「e船団」のドクターがあなたの俳句を診断したものです。


2018年2月28日

内野聖子ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 2月ももう終わりますね。三寒四温とはよく言ったもので、まだ寒い日もありますが、着実に季節は春に向かっていると感じられる今日この頃です。投句の中にも春の訪れを詠んだ明るいものが多くて、読ませて頂きながら私も何だか明るい気持ちになりました。
 今週は207句からの十句選です。たくさんの投句ありがとうございました。

【十句選】

春浅し空白目立つカレンダー   洋平
 二月頃だとまだあまり一年間の予定が立っていないから、カレンダーにも書き込まれていませんよね。それを寂しいと感じるか、まだ予定を色々入れられると思ってわくわくするかは人それぞれでしょうか。

セーターの袖に陶土のまま駅へ   日根美恵
 日常の一コマを切り取って詠んだ句ですね。うっかり土をつけたまま出かけてしまったことに気づいて慌てる様子が想像できて微笑ましいです。

結婚の因数分解春の星   直木葉子
 良いことも悪いこともそれぞれにあって、それをかけ合わせて結婚生活は成り立っているんでしょうね。「結婚」と「因数分解」という一見何の関わりもないような言葉が合わさって新鮮でした。「春の星」だから何か良いことがあったように思えます。

二人して溶け出してひと冬終われ   干寝区礼男
 散文調でなんとも不思議な世界です。熱い二人が溶け出すと寒い冬も終わるのでしょう。

べんちゃらを言いに紋白蝶が来た   せいち
 ひらひらと舞う紋白蝶がまるでご機嫌伺いにきたようでユーモアの感じられる句です。

啓蟄や旅行パンフ開きては   みなと
 寒さの中にもどこか春の気配を感じると旅に出たくなりますよね。でも諸事情により実現するのがなかなか難しいこともあって、せめてパンフレットを眺めてはやる気持ちを抑えているのでしょう。私は旅行を特集した月刊誌をよく眺めては満足しています。

春光や長く伸びたる犬の舌   じゃすみん
 暖かくなって気温が上がってきたことが、犬の舌から感じられます。着目点がいいですね。

恋猫よ間違いはどこにでもある   マチ ワラタ
 思わず同意すると同時にクスッと笑ってしまいました。切なげに鳴く猫に諭すように語りかける口調が面白いです。

春立つや亡妻メール消去する   をがはまなぶ
 切ないですね…。幾度かの逡巡の末に春の訪れに背中を押されたのでしょうか。

受付に七色のペン春立ちぬ   紅緒
 レインボーカラーのペンが春の訪れに浮き立つ心を表しています。もしかしたらずっと受付には七色のペンがあったのかも知れないけれど、立春になって気づいたのかも。

【ひとこと】

雛売場売約済のひとつあり   まどん
 「漢字ばかりで重いので、(中略)『雛うりば』と平仮名でもいいのでしょうか」とお尋ねがありました。私は漢字でいいと思います。どうしても漢字が並んで気になるようでしたら、送り仮名を入れてみるのはいかがでしょうか。

【気になった句】

宇宙船春三日月を越え行けり   まゆみ

厨水ひかり放ちし春の朝   弁天

春昼の一日一句余白埋む   たいぞう

墓に挿す花の色ます彼岸かな   眞人

早春の静止画像が動き出す   瀬紀

無き筈の尻尾の痒き炬燵かな   白石明男



2018年2月21日

山本たくやドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 今月からプライベートでバンドを組むことになり、ちょこちょこライブをやっていきます。音楽も俳句も、ジャンルが違えど表現する難しさを感じさせます。私はドクターという立場ですが、皆さんと一緒に俳句を頑張りたいと思います。
 それでは今週の十句です。

【十句選】

冴返るオイル染みこむ軍手かな   輝久
 「冴返る」という凛とした空気感のなかで、「オイルの染み」た「軍手」のドロッとした感覚の対比。皮膚感覚がはっきり違う取り合わせが絶妙でした。

定位置に座りし我や冬座敷   太郎
 きっと、恋人か結婚した相手に虐げられて、「定位置」しか座らされていないんですね。分かりますよ。この「定位置」が隅っこなら良し。座ってるのが、さえない旦那ならさらに良し。

よくもまぁ日毎の事件春寒し   市川七三子
 「事件」や「春寒し」の言葉が思いが、上五に「よくもまあ」と持ってきたことで全体が軽くなっている。大阪のおばちゃんが井戸端会議で他人事のように喋ってる感じが面白い。

右半身より崩れゆく雪だるま   短夜の月
 「右半身より崩れゆく」にドキッとさせられる。最終的には「雪だるま」に行き着くが、人間や生きるものの命の儚さがバックボーンに感じられる。

耳で飼ふピアスの鳥も春に入る   短夜の月
 鳥のピアスをつけることを「耳で飼ふ」と発想したことが秀逸。

泥に降る雪の白きや無垢の色   谷 百合乃
 惜しい一句。「泥」と「雪」の対比が色彩として良いのですが、「白き」や「無垢」が要素として重複しています。切れ字の「や」でしっかり切っているので、思いきった発想を取り合わせてはどうでしょう?

