2017年12月25日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す2冊

栗林 浩著
『昭和・平成を詠んで』
伝えたい俳人の時代と作品

 戦争の悲劇を風化させないために俳人に何ができるかを考えるのが本書の目的。戦争体験のある金子兜太など年配の俳人18人が取り上げられ、直接作家を取材し話を聞いたものなど。反戦俳人木田千女や震災後に震災をも詠んだ句集を出した小原啄葉にも惹かれる。俳句を通して戦争について考えてみたい。「口汚すもの食べてゐし空襲忌」大牧広。

本の画象

書肆アルス(3000円+税)
2017年9月刊
外山滋比古著
『こうやって、考える。』

 どこを開いても発想力や思考力を磨くヒントとなる短い言葉に出会える。創造的忘却とは、知識によって人間は賢くなることができるが、忘れることによって、知識の及ばない思考を活発にすること。本書は俳句の本かと思うような言葉もしばしば。「発想の妙は化合物の面白さ。ありふれた素材同士が思いがけない結合をして、新しい思考を生み出す」。

本の画象

PHP研究所(1200円+税)
2017年9月刊

静 誠司の推す2冊

千葉 聡著
『短歌は最強アイテム』
高校生活の悩みに効きます

 歌人でもあり高校の国語教師でもある筆者が自他の短歌を紹介しながら、教師の日常を綴ったエッセイ。入学から卒業までの様々な出来事を通して、教師も生徒も笑ったり泣いたり悩んだりという学園ドラマさながらのストーリーが描かれる。キラキラまぶしい青春の一コマ一コマが短歌の叙情性とうまくかみ合う。しかしまぶしい。まぶしすぎる。

本の画象

岩波ジュニア新書(860円+税)
2017年11月刊
阿部公彦著
『名作をいじる』
「らくがき式」で読む最初の1ページ

 漱石から太宰、谷崎、乱歩など「名作」の書き出し1ページ目に読んで気になったこと思ったことをそのまま直接書き込んでみる(「いじる」)、という画期的な読書入門書。とは言え実体は名作の魅力を紹介する読書ガイド(それもかなり秀逸)。実は筆者は私の中高時代の同級生。今は立派な東大の先生ですが、当時はお互いによくいじったね。

本の画象

立東社(1800円+税)
2017年9月刊



2017年12月18日号(e船団書評委員会)

松永みよこの推す2冊

菅原 敏著
『かのひと
 超訳 世界恋愛詩集』


 もし、この世から言葉がなくなったとしても、愛は消えない。―そんなことを感じながらページをめくって詩の世界に没頭した。時にシェイクスピアに耳元で愛を囁かれたり。副作用は日中ぼーっとしてしまうこと。気軽だけど、安っぽくはなっていない「超訳」の力を受け、次は自力で原典にさかのぼる旅へ出たいと思っている。

本の画象

東京新聞(1700円+税)
2017年7月刊
岡村直樹著
『時代小説で旅する
東海道五十三次』


 静岡生まれ桑名在住の私にとって、いつもそばにあった東海道。今まで当たり前すぎて気づかなかった自然の恵みやそこを行き交う人々の織りなすドラマに幾度も思いを馳せた。『東海道の一筋も知らぬ者俳諧覚束なし』と芭蕉も言っている。読みたい本が増えすぎる危険はあるが、予定のない冬の日のお供に薦めたい一冊だ。

本の画象

講談社+α文庫(1200円+税)
2017年8月刊

田中俊弥の推す2冊

飯倉晴武監修
日本の四季を楽しむ
『しきたり十二ヵ月手帳 2018』

 スマホのカレンダーになじめず、いまも、ジャケットの内ポケットに入るサイズの手帳を愛用している。仕事がら年度始まりのものである。手帳は、財布や免許証と同じく日々の生活をともにしている相棒であり、小生の俳句帖でもある。2018年も、もう間近。来年は、この手帳本を手書きの〈わたくしの本〉とすべく活用してみたい。

本の画象

ディスカヴァー・トゥエンティワン(1600円+税)
2017年9月刊
ラズウェル細木著
『大江戸酒日和』
~冬は熱燗と旨い肴~

 とあるサイトによると、秋のお彼岸から春のお彼岸までの期間しか酒造りを許さないという「寒造り令」を江戸幕府が出したということである。大雪を過ぎ、まもなく冬至である。そして新春を迎える。楽しみと言えば、旅と美食と美酒である。本書は、そんな楽しみの相棒に推挙したいお得な1冊である。

本の画象

リイド社(438円+税)
2017年11月刊



2017年12月11日号(e船団書評委員会)

赤石 忍


ねじめ正一著
『ナックルな三人』

本の画象

 文中の「チューリップ明るいバカがなぜ悪い」は、東京船団句会で確か「天」に入れたような気がするが記憶違いか。ともあれ主人公の代表句と記されているが、掲句はねじめさんの代表句の一つであるとも言える。ナックルはご存知のとおり、野球のピッチャーが投げる球種の一種。ほぼ無回転のボールはふらふら揺れながらバッターの手前でストンと落ちる。投げた本人すらその行方を知らない。そんなナックルボール的な三人の生き方って素敵だな、著者はそう主張し続ける。ストーリーは若年性認知症が深まっていく絵本作家を巡っての悲喜劇だが、読み進めていくと互いをリスペクトし合う人間回帰の物語のようにも思えてくる。主人公達はどんな結末に向かって歩むのか。その行く末の評価も含めて、全て読者に委ねる手法は俳句の本質そのものだなとも。そう考えると本書のテーマを集約している冒頭句は、受け手の心情の中をゆらゆら揺らめく、何やらナックル的な俳句の象徴のようにも見えてくる。

文藝春秋(1600円+税)
2017年10月刊


舩井春奈の推す2冊

NHKテキスト
『NHK俳句12月号』

 今月始め、図書館の文学教室に講師として呼ばれた。数ヶ月前にカフェギャラリーで催した手織り展へ、たまたま足を運んでくださったお客様カップルも、遠方から参加してくれた。学生時代はパンクやヘビメタにはまり、エレキも演奏される彼氏さんが、初俳句のためにと事前勉強してきてくれたのがこの本。素敵な句が生まれた。

本の画象

NHK出版(600円+税)
2017年11月刊
岩井雪乃著
『ぼくの村がゾウに
 襲われるわけ。』


 友達に薦められ、新たな視点を得た本だ。アフリカをめぐる動物問題といえば、野生動物を護る保護区があれども、密猟者や環境諸問題の危険性に脅かされていて…。だが、こうした既存知識とは別に、アフリカ原住民からの目線で書かれたのがこの本。ゾウを護ることも大事だが、それによって生活を犠牲にされる人々がいるとは。

本の画象

合同出版(1400円+税)
2017年6月刊



2017年12月4日号(e船団書評委員会)

