この一句・2005
2005年3月2日

一列に乾く雑巾山笑う    (季語/山笑う)

中原幸子

 雑巾をたくさん、一列に干している。学校とか寮のような場所だろう。干した雑巾の彼方で山が笑っている。雑巾と早春の山の取り合わせだが、その平凡さがいい。確実に春がやってきている、という感じがする。この句は「船団」62号の「一日一句」から引いた。明日3日の幸子の句は「春昼のついでに靴を洗いけり」だが、これはやや平凡か。
 3月になって気分が軽い。私は春が好きなのだ。霞が棚引いたり、朧になっているのがよい。物事がぐにゃぐにゃした感じが好ましい。そういえば、その感じって、内田百閧フ描く世界に近いだろうか。たとえば、「東京日記」や「サラサーテの盤」、あるいは「柳検校の小閑」などの世界だ。日常のいろんな区切りや境界があいまいになった世界だ。私の場合はぐにゃぐにゃになった世界が好き。
(坪内稔典)

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