俳句 e船団 ブックレビュー
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2007年12月31日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


中村 裕著
『俳句鑑賞450番勝負』

 タイトルに「勝負」と冠しただけに堅苦しい俳句鑑賞書ではない。目次の章立ての言葉に季語分類はみあたらないし、解説文には教科書的ではないラフな表現も。しかし、引用の450の現代俳句にはいずれも共通の型を感じとれる。波郷や草田男と並んで例句の多い池田澄子さんの句、「水無月の当て無き櫂の雫かな」に居ずまいを正されるかのように。

本の画象

文春新書(935円(税込み))
2007年7月刊
大庭みな子著
『七里湖』

 著者の作品群は難解でずっと敬遠していた。けれども、最後の長編小説として遺された『七里湖』を読み出してふっと入っていける不思議な感覚を得た。その謎を解く言葉を文中で発見。主人公雪江が妙に覚えている友人の言葉として「人は経験のないことは想像できない」というもの。小説を読む楽しみは「はらはらどきどき」と展開するものだけではないらしい。

本の画象

講談社(1680円(税込み))
2007年9月刊

宮嵜 亀の推す2冊


『俳句』1月号増刊(第57巻第1号)
『俳句年鑑2008年版』

 諸家自選5句(710名)、結社・俳誌動向(827誌)、07年収穫等おなじみの「年鑑」。小川軽舟氏巻頭言「インターネットと俳句の「場」」に、cyber世界での今後の〈俳句〉の成り行きに関する考察がある。07年の斯界から刺激を受けるのに好適。お正月の新年展望読物として好適。
 六波羅の寒夕焼けが肩にまで 稔典

本の画象

角川学芸出版(2381円+税)
2008年1月刊
平山 廉著
『カメのきた道』
甲羅に秘められた2億年の生命進化

 古生物学の視点からカメの体制、棲息域、起源、恐竜時代、海との関わりなどを解説。化石発掘のビビッドな現場、世界最古のウミガメの発見、報告などの物語も面白い。恐竜の巨大化、哺乳類の高速代謝の道でなく、スローに生きるには歴史が要る。多くの生き物と同様、敵はヒト。

 亀首セーターアシュケナージがパチンコす  亀

本の画象

NHKブックス(920円+税)
2007年10月刊



2007年12月24日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊


穂村弘・東直子著
『回転ドアは、順番に』

 親本は2003年8月全日出版から刊行。解説者の金原瑞人氏は「この作品、文庫になってよかったと思う。この版型、この文字、この表紙、内容にぴったりだと思うのだ」。なるほど。ちなみに穂村氏には日本児童図書出版協会機関誌『こどもの本』に昨年一年間、「通過列車を嘗めるレッスン」と題したユニークな新解釈国語辞典を連載してもらった。その中から一つご紹介。「ボールペン→ペン立てや机の抽斗のなかに沢山転がっていて、/しかし、/その殆どが書けないという謎の筆記具」

本の画象

ちくま文庫(580円+税)
2007年11月刊
橋口侯之介著
『続 和本入門』
―江戸の本屋と本づくり―

 2005年10月に刊行された『和本入門』の続編。内容は東京・神田神保町にある古書店誠心堂店主が和本の歴史や本つくりの作法を書いた前作に続けて、版本の他、写本や私家版にも視点を広げ、江戸期の書店事情や書物の流通等にも言及しているもの。江戸期の民衆の識字力の高さは頓に知られるところだが、本の内容が魅力的だったがゆえに人々は熱心に読み書きを習得したのでは、という新しい見方には、現在の本の有り方も含めて、改めて考えさせられた。

本の画象

平凡社(2200円+税)
2007年12月刊


朝倉晴美の推す2冊


谷川俊太郎詩集
『私』

 2004年から2007年に発表された近作。相変わらず谷川さんの心には少年が住んでいるのだが、私はその少年が好きだ。世の男がのたまう「自分の中の少年」は嫌いだのに。彼の中の少年とは何ぞや。それは研ぎ澄まされた鋭い感受性と老成した者の真理のように思える。そして、生きていること自体が愛だと感じた。

本の画象

思潮社(1575円、税込み)
2007年11月刊
林真理子著
『はじめての文学』

 若い読者へ向けた、現代作家たちの自選アンソロジーシリーズの一冊。改めて林真理子の作品に向き合った。彼女が自身を言う「地方出身の女の子の悲哀」が、いかに作品に昇華されているのかは難しい問なのだが、彼女の勉学への熱意や逆境へのバイタリテイは、確かに作品の中に生きている。それらが若者に伝わってほしい。

本の画象

文芸春秋(1300円、税込み)
2007年10月刊



2007年12月17日号(e船団書評委員会)

大角真代の推す2冊


一海知義著
『漢詩一日一首』〈秋〉

 帯に“秋の夜長、漢詩に酔う。最高の贅沢”とあるが、まさにそのとおり。豊潤な世界にうっとりする。
 秋は日本では喜びの季節だが中国では悲しみの季節。友を思い、妻を思い、故郷を思い、悲しむ。著者の丁寧な解説がいい。一日三首は読みたくなる。

本の画象

平凡社(1050円、税込み)
2007年11月刊
奥森すがり著
『ねこ鍋』
みちのく猫ものがたり

 今更ながら、ねこ鍋にはまりました。子猫のめんこいこと、思わず、いただきま〜す!と食べてしまいたくなるほど。
 土鍋に猫が丸くなって寝ているだけ。なのにこんなにめんこい。心があたたかくなる。寒い季節にぴったりの写真集。

本の画象

二見書房(1260円、税込み)
2007年11月刊


木村和也の推す2冊


藤田亜未句集
『海鳴り』

 俳句甲子園での優勝歴を持つ作者の第一句集。ある人がこの句集を読んでその若々しさが妬ましいと言った。同感である。一句一句にみずみずしさがあふれている。新書サイズの廉価さも好感。
 わらびもちちょっと揺れてもいいですか
 さくらさくらグラスの底の海の色

本の画象

創風社出版(1200円+税)
2007年11月刊
山折哲雄著
『親鸞をよむ』

 親鸞は日本の宗教界、哲学界の謎である。出来るだけテクストから自由になって、親鸞の肉体への近接を図る。伝聞の『歎異抄』ではなく、肉声としての『教行信証』と妻恵信尼仰を軸に新しい親鸞像を追求する。

本の画象

岩波新書(700円+税)
2007年10月刊



2007年12月10日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


大岡 信著
『新 折々のうた9』

 29年間にわたって朝日新聞に連載された名コラムの最終巻。この数年間に出版された句集、歌集から選ばれた作品が多いが、代表的作家のものも半数近くある。日本ではあまり知られていない台湾の歌人のや歌や、江戸時代の川柳、室町時代の歌謡も取りあげられており、選に偏りが無く、様々な作家の作品を楽しめる。
 幾千のおんぶばつたの月夜かな  松本秀一
 産院へさんさ踊の笠のまま    小原啄葉

本の画象

岩波新書(700円+税)
2007年10月刊
榊原英資著
『幼児化する日本社会』
―拝金主義と反知性主義―

 作者は本気で日本の将来を心配している。今やこういった警告書的なものはあふれているが、実際に起きていることの原因と結果が、具体的に誰にも分かる言葉で述べられている。教育問題(特に初等教育)やマスメディアへの問題提起に共感するところが多い。本書を読み一人でも多くの方が、自らが暮らす国について自分の頭でじっくりと考えていただくことを願っている。