香川昭子の推す1冊


2017年9月号
「現代詩手帖」
特集 荒川洋治、いま何を描くか

本の画象

 冒頭は荒川洋治の詩「桃源」。ここはわかったような気がする、言葉をこうにも使うのか、時間も場所も行き来しているのか、などいろいろ思うけど、確信はもてない。多分そうかなと思うだけ。福間健二との対談では、「書き切らない、歌い上げない、陶酔しない、書き込んでいくとどこかの箱に入ってしまう。」「詩って個別的なもの。」「自分にもわからない、解けきらないものをしっかり抱えていないと、詩を書く意味がない。」「社会や現実を扱う時の詩の言葉がしっかり出来上がっていない。」などの言葉に立ち止まった。 蜂飼耳など6人による荒川洋治についてのエッセイ、論考も面白い。この雑誌を読んで、これからも、わからないなりに、詩を読み続けようという気になった。

思潮社(1185円+税)
2017年9月刊


原 ゆきの推す2冊

らふ亜沙弥著
俳句とエッセー『世界一の妻』

 何度も何度も吹き出した。何度も何度も、ほろりと黙りこんだ。あけすけで、からっとしていてピュアな世界に心がグンと持って行かれた。ニンゲン、自分の日常を切り取り俳句やエッセーに仕立てるって出来るようでいてホントは出来ない。嫌になるくらい出来ない。それを力も入れずに(そのように見える)行う。やはり魔女?

本の画象

創風社出版(1400円+税)
2017年9月刊
草野心平著
『酒味酒菜』

 酒と肴にまつわるエッセー集。岩魚の胃袋の中身の美味。クチナシの花は二杯酢に。五十歳を過ぎても失敗と宿酔の「学生飲み」。葬式で万歳をとなえ人々に唱和させる。金へのコンプレックスから貴重な札束をストーブへ。川で見つけた山椒魚をふいとそのまま丸呑みに。…心平さんの衝動がこちらにまで伝染。それが快い。

本の画象

中央公論新社 中公文庫(800円+税)
2017年11月刊



2017年11月27日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す1冊


佐藤文香編著
『天の川銀河発電所』

本の画象

 「Born aftar 1968 現代俳句ガイドブック」という副題がついている(残念ながら、私はBorn before 1968)。以前に最果タヒの詩集を紹介して、そのキラキラした感性に眩暈したが、ここに掲載された句群にまた、クラクラした。編者との対談者と取り上げられた俳人との距離感もよく、なるほどなぁと読み、また次の俳人のページに無理なく進めた。実はまだ全編には目を通せてない。じっくりと今日的(?)俳句を概観したいからだ。詩としての言葉の力と俳句の構造の力を改めて実感し、ちょっと頑張りたいな、また、俳句を作るのも良いけど読むのもいいなぁと思わせてくれる一冊。

左右社(2200円+税)
2017年9月刊


今泉凡蔵の推す2冊

ジャック・プレヴェール詩/小笠原豊樹訳
『プレヴェール詩集』

 『ことば』というタイトルでの第一詩集に始まる。なんだか直球すぎると思ったが、凄まじき絢爛たるお喋り。怒涛のように言葉が押し寄せてくる。つつまれおし流される。物語のようでもあり、晴れの恋があれば、唐突に血腥くもなる。何度か読み返すうちに、知らず音楽を感じる。詩とは、なんだろうか。今年も「枯葉」の頃をむかえる。

本の画象

岩波文庫(840円+税)
2017年8月刊
カズオ・イシグロ著/土屋政雄訳
『忘れられた巨人』

 竜の創り出す霧により記憶を失う人々、傍に鬼や妖精のいる世界。それだけ聞けばファンタジーだが多くの暗喩に満ちた物語は、今の現実世界そのものの様。主人公の老夫婦は、定かならぬ記憶から覚め、ある「島」へと旅立つ。ベックリンや「旅に病で…」を想起させる。静かな心持ちになれた物語。が、物語の未来は現代と同じく残酷の予兆。

本の画象

ハヤカワepi文庫(980円+税)
2017年10月刊



2017年11月20日号(e船団書評委員会)

宇都宮さとるの推す1冊


藤沢周平著

『藤沢周平句集』

本の画象

 二十代の結核療養中の俳句に加えて、新たに発見された作家時代の百句余が初めて公開された。発見句には、著者が好みという自然詠だけではなく、「魚の貨車ひらくに春の雪つのる」「捨てゝある人夫手袋波止の秋」「夏の夜のメトロの青き駅ありぬ」など、不意に心情が現れることのある療養中俳句に比べ、より静謐な抒情が漂ってくる魅力的な句も多い。また、同時掲載の俳句に纏わる随筆9編からは著者の俳句への特別な思いが伺えて興味深い。この発見句をもとに、自然と市井の人々をやさしいまなざしで見つめ、端正で清冽な文章で綴った藤沢文学との関係性を新たに探ってみるのも面白そう。

文春文庫(700円+税)
2017年9月刊


鈴木ひさしの推す1冊


井波律子著

『中国文学の愉しき世界』

本の画象

 「勉強は楽しんでやるもの、自分がおもしろくないことを無理にやっても意味がない」という中国文学者の最強の読書案内。「愉しき世界」は途方もない奥行きで、迷子(?)になってしまいそうだ。毛沢東が自らの生き方を「和尚が傘をさす」と言った、その真意は? 20年前の羽生名人を「時空を超越した仙人を思わせる」と評した著者には、現在の藤井四段もまた、仙人に見えているのだろうか。中国の美女の基準の移りかわりとその理由。17世紀ペローの「シンデレラ」と、9世紀中国のシンデレラ物語である段成式『西陽雑俎』。奇人、達人、美食家、……興味の尽きない人々。様々な不思議な話の紹介を読んでいると、人生には虚構の世界に入り込んでしまう時間が必要なのだとあらためて思う。

岩波現代文庫(860円+税)
2017年9月刊



2017年11月13日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

大湯邦代歌集
『櫻さくらサクラ』

 「墨堤の櫻脳裏に花筏追いつつ目黒新橋わたる」の一首に心惹かれる。墨=闇の墨堤から流れ行く花筏=美を追って目黒新橋へと至るこの花狂いは、黒=闇の新橋を渡り、一体どこへ行こうというのだろうか。新橋を渡って逝ってしまった美しい人達に会いに行くのだろうか。「生き生きておもうは逝きし人ばかり思いの外に百草芽吹く」地へと。

本の画象

コールサック社(1800円+税)
2017年9月刊
とくぐいち俳句集
『おじゃまむし』

 擬人法を使った句が面白い。「あらぬこと思ってとけるかき氷」恋の炎でとけるのか、恥ずかしくて消えてしまうのか、あらぬことって何でしょう。「貼紙をされて電柱うれしがる」孤独な電柱の嬉しさが何となくわかる句だ。そんな句が沢山ある不思議な不思議な句集である。作者はどんな人かと思えば、「吠えられて私怪しいものである」とのこと。

本の画象

私家版
2017年9月刊

塩谷則子の推す2冊

谷川俊太郎・覚和歌子著
対詩 2馬力』

 覚は映画『千と千尋の神隠し』の「いつでも何度でも」の作詞者。谷川と覚に共通するのは「私」を書かないこと。例えば「心理療法家は家へ帰ると/一晩中落語を聴いている/妻は環境保護に熱心だ」(谷川)。患者の話を全身で聞いている人物を描く。対詩は、交互に、影響されながら書く。ライブが基本。面白い試みだ。

