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言葉を探る−バックナンバー
月刊「e船団」 「香りとことば」2018年11月号

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ベネ・セサミ・ゴマ

 びっくりしました。
 10月18日の毎日新聞の夕刊にこんな記事が出ていて。


 「セサミストリート」って、まだ続いていたのですね。
 50年ほど前、香料の何かも知らずに香料会社に就職して、図書室の本がどれもこれも英語やフランス語やドイツ語なんかで、日本語の本といえば共立全書の『香料化学』(1)だけ、ということを発見してすくみ上がった私。


 社長がフランスの香料会社へ勉強に行ったことのある人で、そこで知った欧米の香料雑誌類を、毎月、片っ端から取り寄せていたのです。
 途方に暮れたあと、これは大変だ、と気を取り直して、遅れ馳せながら英語の勉強を始めました。夜、外国語学校に通ったのです。
 が、中学生のころから苦手で、逃げ回っていた英語。勉強が進むワケがありません。そこで出会ったのが「セサミストリート」という楽しいテレビ番組でした。

 Sunny day, sweeping the clouds away
 On my way to where the air is sweet
 Can you tell me how to get, how to get to Sesame Street?
 ……
 ……

 テーマソングも、冒頭の「サーニーディ」だけしか聞き取れませんでしたが、でも、やっと、英語って楽しいんだなー、と思えました。
 あのビッグバード、あの中に入っていたのが、このキャロル・スピニーさんだったのですね。他のメンバーはこんな面々で、

 わたしのお気に入りは、クッキー、ビッグバードの右側のコでした。

 「セサミストリート」という番組について、Wikipedeaにはこう出ています。
 セサミストリート」とは、番組の舞台となっているニューヨーク州マンハッタンにあるとされる架空の通りの名である。アラビアンナイト(千夜一夜物語)の『アリババと40人の盗賊』の中に出てくる呪文「開けゴマ(open sesame)」からきており、「宝物が隠されている洞窟が『開けゴマ』の呪文によって開いたように、この番組によって子どもたちに新しい世界や知識の扉をひらいてほしい」という願いが込められているとされる。(以下略)

 でも、「植物の世界」(2)の「ゴマの来た道(セサミロード)」という欄を見ていたら、こんなことが書かれていました。
 (略)ところで、ゴマの抜群なおいしさのとりこになったある米国人は、テキサス州の片田舎にゴマ栽培の大農場を作った。ここに多くの農民を入植させ、街づくりを行い、その大通りを「セサミストリート」と名づけた。ここで行われた入植者の師弟に対する教育法は、独特かつ効果的なものだったので、全米で反響をよび、有名なTV番組「セサミストリート」を生み出した。これは「ゴマの来た道」のすばらしいひとこまである。(小林貞作)

 どっちが正しいか、そんなことはどうでもいい、両方ともステキだ。

 ところで、この同じ欄に、もうひとつ不思議なことが出ています。
 ”新大陸”へは、1550年代に西部アフリカからの奴隷貿易による海上ルートで伝わった。ゴマはメキシコや米国テキサス州へ上陸し、栽培の労働力となった黒人奴隷は、ゴマを故郷での呼び名「ベネ」(ニジェール川支流のベネ河畔に生育する、幸福を招く植物の意)とよび、現在でもセサミとよばない。

 ん? ゴマはその発祥の地では「ベネ」という名前だったの?
 なのに、新大陸ではセサミと呼ばれた?
 なんで? と思って、ふと、ゴマの学名がSesa……なんとかだったのを思い出し、『牧野 新日本植物図鑑』(3)の「学名解説(属名)」を見てみたら、
 Sesamum n.<g. 古名.ギリシャ語の zesamm,アラビア語の sesem,など,ゴマを指す古名にもとずく.

とある。
 本文の「ゴマ」の項を見ると、「インド、またはエジプト原産といわれ……」と始まっていて、学名解説とよく一致している。この本の初版は昭和36年(1961)なので、そのころはゴマの原産地はインドとかエジプトだと推定されていたのだと思われる。リンネがゴマにつけた学名が「Sesamum indicum L.」だったのも、それならわかるし。

 しかし、どうやら、その後、研究が進むにつれて、シルクロードならぬゴマロードが明らかになり、リンネのつけた学名は歴史的な意味しかもたなくなってしまったように思われる。

 ジャパンナレッジの『日本大百科全書(ニッポニカ)』ではこうだ。
 栽培ゴマの起源はアフリカといわれる。紀元前1300年ころにはギリシアですでに栽培されていた。中国には紀元100年ころ西域民族(胡)を経て伝えられ、その後日本へ入った。ゴマの名は、胡から伝来したもので、種実がアサ(麻)に似ている植物という意味らしい。

 日本へ入って来たのは6世紀ごろのようだが、当然「胡麻」という名で入って来たのであろう。

 なんだか、名前に振り回されてしまいました。
 来月は、ゼッタイ、おいしいゴマの話にしたいと思います。では、また来月。(中原幸子)

【参考文献】

(1)木村清三著『香料化学』(共立出版、1956年)
小林貞作著『ゴマの来た道』(岩波新書、黄版354、1986年初版、2007年第7刷)
(2)小林貞作著「ゴマの来た道(セサミロード)」(週刊「朝日百科」17号、朝日新聞社、1994年)
(3)牧野富太郎著『牧野 新日本植物図鑑』(北隆館、1961年初版)


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