この一句・2005
2005年5月16日

茎右往左往菓子器のさくらんぼ  (季語/さくらんぼ)

高浜虚子

 山本健吉の『定本現代俳句』(1998年)から引いた。健吉はこの句が俳人たちが会した席での即興の句であることを指摘し、「このような特殊な共同経験と共感とを基礎にした作品は、やはり普遍的な芸術とは言えない。自己満足の色が、あまりに濃厚なのである」と手厳しい意見を述べている。でも、これほど単純にさくらんぼの楽しさをとらえた句は珍しいのではないか。右往左往する茎には、その菓子器を囲む人たちの楽しい気分も感じられる。この句が「茎」から始まっているのは、その茎に手を出したい気分があるから。つまり、早く手をのべて食べたいのだ。
それに、さくらんぼの茎が勝手に「右往左往」しているという擬人化もこの句の楽しさを強調している。
(坪内稔典)


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