俳句 e船団 ブックレビュー
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2011年12月26日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


今野寿美編
『山川登美子歌集』

 登美子の歌859首、編者による解説、初出誌などの解題、年譜、初句索引からなる文庫版歌集。登美子の歌の世界を気軽に楽しめるコンパクトな1冊だ。編者のやや長い解説は登美子を核にした具体的な近代短歌史になっている。ちなみに、「柿つるす縁の日向に麦よりすおきなに匂ふ紅梅の花」の「麦よりす」はどういうことだろうか。

本の画象

岩波文庫(660円+税)
2011年12月刊
「現代思想」12月臨時増刊号
総特集・上野千鶴子

 上野千鶴子の思想と行動がさまざまな角度から論じられている。女子会をしたり、温泉めぐりをしたり、白いポルシェを運転する千鶴子も登場する。その多彩さとなにげなさがこの人の思想の凛とした芯を示している。読んでいるといい気分になってくる、そんな特集号である。ちなみに、来年の船団の会・初夏の集い(5月27日)のテーマは「上野千鶴子と学ぶ」。

本の画象

青土社(1500円・税込み)
2011年11月刊


荒川直美の推す2冊


ひろかわさえこ作
『あいうえおのきもち』

 あいうえおのきもちって、どんな気もち?
 「あ」から「ん」までの詩を声に出して読んでみると、なんとなくわかるような気がしてくるから不思議です。「ときどきは やってみたいよね おもいっきり いーっ!」「にーっといっただけで、えがおになるよ」。
 あいうえおのきもちと、それを発する人の気もちをもっと反応させたくなる一冊です。

本の画象

講談社(1260円・税込み)
2011年10月刊
松谷みよ子著
『ちいさいモモちゃん』

20〜30代の女性を読者にした「ちいさいモモちゃん」文庫版の新刊。 表紙には、酒井駒子が描く新しいモモちゃんがちょこんと座っています。文章はほぼ変わっていないようですが、挿画と装丁の力は偉大です。ページをめくると、2011年のどこかのお家に住んでいるモモちゃんとお母さんに出会えます。解説も角田光代(1巻)、高橋源一郎(2巻)、東直子(3巻)と豪華。
本の画象

講談社(580円・税込み)
2011年11月刊



2011年12月19日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す2冊


ひらのこぼ著
『名句集100冊から学ぶ
俳句発想法』


 南米のコロンビアにある日本食堂では、「将軍弁当」が大人気とか。天ぷらに焼き鳥、いなり寿司ににぎり寿司、酢の物に煮物、とにかく盛りだくさんが人気の秘訣。本書も、ひとひねりされた百のテーマにしたがって、百の句集の名句の数々が、百花繚乱のにぎわいと彩りをなす。すてきな一品をみつけて、句作の糧にしてみたい。

本の画象

草思社(1500円+税)
2011年11月刊
中野三敏著
『和本のすすめ』
―江戸を読み解くために

 「江戸人はその生活のあらゆる面で、伝統文化と新興文化の両方を、まぎれもなく自分たちの現代文化として摂取し楽しんだ。」「雅」と「俗」の文化、それは正しい意味での「庶民」の文化として大いに発展した。近代は江戸時代の和本というインフラの上に成り立っていたという単純な事実に立脚してこそ、真の近代読書子と言いたい。

本の画象

岩波新書(860円+税)
2011年10月刊


桑原汽泊の推す2冊


デュマ作・志麻友紀著
『三銃士』
王妃の首かざりを追いかけろ!

 ほやほやのダルタニアンは、湯気をほやほや由紀さおり。赤い帽子のあのひとと若い国王とで、いま割れている。もうすこし長いのもよみたい。ちょんまげをいじりながら・・・

本の画象

角川つばさ文庫(640円+税)
2011年10月刊
辛酸なめ子著
『サバイバル女道』
女ひとりで生きていけますか?

女性の一挙一動には経験値が表れる
なめ子
Such a nice car!

「馬の気持ちが草食男子並みにわかりません。」

本の画象

CYZO NEW BOOKS(800円+税)
2011年9月刊



2011年12月12日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


トイレットペーパー型川柳集
『第7回トイレ川柳大賞』

 「客が来る便座のスイッチオンにする」(最優秀賞)を巻頭に、楽しい川柳が20句、余すところなくトイレットペーパーにプリントされいます。キッズ賞の「怒られた気持ちを全部流したい」もかわいい!そう、嫌なことは流しましょ。我が家は新年に使い初め予定。

本の画象

TOTO出版(希望小売価格350円・税込)
2011年11月刊
舞の海秀平著
『土俵の矛盾』
大相撲 混沌の中の真実

 舞の海、さすがです。素人にもわかりやすく、かつ、はっきりと角界に物申す一書。だからといって、すぐ変わらないのが角界なんでしょうが、読んでると、お相撲のかっこよさも見えてきました。春場所、久しぶりに見に行こうかな。

本の画象

実業之日本社(1400円+税)
2011年9月刊


赤石 忍の推す2冊


畑中章宏著
『柳田国男と今和次郎』
災害に向き合う民俗学

 民俗学の祖柳田国男と柳田に学び考現学を確立した今和次郎。現在を現在として捉えようとする今と、現在を過去から紐解く柳田とは、やがて方法論の違いから袂を分かつことになるが、その根源にあるのは、人は「非日常時」とどのように向き合ってきたか、ということと著者。人は大災害に出会った感情を淡々と伝承や家屋に刻み込んできたが、その対極にあるのがエキセントリックな宿命論や同情論。その論が深ければ深いほど忘却の進度も早いように感じるが、関東大震災を神罰と断じた当時の有名議員に対し、市井の人々に何の罪があるかと激怒した柳田の姿が再三出てくるが、論を語らない人々の言葉にこそ、災害の真実が見え隠れするようにも思う。

本の画象

平凡社新書(780円+税)
2011年11月刊
中条省平著
古今東西の文豪に学ぶ
テクニック講座

『恋愛書簡術』

 恋愛書簡の面白さはよんどころのない事情や障害があり、二人の間に距離がある時しか成立しない。また、ラブレターとは、相手に向かって自分の愛が本物と説得する技術的な作文であり、あくまで誘い、駆け引き、演技、戦略であると言う。相手に自己の欲望の正当性を納得させる書簡術、その技に固執し長けているのがラテン系の民族、その一端がフランスの文豪たちに見て取れるというのが本書。日本からは谷崎潤一郎の書簡が取り上げられているが、アポリネール、バルザック、ユゴー、スタンダール…と並んでくると、妙に納得する。それにしてもみんな、膨大な量を書くものだと感心するし、後世に残る不幸に同情を禁じ得ないというのが読後感だった。

本の画象

中央公論新社(1800円+税)
2011年12月刊



2011年12月5日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊


西村和子著
NHK俳句 子どもを詠う』

 子どもを詠った俳句を集めて鑑賞している。人間関係の中でも、親子のそれは特別な物であるが、その特別さが、著者の温かい眼差しで読み解かれている。ほのぼのした俳句ばかりではなく、〈育たなくなれば大人ぞ春のくれ 池田澄子〉のようなどきっとする句もとりあげられている。

