俳句 e船団 ブックレビュー
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2013年6月24日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊

角川春樹著
一行詩集 『夕鶴忌』

 急逝した姉の辺見じゅん(歌人)に捧げられた追悼句集。著者が一行詩と称する句群には、鎮魂のための挽歌に混じって、心やさしい素直な句も散見する。これも著者があとがきで述べている「軽み」のひとつか。
 夕鶴や挽歌の沖に火を焚けり

本の画象

文學の森(2800円+税)
2013年4月刊
中島義道著
『非社交的社交性』
大人になるということ

 「人間嫌いであっても、よい人間関係を開拓することが大人になるということだ」と著者は言う。若者のための人間関係論であると同時に、いささか毒を含んだ真摯な哲学指南書でもある。文のスタイルはやや過激だが、確かな問題意識に貫かれている。

本の画象

講談社現代新書(740円+税)
2013年5月刊


朝倉晴美の推す2冊

木割大雄句集
『俺』

 尼崎在住の、俳句とタイガースと人間をこよなく愛すキワリさん。愉快なイベントも数々成功させるも、その心根はシビアで慈悲深い。
 キワリさんのエッセイに宇多喜代子氏の序文。どれも、熱く静かな血潮が感じられます。
 母看つつ冬のバナナを食いにけり 大雄

本の画象

角川書店(2500円・税込)
2013年5月刊
杉浦由美子著
『女子校力』

 今、女子中学、高校に一番求められているものは「社会へ出ていくために、勉強をさせる」という学校方針。
 かつての女子校ブランド「良妻賢母」「お嬢様」は、すでに受験界では死語に等しい。 しかしながら、女子校らしい気風は健在。「他人の目を気にせず、目的に向かっていく力」が彼女たちを大きく羽ばたかせる。ともすれば、世間知らずにも通じるが、それこそが女子校力。ビバ女子校!

本の画象

PHP新書(760円+税)
2013年3月刊



2013年6月17日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

白井良夫著
『古語と現代語のあいだ』
―ミッシングリンクを紐解く

 筆者は、牧水の「白鳥は哀しからずや」の歌の「哀し」は悲哀ではなく、 限りない喜びの感情を意味するという。他にも古語と現代語のつながりについて、ミッシングリンクという語をキーワードに論じている。個人的には、白鳥は、の読みが広がってよかった。

本の画象

NHK出版新書(740円+税)
2013年6月刊
坂詰真二著
『やってはいけない
  ストレッチ』


 タイトル通りの内容。ちゃんとした方法でストレッチしないと逆効果ということの意味や、反動をつけて行うストレッチにも効果があるなど、理にかなった説明で納得しやすい内容。「続けないと意味がない」という至極当然な説明に、やっぱりそうかと反省するばかりです。
本の画象

青春新書(838円+税)
2013年5月刊


三好万美の推す1冊


佐々木和歌子著
『やさしい古典案内』

本の画象

 学生時代授業で習った古典の数々。文法の活用を覚えるのはやや億劫だったが、個性のある楽しい先生だったので、嫌いにならずにすんだのが幸いだった。慌ただしい日常に古典との接点はほとんどないが、何かの折にふと一節を思い出しただけでもなんとなく豊かな気分になる。
 本書は万葉の時代から江戸後期まで、日本人の表現の歴史を示すととも に、各時代2、3編の古典作品を挙げて、作品本位でそれぞれのテーマや表現の特色を述べている。日頃は文学や歴史に接点のない生活をしている人でも、興味を持って読んでみようかと思わせるような見出しの言葉がいい。

角川選書(1600円+税)
2012年10月刊



2013年6月10日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊

石原千秋著
『近代という教養』
文学が背負った課題

 『近代の教養』ではなく、近代が教養なのである。近代での「当たり前」は進化論なのだ、と著者は書いている。「進化論」そのものではなく、全てを自然と進化論的に考えてしまうということなのだ。『女の謎がつくった近代』という本を書きたいという著者の準備としての本。石原千秋氏の本には、よくお世話になっている。

本の画象

筑摩書房(1600円+税)
2013年1月刊
中谷宇吉郎著
『科学以前の心』

 著者は明治33年生まれの「雪の科学者」。文章に見える抑制は、科学者の思考ともいえるが、厳しい時代背景も感じられ、それがまた、時に詩的である。「やっぱし学問のある人にあ、かないみしん。うまいことだまかしなさる。」(「科学以前の心」のお婆さん)「現代に住む者が、現代を見ることは、至難な業である。」福岡伸一の解説。
本の画象

河出文庫(700円+税)
2013年4月刊


宇都宮哲の推す1冊


日菓(内田美奈子+杉山早陽子)著/新津保建秀撮影 
日菓のしごと
『京の和菓子帖』

本の画象

 私の今年上期のいち押し本というよりも、久しぶりに面白い“モノ”に出会った。日菓という若い女性の和菓子職人2人のユニットが、独自にアレンジし創作した和菓子80点余りを写真と小文で紹介した1冊である。その作品いずれもが、日常のひとコマを切り取り新しい感性で表現していて、思わずうれしくなってしまう和菓子なのである。ネーミングもユニークで、いささか敷居の高い京和菓子のイメージを覆してくれる。「気配り美人」「やぎさんゆうびん」「テトリス」「鬼のあたま」「うめぼしのキス」「ラッキーセブン」「雲のひかげ」「酔っぱらいまんじゅう」「○△□」などなど。これみんな和菓子の名前。もちろん、どれも伝統的製法で作られ、京和菓子の王道を外していない。じっと見ていると無性に食べたくなってくる。また、これだけでも楽しいのに、添えられた小文が素敵で、和菓子の世界が一辺に広がってくる。何故か、詩人、俳人におススメの一冊。その理由は、見て、読んで、食べて?からのお楽しみに・・・。

青幻舎(2000円+税)
2013年4月刊



2013年6月3日号(e船団書評委員会)

富澤秀雄の推す2冊

「短歌」2013年5月号
特集 今こそ読みたい北原白秋『桐の花』×斎藤茂吉『赤光』

 白秋の『桐の花』、茂吉『赤光』の刊行100周年記念特集が組まれている。4人の歌人たちの座談会で、白秋は晶子の「みだれ髪」を。茂吉は子規の「柿の歌」を入り口としたという。二人の韻律の違い-白秋は歪が無く、茂吉はぐねぐねしているという指摘がなされている。他に、一首鑑賞や背景検証も行なわれている。

