2016年12月26日号(e船団書評委員会)

静 誠司の推す2冊

堀本裕樹著
『春夏秋冬
雑談の達人』


 又吉直樹の「俳句の師匠」で売り出し中の著者による小説(?)。登場人物たちの季語にまつわる雑談でストーリーが進んでいく。しかし、題名だけを読んで一体どんな人がこの本を手にするのだろう。季語の魅力に読者を誘い込もうという思いと工夫は面白いが、結局は写真付きの歳時記を見せた方が早いのではと思ってしまった。

本の画象

プレジデント社(1400円+税)
2016年10月刊
佐藤理史著
『コンピュータが小説を書く日』
AI作家に「賞」は取れるか

 星新一賞の予選を通過した作品をいかにしてコンピュータに書かせたか。一連の顛末が語られている。しかしコンピュータがやっていることは、人間が入力したデータをいかに繋げていくかということで、まだまだそれなりに長い文章を作るのは難しいらしい。ほっとしながらも、だったら最も短い文芸である俳句の賞なら狙えてしまうのではとビビる。

本の画象

日本経済新聞出版社(1500円+税)
2016年11月刊


紀本直美の推す2冊

ジョン バーニンガム作/谷川俊太郎訳
『ドライバー マイルズ』

 ジョンバーニンガムって、俳句的な作家だと思います。四季のイラストがとても素晴らしく、気付いたらずっと眺めていました。ポンッとファンタジーに飛んでしまう、説明不要のユーモアあふれる世界がおすすめです!

本の画象

BL出版(1500円+税)
2016年8月刊
森 絵都著
『みかづき』

 森絵都の長編小説の舞台は、学習塾です。戦後のベビーブームから、少子化・貧困・格差が問題となっている現在まで。タイトルに込められた意味をかみしめながら、読みました。これからのICT教育は子どもを豊かにできるのでしょうか。

本の画象

集英社(1850円+税)
2016年9月刊



2016年12月19日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す2冊

西村和子著
季語で読む『徒然草』

 ひとつの季語を軸にした『徒然草』。ときに『万葉集』『源氏物語』『枕草子』の世界に飛び、現代にも及ぶ。「花紅葉より若楓」など兼好の自然観、更に、人生観、女性観をも探ろうとする意図も読める。「すべて、何も皆、事のととのほりたるは、あしき事なり」にホッとし、「すべて月花をば、さのみ目にて見るものかは」にハッとする。

本の画象

飯塚書店(1600円+税)
2016年9月刊
長島裕子・中島国彦編
『漱石の愛した絵はがき』

 漱石宛ての封書はほとんど現存しないと言われているので、漱石が友人、弟子、家族のみか読者からの絵葉書も保管していたとは驚き。それらをカラーで紹介。教え子からの『心』への感想「おしまいの息苦しく緊張した所から筆を起こして、もっと息苦しい恐ろしい所まで持って行ってくださらないかしら」などを漱石はどんな思いで読んだのだろうか。
本の画象

岩波書店庫(1500円+税)
2016年9月刊


田中俊哉の推す1冊


正岡子規著

Kindle版『正岡子規作品集』

本の画象

 卒業論文で、太宰治の「人間失格」を題材に「失格」の意味を研究したいと考えている学生がいて、まずは全集を求めなさいと指導し、Amazonのkindle本を検索したところ、太宰治全集・280作品が1冊で、200円であることに驚愕してしまった。すでに夏目漱石や芥川龍之介の全集についても同様であることは知っていたのだが、利便であること以上に、研究に値する文学がそんなに安価でいいのかという思いを禁じ得なかった。デジタルネット時代、わたしたちは、新たなフェーズに入っていることを自覚すべきなのだ。公共図書館が無料であるように、普遍的に価値あるものは万人にひらかれ、子規研究も豊かな裾野の広がりをもって発展すべき時代が来ている。

青猫出版(99円)
2016年12月刊



2016年12月12日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

十川信介著
『夏目漱石』

 「漱石没後百年記念」の一つとして、一番関連深い岩波書店から刊行。漱石ファンならほぼ知悉している内容だが、もう一度、なぞってみるには最適の本。漱石の生暦や作物に合わせて、著者は独創性に富んだ見解を示しているが、その中でも『坊っちゃん』が下女「清」の実子だったのではないか、という推論は面白い。確かにそれなら家族の冷遇、兄から清への高額な退職金などが、なるほどと肯けてもくる。

本の画象

岩波新書(840円+税)
2016年11月刊
柳田國男著
『故郷七十年』

 「故郷」は個人の抒情に基づいて懐かしむ場所、であるのに対し、「郷土」はそれを排した共同主観的な普遍性を有しているところと解説者。柳田は、文学を捨てた時期から故郷を語ることなく、その後民俗学の対象として郷土研究に邁進してきたが、最晩年、故郷や家族、自分を語った唯一のものが本書とのこと。まあ難しいことはともあれ、明治、大正、昭和と、老人の昔語りとして、すこぶる面白いのには間違いはない。

本の画象

講談社学術文庫(1400円+税)
2016年11月刊


舩井春奈の推す2冊

高橋郁男著
『詩のオデュッセイア』
ギルガメシュからディランまで
時に磨かれた古今東西の詩句・四千年の旅


 人類最古の物語『ギルガメシュ叙事詩』から現代詩歌まで四千年もの世界中の詩歌を網羅。この本の発売日は、今年注目を浴びたボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞したことが発表されたわずか4日前にすぎない。それゆえ世界から再び注目される直前に、冷静に彼の詩を取り扱っていることについても注目したくなる本。

本の画象

コールサック社(460円・税込)
2016年10月刊
松本 透著
『もっと知りたいカンディンスキー』

 真の芸術作品は、秘密にみちた、謎めいた、神秘的な方法で、「芸術家から」生まれるのだ。(カンディンスキー『芸術における精神的なもの』)
 少なくとも私の世代では学校教育で詳しく習わなかったカンディンスキー。その下世代の教育現状は知らないが、いろんな美術館でよく目にする。秘密めく画家について知れる本。

本の画象

東京美術(2000円+税)
2016年10月刊



2016年12月5日号(e船団書評委員会)

香川昭子の推す2冊

柴崎 聰編
『石原吉郎セレクション』

 8年のシベリア強制収容所を経て「混乱を混乱のままで受けとめることのできる表現形式は詩」であった。散文を書くにはそれから数年後、「告発の姿勢」「被害者意識」からの離脱を前提に書き始めた。その散文のセレクションである。自分への厳しさに圧倒される文章が多いけど、詩や俳句についてのエッセイもあり、ともかく読み応えがある。

本の画象

岩波現代文庫(1100円+税)
2016年8月刊
小森陽一著
『漱石を読みなおす』

 「『こころ』に書かれる先生とKの青春時代には漱石と子規の関係の片鱗が垣間見える」、「『文学的作物』が特権的で権威あるものではなく他の商品としての言語情報と等価なものだという認識が漱石にあった」、「漱石の小説には人間と貨幣をめぐる多様なことがらが批判的にとらえられている」など、面白い漱石の読み方が、たくさん書かれている。
本の画象

