「e船団」のドクターがあなたの俳句を診断したものです。


2012年10月31日
星野早苗ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 朝夕冷え込んできましたね。
 紅葉にはまだ少し間があるのですが、休日の京都は観光客でいっぱいです。バスも満員で大変なのですが、京都に出かける予定が入ると、うきうきするのが不思議です。疲れるのは分かっていても、秋の京都はやはり格別な気がしますね。
 さて、今週は222句の中から。

【十句選】

草の花あと二駅で故郷に   洋平
 「あと二駅」に実感がこもります。「草の花」は、車窓から見えていてもいなくても、心の景色としていただきました。故郷には、普通電車と草の花が似合います。そこに至る旅の過程を経ることで人も少しずつ変化し、草の花に近づいていくのでしょう。

夕紅葉波の音して浮かびけり   学
 海辺に近い山紅葉が、夕日に照る様を思いました。「浮かびけり」の惜辞が夕紅葉の夢幻性を上手く表現していると思います。「波の音」が「浮かぶ」の縁語であることも効いていると思います。

コスモスや面白山の雲一朶   太郎
 「面白山」は、山形県と宮城県の県境にあり、紅葉の名所だそうです。地名を生かされただけでなく、面白山が近景の「コスモス」と遠景の「雲一朶」を上手く?いで、印象鮮明な一句です。

愛されて立つコスモスの畑かな   鉄男
 畑の中のコスモスの群れは、確かにそこだけ丈高く揺れていて、畑の主に愛されているのは間違いないように思えます。また、「愛されて立つ」で切れると読めば、誰かに愛されて立っている幸せな女性が目に浮かびます。

薑(はじかみ)や逢ひたき人に逢ひたき日   伊藤友貞
 昔、「欲しいものが欲しいわ」という、糸井重里のコピーがありました。「君」「あなた」「父母」などと特定されない「逢ひたき人」を求めるのは、人恋しい秋の日だからなのでしょう。

香りより色のすつぱき檸檬かな   くまさん
 「すっぱい色」があるとすれば、それは檸檬色。檸檬がすっぱいから、という後付けではなく、香りと比較することで、直感的にすっぱさを感じさせる色だと作者は言っているのでしょう。レモンイエローが、どの色よりも明度の高い色だからかも知れません。

秋草のあまりに長き根なりけり   くまさん
 夏中ずっと生い伸びてきた秋草です。繊細に見えても、その根は、地中にしっかり張り巡らされていたのです。「なりけり」に向かって詠み下してゆく叙法にも、草の根の呆れるばかりの長さが想像されて、面白い句でした。

買ひ積みし書の疎ましき夜半の秋   恥芽
 本箱からあふれ、床に積まれた本。どの本も、買うときには、その本を読む楽しい時間を想定して買ったに違いありません。けれども、期待通りの豊かな読書の時間を実際に持つことは、多くの人にとってきわめて難しいことなのです。そこで本を疎むのは、人の身勝手なのですが……。実感があっていただきました。

枝豆に丹波の土の匂ひかな   紀子
 食物の産地が分かると親近感が湧きます。大粒で黒っぽい丹波の枝豆の匂いを、丹波の土の匂いと感じられたのでしょう。丹波と言えば、関西では山深い土地の代名詞、滋味深く、野趣のある枝豆ですね。

空高し一本杉をだきしめる   豊田ささお
 福島の一本杉は有名になりましたが、全国各地に一本杉はあります。秋の青空を背景に、一本杉を抱きしめる。一本杉を慈しむ気持ちが真っ直ぐに表現され、まぶしいような一句です。お互い生きてあることの喜びが伝わってきました。

【その他の佳句】

ゴム跳びのゴムはこめかみ秋高し   凡鑽

銀河より戻って来たるフェリーかな   B生

グールドは何かの途中昼寝覚め   伊藤友貞

等身をぬけだす影や夜学生   啓

合掌のうなじに白き秋の風   戯心

眠る手に握りしままの木の実かな   くまさん


2012年10月24日
早瀬淳一ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 皆さん、こんにちは。11月はじめに男前豆腐3連チャンじゃなかった、句会3連チャン行きます。2日・仲間の句会、3日・北摂句会、4日・船坂ビエンナーレに合流句会。いくら句会好きのわたしでも、もうヤケクソです。
 それはそうと、4日のイベントは面白くなりそうなので、興味を持たれた方は、是非いらしてください。俳人と歌人が俳句・短歌の両方をつくり、句会形式でバトルする、という試みです。くわしくは、e船団・句会案内・宝塚句会をご覧ください。それでは十句、よろしくお願いします。 あっ、5日のメール句会締切忘れてた!

【十句選】

河口には竿百本の鯊日和   山畑洋二
 鯊日和は鯊を釣るのに適した秋の好天の日ですね。そんな気持ちのいい日の河口に、海苔を養殖するためか細い竹の竿がたくさん並んでいる。河口ですから、汽水のにおいがしてくるようです。述べないでモノのつよさを利用する俳句の好例。河口には竿が百本鯊日和、河口には竿百本や鯊日和、などのように切れを作ったほうがより俳句らしい。

蟷螂に似たる僧侶の艶話   古田硯幸
 これも眼前に浮かんできます。本当にそんな人がいたかもしれませんが、カマキリに似たお坊さんという発想がすごい。その坊さんが色っぽい話をし出すという、少し面白すぎるかもしれませんが。

くちびるにやわらかき意思このみふる   遅足
 目は口ほどにものを言い、といいますが、ふとした唇の形がその人の気持ちをよく表しているというのはありますね。この句の場合、物事の決着がついた後の安堵のような、軽い微笑のような形なのでしょう。木の実が降る静かな時間に。

大阪の秋の夕焼け憂歌団   秋山三人水
 大阪平野に沈む赤々とした夕日をバックに、憂歌団の木村充揮のしゃがれた声のブルースが聞こえてくる。きまっていますね。ベイエリアの船員用のバーだったら、もっとかっこいい。
 蚊を殺す大阪湾に日が沈む  小枝恵美子

駅出口すぐに舞台の秋祭   隼人
 駅を出てすぐに舞台の秋祭、ともできます。列車が1時間に1本くらいの田舎の駅の出口をでたら、すぐの広場にいつの間にか秋祭りの舞台が作られている。地元の中学のブラスバンドなどが演奏するのでしょうね。平易な表現で楽しさが伝わってきます。

アルプスの少女片手で秋刀魚焼く   鉄男
 今回はオモシロ系の俳句を多めに選んでしまいました。ハイジが屋外でトングを使って炭火で秋刀魚を焼いているという、ハチャメチャな構図。そもそもスイスで秋刀魚を食べるのかという。元気のいい女の子がアルプスの少女の気分になって、というのかもしれません。

香典の謎深まりて穴惑ひ   紅緒
 書かれた名前を見ても、遺族の誰も香典の差出人を思い浮かばないという、何ともマヌケな状況。まじめくさって普通の俳句の顔をしているのがオカシイですね。穴惑いも合いすぎですが、ぴったし。

涼新た水路に浮かぶ古代船   和久平
 水路だとやや狭い感じがするので、運河ではどうでしょうか。涼やかな澄んだ空気の中で、静かに浮かぶ遣唐使船を復元した古代船。イメージ鮮明です。

鶺鴒や薩摩義士碑の暗き溝   和久平
 この一夏かけて「翔ぶがごとく」(司馬遼太郎)を読んだ私の気分にぴったりの句です。義子碑を正確には知りませんが、愚直で勇気と誇りをもっとも尊び、西南戦争で無意味に(歴史的には意味があるが)死んでいった数多の薩摩隼人。暗き溝がその気持ちを表し、鶺鴒が慰めているようです。鹿児島に行きたいな。

抱かれてもいいわだなんて猫じゃらし   あざみ
 作者は男性かな。猫じゃらしが揺れる野の中を二人で歩いているとき、連れの女性が「抱かれてもイイトモッ」などと少しふざけて叫ぶせりふはオシャレですね。どぎまぎする草食系男子がかわいい。
 がんばるわなんて言うなよ草の花  坪内稔典

