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2014年12月29日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す1冊


藤田真一著
『蕪村』
日本人のこころの言葉

本の画象

 18世紀の京都文化の顔ともいうべき蕪村の書簡・作品の言葉から蕪村の懐に入って行こうと試みられているのが本書。江戸時代の文人で蕪村ほど多くの書簡が残っているのは稀有なことらしい。行間から蕪村の人柄や相手との関係など様々なことが読める。例えば、年末にほとんど押し売り同然に送った屏風の代金請求にも彼の生活ぶりが窺え、また、絵に押された遊印(自分の好む詩句・成句などを彫った印)「潑墨生痕(はつぼくせいこん)」(墨を垂らすと、墨がぱっと紙の上に広がって、自然と生彩ある絵が描けている)からは、蕪村の目指すものが伝わる。「春風馬堤曲」に秘められたその思いとは…蕪村の人物像に更に近づけた気がする。

創元社(1200円+税)
2014年8月刊


赤石 忍の推す2冊

ねじめ正一著
『認知の母にキッスされ』

 「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」とはチャップリン。誰しも経験するであろう介護と被介護のドタバタ劇に、読後はせつないが、思わず微笑んでしまう。「六月の認知の母にキッスされ」の句を基に、多分、著者が虚実を織り交ぜて創り上げた世界に違いないが、句会にこの句が出たなら、私は迷わず「天」に入れる。

本の画象

中央公論新社(1750円+税)
2014年11月刊
椎名 誠著
『ぼくは眠れない』

 介護と被介護は誰もが通らなければならない道ならば、この不眠も同様。同年齢で酒を酌み交わすと、必ず出るのが「夜中に何回、トイレに行くか」だ。それがさらに常軌を外すと不眠となるが、これにも悲劇と喜劇を両有する「せつなさ」がある。結論は「あるがままを受け入れ、戦わない」。眠くなったら寝ればいい、ということ以外に術はないのだ。
本の画象

新潮新書(720円・税込)
2014年11月刊



2014年12月22日号(e船団書評委員会)

香川昭子の推す2冊

椎名 誠著
『下駄でカラコロ朝がえり』
なまこのからえばり

  初めて読んだ。しーなワールドとかいわれ、知り合いにファンがいたし。手軽なエッセイ集。世界のあちこちを旅して、ビール飲んで釣りして、そんなことばかりを書いてもイヤミにならないところが、好きなひとにはいいんだろう。若い頃から長い期間書いていても、、こんなお気楽な装いの文章を維持、すごいといえばすごいのかも。

本の画象

集英社文庫(500円+税)
2014年8月刊
堀江敏幸著
回送電車W
『象が踏んでも』

 人この人もほぼ初めて。散文45篇と長編詩。しゃれた文章。気取っているという感じはない。ちゃんと読まないとわからないけど、なんとなくわかるということが、いい気分。例えば帯にもあるこんな文章。「一日一日を「緊張感のあるぼんやり」のなかで過ごしたい。鈍さはこの経験とともにさらに鍛えられ、なにかをかならず呼びさましてくれるのだ。」

本の画象

中公文庫(700円+税)
2014年10月刊


千坂希妙の推す2冊

石原千秋監修/新潮文庫編集部編
『教科書で出会った名詩一〇〇』

 小中高の国語教科書に載った詩の中から100作品を選んだアンソロジーである。ゆえにおおむね世に知られた詩だ。教科書用に採録されて原詩そのままでない作品もあるのはやむを得ぬか。改めて読み直すと懐かしさもあって和みつつもどこか切ない気分が湧く。詩魂乏しい私でも時には詩の世界に沈潜する必要を再確認した。

本の画象

新潮文庫(490円+税)
2014年8月刊
福岡伸一著
『せいめいのはなし』

 生物学者の著者と、内田樹、川上弘美、朝吹真理子、養老孟司の四人との対談集である。基調にあるのは「生命の本質」とでも言うべきテーマ。「動的平衡」という著者の概念を含めて、多くの教養と見識に富んでいて楽しく読んだ。読後、科学も文学も畢竟「人間とは何か」を探究しているのではないか、という感想を持った。

本の画象

新潮文庫(520円+税)
2014年11月刊



2014年12月15日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊

川本三郎著
『小説を、映画を、
鉄道が走る』


  「鉄道員(ぽっぽや)」の高倉健が「健さん」のまま亡くなった。この本に出てくる小説、映画の背景には、疑う余地もなく確実に運行する鉄道と、鉄道を動かす無数の「健さん」の姿がある。第二次世界大戦中、1945年8月15日正午、玉音放送の時刻にも汽車は動いていた。多くの作品が登場するが、やはり松本清張の重量感は並みではない。

本の画象

集英社社文庫(640円+税)
2014年10月刊
鷲田清一著
『〈弱さ〉のちから』
ホスピタルな光景

 著者が話をする13人は、尼僧の看護師、ゲイバーのマスター、ダンスセラピスト、・・・、それぞれの場で人とまみれ自分の「ことば」を持つ人たちである。著者は、話を「聴く」相手の仕事場に必ず自分から出向いている。「ことば」の出てくる「その人」の近くで、「ことば」の来歴・広がり・深さを確かめようとしている著者が感じられる。

本の画象

講談社学術文庫(880円+税)
2014年11月刊


若林武史の推す2冊

田中未知編
『秋たちぬ』
寺山修司未発表詩集

 個人的なことだが、僕は寺山修司が演劇界で華々しい活躍をした人物だと知る以前に、彼の詩歌を知った。改めて寺山の詩に触れると、やはり以前と同じような感傷が訪れた。寺山が繰り出す行間の跳躍力は相変わらず、羨ましい。高校生の頃のノートに書き留められていた未発表の詩である。

本の画象

岩波書店(1600円+税)
2014年11月刊
出口 汪著
『京大現代文
で読解力を鍛える』


 京都大学の入学試験の現代文で採り上げられた12の問題文とその解説によって構成されている。書名には「読解力を鍛える」とあるが、むしろ、前作の東大現代文、センター現代文同様、出題者のメッセージを読み取る重要性を訴えたものになっている。受験生より大人が読むべきものだろうと思う。

本の画象

大和書房(1100円+税)
2014年11月刊



2014年12月8日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

渡辺康明編
『 和歌のルール』

 「和歌には、自分の心をわかってほしいという願いが詰まっている」という定義のもとに、枕詞・序詞・見立て・掛詞・縁語・本歌取り・物名・折句、沓冠の8つの修辞と長歌・題詠についてわかりやすく説明した本。「桜花散るぬる風のなごりには水なき空に波ぞ立ちける」について「水なき」とあえて述べたことで水面の映像が浮かぶなど、ことばの力を信じる説明が随所にある。初心に帰り、修辞=言葉の技巧について考えさせられる。

本の画象

笠間書院(1200円+税)
2014年11月刊
舘野正樹著
『日本の樹木』

 ブナは木材としては耐久性に欠け、炭にしても火持ちが悪いが、40年ほど前から自然保護の象徴となり「偉くなった」。最近発見された「津軽国図」という江戸時代の植生図によると、白神山地はヒバとブナの混交林だった。木材として有用なヒバが伐採されブナ林になったのだ。生態学の専門家による樹木の生き方。ミズキ・トチノキ・カツラなど成長の速い落葉高木がブナに代わるか、樹木の生存競争について興味をかきたてられる。
本の画象

