俳句 e船団 ブックレビュー
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2008年12月29日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


田中善信著
『芭蕉二つの顔』
―俗人と俳聖と―

 1743年、芭蕉50回忌に俳聖芭蕉が誕生、100回忌には神とあがめる人まで登場する。著者は芭蕉の前半生40年を時代背景と記録から検証する。「俳聖」というより、厚みのある人間芭蕉のエネルギーと魅力が伝わってくる。この本の一部を再検討し、わかりやすく書かれたのが『芭蕉−俳聖の実像を探る』(新典社新書)である。

本の画象

講談社学術文庫(1050円+税)
2008年9月
柄谷行人著
定本 『日本近代文学の起源』

  1980年初版から、英語版、ドイツ語版、韓国語版、2002年中国語版に至るまで、読者を意識した序文とあとがきが面白い。講談社文芸文庫版(1988年)では収められていた「第一章風景の発見6」の9ページ分が「定本」では改稿で削除されている。第七章に新しく「ジャンルの消滅」が入る。近代文学は終わったのだろうか。

本の画象

岩波現代文庫(1200円+税)
2008年10月刊


武馬久仁裕の推す2冊


すずき大和著
まんが 松尾芭蕉の
『更科紀行』

 岩波の「日本古典文学大系」では、わずかに3頁の『更科紀行』と1頁の『更科姨捨月之弁』を基に、179頁のまんが版更科紀行は書かれた。しかし、決して冗長ではない。すずき大和の○△□からなるプリミティブなほのぼのとした登場人物の絵と、シュールな遠近法によって描き出された様式化された木曽路や更科の月の大景が、読者を夢幻の世界に誘う。これが、作者のイメージした風雅の世界なのだろう。素晴らしい世界だ。

本の画象

発行・さらしな堂/発売・河出書房新社
(定価1680円)
2008年9月刊
金子 勝著
『閉塞経済』
―金融資本主義のゆくえ

 この本を読んで分ったこと。バブル病に陥ると市場のメカニズム(需要と供給の法則)が働かないこと。市場原理による資金の効率的配分をめざした金融自由化が、反対にバブルをもたらしたこと。クローバル社会でバブルに頼らない経済成長を進める国家戦略が日本にはないこと。そして、金子さんの幾つかの処方箋は、当面実行される可能性は低いこと。しかし、バブルの構造を知ることは、自分がこの世に生きる上で大きな支えになること。

本の画象

ちくま新書(定価714円)
2008年7月刊



2008年12月22日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


ゆにえす句集
『この地球(ほし)はわたしのもの』

 「煤逃のまんま四六才に」なったらしい作者が、読者を仲間にひきいれようと意図して作った句集。見開きの右に五句、左に季語の説明。季語の説明が秀逸。たとえばマント。「旅人の多用途布や戦士の防具ではなく、防寒用」。多用途布・・・ん?多・用途・布。作者は「赤マント着て」どこに行くか。「悪魔学聴きにゆく」。悪魔学を学んだ作者に誘惑されて句会にいきたくなる句集。

本の画象

同学社(600円+税)
2008年10月刊
長谷川摂子著
―言の葉紀行―
『とんぼの目玉』

  出雲で育った筆者が、東京で暮らすようになった時、最大のカルチャー・ショックは、尊敬の助動詞が使われないことだった。「おらい?(おられる)」と言わず、共通語では「いる?」。耳が痛み、胸が痛んだという。母語を大切に思う気持ちは、単語から文体までを大切に翻訳する姿勢になる。他者と手をつなぐためにことばがある。温かなことば論。

本の画象

未来社(1700円+税)
2008年10月刊


小林幸夫の推す2冊


谷川健一著
『民俗学の愉楽』

 谷川が民俗学とは何かをわかりやすく語る。「神と人間と自然の交渉の学」と彼はいう。柳田や折口そして宮本常一らの先達から学んだ「小さき者」に寄せる愛着と共感。たとえば日本の神々。地名。そして渚に寄り来る寄り物など。日常の身近なものにも、歴史は刻まれてきた。それをてがかりとしてたどれば、日本の古代信仰、日本人の霊魂観さえもが見えてくる。しかし、現代の日本は、その民俗学が危機に瀕している。たとえば市町村合併で、土地に刻まれた地名さえ変更を余儀なくされて、消えてゆく。これからの民俗学はどうあるべきか。切実な問いである。

本の画象

現代書館(1400円+税)
2008年10月刊
松岡正剛著
『白川静』
―漢字の世界観―

 いずれ松岡正剛が白川静を論ずるとは思っていた。しかし、こんなに早くその機会がくるとは思いもしなかった。わかりやすく懇切に白川静の学問が紹介されている。漢字を通して「東洋とは何か」、「東洋の理念とは何か」を問いつづけた生涯が鳥瞰される。『詩経』と『万葉集』、この二つが、白川の東洋理解に通ずる道でもあった。もちろんこの一冊は、松岡の理解した白川であり、彼の学問のダイジェストである。これを案内として、直接、『詩経―中国の古代歌謡―』や『初期万葉論』、『後期万葉論』を読んでいただきたい。けっしてやさしくはないが、ゆたかな古代詩歌と漢字の世界がひらけてくるだろう。

本の画象

平凡社新書(780円+税)
2008年11月刊



2008年12月15日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


長谷川櫂著
『長谷川櫂全句集』

 既刊の7冊の句集を収め、巻末に最近の著者の俳句観を示すインタヴュー、年譜などがある。「天地の荒ぶる年や除夜の鐘」「激流に呑まるるごとく年は去る」がこの本の末尾にある句。なぜこんな平凡な句を作るのか、私には不可解。もちろん、このような穏和な句があってもいい。だが、俳句をこのようなものだと限定されては困る。櫂とは違う主張を鮮明にしたい。

本の画象

花神社(3500円+税)
2008年11月刊
「国文学」12月臨時増刊号
特集 俳句

  巻頭に瀬戸内寂聴と齋藤愼爾の対談があるが、その齋藤が編集にかかわった「俳句」の特集号。目玉は俳人2人を並べて論じた「俳句ふたり論」。村越化石と阪口涯子、久保田万太郎と増田龍雨、鷹羽狩行と上田五千石、宇多喜代子と黒田杏子、片山由美子と小澤實など21組の論が並ぶ。長谷川櫂、田中裕明、摂津幸彦などはいない。私は岡本一平とペアである。

本の画象

学燈社(1700円+税)
2008年12月刊


桑原汽白の推す2冊


中島砂穂句集
『熱気球』

 土中にはガラス工場霜柱 砂穂

 書生派、ちがう。難解派、ちがう。くすくす派。つまり、いま、そしてアルカイックな深層の笑点?
 ノームたちは卵が嫌い。しかし、日夜、工場で、やっている。

本の画象

ふらんす堂(2476円+税)
2008年9月刊
羽田詩津子著
『猫はキッチンで奮闘する』

 500円玉、100円玉、ポイントカード。じゃあ、青。上着の内ポケットへ・・・
 チリ(ウェンディーズ)、ボルシチ(書店街)、シシカバブ(アテネ)、(はじめての)マカロニ・アンド・チーズ、アラジン・ドジン・シャブリ、ムニャムニャ・・・

本の画象

ハヤカワ文庫HM(571円+税)
2008年1月刊



2008年12月8日号(e船団書評委員会)

