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2018年10月8日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の推す2冊

出光美術館編
『仙厓礼賛』

 画面に一筆の円の図、「これくふて茶のめ」と賛。蛙の画には、「坐禅して人が佛になるならハ」と賛。禅僧仙厓の人間味溢れる諧謔精神には畏れいる。昔から好きだったが、今回の出光の展示をみて、もっと好きになった。63歳で隠居し、88歳で亡くなるまで、描いた書画が二千とも三千とも。自ら削り「捨小舟」と名付けた茶杓は、繊細極まる。老年を楽しみ、生きることをとことん喜んでいるからこその表現三昧であったのだろう。

本の画象

出光美術館(2000円+税)
2018年9月刊
高橋弘希著
『送り火』

 なんという小説に出会ってしまったのか。主人公は中学3年の転校生。ご多聞にもれず、既にクラスにはいじめがあった。クラスの人と適度な距離をとって、自分なりに上手く過ごす。が、その転校生の姿勢そのものが結末の自らへの暴力を生み出すことへとつながる。隔絶された地域の持つ原初的な暴力のうねりは、流れ者の主人公の運命を黒い淵へ引き摺り込む。この小説の目指すところは判然としない。真暗な恐怖が僕を押し包む。

本の画象

文藝春秋社(1400円+税)
2018年7月刊

香川昭子の推す2冊

岸本佐知子編
『変愛小説集 日本作家編

 12編の変愛小説集。初めて読む作家の作品も多い。多和田葉子のこんな書き出し。〈生け花をしていて、花が妙なモノに化けることもあるが、たとえばそれは草の冠が見えなくなってしまった時である。「化け花」はこわい〉。どの作品も変わっていて、こんなの初めてと思う。でも、戸惑うもの、どこが面白いのかわからないのもある。刺激になる。

本の画象

講談社文庫(720円+税)
2018年5月刊
フォークナー著
『八月の光』

 1920年代から30年代の米国南部が舞台の長編。登場人物が多く、筋を追うのが精一杯。それでもボチボチ読んでいくと、夢中になる。肌は白いが黒人の血を引いているという男、父なし子を産む女、その女に恋する男等々、濃い生、すごい熱気。事件もいろいろ起こる。読み終えてみれば、大変な経験をしたような気持ちになる。

本の画象

光文社古典新訳文庫(1560円+税)
2018年5月刊



2018年10月1日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す1冊


長谷川宏著
『幸福とは何か』
ソクラテスからアラン、ラッセルまで

本の画象

 タイトルと副題から、西洋哲学史の本のように見えるが、表紙を開くと、与謝蕪村晩年の「夜色楼台図」。この絵に、著者は「しあわせな暮らしの土台」を見る。次は三好達治の詩「雪」(太郎を眠らせ、・・・次郎を眠らせ、・・・)。蕪村も三好達治も「人々の暮らしがしあわせであることを願わないではいられなかった」、と。その次は長田弘の詩「友人」、さりげないひろがりのさりげないしあわせ。「序章」の最後は佐野洋子・絵の絵本『100万回生きたねこ』、「静かで、平穏で、さりげないしあわせな日々」、終止符。これらの幸福の「ゆるやかさ」の対極にあるアリストテレスの「謹厳な幸福」。ソクラテス、アリストテレス、エピクロス、セネカ、ヒューム、アダム・スミス、カント、ベンサム、メーテルリンク、アラン、ラッセル、それぞれの幸福論。そういえば「青い鳥」はそんな話だった、と思いだした。「終章」は日本の室生犀星。時代と生活と個のしあわせ。常にわかりやすいことばで哲学を語る長谷川宏の、哲学書の読み方。

中公新書(880円+税)
2018年6月刊


若林武史の推す2冊

山田耕司句集
『不純』

 全体的に身体感覚から発想された句が多い。それを書名が示す通り「不純」と思うか否かは読者に委ねられている。「挿す肉をゆびと思はば夏蜜柑」「どの鳩にありやくちびる初詣」など具体的な肉体からの連想のアプローチに、面白みと想像の限界の両義があることを思う。

本の画象

左右社(1500円+税)
2018年7月刊
紅野謙介著
『国語教育の危機』
大学入学共通テストと新学習指導要領

 今回の新学習指導要領で国語は比較的大きな変更が行われる。本書はそれに加えて新しい大学入学共通テストの特徴と課題について論じている。内容の是非はさておき、いかに課題意識を共有できるか、また、指導者のみならず学習者自身もPDCAサイクルを意識せて新しいシステムに取り組むことが肝要なのだろう。

本の画象

ちくま新書(880円+税)
2018年9月刊



2018年9月24日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

正津 勉著
『ザ・ワンダラー』
 濡草鞋者 牧水

 28年9月17日、若山牧水永眠。43歳。没後90年。山師など流れ者が生家に寄宿、土地の言葉で「濡草鞋を脱」いだ。世話をした父は財産を失い、子の牧水は同様の濡草鞋者、彷徨者に。「君がいのちの飢かつゑ飽き足らうまでいませ旅路に」妻・貴志子。牧水のはてしない飢え(さびしさとかなしさ)が秀歌を生んだとわかる。

本の画象

アーツアンドクラフツ(1800円+税)
2018年9月刊
山崎佳代子著
『パンと野いちご』
 戦火のセルビア、食物の記憶

 筆者(56年生まれ)は詩人・翻訳家。38年間、多民族国家・旧ユーゴスラビアに住む。第二次大戦中や92年から約10年間続いた内戦時、何を食べどう生き延びたかを主にセルビア人に聞き書きした本。「食べ物とはね、思い出のこと。」「食べ物とはね、心配、恐怖、愛、秘密のお話などをみんなで分け合う場所なのよ。」平穏の有難さを思う。

本の画象

勁草書房(3200円+税)
2018年5月刊

宇都宮さとるの推す2冊

吉田友和著
『京阪神発 半日旅』

 著者自身が歩いて取材したキメの細かい旅の最旬情報が満載で、吟行参考書にも最適の一冊。しかも、京阪神の住人なら1日足らずで巡れるスポットばかり。そのカテゴリも自然・景観、文化・祭り、グルメ、寺社仏閣・ミュージアム・史跡などとバラエティに富んでいる。意外と行っていないところが多いのだが、評者ススメは、奈良の『大神神社』、京都の『和束の茶畑』、滋賀の『左義長祭り』など。ぜひ一度お出かけを!!

本の画象

ワニブックス(1000円+税)
2018年9月刊
佐々木閑著
『ネットカルマ』
 邪悪なバーチャル世界からの脱出

 「ネットは私たちの社会に大きな苦しみをもたらす怖い存在」であって、現代のカルマ(業)であると。実際、その利便性に隠れたバーチャルな世界や監視システムなど得体のしれない恐ろしさを感じる時がある。仏教学者がそんな怖いネット社会との向き合い方をブッダの思想や教えを繙きながら教えてくれる。この話いささか飛躍が過ぎるとお思いの方はご一読を。気づかない内に「現代の苦しみ」が忍び寄っていますよ・・・。

本の画象

角川書店(800円+税)
2018年8月刊



2018年9月17日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

ザ・キャビンカンパニー作
『あかんぼっかん』

 「あかんぼっかん」というタイトルとインパクトのある表紙の絵で思わず手に取りました! 迫力のあるイラストが、これでもかこれでもかとでてきます。大人も楽しめますが、子どもがどんな意味を感じとるのか、とても興味がある一冊です。

本の画象

偕成社(1500円+税)
2018年5月刊
長嶋祐成作
『きりみ』

 石垣島で活動をされている漁夫画家・長嶋祐成さんの絵本。さけのきりみ、うなぎのかばやき、ひらめのさしみ、まぐろのにぎり、さばのみそに…。のイラストの次に、さばかれた状態の魚のイラストが! 図鑑の入り口になるのかな?

本の画象

河出書房新社(1350円+税)
2018年7月刊

武馬久仁裕の推す2冊

足立悦郎著
『みなんごあんの春』

 小説の主人公、尾崎放哉は自由律俳句を極めようとして、ひたすら自分を死へと導く。だから、彼の見る月は、俳人の読者にとっては、配所の月(歌人が憧れた、流刑地で見る月)である。須磨寺の堂守りの時には「こんなよい月を一人で見て寝る」。終の住処、小豆島の南郷庵(みなんごあん)の庵主の時には「なんと丸い月が出たよ窓」。くれぐれも放哉に魅入られないように。

本の画象

新日本海新聞社(1000円+税)
2018年7月刊
赤野四羽句集著
『夜蟻』

 赤野四羽の句には批評性がある。銀色に光る美しい秋刀魚は、炙られてその記憶は破壊される。「炙られて記憶の爆ぜる秋刀魚かな」可憐な菜の花は、理不尽にも街頭で辱められる。「菜の花ややめてください街頭で」そして、人間は、寒々と逆さにつるされた葱を同志として、静かに、しかし深く怒るのである。「葱つるししろき怒りを分かちあう」。

本の画象

邑書林(2000円+税)
2018年7月刊



2018年9月10日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す1冊


小野幸恵著
現代を生きる芸能・工芸・建築・祈り
『和と出会う本』

本の画象

 古典芸能を中心に舞台芸術に関する書籍の編集経歴を持つ作者が芸能から食べ物に至るまで様々な分野を通して「和」とは何かということを考える。机上の知識だけではなく、体験した知識がそこにはある。野村萬斎による独舞「MANSAIボレロ」の描写では、舞台を見ているかのような錯覚に陥る。東日本大震災の犠牲者に捧げられた声明のコンサート、洋服に椅子で演じる落語、日本のアンチョビ、新たに開発された和菓子なども紹介され、和の進化が見える。桐竹勘十郎の言う「伝えられた古典を現代に生きる文楽として演じ、そして、現代に生きる私たちが新たな古典をつくっていく」を様々な和に当てはめ具体的に示してくれる。日本人でよかったと思える書。

アルテスパブリッシング(2000円+税)
2018年2月刊


静 誠司の推す2冊

坂口昌弘著
『毎日が辞世の句』

 古今の著名な俳人(一部歌人も)の辞世の句や死、生、霊などに触れた作品を通し、彼らの死生観を読み取る。30人近い俳人達の多くに道教思想、老荘思想につながる要素を見出す筆者。そこにこそ死と向き合う際の理想、また俳人としての理想があるという思いが繰り返し述べられている。しかし、自分の句には死生観など無いよな。

本の画象

東京四季出版(2000円+税)
2018年6月刊
荻野慎諧著
『古生物学者、
 妖怪を掘る』

 鵺の正体、鬼の真実

 古い文献に登場する鬼、ヤマタノオロチ、鵺(ぬえ)などの妖怪が生み出された背景や根拠を、科学的に明らかにしようとする。妖怪好きの自分としては、象の頭蓋骨の形状が一つ目妖怪に結びつくのだという下りには、特に胸がときめくものがあった。あの形を見たら誰も鼻の長い動物など連想できないでしょう。写真見てみて。

本の画象

NHK出版新書(1440円・税込み)
2018年7月刊



2018年9月3日号(e船団書評委員会)

