俳句 e船団 ブックレビュー
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2009年12月28日号(e船団書評委員会)

桑原汽泊の推す2冊


小池昌代編著
『通勤電車でよむ詩集』

 まど・みちお。からたちの花が咲いたよ。ディラン・トマス。初出は『現代詩手帖』(2008年7月号)、四元康祐「言語ジャック 1新幹線・車内案内」。・・・。
 のぞみ号・東京行き、全席指定・ムーンライトながら、NEWS23を見ながら、ちょんまげをいじりながら。よいおとしを!  
本の画象

NHK出版 生活人新書(660円+税)
2009年9月刊
内田康夫著・松尾たいこ絵
『ぼくが探偵だった夏』

 食べかけの氷イチゴ・・・。高原の「妖精の森」。はじまり、はじまり。
 『パタリロ!(83)』。『あばしり一家(2)』、「あやうし 赤黄みどりの ピンクの パンティー ますます あやうし ピンクの パンティー」。
 ハコをはずす。・・・。おもしろかった。

本の画象

講談社MYSTERY LAND(2200円+税)
2009年7月刊


葉月ひさ子の推す2冊


安藤幸江編・訳・注
『英詩の世界へようこそ』
四季の歌

 副題の「四季の歌」に誘われ手にしたが、愛唱されている英詩20編を春夏秋冬に分け、訳と注をつけた1冊。ウイリアム・ワーズワスが「The daffodils」「To the cuckoo」の春2編ほか4編で不動の地位、続くウイリアム・ブレイクは3編の収録。付録のCDではネイティブの英詩朗読が聴けるが、クリスティーナ・ロセッティの2編はもちろん女性の読手、いずれも心地良い子守唄となる。

本の画象

北星堂(定価2500円+税)
2009年10月刊
高木洋子著
音楽で彩る旅行ガイド
『スペインの風景』

 スペイン国アンダルシア地方の5都市、グラナダ、コルドバ、セビーリア、カディス、コスタ・デル・ソルと、首都マドリッドのみの旅行ガイドかと思いきや、「グラナダ」などの地名を冠した曲がある所ばかり。民族音楽の先駆者である没後百年のイサーク・アルベニスをたどるガイドブック、即興の名手による各地の音楽描写にはやはりギターが似合いそう。

本の画象

ヤマハミュージックメディア(定価1800円+税)
2009年11月刊



2009年12月21日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す2冊

木村和也句集
『新鬼』

 「鬼」の字は、中国では死者の魂が角をもち私利私欲のままに現世に帰ってきた姿を意味するとか。本書は、その表題のとおり、異彩を放つ著者の野心的な句集。「われは新鬼ざぶざぶと行く春の闇」、「さくら散る海とは昏き水のこと」、「セロリ食う春亡国の音させて」など、「水」の多様なイメージの展開に趣きがある。

本の画象

本阿弥書店(定価2400円+税)
2009年12月刊
渡辺淳一著
『告白的恋愛論』

 本書は、1995年から刊行の『渡辺淳一全集』の月報に連載された「告白的女性論」を解題し、一書にしたもの。『恋愛論』の著者であるスタンダールの「生きた、書いた、愛した。」の墓碑銘はあまりにも有名だが、本書も、まさにそのことばどおりの「愛」の記録で、その愛から生まれた小説をぜひにも読みたくなる。

本の画象

角川書店(定価1155円・税込)
2009年12月刊

赤石 忍の推す2冊


坪内稔典著
『正岡子規の〈楽しむ力〉』

 本作りに三十年携わって分かったことに、「たとえ手を押さえつけてもペンを動かし続けようとする人間がいる」という事実がある。Hという絵描きがいる。三畳間から六本木ヒルズに居宅と仕事場を替え、たまさか成功者になったが、それが一畳間になったとしても絵を描き続けるというスタンスは変わらなかったはず。つまり「楽しい」というだけなのだ。本書に描かれている子規はその典型。子規は楽力の人と著者は言う。死に至る病気すら楽しんだ。悲愴感や諦念すら吹き飛ばす楽力、それが、子規が現代にも生きている最大の要因なのだろうと。最も自分の三十歳のことは何も連想できないが、子規の三十歳なら分かると記す著者もその一人なのだろうけど。
本の画象

NHK出版 生活人新書(700円+税)
2009年11月刊
山川健一著
『太宰治の女たち』

 冒頭に本書は文学論や文学史ではなく、「女」という観点のみから書いたと断っている。実際、太宰を取り巻いた女性は、平気で嘘をつく鉄面皮的な女(小山初代・大田静子等)、誰をも信じる煙草屋の娘的な女(津島美智子等)、そして年下の看護婦的な女(山崎富栄等)に類型化されるという。そしてそれぞれ異なる角度から厚顔無恥に相手を傷つけ、諸刃の刃でそれ以上に傷ついていく太宰。そして心中へ。いや待てよ、太宰にとって女はすべからく聖母だったのでは。心中とは太宰にとって、聖母と一体化する宗教的行為ではないかと著者。そうだったら、これだけ太宰が女性にもてるのもわかるような気がする。だって聖母のように敬われ、ともに殉教しようと言われるのだから。

本の画象

幻冬舎新書(800円+税)
2009年11月刊



2009年12月14日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


谷川俊太郎著
『詩の本』

 谷川さんはやっぱり、シンプルな詩集が一番。偉そうな言い方で失礼だけど、言葉の力を素晴らしく感じさせてくれるから。「私のことばは/あなたへの/捧げもの/香りと味がふさわしいものでありますように/そして詩の言葉は/限りない宇宙と限りある人々への捧げもの/苦しみと喜びと思い出と希望に醸されて(『捧げもの』より)」。

本の画象

集英社(1785円・税込)
2009年9月刊
藤原正彦著
『名著講義』

 『国家の品格』の藤原さんと、大学のゼミ生との読書会実況レポート。岩波文庫『武士道』『きけわだつみのこえ』『山びこ学級』『福翁自伝』など、明治、昭和初期の偉人を通して日本人としてのあり方を考えさせたいというが、彼自身が学生から触発されることの喜びを常に感じている。笑い、涙、怒り、そして感動の討論だ。

本の画象

文芸春秋(1500円・税込)
2009年12月刊


大角真代の推す2冊


ねじめ正一著
『ぼくらの言葉塾』

 言葉の体験から自分の言葉を見つけ出し、正直な言葉ではなく正確な言葉で表現すること、それが詩の真実となる、というところが印象に残った。正直な言葉でしか表現できていない自分に反省する一方、読後、ねじめパワーをいっぱい貰ってほくほくした気分。過激に楽しく正確に表現したい、私も。

本の画象

岩波新書(定価735円・税込)
2009年10月刊
二ノ宮知子著
『のだめカンタービレ』(23)

 のだめがとうとう完結。いつまでも、のだめのピアノが聞こえてきそうな素敵なラストに感動。音楽は楽しい!ということが、どのコマからも溢れ出ていて、久々にピアノを弾きたくなりました。未読の方はぜひ年末年始に大人買いして全巻読破してくださいね。よいお年を!

