月刊「e船団」 「香りとことば」2019年 1月号

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松(まつ)

 明けましておめでとうございます。

 なにかおめでたいテーマはないやろか、と考えて、ふと思い出したのは母のことでした。
 母は教員をやめてから自宅で近所の娘さんやそのお母さんたちに活花を教えていました。教員をやめても、何かすることがあるように、と、職場の帰り道に見つけたお花の先生の許に通って、師匠の免許をもらっていたのです。わが母ながらあっぱれだと思います。
 田舎のことで、流派を選ぶ、というような贅沢はできなかったようで、習ったのは「真月未生流」という聞き慣れない流派でした。それでも少人数ながら途切れることなくお弟子さんに囲まれて、お稽古の日はニコニコ顔でした。
 その母が、いちばん張り切るのは年末です。いつもお稽古の花を届けてくれる花屋さんが、どさっと若松の束を持ってきて、井戸端の桶に入れて帰ると、母の出番です。
 あちこちの、床の間のあるお家から、「せんせい、若松活けて」という依頼が舞い込むのです。いま、記憶を頼りに、ネットで探してみて、いちばん似ていたのがこれでした。とはいうものの、水引の結び方はビミョーに違っていたような……。(画像は無断借用です。正月早々、ごめんなさい)。


 花器は、写真のは薄端(うすばた)ですが、もちろんズンド(寸胴・寸渡)でもOK。そのお家にあるものでいいみたいです。水引は金銀の相生(あいおい)結びで、これが結構難しいらしく、快心のでき、という顔にはなかなかなりませんでしたが、出来上がったのを大事そうに紙に包んでは配達していました。
 我が家ですか? 全部出てしまって、ウチは若松ナシって年もありましたが、まあ、何らかの花は、年中、そこらにありました。
 母がお花のせんせいを始めたのは私が故郷を出てきてしまってからでしたので、私は母にお花を習った覚えはなく、30歳かそこらでマンションに移ったものの玄関に花を飾るのにも困るありさま。いいオバサンになってからあわてて習ったのは、上に「真月」のつかない未生流でした。それももう昔話になってしまいましたが、お花は結構続いて、格花にもトライしたらしく、本棚にこんな本(1)が残っていました。


 初版が1974年で、私が持っているのは1978年の第3刷なんですが、その時の定価が3800円。いま、アマゾンに古本が出ていて、その売値が3500円。「初版 函イタミ、本はヤケ・多いシミがあります。読めますが、状態悪いです」とある。それにしても、ここまで使い込んだあなた、勉強されましたねえ。私のなんか恥ずかしいほどいい状態。
 で、ビックリなのが、「格花」なんて堅苦しいお花ばかりかと思いきや、こんな、鉄炮百合と蕨なんて斬新な取り合わせのカラー写真も出ています。


 と、書いて来て、ふと、松葉ってどんなニオイだっけ? と思いました。どうも、嗅いだ覚えがない。皆さん、嗅いでみられたことがおありですか? まあ、花の香りは虫などを誘い寄せるために空気中に発散するためにあるので、近くによるだけで香るけど、葉っぱは千切り取って、裂いて切り口に鼻を近づけないと匂わない、とは、何となく思っていましたが。
 それで、ちょうど、いま、お正月の飾り用に花屋さんに松が出てますから、ひと枝買ってきました。長さ17センチ、重さ6グラムです。


 1本を半分に切って切り口を嗅いでも、私の鼻には匂ってくれません。で、20本枝から外して、包丁で刻んでみました。


 やっと香ってくれました。緑っぽくて、青っぽくもあって、あったか〜い、快い……ホント、いい香り。わ、これって台所で森林浴だ、という感じです。皆さんも、お正月の飾りの松をどんど焼きに出す前に、是非おためしになってください。

 で、松葉の香りって、研究されてるのだろうか、と思って「香料」という雑誌を調べてみましたら、おあつらえ向きに、「葉・根・幹・樹脂の香り」を特集した号(2)がみつかりました。ちゃんと「パイン」の項もあります。
 ところが、残念! 精油の成分しか出ていなかったのです。精油っていうことは、水蒸気蒸留で採取された油ということで、緑の香りのモトである青葉アルコールのように水に溶ける成分は集め損なわれてしまうんですね。
 どなたか、松葉をじかに最新式の分析機器にかけて、青い香りのもとを調べて、発表してください。もう発表されているのに、私が知らないだけだったら、ご存知の方、是非ご一報ください。

