2015年9月27日

秋鯖(あきさば)

 秋茄子、秋(新)蕎麦に秋グミと、秋のつく美味しいものはたくさんあるけれど、なんといっても私は秋鯖が好き。魚屋から一匹まるごと求め、二枚におろす。そして、〆鯖、焼き物、揚げ物と余すところなく食い尽くす!特に、竜田揚げはお勧め。新鮮な鯖だからこそ、美味しさが際立つ一品。
 ただーし!二枚に上手におろせていたのは、瀬戸内の父と母の話。私の腕前は、はて…?今年は家族のブーイングが出ないように、まずは、包丁を研ぐところから始めたいと思います。
 秋涼し母屋に眠る砥石たち

(朝倉晴美、「船団の会」会務委員)


2015年9月20日

秋の虫(あきのむし)

 「この部屋の中で鈴虫でも飼っているのですか?」
 「いいえ、飼っているというのではないのですが、ここに居着いてしまっているみたいで。ただ部屋のどこにいるのか、声のする方を探してはみるのですがさっぱり姿が見当たらないのです」
 女はカードを繰りながら答えた。一定のリズムでカードが切られているその間中も虫は鳴き続けていた。わたしは空色をした女の爪をぼんやり見ながら“りぃぃりぃぃ”という鳴き声を聞いていた。
 「鈴虫かどうかもわかりません」
 そう言い放つと女はカードを円形の木のテーブルに並べ始めた。
 「鑑定についてですが、メールでいただいたご依頼から変更はございませんか?」
 「ええ、それだけで結構です」
 わたしが返事すると女は一呼吸おいて、わたしに一番近い左端のカードをめくった。虫の声はもう聞こえなかった。

(山本皓平、「船団の会」会務委員)


2015年9月13日

運動会(うんどうかい)

 組体操の安全確保のため、その高さ制限を設定するか否かが問われている。小学生当時は小柄だった私は、組体操では上部分に位置した。跣の足裏に校庭のざらざらした砂粒の感触。真っ白な体操服の友だちへ、「ごめんね」と思いながら上へと登っていく。台の部分になっていた子の背中の柔らかさや肩の固さを憶えている。日々練習を重ねるうちに、どの辺りに足を置くと安定するかの要領を得て行った。
 そんな校庭に金木犀の木が植えてあったのだろう。大人になった今は、金木犀の香りを嗅ぐや反射的に運動会間近の校庭を思い出す。

(藤井なお子、「船団の会」会務委員)


2015年9月6日

梨(なし)

 朝日新聞夕刊で吉本ばななが連載していた「ふなふな船橋」が終わってしまった。梨の妖精ぬいぐるみ(きっとふなっしーだと思う)を題材にしていて可愛い挿絵とともに毎日楽しみに読んでいた。なんだか物足りなくぽかんと寂しくなったところに鳥取から「二十世紀」が送られてきた。青みがかった実がぎっしり詰まっている。たっぷり水気を含んでいるのにサクサクさっぱりして人に媚びない味がとても好きだ。ひんやりした朝の空気と一緒にいただく。けなげに生きる主人公の女の子は「きっと大丈夫なっしー」と梨の妖精に励まされていた。私に梨の妖精はついていないけど、玄関に置いた箱いっぱいの梨があるから大丈夫。明日も元気に起きられる。

(三宅やよい、「船団の会」副代表)


2015年8月30日

九月(くがつ)

 結婚で豊中から高槻に移ってはじめての散髪屋。下手なのかどうか、レザーカットが痛い痛い。散髪だけで豊中に行くのも億劫なので、以来ずっとホームバーバー。ところが娘の結婚式ということで、35年ぶりに理容室へ。洗髪後、鋏でチョキチョキ。その間、7分30秒。「髪の毛が少ないからカットも楽でしょ」。「うーん、そうですね楽ですね」。若い店長は正直者。今や手間のかかる多毛が禿げて楽々カット。今更理容室通いでは妻に申し訳ない。
 そこで「理容室は娘の結婚式だけにするわ」と妻に。「えー、やめてー」。以来今年の9月で一年。ホームバーバーは今も続いている。

(長谷川 博、「船団の会」会務委員)


2015年8月23日

休暇明け(きゅうかあけ)

 「え?それが、ワシはだあれも覚えてないんよ。クラスに混じっとったんかなあ。誰が昨日の晩、寝小便したとか、誰それの畑の唐黍とったんあいつちゃうか、とか、話題になるのはそれぐらいヨ。若い女の先生がおって寺であいつらを世話しとったなあ。そいつらの飯?知らんで。たまにあいつらのお母さんかなあ、村で着物と飯は換えてたかもしれん。夏休み?ワシらなにしとったか?遊ぶ友達?おるかいな。この辺、みんな百姓やん。ワシは昼はアニキと川で泳いだり魚取ったり。で、夕方はアニキと田んぼ仕事や。どこの子もみんなそうやで。町の子は寺で何しとったんやろな。ま、夏が終わっていつの間にか、そいつらみんな学校には来んかったナ。」
 外はいつしかこおろぎが鳴く。昭和11年生まれの父の思い出話に付き合う夜。昭和20年休暇明け、京都市内の学童疎開を受け入れていた丹波の山村の話。

(塩見恵介、「船団の会」副代表)


2015年8月16日

晩夏(ばんか)

