2012年3月25日

春の日(はるのひ)

 最寄りの駅へ行く途中にフェンスで囲まれた広い空き地がある。春になると色とりどりの可憐な草花がそのフェンスに沿って咲く。タンポポ、イヌフグリ、ホトケノザ、カラスノエンドウ、ヒメオドリコソウ、ハコベ、ナズナ、ハハコグサなど。鮮やかな黄色、瑠璃色、赤紫色は一際、春だね!という感じ。これらのかわいい花を春に咲かせる草花の多くは、夜の長さをはかり、やがて訪れる夏の暑さを前もって知るという。夏の暑さをタネの姿でしのぐらしい。なんだか前向きに季節と連れ立って生き延びているみたいだ。春の日のこんな小さな草花たちにうっとりしていたが、先日、フェンスに掛けてあった「売地」の看板が取り外されて測量が始まっているのに気がついた。

(藪ノ内君代、「船団の会」会務委員)


2012年3月18日

若布(わかめ)

 釣仲間での定例釣行会は仲間の誕生日と決めている。1人3月生まれのがいる。3月、4月は1年のうち海水温が最も低い。波止場まわりの魚クンにとっては1年で最も寒い時期であり、動きがにぶく、かつ食欲もなくめったに釣れない。そこで若布取り。釣り用のタモ網を2本、一方は網をつけないで釣用ナイフをくくりつける。これで刈りとった若布を、網をつけた方のタモで掬う。刈った若布は潮に乗り、ゆらゆら沈んで行く。高い沖波止に腹ばいになって3、4メートル程下の海面に届くよう身を乗り出して刈るのも、掬うのも大変だ。掬うとでかい若布は重くて、するする落ちてしまうことも多い。でもまあ、釣用クーラーはすぐ満タンになる。持って帰ると、とても食べきれないので、おすそ分け。「逃げないものを釣ってきました」と。でも、若布って逃げるんですよ。

(宮嵜 亀、「船団の会」会務委員)


2012年3月11日

ホワイトデー(ほわいとでー)

 世の男性達が、バレンタインのお返しに頭を悩ませる日が近づいてきた。そう、その名もホワイトデー。
 もともとは菓子業界がマシュマロやクッキーなどをお返しとして渡したらどうか、と考えたのがきっかけ。お返しはバレンタインにもらったチョコの値段の3倍返しにすることが風潮だったこともあるらしい。だが、最近はお返しのほうが高くつくから、と返さない男性も多いそう。
 韓国では、バレンタインに恋人ができなかったときに黒いもの(コーヒーなど)を食べたり飲んだりしながら「恋人できなかった」と愚痴を言いながら過ごすブラックデー(4月14日)なるものがあるらしい。しかし、相手いません、という意思表示にもなるから、合コンにつながることもあるそうだ。ホワイトデーにお返しするひとがいなくても悲しむことはない。
 恋をしよう。

(藤田亜未、「船団の会」会務委員)


2012年3月4日

啓蟄(けいちつ)

 3月6日ごろを二十四節気では「啓蟄」、七十二候では「蟄虫啓戸」(すごもりむし とをひらく)、七十二候では「桃始華」(もも はじめてはなさく)というらしい。
 先日、物置にある木箱の引き出しを抜くと、よろよろと一匹のゴキブリが出てきた。驚いたがこれならと割り箸でつまんで、ナイロン袋の中へポイ!と入れて口を硬く結んだ。この時期、あのすばしこいゴキブリも死んでいるかのようだ。天気のよい日、物置に入れっぱなしの捨てられない器や庭仕事の道具、肥料、殺虫剤、植木鉢、ペンキ、板切れ、折りたたみの椅子など、ぜーんぶ春の日に当て消毒しよう。

(陽山道子、「船団の会」会務委員)


2012年2月26日

引鶴(ひきづる)

 写真を整理した。自分の年や器量はさしおいて、こんなはずじゃない写真ばかりだ。こんな思いは、出水(いずみ)の鶴を見た第一印象もそう。ずっと、私の中の鶴は丹頂鶴だったのだ。それが鍋鶴や真鶴が一般市民の群集のようにいて「うっそー!」と思った。でも見ていると普通の私のようで、愛おしくなってきた。監視員から北帰行の話を聞く。その日が来たら、午前11時までに飛び立ち、あとはぴたっと止み、翌日になると言われた。もうそろそろ帰るのではと問い合わせた。気の早いのは1月30日に、198窒ェ帰った、そのあと寒波で止まっているという。わたしは見送りたくてそわそわしてきた。3月中にみんな帰ってしまう。行かなくちゃ。3月が来る。