本の画象

ナナロク社(1600円+税)
2017年10月刊
井上智重著
『山頭火意外伝』

 意外なことが書かれているわけではない。全集にも出ていない「九州新聞」発表句の発見や、酔っぱらって市電を停めた山頭火を法恩寺に連れていった人物の特定など、筆者は「重箱の隅をつついて楽し」んでいる。困ればお金を用立ててくれる友。小遣を送る息子。友と家族に支えられ俳句に没頭した山頭火。温かい伝記。

本の画象

熊本日日新聞社(2000円+税)
2017年7月刊



2017年11月6日号(e船団書評委員会)

静 誠司の推す2冊

衛藤夏子著
『蜜柑の恋』

 船団「俳句とエッセー」シリーズ。文学少女がそのまま大人になったかのような素直に書かれたエッセーが魅力的。出先で読んでいた時に、「亀のマスコット」に涙したり、「小さいころから③」にニヤニヤしたりしてしまった。しかし、読後に振り返ってみると、素直というよりも、実はよく練られた文章、構成だという印象を持った。

本の画象

創風社出版(1400円+税)
2017年9月刊
ペーター・ヴォールレーベン著/長谷川圭訳
『樹木たちの知られざる生活』
―森林管理官が聴いた森の声

 ドイツでベストセラーの邦訳。森の中の樹木はただ生えていて、受身で一生を終えているのではない。同種、他種の樹木たちと会話をしながら、自分の命を守りながら、他の命と争い合いまた支え合う。とにかく、驚きの内容の連続。今までの樹木や森の見方が変わってくる。どこか森へ出かけて行き、早速樹木を観察したくなる。

本の画象

早川書房(1600円+税)
2017年5月刊

紀本直美忍の推す2冊

長谷川義史作
『だじゃれ世界一周』

 「おまーんじゅうちょうだい」「ゆっくりくえーと」オマーン人が、クエート人におまんじゅうを渡してる! なかには苦しいだじゃれもあるけど、パワフルなイラストで楽しめてしまう、47カ国の国名のユニークだじゃれ絵本。

本の画象

理論社(1300円+税)
2017年6月刊
たしろちさと作
『きょうりゅう
オーディション』


 ブラキオサウルス、プテラノドン、ティラノサウルス……きょうりゅうによる、きょうりゅうのための、きょうりゅう劇団オーディションが面白い! どのきょうりゅうがオーディションで選ばれるのでしょうか??

本の画象

小学館(1300円+税)
2017年7月刊



2017年10月30日号(e船団書評委員会)

田中俊弥の推す2冊

NHKテキスト
『NHK俳句』2017年11月号

 Eテレの週2回放送「NHK俳句」のテキストである。11月号は、「巻頭名句」(片山由美子)をはじめ、四人の講師陣による俳句講座のほか、「宇多喜代子のくらしの暦」「旅を詠む/特別編/松山俳句甲子園」「アンソロジー・俳句と暮らす」「子どもといっしょに俳句のじかん」など、企画満載。勉学の秋は深まる。

本の画象

NHK出版(600円+税)
2017年10月刊
NHKテキスト
『まいにちハングル講座』2017年11月号

 2017年10月20日発行 450円+税(486円) こちらはラジオ講座のテキスト。ずいぶん長い間、ラジオ放送を聞く生活とは無縁であったが、ハングルを学びたい、話せるようになりたいと発起して、今年4月から「まいにちハングル講座」を聞くようになった。短いながらも定時に学ぶことに、予習復習は欠かせない。この秋もさらに「聴くこと」の生活を深めたい。

本の画象

NHK出版(450円+税)
2017年10月刊

太田靖子の推す2冊

岡村幸宣著
『《原爆の図》のある
 美術館』


 著者は、作品名と芸術家名(丸木夫妻)を冠した埼玉県にある原爆の図丸木美術館の学芸員。《原爆の図》がたどった道のり、作者や美術館のこと、作品などもカラー掲載。《米兵捕虜の死》(第13部)は被害だけで語れない戦争の実相を見つめる契機にと描かれた。前に立つ人に独自の物語を見出させる力さえ持つという作品を是非見たい気になる。

本の画象

岩波書店(660円+税)
2017年4月刊
松田浩他編
『古典文学の常識を疑う』

 古典文学の未解明点に迫り論争となる問題点を通覧する構成。「古事記の神話は日本固有のものか」「中世が無常の時代というのは本当か」など55項目。「蕉風は芭蕉の何を受け継いだのか」には「門人の中に芭蕉俳諧を引き継いだ者はいなかった」と。今後の研究が待たれるものも。古典文学を極めたい人、興味あるテーマの拾い読みはいかが。

本の画象

勉誠出版(2800円+税)
2017年6月刊



2017年10月23日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

第五の会編
『俳句de散歩』
 ―京都五七五―

 『蕪村と歩く―京都五七五』から四年、この本が出た。京都市内の名所旧跡を吟行し、俳句とエッセイが載せられている。京都の観光書は数あれど、吟行をメインにした京都本はそうない。私がこの本を頂いて読み始めたのは、ちょうど京都市内を似非バスガイドしていた日だ。今度はこの本をお供に京都を散歩してみたくなった。

本の画象

SOU出版(1200円+税)
2017年9月刊
高橋久美子作/福田俊之絵
『赤い金魚と
 赤いとうがらし』


 我が家にも金魚がいる。それが一匹一匹感情が異なり、実に個性に満ち溢れている。この物語を作ったのは私の後輩。感性豊かな久美ちゃんは、台所で飼っている一匹の金魚の水槽の中へとうがらしが落ちたところから物語が膨らんだんだってさ。さぁさ、この絵本に出てくる金魚のピッピロは、どんな感情を表すのかな?

本の画象

mille books(1400円+税)
2017年6月刊

松永みよこの推す2冊

瀬戸内寂聴句集
『ひとり』

 嘆ききる、叫びきる。全身全霊で生きる寂聴さん(95歳)は、周囲の人すべてを黒子役にさせてしまうような、無自覚の凄まじさを持つ女性だ。華やかで天真爛漫でお騒がせで…多才さから彼女をタレント的作家と思っている人もいるが、その筆力、特に女の修羅を書く力は当代一だと私は思う。
 釈迦の腑の極彩色に時雨けり

本の画象

深夜叢書社(2000円+税)
2017年5月刊
神谷美恵子著
『神谷美恵子
 島の診療記録から』


 神谷は美智子皇后の相談役としても知られた精神科医だが、その文章からは、知を究めた人というよりむしろ、理性では割り切れないもろさがあふれていて、それがある種の色気として映る。「自分の身につけているものをできるだけかなぐり捨てて心と心だけで彼らとぶつかること。」私もこんな覚悟で生きてみたいと思わされた。

