「e船団」のドクターがあなたの俳句を診断したものです。

2019年12月25日

山本たくやドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 年の瀬も迫りつつあり、私の手帳には忘年会の予定が詰まりまくっております。
 飲み過ぎ食べ過ぎ要注意。いたわろう肝臓、はげまそうお財布。
 2019年もたくさんのご投句、ありがとうございました。2020年、「船団」の散在にともない本クリニックも終わりを迎えますが、最終回のその時まで、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 少し早いですが、良いお年を。

【十句選】

悪役に見事に惚れて近松忌   まつだまゆ
 勧善懲悪なる言葉はあるものの、「悪役」に憧れる人は案外多いのではないでしょうか。俳優の方でも、優しいイメージを良い意味で裏切られて「悪役」がハマる人がいます。そのようなギャップは、やはり「惚れ」る要因になりますね。

包丁を喜ばせたき太大根   二百年
 発想の逆転。本来、切られてしまう存在である「大根」が「包丁」を喜ばせるために、あえて太くなり、切る醍醐味をより感じさせようとしている。この「太大根」は変態極まりないですね。好きです。

遠まわしの自慢煮込んでおでん酒   素秋
 「遠回しの自慢」とは、どんなものか気になりますね。『この出汁は利尻昆布から取っててさ〜』とか『この大根は無農薬栽培でさ〜』とかの自慢でしょうか。遠回しなので最初は気付きませんが、後から自慢だったのかと気付いた時は、ウザさが倍になりそう。

男とは気付かなかつた室の花   せいち
 最近はコンビニなどでも男性向けの化粧関連品が売られるほど、男性も美を意識するようになりました。写真だけみれば、男女の区別がわからないほど、綺麗な男性が増えてきました。掲句の「室の花」も、それくらいに美しかったのでしょう。

冬の日の眩し退職届かな   宮武桜子
 特に何もなければ、私はあと30年は今の職場で働くことになります。定年で辞めるのではなく、自分の意思で「退職届け」を出して辞めることは大きな決断が必要でしょう。しかし、だからこそ、それを出せた時は清々しく晴れやかでもある。「眩し」の語が効果的です。

着ぶくれてカタカナになる跳ねた髪   さわいかの
 たまに教え子で、パンパンに着ぶくれた状態で、そのくせ寝癖が爆発している生徒がいます。それはそれで微笑ましいのですが、その寝癖のうねったであろう様子を「カタカナ」とたとえたところが秀逸。作者のセンスを感じます。

デジタル時計冬は静かに狂ってる   干寝 区礼男
 この感覚、とてもよく分かります。普通に考えれば、狂っているのは「デジタル時計」のはず。しかし、そうではなく、狂っているのは「冬」の方で、それも「静か」にじわじわと。ダリの『記憶の固執』(時計がぐにゃり溶けてるアレ)ほどではないにしろ、そのようなイメージを持たせる、絵画的な一句。

ずる休みの雑炊啜る窓に雨   じゃすみん
 この「雑炊」は間違いなく美味いはず。鍋の出汁がよく染み込んだ米はもちろんだが、「ずる休み」という背徳感がまた良い。「雨」が降っているから外出はできないが、普段ならあまり観られないお昼のワイドショーでも観よう。

嚏して六十年の経ちにけり   大塚好雄
 くしゃみをした一瞬で「六十年」が経過したとは、なかなか面白い発想です。前々から言っていることですが、俳句には大袈裟な表現が大切。この大袈裟な感じが、掲句をSFチックな仕上がりにしてくれています。

寒林や寄り掛からない間柄   紅緒
 「寄り掛からない間柄」に、ときめきました。季語が「寒林」なので、不仲とも捉えられます。しかし、ここはあえてお互いに信頼しあってるからこそ、寒い中であってもむやみに「寄り掛からない」。このプラトニックさが、たまらない。