松永みよこの推す1冊


小佐野彈歌集
『メタリック』

本の画象

 タイトルから受ける硬質で尖った印象ではなく、より、スケールの大きな慈愛のようなものを感じ取った。「オープンリーゲイとして生きる自分」を受け入れて欲しいという思いよりも、相手を細やかにまるごと深く愛する姿勢こそが作者の歌の生命力となっているようだ。全身が恋の感熱体めいた作者が、刺激的、刹那的な恋にとどまらず(それもあるけれど)、明日を見据えた恋をしているのが伝わる。それは、歌の中にも登場する(完全には理解できなくても)作者の思いを「わかりたい」と願う母や友人の存在があるからだろう。

 むらさきの性もてあます僕だから次は蝸牛(くわぎう)として生まれたい
 体温が色を帯びゆく丑三つのあひみてなればわれらむらさき

短歌研究社(2000円+税)
2018年5月刊


田中俊弥の推す2冊

本間 明選・解説/外山康雄水彩画
『良寛』
 ―野の花の歌

 八月下旬、信州下伊那の平谷(ひらや)村に研修で出かけた。標高930メートルほどに位置する平谷村の夏の夜は20℃を下回った。山の神、水の神々の声が聞こえる縄文の息吹をひしと感じる村だった。良寛の野の花の歌もまた、古代の相聞が優しく奔放に息づいている。
 秋の野のすすき刈萱藤ばかま
     君には見せつ散らば散るとも

本の画象

考古堂書店(1200円+税)
2018年6月刊
安田 登著
 身体感覚で
「『論語』を読みなおす」
 ―古代中国の文字から

 わが座右の書『論語』には、「知者楽水、仁者楽山」「有朋自遠方来、不亦楽乎」「学而不思則罔、思而不学則殆」などの文言がある。それは、汲めど尽きぬ泉水のごとく、豊穣である。孔子の時代の文字から読むこと、能楽者としての身体感覚から読むことから解読された『論語』は、まさにリアルな福音の世界として開示されている。

本の画象

新潮文庫(550円+税)
2018年7月刊



2018年8月27日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

梯久美子著
『原民喜』
―死と愛と孤独の肖像―

 二枚重ねの表カバーに刷られた、研ぎ澄まされた若き原の肖像が迫ってくる。これだけでも本書は勝利だが、さらに内容はそれを凌駕する。衆知の被爆体験の『夏の花』。だが原の本質はそこだけに在るのではなく、ぎりぎりまでに凝縮された表現者として再度その存在を捉えるべきと、著者は主張しているかのよう。透明な文体を駆使する筆力に魅了されると共に、このような作家もいたのだと改めて感じ入る。

本の画象

岩波新書(860円+税)
2018年7月刊
アーサー・ビナード文/田島征三絵
『わたしの森に』

 アーサーは今、日本人が見失っている日本文化を異邦人の視点から読み解いてくれる貴重な絵本作家。その彼が新潟県十日町にある廃校を空間絵本、「絵本と木の実の美術館」として甦らせた田島征三とコラボして制作したのが本書。深い森に暮らす一匹の蝮を主人公とし、私達が失いつつある自然との関りを豊かに表現している。田島の独特の画法とアーサーの言葉が相まって、読者を静謐だがたくましい自然へと導いていく。

本の画象

くもん出版(1400円+税)
2018年8月刊

舩井春奈の推す2冊

村上栄子著
俳句とエッセー
『マーマレード』

 「幸せをかたちにすると、あの「マーマレード」のような色つや」と名づけられたこの本は、色の四原色始め様々な色に溢れている。そして著者の原点と思しき家族新聞「ひよこ」の存在。今年は格別暑い日が続く。青空が目に飛び込んでくるたびに思い出すのは著者の詩「真夏日」。「やるなら 今、/今、この一瞬/飛び込もう!!」

本の画象

創風社出版(1400円+税)
2018年7月刊
ぬまがさワタリ著
ぬまがさワタリの
『ゆかいないきもの図鑑』

 いつか紹介した次なる本。あまりに私が楽しんでいたからと、また友人が貸してくれた。スタイルは前書と同じ。加えて、今回は紹介する生態の表と裏の顔が紹介されている。例えば船団でおなじみカバさんは、アフリカで最も危険な動物の一種で、走る早さはウサインボルトより早い足とか。相変わらずおかしくも分かりやすい。

本の画象

西東社(920円+税)
2018年5月刊



2018年8月20日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の推す2冊

木下龍也・岡野大嗣著
『玄関の覗き穴から差してくる
 光のように生まれたはずだ』


 タイトルが長い、が短歌。二人の歌人が高校男子の7日間を短歌で綴る。読み終えると不可思議な現実感が漂う。二人が友達とは思えない。二人の短歌はもつれ合うことなく、刺激もされず自我を主張する。これって物語なのかな、と思う頃7日間は終わってしまう。最後に、「倒れないようにケーキを持ち運ぶとき人間はわずかに天使」、で、あまーくFIN。短歌の世界は十分に魅力的だ!

本の画象

ナナクロ社(1400円+税)
2018年1月刊
中野 明著
『流出した日本美術の至宝』

 岡倉天心、富田幸次郎らの役割。原三渓、益田孝らの成した事。フェノロサ、ビゲロー、モースらの関り。日本の美術作品は明治維新後、膨大な数が海外に流出した。異国には日本の美術作品の価値を見極めた人達が、日本人以上にいたという事だ。文化を支えるには生々しい経済の問題が必然。だがボストン美術館、フリーア美術館等に多くの名品がある事の口惜しさは如何ともしがたい。

本の画象

筑摩選書(1700円+税)
2018年4月刊

原 ゆきの推す2冊

大森静佳著
現代歌人シリーズ22
『カミーユ』

 時空を超えたり、時に悲劇的だったり。言葉の連なりはしっとりと重さを含んでいる。「顔を洗えば水はわたしを彫りおこすそのことだけがするどかった秋の」ふしぎな言葉。リズムの乱れもピアノ曲の即興演奏のよう。「自分語り」になりがちな短歌とは一線を画する。こんな短歌なら作ってみたいな。おいそれとは作れないだろうな。

本の画象

書肆侃侃房(2000円+税)
2018年5月刊
安岡章太郎著
『とちりの虫』

 随筆集。「秋」が短篇小説の味わい。締め切りに苦しみ金も無く、友人のつてで季節外れの避暑地の別荘へ妻と夜逃げ。最後のシーン、歩き疲れた二人の前を生き物がよぎる。当初、遠足にでも行くようにはしゃいでいた妻も身をすくめる。この終わり方が秀逸。秋の気配が次第に濃くなり、読者も季節外れの避暑地に立っている気分。

本の画象

中央公論新社(920円+税)
2018年7月刊



2018年8月13日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す1冊


大岡信・谷川俊太郎著
『詩の誕生』

本の画象

 対談自体は1975年。同年生まれの二人は、おたがいを、谷川、大岡と呼び合う20年以上の旧知の仲。気力も体力もある二人の対談は、緊張感を保ちつつ、しばしば共に思考の底へ深く降りていく。大岡「詩はいつまでも存在しているものではなく、どこかに向かって消滅していくものなのだ」。詩は不定形の生きものなのかもしれない。生き物には死があるが、一度死んでしまった詩を生き返らせることができるのは読者だ。大岡「伝統は毎日毎日変わっているのだ」。谷川「言葉が機能するためにはやっぱりうたげの場が必要じゃないか。」詩が生き返るのはうたげの場、新しいことばのうたげはどこかではじまっているのだろうか。

岩波文庫(600円+税)
2018年6月刊


若林武史の推す2冊

佐藤 優著
『国語ゼミ』
 AI時代を生き抜く集中講義

 この本を読まなければ宇野弘蔵『経済原論』やアーネスト・ゲルナー『民族とナショナリズム』すら知らなかっただろう。佐藤氏が目指すところは総合知をつくることにある。目的的な読書がその念頭にある。確かな文章を確かな読解力をもって読む「知識人」を増やすこと。佐藤氏の強い思いはそこにあるようだ。

本の画象

NHK出版新書(780円+税)
2018年6月刊
全国不登校新聞社編
『学校に行きたくない君へ』
 大先輩たちが語る生き方のヒント

 「全国不登校新聞」に掲載された、各界の著名人20人が不登校生徒に向けて語ったメッセージがまとめられた一冊。不登校でなくても人生のいろいろに思い悩む人にとって有益な言葉が多く、ためになる。こんな有名な人がこんなことを考えていたのだと知るだけでもいいと思う。気持ちが楽になります。

本の画象

ポプラ社(1400円+税)
2018年8月刊



2018年8月6日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

南方熊楠・杉山和也・志村真幸・岸本昌也・
伊藤慎吾著

『熊楠と猫』

 才勝ちて猫にやられた夕べかな  熊楠

 才勝ち=サイカチは、甲虫の東京弁。才ある甲虫(私)が猫(私の短冊を欲しがる者)に負けた夏の夕べよ、という自嘲の句。当の短冊は行方不明。残された日記による。熊楠の膨大な蔵書・日記・書簡・標本などを長女(1911~2000)が保存。これは猫に関連するものを集めた本。絵が楽しい。

本の画象

株式会社 共和国(2300円+税)
2018年4月刊
フェデリーコ・マリア・サルデッリ著作
関口英子・栗原俊英訳
『失われた手稿譜』
ヴィヴァルディをめぐる物語

 本や楽譜はある人には貴重だが、ある人にはゴミ。作曲家ヴィヴァルディ(1678~1741)の膨大な手稿譜もまた然り。愛書家の元では分類され図書室に。修道院では木箱に詰められ屋根裏部屋に。お金儲けに使われ、遺産相続では適当に分割される。価値があるとわかると発見・研究を横取り。事実に基づく小説。ムッソリーニまで登場。

本の画象

東京創元社(2100円+税)
2018年3月刊

宇都宮さとるの推す2冊

牧野成一著
『日本語を翻訳する
     ということ』

失われるもの、残るもの

 「翻訳とは、そもそもなんだろう?」を、小説、現代詩、俳句など文芸作品の実例を挙げ、言葉のリズムや文法はじめ様々な視点から解き明かす。中でも、言葉の持つ音の象徴性について、冷たい響きの「カ行、ガ行」の口蓋音と柔らかい響きの「ナ行、マ行」の鼻音音の使い分けの指摘が興味深い。“母からもらう”と“母にもらう”の微妙な距離感は英語では訳せない。
 俳句についての言及も多く、新たな発見がある一冊。

本の画象

中央公論新社(780円+税)
2018年6月刊
ビートたけし著
『やっぱ志ん生だな!』

 いま、ちょっとした落語ブーム。私の好みでは関東は談春、関西は福笑がおすすめだが、この本を読んで志ん生を聴き直してみた。これはもう天衣無縫、融通無碍というか、話芸を超えた存在感が並ではない。たけしでなくても「志ん生の凄さ」がわかる。全編、たけしの「志ん生・愛」が満載だが、志ん生を通して自身の芸論を語っているのだろう。“やっぱ芸は人間性だな!”。お後がよろしいようで。

本の画象

フィルムアート社(1400円+税)
2018年6月刊



2018年7月30日号(e船団書評委員会)

紀本本直美の推す2冊

マージョリー・ワインマン・シャーマット文
バーバラ・クーニー絵/福本友美子訳
『ホイホイとフムフム』
 たいへんなさんぽ

 ホイホイとフムフムののんびりとした会話にひたってしまいました。友だちとあてのない散歩をするって、最高の贅沢だなあと。新刊ですが、読み終わってから1975年に刊行されたものと知りました。「あわてず さわがず」の看板がかわいい!