本の画象

NHK出版(1200円+税)
2011年11月刊
宮崎 駿著
『本へのとびら』
―岩波少年文庫を語る

 アニメーション界をリードする著者が、岩波少年文庫から50冊を紹介する。児童文学の魅力、子どもへの熱い思いなどが語られていて、単なる読書の手引きとしてだけでなく、幼い頃からの読書遍歴によって形づくられた著者の思想の核を知る手がかりともなる。駿ファンでなくとも楽しめる。

本の画象

岩波新書(1000円+税)
2011年11月刊


三好万美の推す2冊


「短歌」編集部編
『河野裕子読本』

 歌においても、文章においても、河野裕子の言葉には嘘がない。恋愛、育児、闘病、人生のそれぞれのステージで、どこにいても、何に対しても、直球勝負の人であった。明るくおおらかな「母」と、率直かつ繊細な「歌人」を同居させながら紡いだ彼女の歌は、これからも新たに多くの人々を魅了するだろう。

本の画象

角川文芸出版(1800円+税)
2011年7月刊
姜尚中・田口ランディ・本多弘之著
『親鸞 いまを生きる』

 最近文庫になった『歎異抄』が書店にたくさん並んでいる。自然界も社会も、今は末法。親鸞が生まれ、生きた時代と重ね合わせ、親鸞の言葉にゆっくりと向き合いたい人々が増えているのだろう。前に進むための解決策よりも、今の自分の周りにあるもの、支えているものを見直すことの大切さが伝わってくる。

本の画象

岩波文庫(900円+税)
2011年10月刊



2011年11月28日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


リービ英雄著
『日本語を書く部屋』

 百済生まれとも言われる山上憶良が、著者にとってのモデルであり、インスピレーションの大きな泉である。「日本は言霊の国である」という憶良の発想は、外からの目を持ちつつ内部にいたからこそできたのだ、というのが著者の見方。憶良の存在によって日本語が豊かになったように、リービ英雄の目は日本語を磨いてくれるに違いない。

本の画象

岩波現代文庫(860円+税)
2011年10月刊
平川克美著
『株式会社という病』

 文学の批評を思わせるタイトル。著者本人によれば、網野善彦、岩井克人、若き日の吉本隆明の思考に示唆を与えられたらしい。文学、思想、哲学、歴史、経済など、様々な分野にわたる本質にたどり着こうとする思考のあとが見える。著者は経営者だが、単なるビジネス書ではなく、奥行きを感じさせる本である。湯浅誠の解説も面白い。

本の画象

文春文庫(640円+税)
2011年10月刊


若林武史の推す2冊


 
「ユリイカ」2011年10月号

 特集は「現代俳句の新しい波」。俳壇の外部からの発言と内部からの発言が対照的でおもしろい。外部は概ね、保守的かもしくは一行詩的発想で浪漫的。どこに新しい波があるのか、未だに不明。もう歳をとったせいか、そういうものを見ても気恥ずかしいだけです。若い世代の俳人の論文(?)が学究的で真面目な印象を受けたが、何だか物足りない。

本の画象

青土社(1300円+税)
2011年10月刊
栗田靖編
『碧梧桐俳句集』

 言うまでもない、河東碧梧桐の句集。読み進めると、伝統俳句から新傾向俳句への歩みが見て取れる。次第に難解な印象の句になる。現在の流れと併せてみていろいろと考えるところがあった。今回のもう一冊の中の新しい流れの一行詩的なものとあまり変わりないものを見て複雑な思いになった。

本の画象

岩波文庫(900円+税)
2011年10月刊



2011年11月21日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


小高 賢著
『老いの歌』

 雑談の材料を文字にし、五七五七七に当てはめれば短歌になるという窪田空穂の説が紹介されている。ぴんコロ地蔵への参詣を考えているなら、短歌を作ろう、頭を使い他人とのコミュニケーションを豊かにする、雑談を文字にするだけだよ、と小高。雑談は実は難しいのだが。茂吉など有名歌人から投稿歌人まで、多くの老人が詠んだ老いの歌はそれぞれに個性的で、種々相を楽しめる。

本の画象

岩波新書(700円+税)
2011年8月刊
四方田犬彦・石井睦美著
『再会と別離』

 驚いた。往復書簡の形を取った四方田犬彦の私小説でもあった。映画評論家と編集者として23年前に出会った二人。編集者石井は童話作家になっており、離婚しようとしていた。再会後の二人の共通項は離婚。四方田は父母の壮絶な離婚を子供のときに経験していた。自らが父親になるのを拒絶するほど憎んだ父との和解が、今後あるだろうか。若き日の石井と中村真一郎の姿が美しい。

本の画象

新潮社(1300円+税)
2011年9月刊


武馬久仁裕の推す2冊


高橋龍句控
『天津桃』

 著者は82歳。冒頭の句は「残酷な三月四月五月かな」。「残酷」が三月、四月、五月と畳み掛けられ、作者の感慨「かな」で終わる。では、麗らかな春がなぜ残酷だというのか。「かな」に込められた「残酷」とは、1945年三月、四月、五月の米国による無差別爆撃「東京大空襲」に違いない。この句の後は「中空はくわんおん開き春の雁」である。あの痛ましい戦争が昇華され俳句になるとすればこうなるのかという句に出会った句集である。

本の画象

高橋人形舎(非売品)
2011年11月刊
中沢新一著
『日本の大転換』

 福島第一原発の事故は、日本人に思想的対応を迫った。日本文明が破滅の淵に立たされているという強烈な危機意識のもとに、中沢が切り開いた思想的地平が本書である。彼は、生態圏外の太陽圏のものである核反応を生態圏にもちこみ無媒介に直接そこからエネルギーを得ようとした原発と、それを生み出した現代資本主義を、新しいエネルギー観を土台に丸ごと超えようとする。中沢は、今、「緑の党のようなもの」を準備していると言う。

本の画象

集英社新書(700円+税)
2011年7月刊



2011年11月14日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


尾池和夫著
『日本列島の巨大地震』

 岩波科学ライブラリーの1冊。地球物理学が専門の著者は、日本列島は「世界でも珍しい、変動する若い大地」、「地震や噴火や津波とともに動いている」列島だと言う。3・11以来何かが激変したという人が多いが、この本にはそのような言い方というかうろたえはない。なぜか。地震と噴火と津波は日本列島の「基本的な自然現象」だから。いいな、この冷静なまなざし。ちなみに、著者は1940年生まれ。句集『大地』などを持つ俳人でもある。

本の画象

岩波書店(1200円+税)
2011年11月刊
鷲田清一著
『「ぐずぐず」の理由』

 ぎりぎり、ぐずぐず、ゆらゆら、なよなよなどのオノマトペについて、そこにある「声のふるまい」「音の構造」を考えた本。要するに、オノマトペについての哲学的考察だが、そんな堅い言い方ではこぼれ落ちるものがいっぱいある本。ともかく、ぐずぐずしないで入手し、ぼつぼつでも、ぐいぐいとでも読むべし。オノマトペの楽しさが世界を考える楽しさとして体験できるだろう。著者は1949年生まれ。ぶいぶいと思考するしなやかな哲学者である。

本の画象

角川書店(1600円+税)
2011年8月刊


荒川直美の推す2冊


谷川俊太郎詩
ポエミクロ
『顕微鏡のための詩 五編』

 書店の新刊コーナーをふらふら歩いていたら、本のとなりに顕微鏡を発見! さっそく購入し、何十年ぶりに顕微鏡にプレパラートをセットします。なかなか焦点があわず、苦労すること数十分…このまま詩が読めなかったらどうしようとだんだん不安になってきます。 あ! ついに詩が浮かびあがりました! この感動は「百聞は一見にしかず」です。

