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5月 3日  谷さやん       5月13日
5月10日  星野早苗       5月20日
5月17日  須山つとむ       5月27日
5月24日  秋月祐一       6月 3日
5月31日  山本たくや       6月10日
6月 7日  内野聖子       6月17日
6月14日  中居由美       6月24日(最終)

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2020年4月8日

秋月祐一ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 3月末、東京では桜が満開の時期に雪が降りました。新型コロナウィルスの影響で、外出自粛の要請が出ていたため、写真を撮りに行けなかったのが残念です。さて今回は170句の中から。

【十句選】

草餅や自分の機嫌とりませう   まつだまゆ
 気ぶっせいなことがあったりもするけれど、草餅を食べて、自分の機嫌をとろうと思ったのでしょう。「草餅」が自分の機嫌をとっているイメージも浮かびます。

春霙師とは野生の距離保つ   短夜の月
 「師とは野生の距離保つ」という発想のユニークさと、季語「春霙(はるみぞれ)」の美しさが、みごとに響き合っています。私自身もかくありたい、と思いました。

重そうな一重まぶたや鳥雲に   マチ ワラタ
 この取り合わせは、感覚的によくわかる気がしました。それは、まぶたの開閉と鳥を見上げる視線の、垂直方向の動きが自然と重なっているからなのかも。

後ろ姿閉じゆく枝垂れ桜かな   藤井美琴
 「かな」で仕立てられた、枝垂れ桜のことを詠んだ句だと思いますが、自分の人生の後ろ姿をそっと閉じてゆく人、というイメージが同時に浮かびました。

万愚節音なく蕎麦をすする人   たいぞう
 意識的に音を立てないようにしているのか、自然に音なく食べているのか。いずれにしても、不思議な感じのする光景。「万愚節」と和風の蕎麦の取り合わせも面白い。

春昼の練り羊羹の中の闇   せいち
 この闇は、どこよりも濃そうな闇ですね。もしかしたら、三時のお茶とともに、練り羊羹を食べるひとときだけが、心の平穏なのかも。そう思うと凄みがあります。

三合は炊きすぎですか木の芽和え   まるめ
 なによりも米の飯が好きな方なんでしょうね。毎日、三合食べてしまうのかしら? 木の芽和えは、ごはんよりも酒の肴に向いていそう、と思った私は左党です。

力士には見えぬ小食や花菜漬   菊池洋勝
 図体に似合わぬ「小食(こぐい)」の力士、というイメージに面白さを感じました。ちゃんこや焼き肉ではなく、花菜漬を食べているというのも、意外性があります。

春来る山羊が飼いたくなる病   抹茶金魚
 春は何かをしたくなる季節。その衝動に「山羊が飼いたくなる」という具体をあたえたところが、いいですね。リアルでありながら、どこかシュールな願い。

地にでこぼこ空もでこぼこ山笑ふ   二百年
 山の端と山際の差を、たくみに捉えた一句ですね。おだやかな口調でくり返される「でこぼこ」と、「山笑ふ」との取り合わせから、上品なユーモアを感じました。


2020年4月1日

須山つとむドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 気分を変えてみようと、土筆摘みに出かけたり、近くの里山を歩いたりします。ゴルフ場のフェンスに沿って歩くと、馬酔木の白い花、壇香梅の黄色、淡い桜色の江戸彼岸桜など、一度に春の花々と出会います。 さあ、みなさまの何色の『花』に出会えるのでしょう。

【十句選】

著莪の花閂開けて招かるる   まゆみ
 土塀がつくる日陰に沿うように、著莪の花が慎ましく咲いている。古い木戸を叩いて来訪を告げて待つと、下駄の音に続いて閂の軋る音がした。( 注意:著莪の花は夏の季語です )