本の画象

東洋経済新報社(1600円+税)
2007年7月刊


若林武史の推す2冊



「短歌」2007年12月号

 特集が面白いと思った。一つは「今さら聞けない短歌初歩質問集30」。もう一つは「こどもの歌に学ぶ作歌の原点 歌ってなんだろう」。こどもの短歌作者のインタビューがある。同じことを俳句でもやってほしいなと思った。

本の画象

角川書店(830円)
2007年12月刊
田嶋幸三著
『「言語技術」が日本のサッカーを変える』

 著者はサッカーのJFAアカデミー福島のスクールマスターである。サッカーに論理的な言語コミュニケーションがいかに必要でどのように実践しているかを著した一冊。ことはサッカーに限らない。相手にわかる言葉の伝え合いの必要性を感じている方には参考になるだろう。

本の画象

光文社新書(720円+税)
2007年11月刊



2007年12月3日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


水上 勉著
『説経節を読む』

 室町時代初期に現れる説経節は卑賤視され、貴族の日記や権門寺社の記録には登場しない。説経節の人買い話「さんせう太夫」は、森鴎外の小説より哀しく聞く者に迫る。「口承文芸の成立に聞く側が参加する」という著者は、自らの体験と説経節の細部を重ね合わせて読む。水上勉の原点を「感じる」本である。

本の画象

岩波書店(1000円+税)
2007年6月刊
丸山圭三郎著
『言葉・狂気・エロス』

 日常の現実に即した具体例から虚構の〈美〉と生の〈円還運動〉の関連が掘り下げられる。ソシュール研究で著名であった著者は1993年、60才で急逝。本文最後に、読み書きを覚えた老女の「夕日がこんなにきれいだとは知りませんでした」という言葉が引用されている。老女の位置から説き起こされる丸山理論が読みたかった。

本の画象

講談社学術文庫(800円+税)
2007年10月刊


武馬久仁裕の推す2冊


攝津資子著
『幸彦幻景』

 49歳で死去した前衛俳人攝津幸彦の、妻の視点から書かれた終焉の記である。感動というものに殆ど出会うことが無くなった私であるが、友人達の彼を思う誠の姿には心打たれた。私が攝津幸彦と出会った坪内稔典編集の『現代俳句』の時代が神話となったように、今又、攝津幸彦も神話の世界へと旅立って行ったかのようである。なぜか亡くなる前の晩、私や坪内さん、大本さんなどと談笑している攝津さんの写真を眺めていたことを想い出す。

本の画象

スタジオエッヂ(定価1600円)
2007年11月刊
新藤 信編
『クレーの旅』

 「第3章 回想のチュニジア」が面白い。クレーの秘密の制作過程を明らかにした奥田修へのインタヴューと、それを受けた林綾野の「ポルケロールの旅」からなっている。林は言う。「芸術家として前衛であり続けたクレーは、旅をしてはイメージのかけらを見つけ、それらを切り離したり、組み合わせたりしながら作品を作り出していった」と。私は嬉しくなった。自らを越える方法としての私の海外俳句の書き方を、そこに見たからである。

本の画象

平凡社(定価1680円)
2007年9月刊



2007年11月26日号 (e船団書評委員会)

小林幸夫の推す2冊


久保田淳訳注
『新古今和歌集』上巻

 高校時代に習った「幽玄美」の固定観念があってか、『新古今和歌集』は敬して遠ざけてきた。繊細な感覚など理解できないな、と思ってきたのである。けれど今回、久保田さんの訳注が出たのをきっかけに、読んでみようと思った。訳注にあまり煩わされず、わからなことだけ、注を見ることにした。詩歌を読むには、リズムがある。わからなくても、つぶやくようにして読んでいった。声に出さなくたって、心の中でつぶやけばいい。そうするとなんと楽しいことか。かつて都の貴人たちは、季節の移ろいひとつ例にとっても、こんなふうに哀しみを表現するんだ、という驚きがあった。そして調べの美しさも実感できる。久保田さんの注も簡潔でいい。作者略伝もありがたい。下巻もすでに出ている。

本の画像

角川ソフィア文庫(933円+税)
2007年3月刊
沖浦和光著
『旅芸人のいた風景』
―遍歴・流浪・渡世―

 この手の本を見つけるとすぐ手が伸びてしまう。なぜだろうと、自問してみるのだが、大衆芸能への興味、と言ってみてもちょっと違うような気がする。摂津箕面の西国街道沿いに住んでいた著者は、幼少年時代、多くの旅芸人を見て育ったという。いわば、街道を旅する道の者たちを、幼いときから追っかけて育ったのである。明治・大正・昭和からさらに中世にまでさかのぼって、旅芸人の歴史が、実感的にたどられていく。すでにそれは、失われた歴史といってもいいのだが、戦後生まれの私もまた、少年時代にはガマの油売りを見た記憶がある。歴史とは記憶を掘り起こす作業なのだ。

本の画象

文春文庫(750円+税)
2007年8月刊


塩谷則子の推す2冊


正津 勉著
『小説 尾形亀之助』
窮死詩人伝

 ゆるーく生き、「その言葉は現実を語っていて、現実を超えている」(高村光太郎)と評された尾形亀之助がたち現われる本。「いつまでボーヨーと遊興していられることやら。」――筆者のつぶやきのようなしかし鋭い評言が随所にある。優れた評論。「昼は雨//ちんたいした部屋/天井が低い//おれは/ねころんでゐて蝿をつかまえた」(亀之助)。

本の画象

河出書房新社(2200円+税)
2007年11月刊
森村泰昌・藤森照信・芸術新潮編集部著
『フリーダ・カーロのざわめき』

 30分もあれば読める軽い本。しかし、画中人物に扮装した経験をふまえた森村泰昌の解説がおもしろい。カーロの自画像に共通する一直線につながった眉毛は「髭」だという。男性的・西欧的なものを象徴する髭。さらには心を飾る髭。6歳で小児麻痺・18歳で大怪我・30数回もの外科手術の悲惨、を自由に生きたしるしの絵を多数掲載、堪能できる。

本の画象

新潮社(1500円+税)
2007年9月刊



2007年11月19日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


北川 透著
『中原中也論集成』

 現代詩の鋭利な批評家が書いてきた中也論の集成。既刊の中也論2冊に未刊分(「中原中也の可能性」)を合わせた750頁の大著である。今年は中也が生誕して100年目にあたるが、北川はあとがきで、中也の他力の姿勢、無私への希求を指摘している。そこには北川自身の現在の姿勢と希求が重ねられてもいるだろう。


本の画象

思潮社(6800円+税)
2007年10月刊
安水稔和著
『内海信之』
花と反戦の詩人

 神戸に住む現代の詩人、安水さんが、郷里の先輩の詩人の人と仕事を語った500頁近い大著。巻末には未刊詩集『雛鶏』が収められている。1884年に今の兵庫県龍野市に生まれた信之は、まず「明星」で活躍、日露戦争の時代に「生命をかけがえのないものだと思うやさしい心」(安水)から発した反戦詩を書いた。

本の画象

編集工房ノア(3800円+税)
2007年9月刊


桑原汽白の推す2冊


國文學編集部編
『知っ得 俳句の謎』

 「通じる〈何か〉があったのである」(宇多喜代子)。
 「昂揚と低迷の差、(略)輝けるタブーではなかつたらうか」(塚本邦雄)。
 まず、草城、そして虚子のところ・・・。
 そのほか、坪内稔典の論考などなど。