本の画象

ほるぷ出版(1400円+税)
2018年5月刊
ふくざわゆみこ作
ぎょうれつのできる
 チョコレートやさん


 チョコレートが大好きなため、この絵本の表紙を見てハートをわしづかみにされました!
 この本を手に取って!というメッセージを感じてページを開くと……すてきなチョコレートの数々。自分でもチョコレートを作って食べたくなりました。

本の画象

教育画劇(1300円+税)
2018年3月刊

武馬久仁裕の推す2冊

安井高志歌集
『サトゥルヌス菓子店』

 開巻劈頭「終電はいってしまったかみそりはお風呂場の水のなかでねむる」に出会う。全篇死のイメージに彩られた歌集であるが、これは今日世界を見通す方法としての死であろう。アリゾナ(アメリカ)の砂漠そのものであるこの世界を見た「薄暗い部屋に寝転ぶ俺の目が刹那に映すアリゾナ砂漠」には、末期の目という方法が見て取れるからである。昨年31歳で事故死した歌人の遺歌集である。

本の画象

コールサック社(1500円+税)
2018年6月刊
小峯和明著
『遣唐使と外交神話』
―『吉備大臣入唐絵巻』を読む―

 遣唐使が伝えた「耶馬台詩」なる物がある。そこには「百王、流れ畢(ことごと)く竭(つ)き猿と犬、英雄と称す」とある。天皇百代で日本が終わる。その時、猿や犬が英雄と称してのさばるということらしい。そこで後白河法皇は、吉備真備が中国で「耶馬台詩」を読み解く『吉備大臣入唐絵巻』を作らせたと著者はいう。だが、今、日本の未来を解読する場面は欠落。著者の無念さに同感である。

本の画象

集英社新書(740円+税)
2018年5月刊



2018年7月23日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す2冊

神奈川大学広報委員会編
『17音の青春 2018
 五七五で綴る高校生のメッセージ

 神奈川大学主催の全国高校生俳句大賞の応募総数は11984通。復本一郎をはじめとする選考委員による喧々諤々とした審査の様子を読むのも楽しい。過去の受賞者からプロの俳人も生まれ、教え子と共々授賞式に参列した人も。本書を読み高校時代の自分に還るのも。
 あくびするように風船空高く
 夏の果てよりココア一匙分のテロ

本の画象

KADOKAWA(700円+税)
2018年3月刊
唐沢孝一著
『目からウロコの自然観察』

 目を見張る植物・昆虫・鳥などのカラー画像。高倍率のものや見事な瞬間をとらえたもの。写真を見るだけでわくわくする。アカメガシワの新芽が赤いのは、紫外線から新芽を守るため。露草に半透明の花弁があったなんて。モズはミシシッピアカミミガメまで早贄にする。シモバシラという名の植物など、驚きが満載。

本の画象

中央公論新社(1000円+税)
2018年4月刊

静 誠司の推す2冊

大高郁子絵・編
『久保田万太郎の履歴書』

 小説家・劇作家・俳人である万太郎の自伝的文章にイラストレータである編者が全ページ挿絵を配しまとめた作品。前回の担当で万太郎俳句についての本を紹介したが、彼の生涯を知りたい欲求にタイムリーに応えてくれた一冊。下町に生き、いろいろとダメ人間だった彼の一生が、挿絵のおかげでちょっとファンタジックに描かれる。
 水で白くそだてたあひるの子 卍(北斎の俳号)

本の画象

河出書房新社(1400円+税)
2018年2月刊
花田菜々子著
『出会い系サイトで70人と実際に会って
その人に合いそうな本をすすめまくった
1年間のこと』


 著者が持ち前の本についての知識を活かして題名のようなことしたその実践録。著者自身が私生活や仕事上の悩みを抱えていて、自分を変えようとそういうことをするわけだが、自分から行動するその勇気に脱帽。何と言っても、著者の本についての情報量がすごい。どこかでエセブックレビューをしている自分が恥ずかしくなる。

本の画象

河出書房新社(1300円+税)
2018年4月刊



2018年7月16日号(e船団書評委員会)

松永みよこの推す2冊

俵 万智訳
『みだれ髪』(新装版)

 発見。俵万智は歌人であると同時にカウンセラーそしてイタコなのです。本作には、「晶子短歌をそのまま受けとめたい」という包容力と細やかな心遣いが溢れていて、アンチ「サラダ記念日」だった私はこっちの万智さんが大好きになりました。……にしても晶子の歌はまだわからないことだらけ、熱を帯びた感触が残るばかりです。

本の画象

河出書房新社(1600円+税)
2018年5月刊
田中 聡著
『北斎川柳』
五七五で描いた北斎漫画の世界』

 もう!どうしてそんなに下ネタのオンパレードなの~と叫びたくなる画狂北斎の川柳。 でも、下品なものの中に本質が宿るのはなぜなのだろう。(きれいはきたない きたないはきれい)「マクベス」の魔女のセリフを思い起こし、不思議な温かさに包まれた。私が好きな句、「泥水で白くそだてたあひるの子 卍(北斎の俳号)

本の画象

河出書房新社(1800円+税)
2018年3月刊


田中俊弥の推す1冊


坪内稔典監修・佛教大学編
小学生のための 俳句入門』
君もあなたもハイキング(俳句の王さま)

本の画象

 本書は、佛教大学小学生俳句大賞10周年を記念して編纂された俳句入門書。第 一章には、喜びや発見に満ちた子どもの俳句がずらり並んでいるし、選者・山本 純子さんの詩人ならではの、みずみずしい選評も楽しい。また、第二章・坪内稔 典先生の俳句教室「俳句づくりって楽しいよ」には、俳句は、「ことばを絵の具 のように使って風景を描いたものです。そしてそのできあがったかたち(風景) が作者の感動です。感動はつくった結果として現れるのです。」「五七五の表現 は、心をゆさぶるとてもかんたんなことばの装置、あるいはしかけです」、「季 語を手がかりにしてつくると、俳句づくりがとてもやさしくなります。」との指 摘は、特筆に値すべき指南である。

くもん出版(1500円+税)
2018年4月刊



2017年7月9日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

太宰 治著/小山 清編
『太宰治の手紙』
―返事は必ず必ず要りません―

 6月23日は桜桃忌。太宰が亡くなって70年が経つ。この日に合わせて手紙と追悼文を纏めたものが河出書房から。思わず2冊買ってしまう、私のような読者を狙ったものだろうな。手紙の文面は、お世辞と懺悔、借金の言い訳等が主で。受け取った方が赤面、ウンザリしてしまう内容。しかも末尾に「返事は必ず必ず入りません」等とあると、返事を出さざる得ないだろうし、それも太宰の計算付くなんだろうね。

本の画象

河出文庫(760円+税)
2018年6月刊
河出書房新社編集部編
『太宰よ! 45人の追悼文集
―さよならの言葉にかえて―

 知人に青森・北津軽の人がいる。人好きで特に女性には目がなく、うるさいほど賑やかで座持ちもうまく、酒量が上がり振る舞いが度を越しても不思議に許されてしまう。そのくせ何か寂しげで、本書が語るまるで太宰のよう。風土が人格を形成するとまでは言わないが、多少の影響は受けているようにも思う。周囲にうんざりされながらも愛される太宰。その死も「思わず死んでしまった」という表現こそが適切かもしれない。
本の画象

河出文庫(830円+税)
2018年6月刊


舩井春奈の推す1冊


高橋久美子著

『いっぴき』

本の画象

 四国の中にさらに小さな島がある。そこで大学時代を送っていたくみこん。彼女のバンドは、小さな島をどんどん飛び出し、やがて日本中を賑わした。くみこんが作詞した曲、私もよく口ずさんでいたな。そのチャットモンチーも、この夏解散。先に脱退したくみこんが言うには、その解散を前に一緒に活動をしていた二人へ向けたものが、この一冊。前作に加え、脱退後の話が収録されている。バンド脱退後、一人いや「いっぴき」作詞家の作詞を主軸とする生き方が見える。この本のもう一つの見ものは、えっちゃんからの跋文とあっこちゃんの帯文。
 私個人の見ものとしてはサパの町での話。私の車の助手席から降り、阿波踊りの雑踏に消えて行った翌日からの話だ。

ちくま文庫(740円+税)
2018年6月刊



2018年7月2日号(e船団書評委員会)

香川昭子の推す2冊

川上弘美著
『猫を拾いに』

 読み終えるのが惜しい短編集。文章がいい。ちょっと苦い思いなんかも、例えば、「いっしんになる」「一生せおってゆかなければならない」などひらがなのせいか、おかしく、どこかふんわり。そこに、親と子、男と女、老い地球外生物、怨霊など身近なものも、そうでないものも普通に存在している、どこかなつかしい世界がある。

本の画象

新潮文庫(550円+税)
2018年5月刊
網野善彦・鶴見俊輔著
『歴史の話』
 日本史を問いなおす

 2004年刊行の対談集。書き留めたい言葉が多い。たとえば、「烏合の衆を思想上の強さのバネにしたい。」「すべてがわかっているところからは何も生まれない。」「間違いの記憶から真理への方向性が出てくる。」「これまでの歴史学がこれまでの学術用語で定義してきた世界は実態の五〇パーセントまでいっているかどうか。」等々。

本の画象

朝日文庫(620円+税)
2018年1月刊

原 ゆきの推す2冊

谷さやん著
『空にねる』

 谷さんと言えば何故か「紺絣」のイメージ。清らか。あたたかな明朗。気持ち良いエッセーが並ぶ。文章の終わり方の余韻がいい。(「離俗ノ法」では句友ひとみさんの魅力がここで倍増する)。句は鮮やか。「毛布のなか滝の名前を言い合って」 言い合っているのが男女でも子供でもいい。高まりの特別感、秘めごとの感じが素敵。

本の画象

創風社出版(1400円+税)
2018年3月刊
阪田寛夫著
『庄野潤三ノート』

 庄野氏が書くのは大した話ではない。子供の運動会で観客のおばさんたちがさもうまそうにお弁当を食べると言うような話だ。大したことなさが炸裂している。これがたまらない。本書により、庄野氏がそもそも小説よりも短文を好み試行錯誤してこの文体を得たことを知った。長年の友人阪田氏の深い読みと思いが伝わってくる。

本の画象

講談社文芸文庫(1700円+税)
2018年5月刊



2018年6月25日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

穂村 弘歌集
『水中翼船炎上中』

 穂村弘の17年ぶりの歌集。書中に「『水中翼船炎上中』メモ」なるものが挟まれていて、この歌集が、現在から子供時代などの時代別の設定で収録されていることがわかる。もちろん、子供時代の穂村弘の歌が載っているのではない。あくまでそういう設定だ。穂村弘の近年の仕事がこんな形で現れるのだなと感慨深かった。

本の画象

講談社(2300円+税)
2018年5月刊
山田知生著
 スタンフォード式
『疲れない体』

 最近、とても疲れる。ので、買いました。中にあるいろんなティップスを参考にしています。スポーツ医学の見識から姿勢や呼吸の大切さが解説してあります。個人的にはやっぱり、と思い、小さな実験を試みています。また、こうした本にはある種の精神安定剤的な意味もあるのかなとも思います。

