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2019年2月13日

久留島元ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 あっという間に二月、春です。
 平成最後の、とつけば何でも感傷的になりますが、できればそのように月並みな言葉は使いたくないもの。
 まして俳句。十七音しかないので、慣用句やニュース用語などをもとに作ろう、と思うならば、よほどの「ひねり」が必要です。
 限られた字数でどうやって変化を見せるか。俳句というのは、その試行錯誤なのだろうと思います。


【十句選】

凍雲やパンツのゴムの痕なぞる   赤橋渡
 限られた字数で、まったく無意味なことをいう俳句。何となく、独身の寂しさを想像します。

侘助や行方不明のCEO   幸久
 侘助はツバキ科の常緑高木、茶人笠原侘助が好んだといいます。日本的な花に、行方不明の最高責任者、と突然のサスペンス。二時間ドラマが始まりそうな、見事な変化球。
寒晴をわがものにして明日は吉   瀬紀
 寒い中にもあっけらかんとした好天、明日は吉とまで言い切る必要があるのかと思いますがあえてここまで言い切る楽観主義が大切なのでしょう。穿って読めば、明日は、という希望?

麗かやヒップで描く土星の輪   短夜の月
 「べーリーダンスには、ヒップサークルと言って腰で大きく円を描く動きがございます」とのこと、ベリーダンスのことでしょうか。惑星を思わせる大きな動きが悠大で、楽しい。

掃除機で吸ってしまった日短   銀雨
 日が短くなるという感覚を掃除機で吸い取るわけにはいきませんが、吸い取ってしまったように日が落ちるのが早くなり、思わず何か吸い取ってしまったものを取り出すのに一日が暮れてしまったのかも。

早春の追われなかった鬼が居る   せいち
 節分をまぬがれた鬼が潜んでいる。実景はわかりませんが、なんとなく寒さと暖かさと、負われるような焦燥感と、ないまぜになった早春と、追われる鬼の気分がそぐうようです。

鮃みたいにってそれほめ言葉か   青海也緒
 うーん、きっと褒め言葉ではないような。いや、食べると美味しいのでやはり褒め言葉?学生同士のような遠慮ない物言いをそのままきりとった愉快な句。「に」が必要かどうかは要検討。

嗚呼君の誕生日だね花粉症   宮武桜子
 私も花粉症なのでそろそろこわい時期ですが、君の誕生日が来たんだね、と、とても個人的なことなのに国民の年中行事のような共感につなげていくおおらかでおかしい句。

二人して着ぶくれてゐる涅槃とは   さわいかの
 涅槃は迷いや煩悩のない悟りの境地。着ぶくれながら涅槃について話し合う、その安定もひとつの境地なのかも。

恋猫を「あしたのジョー」と思ひけり   紅緒
 わかりやすい見立てですが、きっちりはまっています。

【選外佳作】

雪こんこここは貴族のこんせんと  さわいかの
 言葉遊びがとてもたのしい句なのですが、「貴族のこんせんと」がイメージできず、選外としました。

しとかけてさほひめのおびとくととく   ∞
 「佐保姫の春立ちながら尿をして」、誹諧の祖『犬筑波集』の有名な句をふまえ、謎かけ風のかけあいにした一句、ひらがなだけで少し読みにくいのですが、その意図は如何?
凍山や星を小出しに出してをり   太郎
 山が星を出すという見立ては素敵。小出しに出して、が重複表現、もっと省略が必要でしょう。

きかんきの出世頭や寒の鰤   柴原明人
 鰤はいわずとしれた出世魚、だからこそ出世頭と合わせてわかりやすいのですが、ややわかりやすすぎる。こうした慣用表現をふまえた句は、うまくできたと思っても、類想が多くなります。

曲者のナターシャ疾走春の猫   茂
 ナターシャ=春の猫、ということでしょうか、それだけでも曲者感があり、おもしろい。曲者、ナターシャ、春の猫、と一対象に対して呼称が多すぎます。

関東煮ちくわ麩主役の不退転   素秋
 関東煮は関東風おでんの関西での言い方。おおげさな表現が面白いのですが、関西でちくわ麩はまず使わないので、「主役」「不退転」と呼ばれるほどの存在感があるのか、違和感があります。

天窓のひびがひろがる冬ひとひ   さかいとも
 雰囲気のある句ですが、実際に窓のひびが広がっていくというのはどういう状態でしょうか。
冬空のなかの飛石足雲へ   まこと
 雲を飛び石と見立てたところは秀逸、それだけで想像できるのに「足を雲にかける」は蛇足でした。