ちくま新書(880円+税)
2014年10月刊


宇都宮哲の推す1冊


日向数夫編
『古代文字』

本の画象

 文字が生まれる前の「文字に先行する段階」から、「絵文字」「象形文字」「楔形文字」「地中海文字」「エジプト文字」「インダス文字」そして「アルファベット」「漢字」など45にのぼる古代文字を、図解をふんだんに使ってわかりやすく解説した一冊。文字の成り立ちはさまざまだが、図解を見ていると、その多くは神の存在との大きな関係性が浮かび上がってくる。「原初的には文字は神々によびかける聖なる“しるし”」という指摘は大いにうなづける。と同時に、古代文字の視覚的存在感には圧倒される。人類の魂の息吹きが伝わってくるのだ。翻って、今日の日本文字(ひらなが、漢字など)の記号化が進むなか、我々現代人は、その姿、形に対してあまりにも無神経ではなかろうかと思うのだが・・。いささか飛躍に過ぎるが、とりわけ、その日本文字から成る“詩歌”の風姿は如何に。

グラフィック社(2500円+税)
2014年8月刊



2014年12月1日号(e船団書評委員会)

藤田 俊の推す2冊

(  )俳句会編
『(  )俳句通信 創刊号』

  ネットプリントはコンビニのコピー機で買える同人誌。これは「季節の窓」ページに登場の川嶋ぱんださんを中心にしたグループの創刊号。俳句誌でありながら俳句以外の紙数が多く、活字文化を楽しんでいるところが特徴か。続けながらああだこうだと試したり紙媒体の意義を見出だしたり。それにしても「(  )」が気になる。

本の画象

ネットプリント(白黒120円)
2014年11月限定刊行
田中 光著
『サラリーマン山崎シゲル』

 山崎と部長のシュールなやりとりが笑いを生む一コママンガ。ツッコミへの返しやボケへのためらいもボケになっていたり、「山崎」が濁らなかったり、短足に見えるスラックスのラインだったりと細部の工夫が笑いを増幅させる。コントと違って、セット不要でキャラクター以上にネタで勝負できる。マンガってずるい。長嶋有さんの句集のように連作で試せる形。

本の画象

ポニーキャニオン(1200円+税)
2014年6月刊


武馬久仁裕の推す2冊

マヤコフスキー著/小笠原豊樹訳
『悲劇ヴラジーミル・マヤコフスキー』

 この戯曲は、詩人が20歳の時(1913年)、ペテルブルクで上演された。冒頭から詩人の言葉の斡旋の仕方には痺れる。社会の無理解に対し詩人の自負を表現した所だ。「広場のほっぺたの無精髭を伝い/無用の涙となって流れる、/このぼくは/恐らく/最後の詩人なのだろう。」私は、大昔に恥ずかしげもなくこの未来派の表現をまねて「鳶鳴くピアノ口紅着けて泣く」と作った。

本の画象

(952円+税)
2014年7月刊
広瀬隆・後藤克幸著
『今夜も肴はビートルズ』

 ビートルズを預言者にしたて、2人が居酒屋で今夜も一杯(写真入り)。「ホエン・アイム・シクスティーフォー」が老老介護の歌となり、「バック・イン・ザ・USSR」はクリミア半島のロシア領編入の歌となる。話はどんどん発展し、増税、AKB、集団的自衛権、クール・ジャパン…と盛り沢山。中でもポールが公民権運動を応援して作ったという「ブラックバード」の話はとても良かった。

本の画象

ゆいぽおと(1200円+税)
2014年10月刊



2014年11月24日号(e船団書評委員会)

静 誠司の推す2冊

小川軽舟著
ここが知りたい 『俳句入門』
―上達のための18か条

  雑誌「俳句」に連載されたものを書籍化したもの。著者は結社「鷹」の主宰者。俳句の基本的な問題点についてこと細かに述べられているまさに入門書。しかし本当の初心者がこの本を読んだら、考えすぎて俳句が作れなくなってしまうような気がする。気になることが出てきた時に目次から入ってみるのがよいでしょう。でもやっぱり句会が一番。

本の画象

角川俳句ライブラリー(1500円+税)
2014年9月刊
高田 郁著
『天の梯』
みをつくし料理帖

 人気時代小説シリーズの第10巻にして完結編。これまで苦労の連続であった女料理人・澪。その波乱の結末やいかに。ストーリーも澪の考える料理も魅力的だが、一番の魅力は登場人物たちの人柄であろう。今回も泣き所満載。殺伐とした現代社会の中で、人間って温かいな、いいな、と思わせてくれるオアシスのような優しい小説でした。

本の画象

ハルキ文庫(620円+税)
2014年8月刊


紀本直美の推す2冊

おかべたかし・文/やまべたかし・写真
『似ていることば』

 「あふれる」と「こぼれる」、「笹」や「竹」、「サンデー」と「パフェ」の違いを説明できますか? 知っているようで知らない言葉の豆知識をテーマにした写真集。写真をパラパラみているだけでも面白いです。最初は子ども向けの本かなと思ったのですが、よく読むと大人向けの雑学本といった感じです。

本の画象

東京書籍(1300円+税)
2014年8月刊
木丸みさき著
『わたしの舞台は舞台裏』
大衆演劇裏方日記

 大阪にある大衆演劇の小さな芝居小屋。その裏方をひとりでしているという著者。舞台に魅せられた彼女のひたむきな仕事ぶりや、役者さん、お客さんとの面白いエピソードなど、大衆演劇の魅力がいっぱいつまったコミックエッセイ。笑って泣いて読んでいるうちに、大衆演劇を観たくなる一冊です。

本の画象

メディアファクトリー(950円+税)
2014年7月刊



2014年11月17日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す1冊


小林隆・澤村美幸著
『ものの言い方西東』

本の画象

 筆者の小林さんは新潟県の出身で、現在は東北大学の先生。東京に在住の経験がある。一方の澤村さんは、小林さんの東北大の教え子で、山形県の出身で、現在は和歌山大の准教授。かつての方言周圏論から、いまやNHKでは、「龍馬伝」「花子とアン」「マッサン」と、方言そのものが番組の全面に押し立てられ、日テレの「秘密のケンミンSHOW」は、人気の長寿番組となっている。本書では、(1)発言性(2)定型性(3)分析性(4)加工性(5)客観性(6)配慮性(7)演出性の7つの指標から、関西と東北におけるその言表のスタイルの文化性が問題とされている。関西にいるボクとしては、もっと東北の側から激しく突っ込んでもらえたらとの感は残るが、見通しの広やかな、エッジの利いたいい本である。

岩波新書(780円+税)
2014年8月刊


太田靖子の推す2冊

金子兜太著
『語る兜太』

 克明な日記をもとに語られる兜太の俳句人生は、戦後の日本の俳句史と重なるので、ここには〈書かれた〉ではなく〈生きた〉俳句史がある。終戦をトラック島で迎えた体験が兜太に及ぼした影響を知る事は、彼の俳句の更なる理解へと繋がる。「おおかみに蛍が一つ付いていた」の自解ひとつで、兜太への興味が深まった。「忘れ得ぬ人々」から俳句界の様子も伺える。

