俳句 e船団 ブックレビュー
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2010年 6月28日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


大角 修著
『「宮沢賢治」の誕生』

 「そのとき銀河鉄道の汽笛が鳴った」と副題が付く。著者は仏教書、児童書の編集・執筆活動と共に『賢治研究』誌の編集委員。賢治文学は法華文学と評されていても、仏教を意識しないで読むことができる。「賢治は仏教学の研究をしたわけではなく『法華経』の一部の語句に身が震えるほど感動したのだ」との指摘がその答かもしれない。

本の画象

中央公論新社(2400円+税)
2010年5月刊
日本ぎぼうし協会編
『ギボウシ図鑑』

 ギボウシは日本が原産地、初夏の庭に芽吹くと緑色なのにけっこう存在感がある。そのギボウシ属(学名ホスタ)の膨大な写真と図版を眺めているだけで楽しい。海を越えて園芸品種として愛でられ、ホスタ・オブ・ザ・イヤーも開催されているという。葉の形状や色の細やかな分類法には脱帽、斑入りの葉は母性遺伝ということにも驚き。

本の画象

誠文堂新光社(4600円+税)
2010年4月刊


桑原汽泊の推す2冊


詩・茨木のり子/モデル・多部未華子
『わたしが一番きれいだったとき』

 知らない子とコーヒー話。おかわり。ベリーベリーチーズケーキは冷蔵庫。おめでとう魁皇! 1000勝達成!
 あっというま。よんだ。みとれた。チョコレート。あっというま。

本の画象

毎日コミュニケーションズ(定価1580円+税)
2010年2月刊
JR6社共同編集
『JR時刻表』

 転轍する300系
  雪 雪 雪
 釜飯隊、だるま弁当隊
 D51は
 いま松本駅に

本の画象

交通新聞社(定価1095円+税)
2010年5月刊



2010年 6月21日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊


都築響一著
『夜露死苦現代詩』

 「夜露死苦」は暴走族用語。著者は「詩は死んでいない。死んでいるのは現代詩業界だけだ」とし、「世の中には現代詩人よりはるかに切実にリアルな言葉を必要としている人々がいる」と主張する。タイトルはその象徴。つまり読者のいない現代詩は「詩」に値しないということ。一面はそうだろう。だがと思う。著者との対談上での谷川俊太郎氏の言葉がとても分かりやすい。「今では言語そのものに他者が含まれていると思う。どんなに自分勝手に書いてもそれを私有することはできない」。しかし「詩人と、教唆的な相田みつをや詩人格のない表現者との境目だけは、確かに存在する」と続ける。ドグマに陥っている読者不在の現代詩。それは結社など小さな枠の中だけで分かり合っている現代俳句にも、逆の意味で同じようなことを言えはしまいか。

本の画象

筑摩書房(950円+税)
2010年4月刊
竹内政明著
『名文どろぼう』

 本書で言う名文の定義を「心をくすぐる言葉・文章」とし、「くすぐられた心から生まれたものは、笑い、涙、吐息などである」と続ける。例えば国文学者池田弥三郎氏の話。福島県の宿屋に泊まり夫婦での散歩の際、番頭が大声で「じいさんばあさん、おでかけ」。失礼だろうと問質すと「十三番さん、お出かけ」が真相。また、愛妻を亡くし、鬱病になったお天気博士の倉島厚氏のエッセイから。「人生の長期予報は当たらないのです」。作為の有る無しに関わらず、受け手からポジティブな何かを引き出すことのできる表現は「良質」と言える。「書いていて楽しかった。日本語にまさる娯楽はない」と著者を言う。それは全ての文芸に通じるものなのだろう。

本の画象

文春新書(730円+税)
2010年3月刊


田中俊弥の推す2冊


宮嵜 亀著
『ZIGZAG』
オロロロの丘

 「俳文は俳句的発想による散文」(坪内稔典)。これが、本書のキーワード。俳文とは、晩年の芭蕉によって創始された孤高の文芸であったが、現代の俳文は、旅の楽しみと開放感と人や世界とのライブの交流・交歓のなかにひらかれている。そんな「軽み」の世界が、うれしい。サバンナ紀行と空飛ぶストック譚が秀逸だ。 。


本の画象

れんが書房新社(定価1143円+税)
2010年5月刊
近藤宣昭著
『冬眠の謎を解く』

 冬眠は、英語でhibernation。動物が隠れて姿が見えなくなることに由来するという。冬眠とは、単なる体温低下ではなく、生命を維持し体全体をリフレッシュしていくための生物の進化にかかわる神秘の生理現象であることが明らかにされている。研究は、ドラマ。冬眠物質「HP」の発見に至る道程は、まさにスリリング。

本の画象

岩波新書(760円+税)
2010年4月刊



2010年 6月14日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


金子兜太著
『美しい日本の季語』

 日替わりの歳時記。毎日1ページ、ひとつずつ季語(例句もひとつずつ)をあげ、今の現代にそくした解説を。蚊帳では「……最近ではエコロジーの観点から、蚊帳が見直されつつあります。」と。いろいろな新しい季寄せがでているけれど、気に入った一冊。月ごとに色文字が変わり、毎日ちょっとずつ楽しい。

本の画象

誠文堂新光社(1800円+税)
2010年4月刊
山崎直子著
『何とかなるさ』

 宇宙飛行士山崎直子さん。東大大学院卒(米国留学有り)で、妻でママ。スーパーエリートキャリアママかと思えば、素顔は意外にフツー。それに、家族の別居や単身赴任、介護に夫の病気など、悩む要素も極フツー。みんな、それぞれいろんな壁があるけど、何とかなっていくんだなぁと、心強いエッセイ。

本の画象

サンマーク出版(1400円+税)
2010年2月刊


大角真代の推す2冊


宮沢賢治著
『永遠の詩(6) 宮沢賢治』

 先月の船団のシンポジウムに触発されて、賢治の詩を音読して読んでみた。賢治の詩が唄となって、身体の中に流れ、なんだか悲しみが身体を伝っていた。今まで苦手だった宮沢賢治の詩の魅力がやっとわかった気がしました。本書は解説も丁寧でおすすめです。

本の画象

小学館(1200円+税)
2010年3月刊
マイケル・サンデル著
『これからの「正義」の話をしよう』
―いまを生き延びるための哲学

 ハーバード大学の人気講義の書籍化。政治哲学って面白い!と思った反面、難しい。難しいけど面白い。「殺人者に嘘をつくのは誤りか」「代理母」「臓器売買」等、身近な例示が多く、一冊を通じて飽きない。よりよい社会を作るために哲学者たちはどのように考えたのか。私ならどう考えるか。久しぶりに学問した気分に。

本の画象

早川書房(2300円+税)
2010年5月刊



2010年 6月 7日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊


磯辺 勝著
『巨人たちの俳句』
―源内から荷風まで―

 平賀源内や南方熊楠など、歴史上の異色の人物たちの俳句とその周辺を論じる。題名は感心しないが、俳句を単なる趣味としたのではない人士たちの俳句への関わりを通じて、俳句という文芸の土壌の肥沃さが浮かび上がってくる。

