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2010年9月8日
えなみしんさドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 すでに仲秋と言う事で、秋の季語が大半でしたが、この残暑。作られた方にやや無理があったかも。鑑賞する方も秋の気分になりきれなかったかも知れません。なお、厳密なものではありませんが、10句はいい順番のつもりで選びました。暑い中、たくさんの投句ありがとうございました。

 さて先日、図書館で「や、かな、けりを、捨ててこそ」(中井三好、彩流社、2004年刊)と言う本を見つけました。この3つの「切れ」を使うと、つい懐古趣味の俳句になってしまう、という内容です。今頃言うのも変ですが、わたしの俳句に思いあたる事があって「かな、けり」を使わない(や、もなるべく使わない)ことでやってみようかな〜と思っています。などと大げさにかまえなくても「船団」の仲間の句には、「かな、けり」は少ないようです。なお「かな、けり」の俳句は採らないという事では、決してありませんので、誤解されませんように。

【十句選】

もろこしの甘し老ゆるは愉しかり   たか子
 「老ゆるは愉しかり」と言われても、そんな風にはなかなか思えないもの。この句では「もろこしの甘し」との取り合わせで、そうなんだよな〜と思わせてくれます。言葉の流れがとてもゆたったりとしていることも、感情にムリがないと思わせる原因だと感じます。

不出来だった夕焼け雲の校舎かな   コッポラ
 過去を思うと懐かしさと共に、ある種の後悔の念を覚える事があります。「不出来だった」という生の言葉に胸を打たれる思いがしました。「不出来だった」はそこで切れて、その後の12文字との取り合わせになっている。とても難しいことを17文字にできたのがスゴイ。

生きるため深く眠りぬ生身魂   穂高
 生身魂である自分が、深く眠るのは生きるためである。という正反合のような句です。伝わってくるのは、あの世に行ったかと思うほどの深い眠りの朝の覚醒感。自分を生身魂と考えるのは好きでないのですが、このような眠りなら毎日でもOKです。最近、眠りが浅いので(年のセイでしょうな〜)

皮剥けば話上手な梨となり   遅足
 桃や林檎と比べると、梨はごつごつしていて色も地味でアピールするものが少ない。でも、一皮剥けばジューシーでお肌つやつや。そんな感じが「話上手な梨」で巧みに表現されていると感じました。桃が話上手であると同時に、食べている人の会話も弾むんだよ〜という事も伝わってきます。

足音にうつむく南蛮煙管かな   豊田ささお
 南蛮煙管の姿は、例えば江戸のお人が街道で煙草をくわえているような風情があります。と、感じるのもひたすら「南蛮煙管」のネーミングの由縁でありましょう。ケレン味のないうまい擬人化だと感じました。

切り口の冷たきものに京の菓子   涼
 例えば良く冷えた水ようかん。ただ冷たいというのではなく、「切り口が冷たい」と表現して、イメージを具体化し増幅させています。「切り口の冷たきもの=京の菓子」。定義するような文脈も俳句にはしばしば現れるカタチで、この表現でモノを見るのも新鮮かも知れません。

夜すすぎの「月星シューズ」屋根に干す   紅緒
 固有名詞や商品名を読み込むのも俳句の楽しみのひとつ。ここでは「月星シューズ」が、夜の屋根と呼応してファンタジーを醸し出しています。「夜すすぎ」がやや説明しすぎかも。例えば「星月夜」とか「流れ星」とか「七夕や」などもありそうです。

早出してはや日も落ちぬ秋遍路   葦人
 これを書いているのは9月2日で、実はものすごく暑い日ですが、秋遍路に思いをはせて鑑賞しています。お遍路さんには、今夜の宿があり、そこへ向かう。ところが秋の日はつるべ落としで、追われるようだ。そんな秋遍路の憐れが伝わってきました。下に77をつけてみたいな〜とフト思いました。

飛魚の羽をひろげて揚げられる   えんや
 第一感は、飛魚が油の中で揚げれている姿でした。それが、強いインパクトとなって私に迫ってきました。ただ、水揚げという言葉もあるので、たぶん、そっちの使い方なのでしょう。この言い回し、「鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる/加藤楸邨」を連想しました。事実をそのまま伝えている力のある文脈だと思いました。

秋めくや漫画日本史「シャクシャイン」   たか子
 シャクシャインの戦いは、アイヌの英雄伝であると同時に、弾圧され続けてきたアイヌ民族の悲劇の象徴でもあると思います。句材の新しさで採りました。俳句ですから、短文で伝えなければなりません。中7の「漫画日本史」が当たり前のようで工夫のある言い方だと感じました。「秋めく」という季語がどうか。秋でも違う季語がありそう。また冬の季語もありそう。