本の画象

角川学芸出版(890円・税込)
2013年4月刊
外山滋比古著
『日本語のかたち』

 昭和27年に、公文書は横書きにするように通達がされたのが、原因で教科書も国語を除いて横書きになったとか。文字を読む際、視線と直角に交わる字画がないと読みづらい。漢字はそのような形になっているのに、欧米のような横書きにするのは、不合理であると、具体例を上げて言及している。また、日本語のスタイルについても詳説されている。

本の画象

河出文庫(660円+税)
2013年3月刊


武馬久仁裕の推す2冊

長澤奏子句集
『うつつ丸』

 昨年6月、74歳で死去した長澤奏子の遺句集である。癌が発症しても元気な人だった。癌になっても口は達者だからと言って笑わせてくれた。私と一緒にやった『雑技団』からも「まれに菫を夢見る塵芥収集車」「高階に飼はれし猫の春愁」そして「昭和区を出てより柩車直進せり」などが取られている。遺句集を読んでいると、全てに作者のことが偲ばれ淋しくなる。

本の画象

砂子屋書房(2940円・税込)
2013年6月刊
下川裕治著
週末バンコクで
『ちょっと脱力』

 バンコクから帰って来て書店で目についたので買った。ちょっと行ってちょっと楽しむいい方法がないかな、と思ったのだ。本の中で一番してみたかったのは、大理石寺で昼寝することだ。タイの日差しは押されるようだ。それほど強く暑い。しかし、土曜の午前に日本を発ち、夕食をバンコクの屋台で食べ、1泊し、月曜の早朝帰国、出社って、贅沢だなあ!

本の画象

朝日文庫(672円・税込)
2013年3月刊



2013年5月27日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

井波律子著
『一陽来復』

 まもなくアジサイの季節だ。アジサイは深紅色がいいという。アジサイはブルーだという思い込みをくつがえす、意表をつく面白さがあると。そして暑い季節に京都で食べられる懐中汁粉に思いを馳せる。44年生まれの中国文学者が中国の古典詩や歳時記を核に身辺を描く。柔軟な感受性が老後を豊かにすると教えてくれる。

本の画象

岩波書店(2000円+税)
2013年3月刊
村田喜代子著
『ゆうじょこう』

 底なしの貧乏に娘を売った親、親孝行の娘はどれほどいたろう。明治36年15歳のイチは硫黄島から熊本の二本木遊郭「東雲楼」に売られてきた。翌年には父親がさらに150円の前借り。明治33年、実在した「東雲楼」で50名がストライキという事実を元にした小説。字を学び日記を書くことで成長するイチ。鹿児島弁の日記がいい。

本の画象

新潮社(1800円+税)
2013年4月刊


紀本直美の推す2冊

雪舟えま著
『バージンパンケーキ国分寺』

 歌人・小説家の雪舟えまさんの書き下ろし作品。不思議なパンケーキ屋さんを舞台に、ふわふわほわほわした言葉で物語が綴られていきます。巻末にパンケーキのレシピが付いているのですが“キャラメル・ベリー・UFO”や“テンプル・ライト・ライト・フォレスト”など名前がすてきで、まるで短歌を読んでいるようです。

本の画象

早川書房(1300円+税)
2013年5月刊
筒井敬介作/堀内誠一絵
かわいいとのさま
『おだんごだんご』

 かわいいとのさまシリーズ第一巻。おだんごをたべたくなるお話「おだんごだんご」など春をテーマにした話を3話収録しています。主人公が絵本から飛び出してきそうな堀内誠一氏のイラストと、簡潔でユーモアあふれる筒井敬介氏のお話が魅力。1970年の作品を改稿絵本化したものですが、今年作られたような新しさです。

本の画象

小峰書店(1300円+税)
2013年4月刊



2013年5月20日号(e船団書評委員会)

桑原汽泊の推す2冊

岡井隆・馬場あき子・永田和宏・穂村弘選
『新・百人一首』
近現代短歌ベスト100

ゆふされば大根の葉にふる時雨
  いたく寂しく降りにけるかも 斎藤茂吉

人生はただ一問の質問にすぎぬと書けば
         二月のかもめ  寺山修司

 寺山は「海に霧」より、こっちかな。

本の画象

文春新書(880円+税)
2013年3月刊
クリストファー・ロイド著/野中香方子訳
『137億年の物語』
宇宙が始まってから今日までの全歴史

ツタンカーメンのひつぎにあったヤグルマギクの花束・・・
2万4千年前頃に絶滅したネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)もまた、音楽を愛していたそうです。

本の画象

文藝春秋(2990円+税)
2012年9月刊


舩井春奈の推す2冊

村上春樹著
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

 ある日とびきり仲の良いグループから突然爪弾きにされてしまったなら、あなたならどうするだろうか。それも自分の身に覚えのないことだとしたならば―。多崎つくるの場合、だいぶ年を隔ててから当時の友達に一人ひとり再会していく。まるで巡礼をするかのように。村上春樹、3年ぶりの書き下ろし長編小説。

本の画象

文藝春秋(1700円+税)
2013年4月刊
日本近代文学会関西支部
京都近代文学事典編集委員会編

『京都近代文学事典』

 都が京都に置かれなくなっても、京都は独自の文化を形成していく。その潮流は文学へも波及する。これはそうした京都に縁ある文学者について取り上げられた事典。近代以降の京都にまつわる文学関係のコラムもある。一般的な文学事典と違うところは、それが京都というトポスからの照射で解説されているところにある。

本の画象

和泉書院(6090円・税込)
2013年3月刊



2013年5月13日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す1冊


岩波書店 「図書」2013年4月号

本の画象

 月刊誌の「図書」は、2013年4月発行の本書で770号。小生の読書は、高校時代から始まったが、奥付の書き込みをみると、岩波新書の『パスカル』(野田又夫著)を書店で買ったのが昭和50(1975)年11月1日、同じ著者の『デカルト』を購入したのが同年11月22日。15歳、高校1年生の晩秋のこと。デカンショ≠フ気風にあこがれていた少年は、「文化は岩波にあり」とばかり、「図書」年間購読を始めた。当時、年間で200円だったか。爾来、今日までのお付き合いである。第一級の文章家による数々の随筆は、格調も質もすこぶる高く、読書家・文章家への道をひらいてくれる。文化の羅針盤として、「図書」は、いまも小生の「硬派」の友である。