 物あらふおとおさまりて天の川
二世市川団十郎


本の画象

平凡社新書(760円+税)
2010年4月刊
安原喜弘著
『中原中也の手紙』

 30才で夭折した詩人の手紙100通を収録。すべては、最後まで中也の友人であり続けた著者に宛てたものである。手紙とそれに付せられた簡潔な解説から、中也の生活や人となり、また二人の交友のただならぬ軌跡が読み取れる。喧伝されてきた破天荒な中也ではない、誠実を持ち合わせた中也の姿が見える。

本の画象

講談社文芸文庫(1300円+税)
2010年4月刊


三好万美の推す2冊


小西昭夫著
『小西昭夫句集』

 平成6年から平成21年までの684句が収録されている。俳人だけでなく、俳句に関わらない一般の人にも分かる、平明でユーモアのある俳句が並ぶ。
 この「誰にも分かる俳句を」という姿勢は、俳句の世界を外に広げるために重要なことと思う。16年という歳月、作者の人生の一端が俳句となって刻まれてゆく。
 アルバムのページを一枚一枚めくるような感慨を憶えた。

本の画象

創風社出版(2000円+税)
2010年4月刊
日敏隆著
『世界を、こんなふうに見てごらん』

 作者は日本の動物行動学の第一人者で、自然界の「なぜ」を生涯追い求めた科学者であるが、その文章は読者を説得しようとするような硬さは少しもない。
 人間も動物であり、自然界の一員。「海の底のいきものも人間も、どちらが進化していてどちらが上という発想をしない」という本書の言葉にそのことがよく表れている。

本の画象

集英社(1300円+税)
2010年1月刊



2010年 5月31日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


仁平 勝著
『虚子の読み方』

 タイトルは『虚子の読み方』であるが、子規の読み方でもある。魅力的な評論の条件は、やはり文体である。断定的な文章は若く危うく魅力的だ。子規、虚子二人の俳句観、文章観、言文一致の表現史での位置づけ等、著者の整理のし方を一つの例解として、子規を読みつつ、虚子を読み、読者が考えてみるのも面白い。

本の画象

沖積舎(2500円+税)
2010年1月刊
三浦佑之・赤坂憲雄著
『遠野物語へようこそ』

 古くから開けた集落は、市が立ち、人や物と同時に、様々な話が蓄えられた。遠野はそんな場所だった。この本は、「文学/民俗学のはざまに身をさらしながら、それを物語として可能な限り豊饒に読みほどくための試み」と著者(赤坂氏)は言う。行間を補う両著者の想像力が、『遠野物語』の魅力を深くわかりやすく伝えてくれる。

本の画象

ちくまプリマー新書(760円+税)
2010年1月刊


若林武史の推す2冊


俵万智・一青窈著
『短歌の作り方、
教えてください』


 俵万智が一年半にわたって、歌手の一青窈にマンツーマンで指導した記録が中心の一冊。往復書簡による指導のやりとりが面白かった。それは、おそらく一青窈の大胆な推敲のせいだろう。また、本書の中盤の穂村弘を囲んだ吟行後の鼎談は面白かった。短歌の永遠の初々しさに惹かれる一冊。

本の画象

角川学芸出版(1429円+税)
2010年5月刊
今野雅方著
『深く「読む」技術』
―思考を鍛える文章教室―

 小手先の読解に陥らないために、どうすれば深く読めるかということをテーマにした一冊。したがって、内容はおのずと作品ひとつひとつを題材にどのように読むか、読みの陥穽はどこにあるのかという解説が中心になる。考えて読む力とはどういうことかという筆者の見解がまとめてある。ある種の文芸批評として読みたいと思う。

本の画象

ちくま学芸文庫(1100円+税)
2010年4月刊

[e船団・週刊ブックレビュー]バックナンバー



2010年 5月24日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


上野 誠著
『万葉びとの奈良』

 「このころの我が恋力記し集め功に申さば五位の冠」(巻16・3858)=思いを人事考課の功として上申したら五位の冠がもらえるほど大。「記し集め」の背景に律令の文書主義があり、この歌はそれを笑い飛ばしているという。官人は半農、趣味は園芸など平城京人に焦点を絞り、万葉集を新たに読み解く。既に「恋力」という語があったとは。

本の画象

新潮選書(1100円+税)
2010年3月刊
岩田ななつ聞き書き
岩佐美代子の眼』

 83歳の岩佐が人生を語る。19歳でお見合い結婚。妻や母として生きるだけでは、と29歳から『玉葉和歌集』を読みはじめ36歳で研究者になることを決意。56歳で大学教員に。研究にはなにより好きなこと、濫読乱読、眼力、そしてセンスが大切という。4歳のときから昭和天皇の長女照宮のお相手、「女房」という稀有の体験をした岩佐の眼は鋭い。

本の画象

笠間書院(2200円+税)
2010年2月刊


武馬久仁裕の推す2冊


辺見 庸著
詩文集 『生首』

 矛盾に満ち満ちた現代というものを言い留めることができないもどかしさが伝わってくる。句点による細切れの文体がそれを増幅する。「言は剥がれ。いかなる実体も描きえず。まして虚体を名状しえず。実体はかえって消失し。」(「剥がれて」)言い留め得ない無念さを延々と書き綴る辺見庸の詩文は、陰陰滅滅たるものである。しかし、無価値の弱者の価値を見出す時のような美しい言葉(「ズボズボ」)に出会うたびに、私は嬉しくなるのである。

本の画象

毎日新聞社(定価1785円)
2010年3月刊
浅川芳裕著
『日本は世界5位の農業大国』
―大嘘だらけの食料自給率―

 私もスーパーに並んでいる野菜のほとんどが日本産なのに、日本の食糧自給率が41%とはおかしいなと思っていたら、その疑問に答える本が出た。著者の計算は2005年の数字でいうと、(国民1人1日当たりの国内で生産された農産物のカロリー1029kcal)÷(国民1人1日当たりの摂取カロリー1904kcal)=食料自給率54%であるが、農水省の計算法は少し違う。そこには数字のカラクリがあるという。安心すると同時に不安になる本である。

本の画象

講談社+α新書(定価880円)
2010年2月刊



2010年 5月17日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


斎藤英喜著
『古事記 成長する神々』

 グローバル・スタンダードを目指した『日本書紀』に対して、『古事記』はグローバリズムによって失うローカル・アイディンティティの再構築を目指したと著者は言う。とても現代的な見方だが、テキストはいつも論者の「今」を強く反映して読み解かれる。この論者の「今」は、たとえばオホクニヌシの神話を、「ファンタジー小説も顔負けの冒険と戦い、恋の物語」として照らし出す。

本の画象

ビイング・ネット・プレス(1800円+税)
2010年3月刊
梅原 猛著
『葬られた王朝』
―古代出雲の謎を解く

 スサノオやオホクニヌシは出雲王朝の王だった。このことを実際に出雲地方を歩き、伝統行事、伝承、考古学などから実証しようとした本。出雲王朝の存在が明らかになると、天皇家につながるアマテラスの系譜とは別個の系譜が浮上する。そのようないくつかの系譜の存在、それがこの列島の歴史を分厚く多彩にする、と著者は考えているのだろう。

