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言葉を探る−バックナンバー
月刊「e船団」 「香りとことば」2017年9月号

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刃(は、やいば、じん)

 8月号で弥生時代の遺跡から出土したやりがんな槍鉋)のことをご紹介しましたら、読者の方からお便りをいただきました。

 2300年前にこんなにも精巧な道具があったとはと、ほんとに驚いてしまいますが、こういう考え方って当時の人たちに対してとても失礼なことですね。人間が進化するとは限らないという事例に日々行きあたっている私たちなのですから。 槍鉋を手に何か削ってみたいです。

 うっ! たしかに!
 そういえば、ヒトの脳細胞の数はずう〜っと同じで、頭のいい人も悪い人も同じで、脳細胞が誰かの脳で突然変異してもう1回細胞分裂を起こしたら、どんな人類になるか予想もつかないらしい、という話を聞いたことが(読んだことが?)ある。(間違ってたらごめんなさい。)
 って、こんな現実的な感想しか出てこない私って、ダメだなあ、と悲観して、でも、ふと、初めてを手に入れたヒトって、どんなにうれしかっただろう、と泣けそうになりました。だって、それまで斧も鏃(やじり)も石だったんですものね。

 8月にご紹介した、弥生時代の遺跡から出土したやりがんなも外国からの渡来品でしたが、と、いうことは、をあれこれいじっていたら刃になった、という感動を経験できていたわけではなさそうなのがちょっと残念、と思う反面、そのころのヒトの交流範囲の広さには仰天してしまいます。
 ついこの間、7月30日にも日曜美術館で「漆 ジャパン 一万二千年の物語」というのをやっていて、このときも、漆は縄文時代から使われていて、しかも、赤い色をつけるのにはベンガラと水銀朱を使い分けていたとのこと。この水銀朱、関東地方では産出しないので、北海道から入手していたという話。「え? 歩いて?」とびっくりしたんですが、縄文時代にすでに関東と北海道の間には交流があったのだそうで……。

 毎度のことながら、驚くべきわが無知に驚き、ネットで遺跡を検索してみたら、なんと、私が住んでいる大阪府茨木市は遺跡の宝庫だということがわかりました。「1970年のコンニチハ」の万博の年から住んでいるのに、ちっとも知らなくて、もう、恥ずかしいったら。
 茨木市にも茨木市立文化財資料館というサイトがあるのですが、それより、この邪馬台国大研究が素晴らしい。是非訪ねてみてください。

 茨木市立文化財資料館は近くなので、ちょっと行ってみました。あ、うっかりタクシーに乗ってしまいましたが、ここは歩かないといけなかったですね。タクシーは1160円でした。これ、証拠写真です。茨木市民は入場無料です。


 旧石器時代のものからず〜っと展示されていて、(やりがんな。ふりがなはついてません)、もあったのですが、残念ながら4世紀後半から5世紀前半のごろのものといわれる安威(あい)古墳からの出土品でした。この古墳には素敵なネックレスやイヤリング、腕輪なんかもたくさん副葬されていたようで、高貴な女性を想像させます。
 ぐるっと見て廻って気づいたのですが、銅鐸なんかは古いのがあるのに、鉄は、精錬するときに出る鉄滓(てっさい=鉄を製錬する際に出るカス)などが見つかるのもだいぶん時代が下がってからのようで、でも、この安威古墳、真っ茶色に錆びて、貫禄十分でした。

 で、とは何か。いつもの日国(1)は、こうです。
 は 【刃】
〔名〕
(1)物を切る道具の、切るための薄く鋭くなっている部分。
*日本書紀〔720〕雄略一三年九月(前田本訓)「覚(おもほ)えずして手の誤ちに刃(ハ)を傷つ」
*大智度論天安二年点〔858〕八「兵の刃(ハ)刀杖」

(中略)
語源説
(1)物を断つところから、ハ(歯)の義〔名言通・和訓栞・言葉の根しらべ=鈴江潔子・大言海〕。
(2)ハタ(端)、またはヒラ(平)、またはハヤ(利)の反〔名語記〕。
(3)ハ(端)の義〔国語の語根とその分類=大島正健〕。


 なるほど。さすが、うまい定義ですね。「物を切る道具の、切るための薄く鋭くなっている部分」なんて。たしかにそうなんですが、こんなときは『字通』(2)かも、と思ったら、なんと、なんと!

 刀の刃部に光のあることを示す字

 と。刃の「ヽ」は光だったなんて。もう、今月の収穫はこれだけで十分、という気分です。刀に光を添えると刃になる。

 『字通』の情報をまとめると、こんな具合です。

 ついでに「」も見てみると、

 さすがに刀は変化のしようがないのか、旧字っていうのは出てません。
 それにしても、刀に光を添えたら刃なんて、なんという表現力というか、想像力の豊かさというか、脱帽の他ありません。

 字通には、刃の熟語として、
【刃下】じんか  白刃の下。
【刃撃】じんげき  切る。
【刃創】じんそう  刀傷。
【刃物】じんぶつ  はもの。
【刃 】じんぼう  切先。


などがでており、また、刃が下に付く下接語として、
握刃 ・懐刃 ・揮刃 ・狂刃 ・玉刃 ・交刃 ・矢刃 ・刺刃 ・執刃 ・尺刃 ・接刃 ・操刃 ・大刃 ・長刃 ・直刃 ・挺刃 ・刀刃 ・白刃 ・伏刃 ・兵刃 ・ 刃 ・鋒刃 ・冶刃 ・遊刃 ・履刃 ・両刃

などが列挙されていますが、こんなところにも刃を手に入れた嬉しさが出ている、と思うのは私のひとりよがりでしょうか? では、また来月。中原幸子

【参考文献】
(1)ジャパンナレッジ(有料)(http://japanknowledge.com.blib-ezproxy.bukkyo-u.ac.jp/lib/search/basic/)
(2)白川静著『字通』(平凡社、1984年)



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