岩波現代文庫(980円+税)
2016年7月刊


原 ゆきの推す1冊


大木あまり句集

『遊星』

本の画象

 過剰なものが何も感じられないのだ。くだものに含まれる水分のような句集。詩的な飛躍が単なる絵空事にならないのは何故なのか。句の内に日常の実感がしっかりと根を張っているからか。自分の生活を力まず描いて詩になる安らかさ。読後、何かと過剰になりがちな自作が、奇抜な服のように思われてならなかった。でも、これ脱ぐのも怖いんだなあ。
〈天井に蜘蛛の気配や爪を切る〉 〈椅子に姉畳に姉や柿の花〉 〈空の上でやりたきものは雪合戦〉 〈アイマスクして梟を思ひをり〉 〈花びらを置くここちして福笑ひ〉 〈恋の猫ときどき母の部屋に入る〉 〈青空に雲のとどまるおじやかな〉 〈手も足も我の持ち物南風吹く〉 〈白玉や箸か匙かと決めなされ〉。

ふらんす堂(2500円+税)
2016年10月刊



2016年11月28日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

池澤夏樹=個人編集
『近現代詩歌』

 詩は池澤夏樹、短歌は穂村弘、俳句は小澤實の選による。読み応えは十分にあり、全部に目を通すというよりも、パラパラとめくり、気に入ったページを気に入った時間に読むといい。三つのジャンルを横断的に読むのもいい。知らない詩人・歌人・俳人の作品にふっと触れる贅沢。

本の画象

河出書房新社(2600円+税)
2016年9月刊
平川克美著
『言葉が鍛えられる場所』

 批評家といっていいだろうか、平川克美による文学にまつわるエッセイ。より正確に言えば、生活や社会事象から想起された文学について語られている。とても丁寧な語り口の向こうに平川氏の視線が強く感じられ、生活と文学の往還運動とはこういうことかと思える一冊。ゆっくり読んでください。

本の画象

大和書房(1500円+税)
2016年6月刊


今泉凡蔵の推す2冊

News Week(日本版)2016.10.25号
『ボブ・ディランの真価』

 なんと10月28日、受賞の意志を伝えたという報がはいった。なんだ、せっかく辞退の応援をしようと思っていたのに。’05年刊行の『自伝』は正に叙事詩。スコセッシのからんだドキュメント映画ノー・ディレクション・ホームも傑作。彼は語るように歌う、吟遊詩人のように。今だから、風に吹かれて、もう一度感じてみよう、その言葉。

本の画象

CCCメディアハウス(460円・税込)
2016年10月刊
詩・工藤有為子/絵・ささめやゆき
『異国の砂 Le Meteque』

 ささめやゆきは、若かりし頃シェルブールで一人暮らしをしていた。正に「異国の人」。自分の行く道を見極めている時間でもあったようだ。その時、画家はムスタキの音楽に出会った。この詩画集は、孤独な画家の魂がムスタキの音楽と交わした時間が絵の中に封じ込められている。詩人はムスタキの言葉に触発され、自分の言葉を紡ぎだした。

本の画象

ハモニカブックス(2200円+税)
2016年11月刊



2016年11月21日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す2冊

小森陽一著
『子規と漱石』

 ほんの一、二歳の年齢差が、個人と社会との関わり方を変える。激動の時代であればなおさらだ。同年生まれの漱石と子規の友情は、時代との関わりの共通認識の上に築かれていたのだろう。この本は、大英帝国の没落を遠景に、時代の中に二人を位置づけ、交わされた散文による応答をまとめる。坪内稔典『正岡子規―言葉と生きる』『俳人漱石』とあわせて読めば、その後の日本語に果たした二人の役割の大きさがさらに見えてくる。

本の画象

集英社新書(760円+税)
2016年10月刊
竹内整一著
『日本思想の言葉』
神、人、命、魂

 難しそうなタイトルだが、遠藤周作、清沢満之、菊池寛、宮沢賢治、三木清、などの一文から、神、人、命、魂、情、時、死を考える糸口を示してくれる本。単純な「論理」と、思考のあとのみえない言葉が投棄されている今日の風景。時々、立ち止まって一つの言葉、文を何度も考え味わいたくなる。一つの言葉の持つ歴史とこれまで生きてきた人々の言葉との関わりと思考の跡にふれてみたい。「今、いのちがあなたを生きている」(東本願寺)

本の画象

角川選書(1600円+税)
2016年8月刊


宇都宮哲の推す2冊

外山滋比古著
『消えるコトバ、消えないコトバ』

 ミリオンセラー『思考の整理学』の著者が、客観的(アウトサイダー)思考の有用性について説いたエッセイ集。価値観が複雑化する中、情ではなく理で考え、広い視野、違う角度で整理していくことが、主観的(インサイダー)思考の傾向が強い日本人には必要だと。“岡目八目”的なアウトサイダーの目が新しいコト・モノの発見や創造に繋がることを教えてくれる一冊。ただ、日本人が主観的(論理的かつ思惟的思考が不得手)であることは、民族的特性で日本文化の基層を成し一種の深みを与えてきたと思うのだが。

本の画象

PHP研究所(925円+税)
2016年8月刊
鴨下信一著
『昭和のことば』

 「仲良し」「抒情」「松竹梅」「出世」「嫌や~ン、馬っ鹿」「口笛」「口に入れるもの」などなど愛すべき昭和の「ことば」を残しておきたい。そんな思いを込めて約150語の言い廻しやニュアンスを記したコラム集。いずれの言葉も、温かくユーモアがあり、どこか一途で慎ましい。その中で、「抒情」の意味の変化が興味深い。明治、昭和にかけては、藤村、朔太郎、犀星の詩歌のごと、“ハイカラで舶来で西欧的な『目』と『表現』を持っていた”が、平成では“古き良き日本”を表す。言葉が慎ましく時代をくぐりぬけたのだろうか。

本の画象

文春文庫(920円+税)
2016年10月刊



2016年11月14日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

持田叙子著
歌の子詩の子
『折口信夫』

 自分のお小遣いで初めて買った本は薄田泣菫の『暮笛集』(1889年刊)。泣菫は金尾文淵堂の二階に住み文芸誌『ふた葉』を編集していた。明治33(1900)年、天王寺中学に入学した信夫は心斎橋の金尾文淵堂に通う。店主種次郎は20歳そこそこ、泣菫22歳、東京の与謝野鉄幹26歳。信夫は浪漫詩の影響を受ける。文学史と共に語られる折口論。

本の画象

幻戯書房(2800円+税)
2016年10月刊
津野海太郎著
『読書と日本人』

 筆者は読書を「本はひとりで黙って読む。自発的に、たいていは自分の部屋で。」と規定する。「自発的に」が良い。后の位より源氏物語を読む方が良いと述べた平安時代の少女(菅原孝標女)や表紙だけの『少年倶楽部』に騙されても再度購入する井上ひさし等は、自発的。語りかける文体で書かれ読み易い。逸話が面白い読書の文化史。