(火箱ひろ、「船団の会」会務委員)


2012年2月19日

さごし(青箭魚・狭腰)

 さごしは鰆の幼魚で、楽しめる期間はとても短い。白身の柔らかい、これの鱠(なます=きずし)は母の味としての記憶が甦る。早春のある日、魚屋さんでさごしを見つけ鱠にすることを思い付く。二時間ほど塩漬けにし、さて、俎板に載せ困った。鯖のような薄皮が無い?何だこりゃ!である。あのグレーの鑢のような硬い皮が、透き通るような肉を包んでいる。パソコンで、さごしの皮の剥き方を検索してみたが、こんな初歩的な注文には応じてくれない。仕方なく、皮を削り取り虎刈りのさごしを昆布を敷いた甘酢に漬けた。無残に残った皮は食べる時、全く気にならなかった。ある時、偶然「さごしの皮は剥かなくていい」という事を耳にした。

(中林明美、「船団の会」会務委員)


2012年2月12日

バレンタインデー

 高校生の頃、ひとつ年上の先輩に恋していた。
 バレンタインデー前夜、友だちの家に泊まり込んで、夜遅くまでチョコチップクッキーを焼いた。それなりにおいしそうに出来上がり、きれいな袋に入れてリボンで結んで、ラッピングもばっちり。
 いざ当日。部活が終わって帰ろうとしている先輩をつかまえて、クッキーを渡した。好きだと書いたカードも添えて。口から胃が出そうなほど緊張した。
 翌日、先輩に声をかけられた。「中谷さん、クッキー超かたかったよ。」あわてて帰宅して余った分を食べてみると、確かにものすごくかたかった。がーん。そして私の恋は終わった。当時はだいぶへこんだが、今では青春の1ページだ。
 最近は友チョコなるものが流行っている。欧米では男も女もプレゼントやカードを贈り合う日だし、色々なパターンがあっていいと思ったりもするが、いやいや、やっぱりバレンタインデーといえは本命チョコだと声を大にして言いたい。全国の恋する乙女、がんばれー!

(中谷仁美、「船団の会」会務委員)


2012年2月5日

梅(うめ)

 梅の開花便りが聞こえてくるこの季節。我が家から約10分程の万博公園を歩いて来た。私の散歩コースのひとつである。まずは岡本太郎の「太陽の塔」に敬意を表し手を振るのが、私のいつものご挨拶。寒風の中、蕾はまだ固いが、数本の木はちらほら開花していた。ちなみに今年の梅まつりは2月18日〜3月11日の期間である。自然文化園の梅林には128品種、約600本。日本庭園の梅林には39品種、約80本。様々な品種の梅を愛でることができる。気品ある清らかな香りを胸いっぱい吸うと、心身共とても綺麗になっていく気分に浸ることができる。たくさんの品種の中で、ふっくらとした白梅の「叡山白」の香りが私は特に好きである。花と香りとネーミングを観察しながら歩くと結構楽しめる。暖かい日差しを浴びて、幸せな気分で梅林を何度か楽しみたい。

(鶴濱節子、「船団の会」会務委員)


2012年1月29日

着ぶくれ(きぶくれ)

 切符のたぐいが苦手である。改札を通って電車に乗ったはずなのだが、降りるときに、何処にしまったか、いつも分からなくなる。私は左利きなので、たぶん、ズボンの左ポケットに入れたはずなのだが、ハンカチしかない。ん、今日は右手の日?右のポケットをさぐるが、家の鍵。俺は今日、ジャケットのポケットの日か?左右探すが、車の鍵とか、電車で舐めた飴の紙とか。なんかよく分からない紙切れも。そうか、俺を本気にさせる気だな。鞄を置いて、ジャケットのポケットを探す。胸ポケットも探す。携帯電話、名刺入れ、財布、どんどん出てくるが、切符が出てこない。くそ〜、なぜだ〜!ベストの胸ポケットも探す。こんなにポケットがあるから分からなくなる。駅員さん、僕が悪いんじゃないんです、ポケットのせいです。この前、車の時も駐車券を無くした。あんな大きいもの、どうしたらなくなるの?ちゃんとしまうところを決めておきなさい、とかみさんには叱られた。ひょっとして、私の服のポケットは無くし物の森に繋がっているのではないか。既に切符を探すことさえ忘れている、改札前の着ぶくれの男。

