2014年12月28日

着ぶくれ

 先日、市バスのつり革につかまりながら東寺の五重塔を眺めていると、後部座席の中学生らしい4、5人の男子たちから「バスの中から五重塔が見られる!」という驚きとうれしさの入り交じったような声が耳に入ってきた。どうやら修学旅行のグループみたいだ。この感覚よくわかる。どこから来たのだろう。思えば自分が初めてこの京都に来たのも高校の修学旅行だった。確か大阪万博の年。まだ河原町を路面電車が行き来していた頃だ。
 振り向けば長い年月を京都に住んでいる。お正月を故郷で賑やかに過ごした日々もあった。着ぶくれた母の割烹着姿、お雑煮、ぜんざい・・・。なんだか気持ちが温かくなる。

(藪ノ内君代、「船団の会」会務委員)


2014年12月21日

クリスマス

 「母ちゃん、何でうちにサンタクロースが来んとね?」母イクさんは、振り向きもせず、ぼそっと一言。「うちは来んよ。浄土真宗やけん」(笑)フォークグループ海援隊のリーダー武田鉄矢さんのコンサートでのトーク。貧しさにめげない母イクさんの生き方に胸がすく。
 ところで、先ごろインドへ行って来た。タージ・マハル、アグラ城、仏陀が悟りを開いた大菩提寺、ガンジス河の沐浴風景は、この旅の眼目だった。が、何よりも心に残ったのは、聖地ベナレスで出合った物乞いの少女(6歳くらい?)の瞳。迷路のような巡礼道を抜けてから、ぴたりと寄り添ってきた。乗り込むバスのステップで思わず少女の頭に手をやり、撫でた。驚く、戸惑う、はにかむ少女。その瞳に、今なお揺さぶられ続けている。
 キリストの誕生日、クリスマス。宗教に関係なく、サンタさん、あの少女の上にこそ!

(村上栄子、「船団の会」会務委員)


2014年12月14日

討入りの日(うちいりのひ)

 12月14日は赤穂浪士討入りの日である。この日、四十七士の墓のある泉岳寺にお参りに訪れる人も多い。討ち入りは何回もドラマになったこともあって、その日は雪が降っていて、吉良上野介は炭小屋に隠れていてとかまるで見てきたように様々なシーンが思い浮かぶ。「義士会」や春に行われる「義士祭」が季語と言われてもぴんとこないが、堀部保兵衛決闘の地である高田馬場で電車を乗り換え、お堀沿の道を通って牛込見附近くの職場へ出勤していることを思えば、この季語にちなんだ今を楽しむ手もある。俳句が出来ても出来なくとも義士に縁のある地名を拾いながら歩いて、最後は両国にある吉良屋敷跡をぶらぶら散歩してみるのも一興かも。

(三宅やよい、「船団の会」副代表)


2014年12月7日

茶の花(ちゃのはな)

 「茶の花やぽっちゃりとしたお嬢さん」十六年前に俳句を始めた頃、初めて出席した句会で出した作。俳句は写生。ならばと、ぐっと対象に近付いて観た。白い小さな花から金色の蕊が出ている、なんて清楚で可愛らしいのでしょう。
 しかし句会では、『「や」で切れているのに、茶の花がお嬢さんに見えたというのでは頂けませんねぇ。』とのこと。「や」という切れの働きを知った初体験となった。
 先日、山登りの会で歩いた柳生の里。茶畑に茶の花を見つけ、皆しばし足を止めた。メンバーの中で還暦を越えた男の人が、茶の花を摘んで自分のウエストポーチに挿して飾っていた。茶の花は人の心を少年少女に近付けてくれるようだ。そんな愛される花の一つと思う。

(藤井なお子、「船団の会」会務委員)


2014年11月30日

肩掛け(かたかけ)

 母に、マジックテープで脱ぎ着のできるピンクの衿のついたポンチョを送った。「これは少し派手で恥ずかしいよ」と弟に言ったらしい。父が逝ってから3年近く、自分の時間がたっぷりできたが、足が痛くて自力で外出もままならない日々。手近かの布で小物のカバーなど作って楽しんでいる。この冬も、若いころ使った肩掛けに他の布をパッチワークして使っていた。色合いが地味に思えたので、明るい色の羊毛入りの物を送ったのだった。病院通いも外出もせず、他人と話をする機会もなく、遠くにいる不肖の娘としては、そんな時間の気分転換を思ってのことだった。母は96歳。

(陽山道子、「船団の会」会務委員)


2014年11月23日

蜜柑(みかん)

 昔、有馬温泉に、有馬ヘルスセンターという日帰り施設があった。今あればむしろ貴重なテーマパークになりそうなアナクロの建物で、長机が並べられた広大な和室の広間があり、そこには舞台がついていた。そこに妹と、亡くなった祖父を慰安に連れて来ていた。舞台では、時代劇の格好をしたどさまわり一座が、芝居をしていた。隣にいた、「じゃけー、じゃけー」と言っていたのでたぶん広島から来たお婆さん三人が、夥しい数の蜜柑とゆで卵の皮を剥いて、芝居も見ずに食べていた。

(早瀬淳一、「船団の会」会務委員)


2014年11月16日

オリオン座

 T市に勤めて間もないころ、用事で市民課へ行ったときのこと。受付カウンターの向こうにKさんの姿。中一の時に同じクラスになってから、なんとなく心惹かれていた人。高校、大学は違ったが、中学卒業後も4〜5年はグループ交際のようにして遊んでいた。
「久しぶり、今日はどうしたん、海外旅行でも行くのん」
「うん、転出届けも出さなあかんし、実は私結婚するねん」
 がーん、なんとなく繋いでおきたかった細い糸が切れた感じ。
「俺がおるのになんていうことをするねん」
 精一杯の冗談を飛ばす。
「もうちょっと早よう言うてくれたら良かったのに」
 もうちょっと早よう言うたらほんまに良かったんかいな。
 帰り道。ふと見上げたオリオン座は腹が立つほど輝いていた。

