月刊:ことばを探る 最近のバックナンバー

月刊「e船団」 「香りと言葉」2012年10月号

ニッケ

 ニッケ、という言葉、聞いたことがおありでしょうか?
 では、ニッキは?
 こちらは知っている方が多いかも。なにしろ、広辞苑に立項されていますから。

   にっき→肉桂(にっけい)(2)のこと。

と。その肉桂の(2)は・・・え?「にっけい(1)の樹皮・・・」? やっぱり(1)から見ないと・・・。

にっけい【肉桂】
(1)クスノキ科の常緑高木。インドシナ原産の香辛料植物。享保(1716〜1736)年間に中国から輸入。高さ約10メートル。樹皮は緑黒色で芳香と辛味がある。古来、香料として有名。葉は革質で厚く、長楕円形。6月頃葉腋に淡黄緑色の小花をつけ、楕円形黒色の核果を結ぶ。日本の山地には、ヤブニッケイがある。
(2)(1)の樹皮(桂皮)を乾燥したもの。香辛料・健胃薬・嬌味嬌臭薬とし、また。桂皮油をとる。にっき。シナモン。→【肉桂酒】


 ある文化センターのツアーに参加して、美山かやぶきの里、というところへ行きました。朝7時50分に集合のしょぼしょぼ眼で豪華バスに腰を下ろすや、とんとん、と斜め後ろから肩をたたいて、飴を1個くれたSさん。
 見れば「ニッケ玉」ではないですか!私のビックリぶりに満足したSさんは、「○○の道の駅で見つけたんよ」とうれしそう。
 「もう1個貰える?帰って写真とるから」
 「ええよ。けど、なんで写真なんかとるン?」
という会話の末、1個は口に、1個はバッグに入れた。それで、さっき撮った写真がコレ。

 私たちは似たような年齢で、ひとしきり半世紀前のニッケ話で盛り上がった。
 ニッケじゃなく、ニッキって言うてたね。
 ニッキ水って覚えてる?うん、赤や緑の、ひょうたんの形のビンで・・・。
 細い棒みたいのを赤い紐でくくったの、あったね。ニッキ棒?

   その間にも、口に入れた1個は、まったりと溶けて行った。甘さも頃合いで、ニッキ度がまた、予想より大分穏やかだ。最初、ん?と思うほどニッキが立って来ないのだ。でもすぐに、それが大事なポイントらしいことが分かった。口に広がると、その香りや味は簡単には消えず、甘味がどんどん喉元を過ぎて行っても、ニッキの香りと味は口の中に溜まっていくのだ。
 しばらくすると、ちょっと刺激が強すぎる感じになって、一旦包み紙に戻した。けど、またしばらくすると欲しくなってまた口へ。直径2センチ、重さ10グラム、は、ぬるま湯派の私にはちょっと大き過ぎる感じでした。

   帰ってきて、そういえば近所のスーパーで見たような気が、と思って行ってみると、ありました、「にっきあめ」というキャンデーが。下の写真のBがそれ。Aは上記の「ニッケ玉」です。


 ごらんの通り似たような直径で、Aは球状、Bは円盤状です。Bの重さ? はい、5グラム、Aの半分ですね。舐めてみると、うぉーと急速に香りが口中に広がります。成分に「シナモン香料」「香料」と表示がありますから、Bは天然物ではなく、化学的に作られた香料も含んでいる訳で、予想はしていましたが、ちょっと香りがストレートに立ちあがる感じがします。悪く言えば薄っぺらく・・・。私は香料屋でしたから、人工的に造られた「香料」にも肩入れしたいトコがあるので、ちょっと残念・・・。

   でも、です。視点を変えれば、また違うかも。
私のようなぬるま湯派は口に入れたときは、Aの「ホントに入ってるの?」という感じでいいけど、刺激の強いのが好きな人は、Bの強力パンチでないと満足しないのかも知れないですよね?モノとヒトとも相性ってものがある、という視点で考えれば、どっちもあっていい、というより、あった方が楽しいワケですから。
 それに、先月ご紹介したように「香料植物のなかでもっとも古いのがニッケイ」であり、5000年もの利用の歴史をもつ「ニッケイ」であってみれば、それと20世紀にヒトが発明・発見した化学物質との間に思いも寄らないシナジズム効果が見られないものでもない・・・あ、そうか、太田胃散って、まさにその世界!

