俳句 e船団 ブックレビュー
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2007年6月25日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


高橋順子編
『日本の現代詩101』

  帯に「おいしい、ひと粒!」とある。このコピー通りに実においしいアンソロジーだ。巻頭にあるのは夏目漱石の俳体詩「童謡」。編者は、「漱石はいきなり現代詩を書いてしまったのである」と解説している。与謝野鉄幹、天野忠の詩があるのもうれしい。


本の画象

新書館(1600円+税)
2007年5月刊
佐高 信著
『西郷隆盛伝説』

 ひさしぶりに興奮して読んだ。何に興奮したのか。西日本(官軍)に対立した東日本(奥羽越列藩同盟)に。そして、東日本とほぼ同じスタンスの西郷隆盛に。次はあとがきの言葉である。「西郷が靖国神社には祀られていない。政府に敵対した反乱軍の代表だからである。区に西郷にとっては、反乱こそ愛国だった。」

本の画象

角川学芸出版(1800円+税)
2007年4月


桑原汽白の推す2冊


大高翔句集
『キリトリセン』

〈朝、味付けのりを・・・〉
あうこともかしつのひとつ はくしょこう(翔)

〈白いページに。おそ松くんののりたま・・・、いやたまごかけ・・・〉
はだしなら ふるさとのうみにゆるされる(翔)

本の画象

求龍堂(1300円+税)
2007年4月刊
水木しげる著
貸本まんが復刻版
『墓場鬼太郎』(5)

 目玉はまさに〈目玉〉であるが、〈その目玉〉ではない。親父だ。(赤黄男のモジリ。)
 バス停、びゅわーん、置いていかれそう、よかった。たくさんすくったのに・・・、赤いのをぶらさげて、工事中。の夜更け、ブリガドーン現象。

本の画象

角川文庫(705円+税)
2006年12月刊



2007年6月18日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


雲英末雄監修
カラー版
『芭蕉、蕪村、一茶の世界』

 江戸時代俳諧の大きな存在、芭蕉、蕪村、一茶の三人を核としてその周辺の俳人の流れをまとめた一冊。短冊、色紙等のカラー図録を各頁に数枚ずつ配する贅沢さでなかなか美しい図録となった。周辺の俳人達のプロフィールと一句、例えば「売切りて蝶に別るゝ花荷かな」は大名俳人柳沢米翁の句、カラー図として双六体裁の摺物が紹介されている。

本の画象

美術出版社(2500円+税)
2007年5月刊
椎名彩木著
『カリフォルニアごぱん』

 タイトルの「ごぱん」は?であるが「ゴハン+パン」という回答で、著者のカリフォルニア暮しでの「主食の探求」ということらしい。前半はクッキー、タルト、スコーンを含むパン類のレシピでオーソドックスアメリカンを紹介。後半のごぱん紀行は街歩きのガイドブックにもなる。グルメ旅行にアメリカは稀!ながら留学中のブログをまとめたという最新情報満載は楽しい。

本の画象

ワニブックス(1200円+税)
2007年3月刊

宮嵜 亀の推す2冊


柴田奈美句集
『黒き帆』

 蓑虫のなんと寝起きの悪しき顔  奈美

 寝起きの悪い我が顔の前に蓑虫がぶら下がっています。イライラ。ミノガ科の蛾の幼虫、または成虫(♀)である蓑虫の顔を知っていますか。まさに寝起きの悪い人の顔です。我が顔も蓑虫の顔もおなじ。それで愉快になっています。同じく、「引き際を考えてをる海鼠かな」。カオス。


本の画象

ふらんす堂(2667円+税)
2007年4月刊
高林純示著
『虫と草木のネットワーク』

 植物を暗箱に置き、その空気を夜盗虫が居る別の箱に通気すると、虫は自分の環境の明暗に関係なく隠れ場から出てくる。植物の箱の中が明るいと、虫は明暗にかかわらず隠れてしまう。夜盗虫は夜の植物が出す匂いで行動するのだ。けれど、生き物の不思議はさらに不思議を呼ぶ。

山毛欅若葉一平ちゃんができあがる  亀

本の画象

東方出版(1500円+税)
2007年5月刊



2007年6月11日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊


俵 万智著
『愛する源氏物語』

 既読の方も多いと思うが、親本は2003年7月に刊行済。文庫化されたのを機に読んでみると、これがなかなか面白い。これまで地の文も和歌も私の教養レベルでは太刀打ちできず、『源氏物語』を愛するなどとは微塵も思わなかったが、光源氏と相手女性との相聞歌が俵風に変換されると恋愛の手練手管がとても良く理解でき、ストーリーも楽しそうに感じられる。解説、講義となるとお勉強となるが、こんな先生に習うなら古典も楽しいと思うのではないか。

本の画象

文春文庫(本体533円+税)
2007年4月刊
齊藤慎爾責任編集
『吉本隆明に関する12章』

  「吉本隆明と恋愛」から始まり、漫画、住居、論敵、テレビ、音楽、写真、ファッション、猫、家族、編集者、映画の12の切り口から吉本隆明という人物に迫っている。思想という大上段からではなく、生活者という側面から氏を解き明かそうとしている試みはとても興味深くは思うが、それでも私にはよくわからない。30年前に聞いた「思想など生活に比べれば、たいしたことないんだよ」という言葉の真意を理解できるのは、まだまだ先のような気はしている。

本の画象

洋泉社新書(本体820円+税)
2007年5月刊


朝倉晴美の推す2冊


小島ゆかり著
ちびまる子ちゃんの
『短歌教室』

 まる子ちゃんというキャラクター使用の好みはあっても、これは一押し!歌人小島さんが取り上げた歌(万葉集から俵万智など現代歌人まで)が良いし、解説も的確かつ分かり良い。そして楽しいといい事尽くめ。対象は小学生かもしれないが、中高校生にも是非薦めたい。よし、授業で使おう!

