「e船団」のドクターがあなたの俳句を診断したものです。


2017年2月22日

谷さやんドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 今更ですが、句会では投句と選句の二つの作業があります。最近はことに、俳句を作る以上に選句が難しく思われます。文字通り読んでいるつもりで、かなり自分に都合よく読んでしまっていることに、はっとします。創風社出版から出ている「子規百句」から始まるシリーズでは、帯文に「表現されているままに読む」と書いてあります。心して、実践するよう心掛けたいと思います。作者が、膨大な言葉の中から選んで組み立てた十七文字の中の、言葉のひとつひとつを押さえながら読み解いていきたいです。

【十句選】

親指を咥へて二月濡れてゐる   家路紋黄
 寒さが緩みはじめる二月の空気の輝きは、「濡れてゐる」という感じか。「親指を咥えて二月」の「二月」の位置が良かったと思う。もちろん、二月が濡れているのだろうが、ムードに流れそうなところを、親指の存在感が食い止めた感じ。

パン屑を競ふ白鳥入日影   太郎
 掘に住む白鳥だろうか。パン屑を投げている人を、私もよく見かけるが、ほんとに動物が好きなのだなあと感心する。用意してくるのだから。「入日影」がいいと思った。餌を競う白鳥に優雅さはないが「入日影」に、人間の世界と共存する白鳥への親しみを感じた。

わが歳を妻に尋ねる日向ぼこ   たいぞう
 夫婦で日向ぼことは、羨ましい。妻は夫に合わせて、そこに居てくれているのかもしれない。妻は面倒くさそうにだが、答えてくれそう。

着ぶくれてしまひまで観る無言劇   伍七堂
 無言劇だから「しまひまで」が生きてくる。観客が少ないせいで、暖房を効かせていないのかも知れない。客は客で、無表情なまま義理堅く「しまひまで」観劇しているようで、少しおかしみもある。

木の根明く我が家に小さき父の句碑   今村征一
 春の季語「木の根明く」は、雪国で見られる現象で、幹からの放熱で雪の輪ができるのを「木の根明く」「木の根開き」というのだそうだ。父の句碑の周りも雪の輪ができただろうか。俳句を熱心に作っていた父を偲んで、家族が建てた小さな句碑なのだろう。

伝えたいことがあるんだ薄氷   幸久
 ドキッとしますね。「薄氷」が、結果を暗示しているかのようでありますが、思い切った告白でしょう。まだ春浅い冷たい空気が2人を包む、恋の告白だと思われる。「うすらい」ではなく「うすごおり」であるのもいいと思った。氷がきちんと見えてくるから。

集まつてひとつ不足の鶯餅   中 十七波
 父兄の集まりとか、近所の寄り合いか。どんな集まりかわかると、さらに良かったとは思うが、最後の「鶯餅」が効いていると思った。字余りなところも内容に合っている。「どうぞ、どうぞ」などど、未練がちに譲り合っている光景が浮かぶ。

路地裏にひびく寒柝泣きやむ子   鷲津誠次
 「寒柝」は、冬の寒い夜に鳴らす拍子木の音。私の町でも、時々聞こえることがある。子どもの頃のように「火の用心」の声はしないが。「泣きやむ子」を最後に置いたのが巧いと思う。寒柝の音に泣き止んだのだろうが、泣き止んだ途端の静けさで、その寒柝の音が大きく響いてくる。

街灯や列柱のごと春の雪   比々き
 街灯に照らされているところだけが、まるで立ち並んだ柱のように見える春の雪。さーっと舞い降りて来るのが見える。この景色の中に立っているような気がした。

春ショール首をかしげて話す癖   遠音
 平凡な場面のようで「首」「かしげ」「癖」のか行の音が、効果的に響いている俳句。春ショールに包まれた首は、頷くときも傾いでいそう。


2017年2月15日

久留島元ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 俳句は五七五の短い形が基本形ですが、いざ五七五にあわせようとすると、いろいろと言葉があわなくなってきます。しかし無駄な言葉で補ったり、自分だけしかわからない略語を使ったりするのは、五七五を使いこなせていない証拠。特に、「トンボさん」「店員さん)の「〜〜さん」や、「お餅」「お団子」の「お」などの無駄遣いは、目立ちます。簡単な推敲・添削のパターンとして、@言葉を換えてみる、A語順を入れ替えてみる、B句の内容を整理する、などがありますが、多くはあきらめて作り直すのが吉でしょうね。
 では、五七五をうまく使いこなした十句から。

