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2019年6月12日

谷さやんドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 四国もいよいよ梅雨入りのようです。しばらくは雨の眺めを楽しみます。
 このe船団の「週刊 今週の季語」を愛読しています。今週は中原幸子さんによる「夏風邪」。もう読まれた人にはわかるのですが、幸子さん「夏風邪で3日も寝込んでしまった。大した熱ではないが、ただもうだるく、のど飴舐め舐め、ベッドでごろごろ・・・」とのこと。ただ幸子さんには、ある本のおかげでは楽しい顛末が待っていたようですが。私は幸子さんの先の書き出しで、急に元気になりました。全く同じ症状で苦しんでいたからです。同じようにだるくてごろごろしていた人が居たのだと思って。ゲンキンだなあと我ながら思います。

【十句選】

プール開くかおり至れる保健室   藤井美琴
 保健室の先生に届いたプールの香りか、あるいは休んでいる生徒かもしれない。保健室からは見えない青いプール。そのかおりがいかにも至りそうなプール開き。静かなわくわく感。

麦秋の蛇口閉めればきゆると鳴る   大塚好雄
 麦秋という大きな季語の中の一点である蛇口。「きゆる」が、麦の秋のざらざらした空気の中で高く響く。

ブラタモリ五秒の主役燕の子   野木編
 人気のテレビ番組「ブラタモリ」。たった五秒画面に映ったのが燕の子なのだろう。ほんのわずかな場面が、内容よりも心を占めてしまうときが確かにある。

飛行機の影吹き抜ける夏野原   銀雨
 「吹き抜ける」が上手いと思う。夏の野原のうねりが見えてくる。同じ作者の「柏餅遠き故郷に天狗岩」も好きだった。柏の葉を剥ぐとき、かつて親しかった天狗岩を思い起こしたのだろう。

薔薇真紅逢魔が時を寄せ付けず   せいち
 「逢魔時」あるいは「大渦時」は、暮方の薄暗い時刻のこと。その時間がやってきても、真紅の薔薇だけは陰りをみせず鮮やかにそこにある。

白シャツのボタン焼そばぶら下がる   うさの
 可笑しい。白シャツにはもう一本のソースの色がついてしまっただろう。そろっと、ぶら下がる焼きそばを外してあげよう。同じ作者の「コンテナでベッド作ったソーダ水」もいいなあと思った。

蚕豆やドイツ土産のジョッキ2個   茂
 ビールグラスが違うと、ビールの味も変わるのだろう。2個のドイツ製のジョッキの乾杯に、蚕豆がとても美味しそう。

サイダーの缶に積み木の赤き屋根   青海也緒
 子どもの積み木遊びの光景。サイダーの句で、こんな夏の光景も出来上がる。積み木を一個のせたら、お家の出来上がり。

ガラスの鳩冷やしたゼリーは如何です   まるめ
 ガラスの器に描かれている鳩に声をかけているのだろうか?ゼリーを置く前に。いい具合に鳩も心地よさそう。同じ作者の「友に文少しうそあり夏の雨」がある。私もいつも少しの嘘を書いている気がして、共感した。

宣伝の看板田植えが終り居り   意思
 そういえば、田んぼべりに大きな看板が建てられてあるのを見かける。具体的なメーカーの名前を出せばもっと面白いかもしれないとも思ったが、そっけなく「宣伝の看板」としたのは「田植え」の方が大事なのだから。それで良かったと思いなおした。

【気になる句】

青バナナ選り分け厳かに戻す   マチ ワラタ
 「厳かに」に可笑しみがにじみ出ています。

梅雨晴や「いつも通り」で済む床屋   木崎善夫

蠢ける己れの影や髪洗ふ   抹茶金魚


グラウンドを 数多の靴が 駆ける夏   竹島明範
 駈ける夏だと当たり前感が強くでてしまうので、たとえば「グラウンド数多の靴が夏駈ける」と語順を変えると、少しそれが緩和されます。「グランドを」の「を」なくていい助詞ですね。