2019年12月18日

秋月祐一ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 今年の冬は寒いですね。この季節になると、わが家のサビ猫くうちゃんが、ぼくの布団の上で眠るようになります。いっしょに寝てると、猫って温かいんですよ。湯たんぽ代わりになります。今回は154句の中から。

【十句選】

枇杷の花望見すれば父の見え   意思
 「枇杷の花」は冬の季語。冬に咲く控えめな花で、その花の印象と、父の姿が重なって視えたのでしょうね。枇杷の花で切れば、「望見すれば」は省略可能かも。ぜひ中七のご検討を。

鈴生りのみかんみみかんみみみかん   うさの
 「みかんみみかんみみみかん」という音と字面の楽しさが際立っている句。柑橘類がたわわに実っているのを見ると、なぜかそれだけで幸せな気持ちになりますが、その気分を端的に表現。

沙夜嵐さ牡鹿一頭去り行けり   日根美惠
 「沙夜嵐(さよあらし)」「さ牡鹿(おじか)」「去り行けり」とサ行音を印象的に用いた句。嵐の夜に牡鹿が一頭去って行った、というシンプルな情景が、ことばの力によって変容しています。

出番待つ少年サンタ髭鬚髯   素秋
 クリスマスのイベントでしょうか。舞台裏で出番を待つ少年サンタのつけひげに目が留まりました。「髭」はくちひげ、「鬚」はあごひげ、「髯」はほおひげ。少年なのにひげぼうぼうのおかしさ。

なっちゃんはね今もなっちゃん赤のまま   素秋
 子どもの頃についたあだ名がなっちゃんで、大人になってもそのままなっちゃんと呼ばれているんでしょうね。「赤のまま」は、幼い日のままごと遊びを連想させる、秋の季語です。

上京のその上(かみ)に来て薬喰   せいち
 京都上京区の上の方に来て薬喰(くすりぐい)をする。薬喰というのは、鹿や猪などの獣肉を食べることで、冬の季語。「上京」「その上」「来て」「薬喰」とカ行音の韻律の張りが効いています。

冬うらら輪ゴムで括る駄菓子チョコ   百合乃
 「輪ゴム」のパチンという音。「駄菓子チョコ」の袋がガサッという音。的確な描写から、直接的には書かれていない音が聞こえてくる。そんな面白さのある一句だと思いました。

俎板に寒鰤どすん捌きけり   茂
 「寒鰤どすん」に実感がこもっていて、インパクトがありますね。これを「どすんと」と下五につなげる形にすると、何がどう変わるのか、考えてみてください。私も考えます。

履歴書に根岸の葱の猫まんま   さわいかの
 履歴書を書いていて、住所が根岸のあたりなのでしょうか。そこからネ音の頭韻で「根岸の葱の猫まんま」と展開する力業。「履歴書」と「猫まんま」の衝突に詩情を感じました。季語は「葱」で冬。

現在地右も左も酉の市   中 十七波
 「現在地」という切り込み方が面白いですね。続いての「右も左も」には臨場感があり、酉の市(とりのいち)という季語で収める。技巧によって、祭の最中にいる華やかさが伝わってきます。


2019年12月11日

須山つとむドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 十一月は吟行句会の多い月。服部緑地(豊中市)、今城塚古墳(高槻市)でわたくしも参加しました。普段、歳時記を通して頭で知ろうとする『季語』が、吟行の大気の中では、光や風のように手の先で触れる楽しさを味わいました。さあ、どんな季語に出会えるのでしょうか。

【十句選】

着ぶくれて笑ふ見知らぬ者同士   まつだまゆ
 ふかふかのダウンの所為だけでもない。年とともに中身の体にも始まった着ブクレ。気恥ずかしさと、照れかくしのあいまいな所作で、初対面の挨拶。

山茶花や外科病棟は北三階   百合乃
 窓から見下ろす生垣で山茶花の赤がやっと開いた。二本ストックを駆使すると、階段の上がり下りにも何とか目処がついた。下五『北三階』で、快癒への予兆が伝わる。