本の画象

集英社(850円+税)
2007年4月刊
松岡正剛著
17歳のための
『世界と日本の見方』

 若い世代への強いメッセージ。実は、30代の読者多数とか、それも納得。連綿と繋がってきた、この地球上の国々の存在とは、歴史とは。それらは、漫然と流れてきたのではなく、そこには人々の意思が存在していて・・・。私たちは、日本という国を好き嫌いではなく、しっかりと見据えて生きて行くべきだ。

本の画象

春秋社(1700円+税)
2006年12月刊



2007年6月4日号(e船団書評委員会)

大角真代の推す2冊


穂村 弘編
家族の短歌
『納豆の大ドンブリ』

 めくってびっくり短歌絵本の第5巻。絵は寺門 孝之。表紙の毒々しさに一瞬躊躇したが、短歌は温かく優しさに溢れていた。絵とのギャップに戸惑いつつ読み進めれば、この絵しかない、と思えるように。最終巻のこの1冊。まいった。

本の画象

岩崎書店(1470円)
2007年3月刊
なかがわみどり・ムラマツエリコ著
『チェンマイ アパート日記』

 1ヶ月間チェンマイのアパートで暮らした日記。イラストと文章で構成された読みやすい旅行記。
 外食天国らしく美味しそうな料理の写真にお腹がぐ〜っと。異文化を楽しめる二人が素敵。旅に出たい。

本の画象

JTBパブリッシング(1470円)
2007年3月刊


木村和也の推す2冊


朝日新聞社編
『朝日俳壇2007』

 週に一度、4人の選者が一堂に会して選句するのだとは知らなかった。朝日新聞俳句欄の投稿家たちの1年間の戦歴の展示であると同時に、稲畑汀子、金子兜太、川崎展宏、長谷川櫂ら選者たちの選句修羅道の道標でもある。選者それぞれの特性が比較できて面白い。

本の画象

朝日新聞社(2800円+税)
2007年5月刊
東 浩紀著
『ゲーム的リアリズムの誕生』
―動物化するポストモダン2―

 マンガやテレビゲーム、エンターテイメント小説といった、いわゆるオタク文化の中に、ポストモダン文学の積極的な可能性を見る。旧来の自然主義的発想に馴染んできたわれわれの文学観にある種の衝撃を与えてくれる。ポストモダンを「大きな物語の衰退」と捉えた視点は示唆的。

本の画象

講談社現代新書(800円+税)
2007年3月刊



2007年5月28日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


石 寒太著
『日めくり猫句』

 あるウェブマガジンに一年間に渡って連載された、猫の句とその鑑賞文をまとめたもの。春夏秋冬偏りなく猫の句を集めるのは、かなりの労力を要しただろう。一日一日、次はどんな猫に、猫の句に出会えるか、ページを繰るのが楽しい。鑑賞のポイントを押さえた簡潔な文章は、俳句とは無縁の読者にも分かりやすい。自分や家族の誕生日の句などを諳んじてみるのも楽しい。
 仰山に猫ゐやはるわ春灯  久保田万太郎

本の画象

牧野出版(2000円+税)
2007年1月刊
真保裕一著
『最愛』

 長く音信不通だった姉が撃たれて重体に。弟はその年姉に届いた八通の年賀状の差出人を訪ねながら、事件を、自分の知らない姉の過去を探ろうとする。お互い唯一の肉親でありながら、訳あって離れて育った姉弟の、深くて濃い情愛が切ない。すべてが明らかになるラストまでテンポ良く一気に読ませる。最期の姉弟の場面は映画を見ているようである。

本の画象

新潮社(1500円+税)
2007年1月刊


若林武史の推す2冊


樋口 覚著
『短歌博物誌』

 生き物が詠み込まれた古今の短歌を集めた一冊。河馬の項もあり、「山月記」で有名な中島敦の歌が取り上げられている。俳句にはない生き物の一面がうかがえておもしろい。

本の画象

文春新書(780円+税)
2007年4月刊
原尻淳一著
『PLANNING HACKS!』

 いわゆるビジネスハウツーもの。ハックは、ハッカーと同根の言葉だが、最近、いい意味で用いられている。この本は企画でうまく乗り切るためのヒント集。「リーダーは楽しくって狂っているのがちょうどいい」らしい。

本の画象

東洋経済新報社(1500円)
2007年5月刊



2007年5月21日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


辺見 庸著
『記憶と沈黙』

 「俳句にいささかの知識もない私」「短歌に無知な私」と謙虚に著者は言うが、『大道寺将司句集』に寄せて、「よき詩歌とは黙読してこそ言葉がよく語り、よく舞うものなのだ」と書いている。今日の状況を、「政治の言葉ではなく、詩や哲学の言葉」で語る著者の文章の向こうには、いつも死と戦争が見えては消えている。

本の画象

毎日新聞社(1500円+税)
2007年3月刊
石原千秋著
『百年前の私たち』

  明治30年代半ばから大正期半ばの夏目漱石作品と同時代の雑書から、「一般の読者」が持ち得た当時の常識を探る。この本で行ったのは「言説に映った大衆史の試み」「書物から語りかけられた大衆史の試み」と著者は書く。当時の雑書の分析と今日の日本社会への言及の往復が興味深い。

本の画象

講談社現代新書(740円+税)
2007年3月刊


武馬久仁裕の推す2冊


三好達治著
『萩原朔太郎』

 三好が繰り返し述べるのは、朔太郎の踏み外しの美学である。面白いことに、朔太郎は先輩犀星の詩にこの「詩歌における論理性の無視軽視」の重要性を見出し、犀星自身は気づかなかったというのだ。かくして、朔太郎によって「言語組織の常理のしがらみから詩を解放すること」が自覚的になされるようになった。その朔太郎を、三好は「(あなたは)いつもうらぶれた淋しい裏町の小路をゆかれる」と哀惜を込めて歌うのであった。

本の画象

講談社文芸文庫(定価1470円)
2006年11月刊
大庭武年著
『大庭武年探偵小説選T』

 大庭は大連に住み、「日本唯一の植民地都市D市」を舞台に若き郷警部が活躍する「十三号室の殺人」という密室トリックもので中央文壇デビュー。この作品を含む郷警部もの5編は、満州モダニズムの雰囲気をしばし味わうことができる。しかし、「競馬会前夜」で被害者の死を語る警部の言葉が痛ましい。「人生の花の時代を…常道に外れた死に様で捨ててしまうなぞ、これ以上の愛(ママ)惜があるであろうか。」著者は45年8月、東満国境付近で戦死。

本の画象

創論社(定価2750円)
2006年12月刊



2007年5月14日号 (e船団書評委員会)

小林幸夫の推す2冊


久保田淳訳注
『新古今和歌集』(上・下)

 若いとき、古典詩歌を読むには、注釈や訳注などうるさいだけだと思っていた。読んでいく流れの邪魔になると考えていた。勝手放題、わがままな読みようであった。それでよかったと思っている。十分楽しかったのだから。けれど今はちがう。新古今和歌集がすぐれた注釈をそなえて、文庫で手軽に読めるなど、こんなうれしいことはない。それもゆっくりと注釈を堪能しながら。下巻巻末の地名一覧を引きながら、和歌をたどっていくと、格好の歌枕案内になる。わたしはそんなふうにしてこの一冊を楽しんでみた。ただ文庫本だけに、注釈の文字が小さいのはつらい。