【十句選】

カフカ読む靴はぺたんこ春隣り   さわいかの
 五・七・五の内容がバラバラな、三段切れに近い句ですが、ぺたんこの靴でカフカを読む、おそらくまだ若い学生の姿と春隣の空気はよく似合います。

臆病が仮面をつける追儺かな   比々き
 「臆病が」は、ふだん臆病な人が、をうまく省略しています。

永き日をづうっと吊革にぎってる   ∞
 「づうっと」のなだらかなひらがな表記、本当に長い時間感じが出ていますね。長距離移動でどこへ行ったのでしょうか。

括弧開くイコール寒の明けにけり   せいち
 数式を解くように寒明けを迎えました。

寒明けの中学生の匂いかな   柏井青史
 こちらは、一歩間違えるとやや変態チックですが、おそらく爽やかな匂いなのでしょう。

風花や ジャン・コクトーの遺言書   伊藤五六歩
 実際にどんな遺言があったのかは知りませんが、風花のなかで詩人の遺言書が浮かぶ、なかなか幻想的で素敵です。

坪庭の自己主張する蕗の薹   スカーレット
 小さな庭に、たしかな存在感。

予後の身の顔撫でをれば冴え返る   けむり
 病身とも病後ともまとめず、あえてもったいぶって「予後の身の」としたところに思い入れがあります。

凍る夜の三回鳴つて止む電話   中 十七波
 三回、微妙な数ですね。緊急の用事があればかけ直してくるかも知れないし、しかし夜だし、間違い電話かもしれないし。

釦押せば店員が来る春がくる   ∞
 ファミレス、居酒屋で当たり前の風景ですが、春とともにやってくる店員、素敵ですね。

【選外佳作】

あの人のいいじゃんそうじゃん春めけり   みなと
 「あの人の」、なにが「いいじゃんそうじゃん」なのかよくわからないのですが、なんとなく華やいだ気分になる早春の雰囲気。もう少し答えのヒントはあってもいいかも。

高層ビルてつぺんにゐる雪係   紅緒
 大企業にはそんな部署もあるのでしょうか、語呂の悪さが変なリアリティに。

心にもあらであなたと春隣   瀬紀
 心にもなく、とはすこしひどい言い方ですが、一緒に春隣を過ごす間柄。

立春の水に触れない色事師   秋山三人水
 色事死ならではの、なにかこだわり、ダンディズムでしょうか。

階段の蓄光テープ冴え返る   紫
 蛍光テープへの着目、おもしろいのですが「階段」だけではちょっと雑、学校なのか病院、会社なのか、具体的にみえたほうがよいと思います。

紅梅や女子寮ほのと静まりて   谷 ゆり
 ほのと静まる、が受け入れられるかどうかが分かれ目ですね。

バターナイフ刺さつたままの小春かな   幸
 小春は十一月ごろ、春のように陽気な初冬の季節をいいますが、その必然性があるかどうか。

鬼は内大日本帝国軍歌   酒井とも
 「大日本帝国軍歌鬼は内」のほうが語呂は良いですね。戦没者を「鬼は内」とよんでいる、という情景かと思いますが、言い回しをふくめやや類想かもしれません。

一行詩一つ二つみつ日脚伸ぶ   山畑洋二
 角川春樹さんは「魂の一行詩」を提唱しますが、俳句を一行詩と呼ぶのか、別の詩型なのか。なににせよ、一つ二つ三つ、という数え方はぞんざいですね。篇というか一行というべきか、詩的な数え方を考えてほしいところ。

冬枯れや沈思黙考野良二匹   えいこ
 野良だけでは説明不足、「野良猫の沈思黙考冬ざれる」として、むしろ一匹のほうが考え込んでいるように見えるかも知れません。冬枯れは植物の様子なので「冬ざれる」としてみました。

蛇口からの小さな氷柱みつけし児   大川一馬
 こちらは「〜〜からの」「小さな」などが説明的。「蛇口に氷柱」とあれば小さい氷柱とわかるので、もっと省略可能です。

冬の蜂受粉の為に活発化   意思
 「冬蜂の死にどころなく歩きけり 鬼城」の逆張りで面白い着眼ですが、あまりに理科の説明そのまま。特に、〜〜化という使い方は、全体に説明的になるので避けたほうがいいでしょう。


