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言葉を探る−バックナンバー
月刊「e船団」 「香りと言葉」2010年3月号

組香のお稽古(2)

 2月は恐ろしいお稽古しました。3月号では、組香のお稽古とは違う話題にした方がいいかと思っていましたが、あまりにも緊張を要したので、もう、誰かに聞いてほしくて。
 「難波香(なにわこう)」というんですけどね。


 5種とも試香(こころみこう)が出るんでしょ?どこが・・・?と思われますよね。
 でも、なんと、記紙(きがみ)を下さらないんですよ、本香を全部聞き終わるまで!
 5種のお香が順番に廻ってきて、その香りを覚えておくだけでも(私には)大変なのに、本香で順不同に廻って来るのを何番目が試香の何番目だったか、アタマの中で照合しながら記憶していかないといけないのです。
 初めの2つほどはまあ、なんとか、「これは試み香の3番目だったな」、「あ、これは2番目だったような・・・」と。3つめぐらいから混乱して来る。さっき覚えたのも・・・インプットしたデータが鼻の中で勝手に交流し始める感じ。聞き終わって、記紙がまわってきた頃には「???」となっていました。

 結果、正解は「三、二、五、一、四」
 私は、「三、二、五、四、一」

 全部正解の方はいらっしゃらなかったので、そして4つ正解はあり得ないので(1つ取り違えると最低2つ間違えるでしょう?)、3つでも一応好成績だったのですけどね。改めて、当たる・当たらない、ではなく、香道は香りを楽しむもの、と入門書に書かれている意味がわかりました。だって、香りを楽しむどころじゃなかったですもの、当てよう、とやっきになっていると。
 さて、それぞれのお香の銘と、執筆が記録紙に書く名、これも銘というのかなあ、を( )内に示すと、下記のようになります。今回は六国も教えて頂きましたので、ご参考に。

 一 (梅): 東山    (寸門多羅)
 二 (桜): 都の春   (羅国)
 三 (橘): 梅の下枝  (真那賀)
 四 (菊): うぐひす  (真那蛮)
 五 (月):  −    (佐曽羅)

 ただ、折角の六国ですが、これまた、実体験がほぼゼロなので、違いがよくわからない。試香が廻ってきたとき、すぐに「あ、これは寸門多羅だ」とか判断できれば、覚えるのもラクだった筈なんですが。少しはお香を手に入れて、せめて基本なりと鼻に叩き込まなくては。

   それにしても、銘をみれば、これも美しく流れるような春の景色です。ただ、難波香、というのに、京の都の景色なのですね。「東山」がなければ、難波宮という想像も出来るのですが・・・。 で、帰ってから本を探してみれば、「難波香」って今回教えて頂いたのとは違う形もあるのですね。『香道』(1)のはこうでした。

 これだと、もろに「難波」ですね。日本国語大辞典』(2)で、まず「難波津」を見てみると、
難波津:
なにわ‐づ
一(一)古代、難波江にあった港。海外との交通が開けるとともに、海路の要港として栄えた。墨江(住吉)の津・大伴の御津などが含まれた。(中略)
*伊勢物語〔10C前〕六六「なにはづをけさこそみつのうらことにこれやこの世をうみわたるふね」
(中原注:「難波津を今朝こそみつの浦ごとにこれやこの世をうみ渡る舟」=「難波津を今朝とうとう見ることになりました。浦ごとにゆきかうこれこそがこの世を海渡る船ですね」)(以下略)。

とありました。他の地名については、こんな風に出ています。

見津浦:立項されていない。また、ジャパンナレッジ(2)の全文検索でもヒットしない。
堀江(ほりえ):大阪市西区の南部、木津川・西横堀川(現在は埋めたてられて上を高速道路が走る)・道頓堀川・長堀川(現在は埋めたてられて長堀通)に囲まれる地域の呼称。江戸時代は木津川口の廻船の発着所で、材木・薪炭の問屋が多かった。元祿一一年(一六九八)中央部に堀江川が開削され、南北に分けられた。
住吉(すみよし):摂津国(大阪府の古郡名。古くは「すみのえ」と呼称され、「すみよし」の呼称は平安初期以降。(「堀江」には「大阪市内を流れる淀川の古称」も出ているが、これは違うでしょう。)
茅渟海(ちぬのうみ): 大阪湾の旧称。特に東部をいう。


 『香道』の「難波香」の項には證歌は出ていないのですが、「難波津」の用例の伊勢物語の歌には「みつの浦」という言葉が出ていますから、「難波津を今朝こそみつの浦ごとにこれやこの世をうみ渡る舟」が證歌である確率はかなり高いのではないでしょうか。「みつのうら」ならば、「御津の浦」として、こんな風に出ていますし。

みつ 【御津・三津】
難波(大阪)の港津。難波の御津、墨江(住吉)の三津、大伴の御津などとも呼ばれた。官船の出入を尊んでいう。御津の浦。御津の埼。御津の浜。


 こちらの「難波香」は、京の東山をめぐる春の風景とは一転して、ややもの悲しい難波の物語になるようです。当然、焚かれるお香の組み合わせも変わってくるのでしょうね。

 そして驚いたことに、『香道 蘭の図』(3)にもあるのですよ、また違うのが。
 こちらは白梅方、紅梅方の二組に分かれて競うのだそうです。他に「競(きそひ)香」(一名競馬香)という、同じく2組にわかれて競う組香も出ています。いつか私も実際に経験できるとうれしいのですが。
 それにしても、同じ名前の組香でも、内容がこんなに大きく違うのですね。流派によってもきっと違うのでしょうねえ。
 それにしても、お香を学ぶネックが記憶力と正座力とは。

 病牀の匂袋や浅き春   子規

   では、また来月。
                         中原幸子

〔参考文献〕
(1)杉本文太郎著『香道』(雄山閣、1969年)
(2)『日本国語大辞典』(ジャパンナレッジ(有料):http://www.japanknowledge.com/stdsearch/display
(3)尾崎左永子・薫遊舎校注『香道 蘭の図』(淡交社、二〇〇二年初版)


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