這い這いに二足歩行の春隣る   たいぞう
 「ハイハイ」を「這い這い」としたところが、赤ちゃんではなく老人の介護のように感じられました。表記の面白さがあります。

母洗ふヘルパーの手は皸て   風子
 「母洗ふ」とあるので、介護の俳句かと思いきや、「ヘルパーの手」とあり、介護している側を客観的にみている俳句。その視点からみた俳句はあまり見ないので斬新でした。季語の「皸」もよく効いている。

卒業歌通ひつづけた無人駅   中 十七波
 「無人駅」を持ってきた所が、情緒があって良いですね。最後の下校時に、通い続けた駅で歌った「卒業歌」をくちずさんでいるのでしょう。

立春のサイズの違ふ指輪かな   彩楓
 婚約が決まったカップルの様子が感じられます。「立春」がその微笑ましさをよく表現できている。

【気になった句】

遅き春芥川賞おらも読む   大川一馬
 このあいだ発表があった芥川賞のことでしょう。これはこれで良いと思いますが、時事ネタの要素が多いと作品として風化しやすいので注意しましょう。

このひとはこの雪の中たつたひとり   風子
 作者の方から、「代名詞で連想の巾が広がりすぎて分かりにくくなるでしょうか。」という質問がありました。「連想の巾」は良く言い過ぎで、悪く言えば抽象的過ぎます。具体的に想像できるのが「雪」だけなので、もう少し映像的要素が必要でしょう。


2018年2月14日

秋月祐一ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 昨年秋の転居いらい、リアル句会に参加しづらくなりましたが、年が明けてから2つのメール句会に参加させていただくようになり、作句に励みがついてきました。本欄をお読みくださっている皆様も、作句のための好環境に恵まれますように。ご健詠をお祈りいたします。今週は205句の中からの十句選です。

【十句選】

エアギター未来のイヴに春の雷   五六歩
 「未来のイヴ」は、次の人類の最初の女性と読んでみました。「春の雷」が轟いているのは、イヴの誕生を言祝いでいるのかも。壮大なイメージとエアギターの取合せが巧いと思いました。

血縁の次第に薄くみぞれ鍋   茂
 歳を重ねるにつれて、鍋を囲む人たちの顔ぶれも変わってゆくんですね。この血縁の薄い人たちとの食事が、どうか楽しいひとときであらんことを!「みぞれ鍋」との取合せも絶妙だと思います。

狐火を見たといふ子の狐顔   たいぞう
 「狐顔」とは、狸顔・狐顔といった顔の造作のことか。狐に化かされたような表情や様子のことか。それとも、その子は人ではなく狐なのでは……とさまざまに想像をかきたてられた一句です。

どの瘤が吾の車かや雪を掘る   風子
 全国各地で大雪が続いていますが、この句は自家用車が雪に埋もれてしまっています。自然の猛威と、雪国の人々の暮らしを感じさせる一句。「瘤」という語が巧みで、実感が伝わってきました。

一羽ゐる一羽の鴨に見られてゐる   ぬらりひょん
 一羽の鴨がいるな、と思って何気なく見ていたら、鴨からも見られていることに気づき、動揺する。そんな瞬間を切り取った句。「見られてゐる」六音に、作者のおたおた感が。

先生は修理中三寒四温   たぶん
 常識的には、先生が何かを修理中なんだろうけど、先生そのものが修理中と捉えることも可能。もしかして先生はロボットなのでは!?「三寒四温」も急にデジタルな把握の仕方に思えてきます。

年の豆表札出さぬ二人かな   みなと
 「表札を出さぬ二人」がどこか謎めいていて、想像を誘います。事情はともかくとして、ひっそりと暮らしているご家庭が、節分の豆まきでわずかに華やぐ。その微妙な変化を捉えました。

立春や皿の餃子の八ヶ岳   をがはまなぶ
 登山仲間の飲み会を想像しました。お皿の上に山盛りの餃子は「八ヶ岳」のごとくエッジが立っていて、いかにも美味しそう。「立春」に登山シーズンを待ちのぞむ気持ちが感じられます。

