俳句 e船団 ブックレビュー
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2009年6月29日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


安野光雅・半藤一利著
『三国志談義』

 少年時代から三国志に親しんできた2人が、三国志文化とでも言うべきものを開陳した本。何よりも余談(どうでもいい話)が楽しい。たとえば楊貴妃はワキガで、そのために華清池でいつも温泉に入っていたとかいう類の話。安野は1926年、半藤は1930年の生まれだが、こんなに楽しくしゃべる老人になれたらいいな。しかもその話は国境などを軽くこえている。

本の画象

平凡社(1400円+税)
2009年6月刊
井波律子著
『中国の五大小説』(上)(下)

 三国志演義、西遊記、水滸伝、金瓶梅、紅楼夢の魅力を、それぞれのストーリーに即して解説した本。町角の語り(講釈)が小説へと展開する中国の物語史が解き明かされてもいる。著者は私と同年。このところ、この人の著作を楽しんでいる。わが60代はこの人や、やはり中国文学者の一海知義の著作によって潤っている。ともあれ、お勧めの上下2冊だ。

本の画象  本の画象

岩波新書(上:860円+税、下:900円+税)
(上)2008年4月刊、(下)2009年3月刊


桑原汽白の推す2冊


高遠朱音句集
『ナイトフライヤー』

日雷毛穴がひとつびっくりする  朱音

カミナリ様も、イボ神様も、おじさんも、くりくり。

「空が高いねぇ」さくらんぼ吐息  朱音

キンカンぬって・・・ ふ〜す〜す〜♪  

本の画象

ふらんす堂(2190円+税)
2009年3月刊
五月女ケイ子著
五月女ケイ子の
『乙女のテレビ時間』

「すれ違った深津絵里もいい匂いがしました。」
ん〜。未華子っぽい、くるぶしに見とれていた。
「“アンモニア臭い”というのが特徴でした。」
ん〜。ジュール・ベルヌ度および八十八度アップ。
「入浴シーンはなかったです。」
ん〜。へもぐろび〜ん。
「すーっと意識が遠のいて眠りにおちました。」

本の画象

メディアファクトリー(952円+税)
2009年4月刊



2009年6月22日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


稲畑汀子著
『定本虚子百句』

 高浜虚子は年譜に17歳から俳句を始めたと記されているから、85歳で没するまでの句数は厖大なものだろう。その中の100句に1800字の解説をつけて定本としたまさしく凝縮版、読み進めていると俳句の短さがあらためて際立つ。「羽子つこか手毬つこかともてなしぬ」では、親族ならではの語り草のような事実も描写されていて、虚子への敬愛の情が伝わってくる。

本の画象

角川SSコミュニケーションズ(2500円+税)
2009年3月刊
風丸良彦著
『村上春樹<訳>短篇再読』

  日本での「現代アメリカ文学」の紹介は、戦後のサリンジャーあたりで止まっていたという。その前後のアメリカ文学を村上春樹が多く翻訳しているから、実績を「大学の文学講義」として「再読」試みた本。引用された翻訳文を読んだ限りではわけがわからない、がしかし、止まっていなかったアメリカ文化の雰囲気を「証拠」として味わうことができる一冊。

本の画象

みすず書房(2600円+税)
2009年3月刊


田中俊弥の推す2冊


メアリー・ポープ・オズボーン著
食野(めしの)雅子訳

マジック・ツリーハウス25
『巨大ダコと海の神秘』

 訳本でシリーズ第1冊が2002年3月に発行され、翌年3月には6刷。なかなかのベストセラーで、子どもから大人まで楽しめる軽快な冒険ファンタジー。ツリーハウスで主人公の兄妹が往還する旅先には、時に芭蕉、プラトン、ダビンチなどが登場。ヒューマンで知的な「愛」の活劇であり、情感豊かな自然描写も美しい。

本の画象

メディアファクトリー(定価819円)
2009年2月刊
マイケル・W・アップル/ジェフ・ウィッティ/長尾彰夫編著
『批判的教育学と
公教育の再生』


 副題は、「格差を広げる新自由主義改革を問い直す」。グローバルに進行・浸透している公教育改革の現実に焦点をあてた、硬派の論客たちによる警世の一書。ごつごつとしていて歯ごたえのありすぎるホットな本であるが、堅い絆と親愛の情で結ばれた三人ならではの明確なコンセプトに貫かれた記念碑的な一冊である。

本の画象

明石書店(定価3360円)
2009年5月刊



2009年6月15日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


田中和男編
詞華集
『生きていてほしいんです』
―戦争と平和

 生きていてほしいんです/兵士は/生きていてほしいんです/兵士の靴が知らずに踏みつけた蟻も(中略)誰が誰の敵なのですか/私たちはみな不死ではないのに/生きていてほしいんです この谷川俊太郎氏書き下ろしを含む反戦詞華集。やっぱり戦争はだめだ。正義であるはずがない。死ぬのは他人ではないのだ。

本の画象

童話(1250円+税)
2009年4月刊
金田一春彦著
『日本語は京の秋空』

 『平家物語』より「よっぴいて(矢を)ひょうと放つ」「顔をむずむずと踏む(グリグリと踏んづける)」「しゃつ(そいつ)」などは、当時斬新でセンセーショナルな流行り言葉だったそうだ。春彦先生は、言葉は変わっていくものでその流れは止められない、と。また、一人っ子であられるから、『冬彦さん』ブームの時20代でなくて良かったというユーモアもナイス!

本の画象

小池書院(定価1200円)
2009年6月刊


赤石 忍の推す2冊


佐藤和歌子著
『角川春樹句会手帖』

 絶対王政句会の一部始終。常連弟子である文芸評論家福田和也とその教え子『間取りの手帖』の佐藤和歌子、そしてそのつど加わるゲストたちが事前に二十句を提出し、それを唯我独尊的主宰である角川春樹が罵詈雑言・独善断行の批評と添削を行っていく。反論に「お前は黙ってろ!」と一喝され「理不尽だなあ」と呟く北方謙三。「とにかく句については初心者として受け止めました」と断じられたねじめ正一。そのやりとりに無関係な読者としては久々に腹をかかえた一冊だ。しかし言い換えればこれほど懇切丁寧な主宰もいないかもしれない。その具体的な指摘に「なるほどなあ」と思うところもある。添削される人間たちはさぞかし大変だろうけれど。

本の画象

扶桑社(本体1600円+税)
2009年4月刊
鹿島 茂著
『吉本隆明1968』

 「よくわかる」「かんたんに」という冠をつけて経済分析や先端科学等、一般的に難しいと思われるジャンルを噛み砕いて説明する新書や並製本が面陳されている。もちろん付け焼刃ものもあるが、なかなかの力作に出会うことも少なくない。私にとっての近刊ベストスリーは『超訳資本論』(全三冊/祥伝社新書)、『アダム・スミスー道徳感情論と国富論』(中公新書)と、そして本書。共通しているのは鮮明でかつ「深い」ところ。作者の主旨を適切に咀嚼し、自分の言葉で説明しているからだろうか。本書は団塊世代の文芸評論家、鹿島茂の私的隆明論だが、これほど軸をぶらさず判りやすかったものはない。もう一度、難解な原書に挑戦・再読しようという気持ちにさえなった。

