「e船団」のドクターがあなたの俳句を診断したものです。

2020年2月26日

内野聖子ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 寒い中にもやわらかな春の気配が感じられるようになりました。世の中は何かと騒がしい出来事が多いですが、季節だけは変わらずに巡ってきてくれて、例えば梅の花の可憐な美しさにうっとりしたり、菜の花の鮮やかな黄色に目を奪われたり、心に明るい光をもたらしてくれるような気がします。
 今回も多くの投句をありがとうございました。

【十句選】

ててててと来て跳ねあげる春の泥   マチ ワラタ
 子どもが駆けよってきたんでしょうか、泥を気にせずに勢いよく走る姿が微笑ましいですね。それを見ている目にも愛情が感じられます。

啓蟄や何かがずれて身悶える   干寝 区礼男
 啓蟄とは二十四節気の一つで、冬ごもりしていた虫が春の暖かさを感じて地上に這い出るころを言います。春めいてきて何かが動き出す感覚を「ずれ」と感じたのでしょうか。「身悶える」が少し強いかなと思いましたがそれに代わるほかの言葉が見つかりませんでした。

寒明の物干し竿に旅鞄   たいぞう
 三橋鷹女の有名句に「鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし」があります。掲句もそうですが、やはり「奪ひ」あうという言葉は、どこか過激さがある言葉です。奪い合っているものが掲句では「豆」ですが、鷹女のように「愛」を奪い合うような光景を詠んだ方が、俳句としてはもっと面白いかもしれません。

立春の空へ背骨を押し伸ばす   古都ぎんう
 冬の間知らず知らずのうちに縮こまっていた身体を伸ばしたくなる気持ちがよく表れていると思います。「背骨」という具体的なことばが効いています。

業少しありてもよろし虎落笛   日根美恵
 「業」の意味は幅広いですが、ここでは「報いを招く前世の行い」という意味に取りました。冬の激しい風が立てる「虎落笛」と「業」との取り合わせと、「よろし」という軽い上から目線が面白い。

甘美なる壁のごとくに春の闇   藤井美琴
 春の夜の少し気怠い雰囲気を「甘美なる壁」と表現したところに惹かれました。早春というよりどちらかというとどっぷり「春」といった雰囲気の中の闇はとても魅力的です。

春霞神の島から立ち上がる   茂
 わくわくさせる旅行会社のキャッチコピーのようです。神の島と春霞がとてもよく合っていて、私も旅をしたいと思いました。私の思う神の島へ。

ひらめいた春の台詞はから揚げに   瀬紀
 調理中または食事中の情景を詠んだ句でしょうか。「春の台詞」がどのようなものであったかはわかりません。が、それを発することなく目の前のから揚げに吸い込まれてしまったのでしょう。ユーモアの感じられる句です。

会釈する挨拶ほどの春の雪   中 十七波
 降ったと思ったらすぐに消えてなくなる、若しくはすぐに止んでしまう春の雪を軽い会釈に例えたところが新鮮でした。会釈だけの挨拶と儚い雪はよく似ていると思います。

取り調べ口を割らない蕗の薹   菊池洋勝
 独特の香りとほろ苦さが春の息吹を感じさせる蕗の薹。取り調べとは穏やかではないですが、蕗の薹を擬人化した着眼点がいいですね。


2020年2月19日

山本たくやドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 先日、勤務している高校の卒業式を迎えました。毎年同じ行事を行っているとはいえ、やはりその雰囲気には感動するものがありました。十代や二十代の成長は本当に早いものですが、そういう姿を見ながら大人の私も、今よりも少しでも成長できたらと思います。
 それでは今週の十句選です。

【十句選】

春を待つ背骨3ミリずつ立てて   短夜の月
 掲句は、背伸びをして春を待ちわびているということか、、もしくは春を待っている間に背が少し伸びたということか。どちらの景で読んでも素敵な句だと思います。また、春への期待感などを、具体的に、そしてピンポイントに「背骨」と注目したことに掲句の良さがあります。