本の画象

平凡社STANDARDBOOKS(1400円+税)
2017年8月刊



2017年10月16日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの推す2冊

中原中也ベスト詩集
『ホラホラ、これが僕の骨』

 初めて見た。頁の端が、まっすぐに切り揃えられておらず、ぼそぼそと不揃いな本。粗い手触り。めくると指が嬉しくなる。「ファイバーラッファー」という技法で削ってあるらしい。そこに中也の代表的な詩がデザイン性の高い字体で浮かび上がる。作ったばかりの詩を紙の束のまま中也から差し出された感じ。どきどきする。

本の画象

ロゼッタストーン(1600円+税)
2017年9月刊
森茉莉著/早川茉莉編
『幸福は
ただ私の部屋の中だけに』


 森茉莉のごく短い文章ばかりを集めた一冊。一行がクリームのごとく、もったりと重たく輝く、独特の世界。とても気どった、とても美しい文章だが、そのどこかがズレていくのが茉莉流。印象に残ったのは「夏と私」という文。香気と瑞々しさが、やや未熟な果物のよう。一字一字ゆるがせにしないのが、俳句的にも思えたりして。

本の画象

ちくま文庫(760円+税)
2017年4月刊

赤石 忍の推す2冊

久保田万太郎著
『浅草風土記』

 「竹馬やいろはにほへとちりぢりに」と赤貝の鮨を喉に詰まらせて亡くなった以外に詳しい事はあまり知らない、経歴を辿ると各ジャンルに高名だったと分かるが、今では忘れつつある人物には違いない。だが浅草・上野の至る処にその痕跡は残る。三十数年前と比べても隔世の感があり万太郎の時代なら尚更の事だが、幽かに残る時代の香りを確かめに、本書を片手に浅草近辺を闊歩するのも一興であろう。

本の画象

中公文庫(1000円+税)
2017年7月刊
中島岳志著
『親鸞と日本主義』

 戦前の国粋主義の中心イデオローグに親鸞思想が据えられている。日蓮思想はともあれ、親鸞の教えの中にこそ全体主義的な日本主義と結びつきやすい構造的要因があるのではと著者。思考する個人のはからいを捨て、絶対他力、弥陀の本願を祖国日本、天皇制の意志に無言のまま委ねると意図的に読み換え、戦争を推進させた多くの人間たち。右傾化の続く現代において、政治と宗教の距離感を考える上での刺激的な一冊。

本の画象

新潮選書(1400円+税)
2017年8月刊



2017年10月9日号(e船団書評委員会)

今泉凡蔵の推す2冊

上野洋三、櫻井武次郎・校注
『芭蕉自筆 奥の細道』

 字は人を表すというのは、現代に即さないか。手紙より、ラインだもの。この自筆本、紀行文学として温め続けたものがどんな思いで書かれているか、一端が見られるかもと期待した。貼紙76枚以上の書き直しには作家の入魂をみる思いがする。夏草や兵共が夢の跡、の句の字間が、下五だけ異様に空いていることが、妙に気になった。

本の画象

岩波文庫(970円+税)
2017年7月刊
沼田真佑作
『影裏』

 電光影裏斬春風からタイトルはつけられている。この禅語は無学祖元が元の兵に襲われた時の言葉。空である私を斬ることは稲妻が春風を斬るようなことだ、と。釣り好きの「わたし」と日浅という友人との日常。が、多分に非日常的。丹念な自然描写が、却って何か際どい人間たちの生きている光の部分より、影の部分を映し出している。

本の画象

文藝春秋(1000円+税)
2017年7月刊

香川昭子の推す2冊

谷川俊太郎著/和田誠絵
『ワッハ ワッハハイの
 ぼうけん』


 「8歳の子どもから80歳の大人まで楽しめる」と帯文にある文庫の童話集。「ふまじめも、人生を豊かにする香料ないし調味料として欠くことのできないものではないでしょうか」という作者のことばの通り、ナンセンスで楽しい童話がいくつも。寝つかれない時など、ちょっと読み出すだけで、口もとからほどけてくる感じ。

本の画象

小学館文庫(890円+税)
2017年8月刊
高橋源一郎著
『銀河鉄道の彼方に』

 なにがほんとうのことかを求めて旅をする少年たち、宇宙船に一人乗りこんだままの男。『銀河鉄道の夜』の長い引用。ときにはSFの世界。警句のようなものは面白いけど、筋とかはつかめない。それでも、読み進めると、夢か現かの中にいるような、銀河鉄道に乗るってこういうことかなとも感じさせる。傍において時々読み返したいと思わせる本だ。

本の画象

集英社文庫(920円+税)
2017年8月刊



2017年10月2日号(e船団書評委員会)

鈴木ひさしの推す1冊


藤田正勝著
『日本文化をよむ』
―5つのキーワード

本の画象

 西行の「心」、親鸞の「悪」、長明と兼好の「無常」、世阿弥の「花」、芭蕉の「風雅」、西田幾多郎の日本文化論、どれも興味深い。的確な小見出しが随分と理解の助けになる。 この本は、日本文化のキーワードについてのいわゆる解説書ではない。時折、著者の肉声の聞こえる本、「長い時間をかけて作り上げられてきた文化や他者との共存の営みに亀裂が入ろうとしている」今日の状況に対する危機感から書かれた本である。一人の人物の思想は、生きた時代の中で、他者との対話と格闘を通じて築かれるものなのだと、改めて思う。
 道元は、「文章を書いたり、詩歌を詠むのは無益である」と言った。しかし、道元は歌に通じた人であった。真意を理解するのはこの上なく難しく、また、伝えるのも難しい。欲望のままの言葉が乱反射する時代、深まり行く秋に、一つのことばを少し深く考えてみたい。

岩波新書(780円+税)
2017年8月刊


若林武史の推す2冊

穂村 弘著
『ぼくの宝物絵本』

 歌人・穂村弘は絵本コレクターである。穂村自身がお気に入りの、気になる絵本がカラー図版で紹介されている。穂村が選んだ絵本をこうして見てみると、絵本自体の不思議な魅力を感じざるを得ない。自分が読んだ絵本はもちろん、そうでないものも懐かしいけど新しい。絵本はいつも、そんな風に私たちの前に現れるんだな。

本の画象

河出文庫(740円+税)
2017年6月刊
寄藤文平著
『デザインの仕事』

 著書『元素生活』が有名。それ以外でも気づかないうちに寄藤のデザインを目にしていると思う。本書ではグラフィックデザイナーとしての歴史、デザインの仕事への考え方が紹介されている。寄藤の仕事に対する哲学には普遍性があり、他の仕事にも通じるものがある。真摯に書かれた、いい本だなと思う。

本の画象

講談社(1300円+税)
2017年7月刊



2017年9月25日号(e船団書評委員会)

塩谷則子の推す2冊

久松健一著
『原稿の下に隠されしもの』
遠藤周作から寺山修司まで

 剽窃論。「虚言、剽窃なんでもござれ」の修司。修司=修辞。虚言、剽窃は悪か?そうではない、そこに修辞の面白さがあると筆者は言う。「一本のマッチをすれば湖は霧・めつむれば祖國は蒼き海の上」(富澤赤黄男)の剽窃と指摘されても、修司の「マッチ擦るつかの間に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」は創作だ。