2017年2月8日

中居由美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 立春を過ぎた頃から、空がどことなく明るくなってきました。日当たりのよい場所では草が僅かに青みつつあります。散歩の時など、季語「青き踏む」を実感しています。
 先日、映画「この世界の片隅に」を観てきました。ヒロインのすずさんは、広島から呉に嫁ぎ、つつましくも幸せに暮らしていましたが、やがて戦争の渦に巻き込まれていきます。この映画は、戦争はいつも庶民の日常の延長線上にあるという視点で描かれています。過酷な時代を精一杯、前向きに明るく生きようとするすずさん。軍艦や爆撃機と同じ画面に、野の花や土筆、蝶や鳥が映し出されるのが印象的でした。すずさん役を演じた、のんさん(本名=能年玲奈さん)の声の演技もすばらしいと思いました。

【十句選】

手袋を脱いで児童と手をつなぐ   吉井流水
 児童と手をつなぐ時の作者の心の有り様がよくわかる。相手は子供だが、いや、子供だからこそ、手袋を脱ぐのだろう。やさしい気遣いが手袋を通してさりげなく一句に溶け込んでいる。

墓とする石を切り出す島の寒   たいぞう
 島の石切場の寒さが伝わってくる。墓石だからなおさらに・・・。その作業の厳しさと、それを受け入れ働く人たちがいる。映像として冬の海まで見えてくる。

パキッとねたやすくわれる氷だし   つちくれ
 若者の話言葉をうまく持ち込んでいる。賛否は分かれるだろうが、今の言葉で紡がれた言葉は、鮮度がよくきらきら光っている。

君と開花しそうな朝だ雪女郎   黴太
 前の句と併せて新しい感覚の句。気になるのは「雪女郎」。この季語でいいかどうか。俗に落ち過ぎるかも。

絵手紙に絵手紙らしき梅の花   柏井青史
 以前、絵手紙を習いかけたが、挫折してしまった。先生から「下手でもいい。大きく書いて」と教えられた。しかし、下手な絵を大きく描くのが恥ずかしく頓挫。それっきりになっている。確かに絵手紙らしい絵というのはある。梅の花の斡旋がいいと思う。

月つなぐ水平線と水仙を   比々き
 とてもきれいな光景だ。あたりには何もない。月と水仙があるばかり。モノクロの世界に僅かに黄色が滲む。静けさの中の時間の経過を面白いと思った。

折れた骨折れたままなり雪だるま   酒井とも
 いろいろな読みが出来るのがこの句の魅力だと思う。手術が不可能と読むと、とても深刻になる。読み方を変えて雪だるま(もともと骨がないですね)が骨折したと読むとユーモラスになる。深刻さをユーモアに転じることも俳句ならでは。

アイロンをかける工程山眠る   幸久
 アイロンがけの名手が、手際よくアイロンがけをしている。アイロンの熱と蒸気、外気の冷たさ。皮膚感覚の取り合わせの妙。下五の山眠るがいいと思った。

あやとりの綾くぐる指すくふ指   草子
 昨今の子供たちは、「あやとり」をするのかな、ちょっと気になっている。いずれにしても、「糸」ではなく「綾」としたところに脱帽。「くぐる指、すくふ指」という表現も的確だと思う。

先頭は雪達磨ですバスを待つ   凉木文平
 口語俳句で滑稽味を出した句。凍えそうなバス待ち時間も、先頭に雪だるまがいると思うと、ほんわか暖かい気分になりますね。


2017年2月1日

内野聖子ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 ついこの間年が明けたと思ったら、一月ももう終わりますね。まだまだ寒いですがそれでも微かに春に向かっている気配を感じることもあります。
 私事ですが、昨年末に少し気がかりな事があったりして、健康の大切さや「普通の生活」ができることの有難さをしみじみと感じました。
 それでは今年もどうぞよろしくお願いいたします。

【十句選】

沢庵を漬けて自ずと世帯主   伊藤五六歩
 「世帯主」さんが、粛々と沢庵を漬けている情景が目に浮かびます。何とも言えない味わいがあっていいですね。

爆音の直球一撃寒の入り   茂
 大寒波が急にやってきたのでしょうか、一気に寒くなったことがよくわかります。インパクトのある言葉を並べることで強い印象を与えていますね。

