俳句 e船団 ブックレビュー
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2013年12月30日号(e船団書評委員会)

宇都宮哲の推す2冊

天野祐吉著
『成長から成熟へ』
―さよなら経済大国―

 日本の経済成長を支えてきた広告の光と影。60年間広告を見つめ続け今年10月亡くなった著者が、その実態を淡々と時には鋭く解き明かした成熟の時代への提言の書。8.15の敗戦から成長社会が始まり、3.11からは成熟社会へと大転換が始まると言う。そんな文明の書き換え作業の中、広告に出来ることは、果たす役割は何か・・。広告を愛するがゆえの最後のメッセージが伝わってくる。

本の画象

集英社 (740円+税)
2013年11月刊
楡 周平著
『「いいね!」が
社会を破壊する』


 『“いいね”をクリックする』をキーワードに、ネットが氾濫する現代社会に経済小説作家が警鐘を鳴らす。ネットの進化は、より快適な、より便利な社会の実現を可能にするが、結果、人間そのものが「無駄」になる社会へと導く。そして、イノべ―ションは、社会を豊かにするのではなく、雇用の崩壊と僅かな人間による富の独占を生み出すと。ネットの「便利の毒」を冷徹に見据えた一冊。さて、翻って“俳句にとってネットとは”。考えてみたいテーマである。

本の画象

新潮社(740円+税)
2013年10月刊


鈴木ひさしの推す2冊

石原千秋著
『教養として読む現代文学』

 控えめなタイトルである。『斜陽』、『仮面の告白』・・・『パルタイ』、『杳子』、等十編のうち、一番新しい『僕って何』が37年前の作品。一度読んだ小説に記憶違いはよくあること。作品が「私」の中で成長し、変容する。読み返してみれば、なんだ、こんな小説だったのか!小説を読んでからこの本を読むか、この本を読んでから小説を読むか。時代が変われば人も変わる。読み方も変わる。何度も楽しめる本である。

本の画象

朝日選書(1500円+税)
2013年10月刊
池上俊一著
『お菓子でたどるフランス史』

 食は命をつなぐと同時に、人と人とをつなぐ。また、人と神とをつなぐ。フランスのお菓子の歴史は、異文化との衝突、交流、融合の歴史とともにある。軍事的衝突である十字軍はアラブ世界から食文化をもたらし、王妃は、大勢の料理人や菓子職人とともに異国からやってきた。農業国フランスが支える食文化、ユネスコ無形文化遺産となった和食は・・・。

本の画象

岩波ジュニア新書(880円+税)
2013年11月



2013年12月23日号(e船団書評委員会)

富澤秀雄の推す2冊

赤坂恒子句集
『トロンプ・ルイユ』

 著者は、船団の徳島県の俳人。坪内稔典さんが跋文で、句集の楽しみ方を書いている。1ページに贅沢に2〜3句しか載せていないが、その余白に、読者に立ち止まらせる仕掛けであるのだと。私は、42ページで立ち止まった。 「晩夏光砂におしりの跡ふたつ」 大きなお尻と小さなお尻の跡が、並んでいる。二人はどんな話をして立ち去ったのだろうか?とても、微笑ましい情景の浮かぶ。トロンプ・ルイユに迷い込んでは・・・・・・!

本の画象

ふらんす堂 (2476円+税)
2013年10月刊
森 武司著
『新興俳句運動と俳句弾圧事件」』

 近代的革新を目指した「新興俳句運動」とその後の戦争に伴う俳句弾圧事件。今では、その時代に身を置き、実践した人たちが居なくなり、その意義や時代背景などが余り語られなくなってきた。書は、22章に亘って書かれている。たとえば、7章の渡辺白泉の「戦争が廊下の奥に立っていた」の句は、当時の軍は、機密の漏れるのを恐れ、会議室への廊下通行止めにしていた。そういう怖い情景詠んだものだったとは・・・・・・。

本の画象

球俳句会(1500円+税)
2013年11月刊


武馬久仁裕の推す2冊

穂村 弘著
『蚊がいる』

 いつも行くカツ屋の入り口にある「いらっしゃいませ」という張り紙を見ていたら、突然、この文字が読めなくなったらどうしょうと不安にかられた。こんな馬鹿らしいことを思いつくのは穂村のこの本を読んだせいだと気付いた途端、正気にもどった。高名な歌人にして高名なエッセイスト、穂村弘のある意味恐怖の随筆集。

本の画象

株式会社KADOKAWA(1500円+税)
2013年9月刊
浜 矩子著
『老楽国家論』
―反アベノミクス的生き方のススメ―

 勢いはないが豊かな蓄えがある日本は、豊かさの中の貧困問題を解決し、成熟した誰もが楽しく暮らせる国(老楽国家)に、道さえ間違えなければなれると言う。国境なきグローバルな経済活動に支えられて豊かさを享受している日本が、お蔭様の心を忘れ、他国を蹴落とし世界一になるなどいう姿勢はもっての外なのだ。国家に生き方を説く本である。

本の画象

新潮社(1200円+税)
2013年11月



2013年12月16日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

俵 万智歌集
『オレがマリオ』

 シングルマザー・高年出産と時代を反映してきた俵万智は、7歳の息子が仙台の両親の元にいたため3・11を体験、優れた歌人に課せられた宿命か、時代を切り取った歌を作ることになった。「子を連れて西へ西へと逃げてゆく愚かな母と言うならば言え」。石垣島に定住。「ストローがざくざく落ちてくるようだ島を濡らしてゆく通り雨」。島の自然詠と息子の歌、恋歌が交差、瑞々しい。

本の画象

文藝春秋 (1250円+税)
2013年11月刊
通崎睦美著
『木琴デイズ」』
平岡養一「天衣無縫の人生」

ピアニカがなかった時代、木琴があった。50年代中ごろ、小学生だった私は平岡養一の演奏会に行ったことがある。美しい音色に圧倒された。アメリカで12年間、毎朝、ラジオ生放送、12月8日の開戦で中止になったことなど、平岡養一の人生を描く。熱心に集めたレコードへの評価が圧巻だ。平岡の木琴や楽譜を譲りうけた筆者の木琴・マリンバへの愛が、昭和の音楽史の一面を伝える。

本の画象

講談社(1900円+税)
2013年9月刊


太田靖子の推す2冊

山崎ひさを著
『海外で詠む』
俳句の国際交流

 「海外で詠む」には二通りの意味がある。日本人の海外詠と外国人の俳句。両者に共通する最大の問題は、季語と地名などの固有名詞という。海外詠を試みる人にとっては、本書の豊富な掲載句が道しるべとなるだろう。海外旅行の増加につれて生まれた新しい季語のこともわかる。今後の海外季語の発展にも注目したい。

本の画象

角川学芸出版(1300円+税)
2013年5月刊
林 秀年著
『落語で味わう
江戸の食文化』


 落語を聞きなれない私には耳で聞くのは案外難しい。それを文字で読めるのは有難いし、落語特有の臨場感で、江戸時代に自然と引き込まれる。落語本文はもちろん、枕に当たる部分には、現代の情報も盛り込まれており、食通になれる。ざる蕎麦ともり蕎麦の違いは、一番出汁と二番出汁にあるなどと。

本の画象

三樹書房(1800円+税)
2013年6月



2013年12月9日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

現代俳句文庫73
『火箱ひろ句集』
(池田澄子・小西昭夫解説)

 船団でお馴染み火箱ひろさんによる句集。これまでに出された三冊の句集から、それ以降に詠まれた俳句まで幅広く収録されている。
 朝顔のねぢれほどけて紺深し
 にんげんが消え村が消え月夜
 夜空から泳ぎ着きたり黒出目金
 船団へ入会する以前の俳句を見られるのも興味をそそられる。俳号の改名と合わせながらの読みも可能だろう。

本の画象

ふらんす堂 (1200円+税)
2013年10月刊
村山早紀著
『ルリユール』

 あなたにはボロボロになっているほど大切な本がありますか?
 本を直してくれる工房が、とある街の小道に入った先にあります。
 その名は黒猫工房。
 直して欲しい本ごとに、本の内容とはまた別の物語があります。あなたのもそう?
 ルリユールのクラウディアさんとその見習い瑠璃にあなたの大切な本も託してみたくなるかもしれません。
 それにはまず、この本を紐解いてみてから…。

本の画象

ポプラ社(1500円+税)
2013年10月刊


紀本直美の推す2冊

石津ちひろ・作/壁谷芙扶・絵
『しりとりさんぽ』

 「ひ」ろいう「み」をみて「み」どりの「き」にのぼって、「き」いろいじてんし「や」にのって…。かなちゃんは散歩をしながら、しりとりをします。体を動かしながら、ことばあそびをすると、うきうき楽しいことばがたくさん浮かんできそう。親子やおじいちゃんおばあちゃんと読んで、まねしてみたい一冊。

本の画象

小学館(1300円+税)
2013年9月刊
佐々木マキ・さく
『はぐ』

 動物や人間が、海辺で出会い「はぐ」をするのですが、その組み合わせがユニークです。らくだとしまうま、ペンギンとワニ、タコとおじさん、女の子とブタ。タコとおじさんは、不思議な組み合わせですが、「はぐ」をしている絵を見るとなぜか納得してしまいます。まるで俳句の取り合わせのよう!

本の画象

福音館書店(800円+税)
2013年9月



2013年12月2日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す1冊


坪内稔典監修

絵といっしょに読む国語の絵本
『俳句のえほん』・『短歌のえほん』

本の画象    本の画象

 これ、ちょっと宣伝です。でも仕上がってみると、ちょっと気分のいい本です。
  『俳句のえほん』では、俳諧師・俳人30人を選び、その代表句に、画家・イラストレーター30人が感じたままに、自由に絵で表現してもらう試みです。松永貞徳、西山宗因から芝不器男、篠原鳳作までと、一応、俳句史をなぞっていますが、三井秋風、小西来山、加舎白雄など、これまで一般には、あまり知られていなかった江戸期の俳諧師たちも含まれ、オリジナリティ豊かなものになったと自賛しております。これもひとえに、監修者である坪内氏のユニークな視点によるもので、他の人ならこのラインナップにはならなかったでしょう。絵も各画家、おもしろがって力が入っていますが、塩見恵介氏の解説ページも充実しており、対象は小学高学年・中学生対象ですが、大人が読んでもなかなか面白いと思います。学校関係者の方、ぜひ図書館へ一冊。「短歌」「詩」「漢詩」「古典」「論語」と続きます。

くもん出版(各1800円+税)
2013年11月刊


田中俊弥の推す1冊


青木美智男著
『小林一茶・時代を詠んだ俳諧師』

本の画象

 小林一茶は、宝暦13年(1763)5月5日(旧暦)、信濃国水内郡西柏原村(今の長野県上水内/かみみのち郡信濃町柏原/かしわばら)に百姓・弥五兵衛の長男として誕生した。そして、文政10年(1827)11月19日、そのふるさとの仮住まいの土蔵の中で息を引き取ったということだ。享年65歳であった。  一茶のふるさと・柏原には、北国街道の信越国境に近い宿場があって、野尻の宿を越えれば、そこは越後。豪雪地帯である。弥太郎こと、のちの一茶が、江戸に出たのは15歳のこと。100万都市・江戸の労働力として、信州の人たちは江戸に出て働いた。俳諧師・一茶は、その信州人(椋鳥)の気骨を生真面目に生きたのだ。事実にもとづく本書の一茶観は、圧倒的な迫力である。

岩波新書(700円+税)
2013年9月刊



2013年11月25日号(e船団書評委員会)

香川昭子の推す2冊

井坂洋子著
『詩の目詩の耳』

 詩の評論集(著者は感想文と書いているけど)「溢れる自然を相手に、それを人生と結びつけて詩を書くには佐川ちかは若すぎ、その凡庸な陥穽に落ちずに済んだ。」「書く行為は真実に至る道でなくかといって、ゲンジツをなぞるだけでもない。魔法の粉を自らに吹きかけ、そこでヒロインとして自在に生きた林芙美子」等々。詩も、読まなくちゃ なんてね。

本の画象

五柳書院 (2200円+税)
2013年8月刊
鷲田清一・内田 樹著
『大人のいない国』

 なんとなくわかったような気にしてくれる二人の対談と文章。たとえば「生きてきた年数分だけの自分が一人の人間の中に多重人格のように存在する。そのまとまりのなさが大人の「手柄」じゃないかな。善良なところも邪悪な部分も、緩やかなかたちで統合されている。そういうでたらめの味が若い人にはなかなかわからないみたい。」

本の画象

文春文庫(588円・税込)
2013年8月刊


木村和也の推す2冊

水木ユヤ著
『カメレオンの昼食』

 俳句と詩と散文を集めた詩句集。年齢不詳。性別不詳。俳句も不詳。どこのだれなのか、俳句はどこへ行くのか。そんなことを感じさせる、本の題名のように不思議な魅力に満ちた一冊。船団にまた、一つの才能が表れたのは確実のように思われる。
 友が家を買うらし花より林檎

本の画象

ふらんす堂(1000円+税)
2013年11月刊
江藤 淳著
『考えるよろこび』

 没後12年になる評論家の講演集。時代の波に洗われてしまわない新鮮さが今もある。優れた文芸批評家は、優れた文明批評家でもあったのだということが再認識できる。芯というものを失いつつある時代にこそ、こういった自由で独自性に満ちたな思考 が求められるのだろう。

