「e船団」のドクターがあなたの俳句を診断したものです。


2018年8月29日

久留島元ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 今年は本当に台風が次々とやってきます。八月が終わり、ようやく秋めいてきましたが、これから二百十日、二百二十日と台風が多い季節が来ると思うと気持ちが休まりません。
 さて、今回はやや少なめ145句。
 いつもざっと二十句くらいを選抜しますが、最初に除くのは「〜〜だから○○(した)」という理屈っぽい句、一つの季語で説明できてしまう句。これでだいたい、三分の一くらいになってしまいます。理屈の句を除外するのは、俳句ではなく散文的だから、人生訓のような類想におちいりやすいから、などの理由。季語で説明できる句は、季語がふたつ以上ある季重なりになっていたり、句全体が別の季語ひとつで言い換えられるものだったり、要するに俳句として十七音を充分に活かせていないから。もちろん例外はありますが、二点は俳句作りの初歩。同時に作り慣れていても入り込みやすい悪手のパターンです。お互い様で、気をつけていきたいものです。

【十句選】

にはとりの気性覚えて夏終る   たいぞう
 一夏の思い出が、「にわとりの気性を覚えた」だけだった、という不遇感。ほかの句も帰省した「故郷」なのになじめないという微妙な心情がにじんで、興味深かった。

土砂崩れ跡のあちこち」帰省かな   吉井流水
 豪雨災害はどこでも起こるという意識が大切だとか。表記に誤植?がありますが、帰省した故郷に「土砂崩れ痕のあちこち」ある傷みが言いすぎでなく伝わります。かなの切れ字は賛否分かれるところかも。

夕立は一方的にされるキス   干寝 区礼男
 ゲリラ豪雨となった近年の夕立を、大胆なキスシーンと見立てた見事な句。あまりに乱暴だけど、被虐的な喜びも?

空蝉の家はどこかと少年は   瀬紀
 空蝉の家って考えたことがなかったですね。「少年は」の止めはややあいまいで、据わりが悪い。

今日もまた翡翠に会ふイタチ川   スカーレット
 これは固有名詞「イタチ川」が効いていますね。全国にある地名のようですが、いかにも地元の呼び方という気がします。

冷酒や誰もが少し嘘をつき   せいち
 ことわざめかした言い回しながら、これはこれで人生の一コマ。

包丁を存分に研ぐ涼しかり   洋平
 「涼しかり」という言い回しがベストか、秋と金属をとりあわせるのはつきすぎか、など少し悩みましたが、秋冷のなか包丁を「存分に研ぐ」爽快感はばっちり決まっていますね。

この空の雲怖ろしや敗戦日   みなと
 敗戦日で「怖ろし」はつきすぎともいえますが、思いを馳せてのことでしょう。空爆が止んだ日、価値観の一変した日。

噴水の嘘ばっかり言っている   さわいかの
 中六で音が足りず、ちょっと戸惑いました。推敲して音をそろえるか、いっそ「嘘ばっかり言っている噴水」と一行詩のようにしてしまうか。ともかく、噴水のような勢いで嘘をつく人、困ったものです。笑える嘘ならいいのですが。

くしゃみして視界ぼやりと稲の花   青海也緒
 「ぼやりと」の「と」がうるさい。上五が「〜して」だからなおさら、説明的な感じがします。「ぼんやり」だけで充分、くしゃみで目がかすんだというだけのことが「稲の花」の豊かさで、おかしくなります。「くしゃみ」は冬の季語ですが、ここは稲の花を優先しましょう。

【選外】

聞き上手まづ枝豆を前に置き   伊奈川富真乃
 「冷や酒や誰もが少し嘘をつき」と似た、すこしことわざめいた句。枝豆を前に置いて長丁場にそなえているのでしょうか、情景が浮かびます。

元迷子熟練工の友と一献   笹泉
 「元迷子」の表記は「もと迷子」がいいですね、人間は誰でも迷子だった、のかも。

風涼し夜の庭木にあらいぐま   銀雨
 あらいぐま、意表を突かれましたが、確かに町中で出没情報がありますね。「風涼し」いから秋だから「夜の庭木」に、という流れは説明的、「夜の秋庭木にあらいぐま来たり」、ぐらいでしょうか。もうすこし推敲の余地有り。