天渺渺萬里秋色風蕭蕭   素秋
 詩吟の一節? 漢詩への挑戦? 字画でも数えようか、としているうちに、果てしない大地の様、モノさみしい景などが浮かび上がってきた。機知でねじ伏せられた句。

北風にジャングルジムの子の光り   せいち
 北風のなかを遊ぶ子らの姿を見た。上五の『に』は説明的。下五の『の』が曖昧。助詞の使い方の工夫で、句は変化する。<北風やジャングルジムの子が光る>などと、言い切るのも。

人体模型サンタに扮す整骨院   谷あやの
 インフルエンザ流行中の整骨院。いつもは、見て泣き出す子もでる人体模型が、今夜だけは人気者のサンタクロース。リハビリで泣きだす子には「はい」、袋からキャンディーを。

ワイン栓ぽんと音抜く雪女郎   みなと
 美貌とはうらはらに、豪雪地帯の男衆に恐れられていた雪女郎。でも近頃は、インスタ映えする衣装で登場、スパークリングワインの栓の音にも艶姿のポーズ。

寒紅や心の闇に置き忘れ   茂
 かつての乙女心を捉えたと聞く寒紅。それを、ロマンあふれる想像上の景の中に登場させようと試みた。でも、無念。イメージが空回り。鮮やかな実景描写で、再現を待ちたいテーマ。

冬うららオルゴールのネジ巻き直す   吉井美朝
 風もなく穏やかに晴れた日。テンポのズレ始めたオルゴールの終曲は確かに気障りで、なんとかしたくなる気分。でも、『巻き直す』では気持を強く言い過ぎ、『巻いており』で十分。

片方のピアス靴下手袋と   中 十七波
 この句 <手袋靴下ピアス片方年つまる>の俳句を、ラップ風にアレンジし直したものです。 ほら、楽しくなって、心も浮き立つでしょう。

枯葉踏む飛んだり蹴つたり枯葉踏む   スカーレット
 今年生まれの仔鹿の身になって、クヌギの枯木林を飛び跳ねている気分。はい、爪先でスキップを。上五、下五のリフレーンが、心地よいウネリとなって、体に浮遊感が伝わってくる。

【注目した5句 】

秋祭プーとふくらむカルメ焼き   ポンタロウ
 『カルメ焼き』の語感と記憶から、屋台の並ぶ境内が見えてくる。ぬっと、寅さんも?

父の手の越中干鱈節料理   京子
 干鱈は春の季語。でも、越中の我が家で干鱈節はお節料理の主役。部屋に匂いが立ち込める。

ブロッコリ助からないわこの気持ち   干寝 区礼男
 『船団の句』の勢い。 ズバッと半切り。めらめらと、炎がこの気持ちを抱き包む。

ワンナイト耳目ツーラブ冬薔薇   酒井とも
 この調子、この快感。初めてテキーラを知った日のように、意味は全く不詳ままで。

凩の指よ壊れたハーモニカ   抹茶金魚
 懐かしのメロディーに聞こえる。< 凩や指は壊れたハーモニカ >と、言い切ってみても。


2019年12月4日

星野早苗ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 天王寺動物園に行ってきました。象もコアラもいなくなって、ちょっと寂しい動物園でしたが、きりんとエランド、ダチョウやライオンが遠近に一緒に見られ、サバンナの雰囲気が味わえたのはよかったです。中国狼は長い遠吠えを聞かせてくれ、穴熊は落葉の穴を掘って眠っていました。
 さて、今月は、182句の中から。

【十句選】

近づけば遠ざかる猫冬うらら   まつだまゆ
 道で出会った猫と眼が合ったのでしょう。逃げ出すわけでもないのに、近づけば遠ざかる猫。そんな猫との関係を作者も楽しんでいるようです。「冬うらら」がいいと思いました。

爪を切る音くっきりと冬のよる   宮武桜子
 昔は、夜爪を切ると親の死に目に会えない、と言われました。爪を切る音が思いの外「くっきりと」聞こえたのは、禁忌をおかす覚悟で思い切って切り始めたからかもしれません。

