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 1月13日  山本たくや        1月23日
 1月20日  内野聖子        1月30日
 1月27日  中居由美        2月 6日
 2月 3日  久留島元        2月13日
 2月10日  谷さやん        2月20日
 2月17日  星野早苗        2月27日

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2018年12月12日

中居由美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 12月に入っても例年より暖かく、冬の実感がわかなかったのですが、四国松山でも、ここ数日は、寒い日が続いています。寒いのは苦手なくせに、冬という季節が好きです。時折、見たことのないような色合いの空に出会ったりすると、それだけでうれしくなります。しかし、現実は厳しく、早々と、「風邪引きさん」の名乗りをあげての選句作業となりました。
 この1年、たくさんの御投句ありがとうございました。よいお年をお迎えください。

【十句選】

育つほど敵意鋭く氷柱かな   柴原明人
 氷柱の捉え方にどきっとさせられた。きらきらした氷柱を詩情豊かに詠むことを避けて、「敵意鋭く」としている。自然の冷徹さをちらりと見せられた。

少しずつ違う結末降誕祭   藤井美琴
 小説か、ドラマか、現実の出来事かわからないが、少し違う結末への違和感があるのだろう。クリスマスではなく、降誕祭としたところにリアリティーがあると思った。

よく晴れて色を尖らす鷹の爪   たいぞう
 農村などで、かつてよく見かけた風景。よく晴れて、太陽の日をたっぷりと吸った唐辛子は、その赤みを際立たせている。辛みの増した唐辛子は、確かに色が尖って見える。

冬鵙になつて私を観察す   せいち
 不思議な感覚の句。加えて難解でもある。冬鵙になっているのは誰だろう。亡くなった人だと推察されるが、観察という言葉で、立ち止まってしまう。鵙は、猛禽だからかなり不気味な気配だ。

オリオンや異国の街のマンホール   森田まなみ
 オリオンと異国のマンホールの取り合わせがとても美しい。異国の冬の冴え冴えとした星の瞬きが目に浮かぶようだ。オリオンにまつわる神話なども想起されるのは、異国の手柄だろう。

柔らかく八手の花の影生まれ   をがはまなぶ
 裏庭などでよく見かける八手の花は、花の盛りでもそれほど目立たない。AKBの歌ではないけれど、「地味な花は気づいてくれない」代表のような花だ。しかし、よく見ると、なんとも柔らかく優しい姿をしている。影さえも愛おしむ眼差しが素敵だと思う。

赤鉛筆を握りしままの懐手   紫
 やり手の編集者か、あるいはテスト採点中の先生か。しかと握った赤鉛筆は懐に収まったまま。鉛筆の芯の行く先が気になるところ。真面目であればあるほど可笑しさを誘うことがある。

マヤ暦に占ふ職種一葉忌   比々き
 占いに詳しくないので、ネットでマヤ暦を検索してみた。どうも近頃人気の占いらしい。日本にも神仏はいるし、占いもたくさんあるだろうに、異国のマヤ暦で占うのが面白いと思った。季語「一葉忌」は一考の余地がありそうだ。

セーターの編み目しずかに続く雨   マチ ワラタ
 セーターを編んでいる。窓の外は雨。こんな日は、編み目のひとつひとつに気を配って丁寧に編むのだ。冬の雨の日、暖かな部屋で過ごすささやかな幸せ。「しずかに」と言ってしまったところが惜しい。

十二月街はとびきりパッチワーク   紅緒
 クリスマスや忘年会でごった返す街。師走の慌ただしさもそれに輪をかける。そんな様子をパッチワークと言い切っている。面白い発想だと思う。下5の字余り、いかにも12月らしい。


2018年12月5日

内野聖子ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 街がクリスマスムード一色になっています。心浮き立つようなことは何もない私ですが、綺麗なイルミネーションには目を奪われますね。
 さて、もう早いもので今年も残りひと月をきりました。私の拙い文にお付き合いくださってありがとうございます。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

【十句選】

狛犬の片目隠して散る銀杏   山畑洋二
 神社の銀杏が散る時に偶然狛犬の目に舞い降りた一瞬の光景を切り取って詠んでいます。片目を隠した狛犬もなかなか素敵かもしれませんね。

毛糸編むやうやう宇宙に近づきぬ   宮武桜子
 冬の夜にひとり黙々と編み物をしていると不思議な感覚に陥ることがあります。編み物は数十年前にしたきりの私ですが、その時のことを思い出しました。