 新年早々お願いごとになってしまいましたが、今年もどうぞよろしくお願いします。
 ではまた来月。(中原幸子)

【1月11日追記】
 このページで若松をご覧になった、船団会員・みさきたまえさんから、こんなメールをいただきました。
 「未生流のお正月の松の画像を拝見したのでわが町の文化遺産をちょこっとご紹介しますね。
 徳川四天王の一人本多忠勝の末裔、本多忠次氏が昭和7年に建てた自宅が現在岡崎市内に移転復原されています。 この画像はそのお座敷の床の間です(幅が一間半あります)」。


 素晴らしいですよね。「松は徳川家との縁ある植物。このお花は本多邸サポーターの会の会員でもいらした藤谷可苗甫先生が活けられたものです」とも書かれていて、ホームページの アドレスも紹介して下さっています。
 新年早々、こんなうれしいご報告ができるなんて。では、また。(中原幸子)

【参考文献】

(1)肥原康甫著『未生流の格花』(講談社、1974年初版)
(2)「香料」編集事業委員編「香料」No252(日本香料協会、2011年)



月刊「e船団」 「香りとことば」2019年 2月号

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梅玉(うめだま)

 松、とくれば、次は梅、と思ったのですが、梅といえば、香り=花、という連想がフツーで、梅の花の香りについては、すごい対談を2015年8月号でご紹介済みなのですね。こちらです。
 他にも、梅に負んぶや抱っこの回がたくさんありますが、でも、そういえば、梅の木って、ソロバンの球になるんじゃなかったっけ、と、うっすらとした記憶が蘇ってきました。中学生の頃ソロバンを習っていて、検定試験も受け、3級まで行ったのに挫折したのですが、私が就職したての1960年代は、まだ電卓も普及していなくて、3級程度の腕でも職場で結構重宝したものです。

 で、ネットで検索してみたら、「そろばんの珠と枠と軸の材料について」というサイトがありました。(1)

 ソロバンの材料の条件が書かれています。
珠材について : そろばんの珠として適している要件は、(1)重い (2)割れない (3)伸縮がない (4)量が豊富、で、この要件を満たしている物は少ないです。
そろばんは計算器具であり、そのため、速算、即ち、珠を速く確実に動かすため重すぎるのも、軽すぎるのも適しません。
速算に向く珠は、樺、柘、柞です。


 あれ? 梅は入ってないですね。でも、取り上げられてはいるのです。
日本産。樺より少し軽い。江戸、明治時代に多く使われました。

とあります。

 おしまいに「球材の名称」という欄があって、
 樺(1)、備後柘(2)、薩摩柘(3)、縞柘(4)、中国柘(5)、柞(6)、黒檀(7)、青黒檀(8)、紅木(9)、紫檀(10)、梅(11)、牛骨(12)、椰子(13)、陸南(14)、白檀(15)

 と、並んでいます。私は半分ほどしか読めませんでした。皆さんはいかがですか? 答はこうです。
(1:かば)、(2:びんごつげ)、(3:さつまつげ)、(4:しまつげ)、(5:ちゅうごくつげ)、(6:いす)、(7:こくたん)、(8:あおこくたん)、(9:こうき)、(10:したん)、(11:うめ)、(12:ぎゅうこつ)、(13:やし)、(14:りくなん)、(15:びゃくたん)

 ずいぶんいろんな種類の材料が使われています。でも、私がソロバンを始めたころ、父が「上等のソロバンは象牙の球や」と言っていましたが、このリストに象牙はないですね。いま、ワシントン条約などのこともあって、ソロバンの材料として簡単には使えなくなっているのでしょうか?