【候補句】

役終へし合鴨売られ落し水   葦人
 合鴨農法というのがあるのを知りました。知って読めば味わい深い句でした。


手に受けし水の堅さや沢桔梗   太郎
 「水の堅さ」が新鮮。ただ沢桔梗との関係が良く理解できませんでした。

これよりは限界集落水の秋   葦人
 「限界集落」が現代句にしている。「水の秋」がつきすぎでは。


「ハワイアンブルー」山盛りかき氷   石川順一
 いろいろ迷われたようですが、この表現がぴったりです。「 」も必要でしょう。

包丁のすぱりと切れる残暑かな   涼
 季語がどうでしょうか。季節が大きく変わる季語が良いのでは。

旧姓の楡の木陰に眠ります   遅足
 自分の旧姓の父母などの墓なのかも。楡なのでキリスト教などか。意味がつかみにくい。

月光をあびて秘密をかるくする   遅足
 ユニークな表現です。どんな感じなのか実感が湧かなかった。

かたまつて金魚の唇が餌をねだる   えんや
 良く分かる句ですが、なぜかずばり言われた感がしない。この句では散文が弱いのかも。

せせらぎを真上に載せて水は秋   くまさん
 水の上にせせらぎが乗っている、という巧みな句ですが何かうまく行っていないような気が。

退院の夫のひげ剃り青すすき   紅緒
 「ひげ」と「すすき」の取り合わせは面白い。青が説明的なのかも。あと一歩。

敗戦日ひたすら削る竹とんぼ   岡野直樹
 敗戦日と「竹とんぼ」の取り合わせは面白いと思った。

森中が正座してゐる晩夏かな   豊秋
 感じはつかめるが、ちょっと観念的か。何か具体的なものがあると良いかも。


2010年9月1日
朝倉晴美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 こんにちは、皆さま。お暑いなか句作に投句と本当にありがとうございました。
 猛暑猛暑と聞くのも言うのも飽きて参りましたが、ただ、皆さまの御句もまた、猛暑で少々、ゆだってしまっているような・・・。
 いきなり厳しく、失礼いたしました。でも、これからは秋です。たくさんの外に出て(もしくは外の空気を想像して)をして、もっともっと季節を心に感じましょう。せっかくの俳句心を鈍感にしたままではなりません。どんどん磨くべし!です。
 次回を、期待してお待ち申し上げております。

【十句選】

筆筒に色鉛筆や秋うらら    まゆみ
 〈学僧のふどしが干され秋麗  石川桂郎〉
 秋はやはり勉学。学生がとても似合う季節なのでしょう。色鉛筆しかり。
 「ふどし」とは、あまりにも具体的で生活的なのですが、「学僧」ですから、秋に似合うはず。 掲句、「筆筒」という具体性が、色鉛筆の存在感を確実にしています。句材の存在感をはっきりさせることは、句の大きなポイントです。ペンケースでも筆箱でもなく「筆筒」。古風なだけではなく、そこに作者の丁寧な目線があります。物事への丁寧な目線。なにより、句作に大切なことでしょう。 この秋は、私も色鉛筆を慈しむことにいたします。

取り急ぎ女王花が開花中   たか子
 何といっても「取り急ぎ」が秀逸でしょう。女王花、月下美人は、いわずとしれた開花が待たれる花。その香りも相まって、鑑賞会が催されるほど。その、少々食傷気味な女王ぶり、女王扱いを、ちょっとだけ、からかっているような、そんな楽しさが見え隠れします。
 やっぱり、俳句にはユーモアがなくっちゃ、ね、と申しますと、作者に失礼ではございますが、とても印象良い句です。
 〈月下美人咲いて客なき今宵かな  藤岡細江〉

左京とも右京ともなく初秋かな   涼
 〈もの置けばそこに生れぬ秋の蔭  高浜虚子〉
 虚子の句を並べてみても、 秋は、ずいぶんと抽象的な季節なのかもしれません。〈秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる〉にも象徴されていますし。
 その抽象的な秋の気配を、「右京」「左京」という極めて京都らしい言葉が効果的です。地名という具体的な表現も、句意を伝えることに成功しています。

  傷をもつ右手ひらけば秋の蝶   遅足
 〈病む日又簾(みす)の隙(ひま)より秋の蝶  夏目漱石〉
 秋の蝶の本意が、この両句に如実に表れているのではないでしょうか。本意は「哀れ、哀愁」でしょう。掲句の「傷をもつ」は、心理的な比喩ともとれますし、「ひらけば」と句の世界が展開していく魅力もあります。様々な読みが可能ですが、そこには共通して「哀れ」があるはずです。