本の画象

講談社(440円・税込)
2009年11月刊



2009年12月7日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊


坂口昌弘著
『ライバル俳句史』
―俳句の精神史―作法

 西東三鬼と高屋窓秋の取り合わせなど、近現代俳句史登場する30余組のライバルを俎上にのせ、それぞれ一つのテーマに絞って論じる。「なぜ俳句が読者に感銘を与えるのか」、作品論に徹する姿勢が好感。山口草堂と石川桂郎など、ややマイナーな取り合わせもあって面白い。

本の画象

文学の森(2000円・税込み)
2009年10月刊
塩野七生著
『海の都の物語』
―ヴェネツィア共和国の一千年―
(1)〜(3)


 ヴェネツィアという都市は、敵を逃れるためにわざわざ湿地帯に築かれたのだそうだ。一人の皇帝も戴かず、外交と軍事力、そして交易によって、自由と独立を守り続けた共和国の歴史を詳細に描く。政治における理想主義がいかに愚かしく、徹底した現実主義だけがいかに国家を生き延びさせるのかが語られる。

本の画象 本の画象
本の画象

新潮文庫((1)(2)380円、(3)420円・税込み)
2009年6月刊


三好万美の推す2冊


ターシャ・テューダー著
『ターシャ・テューダー
 最後のことば』


 昨年92歳で他界したアメリカの絵本作家への最後のインタビュー集。園芸や手芸など時間と手間を惜しまず物づくりを楽しんだターシャ。
 その生活ぶりが近年TVで紹介され話題となった。長い年月をかけて好きな道を追求し、自身が理想とするライフスタイルを貫いた女性の強さと優しさ、ユーモアが一言一言にあふれている。

本の画象

白泉社(定価1300円+税)
2009年6月刊
ユベール・リーヴズ著/高橋 啓訳
『地球(ほし)の授業』

 宇宙物理学者によるラジオコラムをまとめた一冊。一話が短く簡潔で、各読者が関心のある分野から読むことができる。温暖化や酸性雨などお決まりのテーマの他に、地球の起源説や惑星と隕石の関係などスケールの大きな独自の論を展開していて楽しい。

本の画象

飛鳥新社(定価1600円+税)
2009年8月刊



2009年11月30日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


岩崎純一著
『音に色が見える世界』

 「自分の持っている感覚と周りの人々のそれとの違いに悩んでおよそ20年」。分析対象は、共感覚者としての著者自身でもある。著者が文字に見ている共感覚色、女性に見ている共感覚色、音階に見ている共感覚色、などが図示されている。言葉、五感、表現を考える上でヒントを与えてくれる本。著者は27才。次作を読みたい。

本の画象

PHP新書(720円+税)
2009年9月刊
木村紀子著
『原始日本語のおもかげ』

 日本語はどこまで文字以前にさかのぼることができるのか?「もの」に対応する「こころ」とつながる「声」の世界はどこまで再現できるのか?「サメザメと泣く」の章に、法隆寺五重塔「涅槃の釈迦を悼む群像」の写真がある。「エとアの中間ぐらいに」開けられた群像のそれぞれの口は、原始日本語への入り口に見えてくる。

本の画象

平凡社新書(740円+税)
2009年8月刊


若林武史の推す2冊


小澤克己著
『艶の美学』

  佐藤鬼房主宰の「小熊座」に七年間にわたって掲載された俳論の集成。艶を通底するテーマに配し、著名な数人の俳人について論じている。艶、すなわちエロティシズムとはつまるところ、生の欲望であり、そこから各々の論は自然と俳人の生き様を基調としたものとなっている。そういう点から、勉強になる一冊である。

本の画象

沖積舎(定価2500円+税)
2009年10月刊
楳図かずお/講師
NHK趣味悠々
今からでも描ける!
『4コマ漫画入門』

 楳図かずおと言えば、ホラー漫画や「まことちゃん」で有名な、独自の世界を築く漫画家。それが、なぜ、4コマ漫画なのかピンと来ないが、それはそれとして、この本(テレビ講座)は、漫画の描写の基本と4コマ漫画の簡単な構成がすぐに学べるものになっている。面白かったのは、4コマ目を書いてから、2、3コマ目を考えるという方法。1と4の間に何を描くか。俳句脳のトレーニングにもなるかもしれない、と思った。

本の画象

NHK出版(1050円・税込)
2009年11月刊



2009年11月23日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


正木ゆう子著
『ゆうきりんりん』
私の俳句作法

 正木ゆう子は待つ人だ。佐世保の烏帽子岳で鷹の渡りを一日、真昼の阿蘇外輪山の荻岳で太陽と月を感じながら数時間、何かを感じるまでじっと待つ。おおどかな時間感覚が俳句をうみだしていく様子を描いた文章は湧き水のように新鮮で「ゆうき」(遊ぶきっかけ、勇気)を与えてくれる。
 水玉の影の水玉冬泉   ゆう子
本の画象

春秋社(1700円+税)
2009年9月刊
竹内淳子著
『紫(むらさき)』
紫草から貝紫まで

 紫草は育てたい草だ。数年前念願かなって3株手に入れたが、枯らしてしまった。アルカリ性土壌を好み栽培は難しいという。「紫草のにほへる妹」「紫のゆかりの物語」など古典でおなじみの紫草の根の染色法・栽培法、吉野ヶ里に貝紫で染めた布を見に行く話など。絶滅危惧種に指定されている紫草、フジバカマのように復活してほしい。

本の画象

法政大学出版局(3000円+税)
2009年10月刊


武馬久仁裕の推す2冊


郷 正子句集
『秋声の昼』

 青春の日々を愛おしむ「まつ青な時流れ出す夏帽子」のような句も良いが、私は危うい句に惹かれる。「桃吸へるくちびるを子に見られけり」。はからずも子に見られてしまうことにより、見られた人物=母のエロスが匂い立つ句である。もう一つ唇の句「春蘭と言ひてくちびる光らする」も良い。挑発的なエロスに満ちている。日常が非日常の相貌を垣間見せる一瞬をとらえてスリリングである。力作評論も併録されて読み応えのある句集である。

本の画象

文學の森(定価2600円+税)
2009年7月刊
反戦イラク帰還兵の会・
アーロン・グランツ編著/TUP訳
『冬の兵士』
イラク・アフガン
帰還米兵が語る戦場の真実

 イラクでのこと。個人の家をわけもなく接収し、家族を路上に放り出す。路上から立ち去ることを拒んだ男達を刑務所送りにし、意味もなく拷問をする。その時兵士は悟る。「自分こそテロリストだ」と。真実を見た彼らの心は深い傷を負っている。帰還兵は心的外傷後ストレス障碍によって毎月1000人が自殺を試みているという。米兵によって日々イラク市民はどのように虐待され殺されているかが、当事者達によって命がけで語られた本である。

本の画象

岩波書店(定価1995円・税込)
2009年8月刊



2009年11月16日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


上野千鶴子著
『男おひとりさま道』

 「おひとりさま」という流行語をもたらした上野さんの新著だが、私は「おひとりさま」とは呼ばれたくない。「ひとりの男」でいい。ともあれ、「男、おひとりさま」の10カ条は次の通りらしい。1、衣食住の自律。2、体調の自己管理。3、酒、ギャンブル、薬物などにはまらない。4、過去の栄光を誇らない。5、ひとの話をよく聞く。6、つきあいは利害損得を離れる。7、女性の友人には下心を持たない。8、世代の違う友人を求める。9、資産と収入の確実な管理。10、まさかのときのセーフティネットを用意する。