本の画象

サンマーク出版(1400円+税)
2018年5月刊

今泉凡蔵の推す2冊

穂村弘×堀本裕樹
『短歌と俳句の
 五十番勝負舟』


 ひとつのお題を歌人と俳人が詠みあう勝負。俳句と短歌はこれほども違うのかと、不明な自分を恥じた。この書では制約と保守を俳句から、短歌には革新と解放を感じた。どちらも表現としてはおもしろい。さて軍配は何処に?
・左目に震える蝶を飼っている
   飛び立ちそうな夜のまぶたよ(穂)
・料峭やかもめと瞼閉づるとき(堀)

本の画象

新潮社(1600円+税)
2018年4月刊
佐藤まどか著
『一〇五度』

 105度、倚りかからず、寄り添う角度。この数字は、なんの角度? 少年と少女は、二人で組んで椅子のデザインコンペに応募する。二人の関係が、まさに105度。一人で生きるのは辛いが、もたれかかられるのは、もっと耐えられない。イタリアでプロダクトデザイナーとして活躍する作家が、椅子の製作を通して二人の現在を語ります。

本の画象

あすなろ書房(1400円+税)
2017年10月刊



2018年6月18日号(e船団書評委員会)

宇都宮さとるの推す1冊


ヨゼフ・チャペック著、飯島周編訳

『ヨゼフ・チャペック エッセイ集』

本の画象

 20世紀初頭に活躍したチェコの国民的芸術家・チャペック兄弟の兄で画家・著作家であるヨゼフのエッセイ26編と詩9編を収録。ユーモアのなか鋭い観察眼が光るエッセイと魂の叫びともいえる詩、そして全編を飾る温かい眼差しの挿画と、その多才ぶりを知ることができる。その中で、シンプルだが力強い芸術観を熱く語るエッセイ『人は芸術から何を得るか』が印象的だ。「芸術は最初から人間とともに生まれたのだ」、「人間が内部に持つもの、感情の豊かさ、精神的な広がりが芸術家を作る」、「芸術は難しすぎるよそよそしい学問分野ではない。人生そのものなのだ」など、芸術の背景として人間存在のダイナミズム性を的確に捉え、人間のより本能に近い原初的枠組みで理解すべきだと。近年、観念的で窮屈な芸術論議が喧しいが、ヨゼフの本質的で骨太な芸術論は心に響くものがある。

平凡社(1200円+税)
2018年4月刊


鈴木ひさしの推す1冊


鶴見俊輔著、松田哲夫編

『鶴見俊輔全漫画論2』
日本の漫画の指さすもの

本の画象

 鶴見俊輔は、シュルツの「スヌーピーシリーズ」をこども連歌の世界といった。俳味があり、冬瓜の汁、豆腐料理のようだ、と。たいしたことを世界に求めず、毎年の季節の変化をもたらすもので満足しているような月並俳句にたとえた。漫画を「読者のさまざまな読み方を許すひらかれた作品」ととらえ、読者と作者を入れ替え可能な「読者・作者共同体」の側面を強調した。
 加藤典洋氏の「限界」についての言及もまた興味深い。「(鶴見俊輔のやり方は)言葉を見棄てないのです。言葉の方に味方して、言葉の中の潜在的な力を回復させようとされるのです。それが「限界」という言葉を「あそこがあいつの限界だ」式に使われることから救い出し、・・・考え方自体へのおだやかな異議申し立てになっていく」「マイナスイメージを持つ「限界」にこそ希望を託す、というあり方が示されている。」
 「限界芸術」は、ひょっとしたら単に「言ってしまった言葉」かもしれない。この言葉そのものが鶴見俊輔の人生そのもののこだわりの表現だったのではないか。

ちくま学芸文庫(1600円+税)
2018年5月刊



2018年6月11日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

花谷清句集
『球殻』

 すべてのものは、消滅するから耀くのか。しおれ易いことによって美しさを誇る大輪の朝顔。「大輪の朝顔しおれ易きかな」。売れ筋と呼ばれることによってひとしおさびしく愛らしい紙風船。「売れ筋と呼ばれてさびし紙風船」。踏みつけられることによって蘇る鴇色。「花屑の轢かれる鴇色蘇る」この世というものをしみじみと思わせる句集である。

本の画象

ふらんす堂(2700円+税)
2018年5月刊
Q.B.B.著(久住昌之作・久住卓也画)
『古本屋台』

 屋台の古本屋である。焼酎お湯割り1杯100円。だだし、1杯かぎり。2杯目を頼むと、「ここは飲み屋じゃない」の名ぜりふ。ここに出てくる客は、そんな屋台のオヤッサンが好きだ。古本話を楽しむいい人ばかりだ。俗物には「その本やるから帰れよ」。ここにはいつまでもそのままであってほしい永遠の昨日がある。行きたいな、明日の夜こそ。

本の画象

集英社(1200円+税)
2018年4月刊

塩谷則子の推す2冊

古賀大介歌集
『三日月が小舟』

 7年前、熊本市内の書店で30頁ほどの同人誌と出会った。定価300円。生田亜々子・古賀大介という若い歌人の作品が新鮮だった。購読継続。その古賀の第一歌集。72年生まれ。歌を詠むことで、心のドアを開いたようだ。「肉まんの味が満ちたる口の中ほふほふ(いまはなやまんでいい)」。哀しさ・辛さを濾過中とわかる歌が多い。小池光の跋付き。

本の画象

六花書林(2200円+税)
2018年3月刊
内田洋子著
『モンテレッジオ
 小さな村の
 旅する本屋の物語』


 イタリアの山岳地帯にある貧村モンテレッジオ。1858年の村勢調査では、人口850人のうち71人の職業が本売りだった。主に北イタリアへ。露店で本を売った。出版社は読者の関心や意見を把握している本の行商人たちを大切にしたという。反政府の本も密かに売った。本は文化という筆者のイタリア出版史。面白い。紙の本への愛惜本。

本の画象

方丈社(1800円+税)
2018年4月刊



2018年6月4日号(e船団書評委員会)

静 誠司の推す2冊

高柳克弘著
『どれがほんと?』
 万太郎俳句の虚と実

 「時計屋の時計春の夜どれがほんと」。万太郎の俳句のエッセンスはこの一句にありと言う筆者は、万太郎俳句について様々な角度から検証を加えながら、「虚を実に変える」というところにその本質があると解く。戯曲など他の表現手法を持ちながら句作を続けた万太郎。彼が俳句に何を求めていたのかに近づけたような気になれた一冊。

本の画象

慶應義塾大学出版会(1600円+税)
2018年4月刊
朝日校閲センター著
『いつも
 日本語で悩んでいます』

 日常語・新語・難語・使い方

 朝日新聞に現在も毎週連載されているコラム「ことばの広場 校閲センターから」の過去掲載分を選り集めた本。言葉の最前線にいるからこそ浮かび上がる日本語の「なぜ」を解説。「あとがき」に記されているが、「校閲センター」では新聞のあの膨大な文字を短時間の内に全てチェックするのだそう。言葉の知識がそれはそれは「パネエ」!

本の画象

さくら舎(1400円+税)
2018年3月刊

紀本直美の推す2冊

最上一平作/町田尚子絵
『たぬきの花よめ道中』

 たぬきの花嫁道中が、まじめにユーモラスに描かれています。花嫁が嫁ぎ先へ向かう道中で歌われる「長持唄」(秋田県などで唄われている民謡)が聞こえてくるよう。今の子どもはどうやって受け取るのか、反応をみてみたい絵本です。

本の画象

岩崎書店(1600円+税)
2018年3月刊
本山尚義作
全196ヵ国
おうちで作れる 『世界のレシピ』

 「世界の料理をおうちで気軽に」をモットーに作られた196ヵ国の料理を1つずつ紹介しています。日本の食材で作れるそうなので、アフリカの食卓レシピを作ってみようかな。クラウドファンディングによって支援金を集めて出版された本です。

本の画象

ライツ社(1600円+税)
2017年12月刊



2018年5月28日号(e船団書評委員会)

田中 俊弥の推す2冊

坪内稔典文/立花まこと画
『松尾芭蕉』
俳句の世界をひらく

 留まるのではなく歩くこと、歩きながら考えること、創作することは、定住の場所 を必要としない。定住の場所、すなわち安定にしがみつくことは、実は自由を失 うことに等しい。芭蕉が旅に生きたのは、流転してやまない時を宿とするためで あり、それは食=料理に精通していたからこそ可能だった。そんな発見をさせて くれる一冊。

本の画象

あかね書房 (1500円+税)
2018年4月刊
佐藤洋一郎著
『稲の日本史』

 縄文と弥生、その対立図式がさも不動の公式であるかのように一般化している わけであるが、稲のこと、水稲のことについてわたしたちが信をおいていること は、その歴史の事実からすると、どうも近代化に向かって整備され、様式化され た制度的な概念だったようである。いまの現実を保守するための装置にだまされ てはいけない。

本の画象

角川ソフィア文庫(840円+税)
2018年3月刊


太田 靖子の推す1冊


長谷川櫂著
『俳句の誕生』

本の画象

 俳句は単なる写生から生まれるという考えに見落としはないかと問うと自然と俳句の誕生に行きつく。が、著者はさらにその答えを遡る。『新古今和歌集』の達磨歌と呼ばれた新古今的語法について言及。「空白の時空」「無の記憶」「禅の一撃」など、章のタイトルに興味をそそられる。俳諧の連歌から生まれた俳句も取り合わせの場合、一句のなかに禅問答を見、時代背景や思想と俳句を結び付けていることなども新鮮。俳句とはいかなる詩かという問いへの答えを模索している人に是非。芭蕉の「言語は虚に居て実をおこなふべし。実に居て虚にあそぶことは難し」も、著者の言「目の前にあるものを言葉で写すだけではロクな俳句ができない」に通じる。

筑摩書房(2300円+税)
2018年3月刊



2018年5月21日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

船団の会編
『船団の俳句』

 この俳句って船団的ね。船団ってどんな俳句?とは時々耳にする言葉。船団、船団ってひとくくりでいうけどね、何もどれもが船団的というわけではないのよ、とは私がよく返すことば。このたび、私たち船団に拠る者たちが、たとえばどんな俳句を作っているのかを知れる本。船団でない人も船団会員も楽しみながら読んでほしい一冊。

本の画象

本阿弥書店(1700円+税)
2018年3月刊
瀬尾まなほ著
『おちゃめに100歳!
 寂聴さん』


 徳島の作家といえば瀬戸内寂聴さん。かつて帰郷時での寂聴さんの料理係に推薦されたものの断った。拒否すれば逆に気になってくる。今、彼女の秘書が注目されている。年齢差は66歳。試しに目を通せば、2人の素のやり取りが楽しくて。そして年を経た今の私は、寂聴さんのことばも小説も分かる。なんだ私、未熟なだけだった。

本の画象

光文社(1300円+税)
2017年11月刊

松永みよこの推す2冊

林 望著
『すらすら読める風姿花伝』

 結論―「風姿花伝」はすらすら読めません!(キッパリ)私にとって世阿弥は謎めいた魅力に満ち、心をかきたてる人物だ。自分の理解を越えるとわかっていても惹きつけられる刃のような言葉が、世阿弥三十代の時のものと知り驚いた。読後は姿勢を正し、自分を客観視できるようになった気がするけれど…多分気のせいだろうな。