体温を持つ者嫌う落椿   晶
 〈私〉が嫌う「体温を持つ者」は、同時に、最も愛する者なのではないかと。寒気の中、ひえびえとした肌をもつ植物への心寄せには、どこかBL的な感性を感じました(的外れだったら、ごめんなさい)

春の夜のマンボウとあるお品書き   まどん
 足が早いため、ほとんど流通には乗りませんが、じつはマンボウ食べられるんですよね。知らないと、思わず、ぎょっとしそうな光景。旅先の居酒屋さんでの一齣かな、と想像しました。


2018年2月7日

須山つとむドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 寒波襲来ですね。
 厳しい寒さに見舞われたこの冬。でも、春隣(はるどなり:晩冬の季語)。剪定しておいたモミジの枝に、メジロがやってくる。細い枝の切り口に溢れ出た、澄んだ一滴を目敏く見つけ、啄ばみ始める。アクロバティックな採餌のポーズ。飛び去った後、試しに指先で舐めると、『メープルシロップ』の仄かな甘さが。

【十句選】

朝市の砥石みづ吸ふ余寒かな   伊奈川富真乃
 『水温む』にはまだ少し間はあるが、朝市にもぼつぼつお客が寄りはじめてきた。得意の包丁捌きで客足を止める。その下拵えに、そろそろ取り掛かるとするか。

お揃いのマフラーをしてハイタッチ   万季
 描写された素材は僅かなのに、冬晴れの日の景を色々と連想させる楽しさが。お揃いのマフラーの色はどんな色? カップルは誰とどなたの組み合わせ? など、など。

着ぶくれし男の歌ふ「神田川」   たいぞう
 すり減った石鹸が、手の中でカタカタと鳴る。道路橋から黒い流れを見下ろす神田川。着膨れた男の、どっぷりの昭和のシーン。川面には冬月光が似合いそう。

春よ来よ大きスリッパ履いた子に   せいち
 大人たちが使っている物なら、何にでも手を出したい年頃のミヨちゃん。早く大きくおなり。今が、まさに人生の待春の時期。『大きスリッパ』が見事に言い止めた。

甕の底残滓ひかりて余寒かな   谷 百合乃
 語順は適切だろうか? 『残滓』は必要だろうか? 季語はベストだろうか?   再考して、是非『秀句』に育てあげてほしい句。< 甕の底に光るものあり遅き春 > など。

百両も千万両も雪の中   今村征一
 降り積もった雪の日の庭。造化の妙に驚き、手には届かぬ願望などが去来する。中七『千万両』は概念的でイメージが薄弱。『千両箱』などと、具体物で表現する工夫を。

母生きてゐれば百歳寒卵   直木葉子
 淡々とした静けさの中に 冴え を聞き取った句。『音(おん)』には色彩があり『ア行の音』は晴れやかさ、めでたさを感じさせると聞いたことがある。この句、ア行の音が八つ。

春隣口に蕩ける和三盆   スカーレット
 和菓子の銘菓には落雁など、打菓子が多い。立てた前歯で、ピクッと折り割るあの手応え。そして、口中にジワっと蕩(とろ)ける至福の時間は、まさに春隣の愉悦。

口笛の合図をおくる初湯かな   中 十七波
 帰郷し、大家族と過ごすお正月。長女と入浴したイクメンのパパ、湯上りを妻に告げるのに、いつも通りの愛称では、どうしても口にはばかる。 エイ! 得意の、口笛で。

病棟の囲む日溜り寒雀   戯心
 この寒さ、この降雪、心許無い採餌・・・。 だが、僕には天与の特技、『ふくら雀』の変身術が。薬品臭さえパスすれば、ここは天国、日溜まり楽園。