本の画像 本の画像

角川文庫(上・下各993円+税)
2007年3月刊
白川 静著
『続文字講話』

 中昨年十月に亡くなった碩学の最後の著作。この同郷の先輩の仕事を尊敬と憧憬をもって眺めてきた。初めてその著作に接したのは『詩経研究』。大学図書館の棚にあったのを偶然見つけて読み始めたのである。ところが途中で歯が立たなくなって読みさしてしまった。
 専門は異にしたけれど、その明晰な文章と論理が魅力でその仕事はつねに傍において読み続けてきた。漢字は神聖文字で、神との対話から生まれてきた。著者の漢字の宇宙は、文字以前、氏族の図像標識にまで遡って考察されていく。甲骨文、金文の研究は、図像標識の探究まで、早くからその視野にあった。その足跡を知ることは感動的でさえある。学問とはこんなにもおもしろい。

本の画象

平凡社(2000円+税)
2007年2月刊


塩谷則子の推す2冊


江渡華子句集
『光陰』


 第一句集。作者は1984生。07年立命館大学卒業。あとがきがさわやか。俳句は私の等身大という。また「多くの言葉で語らないことによって、世界はより広がる」とも。ありふれた言葉の上手な組み合わせによって、新鮮な世界を見せてくれる句が多い。〈青葉風この世滅びし音を消す〉―この世は既に滅んでいたのか。

本の画象

赤々社(Tel:075-213-3179)(1500円+税)
2007年3月刊
柴田 翔著
『詩に誘われて』

 易しい語り口だが、読みは深い。例えば室生犀星の詩「寂しい春」。明るい農村風景を「さびしい」というのは犀星の憤りと読む。裸で放りだされた自我への。道行もままならぬ孤独を凌駕する詩として会田綱雄の「伝説」が紹介されている。子供たちが寝入ったあと湖の舟の上で「やさしく/くるしく/むつびあう」ふたり。よい詩に出会える。

本の画象

筑摩書房・ちくまプリマー新書(760円+税)
2007年4月刊



2007年5月7日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


桃山晴衣著
『梁塵秘抄うたの旅』

 「遊びをせんとや生れけむ」で有名な中世の歌謡集『梁塵秘抄』は後白河院が編纂した日本最古の流行歌集。この流行歌を、現在歌っている人がいてCDも発売されているなんて!宮薗節の内弟子となり古典の奥義を極め、各地を巡って古謡、わらべうた、子守唄を調査し演歌のルーツも辿る。自らの音楽活動としての「梁塵秘抄」に関するエッセイ集。

本の画象

青土社(2310円(税込み)
2007年1月刊
童門冬二著
『松浦静山』
夜話語り

 東洋文庫(平凡社)の中でも目立つシリーズに「甲子夜話」20巻がある。外様大名として31年間を江戸藩邸に詰め、46歳で隠居し81歳で没した平戸藩主松浦静山による見聞集「甲子夜話」をもとに一代記とした。多彩な人脈の中で江戸幕政を生き抜き、勝海舟を育てた文武両道の達人、ローカルの視点でグローバルを見据えたグローカリスト静山を親しめる。

本の画象

実業の日本社(1700円+税)
2006年12月刊

宮嵜 亀の推す2冊


朝日彩湖句集
『いけず』

 はんなりといけずな言葉春日傘  彩湖

 ほんまにいけずなやっちゃ。はんなり、が余計に腹が立つ。「いけず」は簡単に云うと「意地悪」。読みすすむうちに春夏秋冬「いけず」されてもめげず、軽妙に(時々むくれるが)受け流して俳句に仕上げてしまう著者が見えてくる。反面、著者も句も全然「いけず」でないのが嬉しい。


本の画象

青磁社(2000円+税)
2007年3月刊
太田直子著
『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』

 青い目の池に落花を見ておりぬ   亀

 なるほど、変な日本語の病原はメール言葉かもしれない。英語一人称はいつも"I"だが、日本語に翻訳すると同一人物でも「おれ」であったり、「私」であったりする。洋画の字幕にかかる裏、表の話題に著者のぼやきがまじって、普段知らない業界のおしゃれで知的なエッセイである。


本の画象

光文社新書(700円+税)
2007年2月刊



2007年4月30日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


柿衞文庫春季特別展図録
『花ひらくなにわの俳諧』

  伊丹市の柿衞文庫では俳諧学者・櫻井武次郎のコレクションを中心にした特別展「花ひらくなにわの俳諧」を開催中だ(6月3日まで)。紹介するのはその展覧会の図録だが、月並句合わせの募句チラシ、雑俳資料などが珍しい。櫻井は今年1月、この展覧会の準備中に死去した。


本の画象

財団法人柿衞文庫(2000円)
2007年4月刊
土井たか子・佐高信著
『護憲派の一分』

 2人の対談集だが、対談を通して土井たか子の人物像が浮き彫りになる。戦争放棄をうたった憲法は中米のコスタリカにもあるが、土井はそのコスタリカの青年の次のようなエピソードを紹介している。日本の青年に「平和とは?」と聞かれたコスタリカの青年は、「子どもが自由に遊べる状況」と応えた。

本の画象

角川書店(686円+税)
2007年4月刊


桑原汽白の推す2冊


ザ・ビートルズ
『LOVE』

 音つきの詩…。ふれこみは新作…。APPLE、緑のリンゴ、青林檎…。
 inside// It's such a feeling/ that my love/ I can't hide/〃/〃
 「抱きしめたい」。my love、呼びかけなのだ、とひとり納得。(「GET BACK」のイントロ…。)

本の画象

東芝EMI(4000円+税:DVDオーディオ付)
2006年11月刊
荒木経惟写真集
『東京人生 SINCE 1962』

 1962から現在まで。
 ひろいまくるリベロ、菅山かおるのように。
 うつろう被写体。
 視線の強要。リングを回し、ファインダーの、心のモザイクが晴れる…、カシャッ。

本の画象

basilico(1500円+税)
2006年10月刊



2007年4月23日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊


松尾芭蕉著/ドナルド・キーン訳
英文収録
『おくのほそ道』

 「月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也」は「The months and days are the travelers of eternity. The years that come and go also voyagers.」。味気なさは若干感ずるものの、なるほどなあとは思う。意味を重視して訳すと芭蕉の俳文の美を台無しにする可能性が高く、詩的余韻を大切にして構成したと訳者は言う。「Kisakata―/Seishi sleeping in the rain/Wet mimosa blossoms.」は「象潟や雨に西施がねぶの花」である。なるほどなあと再度思う。

本の画象

講談社学術文庫(本体760円+税)
2007年4月刊
小嵐九八郎著
『蜂起には至らず』
―新左翼死人列伝―

  1960年から2000年の間に亡くなった27人を悼んだ鎮魂の書。人々に共通しているのは、理想の社会を求めながらその実現を見ずに死に至ってしまったということ。純粋なゆえに過激性をはらみ、過激なゆえに狭小にならざるを得ない側面を持ってしまったことも共通している。だが軍靴の足音が再び聞こえ始めている昨今、彼らの生き様を振り返り、陳腐として葬りさられた愛や平等という言葉を取り戻す必要を伏し目がちに語る著者の思いには共感できる。

