「e船団」のドクターがあなたの俳句を診断したものです。


2017年10月25日

秋月祐一ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 この稿が掲載されるのは、衆院選の直後です。開票結果を知り、お一人おひとり、思われたことがあるかと思います。
 それはさておき、猫を飼いはじめました。生後2〜3か月のサビ猫の女の子です。サビ猫というのは、黒と茶がまだらになった雑種猫のこと。地域の動物愛護センターからもらい受けました。
 今週は167句の中からの十句です。

【十句選】

なにゆえの椅子の不揃ひ秋の雨   たいぞう
 「椅子の不揃ひ」の原因を問いかけながら、椅子のことだけではなく、その場に不在の人(たち)のあいだで起きたドラマを想像させる一句。「秋の雨」という季語の印象からは、悲劇ではないと思いたいのですが、いかがでしょうか?

十六夜や躊躇いがちにドビッシィー   谷 百合乃
 言葉のつながり方が面白い。ドビュッシーの「月の光」といえば満月というイメージがありますが、わずかに欠けた十六夜(いざよい)に見ているうちに、「躊躇いがちに」あの曲が頭の中で流れだした、という風に読んでみました。

鳩吹けば生国歩みくるごとし   今村征一
 「鳩吹」は秋の季語。鳩の鳴き声をまねて、両手を合わせて吹き、猟の獲物を呼びよせるなどの意。この句で、生国(を)歩みくるのは何でしょうか? あるいは、生国(が)歩みくるのでしょうか? 想像をさそわれます。

猫百匹対応可能猫じゃらし   紅緒
 飼ってみて分かったのですが、猫は、棒とか紐の先に何かついたおもちゃが、本当に好きですね。あの植物に「猫じゃらし」という名が付いているのも、むべなるかな。「猫百匹対応可能」なのは、どれほど巨大な猫じゃらしなのかと。

発条強き傘干されをり鮭番屋   伍蜂堂
 鮭番屋は、鮭漁のために作られた小屋のこと。そこに発条(ばね)の強い傘が干されていた、としか言っていないのですが、鮭のさかのぼる川の風景や、漁をする人たちのたくましさなど、さまざまなことを感じさせてくれます。

慧可断臂ゴッホ耳削ぎ冬に入る   伍蜂堂
 慧可断臂(えかだんぴ)は、達磨に入門を断られた慧可という僧侶が、意志の固さを示すために、自分の左腕を切り落として、入門を許された故事。「慧可断臂」や「ゴッホ耳削ぎ」という苛烈なイメージを伴いながら、冬がくる。

烏瓜ぶつつけあつてそれつきり   比々き
 幼なじみのふたりが、恋愛を意識して、微妙な感じになり、その後あれこれあったかもしれないけれども、結局うまくいかなかった。そんな人生を、ごく単純な言葉で感じさせてくれる一句。旧仮名の大きな「つ」の多用も効果的。

黒葡萄女座りのかたちして   高木じゅん
 大粒の立派な「黒葡萄」には、高さのような盛り上がりがあって、それを「女座りのかたちして」と直観的に捉えました(この場合は、両脚を片側に寄せる女座りではないかと)肉感的な感じのするこの葡萄、とっても美味しそう。

吃りつつ吾子叱りをり秋簾   鷲津誠次
 「吃りつつ吾子叱りをり」という光景と、季語「秋簾」の取合せが絶妙。「吃りつつ」も効いています。作者は秋簾の内側にいますが、道を歩いていて、簾越しにこんな声が聞こえてくることもありそう、とリアリティを感じました。

月光にドル札透かし両替屋   中 十七波
 ドル札には偽札が多いらしく、見分け方には4つくらいのポイントがあるそうです。そのうちのひとつが、光に透かして、縦に入った線や、肖像の透かしを確認すること。秋の季語「月光」と、どぎつい光景の取合せが印象的です。


2017年10月18日

須山つとむドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 近くの山で、十月のアサギマダラ(季語:秋の蝶)と出会った。斜面を吹き登る気流を、研ぎ澄ました羽根の動きが捉え、秋空に向かって急上昇する。これから、1000キロを超す南への長い「渡り」に備えているのか。色無き風(秋の季語)と優雅に戯れているのか。
 では、皆さまから投句いただいたの秋の句、楽しませていただきます。