【注目した五句】

雪しんしん言葉がワッと口を突く   まゆみ
 会話が途切れた静寂に、戸外の雪の深さを知った。フト、高揚感。ワット叫びたい衝動が。

水飴の中へ足出すひなたぼこ   藤井美琴
 瓶の透明な水飴に屈曲する二本の割箸。この景に、日向ぼこの男の脚を見たシュールさ。

眠ることなき鏡を使ひ初鏡   白石明男
 動詞が重なり、『使ひ』は削除したい。< 眠らずに待っているのか初鏡 >など、飛躍を。

一斗缶に炙る手と手や雪起し   紫
 横腹に釘穴を開けた一斗缶。人なら、誰とだって仲間になれた、よき昭和の時代。

銀座流に髪結ひ上げて雪女   雪子
 波状に襲う今年の寒波。雪女だって、銀座のセレブの髪型で決め、闊歩したい。


2018年1月31日

星野早苗ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 寒波襲来ですね。
 そのさなか、住吉さんに行って来ました。住吉さんへのチンチン電車(阪堺電車)は車輌が一新され、色も様々、ラッピングカーも交じって、今もチンチン電車と呼んでいいのかと迷うほどです。
 鳥居を潜り、大きな太鼓橋を渡って境内へ。
   以前お正月に行ったときは延々と屋台が並んで大変な人出でしたが、松の内も過ぎるとさすがに人もまばらです。けれども、お参りの人たちはお辞儀の角度も深く、真剣でした。多分、職業上の安全を祈る人たちなのだと思います。寒さの中も日差しは明るく、赤ちゃんのお宮参りも三組見ました。

 さて、今回は、165句の中から。

【十句選】

火の山へ従ふ山や冬菫   太郎
 火の山は火山。擬人法で描かれていますが、火山とその周囲の山々のむつみ合う景色が、神話的に描けていると思いました。作者の視点を小さな冬菫に持ってきたところがいいと思います。

大根のわづかを干せり母の家   たいぞう
 一人になった母が作る畑の作物は、年々少なくなってきたのでしょう。けれども、母の家を訪れたとき、真っ先に目に入った干し大根には、健やかな母の生活が窺えたのではないでしょうか。大根の「わづか」に注目したところに子の思いも感じられます。

新任の教師を狙ひ雪礫   今村征一
 雪合戦は子どもにとっては冬一番の面白い遊びですね。狙う相手は誰でもいいのですが、掲句の子どもは新任教師を選びました。元気で活発な子なのでしょう。先生にも本気で相手をしてほしいのです。そっけない口ぶりですが、その先生と仲良くなりたい子どもの気持ちが伝わります。

神主は校長先生どんど焚く   中 十七波
 どんど焼きに参加した子どもたちには、神主さんの扮装で現れた校長先生にさぞやびっくりしたことでしょう。校長先生は、神主を兼任しておられたのですね。学校と地域が一つになった素朴な村の雰囲気が、子どもの視点でうまく描けていると思いました。

音すべて神に預けし冬の滝   紅緒
 あれほど轟いていた滝音の消えた静けさ。凍て滝を消えた音に絞って表現したところがいいと思いました。滝音の消えた厳寒の山の静けさは、神の領域にあるのかもしれませんね。

ポンポン山跳ねて確かむ春隣   市川七三子
 京都市と高槻市の間にあるポンポン山は見晴らしが良く、ハイカーに人気の山です。中に空洞があり勢いよく踏むとポンポン音がする、という謂われのある山ですが、本当かしら、と確かめてみたのですね。「跳ねて」の楽しさに、春隣の季語がよく効いていると思いました。

寒涛の退くが如くに世を去りぬ   大川一馬
 寒涛は厳しい冬の波ですが、決して荒れているわけではないのでしょう。寄せた波がひくのは、当たり前のことなのですが、春、夏、秋、の季節を経て最後に巡ってくるのが冬の波だと考えると、その退き際には、人生の様々な季節を乗り越えてきた方の大往生が思われました。

雪積んであらぬところの裏比叡   ∞
 一夜に降り積んだ雪に、辺りの景色が一変したのでしょう。雪に覆い隠された景色の中でも、比叡山はやっぱり目をひいたのですね。京都市側から見る比叡山に対して、滋賀県側から見る比叡山を裏比叡と言うようです。琵琶湖を取り囲む山々を眺める、雪の朝の楽しさが感じられました。(「の」は、「に」の方がよいかもしれません)

しやんと伸ぶ寝起きの背筋水温む   戯心
 朝の目覚めを詠んだ句は多いと思うのですが、起き上がった後の「寝起きの背筋」を詠まれたところがいいと思いました。春の日差しの明るさをいう平凡を避けて、「水温む」もよく合っていると思います。人間の体内の水も自然と呼応しているに違いありません。

大寒や夫婦喧嘩も懷かしく   をがはまなぶ
 大寒に懐かしく思い出すのが、夫婦喧嘩だというのです。今年の寒波に対抗するためには、甘やかな優しい思い出だけでは足りないのでしょう。恋人から夫婦になったから夫婦喧嘩もするのですが、喧嘩相手は、頼もしく懐かしい、かけがえのない存在だったのだと思います。