本の画象

笠間書院(2500円+税)
2017年7月刊
新村 恭著
『広辞苑はなぜ生まれたか』
新村出の生きた軌跡

 『広辞苑』は頼まれ仕事だった。言語学者として天草本『伊曽保物語』などの南蛮切支丹研究、25年続けた京大図書館長の仕事が主だった。だが『大日本国語辞典』のような大部のものでない家庭用・図書室用辞書の必要性を感じていたと孫の筆者は言う。ノブレス・オブリージュ―新村出は高貴に生きその義務を果したと思う。

本の画象

世界思想社(2300円+税)
2017年8月刊

宇都宮さとるの推す2冊

原田マハ著
『いちまいの絵』
生きているうちに見るべき名画

 『楽園のカンヴァス』はじめアート小説で人気を得ている作家が、ピカソやダ・ビンチなどの自分に影響を与えた26枚の名画について“いちまいいちまい”その出会いや想いを綴っている。著者は小説のモチーフを絵画から得るというが、では、果たして詩歌ではどうだろうか。本書の中ではゴッホの『星月夜』が星と月の空に伸びる一本の糸杉の影が幻想的で、確かに詩的イメージが膨らむよう。ただ、私は音楽の方が刺激的だと思うのだが……。

本の画象

集英社(900円+税)
2017年6月刊
泉田玉堂著
『軽やかに生きる』
心をもっと自由にするための
108の禅語


 本来、禅は不立文字、教外別伝、“それを言っちゃおしまいよ”の世界だが、あえて、大徳寺現住持である著者が、難しい漢字が並び近寄りがたい禅語を分かり易く解説した一冊。よく見聞きする言葉もあるが、ひとつづづ読み解いてみるとなかなか面白い。なかでも、薫風自南来、楓葉経霜紅、柳緑花紅、梅花和雪香などなど、四季折々の自然とともにある言葉も多く興味深いものがある。また、一句一句の音読がおススメ。心地よいリズムが身を軽くしてくれそうだ。

本の画象

世界文化社(1300円+税)
2017年6月刊



2017年9月18日号(e船団書評委員会)

紀本直美の推す2冊

クレール・フロッサール文・絵/
クリストフ・ユルバン写真/木坂 涼訳

『パリのエマ』

 写真と絵がミックスされたユニークなイラストが目に留まりました! 海外のゆるキャラなのでしょうか? 主人公のハトが親戚のハトをを探してパリを巡ります。読んでいるうちに旅行にいきたくなってくる楽しい絵本。

本の画象

福音館書店(1600円+税)
2017年6月刊
武鹿 悦子作/末崎 茂樹絵
『とんこととん』

 とん こと とん、ずんだだ ずん ずん ういん ういん ういん…… 武鹿 悦子さんのオノマトペが心地よく、優しいイラストの世界に惹きこまれます。のねずみくんのおはなし、シリーズ2作目。次も読みたいです!

本の画象

フレーベル館(1200円+税)
2017年5月刊

武馬久仁裕の推す2冊

安井浩司句集
『烏律律』(うりつりつ)

 句集冒頭の北宋の詩人黄庭堅(号は山谷)の詩、「浄院の壁に題す」の換骨奪胎の一句「山谷詩『蕉心伸びず時雨待つや』」は、分かりたい句だ。まずは「黄山谷の詩に言う、『憔悴した心は晴れない。涼雨を待っているのか』と。」といった禅の公案的な句として読む。しかし、山、谷、蕉、心、時雨の言葉からは芭蕉の面影が浮かぶ。が、一瞬この芭蕉の面影が、公案の答えであろうかと思ったりする不思議な句である。

本の画象

沖積舎(3900円+税)
2017年6月刊
久々湊盈子歌集
『世界黄昏』(せかいこうこん)

 永遠を書き止めるとはこういうことかと思う一首。「ゆうぐれはゆっくり庭におりてきてもう誰も来ぬ門を閉ざしつ」。そして、いびつな世界に立ち向うメタセコイヤの雄々しきみどり。「一景を正して天にそばだてるメタセコイヤの今年のみどり」そして何よりも、感動するのは内なる永久の激情。「狂うにも遅すぎる齢 帯締めをきつく結びてひとと逢うなり」

本の画象

砂子屋書房(3000円+税)
2017年8月刊



2017年9月11日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す1冊


山本淳子著
「春はあけぼの」に秘められた思い
『枕草子のたくらみ』

本の画象

 『枕草子』は、中宮定子に仕えた清少納言が宮廷生活での見聞、回想、人生や自然について書いた随想。が、著者は、清少納言が皇后定子を生前も死後も理想的な人物として輝かせるべく書いたとし、その根拠を掲げていく。当事者の眼になって『枕草子』を読んだ時に見えてきたものを著者は「たくらみ」と言うのだろう。何と様々なことが仕組まれていることか。その時代に生きた人々の心の中までが生き生きと浮かび上がり、定子への恋文のように感ずる箇所もある。清少納言が記さなければ世に伝わらなかったであろう親王出産となる参内をさらりと述べた、ほのめかしに満ちた雪山のエピソードなど『枕草子』の新しい魅力が至る所に満載されている。

朝日新聞出版(1500円+税)
2017年4月刊


静 誠司の推す2冊

森谷明子著
『南風(みなみ)吹く』

 俳句甲子園を目指す愛媛の離島の高校生達が主人公の、「俳句」青春エンターテインメント小説。「俳句」で「青春」? とちょっと斜に構えて読みはじめるも意外とハマってしまった。主人公たちがそれぞれ悩みや事情を抱えながら、俳句を通して大きく成長していく。出てくる俳句も意外と面白く、ディベート場面も作句の参考になる。

本の画象

光文社(1600円+税)
2017年7月刊
荒俣 宏著
『お化けの愛し方』
なぜ人は怪談が好きなのか

 もともと人間は現実から遊離する快感をもたらせてくれるお化けを求め、近づこうと思い、恋いこがれた。お化けと一線を越えて交わってしまうと現世に残ることはできないのに、そのリスクを冒してでも人はお化けを愛さなくてはいられなかった。中国から日本に伝わる本来のお化けの在り方を説く書。ああ、お化けに愛されたい。

本の画象

ポプラ新書(900円+税)
2017年7月刊



2017年9月4日号(e船団書評委員会)

松永みよこの推す2冊

西郷信綱著
『梁塵秘抄』

 万事過剰で世人の手に負えない狂王、後白河院はあふれるエネルギーを今様という流行歌謡にぶつけた。院が師と仰いだベテラン遊女乙前(七十二歳)の神がかった美声を想像し、陶然となった。芸術はあらゆる境界を越えていく。今となっては誰も知らない今様のメロディをどうにか復元できないものか。誰か映像化してほしいな。