しりとりは「おでん」で終るおでん食う   マチ ワラタ
 こちらも、「おでん」で終わる、だけで何となく冬の空気が漂うので「おでん食う」は蛇足。

武四郎像あはき俤冬ざるる   みなと
 松浦武四郎でしょうか。銅像が冬ざるるのはわかりますが、「あはき俤」とは何でしょうか。

冬の蔦射幸心から忘却し   意思
 射幸心というやや説明的な心理用語を俳句にとりこんだのが面白いですが、なぜ忘却してまぐれあたりを狙うのか、よくわかりませんでした。

咳耐ふる妻の背薄し咳憎し   けむり
 一句として完成や新しさを狙うより、日記のようにご自身のため書き留める句かと思います。


2019年2月6日

中居由美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 立春を過ぎ、空がずいぶん明るくなりました。縮こまっていた体と心が、「散歩に行こう」と誘ってきます。脳みその命令により、しぶしぶ私の足は歩き出します。道すがら、紅梅、白梅が馥郁とした香りを放っています。だんだんいい気分になって、足取りも軽くなってきます。
 今回は、春を待つ句がたくさん届き、選句作業にも弾み心が加わりました。ありがとうございます。今年もよい俳句との出会いがありますように。心をこめて選をしたいと思います。

【十句選】

マスクにも名前を書いて二年生   短夜の月
 年が明けてから、インフルエンザが流行している。対策にマスクは欠かせない。先日、美術館で小学生の一団に出会った。ほぼ全員、マスクをしている。よく見かける光景だ。はずした時、わからなくなるので、記名するように指導しているのだろう。二年生も終わり近くになると、マスクの名前だって自分で書く。少し、胸を張る。

水仙や有精卵の温かき   酒井とも
 産みたての卵は温かい。さっきまで体内にあった温もりが、てのひらにじんわりと伝わる。有精卵ならなおさらである。命あるものは、かくも温かくかくも優しい。水仙との取り合わせがいいと思う。

一日の終わり炬燵の位置戻す   花紋
 何気ない日常の一コマを切り取った句。一日の終わりに炬燵の位置を正す律儀さから、日々の暮らしを丁寧に生きている姿が見えるようだ。

山盛りのフルーツサンド日脚のぶ   中 十七波
 色鮮やかなフルーツがふんだんに使われたサンドイッチは、春がすぐそこに来ている喜びを象徴しているかのようだ。「一日に畳の目一つ」といわれるように、少しずつではあるが、日脚が伸びていくことを実感する時期である。

鰤起しひかり満ち来る発電所   マチ ワラタ
 鰤のとれる時期に鳴る雷を、特に日本海側の地方では、「鰤起し」と呼ぶらしい。たとえ大荒れの天候が続いても、鰤の豊漁を思うとき、その雷は「ひかり満ち来る」と肯定的に捉えられるのだろう。

しらたきのほどける皿や春隣   仁和田 永
 春が近いことを、しらたきのほどける皿に感じ取るとは、なかなかユーモラスだ。この脱力感が、いい味わいを出していると思う。

狼の巣には野の花あるだらう   二百年
 「狼の巣」の捉え方で、この句の評価は分かれるのではないか。ヒトラーの指揮所と捉えると、歴史的な重みが増してくる。俳句的には、戦争と野の花の取り合わせは、よく見るパターンとなる。言葉通りに「野生の狼のねぐら」と捉えた時、詩が生まれるように思う。

白髪染めやめて見てゐる冬夕焼   比々き
 白髪染めをやめるのは、きっと難しい。中途半端な時期を我慢出来るかどうか。どのタイミングで止めるのか。なかなか悩ましい問題である。自分の過ごしてきた掛け値なしの年月に、そっと寄り添って見る夕焼けの美しさを思う。

寒月に機微を預けて米洗ふ   紫
 日々の暮らしの中には、様々な心の機微がある。夜空を見上げていると、地上の些細な出来事など、たいしたことではないような気にもなる。悩みを預けるなら冷徹な冬の月がよい。「米洗う」への転換が見事。

さまざまな雲の画集や春きざす   彩楓
 こんな画集、眺めていたいなあ。心が晴れ晴れすること間違いなし。春の訪れを感じる曇ってどんな雲?どんな動き?この明るさ、この開放感が魅力の一句。