【予選句】

秋涼や小舟は向う岸へ行く   涼
 作為のなさがいいですね。

六分儀銀河に好きな星一つ   まゆみ
 大きなロマンがあります。

桐の葉に月光過ぐるところなり   まゆみ
 桐一葉日当たりながら落ちにけり(虚子)を思い出します。

竜胆やずんずと山に日の落ちて   太郎
 ずんずん、とされては。豪快な落日の表現が面白い。

色付きし林檎に空の青深む   山畑洋二
 林檎が空の青を深めるというのは面白い。

ついと来し赤とんぼうの赤哀し   山畑洋二
 赤哀し、が面白い視点です。

クレヨンの貌の匂ひぬ時雨かな   学
 クレヨンの顔か、描いた絵の顔か、時雨の感じが出ています。

断崖の上に紅葉といふ遠さ   学
 遠さ、が意表を突かれました。

風呼んで月へと向かう秋ひばり   きのこ
 季重なりですが、きれいな句ですね。

あんパンの焼けし札出て小鳥くる   きのこ
 焼きたての札、とされては。いい匂いのところに小鳥が来ていますね。

やわやわと大根苗に秋の風   きのこ
 目によく見えます。

人生に笑い皺あり柿を揉む   Kumi
 こんな人生っていいですね。

蓮根と靴下の穴ひっそりと   伊藤友貞
 オーバーラップしておもしろい。

木賊刈る下宿稼業も三代目   伊藤友貞
 のんびりした暮らしぶりが想像できます。

鼻輪なき小牛の鼻に秋の風   えんや
 のどかな感じ。

あの時は木の実と信じて落ちました   遅足
 信じてを、となって、では。変な俳句ですが面白い。

外灯と外灯の間の虫の闇   せいち
 街灯かな。闇がとても感じられます。

藁塚の端のひとつがよろめきぬ   せいち
 崩れているのを面白く表現しました。

秋冷やわるい男と話し込む   とも
 話し込むだから、仲は悪くないのですね。

朝礼の後列乱れ鰯雲   茂
 虫が飛んでくると子供はすぐに逃げる様子がよく表されています。

トラツクで乳牛の来る秋祭   隼人
 この秋祭りも楽しいですね。

かなかなや妻と二人の地鎮祭   不二夫
 子供のいない年配の夫婦か若い夫婦。しみじみとした味わい。

足湯して海見て秋の風を見て   今村征一
 風を見るというのが面白い。

鰯雲灯台の空泳ぎ行く   山上 博
 灯台の背景がいいですね。

笛吹きにつられて子らのひつじ雲   鉄男
 ハーメルンの話みたいで、不思議ですね。

君走れよと言う秋の空だな   鉄男
 自由律っぽくて、面白い。

嘘拾うごとくにひろう椿の実   ∞
 嘘を拾うというのが分からないけど面白い。

敗荷や小高き丘の穴稲荷   ゆきお
 やれはす。風景がよく見えます。

海荒るるひとりの膳の栗おこわ   たか子
 淋しいけど、栗おこわに救われます。栗ごはんではどうでしょう。

一湾の夜空明るし神無月   たか子
 10月の月の明るい空の素敵な言い方ですね。

小鳥来てカウンセリングひと休み   紅緒
 小鳥の鳴き声や種類について話し合っているのですね。

人住まぬ島の十字架秋の空   豊秋
 かつて住んでいた人々が思い起こされます。

茶立虫始末書二通書き上げる   邯鄲
 身につまされます。

コスモスや女子高校のラクロス部   紀子
 コスモスとよく合って、おしゃれです。淡々としたいい口がいいですね。

家康の長寿の湯なり秋の宵   中島啓之
 露天風呂マニアにとってはこたえられません。

兄の忌や脚美しくバッタとぶ   さくら
 バッタの脚が美しい、というのは初めて見ました。

野仏に口づけするや秋桜   とほる
 野仏と秋桜はつきすぎですが、口づけが面白い。

縁側に少しぬくもり初月夜   くまさん
 秋の強い日差しの余韻。リアルに感じます。

ワッと咲きスッと消へたる彼岸花   くまさん
 よくわかります。思い切った言い方です。

古代米刈る子はいつか弥生人   豊田ささお
 これもよくわかるし、面白い。

【ひとこと】

◎こうされては?
秋花火果て病室は黙の中
・・下5を、静寂に

天井の菩薩の唇を秋の蠅
・・唇を、鼻か頬

好きな色ダーク・ブラウン蚯蚓鳴く
・・上5を、壁紙は

留守宅の番犬ふて寝秋日和
・・ふて寝を、ごろり

秋風に鍬打つ手に力込め
・・鍬を

スカイツリー一直線に秋の富士
・・一直線にを、発射しそうに

手を指せば親指が好き赤とんぼ
・・上5を、小指より

銀漢に一つ覚えの星座かな
・・一つだけ覚えた星座+季語

親の手を離れ追いけり赤蜻蛉
・・離れて追いし

とんぼうの身近な川となりにけり
・・身近なを、よく来る

夕月や母のララバイ聞き漏らす
・・漏らすを、ながら

蜩や大滝秀治街に消ゆ
・・大滝秀治の声がふと

秋天を一転ジェットコースター
・・一転を、くるりと

終点の駅舎に延びる秋の空
・・に延びるを、の奥の

蟷螂やゆびをかまれて日を落とす
・・やを、に

喋る喋る紅葉の続く道だから
・・上5を、盛り上がる

もうどんな未来としても自然薯掘る
・・自然薯を掘った穴から過去となる

バンド組んだ少女は叫ぶ夕陽坂
・・絶叫のバンドの少女

コスモスの出迎えし家友を訪ふ
・・出迎えている友の家

金木犀の香る窓辺や母卒寿
・・のを取っては。

おぼえなき太ももにきず鶏頭花
・・中7を、傷太ももに

◎説明
穴惑命をつなぐ餌を確と

しゃがれこへ大滝秀治芋煮ゆと

秋風や己が身絞める藤の幹

鶏頭や己が重さにうなだるる

穏やかに慎むおはよう藤袴

枯蓮のとどのつまりといふ姿

小鳥来る山の言の葉山の風

虫の音や腹ごなしなる夜の散歩

秋晴れにドラマのひとつ出国口

運動会歳を忘れて紅一点

涼新た細胞初期化ノーベル賞

この広き秋の海より河豚一尾

片仮名が最も高き葡萄なり

◎報告
自動ドアひらく秋風入り込む

句に遊ぶ気ままな暮し草の花

行く秋や長き隧道飛騨へ抜け

秋の昼見たくない顔手庇を

赤と白黄色もあった曼珠沙華

風抜けるとんぼ先導谷戸の道

秋ともしマウスかちかち棋譜並べ

朝霧や速歩で散歩する人よ

爽やかやノ−ベル賞に山中氏

動かざる園児の前のいぼむしり

稲刈りや泥田にまみれ立往生

髪留めで楽譜留めあり学芸会

◎主観・観念的
月に溶けるつつましげなるジェラシー

天高く大きな雲が軽く見え

草虱そもそも名前嫌いです

十三は神聖な数秋澄めり

赤のまま軽く咳するおかしさよ

不可思議やインドりんごといふりんご

群雲に少しはにかみ出る月

◎類想・あった
銀杏の黄色い絨毯よけて行く

飛行雲一直線に秋深む

コスモスの揺れて挨拶通学子

稜線のくっきりとして小鳥来る

神苑の列なす句碑や木の実降る

禅寺の庭にひともと秋の薔薇

山頂の色なき風や蔵王晴れ

学舎に木の実音なく降りにけり

何処より鋏の音や秋高し

阿羅漢の頭を動かざる秋茜

庭に向く子規の小机秋日濃し

子規庵や色濃くなれる酔芙蓉

堤防のガードレールや花すすき

赤とんぼ下校する児の群の中

愛猫の人語を解す夜長かな

逆上がり母の掛け声秋の暮れ

見下ろせば琵琶の大湖や秋高し

コスモスの中なつかしき人の顔

稲架かけ夕焼けの空見はるかす

◎字余り
秋高や胸像の前に相対す

猪の罠ある岨道通る宅急便

◎言い過ぎ
一葉に一念こもる一行詩

秋風や碗たたき割る恋をして

主なき庭のコスモス狂い咲き

流れ星骸骨踊る解剖室

幹太しあなおそろしげ林檎の木

◎言葉・意味の重なり
洞窟に怒涛轟く秋の時化

三島忌やショートピースは短かけれ

山積みの新米を買ふ一袋

◎即き過ぎ・合い過ぎ・近い
まんじゅしゃげ遊女の墓に手向けましょ

薄紅の一朶の雲や酔芙蓉

縄跳びのギネス挑戦天高し

古都の秋行燈ともる奥座敷

秋高し円陣を組む昼餉かな

快気祝尾頭付きの焼き秋刀魚

文化の日ドナルド・キーンの子規評伝

良夜かな駅の出口に団子売

風渡る不忍池蓮は実に

玄関の菊の香りや旅終る

新米の炊立てに割る生卵

騎馬戦に女児のひるまず天高し

◎あたりまえ・平凡
灯台やなぎたる海と秋の空

松島の海の光りぬ小春かな

時雨るるやテールランプの目に沁みる

残業の妻待つ主夫や衣被

不意に来る木犀の香も蜉蝣も
・・上5が

竹林の奥にひともと彼岸花

秋高し那須連山の晴れきつて

秋の空鯖や鰯の雲流る

鰯雲体操に胸そらしけり

撮りますよハイじっとしてコスモスさん

親子ゆえ言えぬことあり胡桃割

渦高き鳴門海峡葉月潮

灸花外遊びせぬ団地の子

オクラの実切つても切つても五角形

幼児の手を抜けバッタの三段跳び

王様はわがままを言う秋の蝶

◎理屈
鰯雲重さのあって無きごとく

◎言葉の意味が分からない・・あえて調べませんでした。無知の部分はすみません。
菊花展本坪鈴の鳴り頻る

秋晴れや南アルプス日の一よ

韓藍や妻は年々激高す

ぺテキアの箸笑いだす冷そうめん

秋深しジョルジュサンクの忍び逢ひ

菊一輪拭きこまれたる東司かな

大根や登しょう礼をおくりけり

ドライバーこれぞ好打よ白式部

◎俳句の意味が分からない
幻夏かな昨日見たのは秋の蝶

語り部の昼はすっぴん衣被

台風に固有名あり悟空あり

魂のあるにはあれど麦こがし

能登半島うかべて秋の雲となる

流星やひとさし指のおそろしく

木の実ふる夜です誰も信じません

大いなる鋏の通る薄原

地元では珍味で海の秋の風

身に沁むや女の顔に請求書

衣被昏き沼地に沈む腰

復興の遅々と進むは秋ばかり

秋まつり白いけむりとなっている

ほろほろとコスモスの首しめてをり

蛇穴に入る口から言葉出る

頭蓋骨ペットボトルの蓋と秋

百舌鳥鳴くや皮肉どこかにひっかかる

文句なく押し寄せし霧の捕われびと

二夜三夜よきさみしさや虫ほそる

猫じゃらし寂れた白の上で揺れ

チャイムなりその音源に近付けり

実山椒隠れ無き身をかじらるる

もう着ない服まだ着たい服熊痩せて

◎伝わらないのでは
眉月やヤンキー坐りのフルフェイス

風船蔓トリビアの種ぱらぱらと

返り花たった四つのDNA

砂を噛む白球容赦なき西日

お地蔵さん横のカンナに困り顔

金木犀昨日の声にふりかけて

どの汽車も上りの駅や草の花

悪ツラの外道もいける温め酒

登高す玉音をまた聴くために
・・登校?