本の画象

グッドアイデア株式会社(3800円+税)
2010年8月刊
奥田英朗著
『我が家の問題』

 「どうやら夫は仕事ができないらしい」「新婚なのに家に帰りたくなくなった」などのドキッとする文章からはじまる短篇集。大切な家族だからこそ、聞いてしまったらすべてを失うかもしれない、でも、本当は聞きたい疑問の数々。この本を読むと、胸のうちにしまっておいた疑問が、ぞわぞわ出てくるかも知れません。

本の画象

集英社(1400円+税)
2011年7月刊



2011年11月7日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す2冊


河野裕子・永田和宏著
『たとへば君』
四十年の恋歌

 論語に、「鳥のまさに死なんとするや、その鳴くこと哀し。人のまさに死なんとするや、その言うこと善し。」とある。2010年8月12日蝉の夜、河野裕子は、乳癌のため他界した。その最期の歌は、「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」であった。永田和宏との相聞を生きた歌人、それが河野裕子だ。

本の画象

文藝春秋(1400円+税)
2011年7月刊
原 研哉著
『日本のデザイン』

 本書は、「欲望のエデュケーション」というタイトルで岩波の「図書」に連載されたエッセイを本体とする。デザインは、「物の本質を見極め」「潜在する可能性を可視化し、具体的な未来の道筋を照らし出していくこと」にその本質があるとする。日本の美意識を資源としユニバーサルな展開を見せている一流の仕事に深く学びたい。

本の画象

岩波新書(800円+税)
2011年10月刊


舩井春奈の推す2冊


アルチュール・ランボー 著
鈴村和成訳

『ランボー全集』個人新訳

 外国文学を日本語へ翻訳されたものは、読みにくいものが多い。その外国文化等に馴染みが薄いということよりも、まずは日本語訳された言葉に対する違和感が脳裏をちらつく。
 さて、このたび新しく翻訳されたランボー全集が出た。お堅い言葉づかいを離れた口語訳でもって、現代の日本語を操る私たちに読みやすく訳されている。鼻息の荒い若きランボーの詩を、また違う感性でもって読ませてくれよう。

本の画象

みすず書房(6000円+税)
2011年9月刊
深堀隆介著
『金魚養画場』

 日本の祭の定番といえば金魚すくい。これをタイからやって来た女の子と一緒にしたことがある。なぁに、彼女が釣りをしたいと望んだので、釣りを知らない母娘はちょうど行われていた祭へ連れていってみたわけだ。
 金魚は昔々の日本人から魅了されている存在。この深堀氏もまた金魚からの影響力を得ている。ちらりと見ただけでは写真集かと思ってしまうこの書。同氏による造形物というのだから、これまた溜め息物。

本の画象

文芸社(2500円+税)
2011年8月刊



2011年10月31日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊


菊池 明編著
『土方歳三日記 上』

 たたかれて音のひびきし薺かな 豊玉

 豊玉は歳三の俳号。句は、新政府軍函館総攻撃に玉砕死した歳三の襦袢に記されていたとも言われる。「ぺんぺん草の自分でも叩かれれば言い返すことはある」という意にも取れるが、私の故郷のある道南には歳三の逸話がいくつか残っている。虎の子の開陽丸が座礁、沈没して呆然としている武揚と松前軍を追って快進撃を続けてきた歳三が江差町の丘の上で出会い、抱き合って泣いたという場所として「歎きの松」というものがある。ウソに決まってはいるが、近所のお爺さんが祖父から聞いたとして、開陽沈没の経緯をいろいろ話してくれたことを本を読みながら思い出した。よく考えれば、それほどに遠い時代でもないのである。

本の画象

ちくま学芸文庫(1400円+税)
2011年10月刊
一坂太郎著
『高杉晋作の手紙』

 最近、歴史関係の本(とは言っても広く薄く、というものだが)を作っている関係上、幕末・明治の著名人の文をあたり、四苦八苦している。書下し文がないので、これがまた大変である。本書には晋作を理解する重要な書翰百通が収められているが、両親には孝行息子を演じ、妻マサには武家の妻とは何ぞやを述べる反面、愛人ウノには優しく接する。先輩桂小五郎には甘え、同輩久坂玄瑞には矜持を示す。日本にとって大きな業績を残した歴史的人物だが、享年29を考えれば、一人の若者に過ぎない側面も手紙からは感じられる。スラスラ読めるようになりたいと思いを込めて、晋作の漢詩を一つご紹介。「偸生決死任時宜/不患世人論是非/嘗在先師寄我語/回頭追思涙空垂」

本の画象

講談社学術文庫(本体1150円+税)
2011年8月刊


桑原汽泊の推す2冊


しなだしん句集
『隼の胸』

 くくくくと曲げて革ジャンパーの肘  しん

 自然島、猿島。ヨコスカ☆なるへそぎん行。「海軍さんのおしり」とか「アカボシゴマダラ」とか「とんび」とか・・・。戦艦三笠、はじめて見た。

本の画象

ふらんす堂(2400円+税)
2011年9月刊
火箱ひろ句集
『えんまさん』

 ボジョレヌーボー無精髭に乾杯   ひろ

(1)ほんごうたけしは改造人間である。
(2)♪ぼくの瞳は、1万ボルト!!

本の画象

編集工房ノア(2000円+税)
2011年9月刊



2011年10月24日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


山本明子編
「こころ」 創刊号

 総合文芸誌の創刊号で、特集は漱石「現代日本の開化」から100年。漱石が行った講演「現代日本の開化」の言葉をもとに、現代の文学者、哲学者が漱石の思考について論じている。抄出された講演の一部が掲載されているのがよい。他の執筆者は柳田邦夫から萩尾望都まで、対談や連載のテーマは、音楽から漢詩、歴史と多彩である。ちなみに次号の特集は「岩谷時子の歌の世界」、池澤夏樹のカヴァフィス全詩の連載が始まる。こちらも楽しみである。

本の画象

平凡社(800円+税)
2011年6月刊
山下聖美著
『女脳文学特講』

 男女の脳の働き方の違いを、情緒的な面から論じた筆者独自の「女脳」というキーワードを軸に、女性と文学について思考されている。
 ここで取り上げられている作家は、林芙美子、与謝野晶子、平塚らいてう、尾崎翠、野上弥生子、伊藤野枝(この人の生涯は殊に印象的)、金子みすゞ。  芙美子と翠、野枝と弥生子など、全く対照的な女性たちが人生のどこかで共に過ごした期間があり、どこかでつながっていることが分かるのがおもしろい。

本の画象

三省堂(1500円+税)
2011年9月刊


朝倉晴美の推す2冊


杉山平一詩集
『希望』

 杉山さん、御年97。
 「顔」 子供の画く太陽が/ニコニコ笑っている/手も足もない/身体全体が顔なんだ/手や足や胴なんかどうでもいいのだ/人間は顔が太陽なのだ/三人でも五人にでも視線を浴びると/もう まぶしくて/まぶしくて
 きっと、杉山さん自身の心が太陽なんだわ。癒されます。