2019年1月30日

内野聖子ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 今年初めてですのでまずはご挨拶から。本年もどうぞよろしくお願いいたします。一月ももう終わりですね。暖かい日が続く一方でインフルエンザも警戒レベルで流行っています。みなさま十分ご自愛くださいませ。

【十句選】

着ぶくれて試験に出ない英単語   幸久
 受験シーズンですね。せっかく覚えた英単語なのに試験に出なかったのか、もともと試験には出そうにない類の単語なのか。着ぶくれと知識の詰込みが重なります。

蝋梅や半透明の蒼い空   宮武桜子
 色彩の対比が美しい句です。黄色い蝋梅と青空。蝋梅のよい香りもしていることでしょう。

地の歪む記憶のけふは阪神忌   たいぞう
 1995.1.17阪神・淡路大震災。忘れてはならない記憶です。「地の歪む」が生々しい。

冬の日はビー玉の虹色の中   銀雨
 幻想的な句です。この「冬の日」はきっと暖かい日なんでしょう。「ビー玉」と「虹色」でキラキラした光景が目に浮かびます。

寒月をあやとりの橋に掛けておく   藤井美琴
 絵本の1ページを見ているような句。冬の冴えた月をあやとりで作った橋にそっと掛けるという現実と空想が混じりあった景が素敵です。

授かりし一句忘却鰤起こし   今村征一
 思いついた句を忘れてしまうのはよくあることですね。私はしょっちゅうあります。「鰤起こし」とはブリのとれるころ鳴る雷のことで、特に日本海側の地方で使われることば。

梟のこぽりと止まる時間かな   マチ ワラタ
 「こぽり」ということばが印象的です。梟の佇まいとよく合っていると思います。

玻璃に満つ星に見らるる薬喰い   紫
 「薬喰い」とは冬、滋養のために鹿や猪などの肉をたべること。いわゆるジビエ料理ですね。この季語だけでかなりインパクトがあるので、「玻璃」をほかのことばに代えてもいいかなと思いました。

初御空雲には雲の休息日   紅緒
 元日の朝の空に雲が見えなかったのでしょうか。雲も元日くらいは休みたいかもしれませんね。発想が面白いです。

茶の花や神社にいまだ未練あり   意思
 茶の花も神社に未練があるようにも読めますね。なんの未練があるのか気になります。


2019年1月23日

山本たくやドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 2019年が始まりました。今年も一年、よろしくお願い致します。
 少しでも皆さんの作句の参考になれるよう、今年も頑張りたいと思います。

【十句選】

宇宙船オリオン星座を横に見て   まゆみ
 ZOZO TOWNの前澤社長が月旅行を計画中とニュースで話題になりましたが、フラッと海外へ行ける現代、宇宙にもフラッと行ける日も、そう遠くはなさそうですね。俳句の(言葉の)世界では、いくらでも宇宙に行けるので、掲句のように「オリオン座を横に見」るのも楽しそうです。

クレーコートの磁場を歪めて霜柱   赤橋渡
 いかにも!と納得した一句でした。凍てつくような寒さを感じると、「霜柱」に対しても「磁場を歪めて」しまいそうな力を感じるのでしょう。

食卓に珈琲とピザ三日かな   けむり
 子供の頃のお正月は七日まで凛とした厳かな空気を感じていましたが、このごろは元旦にしか新年の厳かさを感じません。二日からは、もう日常といった感じ。掲句の「三日」にはおせち料理などではなく、「珈琲とピザ」というのは納得。むしろ、三日にピザを食べる光景は、現代の生活をよく表していると思います。

巻きつけるマフラー二重内気者   百合乃
 私の拙句に「貧弱な躰を隠すコートかな」があります。また、私が好きなロックバンド・神聖かまってちゃんの『コタツから眺める世界地図』の歌詞に、「コタツ潜りこむ毎日は 世界から逃避する防空壕」というフレーズがあります。掲句における「マフラー」もそうですが、表現の世界における冬の防寒着などは単に寒さを防ぐものを意味するのではなく、自身の弱い部分を隠したり逃がしたりする意味合いもあるのではないでしょうか。そのような考察をさせてくれた一句でした。

世渡りの下手な女とおでん酒   たいぞう
  世渡り“上手”では無いところが良いですね。「世渡りの下手」な人でも、きっと人間的に愛される人なのでしょう。そうでなければ、一緒におでんはつつけない。