のこる虫題名のないコンサート   素秋
 冬に近づきつつある頃細々と力なく、それでも一生懸命鳴いている虫の声を「題名のないコンサート」に例えたのが上手いと思いました。秋の賑やかな虫の声とは違う趣が感じられますね。

獅子舞の後ろ足なること秋思   けむり
 着眼点がいいですね。後ろ足であること、そこから関連して色々思うことがあるのでしょう。後ろ足になっている人にもそれを見ている人にも。

綿虫や津波の染みの蒲鉾屋   紫
 あの日から何年経ってもきっと「染み」は消えることなく、現実的にも人の心にも残るんだと思います。綿のような弱々しい虫とずっしりくる重い事実との対比。

竹輪麩のごとき男とおでん鍋   直木葉子
 私は関西出身だからか、竹輪麩を食べたことがありません。なので、「竹輪麩のような男」ってどんなひとなんだろうとまず興味を持ちました。柔らかそうで実は固い?きっと魅力的なひとなんでしょうね。

冬銀河渡ることなき過去未来   瀬紀
 冬の冴えわたった空にある銀河はまた一段と格別に美しく見えます。銀河(天の川)を渡ることがないというのはありそうでない発想だと思います。

裏側にきらきらネーム冬帽子   中 十七波
 時代が変わっていって「きらきらネーム」の子供がほとんどになっても帽子の裏側に記名するのは変わらないんだと思うとほのぼのします。帽子は一年中ありますが、「冬帽子」だと少し暖かい気持ちになりますね。

ポケットに納まる熊手三の酉   眞人
 先日、初めて酉の市に行きました。人の多さと熊手を売っているお店の多さや活気に圧倒されました。大きな熊手を担いで帰っていく人もいれば、かわいらしいサイズの熊手を笑顔で買っていく人もいて、幸せに大小はないんだなぁと思えました。熊手をポケットにすっぽり納めて歩く姿が浮かびます。

折り畳むきのふのわたし敷布団   紅緒
 「きのふのわたし」を折り畳むという表現が面白い。例えば嫌なことがあったりして、それを忘れるためにえいっと敷布団を畳んだんでしょうか。或いは寝込んでいて布団を上げられなかったけれど今日は上げられたとか、そこまでの意味はないのかもしれないですが色々と想像が広がります。


2018年11月28日

山本たくやドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 早い者で、「今週の十句選」の私が担当する番は、年内は今回が最後です。次回は年明け。猪年に変わってからです。
 少し早いですが、皆さま、来年もよろしくお願い致します。
 今年もたくさんのご投句、ありがとうございました!

【十句選】

ブランドのはびこる銀座秋さびし   洋平
 「銀座」と聞けば、華やかな街のイメージをしますが、言われてみれば確かに、その華やかさは、「ブランド」によるものなのかもしれません。華美に着飾った街の様子は、寂しさも感じます。

外は雨レシピの要らぬ大根煮る   茂
 大雑把な感じがとても良いと思います。レシピに頼らないということは、味付けも自分好みでチャチャっと済ませるのでしょうか。外が雨で気分が乗らない日は、読書でもしながら大根が煮えるのを待つのも良いかもしれませんね。

金柑になってしまった冥王星   せいち
 「金柑」と「冥王星」の大小の大きな対比が素敵でした。また、その取り合わせも絶妙に感じます。冥王星は、かつては太陽系惑星の一番外の惑星とされていました。(2006年からは準惑星扱い)地球から冥王星の距離を考えるとそれは果てしない距離になるでしょうが、そこがまた神秘的でロマンを感じます。そんな星が「金柑になって」しまうとは、やはりそこにもロマンを感じます。

「わけあり」のリンゴ仲良し一袋   せいち
 ここでいう「わけあり」とは、例えば傷が付いているや規格より小さいといったものでしょう。しかし、この「わけあり」を人間世界での「わけあり」と捉えると面白いなと面白いなと思いました。もしかしたら、前科者。もしかしたら、未亡人。色んな事情を抱えた「リンゴ」がいそうで、愉快な気持ちになります。

すすき野や陸上部員の起こす風   森田まなみ
 三浦しをんの小説に『風が強く吹いている』というのがあるのですが、その中で本当に優れた選手は「速く」ではなく「強く」走るという描写がありました。掲句はまさにそれを表したような一句だと思います。力強いキックで「すすき野」を蹴り走る様子が、ありありと浮かんできます。