(長谷川 博、「船団の会」会務委員)


2014年11月9日

小春日(こはるび)

 いつものように万博記念公園を歩いている。真っ青な空が心地良い。野良猫と出会い、「元気だった?」と声をかける。エキスポランド跡地は来年秋、大型複合施設がオープンする。重機が林立し、大規模な建設が進んでいる。また同じ秋に4万人収容のサッカー専用スタジアムが完成予定である。近隣に居を構え長年散歩して来た私は少々複雑な気持ち。住みやすい山田の家の周辺も渋滞になるであろう事を予測し、閑静な箕面市に居を求めたのである。「来年の秋からは、大勢の人々でこんなにのんびりと歩けないわね」と家人と話しつつ歩いていると、ガンバ大阪のクラブハウスの所に来た。来日間もないザッケローニ前監督が握手をしてくれたのが懐かしい。各々の球技場では小春日を浴び、少年サッカー、アメフトではチアリーダーの応援合戦等々、元気な声が飛び交っている。

(鶴濱節子、「船団の会」会務委員)


2014年11月2日

ラフランス

 この世に生を受けて四十余年、恥ずかしながら先日、初めてラフランスの実体を見た。切り分けたものは見ていたのだが、実体は武骨なまでのくすんだ緑の塊。ラ・フランス、君の名は粋すぎる。酸っぱくてジュクジュク、ぼくにとっては苦手な部類な果物なのだが、愚息は他の何よりもこの果物が好き。買って帰る。もいでからしばらく熟させるのが正しい食い方だという。国内生産量1位の山形県では、追熟のため、収穫から出荷まで2週間ぐらいおき、11月1日を「統一販売開始日」にしようとしたとか。それで今が旬である。
 ところで、俳句では「ラフランス」か「ラ・フランス」と書くか。「・」が悩ましい。そんなことを考えていたとき俳句仲間の学生が「流し目であいつはなんぞやら・ふらんす」という名句を作った。うーん、ひらがなもありかも。漢字の「林檎」は伯爵だが、ひらがなの「らふらんす」は妖しい貴婦人の匂いがする。

(塩見恵介、「船団の会」副代表)


2014年10月26日

秋高し(あきたかし)

 ローレンス・クラウス教授の「宇宙白熱教室」をテレビで見た。今後、宇宙は膨張し続けるのか、収縮し続けるのか。私には理解できないはずの内容なのに、徐々にわかってきたと錯覚するのはプロの手並みである。この空の向こうにとんでもない未来がもうすでに進行しているとは奇妙なことだ。さて、週に何度かテニスをする。右利きの場合、サーブのトスをあげるのは左手。秋はその左手の先の、そのまた上げたトスの先にとてつもなく澄んだ空がある。若いころのようにはスピードの出ないサーブではあるが、青い空に頭まで突っ込んでボールを打つ。一瞬、錦織圭になる。

(小西雅子、「船団の会」会務委員)


2014年10月19日

桜紅葉(さくらもみじ)

 子どもが学校に通い始めると、自分自身の学校時代を追体験するような心地になる。もちろん、違うことはたくさんあるけれど、絶対的に変わらないこともある。
 そのひとつが、におい。小学校は、粘土の香りがする。
 そのことを思い出したのは、長女が小学校に入学して、最初の参観日。5時間目の授業はまだほのかに給食のにおいが残っていて、そこに、子どもたち自身の身体、靴、ランドセル、教科書、黒板、チョークなどから発するにおいが混ざり合って、粘土のような香りを醸し出し、いつしか、それは学校の体臭と化していた。
 ああ、これはたしかに小学校のにおいだ。
 あれから5年。今日は一日学校開放日。校門のそば近くにある桜紅葉を潜り抜け、子どもと私の記憶が共有する世界へ向かう。

(工藤 惠、「船団の会」会務委員)


2014年10月12日

林檎(りんご)

 昔、バーのカウンターで女の子に、「林檎」という字をさらりと書いて見せてモテたという男の話を聞いたことがある。
 林檎ならばさもありなん。これが蟋蟀(こおろぎ)だったら喜劇に終わっただろう。漢字が難しければよいというものではない。林檎そのものの清楚で、静謐を湛えたような、それでいて情熱的な赤のイメージが、実はこの物語の核心であるような気がする。とは言っても、「赤ずきんちゃん」や「白雪姫」に登場する不吉な林檎のことを考えれば、冒頭の男女の運命もそれはそれで多難であったかもしれない。

(木村和也、「船団の会」会務委員)


2014年10月5日

もみじ

 6月から勤務先を替えた。阪急電車箕面線の終点、箕面駅で下車する。駅の正面の山が紅葉をし始めた。箕面は『もみじの天ぷら』が有名。勤め始めた時、「秋になったら、もみじの天ぷらを食べに行く」と友人から連絡があった。その季節になった。夕方、行きつけの立飲み屋に行き、女将さんにもみじの天ぷらの美味しい店を尋ねた。向かいのお土産屋だと言う。早速、予約に行った。「金曜日、4人で予約できますか」。ご主人は、大笑い。『もみじの天ぷら』は、紅葉の葉を揚げた、かりんとうのようなお菓子。年に数人は勘違いをする人がいるらしい。振り向くと女将さんが笑っていた。

(岡 清秀、「船団の会」会務委員)


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