「e船団」のドクターがあなたの俳句を診断したものです。


2017年8月30日

秋月祐一ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 こんにちは。今回が2回目の担当となる秋月祐一です。
 八月十五日をはさんだ募集期間であったため、戦争に関する句が多かったように思います。(その中から2句を選出)
 あと、せっかく「船団」の読者投稿欄なのだから、「船団」っぽい攻めてる感じの句も、積極的に取り上げました。(そういう句は、評を書くのが難しいけど、逃げない方針で)
 150句の中からの十句選です。

【十句選】

ボクサーの肩のくぼみや月の蝕   伊藤五六歩
 首の筋肉と三角筋が盛り上がったボクサーは、たしかに肩の真ん中あたりがくぼんでいるように見えますね。「肩のくぼみ」という把握が力強く、「月の蝕」がボクサーのハングリー精神をも感じさせます。

キャラ弁のつぶらな瞳原爆忌   幸久
 キャラ弁とは、食材をつかってアニメ等のキャラクターを表現したお弁当のこと。「キャラ弁のつぶらな瞳」と「原爆忌」の対比が強烈です。キャラ弁を作り、食べる。そんな平和が続くように、と願いの込められた一句。

海灼くる一瞬鮫のまばたきて   たいぞう
 「鮫(さめ)」には瞬膜という人間ではまぶたに相当するものがあるそうです。「鮫のまばたき」と「海灼くる」がうまく響きあった一句。鮫は冬の季語ですが、この句の場合は「灼く」が主季語になって、夏の句です。

月涼しエレベーターが宙に浮く   けむり
 青白く月がかがやく夏の夜。作者はふと気づいてしまったのです。このエレベーターは、月の動力によって浮かんでいるのだ、と。季語「月涼し」との取合わせによって、日常の光景がマジックのように見えた。そんな一瞬。

セル回すボボボボボあっ終戦日   干寝区礼男
 現代でセルモーターを回すのは、自動車やオートバイでしょうか。戦時中、日本の戦闘機にはセルモーターがなく、手でプロペラを回していた。一方、米軍機には標準装備。作者には、そんな思いもよぎったのかもしれません。

驟雨このシュークリームになるカモメ   さわいかの
 なんとも不思議な句。驟雨が来て、どこかで雨やどりしているカモメの羽を丸めた姿が、シュークリームに見えた、というリアリズム路線の読みも、言葉によって描かれた前衛絵画の、シュールなイメージを楽しむ読みも可能。

地軸より銃声のする夾竹桃   みなと
 「地軸より銃声のする」とはいったい何事? 地軸という言葉の出所が不明だし、そもそも銃声が聞こえるという場面設定が尋常ではありません。でも「夾竹桃」ってまさにそんな感じですよね。作者の力業に納得させられた句です。

水換えて金魚すわんと泳ぐかな   ∞
 「水換え」のときに、金魚をべつの場所に移していたんでしょうね。きれいで酸素の豊富な水槽にもどした金魚が、いったん沈んで、また泳ぎ上がってくる景が、「すわんと」というオノマトペから、自然に浮かんできました。

少年よ酸っぱい夏の雲を追え   瀬紀
 「少年よ」という呼びかけ。「酸っぱい夏の雲」という断定。「追え」という命令形。これらがうまく機能して、作者ならではの夏の情感を伝えることに、成功しているように感じました。とくに「酸っぱい」が効いてますね。

両手上げむかえる蛾これも夜です   黴太
 5・5・7の不思議なリズム。両手を上げて蛾を迎えているのは、虫愛づる姫君のような少女でしょうか。どこか呪術めいた、夜をむかえるための私的な儀式のようにも感じられます。物語の夜がはじまろうとしています。


2017年8月23日

須山つとむドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 自宅にいる日は、決まって昼寝( 午睡、昼寝覚:夏の季語 )をします。ちょうど30分ほどで目が覚め、寝起きの余韻と覚醒がしばらく続く。その後で、近くの低い山に出かけると、山城跡の狭い道で、餌を食む仔ダヌキと出会った。まだ恐れも知らない、きょとんとした瞳。 瞬時に本能に目覚め、背後の藪にすっと消えていった。

