「e船団」のドクターがあなたの俳句を診断したものです。


2016年2月24日

山本たくやドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 出会いと別れの季節が近づいて来ました。別れは辛いですが、新たな出会いに期待ですね。
 この十句選でも、良い句との出会いに期待しています。

【十句選】

二月尽貼ったまんまの絆創膏   伊藤五六歩
 冬にあかぎれは付き物で、絆創膏は欠かせませんね。掲句は貼ったままずっと忘れていたということでしょうか。それだけ日々頑張っているということが伝わりますね。

なにもかもどうでもよいやいひなたぼこ   ポンタロウ
 上五・中七でネガティブな言葉を並べていますが、最後の「ひなたぼこ」で一気にそのネガティブさを回収できています。すべてひらがな表記なのも良いですね。

佐保姫の憂鬱定型外郵便   幸久
 季節の変わり目辺りは体調を崩しやすく、憂鬱な気分になるのも分かります。しかし、掲句で憂鬱となっているのは「定型外郵便」のせいだから。小さな憂鬱が誇張されているのが面白いですね。

不意にまた好きになるかも葱坊主   幸久
 掲句では「不意に」と言っていますが、必ず好きになりそうな予感がしますね。

葬式が終われば春の雪ですね   二百年
 私事ですが、先月祖母が亡くなりました。葬儀の際に初雪が降ったのを思い出します。「葬式」の後に「雪」とは人生の輪廻を感じ、悲しみが美しさに変わっていくように感じます。

るるるるるふるふる透ける春とおる   まみこ
 標記の面白さはありますが、意味はよく分からないです。また、拙句にも「るるる」がありますが、それと比較しても、シンプルさが無い気がします。

春嵐ケンカ買いたいわけじゃない   寿々
 人付き合いをしているとケンカになることだってありますよね。でも、極力は避けたいものです。春ですし、大人の態度を見せましょう。

抱きしめる力任せの春一番   瀬紀
 恋愛に不器用な人が目に浮かびます。不器用ながらも爽やかな一句です。

ナマケモノ今日からずっと桜餅   糸代みつ
 「ナマケモノ」と「桜餅」、俳句特有の取り合わせが成功した句ではないでしょうか。一見何も関係ないもの同士ですが、組み合わせることでよりスロー感が増す、癒しの一句になっています。

たんぽぽの「ぽぽ」起ちあがり「たん」咲きぬ   豊田ささお
 言葉の表記に囚われすぎて、何を言いたいのか全くわかりません。また、坪内稔典の「たんぽぽ」句のオマージュ感も拭えません。


2016年2月17日

えなみしんさドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 北原ミレイが歌った「石狩挽歌」をご存じですか。その中に「オンボロロ オンボロボロロー」という擬音がでてくるのですが、作詞のなかにし礼さんは、この発見に1週間かかったと書いています(サンデー毎日連載中の「夜の歌」)。
 海猫が鳴くから ニシンが来ると
 赤い筒袖の ヤン衆がさわぐ
 雪に埋もれた 番屋の隅で
 わたしゃ夜通し 飯を炊く
 海猫はゴメ。筒袖はツッポ。言葉のひとつひとつに重みがあって、しかも華やか。こんな風に思いを言葉に乗せられたらいいな〜と思います。ちなみに、ニシンは春の季語、海猫は海猫渡る、で春。やん衆も季語扱いの句を読んだことがありますが、ググってもでてませんでした。今週は、149句から。

【十句選】

冬雲や介護の胸にのしかかる   大川一馬
 「介護の胸」とは、横たわり介護されている人の胸でもあるし、介護している人の胸でもあるのでしょう。思いを吐き出せるのも、俳句の力なんだな〜と思います。

木綿糸通せて春を疑わず   せいち
 何かがあって、春をジッカンする。石田波郷の「バスを待ち大路の春を疑わず.」の本歌どり。木綿糸を通すというアナクロな動作が好ましいと思いました。

