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言葉を探る−バックナンバー
月刊「e船団」 「香りとことば」2020年5月号

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出汁(だし)

 「香りとことば」もいよいよ終わりに近づき、締めはゼッタイ「出汁」だ、と決めていたのですが、インターネットには「出汁」の記事があふれてますね。
 さて、これで、入り込むスキはあるのだろうか、とビビリましたが、まあ、私が知らないことだらけなのがはっきりしましたから、やってみましょう。

 まず、出汁が受け持っているのはうま味(旨味)だ、という認識は、いくらなんでも間違っていなかったようです。
 ただ、私の五味に関する知識は、もう古すぎて恥ずかしいモノで、「日本うま味調味料協会」(1)のサイトにはこんな(↓)スゴイ画像がありました。(この画像の引用については、いま、ご了解いただこうとお願いしているところです)。


 え? 私たちの舌には「うま味」を受容するレセプターがある? 恥ずかしながら、私の 五味の知識はお香の世界の五味、「(カライ)・(アマイ)・(スッパイ)・(ニガイ)・(シオカライ)」のままでした。
でも、味の受容に関しては研究がどんどん進み、私たちの舌には「辛」の受容体はなく、「うま味」の受容体があることが解明されていたのですね。上の図と同じサイト(1)に、こんな風に紹介されています。

解明が進む「うま味レセプター」
 うま味物質を受け止めるレセプター(受容体)については、現在、世界トップクラスの研究者たちが、その構造やメカニズムについて研究を行っています。
マイアミ大学の研究グループは、2000年に「うま味レセプター」候補を発見したことで大きな話題になりました。2002年にはハワード医科大学の研究グループがアミノ酸のレセプターを発見。
 これらの研究成果をもとにうま味レセプター解明に向けた研究の発展が期待されています。
2004年7月に京都で開催された国際嗅覚味覚シンポジウム(ISOT)には、約750人の味覚や嗅覚の研究者が集まりました。7月6日には「うま味レセプター」に関するシンポジウムが開催され、うま味レセプター研究の最先端をいく五つの研究グループから研究現状の発表が行われ、約3時間にわたり熱い討議が繰り広げられました。


 一方、「辛」の方はと言えば、こちらは、味覚ではなく、神経刺激だということが明らかになったのだそうです。

 ところで、出汁ですが、広辞苑には「出汁」って立項されてないのですね。「出し」は出ていて、そこには「出し汁」の略、と書かれています。ふーん、じゃ、と思って日本国語大辞典を見てみると、

だし‐じる 【出汁】
〔名〕
 煮出した汁。鰹節(かつおぶし)、昆布、椎茸(しいたけ)などを煮出した汁で、汁ものや煮ものなどに用いる。にだし。だし。
*当流節用料理大全〔1714〕「だし汁の仕様。三升鍋に水一はい入、にえ立時かつを百五十に細かにけづり入れ、煎(せんじ)出し」
*洒落本・百花評林〔1747〕太夫「音羽滝を液汁(ダシジル)にして、吉野の桜を一輪うかべ」


 と書かれていて、これまた「出汁だし」ではありません。でも、驚いたのはこの「当流節用料理大全」にあるというだしのレシピ。水3升と言えば、5.4リットル、カツオブシ150(多分、匁)は、およそ560グラム、ですよね。そんな大量の出汁って、このレシピ、料理屋さんの参考書だったのでしょうか?

 そうそう、と思って『朝日新聞の用語の手引』(2)を見ると、そこには「だし(出汁)」が載っていて、「汁」の側に▲が付いています。これはどういう意味か、と、この本の凡例を見ると、▲は「漢字表にない読み」(表外音訓)を意味するとある。つまり、「出」は「だ」と読めるけど、「汁」は「し」とは読めない、ということのようです。
 たしかに、言われるまでもなく「汁」を「し」と読むなんて、考えられません。

 というようなワケで、「出汁」って実にヘンな言葉であることが分かりましたが、それはそれとして、私にとって、ダシという言葉からの連想でいちばん強烈なのは「味の素」です。私の年代の方は、多分、皆さんそうだと思いますが。
 私が子どもの頃、子ども向けの偉人伝がたくさん出版され、その中の1冊に「池田菊苗」が載っていたのです。
 池田菊苗という人は子どもの頃からうま味に関心があったそうですが、苦労に苦労を重ねて昆布からその「うま味」をもたらす成分を突き止める話にひどく感動したのを今でもハッキリ覚えています。
 池田菊苗は、私が生まれる2年ほど前に亡くなった方で、wikipedeaには下記のように記されています。菊苗という不思議な名前は、お父さんの「春苗」から「苗」を貰い、菊の節句の2日前に生まれたので菊苗

 池田菊苗(Wikipedea)
 池田 菊苗(いけだ きくなえ、1864年10月8日(元治元年9月8日) - 1936年5月3日)は、戦前日本の化学者。東京帝国大学理学部化学科教授。「日本の十大発明」の一つといわれるうま味成分、L-グルタミン酸ナトリウムの発見者として知られる。


 グルタミン酸ナトリウムってこんな構造(↓)をしていて、

L-グルタミン酸ナトリウムという場合、前についている「L」が曲者なんですが、ちょっと長くなるので次回に廻しますね。
 次号は最終回、うま味の現状に迫らないと……と思っています。では、また来月。(中原幸子)

【参考文献】

(1)「日本うま味調味料協会」:https://www.umamikyo.gr.jp/knowledge/physology.html
(2)朝日新聞社用語監事編『朝日新聞の用語の手引』(朝日新聞出版、2019年)


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