椿かと思えば落ちる椿かな   マチ ワラタ
 朱色がとび散る黒い大きな繁みからバサッと鳥が飛び立つ。身構えたその一瞬、手を広げるように、真紅の花弁が地に沈んだ。体と心とのたじろぐ一瞬を、スロービデオで可視化した。

まわり道してみたくなる春の野辺   冨士原博美
 記憶の中で、あるいはイメージの中で生き続ける『春の野辺』は、誰もが持っているはず。みよちゃんを追いかけたあの『春の野』は、きっとこの句のような時空を見せるはず。

蝶生る少女は街で髪を切り   たいぞう
 『取り合わせ』の妙味に惹かれ印象に残る句。中七を『少女が』、下五を『髪を切る』と助詞を変化させると、句の姿はどう変わっていくだろうかなど、この句に対する興味はつきない。

大輪の今なる軽さ種袋   たいぞう
 一瞬、ハテナ? と句意に迷った。が、手にする種袋の軽さから、咲き誇っていた大輪の姿を回想する景かなと解読。想像する空間の広さ、流れる時間の大きさを楽しませる。

春東風や空き缶川をさか上る   まこと
 重みを持つ季語『東風』と、流れをさか上る空き缶への着眼がユニーク。かつ愉快。でも、『春東風』の『春』は季語として誤り。『東風ふいて』など、新しい季語を工夫してみては。

ポケットに小さきハモニカ蝶の昼   彩楓
 唯のハーモニカでは無い、ポケットの中を転がるかわいいサイズだ。昼の蝶では無い、蝶が舞い浮きうきするような昼下がりだ。言葉の使い方(措辞)が吟味され、俳句が詩となった。

黄水仙活けて明るき集会所   みなと
 世情もあって、明るい話題の途絶え勝ちな会議室に今日、黄水仙が活けられた。鮮やかな黄色から芳香がただようと、若いママさんたちの楽しげな会話が行き交った。

地べた打つ大縄跳びや春の雲   ヤチ代
 地面とは言わず、『地べた』と。この俗っぽい言い方がこの句に春の息吹きをもたらした。冬の季語『縄跳び』が春の小道具に変身した。峰に浮かぶ白い雲は、春の主役を演じ始めた。

手をひらく春のひかりのあふれだす   じゃすみん
 ボッティチェリの絵画『春』を連想した。ひらかれた三美神の手から溢れでる春の光は、世界の誰もが安らかに暮らせる日々の到来を信じさせてくれる。

【注目した5句】

霙して耀ふ春の街となる   藤井美琴
 「みぞれして」「かがよふ」などと、古風な音感と遊んでみるところが、なぜだか楽しい。

ぶらんこはいけないものと思います   干寝区礼男
 春です。少女には淡い性への目覚めが。ぶらんこにはつい、このイメージがつきまとって。

着眼を褒めらる凡句山嗤ふ   素秋
 本句こそ、機知に富んだ着眼。『山笑う』として、表記の軽さにも一度試みを。

吾子の描きし架空人物春の風   ちづ
 季語『春の風』が働いて、四字熟語『架空人物』にリアリティーが。『吾子描きし』でもOK。

春昼や笑ひつつ基礎工事中   吉野利美子
 感染禍の一斉報道。会話が外国語の作業者。こんな世情を明るく、ユーモアで切り取った。


2020年3月25日

星野早苗ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 コロナウィルスによる新型肺炎が収まらず、不安な春です。皆さま、いかがお過ごしですか。
 私は、一人散歩をしています。いつも歩かない道を選ぶようにしていますので、行き止まりだったり、抜け道があったり、結構冒険です。先日は、「カルガモの親子をあたたかく見守ってください」という立て札を見つけました。いつのまにか、川にカルガモが来ていたのですね。私はまだ見たことがないのですが、カルガモ親子に早くお目にかかりたいと思っています。
 さて今回は、175句の中から。