さよなら夏さよなら海の見える駅   ぬらりひょん
 とても悩みました。まず六七五の破調。次に季語「夏」に、「海」や、それにともなう郷愁はふくまれているのでは、ということ。そのためか、あまり俳句的ではない印象もあります。口語短歌の一部と考えると、後半にまだ展開がありそう。ある意味で問題句です。

騙し船の尻尾掴んだ入道雲   瀬紀
 折り紙でしょうか、入道雲、といわれると雲が擬人化されたようでちょっと理屈っぽいかも。

するすると耳垢取れて秋に入る   せいち
 初秋のさわやかさと、耳垢がとれる感覚、いいなあ。でも「するする」がベストかどうか。

来賓の挨拶長き花火かな   有瀬こうこ
 「花火かな」が気になります。挨拶の間、花火はどこで鳴っているのだろう。これだと眼前にみえる花火の存在感があります。「遠花火」とすれば音だけ聞こえる感じ、花火の始まる前なら「花火会」とすべきか。

似たところありて親しき赤まんま   百合乃
 過去に似た発想の句があったと思います。花との親しみを感じる点はいいのですが、どこが「似たところ」なのか、具体的、些末な部分の描写にこだわったほうが、俳句として強みが出ます。

意味もなく輪ゴムを飛ばす原爆忌   けむり
 「原爆忌」に対する「輪ゴムを飛ばす」はなかなか微妙なとりあわせですが、「意味もなく」と重ねてしまうとかえって嘘くさい。どこを狙うかとか、もっと無意味にいきましょう。


2018年8月22日

中居由美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 豪雨と水害、それに続く猛暑、各地で多くの被害が出た厳しい夏でした。被害に遭われた方々が一日も早く日常の生活に戻れますように、お祈り申し上げます。
 一昨日の早朝、開けたままの窓から涼しい風がやって来て、思わず肌掛け布団を引き寄せました。暦の上ではすでに秋。空の色や日差しにも、少しずつ秋を感じることが多くなりました。
 季節が行ったり戻ったりの頃、私の場合、俳句が浮かび易くなります。楽しい時も、苦しいい時も、俳句をそっと傍においていたいと思います。

【十句選】

影もたぬ人の影さす原爆忌   けむり
 「影もたぬ」をどう読むか迷ったが、原爆によって命を落とした人の影と読んだ。あるいは、原爆に限らず、すでに亡くなった人をさしているかもしれない。いずれにしても、とても大切な人を思っている作者。影のリフレインが効いていると思う。

乱れてはいつしか丸く踊りの輪   百合乃
 さあ、入って入って、と声をかけられ、おずおずと踊りに加わる。やがてにわかな輪ができる。だんだんみんなの調子が出てきて、丸いきれいな輪となってくる。地味な踊りにも華やぎが感じられる。

引力のやがて解けし茄子の馬   藤井美琴
 先祖の霊が乗るという茄子の馬。空想の世界に、引力という科学的な言葉を持ち込んでいるのが面白い。茄子の馬がいきいきと見えてきた。

指で塗るリップクリーム広島忌   酒井とも
 あえて指で塗ることで、リップクリームのねっとり感が肌感覚として伝わってくる。広島に原爆が投下された暑い日が、溶けかけたリップクリームの質感と重なる。

夕飯は毛虫を焼いてからの事   今村征一
 夕飯と毛虫を焼く行為が、同列に扱われているところが面白いと思った。「毛虫焼く」は、生活に根ざした、昔からの毛虫退治の知恵だが、失われつつある季語といってもいいかもしれない。たいていは、駆除のために薬剤が使われるだろうから。

走馬燈妻の横顔照らしけり   眞人
 走馬燈が回り始めると、非日常の空間が現れる。そこに居合わせた妻の横顔が一瞬、違う人のように見えた。そんな戸惑いをすくって詠んでいる。

教会の鐘一斉に夕月夜   茂
 宵方だけ月のある夜、いっせいに教会の鐘が鳴る。鐘の音の響き合いと余韻、そして夕月。一枚の風景画のような美しい句だと思った。

人動く気配の門扉実むらさき   茂
 人の気配がする門扉はやがて開かれるだろう。硬く冷たい扉と光沢のある小さな紫の実の出会いがいいと思う。

保母の眼の本気になりぬ水鉄砲   鷲津誠次
 この保母さんは、まだまだ新米の保母さん。子供に対してつい本気を出してしまう。いつも一生懸命の初心が光る。こんな保母さん、いいなあ。