千枚田千に余れる彼岸花

鉦叩大滝秀治の一路かな

虫時雨宇宙人ふと立ち止まり

望遠鏡静かの海に虫すだく

くつわ虫三角錐を知ってるか

ひょんの笛とうとう帰ってこなかった

旅土産少なし月の時計台

夜長にはピアニッシッシモ顔なぜる

わぎもこのおふろはながいあかのまま

被衣へその緒らしき痕のあり

海坂を曲がり損ねリ秋の空

秋高やアスタリスクの文届く

背伸びしてコスモス娘キスしてる

いささかのイカサマも無く鰯雲

十三夜写楽の顔のニキビかな

鉦叩鏡のごとく聞きにけり

山形の嫗のこゑやラフランス

息混じるハングル語熱夜長し

四杯の御飯と秋刀魚嘔吐前

青空に千の口あり実ガマズミ

港区の空から捜す草の花

◎川柳
熱燗に病気の話きりもなし

◎感傷
茶の花や母に酌みやる養命酒

小夜時雨初恋の君シェルブール

コスモスに遠き日戻るばあちゃん子

◎その他
見遥かす離磯の化粧初紅葉
・・ごちゃごちゃしている

体育の日に知育の書読める漢
・・意図がばれている

勝ち力士土俵下り来る笑顔かな
・・季語は?

曙の谷川岳の秋気かな
・・具体的に

海ほたる気付けば空に十三夜
・・気づけば、はいらないのでは。

クレーンのあち見こちみや天高し
・・表現がやや古い。

十六夜やかりそめの恋ためらはず
・・歌謡曲

舞ひ上がる馬券舟券秋の空
・・1か所で馬券舟券とは?

あなたって誰にもなびかないコスモス
・・リズム再考

設えの済まぬに白鳥ござっしゃり
・・表現が・・・

風の盆嫉妬を隠す笠の内
・・つくりすぎ

そりかへり晩秋をなめてゐる猫
・・リズム再考

栗を剥くただひたすらに栗を剥く
・・一工夫を

月明かり防犯灯と自販機と
・・一工夫を

式部の実二礼二拍の墓参り
・・二礼二拍は神社?


2012年10月17日
中谷仁美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 最近のビッグニュースと言えば、京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学生理学賞を受賞されたこと!京都在住という以外まったく縁もゆかりもない私ですが、家族も巻き込んで大興奮してしまいました。秋空のさわやかな今日この頃、皆様はいかがおすごしでしょうか。今回はなんと240句ものご投稿をいただきました。「今週の10句」史上最多とのこと。ありがとうございます。楽しく読ませていただきました。
 では今回もよろしくお願いいたします。

【十句選】

コロッケの油が滲みて暮はやし   凡鑽
 夕飯のおかずはコロッケでしょうか。おにくやさんの店先で揚げてもらって茶色い袋に入れてもらったほかほかのコロッケを想像しました。おいしそう!あの袋に油が滲んで、それがまた揚げたてのおいしさを感じさせるんですよね。コロッケを買って帰り道、ああ日暮れが早くなったなあ。ややのんびり、秋の夕暮れの素敵な1シーンです。「が」はないほうがリズムがよくなるのでなくてもいいかも。

薩摩芋空がいちいち綺麗です   kumi
 焼きいも好きの私にとっては非常に魅力的な句です。秋空の下で焼きいもを頬張っているのどかな情景を想像しました。「いちいち」という言い方はマイナスの感情を含みますが、ここでは空の綺麗さに対する気恥ずかしさのような感じが出ていいなと思いました。

病院の名の付く駅や初雪富士   戯心
 ローカル線の小さな駅を想像しました。地方の拠点となる総合病院があるのでしょうか。その駅から富士の初雪が見えるということは、その病院からも見えるはず。駅で電車を待つ人、病院の窓から外を眺める患者さん、それぞれの心に富士の初雪なのだなあとあたたかい気持ちになりました。

ひとの死も素数も気まぐれ椿の実   ∞
 人の死という重いものに対して、素数というドライでやや難しいものを持ってくるバランスがうまいと思います。確かに、素数も気まぐれなんですよね。納得してしまいました。椿の実との取り合わせもいいと思います。
 ただ、「気まぐれ」だとリズムが悪いのでそこは一考の余地があるかと思いました。
 しかし、とにかく発想が光る句です。

胃袋は三分の一夜寒かな   邯鄲
 手術で切除をされたのでしょうか。「胃袋は三分の一」というすぱっとした切り出し方に惹かれました。ただ、「夜寒」というのは感情が出すぎてしまう季語で、読み手にとってはやや重たく感じられてしまう可能性があります。例えば「星月夜」など、美しい季語を持ってこられてはいかがでしょう。

ぬくぬくとかつとじべんとう秋二人   とほる
 いい光景です。かつとじ弁当というチョイスが、飾らず素朴で光ります。仲良し夫婦か、または気のおけない友達同士か、ふたりの関係もぬくぬくなのだなあとうらやましくなります。秋空の下でかつとじ弁当、本当に美味しそう!
 「かつとじべんとう」の表記は、「カツとじ弁当」「かつとじ弁当」など、ひらがな以外もまぜたほうがメリハリがついていいかもしれません。

公転の最前列や秋の昼   豊秋
 秋冬は月や星が美しく、天体のことが話題になったり気になったりする季節ですね。秋の昼、ふと自分は今地球の上に立っていて、公転の最前線にいるのだと思う。科学的な説明は置いておいて、日常生活をひょいと飛び越えて非日常の世界へ飛び込む、この感覚が素敵だなと思います。着地点が「秋の昼」というなんとも日常的な季語というのも面白いと思います。

よもやまの話も済んで大刈田   草子
 私の実家でも先月末稲刈りがありました。現代は作業のほとんどが機械化されているので人手はそんなにいらない、と言いつつ、家族、親戚、近所の人などが寄ってあれこれ言いながら作業をしました。
 作業の具合や米の出来、天気のことに始まって、近況やら噂話やら、作業の合間や休憩時間に話が弾みます。そういうのも含めて収穫なんだなあとなんだかほっこりとなった一句でした。

かまどうま噂を聞いてしまいけり   小林飄
 秋の虫っていかにもこっそりいつでも逃げられる用意をしながら噂を聞いていそうな気がします。「かまどうま」というチョイスがぴったりです。

間食を減らす約束色鳥くる   あざみ
 間食を減らす約束、家族、または恋人との約束でしょうか。体型のことを気にしている人と、軽やかに飛ぶ色鳥との対比がユーモラスです。

【次点】

台風圏動きの鈍い置時計   ∞
 台風が来たときの気持ちを時計を介してうまく詠まれているなと思います。台風がきたときって、今どの辺りだろう、予報だと我が家の辺りは何時頃がピークだろう、早く過ぎないかなあと時計と台風情報ばかりが気になります。「置時計」が、その人物がひとところでそわそわと過ごしているというのを暗示していいですね。

焼きたての秋刀魚を買いて独りかな   吉井流水
 ただの秋刀魚ではなくて「焼きたての」というのがいいですね。おひとりさまの、秋のちょっとした贅沢。「独り」と書くと孤独が勝ってしまいます。「ひとり」のほうがいいと思います。

不器用なお化け屋敷や鰯雲   津久見未完
 「不器用なお化け屋敷」ってなんやねんとツッコミたくなります。田舎の小さな遊園地の小さなお化け屋敷なのでしょうか、はたまた、スタッフが新人で怖さがイマイチなのでしょうか。なにせ、不器用なんていう言葉、普通はお化け屋敷にはつきません。こんなお化け屋敷なら小さい子を連れていても楽しめそうです。とても好きな句なのですが、「お化け屋敷」は夏の季語で、その点が気になり10句に選べませんでした。

さくさくとりんごの天ぷら北の旅   まゆみ
 りんごの天ぷらなんてあるんだ!という驚きをいただきました。的を絞っておられて旅行詠として面白いと思います。ただ、「北の旅」というのが漠然としすぎる気がします。地名や店名など旅を感じさせる具体的なもののほうがいいかと思います。

衣被吾れもつるりと剥けないか   せいち
 「衣被」と「つるりと剥ける」というのはそのまますぎる気もするのですが、ひと皮剥けて違う自分になりたい、そんな気持ちを「つるり」と軽妙に詠んだところがいいなと思います。

良夜かな大吟醸の封を切る   隼人
 良夜に美酒は合いすぎる取り合わせなのですが、この「大吟醸」がなんとも美味しそうな響きで気になってしまいました。

筆まめか二度来る残暑見舞いかな   素秋
 同じ人から二度も残暑見舞いが届いたらちょっとびっくりしますよね。こういう日常の中の小さなびっくりって俳句の題材としていいなあと思います。ただ初句の「筆まめか」は、気持ちはわかるのですが言ってしまうと読み手には謎がなくなってしまうのでそこが惜しいところです。

人恋へばハシビロコウに笑はれる   新・若旦那
 ハシビロコウと恋、なんともミスマッチで確かに笑われそうです。ハシビロコウは物思いにふけってそうで実はそうでもないんですよね、きっと。

内緒ごと隠せば浮かぶ後の月   鉄男
 内緒ごとを隠している、ちょっと気まずい心を、十三夜のお月様に見透かされているという感じでしょうか。なんだか共感できる句です。「内緒ごと」とあれば、「隠せば浮かぶ」というのは説明しすぎになるかなと思います。

満月や若さが武器であったころ   渡会とも
 ああ、そんな頃あったよなあーと思いがけず共感してしまいました。ただ「若さが武器であったころ」というフレーズはやや手あかがついているかなという印象です。少し表現をひねってみてもいいのかも。

【気になった句】

青ナイル白ナイルとも秋の水   涼

潮目ごと色染め変へて秋夕焼   きのこ

人参は人参の声してをりぬ   学

郵便のバイク素通り秋深し   山畑洋二

古代文字ちんぷんかんぷん夜半の秋   鉄男

旅人のひとりは無口木の実落つ   遅足

うろこぐも鯵定食のけん高し   茂

文机に木犀の香を開け放つ   今村征一

芯までも濡れて帰宅す台風裡   紀子

月がでたえーといっしょにかえろうか   汽白

生徒待つゴールポストや秋の朝   中島啓之

にきび面連なり秋のツーリング   さち

満月に向かってペダル漕いでいる スカーレット

涼新た脳の海馬がむっくりと   素秋

鰯雲太鼓の音の遠去かり   豊田ささお

 今回は、全体的に句のリズムが気になりました。助詞を省略したり言葉を精選したりすることできれいに定型になるのになあと思う句が、10句や次点に選ばせていただいた句にもありました。よほどのねらいがない限り有季定型はやはりできる限り守りたいもの。私自身は特に結句の字余りは避けたほうがいいと考えています。句を詠まれた際は、ぜひ声に出して読んで、耳でもご自身の句をたっぷり味わってみられることをお勧めします!!