【十句選】

夏の鯉濡れ新聞に包みけり   太郎
 何故? 何処へ? と迷った。 そうか! 腕の立つ友人宅に、とれとれの鯉の「包み」と駆け込み、井戸の清水で捌いてもらうのだ。あとに待つのは、言わずと知れた「鯉の洗い」。

初河鹿宿はランプを灯しける   太郎
 今年河も鹿蛙が鳴きましたと、渓流の宿からのお誘い。長駆、宵闇の宿につくと、瀬音に混じって ヒョロ、ヒョロ、ヒヒヒヒと清涼な声。宿にはもう、情趣あるランプに灯が入る。

日焼して島の子のみな同じ顔   たいぞう
 語順や助詞などを微調整することで、さらに面白い句、ドラマ仕立ての句にならないだろうか。例えば:島の子のみな同じ顔日焼けの子。 島の子のみな南向く日焼けの子。 などど。

遠雷や老女の手押し車行く   さちよ
 実景だろう、実に絵になる景色。でも、遠雷・老女・手押し車は、マイナーなイメージで共通している。双子の、ベビーバギーなどと、明るいイメージを斡旋するのは どうだろう。

口中に溶けるのど飴原爆忌   けむり
 口に含んだ深緑色の「のど飴」。漢方の生薬成分が、寝冷えで熱っぽい喉をやさしく包んでくれる。朝刊一面の大見出しで、七十二年前の広島/長崎の悲劇を知り、厳粛な朝となった。

音量を増やすテレビや母の秋   比々き
 何故だろう。虚を衝かれたように、下五『母の秋』が新鮮に聞こえる。往時愛唱したサトーハチローの『秋のかあさん』が、身体に今も染み付いているのだろうか。

腰の位置確かめ担ぐ今年米   椋本望生
 今年収穫できたばかりの玄米。米袋を担ごうとするのは、脱サラ・就農をやっと軌道に乗せた新ファーマーのようだ。家族の見守りを背に、脚・膝・腰のポーズをチェック。慎重に!

新聞紙に活字拾ってぶどう食う   ∞
 露地物の葡萄を八百屋で売っていた頃、房で買うと新聞紙にくるんでくれた。お地蔵の前で、口から皮や種を新聞紙に吐きだしながら摘まんでいると、巨人軍 川上の16の文字が目に。

立ち話黙らせ通る青大将   柏井青史
 昔は、家の近辺で必ず見かけた青大将。怖いが、神のお使いだと一目置かれていた。今の暮らしで、同じシーンを演じられるのは誰だろう。 イタチ? ご近所の「あの」オッチャン?

出目金を追ふて薄紙すぐ破れ   スカーレット
 黒の出目金を追い続ける、白い薄紙。そこに「詩」を見つけた俳人の目。三十句ぐらいを、一気呵成に『殴り書き』すれば、名句がポロッと生まれ落ちます。 やってみませんか ?

【注目した五句】

ビオロンは蜆蝶チェロは揚羽蝶   せいち
 下五『は』を削除すべし。音調の美と、蝶の翅の黒・赤の鮮美さとを、結ぶために。

眠り猫の鼻なでゆける送りまぜ   みさ
 稀有な季語への挑戦に脱帽。時には「ドル金貨」などと、おどけた素材にも挑戦を。

手花火の玉おとしてや小さき闇   伊奈川富真乃
 中七『や』の切れが強く働き、句の前と後が安定を欠く。それで印象が不鮮明に。

台風は通過眼は閉じてシャンプー   黴太
 諧謔の醍醐味が。『シャンプー眼閉をじて』と、語順を逆にした効果を確かめるのも一考。

夏の朝犬の行きたい方へ行く   岡野直樹
 うまく作られた句です。でも、( 独断かもしれないが )どうしても既視感が湧く。


2017年8月16日

星野早苗ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 台風一過、風が心なしか爽やかに感じられます。
 とはいえ、朝からの蝉時雨。皆様、お元気でお過ごしでしょうか。
 七日はこちらも警報が出て家籠もりだったのですが、大雨の中、蝉はいつもにまして大音声で鳴いていました。短い地上生活なので、蝉は台風になど構っていられないのかもしれませんね。
 さて、今回は171句の中から。

