月刊「e船団」 「香りとことば」2017年1月号

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慈姑(くわい)

 新年おめでとうございます。

 お正月、といえばクワイ慈姑
 で、クワイ料理の本を探してみたら、こんなのが『京のおせち料理』に(1)。



 京都料理芽生会編。
 「京料理の後継者達が、京都市全域から集い、料理の研究、経営など研鑽と親睦を主な課題として、ふれあう会」だそうで、この会の設立は昭和30年。
 左上から時計回りに、鈴とこづち、松笠、絵馬、成鼓、六方くわい。

 打ち出の小づちは無理でも、六方ならできそう! と、いうのでやってみました。
 まずは近所のスーパーで、5個入りのパック(398円)を2パック。
 食べられるクワイには青クワイ、白クワイ、吹田クワイなどがあるそうですが、スーパーには青クワイだけでした。下の図の、左の端にあるのは、黄色い色をつけるのに使うクチナシです。大丸で4個入り1パック108円。



 クワイを、芽を折らないように、角がきれいに立つように、気を付けて剥き、クチナシと一緒に茹でます。クワイは煮崩れしないので、とっても私向き。いい色に茹で上がりました。
 これを、八方地で煮なさい、と、『京のおせち料理』には書かれていますが、それはちょっと……、なので、スーパーで買ってきた 「ヒガシマル 京風割烹 白だし」で味を付けました。これがスグレもので、茹であがったときとほとんど色が変わっていなんです。



 味も、ほっこりサクサク、まったり、おいしい。え? 黒豆? これは、茨木市春日丘地区福祉委員会が毎年末にお年寄りに配ってくれる、フジッコの丹波黒

 ここで、ハタと気づいたのですが、私って、「クワイさん、あなたは誰?」というほどクワイについて何も知らない!
 実家のすぐ近くの小さな池の片隅に不思議な形をした葉っぱの一群があり、それがクワイというモノだ、と祖母から教えてもらったのは、多分、小学生のころだったか。
 それは敗戦前後のことで、あの池の持ち主はきっとクワイが大きくなるのを待ちかねて食べていたかも!!

 で、クワイって、どこに、どんな風に成るの?
 それより、そもそも、どんな植物? と思えば、なんとユリの仲間なんですね。納得なような、そうでもないような。



 葉っぱはこんな感じ。



 で、私たちはどこを食べさせてもらってるのか、といえば、塊茎なんですって。塊茎といえば、たしかジャガイモがそうでしたよね? 地下茎が土の中でふくらんで、芋になる。
 クワイは水面下の泥の中で黙々と地下茎を膨らませ、大きなを出す。これがメデタイにつながっておせちに。それに、1本の茎に多いときは12個もつくということから、子孫繁栄の意味としてもめでたいのだとか。
 ネットにとてもよくわかるイラストがあったので、拝借してきました(2)。この「新日屋のブログ」にはクワイの情報がいっぱい。皆さんもご自分で是非訪問してみてください。



 これ、よくわかりますでしょ、どんな具合にクワイが成るのか?

 それにしても、この本に出ているおせちは、実に手のこんだお料理ばかり。食べ物を作るのに、こんなに味以外のところに手間暇根気を投入する国ってほかにあるでしょうか。やっぱり和食は世界遺産だなあ、と実感しました。

 でも、困ったことに、クワイも香りってないんです。香りの本をひっくり返してみても、項目すら見当たらないのです。
 まあ、あの泥の中で香ってみても、蝶や蜜蜂が寄ってくるわけはない……、あ、花は香りがいいかも。
 こんど、嗅いでみて、また、ご報告しますね。
 ことしも、どうぞよろしくお願いします。では、また来月。(中原幸子)

【参考文献】
(1)京都料理芽生会編『京のおせち料理』(株式会社淡交社、1987年)
(2)新日屋のブログ(https://www.shinnichiya.com/s_blog/?p=1089)