日脚伸ぶダリの時計も動きだす   ポンタロウ
  段々昼間の時間が長くなってきて春に近づいてくると、どこか気持ちも明るくなります。時計が動きだす、というところに明るい希望のようなものが感じられます。「ダリの時計」がダリの作品「記憶の固執」を意味しているなら尚更。

牡丹鍋また聞かさるる武勇談   せいち
 猪肉を食べるとどうしても武勇伝を語りたくなるんでしょうね。聞いている人もまたかと思いながらも、それはそれで楽しいかも知れませんね。

冬の夜や猫ふくらみてパソコンに   由帆
 ほのぼのした光景です。冬毛で丸々した猫が少しでも暖かいところを探してパソコンのキーボードに乗ってきたりして。猫に焦点を当てるなら「冬の夜の」にするといかがでしょうか。

白菜やざくっと割り切る絵空事   谷 ゆり
 現実にはあり得ない事だと思いながらもやもやしてしまう気持ちを白菜にぶつけたのでしょう。これですっきりできればいいのですが。

隕石の行方なまこに聞いてみる   紅緒
 隕石となまこは何の関わりもないように思えるけれど、何となく見た目が似ているような気がします。なまこは隕石の行方を知っていたんでしょうか?ユーモアの感じられる句ですね。

カーナビに御慶挨拶されにけり   をがはまなぶ
 私、しきりにカーナビに注意されています。「そろそろ休憩しませんか」とか「載せる荷物を減らしましょう」とか「ブレーキをあまり踏まないように」とか。新年の挨拶はまだされたことがないですが。エンジンをかけたら挨拶された時の少しびっくりすると同時にクスッと笑える気持ちに共感しました。

丸餅に練り込まれたる国訛   戯心
 方言で話しながらわいわいと餅をついたり丸めたりする情景はほのぼのとしていて、年末には欠かせないものですよね。何かと話題になった餅つきですが、やはり無くならないで欲しいと思います。

悴みて釦の穴の遠くなり   スカーレット
 寒さで手が悴んでボタンがはまりにくいのか、ボタンの穴に糸が通りにくいのか、いずれにしてももどかしい感覚を「遠くなり」と表現したところが面白いと思いました。


2017年1月25日

山本たくやドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 今年もよろしくお願い致します。今年で29歳になりますが、占い師に「30歳までは修行期間」と言われました。本年も山本の修行にお付きあいください。

【十句選】

雪男だつたか無言電話切れ   雪子
 不思議な句ですね。「雪男」と唐突にもってきた点が良かったです。

まだ残るジャズの欠片や冬の星   善吉
 「余韻」ではなく、「欠片」としたところが良い。

冷たさや黒鍵に指走らせて   由帆
 「冷たさ」や「黒鍵」などの寒々しい景のなかに、「指を走らせ」るという情熱が感じられる。

餠切るや嫌いなきもちねばついて   由帆
 「ねばついて」が少し違和感。上五で「切る」としているので、表現したい感情をもっとフォーカスさせてください。

成長も老化も早しお年玉   柏井青史
 川柳に近しい部分もありますが、納得できる部分と様々な読みも可能な部分もあるので、良いと思います。

風船は遊女の唇に触れている   家路紋黄
 一部の句会で、官能的な俳句が流行っていました。掲句はまさしく官能的な俳句であり、またその中にも上品さが漂っています。

ランチする窓に田圃の雪を見て   草子
 作者から「農家レストランです。雪景色と止めれば動詞の重なりを免れるのでしょうが・・・ ドクターの診断を仰ぎたいところです。」とありました。その通りで、「雪景色」でも十分、それを見ながらランチしている風景は表現できます。しかし、大切なのは、作者自身の言語感覚です。掲句が良いと思われているのなら、それが立派なご自身の俳句です。ドクターという立場上、あれこれと指摘はしますが、もっと自分の言葉に自信を持って、楽しく作句してくださいね。

白足袋の見え隠れする老いの艶 戯心
 「艶」としたところが成功しています。「老い」を自虐的ではなく、素敵に詠んでいるところに共感しました。

紅白の梅やつがいの鳥来る   まどん
 作者の方から、「『梅や』か『梅へ』で悩みました。」とありました。「梅へ」の方が、「つがい」の仲の良さが強調されるのではないでしょうか?

