週刊:今週の季語 バックナンバー 2006年4〜6月
2006年6月25日

枇杷

 早朝、人に怪しまれない時間、枇杷の木巡りをするため、自転車で家を出た。近くのお風呂屋さんの枇杷の木。門口より少し背が高く、黄色い実をびっしりとつけている。う〜ん、これは実り過ぎ。少し離れた鉄鋼所の資材置き場の枇杷。ひょろひょろとして頼りなさそう。実も小さく色もくすんでいる。ちょっと拍子抜けの気分だ。雨も降ってきた。それでも、あそこの枇杷ならと思い10分ほど走った。路地を抜け、大通りにでる。神社の近くに二階建ての古家がある。木は二階の屋根を越える高さ。枝を自由に張り、その枝のところどころに黄色い実をぽつぽつとつけている。好ましいようすに、自転車を止めてしばらく眺めていた。
 雨は一時のものだったのか、朝の日が差しはじめた。濡れた枇杷の古木は浮きでるように照らされ、一瞬、ボクの肩に雫をこぼした。

(南村健治 (船団の会 会務委員))


2006年6月18日

草刈り

 梅雨に入った。散歩に出かけると男の人達が草刈機で草刈りをしている光景にであう。するとその匂いに私は、いつも深呼吸をしてしまう。故郷の匂いなのだ。
 橋本多佳子の句に、「草静か刃をすすめゐる草刈女」「吉野青し泳ぐとぬぎし草刈女」(『海彦』、昭和32年刊)がある。女が草を刈る風景は今ではあまり見掛けないようだ。『広辞苑』では「草刈」「草刈童」はあるが「草刈女」は出ていない。『広辞苑』にある「草刈童」は、これももう見る事の出来ない風景だ。

(陽山道子(船団の会 会務委員))


2006年6月11日

香水

 5月の第3日曜日、「青鬼祭」の日に石山寺へお参りし、降魔招福の薫風、というのを授かった。東大門の大きな香炉に香煙が立ちのぼり、香染めの袈裟をまとったお坊さまが、「降魔招福」と書かれた真っ赤な大団扇で煽いで下さるのだ。
 香水は英語でPerfumeといい、語源はラテン語の「per fumum」で、「煙を通して」という意味だというが、まさに煙を通して薫風を戴いている、という実感があった。
 今では香水、オードパルファム、オードトワレ、オードコロンなど液体のフレグランス製品がいろいろある。どれも調合された香料をアルコールで希釈して作られ、香料の濃度で名前が変わる。香水は20%程度、オーデコロンは2〜4%程度のものが多いようだ。

(中原幸子(船団の会 会務委員))


2006年6月4日

栗の花

 勤め先の男子校。体育館の脇に植わった栗の木群から一斉に花が匂う。外は雨、湿度の上がる館内、体育にいそしむ男子生徒のいきれと栗の花の香。正直なかなか憂鬱な感じだ。 歳時記にはこの匂い、「独特」とか「特有」と記されることが多いが、堂々と「青臭い」と書いているのは『カラー大歳時記』(講談社)。この書には「花栗に寄りしばかりに香にまみる」(橋本多佳子)「栗咲く香にまみれて寡婦の寝ねがたし」(桂信子)などの例句も。譬えづらいこの匂いをズバリと俳句にしてきた戦後の女性の姿が伺える。ちなみに子規は『俳句分類』の季題「栗の花」で33句引いている。その中でその匂いを直接的に詠んだ句は「朝風や栗の咲間の甘臭き」(不尤)の一句のみ。その房の形状、無惨に散る姿態を詠むのが俳諧以来の伝統のようだ。なかでも雨で散る栗花は「墜栗花」(ついりばな)と呼ばれ、「梅雨入り」と掛けられるのは常套だった。 栗の花の匂いを具体的に詠むのは果たして季語の本意の「新開拓」か、それとも「外道」か、また匂う栗花を前にして悩ましい問題である。

(塩見恵介(船団の会 会務委員))