【十句選】

囀や妻の小さき老眼鏡   たいぞう
 最近はおしゃれでカラフルな老眼鏡が売られていますね。妻の眼鏡も、老眼鏡とはいえど、小さくて愛らしい眼鏡なのでしょう。妻も小柄で愛らしい人。囀りとの取り合わせがそう思わせます。

ワニ園の皆口開くる朧かな   ちづ
 ワニ園のワニがみんな口を開けています。朧夜なればこその幻想的な光景です。熱帯のワニの朧夜の生態に不思議なリアリティを感じました。

イヤホンを外せば囀りの真中   古都ぎんう
 イヤホンで音楽を聴きながら歩いていたのでしょう。目的地に着いてイヤホンを外したとき囀りが賑やかに聞こえてきました。「囀りの真中」という場面の転換が見事です。

オカリナにのこるイニシャル春の風   ふわり子
 イニシャルは誰のイニシャルだったのでしょう。自分のものでも、あるいは身近な家族のものでも、イニシャルと共になつかしく思い出す人がいたのですね。オカリナの音色と春の風もよくあっていると思います。

彼岸西風故郷のなまり消えぬまま   京子
 彼岸西風(ひがんにし)は文字どおりお彼岸の頃に吹く西風です。他郷で一生を終えることになっても、ふるさとの訛が消えない。望郷の念で書かれた句だと思いました。

しやぼん玉飛ぶ貸切りのjazz喫茶   鷲津誠次
 ジャズ喫茶という大人の空間で、シャボン玉が飛んでいるというシチュエーションが新鮮です。ステージの演出の一つとしてのシャボン玉なのでしょうか。貸し切りなので、観客の中に子ども連れの家族がいたのかもしれませんね。

じゃが薯を植ゑてめぐみの雨となり   まこと
 種でも苗でも、植えつけの後の雨は恵みの雨です。土中にあるジャガイモの存在感がいいですね。学校園でも切り口にわら灰をまぶして芽を上にして3月初旬に植えつけます。

啄木のロ−マ字日記春ともし   みなと
 1909年4月から始まる啄木のローマ字日記。ローマ字で書いたがゆえの率直なその記述を、春ともしの下で読み進めているのでしょう。ぎりぎりの生活を記した日記の切実さを、春ともしが心なしか和らげてくれているように感じられます。

つばめ來る休校つづく小学校   中 十七波
 休校は、昨今のコロナ禍のせいでしょうか。休校の続く小学校に燕がやって来ました。燕は人間社会と関わりなく、春になればやって来ます。春が来ても子どもたちの来ない小学校がよけいに寂しく感じられますね。

楕円なる宇宙の切手鳥帰る   紅緒
 いろいろな形のシール切手が売られています。かつての記念切手だけではなく、美術や写真の切手もあり、中に宇宙の切手もあったのでしょう。楕円形の切手と渡り鳥とはよい取り合わせだと思いました。

【その他の佳句】

アイフォンを傾け菫撮る少女   太郎

風誘はんと手作りの春帽子   みさ

天ぷらのたらの芽苦し甘し濃し   マチ ワラタ

春休み錘に刺されし息子かな   宮武桜子

入院の荷物に句帖シクラメン   冨士原博美

うららかや不意に定住したくなり   酒井とも

ペンギンは一夫一妻四月馬鹿   幸久

亀鳴くや洗濯物の良く乾き   みなと

給食に生徒の摘んだつくしんぼ   中 十七波



2020年3月18日

谷さやんドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 先日、町なかを歩いていましたら、利用したことのあるイタリアン料理店の貼り紙が目に入りまりた。奥の方には明かりが見えたのですが、このところの時世の影響で休業かしらと気になって近づいてみましたら「申し訳ありませんが、本日はご予約で満席です」という断わりでした。ちょっとうれしくなりました。ワインを楽しめる小さな店に、私も誰れかれとなく集まりたい気分になりました。
 谷さやんの「今週の十句」は、先輩たちからバトンを受けて五年が過ぎました。次回、五月三日締め切りのご投句で最後になります。さらなるすてきな俳句をお待ちして、私の最終回を迎えたいと思います。

