2013年6月30日

風鈴(ふうりん)

 夏祭りの「六月灯」が楽しみだった。子供の頃「ろっがっどう」と呼び、約一ヶ月の間、毎日のようにどこかの神社で行われた。綿あめ、金魚すくい、風鈴などの夜店がずらりと並んだ。夕方になると子供たちは誘い合わせて、近くの神社へぞろぞろ出掛けた。その頃、住んでいた家には縁側があった。どこの家にも当たり前のようにあった。近所の従兄妹たちと西瓜や素麺を食べたり、夏休みの宿題をした縁側。軒先には祭りの夜店で買った風鈴が吊るされ空や雨を見た。最近、縁側のあの内でも外でもない感じっていいなと思う。そろそろ故郷に「六月灯」の季節がやって来る。

(藪ノ内君代、「船団の会」会務委員)


2013年6月23日

入道雲(にゅうどうぐも)

 娘たちが通っている小学校では、毎年7月末に地域の人たちが中心となって夏祭りが開かれる。今年は、私が小学校のPTA役員に当たり、文化委員という役を担っているため、夏祭りのお手伝いをすることになった。具体的にはウクレレ教室に通っている子ども達が夏祭りで立派に演奏できるように、教室のお手伝いをするらしい。
 ということで、通い始めたウクレレ教室。今では出演者の一員に加えられ、子ども達と一緒にウクレレを習っている。教室が終わり、子ども達が帰ると、講師を交えた反省会という名の茶話会で少しおしゃべり。カントリーマアムが美味しい。
 きらきらと眩しい太陽の光が窓から降り注ぐ。もうすぐ、空には入道雲が広がる季節だ。

(工藤 惠、「船団の会」会務委員)


2013年6月16日

夏の山(なつのやま)

 雪嶺の蝶ガ岳、右に目を転じれば常念岳・槍ヶ岳と続く景色の広がりを前に、テラスでの朝食!このような光景を誰が想像しただろうか?。今年の船団の会の初夏の集いのホテルでのこと。ずい分前に蝶ガ岳に登った時のことが蘇ってくる。頂上で地元の岳人と出合い、今からの縦走は危険だからと、蝶の小屋に泊まるよう促された。山小屋は、仕切りのない広い部屋で、次々に登山客が到着し雑魚寝の夜だ。やっと睡気がさしたころ、ご来光を見に行こうと起こされた。それは思いもしなかった体験であった。彼方で一点ピンク色が顕れ、続いて放射状に雲海をピンクに染めてくる。やがて日が昇る。感動のどよめきが起きたのは、言うまでもない。

(中林明美、「船団の会」会務委員)


2013年6月9日

清水(しみず)

 岩の間から清水の出るところを、「ひや水」と呼んで親しんだ。丸太のベンチと小さなコンクリートの水桶があり、何本かの柄杓が置いてある。ここを通る人たちや、山の上にあるお寺への参拝者が一休みする場所だった。学校の帰り私たちもかならず一休み。掃除や道路に水を打ち野の花を飾った。どこへ行くのも歩きの時代。やがて寺への道路が開通し、子供たちもバス通学するようになり、この「ひや水」は忘れられていった。あの清水を飲んだあの場所を覚えている人は、いま何人あるのだろう。私の故郷の一コマである。

(陽山道子、「船団の会」会務委員)


2013年6月2日

蝸牛(かたつむり)

 小学生3人程が「かたつむり」の唱歌を歌いながら歩いているのに出会った。なんだか妙に懐かしかった。通り過ぎてから私も声には出さず歌ってみた。そういえば長い間私は「蝸牛」を見ていない。子供の頃は梅雨時によく見かけ、可愛いと思う反面、あまり好きではなかったような気がする。これを機に今年は「紫陽花と蝸牛」と称して、瑞々しい紫陽花と蝸牛に少々こだわって写真を撮ってみよう。散歩がてらに千里万博公園の紫陽花の森。それとも足を延ばして京都大原三千院、宇治の三室戸寺、奈良の矢田寺などに行ってみようかなあ。そう考えると、梅雨時もまた楽しめそうな気がして来た。でもあまり蝸牛にこだわるとエスカルゴを食せなくなるかも。

