言葉を探る−バックナンバー
月刊「e船団」 「香りと言葉」2009年4月号/付録


道誉の連歌

(『菟玖波集』収載句)

【春】
 うらの春とや波に花さく
 遠山は霞にもなり雪に見え

 導誉法師
 枯木と見しに花の咲く春
 梅が枝の盛のほどは葉もなくて

 導誉法師
 里まで鐘を送る山風
 とふ人の名残も花の夕にて

 導誉法師
 よそよりも槇の下道先くれて
 花にあらそふ山の端の月

 導誉法師
 いたづらにこそ昔ともなれ
 ことし猶花を見するは命にて

 導誉法師

【夏】
 羽をかふるまで鳴くは鶯
 木と木との並びて茂る夏の山

 導誉法師
 野島にかかる波の下草
 姫百合の見えつ隠れつ咲く花に

 導誉法師

【秋】
  文和五年三月家の千句に
 何ゆゑの我が思ひぞととひし時
 秋は夕暮風は萩の葉


 導誉法師
 月にこそそなたの山も知られけれ
 ふじなりけりな秋の白雪

 導誉法師
10  夕かさねて秋やゆくらん
 月いづる山は山より猶遠し

 導誉法師
11  こずゑもかげも松の秋風
 山よりや月の夕になりぬらん

 導誉法師
12  かりがねさむし雲のよそほひ
 山の端は月のこなたにまづみえて

 導誉法師
13  すみか一つに心定めず
 柴の戸の月は木の間に影分けて

 導誉法師
14  ふりわけたるは山の村雨
 うき雲のいくたび月にちがふらん

 導誉法師
15  浮雲にこそ風は見えけれ
 空は月山本は猶ゆふべにて

 導誉法師
16  衣におつる涙いくつら
 行く雁の声より数は少くて

 導誉法師

【冬】
17 雪をのこすは猶うらの波
 汐干より流るゝ川のうす氷

 導誉法師
18  狩場の鳥の落つる冬草
 霜かゝる松の下芝葉をたれて

 導誉法師
19   文和五年三月家の千句連歌に
 狩場のきじのおのが鳴く声
 片山の雪のしら鷹手にすゑて


 導誉法師

【神祇】
20 これやこの上がうへなる我が思
 神にはちかひ君のあはれみ

 導誉法師
21  つかふればその官をも争ひて
 神のまつりは賀茂のかみしも

 導誉法師
22  神のますのもりと誰かなりぬらん
 契をかくる洲羽のはし鷹

 導誉法師

【釈教】
23 もとの誓もむらさきの雲
 人の為仏の心くだきしに

 導誉法師
24  十とふたつはよるひるの時
 薬をば仏ももつと聞きつるに

 導誉法師
25  高野山むろの戸深きあととへば
 法に心ぞいりさだまれる

 導誉法師

【恋】
26 これはふせこの下のたきもの
 君がためひとり思となるものを

 導誉法師
27   花の頃報恩寺にて関白百韻の連歌侍りしに
 夢の枕は独ねし袖
 来ぬときは人と人との契にて


 導誉法師
28  いつはりなばよしや玉章(たまずさ)
 こぬにさへ音便聞はかきくれて

 導誉法師
29  いつはりは我のみぞうき暮毎に
 人にまたるゝならはしはなし

 導誉法師
30  袖の時雨は露や置くらん
 まつのみかつれなきは猶人こゝろ

 導誉法師
31  見せばや塵のふかき枕を
 誰とかはふかき思の床のうへ

 導誉法師
32  流れてや心の滝となりぬらん
 思ひなみだは川の名にあり

 導誉法師
33  目をひらきたける心は恐しや
 なにをかねたむ身には覚えず

 導誉法師
34  人になし我が身になして憂き契
 名は立ちながらそふこともなし

 導誉法師

【雑】
35 たきものあはせこれも勝負
 声々に鳴く鶯を籠に入れて

 導誉法師
36   二品法親王北野社千句にて
 うき世の友の我を訪ひつる
 花咲きてなど隠れ家のなかるらん
 月ぞ霞にかくれかねたる


 導誉法師
 関白左大臣
37  日のながきをも夕にぞ知る
 見る程はかへらぬ花の木のもとに

 導誉法師
38  花に馴るゝもあはれいつまで
 かろき身は春の胡蝶の如くにて

 導誉法師
39  佗人のうすき衣のいかならん
 蝉のおりはへ鳴かぬ日はなし

 導誉法師
40  煙はおくにこもる呉竹