本の画象

岩波新書(860円+税)
2016年10月刊


武馬久仁裕の推す2冊

金子兜太著
『あの夏、兵士だった私』
-96歳、戦争体験者からの警鐘-

 著者は戦地トラック島で出会った部下たち工員を虚飾を捨てた本能だけで生きている“生の人間”=“存在者”と呼ぶ。彼らは一体何者か。この答えは、この本の最後に出てくるエロス=官能(著者の言うスケベ)にある。彼らは論理を越えて官能によって世界を捉える存在なのである。だから、必然的に感性豊かな句を作る。そしてスケベな人間は性愛を追求し、平和を愛するのである。

本の画象

清流出版(1500円+税)
2016年8月刊
森澤程句集
『プレイ・オブ・カラー』

 日常的風景のように見えてそうではない風景が、さらりと書かれている。「給油所を出て戻りけり雪の原」は、現実=給油所から非現実=雪の原への転換が見事である。「国ありて湯舟の外に置く片手」。両の手ではない。片手である。国家と自分との距離が、日常的な行いを通して、さりげなく書かれている所が好ましい。作者の力量の程が窺われる句集である。

本の画象

ふらんす堂(2667円+税)
2016年10月刊



2016年11月7日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

嵐山光三郎・ぶん/南 伸坊・え
『ロボとピュータのはいくえほん』
なつやすみのまき

 ピュータくんが描く夏休みの絵日記のページと、俳句のページが交互に出てきて、自分が夏休みを体験しているような気持ちになります。シンプルでくすっとさせる視点を含んだ俳句と、楽しさあふれるイラストが魅力的!

本の画象

福音館書店(1200円+税)
2016年6月刊
山下洋輔・ぶん/むろまいこ・え
ぼくのいちにち
『どんなおと?』

 ジャズピアニスト・山下洋輔の音の世界って、いろんなことから自由なんだろうなあと伝わってくる一冊。「むかか もかか がみごみげめ だみどめ」はある場面の音なのですが、これだけで当てられる大人はどのくらいいるでしょうか?

本の画象

福音館書店(1400円+税)
2016年6月刊


静 誠司の推す2冊

せきしろ著
『たとえる技術』

 まるごと一冊、比喩(直喩)について語る本。筆者自らによる具体的、実践的な比喩がこれでもかというぐらいに並べられ、面白おかしく比喩の魅力を伝えてくれる。俳句の本ではないのだが、比喩を生み出す視点の持ち方の説明など、俳句にもかなり応用できる内容だ。これを読むときっと皆さんも比喩で俳句を作りたくなるでしょう。

本の画象

文響社(1432円・税込)
2016年10月刊
本永知宏著
『期待はずれのドラフト1位』
逆境からのそれぞれのリベンジ

 6人のドラフト1位選手のその後の人生をたどる。みじめな転落人生を期待して読んでしまったのだが、そこはジュニア向けの本だけに、しっかりと「リベンジ」している方々ばかりであった。「期待はずれ」を恐れる少年たちは、彼らから生きる強さを学んで欲しい。そして大人向けには、みじめな方々のストーリーの方もぜひお願いします。

本の画象

岩波ジュニア新書(860円+税)
2016年10月刊



2016年10月31日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す2冊

坂口昌弘著
『ヴァーサス日本文化精神史』
日本文学の背景

 本書では、精神・思想に焦点を当て、日本文化史上重要な人物二人を様々な人の言説から比較。「芭蕉vs一茶」のように俳人・歌人が多い。橋本治の「古池や蛙飛び込む水の音の水の音は神だ」という言説には惹かれた。「子規を語るには幽霊の句を論じるべき」に驚く。著者の該博な知識が読みにくさを助長する嫌いもあるが、興味のある章も多い。

本の画象

文学の森(2250円+税)
2016年8月刊
猪熊葉子著
『大人に贈る子どもの文学』

 3.11発生を契機に、児童文学に大人の心をも癒す力のあることを伝えたいと執筆。自身の海外児童文学との関わり、その著者や特質、薦めたい物語について。『ハリー・ポッター』は、12もの出版社に断られたこと、そのベストセラー現象の賛否も語る。『不思議の国のアリス』が第一次世界大戦下の兵士に読まれていたとは。児童文学の力を知る。

本の画象

岩波書店(2100円+税)
2016年8月刊


田中俊哉の推す2冊

谷川俊太郎作/William.I.Elliott、西原克政訳
これまでの詩・これからの詩 32
『いちねんせい』

 本書は1988年初版・2014年3月30日第40刷(小学館)をもとに英語訳が付され、 「二十億光年の孤独」から「こころ」まで54冊が同時に電子配信された。「わら べうた」が税抜200円。それについで安価な価格帯が税抜350円。詩は、もっと手 軽に読まれるべきであり、そもそも谷川俊太郎の詩のことばがユニバーサルなの だ。

本の画象

岩波書店 Kindle版(350円+税)
2016年10月配信
濱田武士著
『魚と日本人』
食と職の経済学

 ハロウィーンが日本で異様な盛り上がりをみせているが、仮装や変身に身をやつ す人たちは、日ごろどんなものを食べているのだろうか。魚料理のできる人たち なのであろうか。小生は瀬戸内の島に生まれながらも、魚の捌き方も貝の処理の 仕方も知らない。だから魚食から遠ざかる。海洋国の日本のいまを真摯にみつめ る時なのだ。

本の画象

岩波新書(820円+税)
2016年10月刊



2016年10月24日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

中井保江句集
『青の先』

 豹柄のブーツでぽんと蹴る愁思
 寒くなってきて、私は今から冬の寒さに怯えている。その思いをいつの間にやら蹴られたのか、次の俳句に出合った。
 底冷えの底の底にはマグマあり
 そうだ。冬の厳寒の根っこの根っこには、煮えたぎっているマグマがあることに気づく。
 大鷲の点になるまで風の中
 今年は風の中も頑張るゾと思えた句集。

本の画象

ふらんす堂(2800円+税)
2016年9月刊
三土たつお編著
『街角図鑑』

 図鑑はいろんな種類があるけれど、外出すれば普通に出合うものの図鑑。特別なものではない。いつも日本の町で見かけるもの。それゆえに私の周りでは賛否両論なこの本。わざわざその日常を取り上げることは、俳句との共通項として楽しむ。そして最近の私はドライブが楽しい。それでこの本を受けてさらに楽しんでいる部分もある。

本の画象

実業之日本社(1500円+税)
2016年4月刊


赤石 忍の推す2冊

鈴木貞美著
『日記で読む日本文化史』

 日記と一口で言っても公的文書であったり、公開を頭の片隅にあるもの、まったく私的なメモ等、様々であろう。本書は古代から現代まで、なぜ人は日記をつけるのかを、文体表現含め、様々な角度から克明に解析している。軽い気持ちで読んだが、久しぶりに襟を正した本に出会った。後書きに子規発案である「ホトトギス」の募集日記研究だけでも三年以上費やしたとあるが、それだけでも読み応え十分。