本の画象

講談社(750円+税)
2018年3月刊
天童荒太著
『ペインレス』(上・下)

 人の心に寄り添う作品で知られた天童荒太が新たに生み出した、痛みを知らないヒロイン(美貌と知性で全男性の運命を狂わす)の魅力に最後まで酔えなかったのは、同性の厳しい目線からか、知らず知らずのうちにとらわれている倫理観からなのか。私はヒロインに唾棄されても、思いきり傷つき、人と痛みを感じあって生きたい。

本の画象  本の画象

新潮社(1500円+税)
2018年4月刊



2018年5月14日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの推す2冊

西東三鬼著
『西東三鬼全句集』

 「水枕ガバリと寒い海がある」三鬼を初めてこの句で知った。氷を入れた水枕が耳の位置を変える度に濁音を立てる感覚の生々しさ。耳の下に底知れぬ冬の海を発見したおどろき。発熱のだるさと不安。解説の小林恭二氏は「水枕」と「寒い海」が、つきすぎ。ひとえに「ガバリと」により代表作となった、としている。どうお思いですか。

本の画象

角川ソフィア文庫(1240円+税)
2017年12月刊
浦西和彦編
『文士の食卓』

 泉鏡花の食に対する潔癖(黴菌恐怖症)は知っていたが、本書により鏡花の妻、すずさんが、うまい焙じ茶をいつも淹れていたことを知った。茶葉を日に何度も丁寧に焙じていた由。他にも、すずさん手漬けの梅干を鏡花は毎朝ひと粒食べると災難に遭わないと言っていたとか。食卓が魔除けのように外界から繊細な鏡花を護っていた。

本の画象

中公文庫(720円+税)
2018年3月刊

赤石 忍の推す2冊

柴田宵曲著
『子規居士の周囲』

 暇な時にぺらぺらと頁をめくっている。本書は、子規とその周辺に集った仲間達との交流を描いた「子規居士の周囲」と明治期の主な俳人を活写した「明治俳壇の人々」から成る。筆者自身が生誕百二十年。「ホトトギス」の編集者時代に子規の門人達と交流を持ち、子規の人間性に傾倒していったと記す。著作は十数冊を数えるが、基本、あくまでも黒子として徹しようとした生き様は、とても好感が持てる。

本の画象

岩波文庫(950円+税)
2018年2月刊
小倉紀蔵著
『朝鮮思想全史』

 檀君神話から始まる朝鮮思想全史を新書450頁に纏めるというのは、並大抵なことではない。力作というのはまさに本書のようなものを言うのだろう。朝鮮思想を一言で述べるなら「純粋性」につきる。だからこそ凄まじい確執を引き起こす。著者は、根本的にはそれは今も変わってはおらず、だからこそ「朝鮮はすごい」と吐露する。韓国ドラマに出てくる儒学者の名も散見され、そういう意味でも興味深く読み進められる。

本の画象

ちくま新書(1100円+税)
2017年11月刊



2018年5月7日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の推す2冊

沈脱句集
『どんぶらこっこ』

 沈脱さんの句は軽く漂っている感じがする。叙情などというポーズはとれないぜと含羞の笑みを浮かべている風でもある。たまに一人ボケツッコミの至芸も見せる。西洋陶磁史家にしてカヌーイストそして俳人。カヌーからの眼差しが句を生む姿勢か。・こんばんは葉桜芸者で文句ある・海開き逆さにしておくマヨネーズ・夏おしむインドのイヌはカツカレー・はんぺんに横恋慕するがんもどき・白薔薇と横にしておく砂時計(沈脱)

本の画象

座右宝刊行会(1200円+税)
2018年3月刊
カズオ・イシグロ講演/土屋政雄訳
『特急二十世紀の夜と、
 いくつかのちいさなブレークスルー』

 ノーベル文学賞受賞記念講演

 「世界と繋がっているという錯覚の下の底知れない暗闇を描き出した」と評された作品群。記憶と時間の流れを自在に泳ぎ渡る彼の作品は、今自分たち読者の依って立つ世界の脆さを抉る。が、徹底して静謐な作品世界。日本を物語の舞台背景にした作品があるが、作家は5歳の時に日本を出てそれ以来帰ってきてはいなかった。作家の頭の中で創られた「日本」を保存する行為が作品を生み出す原点でもあった。対訳で楽しめる講演録。

本の画象

早川書房(1300円+税)
2018年2月刊

香川昭子の推す2冊

大岡 信著
『日本の詩歌』
その骨組みと素肌

 フランスでの日本文学の講義録。有名な/遊びをせんとや生まれけむ/戯れせんとや生まれけん/遊ぶ子供の声聞けば/我が身さへこそ動がるれ/の作者は遊女ではないかという小西甚一の推測。そして「遊び」「戯れ」という言葉が古代日本では男女の性交渉を表現した言葉でもあったという事実にもとづく一層深い意味の読み解きなど、この本で初めて知った。

本の画象

岩波文庫(640円+税)
2017年11月刊
田中小実昌著
『田中小実昌ベスト・エッセイ』

 こんな文章。「大作でもなく、評判にはならなかった映画をどこかの映画館で見て、あ、こりゃイケるな、と思うと、自分が発見者になったみたいで、自慢したい気持ちにもなる。もっとも、そんなことが自慢できるのは、ほんのかぎられた仲間うちだけで、自己満足におわれば、いいほうだ。つまり、ぼくはB級映画が好きだが、そんなうじうじした、それでいて気取ったところも、大いにあるわけだ。」

本の画象

ちくま文庫(950円+税)
2017年12月刊



2018年4月30日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す1冊


糸井重里著
『思えば、孤独は美しい。』

本の画象

 「ほぼ日手帳」を愛用している。糸井さんが手帳にこだわるのは、ふつうの人のふつうの日々への愛なのかもしれない(?)。「君にクラクラ。」「くうねるあそぶ。」「いまのキミはピカピカに光って。」……CMのキャッチコピーの数々。「このへんないきものは、まだ日本にいるのです。たぶん。」「4歳と14歳で、生きようと思った」「忘れものを、届けにきました。」「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。」……ジブリ作品のキャッチコピー。どれもやさしいことばと句読点に特徴がある。この本の「詩」(?)も同様に、句読点が重要な働きをしている。この本はほとんど「やさしい」ことばで書かれている。日本語の「やさしい」ことばは、はたして、いくつあるのだろうか。きっとその数は誰かが決めるものではないだろう。「やさしい」ことばの意味は辞書の中だけでなく、話す人と聞く人、書く人と読む人、一人一人のの歴史の中にあるものだから。「思えば、孤独は美しい。」句読点を含めて、このすべてのことばが多義的である。

ほぼ日刊イトイ新聞(1500円+税)
2017年12月刊


若林武史の推す2冊

森 博嗣著
『読書の価値』

 小説家・森博嗣の読書に関するエッセー。森が極度の遠視であったこと。それによって読書が苦手であったことに始まり、読みやすい文体で森の率直な読書観がまとめられている。気負いが感じられない文章で、本を読む自由さが述べられていて、ある種のストレス発散につながった。読書に強迫観念をお持ちの方にお勧めします。

本の画象

NHK出版新書(820円+税)
2018年4月刊
学研辞典編集部編
『エヴァンゲリオン ×
 ことば選び実用辞典01』


 エヴァンゲリオンのキャラクターが表紙などにデザインされている妙な類語辞典。カバーには、「逃げちゃダメだ」から「回避/出奔/脱走/逐電/逃避/遁走」と並び、「妥協せず、言葉の選択をできる類語辞典」とある。コンパクトな類語辞典はいい。すぐに開けるし、パラパラ眺めるだけでいい。セレンディピティーが働く。

本の画象

学研プラス(925円+税)
2018年2月刊



2018年4月23日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

小金井喜美子著/星マリナ編
『泡沫(みなわ)の歌』
森鴎外と星新一をつなぐひと

 喜美子は森鴎外の妹。SF作家星新一の祖母。 レモンの木は花さきくらき林の中に/こがね色したる柑子は枝もたわわにみのり、で始まる「ミニヨンの歌」(ゲーテ)を翻訳したのは18歳の喜美子。所収の星新一「武士と藩医」が面白い。鴎外の内面に弱さを感じ(喜美子の夫・祖父)良清に強さを感じるという。喜美子には、詠歌は日常。

本の画象

新潮社図書編集室・ホシヅル文庫2(1001円+税)
2018年1月刊
アキール・シャルマ著/小野正嗣訳
『ファミリー・ライフ』

 71年ニューデリーで生まれ8歳でアメリカに渡った作者の自伝的小説。兄が有名高校に合格した夏、プールに飛び込み脳を損傷。おまじないでも「何もかもやるか、何もしないか、どちらか」に追い詰められる家族。差別もいじめも父母のいさかいも少年の目で淡々と描かれる。少年は読むこと、書くことで平静を保つ。世界共通だと思う。

本の画象

新潮社・新潮クレスト・ブックス(1800円+税)
2018年1月刊

宇都宮さとるの推す2冊

京都新聞社編/小川勝章、仲屋聡・文
植治 次期十二代 小川勝章と巡る
『技と美の庭 京都・滋賀

 風情ある庭、重厚な庭、思索的な庭などなど、様々な京滋の名庭の魅力を分り易く伝える。どの庭も庭師たちの技と工夫に支えられているが、作庭の基本手法とされる『掛け合わせ』が興味深い。庭を構成する地面、石、樹木などの中での素材の組み合わせで、樹木で言えば針葉樹と広葉樹の対比と調和による計らいである。俳句の取り合わせを思わせるが、作庭の季節性や省略性などは俳句との共通項もありそうで面白い。

本の画象

京都新聞出版センター(1800円+税)
2018年1月刊
養老孟司著
『遺言』

 “いまの時代、本当は変なんじゃないか”。そんな疑問を解剖学者の著者がその科学的知識や深い思索でひも解いていく。各章とも知的刺激に満ちているが、中でも「ヒトはなぜアートを求めるのか」が示唆に富む。答えは“芸術は解毒剤”と。『同じ』に立脚する文明社会からの解放と『違う』に立脚する芸術(恣意的で単一であること)の大切さを説いている。現在のデジタル社会への警鐘の書であり、そして、老学者の時代への遺言でもある。

本の画象

新潮社(720円+税)
2017年11月刊



2018年4月16日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

ウィンズロー・テューダー/著
ターシャ・テューダー/レシピ考案・絵
食野雅子/訳
『ターシャ・テューダーの
 ファミリー・レシピ』


 絵本作家のターシャ・チューダーの実際に作っていたレシピ本です。レシピ本ですが、絵本をみているみたい。「これは私のやり方。よかったら取り入れて。あとは自分流に工夫して」というターシャの言葉はレシピだけでなく生き方にも通じます。

本の画象

主婦と生活社(3500円+税)
2017年10月刊
グスティ/作・絵
宇野和美/訳
『マルコとパパ』
ダウン症のあるむすこと ぼくのスケッチブック

 ダウン症の息子との日常。「『うけいれる』とはさしだされたものを、じぶんからよろこんでうけとることだ」とあり、考えさせられます。そのダウン症は出産前に検査でわかる時代に…。考えれば考えるほど答えがでない生命の本です。