眉毛より泣き出している雪だるま   せいち
 眉毛だから「泣き出している」というレトリックが上手。

グラタンのふつふつ焼ける久女の忌  たいぞう
 「久女の忌」は1月21日。実は、下5はどんな季語でも着きそうですが、アンガイ、この季語が合っているように感じました。

パソコンの文ゴミ箱へグシャ二月   瑠璃
 確かに、ゴミ箱に捨てると「グシャ」と音がしますね。こんな事を句にしたのは、この方が初めてじゃないでしょうか。「二月」がどうかという事はありますが、こういう句には、これしかないという季語がないように思います(笑)。

母拾ふパチンコ店や雪の花   さわいかの
 「母拾ふ」という表現にすごみ、つまり現実の重みを感じました。たぶん、介護の句なのでしょう。なぜ「雪の花」を選ばれたのか不明。もっといい季語がありそうです。

成否には小さき鍵穴冬芽立つ   茂
 「当否」だと分かりやすいのですが、「成否」ですから具体的には何か計り知れませんが、小さな鍵穴ほどのきっかけしかなかったのでしょう。季語が効いてます、「冬芽立つ」だから成功したのですね。

出来立ての春です送料無料にて   瀬紀
 送料無料の軽口が春のうれしさを表現しています。「出来立ての春です送料無料です」にするか迷ったのではと思いますが、掲句がよろしいと思います。

マイナスの金利つきたる寒さかな   隼人
 時事句ですが、全くそう思わずにいられません。一般的なことですが、時事句はその時しか意味が伝わらない事が多いので厳しい評価をする人もいます。わたしは、その時だけ分かる句があってもいいんじゃないかと、最近思うようになりました。

雪掻きや愚直に曲線削りをり   草子
 道のカーブなどをトレースして雪掻きしたという事だと思います。句材としては新鮮です。ただ「愚直」が分かりやすいと同時に説明的でもあります。言うややさしく表現を見つけるのはむつかしいのですが(笑)。

【今週の次点11句】

疑問符の耳の形に春動く   伊藤五六歩
 一読、いいと思ったのですが、「疑問符の耳」の句は、何句か読んだことがあるので、評価をさげました。ごめんなさい。

くちびるに昼の米粒春立つ日   酒井とも
 この句は10句に入れるかどうか、迷いました。春立つ日の気分をいい素材で表現していると思います。

愛の日や舌頭千転ショコラの香   素秋
 「愛の日」という傍題があることを知りました。これって、バレンタインの日なんですね。「舌頭千転ショコラの香」がこなれが悪く、意味が伝わってこなかった。

鬼ごっこしなくなる子ら手にスマホ   利恵
 確かにそうだと思いますが、批判精神が表に出すぎてるかも知れません。むしろ、スマホ持ったままおにごっこやってる方が今の子らしいのでは。

立春や自由自在に象の鼻   夢騅
 何気ないが、自由自在がいいと思います。わたしも動物園好きですが、季語がむつかしですね、これも。

したたかに大地つきあげ名草の芽   京子
 これも11句目。「したたかに」「つきあげ」と選んだ言葉も的確です。

マスクして大胆不敵な奴になる   やすこ
 コスプレではありませんが、確かにマスクすると多少は性格も変わるかもしれないと感じました。

モディリアニ首の傾き春隣   やすこ
 良く読めていますが、モディリアニの句は、たぶん、首が傾く、か、首が長いかだと思います。季語は傾くの後なので、春隣、で、いいと思いました。

→のやたら目に付く納税期   瑠璃
 句材としては実感あるし、新鮮です。→は、「矢印」として、最後は伝えたい「やたら目につきぬ」で終わるようにしてはどうかと思います。

指示代名詞だけで足る春炬燵   素秋
 共感できる句ですが、散文っぽいし、どこか舌足らず。「春炬燵 指示代名詞だけで足る」と557にした方が切れがはっきりする。もうひとつは、「こそあどで済ます夫婦や」のように表現に工夫されたらいかがかとおもいました。