2012年10月10日
小西雅子ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 さかのぼりますが、今年8月19日俳句の日、『季語きらり100』出版記念イベントが開かれました。「どんなにか苦労したであろうその制作が、とても楽しんで作ったように完成している。それがいい」と、声のメッセージで登場された池田澄子さん。素敵です。
 さて秋は月。今まで山ほど作られた月の句がどれほどの苦労によるものであったか。はたまたどれほどけろりと作られたか。今週もたくさんの俳句ありがとうございました。

【十句選】

ぺこぺこと奏でる鋸や大西日   まゆみ
 大西日がノコギリに反射して強烈に光る。と、そこから突然けだるいメロディーが流れだす。なんともいえないドラマがあります。カミュ『異邦人』のように。

やはらかく床に足置く月明かり   凡鑽
 目立たない作品でした。しかしはじめから迷わず10句に採ろうと決めていました。月光に対するやさしさや畏敬の念が感じられたからです。時間がゆっくりゆっくり流れてゆきます。

恐竜の骨格あらは秋灯   えんや
 秋灯に照らされて浮かび上がる恐竜の骨はちょっとものがなしい感じです。何て幻想的な句なのでしょう。もしこのような作品を句会に出されたら、「どういう光景ですか」と問われることがあります。その場合、何も言わない方がいいです。夢が覚めますから。黙っていると素敵な句。

秋高しぱきんと割れるチョコレート   鉄男
 「ぱきん」という音が空を突き抜けそうです。空気が冷えたからこその「ぱきん」。「秋高し」という季語の選択で大きな句になりました。

添水鳴る婦人部長は聞き上手   たか子
 次は「かたん」という音です。「かたん」という竹の音でまた一つ話をし始めます。聞き上手な女性の脳の回路と、水の重みで竹が傾くまでの時間がぴったり合っている気がしました。まさに腑に落ちる句。

それぞれに語りだしたる今朝の秋   草子
 よくわかります。夏は「暑いですね」「暑いねえ」だけだった会話が秋めいてくると少し長めになります。家族あるいは早朝の散歩ともだちと。人は人を恋しがる秋。

つくつくぼうしつくつくぼうしかくれんぼ   汽白
 「つくつくぼーしつくつくぼーしばかりなり(正岡子規)」を下に敷き「かくれんぼ」がきました。つくつくぼうしの鳴きまねをしながら木の後ろにかくれるなどという野暮な想像より、もっと感覚的な理解でいいのかもしれません。「く」が5個、「つ」が4個、「ぼ」が3個。

ヘチマとねヘマやっちまった十九の夜   岡野直樹
 これはぜったい女性の句です!若気の至り?ギャグの句ですがその兼ね合いが強すぎず弱すぎず。すぐに覚えてしまいました。世界にひとつしかない誰も作らない句なので。

関係者以外抱くことならず花カンナ   あざみ
 笑いました、自分の勘違いに。「抱く」というのは本来ひとりのはず。複数の「関係者」がいるなんて。なるほど花かと納得しました。と言っても意味がはっきりわかったわけではありません。謎解きは抱いたあとで。

月を待つ海底都市の交差点   紅緒
 海底に届くであろう月光。碧い海の世界にぽっと浮かぶ交差点。前半の甘さを「交差点」という1地点に絞ったことがこの句の成功につながりました。

【その次の10句】

秋涼や手帳千切りて地図を書く   涼
 よくわかる光景です。涼しい風が共有できます。後半〜して〜するという散文調になり残念。

花蕎麦やジャズのスイング山間に   山畑洋二
 映画「スウィングガールズ」を思い出しています。10句とは差のない句です。

節穴を覗き込んでる野分かな   くまさん
 覗きこんでいるのは人間のはずですが逆転しているところが楽しいというか川柳的というか。面白い発想大好きです。10句に採れなくてすみません。

天国に好色な月のぼりけり   遅足
 これも好きな句です。誰も作らないような句。良く考えてみると「天国」で「好色な月」はあたりまえか。

渡り鳥現場事務所に安全旗  せいち
 「渡り鳥」に対する「安全旗」であろう、なんて説明が不要なほど光景は誰の頭にもすぐに思い浮かびます。漢字の多さも「安全旗」の律義さにぴったりです。

虫すだくホームの端の喫煙所   今村征一
 最近は特に駅のホームなどの喫煙室が遠く、愛煙家のみなさんはたいへんです。この句、まるで虫が喫煙しているかのような楽しい句です。ただ類想はあるかもしれません。

羊皮紙にJIPANGの文字鷹渡る   孤愁
 異国情緒たっぷりの不思議な句です。しかも1句のなかに動物が2つも登場します。
 「JIPANG」は「JIPANGU」「ZIPANGU」かも。

鉄骨の突き出た校舎鰯雲   B生
 「鰯雲」は5音で使いやすく、秋の人気の季語です。ともすれば感傷的なことがらを続けがちですがこの句はさらりとした実景を添えられたので成功しました。

大言海開けしままの秋の朝   葦人
 大言海は代表的な辞書です。三浦しをん『舟を編む』にも登場します。辞書を開いた深夜、そしてその状態で迎えた朝。眠っている間に言葉が部屋中に充満しそうです。

銀漢や高倉健を真似てをり   豊秋
 「銀漢」という季語が成功しています。「天の川」であれば高倉健と少し遠い感じです。「銀漢」の「漢」はまさに高倉健。

【次点】

柳散る空青ければ湖青し   太郎
 後半は素敵なフレーズですが工夫すればもっと散る柳を生かせるのにと思いました。

頑固者皆がつぶやく牡丹鍋   学
 プツプツ切れている感じがしますので「頑固者と」にしませんか。それなら10句に採ります。

岬三つ視野に収めて秋の航   洋平
 雄大な風景です。気持ちの良い句。

夕映えの丘に広がる葡萄棚   功
 行って見たいなあと思える景色です。色のコントラストが綺麗!

自責点5点十六夜五回裏   伊藤友貞
 今回の応募のなかで好きな句のひとつです。数字は統一して「5点」を「五点」に。

天高しテニスコートに音はなし   古田硯幸
 無人のテニスコート。いいですね。歓声もボールの音もなく、ただただ白いラインがはるかかなたの雲と呼応しているようです。サ行のつらなりも秋らしいです。

秀峰や都留の秋空真青なる   大川一馬
 都留といえば、最近、シリアの銃撃で死亡した女性報道カメラマンを思い出します。凛とした句ですが「真青」は不要かも。

風甘き林に秘密キノコかな   山上 博
 好きな句のひとつです。「風甘き」の「甘き」に作者の意図が出てしまいました。「甘き」がなければ今週の10句でした。

紫のピーマンぷかり秋の水   茂
 面白いです。「紫のピーマン」はじまて知りました。色鮮やかな素敵な句です。

花八手拭きこまれたる東司かな   紀子
 整った良い句です。季語の選択も秀逸。人はひとりも登場しませんが清潔感が共有できます。

子狐のこぼして行くや曼珠沙華   ∞
 メルヘンの世界のようです。語順が良いので詩のある風景になりました。10句と差がありません。

タクシーのあまたくる丘墓参   山渓
 現代の風景ですね。このような「今」をどんどん俳句にしてください。

二人居の息のむ音の夜長かな   戯心
 中年以降の夫婦ならほとんどの人が「よくわかる」と思うでしょう。耳を澄まさなくてもお互いのささやかな音まできこえてしまう。これはきっと幸せな時間なのでしょう。上手い句です。

秋の花英国中国韓国名   おがわまなぶ
 面白い着眼です。何の花か、または何かの手がかりを入れると読者の想像を助けてくれます。

耳鳴りの音色もかはる良夜かな   とほる
 「音色も」が「音色の」であれば10句に採っていました。「の」のほうがもっと感覚をしぼれます。

これよりは好きにし給へ龍田姫   中島啓之
 「はいは〜い」と返事をしたいような楽しい句です。秋の「龍田姫」、春の「佐保姫」

芒野を見え隠れしてランドセル   豊田ささお
 よく目に見える句。ランドセルの色と芒はちょっと異色の組み合わせです。元気の良い子どもたちが目に見えるようです。

新涼や万年筆のインク濃し   衣谷
 「新涼」と「万年筆」は良い取り合わせだと思いますが「インク濃し」までくるとその香りが澄んだ空気を邪魔してしまいます。惜しい。