 ところで、例のジャパンナレッジを見てみると日本大百科全書(ニッポニカ)に、エラいものがありました。「松魚つぶ」ってご存じでしたか?

松魚つぶ
かつお節の姿を模した肉桂飴(にっけいあめ)。高知市の山西長栄堂が明治中ごろに創作。松魚つぶの「つぶ」は土佐方言で飴のことで、高知産の肉桂はとくに良質とされる。飴の姿があまりにも本物そっくりなので、「松魚つぶ鰹(かつお)と思いカンナあて」といった笑い話まで生まれた。いまは各地にみられる飴となった。水飴、砂糖、肉桂の油と樹皮を煮つめ、漉(こ)して、かつお節の木型に流し込んで固める。小槌(こづち)でたたき割って食する。


かつをつぶ割れば輝きとぶ蜻蛉  中村汀女

と、俳句にも詠まれているんですって。
 では、また来月。 (中原幸子)

【参考文献】

(1)ジャパンナレッジ(有料):http://www.japanknowledge.com/top/freedisplay
【太田胃散】
成 分1包(1.3g)中

健胃生薬
(1)ケイヒ 92mg
(2)ウイキョウ 24mg
(3)ニクズク 20mg
(4)チョウジ 12mg
(5)チンピ 22mg
(6)ゲンチアナ 15mg
(7)ニガキ末 15mg
制酸剤
(8)炭酸水素ナトリウム 625mg
(9)沈降炭酸カルシウム 133mg
(10)炭酸マグネシウム 26mg
(11)合成ケイ酸アルミニウム 273.4mg
消化酵素
(12)ビオヂアスターゼ 40mg
〔添加物〕
(13)l-メントール
(※番号は中原が付けました)。


月刊「e船団」 「香りと言葉」2012年11月号

松魚つぶ

 「俳句界」(2012年11月号)をめくっていたら、こんな句が(1)。

 棚田刈る肉桂の飴をなめながら   坪内稔典

 そう言えば、10月号でご紹介した「ニッケ玉」、坪内さんももらって舐めておられたのでした。「棚田刈る」という、実りを刈り取る重労働との取り合わせが、とてもいいですよね。

   ともあれ、ニッキ飴のいろいろです。

 

 この2つは「桜間見屋(おうまみや)」製。e船団のクリニック欄のドクター・えなみしんささんが教えて下さったもの。ネットで取り寄せてみました。
 左が「肉桂玉」、右が「黒肉桂」。味は「肉桂玉」はピリッとシャープに肉桂の効いた味、「黒肉桂」の方は黒砂糖のまったりとした味で肉桂の辛さや香りがやんわりしている。
 「肉桂玉」の袋には、裏に中村汀女の文と俳句が書かれている。

肉桂玉
干し切った肉桂が、ほそい紅紙でくくって駄菓子屋にあるのを、一束買って、終日かじったものだった。私は九州の産なので、ときどき庭の肉桂も掘った。落葉の匂いのする土からひっぱり出すとつうんと高い香り。ろくろく洗いもせずに噛んだ細根の、辛かったことおいしかったこと。
まったく久しぶりに、中の中までいゝ肉桂。私の年頃の人たちは是非ふくんでみてください。明治の頃の暖かい春の日の味を。

肉桂の根掘れば肉桂の春日洩れ   汀女

(中村汀女著『ふるさとの菓子』より抜粋)

 この『ふるさとの菓子』という本、全国の銘菓約120点を、俳句と美しい日本語で紹介していて、私の大好物・総本家駿河屋の「本の字饅頭」も取り上げられているらしい。これは、読まなくちゃ。

 えなみさんからは「封をしっかり閉じていても、アッと言う間に美味しくなくなりますから、ぜひ早めにみなさんでお食べください」とアドバイスされていたので、着いてから一番近い日に開かれた「船団・大阪句会」に持っていって、味見をして貰いました。ニッキ味の強い「肉桂玉」が好きな人と、まったりした「黒肉桂」が好きな人に分かれましたが、「懐かしい、美味しい」と好評でした。みんなに行き渡ったあと、「全部もらって帰る!」という人が現れて、私は大満足でした。

