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言葉を探る−バックナンバー
月刊「e船団」 「香りとことば」2020年6月号

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では、おいしく!

 いよいよ最終回、ほんわかとおいしく終わりたい、と願っていましたが、世はコロナ一色、地球全体が魔の迷路に踏み込んだ感じ、「コワイ」のひと言ではすまされない事態に陥っています。

 そして、私にとって悲しいことがもう一つ。
 実は、「コロナ」って、私の大好きな言葉の一つなのです。広辞苑では、
 コロナ【corona】
〔天〕太陽大気の外層。皆既日食の際、太陽の縁から四方にぼやけて見える真珠色の淡光。その全光度は満月の約半分。内部コロナは100万度の自由電子が散乱する光で、X線や電波も含む。(以下、略)


 とあり、美しい写真を見たことがあるだけで、ホンモノはみたことがない。いつか見てみたい、と思い続けているコトバだったのです。
 そして、怖れていた通り、「新型コロナウイルス」は「コロナ」と略され、今や、「コロナ」と言えば「新型コロナウイルス」を指すようになってしまいました。
 ヒトの営みのすべてを犠牲にして感染対策に必死のなかで、こんなことを考えているなんて、と気が引けますが、コトバにも人生(?)があるとしたら、コロナというコトバがコロナに罹ってしまって重態に陥った、というところでしょうか。

 とはいうものの、e船団の「月刊」コーナーは今月が最終回、最初の「ことばを探る」が60回、この「香りとことば」が前回までに167回ですから、これが168回目、通算228回目です。
 先月、最終回はうま味の現状に迫らないと……、なんて、自信も無いのに書いたのですが、まるで神さまがそれをご覧になってたに違いない、という本が2冊。


 左が『食の歴史』(1)、右が『人体 5億年の記憶』(2)です。
 「うま味の現状に迫り」たい、という、その本心は、いったい、人間って、いつ、どんなきっかけで、「わ、ウマイ!」と言ったのかを知りたい、ということでしたので、それを見透かされた感じだったのです。
 ヒトは、いつ、どのようにしてうま味に目覚めたのか、というか、「味」ってものを知ったのか、それが分かりやすく書かれてることを期待して、すぐさま、この2冊をアマゾンで買ったのでした。『人体……』の方の表紙の人体の真ん中に見える青い線、これがカバーに切り込みを入れて、本体の表紙の青が覗いている、という仕組みになっていて、そうか、解剖を表しているのかも、と思ったり。

 で、中味ですが、残念ながら2冊とも索引が付いていなくて、「うまみ」を索引で探す、というズボラは許されませんでした。これからの宿題としてず〜っとつき合っていくことになるのでしょうね。
 でも、取り敢えず、こんな記述を見つけました。『食の歴史』340ページ、付属文書として付けられている、「食の科学的基礎知識」の冒頭です。

 味覚
 われわれが味の種類を明確に定義するには、2000年ほどの歳月を要した。
アリストテレスは味を七つに大別した。心地よい味(甘味)、不快な味(苦味)、荒さ、塩味、鋭さ、厳しさ、酸味である。この定義は二〇〇〇年近く続いた。
 一八世紀末、ニコラ・ジョリクレール〔フランスの植物学者〕は、味を一〇種類に分類した。無味(水っぽい)、乾いた味、甘味、こってりした味、粘り気のある味、酸味、塩味、ピリリとする味、苦味、厳しい味である。

(中略)
 一八六四年、ドイツの生理学者アドルフ・フィックは味を、甘味、塩味、苦味、酸味の四つに大別し、これら以外は四つの味の組み合わせだと主張した。
 一九一四年、化学者ゲオルグ・コーンはこれら四つの味を形容するのに「gout:味覚」という用語を用いた。一九〇八年、日本の化学者の池田菊苗は五つめの味を「うま味」と名付けて区別した。


 やっと、「うま味」にたどりつきました。で、先月お話しした二〇〇四年の「うま味レセプターの解明、となって、めでたく五味が確立、というわけです。

 それから、これは、私のごく個人的な事情から興味を引かれたのですが、328ページに、こんな記述がありました。

 ゆっくり食べる
 ゆっくり食べるとは、時間をかけてよく噛んで食べることだ。これには二重の利点がある。
 ゆっくり噛んで食べると、摂取カロリーは最大で一五%減り、歯を健康に保つことができる。そして時間をかけて食べると、胃から脳へ摂取した量を伝達する時間的な余裕が発生するため、食べ過ぎを防ぐことができる。


 やった! って感じでした、これ。わたしは食べるのがノロいんですが、大勢の中で、一人だけ遅いと、なんか悪いことをしてるみたいで、気が引けて、いつも、まだおなか一杯になってなくても食べるのをおしまいにする習慣が身についてしまっているんですね。でも、これからは胸をはって、「早飯」の人に「ゆっくり食べる」ように教えてあげることにしましょう。

 と、いうわけで、味覚の話は中途半端なままで、この月刊の連載を終わることになりました。いつか、どこかで、続きをやっているのに出会われたら、お便り、下さいね。
では、いつか、また、おいしく! お会いしましょう。(中原幸子)

【参考文献】
(1)ジャック・アタリ著/林昌宏訳『食の歴史』(プレジデント社、2020年)
(2)布施英利著『人体 5億年の記憶』(海鳴社、2020年)


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