【十句選】

豆乳鍋にパスタ菜の花蝶に化す   うさの
 同じような形の季語に「鷹化して鳩となる」、「雀蛤となる」などがあるだろう。中では、この句に置かれた「菜の花蝶に化す」は、目に見えてわかりやすい。いかに豆乳鍋パスタが旨いかを、この季語が現している。私は、豆乳鍋にパスタを入れたことがなかったので是非試してみようと思った、ほど美味しそう。

義理チョコのお返しですと種袋   まつだまゆ
 もし「義理チョコのお返しです」がすべて相手のセリフだとすると、なんだか愉快な場面。渡す方は義理チョコだとは口にしていないはずなので。しかも、お返しとして「種袋」を差し出されている。意外なお返しに喜んでいるのか戸惑っているのか、その表情もつかみ難くて愉快なのだ。

水色の空あるばかり鳥の恋   まゆみ
 ひたすら求愛を続ける鳥たちにあるのは、水色の空ばかり。下界のことは関心なし。うまく言えないが、隙を衝かれたような、とても気持ちの良い「鳥の恋」の句。

渓流の水に水の乗り蕗の薹   太郎
 春の水の豊かさが「水に水乗り」で立ち現れる。ほとりに芽を出した蕗の薹の緑に、渓流の水の色が染まるようだ。

夜の梅誰か雄蕊を黙らせて   短夜の月
 梅の花の、雌蕊が梅の実になる。周りを囲む長い雄蕊がうるさい、とこの人は苛立つ。極まる夜の静けさと孤独を感じさせる。近寄りがたいほど、神経が過敏になっている。

春の夜の歩けば緩む靴の紐   マチ ワラタ
 うるうるとした春の月に呼応しているような、靴の紐の緩み。緩んだままに歩こう、という気分か。「春の夜の」を「春の夜」と置いて、ゆったり詠んでもよいかと思った。 同じ作者の<雪の果コンディショナーを詰め替える>も好きだった。

デッサンの睫毛に春の日影あり   藤井美琴
 簡潔なデッサンならば、睫毛は太くくっきり伸びていそう。そこに春の日影が生まれているという。睫毛が日影そのもののようにも見えて、春陽が射す白い画布あるいはスケッチブックの明るさが際立ってもいる。

三月や文机の向き変へてみる   たいぞう
 「文机(ふづくえ)」のイメージから、パソコンを置いていっぱいになるくらいの広さを想像する。両手を広げて机の端を掴んで、向きを変えることができるような机。この句を読んでから、そんな机が欲しくなった。春が兆す三月だからだ。

春の陽や前髪切って眉さらす   まるめ
 「前髪切って」は、俳句ではよく見る。それだけに最後に置かれた「眉さらす」の「さらす」が、月並みの想像を裏切って、痛快だった。

春めいて腹筋触り合う君ら   たっか
 まだ居残る寒さの中でも草木の芽吹きや太陽に、春めく気分を味わう日々。心身ともに誰かに触れたくなる気持ち、わかる。腹筋の具合を、じゃれ合っている触れあっている場面を想像した。

【気になる句】

痩せ速き啓蟄の白絵具かな   比々き
 啓蟄と白絵具の取り合わせが、とてもいいと思いました。ただ、「痩せ速き」という巧みで性急な表現が、かえってその取り合わせの鮮度を落としている気がして勿体ないと思いました。

風光るあなたの髪を染めてゆく   えふ
 光る風が「あなた」の髪をどんな風に染めていくのだろうか。風色なら素敵ですね。「染めてゆく」が気分で終わってしまって、惜しいです。あと一歩読み込んで作り込んでみてください。