嫌はれてなんぼの世間寒鴉   中 十七波
 最近話題となっている書籍に『嫌われる勇気』というものがありますが、そのモチーフでしょうか? どちらにせよ、その覚悟は大切でもありますね。


2017年1月18日

えなみしんさドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 あけましておめでとうございます。ことしは新年から上野鈴本演芸場、永田町の国立演芸場と、落語や漫才で大笑いしました。みなさまともども、明るい年になるよう祈っています。今週は177句からの選。

【十句選】

薺粥食べて三階建の家   伊藤五六歩
 苦しい時は、猫か二階を詠め〜という位に、二階の句はたくさんありますが、「三階建の家」にはドキモを抜かれました。どういう家族構成になっているんだろうか〜、もしかしたら1階は店舗なのかといろいろ想像が膨らみます。ただ、「薺粥食べて」じゃなくても良いワケで、その辺りが課題になるかと思いました。

ぬかるんで成人式の暴れ方   伊藤五六歩
 毎年モンダイになる「荒れた成人式」。「ぬかるんで」の上5が、状況を写生的につかまえた上手い表現でした。下5、「暴れ方」では、「暴れる方法」みたいな意味なので、「暴れぶり」「暴れよう(旧カナなら、暴れやう)」の方がいいように思うのですが、どうでしょう。

帰り花恥ずかしそうに拡声器   幸久
 「恥ずかしそうに拡声器」が、なんでかな〜と気をそそられました。まだ新人のガイドさんなのかな〜、紹介してる内容が恥ずかしいのかな〜など。そのちょっとヘン感が「帰り花」にぴったりです。

小正月そろりと上がる体重計   たいぞう
 小正月は15日。体重増が気になります。「そろり」のオノマトペがユーモラス。

ローソンの前でばったり御慶かな   せいち
 御慶という古い季語がローソンで現代に生き返りました。コンビニの名を詠み込んだ句の見本になる句。

初湯してなぞれる夫の手術跡   紫
 ちょっとと言うより、だいぶ変わった状況です。一緒に入浴してるのでしょうか。あるいは、介護で夫を湯に入れて、抜糸して間もない傷跡をさわっているのでしょうか。初湯と手術跡は、ぶつかり方が大きかったです。

試着して狐の尻尾隠せそう   紅緒
 このまま解釈するとキツネが試着してることになります(笑)。そう取ってもいいし、あるいは自分が隠そうと思って隠せないものを隠すことができるとも詠めます。変身して、今までと違う自分を詠んだユーモラスな句と思いました。

パンケーキくるりと返し四日昼   中 十七波
 二日、三日、四日…。この手の句は「そうだな!!」と感じられるかどうかが勝負。四日だから、お節も、餅もあきたころ、おいしそうでいいんじゃないですか〜!!

凧天に舞いたく候ふ曳きづらる   草子
 「凧天に舞いたく候ふ」と書き言葉で展開し、下5でオチになる。内容、表現とも、正月らしくおめでたい。

重ね着や布教の人の酔いつぶれ   汝火原
 わたしの子供の頃の実体験ですが、近所の良く知ってる人が新興宗教に凝って、何かというと布教にくるのです。真剣さのあまり強気になるが、元々は人のいい気の弱い人なので、こんな風になる、そんな事を思って共感しました。

【次点10句】

猫撫でて二日の酒をなめてゐし   ロミ
 撫でて、なめて、が心地よい。

地球から青い空見て祝月   ロミ
 祝月の季語が効いています。

百キロの先に初富士富士見町   柏井青史
 すでにあるのかと思いますが、「初」ふたつが心地良い。

初夢は目覚まし際に忘れおり   たいぞう
 ジッカンです。ただ、この句もたくさんありそうかな。

物干しの他は青空初景色   せいち
 物干しに真っ白なシーツが干してある、景が気持いいい。

比良比叡うみへ差し込む寒の日矢   みさ
 比良比叡トレイルをググって知りました。崇高な風景。

蓮枯れてぷ〜らぷ〜らとプノンペン   ∞
 「ぷ」の連続と、プノンペンのいきなり感が面白い。

身ひとつにいくつもありぬ初暦   中 十七波
 「身ひとつに」からの表現が巧み。内容も共感。

美しき筆差出人の無き賀状   瑠璃
 「筆 差出人」とあけたらいかが。

洋書読む師の鼻眼鏡淑気満つ   をがはまなぶ
 ひとつの世界が出来ている、と感じました。


2017年1月11日

須山つとむドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 あけまして おめでとう ございます。
 自宅から歩いて能勢の妙見山に登り、初日の出に手を合わせてきました。赤く照らしだされた神域の梢や、見下ろした街の佇まいに、淑気(しゅくき)を感じました。