月刊「e船団」 「香りとことば」2017年2月号

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蕗の薹(ふきのとう)

 2月は蕗の薹、と、前から思っていました。

 藤沢周平が亡くなってから、もう20年になるそうで、雑誌の特集とか、「三屋清左衛門残日録」の再ドラマ化とか、話題になっていて、その清左衛門が蕗の薹を見つけて、「(長男の嫁の)里江に渡したら蕗味噌にしてくれるだろう」と紙に包んで懐にいれるシーンを思い出したのです。
 ところが、口惜しいことに、『三屋清左衛門残日録』(1)を何度ひっくり返してみても、ソコが見当たりません。きっと、また、これをアップしてしまってから、ひょっこり現れるのでしょう。私が見た1991年のテレビドラマでは、 清左衛門が仲代達矢、里江が南果歩でした。長男の嫁で、ちょっと義父に惹かれている、という感じを実によく出してましたっけ。

 野菜の売り場は春いっぱい、蕗の薹を2種類と、ついでにタラの芽(3)……。


 (1)も(2)も 徳島県産で、(1)は4個入り350円、(2)は同じく徳島県ですがJA名西郡産で15個入り646円(どちらも外税)。
 それにしても、このガードの堅さ! 中に、ホンマに花を抱いてるん? という感じ。で、ちょっと失礼して、苞をめくっていくと、ご覧の通り、ちゃんと大事そうにツボミがいっぱい。ちなみに、苞の数は、(1)が52片、(2)が29片でした。


 そして、その、苞を外していて、ふと気が付けば、フキノトウの香りが雲のように湧きあがっていました。
 フキノトウの香りだ、フキノトウ以外の何物でもない香りだ、これこそ香りを聞いてる、という感じだ、という香りです。
 この香り、蕗味噌とかにしてほかの香りと混ぜたりせず、そのまま味わうってこと、できないのだろうか、とネットで検索してみると、みんな結構、サラダにして食べているようです。
 私も、真似して、塩でゆでてアクを抜いただけのを味見してみました。


 うん、苦い。ただもう苦い。苞のガードの堅さとこの苦さの連携プレーなら、たいていの外敵は退散することでしょう。
 でも、不思議と、不愉快な苦さじゃないのですね。口の中はいつまでもしつこく苦いけれど、別にすすぎたい、とかも思わない。こればっかり食べるのには不向きでも、アクセントには最適かも。これを味噌でホロニガ程度に薄めて、熱燗をちびりちびりやるの、いいんだろうな、と下戸の私はちょっぴりひがむ。

 ついでながら、ガードが堅い、つまり、何が何でも子孫を残すぞ、という執念を感じさせることがまだあるのです。まったく、繁殖への備えがハンパじゃありません。
 『図説 俳句大歳時記 春』(2)の解説がステキなので、ご紹介します。

 フキはキク科の多年草で山野に自生が多い。早春、新葉が出る前に根茎から卵の形をした、緑色の花茎を出し、大きなうろこのような葉(ママ)で幾重にも包まれている。これがフキの薹である。フキは雌雄異株の植物であるから、あとで花になるフキの薹にも雌雄の区別があることはいうまでもないが、案外気が付いている人は少ない。
 雌のフキの薹には雌花があり、雄のフキの薹には雄花と両性花とがある。みな白または黄白色、雄花と両性花とは実を結ばず、雌花には白い冠毛のある実ができ、そのころ花茎は30―50センチぐらいの高さに伸びて、白い冠毛がよく目につくようになる。つまり花がほうけた時代で、このころが俗にいうフキのシュウトメである。薹が立つといい、シュウトメといい、どうも人間社会ではあまり聞こえがよくないが、植物社会では功成り名とげた絶頂のときであろう。(本田正次)