本の画象

偕成社(2800円+税)
2018年2月刊

武馬久仁裕の推す2冊

武藤紀子著
シリーズ自句自解Ⅱベスト100
『武藤紀子』

 自解にある、師、宇佐美魚目が著者の「鳥の目に少年細し冬干潟」を「鳥の目に少年消えし冬干潟」と添削した話は味わい深い。「最後に魚目先生にお会いした時、珍しくその場で添削して下さった一句」とある。「細し」より「消えし」がなぜよいか、自分なりの答えを持ちながらも、「まだ自分の力ではわからない」と結ぶ著者の志を、私は好ましく思う。

本の画象

ふらんす堂(1500円+税)
2018年1月刊
河内春人著
『倭の五王』
―王位継承と五世紀の東アジア―

 倭の五王といえば、高校時代に習った長たらしい官爵を思い出す。例えば五王の最後の武の官爵は、478年、宋から任命された使持節・都督倭新羅任那加羅秦韓慕韓六国諸軍事・安東大将軍・倭王であった。私には、国内向けの実体のないこけ脅しの官爵に思えた。しかし、当時の世界情勢の中で深い意味があったのである。五王の貰った官爵の意味が知りたい方必読である。

本の画象

中公新書(860円+税)
2018年1月刊



2018年4月9日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す2冊

目黒実編・寺山修司×宇野亜喜良著
『五月よ 僕の少年よ
 さようなら』


 小品の本書は、寺山の不思議な詩と宇野の不思議な絵のコラボレーション。両者は目黒の「命」。感じるというよりも深く何かを考えさせられる詩。「美しすぎる童話を愛読したものは、おとなになってから、その童話に復讐される。」時間がたっぷりあるときに、ゆっくり浸って欲しい本。目黒から寺山へのメッセージがタイトル。

本の画象

アリエスブック(1700円+税)
2017年12月刊
大嶋 仁著
『メタファー思考は
 科学の母』


 本書の目的は、文学が人間の思考にとって不可欠であると伝えること。文学の起源は歌。脳科学者エデルマンのメタファー(暗喩)思考も「人間が言語を覚える前からの思考」「物事と物事のイメージの関連性を追求し、世界をパターン化して把握すること」と紹介。歌を忘れつつある人間に古傷を癒し人類を守る文学を勧める。

本の画象

弦書房(1900円+税)
2017年10月刊

静 誠司の推す2冊

小栗清吾著
『吉原の江戸川柳は
 おもしろい』


 江戸時代の吉原遊郭を題材にした川柳を集め、テーマごとに分類し紹介したもの。江戸の男たちがいかに吉原に夢中であったか、「ありんす国」吉原で働く人々のリアルな実態など、川柳を通して彼ら彼女らの実像が浮かび上がる。膨大な量の吉原川柳をよく選別し分類し解説してくれた筆者の労苦がしのばれる。女性受けはしないだろうが。

本の画象

平凡社新書(840円+税)
2018年1月刊
WRITES PUBLISHING編
毎日読みたい
『365日の広告コピー』

 1年365日の一日一日に、その日に見合い、実際に使用された広告コピーを紹介した作品集。1月1日から通して読んでもよいし、気になる日付を行ったり来たりしながら読んでも楽しい。ちなみに私の誕生日のページには「子どもに伝わるのは、命令形ではなく肯定形です。」というコピーが。確かに最近ちょっと命令口調かも。反省します。

本の画象

ライツ社(1850円+税)
2017年12月刊



2018年4月2日号(e船団書評委員会)

松永みよこの推す2冊

大岡 信著
『紀貫之』

 情趣を重んじた紀貫之の歌は、実態をまっすぐ伝えるのをよしとした、正岡子規によって否定された。私は、実態は「豆腐」、情趣は「おから」だと思った。そしてその味わいに甲乙をつけるのは困難をきわめることだと。著者である詩人大岡信の史実の隙間を埋める大胆な想像力には、貫之的な情趣が宿っていることも見逃せない。

本の画象

ちくま学芸文庫(1100円+税)
2018年2月刊
齋藤 孝著
『ほめる力』
「楽しく生きる人」はここがちがう

 お世辞ととられることなく、相手の心に温もりを届けられたらと思うがなかなかうまくいかない。―円滑なコミュニケーションの基本は句づくりと同様「観察」から。少しの下準備と(人に会う前に体を温めるためジャンプをするといいらしい)積極性で、今までよりも一歩踏み込んだ対人関係を築いていけそうな期待がふくらんだ。

本の画象

ちくま文庫(680円+税)
2018年1月刊

田中俊弥の推す2冊

NHKテキスト(2018年4月号)
『NHK俳句』

 2018(平成30)年度が始まる。今年は、例年になく早い桜となった。このところ、花見のニュースがにぎわっている。わたしたち日本の生活とことばの文化が季節の変化とともにあることは、すでに万葉集以来の伝統である。新年度、俳句という豊かなことばの文化を月ごとに双方向で学び続けていきたい。特別定価で別冊付録あり。

本の画象

NHK出版(700円・税込)
2018年3月刊
NHKテキスト(2018年4月号)
『まいにち中国語』

 昨年度は、ハングルを半期半期で1講座15分、1年間都合240講座、おもにネットラジオ(NHKらじる★らじる)で学びつづけ、本年度は、ハングルとともに新規に中国語にチャレンジしようとそのテキストを購入。ハングルの学びを深めるためにも漢字文化の元祖のことばを学ぶべきときが来た。いまや時代は中国を向いている。

本の画象

NHK出版(486円+税)
2018年3月刊



2018年3月26日号(e船団書評委員会)

赤石 忍


坪内稔典監修/佛教大学選
『小学生のための俳句入門』
―君もあなたもハイキング(俳句の王さま)

本の画象

 「新雪に倒れて私がもう一人」「つゆがつくおうちのまどは自由帳」「友休む後ろの席に冬の風」「弟の首がすわって夏が来た」「夕焼けの少しさみしい『また明日』」。高学年生の作。うまいものだ、と思う。「なつ休みしょんぼりしてるランドセル」「はるがきたトリケラトプスになれるかな」「あまがえるどきどきするよおうだん中」「しゃぼん玉木のそばに行き木としゃべる」。低学年生でも、やるなあと感じる。素直とか感じたままとか、そういうことではない。彼等は作意をもって表現をし、非日常の中で言葉を手繰り寄せているのだ。早い時期から楽しさの中で言葉と格闘する機会を持つことは素晴らしいことではないかとも思う。本書は佛教大が長年続けている俳句コンクールの優秀作を纏めたもの。船団会員の山本純子さんが作品寸評をし、坪内氏が解説と作句の方法を書いている。4月初めから書店に並び始めるが、ぜひ教育現場でも活用してほしい。ちなみにハイキングは、俳句王と吟行の両意から。

くもん出版(1500円+税)
2018年4月刊


舩井春奈の推す2冊

清川あさみ・最果タヒ著
『千年後の百人一首』

 たくさんの百人一首の解釈本がある中で、千年後の今日の研ぎ澄まされた感覚でまとめられているのがこの書。一見挿絵のようなのは絵札。斬新。写真に刺繍を刺す手法で知られる清川あさみによるものだ。翻案は、詩人であり小説家の最果タヒによる。読み進めるにつれ、まるで百の短編集に吸い込まれていくかのような感覚に。

本の画象

リトルモア(1600円+税)
2017年11月刊
藤井宗悦著
『点前の準備』
 茶の湯の基礎から茶箱まで

 個人的に、忘れた頃に必要になるのが茶道。学部時代のサークルでお稽古して以来、卒業と同時に必要に迫られてのみ接するくらいだ。このところは、徳島句会で誕生月の参加者がおられれば、お茶を点てる。それを機に、きちんともう一度、とこの本を手にした。のどかな光が手元へ差し込む。この春は庭で野点をしてみよう。

本の画象

淡交社(1400円+税)
2017年12月刊



2018年3月19日号(e船団書評委員会)

香川昭子の推す2冊

穂村 弘著
穂村弘の読書日記
『きっとあの人は
 眠っているんだよ』


 人生においてもっとも重要なアイテムは本という著者。漫画、ミステリー、詩歌などが多い。「優良なコンテンツというわけではない。むしろコンテンツになることに抗うというか、面白さという概念そのものを変えようとする意志を感じる」。いがらしみきおの漫画をそう捉える。その例としての文章を読んだ。うーん、そうなのかなあ。

本の画象

河出書房新社(1600円+税)
2017年11月刊
イタロ・カルヴィーノ著
『木のぼり男爵』

 かたつむり料理を拒み12歳から木の上に暮らすコジモ。一生地上に降りず、木から木に飛び移り、剪定など様々な仕事をし、食べ物を得、多くの本を読み、革命、冒険、恋愛も木の上で。老いて病になるも、痛快無比な最期が描かれる。ファンタジーともいえるこの長編、法螺話を読む愉しさよりも、人間や社会の不可解さ、悲しさが残った。

本の画象

白水Uブックス(1800円+税)
2018年1月刊

原 ゆきの推す2冊

宇多喜代子著
『この世佳し』
―桂信子の百句

 口に馴染み、そのまま覚えてしまいそうな桂信子の句。「母の魂梅に遊んで夜は還る」「夜の町は紺しぼりつつ牡丹雪」「草の根の蛇の眠りにとどきけり」「どことなく傷みはじめし春の家」連想したのは丁寧に面取りし出汁で薄味に煮含めた野菜。奇をてらわず品のよい日常のおかず。104句を頬ばり、風味に、いちいち驚いた。

本の画象

ふらんす堂(1400円+税)
2017年12月刊
石井桃子著
『家と庭と犬とねこ』

 石井さん訳の児童文学に「かわいね!なんて名まい?」という子供の台詞がある。疲れた肩を「ごよごよ動かす」とか、満足した女の子が「ふとい息」をつく、などの表現も。この随筆集にも「ツバまでがあまくなるような気もち」を発見し「すかすか」息をすって確認する帰郷シーンが。この独特な身体感覚溢れる桃子節、大好きだ。

本の画象

河出書房新社 河出文庫(680円+税)
2018年2月刊



2018年3月12日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

岸本葉子著
季節の言葉と暮らす幸せ
『俳句、やめられません』

 著者は現在「NHK俳句」の司会も務めるエッセイスト。季語をいかに生かすかが本書の基調。第四章「『あるある俳句』と『褒められ俳句』」がよかった。報告句、原因と結果の説明句、決まり文句の句、季語の説明になっている句などなど、そういうことって誰かに言われないとわからなくなるよなぁと思った。

本の画象

小学館(1400円+税)
2018年2月刊
川上浩司著
『京大式DEEP THINKING』

 著者は京都大学デザイン学ユニット特定教授で「不便益(不便がもたらす益)」の研究者。「本当に深く考える」とはどういうことか、考えさせられた。例えば新しいアイデアは、既存の者に何かを足すのではなく、引き算で発想するといいそうだ。人工頭脳研究者の著者の経験と実感に基づく文章に学ぶところが多かった。

本の画象

サンマーク出版(1400円+税)
2017年11月刊

今泉凡蔵の推す2冊

唐仁原教久画・文
「『濹東綺譚』を歩く」

 この画文集の表1は、ぬけられます、との看板路地だ。どっこい読み始めたら抜けられない。見返し、扉と紅殻でまるで廓格子だ。そこから先は、言えない! 画家、デザイナー、文筆家と様々な顔を持つ著者は、玉の井界隈をゆっくりと丹念に歩く。その目は今現在の町の姿ではなく、荷風の眼差しを獲得している。僕も一緒に歩きたかった。
 蚊帳の穴むすびむすびて九月哉 荷風

本の画象

白水社(2400円+税)
2017年10月刊
若竹千佐子著
『おらおらでひとりいぐも』

 標準語という言葉は、何と味気のない言葉だと、今しみじみ感じている。そもそも標準って何さ? 賢治の詩の地元言葉での朗読を聞くと、言葉が魂、生命力を持って響いてくる。詩の世界が、今までと違った画面に沸き立ってくるようだ、永訣の朝のように。おらという私は、生と死の、過去と現在未来の境を軽々と飛び越えて思弁の世界に生きる。やはり一人で行くしかない。おらもいぐだ!