風の日は風の形に水澄めり   日根美惠
 風が吹けば、水面にさざ波が立ちます。けれども、さざ波の下の水は、濁ることなく澄んでいたのですね。風に合わせてさざなみは立てながらも、澄む水で在り続けるのが秋の水なのでしょう。

玄冬の炎を抱くドラム缶   古都ぎんう
 浜辺や公園、作業所などで、ドラム缶の焚火を時々見かけます。下の方に風穴が開けてあり、長いドラム缶には煙突の効果があるのか、よく燃えます。玄冬には人生の老年期の意味もありますが、しっかりと炎を抱くドラム缶焚火に力強さを感じました。

退院日銀杏落葉の中に夫   百合乃
 退院日、病院に迎えに来てくれた夫なのでしょうか。病室の窓から見ていると、銀杏落葉の並木道に夫が現れ、ゆっくりと歩いて来ます。一人で現れた夫との絆を感じる嬉しい景だと思いました。退院したのが夫だったとしても、銀杏落葉の明るさは変わりません。

ふところに鯛焼熱きいのちかな   二百年
 買った鯛焼きが冷めないようにとりあえずふところに。すると、鯛焼きの熱が冷えた身体を温めてくれました。その時思いがけず、自分の命の本来の熱さにも気づいたのではないでしょうか。鯛焼きと同じくらい熱い命が人間にもあるのですね。

ゴム編みの途中湯冷めの兆しけり   紫
 寒さに間に合うようにと出来上がりを急いでいるのでしょう。入浴後にも続きを編んでいて、湯冷めしそうになりました。編物にはやり始めると止まらない性質がありますね。セーターなどの首回りや袖口に施す「ゴム編み」に臨場感があり、巧みな句です。

勝手口どっさと葱の青さかな   茂
 大量のみずみずしい青葱。勝手口に野菜が置かれるのはよくあることかも知れませんが、青さに注目したところがよかったと思います。畑から収穫仕立ての葱なのかもしれませんね。

定年や火の色あはき昼焚火   大塚好雄
 定年を迎えてやっと、昼焚火もできるようになったのでしょう。確かに昼の焚火の炎の色は淡く透明に近いですね。真っ赤な火の色を失った寂しさの一方、透明感と静けさを手に入れたのでは、と思いました。

案内状まずは捜して神の旅   紅緒
 出かける前にまず用意しなければならない物は? シンデレラならドレスや馬車ですが、掲句の場合は案内状です。日時や場所があやふやで、案内状が見つからなければ、そもそも自分が招待されているのかどうか……。と、いろいろ考えられるのは、季語「神の旅」の効果でしょうか。

【その他の佳句】

トトロ来よ溢れんばかりのどんぐりだ   短夜の月

白樺へ降りくる霧の音したり   太郎

小流れの木葉と歩む小春かな   太郎

セーターのきれいな継ぎ目母眠る   藤井美琴

アンカーの落とすバトンや神の旅   マチ ワラタ

踏切音消えて再び雪の夜   赤橋渡

城焼けて小さき太陽石蕗の花   紅緒

月渡るベランダに置く洗濯機   ちづ



2019年11月27日

谷さやんドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 ストーブの灯油を注文し炬燵をしつらえて、これから深まる冬に備えました。炬燵は、数年前から復活させました。炬燵に入ってしまうと動けなくなる、という理由で私もしばらくやめていましたが、大丈夫です。パソコンを置けば机代わりになりますし、ポットや読みたい本など抜かりなく手の届く範囲に置いていけば、動く必要がないから。
 来たる十二月一日(日)に、ここ四国・松山で「たっぷり俳句」と題したイベントをやります。坪内稔典氏をお迎えして、船団松山句会、地元の先輩俳人の方々そして会場全員で「名句」について丁々発止おしゃべりします。皆さんも、考えてみませんか。名句はどのようにして生まれるのか。生むことができるのか。先人の残してくれた煌めく名句を見つめながら、私も炬燵に足を伸ばして、思いを巡らせて行きます。