 客が一段落するとSは裏口から外に出て一服する。カウンターに残っている何組かは連れ合いが相手をしてくれている。
 店の真裏は狭い路地になっている。空はほとんど見えず、長細い暗がりが続いているだけだ。扉の隣には安物のスツールが置いてあり、それに腰掛けてSはマルボロに火をつけた。八月がもうすぐ終わろうとしている。その気配はこの小さな路地裏にも確かにあった。
 一服、 Sはこの路地裏での空白めいた時間が好きだった。喧騒と熱気の狭間、物静かで心地よいさみしさ。夏の終わりとはこの小さな路地裏みたいな形をしているのかもしれない、Sはそう思った。
 最後の煙を吐くとタバコの火を消し、Sは店に戻った。

(山本皓平、「船団の会」会務委員)


2015年8月9日

西瓜(すいか)

 西瓜の90パーセントは水で出来ていて、果肉の赤い色素は動脈硬化などの原因となる 活性酸素を抑えてくれて身体にもいいらしい。夏場の水分補給にぴったりなこの西瓜は秋 の季語だが、どこからともなく漂うあの淡い郷愁感は子供の頃の夏模様だなあと思ってしま う。たとえば、真っ青な空にもくもく湧き上がる入道雲、麦藁帽子、蝉の声、夏休みの宿題、 夏祭り、縁側の蚊取り線香など。なんだか懐かしいものやことが西瓜と共に感じられて気分 は故郷へと続く。あの頃の風景を訪ねてみたいけれど。暦の上では早くも秋。

(藪ノ内君代、「船団の会」会務委員)


2015年8月2日

夾竹桃(きょうちくとう)

<六二三、八六八九八一五、五三に繋げ我ら今生く>。
 朝日歌壇賞を受けた西野防人さんの一首だ。6月25日の朝日新聞コラムには「八六と八九は広島と長崎に原爆が投下された日、 八一五は終戦、五三は新憲法施行の日と分かった。では冒頭の六二三は……。」と言葉が続く。
 大学の4年間を広島で過ごした。ジローズの「戦争を知らない子供たち」、吉田拓郎の「結婚しようよ」、バンバンの「いちご白書をもう一度」など、町にはフォークがあふれていた。昭和50年前後の大学生活。平和記念公園にも何度か足を運んだ。公園の横を流れる本川。 その両岸に7月頃になると白やピンク、また真紅の美しい花が咲く。9月頃まで咲き続ける。
 原爆の焦土にいち早く咲いた花として知られる夾竹桃。ピンク色が目にしみる。

(村上栄子、「船団の会」会務委員)


2015年7月26日

夏休み(なつやすみ)

 朝顔の鉢や大きなかばんを提げた小学生と道ですれ違うと「もう夏休みなんだ」と気づかされる。重い荷物を抱えたどの顔も嬉しそうに見える。私自身は夏休みが憂鬱で仕方がなかった。私立に通っていたせいで近所に遊び友達はいないし、毎年「夏休みの思い出」と題する作文を書かねばならないのが苦痛だった。山に、海に、楽しく遊んだ作文を得意気に発表する同級生にくらべ、お墓参りぐらいしかネタがないのがみじめで大嘘の旅行記を書いて先生や親から大目玉をくらったこともある。暑い家にこもって過ごす夏休みは異様に長く、九月までカウントダウンされてゆく日々をだらだら昼寝ばかりしていた。いまどきの小学生はどんな夏休みを過ごすのだろう。

(三宅やよい、「船団の会」副代表)


2015年7月19日

海の日(うみのひ)

 平成八年から国民の祝日になった「海の日」。海を初めて見たのは何時だっただろうか、海の近くで育った私は、初めて海を見た時の衝撃というものを憶えていない。海から離れた岐阜県で育ったというS君は、初めて見た海に感動して当時流行っていたサーフィンに夢中になった。泳ぎの出来ない色白サーファーというのが珍しかった。今、海を想い浮かべると波音が聞こえてくる。海岸線を持たない海なし県は八つある。海を一度も見ないで一生を過ごした人のことを想像してみた。

(藤井なお子、「船団の会」会務委員)


2015年7月12日

百合の花(ゆりのはな)

 山野を歩くと鬼百合、姥百合の花に出会う。鬼百合は鬼(見たことはないが)の色。姥百合は白くて華やかさはないがそれなりに山中のアクセントとして子供のころの原風景にある。
 鬼百合の根は食用になり、なんども水に晒し天日に乾して片栗粉として使う。ちなみに正月頃のユリ根はこの鬼百合の鱗茎だ。わたしの住む箕面市の市の花はササユリで、楚々とした淡いピンクの花をつける。古事記ではサユリとして登場もする。美人薄命というが、この楚々とした美しいササユリを40年住んでいても、まだ会えてない。

(陽山道子、「船団の会」会務委員)


2015年7月5日

朝顔(あさがお)

 梅雨の雨の休日、防水スプレーをかけた登山靴で場末の商店街を歩いていた。もう紫の朝顔が満開で、薄汚れた街に彩りを添えている。ゲームセンターの入り口に、アニメの女子高生の大きな姿が描かれている。吹き出しの中・・「意味のない会議ばっかで、意味のない飲み会ばっかで、会社つぶれないってスゴイね!」・・・不意に神戸港の船の汽笛が耳のすぐ横で鳴ったように響いた。

(早瀬淳一、「船団の会」会務委員)


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