【その他の佳句】

笹鳴きや一病に知る人の恩   まゆみ

初騎(はつのり)や駱駝で駆ける胡人俑   日根美恵

霜柱ところどころに空気穴   スカーレット

オルゴール流すマスクの灯油売り   比々き

大寒の廊下駆けゆくドッジの子   鷲津誠次

そろそろてふ丈になりたる菜花かな   紫



2018年1月24日

谷さやんドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 2018年の幕があいて、いただいた沢山の投句を前にすると、私も句作に張り切らくてはと意欲がわいてきました。ぼやっとしてました。
 毎回のことですが、十句を選びきるのはやはり迷いが出ます。あと三句くらいになって絞るのが難しくなるのです。今回、心惹かれながらも迷い落とした俳句も載せてみました。理由も添えて。
 なお、選んだ十句またその他も投句順です。

【十句選】

目的地履歴を消去冬銀河   千あき
 カーナビだろう。その度ごとに探した目的地の、溜まっていた履歴を思い切って消したのだ。私は車の運転ができないので、たまに友人が運転席で設定するのを見るのみだが。
 出発前、冬の夜の銀河のもとで消去を思い切れたのだろう。「消去」という事務的というか冷たい言葉につづく「冬銀河」の広がりが効果的。

大阪に朝の雪降るカフエオーレ   たいぞう
 大阪のきれいな空気に触れた気がした。「降る」が不要かとも思ったが、カフェオ-レへと繋いでいく流れが良いと思い直した。

うずくまるうずくまる冬うずくまる   干寝区礼男
 冬そのものが、だんだんとうずくまる。そんなふうに思えた句。「冬」がどこかでうずくまっていると思うと、見つけ出して傍に居てあげたくもなる。

血は濃くて単純楪を飾る   藤井美琴
 楪は「ゆずりは」と読むが、古い葉が落ちて大きな葉に世代を譲るさまが縁起がいいので、正月飾りに用いられる。正月には二世代、三世代が集う。その中には、嫁や婿など血の繋がっていない者もいる。濃い血のあとの「単純」に、どうしようもない「血」への思いが端的に出ていると思う。気持が良いくらいに。

千々石ミゲルいち抜けて穴のあく双六   マチ ワラタ
 千々石ミゲル(ちぢわみげる)は、1582年に天正遣欧少年使節としてローマへ派遣された少年の一人で、のちにただ一人棄教したという。この絵双六は、だから一抜けて穴が開いたのだ。

シーツ干す四日や手形引落し   紫
 最後の「手形引落し」って…。正月気分もそこそこな心地。これは切実だ。でも、シーツはちゃんと干しているのがえらいと思う。

牡蠣フライ今度はたっぷりマヨネーズ   ポンタロウ
 今回の特選にしたい一句。大好きなカキフライを楽しんでいる様子がありありと。最初は、ポン酢かソースかでいただいて、そうと決めていたのだろう「今度はたっぷりマヨネーズ」。タルタルもいいけど、私もマヨネーズ試してみよう。

犬の待つスーパーのそと日脚伸ぶ   眞人
 「犬の待つスーパーのそと」の、素朴な述べようがいい。季語「日脚伸ぶ」の合っていると思った。

気嵐やのほほんとして揚げ煙管   みなと
 気嵐は「けあらし」と読む。気象用語では蒸気霧と言い、主に北日本の冬に発生するという。「揚げ煙管」は、キセルの雁首を上の方に向けて持つこと。また気嵐か、というような余裕の姿の対比が良かった。のほほんもよく効いている。たぶんお年寄りだ。

山眠る中には起きてる奴もいる   岡野直樹
 私の住む愛媛県松山市内は、雪が少ない。降っても積もらない。それでも今年の冬の窓には、遠くに雪を冠って眠る山が見える。この句、先に言ったもの勝ちな気がしないでもない。やられた!と思った。「奴」がいい。山への親しみがこもっていて。

【以下、立ち止まった句】

国会前デモる新宿駅みぞる   五六歩
 「デモる」「みぞる」は面白かった。地方の人間で申し訳ないことに、国会前と新宿駅の位置関係がどうなんだと思ってしまった。

冬いちご大人かもしれない小犬   紅緒
 中七下五は納得。例えば「大人かもしれない小犬冬いちご」とするのとどっちが良いだろうか。

サヨクでもウヨクでもなき海鼠かな   けむり
 海鼠ならきっとこう言う。納得しすぎて、何処かに類句がなければいいがと思って迷った。

デスマスク見てきた夜の大冬木   せいち
 デスマスクの衝撃が大冬木に出ていると思う。ただ「大冬木(おおふゆぎ)」がどうも馴染まないと思った。

テトリスのブロックはまる小春かな   幸久
 「テトリスのブロックはまる」は好きだった。がちっとはまった手ごたえが伝わる。「小春かな」の気分がわかりすぎるかなと思った。