1,012ヘクトパスカル春の咳   干寝 区礼男

我が身よりひとひらの羽寒昴   勘太郎
 ダウンコートがよぎりました。そうでなければ、我が身の何処から羽出て行くのかを述べた方がいいかも知れないなあと思いました。


2020年3月11日

久留島元ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 新型コロナウィルス感染症発生の影響により、各地で句会やイベントの自粛が続いています。ニュースも連日、陽性反応が出た患者の動向を追いかけ回したり、国の方針に一喜一憂したりしていますが、政府方針と専門家の見通しが分かれたりすると、どうしたらよいか困ってしまいますね。六月には「船団」解散、HPの終了も近づいているのに、先行きが見えないので不安ですが、今はしっかり情報を見極め、各自が自衛に努めるべきときでしょう。
 さて、昨今の報道にあわせて、コロナウィルスを詠み込んだ句が何句かありました。本コーナーで何度か書いてきたとおり、起きた事件をそのまま書いても説明にしかなりません。そこに作者ならではの気づきや、おかしみを見出すことが重要です。ところが時事報道ネタは、多くの人が同じような印象、反応をもつことが多いので、ワイドショーや新聞記事の結論と同じになってしまい、一句として成功が少ないのです。

【十句選】

ウィルスは人から人へ菜の花へ   遊飛
 コロナウィルス関連の句で、意外な展開を見せたのがこの句。ウィルスも、免疫のない人だから重症化して大変だけど、菜の花と一緒に春を迎えてくれればいいのですが。

ぽこあぽこ蝌蚪の生まれるおまじない   紅緒
 ポコ・ア・ポコはフランス語で「少しずつ」。音が面白いのでお店の名前などにもよく使われていますが、口にするたび、おたまじゃくしが少しずつ生まれるのだと言われれば納得。

回診は7時の主治医木の芽吹く   茂
 時間、時季の限定がよいですね。入院患者の不安と信頼と、いろいろなものを背負った「木の芽吹く」。

うららかやこの猫なんとなくミゲル   短夜の月
 なんとなく、なので、異論は認められません。うららかでおおらかな句と思います。

春寒し電子レンジで作る白湯   青田奈央
 やや説明的=理屈っぽい句ですが、現代の風景が上手く切り取られているのでよいと思います。

猫撫でて今日の議題の蕗の薹   酒井とも
 なんとものんびりとした会議。議場は縁側でしょうか。

おのおのに佐保姫の来て物語る   藤井美琴
 佐保姫は春の女神。もともと物語性のある季語なので下五で何を言うかがポイントですが、この句は何も言っていないのに、それぞれの読者に想像がひろがる。巧妙です。

囀りや米屋の水車なめらかに   鷲津誠次
 気持ちのよい俳句です。印象派の絵という印象です。

白梅の引力坂を月上がる   いづみのあ
 白梅に引かれて月が昇ってくるのでしょうか。楽しい光景、これも絵になりそう。

トイレ出る二月みそしる口を焼く   干寝 区礼男
 トイレから出て、急に味噌汁。排泄と食事。余寒のなかで、熱すぎた味噌汁。わびしさと、生々しさがあります。

【選外佳作】

オーダーの靴晩秋の御堂筋   遊飛
 単語を並べただけですが、颯爽と歩くビジネスマンという感じ。ややレトロですがかっこよさ。

三椏の千の蕾に千の鬱   ちづ
 中七下五と類想類句ができそうですが、三椏の密集した感覚と春愁の候にうまく合います。

グリコのおまけ並ぶ窓ヒヤシンス   ふわり子
 なかなかオシャレですが、なぜ「ヒヤシンス」を上五にしなかったのか。リズムからいっても、今の句はかなりもたつきます。

