週刊:今週の季語 バックナンバー
2010年9月26日

鈴虫(すずむし)

 教育現場だからいつも和やかとは限らない。ともすれば諸業務に追われ、教師達が 殺伐とすることもある。こんな時代だからこそ心のゆとりを持とう、と先輩のセンセ イ、教員室で鈴虫を飼おうと言い出した。いいですね、いいですね。賛同の声、声。 翌朝、早速鈴虫が来た。リリィン、リリィン。夕方生徒達が帰る。明日の授業準備に いそしむ教師達。その横で優しい音色。リリリン、リリリン。翌日、壁に鈴虫当番表 が貼られる。リリリリン、リリリリン。「この日、出張。」「この日生徒付き添 い。」いつの間にか当番表の空欄は我が名で埋められている。リリリリリン、リリリ リリン。夕方のみならず、朝から鈴虫たち。教員室の平和のため、彼らに餌をやらな いと。リリリリリリン、リリリリリリン。「センセイ、一時間目のチャイム鳴ってま すけど」。級長が来る。ちょっと待って、センセイ今、忙しいの。

(塩見恵介)


2010年9月19日

秋刀魚(さんま)

 少し涼しくなったので、久し振りで学生時代の友人宅を訪ねた。和歌山電鉄の貴志川線で和歌山駅から貴志駅まで行く。以前、この線は赤字で廃止になりかけたのだが、貴志駅の駅長が猫の「たま」になり、がぜんと利用者が増えた。電車もたまの図柄になって、まるきり絵本の世界である。たまは三毛猫で可愛いと聞いていたが、実際に合ってみると少し精彩がない。日曜日は休むそうだが、毎日駅長室にいるのは疲れるのだろう。友人宅では秋刀魚の押し鮨を一緒に食べた。紀州沖ではとびきり新鮮な秋刀魚が獲れるので、押し鮨を作るのだ。 帰り道、「たまちゃんも秋刀魚を食べて元気にね」と、声をかけた。

(小枝恵美子(船団の会 会務委員))


2010年9月12日

酔芙蓉(すいふよう)

 リビングから酔芙蓉が見える。父が挿し木をしてくれたものだ。名前の由来は花が白からピンクに変化するのを、酒に酔って肌が赤くなることになぞらえているらしい。10年前に家を建てた時、庭にはあれがよい、これを植えろ、と図面まで描いてくれた和風好みの実家の父とイングリッシュガーデンを目指す私の好みが衝突した。花や樹は水やりをはじめ世話がいるし、その土地との相性がある。父にダメ出しされた樹は結局枯れ、父が車で運んできてくれた樹々は根付いて生き生きしている。この酔芙蓉も私はあまり乗り気ではなく、実は最初の鉢を枯らしてしまい、二度目の苗木だ。去年2つ花をつけたら急に好きになり、この春に庭の特等席に地植えしたのだ。暑さが弱まってきた、秋の庭いじりが楽しめる。

(尾上有紀子(船団の会 会務委員))


2010年9月5日

秋の風(あきのかぜ)

 間もなく1歳になる息子は、この暑い中、家中を汗だくになって這い回り、つかまり立ちをしては、ガラスや網戸などお構いなしに、何でも平手でパンパン叩いている。先日はついに古い扇風機を引き倒して壊してしまった。
 そんなふうなので部屋の隅に置いている小さなタンスの前に、柵の代わりにと数冊の重い美術書を置いている。一番上には棟方志功全集の一冊を置いているのだが、その表紙に横たわる天女を見るたびに「バウバウバウ」と低い声で唸っている。彼は絵本の猫を見てもやはり「バウバウバウ」と唸っている。ここ数日、朝夕にはようやく北側の窓から秋の風が入ってくるようになった。

(小倉喜郎(船団の会 会務委員))


2010年8月29日

秋(あき)