本の画象

講談社文芸文庫(1400円+税)
2013年10月



2013年11月18日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

大口玲子歌集
『トリサンナイタ』

 第17回若山牧水賞、平成24年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞の一冊が普及版とし刊行された。出産、育児、被災が中心的なテーマ。受洗を経たという背景も色濃く、歌の随所に見られる。この個人的な経験が、ややもすると通俗性や社会性に押し流されがちな内容をうまく包み込んでいるのではないかと思った。ただ、中に詞書のある節がいくつかあるが、その部分は個人的には歌の世界に入り込めなかった。詞書の内容が重すぎたからだ。それ以外は、作者の感性が紡ぎ出した数々の言葉の連なりに、無理のない力強さ、繊細さを感じ取ることができた。

本の画象

角川書店(1300円・税込)
2013年7月刊
藤田一照・山下良道著
『アップデートする仏教』

 形骸化した「仏教1・0」、自分の改善方法としての「仏教2・0」、そして本来の「仏教3・0」。呼吸法とか瞑想法、生き方のガイドブック的な本が一定の支持を受け続けている近年、この現象を「仏教2・0」とし、旧来の仏教の形骸化による必然と位置付け、非常に単純化して言えば、「本来の仏教」の在り方への回帰を提言した一冊。用語が難解な箇所も多く、「本来の仏教」というのが、不勉強な自分にはとりわけ難解だった。自分を青空に浮かぶ雲ではなく、青空そのものだと思って瞑想するという、そののびのびした座禅の心境という解説が新鮮だった。
本の画象

幻冬舎新書(880円+税)
2013年9月刊


三好万美の推す1冊


深沢眞二著
『連句の教室』
ことばを付けて遊ぶ

本の画象

 本書は、大学生を対象にした連句実作教室の講義をまとめたもの。発句から挙句までの36句の作句方法や、その際のルールについて、実作例を挙げながら説いている。音の流れやリズムの作り方を意識させるなど、定型詩初心者にも分かりやすく書かれている箇所がある。
 講義の部分と、巻末に掲載された、和光連句集十二年間分の豊富な実作例とを照らし合わせながら読むと、連句の句座に参加している気分になれる。一度実作してみれば、細かなルールも前の句に付ける楽しみも分かるのだろう。

平凡社新書(780円+税)
2013年8月刊



2013年11月11日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊

柴田元幸著
『代表質問』
16のインタビュー

 対談ではなく「代表質問」。代表というだけあって、まず、相手となる作家の文章の良き読者である。作家もそのことをよく理解し、信頼関係がうかがえる。多くの言葉を引き出し、場面によっては、作家の思考の後押しをしている。いつも間にか、される側の作家が、インタビューしている。やっぱり村上春樹はおもしろい。

本の画象

朝日新聞出版(980円+税)
2013年7月刊
中野美代子著
『なぜ孫悟空のあたまには
輪っかがあるのか?』


 著者は、岩波文庫『西遊記』10巻の訳者、『西遊記』についての多くの著書がある。アシモフの「ロボット工学三原則」、手塚治虫の「ロボット法」の中の「ロボット」が孫悟空、「人間」が三蔵と置き換えて考える主張に納得。『西遊記』のおもしろさは細部にある、というのはやはり長年の研究の賜物である。
本の画象

岩波ジュニア新書(820円+税)
2013年9月刊


宇都宮哲の推す1冊


保坂健二朗監修
『アール・ブリュット アート 日本』

本の画象

 「アール・ブリュット」、生(き)の芸術と訳する。
 専門の美術教育を受けていない無名の人たち(その多くは精神障害者や知的障害者たちだが)の絵画や造形物などの作品のこと。私がそれら作品群と出会ったのは20年ほど前だが、何かにとり憑かれたように生み出された作品の奔放な生命力に大きな衝撃を感動を覚え、1年後には、京都で展覧会まで開いてしまったことを今も鮮明に覚えている。
 本書は、そんなアール・ブリュットを取り巻く現在の環境について、美術、福祉、人類学など様々な視点からの論考を収めたもので、気鋭の論点に興味が尽きない。ただ、人間にとって「表現って、芸術って何だろう」と言う根源的な問いかけへのストレートな言及が見られないのが残念なのだが・・・。あの圧倒的に感動させる力は何か。もう一度考えて見たい。

平凡社(2000円+税)
2013年8月刊



2013年11月4日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

岡本千尋句集
『緑さす』

 岡本千尋は、句柄が大きな俳人である。集中最も惹かれたのが、「天高し鳥葬のごと岩に寝て」である。仰向けに見る秋天の青さの中に自らの全てが吸い込まれて行く感じが、「鳥葬」という何とも生々しい言葉によって表現されている。銀色に輝くレールが、トンネルの暗闇の中を真っ直ぐに走る光景が見えてくる「トンネルをレール貫く良夜かな」も捨てがたい。

本の画象

本阿弥書店 (2800円+税)
2013年9月刊
中村文則著
『去年の冬、きみと別れ』

 この「資料が混ざる不思議なつくりの小説」は、「前代未聞の結末」で、この本の冒頭の献辞「M・Mへ/そしてJ・Iに捧ぐ。」の意味が明らかにされる。そして、読者は、登場人物の正体とこの小説のカラクリが分かった上で、再びこの不可解な小説の世界に入って行くことになる。しかし、再度読んでも登場人物の「心の奥底」は、いよいよ量り難い。

本の画象

幻冬舎(1300円+税)
2013年9月刊


富澤秀雄の推す2冊

金原まさ子著
『あら、もう102歳』

 著者は、先頃102歳で第四句集「カルナヴァル」を出して話題になった俳人。主人の浮気のこと。「戦場のメリークリスマス」の坂本龍一を見て、男の同性愛に憧れたこと。ワイドショー的フマジメ人間だと宣言。等など自由奔放に生きることを楽しんでいる。ときどき、ふーとつぶやいた言葉がエッセイに。齢を重ねて、「あら、もう102歳」なんて、軽く言ってみたいものだ。

本の画象

草思社(1200円+税)
2013年4月刊
小林快次監修/土屋 健著
大人のための『恐竜学』

 「大人のための」という言葉に弱い。何だかそれを読むと、偉くなれるのでは!と思い込む悪いクセ。そこへ恐竜とくれば、恐竜好きの私にとって買わざるを得ない一書。恐竜のことを、Q&A形式で、イラストを交えて書いてある。そもそも、恐竜が何を食べていたかなんて、どうして知ったのかと、疑問に思っていたら、糞の化石で解ったらしい。こんな事、と、思えることがいっぱい。

本の画象

祥伝社(780円+税)
2013年10月



2013年10月28日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

井上弘美著
『俳句上達9つのコツ 』
じぶんらしい句を詠むために

 原句と添削例句を比べながら、俳句作りのコツ、奥深さが学べる。原句のだめな所を指摘し、どう直せばよいか、明確に説明してあるので、わかりやすい。謙虚に、添削を受け入れられるかどうかに上達の鍵がある。登山のための装備・歩き方は教えてほしいが、ひとりで歩きたい、という生意気な者は、結局、低い山しか歩けないようだ。

本の画象

NHK出版 (1400円+税)
2013年9月刊
朴 順梨著
『離島の本屋』

 夜7時から島唄を歌う、と聞いたが始まったのは9時前。9月与那国島の比川共同売店でのこと。売店の片隅に本棚が2つ。貸し出し用だ。町教育委員会発行の小学4年生向き社会科副読本を借りた。面白かった。「この頃はキンドルで読んでる」という若い人の声。人口1500人余の与那国島には本屋がない。全国の離島はどうか。楽しい写真付き。島の本屋へ島の本を買いに行きたくなる。

本の画象

ころから(1600円+税)
2013年7月刊


紀本直美の推す2冊

内田麟太郎・作/喜湯本のづみ・絵
ことばであそぼう 『五七五』

 「たかげたでげたげたげたとタカわらい」など、内田麟太郎のリズミカルで楽しいことばあそび俳句が33句収録されています。題名にあるように、絵本には『五七五』とだけ書いてあり『俳句』という言葉は出てきません。俳句というと、子どもには難しいと思われるからかなのでしょうか?

本の画象

WAVE出版(1300円+税)
2013年6月刊
梅田俊作・佳子/作・絵
『タイヨオ』

 いじめにより居場所を失った少年が、海辺の小さな集落で生きる力を取り戻していく。いじめの問題に長年取り組んでいる著者が、実在の漁村「いさり火」での体験をもとに描いています。これを読むと無性に「いさり火」に行きたくなります。子どもだけでなく、大人に是非読んでもらいたい一冊。

本の画象

ポプラ社(1600円+税)
2013年8月



2013年10月21日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す1冊


田中英道著
『日本の文化
本当は何がすごいのか』


本の画象

 われわれは往々にして自国の文化を知らず、ましてやそのすごさに気づいていない。一方で、歳を重ねると、それを知りたいという気持ちが湧いてくる。神道の自然信仰、御霊信仰などを軸に書かれた、日本文化を知るための10章(神話、『万葉集』、『徒然草』、聖徳太子、西行など)はその要求に応える。今話題の富士山についても、日本人との長い歴史がわかる。日本とヨーロッパなどとの比較文化の視点が特に興味深い。日本の浮世絵がヨーロッパで流行したのは、ニーチェの「神は死んだ」と同時代、パリのエッフェル塔と富士山の関係、西洋のジャポニズムの画家に与えた日本文化の影響など、西洋側のことを知る楽しみもある。

育鵬社(1400円+税)
2013年4月刊


舩井春奈の推す2冊

NHK出版編
宇多喜代子監修・浦川聡子文
もっと知りたい
『美しい季節のことば』

 ときどき違う歳時記に浮気したくなる。そんなときにみつけたのがこの図書。吟行で持ち歩くというより読み物風。文章の中に季語が使われており、そこが太文字になっている。それでも紹介しきれなかった言葉は別枠に紹介されている。季節は遠く過ぎてしまったけれど、たとえば「蛍」。紹介できなかったとはいえ、蛍だけで24ものことばがあるとは!(・ω・ノ)ノ!

本の画象

NHK出版(1200円+税)
2013年3月刊
谷 瑞枝著
『思い出のとき修理します2』
明日を動かす歯車

 目を輝かせた女子大生からこの本を貸してもらった。2巻目だけど短編形式だから問題ないよ!って。
 タイトルは、商店街に佇む一軒のお店のショーウィンドウに置かれているプレートの言葉から。どんな時計でも修理してくれるお店は、いつしか幻想的に過去にまつわる出来事までも修復してくれる。
 ところで、子供の頃から携帯が普及していた今の学生たちにとって、大切な時計ってどんなのだろう?

本の画象

集英社(580円+税)
2013年9月



2013年10月14日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す1冊


三上 修著
『スズメ』
つかず・はなれず・二千年

本の画象

 雀の句としては、一茶の「われと来て」と「雀の子」が著名であるが、芭蕉に「稲雀茶の木畠や逃げ処」の句があり、子規に「蛤になりそこねてや稲雀」の句があることを本書から教えられた。「雀の涙」「雀百まで踊り忘れず」「門前雀羅を張る」「欣喜雀躍」「燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや」など、雀の成句には、なにかしら不思議な生々しさがある。雀が、わたしたちの生活にあまりにも身近な存在であるからかもしれない。それでいて、いやそれだからこそ実際の雀たちの生活には無頓着である。いま、雀の数が激減しているとのことだ。それは、とりもなおさず日本の暮らしも文化もまた激変しているということなのだと本書は、やさしく警告している。そこのところに気づきたい。

岩波科学ライブラリー213(1500円+税)
2013年10月刊


赤石 忍の推す1冊


川島龍太監修
川島龍太教授の 脳を鍛える大人の
『おくの細道ドリル』

本の画象

 内輪話で申し訳ない。もちろん監修は受けるが、たたき台は編集部で作る。外部の優秀な編集者と二人で、一年ほどかかった。鑑賞文も原文抽出も模倣と言われないために、世に出ている、かなりの量の「おくの細道」本と「芭蕉句集」を比較して読んだ。「柿衞本」までところどころ読んだ。比べると、まあ違うこと。それはそうだ。手で書き、それを手で写して、世に流布していったのだから。  この作業を通して感じたことが二つ。よく歩いたな、ということと、なんの目的で芭蕉はこの本を作ったのか。前者は『奥の細道大事典』で筆者山本偦氏が実際に「足」で歩き、いかにたいへんだったかを理解。後者はよくわからない。「軽み」で弟子が少しずつ離れていくなか、蕉風につなぐため?しかしまあ、やはり、「書きたいから書いた」という、変哲もない、当たり前のところに落ち着くしか、ないのだろうな。

くもん出版(1000円+税)
2013年10月刊



2013年10月7日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊

玉城 司 訳注
『一茶句集』

 一茶の句一千句を収録していて、一茶の句業が見渡せる。一句ごとに通釈と解説及び参考があって、文献的整理も行き届いている。全句索引付き。文庫でこれだけのものが読めるのはありがたい。新しい一茶観が生まれるかも。
 拾われぬ栗の見事よ大きさよ

本の画象

角川文庫 (1238円+税)
2013年8月刊
諸富祥彦著
『教師の資質』
できる教師とダメ教師は何が違うのか?