瓢箪やひとは電話機持ち歩く   ぐずみ
 瓢箪といえば、神話などにも登場する古い植物。電話は文明の利器で、ここではスマホだろうか。取り合わせが楽しい句。私が子供の頃、電話はどっしりした黒で、ややかしこまって使うものだった。電話を持ち歩く時代が来ようとは、想像も出来なかった。


2018年8月15日

内野聖子ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 立秋を過ぎたというのにまだまだ猛暑日が続くようです。
 体調を崩されていませんか?私は知らず知らずのうちに身体にダメージを受けていたようで、この夏2回もダウンしてしまいました。もっと体調管理をしっかりしないといけないと痛感しました。
 皆様もどうぞご自愛ください。

【十句選】

向日葵や聞くだけは聞くアラビア語   まつだまゆ
 まず、なぜ「アラビア語」なのかという疑問。そして「聞くだけ聞く」という理解できないものに困惑したようにも投げやりにもとれる表現が、向日葵の明るさと合っています。

草むらに埋もるるボール夏終る   銀雨
 詠まれているのはよく目にする光景なんですが、「夏終る」で去りゆく夏への感慨や寂しさが感じられますね。

六畳の少し奥まで晩夏光   伊藤順女
 夏の終わりの頃のまだ衰えていない光が差し込んでいる何気ない日常の一コマを切り取って詠んでいます。パッと目をひく光景ではありませんが心に残りました。

グッピーに聞かせてをりぬ反戦歌   けむり
 愛らしいグッピーと反戦歌の取り合わせが意表をついていて新鮮です。

夕焼へ辿り着くまでペダル漕ぐ   今村征一
 真っ赤な夕焼に心奪われることが多いです。この世の果てのような夕焼にひたすら向かっていく姿が浮かびます。

稲妻を両手に握り家出する   じゃすみん
 家出するのは何となく少年のような気がします。激しさを秘めていていつ爆発するかわからないような危うさを感じさせます。

目が泳ぐプールサイドに来てみれば   マチ ワラタ
 プールで泳ぐのではなく「目が泳ぐ」。言葉遊び的発想が面白いです。

夏草は切る指切りをした指を   比々き
 少し謎めいた物語を感じさせる句です。句またがりが独特の雰囲気を醸し出していますね。

脱ぎ捨てし浴衣は少し重くなり   スカーレット
 着る時より明らかに重くなっているのは汗のせいでしょうか。これは女性にしかわからない感覚かもしれませんね。

かなぶんはエンジンの羽根をさまらず   紅緒
 かなぶんの羽音の激しさを「エンジン」と表現したところに着眼点の面白さを感じました。


2018年8月8日

山本たくやドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 連日暑い日が続いていますが、熱中症などは大丈夫でしょうか?
 この夏は耐え忍ぶ夏となりそうですね。水分補給はしっかりと。

【十句選】

それぞれの伴侶どっしり遠花火   茂
 「どっしり」が良いですね。「伴侶」だけあって、良い意味での遠慮のなさが表現されています。

縞馬の縞がぐるぐる炎天下   銀雨
 今年の夏は、「酷暑」なる言葉では言い表せないほどの暑さですね。それは縞馬も同じようで、熱中症で視界がグルグルしているのかもしれません。

ボトルシップ青水無月は俺の海   素秋
 かつての前衛俳句のような味わい。ただ、全体的にまとまってはいます。

光子降る数だけ稲穂光つてゐる   二百年
 天と地が光っている様子が神々しくもあり、西洋絵画を彷彿としました。

気の抜けたサイダー飲んで帳簿附け   百合乃
 「気の抜けた」が良いですね。「サイダー」だけではなく、帳簿を「附け」る動作にもかかって、その気だるさが伝わります。