島風に日傘難なく裏返る   紅緒
 「難なく」が人ごとのようで可笑しい。


2019年6月5日

久留島元ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 青葉の候となりました。五月なのに七月並みの暑さが続き、これでは夏の猛暑日はどうなることか、と思っていたら、梅雨前線が近づき、梅雨寒を感じる日々となりそうです。湿気のない日は風も青葉風といった風情で涼しく感じられますが、そろそろ冷房を動かし始める時期かもしれません。
 さて、上の文章に季語はいくつ入っているでしょうか。
 季語も時代とともに変化しますが、新しい季語でも、歴史を持った季語でも、季語の説明に終わるような句だけでは面白くありません。ということで、説明的でない10句を。

【十句選】

筍生る太古海なる大地より   まゆみ
 竹林を見て「太古海なる大地」とはなかなか発想できませんね。土地の説明に終わらず雄大なリズムも、うまくできていると思います。

恐竜の骨眠る川蛍飛ぶ   ふわり子
 こちらも考古学系。蛍を魂に喩えることは平安時代の昔から行われてきましたが、蛍を見ながら太古の生物を思う想像力が素敵。

梅雨蛍京の湧き水陵墓群   酒井とも
 陵墓とわき水がセットになり、そこに蛍が飛び交うのも、京都ならではの風景。

サルビアやユーゴスラビアちりぢりに   ぬらりひょん
 サルビアはブラジル原産の植物ということですが、眼前の平和な花壇から唐突に取り合わされる東欧が、意外であって笑いになりきらない切実さがあります。

女いてサイノカワラを夏の蝶   ∞
 夏の蝶、女、という現実と、賽の河原という言葉が、どのように重なっているのか、ミステリアスな世界。お盆や水子供養との連想がありますが、そこまで言うのは野暮。

どかんと青葉どかんとスーパーカー   さわいかの
 どかんと青葉、の大胆さが気持ちいい。スーパーカーは車種を特定してもいい。

ぶら下がる房のバナナのよく嗤ふ   銀雨
 上五から中七までは当たり前の言葉がならんでいますが、最後に嗤うとひねっただけで一気に不気味な句になりました。

「妻の取説」「夫の取説」蛇苺   紫
 トリセツ、のほうがわかりやすいか。夫婦が語らず理解し合っていたという幻想は昔のこと、きちんと図解で示してわかり合うべし。いかにも現代、という感じ。

あったり前のかったるさ蚊遣の煙り   北川
 撥音の連続や、「蚊遣」「煙」の脚韻など、かったるいわりには勢いがよく凝った作り。

その先はアンドロメダよかたつむり   紅緒
 かたつむりは木に登ったり、意外と驚くようなところにいることがありますね。宇宙へ飛び立とうとするかたつむり。

【選外佳作】

「顔はなぜあるの?」と問ふ子草茂る   比々き
 子どもの純粋な質問の形とって、なぜ顔が気になったのだろう、顔がなくなったらどうなるだろう、と無限の怪しい問いにつながってしまう不気味さ。草茂るがベストマッチかどうかはやや検討してよいところ。

牛が身を豊かにゆすり牧開き   藤井美琴
 実感がわかず判断しにくいのですが、酪農家にとって、当然の景なのか共感できるよい句なのか。

たけのこや抱けば体に添ふてくる   中 十七波
 せっかくとれた大きなたけのこを抱いて運んで、なんならその日は一緒に寝るつもり?一物仕立てに近い作りなので「や」の切れ字が効いているかどうかが疑問。

午後一時青葉の反射でやけどする   まるめ
 「青葉の反射」一瞬わかりにくかったのですが反射の光ですね。当然すぎるほどわかりやすい内容に比べ、やや言葉が至っていない感じ。