青空のふりかけいかがイヌフグリ   瀬紀
 「青空のふりかけいかが」は面白い。イヌフグリでまとまり過ぎたのでは。下5の季語に工夫を。

 以上、今月はここまで。


2016年2月10日

須山つとむドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 友人の作品展を見に金沢を訪ねた。湖北ででも、敦賀トンネルを過ぎてからも、沿線に雪が皆無。福井駅を過ぎるころにやっと、東方に白山らしき雪嶺の眺望。雪の消えた兼六園で雪吊りの藁縄が匂った。雪に関わる季語の多さにも気づかされた一日だった。

【十句選】

冬至梅諏訪より酒の届きける   太郎
 梅の一品種で、冬至の頃に咲く梅が『冬至梅』。思いがけないその開花を愛でていると、あろうことか、諏訪から地酒が届いた。重苦しかった冬至の景色が、これで一変。

手袋が両方揃ってある不思議   せいち
 手袋が無いと気付いた、外出の間際。無い! 心当たりのどこにも無い。・・と、焦る気持ちを嘲るように玄関先のこんなところで両方が揃って鎮座。描写の鮮明さへの工夫を。

父さんを失くしたボール冬の土手   たいぞう
 上五、中七『父さんを失くしたボール』に惹かれた。その音律に、その彩色や連想の広がりに、どれもが詩的でメルヘン。枯草が覆う土手も、パステル画風に句を立たせた。

煙草吸ふホームの端の雪をんな   今村征一
 翻るコート、雪に向かってホームを駆け抜けた女性が一人、電車到着のアナウンスを物ともせずに。長い脚、尖った肘がシルエットに浮かぶ。あの喫煙ポーズ、雪女だったのか。

広縁を開けて飛び石冬菫   茂
 ガラス障子を開け、広縁に立つ。目の前に広がる見事な庭園。庭下駄の感触を楽しみながら、飛び石伝いに歩くと、足元を可憐な冬すみれの一群。新派劇を観るような高揚感。

216番の方、春ですよ   ∞
 全て記号化される世。でも、捨てたものではない。こんな楽しい句とも出会えるのだから。数字の持つ意味・記録性(最多安打記録?)の他に、その音の響き、縦書した時の形の美なども推敲して、最高の効果を手中に。

星の名がいつか駅の名冬の夜   紅緒
 星の名が、そのまま駅名に使われたというテーマは俳句的。でもこの句、それを解説してしまった。『駅の名が星の名前そのもの』を、直截な表現で俳句に仕立てる方法があるはず。

ゴンドラの中の静寂北颪   瑠璃
 例えば赤城颪、比叡颪。ロープウエーが向かう雪嶺から空っ風が見舞う。ゴンドラは球状のシェルター。外界から遮断されて異界の二人に、途切れを知らない会話、また会話。

マスクしてマスクと並ぶ交差点   たか子
 マスクと鍔広帽で、目だけ光らせた御仁に出くわすと、もしかして知人? との戦慄。でもこの句、マスクをして、マスクと並ぶ場合はこれとは逆、マスクに保護された妙な安心感が。

待春やファスナーあげて貰ふ鬼   紫
 間近に迫る追儺の行事。ぬいぐるみを着せられ、金棒振り回す大の男の赤鬼。真に迫る演技も身に付いてきて、つい背中のファスナーがずり落ちる。切り取られたユーモラスな寸景。