(塩見恵介、「船団の会」会務委員)


2012年1月22日

冬芽(ふゆめ)

 昨年、JR大阪駅が新しくなった。時々利用するが、地下鉄の乗り換えなど、まだまごつくことがある。先日も地下に行こうとして、なぜか地上に出てしまった。駅前の広場ではフォルクローレの演奏をしていた。ふと立ち止まって、ケーナの音を聴いていると妙に懐かしい気分になる。澄んだ青空と山々が目の前に広がって、故郷を思い出してしまうのだ。祖父が尺八をよく吹いていたが、それを聴いていた子どもの頃に戻った感じかも。祖父は理数系の人だったが詩吟や尺八を、祖母は日本舞踊を習っていて、琴や三味線の音が蓄音機から流れていた。私の周りにはいつも音楽があったんだなあと思いつつ、街路樹を見上げると、冬芽がつんつんと空を指していた。

(小枝恵美子、「船団の会」会務委員)


2012年1月15日

毛布(もうふ)

 小学生の娘が「お風呂の国と毛布の国とどっちがいい?」と聞いてきた。どちらも彼女の好きなもの。我が家はみんなお風呂が好きで、真夏でも熱い湯船に浸かりたい。ましてや真冬に湯船に浸かった瞬間は思わず「あ〜極楽、極楽」と言ってしまう。でも、ある程度時間が経つと出ざるを得なくなる。しかし毛布の中は時間が許せば、ず〜っと居続けることができる。
 休みの日の朝、毛布の中で「起きようかな、あ〜でももう少し、あと5分入っておこう!」とくるまっているときはしあわせを感じる。この冬は節約が叫ばれ、毛布が褞袍(どてら)みたいになっている「着る毛布」の広告をよく見る。羽毛布団があるので毛布は要らないという人もいるが、私はやっぱり毛布が欲しい。というわけで「毛布の国がいい」という結論に至った。

(尾上有紀子、「船団の会」会務委員)


2012年1月8日

霜柱(しもばしら)

 昨年秋より野菜作りを始めた。無農薬、無肥料、そして耕さない。半信半疑で始めた農法だが、晩秋から冬にかけての収穫は予想以上によかった。蕪、大根、白菜、小松菜、ラディッシュなど、どれも普通よりもやや育ちが遅く、小振りではあるが、どれもキレイで美味い。特に小さ目のチンゲンサイは火の通りもいいので、煮物、炒め物に重宝した。中でも漬け物が好評だった。サッと熱湯にくぐらせて、昆布と鷹の爪と一緒に少なめの塩で一晩漬けるだけ。
 いよいよ寒を迎えた畑は、朝食のサラダ用に育てているベビーリーフのトンネルと、白菜や大根などを少し残して静かに眠っている感じ。そしてあちらこちらに霜柱ができていて、ザクザク踏む感触がずいぶん懐かしい。その横では既に空豆の苗が濃い緑の葉を数枚つけている。

(小倉喜郎、「船団の会」会務委員)


2012年1月1日

とんど焼き(とんどやき)

 とんど焼きは、地方により呼び方、風習も様々のようだ。私の故郷は兵庫県北部の山村だが、「どんど」と呼び、「おくり正月」の1月6日に行っている。杉や藁でやぐらを作り、正月飾りを持ち寄って一緒に焚く。「どんどの火に当たると病気をしない」、「書初めを燃やし、燃殻が高く舞うと字が上達する」などの言い習わしがある。
 大阪で住み始めた新興住宅街には、このような風習はなかった。十数年前、ボーイスカウトのリーダーをした時、子どもたちにこんな風習があることを知ってもらおうと、とんど焼きを計画した。神事なので、近くの宮司さんに相談すると、「その気持ちさえあれば大丈夫」とのこと。子どもたちは、近くの空き地に正月飾りと書初めを持ち寄り、小さなとんど焼きをした。翌年から、近所の人も持ち寄り、その後、小学校のグランドを使っての行事となった。当日はぜんざいが振舞われるが、「とんど焼きは、いつ食べられるの?」と聞く子が毎年いるらしい。

(岡 清秀、「船団の会」会務委員)