人日のまだ穢れなき喫煙所   鷲津誠次
 「穢れなき」が言い過ぎか。穢れていないと感じた喫煙所の中の様子とか窓ガラスの感じを伝えて欲しい気がした。

解いてみるセンター試験日向ぼこ   白石明男
初夢や突然栃木弁になる   白石明男

 白石さん、どこか拍子抜けしている句柄が好きでした。褒めてます。

振袖を椅子に並べて初相撲   比々き
 振袖を着る前に相撲ですね。「並べて」と流しているのが気になった。

雪の日の人形(フィギュア)のやうな恋人たち   二百年
 なるほど、と思いました。そんなふうに思えてもきました。が、人形にフィギュアと振るのはムリがあるかとも。

【質問がありました】

花馬酔木池のしじまに浄瑠璃寺   市川七三子
 「花馬酔木は季語では春(3〜4月)と解説ですが実際には、その時期だはなくても現実には咲いていました。この場合、観たものを、冬の時期ですが使っても差支えないでしょうか?初心者です。ご指導ください。」とのこと。もちろん構わないです。ただ、投句すれば春の季語として選句されます。句に関して申し上げれば「しじまに」ではなく「しじまの」とするとよりきれいに映ると思います。


2018年1月17日

久留島元ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 寒中お見舞い申しあげます。お正月気分も終わり、殊の外寒い日が続いていますが、今年もよろしくお願いします。
 新年早々、155句の投句がありました。十句選には選びませんでしたが、常連の方でこんな句がありました。
  終はらないしりとり遊び去年今年  中十七波
 よくできていますが、「咳の子のなぞなぞ遊びきりもなや 中村汀女」という先行句と似た発想になっています。
  夫とは程々が良し屠蘇交はす   スカーレット
 同様に「屠蘇散や夫は他人なので好き 池田澄子」という句があります。どちらも、それぞれの作家を代表する有名句ですし、「類想」でパロディでもないと思い、とれませんでした。
 類想かどうかの判断は人それぞれで難しいところですが、わかりやすい例もあります。
  城下町除夕の鐘の響きけり   酒井とも
 近所への配慮から除夜の鐘ではなく除夕の鐘を突いているという時事ネタですが、「城下町」と「鐘」ではあまりに古典的で、月並。時事ネタは、特に多くの人が共有できる情報だけに月並を脱するのが難しく、おすすめできません。
 さらに、
  熟寝してつかむ初夢の尻尾   抹茶金魚
  初夢の尻尾あたりで起こさるる   眞人
という句もありました。ご覧の通り「初夢の尻尾」という言い回しが同じです。句会ではときどき起こりますが、自分のオリジナルと思った表現が、実は複数の人の思いつく表現だったという例。このふたつなら、抹茶金魚さんの「熟寝(うまい)してつかむ」のほうに、やや古い表現とともに落語のような情緒を感じますが、いさぎよく捨ててしまったほうがいいかも。
 さて、前置きはこのくらいにして、十句選にえらんだのは、そのなかで個性を感じた句です。

【十句選】

手袋から生えて出ている木村君   岡野直樹
 手袋から人間が生えてくる、そんな馬鹿な、という不条理な世界をつくりだすのも言葉の世界ならでは。「木村君」と親しげですが、どんな人なのでしょうか。

さて五日来るか来ないか子狐め   ロミ
 五日とは正月五日のこと。「子狐め」が唐突でわかりにくいですが、最近では仕事始めだったり授業開始だったり、どちらかと言えば来て欲しくないような「五日」が可愛らしく感じられます。

単調なことが好きです落椿   谷 百合乃
 落ち椿というと劇的に落ちてしまう印象ですが、あえて「単調が好き」と言い切ることで、自然の摂理としてさまざまな事件を飲みこんでしまうような懐の深さを感じました。

寒に入る河馬の目玉の向かうより   椋本望生
 抽象的な季節が具体的な一点から始まる、という形は俳句の成功パターンのひとつですが、河馬の見つめる先? というのはなかなか意味深。

人日の鼻を出たがる鼻毛かな   せいち
 正月気分も抜けようかという七日だから、鼻毛みずから外へ出ようとしているという、のんき極まる句。

月凍おり透明な螺子回すかな   干寝区礼男
 送り仮名「お」はいらないのでは? ともかく、大時代的なロマンを感じました。同じ作者「大掃除とくだいの屁をはなつ朝」は一転して俳諧ですが、狙いがわかりやすすぎたか。