【注目した5句】

放つといて冬眠中の私です   有明海
 屁理屈並べ口答えしていたのが、いつの間にか雑学まで駆使。でもまだ、あどけなさが残る。

ずんばいはいっぱいのこと冬木の芽   隼人
 新奇な単語には魅惑が。だが、説明は避けて、単語が一人歩きする句を工夫してほしい。

冬岬頭うねらす獅子の舞   紅緒
 冬岬のとある玄関、悪魔を払う獅子が舞う。景は鮮明だが、季重なりもあって、冗長な句に。

日脚伸ぶあすぱらがすな人となり   さわいかの
 中七;あすぱらがすな人の『な』は、比況の助動詞『様だ』の連体形、『ような』の省略形だろう。こうした措辞に擽(くすぐ)られても、嵌らないこと。

セーターの袖にかくれる手をさぐる   をがはまなぶ
 相愛の二人にいま、どんな曲が似合うのだろう。景の中、結晶となるもを見せたい。


2016年2月3日

星野早苗ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 二月は光の春。寒さの中にも明るい日差しの嬉しい季節ですね。
 朝から雨の日、出かけるのはやめて『イタリアからの手紙』(新潮社)を読みました。今から四十年以上前に出版された本ですが、塩野七生の遠慮のない物言いに、イタリアの面白さがダイレクトに伝わります。壊れそうな古本で読んだのですが、雨を弾く勢いある本でした。
 さて、今回は162句の中から。

【十句選】

数十歩天に近づく冬木立   伊藤五六歩
 作者が冬木立に近づいたことによって冬木立の周囲が空だけになったのでしょう。数十歩はかなり長い距離です。遠くから見つめていた冬木立に真っ直ぐ進んでいく作者自身も、天に近づく思いだったかもしれません。空はもちろん天国を思わせるような真っ青な空だったと思います。

氷柱折りトリスに入れし遠き日よ   せいち
 戸外の氷柱を折ってトリスに……。トリスは大衆のウィスキーですが、焼酎とは違う、樽で眠った年月のロマンがありますね。琥珀色のウィスキーに荒星を閉じ込めたような氷柱を入れたロック。貧しくても若かった時代の思い出です。

百年を超えたる梅の香と思ふ   今村征一
 幹に大きな洞のあるような古木も、咲かせる花はみごとです。色も香りも年ごとに新しいのが花木の魅力ですね。掲句、今漂ってきた梅の香を百年を越えた古木の梅の香ではないだろうか、と言っているのですが、梅の香が百年を越えて甦ってきたような典雅な世界を感じました。

初蝶や夢語るとき空を見て   隼人
 夢や未来を語るとき、人は視線を上げて空を見る。確かにそうかも知れませんね。初蝶が初々しく、空との親和性もあって、素直に夢を語り合う人たちの明るい世界が思い浮かびました。

マスクしてたまにはずして北酒場   さわいかの
 「北酒場」は細川たかしさんの歌ったあの「北の酒場通り」なのでしょう。どの店も常連で賑わい親しみやすくて居心地のいい酒場は、寒い地方に多いのかも知れません。掲句、普段マスクを離さない人が、北酒場に行く時だけははずす、という面白さをいただきました。

黒々と歯科の予約日古暦   たか子
 「黒々と」に共感しました。歯科の予約日が黒のマジックで太々と記されていたのでしょう。去年は、歯科への通院が作者の最重要課題であったのです。そんな暮らしを客観的に見て、面白がっておられるように感じました。平穏無事な一年だった、と言うことなのですね。

ぐあいよく納まるコード日脚伸ぶ   ∞
 アイロンがけでも掃除でも、一仕事終えた後、コードがするすると最後まで具合良く収まってくれると、いい気分。コードは縮み、日脚は伸びる、というのも面白いです。春が近づく頃の明るい気分が、過不足無く表現できていると思いました。

サッチモの声と笑顔に春や立つ   大川一馬
 サッチモはアメリカの黒人トランペッター、ルイ・アームストロングの愛称。ジャズシンガーとしても名高かったサッチモの声と笑顔は、熱く、力強く、今も魅力に溢れていますね。