 教師の悩みを聞くカウンセラーとしての経験が生きている。教師の不祥事例を挙げて教師の質について論じながら、その合わせ鏡として今の子どもたちの困難な状況が描かれる。学校という範囲にとどまらず、一種の社会批評になっている点がよい。

本の画象

朝日新聞出版(780円+税)
2013年8月刊


香川昭子の推す2冊

荒川洋冶著
『文学のことば』

 詩、小説、評論、エッセイ、新聞記事、テレビ番組等ことばに関わる文章を集めた本。坪内稔典氏の『カバヤ文庫の時代』の書評も。「こういうことを言おうと思って、そのことに気持ちを集めると、材料がいま自分の頭の中にあるものだけになる。そのなかで始末をつけようとするので、書くことがどんどん狭くなってしまう」。
 ほんとにそうだけどどうしたらいい?

本の画象

岩波書店(1800円+税)
2013年7月刊
加藤典洋・高橋源一郎著
『吉本隆明がぼくたちに遺したもの』

 加藤典洋の吉本隆明の歴史の考え方の説明より、
  「たとえば、ここで私が何かをお話する。その後、家に帰って家族と会話を交わし、ああ、疲れたな、と思い、ぐったりとして酒を飲んでいる。ここでの話が仮にたいそう立派な話だったとして、この立派な話と、私的な時間での語らいと、後、個人で一人で過ごすぐったりとした無為の時間の思い、この三つが、全く同じ権利で参与する そうしたものの総和だ、歴史はそうしたものの総和を意味している、というのです」。

本の画象

岩波書店(1700円+税)
2013年5月



2013年9月23日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

小野正弘著
NHKカルチャーラジオ・詩歌を楽しむ
『オノマトペと詩歌の
すてきな関係』


 俳句では、芭蕉、蕪村、一茶、子規、草田男。短歌では、晶子、啄木、寺山、俵万智。その他、和歌や近代詩の主だったところのオノマトペについて総括的に解説している。内容は、表題通り、詩歌とオノマトペの「すてきな」関係についてなのだが、それは、また、「危険な」関係でもあったと再認識した。また、オノマトペの近代以降の史的な総括は今後に委ねられているのだろうと思った。

本の画象

NHK出版 (950円・税込)
2013年7月刊
穂村 弘著
『蚊がいる』

 歌人・穂村弘が雑誌などに連載していたエッセイをまとめたもの。掲載雑誌に合わせてああるせいか、少しずつ趣が違う。それはそれとして、穂村弘のエッセイに考えさせられることがが多くなってきているように思うのは、年をとったせいだろうか。ちなみに尾崎放哉の「すばらしい乳房だ蚊が居る」とは無関係らしい。

本の画象

メディアファクトリー(1500円+税)
2013年9月刊


三好万美の推す2冊

茨木のり子著
『わたくしたちの成就』

 「わたくしたち」とは、著者茨木さんとご主人。夫の死後からずっと書き綴っていたという夫を恋う歌、挽歌の数々は、映画にもなりそうな純愛、著者の夫によせる一途な愛であふれている。個人的な愛の言葉の中に、人が人を愛する、恋うることが生きていく糧になりうることを証明しているようだ。

本の画象

童話社(1250円+税)
2013年2月刊
小沢昭一著
俳句で綴る
『変哲半生記』

 著者は「変哲」の俳号で「東京やなぎ句会」を中心に活躍した俳人。昭和44年から平成24年までの作品が月ごとにまとめられている。俳句から漂う、昭和から平成へ変わっていく生活文化がなつかしくもあたたかい。「気の合う仲間と、万事を忘れて作句に熱中し、言いたいことを言い合う時間がどれほど心を和ませ、解放してくれたことか」と自身も言う。やはり句会、俳句仲間の存在あってこその俳句だ。

本の画象

岩波新書(2600円+税)
2012年12月



2013年9月16日号(e船団書評委員会)

宇都宮哲の推す2冊

樋口毅宏著
『タモリ論』

 「タモリ」フリークを自称する小説家が書いた面白く気楽に読める革命的?芸人論。ビートたけし、明石家さんまを含めた『お笑いBIG3』にも鋭く言及していて、一種のお笑い比較論でもある。この本を読んでいるうちにふと思ったのは、このBIG3を詩歌に例えるとどうなるのか。シュールな感覚派のたけしは現代詩、流れるような饒舌派のさんまは短歌、そして、捻りの効いた即興派のタモリは俳句。いかがだろうか。この仮説、頭をひねるのも一興かと。

本の画象

新潮新書 (680円+税)
2013年7月刊
内田樹・釈徹宗著
『聖地巡礼』

 最近ちょっとしたブームのパワースポット紹介の一冊。著者二人とそのグループが大阪、京都、奈良の三都の聖地を巡って、日本人の宗教的感受性やその原点について語り合う。その土地土地で霊性に違いはあるのだが、特に、奈良明日香や大神神社の「ノイズの少ない霊的エネルギー」の話しは興味深い。彼の地で私が体感したあのざわざわとした「風のかたまり」はやはりそうだったのか?読後、すぐさま足を運んだのは言うまでもない。

本の画象

東京書籍(1500円+税)
2013年8月刊


鈴木ひさしの推す2冊

永山久夫著
『大江戸 食べもの歳時記』

 滝沢馬琴『兎園小説』にある文化十四年「大酒大食の会」、堺屋忠義68歳は酒九升、天堀屋七右衛門73歳は酒七升五合、和泉屋吉蔵73歳は飯54杯唐辛子58本・・・・・・驚くのは上位記録者の飲食の量と年齢。貝原益軒のいう腹八分目とはほど遠い。食べているものの産地、製法がわかった時代の話。

本の画象

新潮文庫(430円+税)
2013年5月刊
久保田淳他編著
人生をひもとく 日本の古典(一)
『からだ』

 年齢を重ねると、心とからだの関係が徐々に変わるようだ。この実感と「からだ」にまつわる古典の表現を比べて読むのもおもしろい。編著者は久保田氏を除きほぼ同世代だが、それぞれの文章に異なる実感があり、「個性」がある。「声ノ薬ニハ、正気散ヲ用ヰラレキ。味噌気・油気、コトニ嫌ハル」世阿弥の合理性、人間味が魅力的だ。

本の画象

岩波書店(1800円+税)
2013年6月



2013年9月9日号(e船団書評委員会)

富澤秀雄の推す2冊

品川利枝著
『遍路の道は海に出る』
私の四国巡礼

 最近は、お遍路も楽になりバスツアーで行けるようになったりもしている。著者は、そんな楽々遍路ではなく、真面目に、一番札所から歩き遍路を二度し、それを纏めた句文集である。「せりなずなたいらとなりし川の音」「エッまさか焼き茄子アイス土佐元気」など、とかく重たくなりがちな遍路旅を、楽しい出会いと重ねて詠んでいる。尚、著者は船団の会員でもある。

本の画象

エクスナレッジ (1600円+税)
2013年4月刊
内澤旬子著
内澤旬子の
『この人を見よ』

 他人のことをジロジロ見るなんて、お行儀が悪い。なんて言われそうだが、著者は、そんなことお構いなし(?)。街で見かける愛すべき(気になる)人を、チタン星人、甘老人、鉄爺などと名付け、イラスト入りのジロ見感覚で101人も紹介している。おっと、そう言いながら、私も近頃スーパーで見かけるアマゾネスのような女性が気になっている。

本の画象

小学館(1000円+税)
2013年8月刊


武馬久仁裕の推す2冊

星野繭句集
『木の家』

 清新な感覚が私を魅了する。例えば、草田男忌という言葉を生かした「夏の画に青き馬立つ草田男忌」。夏の画に描かれた「青き馬」は、「青き馬立つ草田男忌」と書かれることによって、夏の画から抜け出し「草田」に立つ生きている馬となる。少年期の瑞々さを感じさせる象徴的な一句である。またドラマの始まりを予感させる「冬凪へ男は鍋を下げてゆく」も味わい深い。

本の画象

ふらんす堂(2800円・税込)
2013年7月刊
中見真理著
『柳宗悦』
―「複合の美」の思想―

 この本で、民芸運動の柳宗悦が、近代的二元論を超えようとしていたことを初めて知った。彼はそれを「無対辞」と呼んだ。美醜の対立は妄想であり、美醜への執着を捨てればその対立を超えた真実の美を生み出すことができるというのである。民芸的美も非民芸的美も工人・作家の作り出す美も区別のない、不二の境地(二元を超えた境地)に美を到らしめようとした柳には共感を覚えた。

本の画象

岩波新書(840円・税込)
2013年7月



2013年9月2日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

東京子ども図書館/編
『おはなしのろうそく 29』

 昔話や、わらべうたなどが収録された小さなお話集。29巻は「ウサギとオオカミ」「馬の首」「月曜、火曜、水曜日」「ポルカの冒険」の4編を収録。幼い子どもが耳で聞いて楽しむ文学はリズムが命。「ウサギとオオカミ」のダンスのシーンの歌詞は、語り手によっていかようにも雰囲気が変わる、難しくて楽しい文章です。

本の画象

東京子ども図書館 (780円+税)
2013年4月刊
前野紀一/監修
『ひんやり氷の本』

 毎年夏バテしている私ですが、少しでも涼しくなりたいとこの本を手に取りました。氷の科学的な話や、天然氷のできるまで、氷を使った料理など、写真をふんだんに使って氷の楽しさや面白さを伝えています。特に、かき氷のレシピ集に釘づけ。おいしい天然氷で作った、ふわふわかき氷を食べたいです。

本の画象

池田書店(1300円+税)
2013年6月刊


塩谷則子の推す2冊

富岡多恵子・安藤礼二著
『折口信夫の青春』

 葛の花 踏みしだかれて 色あたらし。この山道を行きし人あり  釈超空 ―――国境を越えたものが古代日本にはある、と考えた折口にふさわしい風景の壱岐で読まれた。生徒への恋心をハングルで日記に記し、モンゴル語を学び、若き日の折口は東北アジアをみていた。傷だらけの少年時代、「既成のものに安住できない思想ないしは体質」をめぐる再評価は新しい折口信夫像を描く。

本の画象

ぷうねま舎(2700円+税)
2013年6月刊
松本健一著
決定版 『秋月悌次郎』
―老日本の面影

 秋月悌次郎(1824〜1900)は会津戊辰戦争の降伏の使者となり、白旗を掲げた。3年4ヶ月の幽閉ののち恩赦。その後維新政府に雇われる。出仕の際、詩に「厚顔」と書いた。羞恥の心を持ち、一度は下野しながら明治23年、67歳で熊本の五高の漢文教授となる。生徒にも同僚のラフカディオ・ハーンにも慕われ、尊敬された。おもいやりを持ったひと、だった。

本の画象

中公文庫(743円+税)
2013年6月



2013年8月26日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

第五の会編
『蕪村と歩く ―京都五七五―

 吟行をしながら京都を歩き、しかも句会には与謝蕪村もちょこんと座っているような一冊。それもそのはず。第五の会のメンバーたちは、与謝蕪村が詠んだ京都の舞台を巡っているのだ。この本には船団でお馴染みの顔ぶれが揃っているが、彼らについてご存知であってもご存知なくても、楽しそうな吟行の様子が伝わってくるだろう。

本の画象

北斗書房(1000円・税込)
2013年7月刊
村山早紀著
『竜宮ホテル』

 大人だって非現実的な世界に浸りたくなることがある。この本には猫耳の少女もタイムトラベラーも出てくるけれど、主人公が20代後半の女性とあって大人にもまだ読みやすい。といっても、ご都合主義なところは否めないけれど。読んでいくうちに心がほんわかしていく子どもも大人も楽しめるファンタジー。
本の画象

徳間書店(660円・税込)
2013年5月刊


太田靖子の推す1冊


日高俊平太著
『間の文芸 俳句表現の不思議』
取り合わせ例句集

本の画象

 サブタイトルは「取り合わせ例句集」。「取り合わせは、人間の記憶と知性の作用による読者の想像力に依存する面が大きい技法である」との説明には、思わず膝を打った。故に、正解がないのだろう。本書では、500もの句を、明確な切れのあるもの(白露や死んでゆく日も帯締めて 鷹女)、軽い切れのあるもの(人体冷えて東北白い花ざかり 兜太)、切れはないが取り合わせに順ずるもの(乾鮭も空也の痩も寒の内 芭蕉)、の3タイプに分け所収している。これらの句を「これはさすが」、「これはどうだろう」などと鑑賞していくと、取り合わせの妙味のある俳句創作のためのヒントを見つけることができるかもしれない。

文芸社(1100円+税)
2013年6月刊

[e船団・週刊ブックレビュー]バックナンバー



2013年8月19日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

深沢眞二著
『連句の教室』
ことばを付けて遊ぶ

 疲れた時には嵐山光三郎の『芭蕉紀行』を開く。地元の名店等、専門書にないウンチクが愉快。専門家には自明の説だそうだが、『おくの細道』が事実と違うのは連句の形式に則っているからとは、この書で知った。それ以来、連句にも興味を覚える。本書は大学でのゼミ連句をまとめたもの。形式に苦労しながらも、若々しい表現が楽しい。