本の画象

新潮社(2200円+税)
2010年4月刊


桑原汽泊の推す2冊


くどう なおこ詩
W.I.えりおっと英訳
にしはら かつまさ英訳
『えいご・のはらうた』

灯さないでいる。
       わたしをみつけて!
       と
       ひかります

わたしの ぜんぶの
からだと こころで

本の画象

童話屋(1250円+税)
2010年4月刊
タイガー立石著
『TRA』

 帰国したタイガー立石。仙人の郷。タオ(道)とかゼン(禅)・・・。うん、『虎の巻』(1982年)。もうすこし大判だったな。うん、ぼくは小僧であり、君は弟子であった。ぼくはひと振り、君はふた振り、ハインツ・モルトビネガー。ハマナスの浜辺で、よしよし、この弁当箱『TRA』・・・

本の画象

工作舎(5000円+税)
2010年2月刊



2010年 5月10日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


中西 進著
『亀が鳴く国』
―日本の風土と詩歌

 古典から現代まで、日本文学と文化の精通者である著者は、目下「中西進著作集全36巻」を刊行中。「亀鳴く」という季語を使って句作をするのは勇気がいるけれど、「俳句の嘘」という章を読むと日本人の美意識が掴める気がする。「第2芸術論」の理解についても、国民詩的なものはどこの国にもあり「第2芸術」はあってしかるべしと明快。

本の画象

角川学芸ブックス(1600円+税)
2010年2月刊
マイケル・パターソン著/山本史郎監訳
図説ディケンズの
『ロンドン案内』

 「新興国」第1号の19世紀ロンドンと、遅れること1世紀余の高度成長期の映画「東京物語」の郷愁と比しているのは訳者あとがき。文豪チャールズ・ディケンズが暮らした1822〜1870年のロンドンは世界最大の都市、当時を鮮やかに書き残した文章と、全く別の33葉の図版が共鳴する不思議。19世紀の後半にはわれらが“シャーロック・ホームズ”が登場する。

本の画象

原書房(3200円+税)
2010年3月刊


田中俊弥の推す2冊


道浦母都子著
『たましいを運ぶ舟』

 標題は、「〈たましいを運ぶ舟なり短歌とは〉記して後のながき緘黙」による。心の病気「うつ」とともに生きてきた著者の、「生きること」を希求する魂の遍歴がここに刻まれている。歌人の与謝野晶子、齋藤史、中城ふみ子のこと、染織家・志村ふくみのことなど、旅する歌日記としての随筆文学の新味にあふれている。

本の画象

岩波書店(定価1400円+税)
2010年4月刊
上原善広著
『日本の路地を旅する』

 標題の「路地」とは被差別部落のことで、中上健次の文学用語。著者は、大阪の「路地」を出自として生まれ、そして育ち、流離して、日本全国に点在する「路地」をたずねる旅をつづける。本書は、その魂のルポルタージュ。われわれの生の営みや生業、とりわけいまに連なる忘れてはならない日本の歴史を鋭く照射する。

本の画象

文藝春秋社(定価1600円+税)
2009年12月刊



2010年 5月3日号(e船団書評委員会)

赤石忍の推す2冊


坪内稔典著
増補 坪内稔典の『俳句の授業』

 「私の世界の限界は、私の言葉の限界である」。これは著者が以前、講演でウィトゲンシュタインの言葉として例示したもの。本書の主旨の「作者は句会等で、他人を通して自分の言葉の新しさに出会う」と合わせてみると、俳句は論理の整合性から離れた未完結な文芸だからこそ、個人の世界を広げる可能性を保持しているとも読める。隔月の東京句会に参加して、なおさら俳句の難しさを痛感しているが、楽しみの一つに、メンバーの一人の本村弘一さんが「どこまで飛ぶか」がある。選ばれることを問題とせず、本村さんは飛び続ける(と思う)。自分の言葉が他人との関係の中で精錬されるだけでなく、自分の言葉がどこまで飛べるかが、他人の言葉との距離で確かめられるのも句会の魅力の一つだと言えようか。

本の画象

黎明書房(2000円+税)
2010年3月刊
出久根達郎著
『作家の値段』

 古本屋店主で直木賞作家。あとがきに「本書は古本屋の作家論。著書に売価を付けるための読み方である」とある。もちろん内容の質にも言及しているが、その本の何が稀覯なのか、なぜ高価を知るためには、初版がいつ、どのような状態で刊行されたかをまず知らなければならない。例えば太宰治の処女作『晩年』は菊判フランス装。袋とじの本文がカットされていない美本なら三百万円。もっとも五百部初版で二百部しか流通されていない。宮沢賢治の美本なら値段がつかず、漱石初版本なら三〇万から三百万だそうだ。ポイントは汚れや破れがないだけではなく、函、帯がきちんと揃っていること。そう言えば好きな作家は二冊買って、一冊は大切にとっておくという人がいるが、私にはどうも、う〜ん、気が知れない。

本の画象

講談社(743円+税)
2010年3月刊


朝倉晴美の推す2冊


橋本五郎監修
読売新聞日本語取材班著

『新聞社も知りたい
日本語の謎』


 読売新聞の連載「新日本語の現場」をまとめたもの。気になるマニュアル語から由緒正しい方言まで、正確に分析しています。その上、読み物としても楽しめます。例えば、「今川焼き」と「太鼓焼き」は違うのか、「塩ひとつまみ」とは何グラムか、良く聞く「テンプレート」って何?など。言葉ってやっぱり生きているんだ、と再確認。

本の画象

ベスト新書(857円+税)
2010年3月刊
酒井順子編
『駆け込み、セーフ?』

 酒井順子さんの「負け犬の遠吠え」第二弾。ゲラゲラ笑ってしまいました。酒井さんの小気味良さは、自分の世代はもちろん、どの世代も上から目線で否定しないから。つまり、どの人間にも愛情があってこその、辛口コミカルエッセイだから。そこに、冷静な時代観もあり、読み応え有りです。

本の画象

講談社文庫(600円+税)
2010年4月刊



2010年 4月25日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


俵万智著/市橋織江写真
俵万智の子育て歌集

『たんぽぽの日々』

 幼子の何気ない言葉は、ときに詩的、ときにシビア。その詩的な方のつぶやきを、俵万智はすくいとり文中にからめてゆく。短歌、エッセイと写真の距離が近すぎるものがやや多いのが残念だが、木々に降り注ぐ光や空の淡さが、命を育む日々の穏やかな充実を物語っている。

本の画象

小学館(1600円+税)
2010年3月刊
正木 晃著
はじめての

『チベット密教美術』

 高原に突如現れる巨大な寺院。極彩色で美しい曼荼羅や菩薩像。本書は一般の人々が気軽にチベット密教美術を鑑賞できるように構成された入門書である。チベット密教の宗派や曼荼羅の分類、寺院の構造などが豊富なカラー写真と共に紹介されている。