葉桜や見境の無き交尾かな   意思
 おそらくは鳥でしょうか、それとも虫か。虫鳥の、とすればそのまま季語になってしまうし、明示されないとわかりにくい。生命力あふれる時期ならではの、意外なものが交尾していてもいいかも。

矛盾のない歌は五月でバイバイ   干寝 区礼男
 矛盾のない歌とは何か。宴会やカラオケのお開きなのか。わかりにくかったのですが、なにか作者の世界があるように思われ、目にとまりました。

飛花残花マージャン胼胝よペンだこよ   素秋
柏餅柱のきずに「かあさん」も   三香子
ひとつだけ蛇口夏空向いたまま   たっか


 類想が大いにありえると思いつつ、作者の個性、目の付けどころが楽しい句。
 素秋句、マージャンにも仕事にも奮闘したリタイア組の感慨か。三香子句、背比べの印、いつの間にか母の背をぬく子もいたことでしょう。たっか句、誰もが共感する公園やグラウンドの光景。


2019年5月29日

中居由美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 5月25,26の両日、船団の「初夏の集い」に参加しました。今年は、東京の「新宿区立漱石山房記念館」で開催され、漱石のことを皆で学んだ実りある集いでした。
 昼過ぎに散会。松山へ帰る飛行機の便まで少し時間があったので、漱石の過ごした早稲田界隈を自由気ままに逍遙することにしました。すっかり猫になりきって・・・・。漱石生誕の地から出発し、こまごました路地や路地の奥などを歩きました。鏡子夫人が、漱石の虫封じのため参拝したといわれる穴八幡宮で、木陰に座り緑の風に吹かれていると、気分は最高。ここは東京か、と思うほどゆったりした時間が流れていました。漱石や、鏡子夫人がそこら辺を歩いている錯覚にとらわれるほどでした。AIがいかに発達しようと、この皮膚感覚は大切だと思いました。

【十句選】

薔薇の雨錨を上げる旅客船   短夜の月
 雨に打たれる薔薇。その向こうに停泊している旅客船の錨。柔らかな薔薇と硬質の錨の取り合わせがいいと思う。初夏の美しい映像が鮮明に浮かぶ。

ためらはず心臓狙ふ水鉄砲   まつだまゆ
 上五、中七でどきっとさせ、下五で種明かしをしている。子供たちの楽しい夏の遊びだが、無邪気さのなかにある微量の残酷性を見たのかもしれない。

街角の動かぬピエロ聖五月   銀雨
 どうしてピエロは動かないのだろう・・・?そのあたりが、よくわからないのだが、道化師の哀しみがじわりと滲むのは、百合の咲く季節、聖母月の清らかさをイメージするからだろう。

万華鏡地球を回す五月かな   相沢はつみ
 万華鏡を回すと中の模様がくるくる変わる。それが面白くて夢中になってしまう。「地球を回す五月」という発想に飛躍があると思った。

水田にも沖ありひかり湧き止まず   大塚好雄
 ちょうど田植えが始まっている時節。広々とした水田に沖を見た作者。しかも光が溢れている。明るい未来の予感がする。

ええ人は早う死なはるところてん   けむり
 ちょっと切なくなる一句。会話しているような、つぶやいているような言葉が俳句のリズムに乗った。正岡子規も母親の言葉として、「毎年よ彼岸の入(いり)に寒いのは」という句を残している。

青々と走る静脈時鳥   せいち
 「青々と」が説明になっているのが、惜しい。しかし、静脈が時鳥に向かって伸びている光景が想起され、この発想は、怪奇的で面白いと思った。

次にくる入道雲に乗っていく   うさの
 メルヘンチックで楽しい句。入道雲を各駅停車の駅で待っているみたいな気分になる。さて、どこへいくのだろう。自由な発想が生かされた一句。

