週刊:今週の季語 バックナンバー
2011年3月27日

沈丁花(じんちょうげ)

 春は別れと出会いの季節。職場の先輩で、スタイル抜群、年齢不詳、料理もお菓子もパンも上手な憧れの女性から、突然手紙が届いた。ついさっきまで一緒に仕事をしていたのに、 わざわざ自宅に封書。不思議な気持ちで開けると、「 突然ですが3月いっぱいで退職することにし ま した 。他の人には最後まで内緒ですが、あなたには知らせておきたくて・・・」と。自身はシングルなのに、子育ての悩みにもたくさんアドバイスをくれた。生徒への思いも、読書の趣味も、新聞の4コマ漫画のツッコミどころも似ていて、姉のように思っていた人だった。いつかは別れの日が来るとは思っていたけれど、まだまだ先だと思っていた。
 校舎の裏庭の沈丁花の甘い香りがせつない。

(尾上有紀子、「船団の会」会務委員)


2011年3月20日

春の雪(はるのゆき)

 考えもしなかったほどの災害が起こってしまった。自然の驚異とか人災とかいう言葉では表現できない。とにかく少しでも良い方向に向かってくれることを祈るばかり。そして自分にできること、すべきでないことを肝に銘じて日々を過ごすしかない。
 3月も半ば過ぎたというのに、ここ数日は真冬並みの寒さ。春の雪というにはあまりにも冷たすぎる。せめて被災地が早く暖かくなることを願う。

(小倉喜郎、「船団の会」会務委員)


2011年3月13日

春の風(はるのかぜ)

 今年になって職場の句会「八一九(はいく)の会」を再会した。約20年前に発足した会であるが、昨年の2月から休会していた。発足時の約束事には、「俳句を身近なものにするため、互いの対話から知的レベルの向上と遊び心の涵養をはかり、八月十九日を俳句の日とすることを目的とする。」と記している。この職場の前理事長の座右の銘は「以春風接人(春風を以て人と接す)」。
 そう言えば、昨年のベストセラーに「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の長い題の本があった。この経営思想家のドラッカーの名言の一つに「表の風に吹かれろ!」がある。
 さあ、句会に行こう。

(岡 清秀、「船団の会」会務委員)


2011年3月6日

お水取り(おみずとり)

 三月になって暖かくても、寒くても「お水取りが済むまでは」と話すのは毎年のことだ。お水取りの名で親しまれている、東大寺二月堂の修二会が3月1日から本行に入った。今年で1260回目、一度も途絶えることなく続いている。お水取りといえばお松明だが、その前に二月堂をゆっくり回ってみた。お松明の火を消す水槽がある。畳敷きの局に座ると日没の行が始まっていた。声明が聞こえる。これがあの沓の音なのだと思う足音。歩いたり走ったりガラガラ大きな音だ。五体投地の音も大きい。かなり動的なものだ。舞台でお松明を見ようと待つ人もいる。すっかり冷えてしまった私は堂下に下りて待つことにした。お水取りが終わったら来るはずの本格的な春を思いながら。

(山田まさ子、「船団の会」会務委員)


2011年2月27日

春(はる)

 普段はあまり耳にしない童謡がラジオから流れてきた。懐かしい「どこかで春が」は柔らかい春の陽光やそよ風のよう。子供の頃住んでいた家の庭は春になると赤い椿が咲いた。手が届きそうで届かない椿の枝に、背伸びしたり飛び跳ねたりして指先にちょこっと触れた。そんな子供の日々に親しんだ素朴な童謡は幼なじみのような感じ。よく口ずさんだ「春よ来い」の歌詞に〈♪あるきはじめたみいちゃんが〜〉とある。擬人法ではないけれど、私は長い間、赤い椿が「みいちゃん」だと勝手に思い込んでいた。なぜだろう。二番の歌詞には「桃の木」がある。こんな些細な季節の記憶を呼び戻してくれる童謡。どこかで春がそよいでいる。