本の画象

學燈社(1800円+税)
2007年7月刊
フランチェスコ・コスタ作
高畠恵美子訳
森友典子絵
『鏡の中のアンジェリカ』

 2時間ドラマも、気をもたせといて…。最後まで行ってないが・・・。名前を知るところ。
 〈 炎の向こうに広がる地平線、その可能なかぎり遠くまで届くようにと、大きな声で。
 「アンジェリカァァァ……。」〉

本の画象

文研出版(1300円+税)
2007年4月刊



2007年11月12日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


諏訪兼位著
『科学を短歌によむ』

 名古屋大学理学部教授であった著者は朝日新聞の「朝日歌壇」に今もなお投稿を続け、採歌数が200首余、1992年には朝日歌壇賞を受けたという経歴。筆頭にはノーベル賞の湯川秀樹の短歌をあげ、ほかに40余名の科学者や理系の歌人の歌と解説に及ぶ。短歌の「読む」ことと「詠む」ことの両方を進めた「よむ」ことへの感動が素直に伝わってくる。

本の画象

岩波書店(1200円+税)
2007年10月刊
新井 裕著
『赤とんぼの謎』

 著者は埼玉県農林部を早期退職後、NPO里山研究会を立ち上げ里山保存を活 動中の人。
 里山を代表する生き物である「とんぼ」への思いは深く、今年から3年間の「全国一斉赤とんぼ調査」に再チャレンジの由。日本人に親しまれてきた「赤とんぼ」の現在を読み進めると、科学技術の進歩で害虫を退治してもらう必要のなくなった「赤とんぼ」の行方が気になる。

本の画象

どうぶつ社(1500円+税)
2007年8月刊

宮嵜 亀の推す2冊


宇多喜代子著
『古季語と遊ぶ』
古い季語・珍しい季語の
実作体験記

 桃吹くや河内絵図には寺多き  喜代子

 全然知らなかった季語の説明を読むと、掘出物を見つけたような気になる。釣人に「乗っ込み」は今もビビッドだが、「われから」は?とか、いろいろ考えて楽しい。そして、あとがきの「この国の言葉文化の粋ともいえる季語の来し方に思いを馳せることも大事」と述べられている通りだと思う。

本の画象

角川学芸出版(1500円+税)
2007年8月刊
福士 審著
『内臓感覚』
脳と腸の不思議な関係

 IBS(過敏性腸症候群)(下痢又は便秘)患者数は人口の10-20%にのぼるという。心 療内科医がIBSを中心に据えて脳腸関係を解説。進化的には腸、神経系、脳の順に発 生してきた。著者は、人の情動は内臓感覚に土台を置いているとする。ストレス社会 に生きる個人の内臓は大変だ。

 無花果にプロテアーゼ厚揚を焼く  亀

本の画象

NHKブックス(970円+税)
2007年9月刊



2007年11月5日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊


榎本好弘著
『季語の来歴』

 あとがきに「季語の多くが中国で生まれ、それらが禁裡に伝承され、やがて武家社会に下り、出入りの町家の子女や商人を通じて市井のレベルにまで広まった。またその過程で日本古来の行事、風習と習合して今日の姿になった」とある。例えば「盂蘭盆会」の由来の説明から、「中元」や「帰省」が本来、父母への計らいに基づき、感謝の証であり、安否を気遣うことを意味していると言う。季語の把握も乏しく、陰暦の陽暦への変換にあたふたしている私にも、とても楽しく読めた。

本の画象

平凡社(本体2000円+税)
2007年8月刊
阿部圭司編
『内田博 詩と人生』

 内田博は福岡・大牟田に生き、三池炭鉱の子どもたちを美しく書くとともに、炭鉱夫たちの苛酷な姿や、囚人労働、女子労働、そして中国・朝鮮人たちへの強制労働への怒りをうたったプロレタリア詩人。本書は息子である絵本作家内田麟太郎が父の死を契機に、その人生の総括を長年にわたってし続けてきた集成である。一読し、まず思ったことはプロレタリア詩とはいったい何か、ということ。プロレタリア文学とともに、再度、検証すべき問題なのだと思う。

本の画象

無極堂(本体1000円+税)
2007年8月刊


朝倉晴美の推す2冊


池田彌三郎著
『世俗の詩・民衆の歌』

 様々な分野の「歌」についてのエッセイ集。でも、まず、池田さんのすばらしい口調、軽妙な筆致、これこそが歌のようにリズミカルで感激。また、箇所箇所で、母国語教育や言葉に関する私見なども盛り込まれ、歌謡史の知識とともに考えさせられることも多い。池田さんの少年青年時代も楽しい、夜長に最適な一冊。

本の画象

講談社文芸文庫(1300円+税)
2007年10月刊
ジョーン・G・ロビンソン作・絵
中川李枝子 訳

『おはようスーちゃん』

 訳・中川李枝子、と聞けばピンをくる方も多いはず。児童書「ぐりとぐら」の作者だから。翻訳でも彼女の言葉への感性とやさしい語感は十二分に感じられる。幼いスーちゃんのワクワクドキドキの日常を綴った短編集。子供に聞かせるもよし、大人が読むもよし、ふんわりとした気持ちになれるから。休日の午後に是非どうぞ。

本の画象

アリス館(1200円+税)
2007年9月刊



2007年10月29日号(e船団書評委員会)

大角真代の推す2冊


桝野浩一著
『一人で始める短歌入門』

 「いい部屋みつかっ短歌」コンテストに応募された短歌を題材にかんたん短歌の作り方を解説。大賞は「あの頃の通学路沿いに引っ越して制服の君にまた振られたい」
 誰でも歌人になれるかも、とその気になりそう。部屋に関する短歌ばかり読んでも飽きないのは短歌の力か。

本の画象

筑摩書房(580円+税)
2007年6月刊
田村 裕著
『ホームレス中学生』

 作者中学2年生の時、父親に「解散」宣言され、ホームレスになった漫才師自叙伝。癌で亡くなった母、癌でリストラされた父。父を恨むことなく感謝する作者だからこそ、周りの人が助けてくれるのだろう。人は人に支えられていきている。涙で溢れた。

本の画象

ワニブックス(1300円+税)
2007年9月刊


木村和也の推す2冊


金子兜太著
『酒やめようか
どの本能と遊ぼうか』

 尿瓶とともに全国を駆ける筆者の旺盛な活動力の源泉に触れられるエッセイ集。「構えて現実と取り組むのではなくて、ありのままの現実にふれて、思いのままに俳句を作る。勝負は自分という人間の有り態にある。」これが前衛俳人金子兜太 の到達した地点のようである。

本の画象

中経出版(1500円+税)
2007年10月刊
村上春樹著
『走ることについて
語るときに僕の語ること』

 村上春樹は知る人ぞ知るジョガーである。時にトライアスリートですらある。「走る」という行為を通じて、どのように作家として自立を果たしてきたか、どのように実生活を生きてきたかが語られる。彼の小説同様に、軽いタッチながら密度の濃いエッセイである。

本の画象

文芸春秋社(1429円+税)
2007年10月刊



2007年10月22日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


桂 信子著/宇多喜代子監修
『桂信子全句集』

 2004年末の桂信子氏の逝去から3年。満を持してという感の待望の全句集である。第一句集から一句一句読みながら、著者の七十年に及ぶ長い俳句人生の一端を思い、しばし沈黙する。執筆記事や活動記録を詳細にまとめた巻末の年譜には、著者に対する真摯な敬意が感じられ頭が下がる。「九十の春いまだ知りたきことのあり」