 まもなく夏休みが終わる。夏休みの宿題に「どくだみ採り」があった。全校児童60人程の小学生時代の話。夏休み中にどくだみを採り、これを学校でまとめて薬屋に売り、備品を買うのである。年齢によって採る量が決められており、それ以上を採った子には、相応のお金が貰える。友達と待ち合わせて山に行き、採ったどくだみは軒下に吊して乾燥をする。こんな日々を繰り返す。夏休みが終わると、数日に分けて背負って登校し、講堂に書かれた自分の名前の場所に積上げる。薬屋が買いに来る日の早朝、私達は講堂に水を運び、乾燥させた自分のどくだみに、ばれない程度に水を掛ける。少しは重くなるはず。いよいよ薬屋がやって来て、量った重さを各自の札に書いて行く。私達は、まるで競り市のように見守る。秋の運動会、鼓笛隊の太鼓が新しくなった。

(岡 清秀(船団の会 会務委員))


2010年8月22日

残暑(ざんしょ)

 どつどど どどうど どどうど どどう
 あゝまいりんごも吹きとばせ
 すっぱいりんごも吹きとばせ
 どつどど どどうど どどうど どどう

 あれっ、青いくるみとすっぱいかりんではなかったかな。同じくらい昔に買った三冊のうち一冊がりんごだった。何か訳があるのだろうが調べるのはまた今度だ。
 西ノ京、次の九条が下車駅だ。ハッと気がつくとドアがしまっている。その次の郡山で下りて障子紙を買って戻ることにする。明日来なくてよくなった。電車に乗って座ると障子の張り方が目に入った。一枚張りは初めてなのだ。えっ!なんということ、また西ノ京から戻らなくては。駅と駅の間はそれぞれ2分、このまま振り子になって帰れないのではと、異次元に入ってしまった気がした。それもこれもこの連日の暑さのせいだろうか。

(山田まさ子(船団の会 会務委員))


2010年8月15日

秋めく(あきめく)

 道端のカンナや露草、遠くに見える西山と東山の稜線、鴨川の水辺にと秋がひそやかに漂い始めてる感じ。いつも、帰り道に乗る奈良行きの電車は夕暮どきにもかかわらずあまり混んでいない。本を読む人、ケータイでメールやゲームをしている人がちらほら。冷房の効いた車窓を流れる風景には西の空に広がる美しい夕焼けと東寺の五重塔。小林一茶に「塔ばかり見えて東寺は夏木立」という五重塔を詠んだ俳句もありなんとなくうれしく、その高い塔を電車の中から束の間見る癖がついている。あわただしい日常のあわいに、ほんとうの秋を待つ心持ちも少し。夏と秋のまざりあう微妙な今時分は好きな季節だ。

(薮ノ内君代(船団の会 会務委員))


2010年8月8日

登山宿(とざんやど)

 朝、視界十メートル。意見が割れる。この強い吹き降りのガス(霧)の尾根を縦走するのはばかげている。景色なぞ見えないし、足元も危険だ。明日も悪天の予報だし、下山して温泉宿をさがそう。下界は猛暑の今、寒いガス尾根を足元だけを見つめ、予定通り今日の目的地を目指そう。それこそ夏山の醍醐味だ。吹雪になるわけじゃなし。三対三。残る一人の案。行程四分の一程の所にある第一ピークまで登り、そこで引き返すか、縦走を続けるか決めたらええじゃん。そして山小屋の玄関土間で靴を履いている時、縦走派の一人の登山靴の底ゴムがはがれかけていて、このままでは縦走どころか下山すら心もとない状態であるのが判明したのである。

(宮嵜 亀(船団の会 会務委員))


2010年8月1日

麦茶(むぎちゃ)

 暑い日が続く。熱中症の被害が連日報道されている。水分補給のために私は麦茶を飲んでいる。今はコンビ二でも手軽に清涼飲料水や麦茶を買うことができる。
 実は、ペットボトルの麦茶にも塩分が含まれているものがある。成分表示がされているけれど、惑わされる書き方もある。ナトリウムと書かれていても、それは塩分とは違う。実際の塩分量は、表示されているナトリウムから換算できる。例えばナトリウム表示が20mgならば、20mg×2.54÷1000=食塩相当量(g)ということで0.05gの食塩と同じになるのである。塩分制限のある人は注意が必要である。
 塩分は体に水分を溜めやすくする。登山をするときには塩分の入った飲み物は、体の中に水分が吸収されやすいので、トイレにいく回数が少なくて済むのだという。健康な毎日を送るためにも、日頃から成分表示を見る癖をつけておくといいかもしれない。

