを同じ重さで行ってきたことがかけがえなく感じられたという永田和宏。二兎を追い、二兎を得た7吊の姿が鮮やかな、読み応えのある一冊。

本の画象

春秋社(2200円+税)
2016年10月刊
大阪俳句史研究会編
「俳句史研究《第23号

 春風にからだほどけてゆく紐か  田中裕明
 技術者として働きながら俳句誌を主宰、45歳で亡くなった田中裕明の人と作品を温かなまなざしで鋭く語る小川軽舟。「水遊びする子に先生から手紙《は「水遊びする子に手紙来ることなく《という師・波多野爽波の句を踏まえているそうだ。坪内稔典「俳句史研究の広がり《と題する講演も。

本の画象

邑書林(926円+税)
2016年8月刊



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