月刊:香りとことば のバックナンバー

月刊「e船団」 「香りとことば」2013年1月号

お正月も、ニッキ。

 2013年、明けましておめでとうございます。
 とうとうニッキを持ち越してしまいました。今年もどうぞよろしくお願いします。
 前にこの欄でお屠蘇のことを書いたことがありました。2006年1月のことで、こんなことを書いています。

 三〜四世紀の中国医書には、屠蘇酒の製法がある。白朮(びゃくじゅつ)・桔梗・山椒・桂心(けいしん)・大黄(だいおう)・烏頭(うず)・サルトリイバラ、防風(ぼうふう)を細かに刻み、定量を緋色の袋に入れて、大晦日の正午に井戸の底につかないように水中に吊す。これを元日の早朝に井戸から取り出し、温めた三升の酒に浸す。それを屠蘇という。
 暗い大地から滾々と湧いた強い霊力を持つ新年の水、その生命力を薬に感染させ、温めた酒にいれることで薬の成分の浸出を促し、身体にめぐりやすくする。
(『くすり歳時記』(1)より)

 屠蘇散にも桂心、つまりニッキが、入っているのですね。で、下記のがこのときの屠蘇散の写真、が暮に近くのスーパーで買ってきた屠蘇散です。


 中味はどちらも約2gですが、ご覧のようにの粒子はちょっと粗いです。ちゃんと賞味期限もあって、が「H26.9」、は「2014.06」。の外装は6年前とそっくり同じなんですが、中の袋がラミネート紙になっていて、外からはニオイがしません。はフツーのティーバッグです。

 前にご紹介した『くすり歳時記』(1)の屠蘇散の成分は、白朮(びゃくじゅつ)・桔梗・山椒・桂心(けいしん)・大黄(だいおう)・烏頭(うず)・サルトリイバラ、防風(ぼうふう)の8種でしたが、こんど私が買ったBの成分は下記の7種。太字になっているのが共通の成分です。

 桂皮山椒、陳皮、桔梗、大茴香、丁字、浜防風

 「世界の食べもの」(2)には、屠蘇散には七味、八味、九味などの種類がある、と書かれていますが、どうやら屠蘇も世につれ、インターネットには読み切れないほどの屠蘇情報が出ています。
 それに、太田胃散とも共通成分があるのですよ。ケイヒ、チョウジ、チンピと7種のうち3つも。と、いうことは、屠蘇散はお正月の胃を守るのにも適した処方だったことになりますよね。あ、そうそう、シナモン(セイロンニッケイ)の香りは、「衰弱し、抑うつ的な疲弊しきった状態やそうした期分の場合に、すばらしい効果をあらわす」、と『アロマテラピーのための84の精油』(3)に書いてありました。

 さて、お屠蘇気分で初詣をすませたら、お茶にしませんか?肉桂餅で。


 は堺名物「八百源来光堂」(4)の肉桂餅(1個210円)。
 は岐阜の「肉桂餅本舗 いげたや」(5)の肉桂餅(にっきもち)(1個115円)。  どちらもこし餡を求肥で包んだおまんじゅうですが、1個35グラムほどと小ぶりで、緑茶、お抹茶、中国茶・・・相手選ばず、とにかくおいしい。癒やされる。
 両方とも、肉桂が入ってますよ!と大声で言うような入り方ではなくて、実にさりげなく、そこはかとなく香る、そこがいいのだと思います。

 ところで、八百源来光堂はなんと、元禄のころお菓子屋さんを始めた、という老舗。その前のご先祖は貿易商で、「中国・ルソンなどの南方の諸国から、 何百種もの香料・香木を輸入し、日本全国に商っておりました」と八百源来光堂のホームページ(4)に。
 一方、堺は千利休を生んだ地でもあり、町衆の間にも茶の湯が盛んでした。新しい菓子への要望も強かったのですね。つまりニーズとシーズがうまくかみ合って生まれたのが「肉桂餅」というわけでしょうか。

 この他にも、八百源来光堂は肉桂を使ったお菓子をいろいろ作っています。


 は「肉桂楽」という名のカステラ。は「さかい色は」という名の干菓子で白い方が肉桂入り。はなんと「手づくり最中」。手づくり、って、自分で「皮に餡をはさむ」だけではありますが。肉桂の香りは皮についてます。

 でも、なんといっても、私は肉桂餅!
 あんことニッキの取り合わせを考えついた人ってエライよねえ、と、声に出して言いながら肉桂餅を食べて、ふと、そうか、混ぜて完全に均質になってしまうような「取り合わせ」もあるんだ、と思いました。
 え?当たり前?そうなんでしょうけど、これまでずっと、薬とか、香水とか、混ぜて一体化してしまうような場合も取り合わせなのかなあ、と、もやもやしていたのです。
 なんか、ちょっと目先が明るくなった感じ。では、また来月。 (中原幸子)