【十句選】

夜の秋一合弱の酔い心地   せいち
 暑かった一日が終わり、一合弱のお酒を飲んでほろ酔い気分になりました。昔はもっと飲めたのかもしれませんが、今日はもうこのくらいで……。夜気がほのかに涼しく、秋の気配が感じられる「夜の秋」です。「一合弱」でいただきました。

大阪に参る墓あり盆の月   谷百合乃
 大阪に参るべきお墓があって、作者は今年も墓参に行くつもりなのでしょう。それは、係累、師、恩人、親しかった友人、……いずれにせよ、よそ者としてやって来た街である大阪が、参るべきお墓をもつことで故郷に近い存在になったのだろうと思いました。

なに色と云へぬ風吹く野路の秋   今村征一
 古来、秋の風は白、あるいは「色なき風」と言われます。澄んで透明感の増した風を古人はこう表現したのでしょう。実際に秋の野路を歩いた作者は、「なに色と云へぬ風」と詠みました。それ自体色を持たない風は、しかし、様々な色の秋草の葉や花や穂を揺らしていたのです。

じいちゃんの頭でっかち胡瓜揉み   さわいかの
 おじいちゃんが、孫のために胡瓜揉みを作ってくれているのでしょうか。痩せた体に、しっかりした頭蓋骨が頭でっかちに見えたのです。「じいちゃんの頭でっかち」は、孫の視点で描かれた魅力的なフレーズで、祖父への親愛感に溢れていると思いました。

天の川挟んで写メを交換し   をがはまなぶ
 天の川を間に挟むと、メールで写真を交換する二人の作業も一気に宇宙的な広がりを感じさせます。今では生活の中に完全に定着してしまったメールの交換ですが、そこには牽牛と織女の思いのやりとりもまた、遠く後をひいているのかもしれません。

まだ滝を見ている人を呼び戻す   柏井青史
 ようやく辿り着いた滝は涼しく、いつまでもそこにいたい場所。が、そういうわけにもいかずに声かけあってやっと出発し、しばらく行くと一人足りません。あれほど確かめたのに、まだ滝を見ている人がいたのです。人事を絡めて滝の魅力をうまく表現した句だと思いました。

帯直す時間少々盆踊   中十七波
 盆踊りをリードする踊り手たちは、たいてい一番内側の輪で、踊り続けておられます。そんな方たちのためにしばらく曲を止め、休み時間がとられたのでしょう。それが帯の崩れを直す時間になったというのが面白く、よく見ておられると感心しました。

草刈りの匂ひ纏ひて夫帰る   スカーレット
 丈高く茂った夏草を刈ってきた夫が草の匂いをさせて帰ってきました。刈られた草の鮮烈な匂いは、刈場を遠く離れても消えることはなかったのです。「匂ひ纏ひて」に、夫から離れることのない夏草の匂いが的確に表現されていると思いました。

見目かたち老いてなほ似る瓜の馬   椋本望生
 自分自身が老いてますます親に似てきた、とも考えられますが、お盆に集まった兄弟や姉妹が、老いて互いにますます似てきたのかも知れません。瓜の馬を囲んでいる人たちの親族ならではのよく似た見目かたちは、老いてますます顕著になるのですね。

空蝉に土の匂ひの残る足   まどん
 蝉の幼虫は何年も土の中で暮らし、地上へは土に汚れて出て来ます。しかしいったん殻を破って羽化すれば、死ぬまで土には戻りません。そんな蝉の抜け殻(空蝉)の足の部分に土の匂いが残っていたという発見は、劇的に生活を転換する蝉の不思議な生態を再認識させます。

【その他の佳句】

子供らの手足伸びやかスイカ食ぶ   まゆみ

古里はまだ待つている浮いてこい   たいぞう

百合ひらく月のちからを得て開く   遅足

予備ボタン二つ残して夏終わる   ∞

勾玉に似る天蚕の眠りかな   柏井青史

帰省子の置いて帰りし料理本   比々き

甘言にのるや火のつく生鰯   椋本望生

鶏頭の凡その数を当てにけり   みなと



2017年8月9日

谷さやんドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 毎朝リビングの窓を開けると、次は蝉時雨の鉄壁が待ち受けています。目の前の堀之内の林からの鳴き声です。十年前、この家に引っ越した時は「公害だ!」とおののきました。が、今では、体ごと押し返されるような蝉時雨の圧倒的な響きに、今日を立ち向かう元気と勇気をもらっている気分です。
 そうしてだんだんと声が遠のき、もう目の前に立秋。月日はますます加速して過ぎてゆきます。