 それはそれとして、こんな梅玉のソロバン、売られています。(2)


ヴィンテージ算盤初代永台17桁梅玉(V-174-0011)≪限定商品≫
販売価格 756,000 円
不世出の名工、初代永台(エイダイ)の82歳の作。ニスを使わないトクサ仕上げ。永台特有の無駄をそぎ落とした端正な外観は、我が国そろばん史上の頂点と言える。枠を薄く軽く仕上げることにより、玉の弾きが一層安定感を増してくる。玉の重さがビンビンと伝わってくる安心感が、弾き手の集中力を高めてくれる。このクラスの名工の短い桁のそろばんはたいへん珍しく、遊び心満載の贅沢品です。


 75万6千円! オカネの問題じゃないのかも知れませんが、これでは恐れ多くて弾く気にはなれません。

 象牙のも、ヴィンテージものはありました。サスガ(!)な値段です。1,620,000円!

 で、ですが、まあ、あの、例えば大阪城公園の梅林は、
大阪城二の丸東部分にある約1.7万平方mに約1270本の梅が植えられている。梅の種類は早咲きから遅咲きまで約100品種揃っているので、1〜3月と長い期間、梅の花を楽しむことができる。

とのことですが、この梅たちの幹の曲がりくねりかたを見ると、

ひらたくより

 とても柱にはなりそうもなく、ソロバンの球とはまた、よくも見つけたり、という用途だと感心します。

 ところで、花はいい香りを放って、私たちを楽しませてくれますし、実は実で梅酒や梅干しになって食生活を豊かにもしてくれ、それぞれ特有の香りがありますが、幹ってどんなニオイなんでしょうか?
 例の、「香料」の特集号「葉・根・幹・樹脂の香り」(3)にも梅の木の切り口の香りって出てないのです。幹がなかったら立ってられないのに、みんなこんなに無関心でいいの? って感じです。
 「正しい梅の剪定の仕方!」(4)というページを見ると、梅の剪定の最適期は9月ごろらしいので、こんど剪定が行われるころに大阪城公園の梅林に行って、品種ごとに枝の切り口を嗅いでみることにしましょう。
 梅見といえば花、と決まってるようなモノですが、梅の木嗅ぎというのもオツなものかも。乞うご期待。(中原幸子)

【2月1日追記】
 今月も読者の方からうれしいメールを頂きました。こんな卒業記念、羨ましいですね。
 「『梅玉』とは何のことかと思ったら、そろばん玉とは驚きました。
 大阪城公園の梅林に触れられていましたが、あれは『大阪府立北野高校の卒業生(六稜同窓会)が開校100周年事業として、22品種、880本を大阪市に寄付した事で、昭和49年3月に開園』と大阪城公園のホームページにありました。私も少額を出したような記憶があります。」

【参考文献】

(1)そろばんの珠と枠と軸の材料について(http://www.maruho-soroban.co.jp/material.html)
(2)雲州堂「ヴィンテージそろばん」(http://xc528.eccart.jp/n556/item_detail/itemId,106/)
(3)「香料」編集事業委員編「香料」No252(日本香料協会、2011年)
(4)「正しい梅の剪定の仕方!」(https://s.webry.info/sp/hige-oyaji.at.webry.info/201001/article_7.html)



月刊「e船団」 「香りとことば」2019年 3月号

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竹の秋(たけのあき)

 先月、松の次は梅、と書いたら、松の次は竹じゃないの?というメールをいただきました。 たしかに、松竹梅、という熟語では、松の次は竹。この3つ、どうおめでたいかというと、「いつでも緑の松」、「まっすぐ伸びる竹、または、冬もみどりの竹」、「真っ先に咲く梅」というのが定説のようです。

 でも、竹って、変わってますよね。 木々が芽吹き、草々が萌え始める早春に葉が黄ばんで竹の秋。他の植物がそろそろ葉を落として冬支度、というころに緑を深めて竹の春

 なんで? と思えば、どうやら、地下茎で増えていく、という竹の繁殖の仕方に関係がありそう。
 私は大野林火監修の『入門歳時記』(1)の解説が好きなんですが、その「竹の春」の項にこうあります。
(略)竹は春先に筍(たけのこ)をたくさん生み出すために秋に黄葉して冬休むわけにいかず、その間に有機成分を地下にたくわえる必要がある。その役目を果たし終えるころにようやく黄葉が始まり、やがて落葉を迎えるのである。

 なるほど。地上に出た筍が、光をいっぱい浴びて伸びてゆく為には、これから光の減る秋ではなく、春に地上に出る必要がある。その為には、葉っぱの中でせっせと光合成して、出来た養分を地下茎へ届け、貯めておかなければ……ということ?
いやはや、竹の秋って、竹が子孫を残す知恵だったのですね。