本の画象

法研(1400円+税)
2009年11月刊
鈴木貞美著
『自由の壁』

 著者は「文学」にかかわる概念の洗い直しをしている日本文学研究者。この本では「自由」という言葉の洗い直しをしている。西洋の自由は神に見守られた神の前の自由、それに対して神のいない日本では自由が好き勝手になってしまう、などという話がのびやかに語られている。視点を固定しない自在さがこの著者の何よりの魅力であろう。

本の画象

集英社新書(735円・税込み)
2009年9月刊


桑原汽泊の推す2冊


橋本 治著
新装版 桃尻語訳
『百人一首』

かささぎの渡せる橋に置く霜の
  白きをみれば夜ぞふけにける  家持

 流れゆく大根の葉に、はしっても、かけても、転んでも・・・。あなたは星をみましたか?
 そんなこんなで、なーでなで・・・。

本の画象

海竜社(1714円+税)
2009年10月刊
村上昌・野島寿三郎監修
江戸川区書店組合協力
―なつかしい青春の記憶―
昭和30年・40年代の
『江戸川区』

 おつかい。絹か綿か、トーフを買いに出かけた。アパートの前で、鍋をひっくり返しちゃった。失敗・・・。いまにして思う。よかった、よかった。
 美人湯のことは、また・・・。オート三輪、都電・・・。転校。小3のおわり小4のはじめ・・・。

本の画象

三冬社(1900円+税)
2009年10月刊



2009年11月9日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


青山みゆき編訳
『ネイティヴ・アメリカン詩集』

 編訳者はアメリカ先住民文学の研究者でマイノリティーのアメリカ詩94編を翻訳した。詩人紹介にカイオワ、チョクトー、ナボファ族などそれぞれの血脈や混血の国名を記してあるのは口承詩、神話、呪文などの強い影響があるせいだろう。馬の詩が多いジョイ・ハージョの「溺れている馬たち」「彼女は馬を飼っていた」は題名からして不思議な感覚。

本の画象

土曜美術社(1400円+税)
2009年4月刊
宮本常一著
『宮本常一が撮った
昭和の情景』(上・下)


 「上」は昭和30(1955)年〜39年で解説者は田村善次郎氏、「下」は昭和40(1965)〜55年で解説者は松山巌氏。民俗学者宮本常一が25年間、津々浦々を歩いて撮影した10万枚余、その中から選び抜かれた「情景」850点の白黒写真。「情景」とは風景にプラスした人の姿が写っていることだとおのずと納得するほど人の姿、表情が懐かしい。

本の画象  本の画象

毎日新聞社(各2800円+税)
2009年6月刊


田中俊弥の推す2冊


山本純子句集
『カヌー干す』

 詩集『豊穣の女神の息子』『あまのがわ』(H氏賞受賞)『海の日』、朗読詩集・CD『風と散歩に』につづく本書にも、かろやかでしなやかな純度の高い正確なことばが「ぷるぷる」と息づいている。「行く春のカモメの歩く漁師小屋」「夏山の動詞になっていく私」「カヌー干すカレーは次の日もうまい」など清涼感は群を抜く。

本の画象

ふらんす堂(定価2000円+税)
2009年9月刊
清水 勲著
『四コマ漫画』
―北斎から「萌え」まで―

 いまや日本を代表する文化ともなったマンガの歴史は古く、平安末期には「鳥獣人物戯画」が誕生している。江戸に始まる漫画の流行は、『北斎漫画』を経て、明治、大正、昭和、平成へと展開し、庶民の人情や世態風俗を活写してきた。正確な資料にもとづく本書は、まさに日本漫画史のたのもしきナビゲーターである。

本の画象

岩波新書(定価777円・税込)
2009年8月刊



2009年11月2日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


宇多喜代子著
『名句十二か月』

 『わたしの名句ノート―読み直す俳句』(H16年刊)を月別に編み加筆されたもの。私の座右の一冊に。月別であるからその日の気分で開けられるのも魅力だけど、何よりも俳人はそれぞれに、俳句へスタイル、スタンスがあって良いのだと思わせてくれること。宇多さんの広くリベラルな視野での選句、背筋が伸びるような評に感銘。

本の画象

角川学芸出版(定価1680円・税込み)
2009年9月刊
吉沢久子著
『老い方上手の楽しい台所』

 思わず顔と心がほころんでしまう吉沢さん(御年91歳)の口調。お台所でのエッセイだが、吉沢さんの生き方のスタイルがとても良い。おしゃれに暮らすとか、趣味をコレクションするとかではなく、毎朝の紅茶をこんな風に美味しくいただきますということ。人生、丁寧に食べることが一等大切。

本の画象

海亀社(定価1500円・税込)
2009年11月刊


赤石 忍の推す2冊


石原千秋著
『名作の書き出し』
漱石から春樹まで

 小説を読むときは作者を無視しなければならない。作者の生育歴などから派生する「作者の意図」はあくまで読者の想像の産物であり、それに囚われては「自分自身の小説」として在り得ることはない。各々の小説の中にちりばめられた言葉は、他人の言葉や様々な時代や世界に影響されて意味として成立し、特にその書き出しに象徴されていると「テキスト論」者の著者は言う。難しいことはともあれ、そのように読み進むと『痴人の愛』は漱石文学のパロディー化、『限りなく透明に近いブルー』はサルトル『嘔吐』の村上龍版となる等、興味深い見方が散見される。読後ふと、俳人たちは句集の冒頭句にどのような意図を込めるのか、という思いが湧いてきた。

本の画象

光文社新書(820円+税)
2009年9月刊
堀江珠喜著
『寝取られた男たち』

 なかなかショキングなタイトルで手に取るのが気恥ずかしい方もいるだろう。コキュ、フランス語の「寝取られ夫」が世界的に通ずるそうだが、その中には様々なタイプがあることを綴っている。と言っても三面記事的なことばかりではなく、その例証を古今の名作から引いているのが本書の味噌。三島由紀夫の『春の雪』からは妻の浮気を黙認するタイプ、『アンナ・カレーニナ』からは復習するタイプ、『チャタレイ夫人の恋人』は妻に浮気を勧めるタイプなど。しかしその基調にあるのは、男の浮気が甲斐性なら女だって同じこと。おたおたしてはカッコ悪いわよ、ということ。つまりは戦前までの姦通罪の意識に未だとらわれているのは、年老いた男たちだけ、ということか。

本の画象

新潮新書(各720円+税)
2009年7月刊



2009年10月26日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


谷川俊太郎著
『トロムソコラージュ』

 「トロムソ」とはノルウェーにある町の名。この地で筆者が撮影した写真が頁を繰るごとに添えられており、詩と写真とで一つの世界が出来ている。  一見とりとめの無いような想像と思考は、空間と時間を飛び越え自由に駆けめぐる。そんな詩世界が楽しい。

本の画象

新潮社(1500円+税)
2009年5月刊
太田治子著
『明るい方へ』

 著者の母は「斜陽」のモデルとして知られた女性。自らの父母の恋や文学観を、太宰に対する複雑な思いを客観的に、冷静に娘の視点で語っている。
 自分を偽らず生きぬいた母への思慕と敬意が感じられる。

本の画象

朝日新聞出版(各1500円+税)
2009年9月刊


大角真代の推す2冊


植木朝子編
後白河院『粱塵秘抄』

 大学受験で名前は覚えたが、中身は何だっけ?という日本の古典は多い。この本もその一冊。ビギナー用文庫本で読みやすく、内容も当時の最先端を風俗を歌っていて興味深い。次の一首は特にお気に入り。
 楠葉の御牧の土器造 土器は造れど娘の貌ぞよき あな美しやな あれを三車の四車の愛行輦にうち載せて 受領の北の方と言わせばや(三七六)