本の画象

春秋社(2300円+税)
2009年12月刊


大角真代の推す2冊


草野心平著
『草野心平詩集』

 最近忙しい。字のとおり心を亡くしている。中身のない空っぽな人間になった気分だ。そんなとき、本書に出会った。何か体の奥からほっこり暖まるような、うずうずするような不思議な気分。忙しい時には、草野心平を読め、とお勧めしたい。

本の画象

ハルキ文庫(定価680円+税)
2010年3月刊
安野モヨコ著
『くいいじ』【上巻】

 食いしん坊な漫画家の食べ物に関するエッセイ。著者の漫画は読まず嫌いだったが、このエッセイで著書ファンに。エッセイ毎にある食べ物のイラストがとても美味しそう。私もけっこう食い意地には自信があったが、著者には勝てない。

本の画象

文藝春秋(定価1200円+税)
2009年11月刊



2010年 4月19日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


文藝春秋増刊 くりま
総特集 『俳句のある人生』

 一般誌での俳句特集。専門誌とは一味違う俳句の入門を勧める内容。俳句で、人生のよろこびが倍増すると表紙の言葉にある。そういえば、そうだったなぁと、初心に帰らせてくれる。諸先輩方が読まれると、ちょっと恥ずかしいような感じもするかもしれないが、真っ白な気持ちで捉え直す機会となるかもしれない。

本の画象

文藝春秋(980円)
2010年5月刊
梶井厚志著
『コトバの戦略的思考』

 私たちが何気なく使う言葉は経済学の立場から見ると、どのような意味があるのか、という切り口で経済学の物の見方を学ばせてくれる一冊。エッセイなので、厳密な意味での経済学ではないのかもしれないが、言葉に対する姿勢を再考する機会を与えてくれることは確かである。「いつもお世話になります」「よろしくお願いします」といった常套句にも少しは気をつけたいなと思った。

本の画象

ダイヤモンド社(1500円+税)
2010年2月刊


木村和也の推す2冊


山上次郎著
新訂増補 『子規の書画』

 「糸瓜咲て痰のつまりし仏かな」他2句の絶筆の幅が巻頭に掲げられている。子規の書画の写真が豊富。書画成立の過程を丹念にたどって、子規の人柄や交友を浮かび上がらせている。子規の才がいかに多彩で、しかもどれも一級品であったかが見て取れる。

本の画象

二玄社(定価2200円+税)
2010年2月刊
北 康利著
『福沢諭吉』(上・下)
国を支えて国を頼らず

 伝記だが小説よりも面白い。時代と諭吉やそれを取り巻く人物達の交叉がドラマチックである。功利主義という教科書的レッテルによって、われわれは諭吉を誤解してきたのではなかったか。家族友人思いでありかつリアリストであった諭吉の面目が、もと銀行マンであった筆者の実証的な筆によって蘇った。

本の画象本の画象

講談社文庫(定価 上下巻とも495円)
2010年2月刊



2010年 4月12日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


植木朝子著
中世を映す歌謡
『梁塵秘抄の世界』

 今様の流行期は平安時代末、動きが目に見える時代であった。今様を考えることは現代を考えること、著者はそう考える。今様の「鼬、楢の葉、猿」などに見られる動植物の描き方は、「王朝的美意識への反逆」、「俳諧」的、俳諧の先取りである。恋だけではない『梁塵秘抄』の世界が、多面的にとらえられ、今様を支えた人々のエネルギーと悲しみを彷彿させる。

本の画象

角川選書(1500円+税)
2009年12月刊
三浦佑之著
説話の森を歩く
『日本霊異記の世界』

 『口語訳古事記』『古事記講義』と同様、この本も非常に文章がこなれ、どこを読んでもわかりやすい。8世紀の人々の日常を知りたいなら、『日本霊異記』を読むのがよい、と著者は言う。その言葉通り、人々の生活が生き生きと描かれ、編者景戒の意図を越えた世界が見えてくる。「セント君」に会いに行く前にぜひ読んでおきたい一冊。

本の画象

角川選書(1500円+税)
2010年2月刊


武馬久仁裕の推す2冊


筑紫磐井著
『女帝たちの万葉集』

 万葉集の基礎(初期万葉集)を作ったのは、持統・元明・元正天皇であり、これら女帝たちの主導によっていかに初期万葉集が作られたかを解明したのが本書である。中でも、数々の歌及び詞書によって構成された有間皇子、大津皇子、柿本人麻呂の万葉集中の各々の物語が虚構であることを論証する過程は素晴らしい。それには異論はない。では、なぜ万葉集の編者たちはこのような虚構=物語を作らねばならなかったのか。我々にさらなる知的興奮を。

本の画象

角川学芸出版(定価2300円・税込)
2010年2月刊
榎本泰子著
『上海』
―多国籍都市の百年―

 私の最初の上海訪問は、改革開放政策の始まったばかりの1980年1月だった。その時は人形劇などの観劇に忙しく、日・中の近代史関連の場所の訪問は出来なかった。ようやく行けたのが数年前で、虹口、呉淞路、四川北路、福州路(四馬路)という街路表示にすら感激した。この本を読んでありありと見えて来るのは、上海に来る諸民族は紛れもなく世界史を背負って生きているということである。地名を見るだけで感激する卑小な私も含めて。

本の画象

中公新書(定価840円・税込)
2009年11月刊



2010年 4月 5日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


週刊朝日MOOK
週刊「司馬遼太郎6」

 「坂の上の雲」の特集だが、焦点は「子規と秋山兄弟の青春」。松山の風景写真、安野光雅の画が楽しい。子規のまだ元気だったころの日々がよく分かる1冊。子規入門書としても最適。ちらっと私も出ている。

本の画象

朝日新聞出版(857円+税)
2010年4月刊
「図書」 4月号

 岩波書店のPR誌。この4月号には小沢昭一、鷲見洋一、関根清三、小野耕世、大江健三郎、原研哉、中野三敏、赤川次郎、片岡秀男、高橋睦郎などが執筆している。実は昨年から私も「柿への旅」を連載しておりこの号で13回目。

本の画象

岩波書店(95円+税、1年分1000円)
(申し込み電話:049−287−5721)
2010年4月刊


塩谷則子の推す2冊


田中善信著
『芭蕉』
「かるみ」の境地へ

 内妻寿貞と甥の桃印の駆け落ちをかばう。豪気でいびきをグラフ化するユーモアの持ち主、芭蕉。その手紙を現代語訳する過程で見えてきた像を時代背景と共に描く。日常のごくありふれた事柄を平易に表現する「かるみ」の境地まで。平易が低俗に流れないためには表現力を身につける必要があり、『奥の細道』はその修練の成果だという説は新鮮。

本の画象

中公新書(900円+税)
2010年3月刊
伊藤比呂美著
読み解き『般若心経』

 カリフォルニアと熊本を行き来して親を介護、「身体的にも金銭的にも感情的にも、いつもいっぱいいっぱい」という筆者が種々のお経を解読し現代語訳した本。死の2日前、4年半寝たきりだった母を抱きしめ、葬式の翌日、夢の中の母に「死ぬときゃ痛いかい?」と寝ぼけて言った父。これらの話を聞いてくれた叔母。家族を描いた本でもある。