【十句選】

地球儀に海と陸ある夜長かな   太郎
 地球儀は持ち合わせませんが、世界と日本の大地図帳を身近に置いて楽しんでいます。『海と陸ある』の措辞が、秋の夜の一家団欒の時間帯をうまく「見える化」して伝えた。

紅葉かつ散るゲルニカの画に見入る   けむり
 季節の流れ、時代の流れ。この『時間』の大、小の取り合わせで、壮大な気宇を感じさせる。動詞の重なりが気にはなるが、『散る』と『見入る』のリフレーンの響きを楽しんだ。

旨さうに秋の夕日を海が呑む   せいち
 身を震わせるようにして、秋の夕陽が水平線に呑み込まれている。グラスに溢れる火酒か、ホットワインか、勝ち誇ったように大海原は目を瞑る。

虫の夜の明り一つを灯しおく   たいぞう
 沈思黙考の時が流れる虫の夜。ふと、輪郭に手触りを感じるアイディアが一つ浮かんだ。もう少し育てるために、虫の音を守るために、卓上の一燈は消さないでおこう。

蟷螂や高倉健の面構え   善吉
 そういえば確かにそうかも、と膝を打つ映画好きの一人。上五に切れ『や』を使わず、『蟷螂は』と断定しても、この句は面白いと思った。

星月夜鳥居の下に町がある   ∞
 記憶やイメージを呼び起こす懐かさ。でも、景がくっきりと結べない もどかしさも。下五を『町あかり』など具体的な景として、実景やファンタジーへと繋ぐのも一考。

売れ筋の山賊むすび神無月   茂
 『山賊むすび』の語感、実在感に圧倒されて、味覚や風景にまで連想が及ぶ。冬の季語「神無月」を好いと思うか、首を傾げるか。でも、間違いなく美味しそう。

母が見え順番を待つ徒競走   中 十七波
 どちらかと言えば、徒競走は得意の種目だ。スタートラインに並んで待つ時、保護者席の母の姿を見た。中腰の母のガッツポーズが。ボク以上に乗っているな、母さん。

自叙伝の介護の項や蓑虫鳴く   紫
 執筆中の自叙伝か、精読中の知人の著述か。老老介護の章に至ってその進捗、ハタと止まった。さっき チ、チ、チ、と聞こえたあの声は『父恋し』と泣く蓑虫の声だったのか。

獺祭忌かつと見開く黄身二つ   椋本望生
 旅先のホテルでとる朝食は、やや非日常の世界。「サニーサイド アップ。ダブルで」とオーダーしたりして。そうか、今日は九月十九日。健啖家 子規さんにあやかるか。

【注目した五句】

どの顔もどの手もはつらつ祭りの子   まゆみ
 指示詞を替え、『あの顔もこの手も』とすると、さらに動きが加わるかもしれない。

黄落の真中をすすむ舳先かな   伊奈川富真乃
 秋風を背に受け、帆船となって黄落の中を進む。身の前へ両手の平を突き出して。

踏み切りの向かふ側より黄落期   ラーラ
 スケールには圧倒。『コンビニ』などの実景が加わると、「とりとめのなさ」は消える。

江戸小紋秋の寺へと一礼す   茂
 粋でしなやかな女将の後ろ姿を連想させる。『秋の寺』が、もしかして無粋?

満月やあの一球を悔やみたる   瑠璃
 満月を雲が過る。アノ痛恨の一球が・・。でも、あっけらかんとした救いが。


2017年10月11日

星野早苗ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 10月、空を見るのが楽しい季節になりましたね。
 皆さん、いかがお過ごしですか?
 4日、今日は十五夜よ〜、ということで、句会帰りの喫茶店でコーヒーと月見団子を注文しました。そこは和菓子屋さんの喫茶店で季節に応じていろいろな和菓子があるのですが、月見団子は「里芋型」。お月見の絵によくある小さな丸い団子ではなく、細長い団子に餡をまいて里芋を模した、関西に多い形です。作りたてで柔らかく、あっさりした漉餡もおいしかったです。月見団子はコーヒーにも合いますね。家に着く頃、月も綺麗に見えました。
 さて、今回は151句の中から。