工場を閉ぢる筍伸びてゐる   二百年
 「工場を閉ぢる」で一旦切れる。その後、「筍伸びてゐる」と続く。この両者には関連性はないが、うっすらとイメージがつながっている。うっすらの引き出し方が上手いと思う。

瀧を脱ぐごとくネクタイ外しけり   マチ ワラタ
 男性がネクタイを外すとき、こんな気分だろうな。季節は夏。巷では、ノーネクタイが推奨されているが、ビジネスの場では、ネクタイが必要な場面も多いことだろう。


2019年5月22日

内野聖子ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 吹き抜ける風も心地よく、新緑が目にまぶしい季節になりました。爽やかで過ごしやすい日が続いていて、単純な私はそれだけでもなんだか嬉しいです。
 さて、来月上旬から「俳句甲子園」の地方大会が始まります。私も県大会の審査員をさせて頂いていますが、毎年高校生から刺激を受けて新鮮な気持ちになります。今年はどんな「高校生の俳句」に出会えるか、今から楽しみです。
 今週もたくさんの投句をありがとうございました。毎回のことですが、10句選ぶのにとても悩みました。

【十句選】

一斉に泳ぐのやめる鯉のぼり   うさの
 鯉のぼりを擬人化することで、そこに鯉のぼりの意思があるようで生き生きと感じられます。偶然ですが、今回ほぼ同じような情景を詠んだと思われる「無風なり鯉のぼり今何思ふ  佐藤利美」という句がありました。こちらは人間側からの目線で詠まれたものですね。

匙の音触れ合う響き薄暑かな   百合乃
 少し汗ばむような初夏の陽気の中では、スプーンが当たって立てる微かな金属音が涼しく感じられます。何気ない日常生活の一コマですね。

雲梯を一段とばし掴む夏   銀雨
 雲梯を掴むだけでなく、夏までも掴んでいくような力強さが感じられる句です。「一段とばし」で切ると「夏を掴む」意になってスケールが広がります。さらに一段飛ばしながら掴んでいく勢いと「夏」がとてもよく合っていますね。

振り向きもせずふらここの揺れしまま   素秋
 勢いよくブランコから降りた作者(または誰か)が、そのままの勢いで歩いていく。その後にはまだ揺れているブランコだけが残されているという情景。何か吹っ切れたのか、決意の表れのようにも感じられます。

夏の空通天閣もキリンにも   せいち
 それぞれの取り合わせが面白い。夏の空を背景に立つ通天閣だけなら、よくある光景と言ってしまえばそれまでだけれど、キリンがそこに加わることでそれぞれが活きてきます。

万緑を過ぐきみの家探しつつ   加納綾子
 ある日の出来事を詠んだものなんでしょうけど、とても印象に残りました。捉え方によっては心象風景ともとれます。「過ぐ」で一旦完結しているようで、「探しつつ」とまだ継続している余韻を残している。見渡すばかりの新緑に作者は圧倒されたのか、癒されたのか。「きみ」との関係性で微妙に変わってくると思います。

惜春やフラミンゴの首揃う時   まるめ
 映像を観ているような句だと思いました。何羽もいるフラミンゴが揃う瞬間をとらえていてとても印象的です。フラミンゴの色と「惜春」がまた合っています。

誤字脱字たっぷりと盛る豆ご飯   マチ ワラタ
 「たっぷりと」がどこにかかってくるのかでニュアンスがかなり変わってくると思います。「誤字脱字」と「豆ご飯」両方にかかると考えると面白いです。

青空を振りかけ新緑召し上がれ   瀬紀
 新緑に青空をトッピングするなんて、何て贅沢なんでしょう。青と緑の色彩の鮮やかさが爽やか。弾む気持ちが伝わってくるようです。

たわいないキモチ初夏には溢れてて   干寝 区礼男
 夏に向かっていく時期は、気持ちも浮き立ったり反対に少しモヤモヤしたりする気がします。「気持ち」と書くほど重くない「キモチ」がそこここに溢れている、そんな感覚ですね。