【十句選】

わが影を尾行する影暮早し   まつだまゆ
 「暮早し」は「短日」と同じ冬の日の短さを現す季語。日の暮れに追われるように歩く姿が目に浮かぶ。自分の影を詠む句は沢山あると思うが「尾行」に切羽詰まった感があり、そこが可笑しくもる。同じ作者の<立冬のふわふわの犬来たりけり>も好きな句だった。

台風の目と目が合ってしまいし日   短夜の月
 台風どうしの目があったのか、台風の目と自分の目が合ったのか。どちらも面白いが、たぶん後者のつもりかなと思った。台風の目は、「台風の中心付近にあたる、風が弱く雲の少ない円形の地域。普通直径数十キロメートル。台風眼(がん)」と辞典にある。どうやったら目が合うのかと思ったが、思わず面白かったので。ひょっとしたら「台風」と渾名した誰かのことなのかも。

短日や誰のものでもない孤独   幸久
 「誰のものでもない」からは、「孤独」を独占している感じと、一方で、否応なく引き受けているニュアンスもにじむ。紛らわせたつもりでも、やっぱり「孤独」という塊は自分の中に帰ってきてしまう。「短日」の音が「孤独」とどこか明るく響き合ってる。

調停の卓ポインセチアと長い午後   赤橋渡
 「調停の卓」で切れる。「長い」で、事務的時間というかだるさ、あるいはやりきれなさが伝わる。その卓の隅に置かれた赤いポインセチアに視線が向くほどに調停の昼を過ごしている。同じ作者の〈毛布積むユースホステル朝の風>も一句の中の言葉の置き方が上手いなあと思った。場面や景色がくっきりと浮かび上がってくる。

かあさんは庭がきらいよ秋の薔薇   いづみのあ
 かあさんは、きっと草にうんざりなのだ。だから「庭」が嫌い。嘆く母に、でも秋の薔薇がきれいに咲いているよ、と目を逸らせてあげているのだろう。

手紙着く二円不足の文化の日   善吉
 値上がり前の切手が届いて、二円の不足分を払うはめになったのだろう。「文化の日二円不足の手紙着く」であればただの報告になってしまうところ、「二円不足の文化の日」と繋げたために、まるで文化の日が二円足らないようで、ちょっと皮肉で愉快な句になった。

金木犀たれかフルート練習中   まるめ
 金木犀との取り合わせで、フルートの音色がいっそうきれいに届いている感じがする。でも、それだけではきれいすぎて重たい感じになるかもしれないところ、最後の「練習中」で気分が明るくなった。

ユンボが倒れユンボが起す台風禍   ぬらりひょん
 「ユンボ」は、レンタルのニッケンの商標登録らしいが、大きいパワーショベルのこと。そういえば、昨年の西日本豪雨のとき被災した南予地方(愛媛県)に住む句友が、「近所にユン を操作できる人がいて助かった」と言っていた。大木が倒れたとかで。この句の景色は、まるで地球上にユンボしかいない風景のよう。台風のしわざで倒れてしまったユンボを、ユンボの仲間が起こしている。ユンボを主体としたことが成功したのだと思う。

小春日の文庫にカバーしてもらう   マチ ワラタ
 立冬を過ぎてからの暖かい日「小春日」と文庫本がよく似合っている。店員に聞かれれば、私も必ずカバーしてもらう。電車の中で読むときなど、本の題名が見えないように。あと、買ったときにささやかな得した感も生まれるから、カバーがうれしい。

笛割れる音がするよう白い月   干寝 区礼男
 ああ、そんな気がする。この句の感覚から、白い月が破れそうに見えてきた。同じ作者の〈海の香り青信号は冬の空><くったくのない冬を猫が見て鳴く>も、不思議な感じが心地よく残った。