本の画象

編集工房ノア(1800円+税)
2011年11月刊
東川篤哉著
『はやく名探偵になりたい』

 本屋大賞『謎解きはデイナーのあとで』の作者の新刊。クリステイや乱歩も良いけれど、軽妙にずっこけながら読めるミステリーもいいもの。秋の夜長にぴったり。お風呂でよし、寝床でよし、人待ちの駅でもよしの短編集。

本の画象

光文社(1500円・税込)
2011年9月刊



2011年10月17日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


『源氏物語大事辞典』編集委員会
世界一わかりすぎる
『源氏物語』

 『源氏物語』のいわゆるダイジェストである。編者・編集委員が大学の先生方であるところにいっそうの安心感がある。どの巻もそのあらすじが、文庫本で2頁におさめてあるのがいい。こういうお手軽な本は薦められないという向きもあるだろうが、これはこれでいいし、立派な本だと思う。

本の画象

角川ソフィア文庫(590円+税)
2011年9月刊
竹内 洋著
『学校と社会の現代史』

 放送大学叢書の一冊である。帯に「いま学校に何ができるか 学校教育の理想と現実をたどる」とある。内容はしっかりとしたもので、学校教育の変遷について知るのにいい一冊だと思う。かつて、大学でこんなこと学んだな、と思いつつ、今の学校を歴史の中で位置付けることの大切さを改めて考えた。どんな仕事でも、この考え方は大切だろう。

本の画象

左右社(1619円+税)
2011年9月刊


木村和也の推す2冊


魚住孝至著
『芭蕉 最後の一句』
生命の流れに還る

 芭蕉の最後の一句は、辞世の句として知られる「旅に病んで・・」ではなく、「清滝や波に散り込む青松葉」であると断言する。それを起点に「不易流行」から「軽み」まで、最晩年の芭蕉が到達した境地の実態に迫ろうとする。丹念な考証に裏打ちされた論考。

本の画象

筑摩選書(1700円+税)
2011年9月刊
津村節子著
『紅梅』

 吉村昭という作家の同伴者として、その最後を看取った老女流作家のドキュメント的私小説である。淡々と平明に夫が死へと向かうその過程が綴られている。何ほどかのドラマがあるわけではない。ただ、小説の核に、死というドラマが確かな手ごたえで横たわっている。

本の画象

文芸春秋(1200円・税込)
2011年7月刊



2011年10月10日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊


久々湊盈子著
『続 久々湊盈子歌集』

 「トイレから寝間まで汚物踏みつけてある現実を君ならどうする」。義父の介護の歌である。読者は、「トイレから・・・汚物踏みつけてある」までを作者の現実として読み進むのだが、その「現実」を「君ならどうする」と、作者によって現実の外すなわち読者の側に放り投げられるのである。読者は「そ、そう言われても」と困惑するしかない。ここに深刻な現実は一転滑稽な世界に転換し、作者も読者も救われる。戯画化の手法が冴える歌集である。

本の画象

砂子屋書房(1785円+税)
2011年6月刊
エレナ・ウラジーミロヴナ・フィラトワ著
/池田 紫訳

『ゴーストタウン』
―チェルノブイリを走る―

 この本で心に残ったのは、チェルノブイリ原発から60qの都市ポレススコエのことである。当局はアスファルトを剥がし、道を作り直し、建物を解体し病院や学校を作り直した。だが、人々は立ち去り、やがて狼たちの町となった。そのことである。この本の無人の写真を見、文章を読んでいると、福島はとんでもないことに巻き込まれてしまった、と思えてくる。そのとんでもないこととは何か、私には、まだ身体として何もわかっていない。

本の画象

集英社(1260円+税)
2011年9月刊


鈴木ひさしの推す2冊


川合康三著
『中国の恋のうた』
『詩経』から李商隠まで

 今日、漢詩はどう読まれているのだろうか。いまだに、作者の年譜や境遇を参考に、解説通りに読まれているのではないか。「漢詩愛好者を超えて、文学愛好者にもインパクトを与えられたら」が著者の願い。毛沢東が李白・李賀・李商隠を好んだ、というのは面白い。漢詩だってもっと自由に読んでいいのだ。

本の画象

岩波セミナーブックス(2200円・税込)
2011年5月刊
君塚良一著
『踊る大捜査線』
あの名台詞が書けたわけ

 「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」その通り!いつもどこかで誰かが必ず叫んでいるに違いない。著者は、この名台詞を生んだ脚本家。欽ちゃん「道はくねくね歩け」、明石家さんま「ワールドカップは見るな」、小堺一機の「いつも、おびえていよう」、いかりや長介「フリができる人になりなさい」、・・・。自ら受け取った様々な言葉と真摯に向き合う著者の姿勢に好感を持った。

本の画象

朝日新書(700円・税込)
2011年7月刊



2011年10月3日号(e船団書評委員会)

荒川直美の推す2冊


五味太郎作・絵
『ゆかいにひろがる
    ことば絵本』


 女の子がピンクの絵の具で白いキャンバスに「きれい」な線を描く。が、同じ絵の具が女の子の洋服に散ってしまうと「あっ きたない!」。そして、キャンバスのピンクの線にいろんな色の絵の具をぬりかさねると「うううっ きれい?! きたない?!」。最後に絵が完成すると「うーん きれい!!」。
 言葉って、くるくる変化するから、むずかしくておもしろい。五味太郎の絵が、理屈抜きで語りかけてきます。

本の画象

ひさかたチャイルド(1600円+税)
2010年12月刊
西 芳照著
『サムライブルーの料理人』
サッカー日本代表専属シェフの戦い

 赤魚の粕漬け、スナッパーの塩焼き、ビーフシチュー、味噌汁(ネギ・ワカメ・豆腐)、スープ、牛タン塩こしょう焼き、醤油ラーメン、パスタ(バジル・トマト・ペペロンチーノ)。
 2010南アフリカW杯期間中の、日本代表の夕食のメニューです。海外遠征先で食欲のわく楽しい食事を毎日提供することがどんなに大変なことか! 専属シェフである著者の熱意と創意工夫に胸をうたれました。巻末付録に西流最強レシピがついています。

本の画象

白水社(1600円+税)
2011年5月刊


塩谷則子の推す2冊


伊藤比呂美著
『続・伊藤比呂美詩集』

 「私は婆です/日の暮れる前には うたわずにおれません/雨になる前も 明け方にも」。うたわずにいられない伊藤比呂美は「ほんと」の音を求め続ける。摂食障害、離婚、再婚、外国暮らし、マンガ好き、親の介護・・・時代の一典型を音(ことば)にする。力強さと知性があふれる詩集。

本の画象

思潮社(1165円+税)
2011年7月刊
内田樹・高橋源一郎選
『嘘みたいな本当の話』

 アメリカの様々な人々の短文を集めた『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』の日本版。149編。言葉の使い方が同じ。地域や職業による語り口の差がない日本の言語状況は確かに「けっこうすごいこと」(内田)だ。アメリカ版出版は9.11直後、日本版は3.11直後。嘘みたいな本当の話。