【気になる句】

秋晴れに白馬仰ぎ鍬を持つ
 なんてすがすがしい風景なのでしょう。「秋晴れに」を「秋晴れや」とか「秋日和」など(もっといっぱい候補はあります)どこかで切れるといっそうそのあとの風景が広がります。読者に想像の域を。

牡丹つけ旧来の友妻となる
 「牡丹」ではばさっと落ちてしまうのにと思ったら、句のコメントに天竺牡丹(ダリア)とあり納得しました。では「ダリアつけ」で良いかと。実景ではなくても自分で作った一画面を8割ほど(あとの2割は読者の想像にまかせて)ていねいに句にされたらよいかと。またお待ちしています。

秋まつり探偵木になる気になる
 「まつり」「探偵」この関係がぶっ飛びすぎました。破調が欠点なのではありません。でも気になる句。

レガッタの掛け声染める秋夕日
 美しい光景ですが夕日が何かを「染める」のはあたりまえなのでここに何か個性が入れば。

波高き国境の島雁渡し
 秋山真之の「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」を思い浮かべました。プツプツ切れた感じが惜しいです。

水のなか水がたくさんヘチマの忌
 「水のなか水がたくさん」に魅かれました。ただ「ヘチマ」と水とは相性が良すぎませんか。

庭かげの魔女の一撃つくつくし
 意欲作ですが「魔女」と「つくつくし」の関係がわかりませんでした。

菩薩とは山口百恵曼珠沙華
 「まんじゅーしゃかー」と歌いたくなります。「菩薩」が重くて残念。

歌声は峰から峰へ寒露かな
 「寒露」を生かすにはもう少し歌声がどのようなものかヒントがほしいと思います。

朝霧や速歩で散歩する人よ
 はじめは10句の候補に入れていました。「する人よ」がなければ。「朝霧を速歩で散歩」で切ってその人の何かを。

しつぽぶんぶんと秋風かき回す
 もうおわかりですね。「と」がなければ自由律のステキな詩になっていました。

露けくて犬にぴったり添寝の夜
 「露けくて」という連用形が不安定です。あたたかさも伝わるいい句なのでぜひ推敲を。

どんぐりの箱いつぱいの恵比須顔
 「恵比須顔」が残念。ここに何か個性を。

コブクロの歌詞の通りに秋の雨
 良い雰囲気の句だと思います。どんな雨かがわかればなお良いでしょう。


2012年10月3日
岡野泰輔ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 句会でなぜその句を採ったのか、とても上手に説明する人がいます。その人の説明を聞いているうちに、自分もその句の魅力に気がついてゆく、という経験はいつものことです。今、不用意に説明すると言う言葉を使ってしまいましたが、他人の句を説明するとは、どういうことでしょうか?私にとっては、むしろ説明しにくい句のなかに、魅力をみつけることが多い。実際そこが俳句の大きな魅力です。貧しい語彙を総動員して、その句の周りを、象を撫でるようにうろうろしてみる。ここで大急ぎで付け加えれば、もちろん、一読明解な句も素晴しいのですが。

【十句選】

二日月大堰に水ほとばしり   きのこ
 まず二日月が目をひきます。旧暦二日の月、三日月より一日若く、そして更に鋭い。その細く鋭い図形と、不定形ながら、量と激しい動きをともなった水というもの。これは単純な配合ではありません。焦点がどこかにあるというより、薄暗い光の中に、月、堰、水のそれぞれ部分の総和より、この句全体の与える快感のほうが大きい。いわゆるゲシュタルトですね。俳句とは、特に配合の句とはひとつのゲシュタルトであると、いま、気づきました。

鰯雲おぼえて帰るしげさ節   えんや
 しげさ節、知らなかったので検索しました。便利になったものですね、隠岐島の民謡ですね。さて、この作中人物はしげさ節を習ってきたのでしょうか。帰る道々、反復して歌っているようです。子どもが品名を繰り返しつつお使いに行くように。そのことが、まずほほえましい。擦れ違ったらにっこりしてしまいそうです。上空は鰯雲、この人と、この民謡にぴったり。私が民謡に疎いだけかもしれませんが、隠岐の歌であるということもよかった。

初恋にはやき晩年マスカット   遅足
 これはわからない、自信ないです、晩年の意味が。でも、それこそ部分総和以上の全体の魅力で選びました。少年(ということにしておきます)が初恋を経験する、と、恋を経験したそのときから、少年にはやくも晩年が訪れる、という意味か、又は、初々しい初恋にも倦怠とか、不信とか、恋そのものの晩年が訪れるという意味か?上五に初恋。下五にマスカット。この二語ですと甘すぎてどうしようもないですが、中七の「晩年」が一挙に句全体を魅力的に、かつ複雑化しています。鑑賞に耐えうるというか、鑑賞を誘っている句です。

比較的にナスビは好きよ、わかれましょ   山本たくや
 読点をつかって、視覚的には中七のあとで大きく切れていますが、すらすら読んでいくと、あまり切れた感じはありません。女性から唐突に別れをもちだされた、(そう、もちだされた方はいつも唐突なんです)茄子は好きだという言明からあまり間を置かずに別れがもちだされる。その力の抜け具合、とりとめのなさがこの句の美点でしょう。読点の効果は前後二つの台詞の話者が同一人物であること、つまり俳句的切れはないことの強調のような気がします。「比較的に」の助詞の余ったルーズな姿もこの話者のキャラクターを彷彿させます。

虫すだく娑婆を駆け抜く救急車   輝実江
 私の町内も高齢化がすすんで、ここ数年、救急車のサイレンを頻繁に聞くようになりました。私にとって救急車は、姿よりまずそのサイレンの音です。夜の闇を音がどの方向へ向かい、どの辺で止まったか、あの人の家の辺り、ではなかろうか、ついそんな想像をしてしまう。虫すだくで切って読みます。娑婆という措辞のおかげで、急にこの救急車が彼岸まで駆け抜けていくのではないかという思いに捉われてしまいます。すだく虫もはかない命を思わせるしなあ。

月を待つ僕らはいつも崖っぷち   紅緒
 この句の語調から、すぐ歌「手のひらに太陽を」の「僕らはみんな生きている〜」のフレーズを思い出しました。文字通り向日的なあの歌詞よりも、この句の僕らは切実。しかも太陽にあらず、月ですからね。崖っぷちという言葉から青春そのもの、あるいはもっと今の若い人がおかれた社会状況まで想像してもいいかもしれません。居待ち、臥待ち、とだんだん遅くなる月の出を待つ床しい心情と中七以降の口語の剥き出しな感じの落差が詩を生んでいる。

盂蘭盆会膏薬臭の中にをり   おがわまなぶ
 仏壇のある和室。読経する僧侶。親族があつまっている、それもぎっしり。(六畳に八人とか八畳に十人とか)少なくとも前後左右の二箇所以上から強烈な膏薬臭が、それも線香の香りを打ち消すほどに。12文字、17音の連なりから、読み手がそれぞれの経験に応じて、ありありと、その場を再現できる。季語の約束とか、切れとか俳句の機能を十分活かした句。特に下五「中にをり」がうまいなあ。私はここに辟易した気分を読みました。

嬰児を胡坐にのせて新走   恥芽
 胡坐をかいて新酒を酌む、いやー男っぽいなあ、胡坐のせいか一升瓶がいいような気がしてきました。胡坐と新走、実に良く似合うし、それだけに類句はたくさんあるでしょう。この句を際立たせているのは、胡坐の膝にのせた嬰児!(みどりご)幼児と同義のこの語の選択がまたいいですね。いたいけない幼児の存在と無骨な男の胡坐、分かりやすい対比ですが、物でものせるよな即物的な詠みぶりが効果をあげています。

室温は19度なり秋の恋   あざみ
 秋の恋とはなんとお座なりな言い方!よく適当な名詞の前に四季をつけて季語に代用するのは禁じ手のようにいわれます。この句はそんなやかまし屋はどこ吹く風。(私も賛成)で、この句いきなり室温の話から始めるのですが、着地は恋。とかく恋は熱量のアナロジーで語られます。曰く、熱々、お熱い、冷めた、冷えた、等々。ですからこの19度も恋の温度かなと最初は読めてしまうのですが、室温とわざわざ断定されているので、恋の温度と室温の間で読みは宙吊りになったまま。この宙吊り感が秋の恋といえば牽強付会ですが、とにかくそういう面白さがある。あとエアコンの室温設定のように、人工的な匂いがある、この19度は。

秋の蚊のほそぼそと来て刺しにけり   豊田ささお
 歳時記の秋の動物の部に「秋の」を頭につけた季語が、蛍、蝿、蜂、蝶、蝉と並んでいます。先ほど頭に秋をつければなんでもありか、という話になりましたが、これらの虫は立派に季語登録済みです。わけても秋の蚊は刺されると特に腹立たしいものです。(現に私は今朝刺されました)この句はいわば季語の本意そのものなのですが、「ほそぼそと来て」という措辞が実に無理なく、納得させられます。平らかな語調が効果的で、裏に作者の舌打ちが聞こえます。

【次点句】

鯊を釣る飛び立つ機体見上げては   隼人
 鯊の生息域から、空港の近くという臨場感があります。

橋に来て西瓜左手に持ち替へる   えんや
 このただ事はおもしろい。十句に入るべきだったかも。

後ろより笑いの弾け萩の径   茂
 萩という雅な素材にしては、カジュアルな景が新鮮。

回転寿司紅葉おろしが遠ざかる   伊藤友貞
 秋なので紅葉さえ入れとけばいいのだろう、と言わんばかりの作り方が愉快。

かまつかのもうこれきりといふ色に   今村征一
 葉鶏頭でも雁来紅でもなく、かまつかだからできた句型。

紙袋持たされて出る敬老日   素秋
 自治体の催事でしょうか、半分ぐらい不本意、でも出席してしまった。

秋の空駅に残った大学名   岡野直樹
 ありますね、こういう駅。上五「秋の空」にちょっと不満。

石ひとつ投げて生まれる赤とんぼ   ∞
 赤とんぼの乱舞が見えるようです。

曼珠沙華マネキンみんな傾いて   ∞
 取り合わせはおもしろいけど、傾いているのが謎。

いま電車乗ったとメール天の川   鉄男
 普通の帰宅メールにも読めるが、銀河鉄道がダブってくるのがミソ。

ざくざくと草の穂踏みて犬歩く   さち
 気持ちがいい、犬も、私(作中主体)も。

すれちがふ鼻母音の人夜学生   啓
 状況も変ですが、鼻母音の人が特に変、気になります。

愛犬に握手されたる敬老日   邯鄲
 愛犬と言ってしまっていいものか?