2006年5月28日

水芭蕉

 「明日は早朝に幻の水芭蕉を見に行きましょう」と宿の主人に声をかけられた。
 標高1500メ−トルの山田温泉の宿のラウンジで、初対面の宿の仲間8人と、主人の漬け込んだ爬虫類の瓶詰めのお酒を酌み交わしていた夜更けのことだった。
 翌朝5時に、ジャンバ−を着込んだ私達仲間は、宿の主人が運転するジ−プで出発した。「ハイ、ジ−プはここで行き止まりです。後は歩いて山へ入って下さい。僕はあなた達の朝食の支度と乳搾りが待っていますから。さあ、何本咲いてますかね」の言葉を残してジ−プは山を下って行った。残された私たちは水芭蕉をさがして歩いた。すると、行く手に猫の額ほどの小さな湿地帯が見つかった。雑草に埋もれるように野生の水芭蕉は小さい花穂を持ち楚々として咲いていた。宿の主人が「幻の・・・」と言った意味が少し分かった。

(藏前幸子(船団の会 編集部))


2006年5月21日

青時雨

 『おくのほそ道』桝型元禄版初版本を見た。稀少本に興味があったわけではない。先週末にヤボ用で出かけた先が伊丹市の柿衞文庫で、その日開催されていた雲英末雄さんと俳人黒田杏子さんの対談のなかで、初版本をもっていることをほんのちょっぴり自慢された雲英さんの飾らない物言いに好感をもったからだ。ご当人の解説付きでこの『おくのほそ道』を覗き込んだ。なるほど、自慢したくもなるだろう。見た、というだけでこんなに自慢しているのだから。「月日は百代の過客にして……」は、私にも読める端正な書体だった。
 5月17日、雨上がりの朝。アメリカフウの並木道で青時雨。

(岡村和子(船団の会 編集部))


2006年5月14日

河鹿

 我が家には河鹿鉢がある。直径40センチ、高さ12センチの焼き締めたもので、短い脚が3つ付いている。その3つの脚は河鹿の顔になっていて、ちょっとお茶目である。側面の下のほうには水を抜く穴が一つあって、木の栓がされている。かなり分厚くて重い。これに2センチくらいの水を入れ、籠をかぶせて河鹿を飼い、その鳴き声を楽しむのである。一般的には河鹿籠と呼ばれているようだ。戦前から戦後にかけて祖父が前の川で捕まえた河鹿を飼っていたらしい。辺りを飛んでいる蠅を捕まえて与えると、喜んで食べたらしい。  先日近くの小学生たちが河鹿の生息調査をしたときに、それを聞いた父が倉庫にあるこの鉢を思い出したのだ。今では主役である河鹿を探すのが一苦労である。

(小倉喜郎(船団の会 編集部))


2006年5月7日

薔薇・バラ・ばら・ROSE

 今年はいつもより薔薇の開花が遅い。やっと1つ咲いた黄薔薇を持って、今日はネンテン先生宅での編集会議に出席した。庭に薔薇を植えるのが夢だった私の薔薇コレクション第1号は「つるゴールドバニィ」。強健で濃黄色の花をたくさんつけてくれ、花好きのお宅で飾ってもらえる。2号はつる性の「ファンタンラトゥル」、淡桃色で多花弁。家の北壁で咲き始めると、南の窓いっぱいに広がっているからとお隣が喜んでくださる。3号はつる性で四季咲きの「アンジェラ」。小さな濃ピンク色の花をたくさんつけ、唯一リビングから見える。4号は「ピエールドゥロンサール」。白色に中心が淡桃色、花弁数が50枚と気品が漂うが、今年は3つしか蕾がついてない。薔薇は消毒や防虫剤散布、肥料やりと手間がかかるので、もう増やすまいと思いつつ、カタログを見ては、くらくらするほどの強いダマスクの香りをもつ薔薇を1種と殺風景な西のフェンスにつる性の薔薇をからませようかと考えてしまう。

(尾上有紀子(船団の会 編集部))


2006年4月30日

キランソウ(金瘡小草)