本の画象

講談社学術文庫(980円+税)
2017年7月刊
岡田 睦著
『明日なき身』

 作者は1932年生まれ、芥川賞候補にもなった作家。三度目の妻と離婚の際、自殺未遂。うつ病を抱え、生活保護を受けるが、2010年以降消息不明。ささいなものも見過ごすことができないナイーヴさ、教養に裏付けられたユーモアがあふれる。鬱屈の中の矜持がまぶしい。退路を断ち書く男、岡田睦の魂を私は抱きしめたい。

本の画象

講談社文芸文庫(1500円+税)
2017年3月刊

田中俊弥の推す2冊

山本純子著
俳句とエッセー 『山ガール』

 俳句もエッセーも、ことばのセンスが問われる文芸である。「このごろを/ころっところがすと/このごろは/ちょっところがっていって/しゃがんで/風に吹かれて/涼しい顔をしている」「それで/もうすっかり秋なんだな/と思う」は、詩「このごろ」の冒頭。山本純子さんのことばは、どれも、にこやかで、しなやかである。

本の画象

創風社出版(1400円+税)
2017年8月刊
人類史研究会編
図解 ホモ・サピエンスの歴史』

 バス待ちの時間にコンビニに立ち寄ると、入り口近くの奥側に本棚があって、こ のごろ流行の本や雑誌に目を留めることがある。そうしたなかで見つけた1冊が 本書である。ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』(2016)を下敷きに していて、見開きの見出しごとに、目から鱗情報が満載で、さすが宝島と首肯し た次第である。

本の画象

宝島社(741円+税)
2017年7月刊



2017年8月28評委員会

赤石 忍の推す2冊

高橋 敏著
『一茶の相続争い』
―北国街道柏原宿訴訟始末―

 一茶とは何者か。ヒューマニックな俳人の姿をひとまず置き、北信濃柏原村百姓弥太郎という側面から解き明かしていく。そして、そのベースとなる柏原村・柏原宿が、どのような村落行政の中で運営されているのかも同様に、公文書等から分析する。弟との凄まじい相続争いに勝ち、共同体から疎外されてもしたたかに生き抜いていく弥太郎一茶。その姿が一級資料の中で赤裸々に描かれ、とても興味深い。

本の画象

岩波新書(760円+税)
2017年8月刊
大谷哲夫著
『道元「宝慶記」全訳注』

 買ったが、実はまだ読んでいない。ただ、この夏休み、故立松和平氏の『道元禅師』を読んだ。小説家としての読ませる工夫とともに、氏が生前、勉強中と言っていたように、道元もしくは弟子著作からの引用が多い。しかも自分の理解の進展に伴って、道元の言葉を噛み砕いて読者に説明している。それでも私の理解が乏しいのか、その意味は余りにも深い。と言うことで、本書で再度、道元の言葉に触れてみようと思う。

本の画象

講談社学術文庫(1150円+税)
2017年8月刊

舩井春奈の推す2冊

神田 桂一・菊池良著
『もし文豪たちが
 カップ焼きそばの作り方
 を書いたら』


 題名だけで出合った本。文豪には、漱石もドストエフスキーもいる。詩歌関係では中也もいれば、尾崎豊や星野源もいる。例えば、中也なら湯切りを「どしやぶりの湯が捨てられて」と表現するのでは、と記す。それにしても、これほどカップ焼きそばの作り方ばかり読んでいると、作ったことのない私でも説明を見ずして作れそう。

本の画象

宝島社(980円+税)
2017年6月刊
エイミー・クラウス・ローゼンタウル文
トム・リヒテンヘルド絵/高橋久美子訳

『おかあさんはね』

 母から子への暖かな思いが綴られ、世界中で愛されているこの絵本。日本語版は後輩が翻訳した。もう一人の画家である後輩は目を細めて語った。「この絵本を出産祝いにしようと思って。」そうだ、母と子それぞれに深い絵本なのだ。差し迫り、来週には親友が第一子を産む予定。新しい命が充実した毎日になれるよう、もう一冊。

本の画象

マイクロマガジン社(1500円+税)
2017年5月刊



2017年8月21日号(e船団書評委員会)

香川昭子の推す2冊

リチャード・ブローティガン著/福間健二訳
『ブローティガン東京日記』

 〝ああ 1967年6月1日 午前0時1分だ ぼくたちが死者となったあとに 生きるすべての者たちよ ぼくたちはこの瞬間 ぼくたちはここにいると知っていた〟
 日本に滞在した1ヶ月半の日記のような詩集の再刊。「日本の俳句詩人一茶をたたえる」という題の詩。〝日本の飲み屋で 酔った へいき だよ〟訳は575だけど。

本の画象

平凡社(1300円+税)
2017年4月刊
福田貴大著
『おんなのこはもりのなか』

 作者は1985年生まれの演劇作家。認識や常識なんて簡単に覆す女子への尽きない興味。日々振り回され、悶々としながら、うでの毛、目やに、口内炎などの、ちょっと変なものから、女子への愛しさやら妄想やらを書いている。母や祖母も、時にはおんなのこだったりする。ひとりごとみたいなものがどんどんふくらんで文になっている。

本の画象

マガジンハウス(1300円+税)
2017年4月刊

原 ゆきの推す2冊

金子兜太・いとうせいこう著
『他流試合
 ―俳句入門真剣勝負!』


 やっぱり季節というのは怖いものだと思うでしょう、と、この対談集での兜太氏の発言。季節への感覚は事物の薄皮を剥いて鮮やかにしてくれる、季語はお喋り過多にならず一句を委ねられる便利なもの、と思っていたが、兜太氏は、そこが落とし穴みたいに思える、と指摘。まずは吃驚。便利と思った自分を疑おう。まだ考えるぞ。

本の画象

講談社+α文庫(890円+税)
2017年2月刊
小川洋子編著
『小川洋子の陶酔短篇箱』

 仮に、あてどない駅員さん、なんてものが存在するとして、そういうのは何だか困る、という気がする。あてどない店員さん、先生、どれもちょっと困るな。でも生きていくのに邪魔な、あてどないことを思う人が私は好きなのだ。小川洋子さんの選ぶ16の短篇には、そういう人ばかりが出てくる。読むほどに帰り道を見失いそう。

本の画象

河出書房新社(860円+税)
2017年6月刊



2017年8月14日号(e船団書評委員会)

若林武史の推す2冊

河出書房新社編集部編
「文藝別冊」総特集 『俵万智』
史上最強の三十一文字

 まず表紙の写真が『サラダ記念日』の表紙を真似ていていい。穂村弘との鋭い対談、多様な寄稿、論考があり、読み応えがある。『サラダ記念日』刊行30周年記念のようだが、俵万智は歌壇において現在進行形の歌人なのだと実感した。再録だが、小林恭二との「短歌は俳句を嫉妬するか」という対談が興味深かった。

本の画象

河出書房新社(1300円+税)
2017年6月刊
POPEYE特別編集
「本と映画のはなし。」

 様々なジャンルのクリエイターが、自身が触発された本と映画を紹介している。どちらかと言えば、本寄り。普段あまり目に触れない世界の方々による本の紹介だったので、知らない世界を覗き見た感じがした。複数の人が伊丹十三を取り上げていたのが、とても印象的だった。