ただじっと地蔵となりて日向ぼこ   まゆみ
 冬鬱という言葉があるように、寒い時期は陰鬱とした気持ちになることが多いですね。そんな時に日向ぼっこができれば、少しは晴れやかな気持ちになると思います。そして日向ぼっこの気持ちよさに思わずぼーっとしてしまい、気が付いたら「地蔵」のようになっていた。これから暖かくなる春の陽気が楽しみになります。

我先に奪ひあふ福歳の豆   すかんぽ
 三橋鷹女の有名句に「鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし」があります。掲句もそうですが、やはり「奪ひ」あうという言葉は、どこか過激さがある言葉です。奪い合っているものが掲句では「豆」ですが、鷹女のように「愛」を奪い合うような光景を詠んだ方が、俳句としてはもっと面白いかもしれません。

風光る生まれながらにして他人   幸久
 「生まれながらにして他人」とは、まさしくその通りではありますが、言われてみて初めて気づく感もあります。あえて「他人」と言ったり「風光る」の季語を持ってきたところに、実は相手との距離感の近さが伺えます。

耳打ちのやうな雨垂れ久女の忌   たいぞう
  とても妖艶さが漂う「雨垂れ」だと思います。これなら雨であっても嫌な気分にはならないでしょう。季語の「久女の忌」との取り合わせも、この「雨垂れ」の妖艶さを増幅させています。

アンテナの群れて何れも恵方向き   素秋
 アンテナが一斉に同じ向きにあるとは、何ともシュールな光景。それが単に気まぐれにむいているのではなく、「恵方」を向いているというのが掲句の面白味を生んでいる。

ぬり絵の輪郭はみ出し春隣   ふわり子
 今年の冬はかなり暖かい日が多かったですが、それでも春が来る期待感は嬉しいものです。掲句の「ぬり絵」もその期待感から輪郭がはみ出してしまったと考えると、季語の「春隣」がよく効いているといえます。

ぶり大根不機嫌なひとほっておく   緑雨
 寒い冬の時期に美味しいブリ大根。私も大好物です。こんな美味しいものを目の前にしてもなお不機嫌な相手ならば「ほっておく」のが一番でしょう。何だかんだブリ大根を食べた後は仲直りしている様子が想像できます。

皸の手がポケットにずんとある   マチ ワラタ
 「あかぎれ」を漢字で「皸」と書くと、より一層、痛さが増しそうですね。冬に悩まされるあかぎれですが、それがポケットに「ずんとある」のは悩ましいことです。その皮膚感覚がよく伝わる一句だと思います。

短日の重機は休日に眠る   吉野利美子
 なぜ「短日」だと「休日に眠る」のかといった因果関係はわかりませんが、重機が止まったままになっている様子を「眠る」と表現したところに、掲句の物語性をとても感じます。


2020年2月12日

秋月祐一ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 私事で恐縮ですが、1年間にわたる就活を経て、新しい仕事に就くことになりました。就職祝いとして、新しいカメラを買いました。こうした新しい日々の中から、どんな句が生まれてくるのか楽しみにしております。この欄の読者の中にも、春から新生活を始められる方がいらっしゃるかと思います。ともに頑張りましょうね。さて今回は、169句の中から。

【十句選】

白鳥の塒へ奇数偶数と   太郎
 夕映えの湖から、白鳥たちが塒(ねぐら)へと飛び去ってゆきます。奇数羽飛んで、次は偶数羽飛び立ちました。簡潔な描写から、句の前後の光景が浮かび上がってきます。

手をかざすと水が流れる大試験   うさの
 「手をかざすと水が流れる」の代表格は、トイレではないでしょうか。季語「大試験」との取り合わせで、試験前の緊張感や、無事に用を済ませた安堵感が伝わってきます。

うずうずとセル画のミッキー春兆す   素秋
 セル画に描かれたミッキーマウスが、今にも動きだしそうに感じられる春の兆しのみえた日。この句は、内容のみならず、韻律的にも「うずうず」していて、楽しくなります。