本の画象

角川書店(629円+税)
(ビギナーズ・クラシックス 日本の古典)
2009年8月刊
森 健著
『就活って何だ』

 実はわたし就活したことがないんです。だから知らない世界がわかってドキドキ。企業の人事担当者が本音を語る、ということだが、例として挙げられている学生がみんな立派すぎて、本当に本音を語ってるのかと疑問だが、一流企業に入るのは本当に難しいんだな、と実感。私みたいに漫然と学生生活を送った人間が就活していたら内定は得られなかっただろう。

本の画象

文藝春秋社(740円+税)
2009年9月刊



2009年10月19日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


阿久 悠著
『作詞入門』
―阿久式ヒット・ソングの技法―

 亡くなった歌謡界のヒットメーカー、作詞家であり、作家でもあった阿久悠のかつて著した本が文庫化されたもの。売れる詞を作るために、いかに阿久悠が考えを巡らせていたかが窺える。この本を読んで、売れる俳句というのは、どういう条件を備えていなければならないかと考えると同時に、誰に歌わせるか(詠ませるか)という視点が発見できたところに、個人的な収穫があった。

本の画象

岩波現代文庫(1400円+税)
2009年9月刊
石原千秋著
『国語教科書の中の「日本」』

 キーワードは内面化である。国語教科書は道徳教科書であるというのが筆者の一貫した主張であり、それはそうだろうと思う。少なくとも日本語教科書ではないし、検定教科書という枠組みや、指導する側の保守的姿勢による影響もあるだろう。ただ、それでは、国語教科書とは何か。この先にどのような教科書が実現するか、まだまだ未定という感じがする。
 無差別殺人が社会問題と取り沙汰される今日、その背景を考えるヒントとなる小冊子。小グループの中で自分のキャラを演じる意味や自己肯定感が希薄な現代人の内面について考えさせられる。個人的には「句会でしか、その場のキャラでしか、生きられない人になりませんように」と星にお願いした。

本の画象

ちくま新書(760円+税)
2009年3月刊


木村和也の推す2冊


渥美清句集
『赤とんぼ』

 映画「寅さん」のように飄々とした味わいのある句集。句集からのぞく渥美清の素顔は寅さんより淋しげである。山頭火風の調べの中に、深刻ぶらない、ユーモアと明るさを携えた良質の抒情がある。ものを見る目も確かだ。
 ポトリと言ったような気がする毛虫かな

本の画象

葦工房(定価1800円+税)
2009年9月刊
日高敏隆著
『なぜ
飼い犬に手をかまれるのか』

―動物たちの言い分―

 タヌキのオスはメスの出産に立ち会うなど、知らなかった動物の世界がいっぱい出てくる。犬や猫からさまざまな虫たちの行動に至るまで、動物学者ならではの、生き物たちに対する一通りでない関心と深い愛情がうかがえるエッセイ集。俳人にもこんな観察における忍耐力があればと思う。

本の画象

PHP研究所(定価820円・税込)
2009年10月刊



2009年10月12日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


川口晴美+渡邊十絲子著
『ことばを深呼吸』

 単なる箇条書きを詩へ昇華させる一工夫。言葉を作品にする工程。タイトルを付ける練習。囃し言葉あそび。言葉で世界に触れ、見えないものを見つける作業。詩の言葉をめぐるワークショップの本である。「詩は詩人が書いたときではなく、誰かが読んで受け止めたときに初めて完成する。」完成しないかも?「出張授業いたします」とある。

本の画象

東京書籍(1400円+税)
2009年5月刊
今福龍太著
『身体としての書物』

 東京外大の学部ゼミが元となった本。「頭を動かす以上に手を動かすことがゼミのモットー」とあるから、この本だけで、臨場感を味わいつつ理解するのは難しいかもしれない。「本は世界そのものであり、世界の先端で打ち震える何かの化身」、そう感じられる本に出会いたいものだ。著者撮影の二重露光による写真が面白い。

本の画象

東京外国語大学出版会(各1600円+税)
2009年3月刊


武馬久仁裕の推す2冊


津嶋 和著
『津嶋和句集』

 この人の句の美しさはどこからくるのだろう。「夕闇にふらここゆれてゐたりけり」「シーソーのバランス崩る春の果て」「沙羅の花夕べに散りて地を清む」と書き継いでくると少しすづ分かってくる。浄化された過去の世界なのだ。そしてその世界は今すぐ消えてしまいしそうな危うさ故に限りなく美しいのだ。夕闇にゆれる、誰も乗っていないぶらんこを見つめる眼も美しい。

本の画象

葦工房(定価1800円+税)
2009年9月刊
田中克彦著
『ノモンハン戦争』
―モンゴルと満洲国―

 外モンゴルはソ連によってモンゴル人民共和国となり、内モンゴル東端は満洲国に編入された。だが満洲国の消滅によっても、東端はモンゴル人民共和国に編入されなかった。ソ連が阻止したからである。ノモンハン戦争の満洲国軍(モンゴル人)=日本軍の敗北は、ソ連が汎モンゴル主義に止めを刺すための絶好の機会を与えることになった。このように語る著者は、ロシアと中国から、モンゴル諸族の統合を支援する汎モンゴル主義者と指弾されている。

本の画象

岩波新書(定価819円・税込)
2009年6月刊



2009年10月5日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


穂村弘対談集
『どうして書くの?』

 人気の歌人が高橋源一郎、長嶋有、一青窈、川上弘美などと話したその対談集。言葉自体の表現力と作者の表現欲とのせめぎあい、それを穂村はところどころで話題にしている。短歌には、短歌という業界を超える作者が時々現れる。穂村は俵万智の後に出たそのような歌人だろう。俳句は子規を唯一の例外としてすべての俳人は業界人である。

本の画象


筑摩書房(1500円+税)
2009年9月刊
石川九楊著
『近代書史』

 700頁を越す大冊である。まだ読み終えていないのだが、碧梧桐の音数律を喪った「短詩」は、書(書体)において「音数律を補って天然自然との共歓を表現した」という見方などにウーン?と考えこんでいる。碧梧桐の書って、とても歪な感じで天然自然の素朴な息吹を感じないから。中村不折の私には奇怪に見える書も著者は高く評価する。この大冊をじっくり読んで碧梧桐や不折を再考したい。

本の画象

名古屋大学出版会(各18000円+税)
2009年8月刊


塩谷則子の推す2冊


加藤郁乎著
粋で洒脱な風流人帖
『俳の山なみ』

 「芥川龍之介より贈られし漱石句集の中にはさまり残れるもあはれ
 干からびしままの栞ぞ萩の花 下島空谷」
 空谷は龍之介の主治医。死を看取った。龍之介に「薇(ぜんまい)の綿からぬけて暖かき」を激賞された。非売の句集『薇』(昭和15年)があるという。空谷のような隠れた30名の俳人の伝記と自句自解。博識を基にした温かな眼差しの本。

本の画象


角川学芸出版(定価2000円+税)
2009年7月刊
松波太郎著
『よもぎ学園
高等学校蹴球部』


 サッカー部でなく蹴球部、がこの小説のみそである。人はなぜ蹴りたくなるのか。足は頭から遠いから理性を超えた行動をする、理由はない、という卒論を書いた35才の女性監督・萩将子がりりしい。素敵なヒロインだ。佳人薄命、死んでしまうのが残念。著者は82年生まれ。三重県が舞台というのも面白い。まず、蹴ろう。そうだよ。