本の画象

朝日新聞出版社(1600円+税)
2010年1月刊



2010年 3月29日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


坂本公延著
『バラはバラの木に咲く』

 “花と木をめぐる10の詞章”と副題がつく。第1章が「バラの木」で“薔薇ノ木ニ薔薇ノ花サク ナニゴトノ不思議ナケレド”と白秋を筆頭におく薔薇尽くし。浜口庫之助の「バラが咲いた」り、蕪村の「愁いつつ岡に登れば花茨」、堀口大学も「春を彩るばら達よ」と呼びかける。総じてバラのイメージは「若き叙情性」であることに納得。

本の画象

みすず書房(2800円+税)
2009年11月刊
クリスティーン・アレグザンダー/
ジュリエット・マクマスター編著

『子どもが描く世界』

 副題が「オースティンからウルフまで」、有名なイギリス人作家の「ジューヴェニリア」に関する論文を集めた分厚い翻訳書。編著者であるアレグザンダーの「シャーロット・ブロンテ初期作品研究」が1983年に出版された頃は、学究的研究分野として認められていなかったそうで、「ジューヴェニリア」とは作家の「子ども時代から青年に至るまでの作品」を意味しタイトルも理解できた次第。

本の画象

彩流社(5500円+税)
2010年1月刊


大角真代の推す2冊


高浜虚子著
『俳句とはどんなものか』

  俳句とはどんなものか、虚子が俳句の初心者向けに、小学生に教える程度の俳話とのことだが、なかなか面白い。基本中の基本のことでも、恥ずかしくて、もう人に聞けないようなレベルの話も丁寧に解説されているので、俳人の方もこそっと読んでみるとよいかも。

本の画象

角川ソフィア文庫(定価590円+税)
2009年11月刊
吉田秋生著
海街Diary3

『陽のあたる坂道』

 この漫画を読むまで、漫画は文学ではないと思っていたが、この漫画の読後感、余韻はどうだ。じーんときて、懐かしさあり、爽やかさあり。鎌倉に住む四姉妹の話だが、私の隣人の物語のような、自然なストーリーがやさしい。何回も読み返す漫画に出会えて幸せ。

本の画象

小学館(定価505円+税)
2010年2月刊



2010年 3月22日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


まど・みちお著
100歳詩集
『逃げの一手』

 まどさん100歳です。
 「あかちゃんは どんなあかちゃんでも/なんのあかちゃんでも/ママにだっこされてても そのまま/かみさまに だっこされてるんだ!/どうながめても としよりとは/せいはんたいのあかちゃんだが/だからこそ としよりのわたしに/はっきりとわかって/あんなにかわいくてまぶしいのだ」

本の画象

小学館(1400円+税)
2009年11月刊
山本貴代著
『女子と出産』
晩産時代を、どう生きる?

 なぜ、出産に躊躇する「女子」が多いのだろう。都市部になるほどその傾向は強い。お粗末な法制度や慣習も大きな理由だが、あえて言う。「女子よ!いつまでも産めると思うな、だが、産むことに悩むな。」
 産むための体の大切さに、男女の不妊の現状まで解説したパワフルな良書。

本の画象

日本経済新聞出版社(1400円+税)
2010年2月刊


田中俊弥の推す2冊


小西昭夫著
『虚子百句』

 高浜虚子は明治7年(1874)に生まれ、大正、昭和を生きた。昭和34年(1959)4月8日に逝去して、すでに50年を閲した。虚子の句を読むことは、そのまま近代俳句の歴史をたどることにほかならない。虚子の句柄の大きさ、その卓抜な表現力に驚かされる。小西昭夫氏の確かなまなざしが感じられて、清々しい。

本の画象

創風社出版(定価840円)
2010年1月刊
西村 亨著
『源氏物語とその作者たち』

 著者は、慶應義塾の折口信夫、池田彌三郎の学統につらなる国文学の研究者。小林秀雄『本居宣長』の冒頭、「小林さん、本居さんはね、やはり源氏ですよ、では、さよなら」を思い出す。文学研究の現場から、源氏物語がいかに創造されたのか、時代を生きる作者の存在をキーにその秘密を慎重かつ大胆に解き明かす。

本の画象

文春新書(定価770円+税)
2010年3月刊



2010年 3月15日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊


内田麟太郎著
『ぼくたちはなく』

 良質な児童詩集。「ぼくたちは」という巻頭詩を挙げるだけで批評は十分。学校の先生方も恥ずかしがらずに、こんな詩を堂々と生徒に読んであげればいいと思うけど。
 もしかしたら
 にんげんがえらいのは
 かなしくても
 つらくても
 しにたくても
 いきているからかもしれない
 いしはなくだろうか
 てつはなくだろうか
 ほうせきはなくだろうか  全部読む


本の画象

PHP研究所(本体1200円+税)
2010年1月刊
川西政明著
『新・日本文壇史』

 一言おもしろい。全10巻構想だが、たぶん全巻買うと思う。文学史でも人物史でもなく文壇史。「文壇」という小さな村社会の中で起こった醜悪な人間関係を赤裸々に綴る。スキャンダラスで露悪的で、登場人物が有名文人でなければ、まるで『アサヒ芸能』や『週刊大衆』の世界だ。漱石の長女筆子を取り合う久米正雄と松岡譲。久米を落としこめるために中傷の手紙をばらまく山本有三。また佐藤春夫に妻を譲る谷崎潤一郎の話はつとに有名だが、本誌に書かれている事実はもっと常軌を逸している。本人たちは公人だからいいけれど、夫人、恋人の異性関係のここまでの暴露はいささか気の毒。まあ、私も含めてピーピング・トムが世の中には多いってことだな。

本の画象

岩波書店(本体2800円+税)
2010年1月刊


桑原汽泊の推す2冊


川島由紀子句集
『スモークツリー』

 かぶと虫雄いわく、都市はそれだけのもの(=人工のもの)である。もうイージーな都市でなければ、ぼくはだめかも。ジブリのアニメ映画の道後温泉もので、電車?にゆられて、ちょっと水がひたひた・・・

 海からの車両連結春一番   由紀子

本の画象

創風社出版(1200円+税)
2010年1月刊
三島由紀夫著
『複雑な彼』

 かぶと虫雄いわく、海辺のおばけ屋敷で入口から入って入口から飛び出したことがある。
 ・・・夕桜。機内の彼の過去のこと、いまステュワードをされている彼のことをもれ聞きました(9章まで)。彼の暗黒面もしりたいような、おそろしいような・・・

本の画象

角川文庫(667円+税)
2009年11月刊



2010年 3月 8日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊


筑紫磐井・対馬康子・高山れおな 編
セレクション俳人 プラス
『新撰21』

 18歳の越智友亮はじめ、佐藤文香、冨田拓也など21人の若い俳人のアンソロジー。一作家につき100句を収録する。21世紀にちなんだ「新撰21」の題名にふさわしく、とびきりの新人達の現代俳句が一望できる。巻末に付いている小澤実らの合評座談会も面白い。