融通の効かぬわたしや猫柳   百合乃
 「融通の効かぬわたし」も、やわらかな「猫柳」と取り合わせると、かわいらしく思えてくるから不思議です。「わたしや」という切り方にもユーモアが感じられます。

「成り立て」と言訳したる雪女郎   ちづ
  「成り立て」は、雪女郎に成り立ての意と読んでみました。雪を降らせたり、人を凍らせたりする術をうまく使えず、言い訳をしてる雪女郎が、おかしくて、かわいい。

函にいまとうみんちゅうと注意書   石井カズオ
 「いまとうみんちゅう」という仮名書きが効いてますね。子どもの手書き文字を想起させます。函(はこ)の中で眠っているのはなんでしょうか。カメ、カエル……それとも?

出番です起きてください蕗の薹   瀬紀
 「出番です起きてください」と誰かが誰かに言ってるその傍に蕗の薹(ふきのとう)が生えてるとも、蕗の薹に「出番です」と呼びかけているとも取れる面白さがあります。

きさらぎは尖っていいの幸せも   瀬紀
 きさらぎ(旧暦二月)はとがっていていいの、幸せもまた、という不思議な句。自分でこんな風に感じたことはないのに、つい納得させられてしまいます。句の力でしょうね。

初対面の犬股間嗅ぐ春隣   まこと
 春はすぐそこまで来てるという頃、散歩中にはじめて会った犬同士が、股間のにおいを嗅ぎ合っています。こういう時に、飼い主たちはどういう顔をすればいいのかしら。

日脚伸ぶ短編アニメを見し後に   意思
 冬の日の午後に、映画館で短編アニメを見終わっても、表はまだ明るかった。日脚が伸びてきたんだなあ、と感じている句。「短編アニメ」という語の選択が巧みですね。


2020年2月5日

須山つとむドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 新型コロナウイルスの感染拡大がとても心配。くれぐれもご自愛のほど お祈りいたします。例年のごとく、味噌造り(晩冬の季語)の米麹と大豆が我家に届き、ほっとしています。
 さあ、どんな俳句、どんな季語と出会えるのでしょうか。

【十句選】

雪もよひ一人でできた逆上り   たいぞう
 雲が垂れ込め、後ろの山から胴鳴りが聞こえる校庭。繰り返しくりかえし練習をする少女の上体が鉄棒を捉え、遂にお尻がクルンと一回転。逆上り成功。雪雲の間から太陽が覗いた。

春どなり大ハンガーにバスタオル   酒井とも
 物静かな家の物干場に、バスタオリがずらりと並べて干された。春隣の着眼点は新鮮だが、『大ハンガー』には推敲の余地も。駄句を一句 <春どなりずらりロープにバスタオル>

安産の祈願の絵馬や日脚伸ぶ   まこと
 お正月が過ぎると、絵馬堂に安産祈願の絵馬が増えてくる。心を和ませながら、一枚いちまいの絵馬に目を通していると、傾いた日差しが背中の方から、この体まで温めてくれる。

三寒の寒の飛びとび脚線美   藤井美琴
 三寒四温。この季語を口にする時の寒暖のリズム感と、声の響きの快感。それらに着目した意欲作。庭に設えた飛び石を伝い、美脚のギャルが飛び歩く、そんな景まで連想される。

末黒野に手つかずの岩絵の具撒く   ふわり子
 信じていた東洋画の才能を断念した若者が、粘りつくようにして大地に立つ。焼きつくした春野を黒々と広がる土のうえ、水にも溶けないかたまりが、鮮烈な群青色を放つ。

春隣こんなところに行列が   樋口滑瓢
 見過ごしていた場所にふと、春の兆しを見つけた喜び。でも、類想や類型の句と既に出会ってはいないか、要注意。 <こんなところにも行列>と、句またがりで驚きを強調するのも。

大寒の雨の静けさジャズピアノ   伊藤順女
 雨に暮れる大寒の一日、ピアノジャズを聴いている。 誰の? 何処で? と、心をくすぐられる景。とりわけ、ジャズと静けさとを取り合わせ「憎っくき」サウンドが床を這う。