【十句選】

首塚の先はぬけみち鶏頭花   遅足
 首塚は非業の最期を遂げた人びとの鎮魂のために建てられたものですが、時代とともにそんな歴史の記憶も薄れ、周囲の様子も変わってきます。掲句の場合も、時が移り、首塚の向こうにも田畑が広がって集落ができていたのでしょう。その風景に鶏頭の花がよく合っています。

丁寧におじぎしてゐる草の花   たいぞう
 丁寧にお辞儀をするのは案外難しいものです。掲句は背景が草の花なので格式張った場所ではありません。道で出会って立ち話をした近所の方との別れ際なのではないかと思いました。草の花もお辞儀しているかのように感じられる句ですね。

黍を干す天領加賀野日和かな   今村征一
 天領は、江戸時代の幕府の直轄地。黍は熟すと脱粒が激しく、鳥害も多いので早めに収穫するそうです。加賀野日和というしかない秋晴れの中、天領だった加賀野の黍を干す作業が晴れやかです。黍という雑穀を主役にしたところがよいと思いました。

雨がちの九月子猫のカレンダー   干寝 区礼男
 今年の9月は残暑厳しく、曇りや雨の日も多かったですね。雨がちの鬱陶しい日々、毎日眺めるカレンダーの写真の子猫に慰められたのでしょう。雨空を見上げた目を部屋に戻してカレンダーの子猫へ。視線の流れが自然な句です。

雨冷えの十三階で手術待つ   眞人
 最近の病院は高層の建物が増えてきました。高い病室の窓から、空や街の風景を広々と見渡せます。しかし、今日は雨で肌寒い。そんな天候の中で手術を待つぼんやりとした不安感が、よく伝わってくる句です。

ドアマンの深深と礼柳散る   直木葉子
 制服を着たドアマンが、深々と礼をしています。そのプロフェッショナルな礼はホテルの格式に裏打ちされたもので、背景に柳が散るのも印象的な光景です。新たな旅先に向かうにせよ、日常に戻るにせよ、旅人にとってドアマンの礼は、人生のひとくぎりとなるのでしょう。

門口を少し離れて芋水車   瑠璃
 水の豊かな日本には、水路を巡らせた町や村がたくさんありますね。芋水車は、小さな水車の中に里芋を入れて回し、面倒な皮むきを水車に任せる、昔ながらの生活の知恵です。のんびりと明るい村の秋の日を感じました。

秋冷や古着を売りて買ふ古着   比々き
 バザーでしょうか、古着専門店でしょうか。断捨離のつもりで、かなりの枚数を持ち込んだのではないかと思いました。けれども、そこで目にとまった一着をまた、買って帰ってきてしまったのですね。あーあと溜息の聞こえてきそうな句です。

恐竜の折り紙しかと立つ夜長   紅緒
  折り紙は古い遊びですが、新しい折り方も次々考案されています。動物シリーズ、昆虫シリーズなど本にもなっていますが、最近は恐竜シリーズもあるのでしょう。折り方の図を参照し、試行錯誤を繰り返してやっと出来上がった恐竜。「しかと立つ」に苦労のほどが偲ばれます。

かまつかの色を深めて腕木門   みさ
 腕木門(うでぎもん)は現代も使われている門の形式ですが、古い武家屋敷の門ではないでしょうか。かまつかは葉鶏頭。赤や黄や紫に色を深めたかまつかと屋根のある古風な門の取り合わせがいいと思いました。

【その他の佳句】

鰯焼く母の呼ぶこゑ父のこゑ   たいぞう

それからの長き話のあと秋思   けむり

鐘楼の下に部屋ありちちろ虫   柏井青史

虫の音や田毎の色の異なりし   太郎

詠みながら暮らせることも露の秋   今村征一

海鳴りの一夜の窓の秋灯   茂

一粒がたっぷりの湖ぶどう食む   紅緒

十六夜や笛一管をたづさへて   みさ

帽目深釦きちんと案山子かな   瑠璃



2017年10月4日

谷さやんドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 今日は、10月4日。十五夜です。曇りの予報が出ていましたが、各地の皆さんは名月を仰ぐことが出来るでしょうか。
 私は俳句仲間と一緒に、内子町の上芳賀邸の庭で見ます。上芳賀の木蝋資料館は、製蝋業者だった上芳我家の邸宅です。「江戸時代地場産業と住宅の関わりを示す貴重な遺構」だそうです。今夜はその庭で、津軽三味線のライブもあるとのこと。月と三味線のコラボが楽しみです。そして、白壁の夜の内子の街並みを歩くことを思うだけでも心が満たされていく気がします。
 月天心貧しき町を通りけり  蕪村
 あ、内子は貧しい町ではないですよ。