【気になった句】

山吹や遡上の鱗きらきらと   太郎

沖つ波高し憲法記念の日   けむり

受け取りし書留いずこ蝸牛   谷あやの

滝落ちて又現るる主役かな   をがはまなぶ

夏の雲旅が仕事のバイオリン   中 十七波

雀の子ほたりと路のまんなかに   石井カズオ


  
2019年5月15日

山本たくやドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 新年度が始まってバタバタしているうちに、平成が終わり令和を迎えました。大型連休中ということもあって、巷は年越しのような賑わいでしたね。
 これから先、何度改元しようとも、俳句が賑わい続けますように。
 それでは今週の10句選です。

【十句選】

食パンの耳まで旨し立夏なり   まつだまゆ
 「旨し」と言い切っているところが好印象でした。季語「立夏」とも相まって、爽やかな一句になっていると思います。

出世から少し外れて春風課   たぶん
 「春風課」という大胆な造季語を作った点に目をひかれました。こういった造語は賛否両論あるでしょうが、既存の価値観にとらわれることなく大胆に言葉を紡ぐことは、今後の俳句のためにも大切なことでしょう。

なめんなよ少女は薫風めつた切り   ぬらりひょん
 この荒っぽい感じが良いですね。何に対して「なめんなよ」なのか。安易に「少女」と「薫風」を同一視するなということなのでしょうか。そんなことを言いつつも、「めつた切り」の行為が可愛らしく感じます。

青麦やキリンの首が燃えてゐる   大塚好雄
 坪内稔典の「水中の河馬が燃えます牡丹雪」と、少し似ているかなといった印象はあります。しかし、「ゐる」と旧仮名を使用しているあたりに、作者の工夫が感じられます。また、季語「青麦」のチョイスも良かったと思います。全体的に抽象画のようなイメージを持たせてくれます。

押しボタン式の信号春の蝶   菊池洋勝
 取り合わせを使った、きちんと形の整った基本的な俳句。自然と人工物を対比させて、取り合わせているのも良い点だと思います。この「信号」が赤なのか、青なのか。そこから読み手によって、いろいろなイメージが湧いてくるでしょう。

パパイヤをしりしりおろす忌野忌   比々き
 あくまで個人的な意見ですが、忌日の俳句はあまり好みません。何故なら、一般的に知られていないことが多いからです。俳句を知らない人に「河童忌」などの俳句を読んでも、分からないことがほとんどでしょう。私も今回、「忌野忌」が5月2日だと知りました。ただ掲句は中七までの言葉が面白いですね。忌日は難しいですが、そういった言葉を楽しく紡ぐのは大切なことです。

起立、礼、凛と響いて立夏かな   鷲津誠次
 神野紗希の「起立礼着席青葉風過ぎた」の句に類似しているという感が否めません。初夏の雰囲気と学校の号令との取り合わせは、全体的に爽やかなイメージが付きやすく、そこが既視感にも繋がるのやもしれません。ただ、句としてはきちんと成立している一句です。あとは作り手の好みで、掲句のままにするか発想を飛ばした推敲をするかの問題だと思います。独自の好みの世界を作ってもらえたらと思います。

ホチキスで閉じる平成聖五月   中 十七波
 元号を跨いだということもあり、今回、多くの元号に関する投句がありました。「平成」を詠んだもの、「令和」を詠んだもの、はたまた「昭和」以前を詠んだもの。元号を詠み込んだ俳句の中では、掲句がダントツに良かった。あとのものは、申し訳ないのですが、元号がパワーワード過ぎて、一句として成り立っているとは思えませんでした。「ホチキスで閉じる」という何気ない動作ですが、その「閉じている」ものに、「平成」とさりげなく言葉を並べている。おそらく書類か何かを閉じているのでしょうが、季語と時事ネタとも相まって、「閉じる」行為に身が引き締まる思いがしました。