本の画象

平凡社新書(860円+税)
2016年9月刊
氏家幹人著
『古文書に見る江戸犯罪考』

 作者は『江戸の性風俗』『武士道とエロス』『江戸奇人伝』、そして『大江死体考』などを上梓し、江戸期の一級史料から、当時の時代風俗を炙り続ける歴史学者。本書は信頼度の高い古文書をベースに、実際に起こった犯罪と、その刑罰について記している。罰し方の軽重は現代の感覚では理解できないものも多いが、人の致し方ない愚かさは何も変わっていないし、情状酌量の人情もあまり違いはないというのが読後の感想。

本の画象

祥伝社新書(840円+税)
2016年10月刊



2016年10月17日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの推す2冊

松下カロ著
『白鳥句集』

 一冊まるごと白鳥の句づくし。まあ。<すきとほるべし白髮も白鳥も><白鳥の心臟を雲よぎりたる><白鳥にある天窓と開かずの間>句集なのに、長編小説を読むような感覚が生じるのは、全体に白鳥のイメージが重なり、ふくらむからか。つい幕の内弁当的に自分の句を並べてしまう私に、このカロさんの冒険は、眩しい。

本の画象

深夜叢書社(2000円+税)
2016年7月刊
山田 航著
『ことばおてだまジャグリング』

 著者は若き歌人。回文などの言葉遊びにハマる「ワードゲーマー」。そのゲームの実例集とも言えるのが本書。自分の思考の範囲を超えた言葉の組み合わせを偶然発見するワクワクを語り「ありえない!」という言葉を好む著者は「予想できちゃう」ことを最も嫌うだろう。もちろん作歌においても。誰より、自分がつまらないから。

本の画象

文藝春秋(1300円+税)
2016年4月刊


香川昭子の推す2冊

池澤夏樹個人編集
日本文学全集30
『日本語のために』

 「特定の文学作品ではなく、さまざまな文体のサンプルと日本語に関する考察を集めた」一冊。アイヌ語、琉球語と日本語の関係など、はじめて知ったことが多い。政治の言葉の章、日本語の性格の章などは、面白く読んだけど、ややこしくて飛ばしてしまったり。理解できない章もあった。これからも読まなくちゃ。

本の画象

河出書房新社(2600円+税)
2016年8月刊
伊藤比呂美著
『ラニーニャ』

 「外に出てくると日ざしがまぬけにもカリフォルニアなので、からかわれているような気がしました。」こんな文で始まり全編こんな感じの中編小説集。離婚して白人と結婚してカリフォルニアまで来て、日本から連れてきた娘は拒食症・・。まあこんなストーリー。平明でぼやきのようなしゃべり言葉の文章が、独特の世界を作っている。

本の画象

岩波現代文庫(980円+税)
2016年5月刊



2016年10月10日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の推す2冊

野坂昭如著
『男の詫び状』

 妬み・僻み・嫉みの三位一体こそが自分を培ったという男。何に詫びをいれるのかと思えば、昭和一桁世代、戦争へと突き進む時代を生き、もう二度と戦争をおこしてはいけないという事に尽きる。この友との往復書簡は、きっちり本音を話している。2003年倒れたあとにはじめて詠んだ俳句。『ひとり連句春秋』リハビリ俳句の本も面白い。
 逝く春やもうじき俺は歩きだす  野坂昭如

本の画象

文藝春秋(1600円+税)
2016年6月刊
村田沙耶香著
『コンビニ人間』

 コンビニの音が「声」となって、「私」に流れこんでくる。すると私はコンビニの一部品になったかのように機能しはじめる。チャップリンのモダンタイムスだ。この物語は、絵空事ではない現実肌感覚を生み出している。こわいのだ、とてつもなくこわい話だ。最近、近くのコンビニが無くなってとってもインコンビニエンスなボクなのだ。

本の画象

文藝春秋(1300円+税)
2016年7月刊


若林武史の推す2冊

穂村 弘著
『鳥肌が』

 鳥肌が立つ局面って本当にいろいろあるなと思う。なんでもない日常のうちに潜む鳥肌体験。読み進めるうちにいつのまにか自分自身の体験と照らしている。穂村弘と共有できる感覚を探っている。あぁ、自分もおんなじだ。とはいえ、より鋭いところをえぐっていく穂村弘の力は、ほんと、すごい。

本の画象

PHP研究所(1620円+税)
2016年7月刊
鈴木晴香著
『夜にあやまってくれ』

 まず、書名に惹かれた。「どの駅で降りても君に会えないと発車間際の和音は告げる」恋の歌。若いっていいなあと思う。「君が今どこかで濡れている雨がここにも降りそうで降らなくて」。雨や水がモチーフとなった歌に惹かれる。言葉の選択に惹かれる。

本の画象

書肆侃侃房(1700円+税)
2016年9月刊



2016年10月3日号(e船団書評委員会)

宇都宮哲の推す1冊


田河水泡著
『滑稽の研究』

本の画象

 漫画『のらくろ』の巨匠が国内外の美学や古今の演芸、文芸、絵画などの論考・資料を渉猟するなか、「滑稽とはなんぞや」とその核心に迫った一冊。ただ、滑稽という概念や感情は言葉では説明しにくく、学問的にも美学や心理学の範疇でその定義はなかなか難解だ。そこを著者は漫画の実作者として自身の作品などを引用、例えば、滑稽の範囲にはコミック、ナンセンス、ユーモアがあるがその区別についてわかりやすく解説してくれる。また、ユーモアは美学では,フモールと呼ばれ、その語源は湿り気で、いい機嫌、いい気分という意味を持つらしい。なんとなくユーモアのイメージが湧いてくる。元々、俳諧は滑稽の意、俳句と滑稽の関係性ついて考えている人におススメ。

講談社(960円+税)
2016年8月刊


鈴木ひさしの推す2冊

小野幸恵著(監修 鳥越文蔵)
『週刊誌記者
近松門左衛門』


 作品があって浄瑠璃や歌舞伎は演じられるのだが、演じる生身の人の解釈が登場人物に命を吹き込んでいる。『女殺油地獄』の文楽「豊島屋油店の段」の「目を被いたくなるような惨劇」が、いかに究極の芸の上に演じられているか、がわかった。コンサートも有名なミュージカルもいいが、文楽や歌舞伎も大切に思える人が増えれば、世の中にもう少し奥行きと落ち着きが出てくるのではないか。


本の画象

文春新書(750円+税)
2016年7月刊
平田オリザ著
『下り坂をそろそろと下る』

 温泉と『城の崎にて』の町が、「世界的なアーティストが普通に歩いている街」、「世界中のアーティストのあこがれの地となりつつある」ことを本書で知った。人はなぜ生きられるのか? どうすれば共に生きようとするのか? キーワードは、著者の言う「自己肯定感」と「文化」だろう。「六尺の病牀から死の間際まで俳句、短歌の革新に向かって闘った子規を思えば、絶望などしている暇はないだろう」と、子規で本書は結ばれる。