10月の君の名がある図書カード   B生
 10月は図書カードにかかるのか?この10月は問題では?青春そのものだが。

【予選句】

亡き母の箪笥荷台に秋の雲   古田硯幸

薄紅葉夕日は太りつつ沈む   まゆみ

一人にも慣れてふた月いわし雲   きのこ

白桃や指の形に腐りをり   凡鑚

秋冷やきみの意見は右に置き   涼
 おもしろいが「秋冷」が効果的ではないような。

あんぱんに臍は無くとも子規忌かな   涼

風の盆果て水音のもどる町   山渓

熟れている無花果あなたなのかもね   ロミ
 この語調を活かすには、「熟れている」が言いすぎのような気がする。

秋風や墓穴を掘ってまた埋めて   伊藤友貞
 西欧式の土葬か?徒労感がいい。

お茶苦し秋刀魚塩っぱし名刺なし   伊藤友貞
 最後の転調がおもしろい。

秋黴入遮断機長く下りしまま   紀子

草の花踏みつ押し行く車椅子   紀子

ぼっきしていつもすすきはゆれてます   汽白
 こらっ!

引き抜いてみたものさてこのねこじゃらし   ∞
 「みたもののさてねこじゃらし」と定型に収めてはいかがでしょう。

二人居の息吐く音の夜長かな   戯心

カーラジオより山口百恵星月夜   とほる


2012年9月26日
えなみしんさドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 三代将軍・家光公が「さんまは目黒に限る」と言ったとか。
 先日、その言葉に由来する「目黒のさんま祭り」に行って来ました。
 被災した岩手の宮古港から提供されたサンマが5000匹。それを待ちかまえる人の行列が目黒川に延々と。
 なんでも最後尾は4時間待ちだそうです。立ち上る煙は空をこがすほど。
 待つ根性がなかったので、定食屋でサンマを食べて帰ってきましたが、被災地を忘れてはならないと強く思いました。
 さて、今回は担当させていただいて初めての222句の投句。
 みなさんの創作意欲に敬意を表しつつ、あと1句はどれにするか大いに迷いながら選ばせていただきました。

【十句選】

爽やかやふとしたことの重なりて   涼
 「爽やか」という季語は、時候の季語でありながら普段の会話にも使われる言葉です。具体的なシーンをあげて、そのシーンを爽やかと定義すると不自然さが残るように思います。この句は、生活はふとした事の積み重ねであるということや、そういう中に人生の楽しさがあることを感じさせてくれて、まさに「爽やか」な句でした。

とんぼうととんぼの影の水面かな  太郎
 カメラの焦点を1メートルくらいにあてた写生句で、なるほどと思わせる力がありました。一回目は「とんぼう」で、二回目は「とんぼ」で、リズムを整えたのも巧みだと思いました。季語は違うのですが、「あめんぼと雨とあめんぼと雨と/ 藤田湘子」を思わせました。パンフォーカスも大事だが、接写も大事。
 勉強になります。

秋晴をくるくる返すたこ焼き屋   きのこ
 タコ焼きは、どことなく冬の季語のようでもあるが、年間を通して売られていて、夏の季語のようでもある。この句では「秋晴をくるくる返す」と表現していて、言われてみればそうか!と思わせる、なかなかの表現力だと感心しました。

攫われて花野の中に目覚めたし  B生
 「攫われて」が効いていて、花野のスケールと美しさがうまく表現できています。幻想的な「攫われて」がいいのです。アンデルセン童話のようなファンタジーがあって。

戦後史をここまで生きてからすうり  遅足
 この手の取り合わせは、季語がむつかしい。この句では「からすうり」が、つきすぎず、離れすぎずで良く効いていると思いました。分かりやすい例では、例えば「枯れ芒」では、つきすぎ、説明のしすぎという感じです。よくぞ「からすうり」です。

枝豆を食うて話を切り出しぬ   隼人
 小説的。向かい合って枝豆を食べている様子が目に浮かぶような句です。ひとつは枝豆の日常感がいいんでしょうね。それから同じ仕草とか作業をすると連帯感が生まれるというような実感があります。切り出した話題も、きっと身近だけど、ちょっと言いにくいことだと思わせます。

日の昇りまた日の沈む大花野  戯心
 「日はまた昇る」はヘミングウエーですが、大きな風景を二度かさねて季語に落とした大きな句で良いと思いました。この「また」ですが、「山又山山桜又山桜/阿波野青畝 」を思い浮かべました。5文字の繰り返しは「また」が有力候補なのだと再認識させられました。

秋うらら人を笑顔にする笑顔   さち
 あるアンケートで「同姓からも異性からも好ましい女性の仕草」のナンバー1が、笑顔でした。(二位は、「食べ物をおいしそうに食べている」)。上から書いてきて、この句は3度目のリフレイン句だと気がつきました。「秋うらら」という季語は何も言ってないような季語ですが、この句のバアイはそれがむしろ好ましい。

デゴイチの走つてもはしつても夏   たか子
 ひたすら走ってきたデゴイチへの賛歌。アナログ的なものへの賛歌。一生懸命にやる事への賛歌でありましょう。わたしはデコイチと濁らずに使っていたのですが、なるほど「デゴイチ」がいいですね。「走ってもはしつても」で、この句もリフレインの句だったことに、今、気がつきました。

事務長と呼ばれ振り向く夏野かな  豊秋
 いや〜、どうという句でもないのですが(失礼!)、「事務長」のリアリティにまいりました。ここは「先生」でも「課長さん」でも「駅長さ〜ん」でもダメで「事務長」なのです。事務長というのは、仕事のトップのようでもあり、会の世話係のようでもあり、昔の仲間のようでもある。何か記憶を呼び覚まされたような気にさす力がありました。

【ほんとに惜しい次点句】

しわくちゃな鏡を拭いて敬老日  まゆみ
 しわくちゃなのは鏡ではなく写している顔なのでしょう。その表現が面白いと思いました。

稲刈つて風の広場となりにけり  鉄男
 「〜して〜となった」という順当な段取りの句になってしまったので、印象が弱くなっている。

巻貝の秋の眠りをふかくして  遅足
 良くできた、いい感じの句ですが、その反面ありがちな感じも受けました。

ホームラン出ぬナイターを見て帰る   隼人
 分かります。満足度60%くらいのすっきりしない幸せが表現されていていいと思いました。

シンメトリー凱旋門を望む秋  大川一馬
 シンメトリーが景をはっきりさせスケール感を出しているが、反面説明的な感じも。

半島をいくつもちぎり秋の雲  えんや
 大きな景なのですが、景色がパッと浮かんできませんでした。

【その他の予選句】

コロッケが六十円です秋の空   鉄男

草野球ボール探すもすすき原   伊藤友貞

宿の月二人の上で止まりけり   いっせつ

これからこれからと鳴くかなかなかな  飛鳥人

草の実の背につけしまま夕餉かな  さくら

D51の壊れたる窓酷暑かな  たか子

カルメンの真っ赤な口紅カンナ燃ゆ スカーレット

海に出てついと蜻蛉吹きあがる   えんや

木曽の秋別腹として五平餅  葦人


2012年9月19日
朝倉晴美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 秋晴れ!秋冷!虫すだく!
 そんな季節を満喫しております朝倉です。皆さま、こんにちは。
 夏が一等好きな季節なんですが、秋独特の焦燥感もこたえられません。
 突き抜けるような秋空のもとにいると、何かしなければならないような、何かを忘れているような、そんな気持ちがおそってきます。
 とりあえず、この連休は、四国に墓参。ついでに讃岐うどんも…(こっちが本命?)
 このたびも、本当にたくさんの投句を感謝いたしております。
 残暑のなか、あえて句作にとりくんで下さったことにも。

【十句選】

マラカスの振り緩くなり残暑かな   涼
 マラカスが秀逸。「かな」も非常に効果的。マラカスの音と連動して、力を発揮していそうです。ちなみに、マラカスは、幼児が大好きな楽器。もちろん私も大好き…?!。
 <口紅の玉虫いろに残暑かな  飯田蛇笏>

新米やゆつたり箸を持ち直し   まゆみ
 小学生に伝えたい一句。新米を感謝していただく、豊かな時間。それが「ゆつたり」とした「箸の持ち直し」に表れているから。持ち直す所作の美しさはもちろん、そこにある気持ちを汲みたいのです。新米でなければ成り立たなかった佳句であり、炊いた新米の輝きが眼前に迫ります。先日、農耕に関する季語の存在への危機感について話を聞きましたが、それさえも払拭できそうに思いました。
 <新米といふよろこびのかすかなり  飯田龍太>

栃の実の三つに割れて拾はれず   古田硯幸
 栃の実だからこその景。特性として、実は熟すと三裂しますから。下五「拾われず」が、起承転結にまとめており良いでしょう。リズムも良いです。灰汁の強く、ちょっと敬遠されがちな、栃の実らしく仕上がっています。
 <栃の実と言ひて拾ひてくれしかな  高浜虚子>