本の画象

岩波書店(2200円+税)
2014年6月刊
飯森眞喜雄著
『ホモ・ロクェンスの病』

 ホモ・ロクェンスとは「話す人」。話す人の病(分裂病・統語失調症)の治療法のひとつに、俳句創作を用いる俳句療法がある。キーワードは「硬い言葉」と「柔らかい言葉」。季語も一役買う。俳句療法を受け、社会復帰した分裂病者のケースに、改めて俳句の力を知った。作者の本来の意図とは別に、俳句は人間に何をもたらすのかということも読める。
本の画象

日本評論社(3500円+税)
2014年5月刊



2014年11月10日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

文:マイケル・J・ローゼン
絵:ソーニャ・ダノウスキ

訳:蜂飼 耳
『はじまりのはな』

 海外の絵本を2冊ご紹介。1冊目は名作『きょうなみんなでクマがりだ』等で著名な米国詩人マイケル・ローゼンの文に、新進気鋭の画家ソーニャ・ダノウスキが絵を添える。一羽の渡り鳥を主人公に、季節の巡りとともに訪れる出会いと別れを、すいこまれるほどに繊細な絵と柔らかな言葉でつづった珠玉の絵本。詩人蜂飼耳の訳も素敵だ。

本の画象

くもん出版(1500円+税)
2014年10月刊
文・絵:フレデリック・マンソ
訳:石津ちひろ

『フランシスさん、森をえがく』

 2作目の絵本は、実際の植物学者フランシス・アレ氏と森との関わりを追った、ドキュメンタリー映画をもとに創作されたもの。監督のリュック・ジャケは、2005年公開の「皇帝ペンギン」で、アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞。一人の絵描きを森の破壊と再生を通して、自然と人とのつながりを静かな筆致で描いた作品である。
本の画象

くもん出版(1600円+税)
2014年10月刊


舩井春奈の推す2冊

坪内稔典・中之島5編
『池田澄子百句』

 百句シリーズ、今回取り上げられているのは現代を生きる池田澄子さん、編者は中之島5という皆さん子のつく女性ばかり。と、稔典さん。子規や漱石のように鬼籍に入っているわけではないので、直接インタビューをしてお話を聞けるのが貴重で楽しい。
 じゃんけんで負けて蛍に生まれたの
 水面に表裏あり稲光

本の画象

創風社出版(800円+税)
2014年9月刊
三浦しをん著
『木暮荘物語』

 集合住宅に住んでいると、ふと隣や上下階に住む住人が気にかかることってありませんか?木暮荘は古ぼけたアパート。今では信じられないほど近隣の生活音が聞こえてきたり、壁にあいた小さな穴からお隣さんを覗き見しちゃう人がいたり!そんな木暮荘に住む人たちが文庫本になって再来しました。

本の画象

祥伝社(600円+税)
2014年10月刊



2014年11月3日号(e船団書評委員会)

千坂希妙の推す2冊

倉田喜弘編
『江戸端唄集』

 端唄や都々逸は江戸末期から明治にかけて大いに流行した短い音曲だが今日ではあまり人気がない。しかし江戸庶民のおおらかで爛熟した言語世界を知る上においても本書は貴重な記録である。また和歌や俳諧を踏まえた歌詞もあって興味深い。「すめば都と あの古池へ 蛙飛こむ 水の音」なんてパロディも。端唄の一部はYouTubeでも聴ける。

本の画象

岩波文庫(720円+税)
2014年9月刊
林 忠彦著
『文士の時代』

 被写体の良さもあるのだろうが、この写真家ほど文士の肖像をうまく撮った人はいなかったろう。決して作ることなくさりげない様子を写して見事にその作家の風貌を捉えている。その上、文章の口調もなめらかで、撮影時のエピソードなどが楽しく語られている。告白するが太宰や織田作、田中英光の箇所では不覚にも涙がでた。
本の画象

中公文庫(1300円+税)
2014年9月刊


香川昭子の推す2冊

春日武彦・穂村弘著
『秘密と友情』

 歌人と精神科医による対談集。テーマは愛、言葉、友情、お金、家族、等々。あとがきに穂村弘は書いている。「自分を傷つける謎に充ちた現実世界のなかで、「自然に」がうまくできない「変」な個体がどのようなタイミングでどう戦っているのか。怪しくも美しい自己流を、どんな風に練り上げたのか。その秘密を(春日先生に)具体的に伺うことができて嬉しかった。

本の画象

新潮文庫(550円+税)
2014年10月刊
須賀敦子著
『霧のむかうに住みたい』

 文庫になったので久しぶりに読んだ。イタリアのなつかしい人たちや、思い出の土地などの気持ちのよい文章ももちろんだけど、「ものを書くことでは得られない、手みじかな自己満足にすぎないのかもしれない」といいながらクロスワードパズル(イタリア語)が好きとか、30年前に亡くなったイタリア人の夫に結婚して一週間後にもらったの辞書の話など面白かった。

本の画象

河出文庫(550円+税)
2014年9月刊



2014年10月27日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す1冊


鈴木貞美著
『日本文学の論じ方』
体系的研究法

本の画象

 真面目な本である。タイトルから予想される通り、日本文学を研究する大学生、大学院生に向けて書かれたであろう、日本文学研究の概観と方法論について言及された一冊である。
 中には、ずっと前に読んだ文学批評や理論についての最近の知見が書かれてあったり、ものによっては、あの解釈・提起は誤りあるいはすでに次の展開にあり、後に筆者も改めた、などの記述があって、不勉強な自分にとっては、面白く感じられ、また専門家って大変だなという思いを抱く部分もあった。
 さらに、巻末に「あなたの論文を飛躍的に変える12箇条」「博士論文審査報告書の一例(私案)」という頁が設けられている。これらを有り難いと思う方は、ご一読ください。

世界思想社(2200円+税)
2014年9月刊


鈴木ひさしの推す2冊

田中貴子著
『猫の古典文学誌』
鈴の音が聞こえる

 猫にふりかえられるとしばらく記憶に残る。なぜだろうか。五位の位をもらった「命婦のおとど」(『枕草子』)、猫の綱で御簾がまくれ上がり女三宮の姿があらわになる『源氏物語』のあの場面、『更級日記』の神秘的な猫、『徒然草』の「ねこまた」……。猫の目で時間を計る方法、昔から猫は人間のそばにいたのだ。この本の最後もやはり夏目漱石。
 行く年や猫うづくまる膝の上(漱石)

本の画象

講談社学術文庫(800円+税)
2014年10月刊
山根明弘著
『ねこの秘密』

 これほど熱心に観察する動物学者の著者は、玄界灘に浮かぶ「相の島」の200匹の猫たちにどのように見られていたのだろうか。都市の猫の発情回数が増えているらしい。妊娠率100%?、ネコの視力、聴力、嗅覚、ねこパンチの秘密、ネコが食べてはいけないもの、ねこの同性愛、興味深い話が満載だが、なんと言っても「ねこの集会」の話、ますます謎めいている。
本の画象

文春新書(770円+税)
2014年9月刊



2014年10月20日号(e船団書評委員会)