【参考文献】
(1)槙佐和子著『くすり歳時記』(筑摩書房、1989年)
(2)週刊朝日百科「世界の食べもの」第85号(朝日新聞社、1982年)
(3)ワンダ・セラー著/高山林太郎訳『アロマテラピーのための84の精油』(フレグランスジャーナル社、1992年)
(4)八百源来光堂ホームページ:http://www.yaogen.com/top.html
(5)「肉桂餅本舗 いげたや」:http://www.igetaya.jp/


月刊「e船団」 「香りと言葉」2013年2月号

まだまだ、ニッキ

 昨年12月に、ちょっと五色豆のことを書いて、そう言えばもう何十年も五色豆を食べていない、とふと洩らしてしまいましたら、豆政の夷川五色豆を頂戴しました。
 うーん、赤を真ん中にして、白、茶、黄、緑とくるくるまわるこの配列、美しいですね。どの2つを入れ替えても調和が崩れる感じ。しばし眺めて、1粒ずつ味見。


 赤、白、黄は、色が違うだけで、香りはついていない。そのため、豆そのものの香ばしさが、小気味よく砕ける音とともに口中にひろがる。そして茶がニッキ、緑が青海苔の味と香り。色といい、香りといい、実に見事な取り合わせです。どの2つを入れ替えても調和が崩れる感じ。

 ところで、豆はエンドウなのですね。
 豆政は『京・銘菓めぐり』(1)という本に載っていて、五色豆はこんな風に紹介されています。
 豆政は明治十七年に創業、初めは白い衣がけだけの砂糖豆だったが、明治二十年に四色を加えて五色豆として売り出した。  赤や白や黄に青海苔のついた緑色、肉桂の薄茶の五色が美しい。宮中五節会の色から取りあげ、王朝色ともいわれている。緑は木、赤は火、黄は土、白は金、黒は水を示すが、黒は忌みきらわれて薄茶となっている。  これも金平糖のように掛物(かけもの)類となるわけで、豆が生命である。六波羅豌豆を使い、よい豆があれば遠くまで買いつけに行き、それをふやかしている(中原注:「炒る」でしょうね)方法に火加減など細心の注意をし、苦心されている。豌豆は十月頃から新豆がとれるので、十一月頃からの製品の味がよい。
 色合いが美しく、春の振り出しに使われる。


 振り出しから五色豆!こんなお茶席、とても春らしくて楽しそう。
 それもこれも、いいエンドウ豆があってこそ、なのですが、「日本のお菓子@あじわい」(2)というサイトに掲載されている、豆政の現社長・5代目角田潤哉氏(昭和38年生まれ)のインタビューによると、今では六波羅はおろか、日本で手に入らず、ニュージーランドから仕入れるんですって。
よいエンドウ豆を求めて出かける「遠く」が、ニュージーランドとは、初代豆政・角田政吉さんも、こういう子孫にさぞご満足でしょう。

 ふと思いついて、私の故郷・紀州にも何かあるんじゃないか、と調べてみましたら、和歌浦煎餅のニッキバージョン、「種萬 廣田本舗」の肉桂せんべいというのがありました。なんと、焼酎・ウィスキーのお供にもいいのだそうです。直径6センチ、1枚6グラムという小ささも、丁度いいかも。


 お菓子もいいけれど、ぼつぼつ、クスリの方へ行きたいな、と思っていたところ、『中国薬膳』(3)という本に出合いました。さすが医食同源の国、ビックリが満載、という本ですが、例えば薬膳に使われる生薬が効能ごとにまとめられているのです、こんな具合に。

元気を補う生薬、血を補う生薬、陰気を補う生薬、陽気を補う生薬、痰を切り、咳を止める生薬、水毒を除く芳香性生薬、消化を助ける生薬、気の運行を順調にさせる生薬、内臓器官を温める生薬、肝臓を和らげる生薬、精神を安定させる生薬、体内の水分代謝に良い生薬、リューマチを払う生薬、出血を止める生薬、血のめぐりを良くしうっ血を取る生薬、臓腑の運行を円滑にする生薬、熱を取る生薬、表位にある病症を除く生薬。

 難しくて何にどう効くのかイマイチよくわからないけれど、肉桂はこの中の内臓器官を温める生薬というところに入っています。そして、その効用は、

腎を温め、陽気を上げ、寒気を除き、痛みを止め、消化液の分泌を促進し、消化機能を高め、胃腸の痙攣を緩め、腸のガスの出をよくし、血液の循環を促進し、血管を拡張し、精神を安定させる効果がある。
手足の冷え、脈拍が弱い、腹や胃や腰や膝が冷えて痛む、下痢、喘息、生理痛、月経不順、蓄膿症、低血圧などの症状に適する。