本の画象

講談社現代新書(760円+税)
2016年4月刊



2016年9月26日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

恩田侑布子句集
『夢洗ひ 』

 ひたすら言葉が生み出す美を追求した句集である。中でも「春陰の金閣にある細柱」において言葉は美として結晶している。春の陽気さと翳りの中にある美の極致、金閣。それを支える細柱もまた、美そのものである。強さを捨て美として立つことを選んだ凛とした存在、それが細柱である。美を陰と陽の中で奥行きを持って書き切った一句である。

本の画象

角川書店(2700円+税)
2016年8月刊
高野清弘・土佐和生・西山隆行編
『知的公共圏の復権の試み』

 第6章に安西敏三の論文「平生釟三郎と大正自由教育」がある。平生は、兵庫の甲南学園を創設(大正8年)した関西の実業人である。その実業人が、実学でなく、一般教養を修めた、徳義心に富み、個性的、自立的な人間を育てようする所が面白い。M.ウェーバーの言う「精神なき専門人」に陥ることなく、公共の福祉のために活動する社会的人間育成を目指す平生の姿が見えてくる。

本の画象

行路社(3000円+税)
2016年9月刊


塩谷則子の推す2冊

岡井 隆著
『詩の点滅』
詩と短歌のあひだ

 最近の出版不況は、文学によって「自分自身の生きる可能性が高まるように思えないから」という内田樹に対しての対応が愉快。短歌を研究して作る人と、単に生き甲斐として作る人の二極分解の中に自らは生活人として立っているだけと述べた上で、杉本秀太郎と平岡敏夫、八十代の知識人の魅力的な詩を紹介する。他にも多くの詩と短歌。

本の画象

角川書店(1800円+税)
2016年7月刊
馬場あき子著
穂村弘が聞く馬場あき子の波瀾万丈
『寂しさが歌の源だから』

 後半、浜田到の歌集『架橋』を何度も読み開眼したと語るあたりから創作過程が語られどんどん面白くなる。例えば「さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり」は「幾春かけて匂ふらん」という能のことばが思い浮かび、歌ことばの「老いゆかん」にした話や葡萄の歴史(信玄は甲州葡萄を食べた)を調べ五十首作った話など。

本の画象

角川書店(1800円+税)
2016年6月刊



2016年9月19日号(e船団書評委員会)

静 誠司の推す2冊

金子兜太・いとうせいこう編
金子兜太 いとうせいこうが選んだ
『平和の俳句』

 昨年1年のみ東京新聞他に連載された「平和の俳句」(一般投稿)を一冊にまとめたもの。昨年の国会前のデモ集会などに象徴される平和への熱い盛り上がりが、俳句という形式を突き抜けんばかりに、これでもかと迫ってくる。しかし、平和への思いと俳句としての評価は別としてとらえるべきではなかろうか。読んでいて少し迷いを感じた。
 平和とは水中に見るカバの顔(冨田清継)


本の画象

小学館(1000円+税)
2016年7月刊
鳥海 修著
『文字を作る仕事』

 「文字を作る」とは、印刷物や電子媒体などで使われる通称「フォント」を作ること。この本を読み、フォントを作る人が存在するという当たり前のことを初めて意識した。そして、そういう人たちの故郷の風景や、母親の味や、これまで出会った人たちとのかかわりなどが、全てフォントに反映しているということに無性に感動してしまった。

本の画象

晶文社(1800円+税)
2016年7月刊


田中俊哉の推す1冊


チャップリンDVD公式コレクション 創刊号

『独裁者』

本の画象

 映画「独裁者」は1940年10月15日にニューヨークで、同年12月16日にロンドンで公開された。最大の見せ場である、独裁者ヒンケルになりすましたユダヤ人の床屋がおこなういわゆる「最後の演説」(The Concluding Speech of THE DICTATOR)は、ヒトラーがパリに入城した1940年6月23日の翌日に撮影された。  本書はこうしたワンポイント情報がうれしい解説つきのコレクション。なにより、日本版VHS(朝日ビデオライブラリー)は14800円だった映像がDVDで本書に添付されているのは、驚きを超えている。You, the people, have the power to make this life free and beautiful - to make this life a wonderful adventure. 切なる強い愛のことばは詩になるという典型である。


アシェット・コレクションズ・ジャパン(740円+税)
2016年8月24日発売



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2016年9月12日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す1冊


宇多喜代子著
『俳句と歩く』

本の画象

 雑誌『俳句』に連載された俳句に関するエッセイ集。この作者には以前から惹かれるものがあったが、その引力の源を本書で識る。その魅力は体験によるもの。小学生の頃、蚕が桑の葉を食む音を雨音のようにうっとりと聞いたり、母親に「秋の夕焼け、鎌を研げ」と教わったり、『芭蕉全発句』から食べ物の句を抜いて、料理を試みたり。何と豊かな人生なのか。後世に伝えるべきものを伝えたいという著者の意志を随所に感じる。東京大空襲で亡くなった子供、沖縄戦、戦争孤児のこと。また、今ではそれがどういうものかわからなくなった季語、消えてしまった季語、埋もれた俳人など彼女の探究心は尽きない。本書を手にして、俳句ができるかも。

角川書店(1700円+税)
2016年5月刊


紀本直美の推す2冊

エルヴェ・テュレ/さく
たにかわしゅんたろう/やく
『あそぼ』

 ページをめくるたびにきいろのまるがあちこちへとうごいていく楽しい絵本。この本を子どもといっしょに楽しむ想像力を持った大人でいたいです。でも、もしかしたら、子どもの方が、スマホやタブレットになれてるから、動かないきいろいまるを動かす想像力を持っていなかったりして?!

本の画象

ポプラ社(1300円+税)
2016年6月刊
埴 沙萠/写真
嶋田 泰子/文
『やさいの花』

 「やさいの花」を見る機会はほとんどないので、一枚一枚のすばらしい写真に見入ってしまいました。「アスパラガス」の真っ赤な実や「キャベツ」の黄色い花、「インゲン」の紅色の花など、知らずに食べていたことがもったいない気持ちに!