【十句選】

冬籠ボブ・ディランよりハトサブレー   伊藤五六歩
 古くは『春』『張る』の枕詞にも用いらた『冬籠』。防寒のため家の内に引き籠るのに、ボブ・ディランとハトサブレーで準備は万端。中七『より』で二物を比較するより、断定しては。

二人して落葉蹴りあふランドセル   太郎
 落葉を踏むふわふわ感や乾いた音で、男児にきざす高揚感。蹴ったり、騒いだりしているうち、少年ならではの 深刻な話題にも。肩寄せ合うと,背中のランドセルがぶつかりあった。

玄関に母の水仙受験の日   谷 ゆり
 寒い受験期の朝にいさぎよく、しかも清楚に咲く水仙。試験のことは一切口にしなかった母だったが、今朝もこの香とともに黙って送り出してくれた。それが 母。

さなちゃんのかわいくな〜れ初鏡   せいち
 雑煮椀の後片付けも一段落。やっと化粧台の前に座れたおばあちゃんの鏡に、さなちゃんの幼な姿が出たり、入ったり。化粧した前髪をこの鏡に映すのも、そんなに遠くないのかも。

正月やまごに教わるアッポーペン   たいぞう
 『ペンパイナッポー』で去年の大晦日は閉じた。お年玉を目当てに訪ね来た孫、孫たちの口々から、いきなり『アッポーペン』な挨拶が飛び出した。またかいなー。

かき揚げを汁に浸せり雪もよひ   幸久
 足元から冷え始めた雪もよいの昼。湯気の立ち上るうどん汁に、かき揚げをゆっくり浸す至福の刻。『じゅわ〜』などと、オノマトペの隠し味で、さらに美味そうな天ぷらうどんを。

コーヒーの澱で占う年始め   由帆
 ドリップで、ペーパーフィルターをすり抜けた不純物が澱。独特の香りや愛おしい風味に、普段は気にもかけてない。でも、年新た。カップの底のパターンから、今年の吉凶占いは?

むささびやグランドピアノ生ギター   酒井とも
 山裾にたつ森林のロッジ。グラスを手にハイカーたちが囲む薪ストーブに、ピアノ、ギターの生演奏が似合う。この星空で、今夜はムササビが飛びますよと、山の男が教えてくれた。

大敗のラガーの瞳空まさを   凉木文平
 ハプニング? 想定外の大敗にも、当のラガーメンの表情は意外にさばさばしていた。フィールドからは目を逸らし、天を仰いだどの顔にも、突き刺すような冬青空の青が映えた。

初日の出誰かが缶を捨てに来る   意思
 元旦の日の出を拝むことができるパワースポット。背筋を伸ばし、声をおとし、赤味を帯びた東の空を凝視して待つ。この静寂のなか、缶を捨てて立ち去る男の影法師がよぎった。

【注目した5句】

風花や増やす腸内善玉菌   幸久
 上五『や』で切らず、『風花が増やす』などと、直叙の方が、この句はきっと面白くなる。

雪嶺をぐい〜んと伸ばし新幹線   ∞
 雪国に向かって伸びていく新幹線。雪晴れの日の眩しい車窓を再現する、オノマトペの効果。

気が合ふてペンギンパンダゆきだるま   中 十七波
 とある絵本の表紙だろうか? ありえない景だが、雪だるまに仮想現実を楽しめた。

全員の餅数かぞえ年初め   草子
 三世代同泊での朝の雑煮餅。その数も重さも驚き。下五には『初茜』など、可視的な季語を。

ヴィーナスのエメラルドの髪白菜割る   紅緒
 ザックと、白菜を包丁でタテ切りした快感か。故宮博物院の翠玉白菜の映像が重なる。


2017年1月4日

星野早苗ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 2017年、明けましておめでとうございます。
 皆様のますますのご健吟をお祈りいたします。
 年末、話題の歌集『キリンの子』(鳥居)を読みました。帯文の「美しい花は泥の中に咲く」はちょっと通俗すぎると思いましたが、深刻な内容を詠みながらどこか明るい、静謐な歌集でした。いろいろな事情をかかえた作者が、自分の言葉を獲得しようとする中で短歌に惹かれ、表現手段として短歌形式を選んだことに、 強い必然性と、そこに働く韻文の力を感じました。誰にとっても生きていくだけで精一杯の毎日ですが、俳句や短歌は、とりわけ辺境に生きる一人のためにあるのかもしれませんね。
 さて、今回は145句の中から。