本の画象

平凡社新書(780円+税)
2013年8月刊
ミコロマチコ著
『オオカミがとぶひ』

 昨年の夏の刊行だが、あまりに猛暑が続くのでご紹介。風が吹くのはオオカミのしわざ。雷を鳴らしているのはゴリラが胸をたたくから。夜はクジラが連れてくる。自然現象と動物たちをからませての幻想的な話を、とにかくダイナミックな絵で展開させていく。これを読むと、何か暑さも吹き飛ぶような気がする。第18回日本絵本賞大賞受賞作品。

本の画象

イーストプレス(1400円+税)
2012年8月刊


田中俊弥の推す2冊

加藤郁乎編
『荷風俳句集』

 『ふらんす物語』(新潮文庫)を読んで、その描写が科学者のように精確無比で あることに衝撃を受けたことがある。俳句と漢詩創作に熟達していたからこそ、 稀代の文章家・永井荷風は誕生したのだ。その秘奥を本書は物語っている。「葡 萄酒の色にさきけりさくら艸」「川風も秋となりけり釣の糸」は、その一例であ る。

本の画象

岩波文庫(940円+税)
2013年5月刊
百田尚樹著
『風の中のマリア』

 本書の主人公は、オオスズメバチのワーカーである帝国の戦士・マリア。彼女の 凄絶な一生を縦軸に、きわめて高度な社会性を有するオオスズメバチの生態が昆 虫の視点からあますところなく見事に語られている。アリもセミもカマキリも、 もはやこの本の世界からしか見られなくなってしまうほど衝撃を受けた一書であ る。

本の画象

講談社文庫(552円+税)
2013年7月第13刷



2013年8月12日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

穂村弘・東直子・沢田康彦著
『短歌があるじゃないか。』
一億人の短歌入門

 いくつかの題詠を三人の歌人が披講する形式の鼎談集。こういう本が文庫本として成立するのが短歌。俳句も似たようなものがあるが、文庫本化することはあまり多くないように思うのだが。ただ、短歌の評価は評者それぞれ。これでもいいの?というものもあれば、そこまで深めますか?というのもあった。

本の画象

角川文庫(667円+税)
2013年4月刊
「ジレンマ+」編集部編著
『女子会2.0』

 タイトルは何だか明るいような印象だが、実は女性の生き方を社会学的に真面目に論じた一冊。突き詰めていくと、女性の生き方のターニングポイントは、やはり出産と育児。女子力というのは何だか恐ろしくもあり、切なくもある。

本の画象

NHK出版(1300円+税)
2013年5月刊


木村和也の推す2冊

柳川彰治編著
現役俳人が選んだ上位句集
『女性俳人この一句』

 女性俳句、女性俳人だけを取り上げることに意味があるのかと問われれば、意味はあるのだと答えたい。どんな角度からでも俳句の地平を切り拓く試みは歓迎すべきだと思う。女性俳句の特質のようなものが見て取れる。高点句は有名句が多いせいか、むしろ1点句が新鮮。

本の画象

青土社(2200円+税)
2013年5月刊
桜木紫乃著
『ホテルローヤル』

 釧路湿原を見降ろす一軒のラブホテルを巡る短編七編の連作。直木賞作品にしては一見手練ではない。優れた小説の条件は何よりも、書くべきものを持っているかである、ということが自然に納得させられる新しい作品群である。ホテルという場を取り巻く物語の円環がみごとに閉じられる連作の構成が見事。

本の画象

集英社(1400円+税)
2013年1月刊



2013年8月5日号(e船団書評委員会)

三好万美の推す2冊

ドナルド・キーン著
『私が日本人になった理由』
〜日本語に魅せられて〜

 NHK・BSで放送された「百年インタビュー」をもとに構成されており、日本文化との出会いや、長年にわたる日本との関わり、今後の日本文化に望むことについて、端的に語られている。特に印象的だった言葉は、「人間が憎悪を忘れてお互いに美しいものを創ることができたら素晴らしい世界になる」。銀閣寺を愛し、日本建築や文化の基となっているとも語っており、銀閣寺が好きな私はうれしくなった。

本の画象

PHP研究所(1100円+税)
2013年5月刊
篠田直樹著
『シノダ課長の
ごはん絵日記』


 本書は1990年8月から2013年3月まで、毎日の全ての食事を記録した膨大な絵日記の中からの抜粋で、昨年NHK「サラメシ」で紹介され、反響を呼んだ。写真は撮らず記憶だけを頼りに、毎晩大学ノートに水性ボールペンとマジックで手書きされる絵は、細部までリアルで、カラフルでおいしそう。「ちらし寿司」が気に入り、こだわって描いた時期があったり、キャベツの千切りも時代によって描き方が違うことを明かしたり、食と記録のちょっとした楽しみが全編にちりばめられている。

本の画象

ポプラ社(1300円+税)
2013年4月刊


香川昭子の推す2冊

細見和之詩集
『闇風呂』

 作者は1962年 篠山市生まれ。 三好達治賞受賞『家族の午後』に続く第6詩集。帯には 暮らしの陰影はさらに深く詩の行に刻まれて・・・。
  「とってもバイリンガルな夫婦」より
 なにをぶつぶつ 言ってるの/そんなことより/ このへんがとても痒いの /プリーズ・カム・ヒア/ねえ、ここを噛んでー
 こんな楽しい詩もある。

本の画象

澪標(1800円+税)
2013年5月刊
柴田元幸・高橋源一郎著
『小説の読み方、
書き方、訳し方』


 2009年の単行本の文庫版。海外文学は知らないのでわからない所も。そこはとばして読んだけど二人の対話にはそれでも面白いところがいっぱい。「詩人というのは言語を 洗練していくのではなくて、その国の言語に何かを付け加える存在なんですね。だからその部分は、よく読んでみると変なんです。でもすごく 印象に残る。」

本の画象

河出文庫(771円・税込)
2013年4月刊



2013年7月29日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊

高橋源一郎著
『大人にはわからない
日本文学史』


 これまで書かれた「文学史」の「評判」にまどわされず、「過去」の作品も「現在」の作品も同様に読んで文学史を考えよう、という本。円朝や一葉はなぜ古びないのか?「(「身体」ではなく)肉体と結びついているからだ。」概念をいわばカッコに入れた文章。読者は、立ち止まり、ほおづえをつき、「私たち」の「OS」をチェックする。この思考の先は、かなり広く深く、わくわくする。

本の画象

岩波現代文庫(860円+税)
2013年6月刊
岡ノ谷一夫著
『つながりの進化生物学』

 情動から歌が生まれ、言語が生まれる。世界は言語で切り分けられ、情動も言語で切り分けられる。それでも(だから)、ことばと人の気持ちは必ずズレる。『異邦人』を愛読する著者は、動物行動学、生物心理学、言語起源論を専門とする。弦楽器を弾き、短歌を詠み、また、模型を作る。著者の存在そのものと、関心領域のすべてがつながっていることがよくわかる、いろんな人が楽しめる本。

本の画象

朝日出版社(1500円+税)
2013年1月刊


宇都宮哲の推す2冊

柏田哲雄著/日本ドリームプロジェクト編
『旅の終わり 始まりの場所へ』

 フォトグラファーを目指す24歳の若者が、自分の進む道を探してインドへ旅に出て、そこで出会った世界中のバックパッカーたちと交わした「“がむしゃらな”言葉」と「リアルな写真」で綴った旅行記。著者の人生を真摯に見つめる思いがひしひしと伝わってきてこちらも熱くなってくる。素直な気持ちで人と出会うことの大切さを教えてくれる。何故か、中年以降の人に一読を願いたい・・。

本の画象

いろは出版(1400円+税)
2013年3月刊
杉本節子著
『感謝の精進料理』

 TV料理番組などで活躍の料理研究家による精進料理のレシピ本。信仰に寄り添いながらもより広く料理を楽しんでもらうとする知恵と工夫がうれしい一冊。京のおばんざいをベースしたシンプルでヘルシーな、そして肉や魚を使わない“もどき”料理や洋食風メニューなど新感覚な献立が満載。健康やダイエットなどが気になる方々にも大いにヒントになるはず。感謝を込めて、ぜひ一家に一冊。

本の画象

本願寺出版社(1600円+税)
2013年3月刊



2013年7月22日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

田中陽句集
『ある叙事詩』

 口語俳句協会幹事長、田中陽56歳から69歳までの300句。恋多き男の住まう句集だ。開巻劈頭「女の靴が離れて脱いである さくら」。散ったさくらの花びらのように脱いだ女の靴が男の靴より離れてある、と男には見えたのだ。「薔薇に女をおもうそんな季節がやってきた」「おとなの女が雪を投げるとさびしいな」。陽の女はなぜか生生しい。これも口語俳句のなせるわざか。

本の画象

文學の森(2800円+税)
2013年5月刊
グレゴリ青山著
新装版『旅のグ』

 バックパッカーの彼女ならではの、旅の漫画エッセー。「ご無事でご帰国おめでとうございます」と言いたくなるような話も多々あり、笑える。絵も達者で、「青島(ちんたお)ビールの生だる」など、実に良い。丸みを帯びたおばさんロボットのようだ。シンハービールのラベルとか、タイの列車の切符とか、僕も描いてみたくなるような絵もあって楽しい。

本の画象

ちくま文庫(651円・税込)
2013年5月刊


富澤秀雄の推す2冊

高橋敏夫・田村景子監修
『文豪の家』

 建築に携わる者として「家を知れば文学が見える」という帯文に魅かれて買った。作品を読まずして、その作家を家という視点から読み解こうとしている。 建物や遺品などの写真でページを割き、解説を加えている。その解説が、読者の想像する余地を奪っていて残念。間取り図が添えられているのは、興味深い。

本の画象

エクスナレッジ(1600円+税)
2013年4月刊
桂吉坊著
桂吉坊がきく 『藝』

 著者の桂吉坊は、桂米朝の孫弟子。その道の名人と言われる、小沢正一、坂田藤十郎、竹本住太夫など十名にインタビューしている。落語家らしく、各氏の意外な一面を引き出せているのではと、思ったが期待はずれ。小沢正一が「相手に充分しゃべらせ、聞きたいことは、最後に聞くのがコツ」と漏らした。聞き手のしゃべり過ぎはダメということ=俳句にも通じる。

本の画象

ちくま文庫(820円+税)
2013年6月刊



2013年7月15日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

やなせたかし著
『歯科詩集』

 歯科(しか)は詩歌(しか)だからできた歯科詩集」。歯をテーマにした、くすっと笑えたりはっとさせられる詩に、あたたかいイラストがついています。この本が、歯科医院の待合室にあったら、親子が音読して楽しみそう。あはははと笑ったあとで、今日から歯磨きを頑張ろうと、心に誓ってしまう歯科詩集です。

本の画象

かまくら春秋社(1200円+税)
2013年3月刊
かこさとし文・絵
『からすのそばやさん』

 書店の新刊コーナーを眺めていたら、かこさとし先生のからすの表紙が目に止まり、驚きました。私が子どものころに大好きだった『からすのパンやさん』。パンやの子どもたちがそれぞれ独立し、おかしや、やおや、てんぷらや、そばやを開きました。絵本のすみずみまで遊び心に満ちていて、読むたび笑顔になってしまいます。

本の画象

偕成社(1100円+税)
2013年5月刊


塩谷則子の推す2冊

梯久美子著
『声を届ける』
―10人の表現者

 半年ほど谷川俊太郎の朗読を聞きに行く。移動や夕食の席に同席しての感想は「どんな場所にいても普通でいられるけれど、どんな場所にも馴染むことのない人だと思った」。さもありなん。自らの感情を表現するものではない、という谷川の詩の作り方は日常生活では「情の薄さ」として現れる。詩(表現)とは何か、を人物論から描く力作。

本の画象

求龍堂(1600円+税)
2013年5月刊
渡辺京二著
『もうひとつのこの世』
石牟礼道子の宇宙

 恋人について語りたくて我慢できない少年の告白。近代とは何かを検証してきた少年、文学評論家渡辺京二は、生きとし生けるものと交感できる、前近代のこころをも持つ童女、詩人・小説家の石牟礼道子から目がはなせない。40年近く童女のほとんどの原稿を清書し、ここ20年、晩御飯も作ってきた。凄い。童女86歳、少年83歳。

本の画象

弦書房(2200円+税)
2013年6月刊



2013年7月8日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

中島裕介歌集
『oval/untitleds』

 小難しいことを歌っているものもあれば、どこかクスリと笑みがこぼれそうにもなる歌集。理系の学問や法律始めおおよそ文学からかけ離れた学術分野を歌に詠みこめてみたり、短歌に英訳をつけてみたり。時には、携帯電話の予測変換機能を用いてみた短歌もある。実験的な試みが目立つ遊び心ある短歌集。

本の画象

角川書店(2300円・税込)
2013年3月刊
ケルスティン・ギア著/遠山明子訳
『紅玉は終わりにして始まり』
時間旅行者の系譜

 舞台はロンドン。時は現代…から主人公が生まれる以前のずっと昔の時代。主人公はタイムトラベラーとしてまるで期待されてこなかった女子高生。準備なんて何もすることなく育ってきたので、突然時空を超えることとなり翻弄する。タイムトラベルファンタジー3部続くうちの第1作目。
本の画象