薪ぐいと倒れ火を吹く春近し   中 十七波
 薪が倒れるのは何処? 焚き火、囲炉裏、薪ストーブ、暖炉・・? 『ぐいと倒れる』『火を吹く』などとダイナミックな描写をさらに工夫して、情景が誰にでも見える句にしたい。

蝋梅や洗い晒しのスニーカー   彩楓
 春が動き出すとスニーカーの出番だ。里山に近いこの街で蝋梅の盛りは冬のおわりの今。垣根に干したスニーカーが、蝋梅の木漏れ日を体いっぱいに受けとめている。

初曇りのち晴れの一日牡蛎食べる   意思
 曇りのち晴れ。絵に描いたように変わった天気で、冬の一日は暮れた。こんな日のため、タルタルソースと牡蠣フライが待っている。だから下五を『牡蠣フライ』で切る。

【注目した五句】

ブランデー多めの紅茶冬星座   古都ぎんう
 天頂の冬の大三を指で追う庭先。薄く開けた窓から、家族の団欒とブランデーの香りが。

趣味問われ焚火と答えまた黙す   日根美惠
 薪の火が爆ぜるロッジの暖炉。少人数のペアの姿が。下五は『黙しおり』などと切りたい。

大寒のハニーカステラ真っ四角   茂
 真っ四角に切られたカステラ。この形、潔く生きようとする、彼女の後ろ姿そのもの。

欠餅暖簾山海珍味色数多   谷あやの
 カキモチ(冬の季語)で始まる色のモザク。下五は凡庸。<冬の虹>などと説明調を脱して。

おでんの具あるちんぼるどなら飾る   マチ ワラタ
 おでん屋に掛かるアルチンボルドの奇妙な額。客の多くがこの絵で芋の煮っ転がしを注文。


2020年1月29日

星野早苗ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 薬師寺に初写経に行って来ました。
 丁子を舌下に含み輪袈裟を首に掛けて、般若心経を写し書きします。普通の方の倍の時間がかかりましたが、書き終えると爽快な気分になりました。御身拭いの済んだ薬師三尊が艶やかで、境内は白鳳時代の空間です。解体修理中の東塔も覆いが外され、西塔と並び立つ姿が見られました。
 さて今回は、169句の中から。

【十句選】

一の午売り切れとなる玉子焼き   みさ
 一の午(うま)は二月の最初の午の日に行われる稲荷神社の祭礼です。その参道で売られる卵焼きが名物なのでしょう。明るい黄色の温かい卵焼きは、春を呼ぶ嬉しいお土産です。売り切れになったことも商売繁盛でめでたく、一の午の賑わいを感じました。

白鳥や入日の紅を失わず   太郎
 水辺の白鳥が冬夕焼けの紅に染まった一刻があったのでしょう。残照の中に浮かぶ白鳥の美しい姿が見えてきました。

人日や体重計に猫をのせ   冨士原博美
 この猫はきっとふくよかな猫なのでしょう。犬も猫も外で放し飼いできない時代、体重管理は買い主がしてやらないといけないのかもしれません。人日が効いていますね。

島時間凍て蝿太き脚を持ち   ちづ
 「島時間」とは南の島ののんびりしたいささかルーズな時間感覚をいうようです。動きの鈍くなった凍て蝿も、逞しい太い脚を持っています。島では蝿もしぶとく冬を生き抜いているのだと思いました。

冬の雨酒場の壁に星の地図   後藤
 酒場の壁に貼られていたのは、星の地図。冬の雨に降り込められた狭い酒場の閉塞感が、そこから一気に星空へ解き放たれたような気がしました。

買初や鍋を一つと衣紋掛   藤井美琴
 買い初めに、鍋と衣紋掛けとはユニークです。生活感が前面に出た買い初めですが、生活の基本は食べることと着ることと教えられました。

鉄棒にひとりあのセーターは兄   鷲津誠次
 冷たい冬の鉄棒には人気がありません。けれども、独りそこにいる人を見つけて、「あのセーターは兄」と断言しています。兄との強い心の結びつき、ブラザーフッドを感じました。