(鶴濱節子、「船団の会」会務委員)


2013年5月26日

競馬(けいば)

 競馬が季語になるのは六月五日に行われる賀茂競馬や、最近では日本ダービーもそれに当たると言えるが、アメリカにも競馬にシーズンがあり、中でも五月に開かれるケンタッキーダービーはアメリカンクラシック三冠の一つに数えられるほどポピュラーなものである。
 このケンタッキーダービーの公式飲料として有名な「ミント・ジュレップ」というカクテルがある。このミント・ジュレップ、ダービー開催期間中には十万杯もの量が出るカクテルなんだとか。ミント・ジュレップはコリンズグラスにフレッシュ・ミントの葉とシロップを入れ、クラッシュドアイスでグラスをいっぱいまで満たし、バーボンウィスキーを60ml注ぐ。グラスの中で潰されたミントの葉が爽快に香り、初夏に飲むカクテルにはもってこいの一杯である。

(山本皓平、「船団の会」会務委員)


2013年5月19日

鴉の子(からすのこ)

 故郷で法事があり、親族20人ほどが集まった。住職が所用のため、都会で暮らす若い副住職がやってきた。仏壇の前での読経が済み、副住職は、棚田や天然記念物の大桂の木など自然が残る故郷を大いに褒めた。その後、小道を15分ほど歩き、お墓へと参った。読経の流れる中、それぞれにお線香やお花を供えた。読経も終わりお墓を後にしかけた時、2羽の鴉が飛んで来て墓石の上に止まった。2羽の鴉はキョロキョロとしている。向かいの山からは、カアーカアーと子鴉のかん高い鳴き声が聞こえる。その時、兄姉が気付いた。お供え用の団子とお菓子を家に忘れてきたのだ。鴉が来るまで、誰も団子やお菓子を供えていない事に気付かなかった。お墓参りが終わると餌にありつけると思い、向かいの山から飛んで来た鴉には、とんだ誤算だ。「鴉ってすごいなー」、「きっとお団子などをお供えしない宗派と思っているよ」などと勝手なことを言いながら家に向かった。2羽の鴉は、私たちの頭の上を鳴きながら山に帰って行った。アホーアホー。

(岡 清秀、「船団の会」会務委員)


2013年5月12日

桐の花(きりのはな)

 平成の五重塔を見に行こうと思い立った。三重県津市の古刹観音寺。林望さんの『私の好きな日本』というエッセイに触発されたのだ。40代の棟梁に率いられた20代の宮大工たちの活き活きと塔を建てている姿と、その棟梁の夢を語る姿がなんとも魅力的に描かれていた。一緒に行く予定をしていた夫は、直前に風邪のためにダウン。一人で電車を乗り継ぎ、津市に着いたのはお昼過ぎだった。早速、閑散とした道を歩き出す。途中で出会えた地元の方に道を尋ねる。が、方向音痴の悲しさ。行けども行けども、到着できず。知らない土地で、不安な気持ちがマックスになりかけた頃、見つかった!その境内の左手に、まさに今を咲き誇る桐の大木が、薄紫色の花をつけて出迎えてくれた。5月のこと。

(村上栄子、「船団の会」会務委員)


2013年5月5日

鈴蘭(すずらん)

 「お父ちゃんの鈴蘭」が咲いた。風が動くと良い匂いがしてくる。これから次々に植木鉢いっぱいに咲いてくる。十年ほど前、父の十三回忌に、岡山の実家の株を分けて持ち帰った。父は昔、蒜山高原で採取してきて育てていた。京都に咲くこの鈴蘭のDNAは蒜山高原につながる。
 先年、お一人様の姉が入院し看病に行った。そのとき、少し根を付けた一握りの鈴蘭と、小さなガラスの花瓶も荷に入れた。
 「ほら、お父ちゃんの鈴蘭だよ」。病室は小さな鈴蘭のそこはかとない良い香りがして気持ちが和んだ。懐かしい父が見舞いに来ているような気がした。
 もう誰もいない実家になってしまったが、きっと今年も鈴蘭が咲いている。