宇都宮哲の推す2冊

いろは出版編
大切な人といきたい
『妄想絶景』

 絶景本の紹介第2弾。今回は「きれいなところは大切な人とみたい」がテーマで、世界中のいずれ劣らぬ感動の43か所を美しい写真とともに収録。「こんな美しい所、見るならふたりがいいな」と、ロマンチックな想いがふくらむ場所ばかりだ。そんなため息の出そうな本を見ていてふと思ったのだが、“絶景って、俳句に詠めるのかな?”と。これが意外と詠みにくい。感動の形容詞や感嘆詞ばかり浮かんできて。では“なぜ絶景は俳句にならないのか?”思わず考え込んでしまったのだが……。

本の画象

いろは出版(1400円+税)
2014年9月刊
天野祐吉・島森路子編著
広告批評アーカイブ
『広告20世紀』

 2009年に休刊した伝説的広告専門誌「広告批評」の227号、228号、229号(1999年に発刊)の内容をそのまま書籍化したもので、20世紀に創られた元気あふれる数々の『広告』が懐かしい。また、天野編集長らが広告ひとつひとつに縦横無尽に切り込んだ論評が今も色あせていない。まさに、そこから見えてくるのは20世紀という時代そのもので、「広告は時代とともに」である。なかでも、「広告コピー」は今も圧倒的な存在感があり、実は「広告は時代を創ってきた」のかもしれないと思えてくる。
本の画象

グラフィック社(1800円+税)
2014年9月刊


塩谷則子の推す2冊

伊藤比呂美著
『女の一生』

 悩んだ時は「あたしはあたし」と言い切れるまで、とことん自分に向き合うこと、そして、地声で生きること。10歳から80歳までの様々な人生相談の形で、女性がよりよく生きる方法を示唆してくれる本。
 小学校高学年の時、男子に大根足と言われた筆者は八百屋に立ち寄って自分の足と比べ、どんな大根も足より細い、「人のことばとはなんといい加減なものか」と認識する。詩人誕生の秘密もわかる。

本の画象

岩波新書(720円+税)
2014年9月刊
松山 巖著
『須賀敦子の方へ』

 気高く生きるとはどういうことか、須賀敦子の作品を読む度に背筋が伸びる思いをしたわけがわかった。うそはつかない、しかし、聞き手が不愉快になるような話はどんなに辛くても心の中にとどめておく。「他人のために灯りをともす」生き方をする。『ミラノ霧の風景』(1990)『コルシア書店の仲間たち』(92)『ヴェネチアの宿』(93)の初期三部作は追憶のためでなく、追悼のために書かれたという筆者の意見に賛成だ。

本の画象

新潮社(1800円+税)
2014年8月刊



2014年10月13日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

山口昭男著
国語授業へのアプローチ
『言葉の力を鍛える
俳句の授業』

―ワンランク上の俳句を目指して―

 著者は、俳句作りで困っている一人の子を指導する時、他の子にも聞こえるように大きな声で話しかけることが必要だと言います。それは、他の何人かの子も同じようなことで困っているからなのです。先生のアドバイスを聞き、その子だけでなく他の子も分かるのです。学ぶべき教授法が随所に書かれており、俳人が俳句教室で子どもたちを指導する際に、とても参考になる本だと思います。

本の画象

株式会社ERP(500円+税)
2014年8月刊
川田 稔著
『昭和陸軍全史1』
満州事変

 本書の圧巻は、国家の人的、物的資源の総てを結集して戦う国家システム(総力戦体制)実現へと突き進む永田鉄山、石原莞爾ら陸軍の知的エリート集団と、それを阻止しようとする、若槻首相・幣原外相ら民政党内閣との息の詰まるような戦いの克明な記述である。国際協調路線を死守しようとする若槻・幣原らに対する、「個人的には(軍によるテロの−武馬)覚悟はできていたものと思われる」の条には感動した。第2巻が待たれる。
本の画象

講談社現代新書(1000円+税)
2014年7月刊


藤田 俊の推す2冊

マシュー・ゴラブ 文/カズコ・G.ストーン 絵/脇 明子訳
『蛙となれよ冷し瓜』
一茶の人生と俳句

 一茶の人生を俳句、日本の自然と共に紹介した絵本の翻訳版。アメリカの子どもにとって、とっつきやすい題材や人間味があってわかりやすい一茶の句は、俳句の導入として適しているのかも。タイトルの句は逃避願望がユーモラスに表現されていて、個人的には「痩せ蛙〜」よりずっと好きだ。
  作者を知って読む俳句について考えてみる。

本の画象

岩波書店(1600円+税)
2014年8月刊
大橋裕之著
『ザ・サッカー』

 マンガによるサッカーやオリンピックの奇譚。ヘタウマ系マンガ家や星新一からの影響を感じる。競技場や練習場は避けるかのように一切描かれていない。本田と温泉街、香川と宇宙人、内田と自転車日本一周等の取り合わせが、含み笑いととほほ感をもたらす。編集サイドから振られたサッカーというお題とこの作家自体が大胆な取り合わせなのだろう。

本の画象

株式会社カンゼン(1200円+税)
2014年5月刊



2014年10月6日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

中川李枝子・松岡享子・若菜晃子・松居直/著
『石井桃子のことば』

 『くまのプーさん』『ピーター・ラビットのえほん』『ノンちゃん雲に乗る』など、子どもが大好きな著書の数々。編集者・翻訳家・作家として日本の児童文学に多大な功績を遺した石井桃子の「ことば」をまとめた本。表紙画像付の全著作リストを見ると「これも読んだ!」と子どもの頃の記憶が鮮やかに甦ります。

本の画象

新潮社(1600円+税)
2014年5月刊
NHKラジオセンター
「子ども科学電話相談」制作班/編

ときあかせ!
『宇宙や生きもののひみつ』

 書店の夏休みのコーナーを見ていて思わず手にとった一冊。科学のジャンルに「天文」「昆虫」「恐竜」に並んで「放射線」があるのに時代を感じます。「広島や長崎にはいまでも放射能がのこっていますか? 福島の放射能はいまどのくらいのこっていますか?」など、難しい質問に大人の責任を痛感しました。
本の画象

NHK出版(1200円+税)
2014年7月刊


静 誠司の推す2冊

大輪靖宏著
『なぜ芭蕉は
至高の俳人なのか』

―日本人なら身につけたい
教養としての俳句講義―


 学生のみなさん、俳句を始めたばかりの方、句作に行き詰まって俳句の原点に立ち返ってみようかなと思っているような方にお勧めの一冊。俳諧の誕生から、芭蕉以後の後継者たちまで、この一冊で文芸としての俳句の源流である蕉風についてのあらましが理解できるのでは。豊富な例句と必要最低限でわかりやすい解釈もありがたい。

本の画象

祥伝社(1600円+税)
2014年8月刊
外山滋比古著
『国語は好きですか』

 小中高と国語の勉強は好きでした。でもそれは先生や授業のおかげで好きになったというよりも、自分で勝手に好きになったというのが、正直なところ。本書にはこれまでの日本の国語教育に対しての提言が数多く述べられている。が、現場の国語教師の一人として読めば読むほど悩みは募る。そもそも皆さん国語は好きですか(でしたか)?