東京創元社(1900円+税)
2013年2月刊


桑原汽泊の推す1冊


レイ・ブラッドベリ著/小笠原豊樹訳
『刺青の男』〔新装版〕

本の画象

 デパちゃんの左手の甲にタトゥー。チャンドラビンドゥ・・・。オレンジいろ、にあうね。
 名作のほまれ高い「万華鏡」に、まんぞく。「うーん、ブラッドベリ」。「うーん、マンダム」のもじり。

ハヤカワ文庫SF(1040円+税)
2013年4月刊



2013年7月1日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

今井むつみ著
『ことばの発達の謎を解く』

 人はどのように言語を獲得していくのか、それを実証科学として顕かにすることを意図したもの。名詞、動詞、そして形容詞を、乳幼児が体得していく検証の仕方がおもしろい。乳児の潜在的な能力の高さには改めて驚かされたが、周りの言葉かけも単に量ではなく、何より質が求められることの重要性に、なるほどと思った次第である。

本の画象

ちくまプリマ―新書(860円+税)
2013年1月刊
矢島裕紀彦著
『ウイスキー粋人列伝』

 本書収録の粋人の一人太宰治は、世の全てが喜劇名詞と悲劇名詞に分類できると言う。酒で言えば「一升瓶は喜劇名詞、ウイスキーは悲劇名詞」。確かにサントリーレッドには青春期の悲壮感が、バーボン、スコッチには大人の倦怠感、諦念があるように勘違いしていた。確か清水哲男の詩に「今日も陰々滅滅飲んでやる」というフレーズがあったようにも。
本の画象

文春新書(820円+税)
2013年6月刊


田中俊弥の推す1冊


南川高志著
『新・ローマ帝国衰亡史』

本の画象

 本書のローマ帝国衰亡史は、324年、ローマ帝国の東半分を統治していたリキニウスに勝利したコンスタンティヌス一世が、ローマ帝国唯一の皇帝となった事跡から語り出され、408年、テオドシウス帝の厚い信頼を受けていたローマ軍の総司令官・スティリコが処刑され、410年、ついにはゴート族のアラリック率いる軍隊が帝都・ローマ市をほしいままにしてしまうあたりまでの時代を主として扱っている。「ローマは一日にしてならず」「すべての道はローマに通ず」「郷に入っては郷に従え(Do in Rome as the Romans do.)」など、「ローマ」という都市および「ローマ人」概念の普遍性とは何か、その本質をなすものの意味を、本書は、その衰亡史のなかに鋭く道破している。

岩波新書(760円+税)
2013年5月刊



2013年6月24日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊

角川春樹著
一行詩集 『夕鶴忌』

 急逝した姉の辺見じゅん(歌人)に捧げられた追悼句集。著者が一行詩と称する句群には、鎮魂のための挽歌に混じって、心やさしい素直な句も散見する。これも著者があとがきで述べている「軽み」のひとつか。
 夕鶴や挽歌の沖に火を焚けり

本の画象

文學の森(2800円+税)
2013年4月刊
中島義道著
『非社交的社交性』
大人になるということ

 「人間嫌いであっても、よい人間関係を開拓することが大人になるということだ」と著者は言う。若者のための人間関係論であると同時に、いささか毒を含んだ真摯な哲学指南書でもある。文のスタイルはやや過激だが、確かな問題意識に貫かれている。

本の画象

講談社現代新書(740円+税)
2013年5月刊


朝倉晴美の推す2冊

木割大雄句集
『俺』

 尼崎在住の、俳句とタイガースと人間をこよなく愛すキワリさん。愉快なイベントも数々成功させるも、その心根はシビアで慈悲深い。
 キワリさんのエッセイに宇多喜代子氏の序文。どれも、熱く静かな血潮が感じられます。
 母看つつ冬のバナナを食いにけり 大雄

本の画象

角川書店(2500円・税込)
2013年5月刊
杉浦由美子著
『女子校力』

 今、女子中学、高校に一番求められているものは「社会へ出ていくために、勉強をさせる」という学校方針。
 かつての女子校ブランド「良妻賢母」「お嬢様」は、すでに受験界では死語に等しい。 しかしながら、女子校らしい気風は健在。「他人の目を気にせず、目的に向かっていく力」が彼女たちを大きく羽ばたかせる。ともすれば、世間知らずにも通じるが、それこそが女子校力。ビバ女子校!

本の画象

PHP新書(760円+税)
2013年3月刊



2013年6月17日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

白井良夫著
『古語と現代語のあいだ』
―ミッシングリンクを紐解く

 筆者は、牧水の「白鳥は哀しからずや」の歌の「哀し」は悲哀ではなく、 限りない喜びの感情を意味するという。他にも古語と現代語のつながりについて、ミッシングリンクという語をキーワードに論じている。個人的には、白鳥は、の読みが広がってよかった。

本の画象

NHK出版新書(740円+税)
2013年6月刊
坂詰真二著
『やってはいけない
  ストレッチ』


 タイトル通りの内容。ちゃんとした方法でストレッチしないと逆効果ということの意味や、反動をつけて行うストレッチにも効果があるなど、理にかなった説明で納得しやすい内容。「続けないと意味がない」という至極当然な説明に、やっぱりそうかと反省するばかりです。
本の画象

青春新書(838円+税)
2013年5月刊


三好万美の推す1冊


佐々木和歌子著
『やさしい古典案内』

本の画象

 学生時代授業で習った古典の数々。文法の活用を覚えるのはやや億劫だったが、個性のある楽しい先生だったので、嫌いにならずにすんだのが幸いだった。慌ただしい日常に古典との接点はほとんどないが、何かの折にふと一節を思い出しただけでもなんとなく豊かな気分になる。
 本書は万葉の時代から江戸後期まで、日本人の表現の歴史を示すととも に、各時代2、3編の古典作品を挙げて、作品本位でそれぞれのテーマや表現の特色を述べている。日頃は文学や歴史に接点のない生活をしている人でも、興味を持って読んでみようかと思わせるような見出しの言葉がいい。

角川選書(1600円+税)
2012年10月刊



2013年6月10日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊

石原千秋著
『近代という教養』
文学が背負った課題

 『近代の教養』ではなく、近代が教養なのである。近代での「当たり前」は進化論なのだ、と著者は書いている。「進化論」そのものではなく、全てを自然と進化論的に考えてしまうということなのだ。『女の謎がつくった近代』という本を書きたいという著者の準備としての本。石原千秋氏の本には、よくお世話になっている。

本の画象

筑摩書房(1600円+税)
2013年1月刊
中谷宇吉郎著
『科学以前の心』

 著者は明治33年生まれの「雪の科学者」。文章に見える抑制は、科学者の思考ともいえるが、厳しい時代背景も感じられ、それがまた、時に詩的である。「やっぱし学問のある人にあ、かないみしん。うまいことだまかしなさる。」(「科学以前の心」のお婆さん)「現代に住む者が、現代を見ることは、至難な業である。」福岡伸一の解説。
本の画象

河出文庫(700円+税)
2013年4月刊


宇都宮哲の推す1冊


日菓(内田美奈子+杉山早陽子)著/新津保建秀撮影 
日菓のしごと
『京の和菓子帖』

本の画象

 私の今年上期のいち押し本というよりも、久しぶりに面白い“モノ”に出会った。日菓という若い女性の和菓子職人2人のユニットが、独自にアレンジし創作した和菓子80点余りを写真と小文で紹介した1冊である。その作品いずれもが、日常のひとコマを切り取り新しい感性で表現していて、思わずうれしくなってしまう和菓子なのである。ネーミングもユニークで、いささか敷居の高い京和菓子のイメージを覆してくれる。「気配り美人」「やぎさんゆうびん」「テトリス」「鬼のあたま」「うめぼしのキス」「ラッキーセブン」「雲のひかげ」「酔っぱらいまんじゅう」「○△□」などなど。これみんな和菓子の名前。もちろん、どれも伝統的製法で作られ、京和菓子の王道を外していない。じっと見ていると無性に食べたくなってくる。また、これだけでも楽しいのに、添えられた小文が素敵で、和菓子の世界が一辺に広がってくる。何故か、詩人、俳人におススメの一冊。その理由は、見て、読んで、食べて?からのお楽しみに・・・。

青幻舎(2000円+税)
2013年4月刊



2013年6月3日号(e船団書評委員会)

富澤秀雄の推す2冊

「短歌」2013年5月号
特集 今こそ読みたい北原白秋『桐の花』×斎藤茂吉『赤光』

 白秋の『桐の花』、茂吉『赤光』の刊行100周年記念特集が組まれている。4人の歌人たちの座談会で、白秋は晶子の「みだれ髪」を。茂吉は子規の「柿の歌」を入り口としたという。二人の韻律の違い-白秋は歪が無く、茂吉はぐねぐねしているという指摘がなされている。他に、一首鑑賞や背景検証も行なわれている。

本の画象

角川学芸出版(890円・税込)
2013年4月刊
外山滋比古著
『日本語のかたち』

 昭和27年に、公文書は横書きにするように通達がされたのが、原因で教科書も国語を除いて横書きになったとか。文字を読む際、視線と直角に交わる字画がないと読みづらい。漢字はそのような形になっているのに、欧米のような横書きにするのは、不合理であると、具体例を上げて言及している。また、日本語のスタイルについても詳説されている。

本の画象

河出文庫(660円+税)
2013年3月刊


武馬久仁裕の推す2冊

長澤奏子句集
『うつつ丸』

 昨年6月、74歳で死去した長澤奏子の遺句集である。癌が発症しても元気な人だった。癌になっても口は達者だからと言って笑わせてくれた。私と一緒にやった『雑技団』からも「まれに菫を夢見る塵芥収集車」「高階に飼はれし猫の春愁」そして「昭和区を出てより柩車直進せり」などが取られている。遺句集を読んでいると、全てに作者のことが偲ばれ淋しくなる。

本の画象

砂子屋書房(2940円・税込)
2013年6月刊
下川裕治著
週末バンコクで
『ちょっと脱力』

 バンコクから帰って来て書店で目についたので買った。ちょっと行ってちょっと楽しむいい方法がないかな、と思ったのだ。本の中で一番してみたかったのは、大理石寺で昼寝することだ。タイの日差しは押されるようだ。それほど強く暑い。しかし、土曜の午前に日本を発ち、夕食をバンコクの屋台で食べ、1泊し、月曜の早朝帰国、出社って、贅沢だなあ!

本の画象

朝日文庫(672円・税込)
2013年3月刊



2013年5月27日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

井波律子著
『一陽来復』

 まもなくアジサイの季節だ。アジサイは深紅色がいいという。アジサイはブルーだという思い込みをくつがえす、意表をつく面白さがあると。そして暑い季節に京都で食べられる懐中汁粉に思いを馳せる。44年生まれの中国文学者が中国の古典詩や歳時記を核に身辺を描く。柔軟な感受性が老後を豊かにすると教えてくれる。

本の画象

岩波書店(2000円+税)
2013年3月刊
村田喜代子著
『ゆうじょこう』

 底なしの貧乏に娘を売った親、親孝行の娘はどれほどいたろう。明治36年15歳のイチは硫黄島から熊本の二本木遊郭「東雲楼」に売られてきた。翌年には父親がさらに150円の前借り。明治33年、実在した「東雲楼」で50名がストライキという事実を元にした小説。字を学び日記を書くことで成長するイチ。鹿児島弁の日記がいい。

本の画象

新潮社(1800円+税)
2013年4月刊


紀本直美の推す2冊

雪舟えま著
『バージンパンケーキ国分寺』

 歌人・小説家の雪舟えまさんの書き下ろし作品。不思議なパンケーキ屋さんを舞台に、ふわふわほわほわした言葉で物語が綴られていきます。巻末にパンケーキのレシピが付いているのですが“キャラメル・ベリー・UFO”や“テンプル・ライト・ライト・フォレスト”など名前がすてきで、まるで短歌を読んでいるようです。

本の画象

早川書房(1300円+税)
2013年5月刊
筒井敬介作/堀内誠一絵
かわいいとのさま
『おだんごだんご』

 かわいいとのさまシリーズ第一巻。おだんごをたべたくなるお話「おだんごだんご」など春をテーマにした話を3話収録しています。主人公が絵本から飛び出してきそうな堀内誠一氏のイラストと、簡潔でユーモアあふれる筒井敬介氏のお話が魅力。1970年の作品を改稿絵本化したものですが、今年作られたような新しさです。

本の画象

小峰書店(1300円+税)
2013年4月刊



2013年5月20日号(e船団書評委員会)

桑原汽泊の推す2冊

岡井隆・馬場あき子・永田和宏・穂村弘選
『新・百人一首』
近現代短歌ベスト100

ゆふされば大根の葉にふる時雨
  いたく寂しく降りにけるかも 斎藤茂吉

人生はただ一問の質問にすぎぬと書けば
         二月のかもめ  寺山修司

 寺山は「海に霧」より、こっちかな。

本の画象

文春新書(880円+税)
2013年3月刊
クリストファー・ロイド著/野中香方子訳
『137億年の物語』
宇宙が始まってから今日までの全歴史

ツタンカーメンのひつぎにあったヤグルマギクの花束・・・
2万4千年前頃に絶滅したネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)もまた、音楽を愛していたそうです。