本の画象

平凡社新書(本体960円+税)
2009年5月刊



2009年6月8日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊


ふけとしこ句集
『インコに肩を』
俳句短歌の招待席

 素敵な題名の句集。予感通り、「声とどくあたりに鹿の濡れてゐる」など、正確なデッサンに支えられた透明感が句集を貫いている。鳥も、花も、虫も草も、自然という「もの」が、人との距離感において確実に捉えられている。言葉に対する謙虚さが作者の生きる姿勢に重なっているようだ。

本の画象

本阿弥書店(2900円+税)
2009年5月刊
石井光太著
『絶対貧困』 
世界最貧民の目線

  世界各国の貧困地域を訪れて、そこに住む路上生活者や売春婦などと生活を共にしてきた筆者の「リアル貧困学講義」。やや品下がるところもあるが、貧困の絶対的な現実には圧倒される。写真も「お涙頂戴」の図式を通り抜けている。

本の画象

光文社(1500円+税)
2009年3月刊


大角真代の推す2冊


俵 万智著
『花咲くうた』

 素敵な現代短歌と俵万智の鑑賞がよく合い心地よい。共感しやすく、わかりやすい短歌が選んであるので、とても面白かった。
 なまぬるきポカリスエット砂浜に撒きつつ唄う「月が昇るよ」  入谷いずみ

などがお気に入り。

本の画象

中公文庫(533円+税)
2009年3月刊
向井万起男著
『謎の1セント硬貨』
真実は細部に宿るin USA

 アメリカで感じた疑問を調べるといった構成だが、著者のあらゆるものへの興味のためか飽きない。アメリカではバラ売りよりパック売りの方が1個あたりの単価が高いのは何故か、の話が好き。妻は宇宙飛行士向井千秋。アメリカ観が少し変わったかも。

本の画象

講談社(1300円+税)
2009年2月刊



2009年6月1日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


河出書房新社編
「文藝」夏 特集・穂村弘
第48巻第2号

 歌人の穂村弘が特集されている。谷川俊太郎、角田光代との対談が愉しい。これを読んで、『短歌の友人』を読み返した。新しい短歌を考えていると、新しい俳句って何だろう、と素直に思う。

本の画象

河出書房新社(1000円)
2009年4月刊
ブルータス編集部編
「BRUTUS」4月15日号

 仏像特集。この手の特集の中で一番POP で面白い。圧巻は、中綴じの「ブツゾウJAPAN」と題されたカード。いつかは参拝したい32のブツゾウが、アイドルかヒーローのブロマイドのように仕立てられている。仏像ブームとはいえ、古いものに新しい光を当てる手法は秀逸。おもしろいです。

本の画象

マガジンハウス(630円)
2009年4月15日


三好万美の推す2冊


河野けいこ句集
『ランナー』

 もののとらえ方、風景の見方が個性的で、人とは違う見方をしてみたいという、作者のいきいきした好奇心が感じられる句集。河野さんの句はきっぱりと明るくて小気味よく、それでいて、時に少しロマンチックである。殊に「父」を読んだ句が印象的。作者の「父」に寄せる思いの深さや、「父」との程よい距離感を思った。

本の画象

創風社(1200円+税)
2009年4月刊
NHK全国学校音楽コンクール制作班編
『拝啓 十五の君へ』
アンジェラ・アキと中学生たち

 アンジェラ・アキさんの曲「手紙」が、昨年度のNHK全国学校音楽コンクール中学校の部の課題曲だったことをきっかけに、アンジェラさんと中学生たちの交流が始まった。その様子はドキュメンタリー番組として数回にわたって放送された。「音楽は作曲した人の手を離れ、すべての人のものとなり、大きく大きく飛翔します。(まえがきより)」とあるが、これは俳句についても言えることだろう。

本の画象

ポプラ社(1000円+税)
2009年3月刊



2009年5月25日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


山下一海著
『白の詩人』
―蕪村新論

 「蕪村の前ではできるだけ自由でなければならない。それが蕪村の世界を知るための要件」だ、と著者は言う。蕪村を「白の詩人」と名付け、蕪村の句に表れる「白」に注目し、一句の中だけの白ではなく、厚みを持った「蕪村の白」としての解釈を試みる。蕪村の読み方としてだけではなく、俳句の読み方として面白い。

本の画象

ふらんす堂(2600円+税)
2009年3月刊
池内 紀著
『日本風景論』

  志賀重昂著『日本風景論』(1894年)と同名のタイトル。土地の人の言葉に耳を澄ましつつ歩きながら書かれた文章だが、歴史を辿り、様々な作品からの引用でふくらみを持った風景が描かれる。伊勢に始まり、富士山で終わるこの本は、「裸の大将放浪記」で締めくくられるところに、志賀重昂とは異なった視点がよく表れている。

本の画象

角川選書(1600円+税)
2009年3月刊


武馬久仁裕の推す2冊


安井浩司著
『海辺のアポリア』

 「俳句でない俳句」を求めた一書である。それゆえ、俳句にゼラチン状の「かたくり」をかけ、世界の実相を表現することを妨げているものに対する強烈な批判を展開する。例えば、俳句正史につながる秩序に寄りかかる心は風解すべし、人間的なものに収斂する言語は断ち切るべし、喩ではなく「原肉体性」を持つ言語=肉声をこそ欲すべし等々。「樹木の枝葉や、獏や、野鼠」にこそ愛されることを求める俳句、それが安井浩司の俳句である。

本の画象

邑書林
(定価2500円)
2009年1月刊
辺見 庸著
『しのびよる破局』
―生命体の悲鳴が聞こえるか―

 破局がしのびよりつつあるという。具体的には、私達を支えてきた近代の道義、人倫、信頼、誠実、尊厳、…といった諸価値が存在感を失い、崩壊し、新型インフルエンザといった感染症が爆発的に流行するといった事態の同時進行である。そして、重要なのは、感染症(外部)への対処にも人間の価値観(内面)が深くかかわってくるという指摘である。私達に対し、自らの内面(価値観)を内観し、自省し、思念することが強く求められている。

本の画象

大月書店(定価1365円)
2009年3月刊



2009年5月18日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


谷川雁 他多数著
『谷川雁』
詩人思想家、復活

  「原点」「連帯を求めて孤立を恐れず」、谷川雁の言葉は格好が良すぎて気恥ずかしかった。何十年ぶりかで読む谷川雁の九編の未刊の評論はどれも色あせていなかった。根本を考えさせられる。失業・貧困・年越し派遣村。「心が折れそうになる」世相の今、派手なストライプのシャツと上着、奇抜な格好がよく似合う雁は文章も格好がよい。

本の画象

河出書房新社(1600円+税)
2009年3月刊
鶴見俊輔・上坂冬子著
対論
『異色昭和史』

  風流夢譚事件をどのように収拾したか、など昭和史の裏話を通して、分別、知恵の大切さを鶴見俊輔に語らせる上坂冬子の聞き上手ぶりが際だつ。保守派の論客だった上坂のデビュー作『職場の群像』は鶴見の手による。一号だけ復刊された『朝日ジャーナル』4月30日号の鶴見の論と併せ読むとおもしろい。キーワードはまっとう、大づかみ。