村上くんと粉砕する冬世界   干寝 区礼男
 「村上くん」とは誰なのか。「冬世界」を「粉砕する」とあるので、雪で遊んでいる光景なのでしょうか。しかし、その読みだと平凡過ぎて、あまり面白味がありません。「村上くん」とは、もっと壮大な冬の世界を粉砕しているのでしょう。大げさな言い方が、ファンタジックなイメージを持たせてくれています。

坂に寝て標的となる天狼よ   干寝 区礼男
 劇画チックで、絵になりそうなカッコよい一句。「坂に寝て」が不可解でイメージがしにくいのですが、下五の「天狼よ」が全てを物語っているような気がします。

楽しみの投句先あり冬に入る   吉野利美子
 立冬が過ぎ、本格的に冬が始まろうとしています。寒くなり、日照時間も減ってしまうと陰鬱な気持ちになりがちです。しかし、そんな中でも、掲句のような楽しみが一つあるだけで、日常生活は全く変わってきます。作者からのコメントで、「最近、投句の楽しみが出来てとても幸せな、素人です。」とありました。素人とかプロとか関係なく、楽しみが楽しいということが大切ですね。

納得に辿り着くまで栗を剥く   紅緒
 日常生活を送る中で、納得のいかないことは多々あります。掲句も同じで、何に納得がいかないのかは分かりませんが、比較的皮の硬い「栗を剥」くのですから、一筋縄ではいかなそうですね。

重くなる尿瓶で分る今朝の冬   菊池洋勝
 時間の経過を、使用して徐々に重みを増した「尿瓶」の重さで表現しているところが秀逸だと感じました。「尿瓶」などの言葉をきくと、どうしても暗いイメージが湧きやすいのですが、「今朝の冬」と下五で締めくくることで、命の営みが日々繰り返されているのだと実感します。


2018年11月21日

秋月祐一ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 私事ですが、現在、就職活動中で、なにかと慌ただしい日々を送っております。生活を作品に詠む人にとっても、そうでない人にとっても、生活や世界観の安定というのは、作品をコンスタントに生みだすための重要な基盤なのではないか。そんなことを思ったりもします。今週は205句の中からの十句選です。

【十句選】

花柊今夜もかるき不眠症   百合乃
 「花柊」のひっそりと咲く可憐な花との取り合わせによって、「不眠症」はさほど深刻な事態ではないのだろうな、と感じさせてくれるものがあります。そんな自分を眺めている気配も。

脳内の偏差値ぐんと土瓶蒸し   素秋
 脳内で「土瓶蒸し」を食べたい気分が、ぐんと高まったという意味だと読んでみました。その内容を語る文体のおもしろさが特徴的。「ぐんと土瓶蒸し」と濁音を重ねたのも効いてますね。

文机に猫の爪痕神の留守   たいぞう
 飼い猫は、家中でも数時間から半日ていど、姿を消すことがあって、そのすっといなくなる感じと「神の留守」という季語がうまく響き合っています。「文机に猫の爪痕」の絞り込みも巧み。

シャーロック・ホームズの背に木の実落つ   銀雨
 「木の実落つ」との取り合わせから、シャーロック・ホームズが、はっと振り返って静止画になったような、劇画っぽい雰囲気を感じました。木の実は西洋にもあるのに、なぜか日本的。

小春日の通りすがりに目を反らす   青海也緒
 「小春日」に通りすがりの人から目を反らしたのかもしれませんが、人ではなく「猫」かなにかが、と読んでみたいと思いました。自分が小春日と一体化しているのか、猫が小春日なのか。

防波堤胡桃を鳴らす女子生徒   ぬらりひょん
 なぜ「防波堤」で「女子生徒」が「胡桃」を鳴らすのか不明ですが、有無を言わせぬ迫力を感じました。この三種はどれもにぎやかな音を立てますが、そろったときに無音が生じるような。

あんこうの骨むつかしく口の中   ∞
 「あんこう」は七つ道具と言われるように、身のさまざま部位も独特の形をしていますが、口中でしゃぶっている骨に着目し、その形状を「むつかしく」と捉えた、作者の視点の確かさ。

番台でブログの秋を更新す   ちあき
 銭湯の番台に座りながら、ノートパソコンなどでブログの更新をしている景かと。秋のブログではなく「ブログの秋」とした語順に、作者の工夫が感じられます。「秋を更新」いいですね。