雪うさぎ生徒の数と同じ数   中 十七波
 子どもたちが一人一人雪兎を作ってどこかに並べているのでしょう。たくさん並んだ雪兎の視覚的な面白さと共に、一匹一匹の雪兎に飼い主がいるようで、面白いと思いました。作り主によく似た個性的な雪兎が並んだことと思います。

人日やもつれし鎖解いてゐる   紅緒
 ペンダントの鎖でしょうか。賑やかなお正月が終わってほっとした七日、やることもないのでペンダントのもつれた鎖などを解いていると、日常が戻ってきたことが実感されますね。人からちょっと離れてみるのも、人日の過ごし方ではないでしょうか。

【その他の佳句】

ほろ酔うてつぶやく肥後の手毬唄   隼人
船頭の竿一本の冬景色   戯心
川底を足で探るや冬の鷺   スカーレット
早春や単語ひとつのメール来る   紅緒
生きて居てこその手づからお年玉   たか子
厳冬のまだ輪にならぬ大車輪   さわいかの


2016年1月27日

谷さやんドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 今日は西日本に強い寒波が来ている休日で、パソコンを前に窓の方をちらちら見ますが、松山は雪は降りて来ません。
 昨夜は友人に誘われて、古くからあるライブハウスへ。その友だち曰く「現代音楽」を聴きに出かけました。小難しそうで内心「がまんして聴こか」と思いながら椅子に腰かけました。が、大反省。トランペットやピアノそしてドラムが、鳥の声や木々の音を奏でているようで何処か旅してる気分になりました。夜更けてライブハウスを出て歩いていると、高い所で看板工事をしていましたが、その大きなドリルの音までも、音楽に聞こえてくるほどの衝撃でした。

【十句選】

クリスマスツリーのごとき孤独かな   幸久
 まずはデパートやホテルなどに立った豪華なツリーを思った。飾り立てられた姿が気高く感じられる一面もあるが、人々を遠巻きに聳えている孤独な感じも確かにある。
 この句を読むと、家のツリーにしても飾られるほどに孤独感が増していく気がしてきた。

マンションの隣もマンション冬灯   伊藤五六歩
 私のマンションも、うしろも横もマンション。ベランダに出ると、すぐ近くのマンションの灯が気になる。「やっぱり消えているな、あの部屋」と心で呟いたり、灯っている家を何気なく数えていたりする。冬はことにその明かりが頼もしく思えてくるから。「隣も」の「も」は無くていいかなと思った。

羽子板の五郎丸君仰け反りて   大川一馬
 羽子板にも五郎丸さんが現れたらしい。句会でもよく出てきた名前。この句は、最後「仰け反りて」が羽根つきの様子を巧くとらえたと思う。仰け反った羽子板の五郎丸さんは、ラグビーボールならぬ小さな羽根に手を焼いている顔になっている気がする。

水槽とわれ胎動す雪の家   けい
 水槽の中に動く何かと、自分の内面から起こるかすかな兆しとが連動した気配。雪の降り積もる静かな時間に湧いてきた不思議な感覚。最後に置いた「家」が説明っぽいかなと気になったが、だからと言って「雪の夜」や「雪の昼」だと、この句全体の動悸のようなものが鈍くなる気がして納得した。

よそ行きの顔して九条葱を買う   せいち
 よそ行きの顔をさせる「九条葱」は、伝統的な京野菜の一つ。私はまともに食べたことがないのだが、値段も味も別格なのだろう。葱への殊更な表現が可笑しい。皮肉も少し。

生きるとは冬の瓦礫をどかすこと   加納綾子
 きっと、「えいやっ」と邪魔になっている瓦礫を退けているのだろう。寒いので尚更重く感じる瓦礫。そこで「生きるとは」と、ちょっと大仰な言葉が口を衝いたのだ。同じ作者の「生きるとは苦痛の石だ冬薔薇」や「孤独とは乾いた白い冬薔薇」は伝わりにくいが、この冬の瓦礫の句は最後の「どかすこと」にリアリティがあり映像が喚起された。