(藪ノ内君代、「船団の会」会務委員)


2011年2月20日

雨水(うすい)

 里山の畦道で蕗の薹をさがす。「生えはじめの小さいのが香り、味とも一番グーだ」。去年の長い枯れ草に混じった若い草々の丈はまだ短いが、緑が一段とあざやかになっている。特別に緑濃い大きな株は彼岸花の冬葉。「蕗の薹は全然生えとらんぞ」。「まだ1週間ほど早すぎるのかなあ」。みんなうつむいて田んぼのまわりをうろうろ。「ああ、天ぷらを食べたい」。田んぼから畦にかけて大きく広い範囲に土が荒っぽく掘りかえされたところがあった。猪の仕業だ。冬眠を終えてそろそろと動き始める土中の生き物達は大変な災難に遭ったのだ。1週間後には頭を出すはずの、僕らの目当てもここだけは根こそぎやられたにちがいない。かたわらの小川の水が音をたてて流れ、きらきら光っている。

(宮嵜 亀、「船団の会」会務委員)


2011年2月13日

切干(きりぼし)

 先日インフルエンザにかかり、高熱と咳に悩まされた。
 やっと治って久しぶりに浴びる太陽の光をとても暖かく感じる。太陽の光を浴びることで甘くなり、栄養価も高くなる食べ物、それが切干大根。決して主役にはなれないが脇役としてはとても光っている存在。骨や歯を丈夫にするカルシウム、悪性貧血の予防作用がある鉄分、代謝をよくするビタミンB1、B2がとても豊富に含まれている。また、食物繊維も含まれているため、便通もよくなり、ダイエットにも最適。
 戻した切干大根に千切りにした胡瓜とハムを加え、中華ドレッシングで和え、胡麻をパラパラと振りかければお酒のおつまみとしても、サラダとしてもおいしい一品になる。本日の一品にぜひどうぞ。
 船団の若手で関西俳句なうというホームページを立ち上げた。こちらもおいしいページなのでお試しを。

(藤田亜未、「船団の会」会務委員)


2011年2月6日

入学準備(にゅうがくじゅんび)

 それは40年も居間にある父の座り机の、決まった引き出しの決まった位置にある筆箱。あずき色のセルロイド製でスカートをはいた女の子が1人描いてある。わたしが1年生のとき使っていたものだ。実家を出たとき残した荷物の中から、まだ使えそうなものを取り出したらしい。その座り机もそうだ。鉛筆や万年筆が入っている筆箱も、引き出しから出したりしないから、今だに現役で活躍?している。
 この季節、店先では華やかな色のランドセルや文房具が並んでいる。これらを与えられた子供たちが50年、60年さき、再び手にすることがあるだろうか。そう思ったとき私は95歳の父に「じいちゃんがこれを使わなくなったら、貰うね」と言ったら母が「じいさんの遺品か」と言った。

(陽山道子、「船団の会」会務委員)


2011年1月30日

冬の果(ふゆのはて)

 マンションの入り口に、四季咲きの白いバラのアプローチがある。いつもやっと家に帰り着いたと、ほっとする場所だ。今日は夕暮れの中に、この白いバラと黒い親子のシルエットがあった。小さなこどもが「一番星見いつけた」と、かわいいまだあまりもとおらない口調で言うのが聞こえた。お母さんが「一番星」を教えていた。お姉ちゃんが「あたしも見いつけた」というので、通りすがりの私も空を見て「おばちゃんも見いつけた」と言って、みんなで笑う。やや西の方にきらきら明るい宵の明星があった。まだ着ぶくれた四人のまわりを、なんだかぽわんとした空気が包んだ。

(火箱游歩、「船団の会」会務委員)


2011年1月23日

蕎麦掻(そばがき)