本の画象

邑書林(1800円+税)
2010年1月刊
柳澤桂子著
『われわれはなぜ死ぬのか』
―死の生命科学

 服喪の期間は死体の腐敗解体の時間に照応する、などどきっとする知見が散りばめられているが、これは生物学者が書いた純粋科学の本である。死は生命の歴史の中でどのようにして起こってきたのか。生命誕生の三十六億年前に遡って、死の発生と進化を探る。読後に宗教的啓示を得る人があるかもしれない。

本の画象

ちくま文庫(760円+税)
2009年12月刊


三好万美の推す2冊


渥美清句集
『赤とんぼ』

 私生活を明かさないことで知られていた渥美清の、唯一の趣味ともいえるのが俳句だった。俳号は「風天」。昭和48年から平成8年までの俳句が、参加した句会別に  収められている。有季定型、自由律、どの俳句にもどことなく哀愁や虚無感が漂う。「寅さん」の顔とは別の、彼の人生の断片が詩情ある作品の中に詰まっている。

本の画象

本阿弥書店(定価1500円+税)
2009年10月刊
中村阿昼句集
『でこぽん』

 著者は「童子」「いつき組」で活躍中の松山在住の俳人。軽快でユーモアがある中にも、作者の視線がしっかりと感じられる写生句や、季語の実感を大事にした句が並ぶ。
 自身の子供を詠んだ句も多いが、情に流されることなく、あるがままをあたたかく詠んでいる。

本の画象

マルコボ・コム(1800円・税込)
2009年11月刊



2010年 3月 1日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


岸本葉子著
『俳句、はじめました』

 エッセイストである岸本葉子の俳句入門エッセイ。いわゆる入門書とは違い、岸本葉子自身の感覚と俳句の様々の交点の模様が静かに描かれている。こういうふうに真摯な態度で俳句を詠みはじめる人がいるのだなと反省したりした。と同時に、もっと自由でもいいんじゃないかなと思う節もあった。

本の画象

角川学芸出版(1400円+税)
2010年1月刊
小池龍之介著
『貧乏入門』

 タイトルに惹かれたが、内容は、言うは易し、行うは難しである。欲を捨てていくと自然とお金を使わなくなり、自然と貧乏でもやっていけるというのが筆者の主張。自分にもできそうな部分と、難しい部分があった。いずれにせよ、心の平安を求める人にはお勧めします。筆者の他の本も基本的なスタンスは同じ。それらでもいいと思います。

本の画象

ディスカヴァー・トゥエンティワン(1400円+税)
2009年12月刊


鈴木ひさしの推す2冊


兵藤裕己著
『〈声〉の国民国家』

 明治20年から昭和20年までの浪花節流行が、近代日本の「国民国家の形成から解体(そして存続)にいたる60年間」と重ねて描かれる。漱石は浪花節が嫌いだったという。解説の山本ひろ子氏は「雲右衛門や浪花節の愛好者が漱石を読む必要はないが、漱石や近代文学を論じるものはこの本を読むべきだ」と書く。浪花節はどこに行ってしまったのか?

本の画象

講談社学術文庫(定価960円+税)
2009年10月刊
スチュアート・M・カミンスキー編
『ポーに捧げる20の物語』

 E.A.ポーと同年生まれは、進化論のダーウィン、第16代アメリカ大統領リンカーン、日本では横井小楠など。2009年は生誕200周年であった。ポーは、今なお根強いファンを持ち、音楽や映画にまで様々な分野に影響を与え続けている。この本はポーへのオマージュ短編集。ポーを知らなくても読める、ポーを知っていればなお深く読める。

本の画象

早川書房(定価1800円+税)
2009年12月刊



2010年 2月22日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


川合康三著
『白楽天』
―官と隠のはざまで―

 「長恨歌」など日本の古典に影響を与えた『白氏文集』は、「諷諭」「閑適」「感傷」「雑律」に分類されている。諷諭は、体制内批判にすぎなかったと批判。私生活の喜びを詠む閑適は白楽天が作りあげたと評価。諷諭詩から閑適詩へ、白楽天評価の推移は社会の好みの変化を反映している。
 詩って何?と根源をゆさぶられる。
本の画象

岩波新書(720円+税)
2010年1月刊
三宮麻由子著
『空が香る』

 Sceneless、4歳の時、筆者は病気で失明、外資系通信社勤務のかたわら俳句を作っている。
 摘み草の名一つ言へて嬉しかる 麻由子
 点字を読むように慎重に触りながら野草の名前を覚えていく喜び。引き潮と満ち潮の香りの差から春の海、蕪村の「のたりのたり」を理解できた充足感。心豊かな生活を描く。随筆。

本の画象

文藝春秋(1400円+税)
2010年1月刊


武馬久仁裕の推す2冊


谷山花猿著
現代俳句の展開76 エッセイ集
『俳句的コラージュ〈A〉』

 現代俳句に関する評論集である。主題は、俳句にとって無季とは何かである。日中戦争によって登場した「戦争俳句」は、戦争の本質が無季であるため、必然的に無季戦争俳句を生み出した。それを指摘する著者は、加えて無季俳句の含む批評性に着目する。「脚の骨砕けし馬が水を乞へり」(田中桂香)更に、自由な表現意識との関連で季語だけを特別な言葉と考えるなという「言語民主主義」を唱え示唆に富む。無季論の次なる展開を期待したい。

本の画象

現代俳句協会(定価1500円・税込)
2009年11月刊
冲方丁著
『天地明察』

 中国の文化的くびきを脱することによって、日本人による初の暦、貞享暦(1685年)を作った日本の知識人、渋川春海の物語である。象徴的な場面がある。春海が、関孝和の示唆により、改暦の絶対の手本とした元の授時暦が日本にあてはまらないことを悟って驚愕する所である。「ま……ま、まさか……」中国数学を超えた『発微算法』の著者孝和だからこそできたことである。その他、山鹿素行のことも挿入され立体的な歴史小説となっている。

本の画象

角川書店(定価1890円・税込)
2009年11月刊



2010年 2月15日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


飯島ユキ編
『らいてうの姿
ちひろの想い』


 平塚らいてうの俳句を四季別に掲載、それにいわさきちひろの画をあしらった句画集。ユキによる句の鑑賞、らいてうをめぐる羽田澄子、太田治子、ユキの鼎談も収録している。机辺において時々開くと心が和む。「いち早く山羊の見つけし木の芽かな」はらいてうの早春の句。版元の一兎舎は電話026−219−2233。

本の画象

一兎舎(1155円+税)
2009年12月刊
杉本秀太郎著/写真・甲斐扶佐義
『夢の抜け口』

 長編の詩的散文ともいうべき杉本の夢をめぐる文章と、甲斐のモノクロ写真を取り合わせた本。杉本は当代きっての達意の文章家だが、この本の文章では、夢が現実をとりこみ、現実が夢を引き寄せ、その夢うつつの世界で国生みのドラマが演じられる。怪しくも艶な夢の世界が息づく本だ。机辺に置いて手に取る度に夢の入り口が開くだろう。