ポンペイの遺跡の朝や黄水仙   百合乃
 実景とのこと、スケッチとして決まっています。

ふらここや嫌はれたつていいぢやない  比々き
 季語と、少し教訓的な言い回しとの取り合わせ。セオリー通り、というところです。

遅い春まだもらえない合鍵は   茜
 若者の恋愛。遅い春という季語の口語的な使い方がいいですね。

気がかりと気楽のバランスいぬふぐり   瀬紀
 中八のもたつきをふくめ、やや既視感のある単語を並べた句、という気もします。


2020年3月4日

中居由美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 春を待つ心、春が来た喜びを詠んだ句が、たくさん見られました。
 新型コロナウイルス感染症が流行し、世の中が暗く沈みがちです。パンデミックの噂も絶えません。刻々と伝わるニュースに右往左往の毎日は辛いですね。一日も早く終息することを祈るばかりです。
 こんな時、思うのは自然のすごさです。春が来れば必ず咲く花、やって来る鳥に慰められています。人間はどうしたって自然にはかなわない、そんな気持ちを忘れずに句を作っていきたいと思います。
 今回もたくさんの御投句、ありがとうございました。

【十句選】

不思議さうに見てゐる子ども雛飾る   まつだまゆ
 雛を飾るのを大喜びで見るのは当たり前だが、「不思議そう」な子どもの表情に着目している。なんの情報も持たない純粋な眼でみると、雛を飾る行為はさぞや不思議に映るのだろう。

句読点打ち間違えたような春   短夜の月
 どこかちぐはぐな、なにか引っ掛かるような違和感。句読点を打ち間違えると、文章は読みづらく、わかりにくくなる。異常気象の春だろうか。句読点と春の取り合わせが面白い。

桜蘂降るや百年後の君へ   幸久
 花が散り、残った蘂がしきりに降っている。花の命のサイクルは、容赦ないけれど、季節が巡れば、また美しい花が咲く。100年後を信じる力強さを思う。

手を振って人違いして春の風   古都ぎんう
 春風が穏やかに吹くのどかな一日。知り合いを見つけ手を振ってみたが、ああ、残念!人違い。「まあ、いいか」と笑ってやり過ごす。そんな大らかな気分の日。「手を振って」「人違いして」のリフレインが心地よい。

春兆す河馬が聞き耳立ててゐる   たいぞう
 河馬の耳は体の割に小さい。河馬が聞き耳を立てる、という見立てが、不自然というかそこが面白い。河馬の図体や大きな口やダイナミックな動きは、放っておいても人目を引く。人が見ないもの、小さなものを見つけ、面白がったり愛おしく思ったりする感性がいいと思った。

静かな日曜日白菜のサラダ   北川
 不思議な感覚の句だ。白菜のサラダと静かな日曜日は何の関係もないが、いつの間にか、何か関係があるような気がしてくるのだ。それが不思議。妙に心に残った一句。

休館日の返却ポスト春時雨   谷あやの
 図書館の返却ポストだろうか。昨今では、休館日でもポストに入れておけばOKということで、便利に利用している。春時雨の中を歩いてきたので、洋服も本もわずかに濡れている。誰もいない図書館のがらんとした昏さと湿りを想像した。

白菜の坊主括りの四列に   まこと
 白菜の坊主括りとは?言葉の面白さで選んだ一句。越冬のために頭を縛ること、と理解したのだが・・・・。頭を縛括られた白菜が列をなしているのは見方によっては、シュールでありユーモラスでもある。四列という言い切りもいいと思う。

コンビニを過ぎれば隣町の春   みなと
 目指した町はコンビニを過ぎてすぐだ。隣町との境の目印はコンビニ。よくある光景といえるが、「隣町の春」がよかった。隣町には隣町の人々の暮らしや営みがある。自分の町も春だけれど、隣町というフィルターを通して改めて春を認識した。

トーストにバターのとろみ春の風邪   彩楓
 周囲が春めいてくると、うかうかと薄着などをして、戻る寒さにやられてしまう。しかし、日差しは明るいから、気持ちはそれほど暗くならない。トーストにたっぷりのバターをのせて味わう余裕がある。それがいかにも春の風邪らしい。