宮嵜 亀の推す2冊


坪内稔典著
『カバに会う』

 全国の河馬がごろりと桜散る  稔典

 北海道から沖縄まで、日本にいる河馬全60頭に会った河馬ファンの著者の紀行を兼ねたエッセイ、俳文集。河馬にまつわる俳句、狂句をはじめ詩歌等、著者のこの動物への愛着は限りない。一口に河馬といってもそれぞれに個性あふれる個体の描写が楽しい。一読して河馬の文化のエキスパート。

本の画象

岩波書店(1600円+税)
2008年11月刊
松本仁一著
『アフリカを食べる/
アフリカで寝る』


  著者は長くアフリカに生活した元新聞記者。地方へ取材に出かける時、醤油とワサビをいつも持って行ったという。マサイの、牛糞と土の家に泊ったりする並外れた柔軟性に脱帽。タイトル通り、人間の基本的行動という切り口でアフリカとそのとりまく世界の歴史と文化が語られて興味つきない。
  風呂吹きや釣れた魚の焦げぐあい 亀

本の画象

朝日文庫(1000円+税)
2008年11月刊


葉月ひさ子の推す2冊


矢崎節夫著
『みすずさんの
うれしいまなざし』


 著者自身も童謡・童話の作家ながら、26歳で夭折した童謡詩人「金子みすず」の埋もれていた原稿を見つけ出し『金子みすず全集』を出版した。2003年の生誕百年には「金子みすず記念館」を完成させたことで現在のブームが生まれたようだ。著者がみすずの詩の読者との交流から得た内容を、エッセイと25編のみすずの詩と共に紹介している。

本の画象

JULA出版局(本体1200円+税)
2008年7月刊
浅田次郎著
―浅田次郎とめぐる―
『中国の旅』

 『鉄道員(ぽっぽや)』でつとに有名な著者は、歴史小説を手がけるにあたって一番書かれていない中国の近代、清朝末期から中華民国成立までの時期を題材に選んだという。『蒼穹の昴』『珍妃の井戸』『中原の虹』の歴史三部作に至る取材紀行は歴史の視点。広大無辺の中国に紀元前から存在する城壁「万里の長城」が近代史にも見えかくれする旅。

本の画象

講談社(1500円+税)
2008年7月刊



2008年12月1日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


岸本尚毅著
『俳句の力学』

 音楽、絵画、株式投資、水戸黄門にカエサル、、、そして俳句界の先人の言に例句の数々。あらゆる手段、角度から、俳句の持ちえる力を解明する。特に、私は、俳句における言葉選びについての『ハイリスクハイリターン』論が楽しめた。ただ、俳句以外の教養が乏しいと難解に感じてしまうのでは、という思いも。

本の画象

ウエッブ(2000円+税)
2008年9月刊
堀内都喜子著
『フィンランド
豊かさのメソッド』


  今、フインランドが注目されている。それも、世界の学力調査(PISA)で常に上位だからだ。著者は教育システム、公立学校(私立学校は存在しない!)や教師のあり方を伝えながら、何より強調していることは、学ぶことへの国民の意識、そして人生観と自然観だ。真に豊かに生きるとはという命題の答えを見た。

本の画象

集英社新書(700円+税)
2008年7月刊


赤石 忍の推す2冊


坂本宮尾著
―美と格調の俳人―
『杉田久女』

 評伝、小説、芝居等、その生涯を猟奇的な視点から描いたものが多く、個々の作品やそれを系統的に論じたものが少なかったのではと著者。本書は作品鑑賞と個人史を両軸といて久女の全体像に迫っている。それにしても何故虚子は才能を認めながらも久女をあれほどまでに嫌ったのか。処女句集の序文などすらすらと書いてあげればとも。小説仕立ての悪意に満ちた『国子の手紙』を読んで虚子の性格にぞおっとしたが、それほどまでに頑なにした久女の自己中心の個性に触れると、男として虚子の反応もわからない訳ではないとも感じた。

本の画象

角川選書(1600円+税)
2008年10月刊
田中優子著
『カムイ伝講義』

 1960、70年代に青春期を迎えた漫画好きには『ねじ式』のつげ義春、『漫画家残酷物語』の永嶋慎二、そして『カムイ伝』の白土三平の三氏は神に近い存在だったように思う(違うか)。著者は法政大学で江戸時代を講義するために『カムイ伝全集』を使い、本書はその過程で生み出されたもの。カムイ伝には江戸初期の社会構造、社会風土が適確、克明に描かれており、ステロタイプの切り口ではなく、非人や下人など被差別者たちの「批判」のエネルギーに満ちた姿も映し出されている。それはまさに現代にも通じるテーマでもあるのだろう。

本の画象

小学館(1500円+税)
2008年10月刊



2008年11月24日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊


宮島真彦著
―付け句の世界―
『芭蕉の人情句』

 芭蕉の連句の中の人情句に焦点を当てて、叙景句を中心に鑑賞されがちだった芭蕉俳諧の奥行きを教えてくれる。俳諧が連衆による「付け」という対話形式の文芸である意味がよくわかる。
 君もぼくも暮春の鱶のように寝る 稔典
も登場する。

本の画象

角川選書(1700円+税)
2008年11月刊
王 敏著
『日本と中国』
―相互誤解の構造―

  「同文同種」という幻想によって、日中の相互誤解が増幅されているのではないか。「日本文化は許し合う寛容の豊穣を風土とする」など、中国人ならではの視点で日本と中国の文化の独自性を検証する。

本の画象

中公新書(760円+税)
2008年9月刊


大角真代の推す2冊


糸井重里編集構成
『吉本隆明の声と言葉』

 吉本隆明の講演を立ち聞きする74分。CDと講演内容が冊子になったもの。読んだ印象と聞いた印象は違っていておもしろいかも。文学にとって重要なことはどういう死に方をすることか、、、自分はまだまだ何も知らないな、と思った。

本の画象

糸井重里事務所(1500円+税)
2008年7月刊
山田邦紀著
『明治時代の人生相談』

 明治時代の138人の新聞雑誌の人生相談をまとめたもの。明治も現代も悩みは同じ。ただ答える側の記者の回答は真面目で、その分おかしい。資産家の美人か賢い不美人かの縁談を選択する相談に記者の答えやいかに。

本の画象

幻冬舎(600円+税)
2008年11月刊



2008年11月17日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


小島 健句集
『蛍光』

 「河」同人である作者の第三句集。作者はきっとほのぼのとした人なんだろうなと思った。「人間に胞子撒きけり冬蕨」「虹色の光放てり蚯蚓の死」「爬虫類見し目に蓮の枯れ始む」「橋の上に人をあつめて海月かな」「刺青の男海月に刺されけり」「どの子にもいそぎんちゃくの孤独かな」「善人はみな滝飛沫浴びてをり」「妻とよく歩くこのごろ心太」などが面白かった。

本の画象

角川書店(2667円+税)
2008年8月刊
別冊俳句
『俳句生活』 ―句会の楽しみ―

 面白かったのは「互選句会の楽しみ」という誌上実況句会、「連句の楽しみ」というこれも実作の特集。句会の楽しみというテーマなのだから、いろいろな句会の現場を中継するというだけでも十分意義があると思った。「句会とは」といった、ありがたいページは個人的には読み込めなかった。