あの人はこんな肘かと逆上がり   干寝 区礼男
 思わぬ発見を「逆上がり」を通じて知ってしまったのでしょうか。その発想と、昔を感じさせる情緒が良いです。

夕焼けの海に地球の丸みかな   眞人
 「夕焼けの海」から地球への「丸み」に思いを馳せるという発想が良かったです。

子の嫁の碧き瞳や貝風鈴   鷲津誠次
 「碧き瞳」で海外の人と考えられますね。この句の「嫁」は浴衣を着ていていそうな雰囲気が感じられました。

雨宿りして仰ぎ見る大花火   彩楓
 ロマンチックな光景です。雨の中であがる花火であっても、それでも観てしまう。青春性も表現できています。

髪撫づる風の遊びや昼寝ざめ   みなと
 「風の遊び」が良いですね。昼寝の寝覚めは暑さを伴いそうですが、それが緩和されて涼しさを感じます。

【選句外作品】

 本ドクターを就任以来、初めて英語のお便りが送られてきました。
 誤訳や解釈の違う意訳をしてしまうかもと思い、今回はそのままを掲載します。
 外国語の俳句は作るのも読むのも難しいと思います。ただ、日本語と同じく、取り合わせが作品のポイントになると思うので、もし、今後チャレンジしたい気持ちがあればお送りください。
 山本はお待ちしております。

I appreciate your wordpress web template, exactly where did you down load it through?    Dddgecgedede Ioupypeo Johnb638 betamethasone acetatena phos ggddebceeeaf Johne779

Farmville coins are used to make experience points and to purchae things for tthe farm.   Adbafbageefdkadg Smithc121


2018年8月1日

秋月祐一ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 私事ですが、結婚を機に転居をしました。本がとても多いぼくと、物がとても多い妻。それに加えて、ふたり分の生活用品を持ち込んでしまったため、家の中は段ボール箱のダンジョンのような状態です。歩くときは隙間をカニ歩きしています。この本は良書だという価値判断と、その本を所有することを、切り離す必要があるのでしょうけど、本を手放すのはつらいですね。
 今週は141句の中からの十句選です。

【十句選】

炎天に来て心電図とられけり   百合乃
 「炎天」のまばゆい日ざしと、暗いモニターに緑の光で浮かび上がる「心電図」。眩暈のなかで、なにかがスパークするような感覚をおぼえました。「心電図」の繰りだし方の意外性も。

海風や向日葵だけを売る花屋   銀雨
 実際には「向日葵」だけを売っている訳ではないと思いますが、その断定によって、花屋の店先にたくさん並べられた向日葵の印象がぐっと強まりました。「海風」との取合せも爽やか。

走り梅雨路地を巧みにピザバイク   素秋
 時にはらはらするハンドルさばきで、路地を駆けぬける宅配ピザのバイク。現代的な景を巧みに表現していると感じました。季語「走り梅雨」の「走り」が、バイクにも掛かっています。

百日紅対亜熱帯高気圧   干寝 区礼男
 夏の暑さをものともせず、長期に花を咲かせる「百日紅」と、暑さの原因たる「亜熱帯低気圧」をVS(バーサス)の構図で捉えた楽しさ。漢字のみの表記も闘いの雰囲気を高めます。

大阪は炭水化物雲の峰   ぬらりひょん
 粉もん文化の盛んな大阪を「大阪は炭水化物」と暗喩で表現したところに技あり。道頓堀あたりの屋台のたこ焼き屋さんなどを連想しました。はふはふ食べていると、空には積乱雲が。

デパ地下は逡巡のくに土用丑   馬留場露以
 土用の丑の日に、うなぎを買おうか買うまいか、と悩んでいる場面だと思うのですが、「デパ地下は逡巡のくに」という大仰な表現によって、どこか神話的な趣が生じていています。

生命線確かめてゐる日傘かな   みなと
 情景としては日傘を差しているだけの場面かと。物を持つときに自分の手相を意識することの面白さと、炎天下に日傘を差して生きている実感を持ったことの、二重の意味を感じました。

花のごとビールのジョッキ抱きかかへ   眞人
 店員さんが、ビールジョッキの取っ手をまとめてにぎり、いちどに何杯も運んでくる。その様子を「花のごと」と捉えているのが新鮮でした。このあとの乾杯はおいしそうな気がします。

向日葵の首に貼りたいサロンパス   比々き
 種を付けて頭を垂れた向日葵をイメージしました。夏のあいだ、おつかれさま、と首のあたりに膏薬を貼ってやりたくなったのでしょう。類似品は数々あれどここは「サロンパス」ですね。

落とし穴掘って見上げる夜の秋   紅緒
 いますよね、誰かを落とそうとするのではなく、ただひたすら穴を掘るのが好きな子ども。夏の暑さも気にせずに掘っていて、ふと気づけばあたりは暗くなっています。夜風には秋の気配。