本の画象

PHP新書(760円+税)
2009年5月刊


小林幸夫の推す2冊


宇野直人・江原正士著
『李白』
巨大なる野放図

 二人の対談によって李白の詩が読みすすめられていく。江原さんは私たちと同じような素人の聞き役。宇野さんがその質問に的確にこたえてゆく。従来の李白の評釈にはない形式がうれしい。この漂白の詩人の生涯が、わかりやすくたどられていく。わかりやすい、というのは、中国の詩について無知な読者でも、基礎的なことが説明してあってありがたい。たとえば詩形についてもそうである。だからといってたんなる入門書ではない。新説もちりばめられている。六章の「傑作選―遊仙・女性・酒」から読みはじめるのもよかろう。

本の画象

平凡社(1900円+税)
2009年2月刊
兵藤裕己著
『琵琶法師』
―〈異界〉を語る人びと

 新書としては画期的である。DVDが付いている。肥後の琵琶弾き山鹿良之師の語る「俊徳丸」の演唱が、ほんの一部(映像にして二十分)だが収められている。この語り物の紹介と梗概が巻末にあるのもありがたい。琵琶法師の芸能が実感できる。ラフカディオ・ハーンの「耳なし芳一の話」からはじめて「平家物語」に及ぶのもわかりやすい。琵琶法師が語る平家滅亡の歴史、そこから「モノ語り」とは何か、がつむぎだされていく。従来のテキスト論ではない、琵琶法師の語る芸能としての「物語」の歴史が論じられてたいへんおもしろい。日本の声の文化が明らかになる。

本の画象

岩波新書(本体980円+税)
2009年4月刊



2009年5月11日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


大阪俳句史研究会(わたなべじゅんこ)編
『永田青嵐句集』

 青嵐は1876年生まれ。東京市長、鉄道大臣をつとめた政治家であり、俳句は余技として楽しんだ。この句集には彼の俳句とのかかわりを綴ったエッセー「俳諧懺悔」が収録されているが、自らを下手の横好きの「コロ柿俳人」と呼ぶなど、このエッセーはすこぶる面白い。「風呂を出て二階にのぼる団扇かな」などはまさにコロ柿俳人の典型的な月並句。

本の画象

ふらんす堂(1200円+税)
2009年3月刊
前登志夫著
『羽化堂から』

 歌人の前登志夫は去年の4月5日に死去した。私の机上には死後に出た彼の3冊がある。歌集『大空の干瀬』(角川書店)、エッセー集『林中鳥語』(ながらみ書房)、そして最晩年のエッセーを集めたこの『羽化堂から』。「谷間の朴の花が十数輪咲いている。夕ぐれ、カッコウが啼いた。新緑がにわかに濃くなるようにみえる。」これは「若葉の空き巣」の書き出し。

本の画象

NHK出版(1800円+税)
2009年4月刊


桑原汽白の推す2冊


山村暮鳥詩集
『おうい雲よ
ゆうゆうと 馬鹿に
のんきさうぢやないか』


 前の日のペンションがわるかった。野糞といえば、八ヶ岳を思い出す。はずかしくて、霧の中、はしっこのほうへ行くうちに、蝉のようにガケでした。うーん、うーん、うならなかった・・・。うーん、「野糞先生」。暮鳥を見つけた・・・

本の画象

童話屋(1250円+税)
2009年3月刊
星 新一訳/島田虎之介画
フレドリック・ブラウンコレクション
『闘技場』

 おじさまは十八万歳。地上最後の男、すると、ドアにノックの音が・・・。なんという死。なんてとんまな異星人。「ハヤシもあるでよ」。あやしい奇術師ガーバー大王の瞳、その正体は・・・
 すると、ドアにノックの音が・・・

本の画象

ボクラノSF03 福音館書店(1800円+税)
2009年2月刊



2009年5月4日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


マックミラン・ピーター著
佐々田雅子訳
『英詩訳・百人一首』

 「香りたつやまとごころ」という副題を持つ小倉百人一首の英語訳。新書版の半分にあたる百頁に百首が並ぶ。「日本語版のための序論」では外国語で和歌を読む異文化体験を薦め、「原書版序論」では定家が編集した時代背景と伝統文化に触れている。著者はアイルランド出身で、二十年以上を暮らす日本との文化の類似点を「詩歌が重んじられていること」と述べている。

本の画象

集英社新書(720円+税)
2009年2月刊
菊池信義著
『装幀思案』

  著者は一万数千冊を手がけた装丁家。思案の内容は自身の装丁本のことではなく、書店の平台や棚で魅かれた本の紹介がほとんど。例えば「カバーは艶めいた黒、題や著者名をメタリックの銀で箔押し。帯は銀刷りに文字を白抜き・・」などと表現する一方、『ふふふ』という本であれば、装丁者の含み笑い「ふふふ」も読み取れることを「絶品」と評したりする。

本の画象

角川学芸出版(3000円+税)
2009年3月刊


田中俊弥の推す2冊


復本一郎著
―正岡子規と十人の俳士―
『余は、交際を好む者なり』

 十人の俳士とは、陸羯南、夏目漱石、河東碧梧桐、高浜虚子、古島古洲、佐藤紅緑、中村不折、寒川鼠骨、撫松庵兎裘、三森松江のこと。子規の口吻や息づかい、生身の子規が髣髴としてくる。どの章も、ドラマティックに構成されていて、資料の確かさ、新しさもありがたい。明晰にして熱情の人であった子規の面目躍如の一冊。

本の画象

岩波書店(3100円+税)
2009年3月刊
浜田寿美男著
『子ども学序説』
―変わる子ども、変わらぬ子ども

 子ども学は、子どもが生きている現場、その生活を内在的に問うこと、すなわち人間だれもが「子ども」であったという、その地点から問題を探究する必要がある。近代に成立した学校教育制度が「子どもという自然」「人間の自然」をいかに疎外し、倒錯した現象を惹起しているか、本書は告発的な教育本質論ともなっている。

本の画象

岩波書店(1700円+税)
2009年1月刊



2009年4月27日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


『俳句』編集部編
『高浜虚子の世界』

 虚子先生没後五十年。様々なものが刊行される中、私自身も虚子の俳句とその周辺に感動している。虚子の長い一生には様々な俳句や、文学への執着、葛藤があり、それを人間臭く感じるのだ。一気に身近になった虚子先生。私の俳句も上手くなればよいのにな。ちなみに『虚子百句』(稲畑汀子著、2006年9月刊)と一緒に読むとより楽しいかも。

本の画象

角川学芸出版(1890円)
2009年4月刊
日本経済新聞社編
『日曜日の随想 2008』

 毎日曜日、日経新聞に綴られたエッセイ集。田辺聖子、新川和江、亀山郁夫、赤瀬川源平等々、、、一回きりの三千字の彼らたちの世界であるが、日曜日ごとに私を不思議な世界にいざなってくれた。ものの見方や感じ方が違うということは、呼吸している世界まで違っているということ。心がとてもたっぷりしてきた。

本の画象

日本経済新聞出版社(1700円+税)
2009年4月刊


赤石 忍の推す2冊


春日武彦・穂村 弘著
『人生問題集』

 一人っ子として発想、ヘタレ(アンチ意欲的を意味するのか)として存在、世界のズレの住人等であることをお互いの生き方の原点と認め合う二人の高踏漫才対談集。へんな精神科医春日氏とへんな歌人穂村氏とが「友情、努力、仕事、愛」等、十四の人生にかかわる問題をテーマにして好き勝手に話しているだけ。読んで得をすることは決してないだろうが、少なくとも昨今の断言調の無責任本が多いなか、損をすることはないとは思う。「話が深まった」と本人たちが言うように、「言葉」の項だけでも立ち読みされてみてはいかがでしょうか。