初氷炎のようなスニーカー   干寝 区礼男
 初氷に映った真っ赤なスニーカーなのでしょう。寒い朝の紅一点に、燃焼のエネルギーを感じたのだと思います。「炎のようなスニーカー」がいいなぁと思いました。

行き先の雪に隠れるバスに乗る   マチ ワラタ
 雪が積もって行き先表示が見えなくなったバスが来ました。けれども、いつも通り目的地に着くことを疑わず、平気でバスに乗り込んだのですね。少々の雪ではびくともしない雪国の生活が垣間見得たような気がします。

初夢を覚えてなくてほっとする   紅緒
 夢を叶えたい、夢が叶う、などとよくいいますが、現実世界に戻ってこられて安堵するような夢もありますね。初夢の中で、一体何が起こったのでしょうか。

【その他の佳句】

哲学の話が楽しおでん鍋   緑雨

風花や今僕たちにできること   幸久

五拾年連れ添う後の冬薔薇   茂

あどけなき衛兵拭ふ水つ洟   古都ぎんう

通販の花のカタログ春隣   百合乃

税関をするり真冬のサングラス   素秋

やさしさのままに老いゆく雪だるま   せいち

雀にも顔覚えられ寒施行   石井カズオ

初旅や山手線のひと回り   まこと

独り居のラジオ選局凩す   みなと



2020年1月22日

谷さやんドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 今年の読初は、『井上ひさし ベスト・エッセイ』(ちくま文庫)でした。中に「意味より音を」というエッセイがあって、こんなことが書かれていました。
 「ぴちぴちしたコトバは意味よりも音の響きを大切にしたものであり、ぱさぱさしたコトバは、どちらかというと意味を重視したもの、といえるのではないか」と。そして「重厚な力作」とか「堂々たる大作」などと称えられる作物はたいていぱさぱさと乾燥した死んだコトバが羅列されている、と断じています。エッセイの最後は、コトバの音としての機能を意味と同じくらいは重んずることが、小説や戯曲の死語の氾濫を防ぐ有力な便法のひとつ、と締めくくっています。
 長い小説・戯曲で音を重視することが大切なら、十七文字しかない俳句は尚更、意味を追求する余地など無い事を再認識されられた気がしました。わかったつもりでも、油断するとにょきにょき顔を出そうする意味や思いを、解消しながら句作を続けたいと思った年頭でした。

【十句選】

二円切手ていねいに貼り春近し   まつだまゆ
 「二円切手」は、私のまわりの句会にもよく出てくる。この句は、意外にも素直な心で値上げを受け入れていることに意表を衝かれた。腹を立てていない。皮肉もない。私は、面倒くさいのとまたかと少し怒っているが、この人物は「ていねいに」貼っている上に、春が近いと感じている。のびのび育ったのでしょうか。少しの反省と感心しきり。

腕利きの猟師着そうな革コート   うさの
 革コートを探しているのだろうか。ブティックかあるいはネット通販の画面で行き当たった物に目が止まった。肩の怒った厚手のものを想像するが、ただ漁師ではなく「腕利きの」とまで言及したのが良かったのではないか。まさか買ってはないと思うが。

花びら餅自惚れさんにはクレラップ   短夜の月
 正月のお菓子、花びら餅。煮た牛蒡と白味噌餡が餅にくるまれている。四国・松山ではあまり身近でない。京都の名産らしい。写真を見て、是非食べてみたいと思った。可憐な花びら餅に「自惚れさん」とささやいて、クレラップをかけているさっぱり感が気持ちいい。

湯気の立つベビーカステラ初戎   たいぞう
 露店が出て入れば、必ず見かけるベビーカステラ。私は一度も買ったことがないが、湯気が立っていればきっと食べたくなる。「ベビーカステラ初戎」の響きとリズムも良い。

冬雲の窓鳥籠の青い鳥   古都ぎんう
 窓枠の中の冬の雲が今、青い鳥のように幸福の象徴のように浮かんでいる、という気分になっているのだろうか。窓の寒色と鳥の青さのきわどいバランスに惹かれた。