本の画象

文藝春秋(2990円+税)
2012年9月刊


舩井春奈の推す2冊

村上春樹著
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

 ある日とびきり仲の良いグループから突然爪弾きにされてしまったなら、あなたならどうするだろうか。それも自分の身に覚えのないことだとしたならば―。多崎つくるの場合、だいぶ年を隔ててから当時の友達に一人ひとり再会していく。まるで巡礼をするかのように。村上春樹、3年ぶりの書き下ろし長編小説。

本の画象

文藝春秋(1700円+税)
2013年4月刊
日本近代文学会関西支部
京都近代文学事典編集委員会編

『京都近代文学事典』

 都が京都に置かれなくなっても、京都は独自の文化を形成していく。その潮流は文学へも波及する。これはそうした京都に縁ある文学者について取り上げられた事典。近代以降の京都にまつわる文学関係のコラムもある。一般的な文学事典と違うところは、それが京都というトポスからの照射で解説されているところにある。

本の画象

和泉書院(6090円・税込)
2013年3月刊



2013年5月13日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す1冊


岩波書店 「図書」2013年4月号

本の画象

 月刊誌の「図書」は、2013年4月発行の本書で770号。小生の読書は、高校時代から始まったが、奥付の書き込みをみると、岩波新書の『パスカル』(野田又夫著)を書店で買ったのが昭和50(1975)年11月1日、同じ著者の『デカルト』を購入したのが同年11月22日。15歳、高校1年生の晩秋のこと。デカンショ≠フ気風にあこがれていた少年は、「文化は岩波にあり」とばかり、「図書」年間購読を始めた。当時、年間で200円だったか。爾来、今日までのお付き合いである。第一級の文章家による数々の随筆は、格調も質もすこぶる高く、読書家・文章家への道をひらいてくれる。文化の羅針盤として、「図書」は、いまも小生の「硬派」の友である。

岩波書店(100円・税込)
2013年4月刊


赤石 忍の推す1冊


辻 桃子著
『あなたの俳句はなぜ佳作どまりなのか』

本の画象

 刺激的なタイトルに、思わず買ってしまった。当方は、佳作どころか、句会ではほとんど点が入らず、悲しみの涙にくれている昨今である。まず前書きの「現代の言葉で現代を詠むこと」にうなずく。「上手でありながら下手のように感じさせる句がよい」には、難しいよなとは感じながらそうだと思う。そして、それは「志を同じくする俳人連衆と共有する場で実現する」には同意。それを前提に、季語や切れ字の使い方、倒置法のすすめなど、具体的なテクニックから、無意識の自分との出会いなど、俳句の本質にかかわる部分まで、たいへんに為になった(でもすぐには効果は出ないだろうな)。
 ただ、「連衆の有機性は座と愛がある時のみ機能する」に「えっ」と思い、「徹底写生が超現実主義的な俳句を実現する」に「うーん」と思った。座に愛は必要なのか、写生はあくまで筆者が嫌う個の実現ではないかなど、答えがつかぬことがぼんやりと浮かんだ。俳壇の陳腐化を憂い、革新を模索している姿勢には共感したが、新しい言葉をどのような獲得していくのか、理論的に、もっと具体的に示してくれればと、点が入らない分際で思った、読後の次第である。

新潮文庫(490円+税)
2013年2月刊



2013年5月6日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊

小林 凛著
『ランドセル俳人の五・七・五』

 帯にあるような「天才俳人」かどうかは知らないが、小学生が単発でなくまとまった俳句をこれだけ並べて出版するのは、俳句界にとっても貴重であろう。周りの大人たちには、せっかくの「新人」を大切に育ててほしいと思う。
「生まれしを幸かと聞かれ春の宵」

本の画象

ブックマン社(1200円+税)
2013年4月刊
 
「芸術新潮」2月号
特集・小林秀雄―美を見つめ続けた巨人―

 大学入試センター試験の問題にも取り上げられて、久しぶりに脚光をあびている小林秀雄の「美」を特集する。小林が愛した骨董や絵画もふんだんに掲載されている。何よりも小林自身の素顔を伝える写真が数多く発掘されており、小林ファンにはありがたい特集となっている。
本の画象

新潮社(1500円・税込)
2013年1月刊


朝倉晴美の推す1冊


塩見恵介著
お手本は奥の細道 ―はじめて作る 俳句教室』

本の画象

 9才の娘に、「あっ、私もやりたい!」と言わせた1冊。
 どのページを開いても「楽しく俳句できる」1冊。
 本書は、62の講座に分かれていて、1講座につき見開き2ページ。たとえば「季語を入れる」や「切れ字を使う」などの基本から、「取り合わせ」、「恋」や「食べもの」、「地名」などの詠みこみ、そして、「異化してイカす」、「ボケる」など、高度テクニックまで。
 あらゆる手法を、奥の細道の例句と美しいカラー写真、塩見氏の絶妙トークで述べられています。
 さあ、始めましょ。いつやるの?今でしょ!の一冊です。
 〈平凡でつまらないと思われる日常に、俳句を通して、ちょっといいことを見つけることになります。〉とは筆者の弁。
 イカしてる!

すばる舎(1300円+税)
2013年3月刊



2013年4月29日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

奥田健次著
『メリットの法則』
行動分析学・実践編

 筆者は「子育てブラックジャック」と呼ばれているらしい。様々な事例を挙げながら、行動分析学の考え方、手法を紹介している。行動の元になる要因が分析的に捉えられており、なぜそう行動するのか、どうしたら改善するのかが、わかりやすくまとめられている。言われてみればその通り、という内容なのだが、なかなかそこに気づかないものなんだなというのが率直な感想。子育てのヒントにお勧めします。


本の画象

集英社新書(740円+税)
2012年11月刊
牧野高吉著
古典にビックリ! 今ためになる!
『英語対訳で読むイソップ寓話』

 お馴染みのイソップ寓話が英語で、そしてその傍に日本語訳が載せてある。知っている話も多いので、話を読みながら、昔々に習った英語が合わせて蘇ってくる。意外と知らないものもあって、あらためて勉強になる。ウサギと亀の話の最後の亀のセリフは、The tortoise told the hare modestly, "Slow and steady wins the race." かっこいい。
本の画象

じっぴコンパクト新書(762円+税)
2013年4月刊


三好万美の推す1冊


田辺聖子著 続 田辺聖子の 古典まんだら』
一葉、晶子、芙美子

本の画象

 副題の三人のほかにも、杉田久女と吉屋信子についても取り上げている。資料を丹念に読み込んで調査し、作品と史実を照らし合わせながら作家として、女性としてのそれぞれの特性、魅力を紹介している。特に、久女についての客観的な考察を読むと、先入観にとらわれることなく、作品、俳句本位で評することの重要性を感じた。

新潮社(1300円+税)
2013年1月刊



2013年4月22日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊

平川克美著
『移行期的混乱』
経済成長神話の終わり

 日本の人口が減りはじめている。人口が増えていた時代の思考は、もはやすべて問い直さなければならないと著者は説いている。この本の味わい深いのは、生きた人々の心情、労働観の変化とともに戦後の社会をたどりつつ、これからの社会のあり方を考えているところである。鷲田清一と著者の対談、内田樹・高橋源一郎の解説。


本の画象

ちくま文庫(760円+税)
2013年1月刊
倉嶋 厚著
『日本の空をみつめて』
気象予報と人生

 人が感じている空は、どんな形か。「不来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心(石川啄木)」寝ころんで見上げる空の形は?著者は八木重吉と山村暮鳥の二人に、結核の病床から空を見上げた詩人として共感を寄せる。「防災気象情報の要点は、いち早く季節が変わったことを認識し、新しい季節に適合した生活を促すことである」
本の画象

岩波現代文庫(1040円+税)
2013年3月刊


宇都宮哲の推す2冊

丸谷才一著
『無地のネクタイ』

 昨年亡くなるまでの過去10年間に書かれた文章の達人・丸谷才一のエッセイ集。終生変わらなかった歴史的仮名使いの文章によって進められる明快な論が小気味よい。また、時機を外れたエッセイは時として気の抜けたサイダーになってしまうが、どっこい、いずれの一文も縦横な博識と自称・ジャーナリストの鋭い批評精神が満ちていて知的興趣をくすぐる。なかでも、おススメは、俳句をテーマにした「欠伸する虚子」。“人事の虚子”論が、面白くて興味深い。

本の画象

岩波書店(1400円+税)
2013年2月刊
レイモンド・チャンドラー著/村上春樹訳
『大いなる眠り』

 村上春樹の新訳で、あの探偵小説の古典的名作が帰ってきた。伝説の探偵フィリップ・マーロウのハードボイルドな物語が、精緻な人物・情景描写と洒落た会話で展開されていく。チャンドラー独特の一人称の文体と春樹の訳のリズムがうまくシンクロして、エンディングまで一気に読ませてくれる。昔に読んだ硬質なイメージには少し遠い気はするが、ハードボイルドの味は十分利いている。何十年ぶりかのマーロウとの再会だが、やはり、彼は、タフで優しくカッコ良かった。“マーロウは永遠なり!”である。

本の画象

早川書房(1700円+税)
2012年11月刊



2013年4月15日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

依田仁美編著
『依田仁美の本』

 短歌界の異才、依田仁美の歌あり歌論あり、歌人俳人の依田仁美論ありの1冊。中でも面白いのは歌論「現代短歌出門」だ。短歌界の保守的な美意識、政治性に絡め取られた軟式短歌から、自分の個性を磨き普遍的な短歌的美の拡張を目指す硬式短歌への教唆だ。だが、出門には冷や飯の罰が待っていると覚悟を促す。「冷や飯の食い方はなあ花の下 月ほんほろの淡淡の中」。名歌である。


本の画象

北冬社(1800円+税)
2012年12月刊
千田嘉博著
『信長の城』

 信長が最初に作った城が尾張の小牧山城である。この小牧山城は近世的城下町のはしりであったことを著者は明らかにする。これが岐阜城を経て安土城で完成されるのである。唯一絶対の超越的支配者である信長の住む巨大な城とその下に階層的に並ぶ家臣の家、そしてさらにその下に広がる町家(城下町)、領国。城を通して信長の目指した身分制的、近世封建社会が見えてくる一冊である。
本の画象

岩波新書(840円+税)
2013年1月刊


富澤秀雄の推す2冊

梅内美華子著
『現代歌枕』
歌が生まれる場所

 俳句は時代を敏感に季語に取り入れ、いまを詠んで来た。それに比して、和歌以来の歌枕を失った短歌は、コンビニ、地下鉄、ケータイなどの今を詠まねばならなくなった。筆者は、それらの物や場所を「現在歌枕」としている。たとえば、ケータイの項では「カチカチと素早くメール返す音仲良しなのに焦るのはなぜ?」尾下友紀子。変わりつつある短歌の世界を覗く一書。

本の画象

NHK出版(1500円+税)
2013年3月刊
山藤章二著
『ヘタウマ文化論』

 「ヘタウマ」?少し前までは、芸術や芸能では「ウマイ」か「ヘタ」の二極であった。それに拮抗して「オモロイ」という第3極台頭してきた。どうやら{ヘタウマ}は、ヘタそうに見えて、見る人を引きつける個性や味わいのある作品や芸を指すようだ。辞書にさえ存在しない「ヘタウマ」を文化とする、その切り口が面白い。

本の画象

岩波新書(720円+税)
2013年2月刊



2013年4月8日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

アーサー・ビナードさく/岡倉禎志写真
『さがしています』

 偶然3月11日に手にとった1冊。アーサー・ビナードの名をみつけて絵本のページをめくると、内容は広島の原子爆弾についてでした。被爆してぐちゃぐちゃになった弁当箱や鉄瓶など、被爆者の遺品に、アーサー・ビナードの真摯な言葉。目をそらしてはいけない、伝えなくてはいけないという想いをひしひしと感じました。


本の画象

童心社(1300円+税)
2012年7月刊
つるみゆき著
『絵本 つくりかた』
プロの現場から学ぶ!