岩波書店(100円・税込)
2013年4月刊


赤石 忍の推す1冊


辻 桃子著
『あなたの俳句はなぜ佳作どまりなのか』

本の画象

 刺激的なタイトルに、思わず買ってしまった。当方は、佳作どころか、句会ではほとんど点が入らず、悲しみの涙にくれている昨今である。まず前書きの「現代の言葉で現代を詠むこと」にうなずく。「上手でありながら下手のように感じさせる句がよい」には、難しいよなとは感じながらそうだと思う。そして、それは「志を同じくする俳人連衆と共有する場で実現する」には同意。それを前提に、季語や切れ字の使い方、倒置法のすすめなど、具体的なテクニックから、無意識の自分との出会いなど、俳句の本質にかかわる部分まで、たいへんに為になった(でもすぐには効果は出ないだろうな)。
 ただ、「連衆の有機性は座と愛がある時のみ機能する」に「えっ」と思い、「徹底写生が超現実主義的な俳句を実現する」に「うーん」と思った。座に愛は必要なのか、写生はあくまで筆者が嫌う個の実現ではないかなど、答えがつかぬことがぼんやりと浮かんだ。俳壇の陳腐化を憂い、革新を模索している姿勢には共感したが、新しい言葉をどのような獲得していくのか、理論的に、もっと具体的に示してくれればと、点が入らない分際で思った、読後の次第である。

新潮文庫(490円+税)
2013年2月刊



2013年5月6日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊

小林 凛著
『ランドセル俳人の五・七・五』

 帯にあるような「天才俳人」かどうかは知らないが、小学生が単発でなくまとまった俳句をこれだけ並べて出版するのは、俳句界にとっても貴重であろう。周りの大人たちには、せっかくの「新人」を大切に育ててほしいと思う。
「生まれしを幸かと聞かれ春の宵」

本の画象

ブックマン社(1200円+税)
2013年4月刊
 
「芸術新潮」2月号
特集・小林秀雄―美を見つめ続けた巨人―

 大学入試センター試験の問題にも取り上げられて、久しぶりに脚光をあびている小林秀雄の「美」を特集する。小林が愛した骨董や絵画もふんだんに掲載されている。何よりも小林自身の素顔を伝える写真が数多く発掘されており、小林ファンにはありがたい特集となっている。
本の画象

新潮社(1500円・税込)
2013年1月刊


朝倉晴美の推す1冊


塩見恵介著
お手本は奥の細道 ―はじめて作る 俳句教室』

本の画象

 9才の娘に、「あっ、私もやりたい!」と言わせた1冊。
 どのページを開いても「楽しく俳句できる」1冊。
 本書は、62の講座に分かれていて、1講座につき見開き2ページ。たとえば「季語を入れる」や「切れ字を使う」などの基本から、「取り合わせ」、「恋」や「食べもの」、「地名」などの詠みこみ、そして、「異化してイカす」、「ボケる」など、高度テクニックまで。
 あらゆる手法を、奥の細道の例句と美しいカラー写真、塩見氏の絶妙トークで述べられています。
 さあ、始めましょ。いつやるの?今でしょ!の一冊です。
 〈平凡でつまらないと思われる日常に、俳句を通して、ちょっといいことを見つけることになります。〉とは筆者の弁。
 イカしてる!

すばる舎(1300円+税)
2013年3月刊



2013年4月29日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

奥田健次著
『メリットの法則』
行動分析学・実践編

 筆者は「子育てブラックジャック」と呼ばれているらしい。様々な事例を挙げながら、行動分析学の考え方、手法を紹介している。行動の元になる要因が分析的に捉えられており、なぜそう行動するのか、どうしたら改善するのかが、わかりやすくまとめられている。言われてみればその通り、という内容なのだが、なかなかそこに気づかないものなんだなというのが率直な感想。子育てのヒントにお勧めします。


本の画象

集英社新書(740円+税)
2012年11月刊
牧野高吉著
古典にビックリ! 今ためになる!
『英語対訳で読むイソップ寓話』

 お馴染みのイソップ寓話が英語で、そしてその傍に日本語訳が載せてある。知っている話も多いので、話を読みながら、昔々に習った英語が合わせて蘇ってくる。意外と知らないものもあって、あらためて勉強になる。ウサギと亀の話の最後の亀のセリフは、The tortoise told the hare modestly, "Slow and steady wins the race." かっこいい。
本の画象

じっぴコンパクト新書(762円+税)
2013年4月刊


三好万美の推す1冊


田辺聖子著 続 田辺聖子の 古典まんだら』
一葉、晶子、芙美子

本の画象

 副題の三人のほかにも、杉田久女と吉屋信子についても取り上げている。資料を丹念に読み込んで調査し、作品と史実を照らし合わせながら作家として、女性としてのそれぞれの特性、魅力を紹介している。特に、久女についての客観的な考察を読むと、先入観にとらわれることなく、作品、俳句本位で評することの重要性を感じた。

新潮社(1300円+税)
2013年1月刊



2013年4月22日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊

平川克美著
『移行期的混乱』
経済成長神話の終わり

 日本の人口が減りはじめている。人口が増えていた時代の思考は、もはやすべて問い直さなければならないと著者は説いている。この本の味わい深いのは、生きた人々の心情、労働観の変化とともに戦後の社会をたどりつつ、これからの社会のあり方を考えているところである。鷲田清一と著者の対談、内田樹・高橋源一郎の解説。


本の画象

ちくま文庫(760円+税)
2013年1月刊
倉嶋 厚著
『日本の空をみつめて』
気象予報と人生

 人が感じている空は、どんな形か。「不来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心(石川啄木)」寝ころんで見上げる空の形は?著者は八木重吉と山村暮鳥の二人に、結核の病床から空を見上げた詩人として共感を寄せる。「防災気象情報の要点は、いち早く季節が変わったことを認識し、新しい季節に適合した生活を促すことである」
本の画象

岩波現代文庫(1040円+税)
2013年3月刊


宇都宮哲の推す2冊

丸谷才一著
『無地のネクタイ』

 昨年亡くなるまでの過去10年間に書かれた文章の達人・丸谷才一のエッセイ集。終生変わらなかった歴史的仮名使いの文章によって進められる明快な論が小気味よい。また、時機を外れたエッセイは時として気の抜けたサイダーになってしまうが、どっこい、いずれの一文も縦横な博識と自称・ジャーナリストの鋭い批評精神が満ちていて知的興趣をくすぐる。なかでも、おススメは、俳句をテーマにした「欠伸する虚子」。“人事の虚子”論が、面白くて興味深い。

