月刊「e船団」 「香りと言葉」2015年1月号

お雑煮

 明けましておめでとうございます。
 本年もどうぞよろしくお願いします。

 お雑煮は、召し上がりましたか? 
 小さい頃、あれはぞおにんというものだと信じていました。
 お正月早々、そんなウソついて! と思ってません? ちゃんと『紀州の方言』(1)に出てるんです。

 ぞォに 雑煮。紀北。紀南。

 「ぞおにんのお餅、いくつ?」と訊いて廻って集計し、祖母に報告するのが子ども等の仕事でした。
 前にも書いたことがあるのですが(2011年1月号:「鏡餅」)、私の実家(和歌山県海南市原野)では福餅という小豆入りのが入るので、ややこしい。

 おじいちゃん:白2つ、福1つ
 おとうちゃん:白3つ
 おばあちゃん:白1つ、福1つ
 おかあちゃん:福2つ
 ひろちゃん:白2つ、福1つ
 きいちゃん:白2つ
 さちこ:白1つ、福1つ
 合計:白11個、福6個

 という具合ですが、食べている間に昨夜何をいくつ注文したかを忘れ、行き当たりばったりにお替わりをしてしまうのですね。正月早々、帳尻が合わなくなって、もう、たいへん。

 『紀州の方言』(1)では、この「ぞォに」の3つ前に「そォど」があります。これがおわかりになれば、あなたは私の何倍も紀州人です。こんなふうに(↓)使われます。

 チッタカシの地震にデングリ返って、そげにソォドすんな。
 (=微震に仰天して、そんなにばたばた騒ぐな)。


 さて、その頃のわが家の雑煮。
 白餅、福餅、蒲鉾、小芋、油揚げ、大根、人参、豆腐。
 白味噌。
 で、トッピングは青海苔でした。こんな(↓)感じで、藁しべなんかで束ねて売られていたような記憶が。



 ちょっと火鉢の火にかざしてあぶってから、揉むと、独特の香りが広がって、なかなかのモンでしたが……。今や、刻まれて、袋入りに(↓)。



 高いのにビックリ。この1袋、6グラム入りが270円+税。
 もうひとつビックリは、アオノリって川で採れるのですね! なんか、海で採れると思い込んでいて……、恥……。
 で、この青のり粉、たしかに、ああ、これ、これ、という香りがしています。あぶり立てよりちょっと弱いかな。でも、この正月は、これを振りかけて、久しぶりに「ぞォに」で祝うことにしましょう。
 あ、ビックリがもうひとつ。アオノリには胃潰瘍に効果のあるビタミンUという不思議なモノがキャベツの30倍も含まれているし、動脈硬化の原因となるコレステロールを減らす効果もあるのだそうです。(2)
 香りも研究されています。アオノリ特有の香りは一連の長鎖不飽和アルデヒドであることが解明された、とか(3)。

 ところで、角川の文庫版歳時記・『新年』(4)の部には、「お雑煮アンケート」が載っています。トッピングは緑の野菜が多いですが、かつお菜、という聞きなれない野菜が目立ちます。漢字で勝男菜。こんな(↓)感じ。

 青海苔というのはありませんでした。でも、ノリ系はお1人。

 阿部月山子
 居住地:山形県鶴岡市
 出身地:山形県鶴岡市
 餅:丸・焼く
 出汁/味付:昆布・鰹節/醤油
 具:芋茎・厚揚・葱。生の岩海苔を上にのせる。
 作る人:男性
 食べる期間:3が日


 不思議なお雑煮もあるものだなあ、と、これまたビックリでした。

 緑系以外のトッピングでは鰹節(花かつお)。香りがいいし、縁起もいいし、ということでしょうね。
 おめでたい日をよりおめでたく演出する、その仕上げがお雑煮のトッピング、ですよね。
 けど、どうして「雑煮」なんて、めでたくもなんともない名前なのかなあ、と不思議に思っていたのですが、でも、皆さん、それでよかったのです。

 という字は『字通』(5)にこんな(↑)風に出ています。
 うしろの方の訓義のところに、
 [1] まじる、いろがまじる、多くの色を用いる。
 [2] あう、あわせる、あつめる、あつまる。
 [3] とりどり、みな、ともに、もろもろ。
 [4] いりまじる、雑多、くさぐさ。
 [5] いやしい、むだ、価値のひくいもの。
 [6] (そう)と通じ、めぐる。


 つまり、〔5〕以外のには、いま私たちがから感じるような、例えば、雑巾のような感じはなく、とてもいいものがにぎにぎしくあつまった感じがします。
 特に異体字だという、この(↓)衣偏に集の字なんか、女性が跳びつきそうな字じゃないですか!