本の画象

イースト・プレス(1000円+税)
2011年6月刊



2011年9月26日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


正岡子規著/天野祐吉編・南伸坊絵
『笑う子規』

 天野祐吉が選んだ子規の句集である。百余のユーモアのある句には祐吉の短いコメントが添えられ、本のところどころに伸坊の絵がある。全160ページ、ゆったりした句集だ。「秋の夜長に寝不足になる人。秋の夜長に寝過ぎになる人。世の中はこの二種類でできあがっている。」 この祐吉のコメントは「書読まぬ男は寝たる夜長哉」に添えられたもの。この句の男、もしかしたら『笑う子規』なら読むかも。

本の画象

筑摩書房(1600円+税)
2011年9月刊
荒川洋治著
『昭和の読書』

 この著者、読書体験をもとにしたエッセーの名手である。この本も読書エッセー集だが、読んでいると、こんなふうに本を読みたい、という気分になる。目の前にある本について、「黙すべきものには、いつでも学ぶべきものがある。」(「茶箱」)と著者は言うが、本に対する敬虔ともいうべきこの思いが、彼の読書の根っこにあるらしい。ともあれ、私はかなり前から思ってきた。荒川洋治のように読みたい、と。

本の画象

幻戯書房(2400円+税)
2011年9月刊


舩井春奈の推す2冊


夏井いつき著
『絶滅危急季語辞典』

 世の中いろいろな生命体が息を潜めている。その生命を危惧されている中に、無形物もあることをご存知だろうか。それを阻止しようと目下努力されているのが、著者が率いる委員会による「絶滅寸前季語保存活動」。完全なる死語になる前に救済されゆく季語たち。ここぞとばかりに見直されようとする季語たちが、頁をめくるごとに飛び出てくる。

本の画象

筑摩書房(950円+税)
2011年8月刊
池間 草著
『美男美術史入門』
女子の為の鑑賞レッスン

 文学史だとか美術史だとか、○○史という類のものは、何かとコムズカシイものが多い。その中で異色題名のこの美術史書。著者セレクトによる美男子という視座から入るも、美術史の大まかな流れも辿れる。いいえ、男は顔じゃないわ。心のどこかでそう思いつつも乙女心を刺激されるのは否めない。
 美しいお兄さんは、好きですか?

本の画象

美術出版社(1800円+税)
2011年4月刊



2011年9月19日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す2冊


桂 米朝著
『桂米朝句集』

 先日、坪内先生と酒席をともにした。そのおり、「ナメコロジー研究会」のことを聞き、先生がナメクジに精通しておられたのには驚いた。さすが一流は、ちがう。桂米朝さんの俳句は、ときに知的で、艶にして洒脱。やはり一流は、ちがう。「ランドセルこれが苦労のはじめかも」両人とも、子どもへのまなざしが優しい。

本の画象

岩波書店(1900円+税)
2011年7月刊
デニス・マッカーシー著・仁木めぐみ訳
『なぜシロクマは南極に
いないのか』

生命進化と大陸移動説をつなぐ

 原題は「HERE BE DRAGONS:HOW THE STUDY OF ANIMAL AND PLANT DISTRIBUTIONS REVOLUTIONIZED OUR VIEWS ON LIFE AND EARTH」。「生命と地球の大統一理論」である「生物地理学」の、きわめて良質の啓蒙書。世界観が一転する驚きの連続を経て、いま、わたしは「地球人」になっている。

本の画象

化学同人(2000円+税)
2011年8月刊


桑原汽泊の推す2冊


伊藤一彦監修/大松達知・永田淳編集
シリーズ牧水賞の歌人たち Vol.6
『小島ゆかり』

はるかなる〈O〉の祈りを聴かんとすOの口開く土偶のをんな    ゆかり

 土偶もハニワも地つづきだし、それは南極デラックス夫人にも似ている。きみのすっぴんにも似ている。第5歌集「希望」より。

本の画象

青磁社(1800円+税)
2011年5月刊
石ノ森章太郎著
TOKUMA FAVORITE COMICS
『オトナな石ノ森』

 1968〜76年初出の小品集。ヤングアダルトたちのれい明期じゃないかな。おっとっと、お子様は寝てください。
 とう尾におかれた「青い馬」とかいいな。ヒロインと好きな子の面影が重なって・・・

本の画象

徳間書店(552円+税)
2011年6月刊



2011年9月12日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊


杉田 圭著
超訳百人一首
『うた恋い。2』

 少し安易な、「漫画で読む〜〜」ってタイプかなあと敬遠していたのだけど、こちらはおおいに楽しめました。まず、絵が美しいし、当時の生活様式に嘘がない。これって大事だと思うんです。そこから、平安期の男女の機微がぐっと身近になるから。第1巻の『うた恋い。』(昨年紹介済み)同様に楽しめ、高校生にお奨めしちゃいました。

本の画象

メディアファクトリー(950円+税)
2011年4月刊
香山リカ著
『弱い自分を好きになる本』

 勝ち組、負け組、下流に、格差社会・・・。なんだか嫌な言葉だわ、と思っていたところに、リカさんからの福音。そう、恥ずかしがり屋だったり、口下手だったり、真面目だったり、一人が好きだったり、それらはすべて長所!勝気であるとか、アピール上手とか、友達が多いとかと、まったく同じ長所なの。子どもたちにも伝えたいです。

本の画象

朝日文庫新刊(560円+税)
2011年6月刊


赤石 忍の推す2冊


今泉恂之介著
『子規は何を葬ったのか』
空白の俳句史百年

 一茶から子規までの百余年、著者はそれを俳句史の空白期間と呼ぶ。子規の俳句革新の中で「卑俗陳腐」「月並」と切り捨てられ、その追従者たちによって歴史の中に葬られつつある江戸後期、明治初期の俳人たちにも数多くの秀句があり、それをもう一度、見直すべきと言うのが本書の主旨。だが表現者に「時代を超える作品」さえあれば正当な評価をされているはずだろうし、蕪村や金子みすずのように今後、掘り起こされる可能性もある。題名は子規が全てを隠蔽したようなイメージを与えるが、一個人にそれだけの力があろうはずもない。ともあれ俳句が明治政府にどのように利用されたか、土方歳三、中島三郎助の句の紹介等を含め、魅力に富む一冊ではある。

本の画象

新潮選書(1200円+税)
2011年8月刊
松井牧歌著
『寺山修司の「牧羊神」時代』
青春俳句の日々

 一読し、まず昭和30年前後当時の高校生の知識、表現レベルの高さに驚く。それはどの時代にも通ずる早熟な文学少年少女たちの姿なのかもしれないが、俳句創作活動を全国レベルにまで拡大させる行動力、連帯力は、当時の時代性を感じざるをえない。その核となったのが寺山だが、その姿勢に賛否はあっても、時代を転がすパワーはその当時に培われたものと本書を読んで改めてそう思う。興味深いエピソードとして飛入りの短歌会で板書された歌を勝手に俳句に直したこと挙げているが、寺山にとって俳句は一つの形式に過ぎず、一つのテーマは全ての表現に置換えられるという意識がすでに感じられる。寺山には模倣は存在しない、その萌芽が「牧羊神」にも十分に見てとれる。

本の画象

朝日新聞出版(1900円+税)
2011年6月刊



2011年9月5日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊


堀切 実著
『芭蕉達の俳句談義』

 『去来抄』や『三冊子』に拠りながら、芭蕉と彼を取り巻く俳人達の俳句観を丁寧にたどる。「切れ」や「取り合わせ」など、現代俳句にも通じる課題が例句に即してわかりやすく解説されている。蕉風について総括的に知る手引き書にもなっている。