本の画象

河講談社文庫(本体733円+税)
2007年4月刊


朝倉晴美の推す2冊


杉藤美代子・森山卓郎著
『音読・朗読入門』

 朗読名人になりたい人集まれ!そんな一冊。実験や音声学のデータに基づき、実践のコツを伝授してくれる。思いだけでは音読、朗読はうまくなれない。訓練も必要。童話や詩などの作品、方言例を用いて解説。付属のCDには小池朝雄朗読の「ごんぎつね」も。とってもお買い得です。

本の画象

岩波書店(2000円+税)
2007年3月刊
鶴田 静著
『茶箱のなかの宝もの』
―わたしの昭和ものがたり―

 昭和20年代、石神井公園近くに住む少女の物語。作者の実話をベースに、少女らしい心を描く。それに、その時代の庶民の逞しさが良い。楽ではない生活から、楽しみを見出す力。また、大家族という存在の大きさ。こうした時代が確かにあったことを知っておきたい。

本の画象

岩波書店(1900円+税)
2007年3月刊



2007年4月16日号(e船団書評委員会)

大角真代の推す2冊


穂村 弘編
恋の短歌
『君になりたい』

 めくってびっくり短歌絵本の3巻。絵は後藤貴志。
 大村陽子「枕木の数ほどの日を生きてきて愛する人に出会はぬ不思議」だった私が今では、林あまり「ほほえんで一緒に眠るひとときはすでにこの世のものと思えず」に。恋は人を変える。恋愛のカタログのような本だ。

本の画象

岩崎書店(1400円+税)
2007年2月刊
よしたに著
『ぼく、オタリーマン』

 人気サイトの単行本。私もよく訪れるサイトので思わず買ってしまった。オタリーマン(オタクなサラリーマン)の悲哀に満ちたちょっと笑える本。
 日常って特別なことが起こるわけじゃないけど、毎日が何か特別な日に感じる。たとえ体重が減らないことだったり、モテない話であっても。同世代の本は読んでいて楽しい。

本の画象

中経出版(952円+税)
2007年3月刊


木村和也の推す2冊


龍谷大学編著
『青春俳句大賞』

 約5万人、9万句の応募の中から中・高・大学生別に受賞作品が並べられている。俳句がどこまで若者の文芸になり得るのかの実験場でもある。大阪の高校からも26校が応募している。
 空もまた海と思えり昼寝覚 大田千晶(大学1年)

本の画象

東方出版(1143円+税)
2007年4月刊
三浦佑之著
『古事記講義』

 ポピュラーでありながら、全編を通して読んだ人が一番少ないのが「古事記」ではないか。読み易い口語訳を土台に「なぜ神話は語られなければならなかったのか」を追求する。イデオロギー論争から自由に「古事記」を読めることを喜びたい。

本の画象

文春文庫(676円+税)
2007年3月刊



2007年4月9日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


杉山久子句集
『春の柩』

 昨年、第2回芝不器男俳句新人賞を受賞した著者の第一句集。杉山氏は明と暗、ユーモアと感覚の鋭さを合わせ持った俳人で、そのバランスのとれた多面性が魅力的である。
 「人入れて春の棺となりにけり」「月光の畳に猫をむかへけり」「着ぶくれて会話に入りそびれたる」「鳥渡る奈落の柱つめたかり」

本の画象

愛媛県文化振興財団(952円+税)
2007年2月
島田洋七著
がばいばあちゃんスペシャル
『かあちゃんに会いたい』

 映画化された「佐賀のがばいばあちゃん」シリーズの最新作。昭和三十年代。ばあちゃん宅に一人預けられた著者が、広島で働くかあちゃんに会えるのは夏休みだけ。高校に入学後、ついにかあちゃんと暮らせるようになったが・・・。貧乏も寂しさも、知恵とユーモアと明るさで乗り越えてきた家族の物語。島田氏は言う。「うちだけが特別じゃない」。シリーズの一作目「佐賀のがばいばあちゃん」も一読をお勧めしたい。

本の画象

徳間文庫(514円+税)
2007年1月


若林武史の推す2冊


季刊「銀花」編集部
『“手”をめぐる四百字』

 「手」をモチーフにした著名人たちのエッセイ(手書き原稿)を集めた一冊。肉筆の力を再認識させられる。中には読めないものもあるけれど、書いた人の熱がぐっと伝わってくる。

本の画象

文化出版局(1600円+税)
2007年1月刊
内田 樹著
『下流志向』

 著者である内田樹さんの物の見方にはいつも感心させられる。社会全体が未来を切り売りして、下流を目指す心理というのには本当に納得させられた。セレブなひとには無縁の一冊かな。

本の画象

講談社(1400円)
2007年1月刊



2007年4月2日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


大峯顕・池田晶子著
『君自身に還れ』
―知と信を巡る対話―

 俳人でもある哲学者大峯顕(1929年生)と、2007年2月23日急逝した池田晶子(1960年生)との対談。池田「そんなことはないでしょう。」大峯「いや、それは違うと思う。」池田「そうでしょうか。」どこまでも問い詰める池田晶子はどこか痛々しい。「君自身に還れ」とはフィヒテの言葉。

本の画象

本願寺出版社(1400円+税)
2007年3月刊
中公文庫編集部編
『中央公論 文芸欄の明治』

  雑誌「中央公論」は、明治30年浄土真宗僧侶大谷光瑞の発刊した「反省会雑誌」がルーツであるという。徳田秋声『出産』には、「四十余りの肥った婆さん」という表現。幸田露伴『ウッチャリ拾い』には、「ライオン歯磨」。明治の小説からの発見も多い。永井荷風はやはりスケールが違う。

本の画象

中央公論新社(1429円+税)
2006年10月刊


武馬久仁裕の推す2冊


田村隆一著
『若い荒地』

 本書に引用された沢山の昭和前期の十代、二十代の詩人が書いた狂言綺語に満ちた詩は、仕事に疲れた帰りの電車で読む私の朦朧とした頭をさらに朦朧とさせた。しかし、「誰もゐないと/言葉だけが美しい」「ひつそりとそれさへも道である/白くにほつてゐる」(何れも牧野虚太郎。寡聞にして私は知らなかった)などという言葉に出会うと、私の頭脳は一瞬霧が晴れたようであった。過酷な時代を描く時でさえ、詩は美しい。

本の画象

講談社文芸文庫(定価1470円)
2007年2月刊
岩間一雄著
『毛沢東 その光と影』

 感心したのは、1942年に毛が開始した共産党内の思想練成運動、整風運動の過程に起きた夥しい自白強要、冤罪等は成功に対するコストである、と言ってのける著者の情緒に流されない怜悧かつ冷徹な思考力である。その思考力が、中国革命後の毛を、その素晴らしい成功に眼が眩み、革命後の課題が見えず文革まで同じことを繰り返し続けた、自身の理論『実践論』の背教者であると結論するのである。思想史的毛沢東伝の誕生である。