本の画象

岩波書店(1400円+税)
2013年2月刊
レイモンド・チャンドラー著/村上春樹訳
『大いなる眠り』

 村上春樹の新訳で、あの探偵小説の古典的名作が帰ってきた。伝説の探偵フィリップ・マーロウのハードボイルドな物語が、精緻な人物・情景描写と洒落た会話で展開されていく。チャンドラー独特の一人称の文体と春樹の訳のリズムがうまくシンクロして、エンディングまで一気に読ませてくれる。昔に読んだ硬質なイメージには少し遠い気はするが、ハードボイルドの味は十分利いている。何十年ぶりかのマーロウとの再会だが、やはり、彼は、タフで優しくカッコ良かった。“マーロウは永遠なり!”である。

本の画象

早川書房(1700円+税)
2012年11月刊



2013年4月15日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

依田仁美編著
『依田仁美の本』

 短歌界の異才、依田仁美の歌あり歌論あり、歌人俳人の依田仁美論ありの1冊。中でも面白いのは歌論「現代短歌出門」だ。短歌界の保守的な美意識、政治性に絡め取られた軟式短歌から、自分の個性を磨き普遍的な短歌的美の拡張を目指す硬式短歌への教唆だ。だが、出門には冷や飯の罰が待っていると覚悟を促す。「冷や飯の食い方はなあ花の下 月ほんほろの淡淡の中」。名歌である。


本の画象

北冬社(1800円+税)
2012年12月刊
千田嘉博著
『信長の城』

 信長が最初に作った城が尾張の小牧山城である。この小牧山城は近世的城下町のはしりであったことを著者は明らかにする。これが岐阜城を経て安土城で完成されるのである。唯一絶対の超越的支配者である信長の住む巨大な城とその下に階層的に並ぶ家臣の家、そしてさらにその下に広がる町家(城下町)、領国。城を通して信長の目指した身分制的、近世封建社会が見えてくる一冊である。
本の画象

岩波新書(840円+税)
2013年1月刊


富澤秀雄の推す2冊

梅内美華子著
『現代歌枕』
歌が生まれる場所

 俳句は時代を敏感に季語に取り入れ、いまを詠んで来た。それに比して、和歌以来の歌枕を失った短歌は、コンビニ、地下鉄、ケータイなどの今を詠まねばならなくなった。筆者は、それらの物や場所を「現在歌枕」としている。たとえば、ケータイの項では「カチカチと素早くメール返す音仲良しなのに焦るのはなぜ?」尾下友紀子。変わりつつある短歌の世界を覗く一書。

本の画象

NHK出版(1500円+税)
2013年3月刊
山藤章二著
『ヘタウマ文化論』

 「ヘタウマ」?少し前までは、芸術や芸能では「ウマイ」か「ヘタ」の二極であった。それに拮抗して「オモロイ」という第3極台頭してきた。どうやら{ヘタウマ}は、ヘタそうに見えて、見る人を引きつける個性や味わいのある作品や芸を指すようだ。辞書にさえ存在しない「ヘタウマ」を文化とする、その切り口が面白い。

本の画象

岩波新書(720円+税)
2013年2月刊



2013年4月8日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

アーサー・ビナードさく/岡倉禎志写真
『さがしています』

 偶然3月11日に手にとった1冊。アーサー・ビナードの名をみつけて絵本のページをめくると、内容は広島の原子爆弾についてでした。被爆してぐちゃぐちゃになった弁当箱や鉄瓶など、被爆者の遺品に、アーサー・ビナードの真摯な言葉。目をそらしてはいけない、伝えなくてはいけないという想いをひしひしと感じました。


本の画象

童心社(1300円+税)
2012年7月刊
つるみゆき著
『絵本 つくりかた』
プロの現場から学ぶ!

 絵本作りについて、ストーリーの作り方や絵の描き方など、初心者に向けて丁寧に図解されています。驚いたのは、最後の章が「Web上で電子書籍を作成する」になっていること。自分で値段を決めて、Webで販売することができるんだそうです。世の中、そんなことになっているなんて知りませんでした。勉強になります。
本の画象

技術評論社(1880円+税)
2013年1月刊


塩谷則子の推す2冊

紀本直美俳句集
『さくさくさくらミルフィーユ』

 「どの道もさくさくさくらミルフィーユ」「すきだけど人として不可山びらき」。○○女と呼ばれる現代女性の気持ちが伝わってくる。流行に敏感でちょっといじわる、そしてなまめかしい。「じゅんさいをつるんとなめるきみのした」。何回読んでも新鮮。文体と言葉遣いが新しい。一句ごとに掌編小説が書けそうだ。作者は1977年生。

本の画象

創風社出版(1500円+税)
2013年3月刊
平田オリザ著
『幕が上がる』

 俳句集のあとがきによると、紀本直美さんは、高校に入学してから大学卒業後3年間、演劇に熱中していたという。時代の旬(今)を描く力と音に敏感なことは演劇修行で磨かれたのだろう。
 『幕が上がる』は演劇コンクール全国大会出場をめざす高校演劇部のお芝居漬けの日々を描く青春小説。場面を設定し演じる訓練など細部が見事。

本の画象

講談社(1300円+税)
2012年11月刊



2013年4月1日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

高橋久美子著
『思いつつ、嘆きつつ、走りつつ、』

 人気バンドグループから脱退し、コトバを紡ぎ出すヒトとして歩み始めた高橋久美子氏の初エッセイ本。試みてみたからこそ無意味だったと分かったお話から、よくぞ思いつき行動にまで移した!というお話までイロイロ。時にユルく、時にアツく!時折、彼女の歌詞に対する在り方や詩に向き合う姿勢も垣間見られる。


本の画象

毎日新聞社(1200円+税)
2013年2月刊
佛教大学坪内稔典研究室編
『子規研究』第1号

 佛教大学大学院の坪内ゼミから1冊の小冊子が生れた!その名は『子規研究』。書名に子規とついているけれど、正岡子規にまつわることばかり書かれているわけではない。子規のこと、俳句のこと、あれこれ。これからの号も斯うご期待?!
本の画象