限界集落小道の御慶かな   みなと
 集落の小道で、御慶を述べあっているのでしょう。深刻な時事用語ですが、あえて古い、おめでたい季語をあわせると何とも言えず味があります。

初夢の蛇がぬるりと富士を巻く   中 十七波
 初夢に富士はめでたいですが、蛇とくると不気味な感じ。あえてフロイト的解釈が入り込みやすいだけになおさら。

ゴミ出しの往路復路や松の内   酒井とも
 新年最初のゴミ出しでしょうか、重量感を考えると「往路復路」がなかなか味わい深い。

黒豆の皺かたくなに好きであり   茂
 この人は黒豆の皺が好きなのか、黒豆の皺を見ながらかたくなに愛を語っているのか。そのこだわりは俳句的かも。

【選外佳作】

大量のポインセチアが消えた街   マチ ワラタ
 実は単純な理由があるのかも知れませんが、この句だけ見せられるととても不吉な謎があり、ミステリの雰囲気。

三つ目の窓を開ければあれ、枯野   ∞
 窓の外に枯野の広がる意外感が、口語で軽やかに詠まれています。数字にこだわった連作でしたが、どこの窓かわからないのが不気味でもあり、物足りなくもあり。場所のヒントがあれば景がみえ、より俳句らしさが増したかも知れません。「「月光」旅館/開けても開けてもドアがある 高柳重信」も想起します。

初夢や父と和解の舟を漕ぐ   けむり
 小説ではおなじみとも言えるテーマですが、父と子の葛藤の物語を想像させる、不思議な句。

御慶申す脚立の上の守衛かな   鷲津誠次
 守衛さんの、律儀なような横着なような態度が、ふだんの人間関係を感じさせていい感じ。

福笑い同じ訛りの嫁と孫   草子
 自分とは違う訛りの「嫁と孫」、一歩間違えると嫁姑問題に発展しそう。

三が日ゾーン30深閑と   大川一馬
 「ゾーン30」、時速30q制限の区域をしめすとのことですが、これが句のなかでどこまで伝わるか。せめて交通用語とわかるヒントとして「車しずしずゾーン30三が日」とでもすべきか。

牡蠣割女のゴム手袋は潮の色   市川七三子
 上五の字余り、仕事熱心な漁業関係者の素朴さが出ていて捨て難いのですが、全体としてはやや説明的で、絵はがきのような印象。

傷跡の残る机や枯木星   太郎
 机と星、ロマンチックな素材をとりそろえましたが、枯木星の木のイメージは机と近いかも。

喉もとを過ぐるも至難大白鳥   紅緒
 喉もとを「過ぐる」のが至難なのか「過ごさせる」のが至難なのか。文語体で助詞「を」は使いづらいようにも思います。

無難とはなんとつまらん福笑   比々き
 取り合わせらしい句ですが、考えてみると「福笑」で「つまらない」のは当たり前かも。


2018年1月10日

中居由美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 新しい年が始まりました。10日ともなると日常が戻ってきています。
 年末年始には、実家の菩提寺で除夜の鐘を撞きました。この寺は、平安時代に別当大師によって建てられたと伝えられています。除夜の鐘は、年男、年女が撞くということで、声をかけて頂きました。お寺の娘さんとは、幼馴染みなのです。順番に撞かれていく鐘の音の余韻がじ〜んと体にしみていきます。満月に近い冬の月が、手を伸ばせば届くほど近くで輝いていました。

【十句選】

水仙の香り一間を膨らます   まゆみ
 水仙は、姿も美しいが、なんといってもその香りがよい。春の到来を感じる人も多いのではなかろうか。馥郁とした香りに満ちた部屋を「一間を膨らます」と表現した感受性が素敵だ。

お正月わたしは古い接続詞   干寝 区礼男
 「私は古い接続詞」がいいと思う。去年と今年を繋ぐもの(時間?空間?)を接続詞だというのだ。しかもそれは自分自身であり、古いと捉える。発想が面白いと思った。

赤多くつかい母への賀状書く   藤井美琴
 年老いたお母様への心遣い。少しでも華やいで欲しくて赤を添える。多めに赤を添える。元気を出してという祈りを込めて。正岡子規も赤が好きだったそうです。

柚子泛べアルキメデスもパスカルも   素秋
 素秋さんは、柚子湯に浸かりながら、こんな素敵な句をものにした。アルキメデスやパスカルの登場に意外性があった。「テルマエ・ロマエ」ではないけれど時空を超えていろいろなものが同化している。