本の画象

未来社(定価各4830円)
2007年2月刊



2007年3月26日号 (e船団書評委員会)

小林幸夫の推す2冊


外山滋比古著
『俳句の詩学』

 すでに著者には『省略の文学』、『俳句的』などの短詩型文学論がある。それらは著作集にも収められて手軽に読むことができる。それにつづく俳句論で重複するところも多い。切れ字論、有季定型論、それらがぶれることなく一貫して、俳句の魅力が語られてゆく。俳句は声に出して詠むだけでなく、書き写すことによってさらに魅力は実感できる、という。ここから写本論も展開される。これは俳句の読者論でもある。ところで筆者は俳句を作るのだろうか。

本の画像

沖積舎(2500円+税)
2006年11月刊
外山滋比古著
『中年記』

 中年の感懐を述べたエッセイかと思って手に取ったのだが、もちろんちがった。著者はとうに老境をむかえている。それがなぜ『中年記』なのか。すでに著者は『少年記』、『老楽力』を書いているから、間をとって今度は『中年記』なのだ。ところが本書はたんなる中年の記録ではない。学生時代、恩師福原麟太郎に「文学って何ですか」と聞いて以来、雑誌「英語青年」の編集をしながら、読者論を築きあげてゆく、知的創造のいとなみが記録されている。それがたいへんおもしろかった。

本の画象

みすず書房(2800円+税)
2007年1月刊


塩谷則子の推す2冊


谷川俊太郎・太田大八・山田馨著
『詩人と絵描き』


 「最初から、自分を表現したいという気持ちはほとんどなかった。人に喜んでほしい、気に入られたい、もてたい。」が表現の動機、と谷川俊太郎。
 「私」は関係性の中にしかいない、というポストモダンの思想を76年にすでに絵本『わたし』で書いていたのではないか、という編集者山田馨の質問が鋭い。

本の画象

講談社(1300円+税)
2006年12月刊
四方田犬彦著
「先生とわたし」
雑誌「新潮」3月号所収

 加藤典洋が先生よりえらくなった自慢話と批判し、鶴見俊輔が師弟の本質を描いたと評価した評論。 どちらの意見も正しい。英文学者由良君美先生に見せられた本をすぐ洋書店で購入予約するゼミ生。73年、東大2年生は、こんなにも勉強をしていたのかと驚く。60年代から80年までの文学教養史の1級資料としてもお薦め。

本の画象

新潮社(905円+税)
2007年2月刊



2007年3月19日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


「國文學」3月号
特集・月光

  「國文學」(學燈社)は日本語、日本文学、日本文化の研究誌。大学などで日本語や日本文学を研究している研究者や学生が読むのだが、その「國文學」3月号の特集は「月」。俳句をやっている者からすると季節感がずれている気がするが、月をめぐるさまざまな論考が集められている。私も「俳句と月」を寄せた。


本の画象

學燈社(1600円)
2007年3月刊
松本健一著
『司馬遼太郎の「場所」』

  鳥瞰という方法を中心において司馬遼太郎を論じている。「司馬遼太郎は、大衆文学の伝統をふまえつつじぶんが歴史を書いてみせる、それが文学の華なのだ、と意識していたように思われる、そして、その試みに成功した作品が『坂の上の雲』だった。」このような見方が刺激的だ。

本の画象

ちくま文庫(760円+税)
2007年2月刊


桑原汽白の推す2冊


三宅やよい句集
『駱駝のあくび』

 三月二十日頭に響く傘である  やよい

 青島幸男が矢鱈はりきってたり、「なんでもあるある傘である」、CM、粉ジュースをかきまぜる…、この句、大粒の雨、休憩、にわかに晴れわたり。黄色い栞。

本の画象

ふらんす堂(1905円+税)
2007年1月刊
大道珠貴著
『蝶か蛾か』

 45ページで、はじめて笑ってしまってから、リアリティーというのか、ついひきこまれた。一晩に一章ずつぐらい、オレンジの栞。
 満々子…。たとえば、苺が、赤くて、種がつぶつぶ、よい香り。輪ゴムは、ピンと放浪してしまう。

本の画象

文藝春秋(1714円+税)
2006年12月刊



2007年3月12日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


水庭 進編
『現代俳句表現活用辞典』

 季語ではない見出し語4500語余にそれぞれ2、3の俳句が活用例句として挙げられている。例えば「あをぞらに映り映りて水馬 小島千架子」、「あをぞら」は大見出し語「そら」の類義語、ほかに「青天井、虚空、蒼天、天涯、満天・・」と続く。辞典として引く語数は少ないけれど、連想ゲームのような展開に手作業の労作を感じとれる辞典。

本の画象

東京堂出版(2800円+税)
2006年12月刊
川村 湊著
『村上春樹をどう読むか』

 著者は村上春樹と同時期にいて、「村上春樹論」を多く書いたが、良き読者、伴走者ではないと明言する文芸評論家。1983年からの20余年にわたる新聞、雑誌に発表した村上主要作品の批評、書評だけをまとめた一冊は通史と同時に、実際はリアルタイムのラディカルな時評であった。こんなに分かりやすく、こなれやすいものが「文学」であるはずがない?として。

本の画象

作品社(2000円(税込))
2006年12月刊

宮嵜 亀の推す2冊


国立天文台編
『理科年表 第80冊』
(平成19年/2007)

 受験子の身丈いろいろ定数表   亀

 我々を取りまく森羅万象のデータ集07年版。冥王星が惑星から外れ、矮惑星(仮称)に。電子(10-30kg)のある状態の波長は10-11m、1光年1015m、ヒト(101kg)身長は100mの桁数。銀河系可視総質量1041kg。人の遺伝子地図最新版や全生物共通遺伝子コードも。


本の画象

丸善株式会社(1400円+税)
2006年11月刊
高 信太郎著
3日で丸覚え!
『マンガ百人一首』

 春星や話し出したる艶話   亀

 第一部:見開き2ページ毎に歌1首、その現代高語訳(時に元歌より難解かも)、作者紹介。そして歌関連のマンガ。これが面白い。声を出して笑う。オチに子規や芭蕉さんもどき、古川柳、落語、ウソ、実話、英語、中国語、ダジャレ等々にて著者の博識多才に脱帽。第二部:丸覚えノウハウ。未試行。


本の画象

講談社(686円+税)
2006年11月刊



2007年3月5日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊


立松和平著
『芭蕉の旅、円空の旅』

 「奥の細道」を辿る人々が増えているというが、当時の旅は困難を前提としており、芭蕉のそれも道元の言う、衣食にとらわれず、仏法という絶対価値以外のものは捨ててしまう捨身行脚の旅であったという。円空の厳しい作仏の旅ももちろんそうだが、この同時代の二人はどこかですれ違っているのではという想像まで記す。旅は人を鍛える。だからこそ芭蕉の句も円空も木像も、時代を超えて存在し続けるのではないかと、旅に身を置く作者は結論づけている。