地球儀の青の濃淡冬來る   直木葉子
 地球儀を眺めていて、地球の7割を占める海の大きさに、改めて気づいたのでしょう。そして海溝などの「青の濃淡」にも目が行きました。その青と「冬来たる」が句をびしっと締めます。

瓜坊のハッとするほど大人の目   紅緒
 「瓜坊(うりぼう)」は猪の子のことで、秋の季語。まくわうりのような背の縞模様から、その名があります。 子供らしい小さな体躯を愛でていたら、ふと野性のするどい「大人の目」が。


2018年11月14日

須山つとむドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 麓に広がるもみじ帯を通り抜け山頂を目指すと、道端の日陰に溶けずに残った新雪(冬の季語)と出あえる頃です。山頂で薄く積もった冠雪(季語)を踏み、今年の冬と再会するのも楽しみです。 今週はどんな季語と出会えるでしょうか。

【十句選】

斜めよりテレビ見てゐる温め酒   まつだまゆ
 重陽の節句に酒をあたため、無事に過ごしてきたこれまでの人生を祝う姿がみえてくる。正面横の大画面からは、序でのように映像と音声が流れている。『斜め』に納得した。

色鳥来マティスの絵より抜け出して   短夜の月
 公園や庭でも、よく注意して見ていると、ジョウビタキ、キセキレイなど原色を身にまとった小鳥が姿を見せる。マチスの絵から原色のひとひらを啄んできたかのように、嬉々として。

帰り花園に一人の弾き語り   まゆみ
 アコースティック-ギターの似合うシルバーが、花園に今年も一人姿を見せた。帰り花とタイミングを合わせるかのように。ボブ・ディランの曲では、誰からも拍手がわき起こる初冬。

秋蝶の舞ひ納めたる石の上   たいぞう
 晩秋の日差しに温まった石の上、今年を舞い終えた蝶が一頭静かに羽を休めている。石の模様と蝶の影の造形に、生きることの厳粛さを見た。秋と納めるには、意味の重なりを感じる。

割り箸に絡む水飴小さき秋   素秋
 放課後の部活も、家にはテレビもない戦後に一時期。路上の名優、紙芝居屋のオッチャンに心酔していた。ペダル回しする両手の割り箸に、絡めた水飴は白さを増していった。

この筆箱にぴったりね秋の雲   さわいかの
 お気に入りの筆箱を手に、つぶやく声が聞こえてくる。窓に切り取られた澄んだ空と秋の雲が見えている。設計通りの語順だと満足をするか、さらに詩的な語の並び方を考え出すか。

缶蹴りの缶置き去りに冬夕焼   じゃすみん
 上五、中七『缶蹴りの缶置き去りに』はうまくできた景だと思う。ただ、短時間で、紅色がひときわ印象的な季語『冬夕焼』との取り合わせで、『置き去りに』の余情が気になった。

名付けたる娘は遠し蘭の秋   宮武桜子
 異郷で活躍の愛娘を気遣う父親。蘭は歳時記では春の季語。下五『蘭の秋』では季感が混乱するが、挑戦的俳句となるのかも。『遠し』が国の名前であれば、新しい解釈が生まれたかも。

○□△の柿並ぶ店   スカーレット
 果実の形態を記号で抽象化し、柿の旨さを引きだしたユニークな句。五七五の語調が整い過ぎたのが、強いて言えば弱点。『並ぶ店』の措辞に、単調さを破るカギがあるかも知れない。

校庭に狐来てゐる五時限目   中 十七波
 知恵ある狐は昼に滅多に姿を見せなが、事もあろうに校庭を。午後の授業の退屈さに、窓から校庭観察を続けた視力の勝利! 『来てゐる』の旧仮名表記、もしかして古文の授業中?