本の画象

角川書店(本体1700円+税)
2009年3月刊
朴漢済編著・吉田光男訳
『中国歴史地図』

 最近、暇さえあればぼっとして眺めている。原本は韓国のサゲチョル出版社刊行であり、隣国中国の歴史を自国とのかかわりを踏まえて、その認識を示したもの。歴史地図とは時間の蓄積を空間的に表現したものであり、いかなる国の歴史であれ、地理的な知識を前提としなければ正確に理解することは難しいとは著者。韓国では日本の歴史書が多く翻訳・紹介されているが、逆に韓国の歴史認識・理解・研究がほとんど知られていないとは訳者。学問的な背景はともあれとして、ただただ見ているだけで楽しく、すんなりと中国の歴史に入り込める。『韓国歴史地図』も出版されていますので、韓流歴史ドラマのお好きな方は併せてどうぞ。

本の画象

平凡社(本体3800円+税)
2009年1月刊



2009年4月20日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊


坪内稔典・永田和宏著
『言葉のゆくえ』
俳句短歌の招待席

 両著者が一つのキーワードを共通テーマに、一句一首をあげてその作品世界を論じる。俳句では「船団」の京都在住の俳人が多く採り上げられている。真面目派永田氏と自由奔放派坪内氏とのコントラストは見物。対談では両氏の俳句観、短歌観が真摯に、かつ縦横に語られている。創作の秘密工場も少しかいま見ることができる。

本の画象

京都新聞社(1400円+税)
2009年3月刊
魚住孝至著
『宮本武蔵
―「兵法の道」を生きる

  巌流島の決闘をはじめとする小説的武蔵像から脱却して、武蔵の実像を丹念にたどる。「五輪書」の「道」の思想が、果たし合いという現実(実戦)から生まれたものであることが納得できる。武道に精通した著者ならではの剣術の呼吸も感じられて新鮮。

本の画象

岩波新書(740円+税)
2008年12月刊


大角真代の推す2冊


『俳句』編集部編
『高柳重信読本』

 船団80号の高柳重信特集が面白かった。重信を知らない私にとって、この本は俳句から評論、俳論まで揃うお得な入門書となった。自らの矜持をかける俳句様式の独創を懸命に心掛けるべき、という重信の言葉が心に刺さる。そんな言葉が随所にある。俳句の本は高すぎますが、この本は間違いなく買いです。

本の画象

角川学芸出版(2000円+税)
2009年3月刊
細野真宏著
『「未納が増えると
年金が破綻する」
って誰が言った?』


 未納者が増えても年金は破綻しない、そうです。本当かな?日々マスコミの情報を取捨選択しないまま受け流しているため、何が正しくて、誤りかわからなくなりました。本質を見抜くために数学的思考が必要、らしいのですが、数学って大嫌いだったなぁ。

本の画象

扶桑社新書(700円+税)
2009年3月刊



2009年4月13日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


 
小西雅子句集
『雀食堂』

 作者の2000年から2007年の句が収められている。個人的には「意気地無しキリンの肩に春の雪」「夜想曲かぶらますます白くなる」など、2004年以降にお気に入りの句が集中している。多くの句に見られる男女の機微ばかりではなく、作者の語感、ことばを選ぶ力に優れたものが感じられる。学ぶところの多い句集。

本の画象

創風社出版(1200円+税)
2009年3月刊
高橋源一郎著
『大人にはわからない
日本文学史』


 小説と短歌の一つの近代史観。とても刺激的。俳句はどうかという問いを立てながら読むと面白い。俳句は短歌とはまるで違う道を歩んでいるのだろうか。現代の小説と俳句はどれほど近いのだろうか。是非お読み下さい。

本の画象

岩波書店(1700円+税)
2009年2月


三好万美の推す2冊


杉山久子著
『猫の句も借りたい』

 長年生活を共にした愛猫の一周忌に寄せて刊行された、愛猫家俳人による猫句集。愛猫の他にも一句一句様々な猫が登場する。猫に対する愛情はもちろん、愛するものを俳句に詠むことができる喜びが伝わってくる。収録句数が108句というところは、作者のユーモア、遊び心だろう。

本の画象

マルコボ・コム(1400円+税)
2008年10月刊
石 寒太著
『宮沢賢治10の予言』

 賢治は現代に起こる問題を百年近く前から予見し、作品の中でメッセージを発していた。と、前書きにある。10の予言それぞれについて、引用文と作品のあらすじ、予言の背景と現代、という構成になっており、賢治についてあまり知識がなくても安心して読める。賢治作品の奥深さが分かる示唆に富んだ1冊。

本の画象

幻冬舎(1000円+税)
2008年10月刊



2009年4月6日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


辰巳正明著
『歌垣』
―恋歌の奇祭をたずねて

 歌垣についてはまだまだわからない部分が多いようだ。中国の事例を参照しながら、歌垣に展開する歌の掛け合いの流れが、『万葉集』の歌を用いて復元され、よく整理されている。『万葉集』の歌は現実そのものではなく、むしろ裏返しの表現なのだ。おおらか、というよりせつない歌垣、せつない『万葉集』というべきか。

本の画象

新典社新書(1000円+税)
2009年1月刊
上垣外憲一著
『富士山』
―聖と美の山

  巌谷小波作詞の文部省唱歌「富士山」が作られた明治二十八年、日本領土内で最も高い山は新高山。では、なぜ「ふじは日本一の山」なのか。この本は、「富士山に関する文化的なものの総覧である」。富士山は歴史の中でどのように見られ、どのように使われて来たのか、政治、宗教、絵画、文学、様々な面から辿られている。

本の画象

中公新書(820円+税)
2009年1月刊


武馬久仁裕の推す2冊


中山美樹句集/絵・霜田あゆ美
『Lovers』

 横書きの句集である。本来横書きは短い俳句にはなじまない。なぜなら、横書きは、一句全体がその構造と共に一遍に眼に入ってしまうからだ。そのために、この句集は一句中の仮名がとても多い。一句を少しでも長くすると同時に読みづらくさせるためだ。例えば「ゆめのよにしろくさいたわこれでいい?」。一途な女の気持ちを、横書きというモダニズムで書くことを楽しんでいる素敵な句集である。そんな句集にプリミティブな絵が良く似合う。

本の画象

発行・豈の会/発売・邑書林
(定価2000円)
2009年3月刊
奥泉 光著
『神器』(上・下)
―軍艦「橿原」殺人事件―

 時は敗戦直前。危機に瀕した天皇制国家の再生をめざす究極の天皇教「皇祖神霊教」に帰依した集団が軍艦「橿原」を支配し、補陀落渡海船化し、神器を載せ、観音が住む補陀落ならぬ太平洋上にあるという高天原をめざす物語である。それは、撃沈された軍艦「橿原」唯一の生存者石目鋭二上水の語る妄想としか言いようのない奇奇怪怪の世界である。しかし、それがそのまま大日本帝国の孕む奇奇怪怪さとなり、思わず恐怖を覚えるのである。