山眠る京都をちょっと傾けて   岡野直樹
 大文字山とか鞍馬山とか、京都盆地を囲む山々も今は眠っている。ちょと京都を傾けたままに。町を行きかう人々も少し傾いているみたいで、可笑しい。

トーストにバターと薄日二月来る   やすこ
 春の兆しをトーストの薄日に感じた。いや、感じようと心が働いたのかも知れない。二月が来たのだからと。バターも気のせいかスムーズに塗れた気がして、しばしバターの色に見入るひと時。

雪野原机上をゆくがごとくゆく   倫敦
 「机上を歩く」ことはまずないが、机に上がることはある。電球を変える時などがそうだが、上がってはいけない所に乗っている後ろめたさや心もとなさがある。その感覚が、雪野原を歩くときに思い起こされたのだ。

雪の夜ラップランドの橇の鈴   冬薔薇
 ラップランド地方は、スウェーデンの北部に位置している。「雪」「橇」「鈴」と、連想の近い言葉が並ぶが「ラップランド」の明るい語感が、ひときわ楽しい雪の夜を想像させる。


2016年1月20日

久留島元ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 1月も半ば、正月気分も抜けてきました。私の好きな小林恭二氏によれば、俳句にはまると何でも五七五によみたくなる、五七五漬けの五七五人間になるが、一般社会はそれでは生きていけない。だから普通人間にもどったり、暇を見つけて五七五漬けになったりをくり返しながら、本格的な俳人になっていくのだそうです。(『実用青春俳句講座』)
 本格的な職業俳人でもなければ、いつも俳句のことばかり考えているわけにはいきません。また同時に、日常すべて俳句に詠もうと思っても、なかなか五七五におさまらない。もちろん、遮二無二俳句ばかり考え続ける時期があるのも幸せですが、できないものはできないまま、おさまらないものはおさまらないまま、無理をせず、自分のペースで続けることがいいのかも知れません。
 というのは、最近句会に行けていない私自身への言い訳でもあるのですが。

【十句選】

玉手箱開けてしまいし小春かな   幸久
 小春は11月から12月にかけて、春のような気候の日和。今年は特に暖冬で、うっかり玉手箱も開けてしまう陽気でしたが、果たして無事だったのでしょうか。

地面から立ち上がろうとする大根   岡野直樹
 インターネット上では奇妙な形の大根が話題になることがありますが、「とする」が、まさに立ち上がる瞬間をとらえていますね。

冬蝶に道を訊かれて二町先   伊藤五六歩
 町先、がやや古風に思えましたが、蝶と会話できる自在さ。「初蝶来何色と問ふ黄と答ふ」「山国の蝶を荒しと思はずや」(いずれも高浜虚子)など、蝶は会話をさそう虫なのかも。

初乗りやメトロの長いエスカレーター   スカーレット
 長々とつづくエスカレーターも「初乗り」というだけでめでたいような。気分の問題ですね。

たたいてもほこりの出ないなまこです   紅緒
 清廉潔白、まっとうに生きてきたなまこ氏がすがすがしい。

カプセルに海鼠の入る日暮かな   ∞
 このカプセルとは何なのか、タイムカプセルのように海鼠がどこかへ行ってしまうイメージ?

UFOになり損なった海鼠君   せいち
 「海鼠君」の君づけが、やや戯画的に凝りすぎた感もありますが、あの形がUFOのなり損ないという見立ては秀逸です。

珈琲の豆は深煎り冬籠り   草子
 なんと言う事はありませんが、「り」の脚韻でしみじみと豆の香りを楽しめます。

去年今年大観音に赤ランプ   二百年
 どこの大観音かわかりませんが、大晦日カウントダウンにライトアップでしょうか。

残酷の小雪つかのま紅鯨   さわいかの
 この句、大変悩みました。「残酷の」の「の」がまずわからない。残酷なの意味でとっても、「小雪」のかそやかなイメージにあわない。つかのま「紅鯨」とは何者? とわからないだらけで、はじめ選外のつもりでしたが、言葉のインパクトが面白く、小雪ちらつく中つかの間、紅色の鯨に変化する呪い、とひとまずファンタジックな解釈でとらせていただきました。言葉の使い方が独善的というマイナス評価をする人もいるかも知れません。