紙の上の墨の二文字秋の声   遅足
 秀逸です。「秋の声」という聴覚に「墨文字」の視覚的要素の取り合わせ。抜群でしょう。墨という、独特の色をもつ「黒」という色も良く、成功しています。ただし、「紙の上の」よりも。「半紙上」「紙上の」などど、上五を五音でおさめ、五七五のリズムを整えることを推します。なぜなら、掲句は、スラスラと読め、リズムが整ってこそ、活きてくる俳句だからです。
 <秋の声間の襖をすこし開け  長谷川かな女>

里芋の葉の裏返る残暑かな   功
 今日、実家にいって、里芋の葉をもらってきます!と思う句です。里芋の葉の、あの魅力は何なんでしょう。ただの郷愁ではなく、メルヘンでもなく……。暑さのなか、決して乾ききることなく、屹立している葉たち。必ず、何株か以上で並んでいます。残暑に似合う植物は、あまた、ありますが、里芋の葉を、私は、より好きになりました。それほどに、魅力を感じさせるのです。
 <秋暑し叔父の墓標は見当らず  徳川夢声>

快晴といふ置土産野分去る 今村征一
 文句なしに「といふ置土産」が、勝利しました句。野分、台風の後は、晴れて当然ですが、この表現により、膨らみがでました。台風一過の気分が、ストレートですが嫌味なく、感じられ、「快晴」という用語にも、心象が投影されているでしょう。お天気に感謝することさえ感じさせます。
 そう、秋は、全ての恵み、そして天に感謝する季節でしたね。
 <大いなるものが過ぎ行く野分かな  高浜虚子>

新涼に一駅七十円歩く   岡野直樹
 数字を用いる句は、難しいのです。なぜなら、数字に頼ってしまっていたり、数字がこれ見よがしに目立っていたり…。作者の意図が、良い加減に表現できないことが多いからです。
 しかし、掲句、「一駅七十円」という安価が、大変良かったようです。それは、「歩ける」距離であることが、はっきりしているからです。また、その中途半端な金額もナイスでした。だからといって、せちがらく感じさせないのは、「新涼」という季語の力です。
 さあ、私も、一駅歩いて往復で140円!何買いましょ?
 <新涼の山に対へる木椅子かな  水田清子>

相づちが少し早いわえのころ草   紅緒
 こんな人とおしゃべりしてみたいわ、猫じゃらし、です。この二人の関係、距離感が気になってしかたありません。でも、決して嫌な感じではなくて、興味がひかれます。一点位になりますのは、「わえの」と中七と下五が、字面上、くっついて一読してしまいそうな点です。少し、もったいない気がいたしました。お嫌でなければ、「猫じゃらし」も一案です。「猫」が漢字表記なので、読み間違えがありませんから。
 <猫ぢやらし触れてけものゝごと熱し 中村草田男>

ネクタイの皺に氷菓を添へにけり  豊秋
 「皺」。なぜ「皺」。しかし「皺」にネクタイを締めている人への労い、慰労がみてとれました。夏だからこそ、ネクタイへの慰労が活きてきました。「氷菓」という熟語も正解。添える人の優しさが、「アイスクリーム」や「シャーベット」よりあると思えます。
 <アイスクリームおいしくポプラうつくしく  京極紀陽>

食卓の葡萄遅延を繰り返す   意思
 「遅延」がなんともユーモラス。実際は、大変お困りなのでしょうが、「食卓の葡萄」が、それを緩和しています。何の葡萄かは、限定されていませんが、魅力的な葡萄の姿がありありと浮かびます。黒葡萄よし、赤葡萄よし、デラもピオーネもよし、です。(実は私、葡萄好き。果物で一等好きかも。)
 <黒きまで紫深き葡萄かな  正岡子規>

【次点】

恐るべし研究室のどて南瓜   鉄男

穏やかなおんぶバッタの背中かな   山上 博

濁音は鼻を抜かして秋暑し   茂

青信号頬に吹く風涼新た   さち

切売りの西瓜片手に爺帰る   戯心

夫婦下駄そろひしままに虫の闇   くまさん

頑固にも程があるわよ栗カボチャ   岡野直樹

風の盆いつしか切手に収まりぬ   紅緒

【予選】

秋蝉や城址をかこむ濠もなし   太郎

街角に月を見つむるニートかな   恥芽

別物が届く宅配虫の声   渡会とも

かなかなの序破急卒塔婆新しき   孤愁

写真館跡のたひらか秋の昼   啓

墓碑に「海」一文字のみや涼しかり   洋平

百日紅生まれて死ぬまで次男坊   伊藤ランチ

秋果盛る皿の奏でるハ長調   戯心

裏木戸の秋の音して人の訪ふ   さくら

兄弟にも不揃いあり衣被   よふね

穏やかな二百十日の句会かな   中島啓之

葉月てふ小さく背のび夜の木々   くまさん

空色は白色まぜず秋めけり   ロミ

鉦叩リズム変わらず二分の二   勇平

【予選外から、もう、あと一歩の句】

苅田晴れ掛け合う声にリズム感

いわし雲湯上りの稚よく笑ひ

飼い猫の吾を見下ろす秋思かな

あなたからあんたと呼ばれる夏落葉

融通のきかぬ人生穴惑

法師蝉呼べども人の振り向かず

持ち時間少き老いの残暑かな

満月の夜走り出す駝鳥かな

ナスカの地上絵になりし秋茜

萩寺の萩は如何にと遠回り

蝙蝠のよたよた飛んで稲光

落揮いま案山子の背を照り返す

台風の目のなかにゐて素振かな

終了の笛かなんだか蝉しぐれ

鈴虫と蟋蟀のほか聞き分けず

つくづくとつくつく法師でありしかな

秋の湖長い廊下の露天風呂

無花果の鍋でたぷたぷふつふつぷ

指さされ我れ立ち尽くす曼珠娑華

幕間の道化師秋は立っており

ひょうたんの括れのあたりこそばゆき

新涼や十七文字のツイッター

夢二の忌珈琲カップに添へる指

秋うららベルーガのごと雲一朶

山頭火さえ遠慮して鳥渡る

はたた神来りて蜘蛛の落ち着かず

現し世を少し離れて茗荷の子

今朝の顔おなご脅しの風が吹く

金メダル上げたきほどのオクラ花

天高し今日は一日楽天家

四百二十円の朝定食や鰯雲


2012年9月12日
久留島元ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 はじめまして。今回から「ドクター」に加わった久留島と申します。
 ドクターといってもまだ自分自身、どういう句が良いのか、迷っている最中です。句会での評価と同様、絶対的な意見というわけではありません。ただ、この場、この時、久留島の「選句」と「評」がこうだった、と思って、参考にしていただければと思います。
 選句の前に、私の好きな言葉を紹介します。川柳人の川上三太郎の言葉ですが、

 「(再び――言う!)川柳は 誰にでも出来る
 だから 誰にでも出来る川柳は 書いても無駄であり 書いてはならぬ」

 川柳を俳句に変えても通用すると思います。だからと言って奇抜な句がいいわけではないのですが、なるべくなら「誰にでもできる俳句」ではないものを目指していきたいと思っています。

【十句選】

晩夏光指の古傷見てをりぬ   洋平
 晩夏光はノスタルジックな雰囲気を持った季語。その意味でいうとかなり「つきすぎ」ですが、あえて自らの「指の古傷」を見つめる、という景で世界観が完成されました。刻まれた「傷」に、ささやかながらその人ならではの歴史があり、物語があり、ひかれました。

泥鰌鍋男の顔がぬっと出る   せいち
 ちょっと状況がわかりにくい。鍋の煙のむこうから男の顔が出てきたのか、それとも鍋屋ののれんをくぐったのか。いずれにしても「泥鰌鍋」と「ぬっ」という感じはよく合っていて、擬音のセンスがいい。

禁煙のアル・カポネ氏に蒲の穂を   紅緒
 「蒲の穂」を葉巻と見立てただけでなく、それを「禁煙のアル・カポネ氏」に差し出す、というこの奇妙さ。俳句は一般に、単純に、ひとつのことを言うのが得意な文芸ですが、これは奇妙な発想をたたみかけることで無理矢理に独特の世界を作ってしまっています。お見事。

じゃがいものシチュー焦がすな魔女真似て   山上 博
 きちんと考えると、魔女のまねして焦げたシチューを作るな、と注意しているのか、シチューを焦がすな、と魔女をまねて注意しているのか、ちょっとわかりにくいですね。しかし「じゃがいものシチュー」の、ほっこり家庭的な感じから「魔女」への飛躍がおもしろい。きっとこのシチューは、魔法のように美味しいに違いない。下五は「魔女の真似」としたほうがよいかもしれません。

馬鹿の顔ますます冴えて八月尽   茂
 たしかに「八月」なら、暑いし、夏休みだし、汗みどろになって「馬鹿」面がますます目立つに相違なく、またそれでも無害な気がします。これが真冬では脳天気には過ごせないはず。この場合の「馬鹿」は関西でいう「阿呆」、落語の熊さん八つぁん的な、愛すべき「馬鹿」でしょう。
 「八月尽」はやや語呂が悪く不人気な季語です。末日である必然性はない、と考えると「八月に」や「八月来(く)」等、八月になったばかりという季語でも良いかもしれません。

いでよいでよ蟹の子月は出てるよ   鉄男
 「季重ね」になっていますが、実際には月は春夏秋冬いずれも出ているものです。なにもなければ「秋の月」をさすわけですが、今回は「蟹の子」を主にとって、「夏の月」でよいと思います。「蟹の子」に向って月は出ているから出ておいで、とよびかける楽しい句。

近道の梯子外され秋の風   葦人
 一体どこへ続く近道だったのか。明かされてみれば案外なんでもないのかもしれませんが、これだけだと、秘密基地や、ひょっとして空へ続くような「梯子」だったのか、と想像がふくらみます。なにもないところに吹く「秋の風」も、よく効いています。