年新た如何にせんとは母のこと   藤井美琴
 「短夜や乳(ち)ぜり啼(な)く児(こ)を須可捨焉乎(すてつちまをか) 」を思い出した。竹下しづの女のこの句は、夜泣する子どもを持て余して思わず出たセリフのようだが、藤井さんのは、老人版。老いた母親のことで頭を悩まし始めている人物を描いている。新しい年の、身につまされる一句。

冬温しおんぶ抱っこの父登園す   北川
 大寒を前にようやくそれらしい寒さになってきたが、今年は暖かい冬だ。二人の子をそれぞれ、おんぶと抱っこで子どもを預けに行く父親。これから仕事に行くだろう父は大変だが、体はきっと子どものおかげで、温いはず。

凍蝶のゆくへシナプスがつながらぬ   いづみのあ
 「凍蝶のゆくへ」で切れている。シナプスは日本語大辞典(精選版)によると「ニューロン間の接合部。神経細胞の神経突起が他の神経細胞に接合する部位をいう。(中略)そこでは興奮は一方向にだけ伝達される。」とある。難しい。気になる凍蝶の行方と繋がらないシプナスを繋げた、混迷の一句。

湯豆腐はたぶん寒がりなのだろう   後藤
 湯豆腐が寒がりだといわれ困惑した後、可笑しくなった。私は、お湯の中で震える豆腐の姿を思い浮かべた。沸かすほどに揺れる豆腐。寒がりだからなかなか震えが止まらない?。呑気で意外な思いに目を丸くした。同じ作者の「冬なのにゆうれいがいて会釈する」も、会釈するのがちょっと変で、可笑しい。

書初の手本の銘酒ラベルかな   紫
 さまざまな字体で、酒の個性や旨さを演出する銘酒ラベル。書初めの手本だというのがいい。書き上げた後の一杯も楽しみ。

【気になる句】

ベジタブルスープのやうな初音かな   せいち

女正月メンズスタッフ清掃中   酒井とも
 季語の「女正月」と「メンズスタッフ」の意図が見えすぎるかもしれません。リズムはいいと思いました。

一月のタオルを嗅いで大人です   さわいかの
 一月のタオルがどんな匂いなのか、どうして大人なのか。わからないけど、とても変な句で気になりました。

直帰日の吹雪と君を抱き寄せる   うさの
 「直帰日の吹雪」がいいですね。ただ「と」の繋がりが分かりにくくないでしょうか。

母、叔母とショートHOPEや女正月   鷲津誠次
 「、」で繋げても悪いことはないですが、「母と叔母と」と字余りでゆったり読んでもかまわないと思いました。


2020年1月15日

久留島元ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 松の内も過ぎ、平常モードになってきました。
 こちらのクリニックも6月の「船団」解散まで半年弱ですが、よろしくお願いいたします。
 正月をはさんだ今回は167句の投稿がありました。
 やはり日本人にとっては年末年始が大きなイベントとなっているせいでしょうか、「めでたさ」や「にぎやかさ」がメインになりがちで、意外性を出すのが難しいかもしれません。今回の投稿も、同世代との新年会、孫の言葉、おせち料理、年末年始のニュース報道など、それぞれの人にとっての「お正月」を説明しただけ、という句が多かった印象です。そのなかでいくつか目にとまったのは、お正月でも直面せざるをえない、重さをかかえた句でした。
 さて、オリンピックイヤーで盛り上がる(予定の)今年は、どんな一年になるでしょうか。

【十句選】

褒められてふふっと白菜真っ二つ   百合乃
 これは気分のよい句。ふふっ、のはにかみから、真っ二つ、の潔さもいいですね。

冬夜割るごとくぷちゅりとがんもどき   藤井美琴
 「がんもどき」をおでんの傍題で季語ととなると季重ねになりますが、がんもどきのあの感触をいうのに「ぷちゅりと」、なかから「冬夜割る」と言い止めたのはなるほど。