本の画象

ポプラ社(1500円+税)
2016年5月刊



2016年9月5日号(e船団書評委員会)

赤石 忍の推す2冊

和田利男著
『漱石の漢詩 』

 漱石漢詩研究の草分けである著者の再編集本。時代区分で分けた第一部と、「漱石と良寛」「漱石と陶淵明」等、漱石の関心度合いや対象からの影響をベースにした第二部から成る。少年期、漢文学で身を立てようと思ったほどの漢籍好きだったと言われる漱石。子規との間で往復した漢詩も少なからず残されている。漢詩は難しいと思われる方は、坪内稔典監修の『漢詩のえほん』(くもん出版刊)から、まずどうぞ。

本の画象

文春学藝ライブラリー(1140円+税)
2016年8月刊
佐野眞一作
『唐牛伝』

 32年前に47歳で亡くなった唐牛健太郎を知る人も少なくなっただろう。もはや伝説化した60年安保時の全学連委員長。北の港町で同郷でなければ私も同様。その破天荒な一生を玉葱の皮を剥ぐように克明に描く。全ては私生児としての出自がその人生を覆うと著者。読後、若者の政治へのかかわり方と総括の仕方。深化し得ない、その普遍的な表層に、改めて様々な事々を考えさせられてしまう。

本の画象

小学館(1600円+税)
2016年8月刊


舩井春奈の推す2冊

菅野昭正編
『大岡信の詩と真実』

 『折々のうた』で知られる大岡信。昨年、世田谷文学館にてその大岡の展覧会が開催された。会期中に催された連続講座をまとめたのがこの書。古今東西の文学を熟知した上で日本の近現代詩を牽引してきた大岡の業を、詩人や編集者等彼と関わりを持った者から知れる。個人的にはことば遊びである連詩への取り組みがおもしろい。

本の画象

岩波書店(2200円+税)
2016年6月刊
リーナ&サミ・カミーラ文・絵/森下圭子訳
日本マクドナルド株式会社監修
『ムーミンだにのサプライズ』

 この夏オトナな私も駆け付けたのはマクドナルドのハッピーセット。おこちゃま向け商品だけど、おまけにムーミンの絵本がついてくるのが狙い。久々に訪れたムーミンワールドは、いつもどおり平和で、そしてちょっぴりワクワクドキドキ!この夏はきっとムーミン絵本につられて駆け付けたオトナファンも多かったのでは?!

本の画象

日本マクドナルド株式会社(450円・税込)
2016年8月刊



2016年8月29日号(e船団書評委員会)

香川昭子の推す1冊


高良 勉編

『山之口貘詩集』

本の画象

 どれもがユニークな口語体の詩。発想も文体も、山之口貘のもの。まずはこんな作品から。題も〈自己紹介〉。(ここに寄り集った諸氏よ/先ほどから諸氏の位置に就て考えているうちに/考えている僕の姿に僕は気がついたのであります// 僕ですか?/これはまことに自惚れるようですが/びんぼうなのであります/)。つぎに〈座蒲団〉という作品です。(土の上には床がある/ 床の上には畳がある/ 畳の上にあるのが座蒲団でその上にあるのが楽という/ 楽の上にはなんにもないのであろうか/どうぞおしきなさいとすすめられて/楽に坐ったさびしさよ/土の世界をはるかにみおろしているように/住み馴れぬ世界がさびしいよ/)80年前にこんな詩があったのです。

岩波文庫(640円+税)
2016年6月刊


原 ゆきの推す1冊


池田澄子句集

『思ってます』

本の画象

 朝起きてから夜眠るまで、いろいろなことに心は動くが、食事をしたりお風呂に入ったりするうちに、悲しいかな忘れてしまう。こんなこと、あった! こんな景色、見た! こんな思い、知ってる……池田澄子さんの句を読むと、記憶を取り戻して、胸が、きゅうんとする。「松明けの菜っぱ炒める音たからか」「心配をしながらリラを嗅いでいた」……こんなこと、俳句になる? と思うほど、ひときわ平明で、瑞瑞しい。「あとがき」で東日本大震災に触れ「思いは、何の役にも立たない」と言葉の無力さに言及する作者は、「春寒の灯を消す思ってます思ってます」と「思ってます」を繰り返し“それにもかかわらず思う自分”の現在進行形を切り取り、眺めている。

ふらんす堂(2500円+税)
2016年7月刊



2016年8月22日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

「ユリイカ」平成28年8月号

 特集は「あたらしい短歌、ここにあります」。穂村弘と最果タヒの対談に始まり、岡井隆と東直子の対談、俵万智、斉藤斎藤、壇蜜、ミムラ、戸川純などの短歌が並んでいる。新進気鋭の歌人たちの見識と岡井隆の短歌界の行く末についての開きなおりのような思いが対照的で面白かった。生物多様性が種の生存戦略に不可欠であるという箴言を想起した。

本の画象

青土社(1300円+税)
2016年8月刊
エラ・フランシス・サンダース著/前田まゆみ訳
『翻訳できない世界のことば』

 ページをめくるたびにことばの力の強さを感じる刺激的な一冊。例えば、スウェーデン語の「モーンガータ」は「水面にうつった道のように見える月明かり」という意味。五七五でならどうなるかなと考えていると時間を忘れそうになる。韓国語で「ヌンチ」は「他人の気持ちをひそかにくみとる、こまやかな心づかい」という意味。いいなぁ。

本の画象

創元社(1600円+税)
2016年4月刊


今泉凡蔵の推す2冊

伊藤比呂美著
『父の生きる』

 …退屈だ。これで死んだら死因は『退屈』…と語る父は熊本、娘はアメリカの遠距離介護。恋なら深まるか別れるか。が、父娘では縁のきりようもない。死はいずれ誰にもおとずれるが、孤独とむきあうのは辛い。パワフルな詩人と思っていたが、うじうじしたりいらいらしたり、生の娘がそこにいる。父の、と題した事に思いを致す。

本の画象

光文社文庫(560円+税)
2016年6月刊
全映画DVDコレクターズbox
『ゴジラ』創刊号

 昭和29年封切りの第1作。他のゴジラとは隔絶した秀逸な作品。原水爆実験という人間の愚行を踏みつぶす剛力がある、ギリシャ神のようなゴジラ神であった。今夏の庵野秀明によるシン・ゴジラは2本のハリウッド産に比し格段によい。
 夏風邪やゴジラがいると思っている  
(『だよね』本村弘一句集より)
 本年7月23日逝去。合掌


本の画象

講談社(890円+税)
2016年7月26日刊



2016年8月15日号(e船団書評委員会)

宇都宮哲の推す2冊

田丸雅智著
『ショートショートの缶詰 』

 ショートショートの面白さのひとつは、冒頭の一行目から精読しながら、ひとひねり、ふたひねりある短いストーリーの“オチ”をあれこれと推理していくところ。そんなショートショートの命は、ユニークで奇想なアイデアだが、日本を代表する名手・星新一曰く「そもそも、アイデア捻出の原則はひとつしかない。異質なものを結びつけよ、である」。アイデアが無限に煌く名作集、今夏の暑気払いにおススメだ。

本の画象

キノブックス(1400円+税)
2016年5月刊
いろは出版編
『3・11からの夢』

 先日、福島の友人から本書の感想を記したメールが届いた。「東日本大震災から5年立つが、復興が思うように進んでいない。そんななか、被災者30人に『あなたの「3.11からの夢」は何ですか?』と問いかけ、その夢を丹念に取材したこの本が、自分自身が震災を見つめ直し、もう一度生き方を考えるきっかけになった。それも『夢という言葉』がどんなに希望を与えてくれたことか」と。一つの言葉が人々の大きな支えになることを教えてくれる一冊。