 絵本作りについて、ストーリーの作り方や絵の描き方など、初心者に向けて丁寧に図解されています。驚いたのは、最後の章が「Web上で電子書籍を作成する」になっていること。自分で値段を決めて、Webで販売することができるんだそうです。世の中、そんなことになっているなんて知りませんでした。勉強になります。
本の画象

技術評論社(1880円+税)
2013年1月刊


塩谷則子の推す2冊

紀本直美俳句集
『さくさくさくらミルフィーユ』

 「どの道もさくさくさくらミルフィーユ」「すきだけど人として不可山びらき」。○○女と呼ばれる現代女性の気持ちが伝わってくる。流行に敏感でちょっといじわる、そしてなまめかしい。「じゅんさいをつるんとなめるきみのした」。何回読んでも新鮮。文体と言葉遣いが新しい。一句ごとに掌編小説が書けそうだ。作者は1977年生。

本の画象

創風社出版(1500円+税)
2013年3月刊
平田オリザ著
『幕が上がる』

 俳句集のあとがきによると、紀本直美さんは、高校に入学してから大学卒業後3年間、演劇に熱中していたという。時代の旬(今)を描く力と音に敏感なことは演劇修行で磨かれたのだろう。
 『幕が上がる』は演劇コンクール全国大会出場をめざす高校演劇部のお芝居漬けの日々を描く青春小説。場面を設定し演じる訓練など細部が見事。

本の画象

講談社(1300円+税)
2012年11月刊



2013年4月1日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

高橋久美子著
『思いつつ、嘆きつつ、走りつつ、』

 人気バンドグループから脱退し、コトバを紡ぎ出すヒトとして歩み始めた高橋久美子氏の初エッセイ本。試みてみたからこそ無意味だったと分かったお話から、よくぞ思いつき行動にまで移した!というお話までイロイロ。時にユルく、時にアツく!時折、彼女の歌詞に対する在り方や詩に向き合う姿勢も垣間見られる。


本の画象

毎日新聞社(1200円+税)
2013年2月刊
佛教大学坪内稔典研究室編
『子規研究』第1号

 佛教大学大学院の坪内ゼミから1冊の小冊子が生れた!その名は『子規研究』。書名に子規とついているけれど、正岡子規にまつわることばかり書かれているわけではない。子規のこと、俳句のこと、あれこれ。これからの号も斯うご期待?!
本の画象

非売品
2013年1月刊


田中俊弥の推す1冊


白井恭弘著 『ことばの力学』―応用言語学への招待

本の画象

 応用言語学とは、「現代社会の問題解決に直接貢献するような言語学」のこと。筆者は、現在、ピッツバーグ大学言語学科教授で、言語科学会(JSLS)の会長。本書は、岩波新書としては、『外国語学習の科学――第二言語習得理論とは何か』につづくものである。「日常会話能力(BICS=Basic Interpersonal Communicative Skills)」と「学習言語能力(CALP=Cognitive Academic Language Proficiency )」を区別して考えることが第二言語習得には重要であること。また、知識には、「宣言的知識」と「手続き的知識」があり、前者は「何かを事実として知っていて、それについて説明できるような知識(knowing what)」で、後者は「何かのやり方を知っているという知識(knowing how)」である。著者の例によると、靴ひもが結べても、靴ひもの結び方を説明するのはむずかしいとあるように、言語の問題、言語使用の問題を考えるとき、自動化され潜在化したシステムといかに向き合うかが肝要であると、本書を読んで、あらためて考えさせられた。

岩波新書(720円+税)
2013年3月刊



2013年3月25日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

小栗清吾著
『江戸川柳
おもしろ偉人伝 100』


 本書が収集しているのは川柳の分類上、「詠史句」「歴史句」と呼ばれ、歴史上の人物・出来事をパロディとして詠んだもの。それを理解するためには、読み手にその背景となる知識・教養がなければクスリともできないことになる。解説にうんうんと納得しながら読んだが、改めて江戸期の人々の教養の深さに驚かされる一冊でもあった。


本の画象

平凡社新書(800円+税)
2013年2月刊
村上兵衛著
『守城の人』
―明治人柴五郎大将の生涯

 会津ブームだが、児童NF作家のS先生が書きたいと言っていたこともあって、柴五郎には以前から興味があった。本書は、幼少期の会津戦争から老齢の第二次大戦敗北までを描いた会津軍人の一代記。祖母、母、姉、妹の自刃の悲しみを内にし帝国陸軍大将まで成り上がるが、単なる出世話ではなく、真摯に生きた明治人の姿が五郎を通して読み取れる。
本の画象

講談社(1900円+税)
2012年10月刊


桑原汽泊の推す2冊

三好達治著
『三好達治詩集』

     囁き
   池
 鯉―いくたびか鮒たむろする今朝の秋
 鮒―二三枚うろこ落して鯉の秋

本の画象

ハルキ文庫(680円+税)
2012年11月刊
田辺聖子著
エッセイベストセレクション1
『女は太もも』

   女の性欲
 奥さまとわが名呼ばれん初しぐれ
   四十八手
 枕絵の通りにやって筋違え

本の画象

文春文庫(590円+税)
2013年3月刊



2013年3月18日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す2冊

金原まさ子句集
『カルナヴァル』

 池田澄子の帯文に惹かれて手に取ってみて、びっくりした。「102歳の悪徳と愉悦」との紹介にあるように、超高齢の俳人の第4句集である。新鮮。情念がみなぎっていて、それが俳句に昇華している様は壮観である。若い俳人(私も含めて)達にとっても刺激となろう。


本の画象

草思社(2000円+税)
2013年1月刊
田中慎弥著
『共喰い』

 芥川賞の受賞会見で話題をまいた作家の作品の初の文庫本化。受賞作『共喰い』も中上健次を彷彿とさせる濃厚な文体と力業の展開で面白いが、合わせて収録されている『第三紀層の魚』がよい。この自然なタッチは、この作家の本領であるかもしれない。

本の画象

集英社文庫(420円+税)
2013年1月刊


朝倉晴美の推す2冊

谷川俊太郎著
『散文』

 1960年〜70年代の随筆集。フェローシップで渡航した米国とヨーロッパ諸国 からの所感に始まり、季節や音楽について。そして「わたくし」自身 や、世 界、「言葉」について。あらゆる日常からの明晰な分析。この21世紀であって も、共感するものが多いということは憂うべきことか、賞賛すべ きことか。

本の画象

晶文社 (1800円+税)
2012年2月刊
増谷和子著
カコちゃんが語る
『植田正治の写真と生活』

 砂丘と家族などの写真でなじみ深い、写真家植田正治氏の愛娘が語る、植田家のこと。戦争を挟んだとはいえ、鳥取の弓ヶ浜、境港の植田家の日常は、 情緒豊かな、愛溢れる毎日。そこに住む人々の醸し出す文化に、馥郁たる香りを感じながら、寝る前のひと時を過ごしています。(※写真47点収録)

本の画象

平凡社(1800円+税)
2013年3月刊



2013年3月11日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

監修/東 直子・坊城俊樹・やすみりえ
50歳からはじめる
『俳句川柳短歌の教科書』

 「私に合っているのは、どれ?」とあったり、対照表や診断テストがあったり、ある意味チャレンジ精神旺盛な、深い一冊。俳句は坊城俊樹、川柳はやすみりえ、短歌は東直子の監修。三つの違いがわかる構成になっていて、何かのヒントになるかもしれない。例示作品に監修者のものが多いのが少し残念。異論もありそうですが、すぐ読める面白い本でした。

本の画象

土屋書店(1480円+税)
2013年1月刊
渡辺奈都子著
『はじめての選択理論』
人間関係をしなやかにするたったひとつのルール

 カウンセリングの「選択理論」の入門書。他人ではなく自分自身をいかに制御するかを中心に実践的に丁寧に解説してある。自己制御できる「思考」「行動」と制御できない「感情」「生理反応」を車の四輪に見立てた説明がおもしろかった。

本の画象

ディスカバー・トゥエンティーワン(1500円+税)
2012年12月刊


三好万美の推す1冊


黛まどか句集 『てつぺんの星』

本の画象

 メンバーは女性のみの月刊「ヘップバーン」を立ち上げ、横書き、旧仮名というスタイルで現代を詠み注目された著者だが、その新しさのルーツにあるのは、伝統、スタンダードであることが、この句集を読んで分かる。旅の句も、日常の句も、風景を、ものをしっかりと見て言葉を吟味して作っている、すっきりとしたたたずまいの句がいい。  空瓶に使はぬボタン鳥の恋
 スケートの花びらほどの衣まとひ 

本阿弥書店(2000円+税)
2012年3月刊

[e船団・週刊ブックレビュー]バックナンバー



2013年3月4日号(e船団書評委員会)

宇都宮哲の推す2冊

百田尚樹著
「『黄金のバンタム』
を破った男」


 1960年代、日本人の夢と誇りを一身に背負い戦った男、当時のボクシングのフライ級、バンタム級2階級制覇の世界チャンピオン・ファイティング原田。その波乱万丈のボクシング人生と彼を取り巻く様々な人々の生きざまを淡々とした筆致で描き出したノンフィクション。本書が面白いのは、ただの評伝ではなく、物語性溢れる構成で日本が一直線に駆け抜けた時代の息吹を追体験させてくれるから。ベストセラー作家ならではの技が光る。ボクシングファンならずともご一読を。


本の画象

PHP研究所(667円+税)
2012年11月刊
吉成真由美インタビュー・編
『知の逆転』

 ジャレド・ダイアモンド、ノ―ム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームス・ワトソン
 世界の叡智と呼ばれる標記6人の学者・科学者たちとのインタビュー集。私は彼らの業績をよく知らないが、現代の根源的な問題から身近な話題まで、設問に答える彼らの一言一言は『目からうろこ』の説得力がある。優れた知性は細かいことは言わないで、様々な難問や事象を平明な視線で解き明かしてくれるからだろう。実は、本当の「知」とはすこぶるシンプルなもので、それを表現すると、いわゆる常識とは「逆転」しているように見えてくるのかもしれない。もう少し突込みがほしいが、示唆に富んだ刺激的な1冊である。

本の画象

NHK出版新書(860円+税)
2012年12月刊


鈴木ひさしの推す2冊

足立則夫著
『ナメクジの言い分』

 『枕草子』で「いみじうきたなきもの なめくぢ」とまで書かれたナメクジ。ナメクジは夏の季語だが、よく見かけるのは晩秋。外来種ナメクジと在日米軍との関係は?安全で効果的なナメクジの捕獲法は?「ナメクジ史観」に基づく「分かち合いの哲学」を提唱、「二十一世紀はナメクジに人間が学ぶ時代」と著者は説く。坪内稔典氏の名前も登場する。

本の画象

岩波科学ライブラリー(1200円+税)
2012年10月刊
吉田 類著
『酒場歳時記』

 たまたまテレビで目にしたのが「吉田類の酒場放浪記」、ひたすら飲み歩く不思議な番組である。画面からうかがえる酒場の作法へのこだわり、その場に溶け込む術。同様に、このエッセイも配慮が行き届いている。巻末には「酒場八十八句集」。「夜桜や天に猫の目ひとつあり」「串かつを半身構えで喰らふ夏」「僧に非ず俗とも成れず火酒飲む」(類)

本の画象

NHK出版生活人新書(640円+税)
2012年10月(第9刷)刊



2013年2月25日号(e船団書評委員会)

富澤秀雄の推す2冊

木村輝子歌集
『鳥のやうに』

 この歌集は、著者の身の回りの知人の相次ぐ死。特に夫の死、師である河野裕子氏の死。更に、あの大震災。打ちひしがれ、からからに渇く心の中から紡ぎだされた鎮魂の歌を中心に書かれている。また歌集名『鳥のやうに』も、脚そろへ/空のなかゆく/鳥のやうに/亡き夫のこと/思ふ日のあり から付けられている。


本の画象

青磁社(2500円+税)
2012年10月刊
稲田 愿著
『梯子・階段の文化史』

 日頃、なにげなく梯子や階段について余り特別な意識を抱くことなく利用している。だが、階段と梯子の起源が倒木であったり、ある時期には神々への交流や権威象徴としての巨大建造物の階段の発達があったり。写真や図説を詰め込みすぎて、やや総花的になっているきらいがあるのだが、その視点が面白い。

本の画象

井上書院(1800円+税)
2013年1月刊


武馬久仁裕の推す2冊

山本左門句集
『星餐』

 旅は憧れである。それは、生身の人間が体験できる虚構の世界だからだ。旅人は「信長の好みそうなるサングラス」を掛けて異郷を歩む。そして、「夕顔の絶体絶命の白さ」を見る。船中に秘匿された「真水」を透視する。「船中に真水のタンク雲の峰」。旅人は広場に立ち、幸運にも「噴水や輝きはみな鬱である」と呟く。世界は光の中に鬱鬱としてあったのだ。

本の画象

ふらんす堂(2400円+税)
2012年12月刊
篠原資明著
『空海と日本思想』

 空海の思想は「風雅・成仏・政治」という基本系からなっているという。それを変奏させ現代日本に生かそうというのだ。それが「和歌・自然・まつりごと」という基本系である。風雅(和歌)・政治(まつりごと=祭祀)を行う天皇、即ち日本をまとめ存続させてきた天皇(自然)に対する報恩を説く。今日の日本の状況に対する危機意識が読み取れる。

本の画象

岩波新書(760円+税)
2012年12月刊



2013年2月18日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

まど・みちお著
『人生処方詩集』

 詩70編と抽象画、6人の随筆が収められている。画と随筆が新鮮だ。まど・みちおの非童謡系作品は「意味の呪縛に縛られない、言葉以前の存在を信じ、その靜けさ」を描いていると谷川俊太郎はいう。引用されている詩が素敵だ。「樹は土のように静かだ/樹は空のように明るい/樹は樹で生きている」。このように生きたい。春だ。


本の画象

平凡社(コロナ・ブックス)(1600円+税)
2012年11月刊
芳澤勝弘著
『白隠禅画をよむ』

 芳澤勝弘は4年かけて『白隠禅師自筆刻本集成』を完成。法語全集や禅画墨蹟集も。白隠(1685〜1768)の専門家。世の人を救おうとすることによって悟りが得られる(下化衆生・上求菩薩=ボランティアの精神そのもの?)、と考えた白隠の禅画は賛と一体であり、私信でもあったことを知り、山水が心だ、という禅の教えを知った。