 さて、先月ちょっと触れた、仰天のニッキ飴「松魚つぶ」。
 発売元は高知市の「山西金陵堂」。ホームページに出ている電話番号にお願いしたら、すぐに送って下さって、見ず知らずだけど、後払い。



 縦8センチ×横22センチのこの袋から出てくるのが左下の袋と小さな鎚。見事に鰹節そっくりの形をしていて、しかも肉桂の粉をまぶしてあるので、よけいに鰹節らしく見える。「袋の上からお割り下さい」と書いてあるので、やってみたけど、ビクともしてくれない。なんかコツがあるんでしょうね。仕方がないので、道具箱からトンカチを出してコツン、とやってみたら、2回で右下のようになりました。

 

 ひとかけら口に入れてみると、とてもおだやかな味。でも、乱暴な割り方をしたので、砂粒みたいなクズが出来てしまった。ふと思いついて、マグカップに入れて熱湯に溶かしてみました。

 おいしい!
 冷やしたらニッキ水?と氷を入れてみると、これまた、おいしい!



 皆さん、来年の夏はぜひお試し下さい。
 え?割合?飴10グラムにお湯150CCです。でも、お好みで。
 あ、「松魚つぶ」の「つぶ」って、高知の言葉で「あめ」のことなんですって。
この飴は山西金陵堂の初代が、何か看板商品を、ということで開発されたとか、スゴイですね。

 で、これはこれでお菓子文化を堪能できるシロモノですが、ちゃんと現代風に手軽なのも用意されているのですね。下記のような長径4センチ、重さ3グラムの飴なんですが、1個1個が鰹節の形!この遊び心!



 それから、10月27日の十三夜、但馬へ行ったのですが、そこで見つけたのが、この「にっき」。上の方に「豊かな味」と書かれています。




 「飴」には「やしなう」という意味があるそうですが、そこに肉桂の味と香りが加わった飴。もしかして、何か想定外の効能効果があるのじゃないか、と思うのですが、まだわかりません。
 では、また来月。 (中原幸子)

【参考文献】

(1)坪内稔典「特別作品21句 老人を拾って」(「俳句界」2012年11月号)


月刊「e船団」 「香りと言葉」2012年12月号

京のニッキは

 京都のニッキはこれやで、と言って「聖護院八ツ橋」を頂きました。なるほど。大事なものを忘れていました。



 聖護院八ツ橋にはいかにも京都らしい誕生物語がありました。「世界のたべもの」(1)の解説によれば、
 箏曲の名手・八橋検校(1614−1685)にちなんで作られた干菓子。琴をかたどったものである。米粉を熱湯で練って蒸し、砂糖を加え、ニッケイの香りをつけたものをうすくのばし、黄な粉をつけ短冊形に切り、平鍋で焼いてそりをつけてある。口に入れるとニッケイの香りがし、ぱりぱりとした歯ざわりがある。

 この解説についている写真を真似て、頂いた八ツ橋を撮ってみたのが上記の写真です。 「聖護院八ツ橋総本店」のホームページ(2)には、白い屋号ののれんと、富岡鉄斉、85才の書、という「聖護院八ツ橋/玄鶴堂」の看板とが掲げられ、京土産「八ツ橋」の誕生の由来が次のように書かれています。

 (略)近世箏曲の開祖といわれる八橋検校が、慕う数多くの高弟・門弟たちに見守られて、貞享2年6月12日(1685年)亡くなり、黒谷金戒光明寺に葬られました。享年72才であったといわれております。その後、亡き師のご遺徳を偲び門弟たちが、続々絶え間なく墓参におとづれ続けましたが、歿後4年の元禄2年(1689年)黒谷参道の聖護院の森の茶店で、琴の形に似せた干菓子を、「八ツ橋」と名付けて発売するようになりました。これが「八ツ橋」の始まりといわれており、その場所が当社創業の地(現在の本店の場所)であります。