本の画象

ふらんす堂(12000円(税込み))
2007年10月刊
泉 寔著
『正岡子規の日常』

 高校生以上の学生向けに書かれた子規の入門書。子規を語る十六のキーワードと、子規周辺の人々や物についてのエッセイが続く。それぞれの文章の隣には、なんと子規の「果物帖」「草花帖」に収められた絵画が掲載されている。その瑞々しい絵画に惹かれて読み進んでいくうちに、子規の多彩な魅力に触れられるようになっている。

本の画象

創風社(1500円+税)
2007年4月刊


若林武史の推す2冊


塚本邦雄著
現代詩文庫
『塚本邦雄歌集』

 現代の代表的歌人、塚本邦雄の歌千二百首余りを収めた一冊。俳句とは圧倒的に違う詩性を感じることができる。「なまぐさきもの満ち百の花きざすあじさゐの心電図を撮れ!」なんて俳句では詠めない気がする。俳句を考えるとき、短歌を本気で読む態度も大切だ。

本の画象

思潮社(1200円+税)
2007年10月刊
内田 樹著
『疲れすぎて眠れぬ夜のために』

 内田樹氏のエッセ一集。自分自身に迷いがある人にとってはいろいろな生きるヒントが得られる一冊。著者自身があとがきで言っているが、現代社会で無理や我慢をしちゃいけない、そのわけが様々な事象から解説されている。

本の画象

角川文庫ディスカバー(514円+税)
2007年9月刊



2007年10月15日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


野村喜和夫著
「ランボー『地獄の季節』
詩人になりたいあなたへ」


 「理想の教室」シリーズの一冊。「詩を書きたい、詩人になりたい」若者へのメッセージが三回に分けて語られる。ランボー『地獄の季節』は、先鋭的な「現代詩入門」のテクストであり、そこには言葉の実在の輝きがある、と著者はいう。詩(俳句も含めて)を書くなら、その前にこれぐらいは読め、ということか。甲本ヒロトもランボーを読んでいる?

本の画象

みすず書房(1500円+税)
2007年7月刊
ベネディクト・アンダーソン述
梅森直之編著
『ベネディクト・アンダーソン
グローバリゼーションを語る』

 ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』は、様々の学問分野で引用、批評され、いわば分野を越えた必読書である。前半、アンダーソンは自著を振り返り、大胆に自己批判を試みる。爽快である。後半は直接会い、話を聴いた編著者梅森氏の興奮さめやらぬ文章である。「貿易より(英語以外の)言語を!」同感だ。

本の画象

光文社新書(700円+税)
2007年5月刊


武馬久仁裕の推す2冊


田中悦子句集
『水の迷宮』

 花咲き乱れる春、突如高熱を発し、皮膚は繚乱として赤色に腫脹する美しい私。「繚乱と春丹毒に侵さるる」繚乱の春を経て五月、失われた負の華やぎを取り戻すべく花を買いに行く私。花は憂いに染まるために白い。「五月憂し真白き花を買いに行く」そして梅雨。偶々晴れ渡った空の下、殺生戒を犯した掌を掌でどうすることもできずに立ち尽くす私。「梅雨晴れや生臭き掌を持て余す」句に現われた「私」の物語を読まずにはおれない句集でした。

本の画象

文學の森(定価2800円)
2007年9月刊
高野秀行著
『怪獣記』

 トルコのクルド人地区のワン湖にいるという怪獣ジャナワールの目撃者を次々にインタビューして行く話だ。ジャナワール騒動を煽った偽ビデオの撮影者がクルド民族運動を排斥する極右だったという奇怪な事実が浮かび上がったりして、最高に面白いのだが、それにもまして惹かれるのは著者、高野だ。高野は自分の物の見え方を点検できる人間なのだ。彼自身のワン湖での謎の物体の目撃を通して語る「目撃」ということの曖昧性の指摘は鋭い。

本の画象

講談社(定価1575円)
2007年7月刊



2007年10月8日号 (e船団書評委員会)

小林幸夫の推す2冊


坪内稔典句集
現代俳句文庫 62
『坪内稔典句集 U』

 誰の句集にかぎらず、「お気に入り」の句には印をつけてしまう。「お気に入り」とは何だ。これを一口に説明するのは厄介だが、坪内さんのこの句集を読むと、なんとかそれができそうに思う。つぶやきながら読むと、なんだかストンと胸に落ちてくる句。もう少し説明すれば、ここに集められた句は、平明だが、ゆったりとしたリズムをもつ。くちずさむと心地よいのだ。この句集の特徴はそこにある。そういう句が集められたのだろうか。これが坪内さんのいう俳句の「口誦性」なのだろう。とりわけ「お気に入り」の一句をあげれば、
 「悪口をまあ仰山にさくら餅」。

本の画像

ふらんす堂(1200円+税)
2007年9月刊
高橋利樹著
『京の花街「輪違屋」物語』

 京都島原の角屋さんには何度も行ったことがある。しかし輪違屋さんは、いつも外からのぞき見るだけである。今も料亭として営業されているし、なにしろ一見さんお断りである。私などには無縁であった。今度、この本が出て、飛びつくようにして買った。もう見られないと思っていた太夫さんたちは、まだ活躍されているという。むかし新聞で見た大夫道中は見られないが、今でも各地に営業によばれるという。なんと禿(かぶろ)だってお座敷に出るという。すでに滅びたかに思った京の遊びともてなしの文化が、ここに記録されたことを喜びたい。巻頭のカラー写真はもちろん、随所に挟まれた白黒写真もありがたい。

本の画象

PHP新書(720円+税)
2007年8月刊


塩谷則子の推す2冊


長谷川考士著
『表現に生きる正岡子規』

 例えば『病牀六尺』の渡辺のお嬢さんの話。どきどきしながら読んでいると「お嬢さんの名は南岳艸花画巻。」モルヒネを打ちながらも表現を工夫した子規。子規=写生論だけではないよ、と子規の目指したものの豊かさを見せてくれる本。一編ごとのテーマが明確。子規は「姉にアネモネ」や「たんぽぽのぽぽ」のような言葉遊びが大好きだったのだ。

本の画象

新樹社(1900円+税)
2007年9月刊
鳥越 碧著
『兄いもうと』

 兄は正岡子規、妹は律のモデル小説。母八重と妹律の手厚い看護がなければ脊椎カリエスに冒された子規は表現に生きることはできなかった。子規は家族に大切にされた。また先輩、友人、門弟など子規を慕う人々の訪問が絶えなかった。律の二度の離婚も兄を思うゆえ。律の心情を描いているが、周りの人に愛された子規の伝記となっている。

本の画象

講談社(1800円+税)
2007年7月刊



2007年10月1日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


柿衛文庫編
柿衛文庫秋季特別展」図録
『女性俳句の世界』
―桂信子とその時代

 柿衞文庫の「女性俳句の世界」展は、同文庫に資料などを寄贈した桂信子を記念して開催された。近代の女性俳人の活躍の跡を示したこれほどの大掛かりな展示は初めてではないだろうか。それだけにその図録は資料として貴重。女性俳句事典として活用できるだろう。


本の画象

柿衛文庫(2000円)
2007年9月刊
小島なお歌集
『乱反射』

 17歳から20歳までの作品を集めた歌集。1986年生まれのこの著者はまだ大学生。「ほしいものがありすぎて少しあきらめて落ちてる柿の数を数える」「バスとバスすれちがいたる一瞬に十月の風は光ってみえる」。作者の初々しい感性が、したたかなはずの短歌形式をとても素直にしている。