【気になる句】

磨硝子ばかりの家ね初時雨   古都ぎんう
 誰かのセリフと季語の取り合わせ。「初時雨」がいいと思いました。

鶏小屋に薄日の差して枇杷の花   彩楓

シャンソンを部屋いっぱいに大根煮る   茂

 リビングとキッチンが一緒になっている部屋では、音楽をいっぱいにかけますね。シャンソンと大根の取り合わせは面白いです。

冬林檎なまえのながいロシア人   あさふろ
 冬林檎とロシア人は言葉が近いかなと思いました。中にはさまれたひらがな七文字に効果があります。あるロシア人の名前の長さに、日本人がいかにも「ながいなあ」とあっけにとられている感じが出ています。


2019年11月20日

久留島元ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 はやいもので今年も一ヶ月強、年の瀬が近づいてきました。恐ろしいですね。
 新元号「令和」はすっかり定着したように思いますが、晴れやかな祝祭ムードとはうらはらに、京都アニメーション放火殺人事件、台風、水害、入管収容者の餓死、首里城炎上、と思いがけない事件、事故が相次いだ年でもありました。来年は、波乱ぶくみの東京五輪ですが、いったいどうなるでしょうか。

 立冬や煙の臭ひの門くぐる   紅緒

 ほかに首里城炎上を詠んだ句がありましたが、掲句は怒りや嘆きのような感情を単純にはみせず、「煙の臭い」と感覚だけで火災を思わせたところがうまい。
 しかし、これは時事を詠む難しさで、事件の記憶がうすくなったときに「立冬」だけで火災とわかるかどうか。もしかしたら「焚き火かな」と思う読者もいるかも。問題はそこで句の可能性が広がるかどうか。掲句はかろうじて火事を予感させる不穏さが、時事からはなれて成立しうると思いました。

【十句選】

秋水を遊行ゆらゆら鯉の群れ   Kyoko Tokuno
 鯉は俳句で好まれる素材ですが、季語にはならないのですね。遊行ゆらゆら、という堂々とした貫禄が錦鯉を思わせます。

親のいてしょうことなしにある秋思   藤井美琴
 秋思の風情を、あっけらかんと茶化す言い回しが親子関係までつながっているのが面白い。

韮雑炊せっせとふっふさびさびと   あさふろ
 さびさび、という擬音は独自のものでしょうか。韮雑炊を一生懸命かきこむ様子が見えます。

集まってないしよの話枇杷の花   せいち
 何の話だろう、初冬の肌寒さのなかで集まっている、わくわくするような、ちょっと背徳的なような。

行く秋や舞茸色の街に雨   ちづ
 舞茸色の街、という意外な形容にびっくり。きのこの無機的で湿っぽいにおいのなか、人を菌と同一視しているような、不思議な感覚のなかで冬が近づいてくる緊張感があります。

愛犬の墓ふくらみて霜柱   伊藤順女
 冷たい霜柱が、かえって墓の存在感を際立たせるという、愛犬への思いの深さも感じられる句。

竹林の中は廃寺やみそさざい   酒井とも
 道具立ては墨絵にしたいような古典的組み合わせですが、竹、小鳥の生命力と廃寺の対比、そして発見がよくみえる構成になっています。

粘稠度減りゆく空や雪迎へ   比々き
 粘稠度という語感がいいですね。乾いていく空の感じがわかりますが、やや説明的な表現かも。

五度失火紅葉且つ散る本能寺   中 十七波
 季語と地名と、パンフレットに書いてありそうな豆知識の組み合わせですが、語彙のチョイスがほどよく、見事に歴史を感じさせる句となっています。

予約済みなのに穴惑いという汚名   柏井青史
 きちんと読もうとするとつまらない言い換え、見立て、に落ちる気がしますが、あえて、もとより冬眠する習性なのに穴惑いなどと人間から名づけられて迷惑がっている蛇自身の独白とみたい。