本の画象

大修館書店(1400円+税)
2014年6月刊



2014年9月29日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す2冊

上野 誠著
『万葉びとの宴』

 『万葉集』における宴の様子を歌を通じてわかりやすく示すという著者の目的は、見事に果たされている。宴を不変性、可変性、逸脱性に分け、歌に込められた意図を探る。読みやすい上、著者の学識と想像力が描き出す宴席は、臨場感があり楽しい。学界の宴会男の異名を持つ著者ならではだ。万葉の宴席に参加したい人は是非どうぞ。

本の画象

講談社現代新書(800円+税)
2014年4月刊
谷川俊太郎著
『詩を書くということ』
日常と宇宙と

 NHKの番組「100年インタビュー/詩人・谷川俊太郎」をもとに構成されたもの。あっという間に読め、谷川に直に触れたようなお得感がある。「詩を書くときは、自分を空っぽにすると、言葉が入ってくる」「自分自身が全身で摑んだ言葉で書かれた詩がいい詩」など、詩を書く上での金言がつまっており、詩っていいなと思わせてくれる。
本の画象

PHP研究所(1200円+税)
2014年4月刊


田中俊弥の推す1冊


川田順三著
『〈運ぶヒト〉の人類学』

本の画象

 和食の実践を重ねているなかで、いまや私の興味は、道具や器にまで及び始めている。和食文化にしても、その実践は、ヒトによって担われているわけだが、そのヒトのことを私たちは本質的に理解し得ているのか。ホモ・サピエンス(知恵のあるヒト)、ホモ・ルーデンス(遊ぶヒト)、ホモ・ファベル(作るヒト)などとは別に、文化人類学の立場から、著者は「ホモ・ポルターンス(運ぶヒト)」の概念を提起している。樹上生活をやめて二足歩行を始めたヒトの祖先は、生きるためにモノを運ぶヒトになったのだ。グローバル化の意味が問われている今日だからこそ、ワールドワイドに著者の「文化の三角測量」をヒントとしながら、ヒトとしてモノとコトの文化をさらに掘り下げてみたくなった。

岩波新書(新赤版)(720円+税)
2014年9月刊



2014年9月22日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

山本直一句集
『鳥打帽』

 ビー玉の中に銀河を渡る僕
 ペンキ屋のこぼしたペンキ曼珠沙華
 啓蟄の空へ砲丸投げの声
 頭にのせた鳥打帽がトレードマークの著者。前書きにかえて鳥打帽ばかりを集めた俳句で読者を迎えてくれる。「鳥打帽七つ並べて除夜の鐘」と、どうやら少なくとも七つの鳥打帽を所有しているらしい。おもしろがりながら読める俳句集。

本の画象

編集工房ノア(2000円+税)
2014年6月刊
リサ・モートン著/大久保庸子訳
『ハロウィーンの文化誌』

 今の季節になると賑わうハロウィン商品。早いところでは、日本のお盆が済もうとする頃にはもう欧米のお盆ハロウィンが店頭に並び出ていた。いつの頃からかハロウィンが日本市場を席捲している。仲間内でワイワイ仮装やお菓子で楽しむ。それにしてもそもそもハロウィンってなぁに?と思った時に開けてみると良いかもしれない本。
本の画象

原書房(2800円+税)
2014年8月刊


赤石 忍の推す2冊

榎本好宏著
『季語成り立ち辞典』

 以前、同じ著者の『季語の来歴』を読んだ。そこには季語の多くが中国で生まれ、それらが日本固有の行事、風習と結びついていき、それが各々が縦横に結び付いていったと興味深く書かれていた。なるほどと思ったものの、ただ項目数が少なく、ソデにあった『季語語源成り立ち辞典』を購入しようとしたが失念した。今回、安価に文庫化されたのが本書。消滅した季語も含め、616項目が採録されている。

本の画象

平凡社ライブラリー(1500円+税)
2014年6月刊
石川英輔著
『泉光院江戸旅日記』
山伏が見た江戸期庶民のくらし

 1812年10月に1人の山伏が今の宮崎・佐土原を旅立ち、6年2か月後に帰ってくるまでの日記。文化9年と言えば、例えば一茶の晩年期にあたる。北は秋田まで、日本中を歩いてその土地ごとを記載したものだが、特徴的な事は渡し船以外は歩き、宿泊の多くも一般の農家。必然的に目に触れるのは中下層の庶民の生活となるが、それらは決してステロタイプな暗いものではなく、生き生きとした姿を活写している。

本の画象

ちくま学芸文庫(1400円+税)
2014年6月刊



2014年9月15日号(e船団書評委員会)

香川昭子の推す2冊

佐野洋子著
『 そうはいかない』

 34篇のエッセイのような物語がどっしりつまっている。そこには、親、子ども、身近にいるとかなり困るような変人奇人の友人とのあれこれ。そんな人たちに対して、遠ざけもせず、いわゆる温かい目で見ているというわけでもなく、これはどういうことなんだろう、本当はどういう人なんだろうと、とことんつきあって観察して、最期まで、格闘した作者がすばらしい。

本の画象

小学館文庫(600円+税)
2014年5月刊
石原千秋責任編集
夏目漱石「『こころ』をどう読むか」

 『こころ』はどう読まれてきたか。エッセイや評論対談等が掲載されている。その中で、奥泉光×いとうせいこうの対談が面白かった。『こころ』を失敗作としたうえで、「これだけ失敗できるのがすごい。僕ならこうは失敗できない。だいたい成功しちゃうから。というには冗談でもなくて、つまらなく成功しても仕方がないんですよね。」「漱石の生き生きとした失敗。学ぶところが大きかったです。」
本の画象

河出書房新社(1700円+税)
2014年5月刊


千坂希妙の推す1冊


加藤郁乎著
『俳諧志』(上)(下)

本の画象  本の画象

 「俳諧志」とあるように江戸期の俳人のまさに「志」、俳諧への姿勢とでもいうものを丹念に追究した書である。飯尾宗祇から明治まで生きた井上井月までのおよそ80人を取り上げている。名も知らなかった風流子も多く不勉強を叱責された思いだ。加藤郁乎といえば「昼顔の見えるひるすぎぽるとがる」「とりめのぶうめらんこりい子供屋のコリドン」「牡丹てぃっくに蕪村ずること二三片」のような意味よりもイメージを重んじた句、ウイットに富む句が有名だが、澁澤龍彦が「言葉のテロリスト」と呼んだこの前衛的破壊者は同時に俳諧の源流の謙虚な考証家でもあった。この三句にしても背景に江戸趣味が隠れているだろう。黛まどかの解説も良い。

岩波現代文庫(各1100円+税)
2014年5月刊



2014年9月8日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊

佐々木健一著
『辞書になった男』
ケンボー先生と山田先生

 何から何まで入っている(と思わせる)電子辞書に、思わず頼ってしまう。辞書には、「工事現場の落書き」を発見するような楽しみ方もあるようだ。二人の「先生」と二つの辞書を支える、出版社の懐の深さを感じる。この本を、閉じて横から眺めると「辞書」に見える。「装幀 著者自装」、この本の著者も結構こだわりの人だ。