【十句選】

誘蛾灯君に恋する吾に似て   蓼科川奈
 「誘蛾灯」は、植田や畑あるいは果樹園などで、害虫を防ぐために灯火で虫を誘い寄せて、水の入った器で溺死させる仕掛け。その仕掛けに、自分が似ているという並々ならぬ恋心を詠んだ句。ただ「恋する吾」というほのかな表現に救われる。いたいけな感じも残る。引き寄せられた君は、溺死しないでおぼれるくらいでとどまっていて欲しい。

俳人が指折つている蛍の夜   たいぞう
 ちょっと、皮肉っぽい句。確かに俳人は、無粋なこところがあるなあと思う。厳かな場面や、沈痛な場面をも俳句にしようとする図々しさを持ってしまいがちかも知れない。自戒を込めて。目の前の蛍を眺めながら指を折っているこの光景も、周りからみると興ざめか。

蝉時雨いまだ無音のアスファルト   善吉
 「無音のアスファルト」という表現に心を掴まれた。アスファルトの無音は当たり前のことなのだが、その無音が蝉時雨と拮抗している感じがする。アスファルトは、アスファルトのままに蝉時雨を受け入れている、といおうか。

氷旗再び立てる雨上がり   酒井とも
 最後の「雨上がり」がいいなと思った。雨が去った明るさに、店の中から持ち出す旗の動きが軽やか。軒の浅い素朴な店構えを想像した。

かなかなや縁先に来る松の影   みさ
 「かなかな」は、蜩(ひぐらし)のこと。この句の場合「蜩や」としないで「かなかなや」としたことで、松の影がくっきりした気がする。「蜩」では、言葉が少し重くなり影が薄まってしまう。松のある家の佇まいへ、残暑の日暮れが訪れた。

端居して河原の石の品定め   草子
 軒先や風通しの良い家の端に涼をとるのが「端居」。私自身は、その経験が思い当たらない。気に入って持ち帰った石を、見つめなおしている。気紛れな、いい光景なだと思う。河原だし、もしかしたら全部捨てしまうことになったかも知れないが。

人寄せつけぬ麦秋の広さかな   柏井青史
 麦秋は、こういう広さとであるとも言えると納得。黄色く熟れた麦畑は、近寄りがたい輝きを放っている。

トンネルの出口が無いの黒揚羽   岡野直樹
 「出口が無いの」と、黒揚羽に助けを求めているともとれるし、トンネルに入ってしまった黒揚羽の嘆きのようにもれる。私は、後者だと思い、思わず笑ってしまった。無事に出口にたどり着けただろうか。

原爆忌の焼香の列蟻の列   雪子
 焼香の人と蟻の列を並列させた、原爆忌。永遠に続きそうな、二つの列である。

ペダル漕ぐ力かそけき眉の月   椋本望生
 この人のペダルを漕ぐ力は、眉の月そのもののかそけさ。励ますような眉の月が凛として美しい。同じ作者の「死を急ぐつもりはないが菊を植う 」にも、惹かれた。


2017年8月2日

久留島元ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 夏到来。
 今回の投句は、158句。沖縄方面へ旅行に行かれたと思しい句がたくさんありました。まさか、この欄のオフ会が、ひそかに行われていたのでしょうか。そこでドクターたちの品定めが行われていたり……うーん、こわい。
 しかし、句評を公開するということは、批判をうけるということも前提です。お互い句のことですから、恨みっこなし。妥当と思えば取り入れて、違和感を覚えたなら、それを大切にして、ご自身の糧にしていただければと思います。
 当欄で示すのはあくまでも一案。句の読みは無限です。

【十句選】

七竈純粋理性色づいて   伊藤五六歩
 理性に色がつくのはいけない気もしますが、ナナカマドのような美しさなら、それはそれでありなのかも。色のない理性、あまり信じられない気もしてきます。

