月刊「e船団」 「香りとことば」2018年10月号

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ゴマをどうする?

 ゴマのこと、書いてるの、見たから、と言って、こんなゴマを2袋いただきました。なんでも、知人がゴマのお仕事をされているとか。これもすりごま


 キャッチフレーズに「厳選した良質のごまを原料として、当社独自の製法で香ばしく焙煎し、均質に摺りあげています」とあります。先月ご紹介した黒ゴマのすりごまはあまり均質にせず、ゴマの粒の歯ごたえをわざと残していましたけど。
 いろいろ見てきて、気付くのは、どこのメーカーも「焙煎」をとても大事にしていることです。ゴマって、きっと焙煎イノチなのだあ、と。

 それから、この間、テレビの料理番組で切りゴマというのを手作りして使っているのを見ました。
 いりゴマを乾いた布巾に載せて、ゴマを挟むように二つに折り、布巾の上から包丁で刻む。押すようにしてましたね。前後に押したり引いたりすると、布巾も刻んでしまうでしょうから。

 で、市販されてました、これも。

【左】マコト社、128円(60g)
 香ばしく焙煎したいりごまを、粗く切り刻んだ。適度にごまの粒の食感が残り、香りがより引き立つ。老舗のごま屋が手がけた職人仕上げ。

【右】九鬼社、189円(60g)(税込)
厳選したごまを風味豊かに煎りあげ、独自の方法で加工しました。
香り高い風味の切りごまに仕上げています。


 先月、ちょっと触れましたがすりゴマと銘打った商品でも、きな粉はったい粉みたいに細かく挽かれてしまっているのではなく、全粒も残しているものがあり、それが歯ごたえを楽しむのに役立っているようでした。
 こうしておけば、まず、細かい粒子が放つ香りが口に広がる → 粗びきの粒子から徐々に香りが立つ → 全粒のは噛んだときが歯ごたえを楽しみ、それからぱっと口中にひろがる新鮮な香りを楽しむ、という風に、それこそひと粒で3度おいしいですものね。
 つまり、ゴマのガードの堅さを逆手に取って、固い表皮で守られたゴマの香りを何段にも楽しむしたたかな方法ということになります。

 で、その煎り方の工夫ですが、金ごま本舗のHP「金ごま館」(1)にこんなイラストが!

 これ、焙煎と同時に遠赤外線を当てれば、外側からも内側からも同時に加熱できるよ、ということを説明してくれてるんですが、つまり、ウチの台所で煎ったのでは届かない芯のところまで、熱が届くってこと。

 そう言えば、私が小学生の頃、家にはホーロクってものがあり、祖母がそれでゴマを煎ってましたっけ。私はなんでもやってみたがるコだったので、祖母は心配しながらも何でもやらせてくれましたが、ゴマを煎るのを任せるのはさすがに心許なかったのでしょう、「2粒か3粒はじける音がしたら火を止めるんやで」としつこく申しました。
 いま、思えば、それは、煎れているがはじけていない、つまり、加熱で香ばしくなった中味がきちんと閉じ込められている状態で煎り上げるコツだったのですね。おばあちゃん、ゴメンね。トラの子のゴマを私に預けるの、さぞ心配だったでしょう。
 と、ここで、ふと思ったのですが、そのゴマをどんな料理にして食べたか、全然覚えてない! でも、ついでに、祖父が畑でゴマを作っていたのは思い出しました。さっきネットでサーフィンしていたら、こんな(↓)ゴマの栽培がバッチリわかるイラストに出合いました。(2)


 ちょっと文字が小さくて分かりにくいですが、左から、種をまく → 芽が出る → 間引き1回目 → 間引き2回目 → 花が咲く → 実が熟す → 刈り取り → 乾燥、です。
 初夏に種を播き、晩夏から初秋にかけて花が咲き、秋には刈り取られ、乾燥され、叩かれて、新ゴマとなり、焙煎されて、いい香り!
 そして、胡麻刈る、胡麻干す、胡麻打つ、胡麻殻、胡麻叩く、胡麻筵、新胡麻、胡麻などが秋の季語となって俳句に詠まれています。