駅中に茄子の並びて買はれけり   啓
 最近、「駅ナカ」開発が注目を集め、構内にケーキ屋や洋服屋が店舗を構えるのが流行っているみたいです。これも、表記を「駅ナカ」としたほうが今風で、そこで昔ながらの「茄子」の売買が行われている面白さが際立つのではないでしょうか。いや、案外ここの駅では近所の農家が売りに来ているだけかも知れませんが。

いつからか 他人行儀な 秋の水   ひねもす
 些事ながら、五七五の間に空白(スペース)を入れる必要はないと思います。意識的に場面転換を強くしたいときは空白を入れる表記もありえますが、普通、五七五はつなげて書きます。
 今回の句、人間関係と季語とがうまく取り合わされています。春、夏はよく遊んだ川の水が気づけば澄んで冷たく、まるで「他人行儀」、であると同時に、いつからか(お互い?)「他人行儀」になってしまった人に対しても思いがいく。うまい句ですね。

地蔵盆取り替えっこして抱っこする   岡野直樹
 下五が字余りですね。ここは「取り替えっこして抱っこ」で切ってしまったほうが、語呂もよく、極まるのではないでしょうか。子どもを介した人間関係。季語の本意がよく活きていると思います。

【予選句など】

 今回の応募は199句(あと1句で200句!)。上の10句に絞るのは大変難しいものでした。
 ただ、そのなかで、まっさきに落とした句がいくつかあります。政治的なメッセージや、人生訓を交えた俳句です。
 残念ながら、ニュース番組からそのまま引いたようなフレーズや、居酒屋で熱燗を傾けて言われるようなフレーズは「誰にでもできる俳句」になりがちです。やっぱり、そうした言葉は、ニュースや居酒屋の会話だから成り立つのであり、そこから俳句を立ち上げるのは難しいようです。
 最後に選外佳作、予選通過の句をいくつか。

新涼や藍の暖簾の店開く   涼
 「藍の暖簾」が鮮やかで気持ちの良い句ですが、「新涼」自体が気持ちの良い季語なので、季語の世界から飛躍しきれず。

僕のまま鉄棒だけが成長する   裸時
 「僕のまま」という言い方がやや舌足らず。

サングラス越しに鮮やか花の色   さち
 発見はおもしろいのですが、やや説明的。「花の色」、花を具体的にしたらもっとよくなると思います。

目覚むれば頭からっぷ秋の風   学
 「からっぷ」? 誤植でないとすれば、かなりおもしろい擬音語。思わず口ずさみたくなります。

秋暑し強情っ張りに反るするめ   せいち
 「暑し」に「強情」「するめ」、この暑苦しさをよしとするかどうかは、たぶん、その日の気分に左右されます。

秋雲のスカイツリーを立ち上る   まゆみ
 上五「秋の雲」として「切れ」があると、スカイツリーを立ち上げている、人ならざる巨大な「意志」のようなものが全面に出てきておもしろいですね。「の」は後半へつながっていくのがややゆるい。

山国の礼儀正しき蜻蛉かな   遅足
 虚子に「山国の蝶を荒しと思はずや」があり、やや似たとらえ方がおもしろい。

秒読みの導火線です西瓜の蔓   紅緒
西表山猫の目に十三夜(いりおもてやまねこ)   紅緒
 どちらもおもしろかったのですが、やや「見立て」が単純かと思い、予選まで。

コスモスが咲いたら連れてってもいいよ   Kumi
 子どもに言い聞かせるような口調が面白い。コスモスをどこかへ連れて行こうとするのか、コスモスが咲いたら何かを連れて行くのか。謎が残るあたりも捨てがたく、10句に残すかどうか、最後まで悩みました。

夕焼けに駱駝の鼻が伸びてをり   鉄男
 無季ですが、沙漠が思い浮かぶような句。

若冲のけたたましくて鶏頭花   あざみ
 若冲を「けたたましい」とはよくぞ。しかし「鶏」の若冲から「鶏頭」はやや単純。

白ヤギさん手紙を書かないまま残暑   秋山三人水
 童謡からの季節感、なかなかはまっています。

古代米刈るそこらじゅう芹の花   豊田ささお
 説明過多。古代米と芹の花の関係が不明、「そこらじゅう芹の花」の感動だけで一句ができます。

震災忌池の果まで布袋草   とほる
 池は、あるいはもともと建物の跡だったかもしれませんが、いまはふっくらした布袋草が繁茂している生命力。嫌みのない、復興、再生を明示した佳句と思いました。難しい季語ですが、具体的な植物だけを写生した点が効きました。


2012年9月5日
南村健治ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 頸椎ヘルニア。首の痛みはだいぶ楽になったがなんだか芯の残った痛みがいまも続いている。で、血行を良くするという磁力首輪を買った。効くのか効かないのか、、、、、それ以前にその首輪の名前が「コラントッテ」。こらんとって、、、、、こらんとって、、、、、、。大阪弁で言ってみてください。
 では、今週の10句選であります。

【十句選】

人の影いそぎ踏みゆく盆の月   まゆみ
 なんでもないときはそうは思わないのだが、お盆となると、少し日常から外れた生活スタイルになる。影はその人自身であるのだが、なぜか「急ぎ踏みゆく」となると、踏まれた方より、踏んだ方の人物の心理の陰影を思う。仏前を飾り、個人を偲ぶ盂蘭盆なればこそのほんの少しの罪の意識だろうか。

覗き込む妻のいびきや鉦叩き   古田硯幸
 まさか鉦叩きのようないびきではないだろう。静かな寝室に妻のいびきが響き、鉦叩きがそれに応えるように、鳴く。交代で鳴くかも。あるいは一体となって合奏する。どんな顔をして、心地よくいびきをかいているのだろうか、、、、、、、きになるなあ。

海は今日秋の音へと移るやう   涼
 「今日」という言い方。想いがいい。その日が立秋でなく、暦上の何かの日でなく、普通の生活の中の「今日」という日なのだ。そう読んだほうが、ふとした秋への移りが際立つ。

臍に垢蓄えて寝る晩夏かな   渡会とも
 不潔云えばそうかも知れないが、一方では臍はあまり弄くらないほうがよいと聞く。何によいのかよくわからないがとにかくそう聞く。だから、臍に垢が溜まる。蓄えるほどに溜まる。腹を丸だしにしての昼寝かな。とにかく健康な夏の終わりの寝姿がユーモラスを誘う句。

折りあげし鶴より白き秋の声   遅足
 具体的な声ではなく心で聞く「秋の声」。それが丹念に折りあげた鶴の容姿と達成かんと言うか充足感が白い秋の声となって、聞こえてきたのだろう。静かさに満ちた句だ。

食卓の嵐のなかへ置くレモン   遅足
 普段にない行為は周りを黙らせる。大勢の子どもたちの食事風景。われ先に箸を突っ込み取ったモノ勝ちという感じ。そんな嵐の争奪戦のなかに黄色いレモンが置かれた。いっしゅん箸の動きが止まり、ぽかんとレモンに見入る。もちろん皮のままの丸ごとのレモン。「これ、どうするの」といった光景が浮かぶ。

カバの口月光ぱくつと食べにけり   山上 博
 カバの鈍重さと澄み渡った月光の取り合わせがいい。大きな口を開けていたカバ。ばくりと閉じて、その時作者は月光を食べたと思った。素敵なカバファンだ。

君が好きその花柄の日傘好き   えんや
 ときには率直な物言いが功を成す。「好き」の繰り返しがリズムを良くしていて、読む者に好印象を与える。そしてそれは、互いの恋の始まりを予感させる。

縞々が兄弟いっしょ西瓜かな   岡野直樹
 愉快ですね。スイカの縞のようなTシャツをきているのかな。そういえば、スイカも同じ蔓に繋がって、兄弟ですね。その発見というか、思いつきに一票です。

月光浴魚のやうな体温に   紅緒
 多くの先達に読まれてきた、月。さやかに。涼やかに。白々と。ただ、魚の体温は何度なのか知らないが、(一説には海水の温度より0,5 〜1度高いと言われています)月光を浴びて魚と一体化するなんて、まるで海中に居るようで素敵な時間(想像)だ。

【予選句】

山の背に雲かかりゆく残暑かな   涼

新聞をめくる指さき秋の風   涼

家族四人パンツ九枚汗かきぬ   輝実江

萩供養高尾太夫の細き筆   学

サフランやゴッホの窓から見ゆる空   学

満月の下に蟷螂横たわる   Kumi

星月夜映す水路の音軽し   きのこ

いわし雲群れて夜空を流れゆき   きのこ

コンサート余韻に仰ぐ星涼し   山畑洋二

尾を切って少年となる夏の果て   遅足

白鳥のまま羅を脱ぎにけり   遅足

秋暑し高速道路湾曲し   せいち

清水の小鉢に活けし桜蓼   茂

撫で肩の母に寄り添う赤蜻蛉   茂

叢にさがす白球銀やんま   B生

晩夏光やや反りてをりカレンダー   山上 博

夕月を眺めてをりしキリンかな   山上 博

コスモスの先に焦点合はせけり   大川一馬

台風の来るてふニュース飯を炊く   邯鄲

飛行機雲おんぶばつたは真顔にて   戯心

喜寿われにときめき誘ふ花野道   戯心

鈴虫や消灯の窓開け放す   みさ

すり減りし母の庭下駄日日草   たか子

遮断機の上がればどっと秋の街   たか子

軋みつつ停まる市電や原爆忌   隼人

秋暑し白ヤギさんの手紙喰う   秋山三人水

きちきちの消えて草色残る空   紀子

急ぎ居り蜻蛉の群れに囲まるる   意思