コロコロとロとロとゾロ目寒昴   あさふろ
 双六あそびの一場面でしょうか、あえて正月のめでたさではなく、寒風ふきすさぶ賭場のような趣もあります。

ぬばたまのプルトニウムのねむる冬   樋口滑瓢
 ぬばたまの、は闇にかかる枕詞ですが、電力や戦力の基底に原子力を抱えた日本の、そして世界の冬を思うに、実にうまいと思います。

どんどいま闇に炎をぬりたくる   大塚好雄
 性急な上五から、口語で散文調子の中七下五で、どんど焼の勢いが伝わります。

数へ日や外の薬舗にない薬   菊池洋勝
 年末の少ない日を数えながら、薬に頼らざるを得ない生活を思い返したり、思いやったりしている。この薬がどういう薬かわかりませんが、しんみりと作者の環境が思われます。

赤丸で祝日にする女正月   紅緒
 女性に休みを。大事です。

枯木かな炎の時代なのだから   干寝区礼男
 燃えていく、という危機感、焦燥感でしょうか、それとも自分自身が燃やされるのか。荒涼として、しかもこれから激しい変化のあることを予感させる、不気味さを感じます。

嘘も熟れ食べごろとなる冬苺   瀬紀
 やや説明的な語調ながら、惚けたお茶目な味わいもある一句。

銀の目で八方睨む田作りや   まるめ
 実景が浮かびますね。同じ作者の「田作りや付かず離れず年を越す」も、付かず離れずの描写が、ごまめにも合い、またおせちを食べている家族の空気にも合い、よい句と思いましたが、年を越す、は季語の重複かもしれません。

【選外佳作】

金箔のきらりほらりと雑煮椀   茂
 「〜の、○○と」という構文は、やや説明的になりがちです。「きらきらほろり」など思い切ってオノマトペだけにしても充分伝わります。

兵馬俑廃線に立ち枯野星   酒井とも
 かっこいい句ですが、五七五がややバラバラという印象です。廃線に兵馬俑が立つことってあるでしょうか。

雪兎株式会社足跡課   干寝区礼男
 いったい何をしている会社なのか、不思議で、楽しい。

おでん酒あれは本音だったのか   彩楓
 よくあるお酒の風景ですが、舌足らずな破調で貫いたところにやや切迫感出ています。

晦日雨演歌ながるるビルの底   中 十七波
 こちらもありそうな、まさに「演歌」調の句ですが、「ビルの底」という表現がいかにも寂れたスナックの感じ。

メンソール煙草の匂い雪女郎   マチ ワラタ
 こちらも寂れたスナックが似合いそうな、かっこいい雪女郎。


2020年1月8日

中居由美ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 お正月気分も抜けて、世の中はどんどん動き始めています。今年は、東京オリンピックがあり、今から期待でワクワクしています。子どもの頃、東京オリンピックの映像を白黒テレビで見た記憶がかすかにあります。自国での開催を二度見ることができる幸せを感じています。
 今回もたくさんのご投句を頂きました。ありがとうございます。

【十句選】

落葉してさよならはわたしが決める   短夜の月
 はらはらと舞う美しい落葉。春の芽吹きから生命力漲る夏、秋の紅葉までのドラマは、最終章を迎えようとしている。転じて、中七、下五で、人間の生身の声が生きている。

冬ぬくしパン屋のならぶ京の街   古都ぎんう
 古都、京都にならぶパン屋さんの賑わいが見えるようだ。パンの焼ける匂いは、行き交う人たちを幸せにしてくれる。季語「冬ぬくし」が効いている。

数え日を使い切るためある手足   藤井美琴
 年も押し迫ると、切迫感が募り、あれもこれもとジタバタするのは毎度のこと。安堵のもとで新年を迎えたいのは、誰しも同じだろう。そのために手足があるという発見が面白い。

夜学の師ジャージの袖のチョーク跡   ふわり子
 夜学の先生について、多くを語らなくても、「ジャージの袖のチョーク跡」という情報だけでいろいろなことが想像できる。たとえば、山田洋次監督の映画「学校」。西田敏行さん演じる黒井先生のような教師の姿を連想した。

