この一句・2003
2003年3月29日

菜の花の遙かに黄なり筑後川  (季語/菜の花)

夏目漱石

 明治30年の3月末から4月に至る日に、漱石は久留米のあたりを旅した。熊本の第5高等学校に勤めていた漱石は、春休みを利用して小旅行を試みたのだ。今日の句はその旅で作った1つ。広々とした気持ちのよい風景だが、旅する作者も心を広く開いているのだろう。「筑後路や丸い山吹く春の風」も同じときの作。
 この春休み、私はもっぱら漱石と付き合って過ごしている。岩波新書『俳人漱石』を書いているのだ。漱石の100句を取り上げ、漱石の句の魅力を示そうとするものだが、実に楽しい仕事になっている。それというのも、叙述の仕方にある楽しい工夫を思いついたから。その工夫は今はまだ秘密だが、書くことが楽しくて仕方がない、という久しぶりの思いを味わっている。新書は初夏に出る予定だ。
(坪内稔典)


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