【十句選】

入れ替はり来る秋の蝶あらし晴る   抹茶金魚
 嵐と入れ代わるように、秋の蝶が現れた。秋の蝶のために、嵐が場所を明け渡したようにも思えてくる。調べが凸凹している感じが意外に効いていると思う。「秋の蝶」と「あらし」の頭韻も。

故郷の闇懐かしき遠花火   けむり
 「故郷」ではなく「故郷の闇」が懐かしいという。遠くで聞こえる花火の音に、ぼんやりと思い出す闇。俳句ではタブーに近い言葉「懐かしい」が嫌味なく、心にとどく。同じ作者の「赤とんぼ動かぬものに百度石」もいいと思った。赤とんぼの繊細な動きと百度石の対比がいい。

安来へとうねる旧道曼珠沙華   今村征一
 うねる旧道すなわち、うねる曼殊沙華の道だ。民謡安来節の「安来(やすぎ)」は大抵の人が知っている地名。曼殊沙華の道を抜けると日本海が望めるだろうか。行って見たいなあ。

台風や車窓に喰う雨のジャブ   善吉
 「車窓に喰らう雨のジャブ」は臨場感がある。雨がこの車窓を狙っているようだ。ハンドルを握る人の緊張感も伝わる。ただ「台風」だと、そのフレーズの力が弱まる気がする。わかりやすくなってしまう。そこで、例えば「秋の暮」としてみると、雨による心理的な闇も深まる気がする。場所でもいいかも知れない。さらに句が良くなる季語がある気がする。

宴果て広間の老妓西鶴忌   ラーラ
 宴が終わった老年の芸妓さんにスポットを当てた俳句。この道一筋にきた一人の女性の、人生の物語りが始まりそうな「西鶴忌」だ。

淋しくて野菊は絮になるつもり   せいち
 野菊は絮になれると思っているのだろうか。どこか切ない気持ちになった。可憐な日々を過ぎて、野菊はそこで枯れていくのに。

夜長の灯引き寄せ刺子さしにけり   みさ
 それぞれの長き夜が始まる季節。刺子をさす人も。一刺し一刺しして模様を作っていく。だから、灯を「引き寄せ」にリアリティがある。選句に挑んでいる夜長もある。

イヤなモノはイヤと言いたい案山子かな   幸久
 何がイヤなのか、案山子の気持ちになって考えてみる。帽子がイヤなのか、この衣装か。場所?。真っすぐ上げている両手を下ろしたいのか。案山子ではない私たちは、イヤなものはイヤと言える。言おうと思えば。

爽やかな9秒台や歯の白さ   大川一馬
 日本人初の9秒台を出した桐生祥秀さんのこと、だと今ならすぐ想像できる。最後に置いた「歯の白さ」が、いかにもさわやか。
 「爽やかな」だと9秒台そのものが爽やか、ということになろう。「爽やかに」とすると9秒台を出したことが爽やかになる。「出した」が省略される形になると思うが、私なら「に」の方にしたい。

掃除婦の糸瓜くゆらす中休み   比々き
 糸瓜の情景がいいなと思った。糸瓜棚のある庭を掃除していたのだろう。「くゆらす」ことで、糸瓜の大きさ重み、辺りの空気も感じることが出来る。しばしの中休みを糸瓜と親しむ掃除夫に、親しみが湧く。


2017年9月27日

久留島元ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 5月に「船団」の大先輩である内田美紗さんの俳句と、森山大道さんとのコラボ写真集『鉄砲百合の射程距離』(月曜社)が刊行されました。
 また、8月には『天の川銀河発電所 Born after 1968現代俳句ガイドブック』(左右社)というアンソロジーが刊行され、編者の佐藤文香さんは刊行記念イベントで歌人や歌手らと渡り合っています。関西でも10月8日梅田蔦屋書店でイベントが予定されています。
 テレビでは夏井いつき氏率いる芸能人俳句集団が人気、いろいろなジャンルと混じり合う、賑やかな俳句シーンが生まれつつあるようです。
 今回は157句の投句がありました。まずは今週の十句から。