と。長い長い年月をかけて、ひとつ、またひとつ、と見つけられた、このたくさんの効能。
 私は昨年猛烈な肩こりに悩まされ、とうとう近所のお医者さん(内科)に行きました。でも、正直、肩こりが薬で治る、とは思えなくて、失礼ながら藁をも掴む心境でした。  ところが、ケロッと治ったのですね。頂いた漢方を3日のんだだけで。でも、今どきのことで、薬には詳細な説明書が付いているのですが、そこには肩こりに効く、とも、血の巡りがよくなる、とも書かれていませんでした。えっ?と驚いて、先生にお訊きしました。

 私「先生、頂いたお薬、説明書に肩こりに効くって書いてないんですが、なんでこんなによく効くのですか?」
 先生「わかりません」
 私「のみ忘れると、また痛くなるんですが、ずっと続けてのんでも大丈夫ですか?」
 先生「大丈夫ですよ」

 どさっと1か月分下さいました。

 このとき、先生の「わかりません」と「大丈夫ですよ」にはまったくためらいがありませんでした。メカニズムは解明されていないが、この処方は効くのだ、飲み続けても大丈夫なのだ、と明言できる、それが長い歴史に裏付けられた漢方の自信というものなのだろう、と、私はごく自然に納得していました。何しろ、肩こりが消えたのですから。
 そしてますます、食も医も配合、取り合わせが決め手だなあ、と思う今日この頃です。では、また来月。 (中原幸子)

【参考文献】
(1)鈴木宗康著『京・銘菓めぐり』(淡交社、1985年)
(2)「日本のお菓子@あじわい」(「全国銘産菓子工業共同組合」のホームページ、http://www.ajiwai.or.jp/area/n163.html)
(3)株式会社 浄美社企画『中国薬膳』(金鳳園本舗、1991年)

月刊「e船団」 「香りと言葉」2013年3月号

効く、って?

 ニッキ飴、ニッキ餅、ニッキ最中にニッキカステラ、八ツ橋に五色豆、ニッキ煎餅・・・、ニッキ、ニッキに明け暮れて、ふと気がつけば、苦手だったニッキの味がすっかり好きになっていました。もっとも、香りの方は前から好きだったのですが。
 大嫌いだった柚子の香りも今や大好き、巻き寿司から抜き出してポイしていた三つ葉もなんとかクリア。セロリもきんぴらにすればOK。この分だとパセリも春菊も、もうじきナマで・・・です。それは、ナカハラさんのハナがニブくなったんでしょ?老化で、という声もありますが。

 老化と言えば、坪内稔典さんがこのところ立て続けに発表している「老いの句」、ご覧になっていますか?
 先日、「俳句界」3月号が届いたのですが、その別冊附録(1)にビックリ。厚さ3センチ超、500ページ。タイトルが「平成名句大鑑」。表紙に、

 通巻200号記念
 月刊「俳句界」別冊附録 永久保存版
 現代俳句を代表する俳人500名の、代表句5000句を一挙掲載!

 と、あります。
 付録でもらってこんなことをいうのもナンですが、これ、平成名句なんかなあ、という感じで・・・。そこへ「老」10句を投入して気を吐いているのが坪内稔典です。

 老人はすぐ死ぬはずが、あっ糸瓜
 秋澄んで老人たちが黒いなあ
 老人を拾って揺れて秋のバス

 ほか、7句。

   全500ページを読ませて頂けば、まだまだ「平成名句」が・・・とは思いますが。
 平成という時代は「老」をどうするかが大問題。というか、延々と不老長寿を目指してきた人類がいま手に入れた長寿の重さに喘いでいるのが平成では?と思うワタシ、後期高齢者1年生です。今のところ到れり尽くせりの老人保護下にあり、でも、この老人天国がいつまで持つやら、心配です。

 話が深刻になりましたが、先月(2013年2月)肩こりが漢方でケロっと直った、とお話ししましたよね?
 お医者さんが、なぜ効くのか解らないけど効く、と、自信をもっておっしゃったことも。で、その後、私は、肉桂の香りや味がそれぞれどんな働き方をして効くのかを知りたがる、なんて、馬鹿げているのじゃないかなあ、と思いました。味も香りもいわゆる主効成分も、全部一丸となって、しかも他の生薬とも渾然一体となって、もしかしたら、ナカハラサチコという生体との取り合わせも含めて、摩訶不思議な効果を現しているのかも、と思ったり。  昨年9月号でご紹介した、『漢方』という本(2)の記述は、

 生薬の演ずる奇現象
 (略)漢方剤は、原則として二種以上の生薬を配合してある。生薬が二種以上ふれあうと、その含有成分の総合作用によって、個々の成分の作用のトータルでは考えられないまったく別種の効果を現わす。この現象がシナジズム効果である。