ガイア・ICAN・キャンドル・坩堝・牡丹雪   けむり
 しりとりで単語を繋いでいる。関係性のない単語も配列の美しさがあるようだ。読む人によっていろいろな世界が出現するだろう。

待春の赤い長ぐつ花時計   中 十七波
 童謡「春よこい」をふと思い出した。時は平成の末。「赤い鼻緒のじょじょ」ではなく「赤い長ぐつ」だ。花時計の傍らに立つ幼い女の子。春を待つ心には普遍性がある。

スコップで落す氷柱や山晴るる   紫
 スコップで落とすくらいだから、氷柱の太さ、長さが自ずと想像できる。また作者の立ち位置も想像できる。山の澄んだ空気とキラキラ光る氷片が目に浮かぶようだ。

笠智衆の眼差しになる初湯かな   をがはまなぶ
 笠智衆は、小津 安二郎の作品でおなじみの俳優。映画「男はつらいよ」でも御前様役で存在感を示している。いい湯に浸かるとあんな柔らかな眼差しになるだろうな。ましてや初湯ともなれば。

日銀の地下の金庫や去年今年   眞人
 「日銀」「地下の金庫」と硬くて実務的な言葉と、「去年今年」という直接目に見えない事象の取り合わせが、効果的に働いていると思う。

蓮枯るる複雑骨折したるごと   眞人
 うまいなあ。その上ユーモアたっぷり。見方によっては、シュールな光景だ。観察の目がよく利いている一句だと思う。


2018年1月3日

内野聖子ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 明けましておめでとうございます。
 昨年一年間大変お世話になりました。皆様の句を拝見させて頂くことで私もとても勉強になりました。
 今年も頑張りますのでどうぞ宜しくお願い致します。

【十句選】

おでん酒イヴモンタンの歌が好き   太郎
 渋い取り合わせですね。冬の夜にしみじみと飲んでいる光景が目に浮かびます。

冬銀河地上に人は消え失せて   B生
 圧倒的な星を目にするとそこに自分も飲み込まれてしまって、地上には何も存在しないような気持ちになりますね。山口県の秋吉台で冬に見える星空はとにかく「凄い!」らしいです。星がとても近くに見えて言葉を失うほどだそう。私もぜひ見たいんですが、寒さに耐えられるかどうかにかかっています。

パソコンのデータぶっとぶ実千両   市川七三子
 「ぶっとぶ」に衝撃の大きさが表れています。千両との関わりが実はよくわからなかったのですが、それでもインパクトのある句です。

年の瀬や何にでも効くオロナイン   たいぞう
 私の亡父はオロナインを万能薬だと思っていたふしがあり、これさえ塗っておけば大丈夫だとよく言っていたのを思い出しました。年末には日頃しないような雑事を色々するので、怪我もあるかも知れませんね。そんな時にとりあえずオロナイン塗っとけ!みたいな感じでしょうか。ユーモアが感じられます。

時折は折れることあり大根も   谷 百合乃
 大根のようにしっかり見えるものでも簡単に折れてしまうこともあるんですよね。これは人にも言えることだと思います。色んな意味に取れる句だと思います。

降りる人無き停車場の冬菫   茂
 ひっそりと咲く可憐な冬の菫と無人の停車場の寂しい風景が何とも言えないです。着目点がいいですね。

冬満月やんわりすっきり恋捨てる   瀬紀
 こんなふうに「やんわり」と、でも「すっきり」と恋も終われたらいいなぁと思います。そして冬の満月はどことなく冷たいけれどとても美しいです。

寒風やデッドヒートの襷来る   瑠璃
 冬の風物詩、駅伝の様子でしょうか。競っていると見ているこちらまで力が入ります。寒風をものともせず、選手も応援も熱くなりますね。

遊園地冬菫ごと売りに出す   比々き
 閉園した遊園地に冬菫が精一杯咲いている様子が浮かんできます。寂しく悲しい光景なんだろうけれど、「冬菫ごと」売りに出ている、という表現にユーモアが感じられます。

ラッピングバス尻揺らし行く聖夜かな   みなと
 最近ラッピングバスが増えてきましたね。「尻揺らし行く」という擬人化が面白いです。クリスマスで少し浮かれた街の様子にバスも便乗したのかな。

【ひとこと】

失念の漢字聞ききき賀状書   草子
 「聞ききき」と「賀状書」の表記それぞれについてのご質問がありました。「聞ききき」が「何度も聞く(聞き聞き)」という意味ならば、「聞きつつ」でも良いのではないかと私は思います。また、「賀状書」の送り仮名に関しては「賀状書き」のままでも良いと思いますが如何でしょうか。