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言葉を探る−バックナンバー
月刊「e船団」 「香りとことば」2020年4月号

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醤油の香り(しょうゆのかおり)

 調味料を入れる順番は「さしすせそ」って言いますよね。

さ:砂糖
し:
す:
せ:醤油(正油)
そ:味噌

 前の3つは最初の音そのままなので分かりやすいですが、後の2つはちょっとこじつけ気味、でも、こうやって覚えれば忘れないですよね。
 そして、醤油と味噌はおしまいに入れる、というのはとても理にかなっています。なぜなら、この2つは料理の「風味」を担っており、熱が加わると、その風味を担う成分が、ヒトの口に入る前に空気中に飛んで行ってしまいますから。

 でも、この性質のおかげで、自然界の、いい香りのするモノを取り出す方法のひとつ、水蒸気蒸留が可能になるので、文句は言えないですが……。

 で、その醤油の風味です。
 取り敢えず、近所のスーパーでお醤油を買って来ました。そのスーパーにはこの5種類しかなくてビックリ。その代わり、かどうか、○○用、△△用、って、用途別の、すぐ使えるミックスがいっぱいありました。あ、また、脱線。


 左から順に、A、B、C、D、Eと符丁をつけました。右端が醤油発祥の地・湯浅から取り寄せた樽仕込み。A〜Dは全部プラスチックの容器ですが、Eだけはガラス瓶です。
 左から、(どれがこの醤油の名前なのか、はっきりしないですが)。

 A:キッコーマン 本醸造 しょうゆ(500ml・189円+税)
 B:本醸造 ヒガシマル しょうゆ うすくち(500ml・189円+税)
 C:キッコーマン しぼりたて 超特選 生 本醸造 しょうゆ(200ml・189円+税)
 D:超特選 ヤマサ さしみ しょうゆ(200ml・170円+税)
 E:醤油発祥の地 湯浅醤油 蔵匠 樽仕込み(200ml・540円〔税込み〕)

 Eはこんな(↓)箱入りです。


 で、香りですが、まず、直径7センチほどの容器に、5グラムずつ入れて、そおっと嗅いでみました。


 が、えっ! おんなじ? まさか?

 しかも、もう一巡り嗅ぎ直すと、もっと違いが感じられなくなったのです。さっき嗅いだ甘〜い香りが鼻の中に沁みついて、新しく入って来る香りがわからなくなってしまったみたいで。
 ともかく、どれもみんな、ちょっとツンと来て、次に甘〜いのが来て、この甘〜いのが続く。もっとも、甘いと言っても、醤油の甘さを表現するのによく使われる「キャラメル様の甘さ」だけではなく、醤油だなあ、という感じをかもしている、美味しそうな甘さなんですが。
 それでも、私、自分の嗅覚が大したことないのは以前から知っていましたから、プロのフレーバリストなら、即座に違いを嗅ぎ分けるのだろうな、とは思いました。
それと、第一印象は同じでも、だんだん変わっていくのじゃなかろうか、と思って、抽斗の奥から匂い紙を探し出して、付けてみたのがコレ(↓)、うん、いい香りです。
 匂い紙は長さ145mm、巾7mm、特殊な濾紙でできていて、その先端に1〜2cmほど嗅ぎたいものをつけます。


 つけた直後、5分後、10分後、30分後、60分後、12時間後、というインターバルで香りをチェック、その12時間後の状態が上の写真です。

 でも、がっかりしたことに、こんなに一生懸命嗅いでも、匂い紙に残っている香りの違いは、やっぱり、私にはよくわかりません。ただ、その、香りの強さには明らかに差がついていました。BとCは弱まって行き、Eはいつまでも強く残っている、という風に。
 うーん、と考えて、そうだ、JASだ、と、思い当たって、ラベルを見てみると、A〜Dの4つは「JAS」マーク(↓)がついていました。


 JASは、先月、ちょっと触れましたが、日本農林規格(Japanese Agricultural Standard)のことで、JASマークがついているってことは、A〜DはJASの規格にきちんと当てはまる原材料や製造法で作られていることになります。ちょっと乱暴な言い方かも、ですが、香りが似てきても当然かなあ、と。EもJASマークはついてないけど、原材料はJASに合致するものばかりだし。

 せめて、この甘〜い香りのモトだけは知りたい、と思って、いつもの『食べ物 香り百科事典』(1)を見てみました。
 そして、もう一度情けないビックリ。醤油の香り成分って、300ほども報告されているのだそう。それなら、その成分の比率の違いだけで、ずいぶん香りが違うはずなのに、それを嗅ぎ分けられないとは!  ま、仕方ないか。  あの、甘〜い香りのモトが「4-ヒロドキシ-2-エチル-5-メチル-3-フラノン(HEMF)」という長〜い名前の物質であることが分かっただけでいいとしましょう。

 皆さま、新型コロナウイルスにはくれぐれもご用心を。
 では、また来月。(中原幸子)

【参考文献】

(1)日本香料工業会編『食べ物 香り百科事典』(朝倉書店、2006年)



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