本の画象

文藝春秋(定価1429円+税)
2009年8月刊



2009年9月28日号(e船団書評委員会)

桑原汽泊の推す2冊


2009年9月刊
大角真代句集
『手紙』

 野狐禅、野狐ニヒリズムって・・・。あー、脱輪・・・。
 林檎の芯、さつまいも、葡萄、猪、大角・・・。グレーレンズマンとか、誓いがヘンなんだよ・・・。タイガー電子ジャー、炊・き・た・て、好き。

 早期再開を栗ご飯へ誓う 真代  

本の画象

創風社出版(1200円+税)
2009年8月刊
河合隼雄著
『いじめと不登校』

 あお向けで、ゆく雲をながめている。
 「自然というものが完全にその子に対して母なるものとして機能したんではないかと思うのです。・・・・・・。」
 『とりかへばや、男と女』や、対談などでも、ハッとしています。

本の画象

新潮文庫(514円+税)
2009年9月刊


葉月ひさ子の推す2冊


ローズアン・ソング文
エリサ・クレヴェン絵
椎名かおる訳

『願いごとのえほん』
幸せを呼ぶ世界のおまじない

 おまじないとはひそかに唱える言葉、とびっきりの自分の言葉だから詩だと思う。はみ出さんばかりの絵で世界15カ国のおまじないの様子が紹介されている。銅貨をもらったら靴の中に入れておくロシア式に頷き、願いごとを書いてオレンジ(古くは芋類)にくくりつけ、菩提樹の枝に引っかける!という中国式にも驚嘆する。日本の紹介は七夕祭り。

本の画象

あすなろ書房(定価1600円+税)
2009年6月刊
渡辺 保著
『江戸演劇史』上・下

 読み始めて出て来るのは人名ばかり、「下巻」になってやっとなじみのある団十郎、菊五郎達が登場し現在につながる。江戸時代という近世の夜明けから落日までを生き抜いた、まさに歌(音楽性)、舞(舞踊)、伎(演技)のバランスをはかるかのような演劇史。「助六の粋とは答礼、挨拶、言い訳を洒落のめした美学である」と言い切る文章が小気味良い。

本の画象  本の画象

講談社(定価各2800円+税)
2009年7月刊



2009年9月21日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊


谷川俊太郎著
『詩めくり』

 一日一詩、366篇の詩片で構成されている。親本は1984年刊行だから25年前。しかし、それぞれの言葉が少しも古びていない。ちょっとご紹介。「7月26日/そうっとのせるんだよ/そうっと/水たまりに張った薄い氷の上に/おまえの生みたての卵を/それはかけがいのない練習だ」。ついでにちょっと宣伝を。当社くもん出版より37年前の谷川氏の絵本を3冊復刊した。絵は22年前に亡くなったデザイナー堀内誠一氏。『ぴよぴよ』『かっきくけっこ』『あっはっは』から成る言葉絵本だが、文も絵もちっとも古さを感じさせないように思う。谷川さんの詩に出会うたびに、時代にとらわれない時代性、ということに、いつも考えが及んでしまう。

本の画象

ちくま文庫(本体800円+税)
2009年9月刊
吉本隆明著
『夏目漱石を読む』

 2002年に刊行された講演録の文庫化。「書くこと」と「読むこと」の中間に論旨の展開の特徴を作りたいというように、「書く」に徹した氏の他の著書に比べて読みやすい。漱石の乳幼児期の生い立ちにも起因するパラノイア気質、そしてそれに関連する被害妄想や追跡妄想を主なベースに作品を読み解いていく。例えば『虞美人草』。難解な字句に満ちた美文調で、多くの欠陥を持った作品と。しかし「もとを正せば文学とはこういうものだった」という文学の初源性を持っているだけで第一級の作品に値すると言う。う〜む、何となく解ったような気も。もっとも初読は冒頭の比叡山から降りる前に放り出し、何度も挫折しては気を取り直す私には、難しいかぎりではあるが。

本の画象

ちくま文庫(本体800円+税)
2009年9月刊


田中俊弥の推す2冊


東京やなぎ句会編
『五・七・五 句宴四十年』

 本年6月17日で480回を数える東京やなぎ句会は、入船亭扇橋、永六輔、大西信行、小沢昭一、桂米朝、加藤武、柳家小三治、矢野誠一、故人として、神吉拓郎、江國滋、三田純市、永井啓夫といった固定したメンバーで、毎月17日に定例で開催。本書は、その記念誌で、大人のユーモアを堪能できる軽妙洒脱な一冊。

本の画象

岩波書店(定価2100円・税込)
2009年7月刊
内井惣七著
『ダーウィンの思想』
―人間と動物のあいだ

 2009年は、おりしもダーウィンの生誕200年、『種の起源』が発行されて150年。この記念すべき年に、科学哲学を専門とする筆者が、これまでの研究と思索の粋を結集して、ダーウィンの滅びない新しさを明解に論究。ダーウィンの思索のドラマをたどりながら、「進化論」の本質に迫る展開は、とてもスリリング。

本の画象

岩波新書(定価777円・税込)
2009年8月刊

[e船団・週刊ブックレビュー]バックナンバー



2009年9月14日号(e船団書評委員会)

大角真代の推す2冊


藏前幸子著
俳句と俳文『さっちゃん』

 さっちゃんと呼ばれてうれし夕茜
 静かな語り口で日常の中の非日常へ誘う俳文と交互に現れる俳句が響き合っていて素敵な一冊だ。万物への好奇心と人と関わることへの嬉しさを感じる。
 前髪を揃えて明日は文化の日
 母逝きて昨日も今日も秋の風

本の画象

沖積社(2000円+税)
2009年7月刊
くるねこ大和著
『くるねこ4』

 著者と飼い猫との日常を描く第4巻。私は猫が苦手だったのですが、著者の本で猫が大好きに。もんさん、ぼん、ポ子、トメちゃ、胡ぼんの愛らしいことといったら!もう。
 落ち込んだ時に読むと、ほんわか幸せ☆

本の画象

エンターブレイン社(1000円+税)
2009年7月刊


朝倉晴美の推す2冊


益川敏英著
『「フラフラ」のすすめ』
いま、人生の基礎力を鍛えよう!