 箪笥に山ほど色とりどりの着物を集めている……。

 って、いろいろいいことのある年になって欲しいな、という願いを籠めて食べるものの名前に、実にぴったりの字だな、と、思いつつ。

 では、皆さま、今年も雑雑雑と、よいお年になりますように。中原幸子

ご報告:上記の「青のり粉」、お雑煮に振りかけると、ぱーっと見事にアオノリの香りが広がりました。敬服。1月1日、幸子記)

【参考文献】

(1)神坂次郎著『紀州の方言』(有馬書店、1970年)
(2)「週刊 朝日百科 世界の食べもの」(108号)(朝日新聞社、1983年)
(3)日本香料協会編『〔食べ物〕香り百科事典』(朝倉書店、2006年)
(4)角川学芸出版=編『俳句歳時記 第四版 新年』(角川グループパブリッシング、2007年)
(5)白川静著『字通』(平凡社、1996年)


月刊「e船団」 「香りとことば」2015年2月号

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チョコの季節に

 私は誰でしょう?
 
カカオ解剖図

 はい、カカオです。いま、日本中を沸かせているチョコレートのモトです。  (1)はカカオの実が木に生っているところ。こんな風に幹に直接ついていて、長さ25センチ、直径15センチ、ラグビーボールほどもあるとか。以下、順番に、横に切ったところ、縦に切ったところ、種を縦に切ったところ、横に切ったところ、芽が出かけてるところ。そして、(7)がその芽を縦に切ったところ……だと、思うんですけどね。
 実は、これ、私の母校の同窓会誌の表紙なんですが、この図の説明、載ってないんです。昔教えたから、覚えてるやろ? ということなんでしょうか? さっき食べたおやつも覚えてないのに……。

 で、調べてみたところでは、(3)のようにびっしり詰まっている種子(カカオ豆、カカオ子)を取り出して、発酵・洗浄・乾燥すると、独特の香りが出るのだそうです。これを炒って種皮を除き、粉末(カカオマス)にして、砂糖・牛乳・香料などを加えると、チョコレート、とのこと。
 わかったような、わからないような気持ちで表紙をめくると、こういう写真が並んでいました。


 (1)の黄色いのが、熟れると赤くなって(3)。(4)は、果実の中で発芽し始めてしまったところで、こうなる前に収穫しないといけない、そのタイミングが難しいのだそうです。  で、さっき言ったカカオマスを圧縮すると(5)のカカオ脂(ココアバター)が採れます。これね、融点が人間の体温と同じくらいなので、坐薬の基剤に使われていたのですが、今ではもっと良いのができたので、あんまり使われなくなったとか。
 あ、脱線してますね。この、カカオ脂を搾り取った残りがココアです。

 脱線ついでにもうひとつ……。
 若いころ、高級チョコレート、と言えばスイス製でした。リンツのチョコレートなんかもらったりしたら、もう、ワクワクして、食べるの、もったいなくて。
 「スイスって、カカオの主産地・アフリカからは遙かかなたなのに、なんでか知ってる?」と聞かれて、もちろん、知らなかったですが、それはスイスの「粉末をつくる技術」が素晴らしかったから、と教わりました。今の今までそう思っていたのですが、これがどうも、中途半端な知識だったようなのです。むろん、嘘だった、というわけでもないのですが。
 ウイキペディアのチョコレートの項を見てみると、19世紀にはいるまで飲み物だったチョコレートが、口に入れるととろーりとろける固形になったのは、4つの発明のお陰なのだそうです(2)。

 まず、1828年にはオランダのコンラッド・ヨハネス・バン・ホーテンがココアパウダーとココアバターを分離する製法を確立し、さらにカカオにアルカリ処理を行うことで苦味を和らげる方法も考案した。1847年にイギリスのジョセフ・フライが固形チョコレートを発明し、1875年にはスイスの薬剤師であるアンリ・ネスレとショコラティエのダニエル・ペーターがミルクチョコレートを開発した。さらに1879年にはスイスのロドルフ・リンツによりコンチェが発明され、ざらざらしていた固形チョコレートが滑らかな口当たりのものへと変化した。(ここらが、細かい粉末をつくる技術ですよね?)上記の発明は「チョコレートの4大技術革命」とも呼ばれ、これらの発明によって固形チョコレートはココアに代わってカカオの利用法のメインとなっていった。