本の画象

角川学芸出版 カドカワムック287(1500円)
2008年10月


三好万美の推す2冊


神沢利子詩集
『立たされた日の手紙』

 著者は『くまの子ウーフ』『いないいないばあや』などで有名な児童文学者だが、その創作の原点は詩作だった。詩を書き始めた14、5歳の頃から現在の80歳過ぎまでの作品が収められている。長い年月の中、人生の様々な場面で紡がれた言葉たちは、どれものびやかでいて奥深い。俳句好きだった兄を真似て作ったという俳句も入っている。
 今日生れし蜻蛉をのせて風光れ  利子

本の画象

理論社(1400円+税)
2008年8月刊
倉橋由美子著
『酔郷譚』

 酒好きの青年と謎めいたバーテンダーと「魔酒」がからんだ連作短編集。話によっては、青年は女性になり、正体不明の物体になり、あるいは月の世界に行って故人と会い、そしてまた現実の世界に戻ってゆく。幻想と現実の間に官能が行き交う特異な世界に、思わず惹きつけられる。

本の画象

河出書房新社(1500円+税)
2008年8月刊



2008年11月10日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


安田敏朗著
『金田一京助と
日本語の近代』


 『新明解国語辞典』の語句の説明は絶妙で、時々ネタに使いたくなる。新明解→金田一とつながりそうだが、京助には関係がないようだ。金田一京助とアイヌ語、石川啄木との関係、歴史認識、かなづかい論、標準語論などを、原資料に当たりながら検証した本。当然、時代の空気の中で生きた普通の人金田一京助像が浮かび上がる。

本の画象

平凡社新書(880円+税)
2008年8月
山本史也著
続・神さまがくれた漢字たち
『古代の音』

  白川静の説は広く知られるが、多くの漢和辞典は白川説を採用していない。白川説の基本は、何といっても「口」の解釈だ。「口」は、体の器官ではない。神に祈り、神を呼び、神を迎えるための、神聖な器を写す形。「口」をこう見ることで、漢字の向こうの人々の原初の喜怒哀楽が見えてくる。そして、「音」・「歌」が聞こえてくる。

本の画象

理論社YA新書(1300円+税)
2008年7月刊


武馬久仁裕の推す2冊


大本義幸句集
『硝子器に春の影みち』

 大本義幸63歳までの全句377句である。一句をもって句集評に換えるなら、「塵芥の赤いとまとでありにけり」であろう。塵芥となったとまとと言えば、醜く潰れたとまとを思い浮かべるに違いない。しかし、句の中のとまとは決して醜くはない。「赤」という文字が平仮名ばかりの中に置かれたことにより、本当に「赤い」からである。それ故に、塵芥でありながら美しいとまととなって現われる。そして、それはなぜか哀しい光景である。

本の画象

沖積舎(定価2940円)
2008年10月刊
赤城 毅著
『書物迷宮(ル・ラビラント)』

 書物好きにはこたえられない書物狩人ル・シャスールが活躍するミステリー短編集である。ファシストに殺されたスペインの国民詩人ロルカの幻の詩集『グラナダ悲歌』に隠された真の意図を鮮やかに解き明かす話も面白いが、赤い表紙に「軍極秘」と印刷された、1945年8月の満鉄『臨時特別時刻表』をめぐる虚実入り乱れた話は更に興味津々だ。ラストは、『グラナダ悲歌』は感動的で、『時刻表』は小悪党を出し抜き小気味いい。他に2篇。

本の画象

講談社ノベルス(定価903円)
2008年10月刊



2008年11月3日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


井上弘美句集
『汀』

 みづうみはみづをみたして残る虫  弘美
 あとがきに「京都を離れて東京で生活をしていると、なぜかいつも遠くに湖がみえるようになりました。」湖は琵琶湖で、『汀』と名付けた所以とある。しかし、もちろん句の中の「みづうみ」はたっぷりと水をたたえた場所で琵琶湖でない。山の中の小さな湖でもよい。「残る虫」の悲哀が身にしみる。固有の経験が見事に普遍化されている。感情があふれないように抑制を効かせ、逆に背後のあれこれを想像させる作り方。省略法が見事。第三句集。

本の画象

角川SSC(2800円+税)
2008年9月刊
清水眞砂子著
『青春の終わった日』
―ひとつの自伝―

  村の「一隅を生きるしか、子どもの私に術はなかった」が、遠くの世界に思いを馳せていた。私の内心に立ち入る者はいなかった。「放っておかれる幸せ」。「子どもの私」は家族と学校の先生をしっかりと見つめ、的確な判断を下していた。貧しさから常にいがみあい、生活を優先しながらも心豊かに生きた大家族の物語。敗戦後5歳で北朝鮮から引き揚げてきて大学を卒業するまでの自伝。作者は『ゲド戦記』の翻訳者。子どもも、言葉にしない多くの思いを抱えて懸命に生きている。今年の一押し。

本の画象

洋泉社(1800円+税)
2008年9月刊


小林幸夫の推す2冊


上野 誠著
『魂の古代学』
―問いつづける折口信夫―
 今回も折口論。同じく彼の人と学問が論じられているのだが、なかでもこの一冊がおもしろかった。一息に読み終えることができた。筆者は國學院大學の卒業。折口の学統につながる人である。大学入学時から十二年間、折口の遺影の飾られた研究室で学んだという。それならば偶像視されて論じられることもあるのだが、筆者はむしろ「等身大」の折口を描こうとしている。そのために選ばれた方法は、折口の育った大阪の街、文中に出てくる大阪の街を歩くことだった。歩きながら考えることで、どのような折口像がつむぎだされたか。実際に読んでいただきたい。芸能論への視点もおもしろい。

本の画象

新潮選書(1200円+税)
2008年8月刊
西郷信綱著
『古代人と夢』

 この一冊は学生時代に読んだのだが、版を改めて出されたのを機に読みなおしてみた。若いときは理解できないところが多くて、そこは読み飛ばしながら読み終えた。なぜわからなかったのか、今回、よくわかった。若いわたしはこれを古典文学論として読もうとしていた。しかし、筆者はこれを「夢」を通路とした神話論として書いている。古事記をはじめとする神話に興味などなかったわたしには、わからないのは当たり前だった。「黄泉の国」と「根の国」を論じた章など、そのまま筆者の『古事記注釈』につながる。また「こもりくの泊瀬」について論じた「長谷寺の夢」も、古代の神話の世界へとつながっている。

本の画象

平凡社ライブラリー(1200円+税)
2008年8月刊



2008年10月27日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


佐高 信著
佐高信の
『甘口でコンニチハ!』

 副題は「五七五と日本人」。堀田力、田丸美寿々、寺島実郎、阿川佐和子、山田太一、二宮清純など16名との対談集。小室等との対談で「俳句は連歌から始まったけど、切り離されて独白として成立している。独白というのは悪い言葉を使うとマスターベーションになりやすい。」と佐高は言う。この見解に賛成! マスターべーションをいかに脱するかが俳人の腕のみせどころであろう。

本の画象

七つ森書館(1800円+税)
2008年9月刊
車谷長吉著
『四国八十八ヶ所感情巡礼』

  今年の春に四国八十八ヵ所をめぐったその感情的記録。次は3月8日の記録の一節である。「世間では一応美人だと言われるような女であるが、装飾品をいっぱい付けている下品な女を連れて来ている若い男がいる。男も髪を赤く染めている。厭だな。私は順子さんが生き甲斐だな。/今日も野道でうんこをした。それを別の遍路客がじっと見ていた。」若い遍路に対する感情的見解だが、ところ構わず野糞をしながら、その野糞ふうに感情的見解をばらまく。痛快無比の巡礼記だ。

