e船団 さよなら企画
シンポジウム「変わろう・変えよう」


参加者: 飯塚英雄・中原幸子・工藤惠(進行)

発言 発言内容

工藤
 いよいよ、e船団の長い歴史に幕が下りようとしています。 e船団は、トップページが「船団の会」代表・坪内稔典さんの「今日の一句」でして、タイトル通り、毎日更新されていますので、アンケート結果を見ていましても、「毎朝続けることができる俳句の勉強になっています。」や「日々変わるので、毎朝いちばんにここを開く。」といったコメントが寄せられていますね。  そもそも、e船団は、どういったコンセプトで始められたんでしょうか。

中原
 e船団のスタートは2001年1月1日でした。ちょうどインターネットが普及し始めた頃で、ホームページを持つこと自体が、「時流に乗る」というコンセプトで有り得たとも言えると思います。 具体的にいうと、コンテンツの毎日更新、全掲載記事の保存と自由な閲覧です。  特に、坪内さんが「僕が毎日書きます」とおっしゃって、e船団の柱が即座に決まったことが大きかったですね。コンテンツをバラエティに富むものにするため、日刊、週刊、月刊のページを作るなどの工夫もしました。

工藤
 俳句をインターネットで配信するというのは、当時としては、とても斬新な考え方だったと思うのですが、紙媒体ではない、インターネットで発信するために、工夫した点や、あるいは苦労したことなどがありましたら、教えてください。 あと、インターネットだからこそ、できたことなどもありましたら、合わせてお願いします。

中原
 ちょうど、私のコンピューターの先生・梶原比呂志氏がサーバーを運営しておられて、e船団を預かり、何かとアドバイスして下さったこと、コンテンツの作成など、技術的なことはすべて飯塚英雄さんがやって下さったこと、私が勤務先でホームページの担当だったことなどから、私には大した負担はありませんでした。気を使ったのは、原稿が滞らないように管理することぐらいでしょうか。
 「インターネットだからこそできる、できた」こと、それこそが「e船団」の存在価値なわけで、「朝ごとに、開けばどこかが新しい」のに、「古い記事も好きなときに読み返せる」、簡単そうで、インターネットのない頃には不可能だったことが実現できた、と思います。

飯塚
 e船団を始めたとき、私は京都府立大学にいて勤務の最終年でした。インターネットはその数年前から大学などで普及しはじめ、多くの人から教わりながら研究室などのホームページを立ち上げていました。妻(故人)が「船団」にお世話になっていた縁で、坪内先生と中原さんから「船団」のホームページを始めたいとのお話をいただき、無謀にもお手伝いすることを受け入れてしまいました。「e船団」の各コーナーは中原さんのアイディアから生まれたものですが、私が経験したことがない機能が要るとき、思った通りゆかないことがよくありました。私は昔のコンピューターも経験してきましたが、その時と同様、少しずつ変えてトライしているうちに何とかたどり着いたと思います。市販の本は参考にしましたが、すべて自己流です。
 そうそう、思い出したのですが……。最初はパソコンも画面解像度が横640ドットのものも使われていたので、その範囲で画面構成していました。その後解像度が大きくなりましたが、1行が長すぎると読みにくいということもあり、横幅は広げすぎないように注意してきたつもりです。

工藤
 さて、ではこれからアンケート結果を見ながら、議論を展開していきたいと思います。
 私は、アンケート結果を見まして、「今日の一句」「今週の十句」「今週の季語」が、e船団の柱だったのだなあと、改めて実感しました。あと、「今週の十句」に対し、「とても励みになった」というコメントがあり、俳句をしている人にとっての心の支えになっていたということに、感激しました。まあ、率直に言いまして、自分が地道にやってきた更新作業が、今ここで報われた感じがします。
 お二人は、いかがですか。

中原
 そうですねえ、皆さんが楽しんで下さったこと、いろいろ学んで下さったことが嬉しいのは言うまでもないですが、インターネットの世界が日々、それこそ秒速で進歩して、特に情報の双方向化が目覚ましく進んで来た中で、ここで完結・散在することにとても大きな意義があることにアンケートの「メッセージ」で言及して下さっていることに大きな感動を覚えました。
 例えば、メッセージの22番の「まったく新しいe○○船団」、23番の「解散は一つの方向性を示す」、50番の「『船団を散会させる』という決断を支持する」などですね。

飯塚
 毎日、更新作業の一部をお手伝いしてきましたが、私はいつもパソコンを使っていますので、日常生活となっています。俳句の世界はよく知らないのですが、インターネットは俳句によく合うのではないでしょうか。短い言葉で伝達しあう点で。
 e船団は皆さんがよく見てくださり、裏方ですが間違うと表の舞台も成り立たないので、ちょっと怖いくらいです。新聞の編集や今のネット・ニュースの発信とも似て、毎日がちょっとした緊張で、達成感を味わっています。