 とは言っても、「植物の世界」(2)の「モウソウチクの黄葉」という写真のキャプションには、こうあります。
タケ類は春から初夏にかけて、いわゆる「竹の秋」とよばれる短い葉かわりの季節を迎える。すべての葉が落ちて新葉が出るわけではないので、普通は気づかれない場合が多い

 竹の秋って、やっぱり俳人の業界用語かも。
まあ、それはそれとして、私の住んでいる、ここ、茨木から京都までのJRの沿線は、いま、竹の秋の真っ盛り。大して気に留めていなかったけど、いっぺん、ちゃんと見てみるか、と思って、各駅停車に乗ってみました。
 茨木から京都までは、こんな風に駅が並びます。
 茨木 → JR総持寺 → 摂津富田 → 高槻 → 島本 → 山崎 → 長岡京 → 向日町 → 桂川 → 西大路 → 京都
 窓の外を眺めていると、駅舎と民家が途切れると竹の秋が見え、また駅舎と民家が途切れると竹の秋が見え……、延々と竹の秋。
 ぼつぼつ竹がなくなったみたい、と思って、向日町(むこうまち)駅で降りました。この駅、改札を出るには、2階の通路を通って1階の出口へと降りなければなりません。2階へ上がってみると、突き当りに大きな窓が切ってあって、何と、ずーっと向うに延々と竹の秋が見えるじゃないですか! 降りるの、早すぎたかな!?
 でも、まあ、折角だから、と改札を出てまわりを見廻す。 と、ここからは、竹はどこにも見えない。 でもパンフレットがありました。これです。


 竹がないどころか、「向日市ってこんなところ!」という記事の「こんなところ1」に挙げられているのが「竹のまち!」。
 「向日市のタケノコ」の「だからスゴイ!」、「だからおいしい!」というページがあり、そこでは十二単を着てスニーカーを履いたかぐやちゃん(↓)がタケノコの栽培法やおいしい食べ方を紹介しています。

 そのまま刺身でたべられるような筍が、勝手に生えるワケはない、ちゃんと手をかけているに違いない、とは思っていましたが、それにしてもすごい手間ヒマ愛情の注ぎかたではあります。曰く、

京都式軟化栽培法  最上級タケノコを育てるための特別な栽培法。選定された親竹の成長を抑制するため先端部を折る「親竹の先止め」、栄養豊富なよい土壌を作る「敷きワラ」「土入れ」など、通常よりもいっそう手間暇をかけて作られる。

 ここに出ている「親竹の先止め」は5月末頃に、また「敷きワラ・土入れ」は11月から2月にかけて行われるとのこと。「敷きワラ・土入れ」とは、「タケノコ畑全面にワラを敷き詰め、その上に厚さ3〜5cm程度に土を重ね、ふかふかの布団がかかっている状態にする、柔らかいタケノコのために重要な工程」。とのこと。

 ホント、大事にされてますね。

 ところで、タケと言えば竹の皮も無視できませんよね。この頃はホンモノの竹の皮にはあまりお目にかからなくなりましたが、私は551の肉栗ちまきが好きで、あの、ホンモノの竹の皮を剥く手触りがまたいいんですが、おいしそうでしょ? 1個、竹の皮ごとで125グラムほど、税込みで380円。


 竹の皮には殺菌力のある成分が含まれているので、お弁当のお握りなどが傷むのをふせいでくれる、とはよく言われますが、でも、なんで、竹って竹の皮に包まれて地上に出てくるのでしょうね? もっとか弱い草たちだって、何にも護られずに、けなげに伸びて行くのに。  ネットで検索してみると、竹の皮は葉鞘の変化したもので、竹がイノシシなどに食べられるのを防ぐ、なんて書かれてますが、でも、ホントにそんなことのために発達したのかしら? 何か、もっともっと重要な意味がありそうな気がするんだけどな。
 かぐやちゃん、いつか調べて教えてね。では、また来月。(中原幸子)

【参考文献】

(1)大野林火監修、俳句文学館編『入門歳時記』(角川書店、1993年、第11刷)
(2)週刊朝日百科「植物の世界」121号(朝日新聞社、1996年)


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