 講談社の「15歳の寺子屋」シリーズ。ノーベル賞受賞で英語嫌いの益川さん。決してエリート少年ではなかったけれど、「知る」ことへの興味が尽きることはなかった。「学ぶ」ことは「知る」こと。「知る」ことへの努力が人を形成し、人生を作り上げるのだ。できれば、その「努力」は夢中になれるものが良いな。

本の画象

講談社(1000円+税)
2009年7月刊
北原保雄著
45分でわかる!
『14歳からの日本語の基本』

 こちらもティーンエイジャーに向けて書かれたもので、コンパクトにまとまった良書。今現在の日本語の状況、つい間違って使ってしまっている日常の言葉、そして敬語。言葉は常に変化してしかるべきであろうが、やっぱり、きれいにしゃべる人には魅力を感じる。言葉は大切に使い、大切に接するべきもの。敬意があっても良いくらいだ。

本の画象

マガジンハウス(840円・税込み)
2009年7月刊



2009年9月7日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊


金子兜太句集
『日常』

 著者第十四句集。年齢を重ねることは悪いことではないと頷ける。それは肩の力を抜いて自在さと自由を得るということであろう。「徒に構えず生生して有ること、その宜しさを思うように」なったと述懐する兜太にとって、「日常」とは例えばこんな風景であるのだ。
 ぽしゃぽしゃと尿瓶を洗う地上かな

本の画象

ふらんす堂(2200円+税)
2009年6月刊
村上春樹著
『1Q84』(BOOK 1・BOOK 2)

 1984年を舞台とした男と女の二つの物語が同時進行で展開する。そして空に二つの月を持つ少し捻れた「1Q84」年の世界で二つの物語がクロスしてゆく。村上ワールドの一層深化した物語世界は、続編があるのではとか言う評者を笑うかのように静かに完結している。

本の画象 本の画象

新潮社(各1800円+税)
2009年5月刊


三好万美の推す2冊


正木ゆう子著
『十七音の履歴書』

 出生当時から少女時代、俳句と出会った学生時代から現在に至るまで家族や友人との関わりなどが印象的なエピソードを織り交ぜて綴られており、正木ゆう子の俳句のバックグラウンドが伺える。折に触れて江津湖や阿蘇など故郷の自然に身を置き、五感を柔軟に解き放って四季や宇宙を感じる。そんななかから生まれてくる正木さんの俳句に、これからも注目していきたい。

本の画象

春秋社(定価1800円+税)
2009年7月刊
太宰治・長部日出雄著
―太宰治100の名言・名場面―
『富士には月見草』

 太宰治生誕百年記念出版本が書店に幾つも並んでいる。本書は太宰治の魅力と豊かな創作世界をコンパクトなかたちで伝えており、これから太宰治を読んでみよう、読み直してみようと思わせる一冊である。

本の画象

新潮文庫(定価400円+税)
2009年5月刊



2009年8月31日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


川合康三著
『曹操』
―矛を横たえて詩を賦す―

宦官の養子の子曹操は、「マイナスの札をいかにプラスに変えていった」のか。具体的な資料から、足跡が時代背景とともにたどられる。古い束縛から自由であった曹操だからこそ、過剰な技法と語彙を用いるそれまでの「文学の因習」にも新しい風を吹き込むことができたのだ。魅力的な曹操像を知ることができた。

本の画象

ちくま文庫(900円+税)
2009年7月刊
辛島昇著・大村次郷写真
『インド・カレー紀行』

 本の最初に、夏目漱石『三四郎』(明治41年)の与次郎が、三四郎にライスカレーを食べさせる場面が出てくる。(当時は「ハイカラな洋食」だった。)話題の中心はカレーだが、多様性をかかえながら統一性を持つインド文化論である。長年の南アジア研究と長期のインド滞在に裏付けられたわかりやすいインド入門の本。

本の画象

岩波ジュニア新書(980円+税)
2009年6月刊


若林武史の推す2冊


坪内稔典編
『現代俳句入門』

 新装版ということになるらしい。約四半世紀前に編まれた現代俳句評論、随筆を中心とした一冊の再版。読んでみて、現代俳句という潮流の来し方行く末を考える大事な資料であると思った。そして、そこに見られる現代俳句の何が、今日の俳句に継承されているのか、よく考えてみたいと思った。

本の画象

沖積舎(1800円+税)
2009年8月刊
語り・田村隆一/文・長薗安浩
『詩人からの伝言』

 詩人田村隆一が生前、雑誌『ダ・ヴィンチ』で語ったものをまとめた一冊が文庫本化されたもの。東京生まれらしい言葉や言い回しが、随所に見られる。一本、筋を通して生きる潔さに、学ぶところも多い。ちっこく生きる方がお得に感じられる今日、こういう生き方や考え方に憧れを少し感じる。

本の画象

MF文庫(467円+税)
2009年6月刊



2009年8月24日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


柳克弘句集
『未踏』

ゆびさきに蝶ゐしことのうすれけり(03年)
蝶ふれしところよりわれくづるるか(04年)
在ることのあやふさ蝶の生まれけり(05年)
死に至るやまひの蝶の乱舞かな(06年)
ランボオの肋あらはや蝶生る(07年)
キッチンにもんしろてふが落ちてゐる(08年)
・・・・・
 80年生まれの「俳壇の期待の星」が年代順に編んだ第一句集。07年からがよい。文学青年臭が消えて具体的な像を結ぶようになっている。ところで蝶は何の喩だろう。「ことば」の喩、と読むと面白い。

本の画象

ふらんす堂(2400円+税)
2009年6月刊
坪内稔典著
俳句と俳文
『高三郎と出会った日』

 月欠けて高三郎と出会った日  稔典

 ちょっとユーウツな日、高三郎(草の名。童話の人の名を思わせる)を知って明るい気分になった。「言葉が作る風景」を句に詠もうと思っている、「気分の根っこを生き生き」させるため全国のカバに会ったという俳文のあとで掲出句を読むと「月欠けて」の必然性がわかる。明確な俳句観。「ぼくの中にぼくの顔した河馬がいて水に写った虹を食べてる」(稔典)。虹を食べる甘い叙情が句に滲出。

本の画象

沖積舎(2000円+税)
2009年7月刊


武馬久仁裕の推す2冊


久保純夫句集
『フォーシーズンズ++(プラスプラス)

 普通のことを不穏な現象へと転化する見事な技に感嘆するばかりである。例えば「湯婆の凸凹にある善と悪」。湯婆に凹凸があるのは当たり前である。しかし、その凹凸も作者にかかると「善と悪」のせめぎ合いなのだ。「湯婆」が「湯たんぽ」でなく「奪衣婆」の仲間に転化する仕掛けも愉快だ。この全900句からなる第7句集は、作者ではないが、「久保純夫の俳句は面白い」(本書「あとがき」)の一語に尽きる。

本の画象

ふらんす堂(定価3800円+税)
2009年7月刊
金子勝・アンドリュー・デウイット著
脱『世界同時不況』
オバマは金融危機を克服できるか

 「景気はどうなるのか」と不安にかられ読んでみた。感想は、景気は当分、恐らく来年も良くはならないであろうということである。オバマ大統領の下でも、アメリカの金融界は次のバブルを求め始めており、そのねずみ講的体質は改善される気配はない。もはやオバマ頼みでは何も解決しない。しかし、日本よ悲観することはない、先の経済危機での失敗を糧に世界のトップに躍り出るチャンスなのだ、と本書は日本に奮起を促している。

本の画象

岩波ブックレット758(定価567円)
2009年6月刊



2009年8月17日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


高田祐彦訳注
『新版 古今和歌集』

 注や現代語訳がついた新しい文庫版古今和歌集である。私は窪田空穂の『古今和歌集評釈』に親しんできたが、この文庫と窪田の評釈を突き合わせながら古今集を改めて楽しみたい、という気分になっている。高田さんは中古文学を専攻する青山学院大学の教授。

本の画象

角川ソフィア文庫(1124円+税)
2009年6月刊
鷲田清一著
『シニアのための哲学』

 これはNHKラジオ「こころをよむ」のテキストだが、「いつでも未熟になれる可能性を含んだものとなってこそ、ひとは成熟したと言えるのではないだろうか」などという発言に共感した。未熟とは大人が作っている秩序の外に出る力、あるいは秩序をこぼれる感受性など。それらは老性と幼性の核をなしていると鷲田さん(大阪大学総長)は見ている。

