この欄へのお便りをお待ちしています
言葉を探る−バックナンバー
月刊「e船団」 「香りとことば」2017年5月号

 ※ページが正常に表示されない場合は、こちらを参照してください。

柏餅(かしわもち)

 ひいきの柏餅ってありますか?
 わたしは食べるのも好きですが、田牧大和の「四文の柏餅」も大好きです。
 はじめ、田牧大和って男性だとばかり思っていましたので、女性の、しかもとてもチャーミングな写真を見たときにはビックリでした。でも、どこかで、そうか、女性か、と納得するモノも。1966年生まれだそうですから、50歳くらいですね。

 「四文の柏餅」は2010年4月号の「オール読物」に掲載されました。(1)


 挿絵は卯月みゆき。風窓からもくもくと上がっているのが柏餅を蒸している湯気、覗いている2人がこの小説の主人公、晴太郎と幸次郎です。
 2人の父は「百瀬屋」という菓子屋の主人で、2人が覗き込んでいるのがその仕事場。子どもは厳しく立ち入りを禁じられていましたから、こうやって空樽に乗って風窓から覗いているワケです。
 それが、中で働いていた職人の茂市にバレて、でも茂市は「親方と御新造さんにゃぁ、内緒でごぜえやすよ」と口止めした上で、ちょっとキズがあって売り物にならない柏餅を、そっと手にのせてくれたのでした。

 それから幾年。
 2人の父が亡くなったあと、「百瀬屋」は叔父に乗っ取られ、途方に暮れる兄弟に自分の店を提供し「藍千堂」という名の菓子屋を立ち上げさせてくれたのが、既に百瀬屋から独立して自分の店を持っていた、あの茂市でした。
 晴太郎は菓子さえ作っていれば幸せという職人肌、幸次郎は商才にたけた切れ者で、2人で相補いあって店はホンモノの上菓子屋に育ちつつある、というところです。
 茂市は、職人に戻って、2人にやさしいまなざしを注ぎつつ、店を支える、という役割。

 さて、この「四文の柏餅」というタイトル、実は4文に意味があるのです。  毎年、進物用によく出る1個5文の柏餅を作っている藍千堂なのに、ある年、晴太郎が「今年は4文の柏餅を作りたい」、といい出すのです。経営をあずかる弟はカンカンに怒って反対します。そんな、駄モノを売ったら上菓子屋の看板に傷がつく、というわけです。
 そこを、2人の気性を知り抜ている茂市がみごとにとりさばいて、5文のも4文のも両方作るということで円満解決。
 5文のは、細かく揃った上等の米の粉に、上物の小豆と白砂糖の餡。
4文のは、米も小豆もちょっと品質を落とし、粉もプロに頼まず自分たちで挽き、黒砂糖で味をつける。
 と、決めたところへ、百瀬屋の陰謀で柏の葉を仕入れられなくされてしまうのです!! その危機を、産地へ出向いて直接仕入れてくる、というアイデアで切り抜けて、いよいよ4文と5文の柏餅を売り出します。更に、更に、小豆餡のほかにみそ餡も作ってしまうのです。
 こうして生まれた4文の柏餅。これが安かろう悪かろうの筈はなく、素朴な良さが人気を呼び、とうとう両方を食べくらべるのがちょっとした流行になってしまう、というハッピーエンド。
 このときの柏餅、卯月みゆきの挿絵ではこういう感じです。


 で、なぜ晴太郎は4文の柏餅を作りたかったのか?
 自分が子どもの時に父の柏餅で味わった幸せを、上菓子に手の出ない貧乏な家の子どもたちに味わわせてやりたかったからだったのですね。
 目の回るような忙しさの端午の節句が終わり、一緒に湯屋で疲れを流して、弟の幸次郎も兄の思いに共感するのでした。
 それもこれも、あの思い出があればこそ。挿絵がこんなにも力持ちだったとは!
 私、いまごろやっと挿絵に目覚めた気がします。挿絵って、香りなんですね、こころを立ち上らせる。

 というわけで、私も少し早めの柏餅を食べてみました。
 買ってきたのは、ウチの2階の京菓子やさんの小豆餡3個とみそ餡2個のセットです。この包装、なかなかでしょ!


 中は、みんなおんなじに見えますが、


 皮(?)をむいて半分に切ると、お見事! って感じ。みそ餡のお餅がピンクに染められて、クリーム色の餡ととてもよく似合っています。


 この、餅の歯ざわりがね、子どものころに大好きだったのとよく似ているので、毎年このお店のをいただくのですが、みそ餡ははじめて。なんか、ワケもなく敬遠してたのですが、やっぱり食べ比べてみても、私は小豆餡の方が好きみたいです。もっとも、みそ餡といっても、ほんのりとみそのニュアンスが感じられるだけですが。

 そうそう、お値段のことを忘れてました。小豆もみそも1つ150円+税。
近くのスーパーでは3つ258円+税。つまり1つ86円+税。うーん。江戸では1文の差が、平成では倍? なんで?
 それから、不思議なのが、香り。なんで? と不思議に思うほど、香りがないのですね。もっと、独特の香りがしてたけどなあ、と、思案投げ首デス。
 そういえば、子どものころ食べた柏餅は、2枚のサンキライ(サルトリイバラ)の葉に挟まれていましたが、あれはあの頃もあまり香りはなかった気がします。
 あ、柏もサンキライも輸入品に頼っているとか、それも原因かも。
かしわ餅の柏とサンキライの使用の分布って、誰か調べてるかな、と、ネットで検索してみたら、やっぱり丹念に調べられていました。広島の植物ノートというサイトに「カシワ」が立項されていて、詳細を極めていました。(2)

 相変わらず、モンダイが解決に向かわないままですが、では、また来月。(中原幸子)

【参考文献】
(1)田牧大和著「四文のかしわ餅」(「オール読物」2010年11月号) (2)「カシワ」(広島の植物ノート:http://forests.world.coocan.jp/flora/fag-4.html#qu2)


トップへ戻る