2018年7月25日

須山つとむドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 大阪の北端に永く住んでいますが,今年のこの自然の猛威にはいささかお手上げでした。被災された方には,心よりお見舞い申しあげます。 さて,今週も季語との出会いが楽しみです。

【十句選】

立あふひ暁の赤城山(あかぎ)の深緑   太郎
 『たちあおい あけのあかぎの ふかみどり』 と音読した。立葵の旧仮名表記,『あ』の同韻が奏でるリズム感で句の響を楽んだ。下五をいっそう『あさみどり』と遊ぶのも。

勝ち越しを決めし力士や藍浴衣   日根美恵
 中七を『決めて力士の』として,句に動きを少し加えると,藍浴衣の色香がより強く感じられるかも。でも,へたをすると 都々逸調に ?

包丁の研がれし匂い夏料理   百合乃
 削り出したばかりの氷の皿に,捌かれたばかりの切身。夏料理の逸品には,確かに研いだ包丁の匂いがこもる。意表をついた強調表現が,暑さ忘れの妙薬に。

日輪へ大向日葵のファンファーレ   今村征一
 こんな風に,景をデカく叙する方法があったのだと,楽しい気分にさせられた句。日輪と向日葵との『つきすぎ』の非難も,ファンファーレで,あっけらかんと吹き飛んだ。

うれしくて川へ走った敗戦日   伊藤順女
 母親に頭を抑えられ,正座させられて聞いた玉音放送の記憶。あの日の昼の子供心に,パッと広がった開放感が,白い風のように伝わってくる。

海の日や四方に窓の祝賀会   茂
 海という大自然への憧れと楽しみが全く伝わらない,不幸な記念日が『海の日』。でも,なんとはなしに集まった祝賀会場には,まどを通り抜けて浜風が吹き通っていた。

鉄道の点検打音蚊食鳥   紫
 点検ハンマーを使った車両点検とコウモリ(蚊食鳥)の取り合わせ。共通のテーマは音で,納得する。上七の『鉄道』を,『機関車』などと,はっきりとモノで提示したい。

白い蓮咲かせて空をプテラドン   ∞
 翼竜が悠然と舞う白亜紀の空,水辺に白い蓮の花。九メートル超のプテラノドンの翼は,銀色の光輝を放っていたことだろう。大きな実景を連想させる描写力。

蒲の穂や貫き通す意地のあり   スカーレット
 群生するフランクフルト状の花穂に,掴みたい親しみを感じ,一方で,因幡の白兎説話には,歴史の重みを知る。蒲の穂(夏の季語)のコノ不思議に挑戦し,句の形を得た。スゴイ。

海の日やチョークよく折る塾講師   鷲津誠次
 クピッと黒板のチョークが折れた。祭日特訓でライバルに差を!と,若い講師も,塾生も肩に力が入った。小さな日章旗が海風にはためいている。

【注目した5句】

サングラス午前零時の不眠都市   銀雨
 『不眠都市午前零時のサングラス』と倒置すると・・・,句は寝てしまい,凡句に。

夕焼はいつも思ひ出つれてくる   たいぞう
 『まっ赤っか』と,下五で遊んでみるのも一方法。 この時は『夕焼や』とはっきりと切る。

打水や師の吟声の澄み透る   みさ
 打水,師,吟声,澄み透る。近類の情,景を過多に述べた弊が。でも,涼風は救いに。

チンドン屋影連れ歩く夏の果   じゃすみん
 街の懐かしい音の景。影と『夏の果』がやや近縁。『夏はじめ』でメロディーも活気付く。

芙容咲き読書範囲がひ広がりぬ   意思
 一輪の芙蓉を手に,読書家の彼女を思った。上五を『花芙蓉』とし動詞の重複が消せる。


2018年7月18日

星野早苗ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 地震、大雨と続いた梅雨が明けました。
 一日も早い被災地の復興をお祈り申し上げます。
 人の力ではどうしようもない大きな力が自然にあることはたしかです。だからこそ自然の恵みも大きいのですが、つくづく日本は災害大国だなと思いました。被害を最小限に食い止める街作り、国作りをみんなで考えていかなければなりませんね。
 災害で落ち着かない生活の中、ご投句ありがとうございました。
 さて、今回は166句の中から。