【十句選】

日向ぼこ二度目の話聞き流す   泰作
 旧知の間柄の二人なら、ああ、また始まった、と思いながらも、上手に聞き流すことができる「二度目の話」。その優しさは、長いつきあいの賜物なのでしょう。親子・夫婦・旧友など、さまざまな人間関係を想像して読むことのできる句です。

雪晴れの五箇山咫尺煙立つ   茂
雪が大気の塵を払い、よく晴れた五箇山(ごかやま)が間近に見えたのでしょう。五箇山の合掌造りの家々からは薪を焚く煙が真っ直ぐに上っています。「間近」を表す「咫尺(しせき)」という漢語を用い、険しい自然と対峙する村の風景を重厚に表現した句だと思いました。

火男や渋抜けきらぬ背戸の柿   素秋
 火の番をする手持ちぶさたに、口にする干し柿。渋柿の皮を剥き、戸外に吊して、甘みを充分に含んだはずの干し柿なのに、わずかな渋みが抜けきらずに残っています。その渋みはしかし、背戸(家の裏)の柿ならではの親しいものだったのかもしれません。

起き抜けの障子を洩るる雪明り   今村征一
 障子を開けるまでもなく雪明かりが感じ取れる朝。夜の間降り続いた雪も止み、今朝はまばゆい深雪晴れなのでしょう。障子を開けた途端に眼に飛び込んで来るだろう銀世界を、明るい障子越しに想像させる、雪国ならではの句だと思いました。

息白し思ひの丈といふ長さ   紅緒
 「思ひの丈」は通常「思いのありったけ」の意味で用いられますが、「丈」である以上、思いにも長さがあるはず、と、考えたユニークな句です。思いの丈を打ち明ける人の白息、或いは打ち明けることのできなかった人のため息の長さ。普段は見えない息というものが視覚化される冬にふさわしい句だと思いました。

「でかく書け」と先生の声筆はじめ   柏井青史
 子どものお習字は、大きく元気なことが一番です。「でかく書け」の先生の声も大きく元気に響いています。新年のスタートを切る号砲のような先生の声。それは、毎年繰り返される、懐かしい新年の教室風景だったのかもしれません。

木の葉髪肩に食ひ込むリュックサック   みなと
 木の葉髪の私も、肩にリュックサックを食い込ませ、山行にトライしています。衰えを自覚しつつ客観視する姿勢に、そこはかとないユーモアとペーソスを感じました。しかし、こうやって辿り着いた頂上は、この上ない達成感をもたらしてくれるのでしょう。

懐のわずかにぬくし冬の雨   ∞
 今日は懐がわずかにぬくい。そのことだけで、外は冷たい冬の雨なのですが、この人の心には安心や楽しさがあります。懐がわずかに温いことが、冬の雨の感じ方を180度変えてしまったのでしょう。人間にはそんな単純さ、かわいらしさがありますね。

遺されし私と残る薄氷と   汝火原
 遺された私と残る薄氷は、現時点ではほぼ等しい存在なのでしょう。大切な人に先立たれ、冷え切った心の状態は、いつまでも残る薄氷のようです。けれども、薄氷はいつかは解けるもの、悲しみもまた、と思える句です。

初雀の引き合ふ藁の時針ほど   紫
 刈田で落ち穂を拾う雀が藁を引っ張り合っている愛らしい新春の一コマです。その藁が時針(時計の短針)ほど、と言い留められたところに、寒中を生きる小さな命のめでたさが、より生き生きと際立ちました。

【その他の佳句】

寒卵霊歌流れる厨かな   茂

冬ざれや隣人のはや棲み替はり   中 十七波

冴ゆる日や遠くに山みる山男   勇平

亡妻忌炬燵出す日と決めており   をがはまなぶ