工藤
 たしかに、情報の双方向化は、目覚ましく進んできていますね。
 発信者、読者というそれぞれの立場の境界があいまいになってきていますし、さらにそれが目まぐるしく入れ替わる状況が、特に、今回の新型コロナウィルスの影響で、加速度的に進んでいるように思います。
 ここで、e船団のコーナーで、唯一の双方向コミュニケーションの場であった「今週の十句」のドクターから、今回のe船団が終わるにあたって、ドクターとしてのコメントをいただきましたので、紹介させていただきます。
  「今週の十句」ドクターのコメント
こちらでどうぞ

 
 ・ドクターの中では一番、ベテランの星野早苗さん
 ・2014年7月からドクターをしていただきました須山つとむさん
 ・同年8月からのドクター・内野聖子さん
 ・ドクターの中では一番お若い山本たくやさん
 ・評伝「芝不器男への旅」の著者で、愛媛の俳人谷さやんさん
 ・船団入会→いきなり船団賞受賞の秋月祐一さん
 ・山本たくやさんの次にお若い久留島元さん
 ・谷さんと同じ愛媛の俳人中居由美さん

工藤
 投句者の方々とのやり取りの中で、ドクター自身もたくさんの影響を受けながら、やってこられたんだなあということが、よくわかりました。
 これが、まさしく双方向化が生んだ、大きな財産であると思います。
 いかがですか。ドクターの方々のコメントから、何か感じられたことなどありましたら、お願いします。

中原
 俳句を30年近くもやっていて、いまさらこんなこと、恥ずかしいのですが、投句と選句について改めて考えさせられました。
 毎週200句前後もある投句で、作者が俳句という器に自分をまるごと包み込んで投げかけてくる。
 選者はそれを心で受け止め、どん、と心を高鳴らせてくれた句を選ぶ。そのとき、自分の心の反応と、ドクターという役割との間で行動が揺れ、迷う。「この選でいいのか」と悩みに悩む。
 このコーナーでは、投句と選句で終わらず、選句にドクターのコメントが付きますよね。それによって、作者は自分の句のどこがどう選者に届いたのかを知ることができます。つまり、対話の場が形成されて、一方通行ではなく、双方向の意見交換が可能になっている、ということだと思います。これが投句と選句のキモですよね。
 具体的には、内野聖子ドクターの「(選に悩んだこともあるが)好きに選句させてもらった」とか、山本たくやさんが、「一番若手なので、俳句のベテラン勢にナメられたくない、という気持ちが強かったが、気が付いたらそんなプライドはなくなっていた」とおっしゃっているのを読んで、そう、そう、それ、正解ですよ、と思いました。

飯塚
 皆さんの真剣さが伝わってきます。真剣さというより、私にはできないのですが、人柄や生活を表現する勇気に敬服します。及ばずながらこれを支える仕事の一端をさせていただき、改めて自覚する次第です。

工藤
 「船団」誌にはない魅力、それは発信者と読者との双方向のやり取りにあると思います。特に、「今週の十句」は、ドクターの谷さやんさんも言われていますが、老若男女、初心者からベテランまで、幅広い句の受け入れ場所としてあり、しかも家にいながら、クリック一つで投句できる。そして、船団サイドから見ると、船団以外で俳句をされている方の句を読むことができる。
 価値観の多様化が進んでいる中、「船団」誌と並んで、e船団は独自の存在意義を発揮し続けてきたと、これは手前味噌かもしれませんが、そんなことを思うんですね。だからこそ、船団内外の読者の方々から、e船団を続けてほしいという声が多く寄せられたんだと思います。
 船団とともにe船団が完結する。そもそも、どうして、船団の散在とともに、e船団は完結するのでしょうか。なぜ、完結する必要があるのかという問いの方が良いかもしれませんが。

飯塚
 個人的なことを率直に言えば、この数年、年齢のせいかもしれませんが、やや疲れてきましたので、気持ちの一部は、「そろそろおいとまを……」と口にしそうになります。「e船団」の存廃は、次の方に考えていただきたいと思います。

中原
 この工藤さんの問いかけ、私もうっかり、「e船団も終わるのですか」と坪内さんに訊ねてしまったほどですし、読者のアンケートにも「e船団だけでも続行してほしい」という声が多かったですよね。
 でも、「完結・散在」するのは「船団の会」なのですね、「船団」誌ではなく。そしてe船団は「船団の会」の活動の一つなんです。ですから、「船団の会」が完結すれば、当然「e船団」も完結することになると思います。
 私はその後、考えに考えて、「そうか、散在の『必要』はない。だから散在に『意義』があるのだ」と思い到りました。続行願望の声には、私には、どこか他力本願的なニオイが感じられることにも気付きました。続行したい、と思うその一角を切り取って、自分の血肉とし、そこに立って、自分のものとして何かを始める。それが散在ではないか、と、今は思っています。
 完結しなければならないから完結する、ではなく、まず、完結しよう。そこから出発して、自分が変わろう、自分を変えよう、もっと言えば、周りを変えよう、という大志を持ちたいと切に思っていますね、いま。