本の画象

河出書房新社(1200円+税)
2017年11月刊



2018年3月5日号(e船団書評委員会)

宇都宮さとるの推す1冊


宇多田ヒカル著

『宇多田ヒカルの言葉』

本の画象

 ヒッキー14歳のデビュー曲 “真実は最高の嘘で隠して/現実は極上の夢でごまかそう……” で始まる『Never let Go』をはじめ、20年間の全楽曲の日本語詞集。普通歌詞は横書きが多いのだが本書は全て縦書き。そのためか、メロディーと一体化されていた言葉が独り立ちしてくるから不思議だ。作品は何気ない日常のひと言ひと言がそれほどの脈絡もなく紡がれているように見えるが、相当言葉が削ぎ落とされているだろう、読み継いでいくと独特の世界観が胸に迫ってくる。また、著者の作詞の姿勢に注目したい。曰く、「一貫して……作品の世界に作者の自我の痕跡を残さないように……」「……日本語とより真摯に向き合ってきた……」と。
でも、どうして彼女の歌はこうも儚げなのだろうか……。

エムオン・エンタテインメント(1400円+税)
2017年12月刊


鈴木ひさしの推す1冊


植村和秀著

『折口信夫』

本の画象

 歌人釈超空、国文学者・民俗学者折口信夫、どこから近づいていけばいいのだろうか。 著者は、「歴史学に近い政治思想史」の立場から折口信夫が何を考えてきたのかを整理し、できるだけ再現しようとしている。1923年の関東大震災時の虐殺者のすさんだ表情に直面した後の歌、1935年2・26事件の「反乱者」に憤激し、戦争責任者たちのふるまいに衝撃を受ける折口……。同時代に引き戻し、思考の細部を見ようと試みる。
 信仰が社会を根本で支え文学が社会を未来に導く、折口の考え方の基本を、著者はこうまとめる。膨大な『折口信夫全集』全40巻をその思想的構成から分類し、「短歌→詩→歌論→……→民俗学→国学・神道論」と読み進める順序を図式化している。一つの読書法として面白い。「われわれの生活から、文学や芸術を取り上げられてはたまらぬ。それでは我々は生きていくことにくたびれてしまうだろう」(『わが源氏物語への道』)

中公文庫(800円+税)
2017年12月刊



2018年2月26日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

田中青志句集
『青』

 「花野出て繋ぎゐし手を離しけり」美しいひと時が終わり、愛する人の手を離さなければならないさびしい時が来たのだ。「十三夜花瓶の水で机濡れ」ささいな事を通して、十五夜に二夜少ない後の月、十三夜のさびしさが表現されている。「地を叩き水を叩きて野に遊ぶ」。楽しいはずの野遊びが、なぜかさびしく思われる佳句である。句集の世界は、どこまでも青く美しい。

本の画象

文學の森(2315円+税)
2017年12月刊
小川剛生著
『兼好法師』

 被支配者は、勅撰和歌集に入集しても読み人知らずになる。名前を顕したければ出家するに限る。だから兼好も法師になった。そして、それを果たした。歌の道に邁進するため、京=都市にあって、貴顕の秘書となり、金を稼ぎ教養を高め、貴顕(文化人)と交わった。と、これが兼好の実像だと本書は言う。隠者文学『徒然草』は、当然ながら文学的虚構であったのだ。

本の画象

中公新書(820円+税)
2017年11月刊

静 誠司の推す2冊

岸本葉子著
『俳句で
 夜遊び、はじめました』


 NHK俳句の司会者としても人気の筆者が、夜の句会に積極的に挑戦する様子が語られる。これまでは家庭の事情で、夜遅くや宿泊を伴う外出ができなかったそうだが、制約から解放されて、様々な句会に本当に意欲的に参加している姿に頭が下がる。夜の句会と言えば、宴会(?)とセットがつきものであり、その様子も楽しそう。

本の画象

朔出版(1600円+税)
2017年11月刊
石井遊佳著
『百年泥』

 今期の芥川賞・直木賞を受賞した3作品の中で、ニュースなどの情報から内容が全く予想できなかった本作品。ストーリーを語る自信がないのでやめておくが、チェンナイの百年に1度の洪水であふれかえった泥の中から次々かき出される記憶、イメージ。これは俳句の発想にも使えそうだと思う要素が多々感じられた。おもしろい。

本の画象

新潮社(1200円+税)
2018年1月刊



2018年2月19日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

今井 聖著
『言葉となればもう古し』
加藤楸邨論

 魅力的な題名だ。「思いと表現の差」をどう埋めるか。直接的な答えは書かれていない。「対象を見る→自分の角度で捉える→対象が自分になる。」が楸邨の句だと、繰り返し語られる。表現のあとに思いが来る。「たくあんの波利と音して梅ひらく」。波利と表現したので、波利と梅が開く。
 黴の中言葉となればもう古し 楸邨

本の画象

朔出版(2400円+税)
2017年10月刊
聞き手・栗木京子
高野公彦インタビュー
『ぼくの細道うたの道』

 「僕は大体、運のいい人生を歩んでいる男なんです。」と75歳の高野。高校通学時の将棋友達以来、常に仲間と共にいる。一方で好きな言葉を集めてメモする。「『さすらい人幻想曲』を聴きながらタカーノビッチ・キミヒコフとなる」とロシア名をつけるなどお洒落。歌壇のこぼれ話を交え短歌について語る。2月の光のように明るい談話。

本の画象

本阿弥書店社(3000円+税)
2017年10月刊

紀本直美の推す2冊

ジョイス・シドマン/文
ベス・クロムス/絵
さくまゆみこ/訳
『あさがくるまえに』

 表紙をみて、雪の絵本かなと思って手に取ったら、ちょっと違いました。物語の最後にある「ねがいと言葉の力」は子どもにも大人にも響いてきます。読み終わったあとに、深いため息をついてしまう、重厚な絵本です。

本の画象

岩波書店(1500円+税)
2017年12月刊
ホリー・ホビー/作
三原 泉/訳
『子ネコのスワン』

 最近、私のまわりでは、男女問わず、猫を飼い始めた人が多いです。みんなの感想は「猫はいいよ~」。私は子どものころから猫を飼ったことがないのですが、やはり特別な何かがあるのでしょうね。この絵本の子猫をみていると、私も飼いたくなってきました!

本の画象

BL出版(1500円+税)
2017年12月刊



2018年2月12日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す2冊

岡 清秀著
俳句とエッセー『僕である』

 岡清秀さんは、わたしのゼミで句会指導の修士論文を書いた岡清範くんのお父さ ん。タイトルは岡さんの秀句「初夏である富士山である僕である」にもとづく。 マンホール好きの岡さんの実家は、兵庫県北部・鉢伏高原の麓にあるそうだ。ユ ーモラスで実直な岡さんのエッセーは、どれもあたたかい。この父にしてあの息 子ありと拝読。

本の画象

創風社出版(1400円+税)
2018年1月刊
浅田次郎著
『神坐(かみいま)す山の物語』

 電車待ちのホームのコンビニで、タイトルに惹かれ偶然手にとった一冊。古事記 を深く読みたい気持ちが機縁である。末尾の「天井裏の春子」から読み出し、武 蔵御嶽山(みたけさん)の大広間を雷が通過する「神渡り」の描写に圧倒された。 寸分隙のない研ぎ澄まされた小説のことばにはじめて出会ったからである。圧巻 の一書なり。

本の画象

双葉文庫(640円・税込)
2017年12月刊


太田靖子の推す1冊


谷川俊太郎/尾崎真理子著

『詩人なんて呼ばれて』

本の画象

 谷川の人生と67年にわたる作品を、彼の仕事に対する解説、評価と谷川へのインタビューで構成。尾崎の文章力により引き込まれるように読める。3人の元妻や交流のあった大岡信など谷川をめぐる文学界を見渡せるのもいい。文芸誌の月評を書き、詩壇にも造詣の深い尾崎ならでは。谷川に「よく読んでくれているね」「僕は女性が近くにいないと完結しない」などと言わせる。詩人の詩を知り尽くしたファンであればこそ引き出せた谷川の姿がここに。「理想的な詩の初歩的な説明」の最終フレーズから取られた本書の題名は見事。本書のために書き下ろした「詩人なんて呼ばれて」の最終フレーズは「私はコトバの安産を願うだけ」。谷川をさらに読みたくなる。

新潮社(2100円+税)
2017年10月刊



2018年2月5日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

大阪俳句史研究会編
『月斗句集』

 月斗の名は、正岡子規の絡みで確かに目にしていたことは覚えている。だが、一個人として注目して取り上げた本は、どうやら殆どないらしい。作品を読んでいると、今では珍しい生活の様子もちらほら詠みこまれ、逆におもしろい。もちろん今でも通用するものもある。
 寒明や野山の色の自から
この本から新たな研究が進むかも?!