【選外佳作】

息継ぎをけふも忘れてかいつぶり   紅緒
 忘れちゃ駄目でしょう。とはいえ、「も」が面白いですね。

地下鉄に勾配のあり毛糸編む   じゃすみん
 発見がうまい句ですが、季語との関係がわかりにくい。

光合成する男たちゴルフの秋   短夜の月
 男たちの光合成という見立てが見事ですね。結語がもたつく語感がすこし気になります、「ゴルフの秋光合成する男たち」のほうがよいのではないでしょうか。

首痛し真上ほど濃ゆい秋空   干寝 区礼男
 当たり前だろうと思いつつ、まっすぐな言い回しが力強い。ただ、この語順は「首が痛いので上を向いたら・・・」のような動作の説明にみえます。「真上ほど濃ゆい秋空首痛し」に入れ替えると、景色への発見から進退に戻る日常感覚がとぼけた味わいになる気がします。

叱られておでこから煮る鰯雲   さわいかの
 鰯雲を煮てしまったのでしょうか? なぜ叱られたのだろう? つながりがよくわからないようで、どんどん謎が展開する面白さがありますね。理屈で説明すると面白くはないかも。

てへぺろの準備万全龍田姫   マチ ワラタ
 こういう新語、動作をすぐとりいれてしまう気さくな神さま、親しみが湧きますね。

ガチャガチャガチャ鯛焼街にこぼれ落つ   二百年
 擬音部分を虫の声とみるか、タイヤキをこぼした音とみるか、こぼれ落ちる鯛焼を失敗とみるか、おもいがけない事件とみるか、読者の好意によってSF的な面白い句にも、ガチャガチャしただけのおおげさな句にもなる、という気がします。

草の香に弾みを残し秋の蜂   日根美惠
 作者の細かい発見がひかる句。香に弾みを残し、の表現、草を揺らした動作かととりましたが、ややわかりにくいかもしれません。


2019年11月13日

中居由美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 11月に入り、晩秋の気配が漂っています。このところ、各地の天気が安定している様子でほっとしています。暦の上では立冬を過ぎましたが、まだ日中は暖かい日が多く、今しばらく晩秋の静かな景色を楽しむことができそうです。
 忙しい日々の中でも、限られた時間を大切にし、散歩をしたり、好きな本を読んだりする時間を作っていけたらいいなと思っています。

【十句選】

手から手へ行き交ふお金秋の暮   まつだまゆ
 お金は、人が生きていくうえでなくてはならないもの。そして、取り扱いに注意を要するもの。できれば、手から手へと渡したい。しかし、時代はキッシャシュレス化が進んでいる。「秋の暮」と「お金」だと寒々とした光景だが、手の温もりに救われる。

紅葉かつ散るゆつくりと好きになる   まつだまゆ
 「紅葉且散る」は、紅葉しながらかつ散る様子。これは秋の季語となる。一斉に紅葉する華やかさや激しさはないけれど、静かな自然の営みが、「ゆっくりと好きになる」という下五のフレーズに合っていると思った。

瓢の笛吹けどどこにもなき故郷   たいぞう
 瓢の笛を知人から頂いたので吹いてみた。ヒュー、ヒューと細い音色がする。少しもの悲しい気持ちになった。震災や災害で故郷をなくした方々がいる。故郷を離れ暮らすうちに、故郷に縁故がなくなった人も多いと思う。瓢の笛は、故郷への思いをたぐり寄せる。

秋晴れや抱き付くように墓洗う   マチ ワラタ
 墓はまだ新しいものだろう。抱きつくように、という比喩にドキッとした。普通、墓に抱きつくとは思わないだろうから。故人との関係や、距離感がよく伝わってくる。秋晴れという季語が効いている。

欠席のわけ問はれずにゐる寒さ   けむり
 欠席しますと言えば、理由を問われる。なにがしかの理由を述べ、了解を得ると胸を張って休める。しかし、理由も聞かれないままで欠席するのは、なんだか後ろ暗い。それを「寒さ」と言いとめた。

秋の夕菓子パン下げて無口の子   まるめ
 気になる、うんと気になる。菓子パンを下げた子どもが・・・・。秋の日は短く、すぐ暗くなってしまうだろう。帰る家はあるのか、もしあったとしても、その家で待っていてくれる人はいるのか。菓子パンが夕飯なのか。子どもの心細さが秋の夕暮れに加速する。