恐竜のジュラ紀のひかり里の秋   えんや
 秋の空の高さ、透明度の高い空気、人々のさわやかな笑顔、それらをひとまとめにして「ジュラ紀」ですね。時空を超えた壮大さが、市井の人々の里にある、という情景がとても心惹かれます。
 こんな里に住みたい、(かつては日本のほとんどがそうでしたでしょうが。)という思いとで、下記の句も、挙げます。
 〈耕人の大きな秋の嚔(くさめ)かな  綾部仁喜〉
 こんな耕人、こんなおじちゃん、良いですよね。私の記憶の中では、兼業農家のおうちのおじいちゃん、親戚の大工さん、などがそうでした。ここにも、市井の人々の、日々を生きる姿勢があります。

もう一度犬丸洗い夏深し  岡野直樹
 〈黄檗(きはだ)干しひろげ秩父の夏深し  ながさく清江〉
 「夏深し」は、何かを洗って干さなくてはならない、、、では全くございませんが、かんかん照りを予感させる朝は、何度も洗濯機を回す気持ちと同じではないでしょうか。いえいえ、客用の布団から冬座布団まで干しまくるのだわ、というご意見もごもっとも。そんな、強い強い日差しと倦むような夏の深さを感じる句です。犬の「丸洗い」にユーモアもあり、お見事です。

青年の腕の静脈沢桔梗   穂高
 〈きりきりしやんとしてさく桔梗かな  一茶〉
 桔梗のような植物には、少し病的な繊細さがあるのかもしれません。沢桔梗は有毒ですし、桔梗も根が、痰切り薬として活用されることも関係していそうです。
 「少年」ではなく、「青年」であるため、句のイメージも甘くありません。「静脈」も、そこに何かの場面を想像させることができ、読者をひきつけます。

指揮棒を持たぬ指間に秋見つけ   勇平
 音楽や演奏家を句材することは珍しくありませんが、「指揮棒を持たぬ指間」にある「秋」が、独創的です。指揮棒を持たずに指揮をしているのか、指揮棒を譜面台に置いて、一服中なのか。はっきりと「指」は見えそうですから、指揮棒無しで指揮をしているのでしょう。秋らしい曲が、読者のなかで流れます。
 (ただし、「指間」という言葉は広辞苑、大辞林ともに掲載がありませんので、賛否はございます。)
 下記の句は、破調ですが、繰り返しの妙があって好きな句です。
 〈初秋と思ふはるかだと思ふ  野見山朱鳥〉

蜩やシュガーラスクに穴あいて   あざみ
 秀逸でございます。蜩に、この取り合わせ。蜩の鳴く時候のなんともいえない、欠落感、焦燥感、そして、一寸の安堵感。それらがあいまって、「シュガーラスクの穴」ではないしょうか。感激いたしましたものですから、つい私めも、、、と〈蜩やクロワッサンを焼きすぎて 晴美〉などと試作いたしましたが、駄目でございます。
 一方で、上句を「かなかなや」としますと、K音(か、ガ、ク)の連続が発生いたします。「蜩」「かなかな」の取捨は作者にお任せさせていただきます。

巻貝の海がこぼれるさよなら夏   紅緒
 夏の思い出といえば、三鬼の〈算術の少年しのび泣けり夏 西東三鬼〉でしょう。去りゆく夏には、切なさが付随しているものです。
 下句「さよなら夏」も、その字余りと舌足らずさ(「さようなら」でなく「さよなら」)が、気持ちの落ち着かなさを増加させています。
 巻貝を耳にあてると潮騒の音が聞こえる、ということをふまえて、とても良い表現だと感じ得ました。

【次 点】

秋めくや北向くキリンの長い足   ポリ
 「北」の必然性がどうでしょうか。

校庭の八月尽のネット裏   天野幸光
 少し、つきすぎかもしれません。

底紅や朝の坂道息弾む   大川一馬
 中七下五に、もう一歩工夫を。

空きびんとなってバス待つ残暑かな   遅足
 語順の再考を。

ブランドの刻印鈍く油照り   茂
 「鈍く」は不要かもしれません。

空蝉や長靴履いて疾走す   石川順一
 季語との取り合わせが、少し厳しいかも。

野鳥追うレンズの中に秋の空   草子
 少し平凡。

軽やかに駅の階段秋渇き    戯心
 説明が強いような。

リュックの土脆く乾いて夏の果て   紅緒
 上五の字余りが残念。でも、許容かと。

【予選句】

浜にまた静けさ戻る月見草  たか子

けさの秋胃の腑へ熱きスープかな   藤原 有

朝顔や今朝は双子と姉一人  岡野直樹

美しく謙虚であること日日草   万季

自販機のある山頂や缶ビール   山渓


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