週刊:今週の季語 バックナンバー 2009年10〜12月
2009年12月27日

去年今年(こぞことし)

 木立の中を歩いていて、死んだ蝉を見つけた。空蝉は冬でも見かけるが蝉は珍しい。拾って手にのせると、とても軽く小さな枯れ葉のようだった。何か月も転がったままだったのか、翅は少し欠けていた。冷たい風が翅を抜けていく。私はそれを落ち葉の中へそっと埋めておいた。夏から秋、冬を経て虫も草も枯れて、また新しい命が芽生えて来るのを待つ。私もまた新しい私に出会いたく、去年今年の風に吹かれている。

(小枝恵美子(船団の会 会務委員))


2009年12月20日

初雪(はつゆき)

 かって8年間病院暮らしを強いられた私に母から、明治ミルクチョコ1枚と千円のお小遣いが毎月届けられた。板チョコは四角い枠で15等分され触れるとさらさらと鳴る銀紙に内側が包まれている。外側の包装のロゴマークが金色に輝いていた。ある時一度に食べると勿体ないので、遊び心で15等分して銀紙で一つずつくるみ、日東紅茶の空缶へ納めた。そして2日に1個食べることにした。それが習慣となり退院するまで続いた。 社会人になっても店頭に並ぶ明治ミルクチョコに出会うとピユアな気分になった。しかし最近、デザインがリニューアルされ、ロゴマークも変わった 、その板チョコが店頭に並んでいた。母と私の繋がりが感じられなくなったさびしい空を初雪が舞っている。

(藏前幸子(船団の会 会務委員))


2009年12月13日

柚子(ゆず)

 子どもの頃は、山椒や柚子など香りのする物はどちらかというと苦手だったのに、大人になってから大好きになってきた。山椒のつんつんはたまらないし、柚子の香りにはレモンとはひと味ちがった和風のまろやかさがある。娘を妊娠していた時に、韓国に出張した上司から、身体にいいからと日本ではまだブームになっていなかった「柚子茶」の大瓶をお土産にもらったことがきっかけで好きになったように思う。熊本で味わっただご汁に入れた赤い「柚子ごしょう」は、香りと口いっぱいに広がる辛さに虜になってしまった。
 小学3年生の娘も、「柚子茶」の胎教のせいか?柚子が大好き。柚子シフォンケーキ、柚子ドリンク、今日は「柚子青菜いなり」をねだられた。汁物に柚子の皮を少し入れ、たっぷり食事で味わった後は、ネットに入れて柚子湯にゆっくりつかり、香りを堪能する。
 今、娘と庭に柚子の木を植える計画を立てている。

(尾上有紀子(船団の会 会務委員))


2009年12月6日

餅搗(もちつき)

 我が家では年末に5臼の餅を搗く。もちろん杵で搗く。ひと臼は「こがねもち」といい、餅米と普通の米を半分ずつにして、塩で味付けをして搗く。餅のように肌がサラサラ、ツルツルではなく、米粒が残るのでザラザラであるが、その食感がたまらない。焼いてそのままでも、醤油で食べても美味いが、搗きたてのものを醤油を垂らした大根おろしでいただくのは格別。私はこれを励みに毎年5臼の餅を搗くのである。

(小倉喜郎(船団の会 会務委員))


2009年11月29日

ストーブ(すとーぶ)

 教室に鋳物の達磨型ストーブが置かれる。小学生の時の話。5年生と6年生は(合せて23人だったが)、二人一組でストーブ当番が割当てられる。「ストーブ当番」の札が回ってくると、家から焚付け用の新聞紙と小枝の束を持ち、30分前に登校する。校務員さんから薪とバケツに入った石炭を受取り、1年生から6年生までの各教室のストーブに火を点けていく。教室が暖まる頃、みんなが登校してくる。給食のとき、ストーブにパンを乗せて焼くには当番の許可がいる。上手く焼くとストーブ製作所の印がパンに焼き付く。授業が終わり、石炭に水をかけて火を消す。水蒸気が上がり、まるで噴火だ。ストーブをきれいに掃除し、次の組に「ストーブ当番」の札を回す。

(岡 清秀(船団の会 会務委員))


2009年11月22日

毛糸編む(けいとあむ)

 メビウスの輪といえば止め処もないことの比喩、手品、リサイクルマークなどが浮かぶ。久しぶりに、ふわふわの毛糸をさがしに毛糸屋さんに行った。そこにメビウスの輪があった。長方形の編地を一捻りして綴じたり、最初から一捻りした輪にして編んでいくと、肩から落ちにくいショールや帽子ができるのだ。気づけば簡単なことだが感心した。編み物は糸をさがしたり、どんな風にしようかと考えているときが実は一番いいのかもしれない。編み始めてふと気がつくと、目数を間違えていたり、止め処もなく大きくなっていて、最初からやり直すしか方法がないなど失敗も数多。止められないほど楽しく編んで、うまくクリスマスやバレンタインのプレゼントに間に合うとよい。

(山田まさ子(船団の会 会務委員))


2009年11月15日

小春日(こはるび)

 バーベキューがおわり、残り火でさつま芋を焼く。牛肉を食ったあとは可溶性繊維質が必要だとか何とか。でかい芋を一人一つ持ってきたから、結構時間がかかる。焼けるまで川原に寝転んだりして日向ぼっこである。うらうらと暖かい光の中でとりとめのない話。鼾をかいている奴がいる。傍らの小川には、川面の半分もおおいつくすほどの枯葉が次から次から流れている。そうか、上流にある水辺の木の葉が落ちて全部流れて来るのだ。水底を見ると、すでに古い落ち葉が堆積し、下部は発酵して黒ずんでいる。一年一度の、大量の有機質の砂底への補給。