【十句選】

秋の日の点滴の孔があをい   たいぞう
 字足らず、自由律の句。点滴の孔をみつめたことはありませんが、深まり行く秋のなかで孔を「あをい」と感じる作者の不安が際立ちます。

3000年さきの秋空君がいる   白川黴太
 僕と君の関係から遠い過去や未来の運命を感じ取る、アニメ映画などに近い感覚です。同世代であれば類想が多い可能性もありますが、若い世代の感覚を切り取った句として評価できます。

爽やかに風立つ断層日和かな   善吉
 秋の行楽、「断層日和」という言葉が素敵です。「爽やかに」という秋風を感じさせる季語があれば「風立つ」は不要に思えました。

鰯雲母のリズムと共に行く   茂
 単純な句ですが、何も説明せず「母のリズム」でゆったりとした時間を感じさせる佳句。余計な説明や教訓めいた理屈がまったくついていないところがよくできています。

西鶴忌サンカイカケテカイカンサ   さわいかの
 後半は回文ですね、意味はよく分かりませんが言葉を自在に使った西鶴にふさわしいかも。

さりながら農家の嫁や菜虫とる   伊奈川富真乃
 中七下五はありふれた農家の風景であり、表現も当たり前ですが、「さりながら」と大仰な接続詞で前後を感じさせたところが手柄。

枝豆とあの日の君は飛んでった   せいち
 ビールを飲みながらの昔話でしょうか、そして君はどこへ行ってしまったのか。さみしいようなおかしいような、ちょっとおもしろい世界。

マンモグラフィー終えて秋日の少女像   直木葉子
 「秋日」は「あきひ」で読ませるのでしょうか、少し語呂が気になりますが検査を終えた自分と少女の対比(なぜ銅像ってたいてい裸なのでしょうか)、うまくできていると思います。

ヨーグルトくちふくむ朝露のよに   干寝 区礼男
 「のよに」、は「世」か「〜のように」なのか、「ヨーグルト朝露のよにくちふくむ」のほうが語呂がいいのでは、などいろいろ考えましたが、ヨーグルトと朝露を取り合わせた優雅さが素敵。

秋霖や部屋めぐらせるプラレール   スカーレット
 「部屋めぐらせる」はやや変で「部屋にめぐらす」「部屋いっぱいに」などの代案を考えつきましたが、それはともかく情景が目に浮かびます。持ち主は少年なのか、少年の心を忘れない中年男性か。

【選外佳作】

秋袷もっとも遠き縁(えにし)かな   五六歩
 もっとも遠い縁とは何か。着物の情景とあわせて、やや艶っぽい。

ユダの魂熟れゐたるなり葡萄園   伊奈川富真乃
 インパクトの強い句でしたが、「ユダ」は、文学では意外と使いやすい固有名詞で、抜きんでた句とは言いにくいかも。

らぶらぶの糸瓜ますますらぶらぶに   中 十七波
 ぶらぶら、をひっくりかえしただけですが、たちまち仲よく並ぶ大きな糸瓜が見えてきます。

近眼の店主に似たる金魚かな   抹茶金魚
 楽しい一句。

応仁の乱まで二分草の花   ∞
 往昔の開戦を想像しているのか、戦場跡めぐりの最中なのか。応仁の乱はとても長い戦いなのであまりイメージには合わないかも。

とんぼとぶとうちゃんとまるぼくころぶ   ロミ
 小学生の絵日記を模したような句。

ゼロと零のちがひを述べよ明月よ   比々き
 内容の理屈っぽさ、「〜を〜せよ」が散文調で語呂が気になりますが、「明月よ」の呼びかけなど、表現が面白い。

ブーメラン投ぐ対岸の芋煮会   紫
 こちらは「投ぐ」の終止形で切れ一人ブーメランを投げる姿、対岸でにぎやかな芋煮会。うーん、川縁の光景として分かるような分からないような。