本の画象

NHK出版(本体1200円+税)
2006年11月刊
小林 忠監修
『母子絵百景』
―よみがえる江戸の子育て―

 浮世絵といえば遊女や芸者、歌舞伎役者などが主なるテーマであると想像するが、意外と市井の人々、特に子どもが取り上げられているものも少なくない。以前は、幕府の禁制をくぐり抜けるために遊女のそばに子どもを描いたと言われてきたが、子宝思想、江戸期は子どもを社会全体の宝として大切にする風潮があったのではないかという説も強くなっている。本書の作品群は全て公文教育研究会の収集物。母と子の暖かなふれあいが絵からにじみ出ている。

本の画象

河出書房新社(本体2800円+税)
2007年2月刊


朝倉晴美の推す2冊


茨木のり子詩集
『歳月』

 「大まじめであなたはわたしに/一つの賛辞を呈してくれた/(中略)今に至るまでわたしを生かしてくれている/(「殺し文句」)」。亡くなったご主人へのラヴレターのような詩集。そして、自分たち二人を「ただ透明な気(き)と気(き)が/触れあっただけのような/(「(存在)」)」とうたう。作者没後、遺志によって刊行された。

本の画象

花神社(1900円+税)
2007年2月
鈴木光司著
『なぜ勉強するのか?』

 読み終えて、頭の中がフレッシュに再起動された感じ。何よりリテラシー(学問と読み書き)能力の重要さ。それは社会、世界への道しるべになり、アイデンテイテイの確立へと進める。同時に理解力・想像力・表現力の意味。子どもに未来への希望を持たせる意義。そして子どもの質問に答えたい人、必読!

本の画象

ソフトバンク新書(ソフトバンククリエイテイブ株式会社)(700円+税)
2006年12月



2007年2月26日号(e船団書評委員会)

大角真代の推す2冊


穂村 弘編
動物の短歌
『ぺったんぺったん白鳥がくる』

 めくってびっくり短歌絵本の第4巻。絵は青山明弘。短歌や俳句を鑑賞しようとする時、頭の中で想像するだけだが、イラストレーターはこうも色鮮やかに豊かな世界が描けるのかと感心する。特にこの人の色使いは抜群で、その中でも青が綺麗。選ばれた短歌に物足りなさを感じるぐらいに。

本の画象

岩崎書店(1400円+税)
2007年2月刊
手嶋龍一・佐藤優著
『インテリジェンス
 武器なき戦争』


 外交とは武器なき戦争のこと。情報を収集し、どう分析するか、インテリジェンス(情報)専門家である二人の対談集。核や外交などわかりやすく説明されていて、良書。意外にも日本はこの能力が高く、過去に活躍した事件についての言及もあり、自分も情報専門家になった気になるのである。

本の画象

幻冬舎(740円+税)
2006年11月刊


木村和也の推す2冊


小高 賢著
『現代短歌作法』

 短詩形が属性として持つ定型と韻律に対する問題意識に貫かれている。趣味でもあり文芸でもあり得るという二重性の中に短歌を置いてみて、その可能性を探る姿勢は、実作者ならではか。現代短歌の概括的な案内書にもなっている。

本の画象

新書館(1800円+税)
2006年12月刊
トマス・H・クック著/村松 潔訳
『緋色の迷宮』

 著者の最新作。推理小説に分類されているが、文学性が高い。確たる存在に見えた家族が徐々に崩壊していく様は、現代世界がもつ根源的な危機を象徴している。心理描写や情景描写が、深く刻まれた彫刻のように陰影が濃い。

本の画象

文春文庫(733円+税)
2006年9月刊



2007年2月19日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


清水哲男著
『平成俳句のすすめ』
秀句鑑賞ガイド

 著者が開設した人気サイト「増殖する俳句歳時記」からの厳選秀句鑑賞集。季節ごとに40句ずつまとめられている。俳句初心者にもわかりやすいように、それぞれの鑑賞文の付記として、植物、行事、時候、生活に分けて代表的な季語が紹介されている。現代俳句を中心に取りあげられていて、船団の俳人の俳句もいくつか掲載されている。

本の画象

秀和システム(1400円+税)
2006年10月
久石 譲著
『感動をつくれますか?』

 本書の著者は、宮崎駿や北野武の映画音楽で有名な作曲家である。国内外を問わず様々な映画、音楽関係者と仕事をした体験談や、自身の創作論を率直につづっている。
 優れた芸術家は、今を冷静に分析し、出会いを創作に反映させる力が強いことがわかる。著者の作る美しいメロディーの源泉を見たような気がした。

本の画象

角川ONEテーマ21(724円+税)
2006年8月刊


若林武史の推す2冊


坊城俊樹著
『丑三つの厨のバナナ曲るなり』

 坊城俊樹による俳句入門書的エッセイ集。読み進めていくと、「俳句入門迷宮案内」というサブタイトル通り、坊城俳句観の迷宮に迷い込むことになる。決して入門書ではない。俳句は庶民的か、そして庶民とは誰か、考えてしまった。

本の画象

リヨン社(1700円+税)
2006年12月刊
笠茂享久
『歯はいのち!』

 骨盤のゆがみを正すというのが健康体操の一つとして確立されつつある今日、体のゆがみはかみ合わせのゆがみであり、それは足の微妙なバランスを正すことで改善されるという。顎関節症や全身のバランスが気になる方は一度お試し下さい。

本の画象

文藝春秋(1300円)
2007年1月刊



2007年2月12日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


柴田宵曲著
『明治の話題』

 丁髷、カイゼル髭、シルクハット、燕尾服、眼鏡、指輪、時計、夏帽、死神、・・席題のような言葉から、漱石、子規、緑雨、一葉、鏡花の作品へと話は移る。大きな事件が語られる訳でもなく、「山」があるわけでもない。具体的な物から過ぎ去った明治が淡々と語られる。宵曲はホトトギスが丸ビルに移った大正12年、社を去ったという。

本の画象

ちくま学芸文庫(1300円+税)
2006年12月刊
西本郁子著
『時間意識の近代』

  副題が「「時は金なり」の社会史」、フランクリンの有名な「時は金なり」は時間と金銭を等価とする思想であった。明治以降の日本の資本主義の発展と、人々の時間意識の変化が主な内容。明治の人々の時間意識が徐々に変化していく中で、漱石はとりわけ鋭敏な時間意識を持っていた。病身の子規は午砲を聞いて昼飯を待ちかねたようだ。