 一夏の身の行ひに世を知らで

 導誉法師
41  古郷は月や主になりぬらん
 人はむかしの秋にかはらず

 導誉法師
42  木の葉も露もただ風の音
 月見えて跡はまた降るむら時雨

 導誉法師
43  庭なる霜も月にあらそふ
 雪ふらば何事をかは思ふべき

 導誉法師
44   関白報恩寺にて百韻連歌侍りけるに
 ふすをおこすぞ夜のおこなひ
 子(ね)も丑(うし)も六時のうちに定まりて


 導誉法師
45  日も入海の舟をしぞ思ふ
 遠山の雲にみゆるはまた隠れ

 導誉法師
46  絵をかけて置く前の花立
 雲となる香の煙の一たきに

 導誉法師
47  山路の旅に今出でにけり
 古郷のあれしに似たる柴の庵

 導誉法師
48  鳥の子を重ぬるよさへをさまりて
 鳰のふるすの残る芦原

 導誉法師
49  浦には蜑のかよふそのみち
 捨舟の古きや橋となりぬらむ

 導誉法師
50  青地赤地も錦にぞある
 争ふは左り右りのきほひ馬

 導誉法師
51   二品法親王家月次(つきなみ)の連歌に
 その俤や猶もそふらん
 たらちねの別れしほどに身は老いて


 導誉法師
52   関白家の月次の連歌に
 人こそさかり我は老が身
 むかしにも近き遠きはあるものを
 捨てしこの世ぞさきの世になる

 
 導誉法師
 周阿法師
53  その馬の尾のながき別路
 誰とても羊のあゆみ待つものを

 導誉法師
54  過ぎしはいつの昔なるらん
 老ぬればいまみることも覚えぬに

 導誉法師
55  あだなる身こそ頼みがたけれ
 捨つれどもすてやられぬは命にて

 導誉法師
56  人も心や仏なるらん
 このたびは生れがたきに生れきて

 導誉法師
57  陰は小篠の枝の一むら
 世を捨つる住家は人にあらそはで

 導誉法師
58  もとの身ながらなどうかるらん
 捨つる世はあれどもなきが如くにて

 導誉法師

【羈旅】
59 旅にて聞けば山の松風
 古郷の花を見捨てゝ出でぬるに

 導誉法師
60  帰るべき日を数ふれば程もなし
 あなたこなたを見つる富士の根

 導誉法師
61  鳥と鐘とはともに暁
 寺近き山路の関を今こえて

 導誉法師
62  よその里にも衣うつ音
 海士のすむ芦屋も舟も程近し

 導誉法師
63  野山の鐘の夕暮の声
 宿なくばせめては寺をも尋ねばや

 導誉法師
64  旅寝の夜半は長くなりゆく
 古郷も夢にかへるは程もなし

 導誉法師

【賀】
65 神の宮居は伊勢石清水
 人よりも人の上なる君にして

 導誉法師

【雑体】
66  俳諧
 大内の雀の門もあるものを
 引くに驚くけふの白馬


 導誉法師
67  さえかへりても春ぞ霞める
 鶯の子がひすだちを鳴あはせ

 導誉法師
68  夕にのぼる月の遠山
 枝は椎木を折る猿の一さけび

 導誉法師
69  脚はやく行く駒の綱引
 人ごとに急ぐ杣木の下りさか

 導誉法師
70  煙になりて匂ふ焼きもの
 その姿富士と伏籠と一つにて

 導誉法師
71  そとばみちたる山寺の垣
 戸をあくる内に仏をたてならべ

 導誉法師
72  わらはべは歯こそ二つ白けれ
 雪の上に足駄やはきて遊ぶらむ

 導誉法師

【発句】
73   家の千句に
 梅散りて木陰につもる匂かな
 導誉法師
74  夜ちるや花もうき名を忍ぶらん 導誉法師
75   文和三年四月家の千句連歌に
 待てばこそ鳴かぬ日もあれ子規(ほととぎす)

 導誉法師
76   同じ夜連歌に
 一秋に二夜の月の名残りかな

 導誉法師
77   前大納言尊氏、常在光院にて百韻連歌侍りしに
 時雨にも照る日常在光かな

 導誉法師
78   文和四年十月前大僧正賢俊、清閑寺にて連歌侍りけるに
 木の葉より時雨になりぬ山颪

 導誉法師

〔参考文献〕
渡辺守順著『京極道誉―バサラ大名の生涯―』(新人物往来社、1990年)
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