本の画象

いろは出版(1900円+税)
2016年2月刊


鈴木ひさしの推す2冊

上橋菜穂子著
『物語ること、生きること』

 著者には、年齢を問わず夢中になれる深いファンタジーが多い。奥行きのある作品の数々が、一つ一つの出会いや体験を大切に思う著者の情と感覚の部分に支えられ、文化人類学者としての知の部分を取り込み、時間をかけて生まれてきたことがわかる。巻末に「上橋菜穂子が読んだ本」と「書いた本」のリスト付き。上橋菜穂子の作品がますます読みたくなる本である。

本の画象

講談社文庫(550円+税)
2016年3月刊
山口謠司著
『日本語を作った男』
上田万年とその時代

 上田万年は慶応3(1867)年の生まれ、漱石、子規、緑雨、紅葉、露伴、外骨、熊楠と同年。「研究・教育・政治」で「言文一致の旗を振った人物」。同時代の世の中のできごとと生きた人物たちの動きが興味深い。極端なまでに「汚いもの、劣ったものを嫌う」人物として描かれている「森鷗外」は、上田万年から見た5歳年長の「鷗外」像か?「円地文子」(本名富美)は万年の次女。

本の画象

集英社インターナショナル(2300円+税)
2016年2月刊

[e船団・週刊ブックレビュー]バックナンバー



2016年8月8日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

高橋龍句控
『小橡川』

 レトリックがきらきらする句集である。例えば、「留汝国(るなぐに)や日干し煉瓦に蝶の跡」。噫、汝を留め置く国、月(ルナ)の国には、他ならぬ日に干した煉瓦に蝶が影となって留められているではないか、と読める。もう1つ、「平日なれど越路吹雪の忌なりけり」。この句は実に好ましい。日常の中に鏤められた歌枕と季語からなる名、そして「ふぶきのき」の畳み掛け。見事である。

本の画象

高橋人形舎刊(非売品)
2016年7月刊
片岡義男著
『ジャックはここで飲んでいる』

 意外なようで意外に思えない、切ないようで心地よい展開の短篇8編である。私のお気に入りは2作目「ごく普通の恋愛小説」。この短編の見所は、男と女の関係が本当の姿を現わすにつれて、2人の会話の文体、2人の名の呼び方などが微妙に、読者にはっきりと気づかれないように変化させられて行く所である。本当の姿とは何か。それは読んでのお楽しみ。

本の画象

文藝春秋(1800円+税)
2016年5月刊


塩谷則子の推す2冊

ウエップ編集室編
『WEP俳句通信 VOL.92』
坪内稔典「王羲之のいた日」

 「7人の30句中、坪内稔典作で好きなのは?」「クスノキのうんこの時間蟻が来る・王羲之のいた日さらさら天の川・ヒマワリと親戚である午前中」「クスノキのうんこって?」「樹液かな」「クスノキのうんこの時間青揚羽は綺麗」。太字部分が青蜥蜴の句も。王羲之のいた日の続きが異なる六句。
 「多様な時間空間の中から好きなのを選べるね。」

本の画象

ウエップ(1000円+税)
2016年6月刊
荒川洋治著
『過去をもつ人』

 三年間の読書に関わるエッセイ62編。あとになると忘れてしまうような細部から作品の姿を描く。どの作品、作家に対しても温かく、読後感は爽やか。版ごとに買い求め、一冊は褪色しないように包装した高見順の文庫本を回顧展で展示した話や、40年間詩集を個人出版している紫陽社のことなど、本への愛着と詩への愛に驚く。

本の画象

みすず書房(2700円+税)
2016年7月刊



2016年8月1日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

エマ・アレン文
フレヤ・ブラックウッド絵

木坂 涼訳
『あかいかばんのひみつ 』

 学校に持っていく赤いかばんが気に入らないモニカ。そのかばんに不思議な力があることに気づいて……。オーストラリアの作家が描く学校は日本と全然違っていて、そこが海外の絵本を子どもが読む魅力のひとつだなと改めて感じました。ランドセルもなく、ポケットにスマホひとつですむ時代がもうすぐ来るかも?!

本の画象

国土社(1400円+税)
2016年3月刊
ピーター・レイノルズ文・絵
なかがわちひろ訳
『こころのおと』

 「こころのおと」とは何でしょう? 原題は「Playing from the Heart」で、音楽を楽しむということについて描かれています。「音楽」は文字通り音を楽しむということですが、私も子どものころは、ピアノがちっとも好きではありませんでした。この絵本を読んでまた音楽を始めようかなと思いました。
本の画象

主婦の友社(1300円+税)
2016年6月刊


藤田 俊の推す1冊


平きみえ句集

『父の手』

本の画象

  春兆すしゃりしゃりしゃりと魚捌く

  鯖缶にぞっこんですわ梅の花

  チェックインして明石の蛸に会う

 「詩人はね、なまものの言葉を扱っているんで。言葉ってさ、今日築地から届きました~とかって、要するにすごくいい加減だったりするわけです。理想と違うわけ、極端なこと言うと。でも、理想と違うからそんな言葉は使わないっていうんじゃ、詩人になれない。詩人というのは、そこにある今日届いた魚で料理しなければならないと思うんです。とりあえず手元にある材料で料理するのが詩人。こんなしょぼいので作れるわけないじゃないか、と怒るのが評論家。」
 これは内田樹さんがブログで紹介していた高橋源一郎さんの発言。「詩人」を「俳人」に置き換えてみる。俳人、そしてその代表である平さんという人が見えてくる。この句集は俳句の本分がありあわせの材料で料理すること、食べてもらうこと、ちょっとした期待に応えることであることを思い出させてくれる。  。

象の森書房(2000円+税)
2016年6月刊



2016年7月25日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す1冊


今野真二著
『リメイクの日本文学史』

本の画象

 「文学作品の書き換え」について具体的に読める。読み手に、書き換えたいと思わせる「何か」を宿しているのが文学作品という見方が新鮮。古典文学の場合、その「何か」が時代を超えて受け継がれていくという。本歌取りによって元歌が生き続けるのである。翻案では言語や文化の違いを超えて「何か」が書き換えを促す。尾崎紅葉のオリジナルとばかり思っていた『金色夜叉』が英国の『女より弱き者』を下敷きにしたものだったことに驚く。作家や詩人の持っていた可能性が作品のバリエーションを作り出す書き換えもある。作品の自筆原稿と刊行作品の読み比べも楽しい。書き換えてもらえる作品を世に送り出したいものだ。

平凡社(800円+税)
2016年4月刊


静 誠司の推す1冊


コダマキョウコ句集
『CẢM ƠN』

本の画象

 第一句集にありがちな過去の作品を寄せ集めた感がまるでなく、感覚と色と音と手触りが統一された、非常に完成度の高い第一句集である。よく整えられた時間と空間を背景とした作者の日常生活が垣間見えるようで、私などとても太刀打ちできない。「10月の岬になったのはオルガン」「ト音記号聖樹となるまで立ちつくす」「フルートで始まるボレロ大寒へ」など、一冊全体を貫く「優雅な」音の存在。また、「10号の裸婦に10号の月光」「白鳥になるまで試着することも」「寒冷前線あなたの眉の描き方」など、男性からは逆立ちしても出てこない「女性性」。少なくともこの2点に私はひれ伏してしまった。ちなみにタイトルは「カモン」でいいのでしょうか?