本の画象

青草書房(1900円+税)
2010年2月刊


桑原汽泊の推す2冊


萩原朔太郎詩集
『月に吠える』

骨格標本に マジックで ×

せれびっち 片目で ひとさし指ほど

ゆがんでいる 隙間風

本の画象

SDP Bunko(定価429円+税)
2009年11月刊
原作:ダンテ
訳・構成:谷口江里也
挿画:ギュスターヴ・ドレ
ドレの『神曲』

 ピッピッピカソの福笑い ××× ほぼ回避された ひざ ×××× いったいぜんたい びっくりどっきりメカ発進! こまっちゃう? もしもし黒豚のポーク? 永劫にさいなまれている 伊勢佐木町ブルースの最下層 氷地獄 コキューートスへーーー

本の画象

宝島社(1429円+税)
2009年12月刊



2010年 2月 8日号(e船団書評委員会)

葉月ひさ子の推す2冊


佐々木丞平他著
『蕪村 放浪する「文人」』

 100頁前後の1冊なのにカラー写真や図版満載のずしりと重いおなじみ「とんぼの本」シリーズ。絵師としての蕪村の作品群は勿論のこと、句稿帖あり蕪村句のイメージ写真ありで視覚に訴える。4名の著者内の1人小林恭二氏の「俳人蕪村の実力」で、蕪村が江戸期を通して無名の存在だったことにふれ評価というものの行方が面白い。

本の画象

新潮社(1400円+税)
2009年11月刊
「美の壷」制作班編
『帽子』

 帽子が日本に入ったのは明治になってから。確かに韓国ドラマ時代劇では素敵なつば広の帽子状のものを被っていても、日本の侍には編み笠や兜しか記憶にない。この本では番組で採りあげた帽子の逸品のほかに、帽子職人のこだわりが実は帽子の下の顔にあるのか顔にないのかと興味深い。究極のキーワードはダンディズムということか。

本の画象

NHK出版(950円+税)
2009年12月刊


田中俊弥の推す2冊


矢崎節夫選・鑑賞解説
永遠の詩01
『金子みすゞ』

 金子みすゞは、子規の没した翌年(1903)、長門・仙崎に生まれた。西條八十に見出 された稀代の童謡詩人は、1982年、矢崎節夫氏のなかだちを得て、50年を越える歳月 を閲して、「よみがえり」を果たした。俊才・金子みすゞの詩魂は、「あこがれ」に 満ちている。矢崎節夫著『金子みすゞの生涯』との併読を勧めたい。

本の画象

小学館(定価1200円+税)
2009年11月刊
長部日出雄著
『「阿修羅像」の真実』

 おりしも今年は平城京遷都1300年。あおによし奈良の都は、アジアのなかの国際都市 だった。律令と仏教、舶来の思想や文物は、日本の礎となり、われわれのいまを導 き、促している。聖武天皇と光明皇后が生きた時代、それを象徴する東大寺の毘盧遮 那仏と阿修羅像。亀井勝一郎の人生とともに、時空を旅してみたい。

本の画象

文春新書(定価780円+税)
2009年12月刊



2010年 2月1日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


あんの秀子著
『百人一首の百人がわかる本』

 歌別ではなく、百人の歌人別の便利百科。歌人を、才女、色好み、オタクなど12のタイプに分け、人物分析と歌の文学性を評する。深くはないが、軽快な筆致で愉快な読み物。私は職場の高校で授業中活用するつもり。生徒たちと盛りあがりそう!

本の画象

芸文社(1470円・税込)
2009年12月刊
俵 万智著
『かーかん、はあい』
子どもと本と私2

 全二巻。残念ながら朝日新聞での連載も終了。万智さんの愛息くんとの読書日記風な書評エッセイ。一巻に比べ、息子くんの成長のせいか、ジャンルが多岐に渡って楽しい。『いやいやえん』中川李枝子があれば、『ゲゲゲの鬼太郎妖怪パーフェクトBOOK』までも。よそ様の本棚を見ているようでワクワクする。そして、時々、万智作短歌のおまけ付き。

本の画象

朝日新聞社(1260円・税込)
2009年10月刊


赤石 忍の推す2冊


林 浩平著
『折口信夫
霊性の思索者』


 国文学者、民俗学者であるとともに歌人。だが歌はほとんど知らず、書物も読んだこともない。事実かどうか定かではないが、同性愛者でコカイン中毒者、晩年、奇妙な神道に取り付かれたなど、知らなくてもいいことばかり頭にある。これではイカンと一読したレベルなので何とも書評しにくいが、いやいや読んでみるとこの方、もっと広範に評価されてもいいのではないかと思う。著者の意図を一言でいえば、折口を既存の宗教思想のパラダイムに中でのみとらえるのではなく、「霊性」、つまり時代を経て我々が失いかけている、このキーワードで再考すべきであるということ。スピリチュアル時代、誤解をまねきかねない言葉だが、折口はもっと興味を持たれるべき人物ではないか。

本の画象

平凡社新書(740円+税)
2009年12月刊
福田和也著
『最も危険な名作案内』
あなたの成熟を問う34冊の嗜み

 成熟とは経験の蓄積。ならば経験とは。著者はヘーゲルの言葉を引いて「経験とは自己の真実を失うということ」とする。つまり自己喪失、自分は自らが思い描いていた存在ではないことを知り、崩壊後それでもなお、在るがままの自己を見つめていこうとする姿勢こそが「成熟」であると。名作と呼ばれる本の一端には、人生を肯定的に描いているものだけでなく、崩壊のドラマに満ち溢れているものがある。そして、それらを真剣に読み、考えるそのこと自体が、多分、人を成熟に導いていくのだと著者は言う。ともあれ34からなる小説の断片の読後、それらにきちんと向かい合いたいと思う気持ちが起こることだけは確かだ。

本の画象

ワニブックス[PLUS]新書(定価760円+税)
2009年12月刊



2010年 1月25日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


三好典彦著
「漱石の病と『夢十夜』」

 「夢十夜」はさまざまな側面から研究可能な作品だと思う。精神科医である著者は、十編の「夢」の経過と、漱石が抱えるこころの病とを照らし合わせながら、明治期の文人の精神実像に迫っている。漱石に多大な影響を与え続けた子規を、ポジティブなパワーをもった「神性児」としている点が興味深い。

本の画象

創風社(2500円+税)
2009年8月刊
筑紫哲也著
『若き友人たちへ』

 大学時代、身近で最も信頼できる政治指南は、著者が長年担当していたニュース番組の「多事総論」コーナーだった。新聞・テレビ・雑誌と三つのメディアにわたって活躍した著者ならではの冷静で的確なジャーナリズム論や日本に対する危機意識は、若者だけでなくあるゆる年齢層の人々に、折に触れて何度も読んでもらいたい一冊である。

本の画象

集英社新書(720円+税)
2009年10月刊


大角真代の推す2冊


高浜虚子著
『俳句の作りよう』

 俳句雑誌「ホトトギス」に掲載された、簡単でやさしい俳句の実作入門書だ。どうでもいいからとにかく十七文字を並べなさい、から始まり、埋字による勉強法を紹介。これがなかなか面白い。
大蟻の○○○○○○○暑さかな(一茶)
みなさんならどんな七字を入れますか??