本の画象

マガジンハウス(815円+税)
2017年8月刊

今泉凡蔵の推す2冊

今西祐一郎著
『死を想え』
『九相詩』と『一休骸骨』

 メメント・モリ、人の屍が朽ち果ててゆく様を九段階に描いた図に伝蘇東坡の詩と歌二首。
 鳥へ山すてにし人のあとゝへは
   塚にのこるは露のこんはく
 その朽ちてゆく絵が凄まじい。比して一休骸骨には諧謔がある。芭蕉は続猿蓑(雑秋)に骸骨が笛鼓で遊ぶ絵をみて、夢うつつを詠む。
 稲づまやかほのところが薄の穂  はせを
(清濁は原著ママ。和歌は本書、俳句は岩波書店)

本の画象

平凡社(1000円+税)
2016年12月刊
大竹英洋著
『そして、ぼくは旅に出た。』

 著者・写真家は、見たこともないオオカミを夢に見て、幻に誘われるかのように北米ノースウッズを目指す。そこに写真集『ブラザー・ウルフ』著者ブランデンバーグがいるからだ。魂の呼び声に従い、なんの後ろ盾もなく約束もないまま、一歩を踏み出してゆく無謀なまでの生き方に感銘。シャッターの一押しは俳句の切れに似ている。

本の画象

あすなろ書房(1900円+税)
2017年3月刊



2017年8月7日号(e船団書評委員会)

宇都宮さとるの推す1冊


アンディ・ウォーホル著/野中邦子訳/福田尚代編

『アンディ・ウォーホルのヘビのおはなし』

本の画象

 ポップアートの巨匠・ウォーホルがグラフィックデザイナー時代に残した幻の絵本。主人公のヘビが奇想天外に七変化する他愛のないお話しだが、煌くような黄色を基調としたイラストとスタイリッシュな機智と諧謔に富んだ展開は、半世紀以上たった今も新しくて、刺激的だ。少し飛躍するが、今の俳句にこの絵本のように時代を超えて人を魅了する独創的で自由溢れる感性があるだろうか、と思う。ポップとは、アートとは、そして自由とは、考えてみたいテーマである。なぜなら、この一冊が置かれているだけで部屋が明るくなるから。

河出書房新社(2000円+税)
2017年5月刊


鈴木ひさしの推す1冊


酒井紀美著

『夢の日本史』

本の画象

 それぞれの時代を生きた人々は、夢をめぐるどのような「文化的装置」を創り出し、使ってきたのか。夢は、自分の「外から」ではなく、心の奥深いところや、脳の生み出すイメージという「中から」やってくるのだ、と、大多数の人々が考えるようになったのは、日本では明治以降のことであるようだ。『石山寺縁起』に描かれた、石山寺礼堂(外陣)に参籠通夜する人々は、確かに、今日のネットカフェの客に似ているかもしれない。夢といえば夏目漱石『夢十夜』。夢は「外から」来るのか、「内から」来るのか……、『夢十夜』には、夜ごと訪れる夢に対して、不安と混迷を抱え込み、向き合わなければならなかった近代日本人の様子が、描かれているのだと著者は見る。岡倉天心の「夢を釣りに海へ出る」話、こんな「ことば」があったのか、と思う。どこまでが自分の「中」といえるのか、どこから「外」なのか、……心身ともにあいまいである。

勉誠出版(2800円+税)
2017年6月刊



2017年7月31日号(e船団書評委員会)

武馬久仁裕の推す2冊

荒川源吾歌集
『青の時計』

 歌人は88歳。果たして歌人と同年齢になった時、なおもこのようにじたばたしておられるであろうか。「人妻を奪ふ思ひの激しさのかつてあり今なしとは言はず」そして、「ゆくりなくゆくりなしいくつ重ねて合ふべき人といつもすれちがふ」と、88年間不首尾にもかかわらず、合いたい人との不意の出合いをなおも待ち望む歌人なのだ。執拗な生の軌跡が見えてくる歌集である。

本の画象

私家版(1200円+税)
2017年6月刊
大湯邦代歌集
『玻璃の伽藍』

 生の刹那を歌い上げた歌に満ちている。「あらざらんこの世のほかを思い見よたまゆら揺るるカクテルの紅」。そして、世界は生きている、官能的に。「ぴったりとチャイナ・ドレスを纏いたる夜を零れよ罌粟の花びら」。しかし、この世界は、「醒めやらぬ宵の深みに捨てられし煙草が二月の小雨にくゆる」淋しく儚げな世界である。歌集は、一月ではなく二月の歌集であった。

本の画象

コールサック社(1800円+税)
2017年6月刊

塩谷則子の推す2冊

渡辺京二著
『日本詩歌思出草』

 芥川龍之介の私も好きな「相聞」など。久しぶりに詩を読んだ。石牟礼道子の詩「花がひらく」から「この世はイヤだとぐずり泣きしている幼女が現われる。」嫌なこの世を気高く生きるため道子は『苦海浄土』を書いたのだ。漢文素読の会で一緒に学んだという。詩を書き続けるには、勉強と書く習慣が必要と述べる意見には説得力がある。

本の画象

平凡社(1900円+税)
2017年4月刊
大阪俳句史研究会編
『大阪の俳人たち 7』

 大阪の、とあるが関西にゆかりのある俳人列伝。虚子・和露・啼魚・放哉・多佳子・小寺正三・桂信子・森澄雄・山田弘子・摂津幸彦論。力作揃い。俳壇から距離があった小さな同人誌や『ガロ』のつげ義春の漫画が幸彦のシュールな感覚を伸ばしたという伊丹啓子の論も面白い。今後貴重な証言となるだろう。50年前のことはもう歴史だ。

本の画象

和泉書院(2600円+税)
2017年6月刊



2017年7月24日号(e船団書評委員会)

静 誠司の推す1冊


嵐山光三郎著
『芭蕉という修羅』

本の画象

 前作の『悪党芭蕉』(2006)も当時話題になったようだが、残念ながら未読。とにかく著者は芭蕉という人物のリアルな姿を再現しようとしている。「俳聖」という言葉で美化され神格された姿ではなく、世に名を馳せようと必死で生きている一人の人間の姿を。この作品が学問的にどれだけ認められるものかどうかは素人には分からないが、読みものとしてとても興味深い内容であった。松尾芭蕉という人間が初めて骨肉を伴った現実的な像で捉えられたような気がする。水道工事監督(初めて知った!)として、幕府隠密(よく聞くところの)として、そして最高の俳諧師として生きようとする芭蕉のそれぞれの生き方が一本の線でつながった。力作である。

新潮社(1600円+税)
2017年4月刊


紀本直美の推す2冊

津村記久子/さく
『まぬけなこよみ』

 「ポトスライムの舟」で芥川賞を受賞した作家の、歳時記をテーマとしたエッセー。子どもの頃について多く書いたのは、現在の生活が季節感とかけ離れているから。季節を感じるということが難しい時代のぬるい歳時記。