非売品
2013年1月刊


田中俊弥の推す1冊


白井恭弘著 『ことばの力学』―応用言語学への招待

本の画象

 応用言語学とは、「現代社会の問題解決に直接貢献するような言語学」のこと。筆者は、現在、ピッツバーグ大学言語学科教授で、言語科学会(JSLS)の会長。本書は、岩波新書としては、『外国語学習の科学――第二言語習得理論とは何か』につづくものである。「日常会話能力(BICS=Basic Interpersonal Communicative Skills)」と「学習言語能力(CALP=Cognitive Academic Language Proficiency )」を区別して考えることが第二言語習得には重要であること。また、知識には、「宣言的知識」と「手続き的知識」があり、前者は「何かを事実として知っていて、それについて説明できるような知識(knowing what)」で、後者は「何かのやり方を知っているという知識(knowing how)」である。著者の例によると、靴ひもが結べても、靴ひもの結び方を説明するのはむずかしいとあるように、言語の問題、言語使用の問題を考えるとき、自動化され潜在化したシステムといかに向き合うかが肝要であると、本書を読んで、あらためて考えさせられた。

岩波新書(720円+税)
2013年3月刊



2013年3月25日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

小栗清吾著
『江戸川柳
おもしろ偉人伝 100』


 本書が収集しているのは川柳の分類上、「詠史句」「歴史句」と呼ばれ、歴史上の人物・出来事をパロディとして詠んだもの。それを理解するためには、読み手にその背景となる知識・教養がなければクスリともできないことになる。解説にうんうんと納得しながら読んだが、改めて江戸期の人々の教養の深さに驚かされる一冊でもあった。


本の画象

平凡社新書(800円+税)
2013年2月刊
村上兵衛著
『守城の人』
―明治人柴五郎大将の生涯

 会津ブームだが、児童NF作家のS先生が書きたいと言っていたこともあって、柴五郎には以前から興味があった。本書は、幼少期の会津戦争から老齢の第二次大戦敗北までを描いた会津軍人の一代記。祖母、母、姉、妹の自刃の悲しみを内にし帝国陸軍大将まで成り上がるが、単なる出世話ではなく、真摯に生きた明治人の姿が五郎を通して読み取れる。
本の画象

講談社(1900円+税)
2012年10月刊


桑原汽泊の推す2冊

三好達治著
『三好達治詩集』

     囁き
   池
 鯉―いくたびか鮒たむろする今朝の秋
 鮒―二三枚うろこ落して鯉の秋

本の画象

ハルキ文庫(680円+税)
2012年11月刊
田辺聖子著
エッセイベストセレクション1
『女は太もも』

   女の性欲
 奥さまとわが名呼ばれん初しぐれ
   四十八手
 枕絵の通りにやって筋違え

本の画象

文春文庫(590円+税)
2013年3月刊



2013年3月18日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊

金原まさ子句集
『カルナヴァル』

 池田澄子の帯文に惹かれて手に取ってみて、びっくりした。「102歳の悪徳と愉悦」との紹介にあるように、超高齢の俳人の第4句集である。新鮮。情念がみなぎっていて、それが俳句に昇華している様は壮観である。若い俳人(私も含めて)達にとっても刺激となろう。


本の画象

草思社(2000円+税)
2013年1月刊
田中慎弥著
『共喰い』

 芥川賞の受賞会見で話題をまいた作家の作品の初の文庫本化。受賞作『共喰い』も中上健次を彷彿とさせる濃厚な文体と力業の展開で面白いが、合わせて収録されている『第三紀層の魚』がよい。この自然なタッチは、この作家の本領であるかもしれない。

本の画象

集英社文庫(420円+税)
2013年1月刊


朝倉晴美の推す2冊

谷川俊太郎著
『散文』

 1960年〜70年代の随筆集。フェローシップで渡航した米国とヨーロッパ諸国 からの所感に始まり、季節や音楽について。そして「わたくし」自身 や、世 界、「言葉」について。あらゆる日常からの明晰な分析。この21世紀であって も、共感するものが多いということは憂うべきことか、賞賛すべ きことか。

本の画象

晶文社 (1800円+税)
2012年2月刊
増谷和子著
カコちゃんが語る
『植田正治の写真と生活』

 砂丘と家族などの写真でなじみ深い、写真家植田正治氏の愛娘が語る、植田家のこと。戦争を挟んだとはいえ、鳥取の弓ヶ浜、境港の植田家の日常は、 情緒豊かな、愛溢れる毎日。そこに住む人々の醸し出す文化に、馥郁たる香りを感じながら、寝る前のひと時を過ごしています。(※写真47点収録)

本の画象

平凡社(1800円+税)
2013年3月刊



2013年3月11日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

監修/東 直子・坊城俊樹・やすみりえ
50歳からはじめる
『俳句川柳短歌の教科書』

 「私に合っているのは、どれ?」とあったり、対照表や診断テストがあったり、ある意味チャレンジ精神旺盛な、深い一冊。俳句は坊城俊樹、川柳はやすみりえ、短歌は東直子の監修。三つの違いがわかる構成になっていて、何かのヒントになるかもしれない。例示作品に監修者のものが多いのが少し残念。異論もありそうですが、すぐ読める面白い本でした。

本の画象

土屋書店(1480円+税)
2013年1月刊
渡辺奈都子著
『はじめての選択理論』
人間関係をしなやかにするたったひとつのルール

 カウンセリングの「選択理論」の入門書。他人ではなく自分自身をいかに制御するかを中心に実践的に丁寧に解説してある。自己制御できる「思考」「行動」と制御できない「感情」「生理反応」を車の四輪に見立てた説明がおもしろかった。

本の画象

ディスカバー・トゥエンティーワン(1500円+税)
2012年12月刊


三好万美の推す1冊


黛まどか句集 『てつぺんの星』

本の画象

 メンバーは女性のみの月刊「ヘップバーン」を立ち上げ、横書き、旧仮名というスタイルで現代を詠み注目された著者だが、その新しさのルーツにあるのは、伝統、スタンダードであることが、この句集を読んで分かる。旅の句も、日常の句も、風景を、ものをしっかりと見て言葉を吟味して作っている、すっきりとしたたたずまいの句がいい。  空瓶に使はぬボタン鳥の恋
 スケートの花びらほどの衣まとひ 

本阿弥書店(2000円+税)
2012年3月刊

[e船団・週刊ブックレビュー]バックナンバー



2013年3月4日号(e船団書評委員会)