 人遠く胡麻にかけたる野良着かな   飯田蛇笏
 一列の胡麻の後ろの農夫の目   沢木欣一

 では、また来月。中原幸子

【参考文献】

(1)金ごま本舗HP「金ごま館」(http://kingoma.shop/?pid=107817131) (2)カタギ食品株式会社ブログ(https://www2.katagi.co.jp/blog/2017/07/blog4.html)


月刊「e船団」 「香りとことば」2018年11月号

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ベネ・セサミ・ゴマ

 びっくりしました。
 10月18日の毎日新聞の夕刊にこんな記事が出ていて。


 「セサミストリート」って、まだ続いていたのですね。
 50年ほど前、香料の何かも知らずに香料会社に就職して、図書室の本がどれもこれも英語やフランス語やドイツ語なんかで、日本語の本といえば共立全書の『香料化学』(1)だけ、ということを発見してすくみ上がった私。


 社長がフランスの香料会社へ勉強に行ったことのある人で、そこで知った欧米の香料雑誌類を、毎月、片っ端から取り寄せていたのです。
 途方に暮れたあと、これは大変だ、と気を取り直して、遅れ馳せながら英語の勉強を始めました。夜、外国語学校に通ったのです。
 が、中学生のころから苦手で、逃げ回っていた英語。勉強が進むワケがありません。そこで出会ったのが「セサミストリート」という楽しいテレビ番組でした。

 Sunny day, sweeping the clouds away
 On my way to where the air is sweet
 Can you tell me how to get, how to get to Sesame Street?
 ……
 ……

 テーマソングも、冒頭の「サーニーディ」だけしか聞き取れませんでしたが、でも、やっと、英語って楽しいんだなー、と思えました。
 あのビッグバード、あの中に入っていたのが、このキャロル・スピニーさんだったのですね。他のメンバーはこんな面々で、

 わたしのお気に入りは、クッキー、ビッグバードの右側のコでした。

 「セサミストリート」という番組について、Wikipedeaにはこう出ています。
 セサミストリート」とは、番組の舞台となっているニューヨーク州マンハッタンにあるとされる架空の通りの名である。アラビアンナイト(千夜一夜物語)の『アリババと40人の盗賊』の中に出てくる呪文「開けゴマ(open sesame)」からきており、「宝物が隠されている洞窟が『開けゴマ』の呪文によって開いたように、この番組によって子どもたちに新しい世界や知識の扉をひらいてほしい」という願いが込められているとされる。(以下略)

 でも、「植物の世界」(2)の「ゴマの来た道(セサミロード)」という欄を見ていたら、こんなことが書かれていました。
 (略)ところで、ゴマの抜群なおいしさのとりこになったある米国人は、テキサス州の片田舎にゴマ栽培の大農場を作った。ここに多くの農民を入植させ、街づくりを行い、その大通りを「セサミストリート」と名づけた。ここで行われた入植者の師弟に対する教育法は、独特かつ効果的なものだったので、全米で反響をよび、有名なTV番組「セサミストリート」を生み出した。これは「ゴマの来た道」のすばらしいひとこまである。(小林貞作)

 どっちが正しいか、そんなことはどうでもいい、両方ともステキだ。

 ところで、この同じ欄に、もうひとつ不思議なことが出ています。
 ”新大陸”へは、1550年代に西部アフリカからの奴隷貿易による海上ルートで伝わった。ゴマはメキシコや米国テキサス州へ上陸し、栽培の労働力となった黒人奴隷は、ゴマを故郷での呼び名「ベネ」(ニジェール川支流のベネ河畔に生育する、幸福を招く植物の意)とよび、現在でもセサミとよばない。

 ん? ゴマはその発祥の地では「ベネ」という名前だったの?
 なのに、新大陸ではセサミと呼ばれた?
 なんで? と思って、ふと、ゴマの学名がSesa……なんとかだったのを思い出し、『牧野 新日本植物図鑑』(3)の「学名解説(属名)」を見てみたら、
 Sesamum n.<g. 古名.ギリシャ語の zesamm,アラビア語の sesem,など,ゴマを指す古名にもとずく.