本の画象

文藝春秋(1200円+税)
2008年9月刊


桑原汽白の推す2冊


八木忠栄句集
『身体論』

 寒風や二番線ドア閉まります 忠栄

 「社会のドアが閉まります。いちもつをお引き下さい。挟まないよう、ご注意下さい」、あっいてっ。どこかの終着駅、潮の香、いまお客をおろしおえたところ。つぎの行く先、古いロール式の表示、「・・・」。
本の画象

砂子屋書房(2500円+税)
2008年8月刊
北村薫著・謡口早苗絵
『野球の国のアリス』

 「決勝戦じゃないよ、最終戦。―負け進んだんじゃないか。」
 宇佐木さんを追っかけ、鏡のドアをぬけた。いよいよ、この世界が、あらわになってきた。いや、・・・ンヘも界世のこ。たとえば、朝風呂へゆくとき、小径でリスに出っくわしたり・・・。

本の画象

講談社 MYSTERY LAND(2000円+税)
2008年8月刊



2008年10月20日号(e船団書評委員会)

宮嵜 亀の推す2冊


わたなべじゅんこ句集
『seventh_heaven@』

 播但線どの駅もみな柿明かり

 掲句、柿明かりがいいなあ。著者第2句集、201句収集。タイトル、「最上天・至福」の意でうらやましい。6章構成、すべてアカウント@で出来ていて、お洒落、そしてストーリーがある。日常の何気ある句、きらり光る句、ン?艶な句。まさに著者は「至福」のステージにあるのかもしれぬ。

本の画象

創風社出版(1200円+税)
2008年7月刊
西田利貞著
『チンパンジーの社会』

  野生のチンパンジーの話は、飼育された知的実験対象としてのチンパンジーの話とはかなりちがった面がある。話し言葉で書かれた本書は講義のようで、猿学のフィールド現場がよく理解できる。著者の自然への対峙の方法に感心し、ヒトとの共通祖先に対する興味がかきたてられる。
  いわし雲ばっちいおててを洗いなさい  亀

本の画象

東方出版(1500円(税込)
2008年9月刊


葉月ひさ子の推す2冊


石垣りん著
『レモンとねずみ』

 5冊目の詩集出版を願いつつ、84歳で亡くなったりんさんの身辺から350編ほどの未収録詩が発見され、その中から40編を編んだ詩文庫に会えたことはとてもうれしい。りんさんの詩はまさに凛としていて読む側の心も背筋もまっすぐ、そして標題の「レモンとねずみ」の詩のように優しさにあふれている。「さよならの会」で弔辞として読まれた谷川俊太郎と茨木のり子の詩もまた、りんさんの在りし日を髣髴とさせじいんと胸が熱くなる。

本の画象

童話屋(本体1250円+税)
2008年4月刊
久米由美著
『今、世界中で動物園がおもしろいワケ』

 動物園が騒がれている、そのワケとは?国内の動物園は旭山動物園、とべ動物園ほか7園を選んである。キーワードその1が「ふれあうこと」、でもシンガポール動物園の大蛇の首飾りは御免蒙る、ナイトサファリも遠慮したい。世界最古の1752年設立、ウイーンのシェーンブルーン動物園は、1570年代に宮殿内にあった巨大な植物園で動物を飼育することで始まったという。狩が主流であった時代、動物を飼育して眺めるという発想は、皇帝とその家族のものであったよう。

本の画象

講談社+α文庫(1000円+税)
2008年7月刊



2008年10月13日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


小川軽舟著
『現代俳句の海図』

 昭和20年30年生まれの俳人を論ずる。中原道夫、正木ゆう子、片山由美子、三村純也、長谷川櫂、小澤実、石田郷子、田中裕明、櫂未知子、岸本尚毅。それぞれに筆者小川の50句選付。小川も36年の生まれ。個人的には、正木のエピソードからの切り口に興味を引かれ、選句も楽しめた。

本の画象

角川学芸出版(1800円(税込)
2008年9月刊
米原万理著
『心臓に毛が生えている理由(わけ)

  こんな日本人がいたのだ。帰国子女。聡明なロシア語通訳、作家としてご存知の方も多いだろうが、享年56歳。残念すぎる夭折。彼女の思考と視線のベクトルに驚嘆する。私は彼女に日本の教育や国のスタンスの矛先案内をして頂きたかった。しかしながら、抱腹絶倒、そして涙ありのエッセイなのだ。

本の画象

角川学芸出版(1680円(税込)
2008年4月刊


赤石 忍の推す2冊


松本章男著
『西行』
― その歌その生涯 ―

 「ねがわくは」との出会いは、庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』で。「この歌はすごい」と書いているだけで、後年、如月の望月の日に望んだように西行が死んだことを知り、その歌の凄さを理解したように思う。本書は様々な文献をもとに西行像を映し出しているが、単なる学術書に留まらず、恋の相手の大胆な類推や西行を取り巻く人々の有様を興味深く記している。西行とは、流浪する世捨て人などではなく、最期まで貴種、中枢との関わりの中で生きた選ばれた歌人、という、この読後の感想は誤っているだろうか。

本の画象

平凡社(本体2400円+税)
2008年6月刊
植田康夫著
『自殺作家文壇史』

 「自殺はさとりの姿ではない」と書いたが自殺した川端康成。「武士の自殺は認めるが、文学者の自殺は認めない」としてその通りに割腹した三島由紀夫。文学的な限界、人生への不安、精神的な病、生活の困窮、妻を失くした寂しさなど、遺書、手紙から類推する動機で様々な作家が自殺している訳だが、著者は死に至る理由を結論づけることを避けるために、徹底して客観的事実のみを記していく。謎を謎とする中で、逆に一人ひとりの死への道程が浮び上り、その人物像が鮮明になっていくように、本書は巧みに構成されている。

本の画象

北辰堂出版(本体2300円+税)
2008年10月刊



2008年10月6日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊


青嶋ひろの・文/板東寛司・写真
『まだ恋じゃない』

 可愛い子猫の写真と俳句のコラボレーション。犬派の人にも楽しめる。俳句はすべて恋(?)句であるが、多彩で、何よりも選句がよい。
 君もぼくも暮春の鱶のように寝る 稔典
も登場する。

本の画象

メディアックス(1200円+税)
2008年9月刊
深谷昌志著
『父親―100の生き方』

  昔の父親はそんなに偉かったのか。明治以降の自伝100冊から多様な父親像を抽出する。頼りない父親、迷惑な父親、物言わぬ父親など、子どもの目に映った父親の100態が総覧できる。自信なげな現代の父親に是非一読を。

本の画象

中公新書(740円+税)
2008年6月刊


大角真代の推す2冊


ひらやまなみ著
『きょうもいい日』

 日常のささやかな感動をモチーフにした木版画と詩。木版画の美しさと平易な言葉使いの詩に心癒された。作者が幸せであるからこそ、綺麗な絵と詩が生まれる。読者は幸せを分けてもらっている気がして、読後やさしい気持ちになれるのだ。