本の画象本の画象

新潮社(定価1890円)
2009年1月刊



2009年3月30日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


今井 聖著
『ライク・ア・ローリングストーン』

  50年生まれの筆者≒「僕」、の愉快な青春回想記だが、わかりやすい加藤楸邨論でもある。楸邨が作句において目指したのは「一回性の対象との出会い。つまり新しい自分との邂逅」という。71年12月、「寒雷」句会での「油の乗り切った」66才の楸邨との邂逅は「生涯最大の幸運」だったとも。尊敬できる先生や仲間を得た幸せが伝染し読後感は爽やか。

本の画象

岩波書店(2100円+税)
2009年1月刊
楠見朋彦著
『塚本邦雄の青春』

  50年刊行の高柳重信の句集『蕗子』を読んだ塚本は、翌年、重信に『水葬物語』刊行を依頼した。120部。31才だった。だが、なぜか、20代とされた。2才のずれ。ともかく『水葬物語』によって歌壇に登場するまでの歌誌投稿時代を丹念にたどった労作。「言語の錬金術師」にも一人称で思いを述べる形の習作時代があった。また、ふるさと近江や母を詠んだ歌は素直でほほえましい。

本の画象

ウェッジ文庫(800円+税)
2009年2月刊


小林幸夫の推す2冊


石川忠久編
『漢詩鑑賞事典』

 文庫本としては高価だけど、至れり尽くせりの漢詩案内である。漢詩好きの人は傍らに置くと便利である。付録が何よりも便利である。「漢詩入門」、「日本の漢詩」、「詩書解題」、「中国文学史年表」、「「漢詩鑑賞地図」、そして「コラム」もありがたい。たとえば「詩と詞」の違いも、その基本がわかる。そして巻末の索引も役に立つ。そして何よりも漢代の「高祖」から近代の「魯迅」に至るまで、中国の詩人の代表作が網羅されている。高校で習った「陶淵明」や「李白」、「杜甫」、そして「白居易」はもちろん、名前も知らなかった詩人に出会える。さらには「詩経」、「文選」、「楽府」のアンソロジーもある。一度、手にとって下さい。

本の画象

講談社学術文庫(2200円+税)
2009年3月刊
喜多村筠庭
『嬉遊笑覧』(五)

 待望の五巻がでた。これで全五冊がようやくそろった。四巻が出てからどれだけたっただろう。もちろん今まで手に入らなかったわけではない。しかし、一般の読書好きには『日本随筆大成』など図書館にでも行かなければ、お目にかかれない。それがたった文庫本五冊で、手元に置いて読める。どこからでも読める。この五巻には索引もついている。こんなうれしいことはない。江戸の考証随筆であるが、百科事典でもある。市井の風俗のあれやこれやが、興味深く解説されている。柳田国男も愛読したようで、彼の著書にもしばしば引かれている。ちなみに「干支の歌」をみると、西行の歌がのせられている。もちろん伝承歌である。遊びの伝承が解説されていて、飽きることがない。

本の画象

岩波文庫(本体900円+税)
2009年3月刊



2009年3月23日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


鈴木貞美著
『日本人の生命観』
神、恋、倫理

 著者は文学、芸術などの概念を検討してきた。それは、私たちの思考を縛っている枠組みを見直す作業であった。この新書はその作業の現時点での要約。私は次の指摘などに共感する。「生命の問題は、根本的には人間の自由の問題だ。人間が自然の一部でありながら、同時に自然の法則性から自由でありうるということ、そういう矛盾を本質的にもっている存在であるということに帰着する」。こういう矛盾が私たちの「特性」である。

本の画象

中公新書(780円+税)
2008年12月刊
蜂飼耳・作/ミヤハラヨウコ・絵
『のろのろひつじとせかせかひつじ』

 2頭のひつじ(羊)の話である。いや、この2頭は、たとえば私の中にいるのかもしれない。矛盾しているように見える自分の二面性、その二面性の葛藤に私の特性があるはず。というわけで、なんだか身につまされてこの絵本を読んだ。実は、少年時代の私のあだ名はひつじであった。髪がひどく縮れていたから。

本の画象

理論社(1200円+税)
2009年1月刊


桑原汽白の推す2冊


J・H・スイート作/津森優子訳
唐橋美奈子絵

『フェアリーズ』
〜妖精たちの冒険〜(5)
スパイダーワートと俳句のお姫さま

 〈はじまりは、頭のよい鳥しか入れない畑の中心にある〉。これは樫の木がくれた謎かけ。こたえは、アホー鳥、ではありません。
 ちょっともどります。ハシバミの木の下、緊急のフェアリー・サークルで・・・

本の画象

文溪堂(860円+税)
2009年2月刊
漆原友紀著
『蟲師』(10)

 秩父は皆野。50円ずつで、無人の柚子。破風山、ニョッキンをなで、大前山に立つ。春霞に両神山。だから、大前山なのかな。
 ニョッキン(とは、金精大明神やらなんやら・・・)やギンコ(主人公)らを描いてくれそう。

本の画象

アフタヌーンKC 講談社(590円+税)
2008年11月刊



2009年3月16日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


現代学生百人一首運営委員会編
2009年編纂
『現代学生百人一首』

 大学入試センター試験や成人の日の頃になると、若者のみずみずしい感覚の短歌が話題になる「現代学生百人一首」。22回目の今年は63,272首の応募があり、高校生の歌が41,486首だという。主催は東洋大学で百周年記念行事として1987年から始まり、発表後の冊子は大学の広報課で切手を同封すると送ってくれる。入選歌から一首、「見つけたらいけない気がする何故だろう青い色した幸福の鳥」、作者は宮城県の高校生。

本の画象

東洋大学(非売品)
2009年2月刊
紀田順一郎著
『昭和シネマ館』
黄金期スクリーン光芒

  黄金期とは昭和25年(1950)からの10年間。この遺産に恩恵を受けた映画ファンは多いし、今もなお上映は絶えることがない。著者はこの現象を「その根底にある万人に共有の価値観となった状況がある」と指摘している。なるほど、小津安二郎の映画で「清濁併せ呑む」という処世術のようなものを「蓮の花は泥の中に咲く」からと納得したし、黒澤明の「七人の侍」は永遠の手に汗握る応援歌だと万人の一人として思う。

本の画象

小学館(1800円+税)
2008年12月刊


田中俊弥の推す2冊


田中 修著
『都会の花と木』
四季を彩る植物のはなし

 著者は植物生理学を専攻する科学者。わたしたちの生活に身近な草木に咲く花々をとりあげ、最新の史実や科学の事実にもとづいて、いかに季節の花々がわたしたちの生活に彩りと華やぎをあたえてくれているのか、その植物のたしかな営みをあざやかに軽快に語ってくれる。歳時記を科学する一書として、ぜひ手元においておきたい。

本の画象

中公新書(820円+税)
2009年2月刊
長谷川宏著
『生活を哲学する』

 著者は1940年の生まれ。「赤門塾」というユニークな私塾を営んでいる。著者は、地縁や血縁にもとづく共同体が急速に力を失っている近代の社会にあって、そこに生活している個人が、新たな自由と孤独と共同性を生きることに哲学の現場を見据えている。気負わない哲学入門の一冊であり、いま生きていることが愛おしくなる。

本の画象

岩波書店(1300円+税)
2008年9月刊



2009年3月9日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


林 望著
『文章の品格』

 品格、品格と世間はうるさく、食傷していた私だか、著者をみてやはり捨て置きはできなかった。しかし、期待以上の文章読本。初心に帰って、自らの喋る言葉と書く言葉を見直すきっかけに。また、憧れの作家の文章を模写することの意義や古典文学の文章の力も再確認。言葉に携わるものとして気持ちも新たに。