(宮嵜 亀(船団の会 会務委員))


2009年11月 8日

秋の日の釣瓶落とし(あきのひのつるべおとし)

 「いいかげんに帰ってきなさい。ばか!」と母の声。小学校5年生のとき4日ぶりに家に帰ると叱られた。
 秋祭りに叔母さんの家に呼ばれたので泊りがけで遊びに行った。学校から10分ほどの所。従兄の子の「はーこちゃん」は一学年下で仲良しだった。その近所にいる2人の同級生とも。朝になると4人で学校に行き、授業が終わると4人で遊びながら「はーこちゃん」の家に帰った。自分の家には徒歩で1時間くらいかかるので、そこがすっかり気に入ったのだった。秋の日暮れ、人気もない所を帰るのは気が重かった。叔母さんたちはなにも言わなかったが、4日目ともなると子供心に気が引けて家に帰ったのだが。

(陽山道子(船団の会 会務委員))


2009年11月 1日

身に入む(みにしむ)

 防衛省に保存されている市ヶ谷記念館に行った。東京裁判(極東軍事裁判)の法廷となった講堂や、三島由紀夫の「盾の会」が乱入し、割腹した総監室や演説したバルコニーなど、象徴的な部分が当時のまま移築保存されている。東京裁判の法廷となった講堂の天井燈はやわらかく薄暗く、建物全体が静かに静かに重い歴史の中に沈んでいた。三島由紀夫がたてこもった総監室のドアには、身に入みる大きな歴史のあだ花のように、刀傷が三箇所残っていた。11月25日が憂国忌(三島忌)だ。新しい防衛省は近代的で明るく、売店には「自民がんばれ饅頭」や「鳩山民衆サブレ」が並んでいた。饅頭は重たいので「鳩山サブレ」を土産に買った。饅頭とサブレは両党の違いに似ていて笑えた。

(火箱游歩(船団の会 会務委員))


2009年10月25日

紅葉(こうよう)

 仕事で晩秋の網走を訪れた。そこで監獄博物館を案内してもらった。明治から戦前までの監獄の様子が再現されている。編み笠・手縄姿での徒歩による護送、木枠の監房が並ぶ広い廊下に二つしかないストーブ、自ら宿舎を作り道内を移動しながら道路を作っていく様子など、帝国憲法下での凄まじいまでの人権の無さを想う。
 今年の秋は道東の紅葉は例年よりくすんでいた。けれど監獄の周辺だけは鮮やかな紅葉で、案内してくれた北海道の人も「不思議だねー」と言っていた。

(早瀬 淳一(船団の会 会務委員))


2009年10月18日

火祭(ひまつり)

 10月22日、この日は京都三大祭りのひとつ、時代祭の日なのだが、同時に、鞍馬の由岐神社例祭・鞍馬の火祭の日でもある。(こちらは京都三大奇祭のひとつらしい。)
 大学4回生の秋。もう少ししか京都に居られないかもしれないのに私はどこにも出かけていない!と焦っていた。そんな時駅で見かけた火祭のポスター。激しく燃え上がる松明の写真。よくわからないままに、これに行くしかないと私の心は燃え上がった。そんな私の闘志を知り、一緒に祭りに行ってくれたのは、今や第一句集を出版して絶好調の大角真代さん。彼女とは大学時代の同級生なのだ。  夕方、叡山電車で鞍馬へ。その日は小雨が降ったり止んだりだったのだが、そんなことはお構いなし。山門前で激しく火柱を上げて燃え盛る何本もの神楽松明。想像以上の熱気と人の群れ。自分が燃えてしまうような錯覚。力強さに圧倒された。
 毎年この時期、ニュースで見るたびにあの夜の情景が鮮やかによみがえる。いつかまた見に行きたいものだ。

(中谷仁美(船団の会 会務委員))


2009年10月11日

曼珠沙華(まんじゅしゃげ)

 曼珠沙華の咲く頃になると、どこからか「メーエ」と元気のよい声が聞こえてくる。子どもの頃は体が弱く、両親は仕事で忙しくしていたので田舎に預けられていた。豚と山羊が遊び相手だったが、豚は近寄ってもお尻ばかり向けて相手にしてくれなかった。でも、山羊は違った。絞りたての乳を飲ませてくれた。独特の匂はあったが濃厚でおいしかった。毎朝一緒に散歩を、というより綱に引きずられて野原に出かけた。それが、私の唯一の仕事だった。そこには山羊の好物の草が一面に生え、曼珠沙華が咲いていた。午後に迎えに行くのだが、姿が見えると「メーエ」と呼びかけ、山羊はいつも「メーエ」と大きな声で答えてくれた。
 帰り道ではいろいろな話をしたが、静かに聞いてくれた。曼珠沙華を見ると、友達だった山羊のことがなつかしく思い出される。

(田 彰子(船団の会 会務委員))


2009年10月4日

コスモス

 好きな花にコスモスがある。花びらは全開していて、色もはっきりしている。茎は細長く、風に倒れそうでいて、決して倒れない強さがある。
 さだまさし作詞で山口百恵の歌に「秋桜」があったが、結婚していく女性の揺れる気持ちや新生活に踏み出す勇気みたいなものが、コスモスに秘められているのだろうか。
 私の誕生月は10月なので、ほぼ毎年、奈良の般若寺にコスモスを見に行く。狭い境内いっぱいに私の身長より高いコスモスが群生していて、見事である。私もコスモスのように、いろいろな風に翻弄されながらも、したたかに生きていきたいと思っている。

(近藤千雅(船団の会 会務委員))