秋蝶の行ったり来たり縺れたり   みなと
稲光りショートケーキが倒さるる   ジョルジュ
 よくできた形ながら、類想がたくさんありそう。

ペンギンは空の高さを知らず寝る   意思
 これも類想はありそう、と思いながら最後は「寝る」のふてくされた感じがちょっと楽しい。


2017年9月20日

中居由美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 読書の秋、スポーツの秋ですね。
 今年は、子規・漱石生誕150年記念の年。松山でも様々なイベントが行われています。もっともこの秋、愛媛国体が開催されるため、どちらかというと町全体は国体ムード。愛媛県のマスコットの「みきゃん」や「ダークみきゃん」が宣伝に大活躍しています。私も、「みきゃん」のロゴマークの入ったポロシャツとシャツを買いました。
 子規・漱石のイベントとしては、坪内稔典先生の「正岡子規」特別講座や、小西昭夫さんの講座「愛媛の俳人たち」に参加させて頂いています。
 個人的には、漱石の小説を読み直してみようと決め、毎日少しずつ(新聞小説くらいの分量)をコツコツと読んでいます。なかなか進まないのが玉にキズですが、これもまた、楽しい日課のひとつとなっています。

【十句選】

秋風や紙飛行機が雲に乗る   けむり
 青空に向かって紙飛行機が飛んでいる。見ている人の視線が上向きで、その開放感が心地良い。「風に乗る」では当たり前だが、「雲に乗る」で句に立体感が生まれた。

天高し大豆を箸で取る競技   せいち
 晴れ渡った秋晴れの下で繰り広げられる運動会の様子だろう。昭和の気配が漂い懐かしい。町内運動会なら今でもありそう。天と地の対比、大と小の対比が面白い。

秋めきて水をはみ出す河馬の尻   たいぞう
 風景のたたずまいに秋を感じている作者。「秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」という和歌の優美に対し、河馬の尻で対抗。しかも水をはみ出すくらいだからかなり大きい。愉快な一句。

栗飯に選ぶ大粒七つほど   みさ
 栗ご飯が美味しそう。栗を丹念に選び皮を剥ぎ、渋皮を取る。栗飯を作るには手間がかかるが、その手間があってこそ美味しさも増すというもの。七つという具体性がいいと思った。

着信歴残して逝けり鳳仙花   天野幸光
 スマホやケイタイ電話では、着信履歴が残りとても便利だが、逝ってしまった大切な人の履歴を何かの拍子に見つけた時の切なさ。鳳仙花が効いている。

ボタ山の上は公園天の川   眞人
 石炭などの採掘時に発生する捨石の集積場がボタ山。近代文明が捨て去ったものの上には公園があり、静かな時間が流れている。労るようにかかる天の川が美しい。

榠櫨の実の辺り空気のでこぼこす   紫
 大きく、いびつな楕円の形を言い得て妙。「空気でこぼこ」がいいな、と思う。生では食べられず、カリン酒等に用いられ薬効がある。見かけは悪いが、良い香りを放ち、人の役に立つ榠櫨の実の無器用さが愛おしい。

晩夏光ときどき猫になってみる   ∞
 猫になってみたい、と思うのはどんな季節だろう。晩夏もそんな頃か。吹く風やゆく雲に秋の気配を感じ取る猫のしなやかさ。猫と一体化した作者。

うろこ雲届きそうなり故郷に   瀬紀
 うろこ雲が、青い空遠くまで群れ広がっている。この雲は故郷まで続いている気がして、郷愁を覚えた秋の日。淡々と詠んで地味だが、味わいがある。作為のない清々しさに惹かれた。

天河原溢れて島の星の砂   紅緒
 天河原は、沖縄の言葉で天の川(てぃんがーら)という(作者注)。「てぃんがーら」の後に中7、下5をつけて声に出して読んでみる。響きが大らかで心地良い。ア行が続くことで開放感が出たのだろう。天の川からこぼれた落ちた砂が綺麗だ。


2017年9月13日

内野聖子ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 まだまだ昼間の残暑は厳しいですが、夜に窓を開けていると毎晩のように虫たちの大合唱が聞こえてきます。毎年のことですが、夏が終わって秋の気配を感じると心底しみじみとした気持ちになります。秋に自分の「人生の秋」を重ねているのかもしれません。
 今週もたくさんの投句をありがとうございました。