工藤
 飯塚さんの言葉、すごく重く響きます。そして、中原さんの「続行したい、と思うその一角を切り取って、自分の血肉とし、そこに立って、自分のものとして何かを始める。」ということにつながれば、それは、「船団の会」が散在することによってできる道の1つですね。
 散在という精神を受け止め、新たに何かを始めるということは、とてもパワーがいります。そのパワーは一人で補うことはできません。
 例えば、e船団の管理も、毎日、毎日、雨が降っても、嵐になっても、地震が起きても、自分の体調が悪かったり、旅行だとしても、常にホームページの更新をしなければなりません。だからこそ、複数人で支え合った。
 特に、中原さんと飯塚さんはホームページ発足当時から関わられ、20年間支えてこられた。これはもう、勲章ですよ。だからこそ、お二人の言葉は、私には心にズドーンと響いてきます。
 一人のパワーは小さくても、「自分のものとして何かを始め」ようと思う仲間が集まり、新たな道を作っていく。そもそも、「船団の会」もそうやって大きなうねりを作ってきたわけですから、やはり、「大志」を持った一人一人が、自分の持てる力を出し合って、それぞれの世界を創っていきたいですね。
 さてさて、「船団の会」の完結により、新しい生活が始まりますね。私も含め、毎日、e船団の作業が何かしらあったと思うのですが、間もなく、それがなくなってしまいます。
 これから、どんな生活になるんでしょうね。

中原
 これから、どんな生活になるか、というより、どんな生活にするか、それがまさに「散在」を実行することですよね。
 私の日々の「作業」は必要な画面を作って、アップする、という極めて機械的、事務的なことに見えるかも知れませんが、どの作業にも相手があり、その人たちとの会話が楽しみだった、と思います。特に、画面の配色を考えるとき、いつも、どういう色遣いが喜んでもらえるだろう、と、読者に問いかけて。
 いま、次を模索中ですが、いつも、いつまでも模索中でいたい、というところです。

飯塚
 これまで、私の発言はちょっと浮いている気がします。中原さんや工藤さんと違って、俳句の外からe船団に関わっていて、他人事感が出てしまったのかもしれません。私は時間を俳句作りに費やすことがありません。退職後は、趣味と言うか自分の興味あることに時間を費やしています。誰かに伝えるためでもないので、まったく自分のためだけです。一人遊びみたいなものです。集積というか残渣というか何らかのものがパソコンに溜りますが、今のパソコンはいくら溜めてもたいした費用がかかりません。

工藤
 私は、俳句を通して出会ったたくさんの人々と、また新たな道を進んでいきたいと思います。子どもも成長し、育児に割く時間が減ってきました。その代わり、仕事が大変になってきましたけれど……でも、人生、いろいろ折り合いをつけながらやっていくものだなと、まあ、私も46歳になりまして、実感としてそんなことを思うようになりました。同時に、若い頃より、人生がなんだか楽しくなってきた感じです。人の役に立ちながら、仲間とともに思う存分模索しながら楽しんで、そして結果として、新しい道を創ることができたら最高ですね。
 飯塚さん、中原さん、最後に、何でも語ってください。

飯塚
 私はモノづくりより、集積がかさばるものより、いつからかパソコンの中に好みの情報(美術、音楽、映画、等)を作るようになりました。パソコンとインターネットがあるだけで遊べるのです。ただ書物も参考にしています。文学書より、いまは50年も前の美術書ですが、また何年かすると変わるかもしれません。体力がなくなった今、情報機器を中心に自分の世界を作るということは変わりません。

中原
 ここまで、主に「今週の十句」について考えてきましたが、その話し合いを通じて、他のコーナーも決して発信だけの一方通行ではない、著者の思いは読者に伝わり、思いがけない連想を誘い、どうかしたら読者の周りを巻き込んで予期せぬ「何か」を起こしてきたのだろうな、と、改めて思いました。
 それって、紙媒体でもできるでしょ、と思われるかも知れませんが、毎日500人前後もの人が閲覧してくださるホームページならではの力が、きっと、あると思います。
 わたしが、「校正ボランティア」とお呼びしている、ミスを教えてくださる方たちの存在も忘れられません。これ、とても勇気がいることですが、それでも教えて下さる、もう、感謝しかありません。
 「アンケート」のコメントや読者からのメッセージには、散在へのヒントがたくさん秘められていると思います。埋まっている宝にピンと来たら、そこから、素敵な散在へ飛び立って頂けると思います。

工藤
e船団について、「船団の会」の完結・散在について、これほど誰かと話をしたのは初めてで、とても楽しいシンポジウムになりました。これからの生活が大きく広がっていくようです。  どうぞ、皆さま、これからもお元気で、新しい道を邁進してください。  ありがとうございました。



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