日脚伸ぶまだ世に紙がありし頃   幸久
 これは、未来を詠んだものだろうか。未来には、紙などなくなってしまうのか、と思うとなんだかわびしくなる。未来の世界にも「日脚伸ぶ」という季語が残っていますように。

サボテンに名前を付けて冬麗   ちづ
 サボテンの種類はさまざま。さぞや名前をつけるのは楽しいことだろう。奇想天外な名前が似合うかも。小さなものと交信する心に、詩は生まれるのだと思う。

冬銀河アラビアンナイトの長さとも   中 十七波
 冬の星々の光の鋭さは、果てしなく遠い宇宙へと、想像を誘う。その遠さをアラビアンナイトの長さと捉えたところが面白い。アラビアンナイトの数々の物語が句の背景を彩っている。

待たされて読む極月の週刊誌   中 十七波
 「極月の週刊誌」がいいと思った。読みたくて読んでいるのではない。心ここにあらず。待たされているいらだちが、よく伝わってくる。

姉走り妹走る奴凧   伊藤順女
 姉妹の仲の良さ、すぐに姉の真似をする妹の可愛らしさ。リフレインが俳句のリズムを生み、生き生きとした一句となった。

大きめの楽器の切手クリスマス   紅緒
 「大きめ」がやや曖昧なので、言い切ったほうがいいかもしれない。楽器のデザインの切手とクリスマスの取り合わせ、いいと思う。


2020年1月1日

内野聖子ドクター : 今週の十句  (到着順)

【はじめに】

 みなさま明けましておめでとうございます。
 昨年は多くの投句を本当にありがとうございました。とても励みになりました。  今年も最後までどうぞよろしくお願いいたします。

【十句選】

極月の街に人待つ人と人   二百年
 「人」という漢字が三つ入っているだけで年の瀬の人出の多さが目に浮かびます。どこで切るかで意味がそれぞれ変わってきて面白いと思いました。

風邪気味の君のLINEの誤変換   まつだまゆ
 普段はあり得ないような変換ミスをしていて変だなと思ったら体調不良だったということでしょうか。ふとした日常生活の中の発見ですね。

冬の月齧ればブルームチョコの味   短夜の月
 ブルームチョコレートとは、表面が変質して白く固まったチョコレートのこと。月の味がブルームチョコの味だという発想が新鮮でした。冬の月はどちらかというと白っぽく見えることがあるのでそこからのつながりかもしれませんね。

鮟鱇の負けを認めぬ面構へ   たいぞう
 鮟鱇の強面な感じがよく表されていると思います。グロテスクな見た目に似合わず鮟鱇はいい味出しますよね。

公園の三角四角冬の空   古都ぎんう
 公園が三角で冬の空が四角なのか、公園が三角で四角なのか。円形のものがないのが冬の寒空をいっそう際立たせています。

一晩に一粒冬の星甘し   あさふろ
 絵本の世界のようです。冬の星が甘いという意外性が面白いかなと思いました。

黄昏の齢にきらり冬銀河   茂
 歳を重ねると色々不都合も出てくるけれど見方を変えると良いこともたくさんありますよね。冬銀河の美しいけれど、少し明るさが弱いところが「黄昏の齢」にマッチしていると思います。

冬北斗スタートライン蹴り上げる   干寝 区礼男
 冬の澄んだ空に輝いている北斗七星は星空の案内役の役割も果たしているそう。躍動感のある言葉との取り合わせが意外でもあり、合ってもいるような魅力的な句です。

枇杷咲けり付かず離れず祖母の家   中 十七波
 「付かず離れず」というこの程よい距離感が心地良いのかもしれません。実感としてもわかりやすく、祖母宅に咲いているのであろう枇杷も然り。

風花やできそこないの世界でも   幸久
 「風花」というはかなくも美しい光景から一転して「できそこない」というネガティブな世界が待っています。ただ救いようのない感じではなく雪はひらひらと何処にでも平等に美しく舞うのです。