人声に溶ける砂糖や秋の暮   酒井とも
 人の集まりは、秋の暮にはいいものだ。秋灯のもとで賑やかもよし、静かもまたよしである。人の声に溶ける砂糖という表現が面白い。

交番にポインセチアの鉢一つ   伊藤順女
 今やクリスマスの飾りとして欠かせないものとなっているポインセチア。緋紅色に色づいた葉(苞)は、華やかである。それが交番に一鉢だけ飾ってある。この交番のありようが伝わってくるようだ。

真つ白な未来予想図文化の日   中 十七波
 真っ白にはこれから何かが始まるという意味があると思った。文化の日だから前向きに。ドリカムの名曲、「未来予想図」では、二人の夢をどんどんかなえていくが、こちらは、今から描いていく素敵な未来予想図なのだろう。

母と子の揃いのスカート秋日和   スカーレット
 たとえば、タータンチェックのスカート。母が作ったスカートのあまり布で娘の分も作った。大人用の良質の生地で作るから、子供服とはいえ、なかなか洒落ている。空気が澄んで、この上もない良い天気の午後、裾を揺らして母子で歩く。眩しいようないい光景だと思った。


2019年11月6日

内野聖子ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 11月になりました。朝晩の寒暖差がまだ大きいためか、体調を崩されている方が多いように思います。(私もですが)そしてインフルエンザの季節もやってきます。皆さまどうぞご自愛ください。
 また、台風19号とそれに続き連続してやってきた台風の甚大な被害や首里城の全焼には本当に心が痛みます。一刻も早い回復を心よりお祈り申し上げます。

【十句選】

前髪も見せてはくれず竜田姫   短夜の月
 竜田姫は秋の女神のこと。今年はいつまでも暑さが続いたので秋の訪れが一際待たれたことでしょう。もどかしい思いがよく表れていると思います。

大夕焼に染められたくて揺れる海   うさの
 ロマンチックな句ですね。最近海辺でとても感動的な夕焼を見ることができたのを思い出しました。「揺れる」のは心象風景なのかもしれません。

アングルの中に夫置く夕紅葉   まゆみ
 紅葉が綺麗で写真を撮ろうとした時に無意識に夫をおさめていたのでしょうか。とても微笑ましい情景です。

人と人引っ張りあって天高し   せいち
 秋晴れの下、白熱した綱引きの様子が目に浮かびます。「人と人」が引っ張り合うという表現が面白い。

秋深し夫婦茶碗の茶渋あと   風子
 さりげない日常の中のふとした気づきを詠んだもの。夫婦茶碗を使ってきたお二人の過ごしてきた時間の長さと重みを感じました。

別々の石蹴り帰る星月夜   マチ ワラタ
 星がとても綺麗で明るい夜だから石を蹴りながら帰れるんでしょうか。別々の石を蹴りながら別々に帰っていくのか、一緒に帰っていくのか、なぜ石を蹴っているのか、などいろいろ想像が広がります。

サウナひとりぽたりぽたりと夜長し   赤橋渡
 「ぽたりぽたり」が何とも言えないわびしさを醸し出しています。夜の長さが独りきりの身に沁むのではないでしょうか。

うずうずと恋せし昔青蜜柑   みなと
 昔の恋と青蜜柑とがちょっと近いかなとも思いましたが、「うずうずと」がどうしても気になりました。うずうずと恋するってどんな感じなんでしょう。

神の留守天地無用の赤い文字   中 十七波
 神の留守とは言わずと知れた陰暦十月、神無月のことですね。神様の留守の不安から「留守神」様も存在するようです。神無月には普段は気にならない「天地無用」の文字が妙に気になるのでしょうか。

人間の光る良心芋の露   紅緒
 人間の良心と芋の露の取り合わせが何とも不思議です。どちらもきらりと光るという共通点はありますね。