(火箱ひろ、「船団の会」会務委員)


2013年4月28日

キャベツ(きゃべつ)

 A:「最近、草食系多すぎるよな。ウチのカレシもそうやで。」
 B:「あんたのとこはロールキャベツやん」
 A:「違う違う、カレシは剥いても剥いてもキャベツ。」
 B:「ええ?そしたら、キャベツのロールキャベツ?」
 A:「そうやで、ロールキャベツいうたら、あんたのカレシやん!」
 B:「ちゃうちゃう。ウチのはピーマンの肉詰め!」
 A:「きゃはは!」
 帰宅途中の電車内、隣の二人の女子高校生の会話のスケッチ。
 彼女らはキャベツを草食系の代名詞にするが、キャベツの芯はへし折るといい音がする。アスパラガスやセロリなどいろいろ試したが、一番いい音だ。
 その音の良さ、心が折れる音に近し。(心の折れる音は本当にいい音がする)

(塩見恵介、「船団の会」会務委員)


2013年4月21日

朧月(おぼろづき)

 新年度に入り毎日ドタバタな日々。仕事帰りの楽しみは週に一度の三味線のお稽古。あなたほど楽しそうにお稽古を受けている人はいないと言われたことがあるほどだ。夢中になって三味線をかき鳴らす。それなのについにきてしまった。お稽古後に漂う何だかいつもとは違う後味・・・
 その帰り道、朧月が空にぽっかりと浮かんでは消えることを繰り返す。まるで疲れてまどろんでいるかのよう。まどろみどころではない。あのお月さまったら、寝息をたててすっかり寝入っているみたい。今度はいきなりハッと起き、それから寝ぼけてボーッとしている。いつも人から見られているお月さまもたまには休みたいのだろう。空を見上げながらぼんやりと帰る朧月夜のことだった。

(舩井春奈、「船団の会」会務委員)


2013年4月14日

春の馬(はるのうま)

 「ホーセズ・ネック」というカクテルがある。この一杯に「馬の首」という名が付いたのは、グラスに飾られたレモンの皮が馬の首のように見えたからだという。(中身はブランデーのジンジャエール割り)
 このカクテルにはもう 一つ由来があって、アメリカの第26代大統領セオドア・ルーズベルトが自身の愛馬に跨り、その首を撫でながらこれを飲んだからなんだとか。
 ちょうど今くらいの季節、それこそ春の馬に跨りながら一杯やれたら最高に気持ち良さそう。ねぇ?ルーズベルトさん。
 ※「ホーセズ・ネック」はカッティングに手間がかかり、レモンの皮を丸ごと一個分使わなくてはならないので、バーで注文される際にはご注意を。混雑時に頼むとイヤな顔されます。

(山本皓平、「船団の会」会務委員)


2013年4月7日

麗らか(うららか)

 先日、乗り換えのホームで電車を待っていると突然、声を掛けられた。「〇〇です」と名乗るその人の目元は、マスクをしていることなど忘れたように微笑んでいる。でも、思い出せない。マスクを外してなんて言えないし、まじまじと見つめていると再度、今度は「△△にいた〇〇です」と言う。ああ、とようやく記憶が甦る。が、電車がやって来て焦る。訊ねるとどうやら同じ方向らしい。急いで二人掛けの座席に落ち着いた。そして思いがけない18年振りの再会を喜んだ。彼女の物静かな雰囲気は一緒に仕事をしていた頃のままだ。ついこの間の続きみたいに近況などを話しながら18年の月日をそっとかみしめる。いつの間にか彼女の降りる駅に着いた。私達は慌てて握手した。束の間の麗らかな日の再会。

(藪ノ内君代、「船団の会」会務委員)


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