とある。
 本文の「ゴマ」の項を見ると、「インド、またはエジプト原産といわれ……」と始まっていて、学名解説とよく一致している。この本の初版は昭和36年(1961)なので、そのころはゴマの原産地はインドとかエジプトだと推定されていたのだと思われる。リンネがゴマにつけた学名が「Sesamum indicum L.」だったのも、それならわかるし。

 しかし、どうやら、その後、研究が進むにつれて、シルクロードならぬゴマロードが明らかになり、リンネのつけた学名は歴史的な意味しかもたなくなってしまったように思われる。

 ジャパンナレッジの『日本大百科全書(ニッポニカ)』ではこうだ。
 栽培ゴマの起源はアフリカといわれる。紀元前1300年ころにはギリシアですでに栽培されていた。中国には紀元100年ころ西域民族(胡)を経て伝えられ、その後日本へ入った。ゴマの名は、胡から伝来したもので、種実がアサ(麻)に似ている植物という意味らしい。

 日本へ入って来たのは6世紀ごろのようだが、当然「胡麻」という名で入って来たのであろう。

 なんだか、名前に振り回されてしまいました。
 来月は、ゼッタイ、おいしいゴマの話にしたいと思います。では、また来月。(中原幸子)

【参考文献】

(1)木村清三著『香料化学』(共立出版、1956年)
小林貞作著『ゴマの来た道』(岩波新書、黄版354、1986年初版、2007年第7刷)
(2)小林貞作著「ゴマの来た道(セサミロード)」(週刊「朝日百科」17号、朝日新聞社、1994年)
(3)牧野富太郎著『牧野 新日本植物図鑑』(北隆館、1961年初版)


月刊「e船団」 「香りとことば」2018年12月号

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かおれ、ゴマ!

「……。しかし、バラの香りには、他のどの油よりもゴマ油が合う」という文に出合ったときには、ビックリするのも忘れるほどでした。
 わたしは、何か調べたくて本を借りたり、買ったりしたとき、目次からちゃんと見ていくのではなく、まず索引をみて、目的の言葉のあるページへ直行する、というやり方なので、このときも「ゴマ油」の出ている37ページと66ページへ直行しました。その本は『香料文化誌』(1)という本で、37ページではアラビア人による「すばらしいパイ」の作り方が書かれていました。が、そのパイの途方もない大きさにビックリしただけで、さっさと次の66ページに行き、冒頭のくだりに出くわしたのです。
 そうか、アルコールがふんだんに使えるようになる前は、香り成分は油脂などを使って抽出してたのだった、と思い到るのにちょっと時間がかかってしまいました。

 あ、「すばらしいパイ」の大きさですか? そこに並べられている作り方は、

 「精製した小麦粉30ポンドを5ポンド半のごま油でこね、当量に2分する。その一方の上に、ゴマ油とピスタチオ油で揚げた肉と、胡椒、生姜、シナモン、乳香、コリアンダーの実、クミンの実、カルダモン、ナツメグなど各種の香辛料とを詰めた丸の子羊3頭を乗せる。その上から、麝香を混ぜたバラ水をかけ、子羊の上に、鶏20羽、鶏の雛20羽、小鳥50羽を置く。それらはあらかじめ焼いて玉子を詰めたり、肉を詰めたりして、すっぱいブドウのジュースかライム果のジュースに浸けて揚げておくかする。次に、沢山の小型の肉パイと、砂糖および砂糖菓子を詰めたパイとを加える。次に、全体を丸屋根型に積み上げ、麝香とジンコウ(沈香、キャラ)の樹脂を混ぜたバラ水をふりかける。次に、こねた粉の残り半分を全体にかぶせて蓋をして焼き、焼き上がったら食べる前にもう一度、麝香を加えたバラ水をかける。」

 というもので、まあ、あまりにも複雑で、深入りしたくない気分です。
 ここで使われている香り関係の材料だけでもひと財産という感じで、このパイ、一切れ、いったいなんぼについたやら。

 で、やっと、ゴマの香りです。
 ご存知のように、ゴマは焙煎することで香りが強くなりますよね?
 ありがたいことに、「ゴマは炒ってからすると美味しくなる」(3)というサイトがあって、そこには、