本の画象

幻冬舎(1400円+税)
2008年7月刊
堤 邦彦著
現代語で読む
『「江戸怪談」傑作選』

 江戸怪談の傑作選で、古典は苦手な人でも手軽に楽しめる一冊。一話一話が短いので、読後感もさっぱり、でもちょっと怖い。第1章「怖ろしきは女の嫉妬」には嫉妬に狂った女の霊が夫や後妻を殺害する話。女の恨みは恐ろしいので、女性には優しくするのが一番。

本の画象

祥伝社(770円+税)
2008年8月刊

[e船団・週刊ブックレビュー]バックナンバー



2008年9月29日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


茂木健一郎・黛まどか著
『俳句脳』

 脳科学者茂木健一郎による脳科学から見た俳句の発想についての随筆、黛まどかによる俳句についての概説、そして二人の対談がその間に挟まれている、といった構成。二人の俳句観はおそらく微妙にずれている。そこが何だか面白い。路傍の花の前でしゃがんだり、屈んだり…そんな二人の姿が俳句的です。

本の画象

角川oneテーマ21(705円+税)
2008年8月刊
茂木健一郎著
『脳を活かす仕事術』

  前著『脳を活かす勉強術』の続編。仕事における創造性、生きるよろこびの発見といった人生訓的な内容を脳科学の視点から説いている。読み進めるうち、これまでも言われてきたことが語られていると気づき、こういうものには普遍的な部分があるのだなと改めて思った。

本の画象

PHP研究所(1100円+税)
2008年9月刊


三好万美の推す2冊


夏井いつき著
『子規365日』

 一日一句、朝日新聞愛媛版に一年間連載されたコラム「子規おりおり」をまとめたもの。「実作者である私自身のアンテナに触れる作品を選んだ」と、筆者自身が述べているように、子規にもこんな句があったのか、と驚いたり微笑んだりしながら読める。気が向いたときに気になる日付の「子規」を読んでみるのもよい。巻末に子規が従軍記者として赴いた大連の子規句碑を訪ねる見聞録が収録されていて、筆者の俳句に対する情熱にはいつも圧倒される。

本の画象

朝日新書(760円+税)
2008年8月刊
中谷仁美句集
『どすこい』

 二十代の元気な俳人の第一句集。「好きなものは好き、いいものはいい」と、明るくおおらかに自分らしさを貫く作者の姿勢が、俳句や句集タイトルによく現れている。奇をてらわず、飾り立てず自分を表現するには、わりと勇気が要る。それができる中谷さんの句集、読後はことに爽やかである。

本の画象

創風社出版(1200円+税)
2008年8月刊



2007年9月22日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


辻井喬・上野千鶴子著
『ポスト消費社会のゆくえ』

 堤清二のメタ自己=辻井喬と社会学者上野千鶴子との対談。政治、経営、文化事業、文学、詩歌、・・。様々な世界での実体験を語る辻井喬、つっこみ役の上野千鶴子。上野「現代詩は伝統的詩型という対抗軸があったからこそ、その緊張の中から生まれた」辻井「今や対抗軸さえあやしくなっている」。各論をもっと深く聞きたくなる本である。

本の画象

文春新書(945円(税込み))
2008年5月刊
野本寛一著
『生態と民俗』
―人と動植物の相渉譜

  著者は「相渉」を「共生、共存、葛藤、対立などを総て包みこみ、ごくゆるやかでほのかな親和関係から激しい対立関係までを包摂する語」とする。動植物にまつわる様々な土地の伝承と人々との相渉、詠まれた歌などを考える。茂吉の「死にたまふ母」ではなぜ「玄鳥」でなければならないのか。様々な動植物についての考察は時々再読したくなる。

本の画象

講談社学術文庫(1313円(税込み))
2008年5月刊


武馬久仁裕の推す2冊


古川 薫著
『斜陽に立つ』

 私は、この本を、余りにナイーブな心を持った人間が、数々のトラウマを放逐しようと、放蕩生活に溺れ、ドイツ留学から戻ると、その放蕩に代えて、「乃木式」と言われ他から疎まれるほどの謹厳実直な生き様を貫き、最後は明治天皇に殉ずることによって、トラウマから救われる物語として読んだ。そして、戦勝の地に臨んで哀愁の中に「金州城外斜陽に立つ」と詠じる乃木希典に深い敬意を示した郭沫若のことを、思い出したのである。

本の画象

毎日新聞社(定価1785円)
2008年5月刊
佐野眞一著
『甘粕正彦 乱心の曠野』

 乃木大将が嫌いだという甘粕正彦もトラウマを内に秘めた人間だった。トラウマとは、彼が首謀者とされる関東大震災時の大杉栄一家惨殺事件である。このトラウマと格闘する、新京中の名妓を動員しての甘粕の狂乱の一人宴会の光景は凄まじい。結局、大アジア主義者として満州に現われた彼は、その破綻を「大ばくち 身ぐるみぬいで すってんてん」という辞世の句で締めくくり、服毒自殺して果てた。一読に値する54年の生涯である。

本の画象

新潮社(定価1995円)
2008年5月刊



2007年9月15日号 (e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


池田澄子著
『あさがや草紙』

 「おそらく一生に一度の、表現行為とは全く掛け離れた個人的な生活の記録」が書かれている。育ての父への感謝。じゃんけんで負けるように、理不尽に、小学校中学年で産婦人科医だった父が戦病死。「根っからは愉しめなかった」少女は、今、自らが作る未知の句との出会いを楽しんでいる。根っから。澄んだ目で見、推敲を重ねた随筆は、俳句同様、論旨が明確で爽やか。『俳句』連載を再構成。

本の画象

角川学芸出版(1714円+税)
2008年8月刊
小川洋子著
『科学の扉をノックする』

  素数やコビトカバなど珍しいものを小説に登場させた小川洋子の最新科学探訪記。「理屈や常識を飛び越える感受性」が取材された七人の科学者に共通。漫才を聞いて笑うと血糖値が下がる研究やパンダが竹を掴むときの第七の指、副手根骨の発見など。宇宙・鉱物・DNA・スプリング8・粘菌・遺体科学・筋肉、各一ページの図版が簡潔で美しく、見飽きない。

本の画象

集英社(1400円+税)
2008年4月刊


小林幸夫の推す2冊


中沢新一著
『古代から来た未来人』
折口信夫

 NHKで2006年に放映された『わたしのこだわり人物伝』を新書化したもの。見逃したので読んでみた。たいへんわかりやすい。いわゆる折口の「古代学」というものが、どのようにして生まれてきたのか。折口の思想の核心はどこに求められるのか。「芸能の精神」を論じて、そこに迫ろうとするのもおもしろい。折口と歌との関わりに興味を持つ人には、少し物足りないかも知れない。

本の画象

ちくまプリマー新書(700円+税)
2008年5月刊
五来重著
『山の宗教
―修験道案内―

 私たち日本人にとって、身近ではあっても、その内実はよくわからない「修験道」とは何か、という問いに、たいへんわかりやすく答えてくれる好書である。熊野や羽黒、あるいは立山などの修験の山を例にあげて、古代からの「山の宗教」について論じられる。日本人は、なぜ霊山を信仰の対象として崇めつづけてきたか。日本人の原点にある宗教観に迫ろうとするのである。われわれが恐れてきた「鬼」の信仰も、修験道と深く結びついて生まれてきた。私たちの身近にある山を、改めて考えなおす機会になるのではないか。