【十句選】

修復の済みし杉戸絵夏祓   みさ
 杉戸絵は廊下の境目などにあって、直接戸板に絵の具で描かれています。胡粉などで描かれた絵はくっきりとしていますが、長い年月の間に剥落していることも多いようです。その杉戸絵が修復され、鮮やかに甦ったことで、今年の夏祓えは格別なものになったのでしょう。

梅雨明けや付箋いくつも旅雑誌   洋平
 夏休みの旅を計画しているのでしょう。必要なページに付箋を貼って、綿密に旅の計画を立てています。泊まりたい宿や寄りたい店、やりたいこと、食べたいもの等、情報に触れたときから、もう旅は始まっているのですね。

半夏雨長き祈りの妻を待つ   たいぞう
 並んで手を合わせ、同時に瞑目して頭を下げたご夫婦。でも、祈りの長さはちがったのです。夫である作者は、妻が頭を上げるまでじっと待っています。そして、来たときと同じように、二人並んで帰られたのだと思います。夫婦の機微が感じられる作品だと思いました。

足を止め校歌聞きをり雲の峯   けむり
 学校の側を通りかかったとき、校歌が聞こえてきたのでしょう。母校の校歌でなくても、校歌には真っ直ぐなメッセージがあり、メロディーも分かりやすく、惹かれるものがありますね。掲句の校歌は雲の峯と取り合わせられ、力強く、明るい未来が感じられました。

白といふ色の力や橡の花   日根美恵
 万緑の中の白。橡(とち)の花の斡旋がよいと思いました。円錐形に盛り上がって咲く橡の花は決して純白ではありませんが、素朴な力があるようです。大きく丸い橡の実のイメージも重なりました。

七夕や姉妹で分ける金と銀   中 十七波
 金と銀は、笹飾りを作るための折り紙の色でしょうか。姉妹で仲良く作っていても、折り紙の色は必ず取り合いになりますね。中でも、金と銀は特別。まず最初に、仲良く一枚ずつ分けた所に、姉妹の智恵を感じました。遠く、星空も連想されますね。

白靴や島には馴れたか転校生   鷲津誠次
 四月にやって来た転校生も、夏になってようやく周囲と馴染み、島の子どもたちと見分けが付かなくなってきたのでしょう。けれども、彼の白靴には、どこか都会っ子らしさも残っています。子どもたちを見守る大人の暖かな眼差しが感じられました。

顎紐の伸びきる帽子兜虫   瑠璃
 園児の被る帽子でしょうか、顎紐のゴムが伸びきっているのは多分年長組ですね。顎紐のぶらぶらしていることもかまわず、兜虫に夢中になっています。よれよれの帽子とつやつやの兜。顎紐も、兜虫が引いて伸ばしたのかと思える楽しい句です。

雲の峰一度も買はぬ登山靴   紅緒
 山に憧れながら、結局登山靴は買わずじまいだったのでしょう。けれども、夏山の季節になると、本格的な登山に挑戦してみたい気持ちが甦ります。ハイキングやトレッキングで体力は維持している作者なのだろうと思いました。

灯消せば窓に夜明けの旱星   二百年
 仕事か勉強かサッカー観戦か、夜明けまで起きていてやっと眠りにつくため部屋の灯りを消しました。窓の向こうに、消え残った明るい夜明けの星が見えます。「旱星」という季語で、その日一日が、浄化されたような気がしました。

【その他の佳句】

屋上に残れる虹の匂いかな   銀雨

紫陽花や山より雨の上がりける   太郎

白鷺や棚田たなだに水張られ   太郎

羅や棺へ入るる母の恋   伊奈川富真乃

梅雨晴の立ち上がる物みな光る   たいぞう

鳴くまでを歩む砂浜実はまなす   今村征一

「なんぼでも寝る」すててこ爺の立ち話   谷あやの

徘徊の妻かへりきて沙羅の花   一海

短夜のうっかりと耳から眠る   マチ ワラタ

梅雨晴間昭和のままの商店街   中 十七波

炎天に応援団の反身かな   瑠璃

河童忌の形揃はぬ塩むすび   彩楓



2018年7月11日

谷さやんドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 今このパソコンをのキーボードをたたいている夜中、警報のサイレンが何度も鳴り響いています。放送も始まりました。この松山市を含む愛媛県全域にわたってこれほど長引く豪雨は、私の生きてきた記憶の限りないように思います。俳句の結果が発表になるころには、流石に去ってくれているとは思いますが。