 八橋検校のアイデアだとか、八橋検校がお好きだったとかいうことではない?と、思ったのですが、ジャパンナレッジを見てみると、日本大百科全書(ニッポニカ)(3)の八ツ橋の項にはこんなことが。
 八ツ橋煎餅の略。京都名物で干菓子の一種。八橋流箏曲の始祖で「六段の調」などの段物を制定した八橋検校にちなんでつくられた菓子といわれる。八橋は1685年(貞享2)に亡くなったが、平素節倹を旨とし、流しにざるを受けて流れ米を集め、これを粉にひいて飴を加え、堅焼きの煎餅をつくって茶の子に供した。八橋の死後、検校の徳をしのび、弟子たちはこの煎餅を琴の形につくったというが、数年後の元禄年間(1688〜1704)には大流行し、その名も「八ツ橋」とつけられた。(以下略)。

 うーん、どうなんでしょうねえ。
 元禄2年といえば芭蕉が奥の細道に旅立った年、芭蕉も八ツ橋を食べたことがあったのでしょうかね?奥の細道の旅を終えた芭蕉に、誰かが、いま流行ってるんですよー、とか言って、京土産「八ツ橋」をお土産に持参した、なんて、いかにもありそうですけどね。今のところそういう情報には行き当たっていません。どなたか、ご存じでしたら教えてください。
 芭蕉ってどんなお菓子が好きだったのかしら?

 それはさておき、「世界のたべもの」の「全国の銘菓」(1)には京都の銘菓が6つ出ているのですが、その中のひとつ、五色豆にもニッケイが使われているとのこと。
 鴨川の清流にさらされる京友禅の美しさを映した五色豆(ごしきまめ)。慶事のあるたびに使われためでたい5色を基調としている。作り出されたのは、明治17年(1884)ころである。エンドウを水に漬けたのち炒り、砂糖衣を5回ほど繰り返してかける。緑色は青海苔粉、茶色はニッケイの粉をかけてある。砂糖の甘味に、豆の香りがよく溶けあっている。

 めでたい5色とは、赤、白、黄、緑、茶。
 日本国語大辞典では、その5色は白・赤・茶・青・黒。
なんだか、お菓子の世界も迷路ですね。でも、ニッケイがお菓子の世界でもモテていたことは確かなようです。

 ところで、太田胃散から大分遠くへ来てしまいましたが、「嗅覚と、香りを有する生薬についての一考察(下)(4)」という論文が見つかりました。

 肉桂 シナモン クスノキ科ケイの樹皮
 産地:インドネシア原産。18世紀にオランダ人が栽培。
 四気:熱、五味:辛甘、帰経:腎脾心
 (1)温補腎陽
 (2)温経散寒・止痛
 (3)温経通脈
 スパイシーで鋭く、甘くて麝香を思わす香りがする。
 赤さび色をしたこの木は一年中花が満開。淡褐色の厚い樹皮がお互いに内側に巻いた形をしている。自然の状態では、樹高10mほどに成長。
 寺院での薫香に使用される。フェニックス(不死鳥)は没薬、甘松香とともにシナモンを集めて魔法の火を点じ、その中で焼け死んでから再びよみがえったとされる。
エジプト人は胆汁の過多に卓効のある薬剤と考えていた。また、抑うつ的な疲弊しきった状態、気分に効果があり、涙、唾液、粘液の出を刺激するとされる。


 ちんぷんかんぷん、なんという難しさ。トライはしてみますが、どうなりますやら。それにしても肉桂が不死鳥のよみがえりにまで係わっているなんて。では、また来月。 (中原幸子)

【参考文献】

(1)高正晴子著「全国の銘菓」(「週刊朝日百科 世界の食べもの」109号、朝日新聞社、1983年)
(2)「聖護院八ツ橋総本店」のホームページ((http://www.shogoin.co.jp/form.html)
(3)日本大百科全書(ニッポニカ)(ジャパンナレッジ(有料):http://www.japanknowledge.com/top/freedisplay)
(4)田中耕一郎、三浦於菟著「嗅覚と香りを有する生薬についての一考察(下)(漢方の臨床 58巻4号、2011年)

戻る