本の画象

法政大学出版局(4000円+税)
2006年10月刊


武馬久仁裕の推す2冊


柏木如亭著/揖斐 高校注
『詩本草』

 美味と俗習に犯されない真の詩を求めた江戸期の漢詩人の随筆集である。文人の末路は哀れであったが、「官を求むる者にあらず」の自負を持ち、「渓山を写し売り更に詩を売」り、各地の弟子を回って過ごした遊蕩と美食の57年の生涯は、詩を読む限り優雅なものであった。ただ、この美食家にも一つ心残りがあった。それは、ライチーを目にもできず、口にもできなかったことだ。「目に僊果を観ず、終身口に憾み有り」。私は広州で腹一杯食べた。

本の画象

岩波文庫(定価693円)
2006年8月刊
五木寛之著
『21世紀 仏教への旅』
インド編(上・下)

 中村元訳の『ブッダ最後の旅−大パリニッパーナ経』を持って、五木はブッダの死で終わる旅を実際に辿った。そこでは、ブッダの時代と変わらない生活を人々は続け、カーストの差別から逃れようとする多くの人達が日々仏教に改宗をしていた。五木は旅の最後に、その中心にいる「利他一利」の道を行く日本人僧侶佐々井秀嶺氏に出会うのである。世界宗教仏教の面目躍如たるものがそこにある。

本の画象 本の画象

講談社(定価各1785円)
2006年11月刊

[e船団・週刊ブックレビュー]バックナンバー



2007年2月5日号 (e船団書評委員会)

小林幸夫の推す2冊


工藤 隆著
『古事記の起源』
―新しい古代像をもとめて―

 神話はどのようにして生まれるか。その謎を解き明かすために著者は、中国少数民族の住む辺境のムラにまで出かけていった。その行動力にびっくりする。神話の専門家でもない私がこの一冊を手に取ったのは、「歌垣」、つまり歌の掛け合いの文化が、どのように活きて伝えられているのか。それを知りたかったから。たしかに著者は実地調査にもとづいて新しい「歌垣」像を示している。それはたいへん興味深いのだが、もう少しわかりやすい文章で説明してほしかった。

本の画像

中公新書(840円+税)
2006年12月刊
矢野憲一著
知られざる杜のうち
『伊勢神宮』

 お伊勢さんは誰でも知っているが、意外と知られていない。修学旅行で行くことも、もうあまりないのではないか。そんな伊勢神宮の懇切丁寧な解説書。著者は長らく神宮の神官を務められ、徴古館・農業館の館長の職にもあった。格好の著者を得て、神宮の歴史・文化、そして年中行事が四季を追って綴られていく。そして式年遷宮をはじめとする神事や祭儀のすがたが明らかになる。20年ごとにお伊勢さんはあらたに生まれ変わられる。式年遷宮は2013年。その準備はすでに始まっている。

本の画象

角川選書(1600円+税)
2006年11月刊


塩谷則子の推す2冊


小林一彦・村井康彦他7名著
『歌のこころ ひとの心』


 05年『古今集』編纂1100年、『新古今集』編纂800年記念講演の記録。「一流の二流」だったので権力闘争に巻き込まれなかった、また当主が時の権力に柔軟に対応、800年続いたという冷泉為人さんの話が面白い。

本の画象

大学コンソーシアム京都(1333円+税)
2006年11月刊
筑紫磐井著
『標語誕生!』
―大衆を動かす力―

 標語の歴史、修辞法、選ばれ方などについての論考。大正から昭和初期、俳句・雑俳が大衆化した時代に標語も盛んになった。「制作・選・顕彰・公表」システムが似ているという。強弱のない文体なので読みにくいが、用例が豊富な力作。

本の画象

角川学芸出版(1700円+税)
2006年12月刊



2007年1月29日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


秋尾 敏著
『虚子と「ホトトギス」』
―近代俳句のメディア―

 雑誌「ホトトギス」を中心にして俳句の展開をたどった評論集。紹介されている珍しい資料がうれしい。ただ、著者の俳句観にはしばしば首をかしげる。「えっ、写生に月並打破の意味がなかった?そんな馬鹿な!」という具合。


本の画象

本阿弥書店(3000円+税)
2006年11月
パティ・シャーロック著/滝沢岩雄訳
『ウルフィーからの手紙』

 愛犬を軍用犬として戦場(ベトナム)に送ったマーク少年を中心にしたアメリカの小説。「人生の最上段にある夢に届くよう、ぼくたちは爪先立ちせねばならない」。この誠実で真摯な思いが登場人物たちに共通する。

本の画象

評論社(1700円+税)
2006年11月刊


桑原汽白の推す2冊


ねじめ正一詩集/ 村上康成・絵
『あーちゃん』

 ローソンで、500円で、マンガ。カーペットは、あったかいし、面白いな・・・。
 そのころ、じてんしゃで、こきこきこき。あーちゃんは、じてんしゃで、こきこきこきこき。
 もとい、かあさんは、こきこきこきこきこき。あーちゃんをさがして。

本の画象

理論社(1400円+税)
2006年7月刊
松岡正剛著
『日本という方法』
おもかげ・うつろいの文化

 意識しないが、さがしていた。赤い靴をはいたまま、うつろうおもかげを・・・。
 たぶん、あめつちから語りはじめられるこの考究は、帝国の戦争にも…。松岡正剛、古賀米吉とかのすきな一句もあかされる。

本の画象

NHKBOOKS(1160円+税)
2006年9月刊



2007年1月22日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


稲田和浩著
『食べる落語』
―いろはうまいもんづくし―

 落語は五感の中でも特に耳で聴くもの、ところがどっこい『食べる落語』の内容は、いろは順仕立て48項目の食べものと、その演目に沿った90余の落語解説が並ぶという趣向。江戸庶民の住宅事情、長屋住まいは外食産業を発展させたらしいし、それゆえに「時そば」や「目黒のさんま」や「さんま火事」等は今なお親しみ深い。新作落語は1980年発表の「グリコ少年」を紹介、十年に一度の改訂版を試み中とのこと、一度聴いてみたい。

本の画象

教育評論社(1300円+税)
2006年12月刊
エレナー・エスティス作
石井桃子訳
『百まいのドレス』

 「岩波子どもの本」シリーズの『百まいのきもの』が五十年余を経て、同じ訳者で新装なり、 あとがきに「もうじき百歳の私から、若いみなさんに手渡すことができることを心からうれしく 思っています」と心情が託されている。「百まいのドレス」を持っていると言い張る、ワンダと いう貧しいポーランド移民の子をめぐる物語。まるで現在の「いじめの問題」を「人間の気持の 有り様」として、やさしく解き明かしてくれるようだ。

本の画象

岩波書店(1600円+税)
2006年11月刊

宮嵜 亀の推す2冊


本村弘一句集
『ぼうふり』

 いなびかり畳の上を照らしけり   弘一

 現実の世界はこの通りで、何もない。そして、いなびかりは太古の昔から地球を照ら してきた。その電離作用でアミノ酸ができ、蛋白質ができ、やがてややこしい生き物 である人間もできたのだ。少しアイロニーを感じさせながら、一種の離人感をただよ わせた句群が少し痛快で愉快。