宇都宮哲の推す2冊

百田尚樹著
「『黄金のバンタム』
を破った男」


 1960年代、日本人の夢と誇りを一身に背負い戦った男、当時のボクシングのフライ級、バンタム級2階級制覇の世界チャンピオン・ファイティング原田。その波乱万丈のボクシング人生と彼を取り巻く様々な人々の生きざまを淡々とした筆致で描き出したノンフィクション。本書が面白いのは、ただの評伝ではなく、物語性溢れる構成で日本が一直線に駆け抜けた時代の息吹を追体験させてくれるから。ベストセラー作家ならではの技が光る。ボクシングファンならずともご一読を。


本の画象

PHP研究所(667円+税)
2012年11月刊
吉成真由美インタビュー・編
『知の逆転』

 ジャレド・ダイアモンド、ノ―ム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームス・ワトソン
 世界の叡智と呼ばれる標記6人の学者・科学者たちとのインタビュー集。私は彼らの業績をよく知らないが、現代の根源的な問題から身近な話題まで、設問に答える彼らの一言一言は『目からうろこ』の説得力がある。優れた知性は細かいことは言わないで、様々な難問や事象を平明な視線で解き明かしてくれるからだろう。実は、本当の「知」とはすこぶるシンプルなもので、それを表現すると、いわゆる常識とは「逆転」しているように見えてくるのかもしれない。もう少し突込みがほしいが、示唆に富んだ刺激的な1冊である。

本の画象

NHK出版新書(860円+税)
2012年12月刊


鈴木ひさしの推す2冊

足立則夫著
『ナメクジの言い分』

 『枕草子』で「いみじうきたなきもの なめくぢ」とまで書かれたナメクジ。ナメクジは夏の季語だが、よく見かけるのは晩秋。外来種ナメクジと在日米軍との関係は?安全で効果的なナメクジの捕獲法は?「ナメクジ史観」に基づく「分かち合いの哲学」を提唱、「二十一世紀はナメクジに人間が学ぶ時代」と著者は説く。坪内稔典氏の名前も登場する。

本の画象

岩波科学ライブラリー(1200円+税)
2012年10月刊
吉田 類著
『酒場歳時記』

 たまたまテレビで目にしたのが「吉田類の酒場放浪記」、ひたすら飲み歩く不思議な番組である。画面からうかがえる酒場の作法へのこだわり、その場に溶け込む術。同様に、このエッセイも配慮が行き届いている。巻末には「酒場八十八句集」。「夜桜や天に猫の目ひとつあり」「串かつを半身構えで喰らふ夏」「僧に非ず俗とも成れず火酒飲む」(類)

本の画象

NHK出版生活人新書(640円+税)
2012年10月(第9刷)刊



2013年2月25日号(e船団書評委員会)

富澤秀雄の推す2冊

木村輝子歌集
『鳥のやうに』

 この歌集は、著者の身の回りの知人の相次ぐ死。特に夫の死、師である河野裕子氏の死。更に、あの大震災。打ちひしがれ、からからに渇く心の中から紡ぎだされた鎮魂の歌を中心に書かれている。また歌集名『鳥のやうに』も、脚そろへ/空のなかゆく/鳥のやうに/亡き夫のこと/思ふ日のあり から付けられている。


本の画象

青磁社(2500円+税)
2012年10月刊
稲田 愿著
『梯子・階段の文化史』

 日頃、なにげなく梯子や階段について余り特別な意識を抱くことなく利用している。だが、階段と梯子の起源が倒木であったり、ある時期には神々への交流や権威象徴としての巨大建造物の階段の発達があったり。写真や図説を詰め込みすぎて、やや総花的になっているきらいがあるのだが、その視点が面白い。

本の画象

井上書院(1800円+税)
2013年1月刊


武馬久仁裕の推す2冊

山本左門句集
『星餐』

 旅は憧れである。それは、生身の人間が体験できる虚構の世界だからだ。旅人は「信長の好みそうなるサングラス」を掛けて異郷を歩む。そして、「夕顔の絶体絶命の白さ」を見る。船中に秘匿された「真水」を透視する。「船中に真水のタンク雲の峰」。旅人は広場に立ち、幸運にも「噴水や輝きはみな鬱である」と呟く。世界は光の中に鬱鬱としてあったのだ。

本の画象

ふらんす堂(2400円+税)
2012年12月刊
篠原資明著
『空海と日本思想』

 空海の思想は「風雅・成仏・政治」という基本系からなっているという。それを変奏させ現代日本に生かそうというのだ。それが「和歌・自然・まつりごと」という基本系である。風雅(和歌)・政治(まつりごと=祭祀)を行う天皇、即ち日本をまとめ存続させてきた天皇(自然)に対する報恩を説く。今日の日本の状況に対する危機意識が読み取れる。

本の画象

岩波新書(760円+税)
2012年12月刊



2013年2月18日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

まど・みちお著
『人生処方詩集』

 詩70編と抽象画、6人の随筆が収められている。画と随筆が新鮮だ。まど・みちおの非童謡系作品は「意味の呪縛に縛られない、言葉以前の存在を信じ、その靜けさ」を描いていると谷川俊太郎はいう。引用されている詩が素敵だ。「樹は土のように静かだ/樹は空のように明るい/樹は樹で生きている」。このように生きたい。春だ。


本の画象

平凡社(コロナ・ブックス)(1600円+税)
2012年11月刊
芳澤勝弘著
『白隠禅画をよむ』

 芳澤勝弘は4年かけて『白隠禅師自筆刻本集成』を完成。法語全集や禅画墨蹟集も。白隠(1685〜1768)の専門家。世の人を救おうとすることによって悟りが得られる(下化衆生・上求菩薩=ボランティアの精神そのもの?)、と考えた白隠の禅画は賛と一体であり、私信でもあったことを知り、山水が心だ、という禅の教えを知った。

本の画象

ウェッジ(1400円+税)
2012年12月刊


紀本直美の推す1冊


やなせたかし/さく・え

 『アンパンマンとザジズゼゾウ』

本の画象

 やなせたかし先生の「アンパンマン」シリーズ最新刊。「アンパンマン」といえば、子どもが必ず夢中になる絵本です。私も子どもの頃大好きで、本が擦り切れるほど読みました。そして、今回、書評用にじっくり読むことに。「ザジズゼゾウ」は、なぜ「ザジズゼゾ」があたまにつくのか……考えながら読む私はつまらない大人になってしまったようです。今回気づいたのですが、ばいきんまんの口ぐせは「ハヒフヘホー」です。この「ハヒフヘホー」もどういう気持ちで発しているのか説明はありません。しかし、声に出して読むと「ハヒフヘホー」がなぜかしっくりくるのです。もちろん「ザジズゼゾウ」も。やなせたかし先生93歳の言語感覚は、子どもと大人の間の不思議なエアポケットだと思います。

