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週刊:新季語拾遺(2001年1月〜2004年5月) バックナンバー
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2018年8月5日

夏休み(なつやすみ)

 子どもたちが夏休みを楽しみにしているというのは、たぶん嘘だ。僕は子どもの頃、夏休みがすこし怖かった。八月に入って海の色が少し変わりクラゲが出はじめると、僕らは海も川も放擲しなければならなかった。それはこの世の終わりが来るくらいに悲しいことだった。木の上ではいまいましい法師蝉が鳴きはじめる。そんな季節がやってくることは、夏休みに入る前から約束されていたのだ。なんでも先取りして未来を悩むのは、子どもたちの習性である。夏の早くから、僕たちは夏の終わりの憂愁を胸に抱えて暮らしていたのである。大人たちの子どもを見る楽天的な笑顔の影で。
(木村和也、「船団の会」会務委員)


2018年7月29日

原爆の日(げんばくの日)

 6月に公開された映画「羊と鋼の森」は、主人公外村が調律師を目指す物語だ。外村が、先輩の板鳥に「どのような音を目指せばよいか」を問う美しいシーンがある。
 「君は詩人の原民喜を知っているか」と聞き返し、板鳥は民喜の「砂漠の花」の言葉を引用して答える。「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少し甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにはかない文体」
 昭和20年8月6日、原民喜は広島市の生家で被爆した。過酷な体験を元に書かれた小説「夏の花」は代表作となり、原爆ドーム東側には「碑銘」を刻んだ詩碑が建つ。来月6日、今年は被爆から73年目の原爆の日を迎える。
(衛藤夏子、「船団の会」会務委員)


2018年7月22日

蚊(か)

 蚊は今でもいるが、「刺された!」と思うのは水辺の草むらを散歩したときなどに限られるような気がする。いわゆるヤブ蚊の類だ。蚊帳を見かけなくなってもうどれくらいになるだろう。中学生の頃にはもうなかったから、実感として、1968(昭和43)年頃には、愛媛の片田舎でもなくなっていたと思う。小学低学年の頃、コガタアカイエ蚊が媒介する日本脳炎が流行った。隣町で死亡した小学生も出て騒ぎになったことを覚えている。この日本脳炎の予防注射がすごく痛かった。50音の出席番号順だったので、私はいつも一番にモルモットよろしく実験的に最初の注射をしなければならなかった。思わず「痛い!」と声をあげると、あとのみんなが「ええっ〜!!」と震えあがっていたことを思い出す。
(秋山 泰、「船団の会」会務委員)


2018年7月15日

バナナ

 阪急電鉄門戸厄神駅から住宅街を抜けて岡田山を登ると、そこは別天地。美しいキャンパス が現れる。そのスパニッシュミッション様式の優美な学舎は建築家ウイリアム・メレル・ヴォ ーリズ博士の手によるもの。「真に芸術的な建築・学習空間は優れた人格を形成する」という 彼の理念そのままに、生徒たちは豊かな感性と人間性を育んでいるように感じる。ある日の中 学2年生(48名)のクラス。「バナナ」で一句とバナナ色の短冊を配ると「そんなバナナ……」 という天使のような少女の笑顔がはじける。
 一方、国研こと国語研究室の超ベテラン、定年退職後の5年ぶり復帰のF先生。私に「何、 食べとん、おっバナナか。」と、にんまり。同じく5年ぶり復帰の私の肩の力が抜ける。
(村上栄子、「船団の会」会務委員)


2018年7月8日

夏の夕

 仕事から帰り、マンションのドアを開けると待ち構えていた愛犬が激しくしっぽを振って散歩をせがむ。夕方の散歩は十年余り続いたわたしの日課だけど、老犬になったこの頃は1日のほとんどを寝ているせいか大きな声で呼ばないと玄関まで出てこなくなった。夏至の前後は7時頃でもまだ明るい。昼の炎熱が去り、ゆったり歩けるこの時刻の散歩は私にとっても犬にとっても大事な時間。ほとんど目が見えなくなってしまった老犬もしきりに匂いを嗅ぎながらいつものコースを歩き始める。踏みしめる道路はまだじわっと熱いけれど、樹々を吹き抜ける風が心地いい。あと何回この犬とこんな時間を共に楽しめるだろう、そう思いながら見上げる夕べの空は明るく寂しい。
(三宅やよい、「船団の会」副代表)


2018年7月1日

紫陽花(あじさい)

 今日は京都府立植物園に行って来た。「あじさい園」の小径の右側には日本原種の額紫陽花、左側には色鮮やかな園芸種が植えられている。ヨーロッパで人気のこの花は逆輸入されたものも多いらしい。「ミセス・ヘプバーン」という名を付けられたものもあった。
 一週間前の大阪北部地震では自宅が震源地に極近く、食器の約半分が割れてしまった。中でも気に入っていたお皿ほど割れた。それらをまとめて段ボール箱に入れ玄関先に置いてある。
 眼前の紫陽花の萼片は、大切だった陶器の破片を連想させた。
(藤井なお子、「船団の会」会務委員)


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