週刊:今週の季語 バックナンバー 2009年1〜3月
2009年3月29日

春の川(はるのかわ)

 「水の都大阪」と言われても「美しい」というイメージはなかった。しかし、最近は大阪の水辺を見直そうという動きが活発である。私が今とても気に入っているのは、堂島川が流れている田蓑橋近くの遊歩道である。今年になって、朝日放送の新社屋がこの川沿いに建ち、船着場も出来た。 やわらかな日差しの中でお弁当を食べたり、読書をしたり、春の川を眺めながら皆思い思いに休憩時間を楽しんでいる。土手には、たんぽぽ、からすのえんどうなども川風に揺れていた。

(小枝恵美子(船団の会 会務委員))


2009年3月22日

芽吹き(めぶき)

 共稼ぎの私たちは、保育所へ二人の子供を預けて育てた。空きが出ると連絡が入り入所出来る制度。十月から通い始めた二歳の娘は入所する為の心得や準備は後回しにして取りあえず預かって貰った。午後六時のお迎えに行き、雑木林を通り抜けて帰宅する。入所して十日目の事だった。雑木林の道の途中で「おかあさんうんち・・・」と悲しそうな顔をした。浴衣を再利用して作ったおしめを素早く拡げて敷くと健康的なうんちをいっぱいする。それが毎日の日課となった。保育所では子供なりに緊張してうんちが出なかったのだろう。元気に通えたのはこの雑木林のお陰だと思っている。その雑木林が今年もいっせいに芽吹く。

(藏前幸子(船団の会 会務委員))


2009年3月15日

入学準備(にゅうがくじゅんび)

 スーパーのレジに並んでいると、すぐ前にいた男の子が「ママぁ、ぼくもうすぐ1年生だから、この色鉛筆を買ってよ」とおねだりをし始めた。ふと見ると、「入学準備用品」と書かれて、食品売場なのにレジ横に文房具が吊り下げられている。最近はもう2月くらいから「入学準備用品」が店頭に並べられており、なかなか商売上手だ。支払いを済ませて、文房具屋をのぞいてみた。 春の文房具屋は、見ているだけでうれしくなってくる。何か買いたくなってきた。大学生になる息子に、象の形をしたクリップを買ってみた。家に帰ると「かわいいけどさぁ、それよりパソコンとかスーツを買って欲しいのだけど・・・」と言われ、苦笑い。そう言えば電器屋や服屋でも「入学準備」の文字が踊っている。ああ春だなぁ。

(尾上有紀子(船団の会 会務委員))


2009年3月8日

雪解(ゆきどけ)

 小学生の頃、母は、冬山や山スキーを楽しむ客を中心に細々と民宿を営んでいた。シーズンも終わりに近づくと、宿泊のお礼と来シーズンの再来を願ってお客さんに手紙をだす。その日、まだ1m近くの雪が残っていた。母から頼まれ、2キロ離れた山麓の小学校からの帰り道、学校の近くの特定郵便局のおばさんから50枚の切手を預かった。帰宅した私は、炬燵で眠っていた。夕食前、母から起こされハッとした。寝小便。切手は、ズボンのポケットの中でその被害を被っていた。夕食を終えて、手紙の準備。切手貼りは私一人に任された。翌日、50通の手紙を郵便局のおばさんに手渡した。暖かい雪解けの日が続いていた。

(岡 清秀(船団の会 会務委員))


2009年3月1日

沈丁花(じんちょうげ)

 「カバーをおかけしますか」本を買うとそう尋ねられる。「はい」と答えることも、断ることもある。何も聞かれないこともある。 風呂で読む本というのをみつけた。紙のように見えるが、ぬれても大丈夫な合成樹脂でできているのだそうだ。書店のポリ袋から出して笑ってしまった。紙のカバーがかけてあったのだ。そして、それをぬらしてしまうことを想像してしまった。
沈丁花は三月に咲く花の先駆け。沈丁花の匂う静かな夜に、お風呂でゆったりと、と思ったのだが、相変わらず鳥の行水を続けている。私の生まれ育った地では、お風呂につかることを沈むと言って、知らない人をぎょっとさせる。

(山田まさ子(船団の会 会務委員))


2009年2月22日

春の田(はるのた)

 朝、かならず散歩する。雨が降っていても傘をさして、たいてい出かける。散歩に行かないと身体が目覚めない。通勤の代替運動、サラリーマン生活後遺症である。今日は、昨夜降った雨が田んぼのくぼみのあちこちにたまって、早春の陽射しにまぶしく光っている。道のすぐそばの田んぼの大きな水たまりに、へたった透明のビニール傘が一本捨てられている。水は空を映してきらきらする。その空を見つめているとビニール傘はどこかに消え、この季節の先にあるはるかな月日の遠くから海鳴りが聞えてくる。

(宮嵜 亀(船団の会 会務委員))


2009年2月15日

春耕(しゅんこう)

 「畑、借りたよ!」と娘から電話があったのは正月を過ぎたころ。「ここ、家の前だから借りられたらいいのにね」と話していたところだ。土地が低く水はけが悪いのが気になるが、なにしろ居間から毎日眺められるし、庭の感覚で野菜が採れる。
 「今の間に耕して、肥料を入れ、土作りをしておかなきゃ」とわたし。30坪くらいの畑を草取りから始め、鍬を入れるのだが、娘婿は一日でダウン。子供たちも「お手伝いする」と張り切っていたけど、すぐ飽きて土の上に寝転がって遊びはじめる始末。腰が・・筋肉痛が・・と娘。わたしは意外に平気。でも、ときどき耕すのを手伝って“お相伴する”ことにしよう。