本の画象

文藝春秋(1800円+税)
2014年2月刊
木村栄一著
『謎ときガルシア=マルケス』

 ガルシア・マルケスは、今年4月に亡くなったコロンビア出身のノーベル賞作家。翻訳者として一字一句と向き合ってきた著者の本。小説の背景となる当時の社会、政治の動き、個人としての置かれた立場、事情などが、丁寧に紹介されている。多彩な顔を持つ、スケールの大きい魅力的な「熱い」ガルシア・マルケスを読みたくなる本。
本の画象

新潮選書(1300円+税)
2014年5月刊


若林武史の推す2冊

小川軽舟著
『藤田湘子の百句』

 表紙に「俳句は意味ではない、リズムだ。」とあって、それで読んでみようと思った。「愛されずして沖遠く泳ぐなり」がやっぱり良いなと思うが、この句は句跨りだろうと思い、小川軽舟氏の解説を読むと、この「して」の後、「リズムが再び流れ出す」とあった。なるほどそういうものかと思い読み進めていくと、その後も結構、字余りや句跨りの句に出会う。リズムというのは、つまり、いわゆる五、七、五のことではなく、もっと内的なものなのだろうと悟った。

本の画象

ふらんす堂(1500円+税)
2014年7月刊
石原千秋著
『打倒!
センター試験の現代文』


 帯文に「3日もあればコツはつかめる」とあって、それで読んでみようと思った。石原千秋氏の受験国語に対する執念というか問題意識には歴史があって、これもその流れの中にある1冊だ。「良い子という方法」を使って問題を解く、つまり我々の道徳や倫理に照らして合わないものは正解にはならないという大前提を意識せよ、ということが本書の眼目になっている。受験生諸君、これを文学研究に連なる文学とは考えないでほしいという、石原氏の力強いメッセージが読み取れる。

本の画象

ちくまプリマー新書(780円+税)
2014年7月刊



2014年9月1日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

復本一郎著
『江戸俳句百の笑い』

 俳句の特質を「笑い」と「謎(謎解き)」と考えいている筆者らしく、謎をかけ、次回に答えを記す形式で100回を読ませる。形式だけでなく中味も濃い。掛詞・縁語・見立て・本歌取り・本説取り・擬人法・折句などの修辞法にどのような笑いを江戸の俳人たち(談林派・貞門派・芭蕉・鬼貫・蕪村・一茶)が仕掛けたか、そうなのかと納得することしきり。修辞法だけでなく感動の笑いや爽やかな笑い、感覚の笑いなど多様な「笑い」の創出に頬が緩む。

本の画象

コールサック社(1500円+税)
2014年7月刊
岸本葉子著
『江戸の人になってみる』

 江戸(東京)の一年と一日の追体験記。東京に住んだことがない私が行ったことがあるのは鷹神社の酉の市だけ。富士山を模した高さ六メートルの千駄ヶ谷の鳩森八幡神社にある富士塚に登ってみたい。 江戸の三大娯楽は歌舞伎・吉原・相撲というのは、大江丸の句を読んで納得。文化年間には、貸本屋は656軒、風呂屋は600軒、長屋ではごはんを炊くのは朝だけ、おかず売りが来ていたとか、へえぇ。
本の画象

晶文社(1500円+税)
2014年7月刊


宇都宮哲の推す2冊

小西利之著
『伝わっているか?』

 コミュニケーションにおいて、「伝える」と「伝わる」、その意味の違いは大きい。「伝える」ことは自分でもできるが「伝わる」ことは相手が必要だ。本書では現役バリバリの名コピーライタ―が、言葉の選び方やちょっしたアイデアひとつで見事に「伝える」から「伝わる」に変身する、そんな言葉の工夫やメソッドを実用に即して披露してくれる。さて翻って、俳句とは「伝える」のか「伝わる」なのか。今更なのだが、自問自答している今日この頃である。

本の画象

宣伝会議(1400円+税)
2014年6月刊
日本文藝家協会編
『ベスト・エッセイ2014』

 2013年の厳選されたエッセイが76編、いずれのエッセイも味わい深く、その魅力を楽しませてくれるおススメの一冊。ただ、編纂委員のひとりが「エッセイを読むことは生身のだれかに出会うことと、とてもよく似てる」と評しているが。果たしどうだろうか。手錬れの書き手ばかりである。本性をそう容易く見せてくれるだろうか。彼らの文章の網目にうまく絡みとられているのではと、いささかひねくれて読んでみるのも面白いかも。

本の画象

光村図書(2000円+税)
2014年5月刊



2014年8月25日号(e船団書評委員会)

藤田 俊の推す2冊

小田嶋隆著
『ポエムに万歳!』

 「万歳!」は「感動!」ではなく「うんざり!」。情報伝達という言葉の一面の過大視、詩の衰退、ネットの普及により、テレビ、新聞、Jポップ、ネット等いたるところに、詩になり損ねたポエムが。舌足らずでセンチメンタルで自分語り全開というのが特徴。
 ポエム化が進む中、俳句は言葉のどういう側面を担っていくのか。

本の画象

新潮社(1300円+税)
2013年12月刊
谷川俊太郎著/松本大洋イラスト
『かないくん』

 死に詩的アプローチをした絵本。夭逝した友人の記憶を基に最後の作品にかかる絵本作家の、記憶と老境の往還。「かないくん」というかな名の選択による韻律、他から切り離された空間を作り上げる余白の多さや印象的な白の使い方。場面転換前の逆上がりは白眉だ。
  文は一夜、絵は二年かかったという。俳句もそれくらいかけるといいのだろうか。

本の画象

東京糸井重里事務所(1600円+税)
2014年1月刊


武馬久仁裕の推す2冊

安井浩司句集
『宇宙開』

 この句集は、日本書紀の神代にある「蛍火光神やさばえなす邪神が充満し、草木もことごとく物を言う」世界を、言葉によって今の世に現出させるために書かれたかのようだ。そこでは、神々も動物も植物も人類も聖も俗も合理も非合理も渾然とある。「つぐみ野に用意の精霊飯撒かん」「振り向けば円の行(ぎょう)なる春の鳶」「樟の枝(え)に羽ばたくばかりの鳥女」などのごとく。

本の画象

沖積舎(3900円+税)
2014年3月刊
村田喜代子著
『屋根屋』

 屋根職人の永瀬は、夢旅行者である。その屋根屋の誘いで、専業主婦の「私」が、長瀬と夢を共にし、東西の寺院の屋根屋根の上を体験する話である。その過程で私に寄せる屋根屋の無意識の欲望が、夢の中に現実となって現れる。最高の官能的な場面は、黒鳥となった2人がシャルトル大聖堂に降り立った時、屋根屋が自分の嘴から私の嘴になまぬるい水を口移しする所であろう。ぜひご一読を。

本の画象

講談社(1600円+税)
2014年4月刊



2014年8月18日号(e船団書評委員会)

静 誠司の推す2冊

ドナルド・キーン/ツベタナ・クリステワ著
『日本の俳句は
なぜ世界文学なのか』


 12013年12月に福岡市で開かれたキーン氏とクリステワ両氏による講演録。俳句の魅力として両氏に共通しているのが「音」。日本語の音韻の美しさを体現化しているのが俳句であり、日本人はその点に無自覚であるということである。「そんなことはないですよォ」と思いながらも、改めて俳句とは何かを考える材料になる。


本の画象

FUKUOKA Uブックレット(734円・税込)
2014年6月刊
忌野清志郎著
『ネズミに捧ぐ詩』

 3歳の時に死別した実母の遺品との遭遇や父親の死という著者にとってプライベートで大きな出来事があった1988年にメモ的に書かれた詩や私小説的文章を出版化したもの。なぜ今にしてこれが?と思うし、帯の「キヨシロー完全復活!」はさすがにウソだけど、当時は聞くことができなかった37歳の清志郎の肉声が聞こえてくるようだ。
本の画象

KADOKAWA(1300円+税)
2014年5月刊


紀本直美の推す2冊

足立幸代編著/三上英司監修
『気ままに漢詩キブン』

 ゆるキャラがゆるりとレイアウトされ、さらにゆるい翻案やキャッチコピーが並ぶ漢詩の本。「静女」という漢詩の見出しには「ドタキャンのにおいー本人はうきうきですー」。解説にも「初デートの待ち合わせ中、うかれてる男子の詩」。えー、この訳でいいの??と思いつつ、思わず一気に読んでしまいました!