本の画象

三省堂(1600円+税)
2011年9月刊
石原慎太郎著
『新・堕落論』
我欲と天罰

 敗戦の混乱期の世相から生まれた坂口安吾の『堕落論』に言う「堕ちよ!」の主張の対極として、日本と日本人の弱劣さにメスを入れる。なぜここまで堕ちてしまったのかとの慨嘆から、再建のための処方が語られる。東日本の震災を「天罰」と発言して顰蹙を買ったことへの弁明の書でもある。

本の画象

新潮新書(720円+税)
2011年7月刊


三好万美の推す2冊


『俳句』編集部編
『俳句』3月号

 没後1年経ち、句集やエッセイ集が出版されている河野裕子。河野裕子の長女永田紅と櫂未知子の対談は、成長期の子供を育てながらの海外生活を描いた若き日のエッセイや短歌とをあわせて読むと、河野裕子の作品に少しでも寄り添えるような気がする。

本の画象

角川学芸出版(980・税込)
2011年2月刊
林 将之著
葉っぱで
『気になる木がわかる』

 街中で山中でふと名前を知りたい木に出会うことがある。本書はQ&A形式で鑑定方法や解説が分布場所別にまとめてあり、似ている木もすべてカラー写真が 載っており分かりやすい。巻頭に葉っぱの形と付き方の分類がある。その数23種類。木の名前を覚えるとなぜか気持ちがゆったりとしてくる。

本の画象

廣済堂出版(1500円+税)
2011年6月刊



2011年8月29日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊


安田 登著
『異界を旅する能』
―ワキという存在―

 能のワキは脇役ではない。他の誰にも見えない異界と出会うことのできる存在である。ワキは視点人物であり、現実世界の主人公である。ワキはひたすらシテの話を聴き、時空を越えて観客と物語世界をつなぐ仲介者でもある。能と芭蕉、能と漱石の部分も面白い。能を見たくなる本、俳句の世界が広がる本である。

本の画象

ちくま文庫(740円+税)
2011年6月刊
後白河法皇編纂・川村 湊訳
『梁塵秘抄』

 現代語訳では、歌謡ショーの「前説」に近いものもあれば、テレサ・テンの歌の歌詞に似たものもある。今様は流行歌、広く親しまれた歌謡であるから、そう訳すのは当然である。「遊びをせんとや生まれけん戯れせんとや生まれけん・・・」有名なこの歌も、作者の意図を離れ、様々な声と調子で歌われ、聴衆は様々に聴いていたに違いない。

本の画象

光文社古典新訳文庫(781円+税)
2011年6月刊


若林武史の推す2冊


角川「短歌」編集部編
『短歌』8月号

 特集は、「愛しの河野裕子」。河野裕子一周忌という。短歌雑誌で、こうして代表的な歌人の特集が没後も連綿と組まれているところに様々な想いを抱く。もう一つの特集は、小島なおの第二歌集『サリンジャーは死んでしまった』刊行記念のインタビュー。第一歌集『乱反射』の映画化にあわせてのことだろう。いずれにせよ、何かしら勢いを感じさせる特集のありようだなと思っている。

本の画象

角川学芸出版(950円・税込)
2011年7月刊
佐野洋子著
『死ぬ気まんまん』

 絵本作家、エッセイストとして活躍された佐野洋子さんの遺言といっていい作品集。表題作のエッセイは自由闊達といっていい境地を感じさせる。ずっと前に読んだ深沢七郎のエッセイを思い出した。死を怖れずにいるような筆写の眼差しは、自在の境地に達している。

本の画象

光文社(1300円+税)
2011年6月刊



2011年8月22日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊


河野裕子著
『たったこれだけの家族』

 死の直前に「あなたを残す」と約束した夫、永田和宏の言葉どおり歌集や読本が次々と出版されている河野裕子のエッセイ集。河野はエッセイにおいても優れた書き手であったことがよくわかる。『みどりの家の窓から』と題して25年前に発表されたアメリカ生活の記録が主だが少しも色あせていない。夫婦が一番、その次が子供の核家族、心をこめて寄り添いつつ子供の気持ちを尊重する様子が具体的に描かれている。若いお母さんに読んでもらいたい。

本の画象

中央公論新社(1400円+税)
2011年7月刊
小島なお歌集
『サリンジャーは
   死んでしまった』


 母との仲の良さが際立つ。屈折した思いがない。「あたらしき母の歌集に父の歌なきこと気づき笑えり母と」。母は歌人小島ゆかり。この8月に25歳。一人暮らしを初めたようだが素直さ・無邪気さは稀有で貴重だ。「夏の果だれにも怒る祖父眠るベッドを夜ふけ帆船がゆく」の認知症になった祖父と帆船、「電柱が麒麟となりてわが町を闊歩するさま美しからん」の電柱と麒麟のような飛躍が新鮮。

本の画象

小学館(667円+税)
2011年7月刊


武馬久仁裕の推す2冊


和合亮一詩集
『詩の礫』

 著者は震災後も福島市に留まった詩人である。この本は3月16日から5月26日までツイッターに投稿された詩からなっている。「放射能が降っています。静かな夜です」と、毎夜、詩を故郷に被災者に向けて送り出すのだ。ここには、放射能にも地震にも決して破壊されることのない、いや破壊されようとしない、いや破壊されただけそれを上回るものを言葉で作り出そうとする一人の詩人がいる。詩人は繰り返す。「明けない夜は無い」と。

本の画象

徳間書店(1400円+税)
2011年3月刊
深井 有著
『気候変動と
  エネルギー問題』

―CO2温暖化論争を超えて―

 2009年のクライメートゲート事件をご存知だろうか。例のCO2による地球温暖化説の根拠となったデータがでっち上げであったことが,暴露された事件である。この事件の詳細から本書は始まる。そして、日本だけが巨額のCO2の排出権を買わねばならないサギまがいの京都議定書のからくりを明らかにする。では真に地球の気温を左右するものは何か。それは地球に来る宇宙線の量であり、その増減の周期は1.4億年と6200万年の2つあるという。

本の画象

中公新書(840円+税)
2011年7月刊



2011年8月15日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


池田澄子句集
『拝復』

 著者の最新の句集である。「よし分った君はつくつく法師である」「西瓜ほど重くなけれど志」「本当は逢いたし拝復蝉しぐれ」「胃は此処に月は東京タワーの横」。こんな楽しい句がフジツボ的にびっしり。ことに胃と東京タワーを取り合わせた句は傑作だ。胃と東京タワーがライバルのように立ちあがっている。もう一句、引こう。「もう秋とあなたが言いぬ然うですね」。

本の画象

ふらんす堂(2476円+税)
2011年7月刊
倉谷うらら著
『フジツボ』
魅惑の足まねき

 書店の棚でたまたま手にした本だが、知的に刺激してくれるし、想像力がむくむく湧く。日ロ戦争で日本の海軍が勝利したのはフジツボに要因があったらしい。あのダーウィンはフジツボ研究に熱中し、「私の愛しのフジツボ」と手紙に書いたという。作者の書きぶりは明確、そして実に楽しそう。筆者がフジツボになり切っている。研究者はこのようでなくちゃあ。