【 注目した五句 】

古民家の奥に水音秋澄めり   洋平
 如何にもと、納得の景。古民家と奥、水音と澄むには、イメージの重複から脱する勇気を。

無花果の爛るる匂ひ曼荼羅図   銀雨
 二つに割った無花果に曼荼羅図を見た、スゴイ。中七『爛るる』には、香る詩の言葉を。

いいえでもはいでもなくてラ・フランス   せいち
 芳香の素晴しさに引きかえ、掴み所の定まらぬフォルム。確かに ラ・フランの顔だ。

一人いてわたし駅長あわ立草   ∞
 現役を終え、しがらみを削ぎ落とした初老の男が。省略の句形と語の調べが効果的。

鯛焼きのお腹ぷっくり冬夕焼   茂
  鯛焼(冬の季語)を無季とする歳時記も。『冬』夕焼に手を入れ、無季俳句への挑戦も一考。


2018年11月7日

星野早苗ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 秋らしい日が続きます。皆さん、いかがお過ごしですか。
 ようやく蚊もいなくなったので、先日、庭に豌豆を蒔きました。去年の豌豆は、出て来た豆苗を二度もヒヨドリに食べられたので、今年はネットを掛けて防衛しています。
 青いネットで豌豆の緑が隠れるのは残念ですが、ほんとに丸坊主にされるので仕方がありません。ネットの威力は分かりませんが、これで春まで豌豆が無事だといいなと思います。
 さて、今回は177句の中から。

【十句選】

石垣にまだ温みあり帰り花   まゆみ
 夕方、日がかげった後も石垣にはまだ温みが残っています。晴れて温かい一日だったのでしょう。石垣の続く風景に帰り花が彩りを添えています。玉のような小春の一日を愛おしむ気持ちがしみじみと伝わる句だと思いました。

ままごとの家を秋蝶横切りぬ   ちあき
 ままごとの「家」がよかったと思います。ままごとを始めると、どんな場所もそこが家に変わります。その家を秋蝶が横切りました。本当の家なら壁があって通り抜けられないところを、仮想の家なので蝶はやすやすと通り抜けます。食卓を蝶の横切る家は楽しく魅力的ですね。

吊柿一番星に近い里   茂
 吊し柿を見上げると、夕空に一番星が光っていました。その一連の視線の流れから「一番星に近い里」が自然に納得できる句です。一番星は多分金星だと思いますが、山際に金星がまたたく時刻の吊し柿の里がすっきりと詠み留められていると思いました。

末枯れや薬缶と湯呑みのある駅舎   日根美恵
 アルマイトの大きな薬缶と盆に伏せた湯飲み茶碗が目に浮かびました。自販機もない小さな駅の、乗客に対するささやかなサービスでしょうか。薬缶のお茶がとてもおいしそうに感じられます。暑い夏の最中ではなく、日差しの和らいだ末枯れがよかったと思います。

体幹を鍛える読書秋惜む   をがはまなぶ
 「体幹を鍛える」は本のタイトルかもしれませんが、ここでは背筋を伸ばして真剣に読書にとりくむ姿勢がすなわち体幹を鍛えるエクササイズだと言っているのではないでしょうか。そんな読書の秋もあとわずか。「秋惜しむ」が上手いなと思いました。

団栗のすねて戯けて反抗期   ふみか
 反抗期と分かってはいても、ちょっとしたことで拗ねる子どもには手を焼かされますね。一方で思わぬところで戯(おど)けたりして笑わせてくれます。小さくても固い団栗に、自己主張の始まった子どもたちの様子が微笑ましく目に浮かびました。

薬袋の嵩膨らめる秋日和   みなと
 個包装の薬が何日分も入った紙袋を受け取られたのでしょう。今回新たに処方薬が増えたのかもしれませんが、ふんわり膨らんで嵩高に見えるだけなのかもしれません。「秋日和」の明るさがいいと思いました。

天の川金箔入りの化粧水   中 十七波
 金箔入りの化粧水とはゴージャスですね。使う度に金箔がキラキラ舞ってスノードームのようにきれいだと思います。お風呂上がりにつけたのでしょうか。ひんやりした化粧水のつけ心地は、澄んだ夜空の天の川とよく合っていると思いました。

青空を満腹にして山の柿   紅緒
 山畑の柿がたわわに稔っていたのでしょう。振り返ると青空に柿が照り映えています。「青空を満腹にして」は、ユーモラスで温かい措辞だと思いました。柿は青空が満腹するほどたわわに稔っていたのですね。

お使いへ寄り道したき野紺菊   スカーレット
 買い物にしろ届け物にしろ、お使いを頼まれたときは、早く帰らなければなりません。けれども、そういうときに限って、ちょっと道を外れたところにあるあれこれが目に入るのですね。寄り道してでも摘んで帰りたい「野紺菊」。明るい紫の一叢が目に浮かびました。

【その他の佳句】

烏瓜老後を飾ることもなく   眞人

糸底で包丁を研ぐ秋の雨   紅緒

十月のドラマが端折る幼少期   比々き

点眼をすれば癒え行く秋思とも   今村征一

ばつたんこ縁なきものに武勇伝   たいぞう