不可解が溢れる冬の倒置法   干寝 区礼男
 何が不可解なのか。寒すぎる冬の現状に対してでしょうか。または「冬」は比喩表現で、日本社会の理不尽さなどを表しているのでしょうか。そして、「倒置法」。冬にどんな「倒置法」が?と疑問が尽きません。しかし、こうやって意味や解釈を考えてしまっている時点で、掲句の「不可解」な面白さにハマっているのだと気が付きました。「不可解が溢れる」と投げかけておいて、実はこの俳句自身が「不可解が溢れる」存在なのです。

孤独を愛す夜のパンダよシリウスよ   ぬらりひょん
 面白い取り合わせだと思います。「パンダ」は一般的に「可愛さ」を象徴していますが、「シリウス」と取り合わせることで、上五と相まって凛とした雰囲気を醸し出しています。

毛糸編む少し足りない命かな   中 十七波
 杉田久女のような激しい熱情を感じる一句でした。また、歌人・河野裕子の辞世の歌である「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」も彷彿とさせました。「毛糸編む」の季語の選択が、中七以降の言葉をより緊張感のあるものにさせています。

福笑ひ猫もどかして鼻探す   紫
 ほのぼのとした、しかし一方でもう現代ではあまり見られないであろう懐かしさを感じる一句でした。猫も楽しそう。一点気になったのは、助詞の「も」。猫と一緒に何を「どかし」たのかが分かりにくい。

風に乗るスケートボード春隣   紅緒
 月並みな景とは思いましたが、近頃、寒さが急に増してきたこともあり、何だかホッと落ち着くような一句でもありました。春を待ちわびる気持ちは、まさしく「春隣」の季語がピッタリだと感じました。


2019年1月16日

秋月祐一ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 寒中お見舞い申し上げます。今年もよろしくお願いいたします。私事になりますが、昨年から、アラフィフにして、結婚、転居、就活と、激動の時期を迎えております。生活と創作の両立という言葉が頭をよぎりますが、環境の変化は新しい作品を生みだす契機にもなるはず。がんばりたいと思います。読者のみなさまのご健詠もお祈りいたします。今週は170句の中からの十句選です。

【十句選】

マスクして落としどころの見つけ方   幸久
 さまざまな読みが可能な句。風邪ぎみでマスクをしているのに、他人同士のけんかの仲裁を買って出て、話の落としどころを思案してる。たとえば、そんな場面を想像してみた。マスクが効いている。

正月や父揉んで母塩漬けに   さわいかの
 正月に父母が連携プレーで漬物を作っている場面を詠んだ句なのだろう。俳句的な「てにをは」を抜いた表現が、父を揉んで、母を塩漬けにして、という連想を誘い、ブラックな笑いが立ちこめる。

どの口もハ行の形おでん食ぶ   銀雨
 おでんを食べるとき、誰もが「はひふへほ」の口の形をしている、という見立てがじつに見事。こんにゃく、玉子など、具材のあれこれが目に浮かぶ。はふはふ、ふうふう、などの音も聞こえてくる。

ひよっとこの首に膏薬里神楽   素秋
 里神楽を見物しているとき、楽しげに踊るひょっとこの首に、膏薬が貼られているのに気づいた。仮面をつけた神事の登場人物が、急に生身の人として感じられる瞬間を、巧みにとらえた一句である。

冬蜂を飼う引き出しを右と決め   藤井美琴
  「冬蜂を飼う」は実景、それとも作者のイメージ? 「引き出しを右と決め」たのはなぜ? ひとつひとつの言葉の意味はわかるのに、句全体は大いに謎めいている。でもなぜか惹かれるものがあった。

おぼおぼと歌留多読む子の正座かな   直木葉子
 一読して「おぼおぼと」がいいと思った。念のために『精選版日本国語大辞典』を引くと「ぼんやりと。おぼろげに。はきはきとしないで」の意とある。おぼおぼと読む子どもの姿が目に浮かぶようだ。

卒論を咥へゆく犬お元日   じゃすみん
 卒論の追い込みで、元日にも執筆作業をしているのだろう(作者は60代なのでお孫さんか?)プリントアウトしたものを、座敷犬がくわえて行ってしまった。じつに正月らしい、のどかな風景である。

細氷や篠田桃紅百五歳   みなと
 細氷(さいひょう)とは、ダイヤモンド・ダストのこと。書家・篠田桃紅の人と作品の魅力を、細氷の輝きのようだと作者は捉えた。切れ字の「や」以外が漢字なのも、視覚的な効果をあげている。