本の画象

岩波書店(1500円+税)
2009年6月刊


荒川直美の推す2冊


Sho-Comi編集部編
『アイノコトバ』
〜少女まんがに学ぶモテ女子の作り方〜

 No.1少女まんが誌『Sho-Comi』が、恋する女の子に贈る愛の名言集。テンションの高いセリフの数々に、自分の体温も2〜3度上がってしまいました。
 また、少女まんがのオノマトペ辞典コーナーがおもしろいです。「がしょ」とは、どんな状態を表すコトバでしょうか? 答えは本書の52ページに。

本の画象

小学館(680円・税込)
2011年3月刊
ウィリアム・トレヴァー著/栩木伸明訳
『アイルランド・ストーリーズ』

 現代で最も優れた短編作家といわれる・ウィリアム・トレヴァー。アイルランド出身の著者による、アイルランドを舞台にした12篇。
 一度読みはじめると、まるで静かなジェットコースターに乗せられてしまうよう。ふむふむ…なるほど…ええっ…と読むものの感情をうねらせながら、あっという間に終点に到着し、不思議な余韻に包まれます。

本の画象

国書刊行会(2400円+税)
2010年8月刊



2011年8月8日号(e船団書評委員会)

桑原汽泊の推す2冊


樋口由紀子著
『川柳×薔薇』

 逢いたさにしゅんしゅん沸いているやかん  松岡瑞枝
 新婚さん、いらっしゃーい。かわいいデザインのヤカン。ラグビー場に出てくるブコツでデカイの。かわいいヤカン。「桜咲くそうだヤカンを買いに行こ」(中原幸子)。これで2ヶ。ん?

本の画象

ふらんす堂(1600円+税)
2011年4月刊
平井和正原作・石ノ森章太郎画
『幻魔大戦』
(My First BIG SPECIAL)

 仮面ライダー電車! やられちゃったかな。大津波。初期は、のらくろとか、冒険ダン吉とかにも近い。仮面ライダーは絵や色彩感覚がすごい。全身で風をあびて、不本意にも変身するライダー。あ、幻魔は、これから・・・

本の画象

小学館(667円+税)
2011年7月刊


舩井春奈の推す2冊


金子兜太監修
イラストで彩る1日1語
365日で味わう
『美しい季語の花』

 1年365日と同じだけの草花について書かれた季語集。例えば本日8月8日の項目は、今をときめく「撫子」。この古名は、まったく印象の異なる「常夏」だそう。その理由は本書に委ねるままとして、この1冊からは、草花の名称だけでなく、その奥にあることまできちんとコンパクトに知りゆくことができる。

本の画象

誠文堂新光社(1800円+税)
2011年3月刊
かわしまよう子著
『花よ、花よ』

 縁石の間から咲くスミレ、パイプに積もった砂にぎっしり生えるハコベたち。強く自立する草花は、強いだけでなく優しさも失ってはいない。私たちの生活の中で、そのままスルーしていきがちな雑草に注目した写真に少しの詩を添えた本。あぁ…花よ、花よ。カメラワークから見る著者の視点は、俳句と共通する部分がある。

本の画象

雷鳥社(1200円+税)
2011年6月刊



2011年8月1日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊


安水稔和著
『菅江真澄と旅する』
東北遊覧紀行

 著者は元神戸松蔭女子大教授で詩人。その端正な詩は学生時代、よく読んだ。本書は菅江真澄に興味がなく、北東北、北海道南部に土地勘のないものにとっては、さほど触手が動くものではないだろが、私のように北海道南部に生まれ青森で時を過ごしたものには、これほど面白いものはない。真澄は250年ほど前の江戸中期、何らかの事情で三河を出奔して以来、76歳で秋田に没するまで、北の大地をひたすら歩き、その情景をひたすら書き続けた。柳田国男は民俗学の祖と例えたが、彼の残した『遊覧記』に書かれた道を思い浮かべると、50年前でも野越え山越えだったのだから、その旅がどんなに凄まじい環境でのものだったのか、想像もつかない。

本の画象

平凡社新書(780円+税)
2011年7月刊
山田 順著
『出版大崩壊』
電子書籍の罠

 いま出版業界では活字で書かれた本を「リアル本」と呼びつつある。電子書籍に対しての言葉だ。様々な電子ブックリーダーデバイスが現れ、読者はそれらを通して活字を読むようになり、遅かれ早かれ紙の書籍はなくなると、出版社、書店は戦々恐々としている。もはや書き手の著者とデバイスを所有している読者、そして、その二つを繋ぐ通信業者さえいれば、本の世界は完結するというのが、その理由。版元も書店も時代に取り残されまいとその渦に身を投じ始めているが、しかし電子書籍そのものが「本」のように文化的価値とともに商品価値を持ち続けられるのかというのがこの本の主旨である。本はいったいどこに向かっているのか、まさに混沌と言うほかないのが実情だろう。

本の画象

文春新書(800円+税)
2011年3月刊


田中俊弥の推す2冊


水内喜久雄編
『続・一編の詩があなたを
強く抱きしめる時がある』


 2011.3.11以降、日本は変わった。それは、確かなことなのだけれども、本当に何が変わったのか。その渦中にいるわたしたちは、その本当のところがつかめずにいる。そんな気がしてならない。いまもこころは落ち着かず、深く傷つき、動揺している。詩が、詩のことばが、平安への道をそっと用意しているのだ。

本の画象

PHP研究所(1300円+税)
2011年7月刊
吉益敏文・山崎隆夫・花城詩・
齋藤修・篠崎純子著

『学級崩壊』
荒れる子どもは何を求めているのか

 「問題は必ず起きるんです。」「僕らは『なぜ』にこだわる教師でありたい。『どうする』にこだわると、管理指導に走らざるを得ないんです。」生きることのあらわな激しいせめぎあいのなかで、問題は起こり、展開する。その渦中で、いかにことばで踏みとどまれるか。考える人たり得るか。きわめて本質的な問題提起だ。

本の画象

高文研(1400円+税)
2011年6月刊



2011年7月25日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊


杉山久子著
『行かねばなるまい』

 15年前俳句新聞『子規新報』に連載していたエッセイ「お遍路は風まかせ」が一冊なったのが本書。優しい人、ユニークな人、危険な人、長いお遍路道中には、一生ものの出会いと笑いがつまっている。明るく軽妙な文体で、読んでいるうちに、自分も一緒にお遍路で歩いているよう。

本の画象

創風社出版(1200円+税)
2011年6月刊
メディアファクトリー編
『ターシャが愛した花の名前』

 生前は絵本作家、園芸家として世界中にファンがいたターシャ・テューダーが広大な庭に育てて楽しんだ花々は、どれも淡く、涼しい色彩で、強い原色のものはない。殊に夏のはじめの花々が素晴らしい。バラと草原の花をセンス良く同居させるターシャに共感する部分は多い。

本の画象

メディアファクトリー(1500円+税込)
2011年4月刊


朝倉晴美の推す2冊


吉村 昭著
新装版『海も暮れきる』

 小豆島へ訪ね、そこで没するまでの尾崎放哉。伝記文学、吉村氏の真骨頂。眼前に迫るリアルな放哉に参った。
 読後、放心するほどに。放哉の孤独や破天荒ぶりに共感などできないけれど、人間の業の怖さを知った気がするのです。

