2018年3月10日

蝶墜ちて大音響の結氷期

富沢赤黄男

 句集『天の狼』はこの句と「爛々と虎の眼に降る落葉」で際立っている。575音の詩が出現しているのだ。世にはびこっている上手い俳句は詩とほとんど関係がない。今までになかった光景を言葉が紡ぐ、それが詩としての俳句。(坪内稔典)


2018年3月9日

木々の芽のしずかなるかな蒼空(そら)の音

富沢赤黄男

 句集『天の狼』(昭和16年)から。「しずかなる」は説明的でまずい。「蒼空」をソラと読ませるのもまずい。作品の出来は未熟だが、木々の芽に青空の音を感じているところが詩的だ。世に広がっている上手い俳句よりも格段によい。(坪内稔典)


2018年3月8日

眼に古典紺々とふる牡丹雪

富沢赤黄男

 有名な句だが、かねてから「紺々と」に疑問がある。紺は紫がかった濃い青で、こんこんと雪、昏々と眠るに通じる、と松本秀一は書いている(『赤黄男百句』)。その通りだろうが、牡丹雪はふわふわであり、こんこんという感じではないのではないか。古典のような牡丹雪なのだろうが、要するに私にはよく分からない。(坪内稔典)


2018年3月7日

鞄からあんパンひとつ春の風

津田ひびき

 句集『街騒』(ふらんす堂)から。ひびきさんは船団の会会員の津田このみさんの母である。知的で軽快、そしておしゃれなところがこの母と子に共通するようだ。金子兜太のことだが、晩年の彼は戦争とか政治がらみでもっぱら話題になった。兜太の亡くなった今、彼の俳句の先鋭さを話題にしようではないか。ちなみに、私は追悼文を2月23日の産経新聞(大阪)に書いた。見て欲しい。(坪内稔典)


2018年3月6日

どこからが犀どこからが春の泥

秋月祐一

 動物園の犀はつくねんと立っていることが多い。あまり動かない。泥のかたまりのように立っている。「船団」114号から引いた。朝日カルチャー中之島の「坪内稔典の俳句塾」が4月から10時30分〜12時になる。終了後、受講生とランチを楽しみながら俳句談議をする。(坪内稔典)


2018年3月5日

東京に犀が遊んで春だよね

三宅やよい

 「船団」114号から。いいな、この光景! 丸の内を突進し、地下鉄できょろきょろする犀を想像すると、確かに「春だよね」。ところで、3月11日(日)は第14回船団フォーラム、現代詩を話題にする。このe船団のお知らせ欄を見て気軽にご参加を。(坪内稔典)


2018年3月4日

風光るわたしはカモメそれからは

陽山道子

 「それから」の後はどうなるのだろう。「船団」114号から引いた。話題は変るが、池内紀の『記憶の海辺』(青土社)がおもしろい。この人、午前4時に起きるらしい。私も早起きでは同族。あれはもう15年くらい前だが、子規をめぐって話した際、早く退職したら得だ、坪内さんも大学を辞めたら、と勧められたが、うまく退職できなかった。彼はそのとき、すでに退職していた。ちなみに池内さんは1940年生まれ。この人のおもしろさを今後いろいろとこの欄で書くつもり。(坪内稔典)


2018年3月3日

摘み草を料るにさつといふ手順

中原道夫

 広辞苑7版によると「料る」は料理を活用させた語であり、料理する、という意味の動詞。芭蕉に「残暑しばし手毎に料れ瓜茄子」がる。もちろん、この句の眼目は「さつと」。その手際の良さが季語「摘み草」を活かしている。句集『一夜劇』から引いた。昨日、宗左近俳句大賞の選考会を話題にしたが、その席の兜太は、自説を率直に披瀝する人だった。何度か私は反論したが、うん、ツボネンの言う通りかも、と認めてくれることが多かった。他人の意見に耳を貸す俳人だった、兜太は。(坪内稔典)


2018年3月2日

老残のなぐさみ盆の梅ひらく

中原道夫

 老残は「老いぼれて生き残ること」(広辞苑7版)。句集『一夜劇』(2016年)から引いたが、「老残といつてしまへば茎立も」もこの句集にある。盆梅や茎立はたしかに老残かも。老残を見つめるこの俳人に共感! かつて金子兜太、中原道夫、黒田杏子さんらと宗左近俳句大賞の選考を新潟市でしていた。年に一度、兜太に会う機会がその選考会であった。(坪内稔典)


2018年3月1日

春宵の一句すなわちひとりごと

花谷和子

 「俳句」2月号の口絵「結社歳時記 藍」から。久しぶりに花谷さんの句に出会ってうれしかった。そうだ、俳句は基本的にはいつも「ひとりごと」。だが、独り言でありながら、他者への回路を開く工夫を要する。片言の言葉を際立たせるために。先日、宮崎空港で買った日本経済新聞(2月25日)に神野紗希さんのエッセー「あたしお母さんだけど」が出ていた。母や俳人という複数の私を生きるという話。このような俳人が多くなったら俳句が大きく変わるだろう。いいエッセーだった。(坪内稔典)


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