本の画象

角川書店(1905円+税)
2007年7月刊


桑原汽白の推す2冊


伊丹公子句集
『私の手紙』

 ものごとにあきるときがある。そんなとき、一杯のネスカフェ・・・。
 一文字あけの句集。また数行でよめば詩集でも…。句にせよ、詩にせよ、もっと原初的でもいい。

 木が伸びる 根が伸びる アボリジニの森 (公子)

本の画象

沖積舎(2800円+税)
2007年6月刊
ジェームス・ジャーヴィス絵・文
ラッセル・ウォーターマン文
シラクラミキコ訳
『ヴォーティガンズ・マシーン』

 5万とあるなか、本屋さんで・・・
 普通の町に迷いこんだって感じ。イギリス人、12才ぐらいが二人、太った犬一匹。どっかで見たことが…。しっぽを振っている。
 つづきはうちで・・・

本の画象

青山出版社(1800円+税)
2007年7月刊



2007年9月24日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


道浦母都子著
『花降り』

 「無援の抒情」を代表作とする歌人の初めての小説。ひとつの「愛」をテーマとしながら、23章立ての冒頭は全て有名な現代歌人の短歌から始まる。主人公のこだわる「愛」の終焉地が、沖縄の与邦国島という筋立ては重いけれど、末尾の自作の歌が他の23首と響き合う。
 「ただ一度この世を生きて自らのいのちと思う一人に会いぬ」

本の画象

講談社(1800円+税)
2007年5月刊
米沢嘉博著
『手塚治虫マンガ論』

 「マンガについて、どんな小さな事でも、誰に聞いても絶対にわからないような事でも、彼に訊けば必ず答えが返ってきた」と、みなもと太郎氏が解説で述べている著者は、2006年10月に逝去の由。生前に発表した手塚マンガに関する多数の評論を編集したことで、4コママンガでデビュー以来の手塚治虫の作品群ほぼ全てを語る1冊となった。

本の画象

河出書房新社(1900円+税)
2007年7月刊

宮嵜 亀の推す2冊


塩見恵介句集
『泉こぽ』

 さくらさくこの子取扱注意  恵介

 本句集は「ひとり」、「ふたり」、「家族」、「みんな」の章立てで展開する。俳句 のスタイルの変遷をイメージして並べたものだという。章ごとに出てくる句には微妙 な多様性とかすかな屈託があり、掲句にうかがわれるごとく、句集全体に内在エネル ギーが横溢しているように思われる。


本の画象

ふらんす堂(2190円+税)
2007年7月刊
堀 信行、菊地俊夫編著
めぐろシティカレッジ叢書7
『世界の砂漠』
―その自然・文化・人間―

 砂漠は「蒸発量が降水量をこえるため極度に乾燥した土地」で、世界の陸地の15-20%を占めるそうだ。地理学、人類学などの専門家が題名のとおり世界中の砂漠それぞれの成立、地政、歴史と将来予測、また玄奘三蔵記、遊牧民の説話やアボリジニの宇宙観、アメリカ牛産業等々を語る。

 秋の夜の吾は砂漠の船の上  亀

本の画象

二ノ宮書店(1500円+税)
2007年3月刊



2007年9月17日号(e船団書評委員会)

大角真代の推す2冊


石川忠久著
『陶淵明詩選』

 田園詩人陶淵明の生涯を、漢詩を通して辿る。帰去来の辞に代表される立派な詩人像を作っていたけれど、自分の五人の息子の不出来を詩で嘆くなど、等身大。三男と四男は13才で6と7の区別がつかない、など。嘆かれた息子はたまったもんじゃない。

本の画象

日本放送出版協会(1020円+税)
2007年6月刊
関根眞一著
『となりのクレーマー』

 最近自分自身がクレーマーになりそうで、焦った。携帯会社との三時間にわたる攻防。疲労感と変な達成感があり、妙な気分。他のクレーマーに興味が出た。
 本書は百貨店のクレーマーと著者の対応例。一人の苦情も蔑ろにしないからこそ築かれる信頼なのだ。携帯会社もかくあってほしい。

本の画象

中公新書(720円+税)
2007年5月刊


朝倉晴美の推す2冊


池内 紀編
『尾崎放哉句集』

 放哉の佳句は小豆島の寺に移った最期の一年に多い。享年41歳。それらは、瀬戸内の小島の風土が反映され、哀しくもうつくしくやさしい。私には「咳をしても一人」「入れものがない両手で受ける」が侘しいとは思わない。「朝がきれいで鈴を振るお遍路さん」「土瓶がことこと音さして一人よ」など、諦観した世界の美しさを捉えているように思えるからだ。

本の画象

岩波文庫(500円+税)
2007年7月刊
芦原すなお著
『海辺の博覧会』

 瀬戸内海を望む四国は観音寺が舞台。作者の故郷だ。昭和30年代の心身ともに健康な子供たちの連作短篇集。でも、家も、親も、子も様々。いろんな子がいていろんな大人や家庭があって、それが逆に健やかなのだと感じさせるのは、瀬戸内の海と気候ゆえ?同じく瀬戸内で育った私の実感かも。楽しくて心がやさしくなる小説。

本の画象

ポプラ社(1400円+税)
2007年8月刊



2007年9月10日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊


嵐山光三郎著
『人妻魂』

 時間が有り余った時や読むべき本のない時、また二日酔いで頭がボーッとしている時用の本としてお薦めしたい。藤村や白秋の妻たちや夢二の恋人など近現代の文人の妻たちや、晶子や久女などの女流作家たちをスキャンダルチックに扱いながら、つまりは女性の強さをほめたたえたもの。『文人悪食』『追悼の達人』など嵐山の文壇裏話物にはつい手がいってしまうが、古今の文化人の臨終を扱った山田風太郎の『人間臨終図鑑』も好きだし、文化的出歯亀趣味は治りそうもない。

本の画象

マガジンハウス(1400円+税)
2007年8月刊
関 厚夫著
ひとすじの蛍火
『吉田松陰 人とことば』

 本年1月から5月にかけての産経新聞連載記事の単行本化。松陰の著作や日記、手紙等に残る言葉を切り口に、記者らしく身近の人間からの松陰像も豊富に提示し、その生涯をできるだけ客観性をもって追いかけている。司馬遼太郎の名著『世に棲む日々』など、どれを読んでも松陰という人は偉い、凄いという外はないが、ただいつも想像するのは明治維新まで生きたなら、松陰はどのような行動をとったのかということ。やはり夭逝して良かった人の一人なのだろうか。

本の画象

文藝春秋(1200円+税)
2007年8月刊


木村和也の推す2冊


高橋ムツオ著
―セレクション俳人―
『高橋ムツオ集』

 著者は佐藤鬼房から「小熊座」の主宰を継いだ団塊の世代を代表する俳人の一人。硬質な観念世界、超現実的な世界を描くのを得意とすると見られているが、その本質は、ロマンティズムであり、抒情であり、即物性であることがよくわかる。
 野に拾う昔雲雀でありし石

本の画象

邑書林(1300円+税)
2007年7月刊
バーネット著/土屋京子訳
『秘密の花園』

 『小公子』などで知られる著者の最晩年の作品。既に古典だか新訳で新しい息吹を得た。少年少女たちの美しいドラマが人生の再生というテーマを新鮮に奏でる。今年一番心に残った物語である。もう一度読み返すのもよし、若い世代の人に是非。