ふらんす堂(2200円+税)
2016年3月刊



2016年7月18日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の押す2冊

工藤 惠句集
『雲ぷかり』

   大噴水ケンカの前の鼻の穴
 読了後思わず、良いからひとまず読んでみて!と俳句をしない方に手渡したのが、この本。俳句は難しいと言う人も、わかりやすくおもしろいとかなりの食いつき。そうだ、暮らしの些細なひとコマから日常を表現するのが俳句。そして日常からふと飛んでいったかのような句もある。
   天道虫空の泪の形して

本の画象

本阿弥書店(2000円+税)
2016年6月刊
林 綾野著
『ミッフィーの食卓』
なにを食べているの?

 世界中の多くの子どもたちが親しむミッフィー。絵本の中で食べたり空想する食べ物について、日本でまだ刊行されていない絵本からも含めて紹介されている。私がさっそく作ってみたのはパンケーキ。オランダ流に生地を薄く大きく伸ばして焼き、蜂蜜をたらしてクルクル巻いて食べてみれば、素朴で優しいオランダの母の味。

本の画象

講談社(1500円+税)
2016年2月刊


田中俊弥の推す2冊

有間しのぶ原作/奥山直作画
『あかぼし俳句帖(三)』

バブル時には自動車会社の宣伝部でバリバリ仕事をしていたが、いまは広報部の窓際社員に落魄してしまった明星啓吾が、なじみの小料理屋「お里」で出逢ったアラサーの女流俳人との出会いから、結社「帆風」の仲間とのコミュニケーションを通して俳句や句会の世界を実地に体験するマンガ。マンガは今や人生劇場に進化している。


本の画象

ビッグコミックス・Kindle版(540円・税込)
2016年6月刊
沼田英治著
『クマゼミから
温暖化を考える』


 うろんな知識を頼りに生活していながら、さして違和感を抱かずに過ごしている現代。大阪という大都市で近年クマゼミの鳴き声が急激に増えたように感じられるのは、地球温暖化の影響であるということでは済まされない現実が生起しているのだ。地道で確かな事実に基づく科学研究の成果は、人間たちの未来に警鐘を鳴らしている。

本の画象

岩波ジュニア新書(886円・税込)
2016年6月刊



2016年7月11日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの押す2冊

篠原資明編
『吉田山百人一晶』

 繊細ぶった詩は、もうゲンナリだ、と思った矢先に出会ったこの一冊。一つの語句を別の語句と間投詞とに"分解"する「超絶短詩」が「百晶」集まった。「愛」あ/胃(坪内稔典)、「家出」Yeah!/で?(毛利直子)、「クラッシュ」くらっ/朱(南雄介)、「娼婦」処/うふ(栗原俊秀)。文字が、魚みたいに跳ねだした!

本の画象

七月堂(2000円+税)
2016年2月刊
千葉俊二・長谷川郁夫・宗像和重編
『日本近代随筆選』
2 大地の声


 例えば「西瓜」を「グラジオラスの花に似たうす紅色ととろけるような味覚」と書き表す片山広子(「季節の変るごとに」)。こんな風に絵画的、幻想的に西瓜に(食物に)接近する人を他に知らない。芥川竜之介、萩原朔太郎など収められた40篇の随筆はどれも短い。繰り返し読み、文章の個性の違いを実感できる。贅沢。

本の画象

岩波文庫(810円+税)
2016年5月刊


赤石 忍の推す2冊

岡野泰輔句集
『なめらかな世界の肉』

 つまりは映像美なのだなと思う。映画のワンシーンとして連続する情景を切り取って詠めば、分かるような気がしてくる。端正な小津安二郎的な日常にオブラートをかけ、変形させたフランソワ・トリュフォー的な世界を意図していることを題名からも類推するが、いくら変形を加えても、最期には端正さが滲み出てくる句が並ぶ。その端正さこそが、上質な映像鑑賞後の透明感に誘っているようにも思えるのだ。

本の画象

ふらんす堂(2400円+税)
2016年7月刊
飯田蛇笏著
『飯田蛇笏全句集』

 文庫版初の全句集なのでご紹介。きちんと読んでいないので本書を評する資格もないが、虚子が蛇笏の句の特徴として「小説的虚構」を挙げているのを面白い。だがこの言葉、むしろ「映像美」と言った方が適切ではないか。使用している言葉が格調高いのではなく、句の情景がそう感じさせるのではないか。岡野さんの句がトリュフォー的なら、蛇笏の句は小津の端正で格調の高い世界そのものだなと、浅薄ながらそう思う。

本の画象

角川ソフィア文庫(1720円+税)
2016年6月刊



2016年7月4日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の押す2冊

堀本裕樹著/ねこまき漫画
『ねこのほそみち』

 猫の俳句なんてと思ってたら、存外おもろい。仰山に猫ゐやはるわ春灯/内のチヨマが隣のタマを待つ夜かな/老猫の蛇とる不性ぶしやう哉/冬空や猫塀づたひどこへもゆける/猫の子に嗅れてゐるや蝸牛。著者が解説し、漫画家は独自の読みで物語化する88句。著名な俳人も、こんな猫の句をよむのか、となんだか猫の魔力を感じた。

本の画象

さくら舎(1400円+税)
2016年4月刊
吉本隆明著
『なぜ、猫とつきあうのか』

 猫の感情を擬人化するか、人間の感情を擬猫化するか、それが問題だ。猫との親和の具合は、お互いの孤独の自由さと深く関連している、と語る。人間と猫との間合いを考える事は、人間同士のそれを考える事にもすこしは似ている。この文庫のために書かれたばななの後書きには泣ける。要立読。もう少しハルノ宵子の絵がほしいところ。

本の画象

講談社学術文庫(820円+税)
2016年5月刊


香川昭子の推す2冊

岸本佐知子編訳
『楽しい夜』

 11の短編。私には初めての作者ばかり。生きている人の骨の中に蟻の巣を作る話、遺体の髪をタバコのように吸う話など、現実ではありえない設定の、言葉だけで作られた世界が描かれる。そこから愛、家族、死などが、リアルに伝わる。現実と妄想の混ぜ具合が絶妙。他にも、山を人間に模したものなど、どれも新鮮だった。

本の画象

講談社(2200円+税)
2016年2月刊
堀江敏幸著
『その姿の消し方』

 古い絵はがきにあったフランス語の詩の解釈と、その無名の詩人に近かったひとびととの交流の20数年の物語。詩を読むことの気の遠くなるような厳密さ、想像力、創造力。20数年かけての読解の結果は、ドラマチックでもないし、完了もしていない。ていねいに読みたくなる文章。読み終わり、誠実な世界に何日か身を置いた感じ。

本の画象

新潮社(1620円+税)
2016年1月刊



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