(藤田亜未(船団の会 会務委員))


2010年7月25日

水泳(すいえい)

 梅雨が明けるといっきに真夏日。海やプールは人がぶつかりあうほどの人出らしい。 小学二年生の孫は、水に親しむことが夏休みの課題なのだが「ボクは泳げなくてもいい」と腰に手をあて自信たっぷりに言う。お風呂は平気だが顔に水がかかることを嫌うからシャンプーは嫌い。三歳のころは、海に行っても波打ちぎわには行かなかった。小石を投げて遊ぼうと誘っても投げた小石が海に届かない。そんな彼だが走るのは得意でリレーなど学年代表として走ったりする。それにしても、水が苦手というのは遺伝するのだろうか。実はわたしも泳ぐのは苦手。なぜ体が水に浮かぶのか分からない。彼もわたしも水による怖い経験などまったくないのにもかかわらずだ。ふと、血脈というものを感じたりしている。

(陽山道子(船団の会 会務委員))


2010年7月18日

射干(ひおうぎ)

 山鉾巡行は昨日終ったが、祇園祭は七月いっぱい続く。船鉾町の古い商家を覗くと上り框の衝立の前に、それは見事に射干を活けてあった。京都では祇園祭の花として、射干を活ける。この晴れの日のしつらえに京都の主婦の腕が披露される。射干の茎は堅く、濡れた手が滑り何度も指のほうを剱山に突き刺し、痛い思いをして上達する。葉を組み直し、各流儀の格式に堂々と活けあがる。下手が活けると見る間に形が崩れたり、ばたんと倒れていたりする。毎日花が落ち、暑い京都の町家で次々に咲き続く。花が終っても花瓶などに挿しておくと、ある日、野昼ハ(ぬばたま)という漆黒の実が光っている。射干を習い始めたとき、「ぬばたまの」という枕詞の語源を知った。

(火箱游歩(船団の会 会務委員))


2010年7月11日

夏の蝶(なつのちょう)

 八ヶ岳山麓の町で、美しい花を見つけた。2mほどの木の、八方に伸びる梢の先に、房状の赤紫の花を付けている。初めて見る花に、声が上擦る。旅の紳士が「ブットレア」と仰った。と、その時エーッ?何ッと、又黄色い声が出てしまったのは、画集から抜け出てきたようなアゲハ蝶が2、3匹、ツーと来て花房に止ったからだ。続いて何種類ものアゲハがやって来きて、その花に止る。私は、町育ちで、常々ゆったりと蝶を見る自分でないことに気がつく。
 紳士から、アゲハはブットレアを好んで食べることや、アゲハ・ミヤマカラスアゲハ・ウスバシロチョウ・ギフチョウ等を教わった。趣味で、全国の蝶を訪ね歩いていると仰り、カシャッと写真を撮られる。私たち仲間も急いで真似た。

(中林明美(船団の会 会務委員))


2010年7月4日

胡瓜(きゅうり)

 小学2年生の担任をしている。2年生では、生活科という教科があり、その学習の一環として、植木鉢や学年の畑で夏野菜を育てている。プチトマト、なすび、ピーマン、ししとう、オクラ、そしてきゅうり。先月の終わりぐらいから、ぼちぼち収穫が始まっている。子どもたちは、ひとりひとつ、好きな野菜の苗を植えていて、自分の植木鉢でとれた野菜は自分で持ち帰ることができる。連日大喜びで戦利品を持ち帰るきゅうりチームの子どもたち。それに続くのは、プチトマトチーム、ピーマンチーム、なすびチーム。ししとうチームもいい感じ。やきもきしているのは、まだまだこれからが育ち盛りのオクラチームだ。そういえばオクラは秋の季語。納得。
 先日、学年の畑でとれたきゅうりをみんなで食べた。調理方法は至ってシンプル。少し厚めの輪切りにして、マヨネーズであえて、はい出来上がり。“超”新鮮だったため、切り口から水がじわり。日頃はきゅうりが苦手な子も「おいしい!!」。私もあんなおいしいきゅうりは初めてだった。

(中谷仁美(船団の会 会務委員))