完璧なフェイント金魚逃げる逃げる   抹茶金魚
 敵ながらあっぱれ、というところか。下五の畳みかけがおもしろい。

日盛やはちみついろの牛溶ける   西川由野
 「はちみついろの」なら飴色?の説明にみえますが「はちみついろに」であれば、詩的に広がるような。

なんくるないさープールに大波立てながら   草子
 バタフライの練習でしょうか。くったくない主人公にくらべ、まわりは若干迷惑かも、などと想像するのがたのしい。

返信はですますだけど金魚玉   さわいかの
 メールの付き合いは「ですます」の、距離を置いたつきあい「だけど」実際は、というところで想像の膨らむ句。

ひまわりの浮かぶ海溝午後6時   黴太
 午後6時がいかにも雑。しかし「ひまわり」の明るさは、阪神大震災でも復興のシンボルでした。それが海溝に浮いているという表現は、せつない物語を感じさせます。

サングラス1+1=変な顔   糸代みつ
 サングラスで気取っていながら、写真では安定の変顔。きさくな友人関係でしょうか。

水掻きが時折見える水遊び   紅緒
 水掻きの持ち主を、@人間ととれば、かなり本格的な潜水。A水鳥や動物ととれば、かわいらしく遊ぶ風景。

九州をどげんする気じゃ暴れ梅雨   大川一馬
 時事俳句は、ニュースの切り貼りでおわって、うまくいかないことが多いのですが、今年はまったく「暴れ梅雨」の表現や、方言のざっくばらんな感じがふさわしい。

阪神の負けても伸びてゆくゴーヤ   せいち
 ゴーヤ、ファン心理の理不尽さが楽しい。

【選外佳作】

「月光」をさらつて食べる心太   比々き
 「」がいるかな?と思いましたが、もし月夜の屋外でところてんを食べたら、こんな感じだと思います。

星消えて水兵リーベ兜虫   遠音
 うーん、三つの世界がばらばらなようで、中7の無意味さ(語呂合わせ)で、ちょっと不思議な雰囲気がまとまったように思います。

怒噴水餃子の如く耳折りて   酒井とも
 怒噴水という勢いのある造語の前に、餃子のように耳を折るバカバカしさ。合っているような、外しているような。

「冷蔵庫にチョコがありますばあばより」   せいち
 「毎年よ彼岸の入りに寒いのは 子規」のように、言葉そのものの面白さがあります。しかし、やや語呂が悪く、あと一歩というところ。

浮いて来い二足歩行の日も近し   たいぞう
 浮いてこい(浮き人形)の進化も近いか。

蟻いそぐ急げば足の数増えて   ∞
 単純な見立てですが、表記にも気を使い、うまく形になっていますね。

宵宮や末のいもうと腹違ひ   翠柳
 実際には血のつながりがうすい妹との間の微妙な距離感が、祭りの雰囲気とあいまってやや昭和的な物語を感じさせます。

星くずをシックに着込み額の花   洋平
 星くずをシックに着込み、はおしゃれですが、あでやかな額の花がベストかどうか。

炎天や目で光を呼吸する   干寝 区礼男
 いろいろと挑戦的ではあるものの、自分の言ってみたい表現が先走り、詩ではなく散文になっているような気がします。掲句「目で呼吸」という発見(見立て)が「光を」の説明でやや答えがわかってしまったような、うっとうしさがありました。

文箱よりはみ出す手紙大暑かな   茂
 思い出が顔をのぞかせる、やや暑苦しい夏。

けりつけにちよつとそこまで黒日傘   中 十七波
 けりをつけに? 蹴りつけに? いずれにしても前半はとても潔い、気風の良い感じ、季語「黒日傘」の優雅さでギャップがあるとみるか、効いていないとみるか、微妙。

底紅やかかる性には触れないで   谷 百合乃
 コメントで解説がありましたが、句だけだと「かかる性」がどんなものか見当がつかない。性格を言いたいなら「性格が八百屋お七でシクラメン 京極杞陽」という面白い句があります。

まもなくーまもなくーと夏終電   二百年
 まもなくどこなんだ、というつっこみを入れたい句。なんとなくわかるのですが、「夏終電」というこなれない言葉より「夏電車」(これも一般的ではありませんが)のほうが、のどかで、ぼんやりした雰囲気にあうかもしれません。


