ねんてんの今日の一句 バックナンバー

2010年6月20日
蚕豆は 幼年のみどり 彼方は空
伊丹公子

 句集『博物の朝』(角川学芸出版)から。幼年の緑色の蚕豆が方舟のように彼方の空へ飛び立つ気配だ。作者は1925年生まれ。この人、私の俳句初学のころの師匠である。ことに大学生時代、私はこの人から文学の楽しさなどを教えられた。「合歓の道選ぶ 郵便局への往復は」「象飼育者 秋陽の草を抱えくる」などが『博物の朝』にある句。

2010年6月19日
沸きたつ沖のにほひにゆれる薔薇の花
大井恒行

 私は1976年3月に「現代俳句」を創刊した。その第1集には28名の俳句が載っているが、なんと全員が男性である。当時の俳句仲間はほとんどが男だったのだ。今日の句はその第1集から。強引に言葉を引きまわしたような句だが、当時の私たちの俳句は、ほとんどがこの感じであった。表現したいことや表現したい意志が優先し、俳句形式や俳句の言葉には鈍感だった。今の、たとえば恒行はどうだろうか。

2010年6月18日
朝戸あけるより親燕
種田山頭火

 昭和7年6月18日の行乞記から。時に山頭火50歳。この日は梅雨晴れだったので、往復6里の道を歩いて修禅寺へ参詣した。途中、岩に口をつけて山清水を飲んだ。山気も胸いっぱいに吸い、「身心がせいぜいした」。
 先週の土、日曜日に大分県湯布院へ行った。佛教大学通信学部の学生に「種田山頭火と日本文学」という話をしたのだ。山頭火は昭和5年の初冬に湯布院に来て「由布岳はいい山だ」と行乞記に書いた。私が訪れた土曜日はちょうど入梅で、残念ながら雨に煙って由布岳は見えなかった。でも、私の入った露天風呂にはスイカズラやヤマボウシガ咲いており、霧の中にその白い花が浮き上っていた。

2010年6月17日
人の声して山の青さよ
種田山頭火

 昭和7年6月17日の行乞記に出ている句。この当時の山頭火は山口県の川棚温泉に滞在、そこの寺領の土地を借りて結庵しようとしていた。この日の行乞記の書き出しは「梅雨日和、終日読書、そうする外ないから」。雨が降って行乞に出られないので、宿に籠って読書をした。時に山頭火50歳。
 明日は京都のハートピアで「ねんてんさんに訊く 俳句と環境問題」がある。詳しくはこのe船団のお知らせ欄をどうぞ。

2010年6月16日
カヌー干すカレーは次の日もうまい
山本純子

 句集『カヌー干す』(2009年)から。カレーは暑い日がうまい。これからいよいよカレーの季節だ。
 私は勤務している大学のビーフカレーが気に入り。カレーとコーヒーで460円だが、カレーはよく煮込んであって甘みが私には程よい。このカレー、京都の佛教大学鷹陵館1階の茶房にある。

2010年6月15日
父の日の一つ手羽先焦げている
塩見恵介

 句集『泉こぽ』(2007年)から引いた。父の日(20日)が近づいてきたが、焦げた手羽先くらいが父の存在感なのだろう。でも、焦げた手羽先は香ばしくてうまい。
 船団の編集会議の後で寄る飲み屋は手羽先がうまい。10本を注文すると1本のおまけがつく。20本を注文するのだが、誰もがおまけを横目でにらむ。

2010年6月14日
考えは変わる青のり一つまみ
塩見恵介

 一つまみの青海苔も人生を大きく左右する。青海苔の存在感を際立たせたこの句、第2回船団賞作品の中にある。
 5月末の船団の会初夏の集いで第2回船団賞の発表があり、1971年生まれの塩見恵介が受章した。選考の詳細は9月発行の「船団」86号に出る。「色恋の話に混ざりユッケに葱」「くじ運は無いがおでんは三日もつ」「いかなごの釘煮と子午線をまたぐ」などが受賞作の1部だが、軽やかな機知が楽しい。
 写真は受賞の挨拶をする恵介。

2010年6月13日
夏暁や壁の集まる部屋の隅
山口優夢

 今日も『新撰21』から。この作者は高校生のときに「小鳥来る三億年の地層かな」という名句を作った。早くに名句を持ったことはとても不幸で、彼は当分、低迷という名の試行錯誤を続けるほかない。今日の句、「壁の集まる」という見方に試行錯誤の意欲を感じる。「婚約とは二人で虹を見る約束」などという句もあるが、これは凡に堕した試み。優夢は1985年生まれ。私はその人柄も知っているが、なんともいえない素朴さがこの人の未来の広さを感じさせる。

2010年6月12日
網戸ごしのバイクにほへる夕かな
藤田哲史

 昨日に続いて『新撰21』から引いた。このアンソロジーは40歳未満の21名の作品を集めている。筑紫磐井など4人の好みが強く出ていて、現代の若い俳句の一面を伝えている。もちろん、この21名とは違った試みをする若い俳人たちもいる。「船団」ではそのような俳人に焦点をあてる企画を塩見恵介を中心に進めている。今日の句、網戸ごしのバイクに若い生活感があるだろう。「にほへる」が生ま生ましい。作者は1987年生まれ。

2010年6月11日
今日は晴れトマトおいしいとか言って
越智友亮

 アンソロジー『新撰21』(邑書林)から引いた。作者は甲南高校時代に第3回鬼貫青春俳句大賞を受けている。平成3年生まれの友亮は、今は法政大学に学んでいる。掲出の句は「今日は晴れ」の気分が「トマトおいしい」とか言うセリフでとらえられていることが新鮮。つまり、気分のイメージ化が初々しいのだ。ともあれ、この大学生俳人、どのように育つのだろう。

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