本の画象

角川ソフィア文庫(819円+税)
2008年6月刊



2008年9月7日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


坪内稔典・東英幸編
『山頭火百句』

 創風社出版の文庫判百句シリーズの最新刊。今回の特色は50人の執筆者が山頭火の2句を鑑賞し、自分の山頭火への思いや体験を「私と山頭火」と題して書いていること。つまり、句の鑑賞に添えて50のミニ山頭火論が集められているのだ。たとえば中原幸子の「私と山頭火」の結びは「山頭火を好きには、まだならない。」

本の画象

創風社出版(800円+税)
2008年7月刊
木村輝子歌集
『海の話』

 「思ひ切り食ひたいなあとくやしがり君の読みゐる『仰臥漫録』」「餡パンのへそのごまなどまづ食べて半分くれるが習ひなりしが」。こうした歌の主人公は癌で死去した夫。著者は歌誌「塔」に所属、この歌集は第3歌集である。「船団」において俳句も作っている。もう1首引こう。「ひいやりと苔のみどりが濡れてゐたふり向くときにゐないのはだれ」。

本の画象

短歌研究社(3150円)
2008年7月刊


大角真代の推す2冊


塚本邦雄著
『百句燦燦』
現代俳諧頌

 短歌の鬼才が愛する俳句百句を愛燦燦と論じる。知らない俳句に出会えた喜びと、論を読んで読みが深くなってゆく楽しさと。たった十七音にここまで論じることができる塚本が凄いのか、句が凄いのか、まるでわかりませんが、解説の橋本が言うようにまるで短編小説のようで、つい何度も読み返してしまう。


本の画象

講談社(1300円+税)
2008年6月刊
くるねこ大和著
『くるねこ 2』

 酒とケモノを愛する名古屋のおばさんのブログの書籍化2冊目。個性あふれる猫の描写に癒される、猫愛がぎっしり詰まった漫画。なんてことない日常もおばさんにかかれば、何て幸せな時間なのだと思う。ブログは現在も更新中なので「くるねこ」で検索してみてください。

本の画象

エンターブレイン(1000円+税)
2008年6月刊



2008年9月1日号(e船団書評委員会)

宮嵜 亀の推す2冊


池田澄子著
『休むに似たり』

 先生ありがとうございました冬日ひとつ(澄子)
 師の三橋敏雄論にはじまる俳論集。俳句駆出し者としては、鑑賞の仕方から作句の心までついテキストのような気持ちで読んでしまった。口語と文語の使い分けについて、どちらかでなければならない時があると言われてすっきりした。書名は本書総括、著者そのままにおしゃれで洒脱。


本の画象

ふらんす堂(2286円+税)
2008年7月刊
斉藤 潤著
『吐噶喇列島』
 絶海の島々の豊かな暮らし

 トカラ列島と読む。屋久島と奄美大島の間に連なる島々。学生時代にトカラ行を企て、諸々の問題で断念して、ン10年。この書でカタルシスを味わった。そして行きたいような、行ってはいけないような気持ち。トカラが発展して欲しいような、今のままであって欲しいような。トカラは永遠。

鰡飛びぬ明日の友に出会えるか  亀

本の画象

光文社新書(860円+税)
2008年8月刊

葉月ひさ子の推す2冊


野本一平著
『八島太郎』
―日米のはざまに生きた画家―

 画家八島太郎の絵本『からすたろう』は『Crow Boy』としてアメリカの子供にも愛読されている名作。八島は1995年85歳で亡くなったが、ロスアンゼルス日系人の自由律俳句会の縁で八島と親しく付き合ったのが著者、野本氏。「明治の人、異国アメリカで客死」とあえて記し、レクイエムとして波乱の生涯を追った評伝は敬意に満ちていて胸を突く。八島の俳句「描け描けけふは描くかとハイヴィスカスが咲く」

本の画象

創風社(1700円+税)
2008年3月刊
有吉玉青著
『風の牧場』

 著者は、急逝した母・有吉佐和子との日々を綴った『身がわり』で坪田譲治文学賞を受賞した人。『風の牧場』は6つの短篇連作がつかず離れず独立して、主人公「美名子」の成長過程が脱皮のように節目をなしている。一種「父恋いもの」の喪失感がテーマとして流れているが、つくづくとしみ込むようなやわらかさを覚えるのは、生きることへの肯定と受容の精神がスタンスだからだろう。

本の画象

講談社(1600円+税)
2008年4月刊



2008年8月25日号(e船団書評委員会)

朝倉 晴美の推す2冊


宇多喜代子著
『女性俳句の光と影』

 「苺ジャム男子はこれを食ふ可(べか)らず 竹下しづの女」。彼女に限らず、現在以上に積極的に俳句を作り続けた女性がたくさんいることを思い知った。身辺の事情は今よりとても厳しいのだが、それを感じさせない、それを跳ね返す、感情みなぎる句ばかりだ。伸びやかささえある。先人の豊かさに学ぶべきことを見つけた!

本の画象

日本放送出版協会(1300円+税)
2008年7月刊
2008年秋季号
「文藝」

 長野まゆみ特集。二十年前、小説『少年アリス』で鮮烈なデビュー。その後も続々と書き続けた40代だ。私もまた、彼女独特の文体、仮名遣い、少年世界に魅了される一人。現存の作家をリアルタイムで追うことの楽しみを感じた。特集には少々グラビア的な部分もあるが、創作過程を探るには有効。

本の画象

河出書房新社(定価1000円)
2008年7月刊


赤石 忍の推す2冊


川村たかし著
『風の声 土のうた』

 「児童文学は太陽の方向を向いていなければならない」とは筆者の口癖。それはまた「辛苦に出会った時、凭(もた)れかけることができる揺り椅子のような存在でなければならない」と酒席で幾度となく聞いた。明治の初期、奈良県十津川郷の山津波を機に移住し、北海道新十津川町を開いた人々の姿を延々と記した十巻にもわたる『新十津川物語』を読んだ時、その意味を体で感じたことを覚えている。本書は著者久々のエッセー集。あなたにとって凭れかけられる文学とは?。

本の画象

道友社(本体1400円+税)
2008年7月刊
酒井シヅ著
『病が語る日本史』

 日本武尊は脚気で亡くなったらしい。藤原道長一族は糖尿病の家系と書くと覗き見的だが、骨や肉片、内臓の残滓物や糞尿の土化した物などから、古代の人々が犯されていた病が分かってきたり、文献を丁寧に解読することにより、中世・近世の人間たちの死因が特定できるようになったと言う。祈りや恐れや差別など、一読すると人類の文化史は病との闘いに他ならないことがよく分かるが、その克服とともに新たな病を作り出しているとの警鐘も鳴らしている。

本の画象

講談社学術文庫(本体1050円+税)
2008年8月刊



2008年8月18日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊


石 寒太著
『命の一句』

 後書きに「俳句は究極のところ生と死を詠むことである」と、大上段に振りかぶってはいるが、写真と俳句のこのコラボに重苦しさはない。俳優など異色の人の句も取り上げている。
 結婚は夢の続きやひな祭り 夏目雅子

本の画象

徳間書店(1300円+税)
2008年7月刊
武田邦彦著
村上春樹訳
『偽善エコロジー』

 レジ袋の廃止は「ただのエゴ」、ダイオキシンは人間には無害、と科学的根拠をあげて最近のエコロジーブームを切る。小気味がよいだけでなく、世の中の右へ習えの風潮に警鐘を鳴らす意味で、貴重な視点を提供している。