 スキーをしていた頃、ある民宿に東や西から仲間が集まった。そこは、乗鞍山麓の集落である番所。そこで、Sコーチの母堂の蕎麦掻をご馳走になった。信州の逸品だと知った、その素朴な味わいは忘れられない。歳時記には「蕎麦粉に熱湯を注ぎ固めて練り上げ醤油や温かい汁で食べる」とある。母堂のは、練り上げ丸めた蕎麦餅を、囲炉裏の灰の中へ埋めるという一手間を加える。灰の熱でほくほくに成ったら取り出し、ぱんぱんッと灰をはたく。ふんわりと、火傷しそうな熱いのを、醤油に生姜や磨り胡麻、砂糖など混ぜたり、また葱味噌や餡子など、取り取りの調味料で食べる。あつっあつっと騒ぎながら食べたのは、狭い上がり框にある囲炉裏端でのことであった。

(中林明美(船団の会 会務委員))


2011年1月16日

寒椿(かんつばき)

 数年前、職場の先輩に着物をいただいた。着物が好きで、その頃着付けを習いに行っており、何度かその先輩に着物の話をしていた。そんなに好きならと、おうちにあったものを譲ってくださったのだ。畳紙を開くと、まず薄いピンクの地色、そして鮮やかな紅で描かれた大きな椿が目に飛び込んできた。
 家に帰ってすぐ、着物を広げて体に合わせ、鏡の前に立ち、前、横、後ろ、いろんな角度から眺めてみた。うーん、素敵!どんなコーディネートをしようか、どこへ着て行こうか、楽しい想像は果てしなく広がっていく。その時、ふと気になったのが、さて椿柄っていつ着るべきだろうということ。季節がはっきりわかるものだけにこれは大事なことだ。調べてみたところ、2月とのこと。なるほど、季節先取りが粋ということか。
 季語の上では、「椿」は文字通り春の季語だが、今頃の早咲きの椿は「寒椿」。歳時記でこの語に出会うたびに、もうすぐあの椿柄が活躍する時期がやってくると思いうきうきする。ああ待ち遠しい!今年はどこに着ていこうかしら。

(中谷仁美(船団の会 会務委員))


2011年1月9日

冬の大三角(ふゆのだいさんかく)

 夜空の星々が一番輝き華やぐ季節。1等星が一番多く見えるこの時期、冬の夜空を見上げてみませんか。煌めく星の中で私が一番好きなのは父が教えてくれた「冬の大三角」である。お正月に帰省した家族と「冬の大三角」や冬のダイヤモンドと言われる「冬の大六角形」を楽しんだ。午後11時近くになると我が家のベランダから南の空にオリオン座、「冬の大三角」、更には天頂に向かって「冬の大六角形」が見える。
 さあ今夜も夜空を見上げ、冬の星座と交信を楽しみませんか。「冬の大三角」は、まず特徴のあるオリオン座を探し、オリオン座の赤いベテルギウス。こいぬ座のプロキオン。おおいぬ座の青白く輝くシリウス。これら3つを結んだ大きな正三角形です。すぐに見つけることが出来ますよ。

(鶴濱節子(船団の会 会務委員))


2011年1月2日

年賀状

 職業柄、10代の人から年賀状をもらうことが多い。きちっと習字の手本のように書いてくる子。はがきいっぱいにマジックで「あけましておめでと」だけ書いてきたかと思えば、2日後に「う」だけ書いて送ってくる子。こんなのもある。「柔道のヘッドキャップをありがとうございました」。中学の時、授業で柔道があるのだが、その日、彼はヘッドキャップを忘れたのである。持ち主不明の落し物の、ずいぶん古いヘッドキャップが職員室に放置されていたので、中学1年だった彼に渡したのが僕だった、らしい。以来、毎年、この年賀状が来る。年々エスカレートして「今の自分があるのはあのヘッドキャップのおかげです」「あのヘッドキャップのおかげで大学が決まりました!」。卒業の年には本人だけでなく、その母親からも年賀状が来た。「ヘッドキャップのご恩をいつも息子と話しています」。もう、忘れてください!

(塩見恵介(船団の会 会務委員))