本の画象

朝日出版社(1260円)
2008年9月刊
佐藤愛子著
『院長の恋』

 愛子氏の霊や霊界に関するエッセイも魅力的だが、掲書も軽妙洒脱でありながら人生の表裏を表しているような短編が五つ。さまざまな人生の機微を伝えている。表題作も良いが、特に『沢村校長の晩年』が秀逸。そこには最高のユーモアがある。著者八五歳、貫禄の直木賞作家作品集。

本の画象

文芸春秋(1550円)
2009年1月刊


赤石 忍の推す2冊


植田草介著
『酔いどれ山頭火
何を求める風の中ゆく』

 作家論や作品論でも興味本位な人間論でもなく、日記と手紙、周囲の感想をもとに、実際にその足跡を丹念に辿った紀行文的な人物評伝。酔いどれと冠されているように山頭火は酒を飲む。自省しながらも身体、関係を全て自ら破壊するかのように飲み続ける。その因を文学的に理由づけても詮無いこと。アルコール中毒の人にその答えを無理に求めるのと大して変わらないだろうし。しかしその周囲の人間たちの優しさと言ったら。多分、山頭火のまれに見る人柄の良さと、人生をかけて俳句を作り続けざるを得ないその姿勢に、例えどんな金銭的な迷惑をかけられても人々は許容したのだと思う。うらやましい。

本の画象

河出書房新社(本体2300円+税)
2008年12月刊
立川志らく著
『雨ン中の、らくだ』

 若い女性の追っかけが出るほどの落語ブーム。中でも立川流の談春、志らくは超人気。青春自叙伝『赤めだか』で講談社エッセイ賞をとった談春に対抗し「ならば談志論を」と筆を取ったのが本書。骨子は談志の言う「落語はイリュージョン」とは何か。「伝統を現代に」とは単に新作に走るのではなく、語り継がれた古典をどのようにして現代に生かすかということ。それを模索している談志を継承したいと著者は言う。何か俳句と似ているなあ。有季定型の中でどのように現代を語るのか。「俳句はイリュージョン」、坪内氏が様々な自書で語っている主意を、この一言で表現するのは強引すぎるだろうか。

本の画象

太田出版(1400円+税)
2009年2月刊



2009年3月2日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


森田欣也句集
『恋×涙』
がんばらないで自由に生きる

 何度も何度も読んだ句集。そのたびに作者からパワーをもらったような気がした。若い日に事故で重度の身障者となった境遇とは思えないほど、その句柄は明るくあたたかい。巻末にある母校での講演会記録やエッセイも胸を打つ。

本の画象

創風社(2500円+税)
2008年12月刊
中居由美句集
『白鳥クラブ』

  ユーモア、母性、お茶目な少女がそのまま大人になったような明るさ、中居さんの俳句にはいろいろな楽しさがある。どの句もシンプルで親しみやすく、作者と会話しているような感じで、句集を読み終えてからの爽やかさが印象的だ。

本の画象

創風社(1200円+税)
2009年2月刊


大角真代の推す2冊


田辺聖子著
『田辺聖子の人生あまから川柳』

 筆者の大阪弁で繰り広げられる川柳は絶妙かつおもろい。実は川柳の本自体初めて読んだのだが、何だかくせになりそう。「(川柳は)人とのつながりをとってもうれしく思う人が詠めるもの」という言葉に傍線を引いた。

ことしはいいぞ大盃をぐつとほす  岸本水府

本の画象

集英社(680円+税)
2008年12月刊
安藤忠雄著
『建築家 安藤忠雄』

 安藤忠雄、初の自叙伝。安藤の自叙伝という側面以外にも、建築家が大変面白い仕事であることがわかる。安藤の建築写真が多く、つい見とれる。そして随所に見える彼の哲学に興奮する。高校生の時読んでいたら、建築家を目指したかもしれない。「コンクリートの成否は人間関係にかかっている」これはあらゆる人生に通じる言葉かも。

本の画象

新潮社(1900円+税)
2008年10月刊



2009年2月23日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


諸葛正弥著
『フィンランド教育
成功のメソッド』


 類書が多い中、役に立つという点でお勧めの一冊。「聴く力」の不足とその重要性が説かれている辺りは特に納得した。句会などでうなづく、「なるほど」と言って復唱する、説明(要約)してみる、といった作業は、作者への理解を示す行為としてやっぱり大切なんだなと思った。

本の画象

マイコミ新書(780円)
2009年1月刊
河出書房新社
「文藝」2009春
(第48巻第1号)

 特集は翻訳家の柴田元幸。高橋源一郎との対談が面白かった。近々、対談集が刊行されるとあったので、単なる宣伝かなと思ったが、柴田氏の翻訳の仕事の流儀の一端が窺えて勉強になった。

本の画象

河出書房新社(1000円)
2009年2月


木村和也の推す2冊


柿沼 茂著
『名句を読む』
―その秘密を探る―

 流派にとらわれず多様な句が採り上げられていて、選句の視点がよい。「天上の鱶が目覚める牡丹雪」(坪内稔典)も出ている。それにしても、塚本邦雄の『百句燦燦』に比するような名句鑑賞が、俳人によって書かれてもいいのではないか。

本の画象

花神社(2000円+税)
2009年2月刊
荒川洋治著
『読むので思う』

 読書体験を中心としたエッセイ集。話は、長谷川伸の『瞼の母』や地図帳にまで及ぶ。平常の語り口から、本に向かう筆者の真摯な姿勢が見えて好感。佐多稲子の短編『水』は是非読んでみたいと思う。

本の画象

幻戯書房(2400円+税)
2008年11月刊



2009年2月16日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


水村美苗著
『日本語が亡びるとき』

 今、話題の本。小説のように始まり、著者はその演台の前へと読者を誘っていく。「文化とは〈読まれるべき言葉〉を継承すること」、「教育とは家庭環境が与えないものを与えること」であり、「市場が与えないものを与えること」。わかりやすく力強い文章である。『ユリイカ』二月号の特集とあわせて、ことばに関わる人には必読。

本の画象

筑摩書房(1800円+税)
2008年10月刊
大原富枝著
『ベンガルの憂愁』
岡倉天心とインド女流詩人

  岡倉天心とベンガルの女流詩人プリヤンバダ・デーヴィーとの愛の物語。始めての出会いは1912年、天心50才、死の前年である。天心をめぐる人々のドラマはどこか苦しく淋しい。二人はなぜ、これほどまでに心惹かれたのか。過剰なまでの修飾語や著者の思いの書き込みは、著者大原富枝の、二人の物語への並々ならぬ思い入れを感じさせる。

本の画象

ウエッジ文庫(743円+税)
2008年12月刊


武馬久仁裕の推す2冊


吉本隆明著/大井浩一・重里徹也構成
『詩の力』

 吉本隆明が現代の詩歌の読み方について語った本である。俳人として気になったのは、塚本邦雄の項で、「詩もそうだが」と断られてはいるが、「短歌や俳句はある意味では片手間にでもできる芸術」と言っていることだ。片手間でないあかしは、「倦まずたゆまず」書き続け、本格的な修練を重ねることによって、従来の表現のレベルを突破したか、ということである。それは、歌人では、斎藤茂吉、塚本邦雄、岡井隆だという。俳人の名はない。