本の画象

幻冬舎新書(740円+税)
2008年5月刊


桑原汽白の推す2冊


清水哲男編
『俳句界』2008年8月号

 東京と生死をちかふ盛夏かな  しづ子
 大阪へ五時間でつく晩夏かな  しづ子

 夏休みをはさんで、ガラッと変るということも。日本橋(穢土)から京(浄土)へ、ふりだしへ。ムーンライトながら(夜行)で帰ろう。

本の画象

文學の森(857円+税)
2008年8月
越水利江子著
『風のラブソング(完全版)』

 シェー、東京オリンピック、東京大空襲、関東大震災、明治維新、徳川家康、平将門、大洪水、日本武尊、富士山大噴火、ナウマン象・・・
 「みきちゃん」で泣いた。子供の話。東福寺の山、四の辻、東山、ソギポ、京阪電車のへん。

本の画象

講談社 青い鳥文庫(580円+税)
2008年5月刊



2008年8月11日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


佐藤文香句集
『海藻標本』

 俳句甲子園で最優秀賞を得た、佐藤文香の第一句集。若々しさと成熟さがうまく調合された句が多く、その感性に圧倒される。季語とその背景にある世界の微妙なずらしが巧みであるというのが全体的な印象。久しぶりに付箋をたくさん付けた

本の画象

ふらんす堂(2000円+税)
2008年6月刊
白石良夫著
『かなづかい入門』

 俳句の世界では度々話題となる、かなづかいの問題。タイトルに「入門」とあるが、内容は一般的な入門のレベルではない。仮名遣いがあくまで規範であるという考えに共感できた。「俳句は歴史的仮名遣いでなければ」という症状の人は必読の一冊です。

本の画象

平凡社新書(740円+税)
2008年6月


三好万美の推す2冊


浅沼 璞著
新書で入門
『西鶴という鬼才』

 多くの文献をもとに西鶴の多才な魅力を紹介している一冊。俳人にして経済小説家、遊郭・芝居町舞台の小説も他にも、ホラー、推理小説に近い作品もあると知り、一作読んでみたくなる。引用されている西鶴の句に逐一付いている口語訳のような解説は、句の意味を明確にするためのものだと思うが、俳人から見ればやや蛇足。

本の画象

新潮新書(680円+税)
2008年5月刊

「yom yom(ヨムヨム)」vol 7

 表紙のパンダのイラストに惹かれていつも手に取るエッセイ・短編集の文芸誌。表紙見開きの川上未映子(芥川賞作家)のエッセイが楽しい。小説が面白い作家は、そのエッセイも面白い。ここにある森見登美彦や川上弘美を読んであらためてそう思った。

本の画象

新潮社(税込み680円)
2008年6月刊



2007年8月4日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


エドワード・W・サイード著
『文化と抵抗』

 距離を置いた概論的な内容を想像してしまう。しかし、ここで書かれてあることは、絶望的なパレスチナ問題の状況から語られる「文化・芸術の抵抗性への信頼と希望」である。「最良の聞き手」バーサミアンによるインタビュー集。サイードは白血病で入退院を繰り返し、最後のインタビューは死の七ヶ月前、イラク戦争の直前であった。

本の画象

ちくま文庫(1300円+税)
2008年3月刊
I.A.リチャーズ著/坂本公延訳
『実践批評』

  桑原武夫「第二芸術−現代俳句について」のヒントになった著書。この本が本邦初の翻訳であることにまず驚かされる。もともと1929年の著書。学生のレポートの丁寧な分析がそのまま研究につながっている。この本の読後、改めて「第二芸術」を読むと、・・・。この本の全体を読み通した人は、これまで桑原氏を含めてどれだけいたのか?

本の画象

みすず書房(3500円+税)
2008年3月刊


武馬久仁裕の推す2冊


大岡 信著
『詩人・菅原道真』
―うつしの美学―

 本書を読み、道真が、古代律令制国家の人民に対する非情さを詠う「寒早十首」のような風諭詩だけでなく、政治的世界を離れた高潔な士として悠々自適な生活楽しむ「春日独遊」のような隠者詩をも、自分のものにしていたことに気づきました。それは「春日独遊その三」の「たまたま多情(情操豊か)の釣を垂る叟に遇ふ」という一節に出会ったためです。「釣を垂る叟」とは、詩の世界では隠者の友に他ならないからです。楽しい発見でした。

本の画象

岩波現代文庫(定価945円)
2008年6月刊
水野直樹著
『創氏改名』
―日本の朝鮮支配の中で

 創氏改名の本質は、朝鮮にはなかった家の名(氏)を創ることである。朝鮮総督府は、同じ名字(氏)を持った家族からなる家を、社会の基礎単位としようとしたのである。では、社会の基礎単位をなしていたのは何か。それは男系の擬制血縁集団=宗族であった。宗族のような天皇家(名字を持たない!)を個々の家が宗家と仰ぐ大日本帝国に、朝鮮人を包摂するには、朝鮮の宗族は邪魔であったのだ。朝鮮総督府=支配者の慧眼恐るべし。

本の画象

岩波新書(定価819円)
2008年3月



2007年7月27日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


荒井 魏著
『良寛の四季』

 暑い。何もしたくない。「天上大風」。良寛さんも何もしないだろう。晩年の詩「少年 父を捨てて他国に走り 辛苦 虎を画いて 猫にもならず・・・」から、父への挑戦が出奔、出家の理由という。反発しながらも俳人であった父の短冊を大切にしていたという逸話など、度量の大きな良寛像を穏やかな筆致で描く。心が休まる。

本の画象

岩波現代文庫(900円+税)
2008年5月刊
キム・ジウ著/藤田陽平ノベライズ
『魔王』(上・下)

  「世間があなたに不当だったからといって自らを捨ててはなりません」と少年に伝えることの難しさと大切さを静かに語る韓国ドラマのノベライズ本。いじめを注意したため同級生に殺された17歳。12年後人生をやり直そうとしている刑事(元殺人者)と復讐する弟との対峙。刑事と弟を信じるヒロイン=グレートヒェンが爽やか。

本の画象 本の画象

双葉文庫(上・下とも648円+税)
2008年7月刊


小林幸夫の推す2冊


松浦寿輝訳
『折口信夫論』

 折口の文章は苦手だ。どう説明していいのか、難しいが。すっと心に入ってこない。胸に届かない。少なくとも、わたしにはそういう存在である。ところが松浦さんは、折口みたいな文章が書けたら、と夢見てきたという。この心の機微は、そう単純ではない。かなり複雑なのだ。その機微が、尋ねられていくのだ。だからそう読みやすい本ではない。冒頭はあの、「死者の書」から始まる。「T音の訪(おとなひ)」「U喪の裳(ものも)」などの章題からでもわかるように、「死」が、「死者」が論じられ、言葉を紡ぎ出す折口が語られる。