2017年7月26日

中居由美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 もくもくと入道雲が湧く空を見上げては、夏本番を感じています。目下の楽しみは「夏野菜」を食べること。夏野菜は素材のままが美味しく料理も簡単です。季語の宝庫でもあります。暑いことは暑いけれど、夏ならではの楽しみを見つけてこの暑さを乗り切りたいと思います。今週も沢山の御投句、ありがとうございました。夏の俳句を詠むことを夏の楽しみに加えて頂けるとうれしいです。

【十句選】

金魚鉢抱えしままの立ち話   けむり
 金魚の世話をしている時に、心安い人が傍に来て立ち話に及んだのだろう。鉢は小さく軽く中の金魚も数匹。抱えられたまま平然と泳ぐ金魚は、見方によってはホラー的だ。

炎天のコンクリ食べるパワーショベル   岡野直樹
 じりじりと照りつける日中もパワーショベルは働き続ける。ぐわっと開いた口がコンクリートを壊す。その凄まじさ。下五のパワーショベルの字余りがいいと思う。

緑蔭にデモ隊いちじ休みをり   眞人
 激しい主張を繰り広げるデモ隊の束の間の休息。緑陰に憩うデモ隊員の表情が和らぎ素朴な素顔をのぞかせる。

葬列の地を這ふてゆく雲の峰   戯心
 白く濃く湧く雲に夏の盛りを感じる季節。湧きのぼる雲は普段よりも空の高さを強調する。黒い葬列はあるいは蟻の行列のように見えたのかもしれない。白と黒、天と地の対比が鮮明だ。

一本の樹と成るここち滝の前   紫
 滝の前に立つと、水の直線の迫力に圧倒されて背筋が伸びる気がする。そんな気分を「一本の樹となるここち」と詠んだ。

川底の真白き石や薄暑光   瑠璃
  川底の白い石がとてもきれいだ。水面も柔らかく輝いている。夏目漱石に「秋の川真白な石を拾いけり」という句がある。川の白い石は俳人の琴線に触れるみたいだ。

尺蠖の空へ空へと伸びてをり   瑠璃
 「空へ空へ」がいいなと思う。体中を使って這う尺蠖には、確かに空に向かって伸びる瞬間がある。

向日葵千本魚眼レンズを埋めつくす   直木葉子
 向日葵畑に立つと、空間が歪んで見えるような錯覚にとらわれる事がある。この不思議な感覚を「魚眼レンズを埋めつくす」と捉えた。

短夜や砂に埋めたる砂時計   幸久
 砂時計の砂は砂に埋められても、砂に戻ることはできない。ガラスの中で永遠に刻が止まってしまうのだろうか。短編小説の一場面のような句。短夜の斡旋がいいと思う。

壁にあるけふの格言蝿叩   中 十七波
 格言を載せた日めくりを、商店街でもらったりするとつい壁に掛けてしまう。なかなかいいことを書いているのだ。しかし、この「いい言葉」も蠅がたかると蠅叩きでバチバチとたたかれる。有り難い格言も形無しである。なんとも可笑しい。


2017年7月19日

内野聖子ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 先々週から先週はじめにかけては毎日のようにスコールのような雨が降り、雷も鳴って天気がとても不安定でした。私の住む地方でも大雨により避難勧告が出され心細い思いをしました。
 この度の九州北部の豪雨災害では多くの方が亡くなられ、未だ連絡の取れない方も多数いらっしゃいます。それらの報道を目にするたびにとても心が痛みます。これ以上の被害が出ないことを切に願うと共に亡くなられた方々のご冥福を心からお祈り申し上げます。

【十句選】

噴水の高さに合わせ談笑す   茂
 噴水が噴き出す高さと声のトーンが上がったり下がったりするのがシンクロしているんでしょうね。噴水に合わせて声のトーンを変えているようで面白いです。

入梅やゴボリと止まる洗濯機   たいぞう
 洗濯が終了したから止まったのか壊れて止まったのか。いずれにせよ「ゴボリ」がきいていると思います。

白南風のぬける紺屋の通り庭   清子
 実際はどちらも目に見えるわけではないけれど、「白」と「紺」の色のコントラストがくっきりと目に浮かぶようで爽やかな句です。

ボール蹴る少女の背中草いきれ   大川一馬
 ボールを蹴るのが少年ではないところがいいですね。蒸れるような夏の熱気の中でボールを蹴る少女は何を思っているのでしょうか。