【十句選】

息つめて眉引く今朝の涼しさよ   まゆみ
 夏の暑い時期に眉を描くのは手抜きになりがちだけれど、少し涼しくなってきたら自然と丁寧に描いている気がします。何気ない日常から季節を感じられる句ですね。

口あけて眠る女や遠花火   ラーラ
 情景がありありと目に浮かんできます。遠景と近景の対比がくっきりとしていて印象的です。

蒸す揚ぐる炒むる煮込む暑気払い   伍蜂堂
 暑い時こそ熱い料理を食べた方が元気になる気がします。湯気が立ちそうな動詞の羅列が効いています。

暗黒や蚊と話せん美味そうか   干寝 区礼男
 暗闇の中で知らないうちに蚊に刺されていたり、眠ろうとしている時に蚊の羽音で邪魔されたりすることって多いですよね。ユーモアの感じられる句です。

砂時計ふっとからっぽ夜の秋   紅緒
 突然虚無感に襲われる瞬間が砂時計の状態で表されていますが、夏の終わりの寂しさとよく合っていると思います。

ヘ音記号みたいな夜なのに鈴虫   黴太
 ヘ音記号みたいな夜ってどんな夜なんだろう。発想が新鮮です。そして「なのに」ってことは鈴虫とは対極にあるんでしょうね。

花火待つ闇こそ主役二人いて   瀬紀
 花火そのものより、花火があがる前の暗闇が大切という着目点が良いです。下五が説明的なのでもう一工夫するともっと素敵になると思います。

小鳥くるコンビニばかり増える町   比々き
 私の住む町でも秋になると小鳥のさえずりが聞こえてきて賑やかになります。そして近距離にコンビニエンスストアが何軒もできると、経営が成り立つのかと余計な心配をしてしまいます。町の様子が変わって小鳥も戸惑っているかもしれませんね。

大バッタ我らが行く手阻むかな   スカーレット
 「蟷螂の斧」を連想しました。「大バッタ」が何かのメタファーになっているともとれます。

油蝉死して千年眠りそう   意思
 長い年月をかけて生まれてきても1週間しか生きられない蝉ですが、その後は千年眠りそうだという発想が面白いです。


2017年9月6日

山本たくやドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 朝晩はすっかり涼しくなり、クーラーの使用頻度も減ってきました。秋を感じつつ、俳句を作っていきたいですね。

【十句選】

はやる客乗せて釣り船天高し   いつせつ
 釣りが好きな人にとって、船での釣りは格別なのでしょう。その楽しむぞっといった気持ちが、天高しでよく表れています。

夏草の匂い小学三年生   二百年
 若々しく微笑ましい一句です。しかし、「小学三年生」と限定する必要があるのか疑問です。

夏帽子似合ふと言はれ鳥になる   けむり
 嬉しさがとても楽しげに表現されています。とても好感の持てる一句でした。

うすごろも隙ありさうでなささうで   素秋
 「うすごろも」、確かにそういう存在。特にこの時期は、あってほしいけど、ちょっと暑くて不要にも感じる。それを「隙」としたことが面白い。

ゆきあひの朝や色よい返事あり   谷 百合乃
 爽やかさのある一句。できれば「色よい」を別の言葉で表現できたら、より良かったと思います。

占星の運気よき日の西瓜かな   柏井青史
 とても微笑ましい光景。きっとこの西瓜は普段以上に美味しいはず。

停電をよろこんでゐる天の川   比々き
 皮肉さがある中にも、なるほどとも感じます。「よろこ」ぶがあからさまな表現なので、別の言葉で表現させてください。もっと俳句らしくなります。

父の服父の帽子の案山子かな   瑠璃
 田舎でよく見かける風景。のどかさを感じます。できればどんな服や帽子なのかを表現してください。

高きもの無き田園や稲光   瑠璃
 1枚の風景画のようですね。稲光が激しくなっている感じがよく表れています。

虫の音の止むまで起きていようかな   スカーレット
 気持ちの良い気候になってきました。涼しさを感じながら虫の音を聴くのは実に気分が良いでしょう。