【選外佳作】

 ここでは、驚きは少ないけれど作者の生活や、物の感じ方がわかるような句をならべました。
 どれも五七五の定型のなかで、言葉に過不足がなく、読めば自然と実景が浮かび、しかも日常のちょっとした発見をおもしろがる余裕を感じさせる、好感の持てる句です。

百貨店九階で食ふカキフライ  伊藤五六歩

お風呂には明日も入る石蕗の花   ∞

埋火や三代続く女系親   瑠璃

手拭の凍りつつある湯治かな   石塚 涼

榾くべて昔話や宿の主   いつせつ

申と書く象の書初め空は青   大川一馬

表紙絵の干支の目優し冬ぬくし   山畑洋二

とっぷりととっぷりとゐる柚子湯かな   加納綾子

 あえて二度言うところが「とっぷり」感たっぷり。「ゐる」と旧かな表記にするなら「とつぷり」ですね。

寝転がるなり 真冬日の地球   倫敦
 間の空白が必要かどうかわかりませんが、寝転んでいるだけの日を「地球」まで思いを馳せる広がり。

土産屋の観音白し初雀   まどん
 この句、コメントによれば「観光地に多い、道ににょっと現れる観音様」をよんだものだそうですが、観音白し、だけでは「にょっと」現れた驚きが見えてきませんね。むしろ「初詣にょっと観音現れて」などとしたほうが驚きがあるかも。いや、「土産屋ににょっと観音叔気かな」では?
 というように、説明しなくても発見そのものが面白いこともあります。焦らずにいろいろ言葉を足したり引いたり試しながら、定型を活かした句作りを楽しんでみてください。


2016年1月13日

中居由美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 新しい年が始まりました。手元の歳時記をめくってみると、一月が先頭で、そのまた先頭が「一月」という季語になっています。今年もまた歳時記のページを一枚一枚進めながら俳句を詠んでいくことになるのです。「俳句を作ってみたい!」と思った最初の気持ちを忘れないでいたいな、一月のページを前にしてそう思いました。
 今年もどうぞよろしくお願いします。

【十句選】

凍蝶や山風あらぶ雑木山   太郎
 息絶え絶え、あるいはすでに絶えてしまった蝶に容赦なく吹きつける風は、厳しく冷たい。凍蝶はあわれだが、雑木山に救いがあると思う。土の中では虫たちが眠り、木も草も着々と芽吹きの準備を始めている。

丸善の本の匂いの師走かな   石塚 涼
 固有名詞が効いている一句。丸善の本の匂いにある種の感慨がある。師走の街の忙しさと本屋本来の静謐な空気の対比が面白い。

赤鬼泣いた初めて泣いた冬すみれ   中 十七波
 破調だが童謡のようなリズムが魅力的。冬すみれの可憐さが一層際立つのは、「初めて」のフレーズから。意味を排除して美しい情景を描いていると思う。

降る雪や赤いメガネが置いてある   倫敦
 「降る雪や明治は遠くなりにけり」中村草田男 を直ちに思い起こす。倫敦さんの句、「赤いメガネ」が意表を突く。雪景色の中の一点の赤がやや不穏な気配をはらんでいるかも。

雪おんな出雲詣の列におり   たいぞう
 ユーモアに参ってしまった。さりげなく人の列に紛れ込んでいる雪おんな。雪おんなにも結婚願望があるのだろうか。

寒茜天文台に壜ひとつ   さわいかの
 遠景から近景への転換が見事だと思う。短編小説のようなシーンが美しい。

手の下に小さき手すでにかるたとり   草子
 子どもとのかるた取りで、けっこう本気になっている作者。いただき!と取ったと思いきや、一瞬、子供の手が早かった。詠まれているのは双方の手とかるた札だけだが、子どもの成長に対する温かい眼差しが感じられる句だ。