 この、コンチェっていうのは、
 コンチェ(英: Conche)は、チョコレート製造の際にココアバターを均一に行き渡らせる作業(コンチング)を行うための撹拌機。この作業は、チョコレートの粒子を滑らかにしたり、摩擦熱およびその放出によりチョコレート独特の風味を出したりする役割も果たしているとされている。
 ということで、最初の頃、巻き貝(conch、コンチ)の形をしていたのがこの名前のもとだそう。

 チョコレートの原材料は、時には3日以上もコンチェで撹拌されて、あの特有のマイルドで豊かな味になるのだという。

 こんな話もあります。
 逸話によるとコンチェはリンツが間違えてチョコレートを一晩中ミキサーに掛けたままにしてしまったことがきっかけで誕生したとされる。リンツは当初はエネルギーの無駄遣いと機械の消耗に取り乱していたものの、間もなく画期的なことを発見したことに気付いたという。

 いやあ、ロドルフさん、お疲れさまでした。

 それはそうと、先月(2015年1月)、
「雑」の字に「いいものがにぎにぎしく混じった感じがする」というところ、「にぎにぎしく」というところはいいのですが、「とてもいいものが」とまでは、どこから感じられるのだろう?「多くの色を用いる」から?

 というお便りを頂きました。
 なるほど、言われてみれば、「雑」の文字の解説にはどこにも「良い」という語は出て来ないのですね。
 じゃあ、これは、私の「集まるんなら、いいものがいいな」という願望(妄想?)か、とも思ったのですが、そうお返事すると、そうとも言いきれないかも、というヘルプが帰ってきました。

 そうかーと、すぐその気になる私。身の回りの辞書類には「雑」のつく熟語が山ほど出ているので、一度これらを「いい子、わるい子、ふつうの子」(古い!)に仕分けしてみようと思っているところです。

 さて、チョコの季節、久しぶりにリンツのチョコを……、誰かくれるといいな。
 では、皆さま、チョコの山が築かれますように。(中原幸子)

【参考文献】

(1)後藤勝美・月岡淳子著「カカオ子」(「京薬會誌」No.134、京薬会本部、2011年)
(2)「チョコレート」(Wikipedia)

月刊「e船団」 「香りと言葉」2015年3月号

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雑、雑感

 リンツのチョコ、来たんです!
自分でも探してみたんですが、見つけられなかったので、びっくりして、袋をみると、成城石井でした。
 

 裏側に、成分が、小さな小さな文字でずらり!! ロドルフさんが目を回しそう……でも、コンチェ甲斐(?)があるとも言えますね。

【原材料】(多い順です)
砂糖、カカオマス、アーモンド、カシスミックス(カシスジュース、砂糖、リンゴ、パイナップル繊維)、ココアバター、バターオイル、植物レシチン(大豆由来)、香料、ゲル化剤(アルギン酸Na)、リン酸Ca、クエン酸K、着色料(エルダーベリージュース、チョークベリージュース)、クエン酸

 この、成分リストの上の方には、

美しいスイス=優れた技術の結晶

と書かれています。なんか、全然イコールじゃないモノをイコールでつないでますよね? でも、こうやってつながれてみると、理屈抜きに納得してしまう……、あれ?これって俳句の極意かも。

 先月、にはよいものがまじりあうという意味があるかどうか、というモンダイを投げ出したまま終わってしまったのですが、ここで、はた、と気が付きました。よいものが私の中で結びついたわけが。
 私の中には、、つまり、「いろいろなモノが混じること」イコール「いいものが出来る」、という公式がインプットされてるんですね、きっと。長年働いていた香料会社が、いろいろ混ぜてよい香りを作る、つまり、調香の技術だけで成り立っていたようなものでしたから。もっと身近な、例えば日々のおかずの味付けだって、「さしすせそ」とか言って、いろんな調味料がまぜられていい味になります。つまり、よいものが混ざるのではなく、混ざってよいものができる、私のなかに住んでいるってそういうことだったのですね。