炬燵の子夜を因数分解す   比々き
 子どもが試験に向けて、夜遅くまで数学の勉強しているのだろう。自分の学習机ではなく、こたつでやっているから、とりわけ寒い夜なのかもしれない。「夜を因数分解す」という表現がとても美しい。

チェクイン済ます間の葛湯かな   菊池洋勝
 普通ならチェックインと書くところを、「チェクイン」と表記したことによって、旅の臨場感のようなものが生じた。チェックインの合間に葛湯を出してくれる宿というのも、きわめて魅力的である。


2019年1月9日

須山つとむドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 明けましておめでとうございます。
 餅を(もちつき機で)搗き、山に入り羊歯(ウラジロ)を刈り、三方にお鏡を飾る。これで、いいお正月を迎えることができました。今年もどんな俳句と出会えるか楽しみです。

【十句選】

初日さすここは新宿歌舞伎町   善吉
 新しい年だと意識するだけで、見慣れていたのとは別の世界がみえてきます。ここ新宿では、横尾忠則の絵で見るような、モダニズムの光輝と景色とを発見したことでしよう。

みかんむく話途切れてみかんむく   けむり
 話に身が入り、つい手元がおろそかに。あるいはその逆も。日常よくであうこんなシーンを、さりげなく掬い取り、しかも見事に活写した。機知とユーモアを感じる。

金柑を二粒食べてあ、え、い、お、う   冨士原博美
 口に含んだ二つの金柑。その酸味に、噛むのをためらったのか、舞台の発生練習なのか。句を読みながら、仮想の金柑を口中で転がしていた。俳人なら、誰もがキットそうしたはず。

交番の机の上に鏡餅   伊藤順女
 お正月がもうそこに。皆に慕われるこの K O B A N のデスクに、町の誰かがお鏡を飾ってくれたようだ。二段重ねの餅の上の鮮やかな蜜柑の色を見て、歳末警戒にも身が引き締まる。

初明りおでこ出してる歩いてる   さわいかの
  元旦の曙の光が我が家の出入り口を照らした。この時間にもう、微醺のおじさんが前を横切って行く。秀でたおでこを光が赤く染めている。マント姿がよく似合う、昭和のおじさん。

ジャズ低く聴いて独りのおじやかな   みなと
 床に設えた角型の炉。おじやが土鍋で音をたて、アンプがロン・カーターのベースソロを奏でている。男の左手が伸びて、床の黒ラベル、40度の麦焼酎を掴んだ。上五が秀逸。

百一羽の鶏小屋無音月冴ゆる   じゃすみん
 隙なくまとまり、景が澄んで見え、 わかりやすい俳句。中七の『無音』と、季語の『冴ゆる』とでイメージがやや重なるのが難点。いいものにはつい、一言いいたくなって・・・。

モディリアーニの女の肩や寒卵   マチ ワラタ
 おしゃれな景に惹かれた。モデルにそっくりの姿の女性に出会ったのか、原画に釘付けになったのか? 中七『や』の切れで句の解釈が曖昧に。『に』、『の』などと、言い切りたい。

一枚の銀色のみず水鳥の   ∞
 カメラも絵筆も一切使わず、短冊の一行の<俳句>が、冬季の水面を見事に切り取り、俳句の力を見せた句。ただ、『水鳥の』のが不満。浮寝鳥、鳰(かいつぶり)などと、再考も。

介護車を横切る狸年の暮   スカーレット
 朝夕の路上、行き交う介護車の多さに驚きと感謝の気持ちと。そんな心情を、童謡の調べと絵本の童画で代弁。俳句の大きさをみた。下五に『年つまる』などと、切迫感を見せるのも。

【注目した五句】

冬ゆやけ田にひとすぢの煙立つ   みさ
 紅が血のように冴える冬夕焼。災害に怯える癖がついた為か、どこか気にかかる景色。

無防備に開け待つ口へ冬苺   藤井美琴
 冬苺の茎には、まばらに棘が。若い男女の戯れ? ドラマの次のシーンが連想される。

赤ちゃんの歩みとととと初笑   紫
 ある、ある。一年と少しぐらいで歩き始め。全ての動きが『とととと』の笑いにおさまる。

年の瀬を逆回転せよ観覧車   瀬紀
 仕事、家事に追われる年の瀬を言い当て見事。命令形を『真逆に回る』などと描写も一考を。

人日や靴紐替えてムーンウォーク   紅緒
  人日は正月の七日。エンジンも温まって・・・と、高齢者の仕事始めの気分がジンワリ。


2019年1月2日

星野早苗ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
 関西の冬は暖かく、枯れ草の足元にはハハコグサやハコベが柔らかく緑を広げています。蒔いてから1ヶ月、地面に這いつくばっていた庭の豌豆も、ネットを立てて誘導した途端、元気に上へ伸び出しました。
 2018年の「災」から、2019年は「幸」に転じてほしいものですね。皆さまのご多幸と御健吟をお祈りいたします。
 さて、今回は、167句の中から。

