言葉を探る−バックナンバー
月刊「e船団」 「香りと言葉」2010年8月号


古田尚子選「香りの俳句」

(「言語と交流」第10号)より)
新年の香りの俳句 
 唐招をつつむ初日の匂ひかな 松瀬青々
 年礼に来し木匠の木の香する 山口誓子
 年玉の手拭の染め匂ひけり 久保田万太郎
 教へ子に逢へば晴れ着の匂ふなり 森田峠
 庭の松焚きかぐはしき初湯かな 山口青邨
 水ひびく闇匂やかに年たてり 西村博子
春の匂いの俳句  
 ビル街の風匂わせて黄砂降る 三宮摩由子
 独活きざむ白指もまた香を放ち 木内影志
 苗木市山の匂ひの樅を買ふ 小林黒白礁
 降りいでし雨香ぐはしき業平忌 平沢美雪
 この匂藪木の花か春の月 芥川龍之介
 梅見にゆく日を待つすでに馥郁と 谷野予志
 初鮎の香りの皿に残りけり 勝亦年男
夏の香りの俳句 
 方丈に今とどきたる新茶かな 高濱虚子
 廊下まで匂ふ楽屋の菖蒲風呂 片岡我当
 花栗のちからかぎりに夜もにほふ 飯田龍太
 手花火の香の沁むばかり夜の秋 中村汀女
 蟻入れて終夜にほへり砂糖壷 森 澄雄
 風薫る5月を病みて知りにけり 斉尾八重子
 日盛りや松脂匂ふ松林 芥川龍之介
秋の香りの俳句 
 菊の香や奈良には古き仏たち 芭蕉
 松茸の山かきわける匂ひかな 各務支考
 いと淡き残り香秋の扇にも 松岡悠風
 月清ら清らに匂ふ落葉かな 芥川龍之介
 蕎麦よりも湯葉の香のまづ秋の風 久保田万太郎
 みじろげば木犀の香のたちのぼる 橋本多佳子
冬の香りの俳句 
 炭おこり来るひとすじのあたたかさ 中村汀女
 芹焼いて香を走らする雪夜かな 大野林火
 冬山の日向ひかげの檜の匂ひ 金の尾梅の門
 稽古着の紺が匂ひて雪晴れぬ 古賀まり子
 冬布団妻のかをりは子のかをり 中村草田男
香水、舶来の香り 
 香水やうちとけがたく美しく 寺田青瓜
 香水の香ぞ鉄壁をなせりける 中村草田男
 香水の香にも争う心あり 高浜虚子
 香水の香のそこはかとなき嘆き 久保田万太郎
 背信といふ香水のひとしずく 織部京
 あねいもと性異なれば香水も 吉屋信子
 合の宿お白い臭き衾かな 夏目漱石
 葉巻の灰おとす暮春のセーヌかな マブソン青眼

〔参考文献〕
古田尚子著「香りと異文化・香りと俳句」(「言語と交流」第10号、2007年6月)(明きらかな間違いは訂正しました)

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