【十句選】

葡萄受け取る逆さまに印押して   せいち
 お中元が届いたのだろう。「お中元」としないで、「葡萄」が良かった。葡萄の絵の描いてある箱で、すぐわかったのだ。嬉しさに、思わずハンコの方向を間違えた。

こきこきと壊れてゆけり扇風機   たいぞう
 扇風機はまだ働いている気配。古いのだろうが「こきこき」は、首を振るぎこちない扇風機の動きをよく表している。時代の流れの中での扇風機の存在も含めて「壊れてゆけり」。「こきこき」といえば「鳥わたるこきこきこきと罐切れば」をたちまち思い出すが、この句もこの擬音語がとても効いていると思う。

世の果つるとき一面の花茨   抹茶金魚
 「へーっ」と思わず声に出た。素朴で清楚な白い花も一面にあると、美しいというより怖い。棘ごと迫ってくるようである。この世の始まりだと、一面の花茨がまた違って見えてくる。

ほうたるも光るからだをもてあます   短夜の月
 もてあましているのかと思うと、あの光もなんとなく辛くなってくる。持て余すから飛ばずにおられないのだろうか?「ほうたるも」の「も」が気になる。他に身を持て余しているのは、誰?

あめんぼうみずいろのみずいろのうそ   高木じゅん
 すべて平仮名表記。個人的には、読むとき苦手だ。目に力が要るし、意味が遅れて入ってくるから。この句は、どこで切れるのだろう。あめんぼうみずいろのみず/いろのうそ」「あめんぼうみずいろの/みずいろのうそ」。私は、前の方が好き。水色の水の中に、私もあめんぼうと泳いでいる気分になった。「うそ」も「みず」に溶けていく。

降格で同僚になる薔薇の園   酒井とも
 降格になるのは、よっぽどのことだ。昇格しないのとは違う。でも「同僚になる」のはいいことと思う。「薔薇の園」が、どこか可笑しい。

音となり一瀑迫り来るごとし   今村征一
 滝は動かないが、音に化身して自分の身に覆いかぶさってくる感じ。一瀑が音の塊となる迫力。

でで虫や身を乗り出してこぼれさう   善吉
 最後の「こぼれさう」がいい。蝸牛を見る目のあたたかさが伝わる。伸びきった蝸牛の身の姿が、ユーモラス。

鹿の子の倒木渡る早瀬かな   瑠璃
 絵に描いたような光景。早瀬を渡している倒木。そこを渡る鹿の子。濃い緑の渓谷で、小鹿は首尾よく渡れただろうか。

青嵐バサと新聞猫に飛ぶ   彩楓
 「青嵐」は、青葉の頃に吹きわたる清爽なやや強い風。風通りのよい場所で広げて読んでいたのだろう。あっという間に飛んでった新聞の行方は、飼い猫に被さって止まった。「猫」にユーモアがあると思う。

【気になる句】

自転車で掻き分ける夏草の風   銀雨
 「掻き分ける」が、いいなと思った。掻き分けるのは「夏」なのか「夏草の風」なのだろうか。いずれにしても「掻き分ける草夏の風」よりは、草の香りがプンプンする。

甘夏の重さの乳房揺らしをり   短夜の月
 甘夏の重さの乳房は、とてもいいと思った。が、揺らしたのではもったいないと思った。

消えてゆく入道雲の正気かな   干寝区礼男
 今度、入道雲の消えていくところを見たいと思った。

六月尽噺家すわる公民館   笹泉
 「公民館」がいいと思う。

夏の地図広げて飽きるまで嗅いで   マチ ワラタ
 広げた地図を嗅いでいるのだと思った。夏の地図だからどこか芳ばしい。

梅雨晴間新聞俳句と言はれけり   をがはまなぶ
 「新聞俳句」という呼び名を初めて知りました。「梅雨晴間」がいいと思う。

テーブルに醤油差しの輪冷奴   スカーレット
 あります、あります。醤油をかけようとして持ったら、醤油差しの跡の輪っかが出来ている。「冷奴」がはまり過ぎたかなと。例えば「ラムネ飲む」とか「かき氷」など、「輪」とは関係ない食べ物が、かえって良い気がします。