本の画象

角川ソフィア文庫(定価590円+税)
2009年7月刊
小笹芳央著
『自分は評価されていないと思ったら読む本』

 私自身は評価されていないと思っていないけれど、仕事の閉塞感や行き詰まりを感じることが多い。本書を読んで仕事へのやる気がでた!成長とは「信頼残高を増やす」こと、信頼残高は「約束」と「実行」によって増える。「遅刻をしない」という約束を実行することでも信頼残高は生まれる。すぐに実行できることだ。

本の画象

幻冬舎(定価952円+税)
2009年12月刊



2010年 1月18日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


村上 護編
『反骨無頼の俳人たち』

 いわゆる新興俳句を残したと言われる俳人十人の俳句と略歴などをまとめた一冊。藤木清子、片山桃史、栗林一石路、三橋鷹女、西東三鬼、富澤赤黄男、橋本夢道、細谷源二、鈴木しづ子、渡邊白泉の十人の句をみていくと、今にはない言葉のエネルギーが感じられた。時代の違いとはいえ、小さくなっちゃいっけないなと思わずにいられなかった。

本の画象

春陽堂(2000円+税)
2009年12月刊
小林信彦著
『うらなり』

 いろいろなテーマで書く人だなと思っていたが、この度は漱石の『ぼっちゃん』の登場人物の一人「うらなり」を中心に据えた短編。過去回想の構造を採っており、『ぼっちゃん』では描かれていなかった部分も創作されている。ただし、うりなりをとりまく人物との経緯が中心なので、その辺が楽しめる人にお薦めです。

本の画象

文春文庫(514円+税)
2009年11月刊


木村和也の推す2冊


坪内稔典著
『モーロク俳句ますます盛ん』

 軽妙な題名だが、中身は本格評論。「俳句は遊び」と言いながら、論を通底するのは文芸としての俳句と格闘する俳人の矜持である。俳句の歴史を丹念に振り返りながら今日的俳句の使命が指向されている。著者の俳句観も明瞭。ここにも、一つのネンテンワールドがある。

本の画象

岩波書店(定価2200円・税込)
2009年12月刊
内田 樹著
『日本辺境論』

 「世界標準に準拠してふるまうことはできるが、世界標準を新たに設定することはできない」。そんな地政学的辺境性が日本人の思考と行動を規定しているとする論である。しかし、この本の独創は、その辺境性から脱しようと試みのではなく、その辺境性にこそ活路を見いだそうとするところにある。出色の論考。

本の画象

新潮新書(定価740円+税)
2009年11月刊



2010年 1月11日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


スーザン・ソンダク著/富山太佳夫訳
『書くこと、
ロラン・バルトについて』


 アメリカの作家・批評家スーザン・ソンダク(2004年没)のエッセイ集。「文楽覚え書き」と題された文章は、著者の文楽観が整理されて面白い。「芸術とは現実と非現実のわずかの間にあるもの・・それは非現実ではあるが非現実ではなく、現実ではあるが、現実ではない。」これは近松の英語訳からの日本語訳。もう一度繰り返すと?

本の画象

みすず書房(3400円+税)
2009年9月刊
高橋正雄著
『漱石文学が物語るもの』

 「日本病跡学雑誌」など学会誌に発表された論文集だが、読みやすい。「漱石文学における癒し」「精神療法家としての漱石」「漱石文学における精神療法」「病みながら生きる者への畏敬」・・・漱石の病的側面の診断ではなく、優れた精神医学者としての漱石、精神療法家としての漱石というとらえ方が興味深い。

本の画象

みすず書房(3800円+税)
2009年10月刊


武馬久仁裕の推す2冊


増田まさみ句集
『ユキノチクモリ』

 家事というものを非写生的に句にすればこうなるのかと、「雑巾を苛めておれば揚雲雀」を読みながら得心した。雑巾を絞ることは即ち苛めることであり、苛めれば心は晴れ晴れとする。雲雀が天の頂で鳴くように。この句集に見られる家事の句を始め多くの句は嗜虐的である。それは、平穏な日常を非日常へとずらすことを試みるこの句集の一つの方法であろう。「花冷えや匙の首など絞めてみる」。匙以外の首とは何だろう。不思議な句集である。

本の画象

霧工房(定価1600円・税込み)
2009年10月刊
福岡伸一著
『世界は分けてもわからない』

 この本を読んで一番衝撃的だったのは、人の死と誕生をめぐる箇所である。福岡は、脳死を人の死と定義すると、「論理的な対称性と整合性から考えて、人の生は、脳がその機能を開始する時点となる」という。脳さえ出来ていなければヒトでないから、受精後24〜27週以前の胚は、再生医療などの名目で利用できることになってしまうのである。福岡は警告する。「最先端科学技術は……私たちの生命の時間をその両端から切断して、縮めているのである」と。

本の画象

講談社現代新書(定価819円・税込)
2009年7月刊



2010年 1月 4日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


杉山平一著
『巡航船』

 1914年生まれの詩人の自選エッセー集。冒頭に「父」がある。杉山の父は若くして洋行した科学技術者だが、その父に反発しながらも、やがて、父への共感が杉山の信条のようになる。「こけおどしの機械や建物が科学的なのではなく、誠実にして単純、平明にして簡素なるものこそ科学技術の道なのであった。それはまた私の生き方であらねばならぬ」というように。私もまたこの詩人の誠実、単純、平明、簡素な思考や感性に共鳴している。

本の画象

編集工房ノア(2500円+税)
2009年11月刊
荒川洋治著
『文学の門』

 本や言葉を話題にした短いエッセーを集めた本。冒頭に「散文が作る世界」がある。日本で見かける九九%の文章は散文だが、しかし、「散文は理解されていないのだ」と荒川。なぜ理解されていないのかはこの本を読むと分かる。ちなみに、谷さやんと私の編んだ『不器男百句』(創風社出版)も195頁に取り上げられている。

本の画象

みすず書房(2500円+税)
2009年12月刊


塩谷則子の推す2冊


坪内稔典句・杭迫柏樹書
『季語のキブン』

 明日香村字大耳の冬の夜   稔典
 字大耳は「寒い冬の夜にふさわしい場所を考えていて、ふと思いついた」「耳の大きな渡来の一族が住んでいた字のような気がする。」虚構の場所をふと思いつくのは、日ごろから常識や秩序を破る破壊的感覚を秘かに磨いているからだ。このような句作の秘密がいっぱい。柏樹氏がのびのびと句を書き、稔典氏が楽しみながら自解している。

本の画象

二弦社(定価1600円+税)
2009年12月刊
最相葉月著
『ビヨンド・エジソン』
―12人の博士が見つめる未来

 好きこそものの上手なれを実現した12人の博士の紹介。ある化石が首長属の新種であることを確定したり、南極の「空気の化石」から過去の大気のありようを調べようとしたり。世界は広く自由だと心が開かれていく本。南アフリカで農業を研究、干ばつ早期警戒システムを構築しようとしている坪充氏の「選択できることは豊かで幸せなことなのだと知りました」という言葉のように箴言がいっぱい。

本の画象

ポプラ社(定価1500円+税)
2009年9月刊

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