 食卓に何かもう一品料理が欲しい。そんなとき、ホウレン草のゴマあえはナイスな副菜だ。存在は地味だけど、まさにいぶし銀の存在感。聞けば、ホウレン草以外にも、いんげん、オクラ、アスパラ、ゴボウ、小松菜など季節の野菜をゴマあえにすると美味しいそうだ。
 中国や韓国ではゴマのペーストやゴマ油を利用することが多いが、それらとは異なり、すりゴマを使うのは日本独特の食文化だとか。


 というようなことが書かれているのですが、私が飛びついたのは、この(↓)図でした。

 というのも、ゴマから油を搾るのって、けっこう難儀な仕事らしいのですね。
 ごま油を製造している会社は沢山あるようですが、どうも、「ぎゅうぎゅう押さえつけたら油がしたたり落ちるやろ?」という訳にはいかないようで、どの会社も「うちのやり方が一番だ」というこだわりの絞り方があるみたいなんです。
 それで、いったい、ゴマはどこに、どんなふうにゴマ油を抱いているんだろう、と不思議に思って、せっせと身の回りの本やネットの検索などしてみたけれど、なかなか出会えなかった図にやっと出会えたのが上記の図でした。
 この図によれば、油は中央の「子葉」と内種皮の内側をぐるりと取り巻く「胚乳」の部分に多く含まれている、ということで、つまり、ゴマ油を搾るためには外種皮と内種皮を破って油を流れ出させる必要があることになります。

 じゃ、大豆はどうなんでしょうか? 「すずなのみそを知る!大百科」にはこんな図が出ていて、もう、一目瞭然、この薄そうな皮1枚ならゴマよりうんと簡単に油が搾れそうに見えますよね。って、それは素人考えでしょ! そんな簡単なモンじゃないよ、というプロの声も聞こえてきますが……。


 で、上でご紹介した「ゴマは炒ってからすると美味しくなる」では編集者の質問に「先生」が答える、という形式なんですが、ゴマの香りについてはこんなやり取りです。

――どんな香りですか?
先生 複雑でうまく言えませんが、ゴマらしいいい香りです。ゴマは生の状態だと少し青臭いですが、炒ると香りが変化します。甘い香りのフラン類、ピーナッツのようなこうばしい香りのピラジン類など100種以上の成分によって作られているといわれています。フライパンで炒ると、ゴマに含まれる糖やアミノ酸の成分変化も加わって、香りが立ちのぼってきます。市販の炒りゴマを料理に使う場合でも、最初に数十秒間だけ、ゴマを温めてすると、ふだんよりずっといい香りのゴマあえになります。温めることでゴマの表面の皮の部分が柔らかくなるので、すりやすくもなります。温めるのは電子レンジなどよりフライパンでさっと弱火で温めるのがベストだと思います。


 100種以上もの成分をガスクロマトグラフ法という方法で突き止めたのは中田勇二さん達のグループで、その報告(5)にはこんなガスクロマトグラムが出ています。この沢山の山(ピーク)の1つ1つが香りの成分というわけです。


 100以上どころか、最後のピークのナンバーはなんと171です。
 更に、ピークになっていない微量の成分もあるわけで、いったい、ゴマの香りの成分はいくつあるのやら!!
 なんか、ゴマもいい加減には扱えない気がしてきましたね。ではまた来年。(中原幸子)

【参考文献】

(1)C.J.S.トンプソン著/駒崎雄司訳『香料文化誌―香りの謎と魅力』(八坂書房、2003年)
(2)米澤祥・小野田昭著『油伝説』(ゆうエージェンシー、1997年)
(3)「ゴマは炒ってからすると美味しくなる」(https://www.president.co.jp/family/blog/online/333/)
(4)「すずなのみそを知る!大百科」 (http://miso-sommelier.com/category12/entry50.html)
(5)中田勇二・林寿一・下田満哉・筬島豊著「ごま油香気成分のGCデータの多変量解析」(「日本油化学会誌」第47巻 第3号、1998年)


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