 思わず、アハハ、と笑ってしまいました。
 しかも、ここには書かれていませんが、こんなに用意周到な花の付け方をするにも拘わらず、地下茎を伸ばして繁殖するのだ、とか。
 いったい、蕗って何様? となりますが、それはまあそれとして、これだけ香り高く、しかも苦いのだ、その成分は何だろう、と思った人がきっといるだろう、と思ったら、いました。

 先ず、苦みのモトですが、これはその名もフキノール酸という、ポリフェノールの1種で、抗酸化作用があり、花粉症に効くとことも分かってきているとか。
香りも、『食べ物 香り百科事典』(2)や「香料」(3)に載っています。
 産地による香りの差はほとんどなく、根茎、根と葉身、葉柄には特徴的な違いがあるのだそうですが、でも、私たちが食用にする、いわゆるフキ(葉柄)と、花茎、つまり蕗の薹とには、共通の蕗らしい香り成分である、1−ノネン−3−オールというモノが見つかっているのだそうです。

  水ぐるまひかりやまずよ蕗の薹  木下夕爾
  蕗の薹食べる空気を汚さずに  細見綾子

 なんだか、食べてごめんね、とあやまってあげたい気がしてきましたね。では、また来月。(中原幸子)

【参考文献】
(1)藤沢周平著『三屋清左衛門残日録』(文春文庫、1992年)
(2)『図説 俳句大歳時記 春』(角川書店、1973年)
(3)日本香料協会編『[食べ物]香り百科事典』(朝倉書店、2006年)
(4)日本香料協会編「香料 No.232」(日本香料協会、2006年)


月刊「e船団」 「香りとことば」2017年3月号

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独活(うど)

 また山菜だけど、いいのかなあ、と迷っていましたら、こんな都々逸があるとか。(1)

 山でうんまいもんオケラにトトキ、
 まだうんまいもんウド、ワラビ


それに、毎日歌壇の「加藤治郎・選」にこんな短歌。

 肯定も否定も疑問も感嘆もなきゆうぐれの棒となりおり(垂水市 岩元秀人)

 「も」でたたみかけたこの四語、絶妙ですよね。スーパーで買って、写真を撮ったりしていたウドに「ボクでいいよ」と言ってもらったような気がしました。

 1月に買ったのは(↓)、ホントに棒みたいだったのですが、

2月には葉っぱが大分大きくなっていました。うつむいてますけど。

 長さは大体同じ、約50センチでした。
 産地が、1月のは秋田県、「世界遺産の白神山麓からの贈り物」。2月のは群馬県産。袋にはこんな(↓)レシピが付いています。値段は1月が580円、2月は398円でした。

 葉は天ぷらに、皮はきんぴらに、身は鶏肉と取り合わせて和え物に。全部やってみるのは大変なので、ごっちゃまぜできんぴらにしてみました。セロリのきんぴらが大好きなので、これもいいのでは、と思ったのですが、大正解。
 不思議に思われるでしょうね。私が、今ごろ、ウド初心者なんて。実は、ずっと、香りの強い野菜、果物、全部ダメだったのに、このところ、そう、後期高齢者になった頃からでしょうか、何でもOK、おいしい、おいしい! ついでにコーヒーもOK。付き合いで仕方なく飲んだ3時のコーヒーで眠れなかったのがウソみたい。

 また脱線してますね。
 きんぴらは美味しかったです。葉、皮、身、それぞれが、香りも、歯ざわりも、味も、ちゃんと個性を発揮しつつ、でも、微妙に調和がとれてて。ホント、おすすめのものぐさ逸品です。
 で、その香りですが、『食べ物 香り百科事典』(2)に、なんと60以上もの香り成分が載っていて、ウドの特徴的な香りのモトは、α-ピネン、カンフェン、リモネンなどの炭化水素類、ボルネオール、(Z)-3-ヘキセノール、4-テルピネオールなどのアルコール類、それに、フェニルアセトアルデヒド、カンファー、カルボンなどのカルボニル化合物だろうと書かれています。
 でも、こういうの、いろんな植物に含まれていて、特にウドにだけ含まれている成分というのは見当たらないな、と思ったり、待て待て、同じ成分でも、比率が違えば香りががらっと変わるよ、と思ったり。