フレーベル館(900円+税)
2012年10月刊



2013年2月11日号(e船団書評委員会)

桑原汽泊の推す2冊

岸本尚毅著
虚子選ホトトギス雑詠選集100句鑑賞
『冬』

 探梅や枝のさきなる梅の花  素十

 「大榾をかへせば裏は一面火」「雪嶺の下五日町六日町」。素十。102句。
 あ、そこに。

本の画象

ふらんす堂(1500円+税)
2012年10月刊
荒木飛呂彦著
『ジョジョの奇妙な冒険 PART V』
―スターダスト・クルセイダース
vs.暗青の月 力 悪魔 黄の節制―


 「カリーナ・カプール・カーン」。ベボ。カリーナ・カプール。さいきん、カリーナ・カプール・カーンになったときいた。
 シンガポール駅を出発し、JOJOたちは、列車でインドへ向かった。

本の画象

ジャンプREMIX(476円+税)
2013年1月刊


舩井春奈の推す1冊

Town Mook 日本および日本人シリーズ
『人間 種田山頭火と尾崎放哉』

 自由律で俳句を詠んだ俳人といえば、種田山頭火と尾崎放哉。それぞれの特異な実人生やその生活を通して詠み出した代表句を取り上げ、この一冊で手っ取り早くこの二人の俳人について知れる。金子兜太氏ならびに早坂暁氏から見た山頭火像・放哉像に迫ったムック。

本の画象

徳間書店(570円・税込)
2012年12月刊
桑原奈津子著
『パンといっぴき』

 ある料理研究家の朝食とその飼い犬1ぴきを写し続けた写真集。1ぴきはパンの美味しさに目覚め、おこぼれを狙い毎日朝食の周りでいる。定点観測を続けることで、1ぴきの熱いパンへの思いや単に朝食の傍にいるだけではないことに気付いていく。個人的なことだが、私、超がつくパン党。それで最後にレシピが少しばかりついているのも嬉しい。

本の画象

パイインターナショナル(1260円・税込)
2012年12月刊



2013年2月4日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す2冊

永田和宏著
『近代秀歌』

 本書は、「挑戦的な言い方をすれば、あなたが日本人なら、せめてこれくらいの歌は知っておいて欲しいというぎりぎりの100首であると思いたい」とあるように、国民の基礎教養を意識して編まれた明治以降の短歌のアンソロジーである。一大歌人たる藤原定家や斎藤茂吉を意識した野心的な一書。つぎは、『現代秀歌』へ。

本の画象

岩波新書(820円+税)
2013年1月刊
村井康彦著
『出雲と大和』
―古代国家の原像をたずねて

 高校生のとき、必修のクラブ活動があって、川崎才太郎先生の「神話研究会」を選んだ。そのとき、岩波文庫の『古事記』を先生のリードで読んだ。イザナキやスサノオやオオアナノムチの話がとても印象に残っている。邪馬台国と大和朝廷の関係を出雲と出雲神話から読み解いた本書に、大いに興奮した。青春の読書は、生きている。

本の画象

岩波新書(840円+税)
2013年1月刊


赤石 忍の推す1冊

正宗白鳥著
『文壇五十年』

 高山樗牛、岩野泡鳴、大町桂町…、名前だけは知っている明治期の作家、評論家は多い。青森の山の中の温泉で死んだ桂月には親近感を覚え、無料の青空文庫で読んでみたが骨が折れた。正宗白鳥も「何処へ」と受験勉強的には言えるが、手に取ってみたこともない。本書を読んでどうしてどうして、古びれてもなくお見逸れしましたという感じ。ロートーンの文調と冷徹な視点。長生きしての昭和29年初版の文庫化だが、氏の作品も読んでみたい気になった。

本の画象

中公文庫(800円+税)
2013年1月刊
吉本隆明著
『思想のアンソロジー』

 あとがきに、本書は「吉本の著書というより吉本選および解説としたほうがふさわしい。…この本は日本国の思想史論を意図した研究の記述ではなく、心にかかっている古代から近代までの思想に関与している記述を気ままに択んで、気ままな解説や註をつけたものである」とある。昨年亡くなった氏の膨大な著作集の時とは違い、表現は比較的やさしく、肩の力を抜いて読めるが、言っていることはさまざまな示唆に富み、やはり深いものがある。

本の画象

ちくま学芸文庫(1200円+税)
2013年1月刊



2013年1月28日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊

井伏鱒二著/金井田英津子画
画本・厄除け詩集』

 なんか、最近疲れちゃって……という貴方にジャストミート間違いなし!
「『サヨナラ』ダケガ人生ダ」の『勧酒』を含む訳詩、自作詩集のリバイバル版。 18歳の時、24歳の時、30歳の時、……そして今。人生のターニングポイントで必ず私の目に入ってくる詩たち。


本の画象

長崎出版(2000円+税)
2012年10月刊
酒井順子著
『下に見る人』

いつものサカジュンの痛快エッセイとは一味違う趣き。あくまでも、クールに、そしてシビアに自虐を厭わずさらけ出す、日本人の「他人を下に見 たい我々」の心境。 恥部ともいえる人間の嫌な部分を、糾弾するのではなく明確に記す筆致には、崇高ささえ感じます。差別的感情の、確かな根本を著す良書。

本の画象

角川書店(1300円+税)
2012年11月刊


木村和也の推す1冊

宇多喜代子著
『戦後生まれの俳人たち』

 109名の戦後生まれの俳人たちの自選代表句10句が並ぶ。宇多の鑑賞は、「私の眼にはみんな若くみんな頼もしい」と述べられているように、個々の俳句よりは俳人そのものに関心が向けられている。アンソロジーとしてのインパクトは弱いが、戦後生まれの俳人を概観できる。「船団」では、あざ容子と鳥居真理子が採られている。