本の画象

ちくまプリマー新書(850円+税)
2014年2月刊
山と渓谷社アウトドア出版部編著
『乙女の山登り 春夏秋冬』

 乙女の山登りってなんだろう? と思い手に取った一冊。山の地図や特徴だけでなく、周辺の喫茶店情報も入った、女性初心者向け山ガイドブックです。「山小屋はホテルではありません。お風呂はなく、アメニティグッズもありません」「いびきには気をつけましょう」などの親切すぎるQ&Aのコーナーも面白いです。

本の画象

山と渓谷社(1550円+税)
2014年4月刊



2014年8月11日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す1冊


村岡恵理著
『アンのゆりかご』
―村岡花子の生涯―

本の画象

 NHK連続テレビ小説「花子とアン」を機縁に、本書から村岡花子の生涯について学んだことは鮮烈である。なかんずく、『赤毛のアン』(ANNE OF GREEN GABLES)という本は、カナダ人婦人宣教師で花子の友人でもあったミス・ロレッタ・レナード・ショーが戦時下のため帰国を余儀なくされた昭和14年、日本を離れる際、ショーから「私たちの友情の記念に」と花子に手渡された彼女の蔵書だったということ、そしてその翻訳は東京大空襲をくぐりぬけ、翻訳が修了して7年後の昭和27年(1952)、戦後家庭文学の記念碑として出版されたという事実だった。村岡花子こと、「安中(あんなか)はな」は、明治26年(1893)の生まれ。女性運動にも深くかかわった彼女の生涯は、日本の近・現代史のなかの崇高にして気品ある縦糸であることを本書は教えてくれた。

新潮文庫(810円・税込)
2011年8月刊


太田靖子の推す1冊


小川靖彦著
読み継がれる千二百年の歴史
『万葉集と日本人』

本の画象

 本来すべて漢字で書かれていた『万葉集』は、あらゆる時代をとおして、時代に応じて国家事業として読み下され、写本され、また評釈されてきた。道真、貫之、仙覚、契沖、真淵、信綱などがそれを担った。新旧の価値観がぶつかり合う局面で、『万葉集』は顧みられ、政治的文化的拠り所ともされた。鎌倉武士たちが独自の和歌を生み出すのに役立ったのも『万葉集』であり、これほどまで深く政治と結びついていたとは思いもよらなかった。『万葉集』が日本人にとっていかに魅力的な書物であり続けているかも見渡せる。本書を読めば『万葉集』の味わいを更に深めてくれるに相違ない。信綱の『万葉集選釈』も手に取りたい。

角川選書(1600円+税)
2014年4月刊



2014年8月4日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

復本一郎著
『俳句と川柳』

 1999年に現代新書として刊行された学術文庫版。既読の方も多いと思うが、この間、現代の潮流としての俳句・川柳が学問的対象にさらにステップアップした証とは、かなり穿った私の勝手な見方。滑稽を本質とする俳句、川柳の分岐は「切れ」にあると著者。なるほど、だから文として貫通しない俳句は、作り手ではなく読者が創造するものなのかなど、両方に初心者の私には、かなり刺激的に読めた一冊。


本の画象

講談社学術文庫(920円+税)
2014年7月刊
村松友視著
『猫踏んぢゃった俳句』

 俳句・俳諧の知識はなく、実作とも無縁。執筆を頼まれ、致し方なく「猫句」ならと書き進めた一冊と著者。まさに芭蕉から近現代の俳人22名の猫句の鑑賞なのだが、例えて言えば、リング中央で各俳人への興味を書き連ね、勝負の判定を拒否して、リングサイドの猫句に戻るという感じ。ちょっと反則技のようにも思えるが、読後感は、著者の書名なら『私、プロレス(の反則技)の味方です』と言ったところでしょうか。
本の画象

角川学芸出版(1400円+税)
2014年7月刊


舩井春奈の推す2冊

尾野秋奈句集
『春夏秋冬』

 龍天に軽々と持ちパイプ椅子
 灼けてをり人魚の像のなで肩も
 顔よりも大き木の実をリスの朝
 十二月八日ペコンと凹むアルミ鍋

 この句集、じわじわと笑みがこぼれてきちゃいます。じわじわでなくても笑いながら読みもすればそればかりの俳句でもないけれど。私にとってこの句集はじわじわとくるのです。

本の画象

ふらんす堂(2300円+税)
2014年5月刊
吉岡幸雄著
『日本の色の十二カ月』
古代色の歴史とよしおか工房の仕事

 季語に一つ一つの物事に名前を持つことにハッとしたことがある。同じくして繊細な違いごとに名前を持つのが日本特有の色彩語。例えば青色。これは夏に染める色で先月七月に収められている。この本は月ごとに色を紹介しているのだ。今月は何色だろう。そういう具合に少しずつ本書を読み進めてみるのもおもしろいかもしれない。

本の画象

紫紅社(2300円+税)
2014年6月刊



2014年7月28日号(e船団書評委員会)

木村和也の推す1冊


D・カーネギー著/香山 晶訳
(新装版)『道は開ける』

本の画象

 この書評欄の担当も最後なので、わがままを許してもらって、厳密には新刊ではないが紹介する。
 原題は『HOW TO STOP WORRYING AND START LIVING』。我々は悩むことで、いかに人生を浪費していることか。ここには悩むことを止めるための、そして新しい生活を始めるための方法が、哲学的な思弁ではなく、具体的で実際的な行動指針として語られている。基層には古来からの書物と箴言が横たわる。これは単なる成功者の成功譚ではない。人生の真実が謙虚な色合いで折り込まれている。その代価に見合う本は近頃珍しいが、この本は十倍の代価を払う値打ちがあると、僕の知り合いは言ったが、首肯する。特に若い人たちの座右に置いてほしい一冊である。

創元社(1600円+税)
2014年4月刊


香川昭子の推す2冊

多田道太郎著
『しぐさの日本文化』

 単行本がでたのは1972年。読んだ気がするけど、何も覚えていない。そして日本人の「ものまね」についても、改めて読んでみると、否定的に論じられてはいるわけではなく、例えば、会議などであくびをすることに関してのこんな見方等が新鮮だった。「あくび現象は、集団理性をはなれて、ひとり、自分の無意識な世界に憩うということである」