初電車いつもと違う出口より   瑠璃
 今年初めて乗る電車。違う出口から見る町は、新鮮に映ったことだろう。さりげない日常をさらりとシンプルに詠んでいる。

校長の先ずは氷柱を落としけり   瑠璃
 寒冷地、あるいは山奥の学校の校長先生だ。校長自ら氷柱を落とすくらいだから、おのずと学校の規模も見えてくる。加えて和気あいあいとした人間関係も!氷柱が愛しいものとして存在感を発揮している。

雪が来るはるかな夜の音のせて   まみこ
 はるかな夜の音とはどんな音だろう。底のない闇の音?大雪が来るときの気配は充分伝わってくる。あるいは柔らかな夜の音とも考えられる。その時の雪は、優しい雪。うれしい雪。もうひとつ具体性が欲しいところだが、読みの幅の広がる句だと思う。


2016年1月6日

山本たくやドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。それでは早速、今週の十句選です、どうぞ。

【十句選】

らーめんの湯切りを見てる十二月   石塚 涼
 一見、虚無感も感じますが、何かと忙しい師走の時期に、らーめんの湯切りを見ている余裕があるのは良いものだなあと思いました。表記が「らーめん」と平仮名である所も、呑気さが感じられ良いと思います。

柔らかにチェロ鳴り出だすひめ始   伊藤五六歩
 官能的でgood。

凩にぶっかりながら銭湯へ   二百年
 「ぶつかりながら」ではなく、「ぶっかりながら」が良いですね。粗っぽく風を切って、行き着いた先の銭湯はさぞかし気持ち良いでしょう。

到来のチヤーシュー切って年迎ふ   大川一馬
 新年を迎える時は、おせち等が定番ですが、それとは真逆な感じのするチャーシュー。きっと肉厚のぶっ太いチャーシューなんでしょう。俗な感じがしますが、チャーシューから滴り落ちる肉汁を想像しただけでも、とてもお目出度い気分になりますね。

寒夕焼鬼の戻らぬかくれんぼ   たいぞう
 ノスタルジックな一句。鬼がいなくなって一人ぼっちで見る夕焼けは、うら寂しくあるが美しくもある。幼少期は何をやっても楽しかったように思っていましたが、その一方では言い様のない切なさを持っていたのかなと思い直しました。

数へ日の声のびやかな豆腐売り   隼人
 1年が終わっていく切なさとまた1年が始まる期体感、「数え日」という季語はどこか不思議な気分にしてくれる言葉ですね。そんな気持ちの狭間に、豆腐屋ののびやかな声がするのは、どこか癒されるものがあります。

タクシーの入つて行けぬ小春かな   幸久
 物理的な道にタクシーが入っていけないのではなく、小春という気候に入っていけない点の着想が面白い。SF的な俳句です。

煮凍りの琥珀の中に迷い込む   紅緒
 料理は、味付けはもちろんですが、見た目や色合いも大切です。本当に美味しい料理は、その見栄えに芸術品と思えるほどの美しさを持っているものでしょう。掲句はまさしくそんな料理を彷彿とさせてくれます。「煮凍り」の表記も、「琥珀」という字面に合っています。

活版の臭い溶け込む柚子湯かな   加納綾子
 「臭い」の表記には引っ掛かるものがありましたが、活版印刷をした人の疲れがじんわりほぐされていくような感じが俳句全体から伝わり、好感を得ました。

幼子の前髪濡らす結露かな   瑠璃
 「露」で子供の髪が濡れるのは分かりますが、「結露」だと子供がじっと動かない感じがします。それでも、子供の髪が露で濡れるということだけでも可愛らしいものがあります。