本の画象

ちくま学芸文庫(1100円+税)
2008年6月刊
矢野憲一著
『伊勢神宮の衣食住』

 かつて神宮禰宜として仕えた人の伊勢神宮の記録である。平成四年、遷宮を前にして本書は書かれたのだが、やがて二十年、またすぐに遷宮の年がめぐってくる。伊勢大神に仕える人々の日々の営みが記されるが、「衣食住」といっても、人間のそれではなく、伊勢大神の「衣食住」の記録でもある。内宮、外宮の神も、それぞれに食事を召し上がり、衣を繕い、そして住まいは整えられる。人間と同じなのだ。しかし、この「衣食住」は、神をもてなす祭として、年ごとに営まれ、うけつがれていく。この営みは伊勢神宮の信仰の歴史でもある。神の祀りが、神道の歴史といった肩苦しいものではなく、もっと身近に感じられるだろう。

本の画象

角川ソフィア文庫(705円+税)
2008年4月刊



2008年7月21日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


日高堯子歌集
『睡蓮記』

 この著者、私にとっては同人誌「鱧と水仙」の仲間だが、その歌と歌論を最も信頼して読んでいる。歌集には親の死をめぐる歌が多く、死と生をめぐる思いがあたかも睡蓮のように結晶している。桃の歌を引こう。「熟年の汗さんさんとながしつつ泉のやうな桃を食べをり」「ふくふくと桃がならびぬ をとめからおうなまでたつた百年の夢」。

本の画象

短歌研究社(3150円)
2008年5月刊
佐高 信著
『抵抗人名録』
私が選んだ77人

 著者が共感する77人の抵抗の強さ、美しさをスケッチしている。たとえば岡部伊都子。「どこで死んでもいいやん。行けるところまで行きます」という岡部の言葉に「ウーンと唸るしかない」と反応する著者は、「揺れる焔をもつ花あかりであっても、その芯は揺れてはならない」と断じる。揺れるのが人生だが、芯は揺れない。それが佐高の「抵抗」の姿勢だ。

本の画象

金曜日(1400円+税)
2008年7月刊


桑原汽白の推す2冊


清水哲男編
「俳句界」 2008年6月号

 真珠とか、旦暮とか、彼は言った。それはそうと、スペシャル企画「五月五日五時の句」、星野早苗ドクター、阿部知代アナ、岡野泰輔ドクター、それから、お顔も、話したことも・・・
 新聞を折ることもなく端午の夕  知代


本の画象

文學の森(857円+税)
2008年6月刊
手塚治虫原作・大林憲司文
『小説 火の鳥【鳳凰編】』

 大仏、猿沢の池、行った。「黎明編」「ヤマト編」をとばし、この「鳳凰編」から。前編、そして、続編も読みたい。(少し身につまされた)
 大仏の造営がすすめられていた。サルタヒコ、我王、(どうしても鼻が気になる)。そして、仏師、茜丸は・・・

本の画象

ポプラ社(1300円+税)
2008年3月刊



2008年7月14日号(e船団書評委員会)

宮嵜 亀の推す2冊


鳥居真里子著
『月の茗荷』

 幽霊に白紙一枚もらひけり(真里子)
 掲句、生まれた時?死ぬ時?こわい。あとがきに、句集名は母上についての記憶に基 づくという。「人間だけに与えられた想像力の可能性を思えば、17音の詩は永遠」と ある所以であろう。こわいことはおかしいことに似ている、と看破される著者の句群 は硬軟とりまぜ多彩で目くるめく。  


本の画象

角川学芸出版(2667円+税)
2008年3月刊
ポール・デイヴィス著/吉田三知世訳
『幸運な宇宙』

 帯に「どのようにこの宇宙がうまいこと成り立ったか」。ヒトは物理的宇宙の必然 か。ヒトは宇宙を説明できるか。挿話(スーパータートル!など)、古代の自然哲学 (現学説とよく符合している!)などおりまぜて、宇宙の成り立ちがもちろん物理法 則と現在の学説に沿って語られる。生命のあやうさ。

水馬は鏡が好きで大空へ   亀

本の画象

日経BP社(2400円+税)
2008年2月刊

葉月ひさ子の推す2冊


尾崎左永子著
「『鎌倉百人一首』を歩く」

 「鎌倉」を詠んだ古今の文人、著名人百人の歌を選定したのは鎌倉ペンクラブ。そのうち50首の歌にエッセイ風の解説を著したのは歌人の尾崎左永子氏。章立ての「海際の光景」や「寺」等に分類した歌群と写真は「鎌倉」の光と陰を映し出している。全首一覧では古典38首、近現代からの62首を年代順に追うことができ、故人であるという「選定基準」で、最も新しい歌は2004年に亡くなった島田修二氏の一首。

本の画象

集英社新書ヴィジュアル版(1000円+税)
2008年5月刊
スーザン・E・クインラン著/藤田千枝訳
『サルが木から落ちる』

 著者は中央・南アメリカの熱帯林の探検に多く加わっている野生動物学者。副題が「熱帯林の生態学」で、生物学者仲間から得た12話はいずれも根気の要る野外調査によるものだ。「サルが木から落ちる」はグランダー夫妻がサルの食生活の研究中に遭遇した、2週間に7匹のサルが木から落ちて死ぬという事件による。一応の結論を導くまでに、2000時間の樹上のサルを観察したという。

本の画象

さ・え・ら書房(1500円+税)
2008年4月刊



2008年7月7日号(e船団書評委員会)

朝倉 晴美の推す2冊


『鑑賞 女性俳句の世界』
第6巻―華やかな群像

 女性俳人のセレクションはもちろん、それぞれの執筆担当者のラインナップが良い。筑紫磐井、仁平勝、小澤実に神野紗希まで。船団からは坪内稔典、塩見恵介。作品を取り上げながらの評論、ますます各俳人たちの世界のとりこになってしまった。執筆者による、それぞれの百句選も魅力。

本の画象

角川学芸出版(2800円)
2008年6月刊
アンケ・ベルナウ著/夏目幸子訳
『処女の文化史』

 ギョッとしないでいただきたい、アカデミックな一冊。欧米の処女性は、いかに歴史と文化に密接であり、そして戦ってきたかということ。また、今、アメリカは禁欲教育を進める。エイズと若年齢未婚出産の歯止めのために。政治にも手段として扱われる「処女」。私たち日本女性も、見つめ直したい時がきている。

本の画象

新潮選書(1470円)
2008年6月刊


赤石 忍の推す2冊


あきびんご著
『したのどうぶつえん』

 上野動物園の下には「したのどうぶつえん」があり、そこには林檎の顔をしたゴリラ「りんごりら」やバナナの体をした河馬「かばばな」など、おかしな動物たちがたくさん、というナンセンスな言葉絵本。抽象的な日本画を本職とする著者に対して画壇の重鎮野見山曉治氏は次のような暖かな解説を贈っている。「ふざけているのか大真面目なのか、まだ成長してないのか未熟のままかは分からないが、下野に迷い込んだきりながらもう出てはこれないだろう」

本の画象

くもん出版(本体1200円+税)
2008年6月刊
窪島誠一郎著
『かいかい日記』
「乾癬」と「無言館」と「私」

 乾癬はいかに難病が、この本を読んでわかった。不潔が発症の元であるとか感染するのではとか、誤解の中で患者は周囲からも苦しめられている。と言って本書は単なる病状記ではない。若い戦没画家たちの習作を展示する小さな美術館「無言館」を主宰する中で、恒久平和のシンボルとして象徴化されていく姿と自分のアイディンティティーとの乖離と自己肯定を、症状の悪化、良化と重ね合わせて書かれている。ちなみに著者は乳児期に生き別れした故水上勉氏のご子息である。

本の画象

平凡社(1800円+税)
2008年4月刊




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