本の画象

講談社文庫(610円・税込)
2011年5月刊
長野まゆみ著
『八月六日上々天氣』

 あの日のヒロシマの記述がないままに物語は終わる。
 そうなのに、女学生が、新妻が、志願した青年が、海軍学校へいく少年が、愛おしくて切ない。
 私は戦争も核も大嫌いです。

本の画象

河出文庫(500円+税)
2011年7月刊



2011年7月18日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊


穂村 弘著
『君のいない夜のごはん』

 歌人・穂村弘の食に関するエッセイ集。もう安定感ばっちりで、穂村ワールドが炸裂している。あくまで個人的にだが、ちょっとずつ大事に読もうと思う一冊だった。エッセイって味わうものという感じで読めた。同年代の方にはお勧めできるような気がする。

本の画象

NHK出版(1400円+税)
2011年5月刊
内田 樹著
『最終講義』

 今春、神戸女学院大学を退官した内田樹氏の最近の講演録集。いつもの内田氏の主張が展開されている。随分とメジャーになり、活躍の場も多いだけに、余裕を感じさせるような話しぶりが読み取れる。これから先、どんな活躍があるのか、さらなる飛翔への一里塚のような気も少しする一冊。

本の画象

技術評論社(1580円+税)
2011年7月刊


木村和也の推す2冊


岸本尚毅著
シリーズ自句自解T ベスト100
『岸本尚毅』

 作為を徹底的に排するという純粋写生派の作句態度が鮮明に出ている。これほど一徹になれば、心棒が通っていてむしろ快い。「取合せの正否は『意図』ではなく『結末』である。だから投機的である」とは、一つの見識であろう。

本の画象

ふらんす堂(1500円+税)
2011年7月刊
橋爪大三郎×大澤真幸著
『ふしぎなキリスト教』

 「この世を創った神の意志を探求するところから自然科学は興った。だから自然科学はキリスト教から生まれたのだ」。キリスト教圏でなぜ自然科学は発達したのか、の明快な説明である。ユダヤ教、キリスト教、またそれと対比する形での仏教についても、理解の深さは群を抜いている。とにかく面白い。

本の画象

講談社現代新書(840円+税)
2011年5月刊



2011年7月11日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊


日本短歌協会編
『歌人年鑑』
2011年度版作品集成
―光と影の(花)の帆船―

 年鑑の目玉は、共同制作・劇詩『暁の寺』。狂言回しの歌人Kと暁の寺の底にある黄泉の国へ。そこで、死んだ歌人・詩人・「豊饒の海」(三島由紀夫作)関連の人物に扮した21人の会員が、歌人三十一の罪を断罪。その一つ「歌壇の罪」。本多繁邦「壇の名称厳めしく偉き霊みな住むならん。…」、それに応えて三島「…一人 ふたり集まり会ができ 嘘八百の五万人。…」と丁々発止の面白さ。歌人も時には「私」以外の人物に扮するのも悪くはない。

本の画象

学研教育出版(4800円・税込)
2011年4月刊
広瀬 隆著
『福島原発(FUKUSHIMA)
メルトダウン』


 「第五章『浜岡原発』破局の恐怖」は、私を恐怖させた。浜岡は日本の中央にある。近い将来必ず起きる東海大地震の震源地の真上にあるのだ。浜岡原発が制御不能となれば「日本の中枢部は即刻、全滅」とある。チェルノブイリも福島も知らない時代に書かれた武谷三男編『原子力発電』(岩波新書)には、大原発事故がもたらす「数百万人の人の立退きによって出現するゴースト・シティのありさまを想像することができるであろうか」とあった。

本の画象

朝日新書(740円+税)
2011年5月刊


鈴木ひさしの推す2冊


平出 隆著
『ベースボールの詩学』

 1888年〜89年、スポルディングの「アラウンド・ザ・ワールド・ツアー」の話から始まる。著者は「ベースボール」と「詩」に「本源的同一性」を見る。適度に挟み込まれた絵や写真がなぜか懐かしい。自分につながる思い出のようでもあり、映画のワンシーンのようでもある。また、詩の始まりにも見える。当然「短詩型プレーヤー正岡子規」も登場する。
 恋知らぬ猫のふり也球あそび  子規

本の画象

講談社学術文庫(920円+税)
2011年3月刊
中野 翠著
『小津ごのみ』

 「男はつらいよ」に御前様の笠智衆が欠かせないのとは別の意味で、小津映画に笠智衆は外せない。『晩春』でお父さん役、『麦秋』でお兄さん役、『東京物語』で舅役、よほど、「小津ごのみ」だったに違いない。ファッション、インテリア、きもの、唐紙、格子のカーテン、障子、湯呑み茶碗、ドンブリ、お銚子、灰皿、・・・こんな映画の楽しみ方もあるのだ。

本の画象

ちくま文庫(760円+税)
2011年4月刊



2011年7月4日号(e船団書評委員会)

坪内稔典の推す2冊


天野祐吉編
『隠居大学』

 サブタイトルは「よく遊びよく遊べ」。編者が主宰する隠居大学において、編者が話し相手になった講義録。話すのは横尾忠則、外山滋比古、赤瀬川原平、谷川俊太郎、坪内稔典、安野光雅。本の帯に言う。「遊びの達人6氏が、オモシロキビシク、いい加減精神の真髄を語り明かす」。そういえば、僕が隠居にあこがれたのは40歳に近づいたころ、まあ、いい加減だった。

本の画象

朝日新聞出版(1300円+税)
2011年6月刊
日本文藝家協会編
『2011 ベスト・エッセイ』

 「時の流れのなかの、出会いと別れ。懐かしくてせつない感情がゆらぐ」は帯のコピー。穂村弘、早坂暁、町田康、五木寛之、内田樹、池内紀ほか78名のエッセイを集めている。私の「朝はあんパン」も。「隠居大学」もこの本も、たとえば木陰のハンモックでうつらうつらしながら読んでいただくといいなあ。木陰のベンチでもよい。

本の画象

光村図書(2100円・税込)
2011年6月刊


塩谷則子の推す2冊


池内 紀著
『作家のへその緒』

 12人の作家、詩人、歌人論。どの論も切り口が新鮮で説得力がある。特に面白いのが宮沢賢治論。お経が賢治の文体の骨格をなしたという。また『白骨文章』(蓮如)の明確なレトリックが、文範となったとも。子供の時、くり返しと合唱が情感を高めていくお経を「耳で読んだ人」賢治は大人のズルさ、無慈悲さ、愚かさをじっくり観察する人だった。千首も作っていた短歌を捨て、詩と物語を書き始めたのはお経のリズムとメロディが内部に渦巻いていたからという論にうなった。怒りも渦巻いていた。

本の画象

新潮社(1700円+税)
2011年5月刊
荒山 徹著
『朝鮮通信使いま肇まる』

 史料を数多く引用、史実のふりをしながら、朝鮮通信使の実態についての仮説を大胆に描いた小説。通信使は「日韓善隣友好のシンボル」として祭り上げられていると登場人物に語らせる。江戸時代は呼びつけられていた。しかし、通信使も日本で見たままを報告しなかった。町人文化など理解されそうになかったから。では日韓友好の鍵はどこにあるか。李氏朝鮮第四代世宗。当時の室町文化を取り入れたくて通信使を自ら送り、かなをヒントにハングルを創製した。相互の文化の尊重に鍵はある。

本の画象

文藝春秋(1667円+税)
2011年5月刊




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