本の画象

NHK出版(800円・税込み)
2009年7月刊


桑原汽白の推す2冊


野坂昭如・宮田昭宏著
脳力アップのための言葉遊び
『ひとり連句春秋』

柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 子規
やりたいと思へどテキはやらせない 昭如

 「へば」はドンキホーテ、「へど」はハムレット。ぼくは、デ・ラマンチャのように風車に突進したい。思いをとげたい。けど、ついにはオリの中って・・・。

本の画象

ランダムハウス講談社(1600円+税)
2009年6月刊
プロジェクト新・偉人伝著・編集
この人を見よ!
歴史をつくった人びと伝5
『岡本太郎』

炎えさかるガイコツ(渋谷)、通称、太陽の塔(大阪)。絵画と彫刻。
「コップの底に顔があったっていいじゃないか!」
キャンバスの、藁で結われた長ねぎには、心を炎えたたせられる。あつい太郎である。

本の画象

ポプラ社(1200円+税)
2009年3月刊



2009年8月10日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す2冊


小野正弘(おの・まさひろ)著
『オノマトペが
あるから
日本語は楽しい』


 身体性に培う、いきいきとした表現力をもったオノマトペの魅力、その豊かな世界の現場を、軽快に、ときにマニヤックに語りかけてくれる、なかなかに奥行きがあって、刺戟的な日本語論となっている。これも、ひとえに著者の『日本語オノマトペ辞典』(小学館、2007)という地道でたしかな仕事があればこそと感じた次第。

本の画象

平凡社新書(720円+税)
2009年7月刊
渡部泰明(わたなべ・やすあき)著
『和歌とは何か』

  定型詩としての歌は、そもそもいかなる言語表現なのか、なぜ今日まで命脈を保ってきたのか、その謎を「和歌は言葉による演技である」という視覚から解明しようとした野心的な一書。和歌のレトリックを「儀礼的な空間」論の立場から鮮やかに論じ、「演技性に満ちた行為」としての歌づくりの歴史を鋭く見通している。

本の画象

岩波新書(780円+税)
2009年7月刊


葉月ひさ子の推す2冊


室生犀星著

『庭をつくる人』

 昭和2年に単行本が出て以来、全集にも解体して収められていたという。復刊された一冊は、13の章立てで詩、発句、随筆に至る犀星文学を文庫版にしたもの、岸田劉生の装丁も残している。「俳道」の章、「骨格」という小文の中で一茶の「次の間の灯で膳につく寒さかな」に触れ、「この一句を見ても一茶の骨格が既に小説家であることが解る」と断じていることが興味深い。

本の画象

ウエッジ文庫(800円+税)
2009年6月刊
中田幸平著
『江戸の子供遊び事典』

 「遊びの方法や歌詞の課題には触れず、考証を主眼として進めた」とあとがきにある。手遊び、軒下遊び、外遊びと大きく分けた百十四種の遊びが、明治十八年収録の「東都子供あそびの図」からさしえとして配されている。江戸時代から遊び継がれているものが勿論あるが、生活の知恵、体力づくり、人との関係の超アナログさ!を子供遊びの中に発見できることに驚く。

本の画象

八坂書房(定価3600円)
2009年6月刊



2009年8月3日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


北原保雄編著/「もっと明鏡」委員会編
みんなで国語辞典2
『あふれる新語』

 「ザビってる」=襟が立っているさま(ザビエルの肖像画の襟から)。「こそアド」=こっそりメールアドレスを交換すること。「足軽」=(1)剣道で袴と胴着を忘れ、体操服の上に胴と垂れを付けた人。(2)レベルの低い人。やるじゃん!若者!言葉とは常に変化し、新しい力を発揮するものだ。「起力」もなるほど。眠たい朝などに起きる力だそう。

本の画象

大修館書店(840円・税込み)
2009年4月刊
長野まゆみ著
『お菓子手帳』

 『お菓子手帳』・・・長野まゆみ!『少年アリス』の作者が、祖父からの甘党の系譜を紐解きながら、昭和30年代からの、こだわりスイーツを自伝風に、熱くもシニカルに語る。また、輸入菓子の来歴にも一読の価値あり。金花糖にフランスキャラメル、イングリッシュマフィンやカバヤのジューC、懐かしい菓子たちとの幸せでお腹のすくひととき・・・。

本の画象

河出書房新社(1365円・税込み)
2009年6月刊


赤石 忍の推す2冊


田澤拓也著
『無用の達人 山崎方代』

 親本は2003年5月角川書店から。著者は青森県出身の気鋭のノンフィクション作家で、その著書に『虚人寺山修司伝』がある。人への「甘え」の中で虚言と笑いを振りまきながら生きていく方代。人はもしも「無用」に生きていけるならそれだけで「達人」であると著者は記す。修司が自らの表現・生き方を含めて、我々の取り巻くものすべてが虚構なのだと声高に叫ぶのに対し、方代は自分のみが虚構であるがゆえに、許容を他人に哀願するかのよう振舞う。「誤って生れ来しことのあやまちを最後に許し死なしめ給え」の作意への問いに対し、長い沈黙の後「だって、こうしなきゃ短歌にならないじゃん」。「たぶん、そうなんだね」としか、応えようがない。

本の画象

角川文庫(781円+税)
2009年6月刊
半藤一利著
『昭和史(上・下)』

 親本は平凡社から。毎日出版文化賞特別賞受賞作品の文庫化。日本は1865年(慶応元年)から西欧に近づこうと国造りを始め、四十年後の1905年日露戦争勝利で列強の仲間入り。高慢に成り過ぎた四十年後の1945年敗戦で何もかもを失う。七年間の植民地的な扱いの後、講和条約調印を経て1952年からの新しい国造りに取り組み、高度経済成長を果たした四十年後の1992年、バブル崩壊で現在に至る。著者は経験から何も学ばず同じ発想を繰り返し、四十年の周期で社会を作っては壊す日本人の姿を分かりやすい言葉で語り続ける。その一部を成す1926年から1989年の「昭和」とはいったいどんな時代だったのか、本書とともに振り返るのも一興だろう。

本の画象本の画象

平凡社ライブラリー(各900円+税)
2009年6月刊



2009年7月27日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊

坪内稔典句集
『水のかたまり』

 著者十一冊目の句集。数多くの句集を出して自己模倣に陥らないのは希だが、ネンテン氏の目は常に俳句の新しい地平に注がれている、と言うより、句集が次々と新しいネンテン氏を作り出しているようだ。日常語の斬新なモザイクからドライな叙情が横溢する。
 象がふと横歩きして牡丹雪


本の画象

ふらんす堂(2400円 税込み)
2009年5月刊
架神恭介・辰巳一世著
『よいこの君主論』

  マキャベリの「君主論」の解説書だが、従来のような堅苦しい解説書ではない。小学校5年生のあるクラスでのヘゲモニー争いを小説風(マンガ風?)に仕立てながらの解説で、面白い。現実の学校の子ども達の実風景としても読める。

本の画象

ちくま文庫(780円+税)
2009年3月刊


大角真代の推す2冊


わたなべじゅんこ句集
『junk_words@』

 著者の第3句集。新しい表現の形を取り入れた意欲的な句集で、新鮮な言葉に惹かれた。昨年出版された第2句集と対になっていて、2冊の句集を読み比べると、読む度に著者の仕掛けが発見できて、楽しい。「かば一頭お届け完了秋の昼」「今夜withカマダ@梅田温め酒」「夏の午後人殺しなど・・・」などが好きな句。