本の画象

新潮文庫
(定価380円)
2009年1月刊
三崎亜記著
『廃墟建築士』

 「いつか崩れ、自然へと回帰するそのときを目指して造り続ける」建築士を描いた表題作「廃墟建築士」は、待ち望んだテーマだ。自己の生命活動が凝って生まれた人工物の、自然への限りない変貌を妄想する倒錯した建築士に、夏炉冬扇の輩は共感するに違いない。他に、人間の知への妄執が凝って建築物となった図書館の本が、夜な夜な羽ばたくという「図書館」など、建築物に寄せる人間の異様な執着をテーマにした不思議な話3編収録。

本の画象

集英社(定価1365円)
2009年1月刊



2009年2月9日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


古井由吉著
『漱石の漢詩を読む』

  漢水が北に流れるような奇想天外なことが起こっても廬山は廬山、と詠んだ最晩年の漢詩から、あること(現象)をあるがままに見る「則天去私」の境地は荒涼としていただろうと古井はいう。廬山の実相をどう書くか、が肝心なのだ。漱石は午前中『明暗』を、午後漢詩を書いていた。漢詩は自分を取り戻すため。世代が隔たり違和感のある大正の人を書いた『明暗』は冗長、という古井の『明暗』論でもある。

本の画象

岩波書店(1900円+税)
2008年12月刊
正津 勉著
『河童芋銭』
―小説小川芋銭―

  『河童百図』など河童の絵で有名な小川芋銭の伝記。「三つまで生きられれば」という病弱のままの70年の生涯。幸徳秋水に認められ、山村暮鳥に尊敬される。横山大観とは一目で意気投合、後援者西山泊雲とは子ども同士が結婚するまでに。牛久沼のほとりで芋銭を画家と認める妻が農家を支えた。河童のように愛される人柄。芋銭の俳句が小説を導き引き締める。俳句小説ともいえよう。

本の画象

河出書房新社(2200円+税)
2008年12月刊


小林幸夫の推す2冊


梅原 猛著
『翁と河勝』

 「翁」とは何か。芸能について考えるとき、この問いは避けて通れない。そして多くの研究者が論じてもきた。聖徳太子論をものした梅原なら、この課題にも無関心ではいられないだろう、と思っていたら、やはりこの能芸論が出た。これにつづいて『観阿弥と正成』も出版されるという。「うつぼ舟」シリーズのT・U弾である。秦の河勝は「うつぼ舟」で流された。河勝伝説の地は、京都にもいろいろある。たとえば太秦の桂宮院。広隆寺のすぐそばにある。梅原は河勝の伝説をたずねながら、芸能の始原へとわけいっていく。そのとき現れるのが、おそろしい宿神(しゅくしん)である。謡曲に関心のある人にも読んでもらいたい。

本の画象

現代書館(2200円+税)
2008年12月刊
五来 重著
『西国巡礼の寺』

 西国三十三所観音霊場のうち、二十カ所の寺が紹介される。しかし、たんなる案内書ではない。第一講「総論」の冒頭に、「巡礼とは何か」がおかれるように、観音霊場をめぐりながら、霊場とはなにか、巡礼とはなにか、がつねに問われつづけている。五来さん自身が、歩きながら、その問いを実感的に、そして実証的に考えるのである。それがたいへんおもしろい。たとえば、観音霊場の寺といえば、修験山伏の修行の場であったはずだが、なぜ六角堂頂法寺は、京の真ん中にあるのだろう。そんな素朴な疑問が解き明かされてゆく。そこから庶民信仰とは何か、という根源的な問題について考えさせられる。

本の画象

角川ソフィア文庫(857円+税)
2008年11月刊



2009年2月2日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


河野裕子著
『私の会った人びと』

 河野裕子は座談の楽しい人だが、この本では歌人の池田はるみを相手に、たくさんの人々との出会いを弾むように語っている。登場するのは馬場あき子、夫の永田和宏、両親や家族、宮柊二、岡井隆、そしてほぼ同世代の三枝昂之、小池光など。猫の茶碗でお茶を飲んだ人として私も話題になっている。

本の画象

本阿弥書店(2700円+税)
2008年12月刊
田辺聖子著
『楽老抄V』

 「楽老」とは老いを楽しむ、あるいは老いの楽しみという意味であろう。これは著者の造語だと思われる。その楽老という言葉を用いたエッセー集のこれは3冊目だが、古典の魅力を説く「日本文学の豊かさ―永遠の五・七・五」がことにおもしろい。秋桜子の食べ物の句の格調の高さ、一行小説家としての虚子なども話題になっている。

本の画象

集英社(1300円+税)
2008年12月刊


桑原汽白の推す2冊


しなだしん句集
『夜明』

 部屋にあった河合隼雄の『とりかへばや、男と女』を読み返した。そこでおもわれる、当時の「和歌」とは・・・ ビューン、ダッ、的を射ていた。
 第一句集から、

 どか雪を立方体に掘りすすむ   しん

本の画象

ふらんす堂(2476円+税)
2008年9月刊
小倉智昭監修
とくダネ!
『朝のヒットスタジオ』Vol.1

「オグラー」「アマタツー」

1Fの珈琲ショップ、月末には、ビルの建替え。シナモンのかおりがしている。ブックレットをながめる。ELT、水谷豊・・・、「ストライク♪」。なみだもろくなってしまうし・・・

本の画象

avex trax(2476円+税)
2008年12月刊



2009年1月26日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


谷川俊太郎著
『谷川俊太郎の
問う言葉 答える言葉』


 「結婚式よりも葬式の方が好きだ。葬式には未来がなくて過去しかないから気楽である・・」 などと箴言めいた言葉がぽっかり現れる。谷川氏の過去の詩集やエッセイ集から抜粋した言葉を、編集者が十項目に分け一冊としたことを「自分でも思いがけない本ができあがりました」とあとがきで述べている。そして「詩人が生きものである限り、詩も生きものである」とも。

本の画象

イースト・プラス(1300円+税)
2008年12月刊
西村 豊写真・文
『柿の里』ふるさとが実る頃

  表紙の写真に干し柿が何万個あるのだろうと目を見張っているとその一部が絵葉書として切り取れる。滝のような干し柿を干す大変さや吊り干しから藁へと移動させる平干しへの手間隙も不思議と伝わる写真集。実りの秋の景色だけではない冬芽、柿若葉と季節を追いながら、一方では堂々たる村の古木の全形も逃しはしない。著者は自然写真家で長野県に住む。

本の画象

講談社(1700円+税)
2008年11月刊


田中俊弥の推す2冊


小野恭靖(おの・みつやす)著
『ことば遊びへの招待』

 著者は、中世歌謡の気鋭の研究者。本書は、『ことば遊びの文学史』『ことば遊びの世界』の姉妹篇。確かな学術研究の成果にもとづいて、日本の古典文学をつらぬく「ことば遊び」の伝統とその奥行きが初学者にもわかりやすく、ときに軽妙に開陳されている。なぞなぞ・判じ物・回文・倒言・アナグラムについて、それこそ謎解きさながらに、思考訓練の心地よさを体感できることがうれしい。練習問題によるワークショップ型の構成も楽しい。