フラスコの中は迷路や風信子   スカーレット
 筒井康隆の『時をかける少女』みたいな世界ですね。割りとシンプルな形のフラスコですが、その中が「迷路」というのは面白い取り合わせですね。

葉桜に直線的な恋なのだ   干寝 区礼男
 「なのだ」と言い切ったり、「直線的」と言ったりしているあたりに、この恋への愚直さが伝わり、とても好感が持てました。


2019年5月8日

秋月祐一ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 このたびの十連休は、風邪を引いてしまい、作句はおろか、読書さえできない日が続きました。良好な創作環境を保つためには、健康にも気をつけないといけないな、と思いました。ぼくはただの風邪でしたが、季節はずれのインフルエンザも流行っているようなので、みなさまお気をつけください。今週は193句の中から。

【十句選】

神の名を給いし川をゆく立夏   松浦麗久
 「神の名を給いし川」の水面を「立夏」が通り過ぎてゆく。この立夏は季節であるとともに、神のイメージを伴っている。現前の光景と神話的な世界が交差する瞬間をたくみに捉えた一句。

告白の返事のごとき蛙かな   まつだまゆ
 「告白の返事のごとき」が、蛙の比喩表現として、とても新鮮だと思った。それと同時に、告白をした作者が、蛙の鳴き声を、その返事だと感じるくらい恋に夢中である、と読むこともできる。

にこにこと無垢は一歳までの春   吉野利美子
 「にこにこと無垢」で充足した一歳児の様子を、温かく見守っている。下五の「春」は、他の季節には置き換え不能だろう。にこにこと無垢な一歳児は、まさに人生の春を生きているのである。

お茶摘みで単位取得やコカ・コーラ   酒井とも
 「お茶摘み」と「単位習得」の組合せに意外性がある。農業高校の実習か、中学生の職場体験だろうか。若い彼らが休憩時間に飲むのは、お茶ではなく「コカ・コーラ」だというのも面白い。

飛行雲降圧剤はすぐ溶ける   まるめ
 大空に伸びてゆく「飛行機雲」と、口中ですぐ溶ける「降圧剤」の感触。この取合せに爽快感のようなものをおぼえた。あくまでも想像だが、この降圧剤もまた白いのではないだろうか。

ひかり研ぐ力ありけり柿若葉   マチ ワラタ
 「柿若葉」が初夏の日差しを受けて輝くのみならず、周囲のひかりを研いでいる、と捉えた一句。その把握の鋭さと、「けり」を用いて言い切る文体が、みごとにマッチしているように思う。

やみつきってエロくて初夏の味する   干寝 区礼男
 「やみつき」という言葉が、なんとなく「エロ」いことまでは想像できるような気もするが、そこからさらに「初夏の味」を感じとった作者の感性が非凡。口語で破調をまじえた文体の工夫も。

慰霊碑は津波の高さ花こぶし   紫
 「慰霊碑は津波の高さ」という事実と、それを端的に言い表した表現に心を打たれた。「花こぶし」は慰霊碑の傍に植えられたものか。こぶしの花に復興への願いが込められているのを感じる。

平成と令和の隙間飛花落花   中 十七波
 今回の作品募集が改元と重なったため、「令和」を題材にした句がいくつかあった。その中から、両時代の時の隙間に着目したこの句を選んだ。「隙間」は「すきま」と仮名に開いてみては?