本の画象

ウェッジ(1400円+税)
2012年12月刊


紀本直美の推す1冊


やなせたかし/さく・え

 『アンパンマンとザジズゼゾウ』

本の画象

 やなせたかし先生の「アンパンマン」シリーズ最新刊。「アンパンマン」といえば、子どもが必ず夢中になる絵本です。私も子どもの頃大好きで、本が擦り切れるほど読みました。そして、今回、書評用にじっくり読むことに。「ザジズゼゾウ」は、なぜ「ザジズゼゾ」があたまにつくのか……考えながら読む私はつまらない大人になってしまったようです。今回気づいたのですが、ばいきんまんの口ぐせは「ハヒフヘホー」です。この「ハヒフヘホー」もどういう気持ちで発しているのか説明はありません。しかし、声に出して読むと「ハヒフヘホー」がなぜかしっくりくるのです。もちろん「ザジズゼゾウ」も。やなせたかし先生93歳の言語感覚は、子どもと大人の間の不思議なエアポケットだと思います。

フレーベル館(900円+税)
2012年10月刊



2013年2月11日号(e船団書評委員会)

桑原汽泊の推す2冊

岸本尚毅著
虚子選ホトトギス雑詠選集100句鑑賞
『冬』

 探梅や枝のさきなる梅の花  素十

 「大榾をかへせば裏は一面火」「雪嶺の下五日町六日町」。素十。102句。
 あ、そこに。

本の画象

ふらんす堂(1500円+税)
2012年10月刊
荒木飛呂彦著
『ジョジョの奇妙な冒険 PART V』
―スターダスト・クルセイダース
vs.暗青の月 力 悪魔 黄の節制―


 「カリーナ・カプール・カーン」。ベボ。カリーナ・カプール。さいきん、カリーナ・カプール・カーンになったときいた。
 シンガポール駅を出発し、JOJOたちは、列車でインドへ向かった。

本の画象

ジャンプREMIX(476円+税)
2013年1月刊


舩井春奈の推す1冊

Town Mook 日本および日本人シリーズ
『人間 種田山頭火と尾崎放哉』

 自由律で俳句を詠んだ俳人といえば、種田山頭火と尾崎放哉。それぞれの特異な実人生やその生活を通して詠み出した代表句を取り上げ、この一冊で手っ取り早くこの二人の俳人について知れる。金子兜太氏ならびに早坂暁氏から見た山頭火像・放哉像に迫ったムック。

本の画象

徳間書店(570円・税込)
2012年12月刊
桑原奈津子著
『パンといっぴき』

 ある料理研究家の朝食とその飼い犬1ぴきを写し続けた写真集。1ぴきはパンの美味しさに目覚め、おこぼれを狙い毎日朝食の周りでいる。定点観測を続けることで、1ぴきの熱いパンへの思いや単に朝食の傍にいるだけではないことに気付いていく。個人的なことだが、私、超がつくパン党。それで最後にレシピが少しばかりついているのも嬉しい。

本の画象

パイインターナショナル(1260円・税込)
2012年12月刊



2013年2月4日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す2冊

永田和宏著
『近代秀歌』

 本書は、「挑戦的な言い方をすれば、あなたが日本人なら、せめてこれくらいの歌は知っておいて欲しいというぎりぎりの100首であると思いたい」とあるように、国民の基礎教養を意識して編まれた明治以降の短歌のアンソロジーである。一大歌人たる藤原定家や斎藤茂吉を意識した野心的な一書。つぎは、『現代秀歌』へ。

本の画象

岩波新書(820円+税)
2013年1月刊
村井康彦著
『出雲と大和』
―古代国家の原像をたずねて

 高校生のとき、必修のクラブ活動があって、川崎才太郎先生の「神話研究会」を選んだ。そのとき、岩波文庫の『古事記』を先生のリードで読んだ。イザナキやスサノオやオオアナノムチの話がとても印象に残っている。邪馬台国と大和朝廷の関係を出雲と出雲神話から読み解いた本書に、大いに興奮した。青春の読書は、生きている。

本の画象

岩波新書(840円+税)
2013年1月刊


赤石 忍の推す1冊

正宗白鳥著
『文壇五十年』

 高山樗牛、岩野泡鳴、大町桂町…、名前だけは知っている明治期の作家、評論家は多い。青森の山の中の温泉で死んだ桂月には親近感を覚え、無料の青空文庫で読んでみたが骨が折れた。正宗白鳥も「何処へ」と受験勉強的には言えるが、手に取ってみたこともない。本書を読んでどうしてどうして、古びれてもなくお見逸れしましたという感じ。ロートーンの文調と冷徹な視点。長生きしての昭和29年初版の文庫化だが、氏の作品も読んでみたい気になった。

本の画象

中公文庫(800円+税)
2013年1月刊
吉本隆明著
『思想のアンソロジー』

 あとがきに、本書は「吉本の著書というより吉本選および解説としたほうがふさわしい。…この本は日本国の思想史論を意図した研究の記述ではなく、心にかかっている古代から近代までの思想に関与している記述を気ままに択んで、気ままな解説や註をつけたものである」とある。昨年亡くなった氏の膨大な著作集の時とは違い、表現は比較的やさしく、肩の力を抜いて読めるが、言っていることはさまざまな示唆に富み、やはり深いものがある。

本の画象

ちくま学芸文庫(1200円+税)
2013年1月刊



2013年1月28日号(e船団書評委員会)

朝倉晴美の推す2冊

井伏鱒二著/金井田英津子画
画本・厄除け詩集』

 なんか、最近疲れちゃって……という貴方にジャストミート間違いなし!
「『サヨナラ』ダケガ人生ダ」の『勧酒』を含む訳詩、自作詩集のリバイバル版。 18歳の時、24歳の時、30歳の時、……そして今。人生のターニングポイントで必ず私の目に入ってくる詩たち。


本の画象

長崎出版(2000円+税)
2012年10月刊
酒井順子著
『下に見る人』

いつものサカジュンの痛快エッセイとは一味違う趣き。あくまでも、クールに、そしてシビアに自虐を厭わずさらけ出す、日本人の「他人を下に見 たい我々」の心境。 恥部ともいえる人間の嫌な部分を、糾弾するのではなく明確に記す筆致には、崇高ささえ感じます。差別的感情の、確かな根本を著す良書。

本の画象

角川書店(1300円+税)
2012年11月刊


木村和也の推す1冊

宇多喜代子著
『戦後生まれの俳人たち』

 109名の戦後生まれの俳人たちの自選代表句10句が並ぶ。宇多の鑑賞は、「私の眼にはみんな若くみんな頼もしい」と述べられているように、個々の俳句よりは俳人そのものに関心が向けられている。アンソロジーとしてのインパクトは弱いが、戦後生まれの俳人を概観できる。「船団」では、あざ容子と鳥居真理子が採られている。

本の画象

毎日新聞社(1900円+税)
2012年9月刊
山脇由貴子著
『震える学校』

 「いじめ」が子どもの枠を超えて教師にまで及んでいる学校の恐るべき実態が、現場を熟知する児童心理司によって浮き彫りにされている。相互不信の学校文化に絡め取られたいじめの当事者のメンタリティーにも鋭く切り込む。学校関係者以外の人にも是非。

本の画象

淡交社(1900円+税)
2012年5月刊



2013年1月21日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

 
『俳句αあるふぁ』
2013年2−3月号

 特集の一つは「夏目漱石入門」。漱石の俳句をさらっと読むことができる。もう一つは「坪内稔典の世界」。自選200句、塩見恵介氏の坪内稔典論、坪内稔典氏による「カバ、柿、あんパン、そして俳句」と題された文章が載せられている。若い頃のお写真などがあって興味深かった。


本の画象

毎日新聞社(1000円・税込)
2013年1月刊
西原理恵子著
『生きる悪知恵』
正しくないけど役に立つ60のヒント

 先日、偶然「毎日かあさん」という映画をテレビで見た。小泉今日子演じる作者の半生が描かれていた。その話をすると、家人が偶然、その人の本を勧められて読んだ、家にあるよ、と言うので、読んだ。あっという間に読めた。息苦しい日常を生きている方はご一読下さい。

本の画象

文春新書(800円+税)
2012年7月刊


三好万美の推す1冊


榎本 亨句集 『おはやう』

本の画象

 ものをよく見ることが写生の基本であること、取り合わせによって生まれる詩の世界を、まず作者本人が楽しむこと、慈しむことが大切だということ。榎本さんの俳句を読むとそれを強く感じる。写生と取り合わせとユーモアが、過不足なく絶妙にブレンドされていて、表現はあくまでシンプル。だから榎本さんの俳句は、読む人を選ばない。どんな人の心にもすっと入って、親しまれるのだ。
 おはやうと言はれて言うて寒きこと  亨

角川書店(2667円+税)
2012年10月刊



2013年1月14日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊

平田オリザ著
『わかりあえないことから』
コミュニケーション能力とは何か

 人と人とは、初めからすぐにはわかりあえない。わかりあえない者同士が、共有できる部分を見つけ、広げることならできる。コミュニケーション能力は、現代社会で生きるだれもが身につけるべきスキルである。著者は、演劇という「人類が生み出した世界で一番面白い遊び」を使って、「新しい日本人」を育てようとしているのだ。

本の画象

講談社現代新書(740円+税)
2012年10月刊
松原 始著
『カラスの教科書』

 カラスの教科書、強化書、教化書、狂歌書?カラスを怖がる人も、忌み嫌う人も、「カラス愛」にあふれる著者の話術に引き込まれ、カラスに少し優しくなっている自分に気づくに違いない。「カラスの一番好きな餌はマヨネーズである。」この一言も、長年の密着取材に裏付けられている。なぜか心が温かくなる本である。

本の画象

雷鳥社(1600円+税)
2013年1月刊


宇都宮哲の推す2冊

養老孟司著
『日本のリアル』
農業、漁業、林業、そして食卓を語り合う

 旺盛な執筆活動を続ける解剖学者の著者が、日本の第一次産業に携わり画期的な活動をする4氏と語り合った対談集。真正面から「人と自然と向き合って、人と協力してものをつくり出す」という彼らのリアルで真摯な仕事ぶりがわかりやすく紹介されるなか、混迷する経済やバーチャルなネットの氾濫など現代社会の“危うさ”が浮き彫りになっていく。リアルであることの大切さを教えてくれる警鐘の書でもある。

本の画象

PHP研究所(740円+税)
2012年8月刊
磯田道史著
『歴史の愉しみ方』

 「ほんとうの忍者は、どのようなものであったのか」。巷の歴史好きにはなんとも魅力的な問いかけではないか。『武士の家計簿』の著者が、難解な古文書の解読ときめ細かなフィールドワークを駆使して『歴史のほんとう』に迫っていく。話題は忍者、龍馬暗殺、石川五右衛門、さらには地震史(重要な研究だ)などなどバラエティに富んでいる。簡潔平明な文章がうれしい歴史エッセイ集だ。

本の画象

中央公論新社(740円+税)
2012年10月刊



2013年1月7日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

筑紫磐井著
『伝統の探求〈題詠文学論〉』
――俳句で季語はなぜ必要か』

 著者は、近代俳句史は、虚子が作った題詠文学(花鳥=季題諷詠として結実)(伝統)と、その題詠文学からの離脱(反伝統)との攻めぎ合いとしてあるという。俳人にとっては近代俳句史上の自分の立ち位置を確認するのに大いに役立つ本である。次は、題詠文学の観点から、熱帯季題も含め、無季俳句について書かれたものを是非とも読みたいものである。

本の画象

発行・ウエップ/発売・三樹書房(2400円+税)
2012年9月刊
豊下楢彦著
『「尖閣問題」とは何か』

 第4章「領土問題の『戦略的解決』を」の提言に惹かれた。3つの領土問題に同時に向い合うのは得策ではない。「固有の領土」論に固執せず「戦略的な解決」を、まずロシア、韓国と図るべきだと言う論である。東西ドイツ統一時の保守政治家コールは、独・ポーランドの国境としてオーデル・ナイセ線を受入れた。今年の最大の見物は安倍首相の決断であろう。

本の画象

岩波書店(1020円+税)
2012年11月刊


富澤秀雄の推す2冊

谷川俊太郎著
『女に』

 本書でまず目を引くのは、右ページに谷川俊太郎の詩、左ページに佐野洋子のエッチング画を、同一のボリュームで配する大胆構成である。しかも、詩の下段には英訳がついている。俊太郎は、大人の愛の形を感覚的に書き、洋子が官能的なエッチングを描いていて、その両者の絡み合う世界は、読者をドキッとさせる。

本の画象

集英社(1400円+税)
2012年12月刊
三浦 篤著
「名画に隠された『二重の謎』」

 西洋の名画に隠された謎を、著者の三浦篤が名探偵よろしく読み解いてゆく。たとえば、マネの『笛吹き』にあるふたつのサイン。スーラの『グラン・ジャット島の日曜日の午後』の画中の額縁のような縁取りなどをカラーの図版と拡大部分図によって、その謎解きに引き込んでゆく。違った見方から絵を観る楽しさを教えてくれる一書だ。

本の画象

小学館(1100円+税)
2012年12月刊

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