飛行機に入道雲のアッパーカット   干寝 区礼男
 青空を行く飛行機に大きな入道雲。勢いがあって夏らしい元気な句です。

秘密ならヘクソカズラの花の奥   瀬紀
  「ヘクソカズラ(屁糞葛)」が強烈すぎて、秘密なんてもうどうでもいい気がします。でも秘密の隠し場所としてはぴったりかも知れませんね。この花、見た目はとても可愛いのに、においが残念なのでこの名前がついたようです。この名前ではあんまりだと思われたのか、季語としては「灸花(やいとばな)」で詠まれる事が多いようです。

ビール空け蛍光ペンで描く土星   比々き
 夏の夜のほろよい気分が伝わってきます。「蛍光ペン」が宇宙っぽくていいですね。

さくらんぼ幾つになっても甘えんぼ   紅緒
 リズムがいいですね。単純なんだけど、後に残ります。「幾つになっても」でちょっとクスッと笑えたり。

七夕の願いの重さ笹撓る   スカーレット
 人間って欲張りですねぇ。どれだけいっぱいお願いしているんでしょうか。笹が撓るということは重いということなので、「重さ」を他の表現に変えてみてもいいかもしれませんね。

夕焼の出口はどこも塞がれて   まどん
 夕焼に出口があるという発想がおもしろいです。そしてどこにも逃げられない閉塞感のようなものも夕焼けの赤と相まって強調されています。


2017年7月12日

山本たくやドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 先週の月曜日に29歳になりました。心機一転、今後ともよろしくお願いいたします。

【十句選】

ラブホから6月の風静かだなぁ   黴太
 景はよく分かりません。何故「ラブホ」から「6月」の風がくるのでしょうか。しかし、「ラブホ」の言葉の力か、何となくの気だるさや倦怠感が表現されていると感じました。

ため息を泡にしている金魚かな   ともぞう
 詩的な美しい俳句だと思います。金魚に対する見方も変わりそうです。

汗香る女子の勝者のインタビュー   大川一馬
 「香る」は狙いすぎに感じました。何となく官能的なニュアンスが出てしまうので、「光る」に返るのはどうでしょうか。

夏痩せて赤い鼻緒とライオンと   さわいかの
 下五の「ライオンと」が、いきなりの飛躍ですが、その飛躍の仕方が思い切りがよくて好印象でした。

黴っぽい頭の中の常套句   せいち
 自分にとって得意な表現ってあると思うんですが、使い古した感ってあると思います。そこを「黴っぽい」としたのは面白い。

「あああああ!」万緑の中速度増す   干寝 区礼男
 新幹線や電車の景でしょうか。もしくはバイクか自転車か。どれにしても、「あああああ」に、かぎかっこは不要かと思います。

五月雨地球のおヘソまで流す   岡野直樹
 「おヘソ」が効果的。最近は雨が多く、気分的に憂うつですが、こういう俳句をみると、楽しくなりますね。

水を打つ女将きりりと貝の口   中 十七波
 景がはっきりしていて良いのですが、「きりりと」の「と」が説明っぽくて勿体ないので一考を。

これほどの世話してなほも病むトマト   椋本望生
 「トマト」をそのままに捉えても良いし、擬人化させても良いと思います。どちらにしても、この「トマト」への深い愛情を感じられます。

糠漬けの茄子かと思ふ余生かな   椋本望生
 哀愁の中にも、充実した気持ちが良く表現されています。


2017年7月5日

秋月祐一ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 はじめまして。今週からドクターを務める、秋月祐一と申します。
 短歌を20年くらい書いてきましたが、おととしのお正月に、突然、俳句を書こうと思い立ち、今日にいたります。2015年に第7回「船団賞」を受賞。著書に歌集『迷子のカピバラ』(風媒社)があります。
 季語とその他の物や事象の組合せを、俳句では「取り合わせ」と言いますが、取り合わせによって、季語もその他の要素も、それぞれ新鮮に感じられるような句が好きです。数年前のぼくがそうであったように、短歌その他の、ジャンル外の方からの投稿句も歓迎いたします。お若い俳人のみなさまも、ぜひ。
 今回は191句の中からの十句選です(掲載は投稿順で、順不同)
 プロフィールも掲載されていなかった新米ドクターの担当週に、たくさんのご投稿をありがとうございました。次回以降も、よろしくお願いいたします。