本の画象

毎日新聞社(1900円+税)
2012年9月刊
山脇由貴子著
『震える学校』

 「いじめ」が子どもの枠を超えて教師にまで及んでいる学校の恐るべき実態が、現場を熟知する児童心理司によって浮き彫りにされている。相互不信の学校文化に絡め取られたいじめの当事者のメンタリティーにも鋭く切り込む。学校関係者以外の人にも是非。

本の画象

淡交社(1900円+税)
2012年5月刊



2013年1月21日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

 
『俳句αあるふぁ』
2013年2−3月号

 特集の一つは「夏目漱石入門」。漱石の俳句をさらっと読むことができる。もう一つは「坪内稔典の世界」。自選200句、塩見恵介氏の坪内稔典論、坪内稔典氏による「カバ、柿、あんパン、そして俳句」と題された文章が載せられている。若い頃のお写真などがあって興味深かった。


本の画象

毎日新聞社(1000円・税込)
2013年1月刊
西原理恵子著
『生きる悪知恵』
正しくないけど役に立つ60のヒント

 先日、偶然「毎日かあさん」という映画をテレビで見た。小泉今日子演じる作者の半生が描かれていた。その話をすると、家人が偶然、その人の本を勧められて読んだ、家にあるよ、と言うので、読んだ。あっという間に読めた。息苦しい日常を生きている方はご一読下さい。

本の画象

文春新書(800円+税)
2012年7月刊


三好万美の推す1冊


榎本 亨句集 『おはやう』

本の画象

 ものをよく見ることが写生の基本であること、取り合わせによって生まれる詩の世界を、まず作者本人が楽しむこと、慈しむことが大切だということ。榎本さんの俳句を読むとそれを強く感じる。写生と取り合わせとユーモアが、過不足なく絶妙にブレンドされていて、表現はあくまでシンプル。だから榎本さんの俳句は、読む人を選ばない。どんな人の心にもすっと入って、親しまれるのだ。
 おはやうと言はれて言うて寒きこと  亨

角川書店(2667円+税)
2012年10月刊



2013年1月14日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊

平田オリザ著
『わかりあえないことから』
コミュニケーション能力とは何か

 人と人とは、初めからすぐにはわかりあえない。わかりあえない者同士が、共有できる部分を見つけ、広げることならできる。コミュニケーション能力は、現代社会で生きるだれもが身につけるべきスキルである。著者は、演劇という「人類が生み出した世界で一番面白い遊び」を使って、「新しい日本人」を育てようとしているのだ。

本の画象

講談社現代新書(740円+税)
2012年10月刊
松原 始著
『カラスの教科書』

 カラスの教科書、強化書、教化書、狂歌書?カラスを怖がる人も、忌み嫌う人も、「カラス愛」にあふれる著者の話術に引き込まれ、カラスに少し優しくなっている自分に気づくに違いない。「カラスの一番好きな餌はマヨネーズである。」この一言も、長年の密着取材に裏付けられている。なぜか心が温かくなる本である。

本の画象

雷鳥社(1600円+税)
2013年1月刊


宇都宮哲の推す2冊

養老孟司著
『日本のリアル』
農業、漁業、林業、そして食卓を語り合う

 旺盛な執筆活動を続ける解剖学者の著者が、日本の第一次産業に携わり画期的な活動をする4氏と語り合った対談集。真正面から「人と自然と向き合って、人と協力してものをつくり出す」という彼らのリアルで真摯な仕事ぶりがわかりやすく紹介されるなか、混迷する経済やバーチャルなネットの氾濫など現代社会の“危うさ”が浮き彫りになっていく。リアルであることの大切さを教えてくれる警鐘の書でもある。

本の画象

PHP研究所(740円+税)
2012年8月刊
磯田道史著
『歴史の愉しみ方』

 「ほんとうの忍者は、どのようなものであったのか」。巷の歴史好きにはなんとも魅力的な問いかけではないか。『武士の家計簿』の著者が、難解な古文書の解読ときめ細かなフィールドワークを駆使して『歴史のほんとう』に迫っていく。話題は忍者、龍馬暗殺、石川五右衛門、さらには地震史(重要な研究だ)などなどバラエティに富んでいる。簡潔平明な文章がうれしい歴史エッセイ集だ。

本の画象

中央公論新社(740円+税)
2012年10月刊



2013年1月7日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

筑紫磐井著
『伝統の探求〈題詠文学論〉』
――俳句で季語はなぜ必要か』

 著者は、近代俳句史は、虚子が作った題詠文学(花鳥=季題諷詠として結実)(伝統)と、その題詠文学からの離脱(反伝統)との攻めぎ合いとしてあるという。俳人にとっては近代俳句史上の自分の立ち位置を確認するのに大いに役立つ本である。次は、題詠文学の観点から、熱帯季題も含め、無季俳句について書かれたものを是非とも読みたいものである。

本の画象

発行・ウエップ/発売・三樹書房(2400円+税)
2012年9月刊
豊下楢彦著
『「尖閣問題」とは何か』

 第4章「領土問題の『戦略的解決』を」の提言に惹かれた。3つの領土問題に同時に向い合うのは得策ではない。「固有の領土」論に固執せず「戦略的な解決」を、まずロシア、韓国と図るべきだと言う論である。東西ドイツ統一時の保守政治家コールは、独・ポーランドの国境としてオーデル・ナイセ線を受入れた。今年の最大の見物は安倍首相の決断であろう。

本の画象

岩波書店(1020円+税)
2012年11月刊


富澤秀雄の推す2冊

谷川俊太郎著
『女に』

 本書でまず目を引くのは、右ページに谷川俊太郎の詩、左ページに佐野洋子のエッチング画を、同一のボリュームで配する大胆構成である。しかも、詩の下段には英訳がついている。俊太郎は、大人の愛の形を感覚的に書き、洋子が官能的なエッチングを描いていて、その両者の絡み合う世界は、読者をドキッとさせる。

本の画象

集英社(1400円+税)
2012年12月刊
三浦 篤著
「名画に隠された『二重の謎』」

 西洋の名画に隠された謎を、著者の三浦篤が名探偵よろしく読み解いてゆく。たとえば、マネの『笛吹き』にあるふたつのサイン。スーラの『グラン・ジャット島の日曜日の午後』の画中の額縁のような縁取りなどをカラーの図版と拡大部分図によって、その謎解きに引き込んでゆく。違った見方から絵を観る楽しさを教えてくれる一書だ。

本の画象

小学館(1100円+税)
2012年12月刊

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