本の画象

光文社古典新訳文庫(800円+税)
2007年5月刊



2007年9月3日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


あべ弘士著
『どうぶつ句会 オノマトペ』

 主宰はしろふくろう、句会メンバーは、象、狐、など。通常の句会のように選句するわけではなく、春夏秋冬の句会の様子を、シンプルな会話と絵で表した小学生向けの句会絵本    といったところ。 ほのぼのとした絵を見ているだけでも心が和む。大人も子供も楽しめる一冊である。

本の画象

学研(1200円+税)
2007年7月刊
万城目学著
『鹿男あをによし』

 物理を研究する「僕」は、ひょんなことから奈良の女子高の代用教員となる。教員仲間と女生徒たち。男性教師憧れの女性教師。現代の女子校版「坊っちゃん」といった設定だが、これに人間と話すことができる鹿がからんでくるところが独創的で面白い。「野性的魚顔」と描写される受け持ちの女生徒が、なんともさわやか。

本の画象

幻冬社(1500円+税)
2007年4月刊


若林武史の推す2冊


手塚治虫著
『手塚治虫「戦争漫画」傑作選』

 タイトル通り、手塚治虫氏の描いた戦争を背景とした七作品が収められた一冊。今夏は「ハダシのゲン」のドラマが放映されたりもした。戦後世代だけの社会になる前に残しておくものがここにもある。

本の画象

祥伝社新書(750円+税)
2007年8月刊
ジョン・ムーア著/花塚恵訳
『スターバックスに学べ!』

 おなじみの「スタバ」の成功の秘密を解き明かしたビジネス関連書。人に受け入れられるものをどうやって創り出してきたか、その考え方が書かれている。俳句の指南書を読んでもわからない作句のヒントが見つけられるかもしれない。

本の画象

ディスカヴァー(1500円+税)
2007年8月刊



2007年8月27日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


稲泉 連著
『ぼくもいくさに
征くのだけれど』


 映画監督志望の学生竹内浩三、1945年4月9日、フィリピンで戦死、23才だった。2001年、23才の著者は、竹内浩三の詩に出会う。この出会いによって、イラク戦争は、現実感とともに著者の前に現れる。出久根達郎は「戦争を知らない世代が、どのような形で戦争を知るのか、本書はその良き見本である」と書く。

本の画象

中公文庫(724円+税)
2007年7月刊
仲 秀和著
「『こゝろ』研究史」

  漱石に関する本は千冊を超え、『こゝろ』についての論文は千編を超える。「昭和30年代は、「明治の精神」「先生」「私」にスポットをあてた研究が目立つ」「昭和40年代は、作品の読みが急激に精緻になっていく」というように、年代毎に研究史が整理される。今年も全国の高校二年生の大半が『こゝろ』を読む。どう読まれるか、楽しみである。

本の画象

和泉書院(4000円+税)
2007年3月刊


武馬久仁裕の推す2冊


安井浩司句集
『山毛欅林と創造』
(ぶなばやし と そうぞう)

 句集は「天地まず菊戴が躍り出て」と、天地開闢に菊戴(きくいただき)なる絶妙の名を持つ小鳥を登場させて始まる。そして、アニミズムともアニミズム以後とも知れぬ世界が儒仏道基を習合しつつ創造されて行く。そこでは、蛇は神を生み出し(日蔭蛇産まねば神も殖えずして)、無為が良しとされる(天心へ立つまくなぎの無為のまま)。だが、この垂直の句の林は、読むほどに、無明の闇に包まれるのである。
  暗きほどに日月燈明冬菫

本の画象

沖積舎(定価3990円)
2007年7月刊
松岡正剛著
ちょっと本気な
『千夜千冊 虎の巻』
―読書術免許皆伝―

 約10万円もする読書案内兼読書術指南全集『松岡正剛 千夜千冊』(全部で1万頁)は8月13日現在で1137セットだそうです。そのダイジェスト版が本書です。ミーハー風女性編集者のインタビューに著者が答える形式になっています。本文は365頁もありますが面白いのであっという間に読めます。「本はノートなんです」という主張はいいですね。船団ブックレビュー子も頑張らなくちゃと思わせる1冊でした。千冊まで80年かかりますが。

本の画象

求龍堂(定価1680円)
2007年6月刊



2007年8月20日号 (e船団書評委員会)

小林幸夫の推す2冊


伊東玉美著
『小野小町』

 小町の時代、歌、物語、そして伝承。いずれもそつなくまとめられていて、小町のことが概観できて便利である。芭蕉が「浮世の果てはみな小町なり」と詠んだほどに、その落魄の境涯はよく知られている。しかし、小町の理解は一筋縄ではいかないこともよくわかった。歌は古今和歌集にわずかに残されているだけである。しかし、その歌をめぐって、後世、歌はもちろん、さまざまな物語がつむぎだされてくる。わたしなどは、謡曲が語る落魄、狂乱の小町が、どのようにして生まれてくるのか、それが知りたくて読みはじめたのである。専門的には古今集の注釈の世界が背景にあるらしい。注釈とは、歌の学問である。それと謡曲、芸能の世界が、どう結びつくのか、残念ながらわからなかった。

本の画像

勉誠出版(2000円+税)
2007年8月刊
赤坂憲雄著
『岡本太郎の見た日本』

 柳田國男論から東北学へと、民俗学の道をたどってきた著者が、今、どうして岡本太郎なのか、と興味をそそられて読んでみた。ここに紹介される岡本の仕事は、まっとうな日本文化論だ。1650年から1660年のほぼ十年で岡本は日本を急ぎ足で歩いた、そして『日本再発見』『沖縄文化論』『神秘日本』となって結実した。著者はこの紀行三部作に寄り添いながら、岡本が直感し、発見した多層的な日本をたどろうとしている。それは赤坂が今後めざそうとする「いくつもの日本」の発見の旅を、岡本に導かれながらたどっているようにさえ思われる。「いくつものアジア」をみすえようとした岡本の仕事に赤坂が傾倒しているのがよくわかる。

本の画象

岩波書店(2300円+税)
2007年6月刊


塩谷則子の推す2冊


細見和之著
『ホッチキス』


 ホッチキスは商品名。日露戦争時使用された機関銃の改良者ホッチキスによって発明されたらしい。紙を綴じる。連続して綴じる。他愛ない文房具が兵器の改良(!)に付随して作られたとは。「現在『ホッチキス』が普通名詞として通用するのは、日本、朝鮮半島、台湾のみである。」にも驚く。だが所詮ホッチキス。ブラックユーモアに満ちた詩集。

本の画象

書肆山田(2400円+税)
2007年7月刊
津島佑子・申京淑著/きむふな訳
『山のある家 井戸のある家』

 往復書簡。なぜ小説を書き続けるのかが語られる。共通するのは家族への愛。15歳で亡くなった兄への思いを述べた手紙に津島佑子の「さびしい存在に対する全面的な支持の出処」が分かると返事する申京淑。二人は共に「現実の沈黙の重さ」を小説に書こうとしている。06年に韓国と日本の文芸誌に同時掲載された。きむふなの訳は静謐かつ強靭。

本の画象

集英社(1900円+税)
2007年6月刊



2007年8月13日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


長谷川櫂著
『「奥の細道」を読む』

 「難儀には違いないが、玄奘三蔵の『大唐西域記』やマルコ・ポーロの『東方見聞録』に比べれば・・ささやかな旅である」と切り出す『奥の細道』全行程を追体験できる一冊。住まいのあった江戸深川から出発する奥の細道旅行が人気コースと聴くと、「古人も多く旅に死せるあり」と先人を慕いつつ歌枕を辿る旅の記録を遺した芭蕉さんに、新書版ならではの親しみを覚えます。