ヘンゼルとグレーテルに貸す雪柳   紅緒
 ヘンゼルとグレーテルに貸す「雪柳」には、魔女のおばあさんをやっつける呪力のようなものがありそう。生身の人間が、童話の世界にこのようなかたちで関与できる、という発想も面白い。


2019年5月1日

須山つとむドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 近くの里山を歩いていて、今年も ザイフリボク に出会いました。バラ科の落葉高木で、五弁の可憐な白花をいっぱい総(ふさ)状につけていました。新元号 令和(REIWA)の音感とも響きあいそうで、 花の白さに見入りました。
 新しい俳句、あたらしい季語との再会が楽しみです。

【十句選】

おにぎりを頬張るごとに山笑ふ   太郎
 細い枝がいっせいに赤みを帯び、山全体が淡いピンクに染まる春。両手でおにぎりにかぶり付き、頬一杯にふくらますときのあの幸せ感が、山やまへも伝わっていく。

柏餅食べて令和の人となる   洋平
 端午の節句で皆が揃った。蒸しあがった柏餅から、小豆餡や味噌餡の香が立ち上る。今年はちょっと変、山帰来(サルトリイバラ)の葉で包まれている。そうか、元号が改まったのか。

土器を投げ薫風を真つ二つ   今村征一
 回転させて投げ下ろした土器(かわらけ)が薫風に乗ってひるがえり、美しい弧線を描いた。新樹の大波を切り裂くように、名刀の切れ味を見せてくれた。

鳥曇り小さく前へ倣えして   マチ ワラタ
 北へ帰る鳥たちへの哀愁と、朝礼に並ぶ園児たちの初々しさとの対比が句となった。 『小さく』がさりげなく機能し、『前へ倣え』の句またがりにも、春らしい動きを感じる。

色褪せたザックにコップ二輪草   じゃすみん
 登り口から半時間も歩くと、もう疲労感が。でも、道端に群生するニリンソウ(アネモネ属の山野草)の白い群落に会うと疲れは霧消。ザックのコップが音をたてた。山岳俳句。

ジーンズより白きくるぶし花水木   紅さやか
 白のジーンズの臑から、踝の白色がこぼれ落ちた。白いハナミズキの街路樹が似合う、オシャレな昼の街角。上五『より』を比較と読めば句意が混乱。 『ジーンズの』でも句は成立。

カッターの刃先斜めに折る薄暑   比々き
 目と指先に緊張が走る。親指に力が込もる。「ピキッ」と冴えた音が跳んだ。大切に残しておきたい季節感と季語の薄暑。『蝶の舌ゼンマイに似る暑さかな』龍之介の盛夏の句をフト。

地虫出ておむつ外しもそろそろね   ヤチ代
 子育てに苦労し、新しい発見もしたりして、生活を楽しんでいる家庭がほほえましい。上五『地虫出て』を、『地虫出づ』と季語のまま言い切って、生活感(?)を消し去る方法も。

目の前に落ちてきさうな春の月   スカーレット
 スーパームーンの単語を知ったからだろうか、登りはじめた満月の大きさを気にするようになった。両手をつき出して待ち受けている男性に、たとえば晩年の漱石の姿を連想した。

春昼を埋める升目のあとひとつ   まどん
 もしかして、スマホ派と升目派の二つの流派があるのではないか? 座席に座る電車の乗客の時間の使いかたを観察していて思うのは。春昼では、もう一つ 昼寝派が加わるのかも。

【注目した5句】

春の宵ゆっくり剥がす包み紙   宮武桜子
 クール宅配便の重さが気になる。ボクが開けると兄。家族の頭が集まってくる春宵の一刻。

ペテン師の唇かわく四月馬鹿   伊奈川富真乃
 アポ電多発。カサつく四月はぺてん師にだって鬼門。下五は『四月かな』でも句になる。

陽炎や駿馬へ入るる鞭の音   伊奈川富真乃
  わかる、分かり過ぎる。ロングショットが陽炎に揺れる。『入るる』の音感にやや戸惑いも。

コアラ舎にコアラいなくて春の昼   せいち
 中七『いなくて』の、『て』は削除できないか。せっかくの秀句が説明句となり、惜しい。

位置変へて初蝶を見てゐたる人   みなと
 下五が不明瞭。『位置変へて初蝶の舞見てゐたる』など、自分の視点に集中するのも一法。