【十句選】

夏風邪や死後も宅急便は来る   伊藤五六歩
 二通りの読みがありうると思います。ひとつは、私が死んだ後にも、注文済みの商品がこの家に届く、というリアル路線。もうひとつは、死後の世界にまで、宅急便は届くシステムになっている、という空想路線。個人的には、後者により魅力を感じました。(季語・夏風邪)

湖の色忽と変はりし夏座敷   太郎
 日差しの変化によって、湖(うみ)の色がさっと変わる瞬間を捉えた句。湖の見える眺めのいい夏座敷には、心ひかれるものがあります。デジタル大辞泉によると、「忽(こつ)」は「数の単位で、1の10万分の1」。「忽と」は「にわかであるさま。突然」の意になります(季語・夏座敷)

楊梅の枝裂けやすしな登りそ   泰作
 楊梅(やまもも)の枝は裂けやすいから登っちゃだめだぞ、と木の上の子どもに呼びかけています。「な登りそ」という古文調なフレーズと「楊梅」の取合わせが、古代から人間はこういう営みをくり返してきたのだろうな、とはるかな時間を想像させてくれます。(季語・楊梅)

冬瓜に産毛 小さく鳴いてみよ   紅緒
 収穫後の冬瓜には、針のような産毛がびっしりと生えているそうです。手袋をしなくては痛くて触れないほどだとか。その野生的なすがたに、植物ではなく動物のような生命力を感じ、思わず「小さく鳴いてみよ」と呼びかけたのでしょう。一字空けは無くてもよいような気がしました。(季語・冬瓜)

ふんにゃりと皮を残して夏の雲   さわいかの
 たとえば、シュークリームのようなモコっとした夏雲が、風に流さるうちに、くずれて、皮だけのような形になってしまった。そんな場面を想像しました。「ふんにゃりと皮を残して」に手ざわり、実感のようなものがあり、そこからシュークリームを連想した次第です。(季語・夏の雲)

万緑の虫歯凸凹させちゃうぞ   さわいかの
 中村草田男の名句「萬緑の中や吾子の歯生え初むる」の吾子が成長して、虫歯になってしまったのでしょうか。「凸凹させちゃうぞ」は、誰が? 何を? が不明ですが、おそらく、作者が虫歯菌の気持ちになったときに生まれたフレーズではないかと。楽しいパロディの一句。(季語・万緑)

かんたんな形の都市のかたつむり   ∞
 抽象化された、直方体の組合せでできた「かんたんな形の都市」(なんとはなしに無人のイメージ)。そこに、美しいらせんの殻を持ち、ぬめぬめと肉感的なかたつむりが、ぽつんと1匹、粘液の跡をのこしながら這ってゆきます。シンプルなことばで、現代的なさびしさを表現。(季語・かたつむり)

出戻りの原因不明トマト食ぶ   ヤチ代
 下五の「トマト食ぶ」で、一気に景が浮かんできました。出戻りの女性が、昼の電気を消したままのうす暗いキッチンで(あるいは、流し場の明かりだけがついた夜のキッチンで)丸のままのトマトにかじりついています。トマトも自宅の畑でとれた青臭くて、味の濃いやつと想像しました。(季語・トマト)

夏痩せて防犯灯に照らさるる   眞人
 防犯灯とは、お役所の定義としては、街路灯のない暗い住宅街などの電柱に設置されたライトのことですが、玄関先などに置かれた、人感センサーに反応して点灯する防犯ライトと取ったほうが、句として面白くなるような気がしました。カッと照らされたときに、夏痩せの思いが募ります。(季語・夏痩)

トムヤムクンスープこぼるる夕焼かな   まどん
 夕焼けの比喩として、トムヤムクンが登場するのを、新鮮に感じました。ココナッツミルクが加わって、ちょっと混沌とした、でも辛そうな赤。そのニュアンスが伝わってきます。「〜のような」「ごとく」などの直喩ではなく、大胆な暗喩の表現が、日没の臨場感を生みました。(季語・夕焼)