 「キランソウ」は船団67号の特集「道端の草を訪う」で私に与えられた草。故郷の幼なじみに、この草を知っているかをメールで尋ねた。彼女とは数年前からメールで近況などを連絡しあっていた。特に故郷の四季折々の様子を届けてくれた。「近くのあぜ道に咲いていたよ。」と、彼女はキランソウの写真をメールで送ってくれた。その後、彼女は体調を崩して入退院を繰り返し、病院での生活が暇だとのメールが届いた。私は俳句を作ってみることを勧め、彼女も興味を示した。作った俳句を話題にしてメールを交換した。時々、体が痩せて小学生頃の体重になったこと、カツラを着けたことなどの話題を、日ごろ着れない服が着れたとか、変わった髪型に挑戦できたと、明るく伝えてきた。しかし、ある日、「頭の中が真っ白で、八方塞がりに追い込まれそう…」と、珍しく弱気のメールが届いた。「今日も出勤途中ですか?」と、私を気遣った一文を最後にメールが途絶えた。それから2ヵ月後の今年の2月、50歳の若さで彼女はこの世を去った。キランソウの咲く季節、今、どんな俳句を作っているだろう…。

(岡 清秀 (船団の会 編集部))


2006年4月23日

春風

 なまえ:はるかぜさん なかま:せいぎのなかまのひとり せいかく:しんせつで、こころがやさしい しごと:はるかぜをはこんでくる とくちょう:はるかぜをふくろにいれたようせい とくい:だれでもきもちよくさせる・・・・・・そんな彼女は『それいけ!アンパンマン(やなせたかし)』の森に住む妖精なのです。ふわふわの巻き毛に桃色の髪飾り。ペパーミントグリーンのワンピースに天使の羽根。ちょっとお寝坊さんなんだけど、森やみんなに春を運んでくれるのです。ほら、私たちの街や家にも、春風を袋につめてほんわか彼女がやってきています。

(朝倉晴美 (船団の会 編集部))


2006年4月16日

ちりめんじゃこ

 テレビの料理番組が楽しい。あれこれ説明をしながら目的の一品が出来てゆく過程を見るのが好きなのだ。最近は出ないが、小林カツ代のは見ていて小気味がよい。
先日、べつの番組で若ごぼうを細切にしてゴマ油で炒めていた。油揚も細切にして、「これもいっしょに炒めるとなおさらですのよ」などとテレビの某氏は強調し、アシスタントの女性も頷いていた。若ごぼうの緑色が鮮やかで、美味しそうだった。で、作ってみた。テレビと同じ大阪府八尾産の若ごぼう。油揚はまあそこら辺のもので間に合わせた。味付けはいつも目分量。ただテレビと同じレシピでは面白くない。俳句と同じ。作りながら変化してゆくのだ。冷蔵庫の奥、賞味期限ぎりぎりのちりめんじゃこ。カチカチになったやつ。これを一緒に炒めた。結果、なんというか、家内もボクも箸を休めることなく平らげてしまった。もちろん、レシピ通りにせず処分に困ることも多々ある。

(南村健治 (船団の会 編集部))


2006年4月9日

花見

 今年も花見のシーズンがやってきた。花見といえば、お酒がつきものだが、年間で急性アルコール中毒になって病院に運ばれるのは花見の時期が一番多いらしい。僕も人生で初めてお酒を飲んで潰れたのはクラブ活動での花見の席だった。普段ならば少し酔ったなと思った時点でお酒の量を制限するのだが、その花見の時は全然制限出来なかった。これぞ花見の魔力とばかりにお酒を一気飲みして、さあ帰るかという時に倒れこんでしまったのだ。それから後の事は先輩の家にかつぎこまれた以外は覚えていない。
若気の至りとはいえ大変見苦しい所を部員達に見られてしまった。
 また、花見を今年もする。今年の急性アルコール中毒者の患者数に入らないように努力しよう。皆さんも花見での飲み過ぎに御注意を…。

(徳本和俊 (船団の会編集部))


2006年4月2日

 今年の桜の開花は例年より早いと言う。毎年、この時期に桜を活けて楽しんでいる。先日、近所の花屋さんから、桜と透かし百合、玉羊歯が届いた。この組み合わせは活花のお稽古でよく使うのだが、私は透かし百合のオレンジ色が強くてどうも苦手。思い切って前衛的にガラスの水槽に桜の花びらを浮かべて、透かし百合を高く活けても面白いかも、と思ったが、それだと百合が主役になってしまう。角水盤に桜を高く活けて、透かし百合は玉羊歯から少し見える程度にぐっと短く切って活けた。抽象的な作品になったが、透かし百合のオレンジ色は抑えられ、桜は妖艶な光を放った。

(小枝恵美子(船団の会編集部))