本の画象

創風社出版(1200円+税)
2009年6月刊
大津秀一著
『死ぬ時に後悔すること25』

 終末期医療の専門家が書いた死ぬ時に後悔することを25項目に分けて解説。後悔のないよう今から準備をしておくのがいいかも?25個めの項目は「愛する人に「ありがとう」と伝えなかったこと」と、予想通りの項目だが、思わず涙した。他には遺産の話、健康の話など。

本の画象

到知出版社(1500円+税)
2009年5月刊



2009年7月20日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


正木ゆう子句集
『夏至』

 表紙に「半年後、私たちは太陽の向こう側にいる」という安野光雅氏の至言がある。太陽や地球などスケールの大きな句を詠もうという作者の姿勢が随所にうかがえる一方、生来のものかユーモアを感じさせる句も多く見られる。「太陽のうんこのやうに春の島」「皿持って河童の気持ち半夏生」など。

本の画象

春秋社(2000円+税)
2009年6月刊
土井隆義著
『キャラ化
する/される
子どもたち』


 無差別殺人が社会問題と取り沙汰される今日、その背景を考えるヒントとなる小冊子。小グループの中で自分のキャラを演じる意味や自己肯定感が希薄な現代人の内面について考えさせられる。個人的には「句会でしか、その場のキャラでしか、生きられない人になりませんように」と星にお願いした。

本の画象

岩波ブックレットNo.759(480円+税)
2009年6月刊


三好万美の推す2冊


小枝恵美子句集
『ベイサイド』

 口語を積極的に取り入れて、ユーモアがあってさっぱりと明るいイメージの句が並ぶ。その一方で、郷愁を感じさせるしっとりとした詩情のある句もあって、表現の幅広さを感じる。草木も動物も、空や風も、ともに生きる大切な仲間。作者のそんな優しい視線が見えてくるような気がした。

本の画象

ふらんす堂(2300円(税込み)
2009年6月刊
宇多喜代子・大石悦子・茨木和生共著
『旬の菜時記』

 旬の食材のおいしい食べ方を、俳句とエッセイ、料理とレシピで紹介されている。料理が全てカラー写真で掲載されているのがうれしい。はじめてその名を知る伝統料理からお総菜、洋食まで取りあげている料理はさまざま。三人の著者それぞれの、食へのいとおしみ、楽しみ方が伺える。

本の画象

朝日新聞出版(1000円+税)
2009年4月刊



2009年7月13日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


ラビンドラナート・タゴール著
『最後の詩』

 タゴール(1861〜1941)は、1913年、ノーベル賞を受賞、森鴎外や夏目漱石と同時代のインドの詩人。この作品は、1928年8月〜1929年3月、ベンガル語(現在の使用人口約2億人)の雑誌に連載された「詩小説」である。この詩小説にも朗読の場面がある。音読される詩歌はどこまで翻訳できるのだろうか。

本の画象

北星堂(1900円+税)
2009年4月刊
鴨下信一著
『日本語の学校』

  小説『朗読者』(映画『愛を読む人』)の15才の少年は、21才年上の女性と恋に落ち朗読を聞かせる。読まれるのは日本でもよく知られた作品ばかりで、恋人に聞かせるためだけに朗読される。『日本語の学校』は、まさに意識的に聞かせるための本である。多くの発見がある本だが、「大きな声で読まない練習を」は意表をつかれた。

本の画象

平凡社新書(760円+税)
2009年5月刊


武馬久仁裕の推す2冊


畑谷史代著
『シベリア抑留とは
何だったのか』

―詩人・石原吉郎のみちのり―

 「一日が異常な出来事の連続でありながら、全体としてなにごとも起こっていない」ラーゲリ(強制収容所)の日常を生き延びた石原は、1953年帰国し詩人となった。しかし、スターリニズムを告発することはなかった。人間への深い絶望から「ラーゲリを生み出したものは、自分の外にではなく内にある」と、人間存在とは何かを問い続ける方向へ進んだからである。それを持続させたのは、ラーゲリと同じ世界に帰って来たという自覚であった。

本の画象

岩波ジュニア新書
(定価777円)
2009年3月刊
岡庭 昇著
『漱石・魯迅・
フォークナー』

―桎梏としての近代を超えて―

 岡庭の読みは魅力的だ。『それから』に、三千代が代助に「何故それからいらっしゃらなかったの」と聞く場面がある。この「それから」は、2人が性愛の関係に入った時を特定していると言うのだ。全き愛は性愛に到る。しかし、共同体からの追放の危機が迫る。にもかかわらず2人が自由へと踏み出すには、性愛がもたらす危機のリビドーが必要だと岡庭は言う。「私は過激に読む」の言葉通り、彼の漱石、魯迅、フォークナーは、超過激だ。

本の画象

新思索社(定価2625円)
2009年5月刊



2009年7月6日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


車谷長吉句集
『蜘蛛の巣』

 死んでまた地獄の夏に鎌を研ぐ  長吉

  素直な心情吐露の句だ。登場人物を傷つけることもある「私小説」を意識的に書くための、露悪を強調した小説の騙り(語り)の文体が、句では消えている。しかし「刺青の女老いゆく吾亦紅」「農薬を呑みしをんなに寒の月」など小説家車谷長吉ならではの句も多数。サービス精神満載。

本の画象

沖積舎(定価2500円)
2009年6月刊
水村美苗著
『日本語で
読むということ』

  優れた漱石論でもある『日本語が亡びるとき』以来水村美苗ブーム。人間を押していく牛になることが必要だという漱石の手紙を引用、人間とは「言葉が創り出す世界」である小説を読みたい読者のことだとの断言が小気味よい。読者は精神の気高さを求める。そのありかを示した各小説論は新鮮で再読したくなる。

本の画象

筑摩書房(定価1680円)
2009年6月刊


小林幸夫の推す2冊


松本市壽編
『良寛』
―旅と人生

 手毬と子ども。良寛を語るときのおきまりの視点。これはあまりおもしろくない。かれの境涯を、和歌と漢詩からたどっていく。これもまたおきまりである。しかし、わかりやすいのはなによりだ。むずかしい批評ではない。初心者向きの入門書である。かれは生涯に千数百首の和歌、七百首ほどの漢詩をのこした。それをすべて読むことはできなくても、この一冊から良寛と詩歌、詩歌とはなにか、に思いをめぐらせるのも楽しいだろう。
 わたしなどは七十年の生涯に思いをはせた「草庵雪夜作」などがお気に入りだ。

本の画象

角川ソフィア文庫(667円+税)
2009年4月刊
原 武史著
『松本清張の「遺言」』
―『神々の乱心』を読み解く

 松本清張の遺作から読み解かれるのは、「お濠の奥」、皇居に暮らす天皇の生活ではない。興味半分の内幕ものではない。たしかに時の権力者や侍従たちの残した記録や日記はある。しかし、「お濠の奥」を知るには、あまりに史料が少なすぎるという。しかし、『昭和史発掘』を残した清張の「炯々たる史眼」は、わずかな史料から「天皇制」を読み解いていく。それが『神々の乱心』である。昭和天皇と母貞明皇后の確執、そこから浮かびあがる宮中祭祀の問題。これは『大正天皇』、『昭和天皇』につづく、筆者の天皇制論でもある。

本の画象

文春新書(本体800円+税)
2009年6月刊




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