本の画象

ちくま新書(760円+税)
2007年6月刊
千野帽子著
『文學少女の友』

 「脳内に文學少女が居ついてしまった時のための処方箋」との帯文にプラスして、目次は一人笑いが拡がる曜日別の章立て。例えば「水曜日:旅するお嬢さん 牧師様、あたしは悪い子ですの。軽井沢は危険がいっぱい」と堀辰雄、立原道造、三島由紀夫からの処方箋。書き手側と読み手側の交流風深層心理を、文學少女の友と称して分析していて巧みです。

本の画象

青土社(1600円+税)
2007年4月刊

宮嵜 亀の推す2冊


茨木和生句集
『椣原』

 もの書いて棲まむ半裂とならば  和生

 梅雨明けということもあって、読後久しぶりに伸びやかな気分になった。俳人は季語 を中心にしてその人の独自の世界を作る(日刊:この一句欄7/12/07)。逆もまた 真。季語が生活となっているような、そんな暮らしっていいですね。まさに、〈鱶ほ どに寝てと朝寝を笑はるる〉。


本の画象

文學の森(2667円+税)
2007年5月刊
松井孝典著
『われわれはどこへ行くのか?』

 帯の「宇宙の始まりから人類の運命まで」を宇宙生物学者がやさしく解説。自立系と しての地球と生き物や人間との関わり、自然は宇宙の歴史を記した古文書、宇宙の最 初は最も遠いところにあり、現在では137億光年のところ、ビッグバン以前は等々、 妙に「納得」してしまったが…。

白百合の星の光に照らさるる  亀

本の画象

ちくまプリマー新書(700円+税)
2007年2月刊



2007年8月6日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


山本純子詩集
『海の日』

  著者は前詩集『あまのがわ』でH氏賞を受けた。この詩集は受賞後の最新作を集めたもの。著者の特色である平明さと小気味よいユーモアはいよいよ豊潤の度を増している。短い詩「夏」を引こう。「ここに はいってはいけません/ここからさききけん/ここをのりこえないでください」「少年の夏は/いつも/立て札の向こうにある」。


本の画象

花神社(1600円+税)
2007年8月刊
海部宣男・宮下暁彦(写真)著
『すばる望遠鏡の宇宙』
―ハワイからの挑戦―

 ハワイのマウナロア山(4200m)に1991年から9年をかけて世界最大規模のすばる望遠鏡が建設された。その建設の陣頭指揮をとった海部が建設の経過と成果を宮下の写真を添えて紹介した本。海部が指輪星雲と呼びたいということ座の惑星状星雲は、花のように美しいが、それは50億年か60億年後の太陽の死にゆく姿でもあるらしい。ともあれ、巨大望遠鏡は宇宙の生命を見つめている。

本の画象

岩波新書(1000円+税)
2007年7月刊


桑原汽白の推す2冊


西嶋あさ子編・安住敦句集
『柿の木坂だより』

 「生くることしんじつわびし熊を見る」(敦)

 ここにはない句だが…。安住敦(1907-1988)は、8月、対戦車自爆隊の一員だった。柿の木坂の緑道のことは、西嶋あさ子のあとがきに…。

 「終戦忌かの日忘るることならず」(敦)

本の画象

ふらんす堂文庫(1200円+税)
2007年7月刊
鯨 統一郎著
『浦島太郎の真相』
恐ろしい八つの昔話

 カッパの型押しだった。ただの白い厚紙になってるので…。でも、このかたち、サイズには愛着。
 第一話(保険金殺人の犯人は?)。あとをひく。
 第一話「浦島太郎の真相」、きっと太古からの無垢でしかない…。髣髴とした。

本の画象

カッパ・ノベルス(800円+税)
2007年5月刊



2007年7月30日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊


コロナ・ブックス編集部編
『作家の犬』

 志賀直哉から久世光彦まで、近現代の犬好きの物故作家25名の愛犬とのふれあいをまとめた写真エッセー集。冒頭の志賀の「私は人なつこい犬でもお世辞使いの気持の強い犬は好きません。本当に喜んだ時だけそれを現してくれるような犬が好きです」という文章に出会うだけでも暑さを忘れる。犬好きだけでなく猫好きの作家も多いようで『作家の猫』という姉妹書もある。ちなみに『作家の河馬』という本が編まれる時は来るだろうか。多分、来ないだろうな。

本の画象

平凡社(本体1600円+税)
2007年6月刊
上野敏彦著
『闘う純米酒』
―神亀ひこ孫物語―

 二十数年前、税務署の妨害や酒造組合、小売店の冷ややかな視線を振り払って、醸造アルコールや添加物を一切入れない三年熟成古酒にたどり着いた、埼玉県蓮田にある小さな蔵元神亀酒造の物語。当時の吟醸酒ブームに反して、味のみにこだわり続けた純米酒「ひこ孫」。どんな世界、分野でも、立ちはだかる既成の壁に闘いを挑み続ける姿は実にすがすがしい。神亀と刷り込まれたさわやかな表紙を一瞥するだけでも、芳醇な香りが口の中に広がる感じがする。

本の画象

平凡社(本体1500円+税)
2006年12月刊


朝倉晴美の推す2冊


宮城まり子著
『やさしくね』
―やさしいことはつよいのよ―

 ねむの木学園の子たちの絵とまりこさんの詩は、不純な私を浄化してくれる。純粋ということは強いことなのだ。やさしいということも強いのだ。そんな強い人になりたいと思わせる。完成度の高い彼らの絵の魅力も素晴らしい。一見の価値おおいにあり!ねむの木学園創立40周年記念出版。

本の画象

海竜社(1500円、税込み)
2007年6月刊
山本文緒著
『再婚生活』

 少女小説家としてデビュー、30代で切望する直木賞を受賞。愛する人と再婚もした。なのに、40歳でうつ病となってしまった文緒サン。休業していた彼女の復帰である日記エッセイ。そこに文学的な魅力は感じないが、文緒サンの才能を認める夫の妻への気持ちが見える。これは、夫への懺悔の一冊かも。

本の画象

角川書店(1470円、税込み)
2007年5月刊



2007年7月22日号(e船団書評委員会)

大角真代の推す2冊


『求愛瞳孔反射』

 あとがきに、この詩集は失恋したときに書いた、とあった。幸せな時より不幸な時の方が人は強いのかもしれない。だって詩集は幸せに満ちていたから。
ただしやけくそな詩もあったので、やっぱり失恋してるんだなぁ、となんだかしみじみ。

本の画象

河出書房(470円+税)
2007年3月刊
福岡伸一著
『生物と無生物のあいだ』

 人は瞬時に生物と無生物を見分けるけれど、それは生物の何を見ているのか。生命とは何か?と分子生物学専攻の著者の問い掛けで始まる。著者の研究を辿りながら、この本の最後の結末に、私もなんだか生命の神秘に触れた気がした。

本の画象

講談社(740円+税)
2007年5月刊


木村和也の推す2冊


『俳句』編集部編
『平成秀句選集』
―別冊俳句―

 23歳の神野紗希から100歳の作家まで、現代俳人506名を集結させ、きわめて読み応えのある充実した企画となっている。平成俳句がこの一冊で総覧できる。俳句は「ネンテンが作るものでははない。ネンテンを作るもの」(坪内稔典)など、各俳人の存念が語られているエッセイも魅力。