【十句選】

大根干す無くてはならぬ赤城山   太郎
 「無くてはならぬ赤城山」が魅力的なフレーズです。真冬の冷たい赤城颪が干し大根作りには欠かせないと言うのでしょう。けれども、干し大根の並ぶ背景にも赤城山が無くてはならないのかもしれません。赤城の赤と大根の白の対比も面白いと思いました。

注文の順を頑固におでん酒   伊奈川富真乃
 注文の順を頑固に守る店、いいですね。後からの注文が先に通れば、後回しにされたお客は多少とも不満に思うでしょう。決して愛想の良い店では無いかも知れませんが、店主への信頼感がお酒をおいしくしています。案外、商売の基本はこんな所にあるのかもしれません。

冬天や遠近法が効いている   宮武桜子
 遠近法とは、近景は大きく遠景は小さく、奥の一点に集中していくように描く描画法です。「遠近法が効いている」とは、景色そのものが、遠近法にのっとったかのように見えるのだと思いました。空気の澄み切った冬、空にさえ、遠近法の奥行きが感じられたのかもしれません。

柚子貰う一等品は仏前に   酒井とも
 出荷の際に使うような「一等品」と言う言い方が面白いと思いました。選び抜かれた立派な柚子は仏前をぱっと明るくしてくれたことでしょう。柚子に限らず、いただき物は何でもいったんは仏壇に供えることがどこの家でも当たり前の時代がありました。

冬枯れやオセロの四隅取られおり   藤井美琴
 オセロは盤の四隅を取られると取り返すことは難しく、結局負けてしまいます。作者はゲームのどこかの時点で四隅を失っていたのです。盤面がダイナミックに変化するのが魅力のオセロゲームですが、今はもう、変化の余地のない枯れ野のような状態なのかも、と思いました。

合唱を終へ食べくらぶ蜜柑かな   紅さやか
 発表会が終わっての打ち上げの場面でしょうか。差し入れには蜜柑が多く、食べ比べというような状況になったのでしょう。それぞれの故郷自慢の蜜柑だったのかもしれません。合唱と蜜柑の意外な取り合わせが新鮮でした。蜜柑を食べながら、ちょっぴり反省会もしておられたのでしょうね。

亡き妻の冬の紫江戸切子   をがはまなぶ
 江戸切子は色ガラスの層が薄く鮮やかなのが特徴だそうです。掲句は紫のカットグラスでしょうか。切子は光を複雑に返します。そして、透明感のある鮮やかな紫は、亡き妻の愛した色だったのでしょう。冬の雰囲気を視覚からも触覚からも感じられる句だと思いました。

突ついても島の湯豆腐傾かず   紅緒
 箸でつついても傾きさえしない湯豆腐、それが島の湯豆腐だというのです。島は沖縄のこと。島豆腐は固くて多くのタンパク質を含み、味もしっかりとおいしいのでしょう。頼もしい島の湯豆腐だと思いました。

前髪とマスクは挟むまばたきを   比々き
 マスクをすると、目は前髪とマスクの間にあります。挟まれているという見方がユニークです。さらに、その目がまばたきをすると、上下の瞼が閉じるわけですから、目はさらに挟まれることになりますね。まばたきの一瞬をとらえた技ありの一句だと思いました。

二歳児の挨拶立派初笑い   紫
 二歳の子どもが、お正月の挨拶を立派に言えたのだと思います。ご両親が口伝えで一生懸命教えられたのでしょう。その挨拶をまちがえず、立派に言えたのに対する初笑い。そこが面白いと思いました。きっと、立派すぎるご挨拶だったのでしょうね。

【その他の佳句】

木枯らしや吹き戻されて瀬田の橋   百合乃

大寒や人もほこりも縮みをり   洋平

大島へ泳ぐ猪初景色   善吉

冬田越え「前にならへ」のマイク声   谷あやの

袈裟懸けの汚れかんじき父帰る   みなと

クリスマス子らのちぐはぐハンドベル   鷲津誠次

一葉の小さき墓や帰り花   彩楓

快速も鈍行もいざ冬雲で   瀬紀