本の画象

ふらんす堂(1200円+税)
2017年11月刊
ぬまがさワタリ著
『なんかへんな生きもの』

 友人が勢い勇み貸してくれた本。身近な蚊から名前すら知らなかったメガマウスという魚まで色々と紹介されている。その不思議な生態について、現代の世相や話し言葉を取り入れた説明で、どんどんはまっていく。背景色もその生態を取り入れて配色されている。この本をとおして知った私のお気に入りは愛おしくも切ないカカポ。

本の画象

光文社(1000円+税)
2017年12月刊

松永みよこの推す2冊

監修・知里幸恵銀のしずく記念館
まんが・ひきの真二/ストーリー・三条和都
小学館版 学習まんが人物館
『知里幸恵とアイヌ』

 冬になると開く『アイヌ神謡集』。アイヌの民に伝えられた歌を、初めて文字にまとめたのは、知里幸恵という19歳の女性だった。早逝のはかなさが印象深いが、コミックでは活発だった女学生時代、婚約者の存在など、彼女が死の直前まで生き生きとしていた様子が描かれる。日本文学の幅を広げようとする編者の気迫を感じた。

本の画象

小学館(950円+税)
2017年11月刊
平井憲太郎・本多正一・落合教幸・浜田雄介・近藤ようこ著
『怪人 江戸川乱歩のコレクション』

 怪人二十面相も驚く乱歩の多面性。私の「乱歩体験」は、北大路欣也の明智小五郎、少年探偵団、そして『芋虫』の衝撃。さらに池袋の母校で、乱歩邸土蔵の整理を手伝った。この土蔵からはなおも新資料が発見されている。(当時のメンバー落合氏も執筆)心の中に、少女の夏、乱歩が開いてくれた、異端世界への扉を思いだした。

本の画象

新潮社 とんぼの本(1800円+税)
2017年12月刊



2018年1月29日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの推す1冊


上田信治句集

『リボン』

本の画象

 「うつくしさ上から下へ秋の雨」。この句から句集「リボン」は始まる。上から下へと降る水を人は雨と呼び、当然のこととして、特に目をやることもせず、傘を差したりする。しかし、もしそれを当たり前と思わずに見ることができたなら。縦方向にきらめく液体が線を描きつつ辺りに隈無く流れ落ちてゆく様を「発見」できるかもしれない。一瞬の「発見」に胸打たれたことを「うつくしさ」と書き留めるのは異色。深沢七郎さんのエッセイに(あれ、ボクは、作家にでもなるつもりじゃないか)と思うとおっかなくなってきた、という大好きな記述があるが、この句集も(ボクは俳人にでもなるつもりじゃないか)とおっかながっている感じが、いい。

邑書林(1800円+税)
2017年11月刊


赤石 忍の推す1冊


ねじめ正一著

『認知の母にキッスされ』

本の画象

 三年前に上梓された単行本を文庫化にするにあたって、「母の死」という最終章が書き下ろされた。
 前書の時は、「六月の認知の母にキッスされ」の句を基に、多分、著者が虚実を織り交ぜて創り上げた悲喜劇と紹介したが、最終章は2017年の糸瓜忌に介護を終えた、ねじめさんの奥底からの心情の吐露のようにも思える。作者は、関係や気遣いを遮断して言葉を暴力的に噴出するマグマの活動が、死が近づくにつれて収まっていく様子をこう記す。「言葉から解放された母は、穏やかに安らかに生きているのだ」。
 そして「私は、たとえゾンビになった母でもいいから会いたいと、郵便受けから真っ暗な店の中を覗き込む。暗闇を見入る目からは涙がこぼれた」と締めくくる。凄まじい認知症介護から解放された安堵感と、母という肉親を失うそれ以上の喪失感。最終章にはその二つの思いが渦巻いているが、作品としての必要性も含めて、この章をどのように受け止めるべきかは、読み比べた読者各々に委ねられている。

中公文庫(800円+税)
2017年12月刊



2018年1月22日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の推す2冊

石川桂郎著
『俳人風狂伝』

 無頼という言葉は、今の文学にはなじまない。それは自由であり無法であり反俗だ。この書の俳人達は無頼の徒であったに違いない。思う様自分に即して生きてゆく。畸人の称号は詩人の勲章だ。揺れに揺れる人生のなかで、皆不思議に客観で冷静、透徹した視線を保持している。
独房の雪は音楽となり降りいそぐ・岩田昌寿
読むは日ねもす北風が画く砂模様・相良万吉
「日ねもす」は原文のママ)。

本の画象

中公文庫(1000円+税)
2017年11月刊
チャールズ・チャップリン著/中里京子訳
『チャップリン自伝』
 ―栄光と波乱の日々―

 『若き日々』に続く名声を博した後の半生75歳までを語る。その記憶力は驚くばかり、登場する人名だけでゲップが出る程。喜劇王という冠は破天荒な人生を思わせるが、実に淡々としている。精神を病んだ母の死も情に溺れることなく叙述される。自伝の最後に「略〜みなもがきながら生きるしかないのだ。わたしは矛盾のなかで揺れ動く」。ひさしぶりに「キッド」でも見るか。

本の画象

新潮文庫(990円+税)
2018年1月刊

香川昭子の推す2冊

川上弘美著
『水声』

 姉と弟が惹かれ合い、パパとママは兄妹という家族を描いた長編。過去と現在が行き来する文章が、姉弟が身体を重ねる場面も自然に描く。終章には「わたしたちを知るすべての人に裁かれている、けれど、真に裁いてくれる者など、本当はどこにも存在しない。」作中の「頭の中で白い夏野になってゐる」の句とカバーの装画の駒井哲郎「樹」が、透明で不思議な世界に誘う。

本の画象

文春文庫(600円+税)
2017年7月刊
柴田元幸責任編集
「モンキーvol.13」
特集「食の一ダース 考える糧」

 食べる話特集だけれど、読んでも美味しそうなのは少ない。幻想的、猟奇的、例えば人肉食いなども。想像、妄想によって言葉で創られた世界、名前も知らなかった若い作家たちを知った。ほかに柴田元幸「日本翻訳史 明治篇」、ボブ・ディランノーベル賞受賞講演等々。知らない世界がいろいろ。この雑誌、用紙も厚くて、読みやすい。

本の画象

スイッチ・パブリッシング(1200円+税)
2017年10月刊



2018年1月15日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す1冊


内田樹・安田登著
『変調「日本の古典」講義』

本の画象

 はたして、「古典」は書かれた時のままに理解されているのだろうか。『論語』は、漢の時代に孔子を聖人として祀りあげ国家宗教とするため、意図的なミスリーディングが行われた、とするのが安田氏の主張である。安田氏によれば、『論語』の「不惑」は、自分に制限をつけない、という意味になる。孔子の放浪の本当の目的は何だったのだろうか?呼吸をコントロールできる人類と鳥類には歌があり、歌はやがて言葉に昇華していく。なるほど!「オヤジギャグとは常に抱いている音の世界への郷愁が時々抑えようもなく漏れてくるものである」(?)
 この本に出てくる様々な話は壮大なファンタジーの一場面のようである。二人の話はどんどん深みに入り、時々トリビアの世界に入っていくのだが、かならず、今日の日本、日本人の課題を考える手がかりとなっている。お互いをおもしろがる二人の対談が絶妙におもしろい。

祥伝社(1600円+税)
2017年12月刊


若林武史の推す2冊

高橋源一郎著
『ぼくたちはこの国を
 こんなふうに
 愛することに決めた』


 小学生「ランちゃん」とその仲間達が「くに」をつくる。その過程の中で「くに」とは何か、生きるとはどういうことかが語られる。「こんなふうに愛すること」は本文で具体的に語られない。本文全体からの香りのようなものとして感じ取られるものである。その点において、これは小説として読むべき一冊である。

本の画象

集英社新書(860円+税)
2017年12月刊
BRUTUS 2018年1/1・15号
「危険な読書」

 「危険な」とは、いわゆる道徳的な読書啓発ではないという意味。紹介される本の内容の偏りもさることながら、これらの本を紹介する側にもある種の偏向が感じられる。そんな頁の中に佐藤文香と山田航の句集と歌集の特集「ぞっとする俳句、短歌」の頁がある。俳句も紹介されていてよかったねという思いで読んだ。

本の画象

マガジンハウス(680円+税)
2017年12月刊



2018年1月8日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

山折哲雄著
『勿体なや祖師は
 紙衣の九十年』

 ―大谷句仏―

 書名は大谷句仏(1875~1943)の代表句。句仏は東本願寺管長だった。祖師は親鸞。碧梧桐の全国俳句旅行を支援、虚子を東本願寺に招いたりした。教団革新の中心にいた暁烏敏と虚子が知り合い、句仏につながったのだろうと筆者はいう。句仏は教団の財政再建に失敗、50歳で引退する。63歳での自選句集名は『我は我』。

本の画象

中央公論新社・中公叢書(1600円+税)
2017年9月刊
池内 紀著
『記憶の海辺』
 一つの同時代史

 27歳で留学したウィーンでは、奨学金の延長に支障がないことを確かめ、大学の授業に出ず、街歩きや女優の追っかけ。「目や耳や感覚を鍛えておこう」。一方で市立図書館に日参、昔の新聞・雑誌を閲覧、ノートをとる。自由。知的好奇心旺盛。生涯に捨てた恋二つ。人間観察が鋭い独文学者の回想録。筆者は40年生まれ。

本の画象

青土社(2400円+税)
2017年12月刊

宇都宮さとるの推す2冊

谷川俊太郎、横尾忠則、石牟礼道子、
筒井康隆著

武田将明、飯田橋文学会編
『現代作家アーカイブ2』
自身の創作活動を語る

 現代の個性あふれる4人の詩人・作家たちが自分の創作活動の機微を語ったインタビュー集。聞き手の第一線の文学者たちが作家の本音を引き出していていずれも興味深いが、20代から詩作を職業としてきた谷川俊太郎の一言一言が刺激的だ。「現代詩が意味に偏っていて……日本語の豊かな面白い音を無視している」「言語以前の存在に…近づきたい」「道端に生えている雑草みたいな詩が書きたい」などなど。考えてみたいフレーズである。

本の画象

東京大学出版会(2200円+税)
2017年12月刊
本橋信宏著
『新橋アンダーグラウンド』

 行間から新橋(特に烏森口界隈)の街が持つ独特の臭いがぷんぷんと漂ってくるこれぞルポルタージュという一冊。『ガード下の焼き鳥(豚モツ)屋』『SL広場』『花街、闇市跡』『風俗』などある種の魔境がしたたかに生き続けている様をこれでもかとリアルに抉り出している。評者も20代の10年程、人間社会の光と影が交錯するこの街の素敵な不穏にハマっていた一人だが、新橋の妖しげな魅力は今も色褪せていないようだ。

本の画象

駒草出版(1500円+税
2017年11月刊



2018年1月1日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

カーソン・エリス作/アーサー・ビナード訳
『なずず このっぺ?』

 「なずず このっぺ?」「ずんずううう」「じゃじゃこん!」昆虫たちの会話に引き込まれていきます! よく見ると「、」や「。」の文字のデザインが複数あり、それも意味があるのかも! 虫好きの人の方がよくこの会話がわかるのかしら?

本の画象

フレーベル館(1600円+税)
2017年11月刊
谷山彩子作
『文様えほん』

 「文様」と「紋様」と「模様」の違いを初めて知りました! 日本の文様や世界の文様がたくさん紹介されていて、ながめているだけで楽しくなります。これからは、今まで気がつかなかった文様が目に留まるようになりそう!

本の画象

あすなろ書房(1400円+税)
2018年1月刊

武馬久仁裕の推す2冊

安西 篤句集
『素秋』

 「春愁へこみやすきはビール缶」「原子炉の全き球形かぎろえり」「手のひらに円錐を置く秋思かな」という句を読みながら、「自然は円筒形、球形、円錐形からなっている」というセザンヌの言葉を思い出した。しかし、それら世界を形成する形態は、句集においては、みな危うい。全き球形などは、破滅の兆しを見せ、かげろうのようにゆらめているのだ。

本の画象

東京四季出版(2800円+税)
2017年11月刊
藤尾 州句集
『美濃白鳥』

 死の淵を何度も潜り抜けたという。しかし、死を免れても作者の俳句には光明はない。「地も天も昏し榠樝の点りゐて」。「かりん」という心地よい響きとは裏腹に、魁偉な相貌を持つ榠樝の実が暗く点るのみ。まさに「あぢさゐ昏しあの家もこの家も」として、世界はある他ないようだ。「秋刀魚焼く尾張しづかに苦山河」。故郷の山河も苦い。藤尾州に光あれ。

本の画象

木偶坊俳句耕作所(私家版)
2017年10月刊



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