 ところで、独活という漢字、ビックリですよね。ひとりでいきる!?
 これ、どこから来たんだろう、と、日本国語大辞典を引いてみると、
うど 【独活】〔名〕
(古くは「うと」か)
ウコギ科の多年草。北海道から九州の山野に自生するほか栽培もされる。地上に出る前の若い芽は柔らかく芳香があり、食用とされるが、生長すると高さ2メートルに達し、食用とならない。高さ1〜2メートル、葉は卵形で鋸歯(きょし)のある小葉からなる大形の二回羽状複葉。夏、雄花と雌花の別がある薄緑色の小さな五弁の花が球形に集まって咲く。果実は滑らかな小球形で、紫黒色に熟す。漢名として土当帰(どとうき)を慣用したが誤用。学名はAralia cordata 《季・春》 ▼うどの花《季・夏》


と植物の説明があって、語源説として、
(1)ウヅ(埋)の転〔名言通・大言海〕。
(2)ウド(埋所)の義〔本朝辞源=宇田甘冥〕。
(3)ウはウツボ、トは土から〔和句解〕。
(4)ウはウバラのウと同じ。トはトゲの下略。茎に毛刺が多いことから生じた語か〔古今要覧稿〕。
(5)ウゴクの転語。風のないのに動くところから中国で「活」をあてたという〔滑稽雑談・たべもの語源抄=坂部甲次郎〕。


 この(5)が、やや「独活」につながるかな、という感じもしますが、これでは、が宙に浮きますよね。
 ところが、日本国語大辞典では、うど【独活】のほかに、どっかつ【独活】が立項されています。そこには、
どっ‐かつ[ドククヮツ] 【独活】〔名〕
薬用とするシシウドの根の称。強い芳香があり、漢方では、煎じて神経痛や風邪などの薬に用いる。


とあって、その語源説のところに「叢生せず、一本だけ生えるところから〔古今要覧稿〕」と書かれています。
 私の独断と偏見では、シシウドという名前のなかにウドがあるから、名前を拝借した、と考えると理屈にあうような気がするのですが、無理でしょうか?

 実は、シシウドもウドもレッキとした漢方薬なんですね。で、名前が似てるもので、こんがらがってしまうのですが、富山大学の客員教授、佐竹元吉氏の論文(3)を引用させていただいて、そこのところをはっきりさせておきたいと思います。

 独活は同じ生薬名で複数の基原植物が記載されている。第15改正日本薬局方第一追補に初めて収載され,基原植物はシシウド Angelica pubescens とウド Aralia cordata の 2 種類であるが,中国ではシシウドAngelica pubescens のみである。和独活(ウドの根茎)と唐独活 (シシウドの地下部)は類似した匂いはあるが、両者ではかなり成分が異なる。ウコギ科ウドの成分はピネンなどのテルペン系精油、さらにジテルペン、トリテルペン、トリテルペン・サポニンなどテルペン系の化合物でしめられている。セリ科のシシウドの成分はセリ科に共通するクマリン類やフタライド類である。

 では、独活の俳句を……、
 雪間より薄紫の芽独活哉   芭蕉
 独活掘りの下り来て時刻をたづねけり  前田普羅
 山独活がいつぽん笊にあるけしき  中原道夫
 独活刻む切つ先ときに吾に向き  大竹多可志
 独活売に花咲く頃を誓ひけり  闌更

 お、闌更さん、やりますね! ではまた来月。(中原幸子)

【参考文献】

(1)八田洋章「週刊朝日百科 世界の植物 29」(朝日新聞社、1994年)
(2)日本香料協会編『[食べ物]香り百科事典』(朝倉書店、2006年)
(3)佐竹元吉著「日本薬局方と収載生薬」(富山大学・和漢医薬学総合研究所)

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