(陽山道子(船団の会 会務委員))


2009年2月8日

建国記念の日(けんこくきねんのひ)

 山中温泉の奥まったところに、栢野(かやの)の大杉という樹齢2300年の巨樹が2本、寄り添うように聳えている。私の出合ったすべての生存者のうち最高齢だ。2300年前といえば、まだ神話の国の世界。想像を超える「生」に、山中温泉=芭蕉の奥の細道は、ぶっとんだ。なにひとつ、詠いも主張もしない大杉の存在感のほうに惹かれてしまった。ふわふわ降り続ける雪の中、冷たい大杉の幹に頬を当て、2300年分を交信する。―ああ、ヒトは束の間の生きものー 雪に濡れた杉の肌は、意外にも、爽やかな青年の香りがして寒さを忘れた。
 (栢野の大杉・樹齢2300年 樹囲11.5m 樹高54.8m 今年は皇紀2669年)

(火箱游歩(船団の会 会務委員))


2009年2月1日

卒業(そつぎょう)

 女子の高校の卒業学年の担任をしている。卒業式が近づくと、卒業文集の一部としてアンケートが生徒の間で回っている。項目。「クラスの中で一番早く結婚しそうな人は?」「外国で活躍していそうな人は?」「セレブになりそうな人は?」等々。読んでいて、そうか、この子達にはこれから何とでも変えられる未知数があるんだと、とてもうらやましくなった。
 もうひとつ質問項目が目に入った。「何才になっても、自分の好きなことばっかりやっていそうな人は?」

(早瀬 淳一(船団の会 会務委員))


2009年1月25日

竹馬(たけうま)

 子どもの頃、流行ものの遊びに次々挑戦しては、悔しい思いをした。例えば一輪車は乗った瞬間にバランスを崩してこけたし、フラフープは腰でまわそうとしても一瞬で落下した。そんな私だが、唯一得意だったのが竹馬。小学校高学年の頃、どういうわけか竹馬ブームが到来。学校でも竹馬、帰ってきても竹馬。近所のみんなが持っていた。主流は竹製ではなくスチール製。子どもの頃「鉄馬」と呼んでいた。私は、最初は祖父が山から竹を切ってきて作ってくれた正真正銘の竹馬で遊んでいたのだが、どこからか鉄馬を貰い、その後は、竹と鉄、二刀流で稽古に励んだ。鉄馬は足台の高さ調節が可能だったのでどんどん足台を上げ、軽トラックの荷台を足場にして乗るほどの高さにまでして遊んでいた。
 最近学校で児童が鉄馬を使って遊んでいたので試しに借りて乗ってみたところ、ジャンプもバックもまだまだいけた。大人気なく自慢して喜んでしまった。

(中谷 仁美(船団の会 会務委員))


2009年1月18日

スキー(すきー)

 一瞬目の前が真っ暗になった。最後尾の私は、細く急な山道を曲がりそこねて谷に落ちたのだ。幸い途中で木にぶつかって止まった。周りには人の気配がない。ここは、カリフォルニア州のレイク タホスキー場。山は3000m級で、湖を取り囲むようにして15ものスキー場が点在している。友人に誘われてここまでやってきたが、海外で滑る技術にはほど遠かった。コースは国内と比べものにならないほど長く、人もほとんど見かけない。今頃は、みんな温かいコーヒーを飲んでいるのだろうなあと思いながら悪戦苦闘し、やっと這い上がることが出来た。帰国するやいなや頭部のMRIの検査をうけた。

(田 彰子(船団の会 会務委員))


2009年1月11日

入学試験(にゅうがくしけん)

 入試と言えば、センター試験のイメージが強い。今年は1月17日、18日に実施される。国公立大学はもちろんのこと、多くの私立大学もセンター試験を取り入れており、ほとんどの受験生が受ける。北千里高校の3年生も9割以上の生徒が受験する。そのせいか春の季語というより、冬の季語の感じがする。
 また最近の大学受験は10月頃から推薦入試が始まり、3月の下旬まで続くので、季感が乏しくなってきた。
 センター試験はマ−クシ−トなので、国語の本当の力をはかることができるとは思えず、私は反対である。

(近藤千雅(船団の会 会務委員))


2009年1月4日

七種(ななくさ)

 これから少しずつ春へと向かって行くと思うとやはり気持ちも明るくなり、どこかへちょっと出かけたくなる。昨日は南海本線の貝塚駅から水間鉄道で水間寺へ出かけた。車掌さんは、黒いガマ口型のかばんを肩からぶら下げている。かなりレトロな格好なのだ。切符を切る音も快く田園地帯を電車に揺られながら行く。水間寺は観音様が有名である。江戸時代には小西来山もこの寺を訪れている。南に葛城山系を望むこの辺りは暖かく、椿なども早くから咲き始める。帰りの道端の草は青々としていたなあと思いつつ、今朝は七草粥を戴く。ほっこりとわたしのからだあたたまる。

(小枝恵美子(船団の会 会務委員))