でしたが、この後は、

 具体的な例として料理に例をとれば、日本では関東の「おでん」、関西の「いもぼう」はもちろんのこと、フランス料理のスープにしろ、漢方の本国である中華料理の調味などは、ことごとく自然の新鮮な動植物の、何種かの配合の妙によって独特の持ち味を発揮する。
 天然の産物を利用する場合には、配合の妙によって、現代科学の常識を超越したフシギな現象によく遭遇する。これは生薬の基原である「生きる力」の総合作用によって、“1+1=2”ではなく、“1+1(+α)=3……5!”以上になりうるのである。
 『傷寒論』に収載されているシャクヤク カンゾウトウ(芍薬甘草湯)という処方がある。これは急迫性の筋肉の異常緊張を目標として、四肢の筋肉痛ばかりでなく、尿路結石や胆石による激しい腹痛にも頓服として用いる。処方内容は芍薬の根と甘草の根ただ二種だけの、すこぶる簡単なものであるが、シナシズム効果によってモルヒネに匹敵するような鎮痛効果をあらわす。
 しかも、かりに別々に服用したとしたら何の効果もないのである。


 と、続きます。
 ふと、子規もあの激痛に「モルヒネ」ではなく「アヘン(阿片)」を処方して貰っていたら、あるいは芍薬甘草湯を飲ませて貰っていたら、少しはラクだったのでは、と残念です。  よく効くのは解っているけれど、気候・風土などの関係で国産はできない、という生薬を科学的に研究し、その主効成分を分離・精製し、化学構造を明らかにし、同じモノを化学的に安く量産すれば、確かに恩恵を受ける人は増えます。が、しかし、その際にいわゆる不純物として除外された多くの成分の働きは切り捨てられてしまうのですね。

 ニッキの香りの効力を調べていて、「和漢生薬“桂皮”の西洋で見直された新たな効能」(3)という文献に出合いました。そこには、シナモン(中原注:このシナモンは、Cinnamomum cassiaの樹皮で、肉桂と同じです)を配合したライスプディングが血糖値の改善に効く、という報告が紹介されています。
 こういうことも、ライズプディングじゃなく、焼きリンゴだったらどうなるの、とか、サラダに振りかけて食べたら?とか、そういう、一見関係なさそうなことも、大事かも知れません。
 そして、こう考えると、漢方薬の「配合」は実に言葉の取り合わせ(配合)と似ているなあ、と思います。2つを配合することで、漢方薬は体に、言葉は心に、1+1=3どころか、1+1=Xという、数でないモノを生み出す、というところが。

 ところで、皆さん、1999年、ノストラダムスの予言、というので湧いたのを覚えておられますでしょうか?そのノストラダムス(Nostradamus、1503〜1566)、予言者として有名ですが、実はお医者さんでもあったのですね。  『ノストラダムスの万能薬』(4)という本があって、帯に「強壮・長寿・美容・健康の処方箋」とあるのですが、ここにも桂皮が出てきます。魅力的な処方が色々ありますが、例えば、これ。

 最高品質の大黄を4オンスと香りの強いシナモンを1ドラム用意する。それらを細かく砕き、清潔なフェルトの布で包む。薔薇のシロップを煮立て、その中へ大黄の袋を紐で釣り下げてさらに煮立てる。シロップが煮詰まったら、袋の汁をよく切って引き上げ、器にシロップを移し入れてから、さらに袋を中に吊し、ていねいに封をする。臣下の者を支配し、抑制することはできても、己の怒りを抑制できない貴族がいたら、このジュースを服用すべきである。1オンス服用するだけで、腹立たしさは消えるであろう。またこのジュースは三日熱(中原注:マラリアの一種で三日熱病原虫による病気。隔日に発熱・発作が起こる)を下げるだけでなく、予防するにも画期的な効果があり、また副作用なく服用できる王族の便通薬の一つに数えられている。

 カンカンに腹は立つわ、何日も滞ってるわ、というとき、この薔薇の香りのシロップがあったら、どんなにいいでしょう!
 あ、1ドラムって、勿論ドラム缶に1杯じゃありません。重さの単位で、常用と薬用があってややこしいのですが、ここでは薬ですから約3、89グラムです。  あ、それから、これ、絶対に実験しないで下さいね。責任は持てませんから。では、また来月。 (中原幸子)

【参考文献】
(1)「俳句界」2013年3月号別冊附録「平成名句大鑑」(文學の森、2013年)
(2)石原明著『漢方』(中公新書、1963年初版、1971年12版)
(3)西田典永著「和漢生薬“桂皮”の西洋で見直された新たな効能」(「ファルマシア」第6巻2号、2010年)
(4)クヌート・べーザー編/明石三世訳『ノストラダムスの万能薬』(八坂書房、1999年)

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