本の画象

沖積舎(1800円+税)
2006年10月刊
ジェームズ・ラブロック著
竹村健一訳
『ガイアの復讐』

 ガイアとは、マグマの境界(地下160km)から地球上空160km圏内の全生物、無生物を 含むシステム。このシステムは生き物である。ECD(電子捕獲検出器)を開発した物 理学者である著者が、ガイアのうめき声を解説する。ガイアをはげしく疲弊させてい る人類のエネルギー希求と将来展望。

冬鵙や減速さるる中性子   亀


本の画象

中央公論新社(1600円+税)
2006年10月刊



2007年1月15日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊


半藤一利著
『其角俳句と江戸の春』

 著作権切れの俳句を書籍に使おうとすると、芭蕉、蕪村、一茶に続くものとしては蕉門十哲となる。宝井其角はその筆頭に位置しているので多数、採れるかと思うがそうもいかない。難解なものが多いのだが、本書を読んで合点が行った。和歌、漢詩、正当な古典文学から下世話な雑学までの知識がないとなかなか読み解けないという。漱石の義理の孫である著者の楽しみながらの俳句格闘本、朝ごみ、窓銭、弱法師など、江戸への造詣を深めるのにも最適である。

本の画象

平凡社(本体1200円+税)
2006年12月刊
辻井 喬著
『父の肖像』

 学生時代の一時期、辻井喬の端正な詩が好きだった。1975年6月思潮社刊行、現代詩文庫63、定価520円。当時を思い出しながら文庫化された本書を一読し、改めて日共除名と父西武鉄道創業者堤康次郎との確執・共感が詩の底流となっていることが理解できたが、傘寿に近い年齢になっても文学のテーマが変わらないことに驚いた。結局、読者に何を伝えたいのだろうと。父を扱う硬質な文体と自分を描く堀辰雄風の叙情的な文体が混交するのも面白い。

本の画象

新潮社(本体629円+税)
2007年1月刊(上巻・下巻)


朝倉晴美の推す2冊


鶴見俊輔著
『詩と自由 恋と革命』

 鶴見俊輔さんの不思議な魅力を感じる一冊。鶴見さんのいうところの詩とは、戦争をした日本という国の詩とは、民の思想とは、体にじわじわと染み込むように何かを感じる。鶴見さんの口調も心地よく、紹介している詩人らの魅力も楽しい。読後は、彼らたちと少し近くなったような気もする。

本の画象

詩の森文庫(思潮社)(980円+税)
2007年1月刊
諸田玲子著
『奸婦にあらず』

 こんな女性が主人公の、こんな時代小説があるのだ!と感激した。不遇の身から大老へ、そして桜田門外の変の井伊直弼と、その恋人で忍びである主人公「おたか」。二人の激しい運命を軸に、様々な人生をも描いている長編。同時に色々な恋のあり方に感動すること必至。

本の画象

日本経済新聞社(1900円+税)
2006年11月



2007年1月8日号(e船団書評委員会)

大角真代の推す2冊


穂村 弘編
オノマトペの短歌
『サキサキ』

 めくってびっくり短歌絵本全5巻のうちの第2巻が発売された。第2巻の絵は高畠那生。繰り返すオノマトペが多く、例えばぺこぺこ、うっふんうっふんなど気分がよくなる。絵で短歌を解説されるのはとっても心地よい。 題名のサキサキは佐佐木幸綱の歌から。

本の画象

岩崎書店(1470円)
2006年11月刊
手嶋龍一著
『ライオンと蜘蛛の巣』


 29の都市で起こる29の物語。スパイ、外交、戦争などが題材。英国秘密情報部員の見分け方、僧院のジゴロの話など自分の知らない世界が垣間見えて静かなワクワクがある。手嶋ファン必携の一冊。手嶋の教養の深さに恐れ入る。

本の画象

幻冬舎(1500円+税)
2006年11月刊


木村和也の推す2冊


chori 著
『chori』

 著者は21歳、京都の学生らしい。本屋ではこの詩集の横に吉本隆明の「全詩集」が平積みされていた。60年の隔世。この詩集には方法も思念もない。浮遊する即興の音符のような言葉が並べられている。しかしひょっとしたら、こんなところに現代詩の可能性があるのかもしれない。

本の画象

青幻社(1200円+税)
2006年9月刊
呉 智英著
『現代人の論語』

 著者は、いかにわれわれが今まで「論語」を読み損なって来たかを力説する。朱子学的論語から孔子の肉声としての論語の再生を企図する。取り上げられているのは50章であるが、孔子その人の思想のダイナミズムが堪能できる。

本の画象

文春文庫(505円+税)
2006年11月刊



2007年1月1日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


谷さやん句集
『逢ひに行く』

 谷さやん氏は俳諧味と叙情、哀愁を合わせ持つ俳人である。ある時はさらりとユーモアを効かせ、ある時は切なく、日常と非日常を織り交ぜて詠い、読む者の心を柔らかく、軽くしてくれる。「父ひとり夜店に行くと行つたきり」「白南風やいつから野良犬にされし」「人波にしやつくり放つ花の昼」「春光の鳩に何にもやれぬなり」。

本の画象

富士見書房(2800円+税)
2006年12月刊
田辺聖子著
『おせい&カモカの昭和愛惜』

 田辺氏の多数の著作から選び抜いた提言集。テーマは人付き合い、夫婦、教育、文化等々。激動の時代を生きてきた作家からの人生のアドバイスとも言える。自らを育んだ昭和の文化と、夫カモカのおっちゃんに寄せる作者の愛情の、なんと深いこと。巻末の特製「中年いろはかるた(私家版)」が楽しい。

本の画象

文春新書(750円+税)
2006年10月刊


若林武史の推す2冊


大高 翔著
『漱石さんの俳句 私の好きな五十選』

 大高翔さんが漱石の五十句に解説と自句を添えた一冊。句の背景の解説もあるが、それぞれの句に対する著者の思いが本書の読みどころだろう。軽やかで若々しい文体が、俳句はこうして新たな生命を吹き込まれるのだなという印象をいっそう強くしている。

本の画象

実業之日本社(1400円+税)
2006年12月刊
ほぼ日刊イトイ新聞編
『金の言いまつがい』

 HP「ほぼ日刊イトイ新聞」に投稿された一般市民の「言いまつがい」(言い間違いのこと)がまとめてある。前著『言いまつがい』の続編。幾つか続けて読んでいると、突然ツボにはまって、お腹が痛くなるほど笑ってしまう。姉妹編に『銀の言いまつがい』もある。糸井重里、恐るべしである。

本の画象

糸井重里事務所(1260円)
2006年12月刊

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