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言葉を探る−バックナンバー
月刊「e船団」 「香りとことば」2018年12月号

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かおれ、ゴマ!

「……。しかし、バラの香りには、他のどの油よりもゴマ油が合う」という文に出合ったときには、ビックリするのも忘れるほどでした。
 わたしは、何か調べたくて本を借りたり、買ったりしたとき、目次からちゃんと見ていくのではなく、まず索引をみて、目的の言葉のあるページへ直行する、というやり方なので、このときも「ゴマ油」の出ている37ページと66ページへ直行しました。その本は『香料文化誌』(1)という本で、37ページではアラビア人による「すばらしいパイ」の作り方が書かれていました。が、そのパイの途方もない大きさにビックリしただけで、さっさと次の66ページに行き、冒頭のくだりに出くわしたのです。
 そうか、アルコールがふんだんに使えるようになる前は、香り成分は油脂などを使って抽出してたのだった、と思い到るのにちょっと時間がかかってしまいました。

 あ、「すばらしいパイ」の大きさですか? そこに並べられている作り方は、

 「精製した小麦粉30ポンドを5ポンド半のごま油でこね、当量に2分する。その一方の上に、ゴマ油とピスタチオ油で揚げた肉と、胡椒、生姜、シナモン、乳香、コリアンダーの実、クミンの実、カルダモン、ナツメグなど各種の香辛料とを詰めた丸の子羊3頭を乗せる。その上から、麝香を混ぜたバラ水をかけ、子羊の上に、鶏20羽、鶏の雛20羽、小鳥50羽を置く。それらはあらかじめ焼いて玉子を詰めたり、肉を詰めたりして、すっぱいブドウのジュースかライム果のジュースに浸けて揚げておくかする。次に、沢山の小型の肉パイと、砂糖および砂糖菓子を詰めたパイとを加える。次に、全体を丸屋根型に積み上げ、麝香とジンコウ(沈香、キャラ)の樹脂を混ぜたバラ水をふりかける。次に、こねた粉の残り半分を全体にかぶせて蓋をして焼き、焼き上がったら食べる前にもう一度、麝香を加えたバラ水をかける。」

 というもので、まあ、あまりにも複雑で、深入りしたくない気分です。
 ここで使われている香り関係の材料だけでもひと財産という感じで、このパイ、一切れ、いったいなんぼについたやら。

 で、やっと、ゴマの香りです。
 ご存知のように、ゴマは焙煎することで香りが強くなりますよね?
 ありがたいことに、「ゴマは炒ってからすると美味しくなる」(3)というサイトがあって、そこには、

 食卓に何かもう一品料理が欲しい。そんなとき、ホウレン草のゴマあえはナイスな副菜だ。存在は地味だけど、まさにいぶし銀の存在感。聞けば、ホウレン草以外にも、いんげん、オクラ、アスパラ、ゴボウ、小松菜など季節の野菜をゴマあえにすると美味しいそうだ。
 中国や韓国ではゴマのペーストやゴマ油を利用することが多いが、それらとは異なり、すりゴマを使うのは日本独特の食文化だとか。


 というようなことが書かれているのですが、私が飛びついたのは、この(↓)図でした。

 というのも、ゴマから油を搾るのって、けっこう難儀な仕事らしいのですね。
 ごま油を製造している会社は沢山あるようですが、どうも、「ぎゅうぎゅう押さえつけたら油がしたたり落ちるやろ?」という訳にはいかないようで、どの会社も「うちのやり方が一番だ」というこだわりの絞り方があるみたいなんです。
 それで、いったい、ゴマはどこに、どんなふうにゴマ油を抱いているんだろう、と不思議に思って、せっせと身の回りの本やネットの検索などしてみたけれど、なかなか出会えなかった図にやっと出会えたのが上記の図でした。
 この図によれば、油は中央の「子葉」と内種皮の内側をぐるりと取り巻く「胚乳」の部分に多く含まれている、ということで、つまり、ゴマ油を搾るためには外種皮と内種皮を破って油を流れ出させる必要があることになります。

 じゃ、大豆はどうなんでしょうか? 「すずなのみそを知る!大百科」にはこんな図が出ていて、もう、一目瞭然、この薄そうな皮1枚ならゴマよりうんと簡単に油が搾れそうに見えますよね。って、それは素人考えでしょ! そんな簡単なモンじゃないよ、というプロの声も聞こえてきますが……。


 で、上でご紹介した「ゴマは炒ってからすると美味しくなる」では編集者の質問に「先生」が答える、という形式なんですが、ゴマの香りについてはこんなやり取りです。

――どんな香りですか?
先生 複雑でうまく言えませんが、ゴマらしいいい香りです。ゴマは生の状態だと少し青臭いですが、炒ると香りが変化します。甘い香りのフラン類、ピーナッツのようなこうばしい香りのピラジン類など100種以上の成分によって作られているといわれています。フライパンで炒ると、ゴマに含まれる糖やアミノ酸の成分変化も加わって、香りが立ちのぼってきます。市販の炒りゴマを料理に使う場合でも、最初に数十秒間だけ、ゴマを温めてすると、ふだんよりずっといい香りのゴマあえになります。温めることでゴマの表面の皮の部分が柔らかくなるので、すりやすくもなります。温めるのは電子レンジなどよりフライパンでさっと弱火で温めるのがベストだと思います。


 100種以上もの成分をガスクロマトグラフ法という方法で突き止めたのは中田勇二さん達のグループで、その報告(5)にはこんなガスクロマトグラムが出ています。この沢山の山(ピーク)の1つ1つが香りの成分というわけです。


 100以上どころか、最後のピークのナンバーはなんと171です。
 更に、ピークになっていない微量の成分もあるわけで、いったい、ゴマの香りの成分はいくつあるのやら!!
 なんか、ゴマもいい加減には扱えない気がしてきましたね。ではまた来年。(中原幸子)

【参考文献】

(1)C.J.S.トンプソン著/駒崎雄司訳『香料文化誌―香りの謎と魅力』(八坂書房、2003年)
(2)米澤祥・小野田昭著『油伝説』(ゆうエージェンシー、1997年)
(3)「ゴマは炒ってからすると美味しくなる」(https://www.president.co.jp/family/blog/online/333/)
(4)「すずなのみそを知る!大百科」 (http://miso-sommelier.com/category12/entry50.html)
(5)中田勇二・林寿一・下田満哉・筬島豊著「ごま油香気成分のGCデータの多変量解析」(「日本油化学会誌」第47巻 第3号、1998年)



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