本の画象

平凡社(1500円+税)
2017年4月刊
アーサー・ビナード/作 スズキコージ/画
『ドームがたり』

 広島の原爆ドームが主役の絵本。原爆の悲惨さをスズキコージが描いている。今までの原爆関係の絵本だと悲惨さを訴えて終わりなのだが、この絵本はそれだけでは終わらない。この夏、ぜひ多くの人に読んでもらいたい絵本。

本の画象

玉川大学出版部(1600円+税)
2017年3月刊



2017年7月17日号(e船団書評委員会)

太田靖子の推す1冊


森まゆみ著

『子規の音』

本の画象

 子規のあらゆるジャンルの作品を日付順に読んでみたいという願望から著作された。書簡に添えられた俳句は書簡と共に読む。著者は、既存の子規の伝記や子規の随想・俳句により子規を生きるが、漱石、鴎外、逍遥、露伴、鳴雪など周囲の人たちへの寄り道も止まらない。文章には子規と同様メモ魔の表情が。「はてしらずの記」に従い、『奥の細道』を旅でたどり、子規が滞在した場所で同じ感慨を抱く。子規の時代のことを語っているかと思えば、昭和の著者自身の話題に移る。時代を超えて子規と交感する。時間をかけてゆっくり味わいたい本。短い随筆「夏の夜の音」も読んでみたい。本書で最も気になった俳句「寝て聞けば上野の花のさわぎ哉」

新潮社(2100円+税)
2017年4月刊


田中俊弥の推す1冊


中原幸子著

俳句とエッセー『ローマの釘』

本の画象

 このブックレビューでいつもたいへんお世話になっている中原幸子さんの本が届 いた。なによりタイトルが洒落ている。香りの研究者として長くお仕事をつづけ られていた理系の中原さんだからこその香りや日常を題材とするエッセーは、ど れもみずみずしくて秀逸。幼子のように純粋な好奇心と探究心はモノの世界、コ トバの世界、俳句の世界にストレートに分け入っていく。「雷雨です。以上、西 陣からでした」「満場ノ悪党諸君、月ガ出タ」が双璧かと思慮するが、「君五歳 うらもおもても空も夏」「涙が次のページに落ちて夏の暁」「水澄めりときに苦 しき本を読む」「二時三時四時五時六時鰯雲」「シーラカンス抱きしめるしかな いか、月」など、珠玉の輝きを放っている。

創風社出版(1400円+税)
2017年6月刊



2017年7月10日号(e船団書評委員会)

舩井春奈の推す2冊

宇都宮さとる句集
『蝦蟇の襞』

 ひと言でまとめると普通の句集ではない。なんだか変わっているな...からアレ?アレレレレ?あっという間にすごい変わってる!に変化する句集。中には名句どころかキャッチコピーまでパロディッて挑戦している。ジワジワくるおかしみ、クスリ笑うおかしさ。そして紫野句会近くにある洋食屋も出てきて空腹感に苛まれる一冊。

本の画象

SOU出版(1800円+税)
2017年5月刊
やまさきじゅんよ絵・文
『とくしまからきました』

 徳島へ越す挨拶をしたら、よく「徳島へ戻ったところで何もないのに」と言われたものだ。そう、この絵本の主人公が頭を抱えるとおり、「なにもない」。
 ほなけんどな、主人公と一緒に考えてみたら、ようけことあるんじょ。ほなけん全国の人にもこの絵本読んでもらいたいもんじゃ。まぁ四国の位置から覚えたってなー。

本の画象

郁朋社(1300円+税)
2017年1月刊

松永みよ子の推す2冊

北大路翼句集
『時の瘡蓋(かさぶた)』

 新宿歌舞伎町「屍」(しかばね)派家元を名乗り、夜の街で句を詠む北大路翼39歳の最新句集。(NHKで、生きづらい若者に俳句の楽しさを伝える筆者が紹介されていた)デカダンスの中からあふれでる純情さは、異端というよりむしろ日本文学の正統派かも。「息白く我が為すことのみな自傷」「懐手自分に触れてゐたくって」

本の画象

ふらんす堂(2000円+税)
2017年5月刊
東 雅夫編/谷川千佳絵
文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション
『恋 川端康成・江戸川乱歩ほか

 「攻めてるな~」と言わずにいられない、編者東雅夫氏(元「幻想文学」編集長)のセンスが光る一冊。言葉にするのが難しい皮膚感覚の妖しさにぞくぞくひりひりし、心ごと異世界にもっていかれてしまった。特に「西鶴諸国ばなし」をモチーフに、鯉女と男の情痴を描いた、小田仁二郎の『鯉の巴』には完全ノックアウトされた。

本の画象

汐文社(1600円+税)
2017年2月刊



2017年7月3日号(e船団書評委員会)

原 ゆきの推す2冊

小池昌代著
14歳の世渡り術
『ときめき百人一首』

 一首ずつの現代語訳と解釈に読み応えあり。「春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山」は「夏が来た、その瞬間が、翻る白い衣のイメージでとらえられています。(略)山の緑に、白い衣、そして抜けるような一面の青空。(略)読むだけで視力がぐんとアップするよう(略)」と印象鮮明。一首がぐっと近づいてくる。

本の画象

河出書房新社(1300円+税)
2017年2月刊
大井田義彰編
『教師失格』
夏目漱石教育論集

 漱石の教育にかかわる文章、談話、講演録等を集めたアンソロジー。自身の不勉強、落第、文学を学ぶ空虚、糊口の口を求めたに過ぎなかった教職、流行の学説の尻馬に乗ったこと、その末の不安。そしてそこからどのように進もうとしてきたか。その言葉はあまりにも率直で、清らかささえ感じる程。生活に追われる身に深く響く。

本の画象

東京学芸大学出版会(1500円+税)
2017年4月刊

赤石 忍の推す2冊

いとうみく作/酒井駒子画
『カーネーション』

 最近刊行された児童書を二冊ご紹介する。一冊目のテーマは「ネグレクト」。親が子を生理的に愛せないという問題である。今や我が子に愛情を注げないという事象は、それほど特異な事ではなくなってきているのだ。だが、この問題には明るい結末が見えない。粘着した嫌悪の感情を引き剥がすのは、それほど安易な事ではないから。児童書も顕在化してきたこのテーマに、取り組まなければ時代を迎えている。

本の画象

くもん出版(1400円+税)
2017年5月刊
戸森しるこ著/佐藤真紀子絵
『ぼくたちのリアル』

 本書の底流に流れているのは、現代的テーマ「LGBT」。つまり、同性愛、両性愛、性不同一性の問題である。私の少年時代にも差別的に囃し立てられた子ども達は確かにいた。果たして彼等はそのような問題を抱えていたのかもしれない。しかし現代では、存在として認められるべき権利を保有している。そして児童期から正しく適切に理解できるよう、学校現場でも地域のかかわり合いの中でも取り組む必要があるだろう。

本の画象

講談社(1300円+税)
2016年6月刊



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