本の画象

新典社新書20(800円+税)
2008年7月刊
阿部彩(あべ・あや)著
『子どもの貧困』
―日本の不公平を考える―

 教育の問題が、いまかまびすしい。本書は、「子ども」に焦点をあて、日本という国が国際社会の中にあって「貧困」という深刻な事態にいかにやさしくないかという事実が最新のデータにもとづいて告発されている。教育はすべての子どもを幸福にする営みであり、教育にかかわるすべての人に、子どもの幸福度「ウェル・ビーニング」という尺度によって現実を客体化することの必要性とその重要性を教えてくれる、まさに警世の一書。

本の画象

岩波新書1157(780円+税)
2008年11月刊



2009年1月19日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


瀬戸内寂聴著/横尾忠則画
『奇縁まんだら』

 日経新聞毎土曜日に一年間連載された寂聴さんの交際エッセイ。ただし、ただの軽妙エッセイとは大いに違うのだ。寂聴さんの多彩な文人、作家との交際の重厚で艶やかな世界に入り込んでしまうのだから。私は決してファンではなかったのだが、寂聴ワールドの魅惑的な深みにはまってしまったようだ。横尾忠則氏の人物画も素晴らしい。

本の画象

日本経済新聞出版社(2000円)
2008年4月刊
金田一秀穂著
『「汚い」日本語講座』

  金田一博士の疑問への視点、実践、考察の面白さに夢中。例えば、回し飲み回し食べはどこまで許容できるか。『汚い』と『こ汚い』は具体的にどう違うのか。「汚い」という感覚の世代差異、時代差異、国・地域差異、男女差異、様々な角度の考証から見えてくるものの魅力に感服。

本の画象

新潮新書(714円)
2008年12月刊


赤石 忍の推す2冊


監修:長谷川修一・原雅夫
協力:俳人協会

ジュニア版
写真で見る 『俳句歳時記』(全7巻)

 七年前に出版され近刊とは言えないが、船団会員やHP閲覧者には教職につかれている方も多いと聞き、子どもたちたちにぜひご紹介していただきたく取り上げた。本書は学校図書館や公共図書館専用商品ゆえ書店で見る機会は少ないと思うが、季語を写真で表現し、子どもたちがイメージしにくい言葉を視覚的に理解する、その手助けとなるところに他の本にはない大きな特長がある。季語を視覚的に捉えていくと写生に通じるのか、それを突き詰めるとそれすらもぶち壊すところまで行き着くのかなどとぼんやり考えていたときに、再度、本書を眺めていたことも紹介する契機となったのだが。

本の画象

小峰書店(各巻:4000円+税)
2003年4月刊
川口マーン恵美著
『証言・フルトヴェングラーか
カラヤンか』


 歴史的な指揮者であるフルトヴェングラーとカラヤン、さて一体どちらが偉大なのかという問いに、二人の指揮下で実際に演奏したベルリンフィルハーモニーの楽団員が答えたものである。互いに嫌っていた二人に薫陶を受けた人は、もはや高齢で数も限られ、その証言も偏りがあることは否めない。しかしいつも思うのだが、素晴らしい演奏と言った場合、指揮者なのか楽団のアンサンブルなのか、演奏家の個々の力か、やはり曲そのものの力なのかが私にはよくわからない。楽団員の答えは総じて言えば「二人とも偉大であるが、その前に私は私だ」。俳句の鑑賞も句作もそれでいいのだろうか。

本の画象

新潮選書(1300円+税)
2008年10月刊
2009年1月12日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊


宮下隆二著
【新訳】『西行物語』
がんばらないで自由に生きる

 『西行物語』は、西行の死後間もない鎌倉中期には成立していたらしい。当時から伝説にまとわれた西行の歌とその生涯を、このテキストの新訳と他の種々の西行説話織り交ぜながら通覧する。時代背景の解説もわかりやすく行き届いている。

本の画象

PHP研究所(800円+税)
2008年12月刊
木田 元著
『なにもかも
小林秀雄に教わった』


  「モーツアルトの悲しみは疾走する。涙は追いつけない』(小林)。そんなモーツアルトも、ランボーもベルグソンも、みんな小林秀雄を通じて知った。と著者は言う。文学がまだ元気だったころ、文学や芸術が若者たちの血や肉になり得た頃の、よき時代を振り返ることができる。

本の画象

文春文庫(750円+税)
2008年10月刊


大角真代の推す2冊


新美南吉著
『新美南吉詩集』

 新美南吉の作品は『ごんぎつね』しか知らなかったので、詩は初見。童話のような詩だろうな、と手に取ったが、全編を通して感じられる南吉の淋しい気持ちに、私の心もキュンとなった。今が冬だからかだろうか、人の温もりが欲しくなった。

本の画象

ハルキ文庫(680円+税)
2008年11月刊
くるねこ大和著
『くるねこ3』

 待望のくるねこの3巻目もファンの期待を裏切らない出来。5匹の猫と飼い主との日常を描いた漫画で、5匹それぞれに個性があって、ユーモアがあって、読者がにんまり幸せになれる。そんな漫画って少ないかも?私の大切な本の仲間入り。

本の画象

エンターブレイン社(1000円+税)
2008年12月刊



2009年1月5日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


永田 淳歌集
『1/125秒』

 「塔」編集委員である作者の第1歌集。自身によるあとがきによると、中学2年で作歌を初めて以来の短歌が掲載されている。歌集全体から短歌が人生の時間の単位として刻みこまれているような、懐かしさと新鮮さが感じられた。個人的には「お父さんはこれから働くのです そう言い置きて縁側離る」などの歌が面白かった。

本の画象

ふらんす堂(2800円)
2008年12月刊
小栗左多里/トニー・ラズロ著
『めづめづ和文化研究所 京都』

 「ダーリンは外国人」シリーズで知られる作者が、日本の伝統文化を駆け足で体験するレポート風マンガ。香道、茶道、華道、弓道、精進料理、雅楽、扇子、友禅、蒔絵、象嵌、和菓子などが紹介されている。フツーの若い人に発信するのはこんな風な軽さと速さが大切だなと納得した。ここが入り口。それでいいと思った。

本の画象

情報センター出版局(1000円)
2008年12月


三好万美の推す2冊


畠山健二著
『落語歳時記』

 第一章は「歳時記」として、当時の季節感が色濃く出ている落語を、第二章では江戸庶民の生活のあれこれの詰まったものを取りあげている。それぞれの落語についてあらすじとエッセイに付け加えて、得意とする落語家や名盤を紹介したコーナーがあり、落語に通じた読者だけでなく、初心者でも楽しめるようになっている。筆者自身「落語の解説本ではなく、落語を楽しむためのサポート本」と述べているように、筆者が語っているような肩の凝らない文章で、読んでいるだけでも楽しく、入門書としても格好の一冊。

本の画象

文化出版局(1300円+税)
2008年7月刊
長窪専三監修
『漱石先生の漢字500問答』
―雲雀や猫やホトトギス―

 『草枕』『我輩は猫であ』の原文を読みながら、その中のいくつかの漢字の読み方に答える形式。欄外に固有名詞や用語の解説があり、中高生や文学初心者にも分かりやすく読めるようになっているが、本書の良さは少しずつでも漱石の原文を味わえるところだろう。あらゆるタイプの読み物が出回っている今、独特の皮肉やユーモア、鋭さが詰まった漱石の文章は、読書の楽しみの原点のように思う。漱石はやはり面白い。

本の画象

明星企画出版事業部(1400円+税)
2008年7月刊




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