 と、思っていましたら、今朝の毎日新聞(1)にかんきつ類 新品種が続々という見出しがおどっていました。
 オレンジとみかんの掛け合わせで生まれた清見(きよみ)から、どんなにたくさんのおいしいかんきつ類が生まれたか、という特集で、どの品種とどの品種の交配で、それらのどういう特長が生かされたか、という一覧表もついています。
 こういうとき、清見はオレンジとみかんの雑種だ、とは言いません。雑種って、まじって悪くなったときしか使われない悲しい言葉です。

 改めて、いったいって何? と思い、そう言えば、昔、漢字に凝って、いろいろ本を買ったっけ、と思って探してみました。

『漢字の起源』(2)、『漢字学―説文解字の世界』(3)、『図説 漢字の歴史 普及版』(4)、『漢字の字源』(5)、『漢字の楽しみ方』(6)、『漢字道楽』(7)(以上、出版年順)。

 なんと、辰濃和男さんの『漢字の楽しみ方』(6)には「悪字の数々を弁護する」というサブタイトルがついているではないですか! そして、目次のトップが「雑―その強さ、おもしろさ」。更に、その出だしが、

 雑という字は、実のところ、あまり歓迎されません。
 特定観光地の混雑、税支払い手続きの煩雑さ、片づけても片づけてもふくらんでゆく人生の雑事、乱雑の極にあるわが机の上、手紙を書くときのわが粗雑な字、加えて、机の前での果てしない雑念の数々、さらに加えて、雑駁そのもののわが思考、みな、たちどころに消えてもらいたいことばかりです。


 辰濃和男さんは言います。

 気の毒にも雑は、悪役の名をかぶせられることが多いのですが、にもかかわらず、雑のつく言葉には捨てがたいものがあります。
 雑木林
 雑貨屋
 雑記帳
 みな、なつかしい味があります。


と言って、雑木林や雑貨屋や雑記帳のよさを述べたあと、ジャーナリストにとって雑踏や雑談がどれほど有り難い存在か、また、雑報、雑感と呼ばれる記事がいかに大事かを語ります。
 辰濃和男さんは、1930年生まれ、「朝日新聞」で1975〜88年の間「天声人語」を担当した人ですが、新聞記者になって初めて書いた雑報は「空き巣でオーバー一着と冬服一着が盗まれた」という一段記事だった由。雑についてこう弁護します。

 雑という字には「まじわる」の意味があります。
 まじりあっているものは強い。強いだけではなくて、うまい。あれこれの雑炊や沖縄のチャンプル料理は、まじりあっているもののうまさです。

(中略)
 雑という字は私たちに真剣勝負を挑んでいるようにも思えます。雑誌も雑音も、いろいろなものがまじっているからこそおもしろい。
 おもしろいけれども、一歩間違えると、乱雑、粗雑、雑駁な仕事になってしまう。
 雑の強さ、おもしろさをいかに味方につけるか、そこが勝負どころでしょうか。


(中略)のところに、実は、芝生には雑草がまじっていることが大事なんだよ、ピンセットと虫めがねで雑草を抜いてしまうと、害虫の大発生なんかのとき、芝が全滅するんだよ、という話が出てくるのですが、雑の強さは納得するものの、じゃあ、芝生の雑草になりたいか、と言われると、ハイ!と元気よく答える自信は、ない、ですよね?

 やっぱり、私の好きな雑は、主成分も微量成分も優劣なく互いにまじりあって相乗効果を生む、チョコレートのような雑。
 では、リンツのちょこを頂きながら、また来月。(中原幸子)

【参考文献】
(1)「かんきつ類 新品種が続々」(「毎日新聞」2015年2月24日、朝刊、16面 (2)藤堂明保著『漢字の起源』(現代出版、1983年)
(3)阿辻哲次著『漢字学―説文解字の世界』(東海大学出版会、1985年)
(4)阿辻哲次著『図説 漢字の歴史 普及版』(大修館書店、1989年初版)
(5)阿辻哲次著『漢字の字源』(講談社現代新書、1994年)
(6)辰濃和男著『漢字の楽しみ方―悪字の数々を弁護する』(岩波書店、1998年) (7)阿辻哲次著『漢字道楽』(講談社選書メチエ215、2001年)

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