本の画象

講談社学術文庫(994円・税込み)
2014年2月刊
川上弘美著
『天頂より少し下って』

 2011年の単行本の文庫化。7つの短篇よりなる。ぱっとしない、とるにたりないものだと他人に思われてしまうような登場人物たち。牛丼や天丼やらおいしそうに食べ、男の人を友人を、息子を、母を、いとしんで日々生きている。そこらへんに、あるようでないような小説ならではの世界。暑い夜、ほっと一息つけるかも。
本の画象

小学館文庫(551円・税込み)
2014年7月刊



2014年7月21日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

金子兜太監修
子どもと楽しむ 『俳句教室』

 タイトル通り、大人(親)が子どもと俳句でどのように繋がって行くかを意識した一冊。従って、基本的には大人目線で記述されている。俳人の名句だけでなく、子どもの俳句を引いて様々に解説しているところが特徴。ちなみに愚息の一句も載ってます。

本の画象

誠文堂新光社(1500円+税)
2014年6月刊
森田良行著
違いをあらわす基礎日本語辞典

 『基礎日本語辞典』をテーマ別に再編集し、文庫本化された一冊。ことばの小さな差異に気づかせてくれる。初めから最後まで読むタイプの本ではないが、ちょこっと読むのに便利。ちなみに「ちょこっと」はありませんが、「少し」の類義語で「ちょっと」は載ってます。同シリーズで『気持ちをあらわす基礎日本語』というのもあります。

本の画象

角川ソフィア文庫(760円+税)
2014年6月


千坂希妙の推す2冊

わたなべじゅんこ著
『母屋のひさし』
―俳句史の風景―

 碧梧桐を重点的に13人の俳人の風景を描くほか、時事も織り交ぜエッセイ風に仕上げている。何より感心したのはその行動力。疑問があればひょいと出かけて実地を調査する。その個性的でヴァイタリティを感じさせる文章が魅力だ。碧梧桐を碧ちゃんと呼んだり、青木月斗の短冊を「ゲット」したと洒落るのもお茶目で船団的か。

本の画象

創風社出版(1000円+税)
2014年3月刊
五木寛之著
『隠れ念仏と隠し念仏』

 隠れキリシタンのことは多少は知っていたが、念仏禁制の薩摩藩などで300年にわたって隠れ念仏集団が存在したとは。さらに東北では隠れとは相の異なる「隠し」念仏集団が連綿と今も続いているなんて。教科書に載らない草の民の隠れた歴史に驚かされた。著者は柳田国男や宮沢賢治についても面白い見識を提示している。

本の画象
ちくま文庫(780円+税)>
2014年5月



2014年7月14日号(e船団書評委員会)

宇都宮哲の推す2冊

さとう野火著
『京都・湖南の芭蕉』

 著者は一昨年他界された私の仕事の先輩で、遺作となった一冊。
 芭蕉の足跡が代表句とともに数多くの写真を駆使してわかりやすく解説されている。なかでも、著者の地元である京都・湖南の句碑・ゆかりの地・約180か所の臨場感ある丹念な取材ぶりからは、芭蕉への著者の思い入れがうかがえる。そして芭蕉を身近に感じることができる。また、その地で詠まれたのではない句碑があれば、訂正するなど史跡資料としても貴重だ。

本の画象

京都新聞出版センター(1600円+税)
2014年6月刊
内田 樹著
『日本の身体』

 「日本人には固有の身体観があり、それに基づく固有の身体技法がある」という仮説を検証するために茶道家、能楽師、合気道家など身体を使う各界の達人たちと語り合ったインタビュー集。対談内容は少し専門的でわかりにくいが、答えは「日本人固有の身体文化は、自然への深い親しみの感情に彩られている」ことへと導かれていく。いささか飛躍だが、このフレーズ、どこか俳句に通じるものが。なるほど、俳句は日本固有の“身体”で詠むモノだったのかと。

本の画象

新潮社(1500円+税)
2014年5月


鈴木ひさしの推す2冊

倉嶋 厚・原田稔編著
『雨のことば辞典』

 美しい「雨のことば」だけでなく、そうでないものも詰まっている。二人の編著者の持ち味がよく生かされ、一つ一つのことばが、過去から現在、日本のいたるところ、無数の人々の生活を見る窓になっている。西日本各地方の方言が目立つのは、雨の多い地方だからか。使った人々の姿を思い浮かべながら、一つ一つ声に出してみたい。

本の画象

講談社学術文庫(920円+税)
2014年6月刊
山本淳子著
『平安人の心で
「源氏物語」を読む』


 ことばはどこまで「わかる」のか。時代とその場の空気、共通の記憶は、物語の周りで読み聴く人々の頷きや、目配せを誘う。この本は、読者をできるだけ平安人の心に近づけ、『源氏物語』を読ませようという本である。五十四帖すべての「あらすじ」が、1ページずつにまとめられ、この一冊が、深く読めるガイドブックでもある。

本の画象
朝日新聞出版(1500円+税)>
2014年6月



2014年7月7日号(e船団書評委員会)

藤井なお子の推す2冊

岸本尚毅句集
『小』

 これが岸本尚毅?放心の作、と言ったらご本人に失礼だろうか。『町角や西日のバナナうまさうに』脱力系多し。『暑き日の続く或日の秋まつり』季重なり多し。彼の身辺にいったい何があったのだろう。内面にどんな変化があったのだろう。『大小の蟻が居るなり荷物置く』『窓の下草美しく梅雨深し』なんと素直なことか。以前の彼よりずっと好い。

本の画象

角川学芸出版(2200円+税)
2014年3月刊
姜尚中編著
NHK「100分de名著」ブックス
「夏目漱石『こころ』」

 「こころ」は登場人物がほとんど死にます。どうしてか?姜さんは二つのキーワードから解いている。本文を随時提示しつつ解剖のような冷徹さで解明。しかし文章は傍で語りかけてくれるように優しい。「こころ」のこころ、といったところかも知れない。真面目な漱石を真面目に尚中が語り、漱石の淋しさも尚中の淋しさも少し知ることが出来た。

本の画象

NHK出版(1000円+税)
2014年5月


武馬久仁裕の推す2冊

長嶋 有句集
『春のお辞儀』

 一番のお気に入りの句を読んでみよう。「アイスキャンデー当たりが出ればもう晩夏」だ。この句を眺めていると、「アイスキャンデー」が上からどんどんとけて行く。カタカナのあのバラバラ感と最後の「ー」が、そう読ませるのだ。全部とけて、ようやく棒の「当たり」の文字が出て来たころには、もう晩夏だ。人生は儚いね。(くれぐれもこの句は縦書きで読んで下さい)

本の画象

ふらんす堂(2000円+税)
2014年4月刊
仁平 勝著
『露地裏の散歩者』
――俳人攝津幸彦

 「露地裏を夜汽車と思ふ金魚かな」のような「俳句的な比喩」によって作られた難解な攝津幸彦の句が、すらすら読めるようになる本ではなかった。俳句的比喩にこめられた攝津幸彦の内部の「原風景」を絵解きしてくれる本であった。この本は、攝津ファンのための攝津幸彦の原風景への旅物語なのだ。やさしい攝津幸彦のいる懐かしい風景がここにある。

本の画象
邑書林(2400円+税)>
2014年5月

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