2018年7月4日

久留島元ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 大阪北部地震にあわれた皆さま、被害はなかったでしょうか。意外なほど交通、インフラが被害を受けたのが驚きでした。また関東ははやくも梅雨明けということですが、大雨被害も心配。
 テレビは連日サッカー一色ですが、なんだか物騒な事件が立て続けにあったり、なんだか不穏な気もします。とはいえバラエティでは俳句番組が人気、京都ではそろそろ祇園祭が始まります。いよいよ夏本番という感じでしょうか。
 今週の投句は191句でした。基本的な言葉遣いなど、判断に迷う句もありましたが、いつも通り視点が面白い句などを中心に選んでみました。
 (不適切な文言があるとのご指摘があり、【はじめに】の一部を訂正しました。)

【十句選】

藪毎にへくそかづらのあかんべえ   二百年
 ふいに出てきた野草を楽しくとらえた一句、臭いなどは大丈夫でしょうか。

マンボウを花にするならヒマワリで   銀雨
 同じく比喩の句、「〜〜にするなら」「○○で」の言い回しは人為的な感じがしますが、マンボウをヒマワリに喩える視点は面白い。表現を推敲してほしい。

みればみなさん紫陽花になっている   ∞
 紫陽花になっている人ってどんな人? ことさら丁寧な口調で謎めいた比喩を操る文体は川柳的といえるかも。

草むしり誰かに見られゐるやうな   百合乃
 よくあるといえばそうですが、日常にある納得の感覚。

切り出せる仏になれぬ木くず夏至   藤井美琴
 仏像を彫り上げたあと、余って捨てられるであろう木くずに注目した句。五七五の使い方がうまい。

ジェラシーだ虹をちぎつて捨てたのは   比々き
 所詮嫉妬だと、自分でも分かってはいる、しかし、やらずにおけぬ、虹のはかなく淡い感じとの対比がいい。

薔薇といふ迷宮に足踏み外す   紅緒
 迷宮なら踏み出すとなりそうなところ、薔薇の美しさに溺れたような句に。単語の連なりは類想がありそうですが、一句で読むと軽やかでうまくまとまっている。

女みな卑弥呼の血脈洗ひ髪   ポンタロウ
 「洗い髪」は何故か女性限定の季語、時代とともに失われる季語かも知れません。卑弥呼の血族という表現も少し古い婦人解放運動を思わせ、強い女性に対するややステレオタイプともいうべき憧れが一句になっている。

口づけを垣間見てをり青葉木菟   みなと
 「青葉木菟は見た」という感じ。「〜てをり」はやや説明的で嫌われる表現で、要再考。

苦い雨もう寝よう蓮さいた夢   干寝 区礼男
 「苦い雨」「もう寝よう」「蓮さいた夢」三句がばらばらで、普通失敗しがちな形ですが、かえってぶつ切りな感じが、モノクロの古いアニメを見ているようで面白い。

【選外佳作】

羅にもたるる肌のうごきしか   伊奈川富真乃
 艶っぽい江戸情緒。

過呼吸の袋へ渦巻く黒南風や   じゃすみん
 過呼吸をおさえるための袋に注目したところは興味深い、ただ深呼吸するための袋を「黒南風が渦巻く」と大げさな虚構にするのが有効かどうか。

複数のどれが墓石家守死す   意思
 前後の句から推測すると家守の墓石?単体だとすこしわかりにくい句になる。上五「石ころの」などとしたほうがよいか。

山蕗を呉れし人にと枇杷をもぎ   笹泉
 作者の日常が見える点で好印象。

朝刊のことりと音す五月晴   太郎
 「ことり」が擬音なので「音す」は不要

じやがいもの咲いてアとエの中間音   幸久
 なぜじゃがいものの花と取り合わせたのかわかりませんが、外国語の響き?

梅雨晴れや老医師老女の爪を切り   ちあき
 梅雨晴れや老女の爪を切る老医、でいかがでしょうか。中八が解消できます。

後だしで負けるじゃんけん蛍籠   マチ ワラタ
 内容はおもしろいが、じゃんけんと蛍では「じゃんけんで負けて蛍に生まれたの池田澄子」の亜流になってしまう。

黒板の「阿頼耶識」にも射す西日   比々き
 哲学の授業? 仏教用語にさす西日というのが決まっていますね。