本の画象

角川学芸出版(1524円+税)
2007年6月刊
池田晶子著
『人間自身』
―考えることに終わりなく―

 今年2月に急逝した著者の最後の著作。巻頭の「自殺のすすめ」から巻末の「墓碑銘」まで、死のテーマが繰り返されるところに著者の哲学のかたちを見る思いがする。「狂気の宿らない学問などクズに等しい」など、過激なアフォリズムにも、独歩を生きた著者の面目がよく表れている。

本の画象

新潮社(1200円+税)
2007年4月刊



2007年7月16日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


伊藤完吾・小玉石水編
増補決定版
『尾崎放哉全句集』

 本書で注目すべきは何と言っても、平成九年に初公開された二千四百以上もの放哉句だろう。この中には、代表句に見られる放哉独特の言葉のリズムと鋭い切れを生むに至った、習作過程を伺うことが出来る句が多く、貴重で魅力的な資料である。また放哉の短編やエッセイ、師井泉水らとの俳談も新資料として収録されていて、人間放哉を知る上で興味が尽きない。

本の画象

春秋社(2600円+税)
2007年4月刊
カレル・チャペック著/飯島周編訳
カレル・チャペック旅行記コレクション
『スペイン旅行記』

 「ロボット」という言葉を世に広めたことでも知られる著者は、チェコのジャーナリストにして小説家。1929年当時のスペイン各地の風物を、知性とユーモア溢れる文章でつづっている。
 特に闘牛や舞踊についての文章は秀逸。項目ごとに添えられた、たくさんの個性的なイラストも楽しい。

本の画象

ちくま文庫(740円+税)
2007年3月刊


若林武史の推す2冊


國文學編集部編
『知っ得 短歌の謎』

 短歌研究の一端を知るのに簡便な一冊。近代からの代表的な歌人について、名歌、問題歌、難解歌の解説が載せられている。
 以前の雑誌の特集号の改装版だけど、それなりに役に立つ。

本の画象

学燈社(1800円+税)
2007年7月刊
猪瀬直樹著
『作家の誕生』

 近代の作家をマスコミ的、ジャーナリスティックな切り口によって浮かび上がらせようとした論集。「なぜ」という問いに答えを与えてくれ、不勉強で知らなかったことを教えてくれる。読み物として読み進められる一冊である。

本の画象

朝日新書(720円+税)
2007年6月刊



2007年7月9日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


鈴木健一著
『古典詩歌入門』

 多義性が古典詩歌を詩歌たらしめているのだと著者は言う。確かに意図する、しないに関わらず、多義性が詩歌に多くの価値を与えている。「実証性と感性の間を往き来するためらいの中に(詩歌の)解釈という行為の真実が隠されている。」岩波テキストブックの一冊、「お行儀のいい」テキストになっていないところが面白い。

本の画象

岩波書店(2500円+税)
2007年4月刊
大森荘蔵・坂本龍一著
『音を視る、時を聴く』

  1982年の対談。30才の坂本龍一氏がミュージシャンとして、哲学者故大森荘蔵氏に質問する。「見る」とは?「聴く」とは?「〈今〉」とは?「イメージ」とは?「風景」とは?・・・・。「言い現わす」「響き現わす」「相貌の世界が立ち現われる」などなど、答える大森氏の言葉は魅力的。対談というより、いかにも生真面目な講義。

本の画象

ちくま文庫(1000円+税)
2007年4月刊


武馬久仁裕の推す2冊


廣瀬直人著
『作句の現場』
―蛇笏に学ぶ作句法―

 この本でまた問題の句に出会ってしまった。「おく霜を照る日しづかに忘れけり」で、晩年の石原八束が秀品かどうか不安になった句である。廣瀬は、この本の二箇所で論じている。「おく霜」を忘れてしまったのは、前の箇所では「照る日」とし、後の箇所では結局作者としている。だが、果たして作者と結論付けるだけで、この句はいいのだろうかと自問し、更に鑑賞を深めて行く。このような廣瀬の姿勢が好ましい蛇笏俳句の案内書である。

本の画象

角川学芸出版(定価2400円)
2007年5月刊
佐高 信著
『魯迅烈読』

 佐高には“魯迅友だち”というものがいることを知った。「かつて魯迅を貪り読んだ体験をもつということで親しくなった」人たちである。確かに、魯迅は貪り読んでしまうものだと思う。私も、かつて岩波の『魯迅選集』を貪り読んだ。そして「野草−魯迅」を書いた。あれから三十二年。「たとえ身外の青春を尋ねあたらずとも、みずからわが身中の遅暮を振い立たせねばならぬ」という魯迅の言葉が身に沁む齢になったことを知るのである。

本の画象

岩波現代文庫(定価945円)
2007年5月刊



2007年7月2日号 (e船団書評委員会)

小林幸夫の推す2冊


佐佐木幸綱著
『万葉集の<われ>』

 「個」「われ」は、詩歌表現にとってはたいへん重要な課題らしい。かつて山本健吉は、万葉集を論じて『詩の自覚の歴史』を著した。古今和歌集をとりあげて「うたげと孤心」を論じたのは、大岡信だった。この本でも、「短歌はなぜ、一人称なのか」という問いかけからはじめて、短歌表現の意味を考えようとする。人は、いつから個を自覚し、孤独を意識するようになったのか。それが万葉歌を通して論じられていく。それでは短歌は「われ」の表現なのか。だけど、そう単純ではない。そのことが、たとえば「宴席歌」の例をあげて言及される。短歌とは何か、詩とは何か、万葉論だけれど、現代の課題なのだ。

本の画像

角川選書(1700円+税)
2007年4月刊
斎藤希史著
『漢文脈と近代日本』
―もう一つのことばの世界―

 漱石の魅力は、文章、文体にあると思う。漱石にかぎらず、鷗外など明治の文人の魅力のひとつはそこにある。私ばかりではない、これは誰しもそう思う。おそらく間違ってはいないだろう。しかし、著者は、もう少していねいにことばの歴史を追いかけて、漢文脈が、近代日本の出発に果たした役割を説明してくれる。こういう紹介のしかたは、なんだかむずかしそうな印象をあたえるが、『日本外史』が朗誦しやすい漢文によって書かれていること、訓読と音読の魅力などが論じられていて、たいへんおもしろい。

本の画象

NHKブックス(970円+税)
2007年2月刊


塩谷則子の推す2冊


五人づれ著
『五足の靴』


 35歳の与謝野鉄幹、23歳の平野萬里・北原白秋・木下杢太郎、22歳の吉井勇、5人の旅行記。背広の鉄幹、詰襟学生服の4人。天草本島の西海岸12里を一日で踏破、隠れキリシタンの里、大江天主堂のパアテルさんを訪れたりする。「一日一日を美しく過したい」若者のホコリに満ちた旅。百年前の7、8月。宗像和重の解説は鉄幹の孤独を伝える。

本の画象

岩波文庫(460円+税)
2007年5月刊
大江健三郎著/聞き手・構成 尾崎真理子
『大江健三郎』
作家自身を語る

 時々爆笑してしまう。40代後半、語学の勉強を再開した時、作家らしい眼鏡をかけたいと思って、丸い眼鏡の同じものを10個買ったという。「十個ともレンズを入れてもらって、ずいぶんの値段でしたよ。」過剰の滑稽さ。ヴァルネラブル(傷つきやすさ)と過剰と。小説の文体同様、独特の語り口で作家生活50年を振り返る。DVDも同時発売。

本の画象

新潮社(1800円+税)
2007年5月刊




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